説明

原子炉

【課題】制御棒を備えていなくても起動および停止を行うことができる原子炉を提供する。
【解決手段】原子炉は、新燃料部と、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを含み、燃焼サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部が新燃料部に向かう方向に移動する炉心10を備える。炉心10の複数の燃料集合体は、炉心10に固定されている燃料集合体21aおよび燃料集合体の長手方向に移動可能な燃料集合体21bを含む。燃料集合体21bを炉心10から引き抜くことにより原子炉を停止させ、更に燃料集合体21bを引き抜いた状態から炉心10に挿入することにより原子炉を起動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、発電設備等に用いられている。原子炉は、高速中性子炉を含む。高速中性子炉は、主に高速中性子により核分裂性核種を核分裂させて出力を発生する原子炉であり、ナトリウム、鉛ビスマス合金等の重金属、またはガス等により炉心が冷却される。従来の技術の原子炉では、炉心全体で核分裂が生じるとともに出力が発生する。
【0003】
原子炉の炉心の臨界の維持および出力の調整は、例えば制御棒によって行われる。制御棒は、中性子を吸収しやすい物質で形成されている。燃焼サイクルの初期には制御棒を炉心に挿入しておき、燃焼が進むとともに徐々に制御棒を引き抜くことにより、出力を維持しながら臨界状態を保っている。このように、原子炉の運転においては、原子炉の臨界を維持するための制御が必要である。燃焼サイクル初期から燃焼サイクル末期まで継続的に臨界の維持のための制御を行っている。
【0004】
特許第3463100号公報においては、燃焼サイクルで臨界を維持するための制御が不要な原子炉が開示されている。この原子炉は、CANDLE(Constant Axial Shape of Neutron Flux, Nuclide Densities and Power Shape During Life of Energy Production)燃焼法と呼ばれる燃焼法を採用している。CANDLE燃焼法では、炉心をおおよそ新燃料部、燃焼部、燃焼が進んだ部分に分けることができる。燃焼部は、燃焼とともに、出力に比例した速さで新燃料部に向かって移動する。CANDLE燃焼では、一つの燃焼サイクルが終了した後、次の燃焼サイクルを行なうために燃料を交換する。燃料を交換するときには、炉心軸の方向において燃焼の進んだ燃料を取り出し、取り出した側の端部と反対側の端部に新燃料を装荷することができる。
【0005】
CANDLE燃焼法では、臨界調整を行なわなくてもよく、また、出力分布の調整をしなくても出力分布が、ほぼ一定に保たれる。このため、燃焼サイクルの初期から末期にわたって、制御棒の操作等のような炉心の反応度制御は行わなくても良いという特徴を有する。また反応度係数も変化せずに、燃焼とともに運転方法を変化させなくても良いという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3463100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉の燃料の燃焼法としてCANDLE燃焼法を採用することにより、燃焼が進行しても炉心特性をほぼ一定にすることができて運転制御が簡単になり、事故の発生確率が低い原子炉を提供することができる。また、炉心に制御棒を配置しなくても良いために、運転期間中に制御棒が誤って引き抜かれるような事故の可能性が全くなくなる。また、燃料を取り出すときの燃焼度が高いことから、廃棄物の量を低減できる。
【0008】
CANDLE燃焼法では、第2サイクル以降の新燃料として、天然ウランまたは劣化ウランだけを用いて運転を行なうことができる。これらの燃料は、未臨界であることから輸送や貯蔵が容易になる。また、濃縮や再処理を行なわずに、ウランのおよそ40%をエネルギーとして利用できることから、資源の有効利用ができる。また、第2サイクル以降の新燃料は、濃縮や再処理等が不要となることから、核拡散抵抗性が高いなどの特徴を有する。
【0009】
ところで、従来の技術における原子炉の起動および停止は、制御棒を使用することにより行われている。たとえば、原子炉の運転中に、制御棒を炉心に挿入することにより、原子炉の出力を低下させて停止させることができる。また、原子炉の起動時には、挿入した制御棒を引き抜くことにより、炉心を臨界にした後に炉心の出力を上昇させることができる。
【0010】
