説明

原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法

【課題】車両用内装材、カーペット用途などに適した原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を歩留まり良く高品質に製造する方法をおよびその繊維を提供すること。
【解決手段】有彩色顔料または黒色顔料などの顔料を含むポリブチレンテレフタレート組成物とポリトリメチレンテレフテレートを混合して溶融紡糸する繊度1.5dtex以上の原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法であって、固有粘度が0.75〜1.30dL/gであるポリブチレンテレフタレートに対して、上記顔料を10〜60重量%含むポリブチレンテレフタレート組成物を用い、固有粘度が0.80〜1.40dL/gであるポリトリメチレンテレフタレートと該ポリブチレンテレフタレート組成物の合計重量に対して該ポリブチレンテレフタレート組成物を0.5〜8.0重量%となるように混合して、紡糸速度1,200m/min以下で溶融紡糸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装材、カーペット用途などに適した原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維は、ポリエステル本来の特性である優れた寸法安定性、耐光性、低吸湿性、熱セット性を維持し、かつ低弾性率、弾性回復率および易染性に優れた特性を持っており、詰綿、不織布、紡績糸織物などへの実用化を目指して、様々な角度よりポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維製造技術が検討されている。
【0003】
ところで、ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維は、不織布や紡績糸などへ利用した場合、その用途に応じて必要な色に染色することが多いが、耐光性、コストの面で原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維のニーズが高まっている。
原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法としては、溶融した、実質的にポリトリメチレンテレフタレートからなる樹脂に、高濃度の有彩色顔料または黒色顔料を含有する樹脂を混練して繊維とする方法が一般的である。
【0004】
例えば、原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造技術に関する研究例として、特許文献1(特開2002−348447公報)には、カルボキシル基末端数を規定した、ポリトリメチレンテレフタレートからなるマスターバッチを使用した原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法がある。この方法によれば、カルボキシル基数を減少させることでマスターバッチの分子量低下を抑え、結果として従来並みの強伸度を有する原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を製造できる。
しかしながら、ポリトリメチレンテレフタレートの着色用マスターバッチを製造する場合には、ポリトリメチレンテレフタレートの加熱溶融により毒性のあるアクロレインガスが発生するという問題があり、マスターバッチを製造する際に、アクロレインガスの環境への放出を防止するために、加熱溶融部分を密閉系にし、発生するアクロレインガスの吸引、および焼却処理をするための大掛かりな設備の設置が必要であるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2(特開2003−89926号公報)には、カーボンブラックを含む改質ポリエチレンテレフタレート樹脂とカーボンブラックを含まないポリトリメチレンテレフタレート樹脂を混合紡糸することで、遮光性に優れた黒原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を考案している。この技術は、異種の樹脂を混練する手法を用いており、遮光性、明度が良好な、本来ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステルが有する強伸度、弾性回復率を有した黒原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法である。
しかしながら、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートでは、融点、および溶融粘度が大きく異なり、溶融紡糸において紡糸での糸切れや糸の欠点が発生しやすく、商業生産として採用できる紡糸条件の範囲が狭いなどの問題がある。
【特許文献1】特開2002−348447公報
【特許文献2】特開2003−89926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を得るための着色用マスターバッチ製造において、アクロレインの吸引などの特別な装置を必要としない着色用マスターバッチを用い、色調に優れ、かつ顔料を含まないポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維なみの高効率で、車両用内装材、カーペット用途などに適した実用的な有彩色顔料または黒色顔料を含む原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を効率よく提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、顔料を含むポリブチレンテレフタレート組成物とポリトリメチレンテレフテレートを混合して溶融紡糸する繊度1.5dtex以