説明

厚膜導電体ペースト

【課題】 変色に対する優れた抵抗性を有する厚膜導電体組成物の提供。
【解決手段】 厚膜組成物であって:(a)導電性金属と、(b)1つまたは複数の無機結合剤と、(c)アンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際にアンチモン酸化物を形成することが可能なアンチモン含有化合物と、(d)有機媒体とを含み;(a)、(b)および(c)は(d)に分散されることを特徴とする厚膜組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、厚膜導電体ペーストに関し、および具体的には、変色に対する優れた抵抗性を有する厚膜導電体組成物に関する。1つの実施形態では、該導電体組成物を、自動車の風防ガラスデフロスタシステムに使用される風防ガラスデフォッガ要素中に使用してもよい。
【背景技術】
【0002】
パターン化される導電性の層の重要な用途は、自動車製造産業にあり、および特に、窓に恒久的に装着され、および電源によって電力を供給される時に熱を生成することが可能な導電性グリッド(風防ガラスデフォッガ要素)によって霜および/または曇りをとる(除去する)ことができる窓の製造にある。瞬時に窓の霜をとるために、回路は、低電圧(典型的には12ボルト)の電源から、大量の電力を供給することが可能でなければならない。そのような電源に関して、導電性パターンの抵抗率の要件は、一般的に約2から約6mΩ・cmまでの範囲(焼成後は10μmで6mΩ/□)内である。この要件は、貴金属、特に、本用途のために最も一般的に使用される材料である銀を含有する導電体によって、容易に満たされる。
【0003】
曇り除去性の窓のためのグリッドの生産に使用される物質は、主として、有機媒体に分散される銀粉末およびガラスフリットの微粒子から構成されるペーストから製造される厚膜銀導電体を含む。典型的な用途では、70重量%の銀粉末、5重量%のガラスフリットおよび25重量%の有機媒体を含有するペーストが、180標準メッシュスクリーンを通して平坦な未成形の後部窓用ガラス上にスクリーン印刷される。印刷された組成物は、任意選択的に約150℃で乾燥されてもよく、それに続いて、基板および銀ペースト組成物は、空気中で650℃にて2から5分間にわたって焼成される。焼成後、軟化された窓ガラスは型内での圧縮により成形されて、次いで、急冷によって焼き入れ(quench)される。有機媒体は、焼成サイクル中の気化および熱分解によって除去される。焼成された銀ペースト組成物は、風防ガラスデフォッガ要素または「ホットワイヤー」と呼ばれる。本要素は、ガラスおよび銀を焼結させ、およびガラスを銀粒子のための結合剤として作用させることによって形成される、連続的な導電性路である。デフォッガ要素は、窓ガラスと一緒に形成され、このように風防ガラスデフロスタシステムを作り出す。
【0004】
自動車用ガラスのためのそのような厚膜導電体ペーストに関する先行技術は、特許文献1に開示される自動車用窓ガラス上の導電性パターンでの使用のための厚膜ペースト組成物を含み、特許文献1は(a)金属銀、(b)350から620℃の軟化点を有するガラスフリット、および(c)ベースペーストを基準に0.01から10重量%の、バナジウム、マンガン、鉄、コバルトおよびそれらの混合物の中から選択される遷移金属の酸化物を含有する微粒子の混合物を含む組成物を開示し;そこで成分(a)、(b)および(c)は(d)有機媒体に分散され、および遷移金属は2以上の原子価を有する。
【0005】
重要な他の技術は、スクリーン印刷プロセスによってセラミック配線基板中に導電体、抵抗体、絶縁体、またはプロテクターなどを形成することに使用してもよい厚膜ペーストを教示する特許文献2を含む。しかしながら、特許文献2の厚膜ペーストは、樹脂および2−テトラデカノールを含有する溶媒または2−テトラデカノールと他の溶媒の混合物の使用を必要とする。
【0006】
特許文献3は、微細に分割された金属銀粒子、ガラスフリット、選択された遷移金属酸化物、および有機媒体を含む、導電性パターンを塗布するための厚膜組成物を教示する。
【0007】
