説明

原子炉水の核種分析方法、及び装置

【課題】原子炉水中に含まれる放射性核種の定量精度を向上させる原子炉水の核種分析技術を提供する。
【解決手段】原子炉水の核種分析方法が、原子炉水を採取してフィルタに通過させる工程(S11)と、核種が捕集された前記フィルタを水酸化アルカリ及び硝酸アルカリとともに加熱する工程(S15)と、前記加熱による生成物質を水に溶解させる工程(S16)と、少なくとも放射性塩素及び放射性ヨウ素が前記水に溶解している第1ろ液と前記水に不溶の第1沈殿物とを分離する工程(S17)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所(原子力施設)の原子炉水中に含まれる放射性核種の分析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所(原子力施設)で循環する原子炉水中には、核分裂生成物、放射化物等、さまざまな種類の核種が含まれる。そして、この原子炉水に含まれる核種の各々について正確な定量分析を行うことが求められている。
これは、原子力施設で発生する廃棄物は、原子炉水に由来するものが多く、廃棄処分する際は、必要な核種の放射能濃度や核種組成を明確にした廃棄確認申請を行う必要があるからである。
【0003】
そして、原子炉水に含まれる放射性核種のなかには、塩素36(36Cl)のように半減期が3.01×105年と長く、被爆評価において大きな影響を与えるものがある。また将来的に、放射能濃度や核種組成の明確化が要求される可能性のある核種も多くある。
しかし、原子炉水に含まれる放射性核種の分析手法は確立しているとはいえず、正確な定量方法の確立が急がれる核種も存在する。
【0004】
また、原子炉水に含まれる放射性核種は、少量多種であるために、メンブレンフィルタ、陽イオン交換フィルタ及び陰イオン交換フィルタを組み合わせて使用し、それら放射性核種を濃縮して捕集している。このようにしてフィルタ上に濃縮捕集された核種の分析は、これらを溶液化した後に分析対象の核種を分離回収する前処理を実施したうえで、核種毎に定量測定を実施している(例えば、特許文献1−3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第318717号公報
【特許文献2】特開平8−75681号公報
【特許文献3】特公平3−31379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の原子炉水の核種分析の前処理では、核種を捕集したフィルタを燃焼したうえで酸分解等することにより溶液化を行っていた。この場合、燃焼時や酸分解時の揮散により、放射性核種の回収率が低下する課題があった。
また、そのような燃焼時の揮発が懸念される放射性核種については、水酸化ナトリウムを用いたアルカリ融解を行っていた。この場合、捕集フィルタに由来する炭化物への吸着により、放射性核種の回収率が低下する課題があった。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、原子炉水中に含まれる放射性核種の定量精度を向上させる原子炉水の核種分析技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る原子炉水の核種分析方法は、原子炉水を採取してフィルタに通過させる工程と、核種が捕集された前記フィルタを水酸化アルカリ及び硝酸アルカリとともに加熱する工程と、前記加熱による生成物質を水に溶解させる工程と、少なくとも放射性塩素及び放射性ヨウ素が前記水に溶解している第1ろ液と前記水に不溶の第1沈殿物とを分離する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、原子炉水中に含まれる放射性核種の定量精度を向上させる原子炉水の核種分析技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る原子炉水の核種分析装置が適用される原子力発電所の簡略ブロック図。
【図2】本実施形態に係る原子炉水の核種分析装置におけるフィルタカートリッジを示す分解斜視図。
【図3】本実施形態に係る原子炉水の核種分析方法の工程図。
【図4】本実施形態に係る原子炉水の核種分析方法による放射性核種の回収率を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように原子力発電所10は、放射性物質の核分裂反応熱により原子炉水12を高温高圧の蒸気にする原子炉11と、この高温高圧の蒸気を主蒸気管13を経由して入力しこの蒸気の熱エネルギーを回転運動エネルギーに変換するタービン14と、この回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機15と、熱エネルギーを失った蒸気を冷却して水にする復水器16と、この水を原子炉11に戻す給水管17と、この給水管17から分岐して設けられるサンプリング部18と、を備えている。
【0012】
このサンプリング部18は、開閉動作により、給水管17を流動する水(原子炉水12)を採取する開閉弁19と、この採取した原子炉水12を通過させてこの原子炉水12に含まれる核種を捕集するフィルタカートリッジ20と、を備えている。
【0013】
