説明

原子発振器

【課題】光源の輝度劣化の影響を回避する。
【解決手段】第1の励起光52を出力する励起光出力部12と、第1の励起光52を分光し第2の励起光152を出力する分光器24と、第1の励起光52により励起される第1のガスセル13を含み第1の周波数信号O1を出力する第1の原子発振部100と、第2の励起光152により励起される第2のガスセル113を含み第2の周波数信号O2を出力する第2の原子発振部200と、第1の周波数信号O1と第2の周波数信号O2とを混合した混合信号301を出力する周波数混合器310と、混合信号301の周波数を変換した出力信号OUTを出力する周波数変換部300と、を含む原子発振器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光により励起されるガスセルを有する原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
原子発振器は、ほとんどがルビジウム、セシウムのアルカリ金属原子の電子軌道エネルギーを周波数基準に用いている。これらアルカリ金属原子の特徴は、ルビジウムが希ガスであるクリプトンより1つ電子が多く(次の原子番号)、セシウムは同様に希ガスのキセノンより1つ電子が多いためである。安定時の電子は、原子核の周りに幾つかある電子軌道上を、最もエネルギーが低い軌道から順に原子番号数だけ運動しているが、希ガスは電子が複数個入れる軌道が丁度一杯に埋まった状態の原子であり、他の原子や分子と電子共有しにくい構造であるために非常に安定した元素である。反応しにくい、つまり安定した元素であるために発火性が低いなどの特徴があり、ランプなど高温環境でも使用されている。
【0003】
一方、アルカリ金属が持っている希ガスよりも1つ多い電子は、希ガスの電子軌道の次にエネルギーが高い軌道に電子が1個だけ存在する構造になる。次の軌道にも複数個の電子が入ることができるため、アルカリ金属の最外核の電子が取りうる状態が軌道内に複数存在することになる。安定時には、この複数の状態のうち最もエネルギーが低い基底準位と呼ばれる状態(軌道)に電子が存在するが、次にエネルギーが高い状態(励起準位)とのエネルギー差に相当するエネルギーを外部から加えると、電子はそのエネルギーを吸収して励起準位に移行する。このエネルギー準位が上がることを励起、下がることを緩和と言うが、励起準位は無限に存在する訳ではなく、軌道に格納できる電子数に相応したとびとびの数だけ存在する。つまり、電子が吸収できるエネルギーもとびとびになる。また、外部から励起の為に与えられたエネルギーは、励起の際に電子に吸収されるので、このエネルギーを観測すれば、電子が励起する現象を把握できる。これは、アルカリ金属に限った現象ではないが、他の原子の場合には、励起・緩和しうる電子が複数存在するため、その組合せや観測が複雑になる。その点、対象となりうる電子が1つしかないアルカリ金属原子では、印加エネルギーの変化は全てこの最外核電子の応答と断定でき、励起・緩和先も単純なので甚だ都合がよい。
【0004】
アルカリ金属原子の中で、ルビジウムとセシウムが多用される主な理由は、自然界における存在確率が比較的高いことに加えて、基底準位に隣接した励起準位に相当するエネルギーが、ルビジウムは795nm,780nmなど、セシウムは895nm,852nmなどの光の波長帯あり、比較的実現しやすいこともある。例えば、これらの波長の光は現在では半導体レーザーなどで容易に作れるため、光源とフォトダイオードの様な検出器の間にアルカリ金属原子を置いて、波長掃引しながら検出信号を観測すれば、丁度上記エネルギー差に波長が一致したところで、電子の吸収による検出信号の低下が確認できる。この様相を図2に示す。
【0005】
図2に示すように、2つの吸収特性を示しているのは、ルビジウム、セシウム共に、原子核にもスピンが存在するため、原子核と電子の相互作用の影響で実際の基底状態が2つ存在するためである。2つの基底状態のエネルギー間隔ΔFも原子発振器では重要になるが、原子核スピンによるエネルギー差は電子のエネルギー差より遥かに小さく、この場合は光ではなく電磁波の周波数に相当し、ルビジウムは6.8346826128GHz、セシウムは9.19263177GHzであることが解っている。これは物理定数であり、永久に変化することはない。
【0006】
