説明

原子炉水位計測システム

【課題】原子炉圧力容器全体を通して水位計測が可能である原子炉水位計測システムを提供する。
【解決手段】圧力容器2の蒸気領域に接続された凝縮槽11と、凝縮槽11に一端が接続された基準配管21と、圧力容器2に一端が接続された変動配管22〜24と、基準配管21および変動配管22〜24の他端と接続され、基準配管21および変動配管22〜24の水頭差を検出する差圧式水位計31〜34と、圧力容器2の水位を検出する非差圧式水位計35、36と、格納容器4または圧力容器2の状態に基づいて、差圧式水位計31〜34または非差圧式水位計35、36を選択し、選択された水位計の検出結果に基づいて圧力容器2の水位を指示・記録する演算装置20とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内の水位を計測する原子炉水位計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、用途に応じて校正された、異なる計測範囲を有する複数の水位計を有する。従来、特許文献1に開示されたガンマサーモメータを用いた水位計測装置や、差圧を利用して水位を計測する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−39083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら水位計の計測範囲は、オーバーラップするように設けられる。しかし、校正条件の違いから、プラントの状態によって複数の水位計が異なる水位指示値を示す場合がある。これに伴い、過渡時や事故時などのプラントの状態が大きく変化する場合においては、運転員が各水位計の用途を認識した上で水位を読み取る必要がある。
【0005】
また、水位計は、事故時を考慮して燃料有効下端レベルまで計測できるように設計されているものの、苛酷事故時においては、従来の水位計では想定されていない計測不可能な地点まで水位が低下する恐れがある。
【0006】
さらに、炉心冠水確認用として燃料域水位計が用いられるが、水位計の設計条件を上回る原子炉格納容器内の温度上昇の影響を受けた場合には、燃料域水位計では計測不能となる事象が発生する恐れがある。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、原子炉圧力容器全体を通して水位計測が可能である原子炉水位計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る原子炉水位計測システムは、上述した課題を解決するために、原子炉格納容器に格納された原子炉圧力容器の蒸気領域に接続された凝縮槽と、前記凝縮槽に一端が接続された基準水柱計装配管と、前記原子炉圧力容器に一端が接続された第1の変動水柱計装配管と、前記基準水柱計装配管および前記第1の変動水柱計装配管の他端と接続され、前記基準水柱計装配管および前記第1の変動水柱計装配管の水頭差を検出する差圧計測式の第1の水位計と、前記第1の水位計とは異なる構成を有し、前記原子炉圧力容器の水位を検出する第2の水位計と、前記原子炉格納容器または前記原子炉圧力容器の状態に基づいて、前記第1の水位計または前記第2の水位計を選択し、選択された水位計の検出結果に基づいて前記原子炉圧力容器の水位を指示・記録する演算装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る原子炉水位計測システムにおいては、原子炉圧力容器全体を通して水位を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る原子炉水位計測システムの第1実施形態を示す構成図。
【図2】原子炉圧力低下時における選択処理を説明するフローチャート。
【図3】原子炉水位低下時における選択処理を説明するフローチャート。
【図4】TAFより水位低下時における選択処理を説明するフローチャート。
【図5】本発明に係る原子炉水位計測システムの第2実施形態を示す構成図。
【図6】第2実施形態の水位計測システムの第1の変形例としての水位計測システムの構成図。
【図7】第2実施形態の水位計測システムの第2の変形例としての水位計測システムの構成図。
【図8】第1実施形態の水位計測システムの第1の変形例としての水位計測システムの構成図。
