説明

原子間力顕微鏡プローブ

【課題】原子間力顕微鏡に、電気伝導率を計測できる新しい構成の4探針のプローブを導入すること。
【解決手段】従来のAFMプローブを基にして作製された、4探針型原子間力プローブ(4PAFMプローブ)のミクロ構造を模式的に示す。
4PAFMのプローブの電極は、集束イオンビームシステム(FIB)を用いたカンチレバーのチップ上に、3つのスリットを作製することにより構成されている。また、カンチレバーとプローブ基板は、図(b)に示されているように、コーティングされた金の薄膜をエッチングすることによって、4つの独立した伝導部分に分かれて、定電流源及びデジタル電圧計(図示せず)に接続されており、それぞれ電流と電位差信号を伝送する。プローブの2つの外側の電極は電流のソースとドレインとして動作し、電位差を内側の電極間を介して測定するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)において、精密に伝導率測定もできるプローブ(探針)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM)は、局所プローブとしての先の鋭い探針と試料表面間に働く原子間力を利用して、先端を試料表面上で移動させ、微弱に動くプローブの動きを検出して、表面原子構造の分布図を作成している。
AFM100の原理を、図1を用いて説明する(非特許文献1参照)。プローブの先端の探針110が試料160の表面から受ける斥力又は引力を変位に変換するカンチレバー120,カンチレバー120を保持する保持部130,カンチレバー120の変位を検出するレーザ光源142と変位検出器144,試料160を走査するために3次元の方向に高精度に移動させるためのスキャナー150から構成されている。これ全体が防振装置上に載せられており、検出器144の出力の処理やスキャナー150の3次元走査制御は図示しないコンピュータ・システムにより行われている。検出器144の出力から、画像処理が行われて顕微鏡の出力画像となる。図1に示すように、AFMのプローブは、探針110として、カンチレバー120と呼ばれる片持ちの板ばねの先端に微小突起を形成されたものを用いている。この場合は、V字形をした微小突起である。
【0003】
さて、一方で、ミクロとナノスケールでの電気伝導率を定量評価することは、色々な現在の技術領域、特にナノ領域素子とバイオ材料の領域で緊急の課題になっている。渦電流、マイクロウエーブと4探針プローブ技術を含む研究の多くが、そのような課題を解決するために手広く実行されてきた。
最も適切な4探針プローブ法は、数十年の間、固体のバルク材の電気特性を理解するのに重要な役割を果たしている。伝導率は、電圧−電流比から求められるが、形状と大きさに関する幾何学効果を補償する必要がある。従来の4探針プローブ技術は、電極間隔に比較して十分大きな空間において伝導率が均質である場合に有効である。しかしながら、伝導率がある領域(電極間隔より小さい領域)で不均質の時、この技術はもはや有効ではない。また、サンプルが基板上の薄膜である時、測定電流は表面、インタフェース面、バルクの3個のチャンネルを通して流れるので、定量的に表面伝導率を評価することは不可能である。そのような難しい問題を解決するためには、不均質な寸法以下に電極間隔を小さくすることが望ましい。
最近、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方法によって、より高い空間分解能を有する様々な4探針プローブが作製されている。今までのところ、商用で利用可能な電極間隔の最小値は5.0μmである(非特許文献2参照)。また、数百nmの電極間隔を持った4探針プローブも報告されている(非特許文献3参照)。しかしながら、プローブの構造と剛性のために、プローブとサンプルの表面の間の力をほとんど制御することができないので、これらのプローブをスキャンに使用することは難しい。
このように、試料の表面形状を観測する原子間力顕微鏡と、試料の表面の伝導率を計測する4探針プローブとは別々に開発されてきたので、表面の構造と伝導率の双方を計測することは未だ行われていない。
【0004】
【非特許文献1】奥村公平 「原子間力顕微鏡とその応用」豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.31 No.2 (1996.6)
【非特許文献2】C. L. Petersen et al., Sensor Actuat. A-Phys. 96, 53 (2002).
