説明

原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振方法及び原子間力顕微鏡

【課題】液体に浸漬した試料を測定する際に、構成が簡単で低コストでありながら高精度の測定が可能なスプリアスフリーのカンチレバー励振方法を提供する。
【解決手段】カンチレバー5の背面に形成された金属薄膜5aと、カンチレバー5が固定された台座部4の透明体4aの下面に形成された対向電極9との間に、高周波の搬送波信号を振幅変調することで生成した励振電圧を印加する。カンチレバー5と液体8との界面に形成される電気二重層容量は誘電緩和するため界面張力効果による力は無視できる程度になり、静電気力による作用が支配的になるため、励振スペクトルが理想的な調和振動子モデルに近づき、共振周波数よりも十分低い周波数領域では振幅及び位相は周波数に依存しない平坦な特性となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックモード原子間力顕微鏡及び該原子間力顕微鏡に用いられるカンチレバーの励振方法に関し、さらに詳しくは、液中に浸漬された試料の表面を観察するために好適な原子間力顕微鏡及び該原子間力顕微鏡に用いられるカンチレバーの励振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM=Atomic Force Microscope)は、先鋭な探針と試料表面との間に作用する力をカンチレバーの変位から測定し、探針を試料表面に沿って一次元的又は二次元的に走査することで試料表面の形状等の情報を取得する装置である。このAFMの1つとして、周波数変調検出方式のAFM(FM−AFM=Frequency Modulation - Atomic Force Microscope)が知られている。FM−AFMでは、試料表面に原子レベルの距離まで近づけた探針を保持するカンチレバーをその機械的な共振周波数で以て振動させ、探針と試料表面との間に働く相互作用によって生じる共振周波数の変化(周波数シフトΔf)を検出する。この周波数シフトΔfは探針と試料表面との距離に依存するため、周波数シフトΔfを一定に維持しながら、試料表面を該試料の法線に直交する面内で二次元走査(例えばラスタースキャン)することにより、試料表面の凹凸観察像(Δf一定像)を得ることができる。
【0003】
上述のようにFM−AFMでは試料表面観察に際し、カンチレバーをその共振点付近の周波数で振動させる必要がある。そのための励振方法としては、ピエゾ素子等の圧電素子を用いた音響励振法が最も広く利用されている(特許文献1など参照)。これは、最も簡便な方法であるとともにコストも比較的低いためである。
【0004】
ところで、AFMは大気中や真空中で試料表面測定が可能であるのはもちろんのこと、液体中に浸漬された状態の試料の測定も行えるという特徴を有している(特許文献2など参照)。液中におけるFM−AFM測定は特に生体試料の測定に威力を発揮するため、その測定技術の進歩は生化学分野、医療分野等において期待されている。しかしながら、液中FM−AFM測定においてカンチレバーの励振に上記音響励振法を用いた場合、次のような大きな問題がある。
【0005】
即ち、液中FM−AFM測定では、圧電素子はカンチレバーを振動させるのみならずこれを保持するカンチレバーホルダや分析用液体を密閉するセルをも振動させてしまい、これらの振動が液体を伝播してカンチレバーをさらに振動させるため、本来の共振モードとは異なる振動モードがスペクトルに現れる。図7は、音響励振法でカンチレバーを励振させたときの大気中の励振スペクトル(a)と液中の励振スペクトル(b)との実測例である。図7(b)から、液中では共振点からずれた周波数でもカンチレバーが振動してしまっていることが分かる。こうした不適切な振動のために、本来分離されるべき保存的相互作用力(探針の振動に同期した力)と散逸的相互作用力(探針の振動エネルギを散逸させる力)とがカップリングしてしまい、その結果、良好な測定信号が得られない、フィードバック制御系が不安定化する、或いは、定量的な相互作用力の見積もりが困難になる、といった問題を引き起こす。
【0006】
上記問題に対し、スプリアスフリーな励振法と呼ばれる幾つかの別の励振法がある。よく知られているスプリアスフリー励振法として、磁気励振法と光熱励振法とがある。磁気励振法とは、カンチレバーの背面(上面)に磁気微粒子を貼り付け、電磁コイルで形成する磁場の作用によりカンチレバーを励振する方法である。一方、光熱励振法とは、カンチレバーの背面に光てこ法を目的したレーザ光とは別に、変調信号を含むレーザ光を照射し、カンチレバーの背面と前面(下面)との間の熱伝導性の相違を利用してカンチレバーを励振する方法である(非特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、磁気励振法の場合、微小なカンチレバーに磁気微粒子を取り付ける作業が必要になり、その作業に手間が掛かるためにコストが高いものとなる。また、電気化学環境(電場が作用する液中)の下では磁気微粒子が液体に溶け出す恐れがあり、試料に悪影響を及ぼすことも考えられる。他方、光熱励振法の場合には、AFMヘッドの構造が複雑になってコストが高いものとなる、複数のレーザ光をカンチレバーに適切に照射する必要があるために光学調整が煩雑である、といった問題がある。