このフィルタカートリッジ20は、図2に示すように、メンブレンフィルタ21a、陽イオン交換フィルタ21b及び陰イオン交換フィルタ21cが積層してなるフィルタ21と、開閉弁19側から原子炉水12を導入する導入口22を有する上面ケース23と、この導入口22に連通するフィルタ21の支持空間を形成する支持片25と、フィルタ21を通過した原子炉水12を外部に導く導出口(図示略)を有する下面ケース24と、フィルタ21の支持空間が密閉化するように上面ケース23及び下面ケース24を締結する締結部材26と、を備えている。
【0014】
図3を参照して本実施形態に係る原子炉水の核種分析方法の工程を説明する(適宜、図1参照)。
ここで、原子炉水12に含まれる放射性核種のうち分析対象とする核種は、放射性塩素(36Cl)、放射性ヨウ素(129I)及び放射性セシウム(134Cs,137Cs)であるとする。
ちなみに、放射性塩素(36Cl)の半減期は3.01×105年であり、放射性ヨウ素(129I)の半減期は1.57×107年であり、放射性セシウム(134Cs)の半減期は、2.06年であり、放射性セシウム(137Cs)の半減期は、30.1年である。
【0015】
図3に示すように、原子炉水の核種分析を行う場合、まず開閉弁19を開いて給水管17から原子炉水12を採取してフィルタ21に通過させる(S11)。この原子炉水12に含まれる核種の捕集されたフィルタ21をフィルタカートリッジ20から取り外し、ニッケル製るつぼに、水酸化アルカリ及び硝酸アルカリとともに投入し(S13)、700℃に加熱して融解させる(S15)。
この水酸化アルカリ及び硝酸アルカリの融解剤は、フィルタ21に対し約10倍量が投入される。
【0016】
ここで、使用される水酸化アルカリとしては、具体的に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、使用される硝酸アルカリとしては、具体的に、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
水酸化ナトリウム及び硝酸ナトリウムを用いた場合は、加熱融解工程(S15)において次式(1)に示される化学反応が進行する。この式において炭素元素(C)は、フィルタ21に由来するものである。
C + 2NaOH + 2NaNO3→Na2CO3 + 2NaNO2 +H2O (1)
【0018】
また、水酸化カリウム及び硝酸カリウムを用いた場合は、加熱融解工程(S15)において次式(2)に示される化学反応が進行する。この式において炭素元素(C)は、フィルタ21に由来するものである。
C + 2KOH + 2KNO3→K2CO3 + 2KNO2 +H2O (2)
【0019】
この(1)(2)の化学反応式に基づいてフィルタ21が酸化分解されるために、揮発しやすい酸性の放射性塩素及び放射性ヨウ素は、アルカリ性の溶液中に固定され、気相への放出が抑制される。
【0020】
なお、加熱融解工程(S15)を経る前に、塩素イオン、ヨウ素イオン及びセシウムイオンを投入する(S12)。このように、元素イオンを追加添加することにより、もともと原子炉水12における存在量の少ない放射性核種に対し、上記(1)(2)式の化学反応を高効率で成立させることができる。
なお、放射性塩素、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの全てを分析対象としない場合は、分析対象となる放射性元素の元素イオンのみを投入すればよい。
【0021】
るつぼを冷却したのち、水を混合し、加熱融解工程(S15)の生成物質を溶解させる(S16)。そして、この生成物質のうち水に溶解した成分を含む第1ろ液と、この水に不溶の成分からなる第1沈殿物とを、ろ過分離する(S17)。
ここで、分析対象である放射性塩素、放射性ヨウ素及び放射性セシウムといった核種は第1ろ液側に移行し、その他の核種は第1沈殿物側に以降する。
【0022】
なお、加熱融解工程(S15)を経る前に、2価又は3価の鉄化合物を共沈剤として添加する(S14)。このような共沈剤を追加添加することにより、水溶解工程(S16)において、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)といった遷移金属元素及び希土類元素が第1沈殿物側に移行することを促進する。
なお、共沈剤として添加された2価又は3価の鉄化合物は鉄水酸化物または酸化物として第1沈殿物側に移行する。
ここで、2価の鉄化合物としてはFeSO4,Fe(NO3)2、3価の鉄化合物としてはFe2(SO4)3,Fe(NO3)3等があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
次に、第1ろ液に含まれる放射性塩素、放射性ヨウ素及び放射性セシウムをそれぞれに分離する。
この第1ろ液に硝酸もしくは硫酸を投入し第1ろ液の酸濃度を調整する(S18)。そして、酸濃度を調整した第1ろ液に、硝酸銀もしくは硫酸銀を沈殿剤として投入する(S19)。
【0024】
この沈殿剤投入工程(S19)において、次式(3)(4)に示される化学反応が進行し、放射性セシウムを含む第2ろ液と、放射性塩素の銀塩化合物及び放射性ヨウ素の銀塩化合物を含む第2沈殿物と、に分離する(S20)。