さらに、特許文献4は、銀−銅、銀−金および銀−銅−金の合金の硫化変色(sulfide tarnish)抑制の方法を開示する。本方法は、硫化変色を抑制するために、銀ベースの合金に対して、(特定の性質を有し、および特定の量の)Cr、Ta、Al、TiおよびThからなる群から選択される元素の追加を伴う。
【0008】
典型的には、曇り除去/霜取りのためのデフォッガ要素、すなわち「ホットワイヤー」は、後部窓ガラス(後部風防ガラス)上に形成され、およびメッキされて、所望の耐候性および抵抗率を提供する。デフォッガ要素は、主として焼結銀で構成され、および抵抗率および耐候性に関して問題がないときは、メッキなしで使用される。メッキされない場合、焼成銀ペーストすなわち「ホットワイヤー」は、変色に対して著しく感受性が強い。
【0009】
この変色は、硫化銀を形成する銀と大気中の硫黄との間の反応によって、引き起こされる。変色の速度は、より高い温湿度水準において加速される。変色の結果として、ホットワイヤーは、より濃い黒/赤/茶色に変えられる。反応から形成されるこれらの濃色は、審美的に不満足なデフォッガ付き窓をもたらす。
【0010】
【特許文献1】特開平05−09623号公報
【特許文献2】米国特許第5,601,638号明細書
【特許文献3】米国特許第5,296,413号明細書
【特許文献4】米国特許第4,775,511号明細書
【特許文献5】米国特許第3,583,931号明細書
【特許文献6】米国特許第5,378,406号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明者は、デフォッガ要素および風防ガラスデフロスタシステムにおいて変色に対する実証された抵抗性を有し、およびホットワイヤーのための性能要件を満足させることのできる組成物を提供することを所望した。本明細書中に使用される際、「性能要件」は、抵抗率、抵抗性、接着性、着色および印刷適性のような特性を言う。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(a)導電性金属と;(b)1つまたは複数の無機結合剤と;(c)アンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際にアンチモン酸化物を形成することが可能なアンチモン含有化合物、またはそれらの混合物と;(d)有機媒体とを含み、(a)、(b)および(c)は(d)に分散されている厚膜組成物。
【0013】
風防ガラスデフォッガ要素、および風防ガラスデフォッガ要素を形成する方法であって:(a)前述の厚膜フィルム組成物を供給する工程と;(b)ガラス基板を供給する工程と;(c)(a)の組成物を前記ガラス基板上に印刷する工程と;(d)前記組成物および基板を焼成する工程とを含む方法。風防ガラスデフロスタシステム中の導電性要素として、アンチモン酸化物含有層を保護層として含む風防ガラスデフォッガ要素を有する乗り物。アンチモン酸化物含有層を保護層として含む風防ガラスデフォッガ要素。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物を多様な基板上で利用してもよいと同時に、該組成物は、自動車産業におけるガラス基板上で特別な有用性を有する。デフロスタシステム用途に用いる自動車の窓(風防ガラス)上に導電性グリッドを形成するために使用されるとき、前述の組成物を有する自動車ガラスのための本発明の厚膜組成物は、好適なシステム性能要件を依然として維持すると同時に、優れた変色抵抗特性を備える風防ガラスデフォッガ要素を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ハイブリッド超小型電子回路における構成要素としての厚膜導電体の使用は、電子工学分野ではよく知られている。そのような構成要素の製造のための組成物は、通常、ペースト様の固液分散物の形態をとり、固相は、貴金属または貴金属合金またはそれらの混合物の微細に分割された粒子、および無機結合剤を含む。分散物のための液体ビヒクルは、典型的には、有機液体媒体であるが、しかしまた、水性液体媒体であってもよい。さらなる材料を少量(一般的に、組成物の約3重量%未満)加えて組成物の特性を改変してもよく、およびこれらは、染色剤、レオロジー改質剤、接着促進剤および焼結改質剤を含む。
【0016】