【図9】第1実施形態の水位計測システムの第2の変形例としての水位計測システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る原子炉水位計測システムの実施形態を添付図面に基づいて説明する。各実施形態においては、本発明に係る原子炉水位計測システムを沸騰水型原子炉に適用して説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る原子炉水位計測システムの第1実施形態を示す構成図である。
【0013】
原子炉水位計測システム(水位計測システム)1の計測対象となる原子炉圧力容器(圧力容器)2は、炉心3を収容する。また、圧力容器2は、原子炉格納容器(格納容器)4に格納される。圧力容器2は、側面において凝縮槽11および検出タップ12〜14を有する。
【0014】
凝縮槽11は、格納容器4内に設けられ、圧力容器2の蒸気領域に接続される。凝縮槽11は、底部において基準水柱計装配管(基準配管)21と接続され、水位検出時に基準水頭を与える。検出タップ12〜14は、差圧式水位計31〜34の計測範囲に応じて圧力容器2の所定位置にそれぞれ設けられる。第1の変動水柱計装配管としての変動水柱計装配管(変動配管)22〜24は、これら検出タップ12〜14を介して圧力容器2に一端が接続される。基準配管21および変動配管22〜24は、格納容器4外まで伸びており、それぞれ格納容器4外で差圧式水位計31〜34と他端が接続される。
【0015】
差圧式水位計31〜34は、狭帯域原子炉水位計31、広帯域原子炉水位計32、燃料域原子炉水位計33および定検時水張り用原子炉水位計34である。差圧式水位計31〜34は、基準配管21および変動配管22〜24の水頭差を検出する。
【0016】
狭帯域原子炉水位計(狭帯域水位計)31は、通常運転状態および過渡状態を含む状態で予測される、水位変動が狭い範囲の水位を計測する。広帯域原子炉水位計(広帯域水位計)32は、異常な過渡変化時や事故時を含む状態で予測される、狭帯域水位計31の計測範囲より広い範囲の水位を計測する。燃料域原子炉水位計(燃料域水位計)33は、事故後を含む状態で、広帯域水位計32の計測範囲より低い水位を計測し、例えば炉心冠水確認用として用いられる。定検時水張り用原子炉水位計(定検時水張り用水位計)34は、原子力発電プラントの定期検査時に想定される水位である燃料上部から原子炉ウェルまでの水位を計測する。
【0017】
原子炉の運転状態に応じて原子炉圧力および温度は異なるため、水頭水などの比容積は変動する。従って正確な水位を計測するためには、この比容積などを補正する必要が生じる。このため、差圧式水位計31〜34は、原子炉の状態に基づき校正が行われる。例えば、狭帯域水位計31および広帯域水位計32は、定格運転時における圧力および温度を校正条件として用いる。燃料域水位計33および定検時水張り用原子炉水位計34は大気圧で校正される。
【0018】
圧力容器2内には、原子炉内非差圧式水位計35が設けられる。原子炉内非差圧式水位計35は、差圧式水位計31〜34とは異なる構成および方式を有する第2の水位計であり、例えばガンマ線などによる温度差を用いて水位を検出するガンマサーモメータである。ガンマサーモメータは、ガンマ線を用いて水位を検出するだけでなく、ガンマサーモメータに設けられたヒータを熱源として、水の有無による温度差から水位を検出することができる。このため事故時等でガンマ線によるガンマヒーティングの効果が期待できなくなった場合であってもヒータを熱源として水位検出ができる。原子炉内非差圧式水位計35は、炉心3を囲む炉心シュラウド内や炉心シュラウド外に設けられる。
【0019】
圧力容器2外であって格納容器4内には、原子炉外非差圧式水位計36が設けられる。原子炉外非差圧式水位計36は、差圧式水位計31〜34とは異なる構成を有する第2の水位計であり、例えばガンマ線、中性子線、超音波を用いて水位を検出する水位計である。
【0020】
原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36(非差圧式水位計35、36)は、差圧式水位計31〜34の水位計測範囲と重複して水位の計測が可能であり、かつ燃料域水位計33が計測可能な範囲より低い水位である、燃料有効長下端より低い圧力容器2底部の水位まで検出できる。非差圧式水位計35、36は、圧力容器2内外に複数本、多区分に設けられ、また、上下方向に亘って複数の検出点で水位を計測することが好ましい。炉心3が損傷した際に水位計も損傷する恐れがあるが、複数の検出点を設けることにより出力に異常のない水位計により炉水が内包されていることを確認できる。