従って、この周波数を信号源の用途として取り出せれば、経年変化のない信号源(発振器)を実現できることになり、これが原子発振器の基本的な発想である。この周波数はマイクロ波ではあるが、電子回路で生成可能な周波数であるため、原子発振器の実現に至っている。実際にはマイクロ波として提供するのではなく、一般使用に便利な10MHzや5MHz、1MHzの様な信号として提供している。そのため、例えば出力周波数を電圧制御可能な10MHzの水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Xtal Oscillator)を上記マイクロ波にPLL等の手法で位相同期させることが容易であるので、この様な構成の機種を受動型原子発振器と呼んでいる。一方、受動型原子発振器に対して能動型原子発振器は、原子が緩和時に放出するマイクロ波等のエネルギーを直接増幅加工して提供するものを言う。
【0007】
但し、上述の原子発振器の原理を実現するための回路や検出器の性能には有限の劣化が実在するために、実際の原子発振器の経年変化はゼロにはならない。原子発振器の研究は、これらを改善して精度を向上させるための研究が多い。
【0008】
前述の様に、原子の励起には光を用いるのが一般的であり、従来方式の二重共鳴方式の原子発振器ではランプ光源やレーザー光源が用いられ、近年研究が盛んな量子干渉を利用したCPT(Coherent Population Trapping)方式では面発光レーザーダイオード(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)光源が用いられたりしているが、共に光源と検出器の間に原子を配置し、光に対する原子の応答を観測して制御に供していることには変わりない。
【0009】
1年から数年、または10年以上と言った長期間の周波数安定度を必要とする場合、いずれの場合も光源の輝度劣化が問題となる。輝度劣化は、光源素子内部の微量な不純物の化学反応による原因や、単に発光窓の僅かな汚れなど様々な原因があるが、輝度が長期に渡って不変と言うことは考えにくい。原子発振器は、基本原理上、光源素子の劣化を改善しても、改善後の性能に相当する経年変化は避けられない。
【0010】
この問題を解決するために、例えば特許文献1には、ルビジウム(Rb:Rubidium)原子を用いた二重共鳴方式の原子発振器の方法が記載されている。図3は、特許文献1に記載されたルビジウム(Rb:Rubidium)原子を用いた二重共鳴方式の原子発振器4の基本構成の一例である。励起光52は、ルビジウム原子を用いたRbランプ12から発せられ、Rbガスセル13に入射される。Rbガスセル13は、ガラス等の透明容器に微量のルビジウム金属を収容し、加熱することによりルビジウム原子を気化させている。従って、励起光52はルビジウム原子の蒸気中を透過し、フォトセンサー17に到達する。気化したルビジウム原子は高速で運動するため、Rbガスセル13の壁面やルビジウム原子同士が激しく衝突する。その影響を緩和する目的で、窒素やネオン、アルゴンなどの不活性ガスを緩衝ガスとして微量封入するのが一般的である。
【0011】
二重共鳴のメカニズムは、図4(a)に示すように励起光52が照射されない状態では、ルビジウム原子の最外殻電子は2つある基底準位にほぼ均等の確率で存在する。図4(b)は、このうちF=1準位と励起準位間のエネルギー差に等しい795mmの励起光52をRbランプ12から照射した場合の応答を示す。F=1準位に存在していたルビジウム原子のみが、励起光52からエネルギーを吸収して励起準位になる。この瞬間、図3のフォトセンサー17に到達する光53は、僅かに減少することになる。図4(b)で励起準位になったルビジウム原子は、緩和によりやがて基底準位に戻ってくる。その確率は、図4(a)の存在確率と同様にF=1,F=2ともほぼ均等である。しかし、F=1に緩和したルビジウム原子は、励起光52により再び励起し、また均等の確率で緩和する。この図4(b)、(c)が連続的に行われると、図4(d)に示すように最終的にはF=1にルビジウム原子が存在する確率はほぼゼロになる。いわゆるポンピングであるが、図4(d)の状態は、光を吸収するルビジウム原子が存在しないので、図3のフォトセンサー17に到達する光53が最大になることを意味する。
【0012】
図3においてRbガスセル13は、マイクロ波キャビィティー14に収納されていて、このマイクロ波キャビィティー14に周波数逓倍合成変調部22からのマイクロ波MWVを放射用アンテナ15で照射できるようにしておく。前述の様に、図4のF=1とF=2準位間のエネルギー差は、ルビジウム原子の場合6.8346826128GHzであり、照射するマイクロ波MWVがちょうどこの周波数になった瞬間のみF=2のルビジウム原子に誘導放出が発生し、図4(e)に示すようにF=1へ多数のルビジウム原子が移動する。F=1にルビジウム原子が移動すれば、再び励起光52の吸収が始まるので、二重共鳴方式の原子発振器4ではRbランプ12から励起光52を照射したまま、マイクロ波キャビィティー14のマイクロ波MWVを掃引して、図4(d)から(e)に移行する波長を見つけ、その波長を6.8346826128GHzとして信号生成に用いている。