【0008】
従来知られている別のスプリアスフリー励振法として静電気力を用いた方法がある。例えば非特許文献2には、液中ではなく大気中であるが静電気力を利用してカンチレバーを励振する方法が開示されている。この励振法は、カンチレバー先端の探針と導電性の試料又は試料の下に配置した導電体との間に静電気力を作用させることにより、カンチレバーを振動させるものである。しかしながら、この方法では、探針を試料に近付けていくときや測定中に探針と試料との距離を変更するときに、探針と試料との離間距離によって励振効率が変化してしまうことになる。このように、従来の静電気力を用いた励振方法は、試料が導電性を有するものに限られる、又は、極めて薄い試料である場合には試料が載置される部材を対向電極として設けなければならない上に、相互作用力と離間距離との関係が通常のAFMとは様相が異なり複雑となるため、AFMのカンチレバーの一般的な励振方法としては適していない。
【0009】
これに対し、本願発明者らは、液中で静電気力によりカンチレバーを励振させる新規な手法を非特許文献3などにおいて提案している。この励振方法では、背面が金で被覆されたカンチレバーを用い、その金コートと対向する液中セルの面に酸化インジウムスズ薄膜から成る対向電極を設け、分析用液体で満たされたカンチレバーの金コートと対向電極との間に交流電圧を印加することによりカンチレバーを励振している。これにより、簡単な構成でありながら、低エネルギー損失で静電気力により高い効率でカンチレバーを励振することができる。また、非接触のスプリアスフリーな励振方法であるから、液中でも比較的な良好な励振スペクトルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−122168号公報
【特許文献2】特開2009−58231号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】西田、ほか4名、「レーザードップラー干渉計と光熱励振法を用いた液中原子間力顕微鏡」、生産研究、58巻2号、2006年
【非特許文献2】ホン(J.W.Hong)、ほか3名、「タッピング・モード・アトミック・フォース・マイクロスコピー・ユージング・エレクトロスタティック・フォース・モジュレーション(Tapping mode atomic force microscopy using electrostatic force modulation)」、アプライド・フィジックス・レター(Appl. Phys. Lett.)、69巻19号、1996年、p.2831-2833
【非特許文献3】梅田、ほか5名、「静電気力励振を用いた液中FM-AFM観察」、第57回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、2010年3月3日、社団法人応用物理学会
【非特許文献4】ヨコヤマ(Hiroshi Yokoyama)、ほか1名、「イメージング・ハイ・フリクエンシー・ダイエレクトリック・ディスパージョン・オブ・サーフェシズ・アンド・シン・フィルムズ・バイ・ヘテロダイン・フォース−デテクテッド・スキャンニング・マックスウェル−ストレス・マイクロスコピー(Imaging high frequency dielectric dispersion of surfaces and thin films by heterodyne force-detected scanning Maxwell-stress microscopy)」、コロイズ・アンド・サーフェシズ・エー:フィジコケミカル・アンド・エンジニアリング・アスペクツ(Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects)、Vol.93、1994年、p.359-373
【非特許文献5】ウィトパル(V. Wittpahl)、ほか3名、「クゥオンタティブ・ハイ・フリクエンシー−エレクトリック・フォース・マイクロスコープ・テスティング・オブ・モノリシック・マイクロウェイブ・インテグレイテッド・サーキッツ・アット・20 GHz (Quantitative high frequency-electric force microscope testing of monolithic microwave integrated circuits at 20 GHz)」、マイクロエレクトロニクス・リライアビリティ(Microelectronics Reliability)、Vol.39、1999年、p.951-956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