上の原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法であって、固有粘度(1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中において、35℃で測定)が0.75〜1.30dL/gであるポリブチレンテレフタレートに対して、顔料を1〜60重量%含むポリブチレンテレフタレート組成物を用い、固有粘度(オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定)が0.80〜1.40dL/gであるポリトリメチレンテレフタレートと該ポリブチレンテレフタレート組成物の合計重量に対して該ポリブチレンテレフタレート組成物を0.5〜8.0重量%となるように混合して、紡糸速度1,200m/min以下で溶融紡糸することを特徴とする原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法に関する。
ここで、上記顔料としては、好ましくは有彩色顔料または黒色顔料が挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を得るための着色用マスターバッチの製造において、アクロレインの吸引などの特別な装置を必要としない着色用マスターバッチを用い、色調に優れ、かつ顔料を含まないポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維なみの高効率で、車両用内装材、カーペット用途などに適した実用的な有彩色顔料または黒色顔料を含む原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を効率よく提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<ポリブチレンテレフタレート組成物>
本発明に用いられるポリブチレンテレフタレート組成物は、ポリブチレンテレフタレートに、顔料、好ましくは有彩色顔料または黒色顔料を含む組成物である。
【0010】
ポリブチレンテレフタレート:
本発明のマスターバッチであるポリブチレンテレフタレート組成物に用いられるポリブチレンテレフタレート(PBT)は、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)と比較して融点、溶融粘度などの物性差が小さく、かつ溶融時に問題のある分解ガスの発生が無い、主たる繰返し単位をブチレンテレフタレートとするポリブチレンテレフタレートである。他のポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートは、ポリトリチメチレンテレフタレートとの物性差(融点、溶融粘度)などが大きく異なるため、ポリトリメチレンテレフタレート中にブレンドすると、得られる繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0011】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを重縮合して得られるポリエステルである。かかるポリブチレンテレフタレートには、実質的に剛性、靭性および成形性を失わない範囲で、酸成分および/またはグリコール成分を共重合してもよい。
【0012】
ここで、共重合可能な酸成分としては、テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などである。これらのジカルボン酸類は、カルボキシル基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでエステル化されてもよい。
【0013】
また、共重合可能なグリコール成分としては、1,4−ブタンジオール以外のグリコール類、例えば1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリシクロデカンジメチロール、キシリレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスヒドロキシエトキシビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが例示される。
共重合成分は、酸成分またはグリコール成分を単独で用いてもよいし、酸成分およびグリコール成分を併用してもよく、さらに2種類以上の酸成分およびまたはグリコール成分を使用してもよい。
【0014】
ポリブチレンテレフタレートは、公知の方法で製造される。すなわち、エステル化またはエステル交換反応後、高真空下で重縮合反応を実施する。また、必要ならば、かかるPBTをさらに固相重合してもよい。
【0015】
(PBTの固有粘度)
上記ポリブチレンテレフタレートの固有粘度(1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中において、35℃で測定)は、0.75〜1.30dL/g、好ましくは0.80〜1.20dL/gの範囲であり、0.75dL/g未満の場合は、これより得られるポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)、ならびにポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステルの重合度が低下し、得られる繊維の強度などの力学的物性を低下させるという問題がある。一方、1.30dL/gを超える場合、顔料の分散性が悪化するため好ましくない。
また、ポリブチレンテレフタレートの固有粘度が0.75dL/g〜1.30dL/gの範囲を外れると、ポリトリメチレンテレフタレートとの溶融粘度差が大きすぎて、顔料の不均一分散が起こり糸切れなどを誘発するため、好ましくない。
【0016】
顔料:
本発明に用いる顔料は、特に限定されないが、好ましくは有彩色顔料または黒色顔料である。
