説明

原価計算装置

【課題】原価の発生原因を正確に特定することができる原価計算システムを安価に構築する。
【解決手段】本発明に係る原価計算装置は、作業者と作業対象が関与したことを検知した結果を対面データとして取得し、その対面データ、および作業対象と作業項目との対応関係を記述した対応関係データに基づいて、作業者が実施した作業を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者の行動を検知し、その検知結果に基づき作業原価を計算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現代はグローバル競争環境がますます激化しており、企業におけるコストに関する情報の正確性および取得の適時性の確保は、企業が厳しい競争を勝ち抜くために経営者にとって必須の要件となっている。
【0003】
活動基準原価計算(Activity Based Costing:ABC)は、企業が調達した経営資源(インプット)と、製品・サービス(アウトプット)によるそれらの消費との間の因果関係を、「活動」にもとづいて認識・測定する方法であり、理論的には極めてすぐれた原価計算手法である(特許文献1、非特許文献1)。しかし、計算が複雑となりやすく手間がかかる上、システム更新に大変な時間と労力を要するという問題点を有している。これは、あらゆる活動に対して最適なドライバーを決定するため、システム更新のたびに大規模な見直しが必要となるためである。具体例として、全社的レベルでABCを運用していたある企業では、150種類の活動を利用し、60万におよぶ原価集計対象(製品や顧客)に原価を割り当て、月次ベースで2年にわたって運用するために、20億件を超えるデータや見積もりを必要としたといわれる(非特許文献2)。この規模のシステムを維持、運営するために必要となる高額な費用は、有る時期に正当化できなくなってしまったと言われる。
【0004】
時間主導活動基準原価計算 (Time Driven ABC: TDABC)は、ABCの改良版である。この手法の主眼は、ABCにおけるコストドライバーを時間方程式(time equation)に置き換え、ある活動を行うのに必要な時間を元に原価を配賦する点にある。すなわちABCでは「すべての活動時間に占めるそれぞれの活動の構成割合」を最初に決めるのに対し、TDABCでは「個々の活動1回あたりの平均時間」を最初に決定する点に違いがある。ABCでもTDABCでもヒアリングやインタビューでこれらを決定する点で違いはないが、調査項目が個々の活動の1単位あたりの平均実行時間であるため、ヒアリングやインタビューにおいて回答は容易であるとの主張が開発元からなされている(非特許文献2)。
【0005】
とはいえ、ABCでもTDABCでも活動時間の推定が最初の工程であり、ABCと同様に、TDABCでもこの事前推定工程が存在することが、正確性や客観性を阻害する点で、弱みとなっている。なぜなら従業員に対するヒアリングやアンケートではしばしば恣意性が入り込みやすく、従業員によってはヒアリング結果が与える効果を予測して、回答をゆがめたりすることもあるためである。このことは従業員が原価の配賦の公平性に疑念をいだくきっかけとなり、制度の定着を阻害する要因となっている。また時間方程式を用いるという性質上、一部の推定値が間違っている場合、その影響が他の全体の推定値に、いわばドミノ倒しのように波及してしまうという脆弱性も有している。
【0006】
他方、近年のセンサ技術の進展により、ウェアラブルなセンサ、たとえば名札型センサノードや腕時計型センサノード、あるいは携帯電話の使用ログ、その他の手段によって測定されるデータにもとづき、作業者の従事内容を特定する技術が利用可能となっている(特許文献2)。
【0007】
特許文献2では、センシングデータ、コミットメントリスト(会議や議論を通して決めた目標、約束事項であり、業務内容、担当、期日、他の業務との依存関係、状況、達成基準などが記される書面)、および、センシングデータとコミットメントリストの項目の対応を定義する対応リストを用いることにより、作業者が従事している業務の種別および従事時間を自動で測定し、測定結果を自動でコミットメントリストに反映することが可能となっている。ここでセンシングデータとしては、各作業者について取得される、他の作業者と近接していることのセンシングや、マイクによる音声センシング、PC上で作成/閲覧するドキュメントのキーワード抽出、および、センサノード上での明示的な業務の指定などが含まれている。
【0008】
このセンサ技術を利用することで、従来のABCやTDABCが有していたような活動時間の推定における弱点は有る程度解消される。なぜなら恣意性が入りやすい従業員に対するヒアリングやアンケートに頼ることなく、客観的かつ継続的にデータを収集・分析することが可能なためである。ただし、特許文献2では、コミットメントリストという作業者の業務目標・内容を定義したリストの作成が求められているものの、原価計算を目的としたシステム構成、データ構造およびアルゴリズムは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−3389号公報
【特許文献2】特開2007−108813号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R.Cooper and R.S. Kaplan, “Profit Priorities from Activity-Based Costing, Harvard Business Review”, pp.130-135 (1991)
【非特許文献2】R.S. Kaplan and S.R. Andersen, “Time-Driven Activity-Based Costing - A simpler and More Powerful Path to Higher Profits”, Harvard Business School Press, pp.6-11 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多くの企業における損益管理は、原則として伝統的原価計算をベースにしている。そのため特にサービス部門では、原価の多くが人件費等の「販売費および一般管理費」としてのみ把握され、その情報のみでは、原価の発生原因を把握できないという課題を有している。原価の発生原因を活動ごとに把握するABCを導入すれば、この課題を解決できる可能性があるが、ABCシステムの構築には多額の投資が必要な上、さらにこれを維持し、また修正を加えるのが難しいため検討が進んでいない。
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、原価の発生原因を正確に特定することができる原価計算システムを安価に構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る原価計算装置は、作業者と作業対象が関与したことを検知した結果を対面データとして取得し、その対面データ、および作業対象と作業項目との対応関係を記述した対応関係データに基づいて、作業者が実施した作業を特定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る原価計算装置によれば、センサなどの検知部を用いて対面データを取得することにより、作業者が実質的に実施した作業を簡易な構成で精度よく特定することができる。また、特定した作業項目に基づき、ABCを安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1に係る原価計算システムのシステム要素を示す図である。
【図2】実施形態1に係る原価計算システムのシステム構成を示す図である。
【図3】人員テーブル310の構成とデータ例を示す図である。
【図4】部署テーブル410の構成とデータ例を示す図である。
【図5】職制テーブル510の構成とデータ例を示す図である。
【図6】作業IDテーブル610の構成とデータ例を示す図である。
【図7】場所テーブル710の構成とデータ例を示す図である。
【図8】システム画面テーブル810の構成とデータ例を示す図である。
【図9】人員対面時間マトリクス920の構成例を示す図である。
【図10】場所滞在時間マトリクス1020の構成例を示す図である。
【図11】システム画面滞在時間マトリクス1110の構成例を示す図である。
【図12】人員対面のネットワーク1210の構成例を示す図である。
【図13】実質的に関与する作業IDを推定した結果を追加した人員テーブル310の構成例を示す図である。
【図14】人員対面のネットワーク1210に基づき各作業者が実質的に関与する作業IDを推定する処理を説明するフローチャートである。
【図15】人員対面・場所滞在のネットワーク1510の構成例を示す図である。
【図16】人員対面・場所滞在のネットワーク1510に基づき各作業者が実質的に関与する作業IDを推定する処理を説明するフローチャートである。
【図17】人員対面・場所/システム滞在のネットワーク1710の構成例を示す図である。
【図18】人員対面・場所/システム滞在のネットワーク1710に基づき各作業者が実質的に関与する作業IDを推定する処理を説明するフローチャートである。
【図19】ある市役所Cにおける窓口業務を対象とした伝統的な原価計算の考え方を説明する図である。
【図20】活動基準原価計算(ABC)の考え方、特に時間主導活動基準原価計算(TDABC)の考え方に基づく原価計算手法を説明する図である。
【図21】本発明に係る原価計算システムを用いたSDABCによる原価計算の考え方を用いた原価計算手法を説明する図である。
【図22】「個人の時間の使い方」を解析した結果を画面表示する例を示す図である。
【図23】「対面コミュニケーション状況」を解析した結果を画面表示する例を示す図である。
【図24】SDABCを用いて、個々の従業員の業務に対する集中度、活性度、積極度を算出するフローを説明する図である。
【図25】SDABCの機能を用いて、作業者の行動パターンを分類した結果を例示する図である。
【図26】システムを業務記録に適用した際の画面例である。
【図27】個人が関与する作業ID(業務)を時系列にまとめてマトリクスとして整形したデータの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、まず始めに本発明の実施形態の概略を説明し、その後に具体的な実施形態について図面を用いて説明する。
【0017】
<本発明の実施形態の概要>
近年、人や物の位置や加速度といった情報を測定できるセンサが発達し、大量入手できるようになっている。本発明は、このセンサを従業員に装着して得られる人間情報と、基幹業務システム(Enterprise Resource Planning:ERP)の情報とを融合して数値処理することにより、ランニングコストが廉価で、かつ人の異動等にも容易に対応できる、損益管理制度を実現するための原価管理システムを提供する。また損益管理のための分析を行う方法を提供し、損益管理の向上に役立てる。
【0018】
ABCは、製品などのアウトプットではなく、活動(activity)こそが経営資源を消費する真の原価発生源泉であると規定し、製品やその他の企業内の各種セグメントが負担すべき原価額を、上記の活動に関連づけて把握しようとする原価計算手続である。ABCは実務界を起源としており、1960年代にはじめて導入されたといわれる。原価はそれが発生するはるか以前の製品の企画・開発・設計の段階で、その大半が確定してしまうと考えられていたが、初期のABCによる活動原価分析は、原価をその発生場所別にではなく、原価を発生させる個々の活動に注目し、とりわけ企業内の相互依存的な意思決定の結果を把握して、業績の改善に役立てることを目的とするものであった。
【0019】
初期のABCを用いた取り組みと並行して、1970から1980年代にかけて、ABCに類似した新しい原価計算手法が発展していた。ただしこの新しい原価計算手法は、より正確な製品原価を算定するために、もっぱら製造間接費の配賦を対象とする計算技法という傾向が強かった。この間接費や共通費の恣意的な配分によりもたらされる計算上の歪みを回避しようという試みは、原価計算が従来から今日に至るまで一貫して持ち続けている課題である。それゆえABCは1990年代に実業界においても受け入れられることとなった。
【0020】
ABCでは、同質な活動を識別・分類してまとめ、まとめたものを活動センターと呼ぶ。この活動センターは、同質な活動の原価が集計されるコストプールとしても同時に機能する。そしてこのコストプールへの集計のためには、活動がどのように経営資源を消費するかを説明する変数が必要であり、この説明変数を、原価発生を規定する要因という意味で、コストドライバーと呼ぶ。さらに、経営資源をコストプールに集計する際のコストドライバーを、通常、資源ドライバー(Resource Driver)と呼ぶ。また一旦コストプールに集計された原価を製品別あるいはサービス別に割り当てる際のコストドライバーを活動ドライバー(Activity Driver)と呼ぶ。
【0021】
ABCが優れた性質を有することは多くが認めるところであるが、それではABCのいままでの導入事例はどうかというと、例えば日本では、1990年代にある企業が試行的にABCを実施し、その結果が有用な情報が入手可能なことが分かったが、システム構築およびデータ処理の負荷が予想をはるかに超えてしまい、ABCの適用は限定的な調査目的にとどめられることとなった。この事例からはABCの運用コストが問題であったことが分かる。
【0022】
その他にも、ABCの導入後にABCの継続的な運用を断念した企業が存在する。この理由は、原価の低減が必ずしも利益率の向上につながらなかったことに加え、1事業部門の影響で配賦結果に大きな差が生じたことを契機に、組織構成員が不信感を持つようになり、組織的な抵抗へと発展していったことが理由であるという。この事例からはABCの運用における透明性・公平性が問題であったことが分かる。
【0023】
その他、グループ企業内で一斉導入したABC/ABMを放棄し、替わりにスループット会計を導入した企業も存在する。スループット会計についてはここではふれないが、ABCと比較して、より計算プロセスが単純であるという利点があったようである。
【0024】
上記のように製造業におけるABCの導入はそれほど進んでいない。この理由として運用コスト高、透明性・公平性、および計算プロセスの複雑さなどが考えられる。それでは、特に製造間接費の割合が大きいと思われるサービス業での導入事例はどうか。我が国でも導入事例の多くは、地方自治体を含むサービス業であることから、少なからぬニーズは存在するものと考えられる。また製造間接費のより精緻な把握にとどまらず、製造間接費の直接費化までを視野に入れれば原価改善効果はさらに大きくなる。したがって、このサービス業の分野では、ABCに内在する阻害要因を解消することができれば、導入が促進されると考えられる。
