説明

原子炉冷却材浄化装置及び原子炉水ろ過脱塩方法

【課題】高温状態の炉水を除去することができると共に、原子炉浄化系に要求されるヨウ素イオンの除去性能を満足するイオン交換体を備えた原子炉冷却材浄化装置、及びかかる装置を用いた原子炉水ろ過脱塩方法を提供すること。
【解決手段】原子炉の冷却材である炉水中のヨウ素イオンを除去可能なイオン交換体を備え、前記イオン交換体が、CuKα線による粉末X線回折の2θ=14.9±0.2°及び2θ=29.9±0.2°に回折ピークを有するビスマス・アンチモン系無機イオン交換体である原子炉冷却材浄化装置、及びかかる装置を用いた原子炉水ろ過脱塩方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電分野において原子炉浄化系で使用される原子炉冷却材浄化装置、及びかかる装置を用いた原子炉水ろ過脱塩方法に係り、詳しくは、原子炉の冷却材である炉水中のイオン成分をイオン交換体を用いて除去・脱塩する原子炉冷却材浄化装置、及びかかる装置を用いた原子炉水ろ過脱塩方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、原子炉浄化系においては、イオン交換体を用いたイオン性不純物の除去(浄化処理)が行われており、かかるイオン交換体としては、有機系のイオン交換樹脂が用いられていた。しかしながら、有機系のイオン交換樹脂は、イオン性不純物の除去性能は高いものの、耐熱性に劣るため、280℃程度の炉水を60℃程度まで冷却する必要があった。炉水は、浄化処理を行った後、再び280℃程度まで加熱して原子炉に戻すため、この炉水の冷却は、発電所としての熱効率を低下させる要因の一つとなっていた。
【0003】
上記熱効率の低下を防止する手段として、例えば、電気泳動の原理を用いた炉水浄化システムが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このシステムは、既存の原子力発電所設備への導入に際しては大規模な改造が必要なため、新設プラントへの設置しかできないという問題がある。
【0004】
また、従来の有機系イオン交換樹脂の代替として、高温状態でコバルトイオンを除去できるニオブ酸カリウムイオン交換体を用いることが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、このニオブ酸カリウムイオン交換体は、比較的除去が容易なコバルトイオンを除去するものであり、除去が困難なヨウ素イオンを対象としていないことから、根本的な解決には至っていない。
【0005】
他方、放射性廃液中のヨウ素イオンを酸化ビスマスにより除去する技術が提案されている(特許文献3及び4参照)。しかしながら、かかる文献は、ヨウ素イオン濃度が高い放射性廃液を対象としており、微量なヨウ素イオンを含む溶液に対して非常に高い除去性能が要求される原子炉浄化系での使用は対象とされておらず、また、原子炉浄化系での使用に関する示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−51977号公報
【特許文献2】特開2007−98371号公報
【特許文献3】特開平5−52993号公報
【特許文献4】特開平6−31182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高温状態にて、原子炉浄化系に要求されるヨウ素イオンの除去性能を満足するイオン交換体を備えた原子炉冷却材浄化装置、及びかかる装置を用いた原子炉水ろ過脱塩方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、発電所としての熱効率を低下させる要因となっている原子炉水のろ過脱塩方法について鋭意検討した結果、CuKα線による粉末X線回折の2θ=14.9±0.2°及び2θ=29.9±0.2°に回折ピークを有するビスマス・アンチモン系無機イオン交換体(以下、本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体ということがある。)を用いることにより、原子炉水を冷却することなくそのまま浄化することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体は、高温域においてヨウ素イオンを除去する能力が高く、これにより、冷却されていない炉水から、原子炉浄化系で要求される条件を満足する程度に十分にヨウ素イオンを除去することができる。