CANDL燃焼法を採用した炉心を備える原子炉においても、炉心に挿入する制御棒を配置することにより、原子炉の起動および停止を行うことができる。しかしながら、CANDLE燃焼法では、制御棒を挿入するための流路(チャンネル)を炉心に形成すると、臨界を達成するのが困難になる場合がある。従来の技術における炉心では、核分裂性のウランの濃度またはプルトニウムの濃度を大きくしたり、新燃料の燃料集合体の数を増加したりすることにより臨界を達成することができていた。CANDLE燃焼法においても濃縮ウラン等を新燃料に含めることができるが、濃縮ウラン等を使用せずに天然ウランまたは劣化ウランのみを新燃料として使用することが好ましい。
【0011】
また、燃料を均一に燃焼させるには、径方向の出力分布が略一定であることが好ましい。ところが、制御棒を挿入するための流路を炉心に形成すると、炉心に燃料が装荷されていない空間が形成される。この空間においては、出力密度が小さくなってしまい、径方向出力分布が不均一になるという問題がある。
【0012】
本発明は、燃料の燃焼とともに燃焼部が新燃料部に向かって移動する炉心を備え、制御棒を備えていなくても起動および停止を行うことができる原子炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の原子炉は、新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを含み、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、燃焼サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部が新燃料部に向かう方向に移動する炉心を備える原子炉である。原子炉は、出力運転の期間中には、複数の燃料集合体が炉心に配置されている。複数の燃料集合体は、炉心に固定されている燃料集合体および炉心の軸方向に移動可能な燃料集合体を含む。移動可能な燃料集合体を炉心から引き抜くことにより原子炉を停止させ、更に移動可能な燃料集合体を引き抜いた状態から炉心に挿入することにより原子炉を起動する。
【0014】
本発明においては、中性子を吸収する機能を有する吸収物質を含む補助部材を備え、補助部材は、移動可能な燃料集合体に連結されており、原子炉を停止する場合には、移動可能な燃料集合体が炉心から引き抜かれると共に、補助部材が炉心に挿入されることが好ましい。
【0015】
本発明においては、移動可能な燃料集合体は、炉心から燃料集合体の全体が引き抜かれるように形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明においては、炉心は、中央領域および周辺領域に区画されており、移動可能な燃料集合体は、中央領域に配置され、炉心に固定されている燃料集合体は、周辺領域に配置されることができる。
【0017】
本発明においては、移動可能な燃料集合体は、予め定められた間隔を空けて離散して炉心に配置されることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料の燃焼とともに燃焼部が新燃料部に向かって移動する炉心を備え、制御棒を備えていなくても起動および停止を行うことができる原子炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態における原子炉の概略図である。
【図2】実施の形態における炉心の概略平面図である。
【図3】実施の形態における炉心を含む部分の概略断面図である。
【図4】実施の形態における燃料集合体の概略斜視図である。
【図5】実施の形態における燃料棒の概略斜視図である。
【図6】実施の形態における燃料集合体および補助部材の概略斜視図である。
【図7】実施の形態における炉心の燃料の燃焼状態を説明する概略図である。
【図8】実施の形態における燃料の中性子フルエンスに対する無限中性子増倍率の変化を説明するグラフである。
【図9】炉心高さと燃料の無限中性子増倍率との関係を説明するグラフである。
【図10】実施の形態における炉心の出力密度の変化および燃料の取換えを説明する図である。
【図11】実施の形態における原子炉を停止したときの炉心の概略図である。
【図12】実施の形態における原子炉を起動している途中の炉心の概略図である。
【図13】実施の形態における他の炉心の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から図13を参照して、実施の形態における原子炉について説明する。本実施の形態における原子炉は、主に高速中性子によりプルトニウムの核分裂を発生させる高速中性子炉である。本実施の形態における原子炉は、発電設備に配置されており、原子炉から流出する冷却材の熱を用いて発電を行なっている。