【0025】
ABCに内在する阻害要因とはなにか。それは、ABCシステムの構築には多額の投資が必要で、さらにこれを維持し、また修正を加えるのが難しいという点にあるという(非特許文献2)。そのうえで、ABCの開発元は既往のABCをより単純化したTDABCを提案している。既往のABCは2段階のプロセスを有し、第一段階で間接費を活動ごとにコストプールに集計し、その後、第二段階でこのコストプールから製品にコストを跡付けるというステップを取るのに対し、TDABCは一気に間接費を製品に直接割り当てるようにする。すなわち、ABCにおける2段階のステップをTDABCでは1段階に簡略して計算を簡便にしようとしている。
【0026】
確かに、ABCにおける2段階のステップが、TDABCでは1段階に簡略されたのではあるが、ABCにおいて問題となったアンケート、インタビューや行動観察などの煩雑な手続きはTDABCでも依然として残されている。他方、TDABCでは、あらかじめ活動ごとの原価を詳細に分析することはやめて、いうなれば部署が同一であれば活動の内容に類似しているという仮定のもとに、活動ごとの原価の詳細分析の過程を省略したといえる。加えて、活動量をすべて時間に集約して把握するというTDABCの根幹をなすアイディアについては、伝統的な標準原価計算における操業度と同様の考え方と思われ、研究的にも特に目新しいとは言えず、先祖がえりとも言える。
【0027】
このようにTDABCは、ABCが本来の眼目としてきた原価計算の精緻化を進めるという見地からは、一歩後退していると言わざるを得ないし、コストパフォーマンスの点からも、アンケート、インタビューや行動観察という煩雑な手続きが必要であることから十分満足のいくものとはいえない。本発明の主眼は、センサ技術を活用してこのABC、TDABCの有する問題点、すなわち運用コスト高、透明性・公平性、および計算プロセスの複雑さ、を解決することであり、言うなればセンサ主導活動基準原価計算 (Sensor Driven ABC:SDABC)と呼ぶべきものである。
【0028】
本発明のもう一つの主眼は、昨今のマトリクス組織の導入による指揮命令系統の多次元化や、生産ラインにおける多能工化の進展などにより、個々人が、あらかじめ登録されている業務と異なるものに従事していることが多くなっている実態に、より良く対応しようというものである。言い換えればABCやTDABCをそのまま業務に適用した場合、あらかじめ登録されている業務と異なる業務に従事しているために生じる原価計算の歪みを避けられないという課題を解決することである。
【0029】
以上を要約すると、本発明の目的は、センサを従業員に装着して得られる人間情報と、基幹業務システム(Enterprise Resource Planning:ERP)システムの情報とを融合して数値処理することにより、ランニングコストが廉価で、かつ人の異動等にも容易に対応できる、損益管理制度を実現するためのITシステムを提供することである。また損益管理のための分析を行う方法を提供し、損益管理の向上に役立てることである。なお、主として原価計算における配賦計算に必要な事項、例えば作業ID関連情報に限って従事者からの情報を取得して活用するため、プライバシーの問題も生じない。このためセンサを装着することに対する組織人員の理解が得られやすいと考えられる。そして、昨今のマトリクス組織の導入による指揮命令系統の多次元化や、生産ラインにおける多能工化の進展にも対応できる。
【0030】
上記目的を達成するために、本発明は、センサ由来およびERPシステム由来のデータを統合して分析する。より具体的には、所員や従業員といった組織に所属する者が実質的に関与している作業ID(業務)を、センサ由来およびERPシステム由来のデータを用いて特定することにより課題を解決する。
【0031】
あらかじめ登録されている業務と異なる業務に従事しているために生じる原価計算の歪みに対応するためにも、最小の活動単位である各人の活動を、いつどのような相手と一緒に活動しているかを特定すること、すなわち対面相手の情報に基づいて作業IDを特定することにより課題を解決することが望ましい。
【0032】
作業IDとは、本願明細書では、原価計算の手法に関わらず(個別、総合、組別など)、原価計算のために原価を集計する最小の作業単位を識別する識別子を指す。作業IDが同じ業務は、基本的に同じ課(例えば、経理課、総務課)に属する業務であるか、または同一製品・サービスに対応づけられる業務であり、管理会計目的および原価計算目的においては、同一の業務として取扱うことが望ましい業務単位のことである。
【0033】
本システムにおいて使用するセンサは、例えば、特許文献2に記載されるところのセンサを用いることができるが、これに限られるものではない。作業者がその作業対象に関与したことを検知できる検知方式であれば、その実装手法などについては問わない。
【0034】
上記の他に本システムにおいて使用するセンサとして、RFID(Radio Frequency Identification:電波による個体識別)、RFIDの一例としてICタグや加速度センサが考えられる。また、データ取得の観点では、作業員間の電子メールのやりとりを把握、解析し、そのつながりや頻度をグラフ表現などによって可視化し、組織改変の判断材料とするという手法も考えられる。電子メール以外の人と人のコミュニケーションの時系列データの所得方法としては、電話の通話記録、出張相手や出張旅費に関するデータも考えられる。
【0035】
これらのいずれかの検知方式を用いることにより、狭義の対面データ(人と人とが直接に対面して会話をかわす状況に関するデータ)や広義の対面データ(人と人がメールや電話などの通信手段を利用して互いに遠隔している場合において会話をかわす状況に関するデータ)を取得して分析することができる。以後、本願明細書において対面データと記すときは、狭義の対面データと広義の対面データの両方の意味を含んでいる。ただし、実施形態の記述(後述)においては、説明上の便宜のため、狭義の対面データのことを、対面データと記している。
【0036】
また「人と人の対面」に限らず、人がある場所に滞在することを「人と場所の対面」、人があるITシステムにログインしてある画面において閲覧もしくは作業することを「人とシステムとの対面」と現象として拡張して考えることもできる。こう考えた場合、人につけたセンサと場所につけたセンサによる「人と場所の対面」の対面データを取得することも可能といえる。またITシステムのアクセスログに、どのユーザがどの画面にどのくらいアクセスしたかが記録されていた場合、このアクセスログを解析することは「人とシステムの対面」の対面データを取得していると言える。そこで本明細書では、これら対面データも狭義または広義の対面データに含めることとする。
【0037】
本願明細書に記載するERPシステムとは、生産、販売、在庫、購買、物流、会計、人事/給与などの企業内のあらゆる経営資源を有効活用しようとの観点から、これらを企業全体で統合的に管理し、最適に配置・配分することにより、効率的な経営活動に役立てる一連のITシステム群のことを指す。より具体的には、生産システム、販売システム、在庫システム、購買システム、物流システム、会計システムおよび人事/給与システムなどをサブシステムとして包含するような統合システムのことである。企業の規模によってITシステムに対する投資規模が異なるため、極端な場合、会計システムだけという例も存在する可能性はあるが、このような場合も、本願明細書におけるERPシステムに含まれている。
【0038】
狭義または広義の対面データを分析することにより、ある一定期間(日、週、月)において、ある個人が、どの人とどの程度コミュニケーションをとっているか、どの場所にどの程度滞在しているか、どのシステムにどの程度アクセスしているかが分かる。ここで時間を基準にとれば、例えば、ある個人Aが別の人B、C、Dとそれぞれ、ある一定期間において5:3:2の時間配分でコミュニケーションしている、といったことが分かる。
【0039】
原価計算システムは、A、B、C、Dが本来担当すべき作業IDを規定データとして持っていることがある。例えば、Aは作業ID1に従事し、Bは作業ID1と2に従事し、Cは作業ID1、3、4に従事し、Dは作業ID2と3に従事することを規定データとして持っていると仮定する。本願明細書に記述するところの発明がなければ、原価計算においては規定データにしたがい、Aにかかる費用は全額が作業ID1に紐づけられている製品に賦課もしくは配賦される。B、C、Dも同様である。しかし、上記のようにB、C、D5:3:2でコミュニケーションしている場合において、Aは作業ID1以外に作業ID2、3、4にも関与して活動している可能性があることが伺える。他に情報が得られない場合は、作業IDを元に按分計算を行うことにより、Aが実質的に関与している作業IDを推定することができる。
【0040】
ABCやTDABCでは、インタビューやアンケートによって各作業者が実質的に関与している活動を把握するが、これは主観に頼る手法であるため、精度や網羅性の点で一定の限界がある。一方本発明では客観的な手法であるセンサ情報を取得することにより、精度や網羅性を向上させつつ、日々のデータ収集の手間を低減することができる。そして、本発明を用いて、あらかじめ規定されていないが作業者が実質的に関与する作業IDを、規定データに追加することにより、ABCやTDABCの抱える課題を解決して、透明性が高くかつ実態を良く反映した原価計算を実現することができる。
【0041】
対面データを用いることの利点の一つは、共通部門(総務、経理など)の原価の割り振りが容易となる点である。共通部門の原価は通常の部門別損益計算においては、経理部や総務部をそれぞれ1つの部門として扱い、当該部門でかかった費用は、例えば従業員数などの静的(Static)な情報に基づいて配賦することが通例である。本発明によれば、共通部門のそれぞれの人が、他の部門の人とどのようにコミュニケーションしているかという情報および、他の部門の人が関与している作業IDの情報とをリアルタイムに組み合わせることで、時々刻々変化する実際の業務状況を、動的(Dynamic)に再現して、実態を良く反映し、かつ透明性が高い原価計算を実現することができる。
【0042】
狭義もしくは広義の対面データを分析することにより、人と人(あるいは人と場所、人とシステム)がある瞬間どう対面しているかを、時々刻々の時系列データとして把握することができる。その後、対面相手である人(あるいは場所、システム)に関連する作業IDを紐づけることにより、作業者がある瞬間どの作業IDに属しているかを推定することができる。このような推定結果を継続的に記録(ログ)として保管しておくことにより、例えば金融機関など、重要な資金、資産を管理している部署における内部統制の強化、不正の検知、インサイダー取引などの事後検証に利用することも考えられる。
【0043】
本発明の効果は次の三段階に要約することができる。センサを用いて、(1)対面相手の作業IDに基づいて、本人が実際に従事している作業IDを高精度で推定することができる。それにより、(2)ABCを実用的に運用することができる。それにより、(3)活動基準管理(ABM)や活動基準予算(ABB)による業務改善を、継続的かつ海外拠点を含む広範囲で実現することができる。
【0044】
対面相手の作業IDに基づいて、本人が実際に従事している作業IDを高精度で推定することにより、あらかじめ登録されている業務と異なる業務に従事しているために生じる原価計算の歪みに対応できる。各人がいつどのような相手と一緒に活動しているかを特定することにより、ABCを実用的に運用することができる。
【0045】
ABCおよびTDABCは原価計算手法であるが、ABCやTDABCの手法を広く経営全般にまで広げる概念として活動基準管理(Activity Based Management:ABM)がある。ABMでは、コスト管理にとどまらず、顧客満足を高めるために組織業績の継続的な改善を図ろうとする。すなわちABMでは、従来の製造間接費の配賦計算というABCの枠にとどまらず、管理会計のほぼ全域をカバーしている。ABMでは既存のキャパシティを維持するために投入されたものの未活用に終わった経営資源を明らかにし、その元となった非付加価値活動を除去する。ABMを効果的に実施するには、予算策定の精緻化および実績値と予算値の差異分析が必要になるとの見地から、活動基準予算(Activity Based Budgeting:ABB)という考え方もできる。
【0046】
本発明のようにセンサを用いた分析結果をABMやABBに活用することにより、グローバル企業における各国支社などのように、地理的に遠隔な事業拠点の状況を本社部門が把握できる。定量性に優れるため、適切なコスト管理を実現することができる。またコミュニケーション相手の原価情報にもとづき本人の原価を推定することができる。また作業IDが規定されていない、もしくは共通部門に属しており、業務が定型化していない、人事上または組織上作業IDが不明の場合でも、対面相手の情報から、作業ID(業務)を自動で割り当てることができる。
【0047】
ABMは対象とするものの違いから業務的ABMと戦略的ABMに分けることができる。業務的ABMは日々の継続的改善活動により、効率を高めて活動原価を下げることを目的としている。すなわち活動が費やす資源を出来る限り抑え、活動目的を達成させるため、価値をもたらさない無駄な活動の排除や活動の再編成が中心課題となる。これに対し、戦略的ABMは収益性を高めるために戦略的に活動を再編することを目的としている。日々の改善活動以外の生産販売施策、製品設計、顧客やサプライヤーに対する抜本的施策の探索が中心課題となる。業務的ABMは短期的改善を、戦略ABMは中長期的改善を目指すものであり、企業のなかで両者は相互補完関係にある。
【0048】
業務的ABMであろうと戦略的ABMであろうと、ABMが適切に実施されるためには、ABCなどの手法により必要な情報が適切に測定され、いつでも利用できるように情報が管理者や従業員に公開されていることが前提となる。情報が公開されて初めて、管理者、従業員は行動の適切性が分かり、情報の共有を通じて協力関係が築かれるためである。この際、アンケートやインタビューという主観的なプロセスを出来る限り少なくして、センサなどの客観的なデータに基づく情報を公開していくことにより、管理者、従業員の公平感を醸成でき、管理者、従業員の協力関係が得られやすいと考えられる。
【0049】
