説明

原子力部材へのフェライト皮膜形成方法、応力腐食割れの進展抑制方法及びフェライト成膜装置

【課題】本発明の課題は、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な部材へのフェライト皮膜形成し、皮膜形成後皮膜表面を酸化処理する方法とその装置を実現することである。
【解決手段】原子力プラントの構成部材に皮膜形成装置を接続する(ステップS1)。再循環系配管に接続された、皮膜形成装置の循環配管に、pH調整剤(ステップS4),鉄(II)イオンを含む薬剤(ステップS5),鉄(II)イオンの一部を鉄(III)イオンに酸化する酸化剤(ステップS6)の順で注入する。pH調整剤を含む皮膜形成液に鉄(II)イオンを含む薬剤及び酸化剤を含む薬剤を注入し、再循環系配管に供給する。
フェライト皮膜がその内面に形成される。皮膜形成に用いた溶液を分解する(ステップS8)。分解後の皮膜形成液に酸化剤を導入し皮膜表面を酸化処理する(ステップS9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト皮膜形成及びその皮膜形成装置に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な部材へのフェライト皮膜形成方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントと略記する。)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
【0003】
BWRプラント及びPWRプラント等の発電プラントでは、原子炉圧力容器などの主要な構成部は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。また、原子炉冷却材浄化系,余熱除去系,原子炉隔離時冷却系,炉心スプレイ系,給水系及び復水系などの構成部は、プラントの製造所要コストを低減する観点、あるいは給水系や復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点などから、主として炭素鋼部材が用いられる。
【0004】
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等の接水部からも発生することから、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼,ニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水(RPV内に存在する冷却水)と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0005】
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。
その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
【0006】
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水に注入して、炉水と接触する再循環系配管内面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(特開昭58−79196号公報参照)。
【0007】
また、化学除染後の原子力プラント構成部材表面にフェライト皮膜としてマグネタイト皮膜を形成することによって、プラントの運転後においてその構成部材表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が、特開2006−38483号公報や特開2007−192745号公報に提案されている。この方法は、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液,過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材表面に接触させてその表面にマグネタイト皮膜を形成するものである。さらに、マグネタイト皮膜よりも安定なニッケルフェライト皮膜もしくは、亜鉛フェライト皮膜を原子力プラント構成部材表面に形成し、プラントの運転後においてその構成部材表面に放射性核種が付着することをさらに抑制する方法が提案されている。
【0008】
一方、原子力プラントには、応力腐食割れを抑制するため、水素ガスを注入する技術が適用されている。水素ガスを炉内に注入することで、機器表面を強還元環境に保ち応力腐食割れの進展を抑制する方法である。原子炉内を強還元環境に保つことで、応力腐食割れの進展を抑制できるものの、原子炉部材表面には60Coを取り込み易い酸化皮膜が形成され易くなる事が報告されている。このため、定期点検作業者の被曝線量増加が危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−79196号公報
【特許文献2】特開2006−38483号公報
【特許文献3】特開2007−192745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
