説明

原料供給装置及び成膜装置

【課題】MBE成膜装置において、フェイスアップ状態で被処理体の表面に化合物半導体よりなる薄膜を形成することができる原料供給装置を提供する。
【解決手段】化合物半導体の製造に用いる原料を供給する原料供給装置62において、鉛直方向に延びて外周面が液体を流下させることができるような表面である液体流下面90になされた原料保持体64と、原料保持体の高さ方向の途中に設けられて原料の液体である原料液体を貯留すると共に濡れ性によって原料液体を液体流下面90に沿って流下させる原料液体貯留部66と、原料保持体内に設けられて、原料液体貯留部を原料が濡れ性を発揮するように加熱すると共に原料保持体の先端部を原料液体の蒸発温度まで加熱する加熱手段68とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体を製造する時に用いられる成膜装置及び原料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LED(Light Emitting Diode)素子や電力制御用のパワートランジスタ素子等を製造するためには、通常のSiやGe等のIV族元素を用いた半導体素子と比較して大電流が流せる等の理由で2種以上の元素の化合物からなる化合物半導体が用いられる傾向にある。
【0003】
この化合物半導体を製造するためには、例えばMBE(分子線エピタキシ)法が用いられる(例えば特許文献1)。このMBE法を用いる成膜装置では、高真空になされた処理容器内に原料容器を置き、この原料容器内の原料を分子線で照射することにより加熱蒸発させ、そして、処理容器内の天井部に、膜積層面を下方に向けて、いわゆるフェイスダウン状態で保持した半導体ウエハの下向き表面に、化合物半導体を形成するようになっている。ここで、原料容器は、この内部に収容した原料が液体状になることから、処理容器内では液面が上方を向くように設置しなければならず、その結果、ウエハは必然的に上述のようにフェイスダウン状態で保持される。この場合、化合物半導体として例えばGaN等を製造する場合のように、元素の一部に窒素を用いる時には、アンモニアガスや窒素ガスが原料ガスとして処理容器内へ供給されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−027755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した成膜装置では、半導体ウエハを処理容器の天井部にフェイスダウン状態で保持するための保持機構がかなり複雑化する上に、このウエハ自体を800〜1200℃程度の高温状態に加熱することから、保持機構自体を耐熱性構造としなければならず、構造上、大きな問題があった。
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、フェイスアップ状態で被処理体の表面に化合物半導体よりなる薄膜を形成することができる成膜装置及び原料供給装置である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、化合物半導体の製造に用いる原料を供給する原料供給装置において、鉛直方向に延びて外周面が液体を流下させることができるような表面である液体流下面になされた原料保持体と、前記原料保持体の高さ方向の途中に設けられて前記原料の液体である原料液体を貯留すると共に濡れ性によって前記原料液体を前記液体流下面に沿って流下させる原料液体貯留部と、前記原料保持体内に設けられて、前記原料液体貯留部を前記原料が濡れ性を発揮するように加熱すると共に前記原料保持体の先端部を前記原料液体の蒸発温度まで加熱する加熱手段と、を備えたことを特徴とする原料供給装置である。
【0007】
これにより、鉛直方向に延びる原料保持体の原料液体貯留部に貯留されている原料液体を濡れ性によって流体流下面に沿って流下させると共に加熱手段によって蒸発温度以上に加熱されている原料保持体の先端部まで流すようにしたので、装置構成を複雑化させることなく、しかも原料液体の液滴を落下させることなく原料保持体の先端部から蒸発、或いは拡散させることが可能となる。
【0008】