近年では自企業だけでなく、他企業をも考慮にいれたサプライチェーンの管理が競争優位の一つの源泉になっている。購買管理にABCを用いると、サプライヤーごと、サプライチェーンの活動ごとの原価が明らかになる。それによって原価低減の可能性や、サプライヤーと自社で原価低減活動をどう分担すべきかが明らかになる。ABCを用いるとサプライヤーの評価ができる。ABMは販売チャネル別管理・顧客管理にも有効である。ABCを用いると、販売チャネルにおける活動ごとの原価が算定されるからである。それにより、販売チャネルごとに原価低減が可能な活動とそれを実施した場合の低減額が明らかになる。近年では製品に対する技術支援、サービス向上等、顧客価値を高める活動がどれほどの原価を発生し、収益に結び付くかを明らかにすることが特に重要となっている。また製品価値を決定するのはサービスともいわれるようになり、製品とサービスが一体となって顧客に提供される場合が増加しているので、ABCを用いた原価分析と、それによる合理的な価格決定が重要になっている。本発明により、上記の基礎となる透明性、定量性にすぐれた原価データを比較的容易に提供することができる。
【0050】
本発明のセンサ主導活動基準原価計算(SDABC)により得られる原価計算情報を用いて、活動基準管理(ABM)を実施することを以後、本願明細書の記述において、センサ主導活動基準管理(SDABM)と記す。
【0051】
サービス業へのSDABMの適用の利点を考えてみる。SDABM導入の利点の第一は、活動を媒介としてサービスの原価を求めることにより、原価発生過程を継続的かつ客観的に跡付けられるということである。伝統的原価計算であれば、サービス業における原価の多くが間接費として、人件費等の「販売費および一般管理費」の項目としてのみ把握されており、その情報のみでは、原価がどのように発生したかを把握できない。第二の利点は、サービス業は顧客によって要求が異なり、それによって必要とする活動が異なるので、顧客ごと、顧客セグメントごとの分析が重要になる。そのためには顧客収益性の分析が必要となるが、伝統的な原価計算では、どの原価のどの部分がどの顧客のために使われたものであるかわからないことが問題である。SDABMを導入して初めて顧客収益性の分析が継続的かつ客観的にできるようになる。第三の利点は、サービス業では間接費でありかつ固定費が多くなるが、固定費の分析がSDABMを利用することにより厳密になるということである。例えば、貢献利益の計算にSDABCを用いることにより、固定費の分類がより精密になり、操業度との関係では固定費として分類されていたものが、それ以外のコストドライバーによってどのように変化するかが考慮できるようになる。また固定費のうち、どの資源に未利用分があるか、どの資源が限度一杯使用されているか、その可能性が最も高い資源はどれかを明らかにすることは、設備意思決定の重要な情報になる。本発明のSDABMにより、このようなABMの利点を、継続的、客観的、安価かつ簡便に得ることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態の概略を説明した。以下では図面を参照しながら、具体的な実施形態について説明する。
【0053】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る原価計算システムのシステム要素を示す図である。図1の左端の列はデータ取得源(センサシステムおよびERPシステム)101である。図1の左端から二番目の列は、センサシステムおよびERPシステム101から得られる一次データ102である。図1の左端から三番目の列は、一次データ102をマトリクス形式に加工したデータ103である。図1の左端から四番目の列は、加工データ(マトリクス)103に基づいてネットワーク形式に追加加工した、加工データ(ネットワーク)104である。
【0054】
後述する原価計算装置200は、加工データ(ネットワーク)104に基づき、各人員が実質的に従事する作業ID105を計算する。従来の原価計算ではあらかじめ予算段階等で各人員に対し規定されている従事作業ID109を用いて原価計算(配賦計算)を実施していたのに対し、本発明では、各種データ取得源101から収集したデータに基づき、各人員が実質的に従事する作業ID105を推定し、その推定結果を用いて原価計算(配賦計算)より精緻に行うことができるようになる。またデータ取得源としてセンサシステムおよびERPシステムを用いることにより、客観的かつ少ない労力で原価計算に必要なデータを継続的に収集することができる。
【0055】
対面センサにメモリ機能が存在する場合は、作業IDデータは、対面センサに記憶させることもできる。作業IDデータを対面センサに記憶させるメリットは、作業IDデータを呼び出す頻度が減少することによりシステム構成がより簡単になる、データ送信量がより減少するという点である。なおあらかじめ規定された作業IDデータ109のみを対面センサに格納してもよい(図1の、109から101をつなぐ点線矢印)。加えて後述する、実質的に従事する作業ID105の推定結果を対面センサに格納(上書きもしくは併記)してもよい(図1の105から101をつなぐ点線矢印)。
【0056】
データ取得源101は、センサシステムおよびERPシステムから成る。センサシステムとは例えば、各人が名札型センサを胸に装着するなどの対面センサ(人vs人)、各人に装着したセンサとある場所に固定または仮設置されたビーコンとで赤外線通信するなどの場所センサ(人vs場所)がある。またERPシステムとは例えば、調達システム、生産システム、物流システム、販売システム、会計システムまたは人事/給与システムなどがある。このERPシステムを構成するサブシステムの内、例えば人事/給与システムの一部からは、原価計算に関連する人員/費用データ、職制/部署データといったデータを取得できる。また例えば会計システムの一部からは原価計算に関連する従事作業IDデータ(規定データ)などの直接費または間接費に関するデータを取得できる。さらに、ERPシステムに誰がいつログインしたか、どのような画面にアクセスしたかを、調達、生産、物流、販売、会計、人事/給与システムから、例えばアクセスログの形式で取得して、アクセスログの分析を行うことにより、ITシステム上で誰がどのくらいの時間、どのような業務に従事したかが分かり、原価計算に役立てることができる。
【0057】
対面センサからは対面データを時系列に取得できる。場所センサからは場所滞在データを時系列に取得できる。場所データ、すなわち、場所に固定または仮設置されたビーコンが具体的にどの場所にあるかのデータは、必ずしもERPシステムで扱うデータではないので、別途、データ構築を行う必要があると思われる。ただし、本発明では場所センサや場所データは必ずしも必須ではない。
【0058】
時系列に取得した対面データを、一定期間(日、週、月など)集計することにより、一定期間における人員対面時間マトリクス920を作成することができる。時系列に取得した場所滞在データを、一定期間(日、週、月など)集計することにより、一定期間における場所滞在時間マトリクス1020を作成することができる。ERPシステムへのアクセスログを時系列に分析して、一定期間(日、週、月など)集計することにより、一定期間におけるシステム画面滞在時間マトリクス1110を作成することができる。
【0059】
一定期間における人員対面時間マトリクス920と、人事/給与システムの一部から取得した人員/費用データ、職制/部署データ、加えて、会計システムの一部から取得した従事作業IDデータ(規定データ)とを用いて、人員対面のネットワーク1210を作成することができる。また人員対面のネットワーク1210と一定期間における場所滞在時間マトリクスとを用いて、人員対面・場所滞在のネットワーク1510を作成することができる。さらに、人員対面・場所滞在のネットワ―ク1510と一定期間におけるシステム画面滞在時間マトリクスとを用いて、人員対面・場所/システム滞在のネットワーク1710を作成することができる。後述するアルゴリズム1420、1610または1810を用いて、各人員が実質的に従事する作業ID105の推定結果、すなわち従事作業IDデータ(実質データ)を得ることができる。
【0060】
この従事作業IDデータ(実質データ)を用いて、例えばABC、TDABC、特に本発明SDABCの原価計算の枠組み(活動分類→時間単価掛け合わせ→コスト金額計算)にいれて計算する工程である原価計算ファンクション106により、計算対象期間における個人もしくは組織ごとのコスト金額107を算出することができる。このコスト金額はERPシステムの例えば会計システムに書き込まれて、ERPシステムの情報がその都度更新されることになる。
【0061】
原価計算ファンクション106の中で、人間活動分類という工程は、特にセンサ加速度情報108を用いて、各人員の活動を分類する工程であり、図22や図23において後述する方法により、ABCやTDABCが有する欠点の一つである主観的な活動分類を、SDABCによるセンサ情報を用いて客観的な活動分類を行う場合に必要となる工程である。ただし人間活動分類という工程は、図1に示すように必須ではなく、この工程を経由しないでも原価計算ファンクションを機能させることができる。
【0062】
図2は、本実施形態1に係る原価計算システムのシステム構成を示す図である。図2の左上部のセンサ群、右上部のERPシステム機器群が、図1で説明したデータ取得源(センサシステムおよびERPシステム)101に該当する装置群である。図2の右下部のハードウェア構成が、図1における101以外のその他の部分を実行するハードウェアである。
【0063】
図2の左上部のセンサ群は、例えば名札型センサ201、RFID202、赤外線センサ203、加速度センサ204などから構成される。名札型センサとは例えば、各人員が胸につける名札様の縦(数cm)×横(数cm)×厚さ(数mm〜cm)のコンパクトな形状を有しているセンサであり、音、加速度、温度、赤外線センサを搭載しているセンサ205として実装されている。名札型センサ201内にメモリ機能を持たせて作業IDデータを格納してもよい。これらのセンサから例えば、無線を介して無線送受信部206にデータを送信し、例えばインターネット網207を経由して、通信装置216にデータ転送することができる。
【0064】
図2の右上部のERPシステム機器群は、システム端末208、プリンタ/FAX209、アプリケーションサーバ210、支店、子会社や関連会社のシステム211より構成される。図1における基幹業務システム(ERPシステム)のデータは、これらのシステム機器群から、例えばインターネット網207を経由して、通信装置216にデータ転送される。
【0065】
本発明の主要部分を構成する原価計算装置200は、ディスプレイ等の表示装置214、キーボードやマウス等の入力装置215、通信装置216、CPU(Central Processing Unit)217、メモリ218、および例えばハードディスク224上に展開されるデータや計算プログラム群により構成される。なお、センサ群やERPシステム機器群から一旦転送されたデータおよびその加工データや、計算途上の中間ファイルなどのデータは、データ管理サーバ213、データバックアップ212により保存される。この理由は、インターネット網207を介した通信量を出来る限り少なくすること、データを二重に保存しておく(バックアップする)ことである。
【0066】
ハードディスク224上に展開されるデータ群は、対面滞在データ219、アクセスログデータ220、作業IDテーブル610、加速度データ222、原価データ223、マスタデータ232などからなる。また同ハードディスク224上に展開される計算プログラム群225は、その実行の順番に、データ読み込みプログラム226、マトリクス計算プログラム227、ネットワーク解析プログラム228、加速度情報解析プログラム229、コスト配賦計算プログラム230、およびコスト計算結果出力プログラム231を有する。以下では説明の便宜上、上記プログラムを動作主体とする場合があるが、実際にこれらプログラムを実行するのはCPU217であることを付言しておく。
【0067】
上記各プログラムが有する機能は、同様の機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアを用いて構成することもできる。以下の説明ではこれらをプログラムとして実装したことを前提とする。
【0068】
本発明における「対面データ取得部」は、データ読み込みプログラム226が相当する。「対応関係取得部」は、マトリクス計算プログラム227が相当する。「作業特定部」は、ネットワーク解析プログラム228が相当する。「原価計算部」は、コスト配賦計算プログラム230が相当する。
【0069】
前述のように、標準的なABCは、主として、製造間接費配賦の改善方法として開発された概念である。このためABCは、主に製造業における製品原価決定、および業務改善手法として使われてきている。多品種少量生産への移行が進み、製造原価に占める製造間接費の割合が大きくなったこともあり、ABCによる製造間接費配賦の改善効果の経営に対するメリットは大きい。ただし、現状では製造業を中心に、「ABCは複雑で、導入にコストがかかる」「製造間接費の配賦を精緻化したに過ぎず、基本は伝統的な原価計算と変わらない」といった批判も聞かれることも事実である。製造業では、ABCのメリットを出来るだけ活かしABM・ABBへと発展させることおよび、簡便化、導入・運用コストの低廉化が求められている。
【0070】
その一方、近年では金融業を中心としたサービス業にも導入が進んでおり、自治体におけるABCの導入の動きもその一環として検討が進められている。現在は、地方財政の悪化や行政サービスの需要拡大といった社会状況の中で、行政サービスの効率性や経済性が重要視されている。自治体において、行政サービスのコストを正確に把握し、より効率的な業務フローの実現を目指して、ABCの考え方を導入することは有効と考えられる。ただし民間企業は利益の獲得を中心としているのに対し、自治体は地域住民のニーズを満たすことが中心である。そのため、自治体には製品の売上や原価といった概念がなく、その代わりに行政サービス向上、行政コスト把握の概念が中心となる。
【0071】
具体的な説明に入る前に、私企業と公企業(自治体も含む)それぞれにおける、本システムの目的を整理しておくことは有益と考えられる(伝統的原価計算、ABCの目的も原則として同じであると考えられる)。この目的の達成による見返り・効果が原価計算の導入・運用コストを上回る場合は、各企業・組織で、本システムの活用が進められることとなる。ここでは本システムの目的を二軸、すなわち、分析結果活用の方向性(外部または内部)と分析適用範囲(部分または全体)の二軸で考える。
【0072】
私企業におけるABCの目的は、1.製品原価低減(分析結果活用の方向性:内部、分析適用範囲:部分)、2.製品価格決定(分析結果活用の方向性:外部、分析適用範囲:部分)、3.資源最適配分(分析結果の方向性:内部、分析適用範囲:全体)、4.財務諸表作成(分析結果活用の方向性:外部、分析適用範囲:全体)の4つに整理できる。
【0073】
