説明

原子発振器用の光学モジュールおよび原子発振器

【課題】周波数安定度の高い原子発振器を得ることが可能な原子発振器用の光学モジュールを提供する。
【解決手段】光学モジュール2は、量子干渉効果を利用する原子発振器用の光学モジュールであって、所定の波長を有する基本波F、当該基本波Fの側帯波W1,W2、を含む光L1を出射する光源10と、光源10からの光L1が入射し、当該入射した光L1のうち側帯波W1,W2を透過させる波長選択部20と、アルカリ金属ガスを封入し、波長選択部20を透過した光が照射されるガスセル30と、ガスセル30に照射された光のうちガスセル30を透過した光の強度を検出する光検出部40と、を含み、波長選択部20は、ファイバーブラッググレーティング20aと、ファイバーブラッググレーティング20aに電圧を印加する電圧印加部20bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器用の光学モジュールおよび原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子干渉効果のひとつであるCPT(Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器が提案され、装置の小型化や低消費電力化が期待されている。CPTを利用した原子発振器は、アルカリ金属原子に互いに波長(周波数)の異なる2つの共鳴光を同時に照射すると、2つの共鳴光の吸収が停止する現象(EIT現象:Electromagnetically Induced Transparency)を利用した発振器である。例えば、特許文献1には、CPTを利用した原子発振器として、コヒーレントな光を発する光源と、アルカリ金属原子が封入されたガスセルと、ガスセルを透過した光の強度を検出する受光素子と、を有する光学モジュールを含んで構成された原子発振器が記載されている。
【0003】
CPTを利用した原子発振器では、例えば、光源として半導体レーザーが用いられる。光源として半導体レーザーを用いた原子発振器では、例えば、半導体レーザーの駆動電流を変調することによって半導体レーザーから出射される光に側帯波を発生させて、EIT現象を発現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−89116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、駆動電流が変調された半導体レーザーから出射される光には、側帯波だけでなく、EIT現象に寄与しない中心波長を有する基本波(搬送波)も含まれる。この基本波がアルカリ金属原子に照射されると、アルカリ金属原子が吸収する光の波長(周波数)が変化して(ACシュタルク効果)、原子発振器の周波数の安定度を低下させる場合がある。
【0006】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、周波数安定度の高い原子発振器を得ることが可能な原子発振器用の光学モジュールを提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記原子発振器用の光学モジュールを有する原子発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る原子発振器用の光学モジュールは、
量子干渉効果を利用する原子発振器用の光学モジュールであって、
所定の波長を有する基本波、当該基本波の側帯波、を含む光を出射する光源と、
前記光源からの光が入射し、当該入射した光のうち前記側帯波を透過させる波長選択部と、
アルカリ金属ガスを封入し、前記波長選択部を透過した光が照射されるガスセルと、
前記ガスセルに照射された光のうち前記ガスセルを透過した光の強度を検出する光検出部と、
を含み、
前記波長選択部は、
ファイバーブラッググレーティングと、
前記ファイバーブラッググレーティングに電圧を印加する電圧印加部と、
を有する。
【0008】
このような原子発振器用の光学モジュールによれば、波長選択部が、光源からの光に含まれる基本波の強度を減少または基本波を消滅させることができる。これにより、EIT現象に寄与しない基本波がアルカリ金属原子に照射されることを抑制または防止できる。したがって、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度の高い発振器を提供できる。さらに、波長選択部が、ファイバーブラッググレーティングに電圧を印加するための電圧印加部を有しているため、電気光学効果によってファイバーブラッググレーティングの波長選択特性(ファイバーブラッググレーティングが選択する波長範囲)を変化させることができる。これにより、波長選択部は、製造誤差や環境変化等によるファイバーブラッググレーティングの波長選択特性のずれを補正することができる。
【0009】
本発明に係る原子発振器用の光学モジュールにおいて、
前記電圧印加部は、第1電極および第2電極を有し、
前記ファイバーブラッググレーティングは、前記第1電極と前記第2電極の間に配置されていることができる。
【0010】
このような原子発振器用の光学モジュールによれば、波長選択部を簡易な構成とすることができる。