【0021】
格納容器4内には、圧力容器2のプロセス状態を検出するための種々の計測機器が設けられる。例えば、原子炉圧力計(圧力計)41は、格納容器4外であって基準配管21に接続され、圧力容器2の圧力を計測する。第1の温度計42は、格納容器4内のドライウェル5に設けられ、ドライウェル5の雰囲気温度を検出する。第2の温度計43は、格納容器4内であって凝縮槽11付近の基準配管21の表面に設けられ、凝縮槽11付近の基準配管21の表面温度を計測する。第3の温度計44は、格納容器4内であって燃料域水位計33と接続される変動配管24の表面に設けられ、変動配管24の表面温度を計測する。
【0022】
これら差圧式水位計31〜34、非差圧式水位計35、36、圧力計41、および温度計42〜44は、演算装置20に接続されており、得られた検出結果を演算装置20に出力する。演算装置20は、各計測機器より送信される検出結果から水位、圧力、温度などを指示・記録する。演算装置20には、表示装置および入力装置が接続される。演算装置20は、取得した指示値を表示装置に表示したり、入力装置を介して演算装置20への入力を行ったりする。
【0023】
演算装置20は、格納容器4または圧力容器2の状態を検出し、検出された状態に基づいて差圧式水位計31〜34および非差圧式水位計35、36の中から水位の指示・記録に用いる水位計を選択する。以下、演算装置20が水位計を選択する際の処理として、原子炉圧力低下時、原子炉水位低下時、および燃料有効長上端(TAF)より水位低下時における選択処理を説明する。
【0024】
図2は、原子炉圧力低下時における選択処理を説明するフローチャートである。この原子炉圧力低下時における選択処理は、過渡時および事故時の原子炉の減圧過程において想定される処理である。
【0025】
ステップS1において、演算装置20は、第1の温度計42よりドライウェル5の雰囲気温度、および圧力計41で計測される原子炉圧力より原子炉圧力飽和温度を取得し、比較する。ステップS2において、演算装置20は、ドライウェル5の雰囲気温度が原子炉圧力飽和温度より大きいか否かを判定する。
【0026】
ドライウェル5の雰囲気温度の方が大きい場合、差圧式水位計31〜34と接続された基準配管21の内包水が蒸発する恐れがある。このため、演算装置20は、ドライウェル5の雰囲気温度の方が大きいと判定した場合、ステップS3において、差圧式水位計31〜34による水位計測が不能であるか否かの判定を行う。例えば、演算装置20は、複数チャンネルの差圧式水位計31〜34から得られる指示値の履歴を記録し、ばらつきの増大などから異常の有無を検出する。
【0027】
演算装置20は、差圧式水位計31〜34では水位の計測が不能であると判断した場合、ステップS4において、原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36の少なくとも一方を選択する。演算装置20は、以降においては水位の指示値に非差圧式水位計35、36を用いて水位を計測し運転員へ出力する。
【0028】
なお、温度比較ステップS2または計測可否判定ステップS3において、原子炉圧力飽和温度はドライウェル雰囲気温度以上であると判定された場合(ステップS2のNO)、または差圧式水位計が計測可能であると判定された場合(ステップS3のNO)については、引き続き差圧式水位計31〜34により水位が計測される。
【0029】
このような水位計測システム1は、差圧式水位計31〜34が計測不能な場合であっても、圧力容器2および格納容器4の状態に基づいて非差圧式水位計35、36に自動で切替え、過渡時および事故時においても原子炉水位を計測可能とする。これにより、水位計測システム1は、差圧式とは異なる方式であって信頼性が確保できる水位計で水位を計測でき、計測に多様性を確保することができる。
【0030】
次に、原子炉水位低下時における選択処理について説明する。
【0031】
図3は、原子炉水位低下時における選択処理を説明するフローチャートである。この原子炉水位低下時における選択処理は、過渡時および事故時の原子炉の水位低下過程において想定される処理である。
【0032】
ステップS11において、演算装置20は、原子炉水位が予め設定された設定水位(例えばL−2やL−1.5)より小さいか否かを判定する。このとき、演算装置20は、広帯域水位計32の指示値を用いて判定する。演算装置20は、原子炉水位が設定水位以上であると判定した場合には、引き続き現在選択中の水位計を用いて水位を指示・記録する。