公企業におけるABCの目的は、1.コスト低減(分析結果活用の方向性:内部、分析適用範囲:部分)、2.負担説明(分析結果活用の方向性:外部、分析適用範囲:部分)、3.資源最適配分(分析結果の方向性:内部、分析適用範囲:全体)、4.情報提供(分析結果活用の方向性:外部、分析適用範囲:全体)の4つに整理できる。
【0074】
これらの目的は、私企業においてはグローバル環境での世界的競争の激化、公企業においては税・行政サービスの見直しの議論の高まりを背景として、その重要性は将来的に高まることはあっても低くなることはなく、本システムによるABCの簡便化、導入・運用コストの低減が達成される効果による、私企業と公企業双方に対する、社会的・公共的メリットは大きいと考えられる。
【0075】
図3から図18は、原価計算装置200の具体的な構成および動作例を説明する図である。具体的には、ある従業員に装着したセンサのデータから、当該従業員が従事している業務、およびその業務が複数存在している場合には、当該従業員の業務ごとの活動比率を求める例を示す。活動比率を精度良く求めることにより、当該従業員に関わる人件費をそれぞれの業務ごとに精度良く配賦することができる。前述のように、作業IDとは当該企業で原価の直賦あるいは配賦の対象となる単位を指す。例えばある製品の製造工程を構成している作業の内、性質の似た作業同士を一つにした単位を指し、予算管理の対象となるものである。本願明細書では以下、この業務の種類を示す“作業ID”を、単に番号で示す(例えば、1、2、3、・・・)ことにする。
【0076】
図3から図18では、従業員1が従事している作業IDとそれぞれの作業IDにおける活動比率を求める例をしめす。従業員1は予算上では、作業ID13に従事することが規定されていることになっている。そのため、従来の伝統的な原価計算においては、従業員1の人件費は全て作業ID13に配賦されることとなる。しかし、以下の例示では、規定されないが従業員1が実質的に関与する作業IDを求める過程において、過渡的、擬似的に一旦不明(“?”にて記す)であるとした上で、実質的に従業員1が従事している作業IDとその活動比率について本システムを用いて推定し、予算上の作業IDとの比較を試みている。本システムを用いて組織の従業員について同様に実質手的に従事している作業IDを求めることにより、予算と実績を比較することもできる。
【0077】
図3は、人員テーブル310の構成とデータ例を示す図である。人員テーブル310は、マスタデータ232内に含まれるデータテーブルであり、全従業員が従事する作業IDを記述している。
【0078】
人員テーブル310は、人員コード301、部署コード302、職制コード303、あらかじめ規定されている作業ID(規定値)305を有する(項目304はその他任意の情報を保持する)。例えば従業員1は、人員コードが1、部署コードが14、職制コードが8となっている。従業員1の従事する規定の作業IDは13としている。ただし、この作業IDが13というのは、あくまで予算編成などの理由によりあらかじめ規定されているものであり、実際に従業員1が従事する作業IDは異なる可能性がある。そこで原価計算装置200は、各従業員が実質的に関与する作業ID推定し、本テーブルに追加する。
【0079】
図4は、部署テーブル410の構成とデータ例を示す図である。部署テーブル410は、マスタデータ232内に含まれるデータテーブルであり、部署コード302とその部署が関連する作業IDとの対応関係を記述している。
【0080】
部署テーブル410は、部署コード401、企業名402、事業所名403、部署名404、部署関連作業ID406を有する(項目405はその他任意の情報を保持する)。部署コード401は、部署コード302に対応する。部署関連作業ID406は、部署コード401が指定する部署に関連する作業IDのリストを保持する。具体的には、当該部署に所属する人員の作業IDの集合である。
【0081】
図5は、職制テーブル510の構成とデータ例を示す図である。職制テーブル510は、マスタデータ232内に含まれるデータテーブルであり、職制コード303とその職位階層との対応関係を記述している。職制テーブル510は、職制コード501、職位名502、職位階層504を有する(項目503はその他任意の情報を保持する)。職位階層504は、最上層を1として昇順の番号として記される。人員テーブル310と職制テーブル510を結合することにより、各従業員の職位上の上下関係が把握できる。
【0082】
図6は、作業IDテーブル610の構成とデータ例を示す図である。作業IDテーブル610は、作業IDと、これに関連する作業場所および製品名との対応関係を記述している。作業IDテーブル610は、作業ID601、作業ID名602、作業ID関連事業所名603、作業ID関連製品名605を有する(項目604はその他任意の情報を保持する)。
【0083】
作業ID関連事業所名603、作業ID関連製品名605は、作業IDごとに把握された原価に基づき最終的な製品原価を集計できるように、各作業IDと、これに関連する事業所や製品とが紐づけられている。
【0084】
図7は、場所テーブル710の構成とデータ例を示す図である。場所テーブル710は、マスタデータ232内に含まれるデータテーブルであり、作業場所とこれに関連する部署コード401との対応関係を記述している。
【0085】
場所テーブル710は、場所コード701、場所名702、事業所名703、場所関連部署コード705を有する(項目704はその他任意の情報を保持する)。場所関連部署コード705は、場所コード701〜事業所名703が指定する場所(部屋、構築物など)を通常使用する部署の部署コード401の集合である。部署テーブル410の部署関連作業ID406と場所テーブル710を結合することにより、当該場所(部屋、構築物など)を通常使用する部署に所属する従業員の活動対象となっている作業IDが紐づけられる。すなわち、作業場所と作業IDとが紐づけられることになる。
【0086】
図8は、システム画面テーブル810の構成とデータ例を示す図である。システム画面テーブル810は、マスタデータ232内に含まれるデータテーブルであり、システム211が提供する画面とその画面に関連する作業IDとの対応関係を記述している。
【0087】
システム画面テーブル810は、画面コード801、システム画面名802、システム名803、関連作業ID805を有する(項目804はその他任意の情報を保持する)。画面コード801は、システム211が提供する画面の識別子である。関連作業ID805は、画面コード801が識別する画面を利用する業務の作業IDの集合である。関連作業ID805により、システム211の画面と作業IDとが紐づけられることになる。
【0088】
図9は、人員対面時間マトリクス920の構成例を示す図である。人員対面時間マトリクス920は、ある一定期間(1日、1週間、1カ月など)に、人員同士がどれだけ対面しているかを、時間単位(時間、分、秒など)で表したマトリクスである。縦軸901〜904と横軸905〜908は、それぞれが人員1人に対応し、例えば人員1と人員2の対面時間は35.7時間単位、人員1と人員3の対面時間は23.45時間単位である。業務をしていない時間であってもセンサは自動的に対面時間を記録するので、原価計算装置200が本マトリクスを算出するに際しては、例えば昼休みや定時後の休憩時間など、業務に関係ない対面については除外して計算する。
【0089】
図10は、場所滞在時間マトリクス1020の構成例を示す図である。場所滞在時間マトリクス1020は、ある一定期間(1日、1週間、1カ月など)に、ある人員がある場所にどれだけ滞在したかを、時間単位(時間、分、秒など)で表したマトリクスである。縦軸1001〜1004はそれぞれ人員1人に対応し、横軸1005〜1008はそれぞれ場所一か所に対応する。例えば人員1が場所1に滞在した時間は1.5時間単位、人員1が場所2に滞在した時間は13.5時間単位である。業務をしていない時間であってもセンサは自動的に滞在時間を記録するので、原価計算装置200が本マトリクスを算出するに際しては、例えば昼休みや定時後の休憩時間など、業務に関係ない対面については除外して計算する。
【0090】
図11は、システム画面滞在時間マトリクス1110の構成例を示す図である。システム画面滞在時間マトリクス1110は、ある一定期間(1日、1週間、1カ月など)に、ある人員があるシステムのある画面にどれだけ滞在したか(ログインしていたか)を、時間単位(時間、分、秒など)で表したマトリクスである。縦軸1101〜1104はそれぞれ人員1人に対応し、横軸1105〜1108はそれぞれシステム一画面に対応する。例えば人員1がシステム画面1に滞在した時間は20.5時間単位、人員1がシステム画面2に滞在した時間は0時間単位である。業務をしていない時間であっても人員がシステム内に滞在していた時間はアクセスログに自動的に記録されているため、原価計算装置200が本マトリクスを算出するに際しては、例えば昼休みや定時後の休憩時間など、業務に関係ない滞在については除外して計算する。
【0091】
図12は、人員対面のネットワーク1210の構成例を示す図である。ここでは図9に示した人員対面時間マトリクス920を用いて作成した例を示した。原価計算装置200は、人員1を中心に、人員に装着したセンサから得られる情報のみで図12に例示するネットワーク図を作成する。
【0092】
図12において、ある一定期間(1日、1週間、1カ月など)における人員1と人員2の対面時間は35.7時間単位、人員1と人員3の対面時間は23.45時間単位、人員1と人員100の対面時間は15.62時間単位と測定されている。人員2が従事している業務の作業IDは3および13、人員3が従事している業務の作業IDは2、3、および13、人員100が従事している業務の作業IDは13である。原価計算装置200は、人員対面のネットワーク1210を用いて、人員1が実質的に従事している作業IDを推定し、原価を配賦することができる。
【0093】
人員1が人員2と業務上で対面している時間が長ければ長いほど、人員1と人員2の作業IDは共通である可能性が高い。本ケースでは人員2の作業IDは3および13であるので、人員1の作業IDも3、13、または3と13の両方という可能性が高いと考えられる。なお人員1と人員2の対面時間のみでは、作業ID3と作業ID13とのいずれに関連した対面なのかは分からないので、ここでは作業ID3と作業ID13のどちらも等しいと仮定して、その対面時間の半分(17.85=35.7×0.5)が作業ID3に関する対面時間、残りの半分(17.85=35.7×0.5)が作業ID13に関する対面時間であると仮定する。
【0094】
人員1と人員3との対面時間、人員1と人員100との対面時間も同様に考えると、人員1の対面時間のうち、作業ID2に関する対面時間:7.817(=23.45/3)、作業ID3に関する対面時間:25.7(=35.7/2+23.45/3)、作業ID13に関する対面時間:41.32(=35.7/2+23.45/3+15.65)と計算できる。この結果、人員1の原価の各作業IDへの配賦率は、作業ID2、作業ID3、作業ID13に対しそれぞれ、0.10(=7.817/74.837)、0.34(=25.7/74.837)、0.56(=41.32/74.837)となる。
【0095】
上述のように、人員対面のネットワーク1210を用いた計算を、人員1のみならず全ての人員に対して実施することにより、各員が実質的に関与する作業IDを推定することができる。原価計算装置200は、その推定結果を図3の人員テーブル310に追加することができる。
【0096】
図13は、実質的に関与する作業IDを推定した結果を追加した人員テーブル310の構成例を示す図である。図13のフィールド301〜305は図3と同一である。新たに追加されているフィールドは、作業ID(実質)306、従事割合307である。作業ID306は、人員コード301が指定する人員が実質的に関与すると推定される作業IDを保持する。従事割合307は、同一の人員について作業ID306が複数存在する場合、各作業ID306に対する従事割合を示す。従事割合307は人員ごとに合計すれば1となる値であり、各人員が一定期間(日、週、月など)あたりに従事した作業ID306毎の時間割合を示している。
【0097】
図14は、原価計算装置200が人員対面のネットワーク1210に基づき各作業者が実質的に関与する作業IDを推定する処理を説明するフローチャートである。以下、図14の各ステップについて説明する。
【0098】
(図14:ステップS1401〜S1402)
データ読み込みプログラム226は、センサ群から時系列の対面データを取得する(S1401)。マトリクス計算プログラム227は、ステップS1401で取得した対面データを用いて、一定期間における人員対面時間マトリクス920を計算する(S1402)。
【0099】
(図14:ステップS1403)
データ読み込みプログラム226は、作業IDデータの規定値を取得する。作業IDの規定値を対面センサに持たせる場合は、センサから対面データを入力する際に、作業IDの規定値を併せて取得する。作業IDの規定値を対面センサに持たせない場合は、人員テーブル310から規定値を取得する。
【0100】
(図14:ステップS1404〜S1406)
マトリクス計算プログラム227は、ステップS1403で取得した作業IDデータの規定値を、各人員に対して割り当てる(S1404)。ネットワーク解析プログラム228は、図12で説明したネットワーク図を用いる方法により、隣接人員の作業IDに基づき人員iの作業ID(実質)306を推定する(S1405)。ただしiは、1から人員数までの値をとる整数である。ネットワーク解析プログラム228は、ステップS1405で推定した人員iの作業ID(実質)306を一旦メモリに記録する(S1406)。
【0101】
(図14:ステップS1407〜S1408)
作業ID(実質)306が全て作業IDデータの規定値と等しければステップS1408へ進み、人員iの作業IDは規定値のままで変更しない。作業ID(実質)306のなかに、規定値とは異なるものがある場合は、ステップS1409へ進む。
【0102】
(図14:ステップS1409)
ネットワーク解析プログラム228は、作業ID(規定値)306と異なる作業ID(実質)の従事割合p(従事割合307に相当)を算出する。
【0103】
(図14:ステップS1409:補足)
ここで、pが大きい場合は、あらかじめ規定された作業IDに従事しているよりも、あらかじめ規定されていなかった作業IDに従事していることを示している。この場合、人員i+1以降の計算において人員iが関係するのであれば、作業ID(規定値)を作業ID(実質)306に置き換えて計算するほうが、より実態を表した計算結果が得られるように思われる。しかし、pがどの程度大きければ作業ID(規定値)を作業ID(実質)306に置き換えるべきかという問題がある。一つの考え方としては、例えば、0.5などの閾値をあらかじめ与えておき、pがその閾値を超える場合に作業ID(規定値)を作業ID(実質)306へ置き換える方法が考えられる。本実施形態1では、閾値を固定値ではなく乱数によって与えることとし、以下のステップS1410〜S1412のような手順を用いることとした。