Ag+ + Cl- → AgCl ↓ (3)
Ag+ + I- → AgI ↓ (4)
【0025】
そして、分離された第2沈殿物は、イオン交換又は溶媒抽出といった公知の方法によりこれら二種類の銀塩化合物が分離され(S21)、放射性塩素及び放射性ヨウ素がそれぞれ定量される。
さらに、第2ろ液にリンモリブデン酸アンモニウムを添加して放射性セシウムを分離し(S22)、定量を行う。
なお、放射性塩素、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの定量は、それぞれを含む分離回収物のβ線測定をすることにより求めることができる。
【0026】
図4に示す表は、本実施形態による原子炉水に含まれる放射性核種の回収率の結果である。放射性塩素において88.1%、放射性ヨウ素において78.6%、放射性セシウムにおいて93.1%という結果が得られた。
このように本実施形態により、一回の原子炉水12の採取と、一連の工程により、含まれる放射性塩素、放射性ヨウ素、放射性セシウムを高精度で定量することができる。
【0027】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
また、原子炉水に放射性セシウムが含まれていない場合等は、S18−S20,S22を省略して、放射性塩素及び放射性ヨウ素をそれぞれ定量することができる。さらに、原子炉水に放射性塩素及び放射性ヨウ素のいずれか一方が含まれていない場合は、S21を省略して他方を定量することができる。
また、それぞれの工程を実行する手段をそれぞれ組み合わせた原子炉水の核種分析装置として実現することもできる。
【符号の説明】
【0028】
10…原子力発電所、11…原子炉、12…原子炉水、13…主蒸気管、14…タービン、15…発電機、16…復水器、17…給水管、18…サンプリング部、19…開閉弁、20…フィルタカートリッジ、21…フィルタ、21a…メンブレンフィルタ、21b…陽イオン交換フィルタ、21c…陰イオン交換フィルタ、22…導入口、23…上面ケース、24…下面ケース、25…支持片、26…締結部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉水を採取してフィルタに通過させる工程と、
核種が捕集された前記フィルタを水酸化アルカリ及び硝酸アルカリとともに加熱する工程と、
前記加熱による生成物質を水に溶解させる工程と、
少なくとも放射性塩素及び放射性ヨウ素が前記水に溶解している第1ろ液と前記水に不溶の第1沈殿物とを分離する工程と、を含むことを特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉水の核種分析方法において、
酸濃度を調整した前記第1ろ液に沈殿剤を投入し放射性セシウムを含む第2ろ液と前記放射性塩素及び放射性ヨウ素を含む第2沈殿物とに分離する工程と、を含むことを特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子炉水の核種分析方法において、
前記水酸化アルカリは、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのいずれかであること、を特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の原子炉水の核種分析方法において、
前記硝酸アルカリは、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムのいずれかであること、を特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の原子炉水の核種分析方法において、
前記加熱する工程を経る前に、塩素イオン、ヨウ素イオン及びセシウムイオンのうち少なくとも一つを投入する工程を含むことを特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の原子炉水の核種分析方法において、
前記加熱する工程を経る前に、2価又は3価の鉄化合物を共沈剤として添加する工程を含むことを特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の原子炉水の核種分析方法において、
前記第2ろ液にリンモリブデン酸アンモニウムを添加して放射性セシウムを分離することを特徴とする原子炉水の核種分析方法。
【請求項8】
原子炉水を採取してフィルタに通過させる手段と、
核種が捕集された前記フィルタを水酸化アルカリ及び硝酸アルカリとともに加熱する手段と、
前記加熱による生成物質を水に溶解させる手段と、
少なくとも放射性塩素及び放射性ヨウ素が前記水に溶解している第1ろ液と前記水に不溶の第1沈殿物とを分離する手段と、を備えることを特徴とする原子炉水の核種分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−150044(P2012−150044A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9794(P2011−9794)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】