組成物の稠度およびレオロジーを、スクリーン印刷、はけ塗り、浸し塗り、押出成形、吹付などを含んでもよい塗布の具体的方法に適応させる。典型的には、スクリーン印刷を使用して組成物を塗布する。通常は、ペーストを、アルミナ、ガラス、セラミック、エナメル、エナメルで塗装されたガラスまたは金属の基板のような不活性な基板に対して塗布して、パターン化された層を形成する。厚膜導電体層を、標準的に乾燥し、および次いで、通常約600と900℃との間の温度で焼成して、液体ビヒクルを揮発または燃尽させ、そして無機結合剤および金属構成要素を焼結または溶融させる。同様に、パターン化された層を生成するために、直接湿式焼成(すなわち、焼成前に厚膜層は乾燥されない)も使用されている。焼成の際に、パターン化された層から風防ガラスデフォッガ要素が形成される。
【0017】
いったん形成されたならば、該デフォッガ要素は、大気中および様々な他の源に存在する硫黄源に対して暴露され、それら硫黄源は硫化銀の形成をもたらす。該硫化銀の層は、パターン化された層の表面に形成する可能性があり、最初は色が薄かったが、より濃い、審美的に不満足な風防ガラスデフォッガ要素をもたらした。厚膜導電体組成物に対するアンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際に1つまたは複数のアンチモン酸化物を含有する層を形成することができるアンチモン含有化合物、またはそれらの混合物の添加が、デフォッガ要素に対して優れた変色抵抗性を提供し、同時に、驚いたことに、風防ガラスデフロスタシステムの性能要件を依然として保持することを、本発明者は発見した。
【0018】
組成物中に存在する該アンチモン/アンチモン含有化合物は、焼成の際に、酸化してアンチモン酸化物を含有する層を形成する。該アンチモン酸化物含有層は、デフォッガ要素の表面における保護層であり、優れた変色抵抗性を提供する。
【0019】
アンチモン酸化物含有層は、不完全な酸化による混合アンチモン酸化物の層であってもよい。アンチモン/アンチモン含有化合物の酸化は、不完全であってもよく、従って、Sb、Sb、およびSbのような多様なアンチモン酸化物を含有する層をもたらす。
【0020】
例えば、1つの実施形態では、厚膜組成物中のアンチモン/アンチモン含有化合物は、三酸化アンチモンである。組成物中の該三酸化アンチモンの酸化は、アンチモン酸化物含有層をもたらし、その少なくともいくらかの部分は、五酸化アンチモン(Sb)である。
【0021】
そのように、本発明は、厚膜導電体ペースト組成物であって、風防ガラスデフロスタシステム中に使用してもよく、および(a)導電性金属、(b)無機結合剤、(c)アンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際にアンチモン酸化物を形成することが可能なアンチモン含有化合物、またはそれらの混合物を含み;そこで構成要素(a)、(b)、および(c)は(d)有機媒体に分散される、厚膜導電体ペースト組成物を提供する。本発明の組成物の成分を、以下に詳しく論じる。
【0022】
A.導電性金属
厚膜導電体組成物の調製に使用される金属は、典型的には、銀、金、プラチナおよびパラジウムから選択される。金属を、単独で、または焼成の際に合金を形成する混合物としてのいずれでも使用することができる。一般的な金属混合物は、プラチナ/金、パラジウム/銀、プラチナ/銀、プラチナ/パラジウム/金およびプラチナ/パラジウム/銀を含む。加熱要素の製造において使用される最も一般的な系は、銀および銀/パラジウムである。
【0023】
前述のように、厚膜導電体組成物の調製に使用される金属は、典型的には、銀、金、プラチナおよびパラジウムから選択される。本発明において、これらの金属またはそれらの混合物のいずれを利用してもよい。さらに、厚膜組成物の非導電性成分に対する導電性成分の比を制御することによって、組成物の導電性を操作してもよい。
【0024】
本発明の実施において、銀のフレークまたは粉末を使用してもよい。銀の粒度それ自体は、技術的効果の見地から厳密な制限を受けないが、しかしながら0.1から15ミクロンのサイズ、および特に0.5から5.0ミクロンが、好ましい。
【0025】
粒子が15ミクロンよりも大きい場合、粒子の粗さが焼結プロセスを減速させ、および所望の抵抗率を達成することを困難にする。
【0026】