請求項7に係る発明は、被処理体の表面に複数の元素が含まれた化合物半導体の薄膜を形成する成膜装置において、真空引きが可能になされた処理容器と、前記処理容器内で前記被処理体をフェイスアップ状態で保持する保持手段と、前記被処理体を加熱する被処理体加熱手段と、請求項1乃至6のいずれか一項に記載された1又は複数の原料供給装置と、を備えたことを特徴とする成膜装置である。
【0009】
このように、前記原料供給装置を用いるようにしたので、被処理体をフェイスアップ状態に保持した状態で化合物半導体の薄膜を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る原料供給装置及び成膜装置によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
請求項1及びこれを引用する請求項に係る発明によれば、鉛直方向に延びる原料保持体の原料液体貯留部に貯留されている原料液体を濡れ性によって流体流下面に沿って流下させると共に加熱手段によって蒸発温度以上に加熱されている原料保持体の先端部まで流すようにしたので、装置構成を複雑化させることなく、しかも原料液体の液滴を落下させることなく原料保持体の先端部から蒸発、或いは拡散させることができる。
【0011】
請求項7及びこれを引用する請求項に係る発明によれば、前記原料供給装置を用いるようにしたので、被処理体をフェイスアップ状態に保持した状態で化合物半導体の薄膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る原料供給装置を用いた成膜装置を示す構成図である。
【図2】本発明に係る原料供給装置の要部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明に係る原料供給装置の原料保持体(ヒータ及び熱電対の記載は省略)の部分を示す拡大断面図である。
【図4】成膜装置の変形実施例の一部を示す部分構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る原料供給装置及び成膜装置の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る原料供給装置を用いた成膜装置を示す構成図、図2は本発明に係る原料供給装置の要部を示す拡大断面図である。ここでは化合物半導体としてGaN(窒化ガリウム)の薄膜を形成する場合を例にとって説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明に係る成膜装置2は、アルミニウムやアルミニウム合金やステンレススチール等により形成された箱状の処理容器4を有している。この処理容器4内には、被処理体である半導体ウエハWを、いわゆるフェイスアップ状態で保持するための保持手段6が設けられている。具体的には、この保持手段6は、処理容器4の底部8より起立された支柱10の上端に設けた載置台12を有しており、この載置台12上に上記ウエハWがフェイスアップ状態で載置される。ここで、フェイスアップ状態とは、薄膜が堆積される面が上方を向いていることを意味する。この載置台12内には、被処理体加熱手段14が設けられている。この被処理体加熱手段14は、例えば抵抗加熱ヒータ16よりなり、載置台12のほぼ全面に亘って配設されてウエハWを加熱するようになっている。
【0015】
上記支柱10及び載置台12は、耐熱性材料、例えばセラミック材や石英やグラファイトにより形成されており、セラミック材としては、例えば窒化アルミニウム、シリコンカーバイト、アルミナ等を用いることができる。上記抵抗加熱ヒータ16には、給電ライン18を介してヒータ電源20が接続されており、抵抗加熱ヒータ16の温度制御ができるようになっている。尚、この抵抗加熱ヒータ16を同心円状に複数のゾーンに区画して、ゾーン毎に温度制御ができるようにしてもよい。
【0016】
上記載置台12には、リフタピンを挿通させる複数、例えば3つのピン孔22が載置台12の周方向に沿って等間隔で形成されている。図示例では2つのピン孔22のみ示す。そして、この載置台12の下方に、ウエハWの搬出入時に用いられるリフタ機構24が設けられる。具体的には、上記リフタ機構24は、上記各ピン孔22に挿通されるリフタピン26を有しており、各リフタピン26の下端部は、例えば円弧状になされた昇降板28に支持されている。そして、この昇降板28は、上記処理容器4の底部8を貫通させて設けられる昇降ロッド30の上端部に取り付けられている。
【0017】