【0033】
演算装置20は、原子炉水位が設定水位より小さいと判定した場合、ステップS12において、圧力計41より得られた原子炉圧力と予め設定された設定圧力(例えば50kPa)とを比較し、原子炉圧力の方が小さいか否かの判定を行う。演算装置20は、原子炉圧力が設定圧力以上であると判定した場合、引き続き現在選択中の水位計を用いて水位を指示・記録する。
【0034】
演算装置20は原子炉圧力の方が小さいと判定した場合、ステップS13において、燃料域水位計33を選択する。ステップS14において、演算装置20は、燃料域水位計33による水位計測が可能であるか否かの判定を行う。例えば、演算装置20は、燃料域水位計33の指示値の変動を観察する。演算装置20は、変動が検出されない場合には基準配管21の内包水に蒸発または漏えいなどの異常が発生している恐れがあるため、計測不能であると判定する。また、水位が燃料域水位計33の計測範囲の下限を下回った場合、演算装置20は計測不能であると判定する。
【0035】
演算装置20は、燃料域水位計33による水位計測が可能であると判定した場合には、引き続き燃料域水位計33により水位を指示・記録する。演算装置20は、燃料域水位計33では水位の計測が不能であると判断した場合、ステップS15において、原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36の少なくとも一方を選択する。演算装置20は、以降においては非差圧式水位計35、36を用いて水位を指示・記録する。
【0036】
ここで、原子炉内非差圧式水位計35が炉心シュラウド内に設けられる場合、燃料域水位計33は炉心シュラウド外の水位を計測するのに対し、原子炉内非差圧式水位計35は炉心シュラウド内の水位を計測することになる。このため、演算装置20は、原子炉内非差圧式水位計35で得られた水位を指示値として用いる場合には、炉心シュラウド内の水位である旨を併せて出力するのが好ましい。運転員は、水位指示値が炉心シュラウド内か炉心シュラウド外かを確認できることで、監視領域が変更となったことを容易に判断できる。
【0037】
また、原子炉内非差圧式水位計35が炉心シュラウド内に複数箇所設置された場合において、いずれかの原子炉内非差圧式水位計35に異常が検出された場合、演算装置20は異常が検出された水位計以外の水位計の検出結果に基づいて圧力容器2の水位を指示・記録する。これにより、水位計測システム1は、正常な原子炉内非差圧式水位計35の設置場所には、炉水があることを確認できる。
【0038】
このような水位計測システム1は、原子炉水位および原子炉圧力が設定水位および設定圧力よりも小さくなった場合には、異常過渡時や事故時条件である大気圧で校正された燃料域水位計33を選択する。これにより、水位計測システム1は、原子炉圧力による指示差影響を充分に排除でき、燃料有効長上端(TAF)の水位を精度よく監視できる。
【0039】
また、水位計測システム1は、燃料域水位計33による水位の計測が不可能である場合には、非差圧式水位計35、36を選択することで原子炉水位の指示の信頼性を確保できる。すなわち、原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36は、燃料域水位計33の計測範囲の下限以下の水位を検出できるように構成されたため、過渡時および事故時に原子炉水位が低下し、燃料域水位計33の水位指示が計測範囲の下限を下回った場合であっても計測範囲の拡大が図れ、水位の確認が容易となる。
【0040】
次に、TAFより水位が低下した場合における選択処理について説明する。
【0041】
図4は、TAFより水位低下時における選択処理を説明するフローチャートである。このTAFより水位低下時における選択処理は、例えば図3の水位低下時における選択処理の後、炉心3の再冠水を確認する際に想定される処理である。
【0042】
過渡時および事故時に原子炉水位が低下し、演算装置20はTAFを下回ったことを検出した場合、ステップS21において、演算装置20は、燃料域水位計33による水位の計測が可能か否かの判定を行う。具体的には、燃料域水位計33と接続された基準配管21および変動配管24に水張りが行われた結果、燃料域水位計33で水位計測が可能となったか否かの判定を行う。