原子力発電プラントに適用するのに好適な部材の表面に緻密なフェライト皮膜を形成し60Coの付着量を抑制する、特開2006−38483号公報や特開2007−192745号公報に記載されたフェライト皮膜形成方法は、皮膜形成液への第1薬剤,第2薬剤及び第3薬剤の添加を、第1薬剤,第2薬剤及び第3薬剤の順に行っている。また、特開2007−182604号公報は、それらの薬剤を、第3薬剤,第1薬剤及び第2薬剤の順に添加することを記載し、さらに、第1薬剤,第3薬剤及び第2薬剤の順に添加することも記載している。
【0011】
発明者らは、原子力発電プラントに適用するのに好適な部材へのフェライト皮膜の形成方法について(例えば、特開2007−182604号公報参照)、詳細に検討した。その結果、強還元環境下において皮膜中に60Coを取り込むことで、60Coの付着量の抑制効果が非強還元環境下よりも低下する事が分かった。本発明の目的は、原子力発電プラントに適用するのに好適な部材の表面にフェライト皮膜形成し、皮膜形成後に酸化剤を流動することで、皮膜表面を安定化させ強還元環境下においても60Coの付着量を更に抑制する方法及びその装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子力部材表面にフェライト皮膜を形成させ、皮膜表面に酸化剤を流動させることで、原子力発電所の構成部材表面に形成されたフェライト皮膜形成量を安定化させるところにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、沸騰水型原子力発電プラントにおける強還元環境下において、さらに60Coの付着量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な部材へのフェライト皮膜形成時の施工の終了を効率的に判断する方法の一実施の形態を示すフローチャートである。
【図2】フェライト皮膜及び酸化処理を行ったフェライト皮膜のX線回折測定の結果を示した図である。
【図3】未対策,フェライト皮膜,酸化処理を行ったフェライト皮膜を用いた60Co付着試験の結果である。
【図4】BWRプラントの再循環系配管に本発明を適用してなる一実施の形態の全体系統構成を示す図である。
【図5】フェライト皮膜形成後、酸化剤を流動して皮膜表面の酸化処理を行う成膜装置の詳細系統構成を示す図である。
【図6】フェライト皮膜形成後、酸化剤を流動して皮膜表面の酸化処理を行う成膜装置のうち、オゾンを用いて酸化処理を行う系統構成を示す図である。
【図7】フェライト皮膜形成後、酸化剤を流動して皮膜表面の酸化処理を行う成膜装置のうち、ニッケル,亜鉛イオンを含む皮膜の酸化処理を行うフローチャートである。
【図8】フェライト皮膜形成後、酸化剤を流動して皮膜表面の酸化処理を行う成膜装置のうち、ニッケル,亜鉛イオンを含む皮膜の酸化処理を行う系統の詳細である。
【図9】新設プラントにフェライト皮膜形成後、酸化剤を流動して皮膜表面の酸化処理を行うフローチャートである。
【図10】新設プラントにフェライト皮膜形成後、酸化剤を流動して皮膜表面の酸化処理を行う系統構成を示す図である。
【図11】BWRプラントの冷却材浄化系配管に本発明を適用してなる一実施の形態の全体系統構成を示す図である。
【図12】BWRプラントの冷却材浄化系のうち、再生熱交換器と非再生熱交換器の間の配管に隔離弁が無い場合に本発明を適用してなる一実施の形態の全体系統構成を示す図である。
【図13】BWRプラントの給水系配管に本発明を適用してなる一実施の形態の全体系統構成を示す図である。
【図14】PWRプラント二次系の給水配管に本発明を適用してなる一実施の形態の全体系統構成を示す図である。
【図15】火力プラントの給水配管に本発明を適用してなる一実施の形態の全体系統構成を示す図である。
【図16】液中のFe34濃度と液中形成する結晶核の相対値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、フェライト皮膜形成後にフェライト皮膜を安定化させるため、詳細な検討及び実験を行った。その結果、フェライト皮膜形成後に酸化剤を流動させ、皮膜表面を酸化させることで、安定化できる事を見出した。安定化に用いる酸化剤には、過酸化水素,過マンガン酸,過マンガン酸カリウム,オゾン,フッ素などがある。
【0016】
原子力プラントを構成する部材の接水部の表面に、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンの少なくとも一部を鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、皮膜形成液のpHを5.5乃至9.0に調整する第3の薬剤を皮膜形成液に添加して前記部材に接触させることで、前記部材表面にフェライト皮膜を形成し、その後、皮膜表面にオゾンを接触させ酸化処理を行った皮膜の分析を行った。その結果を図2に示す。酸化剤処理前後のX線回折パターンの結果より、皮膜はFe34単相皮膜から、Fe34とFe23の2相皮膜に変化している事が確認できた。つまり、皮膜表面に酸化剤を流動させることで、Fe34皮膜の一部が酸化されFe23に変化したと考える。