分析用液体中にカンチレバーが浸漬されている場合、カンチレバーの金コートと分析用液体との界面、つまり固液界面における電気的な等価回路は、図8に示すように、界面溶液要素とバルク溶液要素との直列接続回路となる。界面溶液要素とは、電荷移動による抵抗と拡散によるワールブルグインピーダンスとの直列接続回路と、電気二重層容量との並列回路である。他方、バルク溶液要素とは、バルク溶液抵抗とバルク溶液容量との並列回路である。金コートと対向電極の間に印加される交流電圧の周波数が、電気二重層容量の誘電緩和周波数より低い場合には、界面溶液要素に電圧が印加され、界面張力が発生する。一方、交流電圧の周波数が、電気二重層容量の誘電緩和周波数より高い場合には、界面溶液要素に印加される電圧成分は無視することができ、バルク溶液要素、つまりはバルク溶液容量に印加される電圧成分に起因する静電気力、換言すればマックスウェル応力が変位を支配する。
【0013】
図9は非特許文献3に記載の励振方法による液中でのカンチレバーの励振スペクトルの実測例を示す図である。この場合、上述のように印加される交流電圧の周波数によって変位に寄与する力が相違し、特に低周波数領域では周波数依存性が高い界面張力効果が支配的である。このため、カンチレバーの共振周波数より十分低い周波数領域では、励振の振幅及び位相は周波数に依らず一定となる筈であるにも拘わらず、周波数依存性が現れている。また、低周波数領域で支配的である界面張力効果は温度等の周囲環境の影響を大きく受けるため、励振の振幅及び位相の周波数特性のドリフトが大きい等、再現性が良好でない。一般に、探針−試料間距離の変位に応じた共振周波数の周波数シフト量を位相同期ループ回路などの位相検波回路により検出する都合上、特に、カンチレバーの共振周波数近傍における位相特性がカンチレバー本来の位相特性から乖離することは、測定精度を下げる大きな要因となる。
【0014】
上記問題を克服するには、カンチレバーの共振周波数近傍において励振の振幅及び位相の周波数特性がカンチレバー本来の特性に近いことが要求される。本発明はこうした目的を達成するために成されたものであり、装置構成や調整が簡単でありながら、試料と探針との離間距離に拘わらず理想的な励振周波数特性が得られるスプリアスフリーなカンチレバー励振方法、及び該方法を用いた原子間力顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
水等の液体は大気中や真空中に比べて格段に大きな誘電率を有するため、印加電圧が小さくても大きな静電気力を得ることができる。その反面、水等の極性溶媒中では電気二重層が容量成分としてカンチレバー表面に存在するため、該カンチレバーを直接静電的に励振すると、上述したようにカンチレバーの励振スペクトルは、測定対象である静電気力のみを反映したものではなく、静電気力と界面張力効果とを合わせたものとなる。静電気力は印加される電圧の2乗に比例することから、静電気力を検出する静電気力顕微鏡(EFM)などでは、周波数の異なる2つの交流電圧を探針−試料間に印加し、その2つの交流電圧の周波数差でもって探針を励振する手法(非特許文献4)や、振幅変調した高周波電圧を探針−試料間に印加し、その変調信号の周波数で探針を励振する手法(非特許文献5)が知られている。これら従来の手法はいずれも大気中での励振であって液中のような界面張力効果の影響が殆どない環境下ではあるものの、本願発明者は、このような場合に静電気力が印加電圧の2乗に比例する点に着目し、液中のカンチレバー励振において界面張力効果など静電気力以外の要素による変位の影響を抑えるために上記のような手法を導入することに想到した。
【0016】
即ち、上記課題を解決するために成された第1発明に係るカンチレバー励振方法は、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により変調周波数で以て振動させることを特徴としている。
【0017】
また上記課題を解決するために成された第2発明は、第1発明に係るカンチレバー励振方法を用いた原子間力顕微鏡であって、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された透明な対向電極と、
c)前記導電体部と前記対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
d)液体外から前記透明な対向電極を通過させて液体中の前記カンチレバーにレーザ光を照射し、その反射光を前記対向電極を通して液体外に導出して検出する変位検出手段と、