【0021】
図1は、本実施の形態における原子炉の概略図である。本実施の形態における発電設備は、原子炉1を備える。原子炉1は、原子炉容器9を含む。原子炉1は、原子炉容器9の内部に配置されている炉心10を含む。原子炉容器9の内部には、冷却材が流れている。本実施の形態における炉心10の周りには、反射体が配置されていないが、この形態に限られず、炉心10の周りに反射体が配置されていても構わない。
【0022】
冷却材は、矢印112に示すように、原子炉容器9に流入して、炉心10の内部を通過する。炉心10の熱は、冷却材に伝達される。本実施の形態における原子炉1は、冷却材が炉心10の下側から上側に向かって流れる。炉心10から流出した冷却材は、矢印111に示すように原子炉容器9から流出する。
【0023】
冷却材は、中性子の減速能力や中性子の吸収能力が小さな材料を用いることができる。本実施の形態においては、鉛−ビスマス冷却材が用いられている。本実施の形態においては、冷却材が反射体の機能を有する。原子炉の冷却材としては、鉛系冷却材(液体金属)の他に、ナトリウムを使用することができる。または、ヘリウム等のガス冷却材を用いることができる。また、鉛系冷却材としては、鉛−ビスマスの他に鉛のみや、同位体分離された鉛208を採用することができる。
【0024】
図2に、本実施の形態における原子炉の炉心の概略平面図を示す。図3に、本実施の形態における原子炉の炉心の概略断面図を示す。図3は、図2におけるA−A線に沿って切断したときの断面図である。図3は、原子炉の出力運転の期間中の状態を示している。
【0025】
図2および図3を参照して、本実施の形態における炉心10は、平面形状がほぼ正六角形状に形成されている。原子炉の炉心は、この形態に限られず、平面視したときに、ほぼ円形となる任意の形状または円形に形成することができる。
【0026】
本実施の形態における炉心10は、平面視したときに中央領域および周辺領域に区画されている。本実施の形態における炉心10は、複数の燃料集合体を含む。本実施の形態における原子炉の炉心10は、燃料集合体が規則的に配列されている。炉心の周辺領域には、第1の燃料集合体としての燃料集合体21aが配置されている。炉心の中央領域には、第2の燃料集合体としての燃料集合体21bが配置されている。
【0027】
本実施の形態における燃料集合体21aと燃料集合体21bとは、同一の新燃料が装荷されている。本実施の形態においては、劣化ウランが装荷されている。また、燃料集合体21aと燃料集合体21bとは、燃料を支持するための構造がほぼ同一である。本実施の形態における燃料集合体21aと燃料集合体21bとは、互いに同じ高さになるように形成されている。周辺領域に配置されている燃料集合体21aは、炉心10に固定されている。一方で、中央領域に配置されている燃料集合体21bは、後述するように炉心の軸方向に移動可能に形成されている。本実施の形態における炉心は、鉛直方向が炉心の軸方向に相当する。
【0028】
図4に、本実施の形態における燃料集合体の概略斜視図を示す。以下においては、第1の燃料集合体としての燃料集合体21aについて説明するが、第2の燃料集合体としての燃料集合体21bについても燃料集合体21aと同様の構造を有する。
【0029】
燃料集合体21aは、複数の燃料棒22aを含む。燃料棒22aは、長手方向の端部がノズル27により支持されている。燃料棒22aは、複数の支持格子25により支持されている。ノズル27および支持格子25は、燃料棒22a同士を互いに離して支持している。本実施の形態では支持格子により燃料棒同士の間の距離を保っているが、この形態に限られず、支持格子の代わりにワイヤースペーサー等を用いることができる。冷却材は、燃料棒22a同士の間を流れて燃料棒22aを冷却する。
【0030】
図5に、本実施の形態における燃料棒の概略斜視図を示す。図5では、燃料の燃焼が上側から下側に向かって移動する燃料棒を示している。また、被覆材の一部を破断して示している。本実施の形態における燃料棒22aは、被覆材23aを含む。被覆材23aは、筒状に形成されている。被覆材23aは、たとえばステンレス鋼で形成されている。燃料棒22aは、燃料ペレット24aa,24ab,24acを含む。燃料ペレット24aa,24ab,24acは、被覆材23aの内部に配置されている。燃料棒22aは、栓29により封止されている。燃料ペレット24aa,24ab,24acは、コイルスプリング28により押圧されている。