【0011】
本発明に係る原子発振器用の光学モジュールにおいて、
前記光源は、面発光型レーザーであることができる。
【0012】
このような原子発振器用の光学モジュールによれば、面発光型レーザーは、端面発光型レーザーと比べて、ゲインを生じさせるための電流が少ないため、低消費電力化を図ることができる。
【0013】
本発明に係る原子発振器用の光学モジュールにおいて、
さらに、前記光源から出射された光を、前記ファイバーブラッググレーティングに入射させる光学素子を有することができる。
【0014】
このような原子発振器用の光学モジュールによれば、光源から出射された光を、効率よくファイバーブラッググレーティングに導くことができる。
【0015】
本発明に係る原子発振器は、
本発明に係る原子発振器用の光学モジュールを含む。
【0016】
このような原子発振器は、本発明に係る原子発振器用の光学モジュールを含むため、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度を高めることができる。
【0017】
本発明に係る原子発振器は、
量子干渉効果を利用する原子発振器であって、
所定の波長を有する基本波、当該基本波の側帯波、を含む光を出射する光源と、
前記光源からの光が入射し、当該入射した光のうち前記側帯波を透過させる波長選択部と、
アルカリ金属ガスを封入し、前記波長選択部を透過した光が照射されるガスセルと、
前記ガスセルに照射された光のうち前記ガスセルを透過した光の強度を検出する光検出部と、
を含み、
前記波長選択部は、
ファイバーブラッググレーティングと、
前記ファイバーブラッググレーティングに電圧を印加する電圧印加部と、
を有する。
【0018】
このような原子発振器によれば、波長選択部が、光源からの光に含まれる基本波の強度を減少または基本波を消滅させることができる。これにより、EIT現象に寄与しない基本波がアルカリ金属原子に照射されることを抑制または防止できる。したがって、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度の高い発振器を提供できる。さらに、波長選択部が、ファイバーブラッググレーティングに電圧を印加するための電圧印加部を有しているため、電気光学効果によってファイバーグレーティングの波長選択特性(ファイバーグレーティングが選択する波長範囲)を変化させることができる。これにより、波長選択部は、製造誤差や環境変化等によるファイバーブラッググレーティングの波長選択特性のずれを補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る原子発振器の機能ブロック図。
【図2】図2(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと第1側帯波及び第2側帯波の関係を示す図、図2(B)は、光源で発生する第1光の周波数スペクトラムを示す図。
【図3】波長選択部から射出された第2光の周波数スペクトラムを示す図。
【図4】本実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図。
【図5】本実施形態に係る光学モジュールの要部を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係る光学モジュールおよび原子発振器について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る原子発振器は、本実施形態に係る光学モジュールを含む。図1は、本実施形態に係る原子発振器1の機能ブロック図である。原子発振器1は、量子干渉効果を利用した発振器である。
【0022】
原子発振器1は、光学モジュール2と、制御部50と、を含む。
【0023】
光学モジュール2は、光源10と、波長選択部20と、ガスセル30と、光検出部40と、を含む。
【0024】
光源10は、所定の中心波長(中心周波数)を有する基本波Fと、互いに異なる波長を有する第1側帯波W1および第2側帯波W2と、を含む第1光L1を発生させる。
【0025】
波長選択部20は、第1光L1から第1側帯波W1および第2側帯波W2を選択し、第2光L2として射出する。波長選択部20は、所定の波長範囲の光を選択して射出するファイバーブラッググレーティング(以下、「FBG」ともいう)20aと、FBG20aに電圧を印加するための電圧印加部20bと、を有する。電圧印加部20bは、FBG20aに電圧を印加することにより、FBG20aが選択する波長範囲(波長選択特性)を変化させることができる。
【0026】
ガスセル30は、アルカリ金属ガスを封入しており、ガスセル30には、第2光L2が照射される。
【0027】
光検出部40は、ガスセル30を透過した第2光L2の強度を検出する。
【0028】
制御部50は、光検出部40の検出結果に基づいて、第1側帯波W1および第2側帯波W2の波長(周波数)差が、ガスセル30に封入されたアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する。制御部50は、光検出部40の検出結果に基づいて、変調周波数fを有する検出信号を発生させる。そして、光源10は、この検出信号に基づいて所定の周波数fを有する基本波Fを変調して、周波数f=f+fを有する第1側帯波W1、および周波数f=f−fを有する第2側帯波W2を発生させる。
