説明

原子発振器

【課題】光検出器で吸収される光のレベルを高めてS/Nを改善した原子発振器を提供す
る。
【解決手段】この原子発振器50は大きく分けると、アルカリ金属原子と該アルカリ金属
原子の同位体とを混合した気体を封入したセル2と、可干渉性(コヒーレント性)を有し
、1つの中心周波数に対して2つの異なる周波数成分を有する第1の共鳴光対と第2の共
鳴光対を含む複数の光を気体に照射する光源(LD)1と、気体を透過した光の強度に応
じた検出信号を生成する光検出部(PD)3と、検出信号の強度に基づいて、アルカリ金
属原子に電磁誘起透過現象(以下、EIT現象と呼ぶ)を生起させるように第1の共鳴光
対の周波数を制御すると共に、アルカリ金属原子の同位体にEIT現象を生起させるよう
に、第2の共鳴光対の周波数を制御する周波数制御部12と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器の光源を制御する方法に関し、さらに詳しくは、原子発振器の吸
収ゲイン可変による吸収捕捉を安定化する原子発振器の光源を制御する方法に関するもの
である。
【背景技術】
【0002】
電磁誘起透過方式(EIT(Electromagnetically Induced Transparency)方式、CP
T(Coherent Population Trapping)方式と呼ばれることもある)による原子発振器は、
アルカリ金属原子に波長の異なる二つの共鳴光を同時に照射すると、二つの共鳴光の吸収
が停止する現象(EIT現象)を利用した発振器である。従って、EIT現象を安定的に
得ることが重要である。
アルカリ金属原子と2つの共鳴光との相互作用機構は、図7(A)に示すように、A型
3準位系モデルで説明できることが知られている。アルカリ金属原子は2つの基底準位を
有し、第1基底準位33と励起準位30とのエネルギー差に相当する波長(周波数f
を有する第1共鳴光31、あるいは第2基底準位34と励起準位30とのエネルギー差に
相当する波長(周波数f)を有する第2共鳴光32を、それぞれ単独でアルカリ金属原
子に照射すると、よく知られているように光吸収が起きる。ところが、図7(B)に示す
ように、このアルカリ金属原子に、周波数差f−fが第1基底準位33と第2基底準
位34のエネルギー差△E12に相当する周波数と正確に一致する第1共鳴光31と第2
共鳴光32を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態に
なり、励起準位30への励起が停止して第1共鳴光31と第2共鳴光32がアルカリ金属
原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。このEIT現象を利用し、第1共鳴
光31と第2共鳴光32との周波数差f−fが第1基底準位33と第2基底準位34
のエネルギー差△E12に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出
し制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0003】
従来のCPT方式による原子発振器は、電流駆動回路により発生した周波数fo(=v
/λo:vは光の速度、λoはレーザー光の中心波長)の駆動電流を、第1基底準位33
と第2基底準位34のエネルギー差△E12に相当する周波数の1/2の変調周波数fm
1で変調することにより、半導体レーザーに周波数fl=fo+fmlの第1共鳴光31
と周波数f=fo−fmの第2共鳴光32を発生させ(図7(B))、原子セルに含
まれる気体状のアルカリ金属原子にEIT現象を起こさせる。この原子発振器は、原子セ
ルを透過した光の検出量が最大になるように電圧制御水品発振器(VCXO)の発振周波
数を制御し、その発振周波数をPLLにより逓倍率N/R(N、Rはともに正の整数)で
逓倍して△E12に相当する周波数の1/2の変調周波数fmlの信号を生成する。この
ような構成によれば、電圧制御水晶発振器(VCXO)は極めて安定に発振動作を継続す
るので、周波数安定度が極めて高い発振信号を発生させることができる。
従来技術として特許文献1には、半導体レーザーへのバイアス電流に低周波信号で変調
をかけて、吸収を安定化する回路構成について開示されている(図8参照)。それによる
と、半導体レーザー光の中心波長(キャリア周波数)を安定化させるために、ロックイン
アンプ(同期検波回路)を用い、このロックインアンプの出力信号をアナログ的にフィー
ドバックさせることにより、半導体レーザー光の中心波長を制御している。即ちロックイ
ンアンプが狭帯域のフィルタとして機能し、フィードバック制御に必要な所望の成分のみ