つまり、Fe23皮膜はFe34よりも熱力学的に安定である。そこで、未対策,フェライト皮膜形成試験片,フェライト皮膜形成後酸化剤を流動した試験片を用いて、60Coの付着試験を行った。その結果を図3に示す。60Coの付着量は、未対策に対してフェライト皮膜形成試験片,フェライト皮膜形成後酸化剤を流動した試験片でそれぞれ、1/2,1/4であった。つまり、フェライト膜形成後に酸化剤を流動して皮膜表面を酸化することで、60Co取り込みを抑制できる。上述したようにFe34がFe23に改質されると、Fe23はFe34よりも安定なため、60Co取り込みを抑制できる。以上のメカニズムにより、フェライト皮膜形成後酸化剤を流動した皮膜は、フェライト皮膜に対して60Coの付着量を従来の1/2に低減できる事が確認できる。
【0017】
上記の試料として用いた金属母材は原子力プラント構成部材を模擬したものである。原子力プラント構成部材は、原子力プラントを構成する部材であって原子力プラントの原子炉で生成される放射性物質を含む炉水と接触する金属部材である。原子力プラント構成部材としては、例えば、BWRプラントの炉水再循環系または炉水浄化系を構成する金属部材が挙げられるが、これに限るものではない。フェライト皮膜は、加圧水型原子炉(PWR)を有する原子力プラント(PWRプラント)における炉水と接触する金属部材の表面に形成することも可能である。これらの金属部材には主にステンレス鋼が使用される。また、上記で形成したフェライト皮膜はFe34であるが、Ni,Zn,Crを含んだ皮膜でも同様の効果が得られる。
【0018】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明を適用したフェライト皮膜形成の一実施の形態を示すフローチャートである。図4は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)の再循環系配管に本発明を適用してなる全体系統構成を示す図である。図5は、本発明を適用した皮膜形成方法を実施する成膜装置の詳細系統構成を示す図である。
【0020】
図4に示すように、BWRプラントは、蒸気を発生する燃料棒を圧力容器に収容してなる原子炉1と、原子炉1に連結された主蒸気配管2と、主蒸気配管2に連結された蒸気タービン発電機3と、蒸気タービン発電機3の蒸気排出口に連結された復水器4などを備えている。復水器4で凝縮された復水は、復水ポンプ5によって抜き出された後に給水配管系10を介して原子炉1の給水として戻される。ここでの給水配管系10は、復水器4側から順に、復水浄化装置としての復水脱塩器6と、給水ポンプ7と、低圧給水加熱器8と、高圧給水加熱器9などを有する。なお、低圧給水加熱器8と高圧給水加熱器9の熱源は、蒸気タービン発電機3の抽気により賄われる。
【0021】
また、原子炉1内の冷却水を循環する再循環系は複数設けられている。再循環系は、原子炉1の底部に連結された複数の再循環ポンプ21により炉水を抜き出し、抜き出された炉水を再循環ポンプ21のそれぞれに連結された炉水再循環配管22を介して原子炉1の上部に戻して循環させる。
【0022】
また、原子炉1の炉水を浄化する炉水浄化系は、炉水再循環配管22に連結された浄化系ポンプ24により炉水を抜き出し、抜き出された炉水を再生熱交換器25及び非再生熱交換器26を介して冷却し、冷却された炉水を炉水浄化装置27により浄化し、浄化された炉水を再生熱交換器25で昇温した後、給水系の高圧給水加熱器9の下流側から原子炉1に戻す。
【0023】
ここで、図4に示すように、本発明を適用したフェライト皮膜の皮膜形成装置である成膜装置30は、BWRプラントの再循環系に仮設配管で連結されている。原子炉1の運転が停止されたとき、例えば炉水再循環配管22から分岐されている炉水浄化系配管のバルブ23のボンネットを開放して炉水浄化装置27側を閉止してバルブ23のフランジを用いて仮設配管を連結して成膜装置30への流入路を形成する。他方、再循環ポンプ21の下流側にあるドレン配管や計装配管などを切り離し、その切り離された枝管に処理液を循環可能に仮設配管を接続して成膜装置30の流出側を形成する。なお、本例では、成膜装置30を再循環系配管に接続しているが、これに限られず、給水系,冷却材浄化系,復水系や補機冷却水系やクーリングタワーを用いる冷却水系統など、プラントを構成する部材に水が接触する部分に成膜装置30を適用してもよい。
【0024】
本実施形態の成膜装置30は、化学除染処理に兼用できるように構成されている。例えば、成膜装置30は、図5に示すように、処理に用いる水が充填されるサージタンク31と、サージタンク31の水を抜き出してバルブ33,34を介して再循環系配管22の一端に供給する循環ポンプ32などを備えている。ここでのバルブ33,34を結ぶ皮膜形成液配管35は、バルブ38と注入ポンプ39を介して、皮膜形成液のpH調整用の薬剤を貯留する薬液タンク40が連結されている。ここでの薬液タンク40は、皮膜形成液のpH調整用の薬剤としてヒドラジンが貯留されている。また、循環ポンプ32の吐出側からバルブ36,エゼクタ37を介してサージタンク31に戻る流路が形成されている。エゼクタ37は、配管内の汚染物を酸化溶解するための過マンガン酸、あるいは配管内の汚染物を還元溶解するためのシュウ酸を注入するためのホッパを有する。