【非特許文献3】S. Hasegawa et al., J. Phys.: Condens. Matter. 14, 8379 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、原子間力顕微鏡に、電気伝導率を計測できる新しい構成の4探針のプローブを導入して、原子間力顕微鏡の画像(表面形状)と、電気伝導度の計測(あるいはその分布の画像)を両方とも測定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、プローブ先端部の探針は3つのスリットにより4つの部分に分かれて微小探針を形成しており、それぞれが独立した伝導部分と接続されていることを特徴とする原子間力顕微鏡プローブである。
前記プローブ先端部の前記探針はV字形とするとよい。また、前記独立した伝導部分は、プローブ底面(裏側)の金属膜に設けるとよい。
プローブ上面にレーザ光を照射し、その反射光を計測することで、たわみ量を計測して、原子間力による微細構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0007】
上記の本発明の構成では、原子間力顕微鏡において、電気伝導率を計測できる新しい構成の4探針のプローブを導入することにより、原子間力顕微鏡の画像(表面形状)と、電気伝導度の計測(あるいはその分布の画像)とを両方とも行うことができる。
上述の4探針型のプローブは、従来からあるV字型の探針を備えるプローブを利用して、微細(FIB)加工により作製することにより、容易に作製することができる。
また、原子間力顕微鏡により、局所的表面形状を画像化することで、試料の微細構造が分かるとともに、同様の画像化処理により、局所的導電率分布の画像も得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面を用いて、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の実施形態として、最小1.0μmの電極間隔を有した4探針型原子間力顕微鏡プローブ(4PAFMプローブ)について、図2,図3を用いて説明する。このプローブは、表面特性のイメージング能力だけでなく、同時に局所的伝導率を測定する能力も有している。そのうえ、表面への力は10pN以下である。この値は、非破壊測定ができ、またプローブとサンプルの間の十分な電気伝導を確保している。したがって、金属や、有機、無機のサンプルやバイオ材料などの様々な材料に測定を利用することができる。
【0009】
図2は、従来のAFMプローブを基にして作製された、4PAFMプローブのミクロ構造を模式的に示している。図2(a)は断面図,図2(b)は裏からの平面図である。図3は実際に作製されたプローブの写真である。
図2(a)には、図3に示した写真の撮られた位置が示されている。図3(a)は、探針110の先端を示しており、3つのスリットにより、4つの探針部分が形成されている。図3(b)は、カンチレバー120の底面が4つの独立した伝導部分に分かれていることを示している。図3(c)は、プローブ付け根部分が4つの独立した伝導部分に分かれていることを示している。
【0010】
従来のAFMプローブは、長さ、幅、厚さがそれぞれ100μm×30μm×0.18μmの薄いカンチレバー構造の窒化珪素でつくられている。薄い板構造であるV字形のチップ(探針)はカンチレバーの終端に置かれている。チップの高さは、7.0μmで頂点角度は90度未満である。この独特な構造は、4つの電極の微細加工を容易にする。プローブは30nmの金の薄膜でコーティングされ、そのカンチレバー120のバネ定数は6pN/nmである。
【0011】
図2,図3に示したプローブは、上面・底面が、それぞれ独立した金の薄膜でコーティングされている。図1のように、上面でレーザ光を照射されると反射して、原子間力による動きを検出できる。
図2(b)や、図3(a)に示されるように、4PAFMプローブの電極は、集束イオンビームシステム(FIB)を用いたカンチレバー120のチップ上に、3つのスリットを作製することにより構成されている。2つの内側の電極の間隔はおよそ1.0μmであり、外側の電極の間隔は1.5μmである。図3(b)と図3(c)は、カンチレバー底面とプローブの基板を示している。また、カンチレバー120の底面とプローブ基板は、図2(b),図3(b)や図3(c)に示されているように、コーティングされた金の薄膜をエッチングすることによって、4つの独立した伝導部分に分かれて、定電流源及びデジタル電圧計(図示せず)に接続されており、それぞれ電流と電位差信号を伝送する。プローブの2つの外側の電極は電流のソースとドレインとして動作し、電位差を内側の電極間を介して測定するとよい。
【0012】
