説明

原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー

【課題】耐久性に優れ、繊維構造体に適した原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーを提供すること。
【解決手段】脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物および顔料から構成された原着ステープルファイバーであって、前記脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物が少なくとも一部反応し、前記脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgであることを特徴とする原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルを用いた原着ステープルファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球規模での環境に対する意識が高まる中で、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されている。このような背景から、非石油系原料、特に植物由来原料(バイオマス)からなり、使用後は自然環境中で最終的に水と二酸化炭素まで分解する、自然循環型の環境対応素材が切望されている。そして、この自然循環型の環境対応素材として最も期待されている素材の一つがポリ乳酸(PLA)である。
【0003】
かかる状況下において、ポリ乳酸繊維の開発としては、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途や衛生用途、寝装用途およびその他の産業資材用途への応用も期待されている。
【0004】
また、ポリ乳酸繊維(PLA繊維)は、強度と伸度のバランスがよく、ヤング率が低いために布帛としてやわらかな風合いとなることから、繊維構造体の材料としても注目すべきものである。
【0005】
近年では、ポリ乳酸ポリマーの改質の研究も進み、衣料用途だけではなく、産業資材用途への展開も進んでいる。
【0006】
例えば、特許文献1には、半芳香族ポリエステルのCOOH末端やアルコール末端を別の化合物で置換して、その加水分解を抑制する技術が記載されている。当該技術は末端封鎖剤としてカルボジイミド化合物やエポキシ化合物を用いているが、これらの化合物では耐久性の向上効果がわずかであった。
【0007】
また、特許文献2には、脂肪族ポリエスエルとタルク、エポキシ化合物を添加したステープルファイバーが開示されている。当該技術は、結晶化促進を目的として脂肪族ポリエステルステープルファイバー中に結晶核剤であるタルクを、耐化水分解性の向上を目的としてエポキシ化合物を添加するものである。しかし、当該技術は脂肪族ポリエステルステープルファイバーを混綿させ熱圧成形する際に分子量を増大させて耐久性を向上させるのに有効であるが、熱圧成形を行わない、内装資材やインテリア資材に用いられる不織布やタフトのような繊維構造体にはあまりメリットのないものである。
【0008】
また、特許文献3には、ポリ乳酸の短繊維を用いた不織布が開示されている。当該技術は不織布を成形する際の収縮を抑制することを目的として、予め熱収縮させて乾熱収縮率の低いポリ乳酸を得、それによって不織布を構成するものである。しかし、当該技術は収縮の抑制には効果的であるが、耐久性についてはまだ不充分な点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−120520号公報
【特許文献2】特開2007−270391号公報
【特許文献3】特開2005−307359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐久性に優れ、さらに繊維構造体にした時の外観に優れた原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、主として次の構成を有する。すなわち、「脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物および顔料から構成された原着ステープルファイバーであって、前記脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物が少なくとも一部反応し、前記ステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgであることを特徴とする原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー。」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生産性に優れ、耐久性が高く、繊維構造体とした時の外観に優れた原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者らは、脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物および顔料から構成され、前記ポリ乳酸と3官能以上のエポキシ化合物が少なくとも一部反応し、前記脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgであることを特徴とすることで、生産性に優れ、耐久性が高く、繊維構造体とした時の外観に優れた脂肪族ポリエステルステープルファイバーを得ることができることを見いだした。