【0104】
(図14:ステップS1410〜S1411)
ネットワーク解析プログラム228は、0以上1以下の一様乱数randを生成する(S1410)。randが従事割合pを下回った場合はステップS1408へ進み、それ以外であればステップS1412へ進む(S1411)。
【0105】
(図14:ステップS1410〜S1411:補足)
固定閾値とpを比較する場合、当該閾値は0.5がよいのか、それとも0.4や0.3といったそれ以外の値がよいのか不明である。また、そもそも一定の閾値を与える時点で恣意性がはいってしまう。これに対し、本フローのように一様乱数を発生させることにより、恣意性が排除できる。randの代わりにrand×α(αは0〜1の実数)を用いてもよい。この場合のαは、人員全体の作業ID(実質)306の計算結果を調整するためのパラメータといえる。
【0106】
(図14:ステップS1412〜S1414)
ネットワーク解析プログラム228は、人員iの作業IDを作業ID(実質)に置き換える(S1412)。ネットワーク解析プログラム228は、ループカウンタをiからi+1に更新する(S1413)。ネットワーク解析プログラム228は、カウンタiが人員数に達するまで、ステップS1405〜S1413を繰り返す(S1414)。
【0107】
(図14:ステップS1415〜S1416)
ネットワーク解析プログラム228は、各人員の作業ID(実質)306を決定する(S1415)。ネットワーク解析プログラム228は、人員全体の作業ID(実質)306を出力する(S1416)。なお、乱数randの値によって、試行するごとに異なる結果が得られることが予想されるので、本フローチャートの手順を複数回繰り返し、最も頻出する結果をステップS1416で出力するようにしてもよい。
【0108】
原価計算装置200が図14の処理フローを完了した後、コスト配賦計算プログラム230は、処理フローの結果に基づき作業原価を作業ID(実質)306にしたがって配賦する。コスト計算結果出力プログラム231は、その計算結果を出力する。
【0109】
図12および図13のみに基づき原価配賦を試みると、その結果は以下のようになる。まず人員1が所属する部署の従業員は12名とする。この従業員はそれぞれ、ひと月あたり平均20日間勤務し、1日平均7.5時間勤務している。したがって従業員はひと月あたり150時間勤務していることになる。ただし全ての時間が生産的な作業に充てられるわけではない。個々の従業員が一日平均75分間を休憩や訓練、教育などに費やしているとすると、1日に平均6.25時間勤務し、したがってひと月あたり125時間を生産的な業務に費やしていることになる。この人員1の人件費は、図5の職制その他の要件に基づき、ひと月40万円であるとする。すると人員1の人件費のうち生産的な業務に配分される金額は、ひと月33.33万円(=40万円×125/150)となる。
【0110】
センサから得られた時間に関する情報に基づいて、人員1の人件費を作業IDごとに配賦すると、作業ID2、作業ID3、作業ID13に対しそれぞれ、3.33万円(=33.33×0.1)、11.33万円(=33.33×0.34)、18.67万円(=33.33×0.56)となる。
【0111】
ただし、図3の人員テーブルによれば人員1、人員2、人員3、人員100の部署コードはそれぞれ、14、14、8、14である。人員3については部署が異なっているので、人員3と人員1の職務内容が異なっている可能性があり、人員1と人員3の対面時間は、作業IDとの直接的な関連が薄い内容によるものとの可能性がある。そのため、部署の階層構造に基づいて、人員3に関する対面の重みづけを少なくすることが考えられる。この結果、人員3に由来する作業ID2に対する原価の配賦額は少なくなる。このように、対面時間の情報に、所属する部署内の上下関係(対面の相手が同じ部署の課長、主任、それとも担当か)、部署間の階層関係(同じ部に所属するのか、それとも異なる部に所属するのか、異なる部でも同じ本部や事業部に所属するのか)を利用した重みづけを行うことにより、原価の配賦率を修正することもできる。
【0112】
また本実施形態では従業員が装着するセンサで測定するのは対面時間だけであるが、後述するように、従業員が装着するセンサにおいて加速度なども測定できる場合は、より詳細な修正を行うことができる。時間計測に加えて加速度計測データから導かれる指標を分析することにより、例えばボディランゲージを多用しているか否かなどの状況を推測し、「対面コミュニケーション状況」を解析することができるためである。
【0113】
「対面コミュニケーション状況」とは、例えば、A氏とB氏が二人で対面している場合、A氏とB氏が双方向のコミュニケーションをしているのか、A氏が話し手でB氏が聞き手のコミュニケーションをしているのか、A氏が聞き手でB氏が話し手のコミュニケーションをしているのか、A氏とB氏は同席しているのみでコミュニケーションを積極的に行っていないのかといった情報である。この「対面コミュニケーション状況」を用いて、積極的なコミュニケーションを行っている場合には重みづけの係数をより大きく、その反対に消極的なコミュニケーションを行っている場合には重みづけ係数をより小さくすることにより、個々の従業員の積極性やコミットメント度、業務への集中度なども考慮して、原価の配賦率を修正することもできる。
【0114】
図15は、人員対面・場所滞在のネットワーク1510の構成例を示す図である。人員対面・場所滞在のネットワーク1510は、人員対面のネットワーク1210に、場所滞在時間マトリクス1020が記述している情報を加えることにより、作成することができる。図15において、人員は丸印(○)で、場所は四角(□)で表している。
【0115】
場所テーブル710と部署テーブル410の部署関連作業ID406を結合することにより、当該場所(部屋、構築物など)を通常使用する部署に所属する従業員の活動対象の作業IDが紐づけられる。図15において、場所に紐づけられている作業IDも併せて表示している。人が場所に滞在することを、人員同士との対面状態との類推から、人と場所とが対面している状態と捉えて拡張して考えれば、図12で示した例と同様にして、人員1の各作業IDへ原価配賦することができる。人員がある場所にどのくらい滞在したかを測定するためには、場所にセンサを設置する必要があるので追加費用がかかるが、より正確な原価計算ができる。各企業は、費用対効果を検討したうえで、場所へセンサを設置するか否かを判断することができる。また、場所の出入口の入退室システムと、人員に装着したセンサとを連携させる機能を持たせることにより、同様の機能を実現してもよい。
【0116】
図16は、原価計算装置200が人員対面・場所滞在のネットワーク1510に基づき各作業者が実質的に関与する作業IDを推定する処理を説明するフローチャートである。本フローチャートは、図14で説明したフローチャートに加えて新たにステップS1601が追加され、ステップS1405がステップS1602に置き換わっている。これら各ステップについてのみ説明する。
【0117】
(図16:ステップS1601)
データ読み込みプログラム226は、場所テーブル710と部署テーブル410を結合することにより、作業場所に関連付けられている作業IDを取得する。その作業場所に関連付けられている作業IDが場所センサ内に記憶されている場合は、その値を取得して用いてもよい。
【0118】
(図16:ステップS1602)
ネットワーク解析プログラム228は、図15で説明したネットワーク図を用いることにより、隣接人員の作業IDおよび場所に関連付けられた作業IDに基づき、人員iの作業ID(実質)306を推定する。人員だけでなく場所の情報を追加することにより、作業ID(実質)306の推定精度をより向上させることができる。
【0119】
図17は、人員対面・場所/システム滞在のネットワーク1710の構成例を示す図である。人員対面・場所/システム滞在のネットワーク1710は、人員対面・場所滞在のネットワーク1510に、システム画面滞在時間マトリクス1110が記述している情報を加えることにより、作成することができ。図17において、人員は丸印(○)、場所は四角(□)、システム画面は三角(△)で表している。
【0120】
システム画面滞在時間マトリクス1110により、システム画面と作業IDとが紐づけられる。図17において、システム画面に紐づけられている作業IDも併せて表示している。人がシステム画面に滞在する(ログインしている)ことを、人員同士との対面状態との類推から、人とシステム画面とが対面している状態と捉えて拡張して考えれば、図12で示した例と同様にして、人員1の各作業IDへ原価配賦することができる。人員があるシステム画面にどのくらい滞在したかを測定するためには、ERPシステムなどの企業内に構築された情報システムと連携させる(例えば、人員のログインIDとシステム画面へのアクセスログの情報とを突合わせるなど)とよい。人員があるシステム画面にどのくらい滞在したかを測定するためには、ERPシステムとの連携処理を開発する追加費用がかかるが、より正確な原価計算ができる。各企業は、費用対効果を検討したうえで、ERPシステムをカスタマイズするか否かを判断することができる。
【0121】
図18は、原価計算装置200が人員対面・場所/システム滞在のネットワーク1710に基づき各作業者が実質的に関与する作業IDを推定する処理を説明するフローチャートである。本フローチャートは、図16で説明したフローチャートに加えて新たにステップS1801が追加され、ステップS1602がステップS1802に置き換わっている。これら各ステップについてのみ説明する。
【0122】
(図18:ステップS1801)
データ読み込みプログラム226は、システム画面テーブル810より、システム画面に関連付けられている作業IDを取得する。そのシステム画面に関連付けられている作業IDがシステムから取得できる場合は、その値を取得して用いてもよい。
【0123】
(図18:ステップS1802)
ネットワーク解析プログラム228は、図17で説明したネットワーク図を用いることにより、隣接人員の作業ID、場所に関連付けられた作業ID、およびシステム画面に関連付けられた作業IDに基づき、人員iの作業ID(実質)306を推定する。人員と場所だけでなくシステム画面の情報を追加することにより、作業ID(実質)306の推定精度をより向上させることができる。
【0124】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る原価計算装置200は、作業者同士が対面したことを示すデータ、作業者と場所が対面したことを示すデータ、作業者とシステム画面が対面したことを示すデータのうち少なくともいずれかを、センサ等の検知部から取得する。これに基づき作業者が実質的に関与した作業IDを特定することにより、ABCを精度よくかつ導入負担を抑えて実施することができる。
【0125】
<実施の形態2>
実施形態1では私企業における原価計算装置200の導入例を想定して説明した。本発明の実施形態2では自治体における原価計算装置200の導入例を示す。ただし、本発明の考え方や手法は、自治体以外でも顧客に直接対面する窓口部門およびその支援部門を有するサービス業に広く適用できる。
【0126】
図19は、ある市役所Cにおける窓口業務を対象とした伝統的な原価計算の考え方を説明する図である。符号1901〜1902は行政統計資料、符号1903は窓口業務における各課の支援体制を示す図である。
【0127】
市役所Cの窓口業務は、そのルーチン的な業務を市民課が担当し、相談対応等の例外的な業務の発生時に総務課が市民課を支援する体制となっている。当該窓口業務は「住民票発行」「戸籍謄本発行」「印鑑証明その他」の3つに区分される。それら3つの窓口業務は共通して、「1.受付」→「2.データ検索」→「3.証書作成」→「4.認証」→「5.交付」の大枠として5段階の業務フローを有することが、ヒアリングから導かれたとする。
【0128】
決算統計などの行政統計資料1901から、当期の行政事業に関わる費用は、市民課220百万円(内訳:人件費160百万円、需用費40百万円、および役務費20百万円)、並びに総務課170百万円(内訳:人件費100百万円、需用費50百万円、および役務費20百万円)とする。行政統計資料1902によれば、市役所Cにおける当期の年間証書発行件数は280万件(内訳:住民票180万件、戸籍謄本30万件、および印鑑証明その他70万件)とする。また単純化のため、市役所Cで総務課が支援する対象は、市民課と住宅課の2つの課のみと仮定する。
【0129】
従来の伝統的原価計算の考え方によれば、まず総務課の経費をその支援対象である2つの課に均等に配賦する。窓口業務にかかった費用(市民課費用全額と総務課費用の2分の1の額)の合計は、305百万円(内訳:人件費210百万円、需用費65百万円、および役務費30百万円)となる。この305百万円を当期の年間証書発行件数280万件で割ると、住民票、戸籍謄本、印鑑登録その他の各証書1件あたりコストは109円となる。ここでは住民票、戸籍謄本、印鑑証明その他が同一金額として把握される。
【0130】
この計算では、総務課の支援を単純に支援対象数で分割していること、および窓口業務の内容が住民票、戸籍謄本、印鑑証明その他で異なるはずであるのに考慮されていないことが問題として挙げられる。このため業務改善上の関心の高い、総務課の支援業務の有り方や窓口業務ごとの業務効率性に関する情報がほとんど得られないので、従来の伝統的原価計算からの情報だけでは有効なPDCAを実施して、業務改善に導くことは難しいということができる。
【0131】
図20は、活動基準原価計算(ABC)の考え方、特に時間主導活動基準原価計算(TDABC)の考え方に基づく原価計算手法を説明する図である。
【0132】
まず市役所Cの窓口業務フローを分析し(2004)、ヒアリングやアンケートにより、3種類の各窓口業務が標準的に要する時間を決定する。「1.受付」→「2.データ検索」→「3.証書作成」→「4.認証」→「5.交付」の順に、住民票発行業務には標準5.5分(内訳:1に1.0分、2に1.0分、3に0.5分、4に2.0分、5に1.0分)を要するとする。戸籍謄本発行業務には標準6.5分(内訳:1に1.5分、2に1.5分、3に1.0分、4に1.5分、5に1.0分)を要するとする。印鑑証明その他には標準4.5分(内訳:1に1.0分、2に1.0分、3に0.5分、4に1.0分、5に1.0分)を要するとする。また総務課へのヒアリングやアンケートにより、市民課への支援業務が時間にして全体の6割を占めるとする(2003)。よって、窓口業務にかかった費用(市民課費用全額と総務課費用の6割額)の合計は、322百万円(内訳:人件費220百万円、需用費70百万円、および役務費32百万円)となる。