ここで、顔料とは、「顔料便覧」(日本顔料技術協会編、誠文堂新光社発行)の第1頁に定義されているように、水や溶媒に溶けない、有色微粒子状の無機または有機化合物で、展色料と混和して塗膜もしくは成型物に美しい色彩を与えるものである。これに対し、衣料などに用いる色粉は染料と呼ばれ、一般的には水もしくは溶媒に溶解するものであり、顔料とは区別されるものである。また、有彩色顔料とは、黄、橙、赤、青、紫、緑、蛍光色、金属光沢などの色を示す顔料である。蛍光色を示すものは蛍光顔料、金属光沢を示すものは金属粉顔料とも呼ばれるが、ここでは有彩色顔料に含まれるものとする。
【0017】
本発明に用いる顔料としては、有彩色顔料または黒色顔料であれば特に制限はなく、例えば上記文献「顔料便覧」の第2章に示されているものが使用できる。例えば、有彩色顔料ではチタン黄、黄色酸化鉄(ベンガラ)、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、コバルト紫、アルミニウム粉、銅粉、銀粉、金粉、亜鉛末、ナフトールエロー、ハンザエロー、ピグメントエロー、ベンジジネロー、パーマネントエロー、バルカンファーストエロー、タートラジンレーキ、アンスラピリミジンエロー、バルカンファーストオレンジ、インダンスレンブリイリアントオレンジ、ペリノノレンジ、パーマネントレッド、パラレッド、ファーストスカーレッド、レソールレッド、ボルドー、アリザリンレーキ、パーマネントレッド、ファーストバイオレット、銅フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、インダンスレンブルー、フタロシアニングリーン、ポリクロル銅フタロシアニン、硫化カルシウム、硫化ストロンチウム、昼光蛍光顔料、ブロンズ粉、アルミニウム粉などが、また黒色顔料としてはカーボンブラック、黒鉛、鉄黒などが例示される。
【0018】
無機顔料を用いる場合は、各種表面処理剤を用いて表面処理してもよい。このような表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、また、表面グラフトポリマーなどを用いることができ、使用量としては顔料重量の0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜7重量%用いることができる。また、有機顔料の場合は、分子量が300〜2,000が好ましい。300未満では、顔料が繊維表面に移動して色移りが生じる場合がある。一方、分子量が2,000を超えると、凝集が起きやすくなる。好ましい分子量は、350〜700である。
【0019】
なお、顔料の平均粒径としては、0.001〜2μmであることが好ましく、特に好ましくは0.005〜1μmである。平均粒径が0.001μm未満は実用的に得ることが困難であり、一方2μmを超える粒子では、紡口パック中のフィルターに詰まりやすくなるために濾過圧が短時間に上昇したり、紡口孔が汚れやすくなって紡口面をしばしば掃除しなくてはいけなくなる。また、用いる顔料の粒度分布については、特に制限はないが、1μm以上の粒度成分が、顔料全体の20重量%以下が好ましく、特に好ましくは10重量%以下が紡口パック圧上昇が抑制される観点から好ましい。
【0020】
(ポリブチレンテレフタレート組成物の製造方法)
本発明におけるポリブチレンテレフタレートと顔料から構成されるポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)の製造方法には特に制限は無く、公知の方法を採用することができる。すなわち、ポリブチレンテレフタレートと顔料を別々に混練押出機に供給する、あるいは予備混合した後に混練押出機に供給する方法のいずれも採用することができる。混練押出機としては、スクリュー型の二軸の同方向または異方向混練押出機が好ましく用いられるが、単軸の混練押出機でもよい。
なお、溶融混練時の温度は、通常、ポリブチレンテレフタレートの融点以上で行う。溶融混練温度は、好ましくは230〜290℃である。
【0021】
得られる本発明のポリブチレンテレフタレート組成物は、顔料濃度が、1〜60重量%好ましくは5〜55重量%である。1重量%未満では、着色するための混合量が多くなり、生産効率が低下する。一方、60重量%を超えると、顔料の分散状態が悪化し、製糸工程での断糸やパック圧上昇速度が加速されるなどの問題が発生するため好ましくない。
【0022】
<顔料含有ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル>
本発明では、以上の顔料を含有するポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)を、ポリトリメチレンテレフタレートに混合し、顔料含有ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステルを得る。
【0023】
(PTT)
本発明で用いるPTTは、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。このポリエステルは、トリメチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリトリメチレンテレフタレートであってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分のいずれでもよい。ここで「主たる」とは、全繰り返し単位中、90モル%以上であることを表す。
【0024】
第3成分として好ましく用いられる成分としては、ジカルボン酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸もしくはフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸もしくはデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸など、また、グリコール成分として、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールもしくは2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンなどが例示され、これらは単独または二種以上を使用することができる。