【0029】
図2(A)は、アルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと第1側帯波W1及び第2側帯波W2の関係を示す図である。図2(B)は、光源10で発生する第1光L1の周波数スペクトラムを示す図である。
【0030】
図2(B)に示すように、光源10において発生する第1光L1は、中心周波数f(=v/λ:vは光の速度、λはレーザー光の中心波長)を有する基本波Fと、中心周波数fに対して上側サイドバンドに周波数fを有する第1側帯波W1と、中心周波数fに対して下側サイドバンドに周波数fを有する第2側帯波W2と、を含む。第1側帯波W1の周波数fは、f=f+fであり、第2側帯波W2の周波数fは、f=f−fである。
【0031】
図2(A)及び図2(B)に示すように、第1側帯波W1の周波数fと第2側帯波W2の周波数fとの周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位GL1と基底準位GL2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。したがって、アルカリ金属原子は、周波数fを有する第1側帯波W1と周波数fを有する第2側帯波W2によってEIT現象を起こす。
【0032】
ここで、EIT現象について説明する。アルカリ金属原子と光との相互作用は、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。図2(A)に示すように、アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位GL1と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f)を有する第1側帯波W1、あるいは基底準位GL2と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f)を有する第2側帯波W2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、光吸収が起きる。ところが、図2(B)に示すように、このアルカリ金属原子に、周波数差f−fが基底準位GL1と基底準位GL2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と正確に一致する第1側帯波W1と第2側帯波W2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して第1側帯波W1と第2側帯波W2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。このEIT現象を利用し、第1側帯波W1と第2側帯波W2との周波数差f−fが基底準位GL1と基底準位GL2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出し制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0033】
しかし、図2(B)に示した第1光L1がガスセル30に直接照射されると、第1側帯波W1と第2側帯波W2と同時に、基本波Fがガスセル30すなわちアルカリ金属原子に照射されることになる。EIT現象に寄与しない基本波Fがアルカリ金属原子に照射されると、ACシュタルク効果により、アルカリ金属原子が吸収する光の波長(周波数)が変化する。これにより、アルカリ金属原子を透過する第1側帯波W1と第2側帯波W2の量が変化してしまう。EIT現象を利用した発振器においては、アルカリ金属原子を透過する第1側帯波W1と第2側帯波W2の量を検知することで変調周波数fmを安定化させ、この変調周波数fmを発信器の出力として利用することにより、発信器の周波数安定度を高めている。従って、基本波Fによって生じるACシュタルク効果は、第1側帯波W1と第2側帯波W2の検知精度を低下させ、変調周波数fmの安定度を低下させる。すなわち、発信器の周波数安定度を低下させてしまう。
【0034】
図3は、波長選択部20から射出された第2光L2の周波数スペクトラムを示す図である。
【0035】
第2光L2は、第1光L1と比べて、基本波Fが消滅または基本波Fの強度が減少した光である。図3の例では、第2光L2は、中心周波数fに対して上側サイドバンドに周波数fを有する第1側帯波W1、および中心周波数fに対して下側サイドバンドに周波数fを有する第2側帯波W2のみを有している。このように、光学モジュール2では、波長選択部20によって、基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させることができる。
【0036】
以下、本実施形態の原子発振器のより具体的な構成について説明する。
【0037】
図4は、原子発振器1の構成を示すブロック図である。
【0038】
原子発振器1は、図4に示すように、光学モジュール2と、電流駆動回路150と、変調回路160と、を含む。