【0043】
演算装置20は、燃料域水位計33で水位計測が可能であると判定した場合、ステップS22において、燃料域水位計33を選択し水位の指示・記録に用いる。演算装置20は、燃料域水位計33から得られる水位である炉心シュラウド外の水位で、炉心3の再冠水を確認することができる。
【0044】
一方、演算装置20は、燃料域水位計33による水位計測が不可能であると判定した場合、すなわち基準配管21および変動配管24に水張りが行われず燃料域水位計33の信頼性が低い場合、ステップS23において、原子炉圧力は設定圧力(例えば50kPa)より大きいか否かの判定を行う。
【0045】
演算装置20は、原子炉圧力は設定圧力より大きいと判定した場合、ステップS24において、原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36の少なくとも一方を選択する。演算装置20は、以降においては水位の指示値に非差圧式水位計35、36を用いて水位を計測し運転員へ出力する。演算装置20は、非差圧式水位計35、36の出力を用いることで、炉心3の再冠水を確認する。
【0046】
一方、演算装置20は、圧力判定ステップS23において原子炉圧力は設定圧力以下であると判定した場合、ステップS25において、広帯域水位計32および定検時水張り用水位計34の履歴を記録し、出力に変動があるか否かの判定を行う。
【0047】
演算装置20は広帯域水位計32および定検時水張り用水位計34の出力に変動があると判定した場合、ステップS26において、定検時水張り用水位計34を選択し、水位を指示・記録することで、炉心3の再冠水を確認する。これは、大気圧で校正された定検時水張り用水位計34に対する原子炉圧力による影響を充分排除でき、定検時水張り用水位計34の変動配管23に炉水によって水張りされたと考えられるためである。
【0048】
このような水位計測システム1は、演算装置20により、炉心3の再冠水時における水位計測の際には燃料域水位計33、非差圧式水位計35、36または定検時水張り用水位計34のいずれかを状況に応じて好適に選択することができるため、水位の確認が容易となる。
【0049】
第1実施形態における水位計測システム1は、複数の構成からなる水位計を有し、かつ上述した図2〜図4の各選択処理を行うことで、原子炉圧力や原子炉水位などの各種状態に応じて、水位計測に最適な水位計を多様性を持って選択することができる。この結果、水位計測システム1は、信頼度の高い水位指示値を提示することができるため、運転員は水位を容易に確認することができる。
【0050】
なお、水位計測システム1は、差圧式水位計31〜34および非差圧式水位計35、36を有する利点を利用して、以下のように用いることもできる。
【0051】
圧力容器2内に水とは異なる比重の液体(例えば海水、ホウ酸水)が注入された場合、水と水以外の液体とは密度が異なる。このため、水の比重で校正された差圧式水位計31〜34の指示値は影響を受ける。
【0052】
これに対し、水位計測システム1は、液体の比重により影響を受けない、ガンマ線などを利用する方式で水位を計測する非差圧式水位計35、36を用いて差圧式水位計31〜34を校正することができる。
【0053】
演算装置20は、差圧式水位計31〜34の出力と非差圧式水位計35、36の出力(炉心シュラウド外の水位)とを比較し、両者間の係数を求める。演算装置20は、この係数を用いて差圧式水位計31〜34の出力を校正する。これにより、演算装置20は、差圧式水位計31〜34より校正後の水位指示値を確認でき、炉心シュラウド外の水位をより精度よく計測できる。
【0054】
また、第2の水位計としての非差圧式水位計35、36を異なる方式(例えば、ガンマ線、中性子線、超音波)を用いた複数の水位計としたり、非差圧式水位計35、36を多区分に設けたりすることで、計測の多様性を確保することができる。
【0055】
例えば、演算装置20は、各非差圧式水位計35、36より得られる水位指示値のうち、オーバースケールやダウンスケールした数値がある場合、オーバースケールやダウンスケールした数値を検出した非差圧式水位計35、36以外の非差圧式水位計35、36を選択する。
【0056】
また、演算装置20は、それぞれの履歴を記録し区分間の指示値のばらつきを計算する。演算装置20は、ばらつきが増大した場合、すなわち異常が検出された場合、異常値を示す非差圧式水位計35、36以外の非差圧式水位計35、36(正常な非差圧式水位計35、36)を選択する。