他方、粒子が0.1ミクロンよりも小さい場合、焼結は過度に急速に進行して、表面へのガラスの浮上、および/または銀導電路(track)の縁におけるエナメル/ガラス内の亀裂のような、望ましくない効果をもたらす。
【0027】
従って、本発明の組成物は、ペーストを基準にして少なくとも40から90重量%の、1.0から5.0ミクロンの平均粒度を有する銀粒子を含有する。好ましくは、導電性金属の含有量は、ペーストを基準にして65から85重量%の範囲内である。金属粉末の含有量を、焼成の際に組成物の好適な厚さを達成するように定める。導電性金属50重量%未満の組成物を使用するならば、膜はより薄くなり、弱い皮膜強度および抵抗率の減少をもたらす。
【0028】
銀は一般的に、高純度(99+%)である。しかしながら、パターンの電気的要件によっては、より低純度の材料を使用することも同様に可能である。
【0029】
B.無機結合剤
無機結合剤は、典型的には、ガラス、またはケイ酸鉛のようなガラスを形成する材料であり、および、組成物内部と、組成物および該組成物が塗布される基板の間との両方における結合剤として機能する。環境的な考慮のために、鉛を含有する結合剤の使用は、あまり一般的ではなくなってきており、および現在では、ホウケイ酸亜鉛またはホウケイ酸ビスマスのような無鉛結合剤が多くの場合に採用されている。
【0030】
本発明における使用に適当な無機結合剤は、焼結の際に、ガラス(強化ガラスおよび合わせガラスを含む)、エナメル、エナメルで塗装されたガラス、セラミック、アルミナまたは金属の基板のような基板に対して金属を結合させるように働くような材料である。フリットとしても知られる無機結合剤は、微細に分割された粒子を含み、および本明細書中に記載される組成物における主要成分である。焼成の間のフリットの軟化点および粘度は、金属の粉末/フレークおよび基板に対するフリットの濡れ特性と同様に、重要な因子である。フリットの粒度は、厳密には決定的に重要ではなく、および本発明において有用なフリットは、典型的には約0.5から約4.5μmまで、好ましくは約1から約3μmまでの平均粒度を有するであろう。
【0031】
組成物を所望の温度(典型的には300から700℃、特に580から680℃)で焼成して、適切な焼結、基板(特にガラス基板)に対する濡れおよび接着をもたらすことができるように、無機結合剤は約350と620℃との間の軟化点を有するフリットであることが好ましい。高融点のフリットおよび低融点のフリットの混合物を用いて導電性粒子の焼結特性を制御することができることが知られている。具体的には、高温のフリットは、より低融点のフリット中で溶解して、およびそれらは一緒になって、低融点のフリットのみを含有するペーストと比較して、導電性粒子の焼結速度を減速すると考えられている。この焼結特性の制御は、装飾用のエナメルの上に組成物を印刷および焼成するときに、とりわけ有利である。(装飾用のエナメルは、通常、有機媒体中に分散される1つまたは複数の顔料酸化物および不透明剤およびガラスフリットで構成されるペーストである。)高融点のフリットを、500℃超の軟化点を持つものであるとみなし、および低融点のフリットを、500℃未満の軟化点をもつものであるとみなす。高融点のフリットと低融点のフリットとの溶融温度の差は、少なくとも100℃および好ましくは少なくとも150℃であるべきである。また、異なる溶融温度を有する3つ以上のフリットの混合物を使用することもできる。本発明において、高融点のフリットおよび低融点のフリットの混合物を使用するとき、通常、それらを4:1から1:4までの重量比で使用する。本明細書中で使用される際に、用語「軟化点」は、ASTM C338−57の繊維伸長法によって得られる軟化温度を言う。
【0032】
適当な結合剤は、ホウ酸鉛、ケイ酸鉛、ホウケイ酸鉛、ホウ酸カドミウム、ホウケイ酸カドミウム鉛、ホウケイ酸亜鉛、ホウケイ酸カドミウムナトリウム、ケイ酸ビスマス、ホウケイ酸ビスマス、ケイ酸鉛ビスマスおよびホウケイ酸鉛ビスマスを含む。典型的には、高含有量の酸化ビスマス、好ましくは少なくとも50重量%、およびより好ましくは少なくとも70重量%の酸化ビスマスを有する任意のガラスが好ましい。また、必要に応じて、別個の相として酸化鉛を加えてもよい。しかしながら、環境的な考慮のために、無鉛の結合剤が好まれる。本発明のガラスフリット組成物のいくつかは、全ガラスフリット組成物の重量パーセントを基準にして、4〜38%のSiO、0〜27%のB、0〜95%のBi、0〜44%のPbO、0〜4%のZrO、0〜17%のGeO、0〜9%のNaO、0〜6%のAl、および0〜33%のMOを含んでもよく、Mは、Ba、Co、Ca、Zn、Cu、またはそれらの混合物から選択される。