【0039】
光学モジュール2は、半導体レーザー110と、波長選択装置120と、ガスセル130と、光検出器140と、を含む。
【0040】
半導体レーザー110は、所定の中心波長を有する基本波Fと、互いに異なる波長を有する第1側帯波W1および第2側帯波W2と、を含む第1光L1を発生させる。半導体レーザー110が出射するレーザー光(第1光L1)は、電流駆動回路150が出力する駆動電流によって中心周波数f(中心波長λ)が制御され、変調回路160の出力信号(変調信号)によって変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路150による駆動電流に、変調信号の周波数成分を有する交流電流を重畳することにより、半導体レーザー110が出射する第1光L1に変調をかけることができる。これにより、第1光L1には、第1側帯波W1、および第2側帯波W2が生成される。半導体レーザー110において発生する光は、可干渉性を有するため、量子干渉効果を得るために好適である。
【0041】
図2(B)に示すように、第1光L1は、中心周波数f(=v/λ:vは光の速度、λは第1光L1の中心波長)を有する基本波Fと、中心周波数fに対して上側サイドバンドに周波数fを有する第1側帯波W1と、中心周波数fに対して下側サイドバンドに周波数fを有する第2側帯波W2と、を含む。第1側帯波W1の周波数fは、f=f+fであり、第2側帯波W2の周波数fは、f=f−fである。
【0042】
波長選択装置120は、第1光L1から第1側帯波W1および第2側帯波W2を選択し、第2光L2として射出する。波長選択装置120は、所定の波長範囲の光を選択して射出するFBG120aと、FBG120aに電圧を印加するための電圧印加装置120bと、を有する。
【0043】
FBG120aは、第1光から第1側帯波W1および第2側帯波W2を選択して射出することができる。これにより、FBG120aに入射した第1光L1の基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させて、第2光L2として射出することができる。すなわち、第2光L2では、第1光L1と比べて、基本波Fの強度が減少または基本波Fが消滅している。図3の例では、第2光L2は、第1側帯波W1および第2側帯波W2のみを有している。
【0044】
電圧印加装置120bは、電気光学効果によって、FBG120aが選択する波長範囲(波長選択特性)を変化させることができる。ここで、電気光学効果とは、物質の光に対する屈折率が、外部より静電場を加えることによって変化する現象をいう。具体的には、電圧印加装置120bは、FBG120aに電圧を印加することにより、FBG120aの屈折率を変化させ、FBG120aの波長選択特性を制御する。波長選択装置120は、電圧印加装置120bによって、製造誤差や環境変化(熱、光など)等によるFBG120aの波長選択特性のずれを補正することができるため、第1光L1から第1側帯波W1および第2側帯波W2を、精度よく選択して射出することができる。
【0045】
電圧印加装置120bは、光検出器140の出力信号に基づいて、FBG120aに印加する電圧の強度を調整し、FBG120aの波長選択特性を制御してもよい。光モジュール2では、例えば、FBG120a、ガスセル130、光検出器140、電圧印加装置120bを通るフィードバックループによりFBG120aに印加する電圧の強度が調整され、FBG120aの波長選択特性が制御される。
【0046】
また、電圧印加装置120bは、予め取得されたFBG120aの波長選択特性のずれのデータに基づいて、FBG120aに印加する電圧の強度を調整し、FBG120aの波長選択特性のずれを補正してもよい。
【0047】
ガスセル130は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)が封入されたものである。ガスセル130には、波長選択装置120から射出された第2光L2が照射される。
【0048】
このガスセル130に対して、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数(波長)を有する2つの光波(第1側帯波および第2側帯波)が照射されると、アルカリ金属原子がEIT現象を起こす。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、D1線における基底準位GL1と基底準位GL2のエネルギー差に相当する周波数が9.19263・・・GHzなので、周波数差が9.19263・・・GHzの2つの光波が照射されるとEIT現象を起こす。
【0049】
光検出器140は、ガスセル130を透過した第2光L2を検出し、検出した光の量に応じた信号強度の信号を出力する。光検出器140の出力信号は、電流駆動回路150および変調回路160に入力される。また、光検出器140の出力信号は、さらに、電圧印加装置120bに入力されてもよい。光検出器140は、例えば、フォトダイオードである。
【0050】