【0025】
皮膜形成液配管35は、バルブ41,42及び注入ポンプ43,44を介して、薬液タンク45,46が連結されている。薬液タンク45,46は、フェライト皮膜生成に用いられる薬剤を貯留している。例えば、薬液タンク45は、鉄をギ酸で溶解して調製した鉄(II)イオンを含む薬剤が保管されている。なお、鉄を溶解させる薬剤は、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸又は炭酸を適用できる。薬液タンク46は、フェライト皮膜生成時の酸化剤としての過酸化水素が貯蔵されている。
【0026】
一方、循環ポンプ32によって再循環系配管22の一端に供給された皮膜形成液は、再循環系配管22内を通って他端からバルブ47に戻される。戻された皮膜形成液は、循環ポンプ48,バルブ49,加熱器53とバルブ55,56,57を介してサージタンク31に戻される。バルブ49は、バルブ50とフィルタ51が並列に連結されている。加熱器53とバルブ55は、冷却器58とバルブ59が並列に連結されている。バルブ56は、イオン交換樹脂塔60(例えば、カチオン交換樹脂)がバルブ61を介して並列に連結されているとともに、混床樹脂塔62がバルブ63を介して並列に連結されている。バルブ57は、分解装置64がバルブ65を介して並列に接続されている。
【0027】
分解装置64は、バルブ54を介して薬液タンク46に接続された注入ポンプ44の吐出側に連結されている。これによって分解装置64は、薬液タンク46に貯留された過酸化水素水を分解装置64に注入可能になっている。なお、本実施例では、フェライト皮膜の形成に必要な酸化剤と処理後の分解に必要な酸化剤が同一の過酸化水素であるから、薬液タンクと注入ポンプを共用することで設備を簡素にしているが、設置場所により接続配管が長くなる場合には分けて設置してもよい。
【0028】
また、pHを調整する薬剤を注入するバルブ38は、酸化剤を注入するバルブ42かつ鉄(II)イオンを注入するバルブ41の上流側の位置に配設されている。また、酸化剤を注入するバルブ42は、鉄(II)イオンを注入するバルブ41かつpHを調整する薬剤を注入するバルブ38の下流側の位置、かつ処理対象部位にできるだけ近い位置に配設されるのが好ましい。
【0029】
さらに、鉄(II)イオンを含む薬剤を貯蔵する薬液タンク45とサージタンク31は、水溶液中の酸素を除去するために、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスをバブリングすることが好ましい。また、分解装置64は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用される有機酸や、pH調整剤として使用されるヒドラジンを分解できる。つまり、ここでの鉄(II)イオンの対アニオンとして、廃棄物量の低減を考慮して水や二酸化炭素に分解できる有機酸、又は気体として放出可能で廃棄物量を増やさない炭酸が用いられている。
なお、薬剤の使用量を抑制するには、余分な反応生成物を分離除去して未反応薬剤を回収し、回収後の未反応薬剤を再利用することが好ましい。
【0030】
このように構成される成膜装置30のフェライト膜生成処理の手順を、図1に示したフローチャートに沿って説明する。まず、本発明方法を実施するに際しては、成膜装置30を処理対象としての部材の配管系に連結することから始まる(S1)。例えば、図4及び図5に示すように、部材から形成された再循環系配管に成膜装置30が連結される。
【0031】
次に、本実施形態の場合は、再循環系配管の表面に形成された酸化皮膜などの腐食生成物の化学除染装置を兼ねている成膜装置30により化学的な処理で生成物を除去する(S2)。なお、部材の腐食抑制方法を実施するに際し、化学除染を実施することが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。要は、本発明の部材の腐食抑制方法を実施する前に、フェライト膜の生成対象である部材の表面が露出されていれば、研磨などのような機械的な除染処理を適用してもよい。
【0032】
ステップ2の化学除染は、再循環系配管の化学除染にも適用されている周知の方法であるが、ここで、簡単に説明しておく。まず、バルブ33,34,47,49,55,56,57を開いた状態にするとともに、他のバルブを閉じた状態にする。次いで、循環ポンプ32,循環ポンプ48を起動することにより、化学除染の対象の再循環系配管22内にサージタンク31内の水を循環させる。そして、加熱器53により水の温度を約90℃まで昇温する。続いて、バルブ36を開くことにより、エゼクタ37に連結したホッパから所要量の過マンガン酸カリウムをサージタンク31に注入する。サージタンク31で溶解した薬剤により、除染対象部に形成されている酸化皮膜などの腐食生成物の一部が酸化溶解して除去される。
【0033】