【0014】
本発明で特に好適に用いられる脂肪族ポリエステルはポリ乳酸である。ポリ乳酸としては、L−乳酸を主体とするものとD−乳酸を主体とするものの2種類が知られているが、本発明においてはどちらを主体としたポリ乳酸を用いてもよい。ポリ乳酸中の乳酸の光学純度が97%以上であれば、樹脂の融点を高くすることができ、耐熱性に優れるため好ましい。一般にポリ乳酸は光学純度が低下すると結晶性が低下するため、光学純度が低いポリ乳酸から得られた成形物は概して耐熱性が低下してしまい、実用的な成形物を得られない。このことから光学純度98%以上のポリ乳酸が好適に用いられる。ポリマー1分子中の光学純度が上記値を満たしている場合、例えばL−乳酸を主体とするポリマーとD−乳酸を主体とするポリマーを溶融混合したポリ乳酸を用いることもできる。この場合には、L−乳酸を主体とした脂肪族ポリエステル分子鎖とD−乳酸を主体とした脂肪族ポリエステル分子鎖がステレオコンプレックス結晶を形成し、該結晶はホモポリマーと比較して更に高融点となることから、本発明のステープルファイバーや、更にはこれから製造される繊維構造体にした場合に耐熱性に優れたものとなる。
【0015】
また脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は8万以上であることが、耐熱性、成形性の観点から好ましい。重量平均分子量を8万以上とすることで、得られる成形物の力学特性が向上し、耐久性に優れたものを得られるばかりでなく、溶融時の流動性や結晶化特性も好ましい範囲とすることが可能となり、本発明のステープルファイバーを得る際にも安定した生産が可能になる。このことから重量平均分子量は8万〜40万の範囲であるとより好ましく、10万〜25万の範囲が最も好ましい。
【0016】
その他の脂肪族ポリエステルとしては、飽和ジカルボン酸とジオールとの重縮合により得られるもの、またはヒドロキシカルボン酸を重縮合したものが好適に用いられる。これらの重縮合により得られる脂肪族ポリエステルの例として、ポリ乳酸の他に、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリピバロラクトン、あるいはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのグリコールとコハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸よりなるポリエステルなどが挙げられる。
【0017】
また、本発明において用いられる脂肪族ポリエステルに対して、その特性を変化させない範囲で他の改質剤、添加剤や他のポリマーを含有することもできる。これら改質剤、添加剤や他のポリマーは重合時に添加してもよいし、先に混練したマスターペレットの形態としてもよいし、直接、脂肪族ポリエステルペレットと混合して溶融成形してもよい。更に、本発明における脂肪族ポリエステルは、その特性を変化させない範囲で他のモノマーを共重合させることもできる。共重合成分としてはジカルボン酸やジオール、ヒドロキシカルボン酸及びこれらの変性体などが挙げられる。これらの共重合成分の含有量は特に限定されるものではないが、脂肪族ポリエステルに対して40モル%を超えない範囲で共重合を行うと基質となる脂肪族ポリエステルの特性を大幅に変化させずに改質効果を得られるため好適である。
【0018】
また、本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーにおいては、脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として、エポキシ系化合物を含有することが重要である。特に、3官能以上のエポキシ系化合物を含有させ、さらにこの3官能以上のエポキシ系化合物を脂肪族ポリエステルの少なくとも一部に反応させること、望ましくは脂肪族ポリエステルの末端の少なくとも一部に反応させることが好ましい。上記3官能以上のエポキシ系化合物とは、化合物1分子中にエポキシ基を3個以上有するものである。化合物1分子に対してエポキシ基を3個以上とする理由としては、脂肪族ポリエステルと溶融混練を行う際、一部が脂肪族ポリエステルと反応し、また、再度溶融成形を行う際に残存したエポキシ基が更に脂肪族ポリエステルと反応することで分子量が増大し、最終成形物の耐久性を飛躍的に向上させることが可能となる。また、エポキシ系化合物は、他の末端反応性物質、例えばカルボジイミド化合物と比較して脂肪族ポリエステルに対する反応速度が遅い。そのため、脂肪族ポリエステルに添加する物質をエポキシ化合物とすれば脂肪族ポリエステルの分子量が極端に大きくなることがないため、エポキシ基全てが脂肪族ポリエステルと反応した構造となりにくく、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中に未反応のエポキシ基が残存した構造とすることが容易となる。