を検出するので高精度の周波数制御が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6320472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている従来技術は、図7(B)に示すように、電流駆動
回路により発生した周波数fo(=v/λo:vは光の速度、λoはレーザー光の中心波
長)の駆動電流を、第1基底準位33と第2基底準位34のエネルギー差△E12に相当
する周波数の1/2の変調周波数fm1で変調することにより、半導体レーザーに周波数
fl=fo+fmlの第1共鳴光31と周波数f=fo−fmの第2共鳴光32を発
生させ、原子セルに含まれる気体状のアルカリ金属原子にEIT現象を起こさせる。また
、EIT現象はセルに含まれるアルカリ金属原子の数が多いほど寄与する確率が高くなり
、光検出器で吸収される光のレベルが大きくなるが、近年の小型化、低消費化の要求によ
りEIT現象に寄与する確率が低くなり、光のレベルが低下してS/Nを悪化させるとい
った問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、アルカリ金属原子に同位体が存在
することを利用して、アルカリ金属原子と該アルカリ金属原子の同位体とを混合した気体
に1つの中心周波数に対して2つの異なる周波数成分を有する第1の共鳴光対と第2の共
鳴光対を含む複数の光を照射することにより、光検出器で吸収される光のレベルを高めて
S/Nを改善した原子発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現
象を利用する原子発振器であって、前記アルカリ金属原子と該アルカリ金属原子の同位体
とを混合した気体と、可干渉性(コヒーレント性)を有し、1つの中心周波数に対して2
つの異なる周波数成分を有する第1の共鳴光対と第2の共鳴光対を含む複数の光を前記気
体に照射する光源と、前記気体を透過した光の強度に応じた検出信号を生成する光検出部
と、前記検出信号の強度に基づいて、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を生起さ
せるように前記第1の共鳴光対の周波数を制御すると共に、前記アルカリ金属原子の同位
体に電磁誘起透過現象を生起させるように、前記第2の共鳴光対の周波数を制御する周波
数制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
少なくとも4つ(2つの共鳴光対)の共鳴光を発生させるためには、コヒーレント光源
から出射される共鳴光に変調を与えて、サイドバンドを発生させ、その周波数スペクトラ
ムを利用することが考えられる。また、共鳴光を変調する周波数は、遷移周波数によって
変調する必要がある。そこで本発明では、アルカリ金属原子と、そのアルカリ金属原子の
同位体とを混合した気体を用意し、周波数制御部は2つの共鳴光対を制御する。これによ
り、コヒーレント光源から出射した共鳴光から、遷移周波数を維持した4つの周波数スペ
クトラムを有する共鳴光を生成することができる。
【0009】
[適用例2]前記アルカリ金属原子が質量数85のルビジウムであり、前記アルカリ金
属原子の同位体が質量数87のルビジウムであることを特徴とする。
【0010】
ルビジウムの同位体は24種類が知られている。天然に存在するルビジウムは、天然存
在比が72.2%の安定同位体85Rbと、27.8%の放射性同位体87Rbの2種類
である。即ち、85Rbと87Rbは、中心波長がD1線で795nm、D2線で780
nmとそれぞれ共通であるが、それぞれの遷移周波数が85Rbで6.8GHz、87R
bで3.0GHzの2種類となる。これにより、1本のレーザー光でサイドバンドを2種
類発生させることができ、EIT現象に寄与する原子の確率を高めることができる。
【0011】
[適用例3]前記周波数制御部は、電圧制御水晶発振器の出力信号を所定の周波数によ
り位相変調する位相変調部と、該位相変調部により位相変調された信号を前記アルカリ金
属原子の遷移周波数に逓倍する第1の周波数逓倍部と、前記位相変調部により位相変調さ
れた信号を前記アルカリ金属原子の同位体の遷移周波数に逓倍する第2の周波数逓倍部と
、前記第1の周波数逓倍部により逓倍された周波数と前記第2の周波数逓倍部により逓倍
された周波数とを混合する周波数混合器と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る原子発振器のもう一つの特徴は、周波数制御部の構成にある。即ち、2種
類の遷移周波数を制御するために、位相変調部により変調された信号を、第1の共鳴光対
の遷移周波数に逓倍する第1の周波数逓倍部と、第2の共鳴光対の遷移周波数に逓倍する
第2の周波数逓倍部とを備えることである。そして、これらの逓倍周波数を混合する周波
数混合器が必要となる。これにより、アルカリ金属原子と、その同位体の遷移周波数を1