【0057】
これにより、水位計測システム1は、より精度よく水位を指示・記録することができる。
【0058】
[第2実施形態]
第2実施形態における水位計測システム51が第1実施形態と異なる点は、非差圧式水位計35、36に代えて、または非差圧式水位計35、36と共に、シビアアクシデント計測用水位計55を有する点である。シビアアクシデント計測(SA)用水位計55は、燃料域水位計33の計測可能範囲下限以下である燃料有効長下端より低い圧力容器2底部までの水位の検出できる水位計である。
【0059】
その他の校正については、第1実施形態とほぼ同様であるため、第1実施形態と対応する構成および部分については同一の符号を付し、または図示を省略し、重複する説明を省略する。
【0060】
図5は、本発明に係る原子炉水位計測システムの第2実施形態を示す構成図である。
【0061】
圧力容器2には、原子炉冷却材再循環流量系(再循環流量系)52が接続される。この再循環流量系52は、原子炉冷却材再循環流量系ポンプ(再循環流量系ポンプ)53、および再循環流量系ポンプ53の上流側に接続された原子炉冷却材再循環流量系配管(再循環流量系配管)54を有する。
【0062】
水位計測システム51は、SA計測用変動水柱計装配管(SA用変動配管)56、SA計測用基準水柱計装配管(SA用基準配管)57、およびSA計測用水位計(SA用水位計)55を有する。
【0063】
SA用変動配管56(第2の変動水柱計装配管)は、一端が再循環流量系配管54に接続される。SA用基準配管57は、一端が基準配管21に接続される。SA用水位計55は、SA用変動配管56およびSA用基準配管57(基準水柱計装配管)の他端にそれぞれ接続され、SA用変動配管56およびSA用基準配管57の水頭差を検出する。SA用水位計55は、第1の水位計としての差圧式水位計31〜34とは異なる構成を有する第2の水位計の一例である。SA用水位計55は、図示はしないが演算装置20と接続されており、検出結果を演算装置20へ出力する。
【0064】
SA用水位計55は、上述した通り、燃料域水位計33の計測可能範囲下限以下の水位が検出できる水位計である。このため、第1実施形態における非差圧式水位計35、36に代えて、または非差圧式水位計35、36と共に、圧力容器2の水位を計測することができる。具体的には、例えば図2〜4における各選択処理において、非差圧式水位計35、36が選択される代わりに、または非差圧式水位計35、36と共に、SA用水位計55を選択することができる。
【0065】
なお、SA用水位計55は、図6および図7のように構成してもよい。
【0066】
図6は、第2実施形態の水位計測システム51の第1の変形例としての水位計測システム61の構成図である。
【0067】
圧力容器2には、原子炉冷却材浄化設備系(CUW)62が接続される。このCUW62は、原子炉冷却材浄化設備系ボトムライン配管(CUWボトムライン配管)63を有する。
【0068】
水位計測システム61は、SA用変動配管56、SA用基準配管57、およびSA用水位計55を有する。
【0069】
SA用変動配管56(第3の変動水柱計装配管)は、一端がCUWボトムライン配管63に接続される。SA用基準配管57は、一端が基準配管21に接続される。SA用水位計55は、SA用変動配管56およびSA用基準配管57の他端にそれぞれ接続され、SA用変動配管56およびSA用基準配管57の水頭差を検出する。
【0070】
図7は、第2実施形態の水位計測システム51の第2の変形例としての水位計測システム71の構成図である。
【0071】
圧力容器2には、検出タップ72が設けられる。この検出タップ72は、SA用水位計55が燃料有効下端より低く圧力容器2底部までの水位を検出できる位置に設けられる。
【0072】
水位計測システム71は、SA用変動配管56、SA用基準配管57、およびSA用水位計55を有する。
【0073】
SA用変動配管56(第4の変動水柱計装配管)は、一端が検出タップ72に接続される。SA用基準配管57は、一端が基準配管21に接続される。SA用水位計55は、SA用変動配管56およびSA用基準配管57の他端にそれぞれ接続され、SA用変動配管56およびSA用基準配管57の水頭差を検出する。
【0074】