【0133】
続いて、市役所Cの窓口業務全体に対する住民票発行業務の業務割合(活動時間割合)を算定する。住民票発行業務の活動時間(件数×標準時間)は990万分(=180万件×5.5分)、戸籍謄本発行業務の活動時間(件数×標準時間)は195万分(=30万件×6.5分)、および戸印鑑証明その他の活動時間(件数×標準時間)は315万分(=70万件×4.5分)であり、総活動時間は1500万分(=990+195+315)となる。時間ドライバーにしたがって各業務割合(活動時間割合)を計算すると、住民票発行の業務割合は0.66(=990/1500)、戸籍謄本発行の業務割合は0.13(=195/1500)、印鑑証明その他の業務割合は0.21(=315/1500)となる(2005)。
【0134】
したがって、住民票発行業務コストは212,520千円(=322百万円×0.66)、戸籍謄本発行業務コストは41,860千円(=322百万円×0.13)、印鑑登録その他コストは67,620千円(=322百万円×0.21)となる。これらをそれぞれの証書発行枚数で割ることにより、住民票1通あたり118円、戸籍謄本1通あたり139.5円、印鑑登録その他1通あたり96.6円となる(2006)。
【0135】
このTDABCの考え方によれば、戸籍謄本作成業務に比較的多くのコストがかかっており、特に「2.データ検索」に1.5分を要している(他の2業務の1.0分と比較して5割増)ため、コスト負担が大きいことが分かる。この結果から戸籍謄本データ検索システムの検索の手順やITシステムのアルゴリズムを見直すことによる業務改善効果が見込めることが明らかとなった。加えて金額として認識できているため、今後のITシステムの改造にかけられる費用や頻度の見積もる際の、費用対効果の計算が容易である点で、伝統的な原価計算よりも優れた結果を得ることができたと考えられる。しかし、一方で、ヒアリングやアンケートに、コストがかかる、手間がかかるため業務従事者の協力が得られにくい、回答結果が主観的になりやすい、業務改善の程度が当初の想定の範囲に限定される(ゼロベースでの業務改善とはなりにくい)、季節毎の差異(転出転入の多い4月やそれ以外の時期の差異)の把握ができないという各種の問題点を抱えている。
【0136】
図21は、本発明に係る原価計算システムを用いたSDABCによる原価計算の考え方を用いた原価計算手法を説明する図である。市役所Cの窓口業務フローを客観的に分析することを目的としてアンケートやヒアリングなどを行う以前に、センサを各員に装着することから分析作業を開始する。本システムの一番目のメリットは、客観的な窓口業務フローを機械的に作成することにより、課員の主観や思いによらず、いわばゼロベースでの業務改善を実施できる点である。それ以外のメリットについては後述する。
【0137】
センサからは、インタラクションデータ(特開2008−176573号)、人物間の関連性(特開2008−210363号)、行動指標(特開2009−211574号)、積極アクティブ度と集中継続時間(特開2010−217939号)などの分析指標を得ることができる。本願明細書における本システムでは、これらの分析指標を多面的に用いることができるものとする。加えて窓口の近傍の場所にセンサを設置し、どの種類の業務に対応する窓口で課員が業務を実施したかを取得することもできる。また課員が業務のためITシステム(例えば住民票作成システム)にアクセスした際のログを取得し分析に使用することもできる。
【0138】
こうして取得したセンサデータ(時間計測に加えて加速度計測データから導かれる分析指標を含む)およびITシステムからのデータ(アクセスログなどを含む)を分析することにより「個人の時間の使い方」(図22)、「対面コミュニケーション状況」(図23)を解析することができる。
【0139】
図22は、「個人の時間の使い方」を解析した結果を画面表示する例を示す図である。「個人の時間の使い方」とは、例えば、対面時間(ピッチャー:話し手としての時間、キャチャー:聞き手としての時間、同席:単に同席している時間)、デスクワーク時間、外出その他時間を、分・秒単位で表したもの、およびその日時といった情報である(2201、2202)。
【0140】
この「個人の時間の使い方」画面が示す各時間帯と、ITシステム内のアクセスログとを突き合わせることにより、当該作業者がデスクワーク時間においてどのシステムにアクセスしているのか(例えば、住民票システム、戸籍謄本システム、または印鑑登録システムなどのうちどのシステムなのか)を把握することができる。
【0141】
図23は、「対面コミュニケーション状況」を解析した結果を画面表示する例を示す図である。「対面コミュニケーション状況」とは、例えばA氏とB氏が二人で対面している場合、A氏とB氏が双方向のコミュニケーションをしているのか、A氏が話し手でB氏が聞き手のコミュニケーションをしているのか、A氏が聞き手でB氏が話し手のコミュニケーションをしているのか、A氏とB氏は同席しているのみでコミュニケーションを積極的に行っていないのかといった情報である(2301)。また、「対面コミュニケーション状況」には、組織階層のデータが含まれており、A氏がB氏の同じ課の課員か否か、マネージャー(職位上の上下関係がある)か否かといった最新の状態にアップデートされた組織階層情報も取得することができる(2302)。
【0142】
異動が頻繁に行われることが多い私企業や官庁では、一旦ABCのシステムを立ち上げても、この異動の状況を反映した分析を行うための運用コストがかかることが、継続運用上の課題の一つになっている。本システムでは、組織階層情報を、例えばERPシステム、人事システムと連携させることによってたえずリレーショナルデータベースに取り込んで更新しているため、運用コストを低くおさえることができること、すなわち運用コストが安価であることも本システムのメリットである。
【0143】
続いてある日の「個人の時間の使い方」および「対面コミュニケーション状況」を解析する手順例を説明する。ここでは住民票発行作業の業務フローの解析を例にとる。
1.20XX年XX月XX日に、課員Aが、住民票発行窓口において、10時00分00秒から10時01分00秒まで窓口対応していることが、住民票発行窓口近傍に設置されたセンサと課員Aが装着しているセンサの対面情報(Aが聞き手)から取得された。
2.課員Aが、10時01分30秒に住民票システムにログインして住民票作成コマンドを入力したことが、センサ情報(デスクワーク時間)およびITシステムログから取得された。
3.課員Aが、10時02分30秒に認証画面を表示し10時03分00秒に住民票をプリントアウトしたことが、センサ情報(デスクワーク時間)およびITシステムログから取得された。
4.プリントアウトした住民票を、課員Bが目視により認証すべく、10時04分00秒に住民票システムにログインして同一の住民票請求者の情報を画面に表示したことが、センサ情報(デスクワーク時間)およびITシステムログから取得された。その後の10時04分30秒に住民票交付窓口のトレイにプリントアウトした住民票を持参したことが、住民票交付窓口近傍に設置されたセンサと課員Bが装着しているセンサの対面情報(対面のみ)から取得された。
5.課員Cが、住民票交付窓口において、10時05分00秒から10時05分30秒まで窓口対応していることが、住民票交付窓口近傍に設置されたセンサと課員Cが装着しているセンサの対面情報(Cが話し手)から取得された。この20XX年XX月XX日の10時00分00秒から開始された住民票作成業務は5分30秒であった。これは、ヒアリングまたはアンケートにより得た標準時間5.5分と偶然に一致していたが、ヒアリングまたはアンケートによる「4.認証」が、実際には課員Aによる「4A.システムによる認証」と課員Bによる「4B.人による目視認証」の2種類の業務フローにさらに分類されることが分かった。
6.課員Cが、住民票交付の手数料として2百円を住民票請求者から受領し、10時10分00秒から10時11分00秒に経理システムにログインし、当該金額を日計表に追記していたことが、センサ情報(デスクワーク時間)およびITシステムログから取得された。
7.10時11分30秒から10時12分00秒までに、課員Cは、課員Dに住民票交付手数料領収書の控えを手渡して、課員Dがそれをファイル保管したことが、課員Cが装着しているセンサと課員Dが装着しているセンサの対面情報(双方向)から取得された。20XX年XX月XX日と同様なデータ取得がその後の1週間繰り返し実施された。
【0144】
上記の解析の結果、市役所Cの市民課の窓口業務は、「1.受付」→「2.データ検索」→「3.証書作成」→「4A.システムによる認証」→「4B.人による目視認証」→「5.交付」→「6.日計表追記」→「7.保管」であることが分かった(2104)。このように、「4.認証」がさらに「4A.システムによる認証」と「4B.人による目視認証」の2種類に分けられている。また「6.日計表追記」と「7.保管」という2種類のフローが追加されている。この変更理由は、アンケートやヒアリングといった課員の主観に頼る手段ではなく、センサ情報の解析という客観的な手段を用いたことにより、業務フローをより正確に把握することができたためである。本システムのメリットである、ゼロベースでの業務改善を実施できる点があらわれている。
【0145】
また1週間の期間に繰り返し行われたデータ取得により、住民票発行業務に5.5分かかっているのは比較的住民票請求者が少ない時間帯におけることであり、住民票請求者の待ち行列の状況によっては住民票発行業務の時間にばらつきが大きいことが分かった。1週間の測定値の平均値をとったところ、ヒアリングやアンケートの結果に基づいて定めた標準時間と異なる次のような平均測定時間となった。住民票発行業務には平均6.7分(内訳:1に0.6分、2に1.3分、3に0.8分、4に1.7分、5に1.1分、6に0.8分、7に0.4分)を要した。同様に求めた戸籍謄本発行業務には平均8.4分(内訳:1に1.2分、2に1.3分、3に1.4分、4に2.4分、5に0.9分、6に0.8分、7に0.4分)を要した。印鑑証明その他には平均6.5分(内訳:1に1.2分、2に1.3分、3に0.6分、4に1.4分、5に0.8分、6に0.8分、7に0.4分)を要した(2104)。
【0146】
また総務課へのヒアリングやアンケートにより、市民課への支援業務が時間にして全体の6割を占めるとしていたが、総務課や住宅課の課員にもセンサを装着して、異なる課の所属する課員どうしの対面情報からそれぞれの対面時間を求めた結果に基づき按分比率を求めたところ、総務課から市民課への支援業務は時間にして全体の68%を占めることが分かった(2103)。この値は、たとえERPシステムを用いても算出することは難しい。本システムのように各課員にセンサを装着することによってはじめて知りうる情報の一つである。
【0147】
このため、窓口業務にかかった費用(市民課費用全額と総務課費用の68%額)の合計は、335.6百万円(内訳:人件費228百万円、需用費74百万円、役務費33.6百万円)となる。
【0148】
続いて、市役所Cの窓口業務全体に対する住民票発行業務の業務割合(活動時間割合)を算定する。住民票発行業務の活動時間(件数×標準時間)は1,206万分(=180万件×6.7分)、戸籍謄本発行業務の活動時間(件数×標準時間)は252万分(=30万件×8.4分)、戸印鑑証明その他の活動時間(件数×標準時間)は455万分(=70万件×6.5分)であり、総活動時間は1,913万分(=1,206+252+455)となる。
【0149】
時間ドライバーにしたがって各業務割合(活動時間割合)を計算すると、住民票発行の業務割合は0.63(=1,206/1,913)、戸籍謄本発行の業務割合は0.13(=252/1,913)、印鑑証明その他の業務割合は0.24(=455/1,913)となる(2105)。したがって、住民票発行業務コストは202,860千円(=322百万円×0.63)、戸籍謄本発行業務コストは41,860千円(=322百万円×0.13)、印鑑登録その他コストは77,280千円(=322百万円×0.24)となる。これらをそれぞれの証書発行枚数で割ることで、住民票1通あたり112.7円、戸籍謄本1通あたり139.5円、印鑑登録その他1通あたり110.4円となる(2106)。
【0150】
TDABCによれば、住民票1通あたり118円、戸籍謄本1通あたり139.5円、印鑑登録その他1通あたり96.6円であったので、本システムによっても、戸籍謄本作成業務に比較的多くのコストがかかっている結果は変わらなかった。一方、住民票作成コストと印鑑登録その他のコストがほぼ等しくなっていることが分かった。この結果から、戸籍謄本作成コストを、他の2種類の証書の作成コストまで低減することを目的とすることが適切であると分かる。
【0151】
このように本システムSDABCを導入することにより、ABCのメリットを享受しつつ、ヒアリングやアンケートのコストがかからない、手間がかからないため業務従事者の協力が得られやすい、客観的な業務の把握ができる、ゼロベースでの業務改善も可能である、季節毎の差異の把握もできる、という各種のメリットを有する。新規にセンサに関するITシステムの導入・運用のコストが必要な点だけがデメリットであるが、私企業と公企業における本システムの目的を整理した際に記述したように、企業の目的の達成度合いに依存するものの、メリットがデメリットを上回ると考えられる。例えば、企業のグローバル化が進行し、多国籍の従業員が、言語や慣習が異なる中で共同して業務を行う場合は、本システムのような自動で情報を取得して解析するシステムがなければ、適切な原価計算を実施することは困難になるのではないかと考えられる。
【0152】
本願明細書に記載のセンサの代替手段として、GPSによる位置検知や赤外線センサによるデータ送受信機能を有する携帯電話、いわゆるスマートフォンなどと呼ばれる個人携帯端末をはじめとする携帯型個人情報デバイスを用いることによって、時間や位置、対人の状況を得られるのであれば、本システムSDABCと同様の効果を得ることができる。
【0153】
<実施の形態3>
ABCには無くTDABCで新たに導入された概念に、時間方程式(Time equation)という概念がある。時間方程式とは、一連の活動の総実行時間を、より細分化された活動1回あたりの平均実行時間の足し合わせで計算するというものである。ある化学薬品流通業の配送サービスを例にとって説明する。
【0154】
標準品の定期配送に必要な包装時間が0.5分であるとする。かりにその品目が特別な包装を必要とする場合、追加的に平均6.5分の時間が必要となる。さらにその品目が航空便による配送を必要とする場合、プラスチック製のバックへの包装作業が0.2分必要となる。これを時間方程式で表すと下記のようになる。
包装時間(分)=0.5(標準)+6.5(特別包装)+1.0(航空便)
【0155】
