説明

原子フラックス測定装置

【課題】高周波プラズマ発生セルから放出されるHB(High brightness)放電プラズマフラックスに含まれる電気的に中性な励起原子、基底原子および励起分子を含む活性種量を、電流をもって直接的に検出し、該検出電流値に基づき活性種フラックス量を算定する、高精度でかつ製造コストの安価な原子フラックス測定装置を提供すること。
【解決手段】 直流電源により予め定めた負電位にバイアスされた原子プローブ電極の前方に配置した荷電粒子排除器により高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスに含まれる荷電粒子を排除して上記原子プローブ電極に活性種フラックスを導入し、該原子プローブ電極における上記活性種の電離に応じて上記第1電流検出器により検出される電流値に基づき演算手段によりHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスに含まれる原子フラックス量を算定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子フラックス測定装置、詳しくは、高周波電力を用いて気体分子、例えば、窒素N2とか酸素O2等を励起する高周波プラズマ発生セルから放出される高輝度放電プラズマ(HB放電プラズマ)に含まれる活性種フラックス量を測定する原子フラックス測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、本発明者等により開発された化学活性度変調マイグレーション・エンハンスメント・エピタキシー(AC−MEE(Activity Modulation-Migration Enhanced Epitaxy))方法を用いて、例えば、GaN膜を生成するにあたり、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシィー)成膜装置の成膜室内に配置された高周波窒素励起セル(RF窒素励起セルともいう)を、低輝度LB(low brightness)放電と高輝度HB(High brightness)放電との2つの放電モードにて交互に切換えることにより活性度を変調し、Ga分子線セルからターゲット位置に固定された基板に一定期間Ga分子フラックスを照射(供給)するとともにLB放電モードとしたRF窒素励起セルから上記基板に励起窒素分子フラックスを照射して基板表面でのGa分子の分散移動を促進し、次いで、HB放電モードに切換えたRF窒素励起セルから、一定期間、基板表面に分散されたGa分子に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子を含む窒素活性種を供給することにより所定量のGaNを生成する成膜サイクルを繰り返して所定厚さのGaN膜を生成することが知られている(特許願2006−252887号)。
【0003】
上記RF窒素励起セルから放出される放電プラズマフラックス量を測定するには、例えば、図6に示すような、原理的に、荷電粒子電流、すなわち、イオンおよび電子電流に変換して測定する、いわゆる、ラングミュアープローブを用いて電気的に測定することが考えられる。しかしながら、HB放電モードでRF窒素励起セルから放出される窒素活性種フラックスは電気的に中性であることから、上記ラングミュアープローブ電極により検出される電流は、窒素活性種フラックス量に正しく対応するかどうかが不明確であり、したがって、このフラックス量測定方式は即座に採用し難く、窒素活性種フラックス量の電気的計測装置は、未だ実用化されていない。
【0004】
そこで、本発明の発明者等は、図7に示すように、発光スペクトル計測器を用いて得た放電スペクトル波形図(スペクトログラム)の面積計測、すなわち、数値積分に基づいてRF窒素励起セルから放出される活性種フラッス流量の算定を行った。
【0005】
しかしながら、上述した放電スペクトログラムに基づく活性種フラックス量の測定精度は、原理的に、励起粒子の発光量を介して間接的に計測するものであり、しかもその算定(数値計算)にかなりの時間を要するため、成膜時の成長量を原子レベルで制御するための成膜サイクルにおける原子フラックス量データ、例えば、窒素励起セルのRF給電制御データとして実用するには不十分なものであった。
【0006】
そこで、本発明者等は、図8に示す実験装置を用いて、解離窒素フラックス量測定に関する予備実験を行った。密閉真空室内に配置したRF窒素励起セル8の励起コイルに図示しない高周波電源から出力電力300Wをもって給電することによりLB放電モードで作動させる一方、上記励起コイルに出力電力500Wをもって給電することによりHB放電モードで作動させた。上記RF窒素励起セル8の出口周辺部に互いに対向する一対の電極から成る荷電粒子排除器9が取り付けられ、荷電粒子排除器9の出口に近い前方位置にシャッター10が配置された。さらに、シャッター10の前方に、シャッター開放時、RF窒素励起セルから荷電粒子排除電極対間の空間部を通過してきた窒素フラックスに直接曝され、シャッター閉鎖時、閉じたシャッター周辺部から漏出した窒素フラックスとか真空室内壁面で反射された窒素フラックスに曝されるように、2種類の白金Ptおよび銅ベリリュームCuBe製の第1Ptプローブ電極12および第1CuBeプローブ電極13が配置される一方、RF窒素励起セル8からの窒素フラックス放出軌道から離隔した位置に、第2Ptプローブ電極14および第2CuBeプローブ電極15が配置された。
【0007】
上記荷電粒子排除器9の一対の電極間の中間電極端子は接地されてゼロ(0)電位に保持される一方、一対の対向電極に、それぞれ、可変電圧電源から正および負の種々の直流電圧が印加された。一対の対向電極にそれぞれ正および負の電圧が印加されると、該両対向電極間の空間部に印加電圧に応じた電界が生起し、上記空間部を通過する放電プラズマに含まれる荷電粒子、例えば、RF窒素励起セルから放出される窒素イオンおよび電子は、それぞれ、該空間部に生起した電界により負電位の電極および正電位の電極に向けて偏向または吸引され、上記電界の強さに応じて荷電粒子が排除される。
【0008】
2つの第1Ptプローブ電極12および第1CuBeプローブ電極13ならびに2つの第2Ptプローブ電極14および第2CuBeプローブ電極15に、それぞれ、直流電源からバイアス電圧が印加され、これら4つのプローブ電極は、共に、−108Vの負電位にバイアスされた。また、4つのプローブ電極と直流電源の基準電位(ゼロ電位)端子との間に、米国ケースレー(Keithley)社製6487型ピコアンメータ(Picoammeter)を用いた電流検出器11が接続された。
【0009】