【0019】
また、本発明に用いられる3官能以上のエポキシ系化合物は、グリシジルオキシカルボニル基またはN−(グリシジル)アミド基を1分子内に少なくとも1個持つ化合物であることがより好ましい。
【0020】
本発明に用いる脂肪族ポリエステルとしては、エポキシ系化合物との反応性を示す、脂肪族ポリエステル中のCOOH末端基濃度が1〜20当量/tの範囲にあることが好ましい。より好ましくは、1〜10当量/tの範囲であることが好ましい。脂肪族ポリエステルのCOOH末端基濃度を20当量/t以下とする理由については、保管時や船便での輸送などに際して、加水分解による劣化を受けやすい脂肪族ポリエステルの耐久性を向上させることが可能となることが挙げられる。また、10当量/t以下であると、更に耐久性に優れ、より条件の厳しい用途への適用が可能となる。また、COOH末端基濃度は1当量/t以下であると、ステープルファイバーの製造が極めて難しくなる。
【0021】
脂肪族ポリエステル中のCOOH末端基をコントロールする方法としては、脂肪族ポリエステルの重合工程におけるエステル化率を上げ、末端OH基同士を重縮合することを防ぐことや、モノカルボジイミドやポリカルボジイミドそして、本発明に用いるエポキシ化合物と脂肪族ポリエステルを反応させ、COOH末端基を封鎖する方法があげられる。
【0022】
エポキシ系化合物にて末端封鎖された脂肪族ポリエステルステープルファイバーを用いることで、本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーは、内装資材、インテリア資材として使用可能な耐久性を得ることができる。
【0023】
エポキシ系化合物の脂肪族ポリエステルステープルファイバーに含まれる濃度としては、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgであることが好ましい。
【0024】
エポキシ残価とは、原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー中に残存するエポキシ化合物の量を示すものであり、未反応のエポキシ化合物は、脂肪族ポリエステルが保管および加工により加水分解する過程において、新たに反応し、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のCOOH末端基と反応することにより、さらに脂肪族ポリエステル分子鎖が加水分解するのを抑制する効果がある。そのため、脂肪族ポリエステル中のCOOH末端濃度よりも、より脂肪族ポリエステルの加水分解特性を制御する指標として、有用である。本発明者らは、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ残価を詳細に検討することにより、脂肪族ポリエステルステープルファイバーの加水分解特性が、より細かく制御できることを見いだした。脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1当量/kg以下であると、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中に残留しているエポキシ化合物の量が少ないため、脂肪族ポリエステルが加水分解し始めると脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のCOOH末端基が加速度的に増加し、脂肪族ポリエステルステープルの強伸度が低下するため、好ましくない。また、0.5当量/kg以上であると、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ化合物の量が多くなり、紡糸性が悪くなることや、脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ化合物がブリードすることから、使用上好ましくない。
【0025】
脂肪族ポリエステルステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgの範囲内である場合、脂肪族ポリエステルが加水分解する過程において、新たに反応するため、より長期間の保管に適することや、繊維構造体として使用する際の耐久性により優れており、脂肪族ポリエステルの使用範囲を広げるものとして有用である。
【0026】