を備えることを特徴としている。
【0018】
一般的に、カンチレバーの変位を光てこ方式により検出する方式の場合には、カンチレバーにおけるレーザ光の反射率を高めるために、カンチレバーの背面に金等の金属製の被膜が形成される。この金属製被膜を上記導電体部として用いることができる。即ち、一般的なカンチレバーは上記導電体部に相当する構成要素を備えているから、第1発明に係るカンチレバー励振方法を実施するために敢えて導電体部を形成する必要はなく、そのための実質的なコスト増加は生じない。
【0019】
また、上記対向電極は、液中測定のための液中セル等の透明体の下面に貼り付けられるITO(Indium Tin Oxide)導電薄膜とすることができる。これにより、カンチレバー背面の導電体部ときわめて近接して且つ略平行に対向電極が配置されるので、静電気力により高い効率でカンチレバーを振動させることができる。また、構成が簡単であって面倒な調整も不要であるので、他の励振手法と比較しても十分にコストを抑えることができる。また、磁気励振法のように分析用液体に溶け出すような部材を用いないので、測定環境を乱すこともない。
【0020】
第1発明に係るカンチレバー励振方法及び該励振方法を用いた第2発明に係る原子間力顕微鏡では、カンチレバーを励振させるために、カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧(振幅変調信号)をカンチレバー背面の導電体部と対向電極との間に印加する。印加電圧の周波数が界面の電気二重層の誘電緩和周波数より高くなると、界面溶液要素の分圧比と比べてバルク溶液要素の分圧比が大きくなり、界面張力効果による力は小さくなっていく。一方、カンチレバーに作用する静電気力は電圧の2乗に比例するため、変調波の周波数成分の静電気力が発生し、カンチレバーの振動が誘起される。これにより、静電気力は界面張力効果による力に比べて支配的となる。このようにしてカンチレバーの振動は主に静電気力の作用によるものとなり、理想的な周波数特性を示す励振スペクトルを得ることができる。
【0021】
また非特許文献4に示されているように、周波数の異なる2つの交流電圧を印加して、その2つの交流電圧の周波数差となる周波数でカンチレバーを励振させることも可能である。
【0022】
即ち、上記課題を解決するために成された第3発明に係るカンチレバー励振方法は、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により前記第1周波数と第2周波数との差の周波数で以て振動させることを特徴としている。
【0023】
また上記課題を解決するために成された第4発明は、第3発明に係るカンチレバー励振方法を用いた原子間力顕微鏡であって、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された透明な対向電極と、
c)前記導電体部と前記対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
d)液体外から前記透明な対向電極を通過させて液中の前記カンチレバーにレーザ光を照射し、その反射光を前記対向電極を通して液体外に導出して検出する変位検出手段と、
を備えることを特徴としている。
【0024】
また第1発明及び第3発明に係るカンチレバー励振方法は、試料が導電性を有するか否かに拘わらず利用可能な方法であるが、試料が導電性を有するものの場合には、対向電極を設けることなくカンチレバーと試料との間に振幅変調信号を印加してカンチレバーを励振させるようにすることもできる。
【0025】
即ち、上記課題を解決するために成された第5発明に係るカンチレバー励振方法は、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された導電性である試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した交流電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により変調周波数で以て振動させることを特徴としている。
【0026】
また上記課題を解決するために成された第6発明は、第5発明に係るカンチレバー励振方法を用いた原子間力顕微鏡であって、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)前記導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
を備えることを特徴としている。
【0027】