電流駆動回路150は、光検出器140の出力信号に応じた大きさの駆動電流を発生させて半導体レーザー110に供給し、第1光L1の中心周波数f(中心波長λ)を制御する。半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140、電流駆動回路150を通るフィードバックループにより第1光の中心周波数f(中心波長λ)が微調整されて安定する。
【0051】
変調回路160は、光検出器140の出力信号に応じた変調周波数fを有する変調信号を発生させる。この変調信号は、光検出器140の出力信号が最大になるように変調周波数fが微調整されながら半導体レーザー110に供給される。半導体レーザー110が出射するレーザー光は、変調信号により変調がかけられ、第1側帯波W1と第2側帯波W2を発生させる。
【0052】
なお、半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140は、それぞれ図1の光源10、波長選択部20、ガスセル30、光検出部40に対応する。また、FBG120aは、図1のFBG20aに対応し、電圧印加装置120bは、図1の電圧印加部20bに対応する。また、電流駆動回路150、変調回路160は、図1の制御部50に対応する。
【0053】
このような構成の原子発振器1において、半導体レーザー110が発生させる第1光L1の第1側帯波W1と第2側帯波W2の周波数差がガスセル130に含まれるアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致しなければ、アルカリ金属原子がEIT現象を起こさないため、第1側帯波W1と照射光W2の周波数に応じて光検出器140の検出量は極めて敏感に変化する(検出量が増加する)。そのため、半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140、および変調回路160を通るフィードバックループにより、第1側帯波W1と第2側帯波W2との周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と極めて正確に一致するようにフィードバック制御がかかる。その結果、変調周波数は極めて安定した周波数になるので、変調信号を原子発振器1の出力信号(クロック出力)とすることができる。
【0054】
図5は、光学モジュール2の要部(半導体レーザー110および波長選択装置120)を模式的に示す斜視図である。
【0055】
半導体レーザー110としては、例えば、面発光型レーザーを用いることができる。面発光型レーザーは、端面発光型レーザーと比べて、ゲインを生じさせるための電流が少ないため、低消費電力化を図ることができる。なお、半導体レーザー110として、端面発光型レーザーを用いてもよい。半導体レーザー110から出射された光L1は、図5に示すように、光学素子170によって集光され、FBG120aに入射する。光学素子170は、図示の例では、半導体レーザー110から出射される光L1を集光して、FBG120aに入射させるためのレンズである。
【0056】
FBG120aは、光ファイバーのコアに周期的な屈折率変化を与えたものである。そのため、光ファイバーの長手方向に周期的な屈折率変調が得られ、周期に合致した波長範囲の光信号(基本波F)は反射され、他の波長範囲の光信号(第1側帯波W1および第2側帯波W2)は、この周期的な屈折率変動を感知せずに通過する。すなわち、FBG120aでは、第1側帯波W1および第2側帯波W2に対する反射率が小さく、基本波Fに対する反射率が大きい。したがって、FBG120aは、基本波Fを反射させ、第1側帯波W1および第2側帯波W2を透過させることができる。FBG120aは、光ファイバーを用いているため、変形が容易であり、設計の自由度を向上できる。FBG120aは、例えば、ボビン(図示しない)に巻き付けられていてもよい。
【0057】
FBG120aは、図5に示すように、電圧印加装置120bの第1電極121と第2電極122との間に配置されている。FBG120aは、入射した第1光L1から第1側帯波W1および第2側帯波W2を選択して透過させることができる。
【0058】
電圧印加装置120bは、FBG120aに電圧を印加するための第1電極121および第2電極122を有している。電圧印加装置120bが、電極121,122間に位置するFBG120aに電圧を印加すると、電気光学効果が生じてFBG120aの屈折率が変化し、FBG120aの波長選択特性(FBGが選択する波長範囲)が変化する。
【0059】
光学モジュール2および原子発振器1は、例えば、以下の特徴を有する。
【0060】
光学モジュール2によれば、波長選択装置120が、第1光L1の基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させることができる。これにより、EIT現象に寄与しない基本波Fがアルカリ金属原子に照射されることを抑制または防止できる。したがって、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度の高い発振器を提供できる。
【0061】