エポキシ残価とは、JIS K7236:2001:エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方に準じて行うものであり、試料をビーカーにとり、クロロホルム20mlを加え、溶解し、酢酸40mlおよび臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液10mlを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液で電位差滴定を行った。その後、試料による0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液消費量を補正するため、試料にクロロホルム・酢酸のみを加え、滴定した値を差し引きし、補正を行う方法により算出したものである。
【0027】
脂肪族ポリエステル中のエポキシ残価をコントロールする方法としては、添加するエポキシ化合物の量、脂肪族ポリエステルのCOOH末端と反応するエポキシ化合物の量、エポキシ化合物1分子中にある、エポキシ基の数を調整する。特に、脂肪族ポリエステルのCOOH末端と反応するエポキシ化合物の量を調整するため、第1段階として、脂肪族ポリエステルのバージンチップにエポキシ化合物を10〜20質量%添加したベースチップを用い、190〜260℃で混練してマスターチップを作製し、次に紡糸エクストルーダー内において220〜240℃にてバージンチップとマスターチップを混練することで、更に反応を進める。このことで、脂肪族ポリエステルのCOOH末端とエポキシ化合物の反応を進め、エポキシ残価を所定の範囲に調整する。使用する脂肪族ポリエステルにもよるが、エポキシ化合物はステープルファイバーに対する含有量として2〜5質量%を目安として添加し、製造することが好ましい。
【0028】
本発明は、顔料とエポキシ化合物を高濃度で前混練したマスターチップをバージンチップに添加することで、顔料の分散性が高く、紡糸性、発色性に優れたステープルファイバーを得ることができる。顔料とエポキシ化合物を紡糸前に混練することで、紡糸前に顔料を事前分散させる効果と、ベースとなる脂肪族ポリエステル中のCOOH末端を封鎖することで、顔料が脂肪族ポリエステルのCOOH末端と反応することを防ぐことができる為である。このため、紡糸時に直接顔料を添加する方法と比較して、顔料の分散性がよく、発色性の良い、内装資材やインテリア資材用途の繊維構造体に原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーを得ることができる。また、結晶核剤等の異物を添加しないため、パックライフも長く、生産性に優れている。前混練する顔料は、エポキシ性化合物と反応性の低い顔料が好ましく、無機系の顔料が好ましい。無機系の顔料とは、例えば、カーボンブラック類、二酸化チタン、群青、コバルトブルー、弁柄などが挙げられる。また、有機系顔料でも、反応性の低いアンスラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料などの多環系の顔料が好適である。無機系顔料のなかでは、カーボンブラックが好適であり、その粒径としては平均粒径で10〜25μmが好ましく、粒径の上限は40μm以下であることが好ましい。このような範囲とすることで良好な分散性を維持し、また、紡糸における紡糸パックにおける詰まり等を抑制することができる。
【0029】
添加する顔料とエポキシ化合物のマスターチップ中の濃度は、20質量%以下が好ましい。20質量%以上であると、顔料とエポキシ化合物の分散性が悪くなり、繊維構造体としたときの発色性、色バラツキが大きくなる。なお、顔料のステープルファイバーに対する含有量は0.1〜0.25質量%が好ましい。
【0030】
本発明の3官能以上のエポキシ化合物として耐熱性やエポキシ指数による反応効率を考慮した場合、7,8−ジメチル−1,7,8,14−テトラデカンテトラカルボン酸テトラキス(オキシラニルメチル)、7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3,4−ジカルボン酸ジグリシジル、トリグリシジルイソシアヌレートが好ましく、更に反応性が高く取り扱い性に優れることから、単量体としてトリグリシジルイソシアヌレートを用いると特に好適である。トリグリシジルイソシアヌレートは融点が約100℃の粉体であり、取り扱いが容易であるほか、本発明に用いる脂肪族ポリエステルポリマーと溶融混合した際にトリグリシジルイソシアヌレートが溶融することで、脂肪族ポリエステル中に3官能以上のエポキシ化合物が微分散した構造とすることができ、樹脂の溶融粘度や分子量の斑を低減でき、本発明に用いる脂肪族ポリエステルステープルファイバーを安定して製造することが可能となる。更には、化合物自体の結晶性に優れることから、特に本発明に用いる脂肪族ポリエステルステープルファイバーを用いた溶融成形品の製造に際して、エポキシ化合物の飛散による発煙を抑制することが可能となることから好適である。
