説明

原子炉構造部材及びその製造方法

【課題】耐食性、耐水素吸収性を改善した表面層を有する原子炉構造部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表面層10がジルコニウム、ジルコニウム合金、酸化ジルコニウム又はジルコニウム合金酸化物からなる基体と、この基体の表面に設けられた白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層11とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニウム合金又はジルコニウム合金酸化物からなる基体の表面に白金族元素を含む金属の酸化物層を有する原子炉構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウムは、熱中性子吸収断面積が金属中で最も小さく(0.16バーン)、耐食性に優れるので、原子炉材料として重要視され、また、医療機器の耐食材などに用いられている。また、ジルコニウム合金としては、原子炉などの燃料被覆管などに用いられている原子炉規格のものであるジルカロイや、ジルコニウム鉄合金、ジルコニウムニオブ合金、ジルコニウム銅合金、ジルコニウムアルミ合金、ジルコニウムマグネシウム合金などがある。ジルコニウム合金は、熱中性子吸収断面積が小さく、また機械的強度が高く、耐食、耐熱に優れるという特性を有する。
【0003】
一方、酸化ジルコニウム(ジルコニア)は、常温では単斜晶、1170℃で正方晶となり、さらに2370℃で立方晶となるが、正方晶から単斜晶への破壊的な相転移のため、そのままでは焼結体とすることができず、安定化もしくは部分安定化する必要がある。このような安定化もしくは部分安定化ジルコニアは、高強度且つ高靱性特性によりセラミック材料として広範囲な用途が期待されている。
【0004】
このようにジルコニウム並びに酸化ジルコニウムはセラミック材料として広範囲に使用されているが、セラミック自体の特性から、種々の問題がある。例えば、セラミックで構造体を形成する場合、特に比較的大きな構造体とするためには、金属などと比較して肉厚とする必要がある。また、溶射によりコーティング層を形成することができるが、セラミック粒子からなる膜なので、緻密ではないという問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は、ジルコニウムや酸化ジルコニウムの表面に炭素ドープ酸化ジルコニウム皮膜を形成することにより、耐食性や硬度、耐摩耗性、光触媒活性を向上させる技術を開発した(特許文献1、2参照)。
【0006】
しかしながら、原子炉被覆管材などの原子炉構造部材として用いる場合には、さらに、耐食性、耐水素吸収性の改善が要望される。
【0007】
【特許文献1】特開2007−270316号公報
【特許文献2】特開2007−270317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐食性、耐水素吸収性を改善した表面層を有する原子炉構造部材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、所定の条件下で白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層を設けることにより、耐食性、耐水素吸収性を改善することを知見し、本発明を完成させた。
【0010】
かかる本発明は、少なくとも表面層がジルコニウム、ジルコニウム合金、酸化ジルコニウム又はジルコニウム合金酸化物からなる基体と、この基体の表面に設けられた白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層とを具備することを特徴とする原子炉構造部材にある。
【0011】
また、少なくとも表面層がジルコニウム、ジルコニウム合金、ジルコニウム合金酸化物又は酸化ジルコニウムからなる基体の表面に、金属酸化物に変換可能で白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属化合物を含むコーティング液の塗布層を形成し、次いで、この塗布層を有する基体を、酸化性雰囲気中で高温酸化処理することにより前記少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層を表面に有する基体とすることを特徴とする原子炉構造部材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の原子炉構造部材は、耐食性、耐水素吸収性に優れたものであり、原子炉構造部材として広い用途に有意に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の多機能材の製造プロセスを説明する概略図である。
【図2】本発明のオートクレーブ腐食試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の原子炉構造部材は、例えば、少なくとも表面層がジルコニウム、ジルコニウム合金、酸化ジルコニウム又はジルコニウム合金酸化物からなる基体の表面に、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層を設けたものである。
【0015】
かかる原子炉構造部材は、少なくとも白金族元素を含む金属の金属酸化物層を設けたことにより、耐食性、耐水素吸収性が向上したものである。
【0016】
本発明の金属酸化物層は、金属酸化物に変換可能な白金族元素を含む金属化合物のコーティング液を塗布して塗布層を形成し、これを、酸化性雰囲気中で高温酸化処理することにより、コーティング液中の白金族元素以外の成分を除去しつつ、白金族元素を含む金属の酸化物層を形成することができる。ここで、酸化物層中の白金族金属が、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムの場合には酸化物として存在するが、白金は酸化されずに金属として存在すると推測される。なお、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素のうち、イリジウムは中性子吸収断面積が大きいことから原子炉被覆管などの用途には好適ではない。
【0017】
このプロセスを図示すると図1のようになる。図に示すように、基体のジルコニウム、ジルコニウム合金、ジルコニウム合金酸化物又は酸化ジルコニウムからなる表面層10上に、金属酸化物に変換可能で少なくとも白金族元素を含む金属化合物を含むコーティング液の塗布層11を形成した後、酸化性雰囲気中で高温酸化処理12を行う(図1(a)参照)。これにより、塗布層11は酸化されて白金を含む金属の酸化物層13となる。