図4(a)は4PAFMプローブを適用した標準サンプルのスキャンされたAFM表面イメージである。従来のAFM表面イメージと比較するために、従来型AFMプローブによる典型的な接触モードイメージを図4(b)に示す。テストパターンは、5.0μm×5.0μmである。また、スキャン周波数は1.0Hzである。
ここに提示された2つのイメージは同じものである。しかしながら、図4(a)の円で示した領域にでたらめな線が数個見受けられる。プローブのチップが4つの電極で作られているので、異なった電極間の力の不均質によって引き起こされているカンチレバーゆらぎを導き、反射したAFMレーザ信号のオフセットが増加したのかもしれない。4つの電極が同時にサンプルの表面に接触するかどうかについての検証は、後で議論する。
【0013】
図5はアルミとITOの薄膜サンプルのI−V関係の実験結果を示す(それらは、同じ4PAFMプローブを用いた)。ここで、プローブの2つの外側の電極は電流のソースとドレインとして動作し、電位差が内側の電極間を介して測定された。図示しない定電流源とデジタル電圧計が用意されており、各先端部分111〜114と接続されている。定電流は、電極とサンプルの表面の間の接触抵抗の影響を抑える。測定は、0.25Hzの走査周波数でスキャンされ、走査領域は1.0μm×1.0μmである。動作環境温度は24.9℃、相対湿度は46.2%である。
【0014】
各I−Vに示された実験データは、連続的なスキャン中に取得され、同じプローブがアルミとITO薄膜サンプルの両方に適用された。これは、4PAFMプローブが、再現性があることを示している。力はかなり小さいので、電極の間隔と接触抵抗は一定であると考えることができる。電位差信号が明確に検出されており、これは4つの電極が同時にサンプルの表面を良好にスキャンできたという証拠である。
【0015】
それぞれのI−V組の伝導率は、以下の方程式を使って計算される。
【数1】

ここで、σは、試料の伝導率であり、IおよびVは、印加された電流と対応する電位差を表し、S,S,Sは、4つの電極間の間隔を順番に示している。
【0016】
4PAFMプローブの電極間隔が十分小さいので、被測定のサンプルの大部分は、semi-infiniteバルク(基板上に数ミクロンの厚みを持った薄膜さえも)と見なすことができる。最終的に決定された伝導率を表1に示す。それらは既に報告されている値と同程度である。
【表1】

【0017】
上述のように、4PAFMプローブを局所的な伝導率測定に適用できる。明らかに最小化されたプローブは、表面導電率の前例のない測定により表面近くを電流が流れる。プローブと表面との機械的な接触は、比較的弱いけれど信頼できる電気伝導をするには十分である。この技術は壊れやすい物や数ミクロンのバイオ薄膜の伝導率を測定する素晴らしい可能性を提供している。さらに、AFMの素晴らしいフォース・フィードバック制御が非破壊測定を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】原子間力顕微鏡の原理を示す模式図である。
【図2】本発明の4探針型原子間力顕微鏡プローブ(4PAFMプローブ)の模式図である。
【図3】(a)AFMプローブのV字型チップに作られた4つの電極のSEM(Scanning electron micrograph)の写真を示す。(b)4PAFMプローブのカンチレバーの写真である。(c)基板の表面での4PAFMプローブの構造の写真である。
【図4】(a)4PAFMプローブを使ってスキャンした標準サンプルのAFM表面イメージの写真である。(b)同一スキャン周波数で従来のAFMプローブを使ってコンタクトモードで得られた同一サンプルのAFM表面イメージの写真である。
【図5】アルミとITO薄膜サンプルに4PAFMプローブを適用して得られた直線的I−V曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ先端部の探針は3つのスリットにより4つの部分に分かれて微小探針を形成しており、それぞれが独立した伝導部分と接続されていることを特徴とする原子間力顕微鏡プローブ。
【請求項2】
請求項1記載の原子間力顕微鏡プローブにおいて、
前記プローブ先端部の前記探針はV字形をしていることを特徴とする原子間力顕微鏡プローブ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の原子間力顕微鏡プローブにおいて、
前記独立した伝導部分は、プローブ底面の金属膜に設けられていることを特徴とする原子間力顕微鏡プローブ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の原子間力顕微鏡プローブにおいて、
プローブ上面にレーザ光を照射し、その反射光を計測することで、たわみ量を計測することを特徴とする原子間力顕微鏡プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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