上記RF窒素励起セル8をHB放電モードに設定し、該RF窒素励起セル8から、図5(A)に示されるような放電スペクトル特性を示すHB放電プラズマを放出させ、荷電粒子排除器9の一対の対向電極間に印加する電圧を変化させながら、シャッター10を開放した場合と閉鎖した場合、電流検出器11によりそれぞれ第1Ptプローブ電極12および第1CuBeプローブ電極13を介して流れる電流を観測したところ、図9(A)および(B)、図10(A)および(B)に示される結果を得た。
【0010】
図9(A)および(B)に示される検出原子電流−荷電粒子排除電位差(電圧)特性グラフから分かるように、荷電粒子排除電位差(電圧)Veが約500V以上とされると、シャッター10の開放時と閉鎖時とでは、検出電流値が、それぞれ、約200nAと約2nAで電流の大きさに顕著な差異があったものの、シャッター10の開または閉状態に関係なく、共に、荷電粒子排除電圧Veが増大しても検出電流値は一定であった。
【0011】
また、図10に示されるように、シャッター10を開放し、図9の原子電流検出と同様にして、RF窒素励起セル8からHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを放出した際、第1Ptプローブ電極12と第1CuBeプローブ電極13により、検出された検出原子電流−荷電粒子排除電位差Ve特性グラフが得られた。図10の特性グラフから分るように、荷電粒子排除電位差(電圧)Veが約300V以上に増大されても、2種類の第1Ptプローブ電極12と第1CuBeプローブ電極13とによる検出原子電流値は、共に、略同等の約100nAと一定であり、両検出原子電流値には顕著な差異が見られず、実質的に同等であった。このことから、本発明の発明者等は、原子プローブ電極の材質、特に、金属材料の仕事関数φの差異が原子電流検出特性に影響しないと推論するに至った。
【0012】
さらに、上記予備実験結果から、本発明者等は、使用する荷電粒子排除器9に対し予備実験により該電粒子排除器9の一対の対向電極間に印加する電圧、すなわち、荷電粒子排除電位差(電圧)Veを予め定めることにより、RF窒素励起セル8から放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスに含まれる窒素イオンおよび電子の荷電粒子を完全に排除し、中性の励起窒素原子、基底窒素原子、励起窒素分子のみを、所定の負電位にバイアスされた第1Pt原子プローブ電極12および第1CuBeプローブ電極13に導入または付着させると、これらの第1Pt原子プローブ電極12および第1CuBeプローブ電極13において窒素活性種の電離が生じ、この窒素活性種の電離による電子放出量に応じた電流が電流検出器11により検出されたものと推論するに至った。
【0013】
一方、上記RF窒素励起セル8をLB放電モードに設定し、該RF窒素励起セル8から、図7(B)に示されるようなスペクトル特性を示すLB放電プラズマを放出させ、励起窒素分子を上記4つの原子プローブ電極12、13、14および15に導入または付与した場合、仕事関数φが比較的大きいPt原子プローブ電極12、14および比較的小さいCuBe原子プローブ電極13、15のいずれも、電流検出器11により電流が検出されなかった。このことから、本発明の発明者等は、LB放電プラズマに含まれる窒素励起分子によっては、原子プローブ電極の材質に関係なく、HB放電プラズマに含まれるような窒素活性種の電離現象、いわゆる、自己電離現象は生起しないと推論するに至った。
【0014】
以上のように、上記予備実験装置による実験結果から得た推論又は知見を基に、本発明の発明者等は、さらに鋭意研究した結果、高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる荷電粒子を全て排除し、励起原子、基底原子および励起分子を含む、いわゆる、活性種フラックスを、負の電位にバイアスした原子プローブ電極に導入または付与して該原子プローブ電極において活性種の自己電離を生起させるようにすれば、電流検出器により原子フラックス量に応じた電流計測が可能であると推論し、本発明を完成するに至った。
【非特許文献1】Using beam flux monitor as Langmuir probe for plasma-ass isted molecular beam epitaxy J.vac.Sci.Technol. A23(3) May/Jun (2005)1-5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高周波プラズマ発生セルから放出される電気的に中性の励起原子、基底原子および励起分子を含む活性種フラックス量に応じた電流を直接的に検出し、該検出電流値に基づき活性種フラックス量を算定する、高精度でかつ比較的安価な金属材料製プローブ電極を用いて製造できる製造コストの安価な原子フラックス測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に記載の原子フラックス測定装置は、高周波プラズマ発生セルから放出される高輝度HB(High brightness)放電プラズマに含まれる活性種フラックスが導入される原子プローブ電極と、上記原子プローブ電極から上記高周波プラズマ発生セルに向かう前方位置に配置された荷電粒子排除手段と、上記原子プローブ電極に負の直流バイアス電圧を印加する直流電源と、上記原子プローブ電極と上記直流電源の基準電位(ゼロ電位)端子間に接続した第1電流検出器と、上記荷電粒子排除手段により上記高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子を排除して励起原子、基底原子および励起分子を含む活性種が上記直流電源により予め定めた負電位にバイアスされた原子プローブ電極に導入された際、該原子プローブ電極における上記活性種の電離により放出される電子数量に応じて上記第1電流検出器により検出される電流値に基づき上記HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を算定する演算手段とにより構成したことを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項2に記載の原子フラックス測定装置は、荷電粒子排除手段が互いに対向しかつ同一平面上で起立する少なくとも一対の電極体を含み、各対の電極体間に生起した電界により、高周波プラズマ発生器から放出されるHB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子を各対の電極体側に偏向させて該HB放電プラズマに含まれる活性種フラックスから排除するように構成したことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項3に記載の原子フラックス測定装置は、各対の電極体が高周波プラズマ発生セルの出口部の放射軸に沿った投影領域を包囲するように配置され、上記高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが各対の電極体により包囲される空間部を流通するように構成したことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項4に記載の原子フラックス測定装置は、各対の対向電極間に高周波パルス電圧を印加して各対の電極体間の空間部に高周波電界を生起するように構成したことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項5に記載の原子フラックス測定装置は、上端を閉鎖した遮蔽金属筒体であって、その内部に原子プローブ電極を収容し、該遮蔽金属筒体の閉鎖上端面に高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが流入する開口を形成するとともに該開口の周縁部に絶縁体スペーサを介して上記荷電粒子排除手段の各対の対向電極を装着し、直流電源により上記原子プローブ電極を予め定めた負電位にバイアスするとともに上記荷電粒子排除器の各対の対向電極をそれぞれ予め定めた正電位および負電位にバイアスする一方、上記遮蔽金属筒体をゼロ電位に保持するように構成したことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項6に記載の原子フラックス測定装置は、上端を閉鎖した遮蔽金属筒体であって、その内部に荷電粒子排除手段および原子プローブ電極を収容し、上記遮蔽金属筒体の閉鎖した上端面に高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが流入する開口を形成する一方、上記遮蔽金属筒体の内部に絶縁体スペーサを介して上記荷電粒子排除手段の各対の対向電極および上記原子プローブ電極を装着し、直流電源により上記原子プローブ電極を予め定めた負電位にバイアスするとともに上記荷電粒子排除器の各対の対向電極をそれぞれ予め定めた正および負電位にバイアスする一方、上記遮蔽金属筒体をゼロ電位に保持するように構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項7に記載の原子フラックス測定装置は、原子プローブ電極が金属板状電極体と該金属板状電極体の裏面側に接続した金属ピンとにより形成され、固定盤に上記原子プローブ電極の金属ピンを着脱可能に装着し、該金属ピンを介して直流電源および第1電流検出器と電気接続可能に構成したことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項8に記載の原子フラックス測定装置は、荷電粒子排除手段が各対の対向電極体間に生起した電界と交差する磁界発生器を含み、前記電界と交差磁界とにより、高周波プラズマ発生器から放出されるHB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子を各対の電極体側に偏向させて該HB放電プラズマの活性種フラックスから除去するように構成したことを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項9に記載の原子フラックス測定装置は、原子プローブ電極に電子増倍手段を介して第2電流検出器を接続し、上記電子増倍手段により上記原子プローブ電極においてHB放電プラズマに含まれる活性種の電離により放出される電子を所定割合で増倍して該増倍電子に応じた電流値を上記第2電流検出器により検出し、該電流値に基づき上記HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を算定するように構成したことを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項10に記載の原子フラックス測定装置は、高周波プラズマ発生セルが水素H2、窒素N2、酸素O2またはフッ素F2の気体分子励起セルであって、該気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを原子プローブ電極に付与して該HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を測定することを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項11に記載の原子フラックス測定装置は、高周波プラズマ発生セルがMBE(分子線エピタキシィー)成膜室内に配置された窒素、酸素またはフッ素の気体分子励起セルであって、該MBE成膜室内に配置された分子線セルから放出される分子線フラックスと上記気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスとをターゲット位置に固定された基板に照射して成膜する際、上記MBE成膜室の内部に少なくとも原子プローブ電極および荷電粒子排除手段を配置する一方、上記MBE成膜室の外部に少なくとも直流電源および第1電流検出器を配置し、上記気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを上記原子プローブ電極に流入させて該HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の請求項1に記載の原子フラックス測定装置によれば、高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが導入又は付与される原子プローブ電極から上記高周波プラズマ発生セル寄りの前方位置に荷電粒子排除手段を配置し、上記原子プローブ電極に、上記高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる荷電粒子のイオンおよび電子を全て排除して励起原子、基底原子および励起分子を含む活性種フラックスを付与し、該原子プローブ電極において活性種の保有する電気エネルギーを有効に利用して活性種を自己電離させることにより、活性種フラックス量を直接的に反映した原子電流を第1電流検出器により検出するようにしたから、原子プローブ電極の材質、特に、電子放出に関係するプローブ電極材料の仕事関数φに制約されることなく、簡単かつ製造コストの安価な原子プローブ電極機構を介して原子フラックス量を精確に計測することができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0028】