【0033】
ガラス組成物の例(組成物AからI)を以下の第1表に示す;酸化物成分を重量%で示す。
【0034】
【表1】

【0035】
ガラス結合剤を、慣用のガラス製造技術によって、所望の成分(またはそれらの前駆体、例えば、BのためのHBO)を所望の比率で混合し、および混合物を加熱して溶融物を形成させることにより調製する。当技術分野でよく知られているように、溶融物が完全に液体になり、その上気体発生が終了するように、ピーク温度および時間にて加熱を行う。ピーク温度は、一般的に1100℃〜1500℃の範囲内、通例は1200℃〜1400℃である。次いで、典型的には冷ベルト上または冷流水中に注ぐことにより溶融物を冷却することによって、溶融物を焼き入れする。次いで、所望通りに粉砕することによって、粒度の低減を遂行できる。
【0036】
また、当業者によく知られているように、無機結合剤の一部として他の遷移金属酸化物を採用してもよい。一般的に、亜鉛、コバルト、バナジウム、銅、ニッケル、マンガンおよび鉄の酸化物または酸化物前駆体を、特に、アルミナ基板のような、ガラス基板以外の基板と共に使用する。これらの添加剤は、はんだ付け接着を改善することが知られている。
【0037】
また、無機結合剤は、ペースト重量ベースで約4部に至るまでの、以下の一般式を有するパイロクロア関連酸化物を含有することもできる:
(MM'2−X)M''7−Z
式中、
Mは、Pb、Bi、Cd、Cu、Ir,Ag、Yおよび原子番号57〜71を有する希土類金属の少なくとも1つおよびそれらの混合物から選択され、
M'は、Pb、Biおよびそれらの混合物から選択され、
M''は、Ru、Ir、Rhおよびそれらの混合物から選択され、
X=0〜0.5、および
Z=0〜1
である。
【0038】
パイロクロア材料は、特許文献5に詳細に記載されており、その開示は参照によって本明細書中に組み込まれる。パイロクロア材料は、本発明の組成物のための接着促進剤として作用する。ルテニウム酸ビスマス銅(Cu0.5Bi1.5Ru6.75)が好ましい。
【0039】
伝統的には、導電性組成物は鉛フリットをベースとしている。現時の毒性および環境の規制に従うためのガラス組成物からの鉛の排除は、所望の軟化および流動特性を達成し、同時に、湿潤性、熱膨張、表面および性能の要件を満たすために使用することができる結合剤の種類を制限する可能性がある。参照によって本明細書中に組み込まれる特許文献6の開示は、構成要素Bi、Al、SiO、CaO、ZnOおよびBに基づく一連の低毒性無鉛ガラスを説明し、その全てを本明細書中に記載される組成物において使用してもよい。好ましい実施形態では、フリットは本明細書中の第1表の組成物Iである。
【0040】
組成物中に存在する全ガラスフリットは、全組成物を基準にして、1重量パーセントから10重量パーセントの範囲内である。
【0041】
本発明のさらなる実施形態では、組成物は、2種類の無機ガラス結合剤:非晶質ガラスおよび結晶化ガラスを含有してもよい。
【0042】
1.非晶質ガラス結合剤
非晶質ガラス結合剤の化学組成は、本発明の機能に関してほとんど重要性を持たない。例えば、ホウケイ酸鉛は、自動車用ガラスのためのペースト中に広く使用され、および同様に、本発明を実施することにも使用することができる。
【0043】
ケイ酸鉛ガラスおよびホウケイ酸鉛ガラスは、それらの軟化点の範囲およびガラス結合能力の両方の見地から好ましい。
【0044】
本発明において使用してもよい非晶質ガラス結合剤の組成物の1つの具体的な例は、以下の酸化物構成成分を含む:全組成物の重量を基準とする重量%で、SiO 36.9%、ZrO 3.0%、B 3.0%、NaO 1.3%、LiO 3.0%、Bi 46.8%、TiO 3.0%、KO 3.0%。
【0045】
2.結晶化ガラス結合剤