本に合成して光源を励起することができる。
【0013】
[適用例4]前記第1の周波数逓倍部及び前記第2の周波数逓倍部に夫々前記位相変調
部を備え、何れか一方の前記位相変調部に位相をシフトする移相器を備えたことを特徴と
する。
【0014】
位相変調部を共通に使用して2つの周波数逓倍部を駆動することができるが、部品のバ
ラツキ等により互いの位相がずれてしまう可能性もある。そこで、この現象が発生したと
きに、位相をシフトして位相合わせを行なう必要がある。そこで本発明では、何れか一方
の位相変調部に位相をシフトする移相器を備えた。これにより、同期検波を正確に、且つ
迅速に行なうことができる。
【0015】
[適用例5]前記第1の周波数逓倍部及び前記第2の周波数逓倍部に夫々前記位相変調
部を備え、何れか一方の前記位相変調部に信号の振幅を調整する振幅調整器を備えたこと
を特徴とする。
【0016】
2つの周波数逓倍部の出力レベルは、検波後の誤差電圧の傾きに影響する。従って理想
的には2つの周波数逓倍部の出力レベルが同じであることが好ましい。そこで本発明では
、何れか一方の位相変調部に振幅を調整する振幅調整器を備えた。これにより、同期検波
を正確に、且つ迅速に行なうことができる。
【0017】
[適用例6]前記光源から出射された前記第1の共鳴光対と第2の共鳴光対を含む複数
の光を変調する電気光学変調器(EOM)を備えたことを特徴とする。
【0018】
光を変調するためには、電気光学変調素子が必要となる。しかし、周波数スペクトラム
の数を増やすと、それだけ電気光学変調素子の数を増やさなければならず、コスト的に高
くなり、且つ部品点数が増加するといった問題がある。そこで本発明では、電気光学変調
素子を変調する信号を周波数混合器で混合しておき、その変調信号により1つの電気光学
変調素子を変調する。これにより、電気光学変調素子の数を最小限にして、部品点数を削
減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】EIT現象の基本的な動作を説明する図である。
【図2】本発明の基本原理を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図7】アルカリ金属原子と2つの共鳴光との相互作用機構を説明する図である。
【図8】特許文献1に開示されている原子発振器の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記
載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限
り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0021】
図1はEIT現象の基本的な動作を説明する図である。まず装置の電源をONすると図
3の光検出部(PD)3の出力が最大となるように中心波長設定部18が光源(LD)1
の中心波長を設定する(図1(a)参照)。EIT信号48を拡大すると図1(b)のよ
うな信号がえられている。即ち、波形40はアンロック状態の場合、位相変調の中心がE
IT信号48のピークからずれている状態であり、増幅器(AMP)4の出力が111H
z周期で脈動する(波形40)。アンロック(非同期)状態では、PLL8、9(第1、
第2の周波数逓倍部)の出力周波数が共鳴周波数の1/2にロックされていないため、A
MP4の出力において低周波発振器17の成分(111Hz)のみ発生する。そこで、A
MP4の出力において低周波発振器17(111Hz)の2倍の成分(222Hz)が最
大になるようにフィードバック制御され、図1(b)の波形41のように、光源部11の
出力信号の周波数が共鳴周波数の1/2に正確にロックされる。即ち、位相変調の中心が
EIT信号48のピークに一致する。このとき、同期制御出力信号は図1(c)のような
同期制御電圧42が発生している。この同期制御電圧42が0Vとなるように、電圧制御
水晶発振器6へフィードバック制御がかかり、PLL8、9(第1、第2の周波数逓倍部
)の出力周波数は正確に共鳴周波数の1/2にロックされる。図1(d)は、周波数の安
定度を説明するための図であり、安定度δ(τ)=1/(Q・S/N・√τ)と表される
。即ち、半値幅が同じ波形43と44では、波形43の方が波形44に比べてSが2倍と
なり、その結果、安定度τが2倍となる。
【0022】
図2は本発明の基本原理を説明する図である。図2(a)は本発明のPDの出力信号と
光源に入力されるマイクロ波周波数の関係を示す図である。本発明は、アルカリ金属原子
に同位体が存在することを利用して、アルカリ金属原子と該アルカリ金属原子の同位体と
を混合した気体に1つの中心周波数に対して2つの異なる周波数成分を有する第1の共鳴
光対と第2の共鳴光対を含む複数の光を照射することにより、光検出部(PD)3で吸収