そして、この昇降ロッド30の下部は、アクチュエータ32に取り付けられており、上記昇降ロッド30を所定のストロークで昇降できるようになっている。また底部8に対する上記昇降ロッド30の貫通部には伸縮可能になされた金属製のベローズ34が気密に設けられており、処理容器4内の気密性を維持しつつ上記昇降ロッド30の上下動を許容するようになっている。これにより、ウエハWを搬出させる際に上記リフタピン26を昇降させて、ウエハWを持ち上げたり、持ち下げたりするようになっている。
【0018】
また処理容器4の底部8には、排気口36が設けられており、この排気口36には処理容器4内の雰囲気を真空引きする排気系38が設けられている。具体的には、上記排気系38は、上記排気口36に接続された排気通路40を有している。この排気通路40には、その上流側より下流側に向けて処理容器4内の圧力調整を行う圧力調整弁42及び真空ポンプ44が順次介設されており、処理容器4内を圧力調整しつつ真空引きするようになっている。尚、上記真空ポンプ44は、実際には例えばターボ分子ポンプとドライポンプの組み合わせよりなり、高真空状態を実現できるようになっている。
【0019】
また処理容器4の側壁には、ウエハWを搬出入する時に用いる搬出入口46が形成されており、この搬出入口46には、気密に開閉されるゲートバルブ48が設けられる。更に、この処理容器4には、ここで堆積させる化合物半導体を構成する複数の元素の内の1つの元素を含む原料ガスを供給する原料ガス導入手段50が設けられる。
【0020】
この原料ガス導入手段50は、上記処理容器4の側壁に貫通させるようにして設けたガスノズル52を有しており、このガスノズル52にはガス通路54が接続されている。そして、このガス通路54には、マスフローコントローラのような流量制御器56や開閉弁58が順次介設されており、原料ガスを流量制御しつつ必要に応じて供給できるようになっている。ここでは前述したように、化合物半導体の薄膜として窒化ガリウム(GaN)を成膜することから、原料ガスとして窒素(N)を含むガス、例えば窒素ガス(N )が用いられる。
【0021】
尚、原料ガス導入手段50としてN ガスを流す場合には、この原料ガス導入手段50は処理容器4内の雰囲気を排除する時に窒素ガスをパージガスとして流す場合もあるので、パージガス導入手段60として兼用されることになる。またパージガスとしてはN ガスの他にAr、He等の希ガスを用いることもできる。
【0022】
そして、この処理容器4には、本発明に係る原料供給装置62が設けられる。具体的には、この原料供給装置62は、鉛直方向に延びて外周面が液体を流下させることができるような表面になされた原料保持体64と、この原料保持体64の高さ方向の途中に設けられて原料の液体である原料液体を貯留しつつ少しずつ流下させる原料液体貯留部66と、上記原料保持体64を加熱するための加熱手段68とを主に有している。
【0023】
具体的には、この原料保持体64は、耐熱性材料であるセラミック材やPBN(熱分解性ボロンナイトライド)でコートされた石英やグラファイト等によりほぼ円柱状又は有底の円筒状に成形されている。ここではほぼ円柱状に成形されている。この原料保持体64の上端には拡径されたフランジ70が設けられている。原料保持体64は取付板72の開口に挿通されて、この取付板72の上面と上記フランジ70との間でOリングやメタルシール等よりなるシール部材74を介して気密に取り付けられている。
【0024】
また、処理容器4の天井部には取付孔76が形成されており、この取付孔76に上記原料保持体64を処理容器4内に向けて鉛直方向に挿通させている。そして、この取付孔76の周縁部の天井壁上面と上記取付板72との間にOリング等のシール部材78を介在させ、ボルト80により着脱自在に気密に取り付けている。この円柱状の原料保持体64は、下部が非常に高温になることから、その長さが長く、例えば20〜30cm程度に設定されており、処理容器4の天井部が過度に昇温することを防止している。
【0025】
そして、図2にも示すように、この原料保持体64の下部は、その直径が大きくなされて段部82となっており、この段部82に上記原料液体貯留部66が形成されている。この原料液体貯留部66は、原料保持体64の周方向に沿ってリング状に設けられた液体貯留凹部84を有しており、この液体貯留凹部84の外周端は高くなされて液体貯留堰86となっている。すなわち、上記液体貯留凹部84は、リング状の溝として形成されており、この液体貯留凹部84内に固体状態の原料88及びこれが溶解してできる原料液体88Aを収容できるようになっている。この原料88としては前述したように、Ga(ガリウム)が用いられる。