また上記課題を解決するために成された第7発明に係るカンチレバー励振方法は、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された導電性である試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により前記第1周波数と第2周波数との差の周波数で以て振動させることを特徴としている。
【0028】
また上記課題を解決するために成された第8発明は、第7発明に係るカンチレバー励振方法を用いた原子間力顕微鏡であって、カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)前記導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
を備えることを特徴としている。
【0029】
なお、第5乃至第8発明では、導電性試料が載置された導電性基板と上記導電体部との間に励振電圧を印加することで、試料と導電体部との間に励振電圧を印加するようにすることができる。
【発明の効果】
【0030】
第1乃至第8発明に係るカンチレバー励振方法及び原子間力顕微鏡によれば、液体中でカンチレバーを励振させる際に、その励振スペクトルの周波数特性を、カンチレバーの共振点よりも十分に低い周波数領域においてほぼ理想的に近い平坦な特性にすることができる。これは、カンチレバーが界面張力効果などの影響を殆ど受けずに静電気力により理想的な周波数特性で励振できることを意味しており、例えば試料−探針間の静電気力やそれに関連した別の情報などに関する測定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例である原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振部の概略構成図。
【図2】本実施例の原子間力顕微鏡の要部の概略構成図。
【図3】本発明の他の実施例である原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振部の概略構成図。
【図4】液中でのカンチレバーの励振スペクトルの実測例及び理論計算値を示す図。
【図5】カンチレバーの共振周波数シフト及び変位の時間的変化を実測した図。
【図6】本発明のさらに他の実施例である原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振部の概略構成図。
【図7】従来の音響励振法を用いた場合の大気中及び液中の励振スペクトルを示す図。
【図8】カンチレバー背面の金コートと液体との界面付近の等価回路図。
【図9】単一交流電圧を印加する従来の励振法における励振スペクトルの実測例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るカンチレバー励振方法を用いた原子間力顕微鏡の一実施例について、添付図面を参照して説明する。図2は本実施例による原子間力顕微鏡の要部の概略構成図、図1はカンチレバー励振部の概略構成図である。
【0033】
図2に示すように、観察対象である試料3は略円筒形状であるスキャナ1の上に載置された試料ホルダ2の上に保持される。スキャナ1は、試料3を互いに直交するX、Yの2軸方向に走査するXYスキャナとX軸及びY軸に対し直交するZ軸方向に微動させるZスキャナとを含み、それぞれ外部から印加される電圧によって変位を生じる圧電素子を駆動源としている。試料3の上方には先端に探針6を備えるカンチレバー5が配置され、このカンチレバー5はカンチレバーホルダ7を介して台座部4に固定されている。液中測定を行うために、この台座部4の一部は下面が平坦なガラス製の透明体4aとなっている。試料ホルダ2と台座部4との間の空隙は分析用液体8で満たされ、試料3はこの分析用液体8中に浸漬されている。分析用液体8の上面は台座部4(透明体4a)の下面に完全に密着しており、探針6が試料3の表面を走査する際にも分析用液体8の液面の揺らぎは生じない。
【0034】
カンチレバー5のZ軸方向の変位を検出するために、台座部4の上方には、レーザ光源11、ミラー12、13、及び光検出器14を含む光学的変位検出部10が設けられている。光学的変位検出部10においては、レーザ光源11から出射したレーザ光をミラー12で略垂直に反射させ、台座部4の透明体4aを通してカンチレバー5の背面先端付近に照射する。カンチレバー5はシリコン又は窒化シリコンなどから成るが、その背面には金(Au)、アルミニウム(Al)、等の金属薄膜5aが蒸着等により形成されている。それにより、カンチレバー5の背面は鏡面となっており、上方から照射されたレーザ光は高い効率で反射し、再び透明体4aを通って台座部4の上方に抜ける。そして、このカンチレバー5による反射光はミラー13を介して光検出器14に導入される。光検出器14はカンチレバー5の変位方向(Z軸方向)に複数(通常2つ)に分割された受光面を有するか、或いは、Z軸方向及びY軸方向に4分割された受光面を有する。カンチレバー5が上下に変位すると複数の受光面に入射する光量の割合が変化するから、その複数の受光光量に応じた検出信号を演算処理することで、カンチレバー5のZ軸方向の変位量を算出することができる。