本発明の請求項2に記載の原子フラックス測定装置によれば、少なくとも一対の電極体を用いて荷電粒子排除手段を形成したから、各対の電極体間に印加する電圧を調整して各対の電極体間の空間部に形成される電界分布を調整することにより、HB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子の荷電粒子の排除率を高めて原子フラックス量の測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0029】
本発明の請求項3に記載の原子フラックス測定装置によれば、荷電粒子排除手段の各対の電極体は、高周波プラズマ発生セルの出口周縁部の放射軸に沿った投影領域を包囲するように配置したから、高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる全ての荷電粒子を確実に排除して原子フラックス量の測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0030】
本発明の請求項4に記載の原子フラックス測定装置によれば、荷電粒子排除手段の各対の電極間には高周波パルス電圧を印加して荷電粒子排除用電界を生起するようにしたから、当該原子フラックス測定装置の周辺機器に及ぼす雑音障害を回避しながらHB放電プラズマに含まれる荷電粒子のうち、特に、高速電子の排除効率を高め、原子フラックス量の測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0031】
本発明の請求項5に記載の原子フラックス測定装置によれば、高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる全ての荷電粒子を排除した残りの活性種フラックスのみを遮蔽金属筒体を介して原子プローブ電極に導入するようにしたから、原子フラックス量の測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0032】
本発明の請求項6に記載の原子フラックス測定装置によれば、高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを、遮蔽金属筒体を介して荷電粒子排除手段に導入するようにして該活性種フラックスに含まれる全ての荷電粒子を排除し、その残りの活性種フラックスのみを原子プローブ電極に導入するようにしたから、原子フラックス量の測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0033】
本発明の請求項7に記載の原子フラックス測定装置によれば、当該原子フラックス測定装置を設置したい場所に固定盤を配置すれば、該固定盤に原子プローブ電極の電極ピンを差し込んで固定する簡単な操作により当該原子フラックス測定装置を設置することができ、簡単な準備操作で原子フラックス量を測定できるという優れた作用効果を奏し得る。
【0034】
本発明の請求項8に記載の原子フラックス測定装置によれば、磁界発生器により、荷電粒子排除手段の各対の電極間の電界と交差する磁界を生起するようにしたから、荷電粒子のうち比較的高速の電子を確実に排除して原子フラックスの測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0035】
本発明の請求項9に記載の原子フラックス測定装置によれば、第1電流検出器による検出電流が予め定めた電流値を下回るとき、電子増倍手段により、原子プローブ電極において活性種の自己電離により生起した電子を増倍し、該増倍電子に応じた電流値を上記第2電流検出器により検出し、該電流値に基づき上記HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を算定するようにしたから、検出電流値の広範囲にわたって原子フラックス測定精度を有効に高めることができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0036】
本発明の請求項10に記載の原子フラックス測定装置によれば、MBE成膜装置において一般的に使用される高周波窒素、酸素又はフッ素励起セルから放出される窒素原子、酸素原子又はフッ素原子フラックスのみならず、高周波水素励起セルから放出される水素原子フラックス量を安価にかつ高精度をもって測定することができるという優れた作用効果を奏し得る。
【0037】
本発明の請求項11に記載の原子フラックス測定装置によれば、MBE成膜室内の気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを、該MBE成膜室内に配置された荷電粒子排除手段を介して原子プローブ電極に流入させ、MBE成膜室外に配置した電源および第1電流検出器、いわゆる、リモート原子電流検出回路により、MBE成膜室内の温度、気圧等の環境の影響を受けることなく原子電流を安定して精確に検出することにより、上記HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を、高精度をもって測定できるという優れた作用効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の最良の形態を、添付図面とともに詳細に説明する。
本発明の一実施例の原子フラックス測定装置1は、図1(a)、(b)および(c)並びに図2に示すように、原子プローブ機構本体部20と原子電流計測部40とから構成される。
【0039】
まず、一方の原子プローブ機構本体部20は、概略、遮蔽金属筒体17の内部に荷電粒子排除器21と原子プローブ電極31とを収容して形成される。遮蔽金属筒体17は、高周波プラズマ発生セル2に対応して予め定められた位置に配置した固定盤36に、ビス25、ナット37等の固定金具を介して着脱可能に固定される。
【0040】
上記遮蔽金属筒体17は、例えば、ステンレス板を用いて一端を閉鎖した円筒状に押出し成形加工したもので、閉鎖した端面に円形の貫通穴18が設けられる。貫通穴18の直径は、高周波プラズマ発生セル2のオリフィス3から放出される高輝度放電プラズマ(図7(A)に示されるようなHB(High brightness)放電プラズマ)に含まれる活性種フラックス5の先端部の外径より若干大きくされる。高周波プラズマ発生セル2として、例えば、アリオス株式会社製(日本国東京)IRFS−503RFプラズマ発生装置を適用することができる。なお、遮蔽金属筒体17は断面が円形の筒体に限らず、角形の筒体であってもよい。また、一端を閉鎖した筒体に限らず両端を開放した筒体であってもよい。両端開放の筒体とする場合、該筒体の口径は上記貫通穴の口径より若干大きくされる。
【0041】