【0026】
そして、上記液体貯留堰86の上端部は、原料液体88Aが濡れ性によって流れ出し易くなるように断面円弧状或いは断面楕円状に曲面になっている。そして、この液体貯留堰86の表面及びこれよりも下方に位置する原料保持体64の表面全体は濡れ性によって原料液体88Aを流下させる液体流下面90となっている。
【0027】
この液体流下面90は、例えば原料液体88Aが偏りなく均等に流れるように、例えば表面研磨処理を施すのが好ましい。または、ブラスト処理等を施してスリガラス状の微細な凹凸を形成するようにしてもよい。特に、この液体流下面90の表面に熱分解性ボロンナイトライド(PBN)被覆層を形成するのが好ましい。上記PBNは高温で安定であり、1200℃程度では蒸発も熱分解もおこすことがないからである。さらにこのような安定した皮膜で下地の原料保持体64を覆うことにより、下地からの蒸発成分を防止することもできる。
【0028】
また、この原料保持体64の下端部は、断面が円弧や楕円のような曲面形状になされており、流下してくる原料液体88Aを液滴となって落下或いは滴下させることなく蒸発させるようになっている。上記原料液体貯留部66とこの原料保持体64の先端部との間の長さは、原料液体88Aが滴下しないように十分に長く、例えば10〜15cm程度になっている。
【0029】
上記加熱手段68は、上記原料液体貯留部66に収容した原料88が濡れ性を発揮するように加熱すると共に、原料保持体64の先端部を上記原料液体88Aの蒸発温度まで加熱するためのものであり、この加熱手段68は原料保持体64内に設けられている。具体的には、この加熱手段68は、上記原料液体貯留部66に対応させて設けた第1のヒータ部92と、原料保持体64の先端部に対応させて設けた第2のヒータ部94とを有している。上記第1及び第2のヒータ部92、94は、それぞれ例えばカーボンワイヤヒータ等の抵抗加熱ヒータよりなり、原料保持体64内に埋め込まれている。
【0030】
そして、第1のヒータ部92で原料88が濡れ性を発揮するように加熱し、第2のヒータ部94は更に温度が高くなり、原料液体88Aが蒸発するような温度まで加熱するようになっている。このように、液体流下面90に対して、下方に行く程温度が高くなるような温度勾配を持たせている。尚、上記第1と第2のヒータ部92、94との間に、更に、1つ、或いは複数のヒータ部を設けて下方へ行くに従って順次温度が高くなるように温度勾配を持たせるようにしてもよい。
【0031】
上記第1と第2のヒータ部92、94は、それぞれ給電ライン96、98を介して温度制御部100へ接続されている。また、上記原料保持体64内には、上記原料液体貯留部66に対応させて第1の温度測定手段102が設けられると共に、その先端部に対応させて第2の温度測定手段104が設けられており、各温度測定手段102、104の測定値を上記温度制御部100へ通知するようになっている。これらの第1及び第2の温度測定手段102、104は、例えば熱電対で形成されている。
【0032】
上記温度制御部100は、上記第1及び第2の温度測定手段102、104の測定値に基づいて、上記第1のヒータ部92に対しては原料液体貯留部66からの原料液体88Aの流出量を調整するように動作し、第2のヒータ部94に対しては液体流下面90からの原料液体88Aの蒸発量を調整するように動作する。
【0033】
以上のように構成された成膜装置2の全体の動作は、例えばコンピュータ等よりなる装置制御部106により制御されるようになっており、この動作を行うコンピュータのプログラムは、記憶媒体108に記憶されている。この記憶媒体108は、例えばフレキシブルディスク、CD(Compact Disc)、ハードディスク、フラッシュメモリ或いはDVD等よりなる。具体的には、この装置制御部106からの指令により、原料供給装置62の制御やガスの供給の開始、停止や流量制御、プロセス温度やプロセス圧力の制御等が行われる。
【0034】