【0035】
台座部4の透明体4aの下面には、ITO導電膜による対向電極9が、下方のカンチレバー5の背面の金属薄膜5aと対向するように設けられている。この対向電極9は直流成分遮断用のコンデンサ25を介して励振電圧生成部21に接続されている。一方、一端がカンチレバー5背面の金属薄膜5aと電気的に接続された導電性のリード部20の他端は本顕微鏡の接地電位(GND)に接続されている。
ている。
【0036】
励振電圧生成部21は、搬送波発生部22、変調波発生部23、振幅変調部24を含む。搬送波発生部22はカンチレバー5の共振周波数よりも高い所定周波数f0の正弦波電圧を発生するものであり、例えばその周波数f0は3MHzとすることができる。一方、変調波発生部23は搬送波よりも低い周波数でカンチレバー5を励振させたい周波数fmの正弦波電圧を発生するものである。振幅変調部24は、搬送波の振幅を変調波波形に応じて変調する。したがって、振幅変調部24の出力、つまり対向電極9に印加される励振電圧は周波数がf0でその包絡線は変調波波形に一致している。これにより、カンチレバー5背面の金属薄膜5aと、分析用液体8を間に挟んで対面する対向電極9との間に、励振電圧が印加される。なお、コンデンサ25は、励振電圧生成部21で生成される励振電圧が切り替えられるときに生じる大きな直流電圧を遮断するためのものである。
【0037】
ここで、上述したような励振電圧がカンチレバー5背面の金属薄膜5aと対向電極9との間(以下「カンチレバー−対向電極間」と記す)に印加された場合における、カンチレバー5に作用する静電気力について説明する。
いま、或る電圧Vがカンチレバー−対向電極間に印加されたときに、カンチレバー−対向電極間の静電気力Fesfは次の(1)式となる。ここで、Ctsはカンチレバー−対向電極間の静電容量、zはカンチレバーと対向電極の間の距離である。
【数1】

カンチレバー−対向電極間に、直流電圧VDCと振幅変調信号(搬送波の角周波数ω0、変調波の角周波数ωm)とを印加する場合、印加電圧Vmodは次の(2)式で表される。
【数2】

したがって、カンチレバー−対向電極間に電圧Vmodを印加したときのカンチレバー−対向電極間の静電気力FAMesfは次の(3)式となる。
【数3】

(3)式に示すように、静電気力FAMesfは、直流成分を始めとする様々な周波数の成分を含むが、その1つとして変調波の角周波数ωmの成分が存在することが分かる。即ち、静電気力FAMesfによってカンチレバー5は変調波の角周波数ωmの成分を以て振動するから、例えばロックインアンプなどによりこの特定の周波数成分を検出することにより、角周波数ωm成分のみの静電気力を抽出することが可能である。
【0038】
上述したように分析用液体8中で金属薄膜5aと対向電極9との間に励振電圧が印加されたとき、カンチレバー5に作用する静電気力はωm成分を含むが、実際に金属薄膜5aに印加される電圧の角周波数はω0である。この角周波数ω0は図8に示した等価回路において電気二重層容量の誘電緩和周波数よりも高いため、界面溶液要素に印加される電圧成分は無視することができ、変調角周波数ωmに拘わらずバルク溶液要素に印加される電圧成分に起因する静電気力が支配的となる。
【0039】
図4は、分析用液体8として純水を用い、搬送波周波数f0を3MHzとし、変調周波数fmを100Hz〜1MHzの範囲で掃引することにより取得した励振スペクトルを示す図である。図4中に点線で示すカーブは調和振動子モデルを用いて計算した理論曲線である。この図4と図9とを比較すれば明らかなように、本実施例の装置では、カンチレバー5の共振点(約120〜130kHz)よりも低い周波数領域において、振幅、位相ともに理論曲線と近い理想的な特性が得られている。
【0040】
図5は、PLL回路を用いて信号検出を行ったときのカンチレバーの共振周波数シフト及びカンチレバー変位量の時間的変化の実測例を示す図である。ここでは、原子間力顕微鏡を用いて試料表面のイメージングに必要なデータを収集するのに通常必要な時間、5分の期間中の共振周波数シフト及びカンチレバー変位量を調べている。これらパラメータのドリフトが大きいと測定精度は下がるが、図5から、本実施例の装置ではこれらパラメータのドリフトがかなり小さいことが分かる。これは、周囲温度や液体の粘性などの周囲環境の影響を受け易い界面張力効果による振動成分が殆どないためであると考えられる。
【0041】
図1に示した構成は、金属薄膜5aと対向電極9との間に励振電圧を印加することでカンチレバー5を振動させるため、試料3自体は導電性を有している必要はない。もちろん、試料ホルダ2も導電体、絶縁体のいずれでも構わない。これに対し、試料3が導電性を有している場合には、図3に示す別の実施例の構成を採ることができる。