このようにして腐食生成物の除去処理が終了した後、水溶液中に残っている過マンガン酸イオンを分解するため、エゼクタ37に連結したホッパからシュウ酸をサージタンク31に注入する。なお、酸化溶解の対象となるクロムなどの酸化物量が少ない系統には(例えば給水系)、このステップを省略してもよい。次に、腐食生成物の還元溶解を行うため、シュウ酸を更に水溶液中に注入する。それと同時に、水溶液中のpHを調整するため、バルブ38を開放して注入ポンプ39を起動することにより、薬液タンク40からヒドラジンを水溶液中に注入する。このようにしてシュウ酸とヒドラジンを注入した後に、バルブ61を開くと共にバルブ56の開度を調整することにより、水溶液の一部をイオン交換樹脂塔60に通流させる。これによって水溶液中に溶出した金属陽イオンは、イオン交換樹脂塔60に吸着して水溶液中から除去される。
【0034】
還元溶解が終了した後、水溶液中のシュウ酸を分解するため、分解装置64の出口側のバルブ65の開度を調整すると共に、分解装置64をバイパスさせるバルブ57の開度を調整することにより、水溶液の一部を分解装置64に通流させる。このとき、バルブ54を開けると共に注入ポンプ44を起動することにより、分解装置64に流入する水溶液中に薬液タンク46の過酸化水素を注入する。これによって水溶液中のシュウ酸及びヒドラジンは分解される。
【0035】
シュウ酸とヒドラジンが分解された後、水溶液中の不純物を除去するため、加熱器53をオフにすると共に、バルブ55を閉じる。それと同時に、冷却器58のバルブ59を開けることにより、冷却器58に水溶液を通流させる。これによって水溶液の温度が下がる。水溶液の温度が混床樹脂塔62に通水できる温度(例えば、60℃)まで下げた後に、イオン交換樹脂塔60のバルブ61を閉じると共に、混床樹脂塔62側のバルブ63を開くことにより、混床樹脂塔62に水溶液を通流させる。これによって水溶液中の不純物が除去される。
【0036】
上述の昇温から酸化溶解,酸化剤分解,還元溶解,還元剤分解,浄化運転という一連の処理により、除染対象部位としての部材の酸化皮膜を含む腐食生成物を溶解して除去できる。除去が不十分な場合は、一連の除染ステップを繰り返せばよい。
【0037】
このようにして、原子力発電プラントに適用するのに好適な部材の酸化皮膜を含む腐食生成物を除去した後、本発明に係るフェライト皮膜の生成処理に切り換える。まず、除染ステップの浄化運転の終了後に、バルブ50を開くと共にバルブ49を閉じることにより、フィルタ51に皮膜形成液を通流させる。また、フィルタ51を通過した皮膜形成液を加熱器53により所定温度に調整する(S3)。フィルタ51に皮膜形成液を通流させるのは、皮膜形成液に微細な固形物が残留していると、フェライト皮膜の生成処理の際に固形物表面でも皮膜生成が生じるから、無駄な薬剤が使用されることになるため、これを防止するためである。また、フィルタ51に皮膜形成液を通流させるのを化学除染中に実施すると、溶解してきた高い濃度の鉄に起因する水酸化物でフィルタの圧力損失が高くなるおそれがあるため適切ではない。また、バルブ56を開放すると共にバルブ63を閉止することにより、浄化系運転で使用していた混床樹脂塔62に対する通水を停止する。
【0038】
ここでの皮膜形成液の温度は、75℃程度が好ましいが、これに限られない。要は、原子炉の供用運転時の原子力発電プラントに適用するのに好適な部材の腐食を抑制できる程度に、結晶等の膜構造が緻密なフェライト皮膜を成膜できればよい。したがって、再循環系の最高使用温度以下、少なくとも200℃以下の温度条件が好ましい。また下限は常温でもよいが、膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上の温度条件が好ましい。100℃以上の温度条件とすると、皮膜形成液の沸騰を抑制するための加圧が必要になる結果、その加圧に対する仮設設備の耐圧性が要求されるなど、設備コストが増大する。したがって、成膜処理の温度条件は、100℃以下がより好ましい。ここで、薬剤中の鉄を酸化させないために、皮膜形成液中の溶存酸素を除去が必要である。このため、不活性ガスのバブリング又は真空脱気を行うことが好ましい。
【0039】
このようにして皮膜形成液の温度が所定温度に達した際、バルブ38を開放すると共に注入ポンプ39を起動することにより、薬液タンク40からpH調整剤を皮膜形成液に注入する(S4)。ここでのpH調整剤は、例えばヒドラジンである。次に、バルブ41を開放すると共に注入ポンプ43を起動することにより、薬液タンク45から薬剤を皮膜形成液に注入する(S5)。これによって皮膜形成液中の鉄(II)イオンは、水酸化第一鉄となる。ここでの薬剤は、例えば鉄をギ酸で溶解して調製した鉄(II)イオンを含むものである。続いて、処理対象の部材表面に吸着した水酸化第一鉄をフェライト化させるため、バルブ42を開放すると共に注入ポンプ44を起動することにより、薬液タンク46から酸化剤を皮膜形成液に注入する(S6)。ここでの酸化剤は、除染剤を分解する際にも使用される過酸化水素を適用するが、オゾンや酸素を溶解した薬剤を用いてもよい。
最後に、ステップ4乃至ステップ6の処理により、皮膜形成液は、反応開始条件となるpH5.5乃至9.0に調整される。これによってフェライト皮膜の生成反応が進行し、部材の接水部の表面にマグネタイトを主成分とするフェライト皮膜の酸化皮膜(以下、マグネタイト皮膜という。)が形成される。