【0031】
図5に示す燃料棒は、燃焼サイクル初期の状態を示している。複数の燃料ペレット24aa,24ab,24acは、新燃料を含む燃料ペレット24aa、燃焼途中の燃料ペレット24ab、および燃焼が十分に進んだ燃料ペレット24acの順に配置されている。新燃料を含む燃料ペレット24aaの部分により、炉心の新燃料部が画定される。燃焼途中の燃料ペレット24abの部分により、炉心の燃焼部が画定される。燃焼が進んだ燃料ペレット24acの部分により、炉心の燃焼が進んだ部分が画定される。
【0032】
このように、本実施の形態における燃料棒22aには、燃焼度が互いに異なる燃料ペレット24aa,24ab,24acが配置されている。一つの燃焼サイクルが終了した後には、たとえば、被覆材23aを剥ぎ取り、燃焼が進んだ部分の燃料ペレットとそれ以外の燃料ペレットとを分離する。次に、新たな被覆材の内部に、新燃料を含む燃料ペレットおよび回収された燃料ペレット等を配置することにより、次の燃焼サイクルのための燃料棒を形成することができる。
【0033】
または、燃料ペレットの回収方法としては、それぞれの部分ごとに燃料棒を切断した後に、被覆材23aを剥ぎ取っても構わない。この方法によっても、燃焼部および燃焼が進んだ部分に配置されていた燃料ペレットを回収することができる。
【0034】
図2から図5を参照して、本実施の形態における燃料集合体21aおよび燃料集合体21bの新燃料部に配置される燃料ペレットは、劣化ウランを含む。本実施の形態における燃料は、金属燃料であるが、この形態に限られず、例えば、窒化物燃料等を用いることができる。
【0035】
図1および図3を参照して、本実施の形態における原子炉は、中性子を吸収するための補助部材51を備える。本実施の形態における補助部材51は、中性子を吸収する機能を有する吸収物質を含む。吸収物質としては、高速中性子の吸収能力が高い物質が好ましい。吸収物質としては、例えば、炭化ほう素(BC)等を例示することができる。
【0036】
図6に、本実施の形態における移動可能な燃料集合体および補助部材の概略斜視図を示す。本実施の形態における補助部材51は、被覆材の内部に燃料が配置されずに、中性子を吸収する機能を有する吸収物質が配置されていること以外は、燃料集合体21a,21bと同様の構成を有する。
【0037】
補助部材51は、複数の吸収棒52を含む。吸収棒52は、被覆材を有し、被覆材の内部には、吸収物質が配置されている。補助部材51は、吸収棒52を支持するための支持格子25およびノズル27を有する。これらの支持格子25およびノズル27は、燃料集合体21a,21bに用いるものの同様のものを採用することができる。
【0038】
補助部材51は、燃料集合体21bに連結されている。燃料集合体21bは、複数の燃料棒22bを含む。本実施の形態においては、燃料集合体21bは、連結部材61を介して補助部材51に連結されている。燃料集合体21bは、補助部材51に炉心の軸方向に直列に接続されている。
【0039】
図1および図3を参照して、本実施の形態における原子炉は、燃料集合体21bを移動させるための移動装置を備える。移動装置は、燃料集合体21bを移動させるための駆動装置71を含む。補助部材51は、連結部材62を介して駆動棒72に接続されている。駆動装置71を始動することにより、駆動棒72が矢印123に示すように炉心10の軸方向に移動する。補助部材51および燃料集合体21bを、炉心の軸方向に移動させることができる。
【0040】
次に、本実施の形態における炉心の出力運転について説明する。本実施の形態においては、出力運転中にほぼ一定の出力に保たれる例について説明する。
【0041】
図7に、本実施の形態における炉心の燃焼の進行状況を説明する模式図を示す。図7は、炉心を軸方向に沿って切断したときの概略断面図である。図7は、複数回の燃焼サイクルを行なった後の第nサイクルの初期(BOC)の炉心と、第nサイクルの末期(EOC)の炉心とを示している。また、同一のサイクル長さおよび同一の燃料取替え方法で複数サイクル運転を行なった炉心を示している。径方向の位置rが零の軸が炉心軸である。
【0042】
本実施の形態における原子炉の炉心10は、燃焼サイクルの初期から末期にかけて燃焼部12が、新燃料部11に向けて移動する。すなわち、本実施の形態における炉心は、CANDLE燃焼を行なう。燃焼部12の移動する速度は、凡そ出力密度に比例し、燃料原子数密度に反比例する。
【0043】
本実施の形態における炉心の出力密度は、炉心の中央において高くなる。炉心の外周においては、中性子の漏れが多くなるために、径方向の外側に向かうほど出力密度が小さくなる。このため、燃焼部の軸方向の位置は、径方向の外側に向かうほど遅れた位置に配置される。