【0013】
そのため、図3の構成では、低周波信号LWVをマイクロ波MWVに重畳し、フォトセンサー17の出力を増幅・検波することによって、マイクロ波MWVを誘導放出が起きる周波数に同期制御している。同期が成立すると、フォトセンサー17の出力は安定的に最小値となる。動作時の原子発振器はこの状態を延々と維持して信号提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−336136号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来の方法では、ルビジウム原子の挙動を引き出すために様々な機能や部品を用いているが、これらの回路素子は全て有限の安定性を持っており、温度依存性や経年変化を持っているという課題がある。勿論、温度依存性のある部位は、温度補償により一定温度に保つなど配慮されているが、例えば温度を検出するセンサーを取ってみてもそこには僅かながら経年変化が存在する。なかでも、最も影響が大きいのがRbランプ12の輝度劣化であることが解っている。Rbランプ12の発光機能は、最悪は発光停止と言う故障もあるが、故障せず正常に動作している際も僅かずつ発光性能が劣化する傾向がある。
【0016】
図3に例を挙げた二重共鳴方式の原子発振器4では、輝度が劣化した場合、フォトセンサー17の検出量が全体的に下がるだけであれば、周波数精度への影響はない。しかし、Rbガスセル13の吸収ピーク、つまり共鳴周波数は印加される励起光52の光量に対する依存性(パワーシフト)があることが知られている。従って、入射光量がごく微量少なくなった場合、図5に示すように、フォトセンサー17の検出特性は、絶対量が下がると同時に応分の周波数シフトを伴う。もちろん、なんらかの理由で輝度が向上した場合は、反対の挙動を示す。その結果、原子発振器4を長期間運転した場合、出力周波数の変動、つまり長期安定度に対して大きな影響を与えることになる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0018】
[適用例1]
第1の励起光を出力する励起光出力部と、前記第1の励起光を分光し第2の励起光を出力する分光器と、前記第1の励起光により励起される第1のガスセルを含み第1の周波数信号を出力する第1の原子発振部と、前記第2の励起光により励起される第2のガスセルを含み第2の周波数信号を出力する第2の原子発振部と、前記第1の周波数信号と前記第2の周波数信号とを混合した混合信号を出力する周波数混合器と、前記混合信号の周波数を変換した出力信号を出力する周波数変換部と、を含む、ことを特徴とする原子発振器。
【0019】
この構成によれば、励起光出力部の光量が低下すると第1のガスセルと第2のガスセルの共鳴周波数はどちらも変動してしまうが、両者はほぼ同一の光量依存性を有するので、第1の周波数信号と第2の周波数信号とを混合した混合信号を生成することにより共鳴周波数の変動は相殺でき、出力信号は励起光出力部の輝度劣化に依存しない高精度の周波数信号を提供できる。
【0020】
[適用例2]
上記に記載の原子発振器において、前記第1の原子発振部は、前記第1の励起光を第1のNDフィルターを介して前記第1のガスセルに照射し、前記第2の原子発振部は、前記第2の励起光を前記第1のNDフィルターの透過率と異なる透過率の第2のNDフィルターを介して前記第2のガスセルに照射することを特徴とする原子発振器。
【0021】
この構成によれば、励起光出力部の光量が低下すると第1のガスセルと第2のガスセルの共鳴周波数はどちらも変動してしまうが、両者はほぼ同一の光量依存性を有するので、第1の周波数信号と第2の周波数信号とを混合した混合信号を生成することにより共鳴周波数の変動は相殺でき、出力信号は励起光出力部の輝度劣化に依存しない高精度の周波数信号を提供できる。
【0022】
[適用例3]
上記に記載の原子発振器において、前記第1のガスセルのガス圧と前記第2のガスセルのガス圧とは異なることを特徴とする原子発振器。
【0023】
この構成によれば、励起光出力部の光量が低下すると第1のガスセルと第2のガスセルの共鳴周波数はどちらも変動してしまうが、両者はほぼ同一の光量依存性を有するので、第1の周波数信号と第2の周波数信号とを混合した混合信号を生成することにより共鳴周波数の変動は相殺でき、出力信号は励起光出力部の輝度劣化に依存しない高精度の周波数信号を提供できる。
【0024】
[適用例4]