上記荷電粒子排除器21は、互いに対向するように配置される一対の電極22、22により形成される。一対の対向電極22、22は、図1(a)および(b)に示されるように、それぞれ、金属半割円筒体により形成される。これらの対向電極22、22は、遮蔽金属筒体17の内部に、一対のアルミナ絶縁体スペーサ23、23を介して固定される。これらの両対向電極22、22により画定される空間部の断面が上記高周波プラズマ発生セル2からのHB放電プラズマに含まれる活性種フラックス5を流通可能な大きさとなるように設定される。
【0042】
上記一対の対向電極22、22は、電極詳細に後述するように、両対向電極のうち、一方の対向電極22が基準電位(ゼロ電位)に対し所定の負電位にバイアスされ、他方の対向電極22が該基準電位に対し所定の正電位にバイアスされる。このようにして、両対向電極22、22間の空間部にバイアス電圧に応じた電界が生起し、該空間部を流通する活性種フラックス5に含まれるイオン及び電子の荷電粒子を両電極22、22側に偏向又は吸着させて該活性種フラックス5から排除される。
【0043】
上記一対の対向電極22、22は、上述したように、断面形状が半割円形凸面を有するもの(図3(a))に限らず、コ字形のもの(図3(b))とか、半割円凹面を有するもの(図3(c))であってもよい。このような断面形状とすることにより、対向電極間の空間部に生起する電界分布を変えることにより荷電粒子の排除効率を変化させることができる。なお、荷電粒子排除器21は、一対の対向電極22、22に限らず、上記活性種フラックス5の外周を包囲するように配置した複数対の対向電極(図示しない)により形成するようにしてもよい。
【0044】
上記荷電粒子排除器21の各対の対向電極体22、22は、高周波プラズマ発生セル2のオリフィス3の放射軸に沿った投影領域、すなわち、該高周波プラズマ発生セル2から放出される活性種フラックス5の先端部の外周を若干の間隔をあけて包囲するように配置される。
【0045】
上記荷電粒子排除器21の下端部(下流側)に、金属円板を用いて形成した電界分離金属板27が上記アルミナ絶縁体スペーサ23、23を介して固定される。この電界分離金属板27の中央部に、遮蔽金属筒体17の上端の開口18と略同径の円形の貫通穴28が形成される。上記荷電粒子排除器21を通過したHB放電プラズマの活性種フラックス5に含まれる荷電粒子が排除された電気的に中性な活性種フラックスが貫通穴28から下流側に放出される。
【0046】
上記電界分離金属板27は、詳細に後述するように、基準電位(ゼロ電位)に設定、いわゆる、接地され、上記荷電粒子排除器21の対向電極間に形成される電界を遮蔽して下流側に影響を及ぼさないようにされる。なお、上記電界分離金属板27は、図4に示すように、中央部に貫通穴28を設けたもの(図4(A))に限らず、該貫通穴28に金属網(メッシュ)を取り付けたもの(図4(B))であってもよい。(図4(B))に示すように、金属メッシュ29を付設することにより荷電粒子排除器21の荷電粒子排除用電界の遮蔽効果をより高めることができる。
【0047】
上記遮蔽金属筒体17の内部で電界分離金属板27の下方に、ビス25により固定された一対のアルミナ絶縁体スペーサ24、24と、円筒状のアルミナ絶縁体スペーサ34とにより原子プローブ電極31が固定される。原子プローブ電極31は、金属円板体を用いて形成した電極本体部32と、該電極本体32の裏面側に接続された電極ピン部33とを有する。原子プローブ電極31は、一般的に、電流プローブ用として比較的仕事関数φの大きい白金Ptとか、比較的仕事関数φの小さいベリリューム銅CuBe等を用いて形成される。原子プローブ電極31は電流プローブ用の金属材料から形成される。
【0048】
上記原子プローブ電極31の電極本体部32は、金属板体を用いて形成したものに限らず、図5に示すように、電極本体部32の表面形状を複数の同心円稜線を有する波紋状(図5(A))に、円錐状(図5(B))に又はすり鉢状(図5(C))に形成し、上記荷電粒子排除器21および電界分離金属板27を介して導入される活性種フラックス5の照射面積を拡張することにより、詳細に後述する原子電流計測部40の第1電流検出器51による原子電流の検出感度を有効に高めることができる。
【0049】
上記構成の原子プローブ機構本体部20の一対のアルミナ絶縁体スペーサ24、24は、高周波プラズマ発生セル2のオリフィス3に見合わせて配置された固定盤36に、ビス26を介して締結されるとともに、原子プローブ電極31の電極ピン部33がナット37を介して締結される。固定盤35は、当該原子フラックス測定装置1を取り付けたい箇所(複数箇所であってもよい)に配置される。
【0050】
上記原子プローブ機構本体部20は、遮蔽金属筒体17の内部に、荷電粒子排除器21と電界分離金属板27を介して原子プローブ電極31とを装着して構成されたが、これに代えて、遮蔽金属筒体17の上端の開口18の周縁部に、上記開口18と略同等の貫通穴を設けたアルミナ絶縁板(図示しない)を配置するとともに該アルミナ絶縁板の上に荷電粒子排除器21を配置する一方、上記遮蔽金属筒体17の内部に、上述したと同様にしてアルミナ絶縁体スペーサを介して原子プローブ電極31を装着して構成したものであってもよい。この構成により、遮蔽金属筒体17の内部に、荷電粒子排除器21と原子プローブ電極31との両者を装着したものと同様、遮蔽金属筒体17により荷電粒子排除器21を介してHB放電プラズマからイオン及び電子の荷電粒子を排除された活性種フラックスが原子プローブ電極31の電極本体部32に確実に導入され、高精度の原子電流測定を行うことができる。
【0051】
また、上記荷電粒子排除器21の上部に、例えば、上記アルミナ絶縁板(図示しない)と同様の電気絶縁板を介して、該荷電粒子排除器21の各対の対向電極体22、22間の空間部に形成される電界と交差、好ましくは、直交する磁界を発生する磁界発生器(図示しない)を配置するようにしてもよい。この構成により、各対の対向電極体間の空間部に形成された電界に加えて、該電界と交差する磁界により、荷電粒子のうち比較的高速の電子を確実に排除して原子フラックスの測定精度を有効に高めることができる。
【0052】
図2に示す原子プローブ機構本体部20は、高周波プラズマ発生セル2の活性種フラックス軸(放射軸)と同軸状に配置されたが、これに限らず、高周波プラズマ発生セル2の放射軌道から外れた領域に原子プローブ機構本体部20、したがって、原子プローブ電極31を配置することもできる。この場合、詳細に後述するフラックス量演算部54による電流値−原子フラックス量の換算率を調整して原子フラックス量が算定される。
【0053】