さきの化学薬品流通業の会社が、サービスの差別化をするために危険物の配送を手掛けることにしたとする。仮に危険物包装に30分必要とすると、そのサービス提供に要する時間を時間方程式で表すと下記のようになる。
包装時間(分)=0.5(標準)+6.5(特別包装)+1.0(航空便)+30(危険物)
【0156】
これら2つの時間方程式を一般化して表すと、下記のようになる。
包装時間(分)=0.5+6.5×X1+1.0×X2+30×X3+・・・
X1:特別包装である1/ない0
X2:航空便である1/ない0
X3:危険物である1/ない0
【0157】
TDABCでは、顧客サービスが必要とした活動項目をその都度追加することにより、原価計算のモデルがより正確になるのが、利点の一つとされている。しかし、この活動項目の追加も、従業員へのアンケートやインタビューといった主観的で恣意性の入りやすい手法に依存している点では、前述と同様の問題がある。
【0158】
図24は、本システムSDABCを用いて、個々の従業員の業務に対する集中度、活性度、積極度を算出するフローを説明する図である。本フローは、特開2009−211574号が開示している手法によって、個々の従業員に装着されたセンサを用いて作業品質を測定する流れを示している。
【0159】
従業員が装着するセンサ2401により、対面状況を把握する際に用いる赤外線データ2403に加え、加速度計を利用した加速度データ2402、小型マイクロフォンを利用した音声データ2404を取得することができる。加速度データ2402からは、加速度周波数計算により加速度リストが導出できる。その加速度リストを分析することにより、当該従業員が集中しているか否か(集中リスト2405)、活性があるか否か(活性リスト2406)を得ることができる。赤外線データ2403からは、対面リストを得ることができる。音声データ2404からは、発言区間検出により発言リスト2408が導出できる。さらに活性リスト2406、対面リスト、および積極リスト2407を用いて積極度判定を行うことにより、当該従業員が積極的に関与しているか(積極リスト2407)を得ることができる。図24に示す処理フローは、原価計算装置200の加速度情報解析プログラム229が実施する。
【0160】
図25は、本システムSDABCの機能を用いて、作業者の行動パターンを分類した結果を例示する図である。本システムを用いることにより、ABCやTDABCにように従業員へのアンケートやインタビューによらなくとも、行動パターンを複数に分類することができる。以下、先に記した化学薬品流通業の配送サービスを前提にする。すなわち、パソコンなどのデスクワークに属さない業務であることが前提である。仮にパソコンやワークステーションからITシステム上で作業を行う場合は、別途ERPシステム等のITシステムとセンサデータとの連携を行うことにより、同様の分類ができる。
【0161】
図25の横軸は時間軸である。アイドル状態2502とは、個々の従業員に装着されたセンサによって検出された加速度データ、赤外線データ、および音声データのいずれもが、ある閾値を超えない状態を示す。アイドル状態2502において、当該従業員は、ある作業と次の作業の移行帯に属していると考えられる。パターン1では、アイドル状態の後に、集中2503→活性2504を経てまたアイドル状態にもどり、以後、この繰り返しが観測される。この状態が1分弱続くことから、パターン1は前述の「標準」に該当すると考えられる。
【0162】
パターン2では、アイドル状態の後に、集中→比較的長い活性→集中を経てまたアイドル状態にもどり、以後、この繰り返しが観測される。この状態がおよそ7分程度続くことから、パターン2は「標準」+「特別包装」に該当すると考えられる。
【0163】
パターン3では、アイドル状態の後に、集中→比較的長い活性→音声→集中→音声を経てまたアイドル状態にもどり、以後、この繰り返しが観測される。この状態がおよそ8分程度続くことから、パターン3は「標準」+「特別包装」+「航空便」に該当すると考えられる。途中に音声2505がはいるのは、作業手順書の中で、航空便であることを声に出して周囲に知らせ、相互確認することが定められていることによると考えられる。
【0164】
パターン4では、40分程度作業が継続することから、「危険物」に該当すると考えられる。「危険物」については定型化された作業ではなく、個別対応となるため、明確な規則性は分かりづらいが、作業時間が他の場合と比較して明らかに長時間に渡ること、積極2506を長く含むこと、に基づき区別することができる。このように、本システムSDABCでは、センサ情報を用いることで、TDABCでいうところの時間方程式を暗黙に織り込んでいる上、より詳細な分類を行うことができる。従来のTDABCよりも精緻な原価計算手段を提供することができる。
【0165】
図26は、本システムを業務記録に適用した際の画面例である。図26では、図24に示されるところの対面センサ情報を援用している。図26の画面例は、ある日に発生した業務内容を日誌のように静的に記録するだけに留まらず、例えば、イベントフィード(イベント更新リスト)の形態で、動的に作業グループ内で共有することを可能とする機能を有している。
【0166】
図中の「原価コード」とは本願明細書で記述するところの作業IDと基本的に同一の内容を表すコードであり、製品の原価計算に直接紐づけるための派生的コードである。図26のように、例えば、図24の集中リストから算出する集中率、図24の活性リストと積極リストから算出するアクティブ率、図24の発言リストから算出する発言率の反対の概念である聴取率、といったセンサ情報を表示することができる。なお、図26の画面例の右側の「コスト」という表示は、実際に発生した金銭的費用を見積もって表示することもできるし、センサ情報を用いて重みづけした仮想的費用を見積もって表示することもできる。
【0167】
この例のように、本システムを用いることにより、企業等のあらゆる業務システムに対し原価情報を埋め込み、業務改善に役立てることができる。
【0168】
<実施の形態4>
近年、金融商品取引法違反の不公正取引の一つであるインサイダー取引が増加している。インサイダー取引は、会社の取締役、従業員、その他会社の重要な情報(内部者情報)にアクセスしうる者(内部者)が、その情報の公表前に行う、当該会社の株券その他の証券等の売買等を行う取引のことである。特に株式公開買い付け(Take Over Bid:TOB)に関連したインサイダー取引が増加している。
【0169】
TOB関連のインサイダー取引の摘発件数が増加している背景としては、TOBの件数自体が増加していること、TOBの対象企業の株式には通常プレミアム分が上乗せされた価格で取引されるためTOBの公表前に当該株式を取得してTOB公表後に売却すれば確実に利得を得ることができること、が大きいと考えられることである。さらに、TOBの実務には買付企業、対象企業の役職員に加え、弁護士、公認会計士、税理士、フィナンシャル・アドバイザー(FA;通常証券会社、投資銀行が務めることが多い)、金融機関、デュー・ディリジェンス業者、印刷会社等多数の関係者が関与するため、TOBの公表前に非公開情報を知りうる関係者が多いこと、およびTOB取引のスキームの組成から公表までの期間が比較的長いことも、TOBに絡むインサイダー取引のリスクを高める要因となっていると思われる。
【0170】
インサイダー取引に限らず、企業や組織に対する内部統制における資産の保全を図るためには、経理、財務部門や、上述のインサイダー取引の関係者の行動をモニタしておき、不正の兆候があればそれを検知してしかるべき部門に通知することが有効である。
【0171】
図27は、個人が関与する作業ID(業務)を時系列にまとめてマトリクスとして整形したデータの例を示す図である。本発明に係る原価計算システムを用いることにより、各人員2701が、いつ(開始時間2702および終了時間2703)、誰と対面したか(2704)、どこの場所にいたか(2705)、どのシステム画面にログインしていたか(2706)、どの作業ID(業務)に従事していたか(2707)を、継続的にモニタしておくことができる。
【0172】
図27に示すマトリクスは、本原価計算システムにおいて出力できる中間ログの一つの表現型である。このように個人が関与する作業ID(業務)の時系列表現を有しておき、各人の行動を解析することにより、本原価計算システムを不正検知に役立てることができる。プライバシーの問題もあるが、特に重要なTOB案件では影響額も大きいため、個々人の自己規律や倫理観だけに依拠するのではなく、センサ技術を活用した防止手段が有効である。また、プライバシーに配慮し、作業ID2707のみを表示するのみであっても、一定の防止効果があると考えられる。
【0173】
<実施の形態5>
本発明は位置情報や加速度情報のみならず、人と人の対面情報を加えて分析している。本発明の実施形態5では、このように人と人の対面情報を加えることにより、位置情報や加速度情報を取得するのみでは実現できない利点があることの一例として、節税目的に本発明を適用する例を説明する。
【0174】
消費税には、税金がかかる課税売上と、政策上の配慮等から税金がかからない非課税売上がある。このため、企業が受け取った消費税は「課税売上において受け取った消費税」しか存在しない一方で、企業が支払った消費税は、(1)課税売上を得るために支払った消費税、(2)非課税売上を得るために支払った消費税、(3)課税/非課税どちらにも関係するものに支払った消費税、の三者が混在している。
【0175】
企業は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて、その差額を消費税として納付したりまたは、還付を受けたりしているが、理屈上、「課税売上において受け取った消費税」から差し引けるのは、((1)+(3)×課税売上割合)のはずである。ただし、課税売上割合とは、課税売上/(課税売上+非課税売上)のことである。この理屈に忠実な計算方式は個別対応方式と呼ばれる。
【0176】
しかし、支払った消費税を(1)〜(3)に分類するのは事務処理上面倒である点に配慮して、一般に税金が高くなるものの、分類しなくても計算できるように、(((1)+(2)+(3))×課税売上割合)を差し引く方法も認められている。この簡便な計算方法は一括比例配分方式と呼ばれる。平成24年4月1日以後は、課税売上高が5億円を超える会社では、個別対応方式または一括比例配分方式での計算が必須となった。
【0177】
大半の会社は銀行に預金しているが、預金利息の受け取りは“消費”という性格になじまないため、非課税売上に該当する。このため預金を管理する経理部や会社全体としての業務を行う総務部は、非課税売上への関与はゼロでないと考えられ、このような部門が支出した光熱費や器具備品の購入費用等は、(3)に区分されるようである。少しでも節税するためには(3)をさらに(1)と(2)に分類すべく、通常の部門別損益計算のように経理部や総務部をそれぞれ1つの部門と扱うのではなく、さらにそれらの内部を課税部門と非課税部門に分けることが必要となる。仮に一人の担当者が課税と非課税の両方の業務を行っているのであれば、作業日報を作成するなどの対応が必要となる。
【0178】
このような事務処理の手間の多さや、仮に作業日報の管理が不十分で税務調査の際に否認されるリスクを考えたら、無難に一括比例配分方式を採用する会社もあるらしい。個別対応方式と一括比例方式で納税額に差異が生じることは理解できるが、その差異はどれほどの金額になるだろうか。この金額の差異が少なければ、事務処理の手間や税務調査のリスクから、一括比例配分方式を採る企業が多くなるだろう。そこで、消費税率 = 5%、課税売上割合=98%、(1)/課税売上(いわば課税売上における原価率)=75%、(2)/非課税売上(いわば非課税売上における原価率)=25%、(3)/(1)=10%(課税/非課税どちらにも関係するものの仕入額は、課税売上を得るための仕入額の10分の1)と仮定して、個別対応方式が一括比例配分方式と比較してどれだけ差異があるかを計算した。
【0179】
売上高の規模ごとに個別対応方式を採用した場合と一括比例配分方式を採用した場合での消費税額の差異を計算した結果、売上高が5億円程度の規模では25万円/年の差額しかないが、売上高が100億円の規模では500万円/年、売上高が1,000億円の規模では5,000万円/年の差額が生じるという結果となった。将来消費税率が2倍3倍になれば、この差額も2倍3倍になる。本計算では、個別対応方式を採れるのに、事務処理の手間や税務調査のリスクを懸念して企業全体が一括比例配分方式を採るという極端な前提を置いた最大影響値を計算しているので、実際の影響額の見積もりの際には企業ごと個別の精査が必要である。
【0180】
本発明は、位置、時間、加速度情報のみならず対面情報を扱うことにより原価計算を行う。従前のように位置だけ、加速度情報だけを用いた原価計算手法だけでは同一部門内の業務の類似性が高いと考えられる、財務部や総務部の内部をさらに、課税部門と非課税部門に分けること、一人の担当者の業務を課税と非課税に分けることは難しいと考えられる。一方、本発明にように対面相手の業務情報とリンクして原価計算して初めて、同一部門内の業務の類似性が高い部門での業務を精度良く、課税と非課税に分けることができる。
【0181】
本発明を原価計算目的で利用する場合、原価を正確に把握して業務改善活動に活かし、その結果として企業外へのキャッシュアウトを低減させるという効果が期待できるが、企業のキャッシュフローに与える効果としては間接的である。その一方、本発明を節税目的で利用する場合、税金の支払いは現実のキャッシュフローであるため、企業のキャッシュフローに与える効果としては直接的効果となる。
【0182】
国によりまた時代により税の制度は異なってくるが、財務部や総務部などの間接部門、サービス業における顧客サービスのように、業務の内容が外観上は個人差が少なく、業務を行う場所やアクセスするシステムの種類だけでは、当該業務が課税なのか非課税なのかを精度よく判別することが難しい部門や用途においては、位置、時間、加速度情報のみならず対面情報をも扱う本発明は、他の発明と比較して優位性を持っている。
【0183】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0184】
上記各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部や全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【符号の説明】
【0185】
101 データ取得源(センサシステムおよびERPシステム)
102 一次データ
103 加工データ(マトリクス)
104 加工データ(ネットワーク)
105 従事作業IDデータ(実質データ)
106 原価計算ファンクション
107 計算対象期間における個人もしくは組織ごとのコスト金額
108 センサ加速度情報