上記に記載の原子発振器において、前記第1のガスセルに与えられる磁場の磁力と前記第2のガスセルに与えられる磁場の磁力とは異なることを特徴とする原子発振器。
【0025】
この構成によれば、励起光出力部の光量が低下すると第1のガスセルと第2のガスセルの共鳴周波数はどちらも変動してしまうが、両者はほぼ同一の光量依存性を有するので、第1の周波数信号と第2の周波数信号とを混合した混合信号を生成することにより共鳴周波数の変動は相殺でき、出力信号は励起光出力部の輝度劣化に依存しない高精度の周波数信号を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図。
【図2】2つの吸収特性を示すグラフ。
【図3】従来のルビジウム原子を用いた二重共鳴方式の原子発振器の基本構成図。
【図4】二重共鳴のメカニズムを示す概略図。
【図5】従来の二重共鳴方式の原子発振器の光量低下の影響を示すグラフ。
【図6】第1実施形態に係る原子発振器の原子準位の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、原子発振器の実施形態について図面に従って説明する。
【0028】
(第1実施形態)
<原子発振器の構成>
先ず、第1実施形態に係る原子発振器の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【0029】
図1に示すように、原子発振器1は、ランプ励振部11と、励起光出力部であるRbランプ12と、分光器であるプリズム24と、第1の原子発振部100と、第2の原子発振部200と、周波数混合器310と、周波数変換部300と、から構成されている。
【0030】
Rbランプ12は、ランプ励振部11から出力される電圧51に基づき第1の励起光52を出力する。プリズム24は、第1の励起光52を分光し第2の励起光152を出力する。
【0031】
第1の原子発振部100は、第1のNDフィルター25と、第1のガスセルであるRbガスセル13と放射用アンテナ15を含むマイクロ波キャビィティー14と、フォトセンサー17と、増幅器18と、低周波位相変調信号発生器21と、位相弁別器20と、電圧制御水晶発振器23と、周波数逓倍合成変調部22と、から構成されている。
【0032】
放射用アンテナ15は、周波数逓倍合成変調部22が出力するマイクロ波MWVに基づきRbガスセル13に放射する。Rbガスセル13には気化したルビジウム原子が封印され、第1のNDフィルター25を介した第1の励起光52により励起する。気化したルビジウム原子は、供給したマイクロ波MWVが基底準位間のエネルギー差と一致する周波数の時に誘導放出53が生じ、ルビジウム原子は再び光エネルギーを吸収して励起する。フォトセンサー17は、Rbガスセル13からの誘導放出53を電圧54に変換する。
【0033】
増幅器18は、フォトセンサー17が出力した電圧54を増幅し、増幅電圧55を位相弁別器20に出力する。低周波位相変調信号発生器21は、100Hz程度の低周波信号LWVを出力する。位相弁別器20は、増幅電圧55を低周波信号LWVで位相同期させ、制御電圧VCを出力する。
【0034】
電圧制御水晶発振器23は、制御電圧VCに基づき第1の周波数信号O1の周波数が制御される。周波数逓倍合成変調部22は、第1の周波数信号O1を低周波信号LWVに基づき逓倍及び合成しマイクロ波MWVを出力する。
【0035】
第2の原子発振部200は、第1のNDフィルター25と透過率が異なる透過率の第2のNDフィルター125と、第2のガスセルであるRbガスセル113と放射用アンテナ115を含むマイクロ波キャビィティー114と、フォトセンサー117と、増幅器118と、低周波位相変調信号発生器121と、位相弁別器120と、電圧制御水晶発振器123と、周波数逓倍合成変調部122と、から構成されている。
【0036】
放射用アンテナ115は、周波数逓倍合成変調部122が出力するマイクロ波MW2に基づきRbガスセル113に放射する。Rbガスセル113には気化したルビジウム原子が封印され、第2のNDフィルター125を介した第2の励起光152により励起する。気化したルビジウム原子は、供給したマイクロ波MW2が基底準位間のエネルギー差と一致する周波数の時に誘導放出153が生じ、ルビジウム原子は再び光エネルギーを吸収して励起する。フォトセンサー117は、Rbガスセル113からの誘導放出153を電圧154に変換する。
【0037】
増幅器118は、フォトセンサー117が出力した電圧154を増幅し、増幅電圧155を位相弁別器120に出力する。低周波位相変調信号発生器121は、100Hz程度の低周波信号LW2を出力する。位相弁別器120は、増幅電圧155を低周波信号LW2で位相同期させ、制御電圧VC2を出力する。