さて、他方の原子電流計測部40は、概略、直流電源46から荷電粒子排除器21に荷電粒子排除電圧を印加する電気回路と、原子プローブ電極31を負電位にバイアスする電気回路と、該原子プローブ電極31における活性種の自己電離により生起した原子電流を第1電流検出器51により検出する電流検出回路と、該電流検出回路の検出電流データに基づき原子フラックス量を算定するフラックス量演算部54とにより構成される。
【0054】
荷電粒子排除電圧印加回路は、遮蔽金属筒体17の外周部に装着された第1端子盤43の端子が荷電粒子排除器21の一方の対向電極22と電気接続するとともに、該第1端子盤43の端子に、直流電源46の第1荷電粒子排除電源部47の正極端子と電気接続して形成される。荷電粒子排除器21の一方の対向電極22が正(+)の荷電粒子排除電位に設定される。これと同様にして、遮蔽金属筒体17の外周部に装着された第2端子盤43の負端子が荷電粒子排除器21の他方の対向電極22と電気接続されるとともに、該第2端子盤43の負端子に、直流電源46の第2荷電粒子排除電源部48の負極端子と電気接続され、上記荷電粒子排除器21の他方の対向電極22が負(−)の荷電粒子排除電位に設定される。さらに、上記第2端子盤44のゼロ端子が上記電界分離金属板27と電気接続されるとともに、該ゼロ端子が接地されて基準電位(ゼロ電位)とされる。この構成により、荷電粒子排除器21の一対の対向電極22、22間の空間部に、正の荷電粒子排除電位と負の荷電粒子排除電位間の荷電粒子排除電圧Veに応じた電界が形成される。
【0055】
なお、荷電粒子排除器21の各対の対向電極体22には、上記直流電源46に、図示しない高周波パルス変調回路を設け、該高周波パルス変調回路から各対の対向電極体22、22間に高周波パルス電圧を印加し、これにより各対の対向電極体間の空間部に高周波パルス状の電界を生起させるようにしてもよい。この構成により、高周波プラズマ発生セル2から放出されたHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが各対の対向電極体間の空間部を流通する際、該活性種フラックスに含まれる荷電粒子のうち、特に、高速の電子を確実に排除することができる。
【0056】
上記原子プローブ機構本体部20の荷電粒子排除器21に対する荷電粒子排除電圧Veは、前述した本発明者等の予備実験(図9及び図10)におけると同様にして定められる。すなわち、荷電粒子排除電位差(電圧)Veは、直流電源46の第1荷電粒子排除電源部47および第2荷電粒子排除電源部48から荷電粒子排除器21の一対の対向電極体22、22にそれぞれ印加する直流電圧を変化させながら該荷電粒子排除器21と組み合わされた原子プローブ電極31および第1電流検出器51を介して検出される検出電流が一定となったときの対向電極22、22に印加された電位差(電圧)に相当する電圧以上の適当な電圧とされる。
【0057】
なお、荷電粒子排除器21の各対の対向電極体22には、上記直流電源46に、図示しない高周波パルス変調回路を設け、該高周波パルス変調回路から各対の対向電極体22、22間に高周波パルス電圧を印加し、これにより各対の対向電極体間の空間部に高周波パルス状の電界を生起させるようにしてもよい。この構成により、高周波プラズマ発生セル2から放出されたHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが各対の対向電極体間の空間部を流通する際、該活性種フラックスに含まれる荷電粒子のうち、特に、高速の電子を確実に排除することができる。
【0058】
次に、上記原子プローブ電極31の負電位バイアス回路は、当該原子プローブ電極31の電極ピン部33に取り外し可能に装着されたプラグ42を介して第1電流検出器51および直流バイアス電源部49と接続される。直流バイアス電源部49の正(プラス)端子は接地されてゼロ電位とされる一方、該直流バイアス電源部49の負(マイナス)端子は、上記第1電流検出器51と接続され、該第1電流検出器51の入力端子(分流検出端子)と接続された原子プローブ電極31は直流バイアス電源部49の出力電圧に相当した負電位にバイアスされる。このように、第1電流検出器51に直流バイアス電源部49を内蔵した、いわゆる、自己バイアス形第1電流検出器52を用いることができる。
【0059】
上記第1電流検出器51の検出電流出力端子に、A/D変換器54を介してフラックス量演算部54が接続される。フラックス量演算部54は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)を用いて構成され、該コンピュータPCのメモリ領域のROMに予め格納された原子電流値−原子フラックス量換算プログラムにしたがって、第1電流検出器51により検出された原子電流に基づいて、高周波プラズマ発生セル2から放出される活性種フラックスに含まれる励起原子、基底(レベル)原子及び励起分子量に対応する活性種フラックス量が算定される。
【0060】
上記原子電流値−原子フラックス量換算プログラムは、例えば、図11に示されるように、MBE成膜装置において固体金属Ga分子線セル(Kセル)から放出される Ga分子フラックスと、高周波窒素励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる励起窒素原子、基底(レベル)窒素原子及び励起窒素分子から成る窒素活性種フラックスとを、ターゲット位置に固定されたテンプレート基板に照射することにより該基板上にh−GaN膜を生成した際の検出原子電流または原子プローブ電流に対するh−GaN膜の成長速度をプロットして作成されるグラフに示される原子プローブ電流−GaN膜成長速度相関関係曲線に従って作成されたプログラムである。なお、このプラグラムは、コンピュータPCのメモリ領域に上記原子プローブ電流−GaN膜成長速度相関関係を示すテーブルを作成し、該テーブルを用いて検出原子電流値に対するGaN膜成長速度から窒素原子量(窒素原子流量)を算定することもできる。
【0061】
上記フラックス量演算部54の出力は、当該コンピュータPCのメモリ領域に格納された放電制御プログラムにより、高周波プラズマ発生セル2のHB放電プラズマに含まれる活性種フラックス量が予め定められた目標値の基準入力要素に対するフィードバック制御要素として当該コンピュータPCに入力され、上記基準入力要素と上記制御要素(原子電流検出値)の偏差に相当する制御動作信号としてRF(高周波)電源57に入力され、マッチングボックス、すなわち、高周波整合回路58を介して高周波プラズマ発生セル2の高周波励磁コイル4に高周波電力が供給される。上記原子第1電流検出器51、A/D変換器54、フラックス量演算部54を含むコンピュータPC、RF電源57、マッチングボックス58及び高周波プラズマ発生セル2の高周波励磁コイル4は、該高周波プラズマ発生セル2を制御対象とするフィードバック制御回路を形成する。