109 従事作業IDデータ(規定データ)
201 名札型センサ
202 RFID
203 赤外線センサ
204 加速度センサ
205 センサ(音、加速度、温度、赤外線センサを搭載した例)
206 無線送受信部
207 インターネット網
208 システム端末
209 プリンタ/FAX
210 アプリケーションサーバ
211 関連会社システム
212 データバックアップ
213 データ管理サーバ
214 表示装置
215 入力装置
216 通信装置
217 CPU
218 メモリ
219 対面滞在データ
220 アクセスログデータ
222 加速度データ
223 原価データ
224 ハードディスク
225 計算プログラム
226 データ読み込みプログラム
227 マトリクス計算プログラム
228 ネットワーク解析プログラム
229 加速度情報解析プログラム
230 コスト配賦計算プログラム
231 コスト計算結果出力プログラム
232 マスタデータ
301 人員コード列
302 部署コード列
303 職制コード列
304 その他のコード列
305 作業ID(規定値)列
306 作業ID(実質)列
307 従事割合列
310 人員テーブル(規定値)
401 部署コード列
402 企業名列
403 事業所名列
404 部署名列
405 その他の列
406 部署関連作業ID列
410 部署テーブル
501 職位コード列
502 職位名列
503 その他の列
504 職位階層列
510 職制テーブル
601 作業ID列
602 作業ID名列
603 作業ID関連事業所名列
604 その他の列
605 作業ID関連製品名列
610 作業IDテーブル
701 場所コード列
702 場所名列
703 事業所名列
704 その他の列
705 場所関連部署コード列
710 場所テーブル
801 画面コード列
802 システム画面名列
803 システム名列
804 その他の列
805 関連作業ID列
810 システム画面テーブル
901 人員1
902 人員2
903 人員3
904 人員100
905 人員1(対面者)
906 人員2(対面者)
907 人員3(対面者)
908 人員100(対面者)
920 人員対面時間マトリクス
1001 人員1
1002 人員2
1003 人員3
1004 人員100
1005 場所1(滞在先)
1006 場所2(滞在先)
1007 場所3(滞在先)
1008 場所100(滞在先)
1020 場所滞在時間マトリクス
1101 人員1
1102 人員2
1103 人員3
1104 人員100
1105 システム画面1(滞在先)
1106 システム画面2(滞在先)
1107 システム画面3(滞在先)
1108 システム画面100(滞在先)
1120 システム画面滞在時間マトリクス
1210 人員対面のネットワーク
1510 人員対面・場所滞在のネットワーク
1710 人員対面・場所/システム滞在のネットワーク
1901 行政統計(市民課と総務課の費用抜粋)
1902 行政統計(住民票等の年間発行件数)
1903 共通部門(総務課)の支援割合
2003 共通部門(総務課)の支援割合
2004 窓口業務フロー分析
2005 窓口業務割合算定
2006 窓口業務1件あたりコスト計算
2103 共通部門(総務課)の支援割合
2104 窓口業務フロー分析
2105 窓口業務割合算定
2106 窓口業務1件あたりコスト計算
2201 時間の使い方(棒グラフ表示)
2202 時間の使い方(円グラフ表示)
2210 個人の時間の使い方の例
2301 対面コミュニケーション状況(棒グラフ表現)
2302 階層ネットワークの例
2401 センサデータ
2402 加速度データ
2403 赤外線データ
2404 音声データ
2405 集中リスト
2406 活性リスト
2407 積極リスト
2408 発言リスト
2501 時間軸
2502 アイドル状態
2503 集中状態
2504 活性状態
2505 音声状態
2506 積極状態
2701 人員列
2702 開始時間列
2703 終了時間列
2704 対面人員列
2705 滞在場所列
2706 滞在システム画面列
2707 作業ID(実質)列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者と作業対象が関与したことを検知する検知部からその旨を示す対面データを取得する対面データ取得部と、
作業者が実施する作業を識別する作業IDと、前記作業IDによって識別される作業の作業対象との間の対応関係を取得する対応関係取得部と、
前記対面データにより特定される前記作業対象と前記対応関係に基づき、前記作業者が実施した作業を特定する作業特定部と、
前記作業特定部が特定した作業毎に作業原価を配賦する計算を実施する原価計算部と、
を備えることを特徴とする原価計算装置。
【請求項2】
前記検知部は、
前記作業者が他の作業者と対面したことを対面センサによって検知してその検出結果を前記対面データとして出力し、
前記対面データ取得部は、
前記対面データに基づいて、前記作業者が対面した他の作業者を前記作業対象として特定し、
前記作業特定部は、
前記他の作業者が実施する作業に基づいて、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を推定し、
前記原価計算部は、その推定結果に基づき前記作業原価を各前記作業に配賦する
ことを特徴とする請求項1記載の原価計算装置。
【請求項3】
前記検知部は、
前記作業者が他の作業者と対面したことを対面センサによって検知し、さらに前記作業者が前記他の作業者と対面した場所を場所センサによって検知し、これら検出結果を前記対面データとして出力し、
前記対面データ取得部は、
前記対面データに基づいて、前記作業者が対面した他の作業者およびその対面場所を前記作業対象として特定し、
前記作業特定部は、
前記他の作業者が実施する作業および前記対面場所に基づいて、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を推定し、
前記原価計算部は、その推定結果に基づき前記作業原価を各前記作業に配賦する
ことを特徴とする請求項1記載の原価計算装置。
【請求項4】
前記検知部は、
前記作業者が他の作業者と対面したことを対面センサによって検知し、前記作業者が前記他の作業者と対面した場所を場所センサによって検知し、さらに前記作業者がコンピュータシステムにアクセスしたことおよびそのアクセス対象を前記コンピュータシステムのアクセスログによって検知し、これら検出結果を前記対面データとして出力し、
前記対面データ取得部は、
前記対面データに基づいて、前記作業者が対面した他の作業者、その対面場所、および前記アクセス対象を前記作業対象として特定し、
前記作業特定部は、
前記他の作業者が実施する作業、前記対面場所、および前記アクセス対象に基づいて、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を推定し、
前記原価計算部は、その推定結果に基づき前記作業原価を各前記作業に配賦する
ことを特徴とする請求項1記載の原価計算装置。
【請求項5】
前記作業特定部は、
前記対面センサが検知した前記対面データを所定期間内で時系列に合算することにより、前記作業者と前記他の作業者が対面した時間を前記他の作業者毎に記述した人員対面時間マトリクスを作成し、
前記人員対面時間マトリクスを用いて、前記所定期間内における前記作業者の総作業時間と、前記作業者と前記他の作業者が関与した時間との比を算出し、
前記比に基づいて、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を推定する
ことを特徴とする請求項2記載の原価計算装置。
【請求項6】
前記作業特定部は、
前記対面センサが検知した前記対面データを所定期間内で時系列に合算することにより、前記作業者と前記他の作業者が対面した時間を前記他の作業者毎に記述した人員対面時間マトリクスを作成し、
前記場所センサが検知した前記対面データを前記所定期間内で時系列に合算することにより、前記作業者が前記対面場所に滞在した時間を前記対面場所毎に記述した場所滞在時間マトリクスを作成し、
前記人員対面時間マトリクスを用いて、前記所定期間内における前記作業者の総作業時間と、前記作業者と前記他の作業者が関与した時間との比を、前記他の作業者毎に算出し、
前記場所滞在時間マトリクスを用いて、前記所定期間内において前記作業者が各前記対面場所に滞在した時間の合計と、前記作業者が各前記対面場所に滞在した時間との比を、前記対面場所毎に算出し、
各前記比に基づいて、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を推定する
ことを特徴とする請求項3記載の原価計算装置。
【請求項7】
前記作業特定部は、
前記対面センサが検知した前記対面データを所定期間内で時系列に合算することにより、前記作業者と前記他の作業者が対面した時間を前記他の作業者毎に記述した人員対面時間マトリクスを作成し、
前記場所センサが検知した前記対面データを前記所定期間内で時系列に合算することにより、前記作業者が前記対面場所に滞在した時間を前記対面場所毎に記述した場所滞在時間マトリクスを作成し、
前記アクセスログによって検知した前記対面データを前記所定期間内で時系列に合算することにより、前記作業者が前記コンピュータシステムにアクセスした時間を前記コンピュータシステム毎に記述したシステム滞在時間マトリクスを作成し、
前記人員対面時間マトリクスを用いて、前記所定期間内における前記作業者の総作業時間と、前記作業者と前記他の作業者が関与した時間との比を、前記他の作業者毎に算出し、
前記場所滞在時間マトリクスを用いて、前記所定期間内において前記作業者が各前記対面場所に滞在した時間の合計と、前記作業者が各前記対面場所に滞在した時間との比を、前記対面場所毎に算出し、
前記システム滞在時間マトリクスを用いて、前記所定期間内において前記作業者が各前記コンピュータシステムにアクセスした時間の合計と、前記作業者が各前記コンピュータシステムにアクセスした時間との比を、前記コンピュータシステム毎に算出し、
各前記比に基づいて、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を推定する
ことを特徴とする請求項4記載の原価計算装置。
【請求項8】
前記検知部は、
前記作業者の動作を加速度センサによって検出した結果を出力し、
前記原価計算装置は、
前記加速度センサの検出結果に基づき、前記作業者の活動を、
作業をしていないアイドル状態、集中して作業に取り組んでいる集中状態、活発に活動している活性状態、および音声を発している音声状態の少なくとも4種類に分類してその結果を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の原価計算装置。
【請求項9】
前記対面センサは、
前記他の作業者が実施することを予定している作業の作業ID、および前記他の作業者が実際に実施すると予測される作業の作業IDをあらかじめ保持しており、
前記作業特定部は、
前記対面センサが保持している各前記作業IDを取得し、これら作業IDを用いて、前記作業者が実施した作業を特定する
ことを特徴とする請求項2記載の原価計算装置。
【請求項10】
前記作業特定部は、
前記他の作業者が所属する部署または職位に基づき、前記他の作業者が実施する作業に対して前記作業者が関与した程度を重みづけする
ことを特徴とする請求項2記載の原価計算装置。
【請求項11】
前記作業特定部による特定結果を前記作業者毎に時系列に表示する表示部を備えた
ことを特徴とする請求項1記載の原価計算装置。
【請求項12】
前記作業特定部は、
前記作業者が実施した作業を特定した結果と、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業とが異なる割合を算出し、
前記割合が一様乱数よりも大きい場合は、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を前記特定の結果と置き換えた上で前記人員対面時間マトリクスを作成し、
前記割合が一様乱数以下である場合は、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を用いて前記人員対面時間マトリクスを作成する
ことを特徴とする請求項5記載の原価計算装置。
【請求項13】
前記作業特定部は、
前記作業者が実施した作業を特定した結果と、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業とが異なる割合を算出し、
前記割合が一様乱数よりも大きい場合は、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を前記特定の結果と置き換えた上で、前記人員対面時間マトリクスおよび前記場所滞在時間マトリクスを作成し、
前記割合が一様乱数以下である場合は、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を用いて、前記人員対面時間マトリクスおよび前記場所滞在時間マトリクスを作成する
ことを特徴とする請求項6記載の原価計算装置。
【請求項14】
前記作業特定部は、
前記作業者が実施した作業を特定した結果と、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業とが異なる割合を算出し、
前記割合が一様乱数よりも大きい場合は、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を前記特定の結果と置き換えた上で、前記人員対面時間マトリクス、前記場所滞在時間マトリクス、および前記システム滞在時間マトリクスを作成し、
前記割合が一様乱数以下である場合は、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を用いて、前記人員対面時間マトリクス、前記場所滞在時間マトリクス、および前記システム滞在時間マトリクスを作成する
ことを特徴とする請求項6記載の原価計算装置。
【請求項15】
前記作業特定部は、
前記割合が一様乱数よりも大きい場合は、前記人員対面時間マトリクスが有する項目のうち前記他の作業者に関する項目については、前記作業者にあらかじめ割り当てられた規定の作業を前記特定の結果と置き換えた後で作成する
ことを特徴とする請求項5記載の原価計算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2013−114503(P2013−114503A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260821(P2011−260821)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)