結晶質材料は、原子の規則的な周期的配列を有する材料として定義され、およびX線にさらされるとき、明確な回折ピークを生じさせる。この結晶質構造は、一般的に、原子の長期的な秩序が無い不規則な配列を有しおよびX線回折パターンを拡散させるガラスと、対照をなす。結晶化ガラス結合剤の機能にとって、焼成の間、結合剤がピーク温度範囲で十分な結晶性を明示することが重要である。組成物は、典型的には、だいたい580から620℃で焼成されるので、結晶化点は、好ましくは300から610℃の範囲内、および最も好ましくは500から610℃である。
【0046】
610℃超の結晶化点では、焼成の完了の際に十分な結晶質相が得られず、および従って、導電体の耐摩耗性を改善しない。
【0047】
他方、300℃未満では、流動特性が結晶化によって低下し、均一な分散状態が達成されるのを妨げ、およびさらに、液相の作用からもたらされる焼結を促進する効果を低減させる。
【0048】
本発明において使用される結晶化ガラス結合剤の1つの実施形態では、Asahi Glassから商業的に入手可能である(製品番号ASF1280)。このAsahi Glassの実施形態の主要組成は、55重量%のPbOおよび24重量%のAlである。
【0049】
C.アンチモンまたはアンチモン含有化合物
アンチモンまたはアンチモン含有化合物は、本発明にとって必須である。本発明は、アンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際にアンチモン酸化物を形成することができるアンチモン含有化合物、またはそれらの混合物の、厚膜導電体組成物に対する添加を包含する。
【0050】
アンチモン/アンチモン含有化合物は、全組成物を基準にして10重量パーセントに至るまでの量で存在していてもよい。好ましくは、アンチモン/アンチモン含有化合物は、全組成物を基準にして2重量パーセント未満の量で存在する。
【0051】
1つの実施形態では、厚膜組成物中に存在するアンチモン含有化合物は、三酸化アンチモンであり、および全アンチモン原材料を基準にして94〜100重量%の原材料の固形分含有量、および1.4〜3.4m/gの表面積対重量比で供給されている。
【0052】
D.有機媒体
有機媒体の役割は、微粒子状成分を分散させ、および基板上への組成物の移動を促進することである。本発明の金属組成物は、一般的には、所望の回路パターンに印刷することができるペーストに形成される。
【0053】
任意の適当な不活性液体を有機媒体として使用してもよいが、しかしながら非水系不活性液体が好ましい。増粘剤、安定剤、および/または他の一般的な添加剤を含有してもまたは含有しなくてもよい、様々な有機液体の任意のものの使用をすることができる。使用することができる有機液体の例は、アルコール類、そのようなアルコール類のエステル類(例えば、酢酸およびプロピオナート類)、テルペン類(例えば、パイン油、テルピネオール)、樹脂(例えば、ポリメタクリレート)溶液、溶媒(例えば、パイン油)中エチルセルロース溶液、およびエチレングリコールモノアセテートのモノブチルエーテルを含む。好ましい有機媒体は、テルピネオール中エチルセルロース(テルピネオール9:エチルセルロース1の比)で構成され、およびブチルカルビトールアセテートと混合される増粘剤との組み合わせに基づく。ペーストは、三本ロールミルを使用して便利に生産される。そのような組成物の好ましい粘度は、Brookfield HBT粘度計でスピンドル#5を使用して10rpmおよび25℃で測定される時、約20から100Pa・sである。増粘剤の量は、最終的に所望の組成物の粘度に依存する。すなわち、増粘剤の量は、印刷のために要求される条件に依存する。有機媒体は、一般的に、ペーストの5から50重量%の割合を占める。
【0054】
風防ガラスデフォッガ要素および全体的な風防ガラスデフロスタシステムの一般的な生産