【0062】
上記高周波プラズマ発生セル2から放出される活性種フラックス量のフィードバック制御回路においては、高周波プラズマ発生セル2から放出される活性種フラックス量が本発明の原子フラックス測定装置により原子電流として電気的に検出するとともに該検出原子電流値をコンピュータの演算処理部で迅速に原子フラックス量として変換又は換算するようにしたから、高周波プラズマ発生セル2から放出される活性種フラックス量を完全自動制御することができる。
【0063】
上記負電位にバイアスした原子プローブ電極31と第1電流検出器51とで形成される原子電流検出回路による検出電流値が予め定められた基準値を下回ったときは、図12に示すように、原子プローブ電極31に導入または付与された活性種の自己電離により放出される電子に応じて2次電子増倍する電子増倍手段58を用いた原子電流検出回路により検出した電流値に基づき原子フラックス量を算定するようにしてもよい。
図12において、原子プローブ電極31の電極本体部32として、高周波プラズマ発生セル2から放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスの入射軸に対し、例えば、略45°傾斜した平板部を形成した電極体(図示しない)を用い、該電極体に高周波プラズマ発生セル2から活性種フラックスが照射された際、上記電極体から放出される電子を2次電子増倍する電子増倍手段58に入射し、所定の増倍率をもって増倍した電子流を第2電流検出器57により検出し、該第2電流検出器57による検出電流値に基づき、上記フラックス量演算部54により上記傾斜電極体に導入または付与された活性種のフラックス量が算定される。上記電子増倍手段58として、それ自体公知の2次電子増倍管(図示しない)とか、チャンネルトロン電子増倍器(図示しない)を適用することができる。この場合、第1電流検出器51による検出電流値が上記基準値を下回ったことが検出された際、電流検出回路切換えスイッチ59を介して直流電源60から電子増倍手段58へ給電して上記電流検出回路が起動される。
【0064】
上記構成の本発明の原子フラックス測定装置は、MBE成膜装置によるMBE窒素化合物半導体膜の製造時における高周波窒素励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスに含まれる窒素原子フラックス量を計測する場合の一例について説明したが、これに限らず、高周波プラズマ発生セル2内に、水素ガスH2とか、酸素ガスO2またはフッ素ガスF2を供給するとともに該高周波プラズマ発生セル2の外周に巻装された高周波励磁コイル4に高周波電力を供給し、該高周波プラズマ発生セル2の放電室に図7(A)に示すようなHB放電を生起させ、高周波プラズマ発生セル2のオリフィス3から放出されるHB放電プラズマのうち、水素イオン、酸素イオン又はフッ素イオンおよび電子を含む荷電粒子フラックスを除いた励起水素原子、励起酸素原子または励起フッ素原子および基底水素原子、基底酸素原子または基底フッ素原子および励起水素分子、励起酸素分子または励起フッ素分子を含む活性種フラックス量に応じた原子電流を第1電流検出器51または第2電流検出器57により検出し、該検出電流値に基づき原子フラックス量を測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施例の原子フラックス測定装置の原子プローブ機構本体部を示し、(a)は縦断面図、(b)はb−b線横断面図および(c)は底面図である。
【図2】上記原子フラックス測定装置の概略構成説明図である。
【図3】上記原子フラックス測定装置の荷電粒子排除器に適用できる対向電極体の変形例の横断面図である。
【図4】上記原子フラックス測定装置の原子プローブ機構本体部に適用できる電界分離金属板の変形例の斜視図である。
【図5】上記原子フラックス測定装置の原子プローブ機構本体部に適用できる原子プローブ電極の変形例の断面図である。
【図6】ラングミュアー電流プローブの概略図を示す。
【図7】高周波窒素励起セルから放出される放電プラズマの放電プラズマスペクトログラムであって、(A)はHB放電モード時、(B)はLB放電モード時のものである。
【図8】予備実験装置の概略図を示す。
【図9】原子電流―荷電粒子排除電圧特性グラフであって、(A)は、高周波窒素励起セルの出口部に配置したシャッターを開としたとき、(B)は該シャッターを閉としたときの特性グラフである。
【図10】高周波プラズマ発生セル2に対してPtプローブ電極とCuBeプローブ電極とを略同じ位置に配置して計測された原子電流―荷電粒子排除電圧特性グラフである。
【図11】MBE成膜装置を用いてGaN膜生成時の原子プローブ電流−h-GaN成長速度の相関関係の一例を示すグラフである。
【図12】原子電流測定回路の変形例の概略回路図である。
【符号の説明】
【0066】
1 本発明の原子フラックス測定装置
2 高周波プラズマ発生セル
3 オリフィス
9 荷電粒子排除器
10 シャッター
17 遮蔽金属筒体
18 開口(円形貫通穴)
20 原子プローブ機構本体部
21 荷電粒子排除器
22 対向電極体
27 電界分離金属板
31 原子プローブ電極
32 電極本体部
33 電極ピン部
36 固定盤
40 原子電流計測部
43 第1端子盤
44 第2端子盤
46 直流電源
47 第1荷電粒子排除電源部
48 第2荷電粒子排除電源部
49 直流バイアス電源部
51 第1電流検出器
52 自己バイアス型電流検出器
53 A/D変換器
54 フラックス量演算部(PC)
55 RF(高周波)電源
56 マッチングボックス
57 第2電流検出器
58 電子倍増手段
59 電流測定切換えスイッチ
60 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波プラズマ発生セルから放出される高輝度HB(High brightness)放電プラズマに含まれる活性種フラックスが導入される原子プローブ電極と、上記原子プローブ電極から上記高周波プラズマ発生セルに向かう前方位置に配置された荷電粒子排除手段と、上記原子プローブ電極に負の直流バイアス電圧を印加する直流電源と、上記原子プローブ電極と上記直流電源の基準電位(ゼロ電位)端子間に接続した第1電流検出器と、上記荷電粒子排除手段により上記高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子を排除して励起原子、基底原子および励起分子を含む活性種が上記直流電源により予め定めた負電位にバイアスされた原子プローブ電極に導入された際、該原子プローブ電極における上記活性種の電離により放出される電子数量に応じて上記第1電流検出器により検出される電流値に基づき上記HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を算定する演算手段とにより構成したことを特徴とする原子フラックス測定装置。