【0044】
本実施の形態における炉心10は、新燃料部11、燃焼部12および燃焼が進んだ部分13を含む。新燃料部11は、新燃料が配置されている部分である。燃焼部12は、自発的に中性子が発生し、燃料の燃焼が生じる部分である。燃焼部12では、核分裂が発生することにより実質に出力が生じている。燃焼が進んだ部分13は、燃焼が進んで、ほとんど出力を発生していない部分である。
【0045】
第nサイクルの初期の炉心において、新燃料部11は、炉心10の下部に配置されている。燃焼部12は、新燃料部11の上側に配置されている。燃焼部12には、前サイクルで既に燃焼が始まっていた燃料が配置されている。
【0046】
本実施の形態においては、サイクル初期に配置された燃焼部12は、燃焼を開始する部分になる。燃焼部12から燃料の燃焼が開始され、矢印101に示すように、新燃料部11に向かう方向に燃焼が進行する。第nサイクルの燃焼が進行してサイクル末期になった場合には、燃焼部12が炉心10の下端まで進行する。本実施の形態においては、新燃料部11がほとんどなくなるまで燃焼を継続している。燃焼サイクル末期では、新燃料部11が残っていても構わない。
【0047】
図8に、本実施の形態における燃料の中性子フルエンスと無限中性子増倍率との関係を説明するグラフを示す。横軸が、中性子束を時間で積分した中性子フルエンスであり、縦軸が無限中性子増倍率kinfである。中性子フルエンスは、たとえば燃料の燃焼度に対応する量である。本実施の形態においては劣化ウランを燃料としている。劣化ウランは、たとえば、約99.8%のウラン238と、約0.2%のウラン235とを含む。ウラン238は、中性子を吸収することにより次の数1のように核変換する。ウラン238は、プルトニウム239に変換される。
【数1】

【0048】
中性子フルエンスが零の近傍では、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239が生成されることにより、無限中性子増倍率が上昇する。所定の中性子フルエンスに達すると、プルトニウム239等の存在量のウラン238の存在量に対する比が一定に近づき、更に核分裂生成物(FP)が蓄積して、無限中性子増倍率が徐々に減少する。このように、本実施の形態における燃料は、燃焼の初期において無限中性子増倍率が増加し、その後に徐々に無限中性子増倍率が減少する特性を有する。
【0049】
また、劣化ウランの未臨界度は大きいために、炉心の一部分を臨界以上にするためには、多くの中性子をウラン238に吸収させる必要がある。本実施の形態においては、このような条件を満たすように炉心の大きさを選定するとともに燃料集合体や燃料棒を設計している。
【0050】
上記のような炉心の構成を採用することにより、CANDLE燃焼を実施することができる。すなわち、炉心の径方向の全体にわたって出力が生じ、炉心の軸方向の一部の領域において燃焼部が生成される炉心を形成することができる。
【0051】
図9に、炉心高さを無限大にして燃焼を行なっているときの無限中性子増倍率のグラフを示す。横軸が炉心高さであり、縦軸が燃料の無限中性子増倍率を示している。本実施の形態においては、矢印101に示すように、燃焼部が新燃料部に向かって移動する。燃焼部は、無限中性子増倍率が1を超える領域を含む。実際の原子炉の炉心の高さは有限であり、この場合には、炉心の端部での無限中性子増倍率は、図9に示すグラフから僅かにずれる場合がある。
【0052】
図10に、本実施の形態における炉心の燃焼が進行する状態および燃料取り換えを説明するグラフを示す。図10には、第nサイクルの炉心の初期および末期のグラフと、第(n+1)サイクルの炉心の初期および末期のグラフが示されている。それぞれのグラフにおいては、炉心軸における出力密度、ウラン238の数密度および核分裂生成物の数密度が示されている。
【0053】
図9および図10を参照して、出力密度の最大点は、矢印101に示すように、新燃料部11が配置されている炉心下部に向けて移動する。本実施の形態における燃焼は、炉心の上端から下端に向かう方向に移動する。燃焼部が移動していく速度、すなわち、出力密度の最大点が移動する速度は、例えば、1年間に数cmである。このように、ゆっくりと燃焼部が移動する。ウラン238の数密度は、核変換されることにより燃焼部の下流側で小さくなる。また、核分裂生成物の数密度は、核分裂が生じることにより燃焼部の下流側で大きくなる。本実施の形態においては、燃焼部が、炉心のほぼ下端に達したときに燃焼を終了している。