また、上記装置制御部106は、これに接続されるユーザインターフェース(図示せず)を有しており、これはオペレータが装置を管理するためにコマンドの入出力操作等を行なうキーボードや、装置の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。更に、通信回線を介して上記各制御のための通信を上記装置制御部106に対して行なうようにしてもよい。
【0035】
次に、以上のように構成された本発明に係る原料供給装置を用いた成膜装置の動作について図3も参照して説明する。図3は本発明に係る原料供給装置の原料保持体(ヒータ及び熱電対の記載は省略)の部分を示す拡大断面図である。まず、未処理の半導体ウエハWは、図示しない搬送アームに支持され、処理容器4の側壁に設けたゲートバルブ48を開いた後、搬出入口46を介して処理容器4内へ搬入される。そして、載置台12の下方に設けたリフタ機構24を動作させることにより上記ウエハWをリフタピン26で受け取り、このウエハWを載置台12上に載置する。このウエハWとしては例えば直径が300mmのシリコン基板が用いられる。ここでウエハWは、薄膜を堆積させるべき面が上面を向いており、いわゆるフェイスアップ状態で載置されている。
【0036】
また処理容器4の天井部には、予め原料供給装置2が取り付けられており、この原料保持体64の原料液体貯留部66の液体貯留凹部84内には原料88が収容されている(図3(A)参照)。この原料88としては、ここでは固体状態のGa(ガリウム)が収容されている。この固体状態のGaが溶解し始める温度は30℃程度であり、また蒸気化し始める温度は500℃程度である。
【0037】
このような状態で、排気系38は連続的に駆動されて処理容器4内は真空引きされており、そして、載置台12に設けた被処理体加熱手段14に電力を供給してこの上に載置されている半導体ウエハWを昇温して所定のプロセス温度に維持する。更に、原料ガス導入手段50より原料ガスであるN ガスを流量制御しつつ処理容器4内へ導入する。
【0038】
これと同時に、原料供給装置62においては、温度制御部100は加熱手段68である第1の加熱ヒータ部92と第2の加熱ヒータ部94へそれぞれ通電して原料保持体64を加熱する。この原料保持体64の温度は、第1及び第2の温度測定手段102、104によって常時測定されて上記温度制御部100へ通知されている。原料保持体64の温度が上昇してくると、原料液体貯留部66に予め収容しておいた固体の原料88は次第に溶けて原料液体88Aとなって行く(図3(A)参照)。
【0039】
このように固体の原料88が溶けて原料液体88Aになると濡れ性を発揮するようになり、この原料液体88Aは、図3(A)に示す矢印120に示すように液体貯留凹部84の液体貯留堰68を乗り越えて外側へ流出し、そして、図3(B)に示すように原料保持体64の外周面である液体流下面90に沿って少しずつ流下し始めることになる。そして、この原料液体88Aは液体流下面90に沿って流下しつつ、矢印122に示すように少しずつ蒸発、或いは拡散されて行くことになる。ここで原料液体88Aは温度に依存してその濡れ性が変化するので、第1のヒータ部92は原料液体貯留部66からの原料液体88Aの流出量を調整するように制御される。また第2のヒータ部94は、液体流下面90からの原料液体88Aの蒸発量を調整するように制御される。
【0040】
この場合、液体流下面90は、その下方に行く程高温になるように温度勾配がついているので、下方に流れる程、液体原料88Aは多量に蒸発されることになる。尚、この場合、液体流下面90に上述のような温度勾配をつけなくて、全体が液体原料88Aの蒸発温度以上の温度になるように設定してもよい。このようにして蒸気化された原料であるガリウム(Ga)とガス状態の窒素(N)とが高温になされたウエハWの表面で結合反応して、この表面に窒化ガリウム(GaN)よりなる化合物半導体の薄膜がエピタキシャル成長し、次第に堆積して形成されることになる。
【0041】
この際、上述したように、第1のヒータ部92と第2のヒータ部94の温度はそれぞれ制御されており、原料液体貯留部66から原料液体88Aが流れ出る量と、液体流下面90から蒸発する蒸発量とが均衡するようになされている。従って、液体流下面90の下端部より原料液体88Aが液滴となって滴下することは防止されている。また、図3(C)に示すように、原料液体貯留部66の原料液体88Aが少なくなって液面が低下してくれば、それに伴って第1のヒータ部92により加熱温度を次第に上昇させることにより、上述したように温度上昇の分だけ濡れ性が向上するので、原料液体88Aを安定した流量で流下させることができる。