【0040】
ステップ4,5,6は連続的に実施されることが好ましい。より具体的には、皮膜形成液にpH調整剤が注入された後、その注入後の皮膜形成液が鉄イオン注入ポイントに達したときに鉄イオンの注入が開始されるのが好ましいし、そのpH調整剤と鉄イオンが混合した皮膜形成液が注入ポイントに達したときに酸化剤の注入が直ちに実施されることが好ましい。
【0041】
鉄イオンに酸化剤が供給されると、鉄イオンの酸化反応が開始されるので、鉄(II)イオンと鉄(III)イオンの存在比率が皮膜形成反応に適した条件となる。したがって、仮設配管内面への無駄な皮膜形成を防止するため、酸化剤の注入ポイントは処理対象物に近く、仮設設備の本設設備との接続点に近い部分に設けるのが好ましい。
【0042】
測定値が必要な厚みに達した場合には直ちに皮膜形成液の注入を停止し、次の工程に移る。一方、皮膜処理が完了していない場合は、ステップ7からステップ4に戻って一巡してきた皮膜形成液に薬液の追加供給を継続することにより、必要な厚みのマグネタイト皮膜を生成する(S7)。
【0043】
マグネタイト皮膜の形成に寄与した皮膜形成液は、処理後においてもギ酸やヒドラジンが残存する。酸化処理に際しては、ステップ8の廃液処理を実施して、それらの不純物を除去する(S8)。ただし、皮膜形成液中の残存物をイオン交換樹脂塔60で処理すると、イオン交換樹脂塔60の廃棄物が増えることになる。そこで、ステップ8の廃液処理は、除染系統にある分解装置64により、皮膜形成液中のギ酸を二酸化炭素と水に分解するとともに、皮膜形成液中のヒドラジンを窒素と水に分解するのが好ましい。これにより、イオン交換樹脂塔60の負荷を減らすことができるし、イオン交換樹脂塔60の廃棄物量を減らすことができる。また、廃液処理工程時は、循環ポンプ48の出口側にフィルタ51を通水可能にするのが好ましい。なお、分解処理は、シュウ酸の分解と同様に、分解装置64のバルブ65の開度を調整すると共に、分解装置64をバイパスするバルブ57の開度を調整することにより、皮膜形成液の一部を分解装置64に流入させる。そして、分解装置64に流入する皮膜形成液中に過酸化水素を注入することにより、皮膜形成液中のギ酸及びヒドラジンの分解を行う。
【0044】
本実施例によれば、イオン交換樹脂塔60の廃棄物発生量を抑制しながら、処理対象部位の表面にマグネタイト皮膜が形成される。これにより、通常の原子炉供用運転中における対象部位の腐食を抑制することができる。また、成膜処理で塩素などの薬剤を用いていないため、原子炉構成部材の健全性(例えば、耐腐食性)を害することがない。
【0045】
マグネタイト皮膜の酸化処理に際しては、薬液タンク46から過酸化水素を投入して皮膜表面に酸化剤を流動する(S9)。つまり、廃液処理終了後、注入ポンプ44を起動し、弁42を開放することで薬剤タンクより過酸化水素を系統に注入する。本実施例では、皮膜表面の酸化には、皮膜形成処理時に用いた過酸化水素を流用した。酸化剤処理後に液中に残留した酸化剤は、触媒棟に通水することで分解される。
【0046】
本実施例では、皮膜形成液に薬剤を、第3の薬剤,第1の薬剤,第2の薬剤の順で添加し、酸化剤を皮膜表面と反応させたが、薬剤の添加順序はこれに限らない。特開2006−38483号公報や特開2007−192745号公報に記載されたように皮膜形成液への第1薬剤,第2薬剤及び第3薬剤の添加を、第1薬剤,第2薬剤及び第3薬剤の順に行ったり、皮膜形成液添加前に3種類の薬剤を事前に混合してから皮膜形成液に添加したりしてもよい。つまり、フェライト皮膜を形成した後に皮膜表面に酸化剤を反応させて、皮膜表面にFe23を形成すればよいのである。
【実施例2】
【0047】
本実施例は、酸化剤にオゾンを用いた点で実施例1と異なる。図6は、その皮膜形成工程の系統図である。本系統を用いた皮膜形成工程(S4乃至S9)を説明する。実施例1と同じようにして皮膜形成液の温度が所定温度に達した際、バルブ38,41,42を開放すると共に注入ポンプ39,43,44を起動することにより、薬液タンク40,45,46からpH調整剤,酸化剤,鉄イオンを注入し、皮膜を形成する(S4乃至S7)。
皮膜形成後、実施例1と同様に皮膜形成液を分解する(S8)。分解の終わった後、バルブ67を開放し、オゾン発生器66を起動してオゾンを注入し、皮膜表面を酸化処理する。
【実施例3】
【0048】
本実施例は、ニッケル及び亜鉛を含む皮膜表面を酸化処理した点で実施例1と異なる。
図7,図8は、その皮膜形成工程の手順と系統図である。実施例1と同じようにして皮膜形成液の温度が所定温度に達した際、バルブ82,38,41,42を開放すると共に注入ポンプ81,39,43,44を起動することにより、薬液タンク80,40,45,46から、ニッケルもしくは亜鉛イオン,pH調整剤,酸化剤,鉄イオンをニッケルもしくは亜鉛イオン,鉄イオン,酸化剤,pH調整剤の順で注入し、皮膜を形成し、実施例1と同様の手順で廃液処理を行う(S4乃至S9)。廃液処理終了後、再び、弁42を開放し、注入ポンプ44を起動して、薬液タンク46から過酸化水素を注入して皮膜形成箇所表面に酸化剤を流動し、皮膜表面の酸化処理を行う。