【0038】
電圧制御水晶発振器123は、制御電圧VC2に基づき第2の周波数信号O2の周波数が制御される。周波数逓倍合成変調部122は、第2の周波数信号O2を低周波信号LW2に基づき逓倍及び合成しマイクロ波MW2を出力する。
【0039】
周波数混合器310は、第1の周波数信号O1と第2の周波数信号O2とを混合した混合信号301を出力する。
【0040】
周波数変換部300は、位相比較器311とLPF(Low- pass filter)312と電圧制御水晶発振器313と分周器314とから構成されている。位相比較器311は、周波数混合器310が出力する混合信号301と分周器314が出力する信号304との位相を比較し、信号302を出力する。LPF312は、信号302の低域周波数のみを信号303として通過させる。電圧制御水晶発振器313は、信号303に基づき出力する出力信号OUTの周波数が制御される。分周器314は、出力信号OUTの周波数を分周した信号304を出力する。
【0041】
Rbガスセル13とRbガスセル113とが全く同一のものとした場合、第1のNDフィルター25と第2のNDフィルター125とは透過率の異なるものを用いる。その場合、Rbガスセル13とRbガスセル113との入射光量に差が生じ、共鳴周波数の光量依存性によりマイクロ波キャビィティー14とマイクロ波キャビィティー114との共鳴周波数には差が生じる。この差は、実用的な範囲では数kHz以下である。マイクロ波キャビィティー14とマイクロ波キャビィティー114とが原子共鳴に同期すると、電圧制御水晶発振器23の第1の周波数信号O1の周波数faと電圧制御水晶発振器123の第2の周波数信号O2の周波数fbとの出力周波数も、若干の差(fa−fb)が生じる。周波数混合器310とLPF312によりこの差を信号303として取り出し、電圧制御水晶発振器313をこの信号303に同期させ、出力信号OUTを最終出力とする。
【0042】
このときの原子準位の関係を、図6に示す。マイクロ波キャビィティー14及びマイクロ波キャビィティー114は、基底準位F=1に存在するルビジウム原子を同一の第1の励起光52及び第2の励起光152にて励起する。マイクロ波キャビィティー14及びマイクロ波キャビィティー114では入射光量が異なるため、F=1とF=2の共鳴周波数は、mfaとmfbで僅かに異なる。ただし、入射光量はこの基底準位間の遷移には一切寄与しないので、同一のRbランプ12の発光を分岐することにより併用できる。第1の原子発振部100と第2の原子発振部200とが単独の周波数逓倍合成変調部22,122及び制御系を持っていれば成立する。
【0043】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0044】
本実施形態では、Rbランプ12の光量が低下するとRbガスセル13とRbガスセル113の共鳴周波数はどちらも変動してしまうが、両者はほぼ同一の光量依存性を有するので、第1の周波数信号O1と第2の周波数信号O2とを混合した混合信号301を生成することにより共鳴周波数の変動は相殺でき、出力信号OUTはRbランプ12の輝度劣化に依存しない高精度の周波数信号を提供できる。
【0045】
以上、原子発振器の実施形態を説明したが、こうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることができる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0046】
(変形例1)原子発振器の変形例1について説明する。前記第1実施形態では、2つのRbガスセル13とRbガスセル113の共鳴周波数を異ならせるために、透過率の異なる第1のNDフィルター25及び第2のNDフィルター125を用いたが、Rbガスセル13とRbガスセル113に封入される緩衝ガス圧を別々の設定にすれば、共鳴周波数は緩衝ガス圧に対しても依存性があることは周知であるので、同様の効果が期待できる。
【0047】
また、Rbランプ12の偏光特性を利用したり、位相フィルターを用いて、光路分岐に偏光ビームスプリッタを用いれば分岐比率を変えてガスセルへの入射光量を変えることもできる。
【0048】
或いは、これも周知に手法であるRbガスセル13とRbガスセル113に与える低磁場の磁力を異なる設定にしても同様の効果は期待できる。いずれの代替手法も第1のNDフィルター25及び第2のNDフィルター125を不要とすることができる。
【0049】