【0025】
本発明で用いるPTTの製造方法については特に限定はなく、テレフタル酸をトリメチレングリコールと直接エステル化させた後、重合させる方法、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をトリメチレングリコールとエステル交換反応させた後、重合させる方法、のいずれを採用しても良い。
【0026】
なお、本発明に用いるPTTの重合触媒は特に限定はないが、チタン化合物を重合触媒として用いて用いることが好ましい。ここで、触媒として用いるチタン化合物とは、ポリマーに可溶性の有機系チタン化合物であることが好ましい。上記チタン化合物の含有量としては、特に制限はないが、重縮合反応性、得られるポリエステルの色相、耐熱性の観点から、全ジカルボン酸成分に対し、チタン金属元素として2〜150ミリモル%程度含有されていることが好ましい。
【0027】
ここで、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をトリメチレングリコールとエステル交換反応させた後、重合させる方法を採用する場合、エステル交換反応触媒として、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物など、通常、ポリエステルのエステル交換反応触媒として用いられる触媒を併用してもよい。しかし、通常は上述のチタン化合物をエステル交換反応触媒および重合触媒の両方の役割で用いる方法が好ましく採用される。
【0028】
本発明に用いられるPTTの固有粘度(オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定)は、0.80〜1.40dL/g、好ましくは0.90〜1.20dL/gである。0.80dL/g未満では、得られる顔料含有ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステルの物性が低下することがあり、一方1.40dL/gを超えると溶融混練が困難になり、また溶融粘度が高すぎて紡糸、延伸段階で糸切れが発生しやすい。
【0029】
(ポリブチレンテレフタレート組成物とPTTとの混合)
本発明におけるポリブチレンテレフタレート組成物とPTTとのブレンド方法には特に制限は無く、該組成物におけると同様の公知の方法を採用することができる。すなわち、ポリブチレンテレフタレート組成物とPTTとを別々に混練押出機に供給する、あるいは予備混合した後に混練押出機に供給する方法のいずれも採用することができる。混練押出機としては、スクリュー型の二軸の同方向または異方向混練押出機が好ましく用いられるが、単軸の混練押出機でもよい。また、PTTと混合するポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)は、複数種を併用することができる。基本的な顔料を含有するマスターバッチを適切な割合で組み合わせることで、少ない種類のマスターバッチから多種類の色相を有するポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維を得ることができる。
なお、溶融混練時の温度は、通常、ポリブチレンテレフタレート組成物およびPTTの融点以上で行う。
【0030】
(PTTと混合後のポリブチレンテレフタレート組成物の濃度)
本発明において、ポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)とポリトリメチレンテレフタレートを混合した後のポリブチレンテレフタレート組成物の濃度は、ポリトリメチレンテレフタレートと該ポリブチレンテレフタレート組成物の合計量に対し、0.5〜8.0重量%、好ましくは1.0〜7.5重量%の範囲にある。ここで、0.5重量%未満とするためには、使用する有彩色顔料または黒色顔料を含有した組成物(マスターバッチ)に高い顔料濃度が要求されるため、顔料の不均一分散等の問題が生じやすい。一方、8.0重量%を超えると、有彩色顔料または黒色顔料を含有した組成物(マスターバッチ)とポリトリメチレンテレフタレートの溶融時流動性の差に起因する有彩色顔料または黒色顔料を含有した組成物の不均一分散の影響が顕著となり、紡糸での糸切れや製品繊維の径が不均一になるなどの問題を生じる。なお、複数種のポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)を併用する場合は、ポリブチレンテレフタレート組成物の濃度は、併用されるポリブチレンテレフタレート組成物の合計重量に基づいて計算される。
【0031】
(その他)
なお、本発明において用いられるPBT、PTT、ポリブチレンテレフタレート組成物(マスターバッチ)、ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート組成物+TPP)には、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、酸化防止剤、固相重縮合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤などを含んでいてもよい。
【0032】
<原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造>