される光のレベルを高めてS/Nを改善した原子発振器である。
例えば、ルビジウムの場合、アルカリ金属原子が質量数85のルビジウム(85Rb)
であり、アルカリ金属原子の同位体が質量数87のルビジウム(87Rb)である。ルビ
ジウムの同位体は24種類が知られている。天然に存在するルビジウムは、天然存在比が
72.2%の安定同位体85Rbと、27.8%の放射性同位体87Rbの2種類である
。このときの中心周波数における光検出部(PD)3の出力信号レベルの関係は、87R
bのEITスペクトル47が最も低く、85RbのEITスペクトル46がそれよりも高
くなっている。そして両者を合成することにより、EITスペクトル45を更に大きくす
ることができる。また、図2(b)及び(c)から明らかな通り、85Rbと87Rbは
、中心波長がD1線で795nm、D2線で780nmとそれぞれ共通であるが、それぞ
れの遷移周波数が85Rbで約6.8GHz、87Rbで約3.0GHzの2種類となる
。これにより、1本のレーザー光でサイドバンドを2種類発生させることができ、EIT
現象に寄与する原子の確率を高めることができる。
【0023】
図3は本発明の第1の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。この
原子発振器50は大きく分けると、アルカリ金属原子と該アルカリ金属原子の同位体とを
混合した気体を封入したセル2と、可干渉性(コヒーレント性)を有し、1つの中心周波
数に対して2つの異なる周波数成分を有する第1の共鳴光対と第2の共鳴光対を含む複数
の光を気体に照射する光源(LD)1と、気体を透過した光の強度に応じた検出信号を生
成する光検出部(PD)3と、検出信号の強度に基づいて、アルカリ金属原子に電磁誘起
透過現象(以下、EIT現象と呼ぶ)を生起させるように第1の共鳴光対の周波数を制御
すると共に、アルカリ金属原子の同位体にEIT現象を生起させるように、第2の共鳴光
対の周波数を制御する周波数制御部12と、を備えて構成されている。
【0024】
また、周波数制御部12は、電圧制御水晶発振器6の出力信号を所定の周波数により位
相変調する位相変調部7と、位相変調部7により位相変調された信号をアルカリ金属原子
の遷移周波数に逓倍する第1の周波数逓倍部8と、位相変調部7により位相変調された信
号をアルカリ金属原子の同位体の遷移周波数に逓倍する第2の周波数逓倍部9と、第1の
周波数逓倍部8により逓倍された周波数と第2の周波数逓倍部9により逓倍された周波数
とを混合する周波数混合器10と、を備えている。また、同期制御部5は、所定の周波数
を発振する低周波発振器17と、位相回路16と、光検出部(PD)3の信号と位相回路
16の信号を乗算する乗算器15と、乗算器15の出力から直流成分を取り出すフィルタ
14とを備えている。
即ち、少なくとも4つ(2つの共鳴光対)の共鳴光を発生させるためには、光源1から
出射される共鳴光に変調を与えて、サイドバンドを発生させ、その周波数スペクトラムを
利用することが考えられる。また、共鳴光を変調する周波数は、遷移周波数によって変調
する必要がある。そこで本実施形態では、アルカリ金属原子と、そのアルカリ金属原子の
同位体とを混合した気体をセル2に封入し、周波数制御部12は2つの共鳴光対を制御す
る。これにより、光源1から出射した共鳴光から、遷移周波数を維持した4つの周波数ス
ペクトラムを有する共鳴光を生成することができる。
【0025】
図4は本発明の第2の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。同じ
構成要素には図3と同じ参照番号を付し説明を省略する。この原子発振器51が図3の原
子発振器50と異なる点は、第1の周波数逓倍部8及び第2の周波数逓倍部9に夫々位相
変調部7a、7bを備え、何れか一方(図4では7b)の位相変調部に位相をシフトする
移相器13を備えた。即ち、位相変調部7を共通に使用して2つの周波数逓倍部8、9を
駆動することができるが、部品のバラツキ等により互いの位相がずれてしまう可能性もあ
る。そこで、この現象が発生したときに、位相をシフトして位相合わせを行なう必要があ
る。そこで本実施形態では、位相変調部7bに位相をシフトする移相器13を備えた。こ
れにより、同期検波を正確に、且つ迅速に行なうことができる。
【0026】
図5は本発明の第3の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。同じ
構成要素には図3と同じ参照番号を付し説明を省略する。この原子発振器52が図3の原
子発振器50と異なる点は、第1の周波数逓倍部8及び第2の周波数逓倍部9に夫々位相
変調部7a、7bを備え、何れか一方(図5では7b)の位相変調部7bに変調信号の振
幅を調整する振幅調整器19を備えた。即ち、2つの周波数逓倍部8、9の出力における