以上、図5〜図7に示す水位計測システム51、61、71は、水位計測システム51は、第1実施形態と同様の効果を奏する上、第1実施形態の水位計測システム1では計測できない領域についても計測でき、一様に差圧計測方式にて計測範囲の拡張ができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0076】
例えば、図2〜図4に示す各選択処理は、演算装置20が自動で行う例を説明したが、選択を運転員が手動で行ってもよい。この場合、演算装置20は、表示装置に水位計を選択するための圧力容器2や格納容器4の状態などの各種情報を表示し、運転員に水位計を選択させる。また、演算装置20は、運転員の選択結果を入力装置を介して指示させる。
【0077】
また、第1および第2実施形態における水位計測システムは、非差圧式水位計として原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36を備える場合を例に説明したが、図8および図9に示すように、原子炉内非差圧式水位計35および原子炉外非差圧式水位計36のいずれか一方を備えてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1、51、61、71 原子炉水位計測システム(水位計測システム)
2 原子炉圧力容器(圧力容器)
4 原子炉格納容器(格納容器)
11 凝縮槽
20 演算装置
21 基準水柱計装配管(基準配管)
22〜24 変動水柱計装配管(変動配管)
31 狭帯域原子炉水位計(狭帯域水位計)
32 広帯域原子炉水位計(広帯域水位計)
33 燃料域原子炉水位計(燃料域水位計)
34 定検時水張り用原子炉水位計(定検時水張り用水位計)
35 原子炉内非差圧式水位計
36 原子炉外非差圧式水位計
52 原子炉冷却材再循環流量系(再循環流量系)
53 原子炉冷却材再循環流量系ポンプ(再循環流量系ポンプ)
54 原子炉冷却材再循環流量系配管(再循環流量系配管)
55 シビアアクシデント計測用水位計(SA用水位計)
56 シビアアクシデント(SA)計測用変動水柱計装配管(SA用変動配管)
57 シビアアクシデント(SA)計測用基準水柱計装配管(SA用基準配管)
62 原子炉冷却材浄化設備系(CUW)
63 原子炉冷却材浄化設備系ボトムライン配管(CUWボトムライン配管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器に格納された原子炉圧力容器の蒸気領域に接続された凝縮槽と、
前記凝縮槽に一端が接続された基準水柱計装配管と、
前記原子炉圧力容器に一端が接続された第1の変動水柱計装配管と、
前記基準水柱計装配管および前記第1の変動水柱計装配管の他端と接続され、前記基準水柱計装配管および前記第1の変動水柱計装配管の水頭差を検出する差圧計測式の第1の水位計と、
前記第1の水位計とは異なる構成を有し、前記原子炉圧力容器の水位を検出する第2の水位計と、
前記原子炉格納容器または前記原子炉圧力容器の状態に基づいて、前記第1の水位計または前記第2の水位計を選択し、選択された水位計の検出結果に基づいて前記原子炉圧力容器の水位を指示・記録する演算装置とを備えたことを特徴とする原子炉水位計測システム。
【請求項2】
前記第2の水位計は、前記原子炉圧力容器内または前記原子炉圧力容器外に配置され、前記差圧計測式とは異なる方式で前記原子炉圧力容器の水位を検出する請求項1記載の原子炉水位計測システム。
【請求項3】
前記第1の水位計は、
水位変動が狭い範囲の水位を計測する狭帯域水位計と、
前記狭帯域水位計の計測範囲より広い範囲の水位を計測する広帯域水位計と、
前記広帯域水位計の計測範囲より低い水位を計測する燃料域水位計と、
定期検査時に想定される水位を計測する定期検査時水張り用水位計とを有し、
前記第2の水位計は、前記原子炉圧力容器の水位が前記燃料域水位計の計測範囲よりも低い水位を計測範囲とする請求項1または2記載の原子炉水位計測システム。
【請求項4】
前記演算装置は、前記原子炉格納容器のドライウェルの雰囲気温度と、原子炉圧力の飽和温度を取得し、前記ドライウェルの雰囲気温度が前記原子炉圧力の飽和温度より大きい場合、前記第2の水位計を選択する請求項1〜3のいずれか一項記載の原子炉水位計測システム。
【請求項5】
前記演算装置は、前記広帯域水位計により検出された水位が設定水位よりも小さく、かつ前記原子炉圧力が設定圧力より小さい場合、前記燃料域水位計を選択し、
さらに前記燃料域水位計が計測不能である場合、前記第2の水位計を選択する請求項3記載の原子炉水位計測システム。