【実施例4】
【0049】
本実施例は、新設プラントにフェライト皮膜を形成する点で実施例1と異なる。図9,図10は、その皮膜形成工程の手順と系統図である。新設プラントに皮膜形成する場合、ステンレス鋼表面には運転中に形成されるような60Coを含む酸化皮膜が形成されていないため、除染工程を行う必要がない。よって、S2が省略される。その他の手順や系統は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0050】
本実施例は、BWR冷却水浄化系配管に成膜装置30を配設した点で、BWRの再循環系配管に成膜装置30を配設した実施例1と相違する。図11は、BWRの冷却水浄化系に本発明を適用してなる全体系統構成を示す図である。冷却材浄化系で部材の腐食が問題になるのは、原子炉からの高温の冷却材が流入する再生熱交換器である。このため、再生熱交換器周辺の部材の除染及び皮膜形成が必要になる。図11に示すように、実施例1のBWRの再循環系と異なる点は、再生熱交換器の上流部の弁84と下流部の弁85に成膜装置を取り付けた点である。皮膜形成プロセスに関しては、実施例1と同様である。また、再生熱交換器と非再生熱交換器の間に隔離弁が存在しない場合は、図12に示す系統図のように弁84と樹脂等27の前に設置されている隔離弁85に成膜装置30を設置すればよい。
【実施例6】
【0051】
本実施例は、BWR給水系配管に成膜装置30を配設した点で、BWRの給水系配管に成膜装置30を配設した実施例1と相違する。図13は、BWRの給水系に本発明を適用してなる全体系統構成を示す図である。図13に示すように、実施例1のBWRの再循環系と異なる点は、復水脱塩器6の出口に設置されているバルブ87のボンネットを開放して復水脱塩器6側を閉止するとともに、成膜装置30の成膜形成液配管35の一端を、低圧給水加熱器8よりも上流で給水配管10に接続した点である。皮膜形成プロセスに関しては、実施例1,3と同様である。
【実施例7】
【0052】
本実施例は、加圧水型原子力発電プラント(PWR)の二次系の給水配管に成膜装置30を配設した点で、沸騰水型原子力発電プラント(BWR)の給水配管に成膜装置30を配設した実施例8と相違する。図14は、PWRプラントの二次系の給水系配管に本発明を適用してなる全体系統構成を示す図である。なお、図14では、一次系の系統構成を省略し、蒸気発生器88を含む二次系のみを示している。
【0053】
図13に示した、実施例8のBWRプラントの給水系に適用した場合と異なる点は、低圧給水加熱器8と高圧給水加熱器9の間に脱気器89が配設されたことである。ここでの脱気器89は、給水中のガス成分を除去するためのものである。成膜装置30を給水系の系統に接続する方法や皮膜形成プロセスに関しては、実施例1と同様である。PWR二次系においては、アンモニアやヒドラジンなどの薬品を用いて炭素鋼の腐食を抑制するのが一般的であるが、本発明を適用することにより、それらの薬品処理が不要になるので、環境への負荷が少ないプラント運転の実現と装置のランニングコストの低減を図ることができる。
【実施例8】
【0054】
本実施例は、火力プラントの給水配管に成膜装置30を配設した点で、PWR二次系の給水配管に成膜装置30を配設した実施例6と相違する。図15は、火力プラントの給水系配管に本発明を適用してなる全体系統構成を示す図である。図15に示すように、実施例6のPWRプラント二次系と異なる点は、蒸気発生器88に代えて、ボイラ90を適用したことである。
【0055】
成膜装置30を給水系の系統に接続する方法や皮膜形成プロセスに関しては、実施例1,2と同様である。火力プラントの給水系においてもPWR二次系と同様に、アンモニアやヒドラジンなどの薬品を用いて炭素鋼の腐食を抑制するのが一般的であるが、本発明を適用することにより、これらの薬品処理が不要になるから、環境への負荷が少ないプラント運転の実現と装置のランニングコストの低減を図ることができる。
【実施例9】
【0056】
本実施例は、応力腐食割れで発生した亀裂先端にフェライト皮膜を形成し、亀裂の進展を抑制する点で実施例1と異なる。応力腐食割れは酸化剤により亀裂先端が腐食し進展する。原子炉運転中の炉水中には、過酸化水素が発生する。この過酸化水素が、亀裂先端部の部材の腐食を加速し、応力腐食割れ進展の引き金となる。そこで、本発明のフェライト皮膜を亀裂先端に形成することで、亀裂先端の過酸化水素と皮膜を反応させることで、亀裂先端部の過酸化水素濃度を低減し、ステンレス鋼の腐食を抑制できる。腐食を抑制することで、応力腐食割れの亀裂進展を抑制できる。亀裂の先端に皮膜を形成する場合は、亀裂先端の狭隘部に皮膜形成する必要があるため、皮膜形成液に添加する鉄イオンの濃度を通常の皮膜形成に比べて高くする必要がある。図16に液中のFe34濃度と液中形成する結晶核の相対値を示す。図16より、Fe34濃度を増加させればさせるほど、形成核の大きさが小さくなる事が確認できる。実際に、Fe34の濃度を上昇させるためには、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンの少なくとも一部を鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、皮膜形成液のpHを5.5乃至9.0に調整する第3の薬剤を亀裂先端の大きさ合わせて所望のFe34濃度になるように皮膜形成液に添加すればよい。