【0042】
ここでプロセス条件に関しては、処理容器4内の圧力は、10−10 〜10−2Torr程度であり、載置台12の温度は成膜する化合物半導体の種類にもよるが、例えば800〜1200℃の範囲内である。特にGaNを成膜する場合には、850〜1100℃の範囲内である。また、第1のヒータ部92により加熱される原料液体貯留部66の温度は原料液体88Aの種類にもよるが、例えば400〜850℃の範囲内である。特に、原料がGaの場合には500〜650℃の範囲内である。また第2のヒータ部94により加熱される原料保持体64の先端部の温度は原料液体88Aの種類にもよるが例えば900〜1100℃の範囲内である。特に、原料がGaの場合には1000〜1080℃の範囲内である。
【0043】
尚、原料液体貯留部66に収容する原料88が少なくなった場合には、この原料保持体64を支持固定するボルト80を取り外し、この原料保持体64を上方へ抜き出して原料88を補充するようにすればよい。
【0044】
このように、本発明によれば、鉛直方向に延びる原料保持体64の原料液体貯留部66に貯留されている原料液体88Aを濡れ性によって流体流下面90に沿って流下させると共に加熱手段68によって蒸発温度以上に加熱されている原料保持体64の先端部まで流すようにしたので、装置構成を複雑化させることなく、しかも原料液体88Aの液滴を落下させることなく原料保持体64の先端部から蒸発、或いは拡散させることができる。また、成膜装置において、上記原料供給装置62を用いるようにしたので、被処理体である例えば半導体ウエハをフェイスアップ状態に保持した状態でMBE法により化合物半導体の薄膜を形成することができる。
【0045】
尚、上記実施例では、原料88が室温(25℃)で固体のGaを用いた場合を例にとって説明したが、これに限定されず、室温(25℃)で液体の原料の場合にも本発明を適用することができ、この場合には当初より原料液体を原料液体貯留部66内へ収容すればよい。更に、以上の説明では、化合物半導体を構成する2種の元素の内の一方の原料は室温で固体又は液体であり、他方の原料は気体、例えばN である場合を例にとって説明したが、これに限定されず、2種類の元素が共に室温で固体同士、又は液体同士でもよいし、或いは固体と液体との組み合わせでもよい。このような場合には、上述した原料供給装置62を2台設けるようにすればよい。図4はこのような成膜装置の変形実施例の一部を示す部分構成図である。尚、図4において、図1及び図2に示す構成と同一構成部分については同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0046】
図4に示すように、ここでは処理容器4の天井部に2台の原料供給装置62を設けており、それぞれに異なる原料、例えば原料Aと原料Bを収容するようにしている。この場合、原料として窒素(N)を用いないので、図1に示した原料ガス導入手段50は、この図4ではパージガス導入手段60として専用的に用いられることになる。この場合、この2つの原料供給装置62は、これに収容している原料の種類に応じてそれぞれ個別に温度制御されることになる。この温度制御は、温度制御部100(図1参照)によって行われる。また、この場合でも窒素を原料として用いる場合には、上記パージガス導入手段60は原料ガス導入手段50として兼用されることになり、さらには窒素のみならず2種以上の元素を含む原料ガスを導入する原料ガス導入手段としてもよい。
【0047】
更には、化合物半導体を成膜するために3種類以上の元素を用いる場合には、その数に応じて用いる原料供給装置62の設置台数を増加させればよい。また以上の実施例では、化合物半導体の薄膜として、2種類の元素を含む2元化合物であるGaNを成膜する場合を例にとって説明したが、これに限定されず、InN、GaAs、AlAs、GaSb、InP、InAs、InSb等の他の2元化合物の化合物半導体を成膜する場合にも本発明を適用することができる。
【0048】
更には、2種類の元素に限定されず、AlGaAs、AlInP、GaInP、AlGaPAs等の3次元以上の多次元の化合物半導体を成膜する場合にも本発明を適用することができる。
【0049】