【0054】
第nサイクルが終了すると燃料が進んだ部分の一部の燃料を取り出す。第(n+1)サイクルの初期の炉心では、矢印117に示すように、第nサイクルにおいて炉心の下部に配置されている燃焼部を炉心の上部に配置して、燃焼を開始する部分として使用する。第(n+1)サイクルの炉心においては、炉心の下部に新たな新燃料部11を配置する。このような燃料交換を行なうことにより、第(n+1)サイクルの炉心においても、第nサイクルの炉心と同様の燃焼を行なうことができる。
【0055】
次に、本実施の形態における原子炉の停止について説明する。図1から図3を参照して、通常の出力運転の期間中において、燃料集合体21bは、炉心10の内部に配置されている。原子炉を停止すべきときには、駆動装置71を駆動することにより、矢印121に示すように、補助部材51と燃料集合体21bとを一体的に移動させる。燃料集合体21bは、炉心10の内部から外部に移動する。一方で、補助部材51が炉心10の内部に挿入される。すなわち、移動可能な燃料集合体21bが炉心10から引き抜かれるとともに、補助部材51が炉心10に挿入される。
【0056】
図11に、本実施の形態の炉心において、原子炉を停止した時の炉心の部分の概略断面図を示す。本実施の形態における炉心は、移動可能な燃料集合体21bの全体が、炉心10から引き抜かれている。また、補助部材51が炉心に挿入されている。
【0057】
燃料集合体21bが炉心10から引き抜かれることにより、炉心10からの中性子の漏れが多くなり、炉心10を未臨界にして停止することができる。図7を参照して、本実施の形態における炉心10は、燃焼部12の部分において、連鎖的な核分裂が生じることにより臨界を保っている。ところが、燃料集合体21bを移動することにより、燃焼部12の一部が炉心10の軸方向にずれることになり、燃焼部12における核分裂の連鎖が抑制される。このために、炉心10を未臨界にすることができる。
【0058】
また、本実施の形態の炉心10においては、原子炉を停止するときに補助部材51が炉心10に挿入される。補助部材51が炉心に挿入されることにより、中性子が補助部材51に吸収される。このために、より確実に原子炉を停止させることができる。
【0059】
本実施の形態においては、移動可能な燃料集合体の全体が炉心から引き抜かれるように形成されている。この構成により、より確実に原子炉を停止することができる。移動可能な燃料の引抜き量については、この形態に限られず、移動可能な燃料集合体の一部を引き抜くことにより原子炉を停止することができる場合には、炉心から燃料集合体の一部が引き抜かれるように形成されていても構わない。
【0060】
次に、本実施の形態における原子炉の起動について説明する。原子炉の起動時には、燃料の交換が行なわれた燃料集合体のうち、移動可能な燃料集合体を炉心に挿入することにより、臨界の達成および出力の上昇を行う。
【0061】
図12に、本実施の形態の原子炉において、原子炉を起動している途中の炉心の部分の概略断面図を示す。前述したように、第nサイクルが終了すると、それぞれの燃料集合体21a,21bにおいて、燃焼が進んだ部分13の燃料を取り出して新燃料部11に新燃料を装荷する。
【0062】
図11および図12を参照して、原子炉を起動すべき時には、移動可能な燃料集合体21bの少なくとも一部分が炉心10から引き抜かれている。燃料集合体21bを、矢印122に示すように移動して、炉心10の内部に挿入する。燃料集合体21bを挿入すると、所定の位置において炉心10が臨界になる。さらに、燃料集合体21bを挿入すると、炉心10の出力が上昇する。燃料集合体21b全体を挿入することにより、炉心の出力が予め定められた出力に到達する。この後に定常的な出力運転を継続することができる。
【0063】
燃料集合体21bを炉心10に挿入する場合に、高速で燃料集合体21bを移動すると、炉心10に大きな正の反応度が印加されて、出力が急上昇する場合がある。このため、燃料集合体21bを炉心10に挿入するときには、低速で燃料集合体21bを移動することが好ましい。または、燃料集合体21bを徐々に挿入することが好ましい。例えば、炉心の出力が予め定められた上昇速度となるように、徐々に燃料集合体21bを炉心10に挿入することが好ましい。
【0064】
本実施の形態における原子炉の炉心は、制御棒を使用しなくても、原子炉の起動および原子炉の停止を行なうことができる。制御棒を炉心10に挿入するための流路が不要であり、中性子の漏れを抑制することができる。このために、CANDLE燃焼による炉心の臨界を容易に達成することができる。さらに、炉心の平均出力密度を高くすることができる。