【0031】
本発明に用いられる原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーは、単繊維繊度が0.01〜25dtexの範囲に設定することが好ましい。カード、ニードルパンチ工程の通過性からは、1.5〜20dtexが好ましい。また、脂肪族ポリエステルステープルファイバーの断面は特に限定されるものではなく、丸断面、三葉断面、十時断面、W型断面、丸形中空断面や田形中空断面など自由に設計することが可能であるが、丸断面が製造の容易さから好適である。
【0032】
また、本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーの強度は、0.8cN/dtex以上であることが好ましい。強度が0.8cN/dtex以上であるとカードやニードルパンチ工程での糸切れが少なく、安定した加工が可能となる。また、上限は特に規定されるものではないが、脂肪族ポリエステル繊維の通常の強度から考えると8cN/dtex以下であれば問題無い。このことから、本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーの強度は、0.8〜8cN/dtexの範囲であることが好適である。
【0033】
また、本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーは、ステープルファイバーを熱セットして繊維を収縮させることで、ステープルファイバーの150℃、20分の乾熱処理における乾熱収縮率を小さくしておくことが好ましい。その収縮率は、0.05〜2.0%の範囲であると、不織布が成型される時の寸法変化を低減することができる為、好適である。
【0034】
繊維長は、特に規定されるものではなく、公知のステープルファイバーで用いられる、0.1〜100mmの範囲のものが使用可能である。カード、ニードルパンチ工程の通過性の観点からは、20〜80mmが好ましく、更に好ましくは、30〜70mmの範囲である。
【0035】
本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーを繊維構造体として使用する際は、捲縮を付与して用いることが好ましい。原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーへの捲縮の付与方法は公知の方法であればよく、例えばスタッフィングボックス法、押し込み加熱ギア法、高速エアー噴射押し込み法等が挙げられる。また、必要に応じて、油剤を仕上げ剤として延伸後や捲縮付与後に付与することも好適に用いられる。
【0036】
本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーは、生産性に優れ、耐久性が高く、繊維構造体とした時の外観に優れており、内装資材、インテリア資材に好適である。
【実施例】
【0037】
[測定方法]
(1)単繊維繊度(dtex)
JIS L 1015(1999) 8.5.1 A法に基づき、試料若干量を金ぐしで平行に引きそろえ、これを切断台上においたラシャ紙の上に載せ、適度の力でまっすぐに張ったままゲージ板を圧着し、安全かみそりの刃で30mmの長さに切断し、繊維を数えて300本を一組とし、その質量を量り、見掛繊度を求めた。この見掛繊度と別に測定した平衡水分率とから、次式によって単糸繊度(dtex)を5回の平均値から算出した。
=D’×{(100+R)/(100+R)}
=正量繊度(dtex)
D’=見掛繊度(dtex)
=脂肪族ポリエステルの水分率(0.5%)
=平衡水分率
(2)繊維長
JIS L 1015(1999) 8.4.1 A法に基づき試料を金ぐしに平行に引きそろえ、ペア形ソーターでステープルダイヤグラムを約25cm幅に作成する。作成の際、繊維を全部ビロード板上に配列するためにグリップでつかんで引き出す回数は、約70回とする。この上に目盛りを刻んだセルロイド板を置き、方眼紙上に図記する。この方法で図記したステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境界及び両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出した。
【0038】
(3)強度、伸度
JIS L 1015(1999) 8.7.1に基づき、空間距離20mm、繊維を一本ずつ区分線に緩く張った状態で両端を接着剤ではり付けて固着し、区分ごとを1試料とする。試料を引張試験器のつかみに取り付け、上部つかみの近くで紙片を切断し、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の速度で引っ張り、試料が切断したときの荷重(N)及び伸び(mm)を測定、次の式により引張強さ(cN/dtex)及び伸び率(%)を算出した。
=SD/F
:引張強さ(cN/dtex)
SD:破断時の荷重(cN)
:試料の正量繊度(dtex)