(変形例2)原子発振器の変形例2について説明する。前記第1実施形態では、ルビジウム原子を用いた二重共鳴方式を挙げたが、原子がセシウム等他の原子でも同じことが言え、また二重共鳴方式でなく、CPT方式においても同一光源の光を異なる物理共鳴部に入射すれば同様の効果は期待できる。
【0050】
CPT方式では、VCSEL(面発光ダイオード)を使う例がほとんどであるが、VCSEL光は発光光線の線幅が数10MHzとRbランプ12より広いので、図6の準位関係に製作偏差等で多少のずれが生じてもその影響は現れにくい。
【0051】
本方式では、2つの二重共鳴部は制御系を含めて同一のものを2系統使用する。原子発振器においては、共鳴周波数の光量依存性の影響が大きいが、それ以外に回路素子の劣化の影響も受けることを冒頭述べた。その多くの素子が二重共鳴部の制御に寄与しているが、原子セルやフォトセンサーを初めとする一切の構成要素が同一なので、本方式は各構成要素が持つ本質的な劣化傾向も相殺する効果がある。更に、MEMS工法や半導体製造プロセスを使用した小型原子発振器においては、これら周辺機能を半導体同様にウェハ生産すること指向している。その様な製法においては、同一生産した構成要素の性能ばらつきが酷似するため、相殺効果は更に期待できる。
【0052】
更には、近年原子発振器の技術を応用した磁気センサーなどの研究も盛んであるが、光ポンピングを用いたこれらの磁気センサーも基本原理は原子発振器と同一であるので長期に渡って、高精度を維持可能な磁気センサーをも実現することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…原子発振器、11…ランプ励振部、12…Rbランプ、13…Rbガスセル、14…マイクロ波キャビィティー、15…放射用アンテナ、17…フォトセンサー、18…増幅器、20…位相弁別器、21…低周波位相変調信号発生器、22…周波数逓倍合成変調部、23…電圧制御水晶発振器、24…分光器、25…第1のNDフィルター、51…電圧、52…第1の励起光、53…誘導放出、54…電圧、55…増幅電圧、100…第1の原子発振部、113…Rbガスセル、114…マイクロ波キャビィティー、115…放射用アンテナ、117…フォトセンサー、118…増幅器、120…位相弁別器、121…低周波位相変調信号発生器、122…周波数逓倍合成変調部、123…電圧制御水晶発振器、125…第2のNDフィルター、152…第2の励起光、153…誘導放出、154…電圧、155…増幅電圧、200…第2の原子発振部、300…周波数変換部、301…混合信号、302…信号、303…信号、304…信号、310…周波数混合器、311…位相比較器、312…LPF、313…電圧制御水晶発振器、314…分周器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の励起光を出力する励起光出力部と、
前記第1の励起光を分光し第2の励起光を出力する分光器と、
前記第1の励起光により励起される第1のガスセルを含み第1の周波数信号を出力する第1の原子発振部と、
前記第2の励起光により励起される第2のガスセルを含み第2の周波数信号を出力する第2の原子発振部と、
前記第1の周波数信号と前記第2の周波数信号とを混合した混合信号を出力する周波数混合器と、
前記混合信号の周波数を変換した出力信号を出力する周波数変換部と、
を含む、
ことを特徴とする原子発振器。
【請求項2】
請求項1に記載の原子発振器において、前記第1の原子発振部は、前記第1の励起光を第1のNDフィルターを介して前記第1のガスセルに照射し、前記第2の原子発振部は、前記第2の励起光を前記第1のNDフィルターの透過率と異なる透過率の第2のNDフィルターを介して前記第2のガスセルに照射することを特徴とする原子発振器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の原子発振器において、前記第1のガスセルのガス圧と前記第2のガスセルのガス圧とは異なることを特徴とする原子発振器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の原子発振器において、前記第1のガスセルに与えられる磁場の磁力と前記第2のガスセルに与えられる磁場の磁力とは異なることを特徴とする原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−192965(P2010−192965A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32351(P2009−32351)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】