【0065】
また、炉心10に、制御棒が挿入される流路を形成すると、その流路の近傍において炉心の軸方向に出力密度を積分した値が小さくなる。ここで、本実施の形態においては、径方向の任意の位置において出力密度を炉心の軸方向に積分した値を軸方向積分出力という。制御棒を挿入するための流路には燃料が装荷されていないために、軸方向積分出力が小さくなってしまう。このために、制御棒を挿入する流路の近傍に配置されている燃料の燃焼度が小さくなる。炉心の径方向において燃料の燃焼が不均一になる。
【0066】
本実施の形態における炉心では、制御棒が挿入される流路を排除することができるために、径方向において軸方向積分出力をほぼ一定に近づけることができる。すなわち、径方向の出力分布を一定に近づけることができる。より一様に燃料を燃焼させることができる。また、径方向の出力分布を一定に近づけることができるため、例えば、運転制御が容易になったり、原子炉の設計が容易になったりする。
【0067】
本実施の形態の炉心においては、移動可能な燃料集合体と補助部材を備え、燃料集合体が炉心から引き抜かれるとともに、補助部材が炉心に挿入されるように形成されているが、この形態に限られず、移動可能な燃料集合体を引き抜いたり挿入したりすることにより、原子炉の停止および起動を行うことができれば、補助部材が配置されていなくても構わない。たとえば、一部の燃料集合体を炉心から引き抜くことにより、炉心からの中性子の漏れを増加させるとともに、炉心に配置されているウランの量を少なくすることができる。このために、炉心に大きな負の反応度を印加することができ、原子炉の構造によっては、補助部材を配置しなくても原子炉の停止および起動を行うことができる。
【0068】
また、本実施の形態における補助部材は、中性子を吸収する機能を有する吸収物質が含まれているが、この形態に限られず、原子炉を停止することができれば、吸収物質が含まれていなくても構わない。吸収物質が配置されていなくても、補助部材を炉心に挿入することにより、炉心の機械的な強度を維持することができる。
【0069】
上記の炉心においては、移動可能な燃料集合体が中央領域に配置されて、炉心に固定されている燃料集合体が周辺領域に配置されている。この構成により、燃料集合体を移動させる移動装置の構成を簡易にすることができる。このような炉心は、例えば、燃料集合体の数が少ない小型の炉心に好適である。
【0070】
本実施の形態における炉心は、中央領域の燃料集合体を炉心から引き抜く様に形成されているが、この形態に限られず、周辺領域に配置されている燃料集合体を炉心から引き抜くように形成されていても構わない。燃料集合体を引き抜く燃料集合体の本数は、原子炉の起動および停止が可能なように定めることができる。また、移動可能な燃料集合体の配置としては、上記の形態に限られず、任意の位置に配置することができる。
【0071】
図13は、本実施の形態における他の炉心の概略平面図である。第2の燃料集合体としての移動可能な燃料集合体21bは、炉心10の全体にわたって、ほぼ均等に配置されている。複数の燃料集合体21bは、予め定められた間隔をあけて、互いに接触せずに配置されている。複数の燃料集合体21bは、離散して配置されている。この構成を採用することによっても、燃料集合体21bを移動することにより、原子炉の停止や原子炉の起動を行なうことができる。このような移動可能な燃料集合体を離散して配置する構成は、特に、大型の炉心に好適である。
【0072】
本実施の形態における炉心は、移動可能な燃料集合体を下側に向かって引き抜く様に形成されているが、この形態に限られず、移動可能な燃料集合体は、炉心の上側に向かって引き抜くように形成されていても構わない。
【0073】
また、本実施の形態における燃料集合体は、正六角柱状に形成されているが、この形態に限られず、任意の形状の燃料集合体を採用することができる。例えば、燃料集合体の引抜きまたは挿入が容易になるように、燃料集合体は、長手方向に沿って径方向の長さが徐々に変化するテーパ形状に形成されていて構わない。
【0074】
本実施の形態における補助部材は、被覆材の内部に配置されている物質以外は、燃料集合体と同様の構造を有するが、この形態に限られず、補助部材としては、任意の構造のものを採用することができる。被覆材の内部が空洞であっても構わない。
【0075】
本実施の形態における燃料は、炉心に装荷する新燃料として劣化ウランを例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方を用いて、CANDLE燃焼を達成することができる。また、CANDLE燃焼を行なうことができる任意の高速中性子炉に、本発明を適用することができる。