【0018】
ここで、金属酸化物に変換可能な白金族元素を含む金属化合物のコーティング液は、例えば、白金族元素を含む金属の塩、アルコキシドなどの金属化合物の溶液である。
【0019】
また、このようなコーティング液の塗布層は、浸漬、刷毛塗り、スピンコートなどの各種塗布法により形成することができる。
【0020】
ここで、塗布層の形成前に、基体の比表面積を増大させる処理を施してもよい。例えば、20%沸騰塩酸などを用いて、例えば、20分間程度のエッチング処理を行うことにより、比表面積を増大させることができる。
【0021】
また、塗布層が良好に形成でき、金属酸化物層の密着性を向上させるため、比表面積を増大させた後、又はかかる処理を行わないで、例えば、大気中で500〜550℃で加熱処理してもよい。
【0022】
このように形成した塗布層は、酸化性雰囲気中で高温酸化処理することにより、金属酸化物層に変換することができる。酸化性雰囲気とは酸素を含む雰囲気をいい、好適には大気中で行えばよい。
【0023】
高温酸化処理は、金属化合物を金属酸化物に変換し、コーティング溶液中の白金以外の成分を除去する条件で行えばよく、例えば、200〜1100℃、好ましくは400〜660℃の温度で、2分〜18時間の条件で行えばよい。
【0024】
なお、金属酸化物層は、密着性を向上させるため、塗布層の形成及び高温酸化処理を複数回繰り返し行って形成してもよい。
【実施例】
【0025】
試験片として、ジルカロイ2(ジルコニウム合金, Zircaloy-2)板材を用いておこなった。組成分析の結果、ジルコニウム98.25w%、スズ1.45w%、クロム0.10w%、鉄0.135w%、ニッケル0.055w%、ハフニウム0.01w%であった。また、圧延後の最終焼鈍は真空中で580℃、2時間実施した。試験片寸法は、幅20mm×長さ30mm×厚さ0.6mmである。
【0026】
試験前に、以下の洗浄と乾燥を実施した。まず、超音波洗浄機を用いてアセトン中で10分間の脱脂、その後エタノール中で10分間、水中で10分間、最終的に50℃の恒温槽で4時間乾燥させた。
【0027】
(実施例1)
まず、比表面積を増大させるため、20%沸騰塩酸に試験片を浸漬し、20分間のエッチング処理を行う。これを、純水で塩酸の掛け流し洗いを行い、乾燥器にて60℃で水分を蒸発させる。
【0028】
次いで、白金族元素コーティング液を塗りやすくし、密着性を高めるために、予め520℃に加熱した電気炉に入れ、15分間大気酸化処理を行い、所定時間経過後、試料片を取り出し、空冷する。
【0029】
次に、試験片に白金族元素コーティング液である1mol/Lの塩化白金酸溶液をはけ塗りする。そして、治具でコーティング面に触れないようにして、10分間常温にて乾燥させる。次に、10分経過後、乾燥機(60℃)に入れ、さらに10分乾燥させる。
【0030】
次に、予め520℃に加熱した電気炉に入れ、500℃にて2時間保持する大気加熱形成処理を行い、電気炉から取り出して空冷する。
【0031】
白金族元素コーティング液の塗布の工程に戻り、4回を繰り返し、金属酸化物層とした。
【0032】
(オートクレーブ腐食試験)
容量900mlの静置式オートクレーブに水を約500ml入れて、実施例1並びに未処理試験片(標準品)を水中に浸漬させた。脱気後に温度約360℃、圧力18.7MPaに昇温昇圧した。試験の前後にて腐食重量増を測定した。
【0033】
図2に静置式オートクレーブにて、360℃で所定日時維持した後の腐食重量増を示す。縦軸に単位面積当たりの重量増加を、横軸に腐食時間(360℃保持時間)を示す。また、Hillner E.(ASTM STP633,211(1977))に基づいた実験式を図2に示す。
【0034】
実施例1のように白金族元素コーティング液の塗布層を形成した後、大気中で高温酸化処理を行うことで、未処理材(標準品)と比較しても腐食重量増を大幅に低減させる相乗効果が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面層がジルコニウム、ジルコニウム合金、酸化ジルコニウム又はジルコニウム合金酸化物からなる基体と、この基体の表面に設けられた白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層とを具備することを特徴とする原子炉構造部材。
【請求項2】
請求項1記載の原子炉構造部材において、
前記基体がジルカロイ、ジルコニウム鉄合金、ジルコニウム銅合金、ジルコニウムニオブ合金、ジルコニウムスズ合金、ジルコニウムアルミ合金、ジルコニウムマグネシウム合金から選択されるジルコニウム合金であることを特徴とする原子炉構造部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の原子炉構造部材において、
原子炉被覆管材、または被覆管支持部材、チャンネルボックス、制御棒案内管材であることを特徴とする原子炉構造部材。
【請求項4】
少なくとも表面層がジルコニウム、ジルコニウム合金、ジルコニウム合金酸化物又は酸化ジルコニウムからなる基体の表面に、金属酸化物に変換可能で白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムからなる白金族元素から選択される少なくとも一種の白金族元素を含む金属化合物を含むコーティング液の塗布層を形成し、
次いで、この塗布層を有する基体を、酸化性雰囲気中で高温酸化処理することにより前記少なくとも一種の白金族元素を含む金属の酸化物層を表面に有する基体とすることを特徴とする原子炉構造部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の原子炉構造部材の製造方法において、
前記酸化性雰囲気中は、大気中であることを特徴とする原子炉構造部材の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の原子炉構造部材の製造方法において、
前記高温酸化処理は、200℃〜1100℃で行うことを特徴とする原子炉構造部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−149969(P2012−149969A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8252(P2011−8252)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)