【符号の説明】
【0057】
30 成膜装置
31 サージタンク
32 循環ポンプ
35 皮膜形成液配管
39,43,44,81 注入ポンプ
40 化学除染用又はpH調整用の薬剤の薬液タンク
45 鉄(II)イオンを含む薬剤の薬液タンク
46 酸化剤としての過酸化水素を含む薬剤の薬液タンク
53 加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントを構成する部材の接水部の表面に、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンの少なくとも一部を鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、皮膜形成液のpHを5.5乃至9.0に調整する第3の薬剤を皮膜形成液に添加して前記部材に接触させることで、前記部材表面にフェライト皮膜を形成し、皮膜形成後皮膜表面に酸化剤を流動させて皮膜表面を酸化させるフェライト皮膜形成方法。
【請求項2】
原子力プラントを構成する部材の接水部の表面に、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンの少なくとも一部を鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、皮膜形成液のpHを5.5乃至9.0に調整する第3の薬剤とニッケルイオンを含む第4の薬剤を皮膜形成液に添加して前記部材に接触させることで、前記部材表面にニッケルを含むフェライト皮膜を形成し、皮膜形成後皮膜表面に酸化剤を流動させて皮膜表面を酸化させるフェライト皮膜形成方法。
【請求項3】
原子力プラントを構成する部材の接水部の表面に、鉄(II)イオンを含む第1の薬剤と、前記鉄(II)イオンの少なくとも一部を鉄(III)イオンに酸化する第2の薬剤と、皮膜形成液のpHを5.5乃至9.0に調整する第3の薬剤と亜鉛イオンを含む第5の薬剤を皮膜形成液に添加して前記部材に接触させることで、前記部材表面に亜鉛を含むフェライト皮膜を形成し、皮膜形成後皮膜表面に酸化剤を流動させて皮膜表面を酸化させるフェライト皮膜形成方法。
【請求項4】
前記第2の薬剤及び前記酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフェライト皮膜形成方法。
【請求項5】
前記酸化剤は、過マンガン酸,過マンガン酸カリウム,オゾン及びフッ素のうち少なくとも一つを含む酸化剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフェライト成膜形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つのフェライト皮膜形成方法で、前記原子力プラントを構成する部材の亀裂の先端にフェライト皮膜形成し、原子炉運転中に亀裂内の酸化剤がフェライト皮膜と反応することで、亀裂内の酸化剤濃度を低減して応力腐食割れの進展を抑制する応力腐食割れの進展抑制方法。
【請求項7】
a)処理液を貯留するサージタンク;と、
b)サージタンク内に貯留された処理液を吸引する循環ポンプ;と、
c)鉄(II)イオンを含む第1の薬剤を貯留する第1の薬液タンク;と、
d)前記鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化するための第2の薬剤を貯留す る第2の薬液タンク;と、
e)処理液のpHを5.5〜9.0に調整するための第3の薬剤を貯留する第3の薬液タ ンク;と、
f)第2の薬剤と第3の薬剤が処理液に到達する前に第2の薬剤と第3の薬剤が合流す る配管系統構成;と、
g)循環ポンプにより吸引された処理液に第1の薬液タンクからの薬剤を混合し、さら に第2の薬液タンク及び第3の薬液タンクからの薬剤を、処理液に混合する前に混 合した後、この第2薬液と第3の薬液の混合溶液を処理液に混合し、これを成膜対 象の配管系に供給するための供給配管;と、
h)成膜対象の配管系から戻される処理液を前記サージタンクに戻す戻り管;と、
i)処理液の温度を60℃〜100℃に加熱する加熱手段;と、
j)皮膜形成後に皮膜表面を酸化するために用いるオゾンを発生する装置;
とを備えてなり、第2の薬剤と第3の薬剤の混合液及びオゾンの処理液への注入位置は原子炉格納容器内に設置されていることを特徴とする原子力プラント構成部材の表面にフェライト膜を成膜するための成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−111661(P2011−111661A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270976(P2009−270976)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】