【0076】
本実施の形態においては、燃焼サイクル初期において前サイクルの燃焼部を新燃料部の上側に配置したが、この形態に限られず、新燃料部は、炉心の軸方向のうち、燃焼部のいずれか一方の端部に配置することができる。さらには、燃焼部の両側に新燃料部が配置されていても構わない。
【0077】
また、本実施の形態においては、サイクル初期の燃焼を開始する部分は、前サイクルのサイクル末期において、炉心の下部に配置されている燃料を使用しているが、この形態に限られず、サイクル初期における燃焼を開始する部分は、中性子を自発的に発生するように形成されていれば構わない。たとえば、所定の濃度のプルトニウムや濃縮ウランなどを含む燃料が配置されていても構わない。更には、外部から中性子が供給されることにより、燃焼が開始されても構わない。
【0078】
また、本実施の形態における炉心は、炉心の軸方向が鉛直方向と平行になっているが、この形態に限られず、炉心の軸方向は水平方向と平行になっていても構わない。すなわち、本実施の形態における炉心を横置きにしても構わない。
【0079】
本実施の形態においては、燃料の燃焼が定常になっている時に、炉心に対して反応度の制御を行わない運転方法を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、反応度制御を行っても構わない。
【0080】
本実施の形態においては、発電設備に用いられる原子炉の炉心を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、任意の設備の原子炉に本発明を適用することができる。たとえば、船舶等の動力源として本発明の原子炉を用いることができる。
【0081】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。
【符号の説明】
【0082】
1 原子炉
10 炉心
11 新燃料部
12 燃焼部
13 燃焼が進んだ部分
21a 燃料集合体
21b 燃料集合体
22a 燃料棒
23a 被覆材
24aa,24ab,24ac 燃料ペレット
51 補助部材
52 吸収棒
71 駆動装置
72 駆動棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを含み、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、燃焼サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部が新燃料部に向かう方向に移動する炉心を備える原子炉であって、
出力運転の期間中には、複数の燃料集合体が炉心に配置されており、
複数の燃料集合体は、炉心に固定されている燃料集合体および炉心の軸方向に移動可能な燃料集合体を含み、
移動可能な燃料集合体を炉心から引き抜くことにより原子炉を停止させ、更に移動可能な燃料集合体を引き抜いた状態から炉心に挿入することにより原子炉を起動することを特徴とする、原子炉。
【請求項2】
中性子を吸収する機能を有する吸収物質を含む補助部材を備え、
補助部材は、移動可能な燃料集合体に連結されており、
原子炉を停止する場合には、移動可能な燃料集合体が炉心から引き抜かれると共に、補助部材が炉心に挿入されることを特徴とする、請求項1に記載の原子炉。
【請求項3】
移動可能な燃料集合体は、炉心から燃料集合体の全体が引き抜かれるように形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の原子炉。
【請求項4】
炉心は、中央領域および周辺領域に区画されており、
移動可能な燃料集合体は、中央領域に配置され、
炉心に固定されている燃料集合体は、周辺領域に配置されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項5】
移動可能な燃料集合体は、予め定められた間隔をあけて離散して炉心に配置されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の原子炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−145353(P2012−145353A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1865(P2011−1865)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)