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)原子炉の冷却材である炉水中のヨウ素イオンを除去可能なイオン交換体を備えた原子炉冷却材浄化装置であって、前記イオン交換体が、CuKα線による粉末X線回折の2θ=14.9±0.2°及び2θ=29.9±0.2°に回折ピークを有するビスマス・アンチモン系無機イオン交換体であることを特徴とする原子炉冷却材浄化装置や、(2)ビスマス・アンチモン系無機イオン交換体が、2θ=28.6±0.2°、2θ=34.6±0.2°、2θ=37.9±0.2°、2θ=80.8±0.2°,2θ=101.1±0.2°及び2θ=122.8±0.2°に回折ピークをさらに有することを特徴とする前記(1)記載の原子炉冷却材浄化装置や、(3)ビスマス・アンチモン系無機イオン交換体が、含水酸化硝酸ビスマス及び結晶性アンチモン酸の混合物である前記(1)又は(2)記載の原子炉冷却材浄化装置や、(4)前記(1)〜(3)のいずれか記載の原子炉冷却材浄化装置を用いて炉水を処理することを特徴とする原子炉水ろ過脱塩方法や、(5)50〜300℃の炉水を処理することを特徴とする前記(4)記載の原子炉水ろ過脱塩方法や、(6)250〜300℃の炉水を処理することを特徴とする前記(5)記載の原子炉水ろ過脱塩方法や、(7)原子炉からの炉水を冷却することなく処理することを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれか記載の原子炉水ろ過脱塩方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の原子炉冷却材浄化装置及び原子炉水ろ過脱塩方法によれば、高温状態の炉水から原子炉浄化系に要求されるヨウ素イオンの除去性能を満足する程度に十分にヨウ素イオンを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体のCuKα線による粉末X線回折の結果を表す図である。
【図2】本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体のイオン吸着能力を示す分配係数を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の原子炉冷却材浄化装置としては、沸騰水型原子炉、加圧水型原子炉等の原子炉の冷却材である炉水中のヨウ素イオンを除去可能なイオン交換体を備え、かかるイオン交換体が、CuKα線による粉末X線回折の2θ=14.9±0.2°及び2θ=29.9±0.2°に回折ピーク(主回折ピーク)を有するビスマス・アンチモン系無機イオン交換体であれば特に制限されるものではなく、本発明の装置を用いることにより、原子炉浄化系における性能条件を満足する程度にヨウ素イオンを十分に除去することができる。また、原子炉から排出された炉水を冷却することなく浄化できるので、発電所の熱効率低下を抑制することができる。すなわち、これにより、1000MWeプラント場合、およそ4.1MWeの熱損失を防ぐことができる計算となる。
【0013】
上記原子炉浄化系における性能条件としては、除染係数(DF)=10を満足することが要求される。この除染係数(DF)は、原子炉浄化系においてヨウ素の除去率を求めるためのパラメータの1つであり、DF=10は装置を通る原子炉水のヨウ素濃度を1/10にすることを意味する。DF=10については、原子炉設置の際、国に提出する原子炉設置許可申請書の添付資料9に、「気体廃棄物の推定放出量」を推定するための前提条件のパラメータの1つとして「原子炉冷却材浄化系の除染係数=10」と記載されている。
【0014】
本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体としては、例えば、図1に示すX線回折ピークを有するものであることが好ましい。すなわち、2θ=14.9±0.2°、2θ=28.6±0.2°、2θ=29.9±0.2°、2θ=34.6±0.2°、2θ=37.9±0.2°、2θ=80.8±0.2°,2θ=101.1±0.2°及び2θ=122.8±0.2°に回折ピークを有しているものが好ましい。かかる回折ピークを有するものとしては、具体的に、IXE−600(東亞合成株式会社製),IXE−633(東亞合成株式会社製)等を例示することができる。なお、図1に示すX線回折の測定は、リガク社製Geiger Flexを用いて行い、測定条件は、Cu管球50kV,300mAで行った。
【0015】
本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体は、例えば、含水酸化硝酸ビスマス及び結晶性アンチモン酸(結晶性五酸化アンチモン)の混合物である。含水酸化硝酸ビスマスは、所定の割合で水酸基及びNO基を含んでおり、例えば、硝酸ビスマス溶液中に、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液を徐々に添加する等、硝酸ビスマスをアルカリで加水分解して合成することができる。含水酸化硝酸ビスマス及び結晶性アンチモン酸の混合比は、適宜設定することができる。