位相変調度は、検波後の誤差電圧の傾きに影響する(図1(c)参照)。従って理想的に
は2つの周波数逓倍部8、9の位相変調度が同じであることが好ましい。そこで本実施形
態では、位相変調部7bに変調信号の振幅を調整する振幅調整器19を備えた。これによ
り、同期検波を正確に、且つ迅速に行なうことができる。
【0027】
図6は本発明の第4の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。同じ
構成要素には図3と同じ参照番号を付し説明を省略する。この原子発振器53が図3の原
子発振器50と異なる点は、光源1から出射された第1の共鳴光対と第2の共鳴光対を含
む複数の光を変調する電気光学変調器(EOM)20を備えた。即ち、光を変調するため
には、電気光学変調素子20が必要となる。しかし、周波数スペクトラムの数を増やすと
、それだけ電気光学変調素子20の数を増やさなければならず、コスト的に高くなり、且
つ部品点数が増加するといった問題がある。そこで本実施形態では、第1の周波数逓倍部
8の出力信号と第2の周波数逓倍部9の出力信号を周波数混合器10で混合しておき、そ
の出力信号により1つの電気光学変調素子20を変調する。これにより、電気光学変調素
子20の数を最小限にして、部品点数を削減することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 光源(LD)、2 セル、3 光検出部(PD)、4 増幅器(AMP)、5 同期
制御部、6 電圧制御水晶発振器、7 位相変調部、8 第1の周波数逓倍部、9 第2
の周波数逓倍部、10 周波数混合器、11 光源部、12 周波数制御部、13 移相
器、14 フィルタ、15 乗算器、16 移相器、17 低周波発振器、18 中心波
長設定部、19 振幅調整器、20 電気光学変調器(EOM)、50〜53 原子発振


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する
原子発振器であって、
前記アルカリ金属原子と該アルカリ金属原子の同位体とを混合した気体と、
可干渉性を有し、1つの中心周波数に対して2つの異なる周波数成分を有する第1の共
鳴光対と第2の共鳴光対を含む複数の光を前記気体に照射する光源と、
前記気体を透過した光の強度に応じた検出信号を生成する光検出部と、
前記検出信号の強度に基づいて、前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を生起させ
るように前記第1の共鳴光対の周波数を制御すると共に、前記アルカリ金属原子の同位体
に電磁誘起透過現象を生起させるように、前記第2の共鳴光対の周波数を制御する周波数
制御部と、を備えたことを特徴とする原子発振器。
【請求項2】
前記アルカリ金属原子が質量数85のルビジウムであり、前記アルカリ金属原子の同位
体が質量数87のルビジウムであることを特徴とする請求項1に記載の原子発振器。
【請求項3】
前記周波数制御部は、
電圧制御水晶発振器の出力信号を所定の周波数により位相変調する位相変調部と、
該位相変調部により位相変調された信号を前記アルカリ金属原子の遷移周波数に逓倍す
る第1の周波数逓倍部と、
前記位相変調部により位相変調された信号を前記アルカリ金属原子の同位体の遷移周波
数に逓倍する第2の周波数逓倍部と、
前記第1の周波数逓倍部により逓倍された周波数と前記第2の周波数逓倍部により逓倍
された周波数とを混合する周波数混合器と、
を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の原子発振器。
【請求項4】
前記第1の周波数逓倍部及び前記第2の周波数逓倍部に夫々前記位相変調部を備え、何
れか一方の前記位相変調部に位相をシフトする移相器を備えたことを特徴とする請求項3
に記載の原子発振器。
【請求項5】
前記第1の周波数逓倍部及び前記第2の周波数逓倍部に夫々前記位相変調部を備え、何
れか一方の前記位相変調部に信号の振幅を調整する振幅調整器を備えたことを特徴とする
請求項3に記載の原子発振器。
【請求項6】
前記光源から出射された前記第1の共鳴光対と第2の共鳴光対を含む複数の光を変調す
る電気光学変調器を備えたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の原子発
振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−4469(P2012−4469A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140230(P2010−140230)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】