【請求項2】
荷電粒子排除手段が互いに対向しかつ同一平面上で起立する少なくとも一対の電極体を含み、各対の電極体間に生起した電界により、高周波プラズマ発生器から放出されるHB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子を各対の電極体側に偏向させて該HB放電プラズマに含まれる活性種フラックスから排除するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の原子フラックス測定装置。
【請求項3】
各対の電極体が高周波プラズマ発生セルの出口部の放射軸に沿った投影領域を包囲するように配置され、上記高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが各対の電極体により包囲される空間部を流通するように構成したことを特徴とする請求項2に記載の原子フラックス測定装置。
【請求項4】
各対の対向電極間に高周波パルス電圧を印加して各対の電極体間の空間部に高周波電界を生起するように構成したことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の原子フラックス測定装置。
【請求項5】
上端を閉鎖した遮蔽金属筒体であって、その内部に原子プローブ電極を収容し、該遮蔽金属筒体の閉鎖上端面に高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが流入する開口を形成するとともに該開口の周縁部に絶縁体スペーサを介して上記荷電粒子排除手段の各対の対向電極を装着し、直流電源により上記原子プローブ電極を予め定めた負電位にバイアスするとともに上記荷電粒子排除器の各対の対向電極をそれぞれ予め定めた正電位および負電位にバイアスする一方、上記遮蔽金属筒体をゼロ電位に保持するように構成したことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の原子フラックス測定装置。
【請求項6】
上端を閉鎖した遮蔽金属筒体であって、その内部に荷電粒子排除手段および原子プローブ電極を収容し、上記遮蔽金属筒体の閉鎖した上端面に高周波プラズマ発生セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスが流入する開口を形成する一方、上記遮蔽金属筒体の内部に絶縁体スペーサを介して上記荷電粒子排除手段の各対の対向電極および上記原子プローブ電極を装着し、直流電源により上記原子プローブ電極を予め定めた負電位にバイアスするとともに上記荷電粒子排除器の各対の対向電極をそれぞれ予め定めた正および負電位にバイアスする一方、上記遮蔽金属筒体をゼロ電位に保持するように構成したことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の原子フラックス測定装置。
【請求項7】
原子プローブ電極が金属板状電極体と該金属板状電極体の裏面側に接続した金属ピンとにより形成され、固定盤に上記原子プローブ電極の金属ピンを着脱可能に装着し、該金属ピンを介して直流電源および第1電流検出器と電気接続可能に構成したことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の原子フラックス測定装置。
【請求項8】
荷電粒子排除手段が各対の対向電極体間に生起した電界と交差する磁界発生器を含み、前記電界と交差磁界とにより、高周波プラズマ発生器から放出されたHB放電プラズマに含まれるイオンおよび電子を各対の電極体側に偏向させて該HB放電プラズマの活性種フラックスから除去するように構成したことを特徴とする請求項2〜請求項7のいずれかに記載の原子フラックス測定装置。
【請求項9】
原子プローブ電極に電子増倍手段を介して第2電流検出器を接続し、上記電子増倍手段により上記原子プローブ電極においてHB放電プラズマに含まれる活性種の電離により放出される電子を所定割合で増倍して該増倍電子に応じた電流値を上記第2電流検出器により検出し、該電流値に基づき上記HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を算定するように構成したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の原子フラックス測定装置。
【請求項10】
高周波プラズマ発生セルが水素H2、窒素N2、酸素O2またはフッ素F2の気体分子励起セルであって、該気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを原子プローブ電極に付与して該HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を測定することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の原子フラックス測定装置。
【請求項11】
高周波プラズマ発生セルがMBE(分子線エピタキシィー)成膜室内に配置された窒素、酸素またはフッ素の気体分子励起セルであって、該MBE成膜室内に配置された分子線セルから放出される分子線フラックスと上記気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスとをターゲット位置に固定された基板に照射して成膜する際、上記MBE成膜室の内部に少なくとも原子プローブ電極および荷電粒子排除手段を配置する一方、上記MBE成膜室の外部に少なくとも直流電源および第1電流検出器を配置し、上記気体分子励起セルから放出されるHB放電プラズマに含まれる活性種フラックスを上記原子プローブ電極に流入させて該HB放電プラズマに含まれる原子フラックス量を測定することを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載の原子フラックス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−146755(P2009−146755A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323345(P2007−323345)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(500036831)アリオス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】