S={(E−E)/(L+E)}×100
S:伸び率(%)
:緩み(mm)
:切断時の伸び(mm)又は最大荷重時の伸び(mm)
L:つかみ間隔(mm)。
【0039】
(4)エポキシ残価
JIS K7236:2001:エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方に準じて行った。
【0040】
試料をビーカーにとり、クロロホルム20mlを加え、溶解し、酢酸40mlおよび臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液10mlを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液で電位差滴定を行った。その後、試料による0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液消費量を補正するため、試料にクロロホルム・酢酸のみを加え、滴定した値を差し引きし、補正を行う方法により算出した。
【0041】
(5)発色性
試料(ステープルファイバー、繊維構造体)の発色性は、10人のパネラーにより評価した結果、7人以上が色のバラツキや白ボケがなく良好であると感じた場合を◎、5〜6人以上が良好であると感じた場合を○、良好であると感じた人が3〜4人以下の場合を△、良好であると感じた人が2人以下の場合を×とし、◎および○は実用範囲、△及び×は実用範囲外とした。
【0042】
なお、ステープルファイバーの評価においては、原綿(ステープルファイバー)10gを秤量し、直径3cm、高さ5cmの筒に原綿が均一になるように投入し、D65光源下で原綿の色調を評価した。
【0043】
[実施例1]
重量平均分子量(Mw)が14万、分散度(Mw/Mn)が1.7、光学純度が97%以上のL−ポリ乳酸からなる粒度35mg/個、COOH末端基濃度25.2当量/tであるポリ乳酸チップ86.8重量部にエポキシ化合物としてトリグリシジルイソシアヌレート(日産化学工業製“TEPIC−S”)10.8重量部、粒径が40μm以下のカーボンブラック2.4重量部を添加し、2軸混練機にて220℃、10分間混練しマスターチップとした。
【0044】
得られたマスターチップ12重量部と上記ポリ乳酸チップ88重量部を紡糸機ホッパーに仕込み、2軸エクストルーダー型紡糸機を用い220℃で溶融し、300ホールを有する口金から吐出量510g/分で紡出し、紡糸速度1000m/分で引き取りした。得られた複数の糸条を合糸し、キャンに受けた。そして、この延伸糸をさらに合糸して27.7ktexのトウとし、80℃の水槽中で3.5倍に延伸した後、スタッフィングボックスで捲縮を付与した。ついで、130℃でリラックス熱処理を行い、油剤を付与した後、カットし、単繊維繊度6.7dtex、繊維長51mm、強度2.1cN/dtex、伸度71.8%、エポキシ残価0.404当量/kgのポリ乳酸ステープルファイバーSF1を得た。
【0045】
SF1は、紡糸性がよく、発色性に優れ、製造後のエポキシ残価も0.165〜0.404と高いことから、耐久性に優れていた。
【0046】
得られたSF1をサンプルローラーカードに100g/分の投入量で投入し、目付12.5g/mのウェブを5枚重ねとして、繊維構造体を得た。
【0047】
得られたSF1、繊維構造体は、色のバラツキや白ボケが無く、良好な発色性であった。
【0048】
[実施例2〜5]
表1に記載した添加量になるように、エポキシ化合物の量、顔料の添加量を調整した他は、実施例1と同様にして、SF2〜5を得た。また、得られたSF2〜5をそれぞれ用いて、実施例1と同様にして繊維構造体を得た。
【0049】
SF2〜5は、紡糸性がよく、発色性に優れ、製造後のエポキシ残価も0.165〜0.404と高いことから、耐久性に優れていた。
【0050】
得られたSF2〜5、それらの繊維構造体も色のバラツキや白ボケが無く、良好な発色性であった。
【0051】
[比較例1]
表1に記載した添加量となるように、エポキシ化合物の量、顔料の添加量を調整した他は、実施例1と同様にして、単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mm、強度2.0cN/dtex、伸度83.7%、エポキシ残価0.091当量/kgのポリ乳酸ステープルファイバーSF6を得た。また、得られたSF6を用いて、実施例1と同様にして繊維構造体を得た。
【0052】
SF6は、実施例と比較して、製造直後のエポキシ残価が0.091当量/kgと低く、実施例と比べて耐久性に劣っていた。また、顔料の分散性においても、実施例と比べやや劣っており、SF6、その繊維構造体の色バラツキが大きく、発色性に劣るものであった。
【0053】
[比較例2]