【0042】
即ち、この実施例の構成では、導電性を有する試料ホルダ2を使用し、この試料ホルダ2に励振電圧生成部21から励振電圧(振幅変調波信号)を与え、金属薄膜5aと電気的に接続された導電性のリード部20を接地電位に接続する。この場合、金属薄膜5aはカンチレバー5にあって探針6が設けられている面(試料3と対面する面)に形成されていてもよい。したがって、この構成では、導電性を有する試料3とカンチレバー5との間に励振電圧が印加され、それによってカンチレバー5は主として静電気力により振動する。このような構成でも、液中でのカンチレバー5の励振スペクトルの振幅及び位相は共振点以下の周波数領域で調和振動子モデルから予想されるとおりほぼ平坦となり、図1に示した実施例と同様の効果が得られる。
なお、上述のように導電性の試料ホルダ2の上に試料3を載置する場合には、試料3は導電性である必要はなく絶縁性であってもよい。
【0043】
また上記実施例では、金属薄膜5aと対向電極9との間、又は金属薄膜5aと試料3(実際には試料ホルダ2)との間に、励振電圧生成部21から、搬送波を変調波により振幅変調することで生成した励振電圧を印加し、その変調波の周波数で以てカンチレバー5を振動させるようにしていたが、異なる2つの周波数の交流電圧を加算した励振電圧を印加し、その周波数の差で以て、つまり2つの周波数のうなり成分によってカンチレバー5を振動させるようにしてもよい。
【0044】
図6は、図1に示した実施例において励振電圧生成部の構成を変更した別の実施例の構成図である。励振電圧生成部210において、第1波発生部220はカンチレバー5の共振周波数よりも高い所定の角周波数ω0の正弦波電圧を発生し、第2波発生部230は角周波数ω0に対してカンチレバー5を励振させたい角周波数ωmだけ高い(又は低い)角周波数ω0+ωm(又はω0−ωm)の正弦波電圧を発生する。加算部240は、上記2周波の正弦波電圧を加算して出力する。
【0045】
いま、カンチレバー−対向電極間に、直流電圧VDC、角周波数ω0である第1交流電圧、及び角周波数ω0+ωm(又はω0+−ωm)である第2交流電圧を印加する場合、印加電圧Vmodは次の(4)式で表される。
【数4】

したがって、カンチレバー−対向電極間に電圧Vmodを印加したときのカンチレバー−対向電極間の静電気力Fbeatesfは次の(5)式となる。
【数5】

【0046】
(3)式と同様に、(5)式に示される静電気力Fbeatesfは、直流成分を始めとする様々な周波数の成分を含むが、その1つとして第1交流電圧の角周波数と第2交流電圧の角周波数との差ωmの成分が存在することが分かる。即ち、静電気力Fbeatesfによってカンチレバー5は角周波数差ωmの成分を以て振動するから、例えばロックインアンプなどによりこの特定の周波数成分を検出することによって、角周波数ωm成分のみの静電気力を抽出することが可能である。
【0047】
もちろん、図6に示した励振電圧印加手法を、図3に示した構成、つまり試料とカンチレバーとの間に励振電圧を印加する構成と組み合わせることも可能である。
【0048】
なお、本発明は周波数変調検出方式のAFMのみならず、振幅検出方式、位相検出方式等のダイナミックモードAFM全般に広く用いることが可能である。
【0049】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0050】
1…スキャナ
2…試料ホルダ
3…試料
4…台座部
4a…透明体
5…カンチレバー
5a…金属薄膜
6…探針
7…カンチレバーホルダ
8…分析用液体
9…対向電極
10…光学的変位検出部
11…レーザ光源
12、13…ミラー
14…光検出器
20…リード部
21、210…励振電圧生成部
22…搬送波発生部
23…変調波発生部
24…振幅変調部
25…コンデンサ
220…第1波発生部
230…第2波発生部
240…加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により変調周波数で以て振動させることを特徴とする原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振方法。
【請求項2】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により前記第1周波数と第2周波数との差の周波数で以て振動させることを特徴とする原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振方法であって、