【請求項6】
前記演算装置は、水位が前記燃料域水位計の計測範囲の下限を下回った場合、前記第2の水位計を選択する請求項5記載の原子炉水位計測システム。
【請求項7】
前記基準水柱計装配管および前記変動水柱計装配管に水張りが行われ前記燃料域水位計が計測可能となった場合、前記演算装置は、前記燃料域水位計を選択する請求項5記載の原子炉水位計測システム。
【請求項8】
前記基準水柱計装配管および前記変動水柱計装配管に水張りが行われず、かつ前記原子炉圧力が前記設定圧力より大きい場合、前記演算装置は前記第2の水位計を選択する請求項5記載の原子炉水位計測システム。
【請求項9】
前記基準水柱計装配管および前記変動水柱計装配管に水張りが行われない場合、
前記演算装置は、前記原子炉圧力が前記設定圧力以下であり、かつ前記広帯域水位計および定検時水張り用水位計の出力の変動を検出した場合、前記定検時水張り用水位計を選択する請求項5記載の原子炉水位計測システム。
【請求項10】
前記原子炉圧力容器に接続された原子炉冷却材再循環流量系配管と、
前記原子炉冷却材再循環流量系配管に一端が接続された第2の変動水柱計装配管とをさらに備え、
前記第2の水位計は、前記基準水柱計装配管および前記第2の変動水柱計装配管の他端と接続され、前記基準水柱計装配管および前記第2の変動水柱計装配管の水頭差を検出する差圧計測式の水位計である請求項1記載の原子炉水位計測システム。
【請求項11】
前記原子炉圧力容器に接続された原子炉冷却材浄化設備系配管と、
前記原子炉冷却材浄化設備系配管に一端が接続された第3の変動水柱計装配管とをさらに備え、
前記第2の水位計は、前記基準水柱計装配管および前記第3の変動水柱計装配管の他端と接続され、前記基準水柱計装配管および前記第3の変動水柱計装配管の水頭差を検出する差圧計測式の水位計である請求項1記載の原子炉水位計測システム。
【請求項12】
原子炉圧力容器内における燃料有効長下端より下方の水位を検出可能な位置に一端が接続された第4の変動水柱計装配管をさらに備え、
前記第2の水位計は、前記基準水柱計装配管および前記第4の変動水柱計装配管の他端と接続され、前記基準水柱計装配管および前記第4の変動水柱計装配管の水頭差を検出する差圧計測式の水位計である請求項1記載の原子炉水位計測システム。
【請求項13】
前記第2の水位計は、前記原子炉圧力容器の炉心シュラウド内に配置された水位計であり、
前記演算装置は、選択された前記第2の水位計に基づいて出力された水位は前記炉心シュラウド内の水位である旨を、前記水位と共に出力する請求項1〜3記載の原子炉水位計測システム。
【請求項14】
前記第1の水位計および前記第2の水位計は、計測範囲が重複し、
前記演算装置は、前記第1の水位計と前記第2の水位計の検出値により求まる前記原子炉圧力容器の水位を比較し、両者の水位が異なる場合、前記第1の水位計と前記第2の水位計との間の係数を求め、前記係数に基づいて前記第1の水位計の検出値を校正する請求項1〜3記載の原子炉水位計測システム。
【請求項15】
前記第2の水位計は、異なる方式により水位を計測する複数の水位計であり、
前記演算装置は、複数の前記第2の水位計より得られる検出結果のうち、オーバースケールまたはダウンスケールした数値がある場合、前記オーバースケールまたはダウンスケールした数値を検出した水位計以外の水位計を選択する請求項1〜3記載の原子炉水位計測システム。
【請求項16】
前記第2の水位計は、異なる方式により水位を計測し、多区分に設けられた複数の水位計であり、
前記演算装置は、区分間の指示値のばらつきを計算し、ばらつきが増大した場合、異常値を示す前記第2の水位計以外の水位計を選択する請求項1〜3記載の原子炉水位計測システム。
【請求項17】
前記第2の水位計は、炉心シュラウド内に複数箇所設置され、
前記演算装置は、いずれかの前記第2の水位計に異常が検出された場合、異常が検出された前記第2の水位計以外の水位計の検出結果に基づいて前記原子炉圧力容器の水位を指示・記録する請求項1〜3記載の原子炉水位計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108810(P2013−108810A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253143(P2011−253143)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】