重量平均分子量が14万、分散度が1.7、光学純度が97%以上のL−ポリ乳酸からなる粒度35mg/個、COOH末端基濃度25.2当量/tであるポリ乳酸チップを紡糸機ホッパーに仕込み、もう一方のホッパーからは粒径が40μm以下のカーボンブラック0.2質量%を投入し、エクストルーダー型紡糸機を用い220℃で溶融し、300ホールを有する口金から吐出量510g/分で紡出し、紡糸速度1000m/分で引き取りした。同様にした複数の糸条を合糸し、キャンに受けた。そして、この延伸糸をさらに合糸して27.7ktexのトウとし、80℃の水槽中で3.5倍に延伸した後、スタッフィングボックスで捲縮を付与した。ついで、130℃でリラックス熱処理を行い、油剤を付与した後、カットし、単繊維繊度6.7dtex、繊維長51mm、強度2.2cN/dtex、伸度79.1%、エポキシ残価0.005当量/kg未満のポリ乳酸ステープルファイバーSF7を得た。また、得られたSF7を用いて、実施例1と同様にして繊維構造体を得た。
【0054】
SF7は、実施例と比較して、製造直後のエポキシ残価が<0.005当量/kgであり、実施例と比べて耐久性に劣っていた。
【0055】
[比較例3]
表1に記載した添加量となるように、エポキシ化合物の量、顔料、タルクの添加量を調整した他は、実施例1と同様にして、単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mm、強度2.2cN/dtex、伸度77.6%、エポキシ残価0.102当量/kgのポリ乳酸ステープルファイバーSF8を得た。また、得られたSF8を用いて、実施例1と同様にして繊維構造体を得た。
【0056】
SF5は、タルクを混練していることから、紡糸時にパック圧上昇が見られ、実施例と比べやや生産性に劣っていた。また、SF8及びその繊維構造体の発色性も実施例とくらべやや白ボケしており、実施例と比べ劣っていた。
【0057】
[比較例4]
重量平均分子量が14万、分散度が1.7、光学純度が97%以上のL−ポリ乳酸からなる粒度35mg/個、COOH末端基濃度25.2当量/tであるポリ乳酸チップを紡糸機ホッパーに仕込み、もう一方のホッパーからは、粒径が40μm以下のカーボンブラック0.2質量%、トリグリシジルイソシアヌレート(日産化学工業製“TEPIC−S”)を1.0質量%投入し、エクストルーダー型紡糸機を用い220℃で溶融し、300ホールを有する口金から吐出量510g/分で紡出し、紡糸速度1000m/分で引き取りした。得られた複数の糸条を合糸し、キャンに受けた。そして、この延伸糸をさらに合糸して27.7ktexのトウとし、80℃の水槽中で3.5倍に延伸した後、スタッフィングボックスで捲縮を付与した。ついで、130℃でリラックス熱処理を行い、油剤を付与した後、カットし、単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mm、強度2.0cN/dtex、伸度72.5%、エポキシ残価0.099当量/kgのポリ乳酸ステープルファイバーSF9を得た。また、得られたSF9を用いて、実施例1と同様にして繊維構造体を得た。
【0058】
SF9は、紡糸時に顔料とトリグリシジルイソシアヌレートの分散性がやや悪く、実施例と比べ生産性に劣っていた。また、繊維構造体の発色性も、色のバラツキがやや多く、劣っていた。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバーは、生産性に優れ、耐久性が高く、繊維構造体とした時の外観に優れており、内装資材、インテリア資材に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物および顔料から構成された原着ステープルファイバーであって、前記脂肪族ポリエステルと3官能以上のエポキシ化合物が少なくとも一部反応し、前記ステープルファイバー中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgであることを特徴とする原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー。
【請求項2】
3官能以上のエポキシ化合物がグリシジルオキシカルボニル基またはN−(グリシジル)アミド基を1分子内に少なくとも1個持つことを特徴とする請求項1に記載の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー。
【請求項3】
3官能以上のエポキシ化合物がトリグリシジルイソシアヌレートおよびその変性体であることを特徴とする請求項1または2に記載の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー。
【請求項4】
繊維構造体に用いられることを特徴とする請求項1〜3に記載の原着脂肪族ポリエステルステープルファイバー。

【公開番号】特開2010−189807(P2010−189807A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36212(P2009−36212)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】