光学モジュール2によれば、波長選択装置120が、FBG120aの選択する波長範囲を変化させる電圧印加装置120bを有しているため、製造誤差や環境変化(熱、光など)によるFBG120aの波長選択特性(FBGが選択する波長範囲)のずれを補正することができる。したがって、波長選択装置120は、第1光L1から第1側帯波W1および第2側帯波W2を、精度よく選択して射出することができる。
【0062】
FBG120aの波長選択特性は、光ファイバーのコアに与えられた周期的な屈折率変化に依存する。FBG120aの製造工程において、光ファイバーのコアに周期的な屈折率変化を精度よく与えることは困難であり、FBG120aに製造誤差が生じる場合がある。このような場合であっても、波長選択装置120は、電圧印加装置120bを有するため、この製造誤差に起因する波長選択特性のずれを補正することができる。
【0063】
光学モジュール2では、電圧印加装置120bが、電気光学効果によって、FBG120aの波長選択特性を変化させることができる。これにより、FBGの波長選択特性を、高精度かつ容易に制御できる。さらに、電圧印加装置120bは、FBG120aに電圧を印加するための第1電極121および第2電極122を含んで構成されている。したがって、波長選択装置120を簡易な構成とすることができる。
【0064】
光学モジュール2では、半導体レーザー110が面発光型レーザーであることができる。面発光型レーザーは、端面発光型レーザーと比べて、ゲインを生じさせるための電流が少ないため、低消費電力化を図ることができる。
【0065】
光学モジュール2では、半導体レーザー110から出射された光L1をFBG120aに入射させるための光学素子170を有する。これにより、半導体レーザー110で発生した光L1を、効率よくFBG120aに導くことができる。
【0066】
原子発振器1では、光学モジュール2を有している。したがって、上述のように、周波数安定度の高めることができる。
【0067】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0068】
1 原子発振器、2 光学モジュール、10 光源、20 波長選択部、
20a ファイバーブラッググレーティング、20b 電圧印加部、
30 ガスセル、40 光検出部、50 制御部、110 半導体レーザー、
120 波長選択装置、120a ファイバーブラッググレーティング、
120b 電圧印加装置、121 第1電極、122 第2電極、130 ガスセル、
140 光検出器、150 電流駆動回路、160 変調回路、170 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子干渉効果を利用する原子発振器用の光学モジュールであって、
所定の波長を有する基本波、当該基本波の側帯波、を含む光を出射する光源と、
前記光源からの光が入射し、当該入射した光のうち前記側帯波を透過させる波長選択部と、
アルカリ金属ガスを封入し、前記波長選択部を透過した光が照射されるガスセルと、
前記ガスセルに照射された光のうち前記ガスセルを透過した光の強度を検出する光検出部と、
を含み、
前記波長選択部は、
ファイバーブラッググレーティングと、
前記ファイバーブラッググレーティングに電圧を印加する電圧印加部と、
を有する、ことを特徴とする原子発振器用の光学モジュール。
【請求項2】
前記電圧印加部は、第1電極および第2電極を有し、
前記ファイバーブラッググレーティングは、前記第1電極と前記第2電極の間に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の原子発振器用の光学モジュール。
【請求項3】
前記光源は、面発光型レーザーである、ことを特徴とする請求項1または2に記載の原子発振器用の光学モジュール。
【請求項4】
さらに、前記光源から出射された光を、前記ファイバーブラッググレーティングに入射させる光学素子を有する、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子発振器用の光学モジュール。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原子発振器用の光学モジュールを含む、ことを特徴とする原子発振器。
【請求項6】
量子干渉効果を利用する原子発振器であって、
所定の波長を有する基本波、当該基本波の側帯波、を含む光を出射する光源と、
前記光源からの光が入射し、当該入射した光のうち前記側帯波を透過させる波長選択部と、
アルカリ金属ガスを封入し、前記波長選択部を透過した光が照射されるガスセルと、
前記ガスセルに照射された光のうち前記ガスセルを透過した光の強度を検出する光検出部と、
を含み、
前記波長選択部は、
ファイバーブラッググレーティングと、
前記ファイバーブラッググレーティングに電圧を印加する電圧印加部と、
を有する、ことを特徴とする原子発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−191120(P2012−191120A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55433(P2011−55433)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】