本発明の原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維は、ポリトリメチレンテレフタレートに、上記ポリブチレンテレフタレート組成物を混合して、紡糸速度が、1,200m/分以下で溶融紡糸する。この溶融紡糸は、通常、知られるポリエステル繊維および複合繊維に適用される方法と同様の方法で製造することができるが、特に好ましくは、ベースとなるポリトリメチレンテレフタレートのペレットに対し、所望の顔料濃度となるように、顔料とポリブチレンテレフタレートからなる組成物(マスターバッチ)ペレットを計量して、紡糸用の押出機に供給する方法が好ましく採用される。
この際、口金における溶融温度は、好ましくは235℃〜285℃、さらに好ましくは、240℃〜260℃程度である。
この溶融紡糸において、紡糸速度は1,200m/分以下、好ましくは100〜1,100m/分である。1,200m/分を超えると、有彩色顔料または黒色顔料を含有したポリブチレンテレフタレート組成物と実質的に有彩色顔料または黒色顔料を含まないポリトリメチレンテレフタレートの紡糸での変形速度の差が顕著になり、得られる原着繊維の径の不均一化、紡糸での糸切れなどの問題があり、好ましくない。
【0033】
また、得られる繊維の単糸繊度は、1.5dtex以上、好ましくは2.0〜10dtexである。単糸繊度が1.5dtex未満の繊維を得ようとすると、繊維径に対して顔料の粒径が相対的に大きくなり、紡糸時に、糸切れが発生する、歩留まりが低くなるなどの影響が出るため、好ましくない。
なお、繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、円形断面のほか、楕円断面、三角断面、星型断面であっても良い。また、複合繊維についても公知のいずれの方法も採用することができ、芯鞘構造、海島構造、サイドバイサイド構造などのいずれも採用することができる。紡糸方法についても特に制限はなく、長繊維、短繊維、スパンボンド、メルトブロー紡糸のいずれの方法も採用することができる。紡糸速度についても特に制限はなく、紡糸に引続いて延伸、仮撚加工を施してもよい。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の構成および効果をより具体的にするため、以下に実施例を挙げるが、本発明はこれら実施例に何等限定を受けるものではない。なお、実施例中の各値は以下の方法に従って求めた。
1)固有粘度:
TPPは、オルトクロロフェノール中35℃で測定した。PBTは、1,1,2,2−テトラクロロエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中35℃で測定した。
2)繊度
JIS−L1015に記載の方法に準拠して測定した。
3)紡糸糸切れ
表1に示す条件で紡糸し、1錘当たり24時間で発生する糸切れ回数を計測した。
4)繊維径変動回数
拡大鏡で紡糸後の原糸を観察し、1錘、1,000m当たりで正常な繊維径の3倍以上の径の部分が発生する回数を計測した。
【0035】
[実施例1]
ポリトリメチレンテレフタレート(略してPTT)(固有粘度0.92dL/g、融点228℃)をスクリュー式溶融押出し機を用いて252℃で溶融し、計量用のスクリューフィーダーで計量しながら固有粘度0.85dL/gのポリブチレンテレフタレート(略してPBT:ウィンテックポリマー(株)製のジュラネックス(グレード TRE-DE2)を用いた)ベースの黒色顔料(電子顕微鏡により測定した顔料の一次粒径0.03μm)を7重量%混練させ、公知の中実丸断面紡糸口金(420孔)より吐出量600g/分で吐出させた糸条に、口金面下4cmの位置で25〜30℃の冷却用空気を吹き当て1,000m/分の巻取速度で未延伸糸を得た。24時間、連続的に紡糸しその間で発生する糸切れ回数を計測した。また得られた未延伸糸を拡大鏡で1,000m観察し、正常な繊維径の3倍以上の径を持つ極太部分の発生回数を繊維径変動回数として計測した。次いで、得られた未延伸糸が延伸後に50万デシテックスのトウになるよう、50℃×90℃の二段温水延伸法にて1.7〜2.5倍に延伸し所定の繊度の繊維とした。
【0036】
[実施例2]〜〔実施例8〕、[比較例1]〜[比較例9]
PTTの固有粘度、PBTの固有粘度、マスターバッチの顔料含有濃度、顔料の色相、マスターバッチ添加率、吐出量、紡糸速度、溶融紡糸の口金孔数以外は実施例1と同様の操作を行った。結果と併せて表1に示す。














【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により得られる原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維は、車両用内装材、カーペット用途のほか、衣料用繊維などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含むポリブチレンテレフタレート組成物とポリトリメチレンテレフテレートを混合して溶融紡糸する繊度1.5dtex以上の原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法であって、固有粘度(1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中において、35℃で測定)が0.75〜1.30dL/gであるポリブチレンテレフタレートに対して、顔料を1〜60重量%含むポリブチレンテレフタレート組成物を用い、固有粘度(オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定)が0.80〜1.40dL/gであるポリトリメチレンテレフタレートと該ポリブチレンテレフタレート組成物の合計重量に対して該ポリブチレンテレフタレート組成物を0.5〜8.0重量%となるように混合して、紡糸速度1,200m/min以下で溶融紡糸することを特徴とする原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
顔料が、有彩色または黒色顔料である請求項1記載の原着ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の製造方法。