前記対向電極は、前記カンチレバーと一体化され該カンチレバーの上面を覆う透明体の下面に設けられた透明な電極であり、該透明体は、分析用液体中に浸漬した試料を測定する際に該分析用液体に密着して少なくとも該液体の上面を密閉するものであるとともに、前記カンチレバーの変位検出のためのレーザ光を入射及び出射させるものであることを特徴とするカンチレバー励振方法。
【請求項4】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された透明な対向電極と、
c)前記導電体部と前記対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
d)液体外から前記透明な対向電極を通過させて液中の前記カンチレバーにレーザ光を照射し、その反射光を前記対向電極を通して液体外に導出して検出する変位検出手段と、
を備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項5】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその反対側である背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)間に液体を挟んで前記カンチレバーの背面に対向して配置された透明な対向電極と、
c)前記導電体部と前記対向電極との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
d)液体外から前記透明な対向電極を通過させて液中の前記カンチレバーにレーザ光を照射し、その反射光を前記対向電極を通して液体外に導出して検出する変位検出手段と、
を備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項6】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した交流電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により変調周波数で以て振動させることを特徴とする原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振方法。
【請求項7】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された導電性である試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡にあって、前記カンチレバーを振動させる励振方法において、
前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加することによって、前記カンチレバーを静電気力により前記第1周波数と第2周波数との差の周波数で以て振動させることを特徴とする原子間力顕微鏡におけるカンチレバー励振方法。
【請求項8】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)前記導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い周波数の搬送波をそれよりも低い周波数の変調波で振幅変調して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項9】
カンチレバーの先端に設けられた探針を液体中に浸漬された試料の表面に近接させ、該カンチレバーをその共振周波数で振動させたときに、前記探針と前記試料との間に働く相互作用を検出するダイナミックモード原子間力顕微鏡において、
a)前記カンチレバーにあって前記探針が位置する面又はその背面の少なくとも一方に形成された導電体部と、
b)前記導電体部と、間に液体を挟んで前記探針に対向する導電性試料又はさらに間に絶縁性試料を挟んで設けられた導電性部材との間に、前記カンチレバーの共振周波数よりも高い第1周波数の交流電圧とそれよりも所定周波数だけ高い又は低い第2周波数の交流電圧とを加算して生成した励振電圧を印加する励振電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−53877(P2013−53877A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190980(P2011−190980)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 『2011年春季第58回応用物理学関係連合講演会[講演予稿集]』、第06−315ページ、平成23年3月9日、社団法人応用物理学会発行 『2011年秋季第72回応用物理学会学術講演会[講演予稿集]』、第06−331ページ、平成23年8月16日、公益社団法人応用物理学会発行
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)