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、この半導体ウエハにはシリコン基板やサファイア(Al)、GaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体基板も含まれ、更にはこれらの基板に限定されず、ガラス基板やセラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
2 成膜装置
4 処理容器
6 保持手段
12 載置台
14 被処理体加熱手段
16 抵抗加熱ヒータ
38 排気系
50 原料ガス導入手段
62 原料供給装置
64 原料保持体
66 原料液体貯留部
68 加熱手段
84 液体貯留凹部
86 液体貯留堰
58 原料
88A 原料液体
90 液体流下面
92 第1のヒータ部
94 第2のヒータ部
100 温度制御部
102 第1の温度測定手段
104 第2の温度測定手段
106 装置制御部
W 半導体ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体の製造に用いる原料を供給する原料供給装置において、
鉛直方向に延びて外周面が液体を流下させることができるような表面である液体流下面になされた原料保持体と、
前記原料保持体の高さ方向の途中に設けられて前記原料の液体である原料液体を貯留すると共に濡れ性によって前記原料液体を前記液体流下面に沿って流下させる原料液体貯留部と、
前記原料保持体内に設けられて、前記原料液体貯留部を前記原料が濡れ性を発揮するように加熱すると共に前記原料保持体の先端部を前記原料液体の蒸発温度まで加熱する加熱手段と、
を備えたことを特徴とする原料供給装置。
【請求項2】
前記原料液体貯留部は、前記原料保持体の周方向に沿って設けられた液体貯留凹部と、該液体貯留凹部の外周端に設けられた液体貯留堰とを有していることを特徴とする請求項1記載の原料供給装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記原料液体貯留部に対応させて設けられた第1のヒータ部と、前記原料保持体の先端部に対応させて設けられた第2のヒータ部とを有することを特徴とする請求項1又は2記載の原料供給装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、温度制御部を有し、該温度制御部は、前記原料液体貯留部からの前記原料液体の流れ量を調整するように前記第1のヒータ部を制御し、前記液体流下面からの前記原料液体の蒸発量を調整するように前記第2のヒータ部を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の原料供給装置。
【請求項5】
前記原料保持体は、セラミック材又は石英により形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の原料供給装置。
【請求項6】
前記原料は、25℃において固体又は液体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の原料供給装置。
【請求項7】
被処理体の表面に複数の元素が含まれた化合物半導体の薄膜を形成する成膜装置において、
真空引きが可能になされた処理容器と、
前記処理容器内で前記被処理体をフェイスアップ状態で保持する保持手段と、
前記被処理体を加熱する被処理体加熱手段と、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載された1又は複数の原料供給装置と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
前記処理容器内に、前記複数の元素の内の1又は2以上の種類の元素を含む原料ガスを供給する原料ガス導入手段を有することを特徴とする請求項7記載の成膜装置。
【請求項9】
前記薄膜は、Ga、In、As、Nよりなる群から選択される2種の元素を含むことを特徴とする請求項7又は8記載の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−160585(P2012−160585A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19392(P2011−19392)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】