風防ガラスデフォッガ要素すなわち曇り除去回路を製造するために、以下の方法を使用してもよい:任意選択的に、溶媒ベースまたはUV硬化可能な種類の装飾用のエナメルペーストを、典型的には慣用のスクリーン印刷技術を使用して、平坦なガラス基板の上に印刷してもよい。スクリーンは、典型的には、156または195メッシュのポリエステルスクリーンであるが、しかし同じように、他のタイプおよびサイズを使用してもよい。印刷されたエナメルパターンを、次いで、乾燥または硬化する。典型的な条件は、エナメルの種類に依存して、150℃で15分間、または1.2J/cmでのUV硬化である。次に、慣用のスクリーン、典型的には195メッシュのポリエステルスクリーンを使用して、平坦ガラス基板のエア面またはスズ面上、または未焼成のエナメル上に、本発明の厚膜導電体ペーストをスクリーン印刷してもよい。また、他の種類または230メッシュのようなメッシュサイズを、同じように使用してもよい。次いで、厚膜導電体ペーストを、必要に応じて乾燥させてもよい。典型的な乾燥は、約150℃で少なくとも2分間である。次に、ピークガラス表面温度が約580から680℃に達するベルトオーブンの中で、次いで、厚膜導電体ペーストを焼成してもよく、または、厚膜導電体ペーストおよびエナメルの両方を一緒に焼成してもよい。
【0055】
焼成後、軟化された窓ガラスを、型内での圧縮またはサギングによって成形し、および次いで、急冷によって焼き入れする。ペースト中の有機媒体は、焼成サイクルにおける気化および熱分解によって除去される。焼成の際に、ペーストは、連続的な導電性経路(風防ガラスデフォッガ要素)を形成し、該導電性経路は、ガラスおよび銀を焼結させ、およびガラスを銀粒子のための結合剤として作用させることにより形成される。窓ガラスを含む全総体が、完全な風防ガラスデフロスタシステムを形成する。
【実施例】
【0056】
試験方法
変色比色試験
焼成された部品を、有蓋の10リットルの円形反応容器内に配置した。蓋は、気密ではなかった。各部品に均等な曝露をさせるために、焼成された部品を反応容器の側面全域に配置して、試験に中心配置(central geometry)を与えた。反応容器の内側で、100mlの水の入った他の皿に浮かぶ皿の中に、5グラムの硫黄華を配置した。容器を、70℃のオーブン中に48時間配置した。48時間後、非変色部品との比較によって、色の変化に関して該部品を検査した。色の視覚で感知できる変化を示した部品を、変色したとみなした。
【0057】
抵抗および抵抗率
ガラス基板(寸法10.2cm×5.1cm×3mm)上の焼成された導電性パターンの抵抗を、1と900Ωとの間または同等のものでの使用のために較正されたGenRad Model 1657RLCブリッジを使用して測定した。導電性層の厚さを、表面分析装置(例えば、TALYSURF(ばね荷重されるスタイラスを使用して2次元で基板表面を分析する接触測定装置;高さのあらゆる変化はスタイラスを偏向させ、チャート記録計のような記録計に記録され;ベースラインと平均高さとの間の差が印刷物の厚さを示す))のような厚さ測定装置を使用して測定する。パターンの抵抗を、導電性のトラックがはんだパッドと接触する点にプローブの先端を配置することによって求める。パターンに関して測定された抵抗を、正方形の数で割ることによって、層のバルク抵抗率(厚さが正規化される)を求める;ここで正方形の数は、トラックの幅で割られる導電性トラックの長さである。抵抗率の値を、正規化された厚さ(本明細書中では10μm)においてmΩ/□として得て、およびμΩ・cmの単位で本明細書中に提示する。
【0058】
接着力
銅のクリップ(Quality Product Gen. Eng. (Wickwar、英国)から得られる)を、ガラス基板(寸法10.2cm×5.1cm×3mm)上に焼成された導電性パターンに対して、70/27/3のPb/Sn/Agのはんだ合金を使用して、350から380℃のはんだごて温度ではんだ付けする。少量の弱活性ロジンフラックス(ALPHA615−25(登録商標)(Alpha Metals Limited (Croydon、英国))のようなもの)を使用して、はんだの濡れを向上させ、および部品の組立ての間、はんだとクリップとを正しい位置に保持してもよく、その場合、新鮮なフラックスの厚膜の入った浅いトレーを使用して、はんだに対してフラックスを塗布する。接着力を、Chattillon(登録商標)引張り試験機Model USTMによって、0.75±0.1インチ/分(1.91±0.25cm/分)の引張り速度で測定し、接着破壊の時点において引張り強さを記録した。8試料に関する接着破壊の平均値を求めた。接着力は、好ましくは、10kgよりも大きく、より好ましくは15kgよりも大きく、より好ましくは20kgよりも大きいべきである。接着の主な破壊様式は、以下の通りである:
(a)クリップが、導電性パターンから分離する(すなわち、劣ったはんだ接着)。
(b)導電性パターンが基板から分離する(すなわち、劣った基板接着)。
(c)ガラス引き抜き/破損(pullout/fracture)(すなわち、クリップと導電性層との間、および導電性層と基板との間の結合強度が、基板の強度よりも大きい)。
(d)はんだ内部の破壊。
【0059】
第2表に示される5種類の銀ペーストを調製および使用して、本発明に従う組成物を、風防ガラスデフロスタシステムにおいて使用される先行技術の銀ペーストと比較した。実施例5は、本発明を例証し、および他の例は、本発明との比較のための比較例である。
【0060】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚膜組成物であって、
(a)導電性金属と;
(b)1つまたは複数の無機結合剤と;
(c)アンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際にアンチモン酸化物を形成することが可能なアンチモン含有化合物、またはそれらの混合物と;
(d)有機媒体と
を含み、(a)、(b)および(c)は(d)に分散されていることを特徴とする厚膜組成物。
【請求項2】
前記導電性金属が、銀、金、プラチナ、パラジウム、またはそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記無機結合剤が、ガラスフリットを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ガラスフリットが、全ガラスフリット組成物の重量パーセントに基づいて、4〜38%のSiO,0〜27%のB、0〜95%のBi、0〜44%のPbO、0〜4%のZrO、0〜17%のGeO、0〜9%のNaO、0〜6%のAl、および0〜33%のMOを含み、ここでMは、Ba、Co、Ca、Zn、Cu、およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記無機結合剤が、亜鉛、銅、バナジウム、マンガン、鉄、コバルトの酸化物、およびそれらの混合物から選択される遷移金属酸化物の微粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記導電性材料が、全組成物の重量に基づいて、40から90重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の厚膜組成物。
【請求項7】
前記アンチモン、アンチモン酸化物、焼成の際にアンチモン酸化物を形成することが可能なアンチモン含有化合物、またはそれらの混合物が、全組成物の重量に基づいて、10重量%に至るまでの量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ガラスフリットが、全組成物の重量に基づいて、1から10重量パーセントの範囲で存在することを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
前記無機結合剤が、非晶質ガラス結合剤と結晶化ガラス結合剤とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
風防ガラスデフォッガ要素を形成する方法であって、
(a)請求項1の厚膜組成物を供給する工程と;
(b)ガラス基板を供給する工程と;
(c)(a)の組成物を前記ガラス基板上に印刷する工程と;
(d)前記組成物および基板を焼成する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
アンチモン酸化物含有層を保護層として含むことを特徴とする風防ガラスデフォッガ要素。
【請求項12】
風防ガラスデフロスタシステムにおける導電性要素として、請求項11に記載の風防ガラスデフォッガ要素を有することを特徴とする乗り物。

【公開番号】特開2006−16298(P2006−16298A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186595(P2005−186595)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】