【0016】
また、本発明の原子炉冷却材浄化装置においては、本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体に、ヨウ素イオンを除去する能力を有する他のイオン交換体、ニオブ酸カリウム等の他のイオン成分を除去する能力を有するイオン交換体、浄化材などを混合して用いることができる。
【0017】
本発明の原子炉水ろ過脱塩方法は、上記原子炉冷却材浄化装置を用いて、好ましくは50〜300℃、より好ましくは250〜300℃の炉水を処理することを特徴とする。本発明の方法により処理する炉水は、原子炉の冷却材(炉水)の一部を抜き出したものであり、通常280℃程度の温度であるが、本発明の方法においては、この原子炉から抜き出された炉水を冷却することなくそのまま処理できることから、発電所における熱効率を向上させることができる。
【実施例1】
【0018】
純水にKIを10mM溶解させた溶液10cmに、本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体(商品名:IXE−600(東亞合成株式会社製))0.1gを混合し、50℃にて振とう時間毎の溶液中のヨウ素量を測定した。また、比較例として、本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体に代えて、従来のイオン交換樹脂(Graver Technologies社製 Powdex(登録商標)PAO)、ビスマス系無機イオン交換体(東亞合成株式会社製 IXE−500)、マグネシウム・アルミニウム系無機イオン交換体(東亞合成株式会社製 IXE−700F)を用いて同様の実験を行った。
【0019】
その結果を図2に示す。図2における分配係数(Kd)は、イオン交換体の吸着能力を評価する指標であり、イオン交換体のイオン吸着量を溶液中のイオン濃度で割った値である。すなわち、
Kd=(C0−C)×V/(C×m)
C0:試験前の溶液中のヨウ素濃度
C :試験後の溶液中のヨウ素濃度
V :溶液の体積
m :イオン交換体の重量
で表される。
【0020】
本試験の条件でDF=10(C0=10mM,C=1mM)の場合の分配係数は、
Kd=(1−0.1)×10/(0.1×0.1)≒10cm/g
となり、Kd≧10であることが、原子炉浄化系における性能条件を満足する条件となる。
【0021】
図2に示すように、本発明のビスマス・アンチモン系無機イオン交換体は、炉水浄化系において要求されるイオン除去性能を有しており、現在実際に使用されている従来のイオン交換樹脂と比較しても同等或いはそれ以上の性能を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の原子炉冷却材浄化装置及び原子炉水ろ過脱塩方法は、既存或いは新設の原子炉設備において適用することができ、産業上の利用価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の冷却材である炉水中のヨウ素イオンを除去可能なイオン交換体を備えた原子炉冷却材浄化装置であって、
前記イオン交換体が、CuKα線による粉末X線回折の2θ=14.9±0.2°及び2θ=29.9±0.2°に回折ピークを有するビスマス・アンチモン系無機イオン交換体であることを特徴とする原子炉冷却材浄化装置。
【請求項2】
ビスマス・アンチモン系無機イオン交換体が、2θ=28.6±0.2°、2θ=34.6±0.2°、2θ=37.9±0.2°、2θ=80.8±0.2°,2θ=101.1±0.2°及び2θ=122.8±0.2°に回折ピークをさらに有することを特徴とする請求項1記載の原子炉冷却材浄化装置。
【請求項3】
ビスマス・アンチモン系無機イオン交換体が、含水酸化硝酸ビスマス及び結晶性アンチモン酸の混合物である請求項1又は2記載の原子炉冷却材浄化装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の原子炉冷却材浄化装置を用いて炉水を処理することを特徴とする原子炉水ろ過脱塩方法。
【請求項5】
50〜300℃の炉水を処理することを特徴とする請求項4記載の原子炉水ろ過脱塩方法。
【請求項6】
250〜300℃の炉水を処理することを特徴とする請求項5記載の原子炉水ろ過脱塩方法。
【請求項7】
原子炉からの炉水を冷却することなく処理することを特徴とする請求項4〜6のいずれか記載の原子炉水ろ過脱塩方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate