説明

原子炉制御棒切り離し温度設定方法

【課題】原子炉制御棒切り離し機構において、簡便な切り離し温度設定方法を実現する。
【解決手段】制御棒切り離し機構における電磁石継ぎ手3の継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32の磁気材料の一部を、Ni−Co−Fe系の合金の含有量を重量比で略30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Feの範囲内とし、30Niを維持した状態でCoとFeの量を変化させることにより、切り離し温度を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉における緊急時に制御棒を切り離して炉心に挿入することにより炉を停止させるための原子炉制御棒切り離し温度設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉には、緊急時に制御棒を切り離して炉心に挿入することにより炉を停止させる原子炉緊急停止装置が付設されている。この原子炉緊急停止装置における制御棒切り離し機構は、制御棒を垂下支持して炉心に挿脱する制御棒挿脱駆動機構における垂下支持手段に電磁石継ぎ手を介在させ、前記電磁石継ぎ手の磁心が切り離し設定温度に加熱されて磁性を失うことにより磁気保持力を失って制御棒を切り離す構成である。
【0003】
このような制御棒切り離し機構における電磁石継ぎ手は、通常の原子炉運転状態では所定の磁気保持力を有し、切り離し設定温度に到達すると制御棒を保持することができなくなるように磁性を減少させて保持力を減少させる構成であることが必要である。
【0004】
このような電磁石継ぎ手における磁心の材料として、Ni−Co−Fe系の合金が提案されている。このNi−Co−Fe系の合金は、その含有比によって磁気特性が変化することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−171850号公報
【特許文献2】特開平9−243775号公報
【特許文献3】特開平11−344587号公報
【特許文献4】特開2003−270375号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】文部科学省 原子力分野の研究開発に関する委員会 原子力研究開発作業部会(第5回) 配付資料5-8 共通技術自己作動型停止機構(SASS)の開発
【非特許文献2】日本原子力学会2004年秋の大会 「常陽」における自己作動型炉停止機構(SASS)の炉内実証試験 発表資料 自己作動型炉停止機構(SASS)の概要
【非特許文献3】Nuclear Technology, Vol. 170, pp.181-188 (2010) Development of passive shutdown system for SFR
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような制御棒切り離し機構は、これを付設する原子炉の仕様によって切り離し設定温度が変化することから、その都度、切り離し設定温度に応じてNi−Co−Fe系合金の含有比を変えて多くの試作、試験を行うことによって適合する磁心材料を決める切り離し温度設定方法をとっていた。
【0008】
しかしながら、このような切り離し温度設定方法は、多くの時間と費用を要する方法であり、簡便な切り離し温度設定方法の出現が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、制御棒切り離し機構において、簡便な切り離し温度設定方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、Ni−Co−Fe系の合金は、その含有量の比を変えることによって磁気特性が変化することに着目し、Ni−Co−Fe系の合金の含有量を重量比で略30Ni(Niが30%)−33Co(Coが33%)−Fe〜30Ni−28Co(Coが28%)−Feの範囲内とし、30Niを維持した状態でCoとFeの量を変化させることにより、通常の原子炉運転状態では所定の磁気保持力を有し、切り離し設定温度に到達すると制御棒を保持することができなくなるように磁気保持力を減少させて制御棒を切り離すことができる電磁石継ぎ手の磁心材料を実現するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、制御棒切り離し機構において、電磁石継ぎ手を構成する磁心の磁気材料の一部を、Ni−Co−Fe系の合金の含有量を重量比で略30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Feの範囲内とし、30Niを維持した状態でCoとFeの量を変化させることにより、切り離し温度を設定するようにしたことにより、簡便に切り離し温度を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用する原子炉における制御棒制御機構の模式図である。
【図2】継ぎ手駆動側磁心と継ぎ手従動側磁心として使用する30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Fe合金の磁束密度の温度依存特性図である。
【図3】図2に示した30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Fe合金の各温度依存特性曲線を重ねるようにシフトして示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、挿脱駆動装置によって垂下するように支持する挿脱駆動軸の先に電磁石継ぎ手と挿脱従動軸を介して制御棒を垂下支持する制御棒切り離し機構における原子炉制御棒切り離し温度設定方法において、
Ni−Co−Fe系の合金の含有量を重量比で略30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Feの範囲内とし、30Niを維持した状態でCoとFeの量を変化させることにより、前記電磁石継ぎ手における継ぎ手駆動側磁心と継ぎ手従動側磁心の磁気材料を決めて切り離し温度を設定する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明を適用する原子炉における制御棒制御機構の模式図である。
【0015】
この制御棒制御機構は、挿脱駆動装置1によって垂下するように支持する挿脱駆動軸2の先に、電磁石継ぎ手3と挿脱従動軸4を介して制御棒5を垂下支持する。
【0016】
挿脱駆動装置1は、制御装置6に制御されて挿脱駆動軸2を上下方向に駆動することにより先方の制御棒5を炉心に対して挿脱する。
【0017】
電磁石継ぎ手3は、制御棒切り離し機構を構成するものであり、前記挿脱駆動軸2と一体的となるように結合された継ぎ手駆動側磁心31と、前記挿脱従動軸4と一体結合され、前記継ぎ手駆動側磁心31と電磁吸引力によって吸着結合する継ぎ手従動側磁心32と、前記制御装置6に制御されて前記継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32を励磁する電磁コイル33とを備える。
【0018】
前記挿脱従動軸4は、炉心の制御棒挿入空間に対向させて制御棒5を垂下支持する。
【0019】
前記電磁石継ぎ手3における継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32は、通常の原子炉運転状態では所定の磁気保持力を有して吸着結合し、切り離し設定温度に到達すると制御棒を保持することができなくなるように磁気保持力を減少させて吸着結合力を失って切り離すような磁気特性のNi−Co−Fe系合金で構成する。
【0020】
この制御棒制御機構は、通常、制御装置6により電磁石継ぎ手3を付勢して継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32を吸着結合状態とし、挿脱駆動装置1を制御することによって炉心に対して制御棒5を挿脱する。そして、炉心の温度が所定の温度まで上昇したときには、電磁石継ぎ手3を消勢して継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32を切り離して制御棒5を炉心に落下させることにより原子炉を停止させる。
【0021】
しかしながら、この切り離し制御機能が正常に機能しないときには、炉心の温度が更に上昇する。そして、電磁石継ぎ手3における継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32が切り離し設定温度に到達すると、継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32の間の磁気吸着力が減少することによって継ぎ手従動側磁心32が切り離されることから制御棒5が落下して炉心に挿入される。
【0022】
このような継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32の一部を構成する磁気材料として好ましいNi−Co−Fe系合金は、その含有量が重量比で略30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Feの範囲内のものである。
【0023】
図2は、継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32として使用する30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Fe合金の磁束密度の温度依存特性を示している。400℃〜600℃の間は600℃〜700℃の間の特性に基づいて推定した特性である。
【0024】
図3は、図2に示した30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Fe合金の各温度依存特性曲線(600℃〜700℃)を重ねるようにシフトして示す特性図である。この特性図によれば、各合金の温度依存特性は略同一形状であり、32Co(30Ni−32Co−Fe合金)の温度依存特性曲線を基準にして考察すると、33Coが−7.4℃、31Coが+13.9℃、30Coが+24.7℃、29Coが+45.0℃、28Coが+58.4℃だけ略平行移動した特性であるので、Coの含有量(重量比)を変えることにより、通常の原子炉運転状態では所定の磁気保持力を有して吸着結合し、所定の切り離し設定温度に到達すると制御棒を保持することができなくなるように磁気保持力を減少させて吸着結合力を失って切り離すような磁気特性であることがわかる。
【0025】
このような磁気材料を一部に含んで構成する継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32は、所定の磁気保持力を有して吸着結合する状態から磁気保持力を減少させて吸着結合力を消失させる温度依存性を、30Niを維持した状態で33Co〜28Co(残りはFe)とすることにより、所定の割合で略平行に移行することができる。よって、この温度範囲内における切り離し温度の設定は、非特許文献3に記載のように、Coの含有量(重量比)が32%の32Coを使用した継ぎ手駆動側磁心31と継ぎ手従動側磁心32の電磁石継ぎ手3の切り離し温度が680℃であるとすると、Niの含有量を30%に維持した状態でCoの含有量を33%〜28%の範囲で変えることにより、32Co(切り離し温度が680℃)に対して+7.4℃から−58℃まで、即ち687℃〜622℃の範囲で容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0026】
1…挿脱駆動装置、2…挿脱駆動軸、3…電磁石継ぎ手、31…継ぎ手駆動側磁心、32…継ぎ手従動側磁心、33…電磁コイル、4…挿脱従動軸、5…制御棒、6…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿脱駆動装置によって垂下するように支持する挿脱駆動軸の先に電磁石継ぎ手と挿脱従動軸を介して制御棒を垂下支持する制御棒切り離し機構における原子炉制御棒切り離し温度設定方法において、
Ni−Co−Fe系の合金の含有量を重量比で略30Ni−33Co−Fe〜30Ni−28Co−Feの範囲内とし、30Niを維持した状態でCoとFeの量を変化させることにより、前記電磁石継ぎ手における継ぎ手駆動側磁心と継ぎ手従動側磁心の磁気材料の一部を決めて切り離し温度を設定することを特徴とする原子炉制御棒切り離し温度設定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−122855(P2012−122855A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274027(P2010−274027)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本機械学会「2010年度年次大会講演論文集(3)」2010年9月4日発行
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(307041573)三菱FBRシステムズ株式会社 (13)