説明

原虫Rhomboidタンパク質

本発明は、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)のような原虫病原体の侵入プロセスに関与する原虫Rhomboidタンパク質の同定に関する。したがって、こうしたRhomboidタンパク質のモジュレーションは、原虫病原体感染の治療において有用でありうる。原虫Rhomboidタンパク質のモジュレーションに関係する方法および手段を本明細書において提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原虫病原体の侵入プロセスに関するものであるが、特に、そうしたプロセスを阻止し、したがって病原性原虫感染症の治療に役立つ可能性のある治療用化合物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
アピコンプレクサ類の原虫病原体は、マラリア原虫Plasmodium falciparum(熱帯熱マラリア原虫)を含めて、宿主(たとえば哺乳動物)細胞を認識して結合するために必須の、多数の膜結合性接着タンパク質を発現する。上記病原体が宿主細胞に入る侵入プロセスにおいて必須のステップは、タンパク質分解切断による、病原体表面からの上記接着タンパク質の遊離である。これらの接着タンパク質の一部は膜貫通ドメイン(TMD)内部で切断される(Opitz et al (2002) EMBO J. 21 7 1577-1585)。
【発明の開示】
【0003】
本発明者らは、Rhomboidポリペプチドが原虫の接着分子の切断に関与することを発見した。Rhomboidポリペプチドは膜内セリンプロテアーゼであって、進化の過程を通じて広範に保存され、さまざまな生理的基質に作用する。原虫のRhomboid活性を抑制すると接着ポリペプチドの切断が減少し、これによって原虫病原体の侵入性を低下させることができる。
【0004】
本発明の第1の態様は、たとえば、原虫Rhomboidポリペプチドの活性を抑制することによって原虫病原体の侵入性を阻止する化合物を同定し、および/またはその化合物を得るための方法を与えるが、この方法は下記を含んでなる:
(a) 単離されたRhomboidポリペプチドと単離された基質ポリペプチドを試験化合物の存在下で接触させること、
(b) 基質ポリペプチドのタンパク質分解による切断を測定すること。
【0005】
Rhomboidおよび基質ポリペプチドを、Rhomboidポリペプチドが通常、基質ポリペプチドのタンパク質分解切断を触媒する条件下で、接触させることができる。
【0006】
これらのポリペプチドは、単離された状態で反応媒体中で接触させることができるが、リポソームまたは宿主細胞に含まれていてもよく、Rhomboidポリペプチドおよび基質を本来発現しない宿主細胞に含まれることが好ましい。Rhomboidポリペプチドが、たとえば、膜結合基質ポリペプチドに作用して、可溶性産物を生成し、これが検出される。
【0007】
試験化合物の存在下および非存在下で、基質ポリペプチドの切断を測定することができる。試験化合物なしの場合と比較して試験化合物存在下での切断の減少もしくは低下は、その試験化合物が原虫Rhomboidプロテアーゼ活性の阻害剤であることを示すと考えられる。このような化合物は接着ミクロネームポリペプチドの切断を阻害し、したがって原虫病原体の感染性を抑制することができる。
【0008】
Rhomboidポリペプチドは、原虫Rhomboidタンパク質、たとえば、アピコンプレクサ類病原体に由来するRhomboidポリペプチドとすることができる。適当な原虫Rhomboidポリペプチドは、表1aに示す熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum) Rhomboid 1〜7をいずれも包含する。
【0009】
ある好ましい実施形態において、Rhomboidポリペプチドは、熱帯熱マラリア原虫のRho1, Rho3, Rho4, Rho6もしくはRho7といった非ミトコンドリアRhomboid、特にRho1, Rho3, Rho4もしくはRho7とすることができる。
【0010】
Rhomboidおよび基質ポリペプチドのアミノ酸残基は、それぞれショウジョウバエ(Drosophila)Rhomboid-1およびSpitz配列におけるそれらの位置を基準として本明細書に記載される。当然のことながら、他のRhomboidおよび基質ポリペプチドにおいて対応する残基の位置および番号が異なることがあるが、これはそれぞれのポリペプチドのアミノ酸配列が異なるためである。こうした相違は、たとえばN末端ドメインの長さの変化によって生じることがある。他のRhomboidおよび基質ポリペプチドでの対応する残基は、全体的な配列の前後関係およびTMDに対するそれらの位置によって、容易に認識しうるものである。
【0011】
Rhomboidファミリーのメンバーであるポリペプチドは、好ましくは残基R152, G215, S217 およびH281を含んでなるが、いっそう好ましくは残基W151, R152, N169, G215, S217 およびH281を含んでなる。これらの保存された残基の存在を利用して、他の原虫病原体のRhomboidポリペプチドを同定することができる。
【0012】
Rhomboidポリペプチドは好ましくは少なくとも4つのTMDを、より好ましくは5つのTMDを含んでなるが、残基N169, S217およびH281はそれぞれ、異なるTMDにおいて、脂質膜二重層中におおよそ同じレベルで存在する。
【0013】
好ましいRhomboidポリペプチドは、GxSxモチーフ、たとえばGxSGを含んでなる。
【0014】
Rhomboidポリペプチドは、Rhomboid配列とは異なる追加のアミノ酸残基を含んでいてもよい。たとえば、Rhomboidポリペプチドもしくはその断片が、たとえば異なるリガンドに対する結合部分を含んだ、融合タンパク質の一部分として含まれていてもよい。
【0015】
Rhomboidポリペプチドは全体的な配列同一性が比較的低いが、それらは、本明細書に記載のように、バイオインフォマティクスの技法、および主要残基の手動検索によって確実に同定される。
【0016】
Rhomboidファミリーのメンバーであるポリペプチド(すなわち、Rhomboidポリペプチド)は、PFAMタンパク質構造アノテーションプロジェクト(Bateman A. et al (2000) The Pfam Protein Families Database Nucl. Acid. Res. 28 263-266)によって定義されるように、Rhomboid相同性ドメインの存在によって同定される。Pfam Rhomboid相同性ドメインは、83個のRhomboid配列をシードとして使用する隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model (HMM))から確立される。Pfam ‘Rhomboid’ドメインはPfamに固有の登録番号PF01694を有する。
【0017】
Rhomboidポリペプチドの同定に使用するのに適した他のさまざまな方法が当技術分野で知られている。
【0018】
特に有用な方法としては、ショウジョウバエRhomboid 1〜4を包含するがそれに限定されない、あらかじめ同定されたRhomboidタンパク質群から構築された隠れマルコフモデルを使用することが挙げられる。このようなバイオインフォマティクス技法は当業者によく知られている(Eddy S. R. Curr. Opin. Struct. Biol. 1996 6(3) 361-365)。
【0019】
Rhomboidポリペプチドは、好ましくは、1つ以上のショウジョウバエタンパク質Spitz、KerenおよびGurken、または原虫タンパク質、たとえばAma 1およびCTRPをタンパク質分解によって切断することができるが、TGFα、Delta、EGFRおよびTGN38のような同様のI型膜貫通タンパク質を切断することはできない。
【0020】
適当な基質ポリペプチドは、N末端細胞外/内腔ドメインと合わせて配置された単一TMDを有するI型膜タンパク質である。基質ポリペプチドは、ショウジョウバエSpitz配列の残基138-144(ASIASGA)の残基を1つ以上有する内腔近接領域(lumen proximal region)、またはショウジョウバエSpitz配列の残基138-144(ASIASGA)に相当するコンフォメーション、構造、もしくは立体配置を有する内腔領域を持つ膜貫通ドメインを含んでなることができる。
【0021】
好ましい実施形態において、基質ポリペプチドのTMDの残基1-7は疎水性ではない。
【0022】
基質ポリペプチドは、そのポリペプチドの内腔もしくは細胞外ドメインに近接したTMD部分の内部に(すなわち、TMDの残基1-8の間に)G残基を含みうるが、このG残基はSpitzのG143に相当する位置(すなわち、TMDの第6番目の残基)にあることが好ましい。好ましくは、基質ポリペプチドは、そのポリペプチドの内腔もしくは細胞外ドメインに近接するTMD部分の中に(すなわちTMDの残基1-8の間に)GAもしくはGGモチーフを含んでなるが、Spitz配列のG143およびA144に相当する位置(すなわちTMDの第6および7番目の残基)にあることが好ましい。
【0023】
基質ポリペプチドはさらに、小さいアミノ酸残基のトリプレットモチーフを、SpitzのA138、S139およびI140に相当する位置(すなわちTMDのN末端(細胞外)境界から数えてTMDの第1、第2および第3番目の残基)に含むことができる。小さい残基にはGly, Ala, Ser, Ile, Leu, Valおよび Thrが含まれる。この位置の適当なモチーフは、SpitzのA138に相当する位置にAlaを有するモチーフ、たとえばAGGおよびASIを包含する。ポリペプチドのTMDの1、2もしくは3位にPheが存在することは、そのポリペプチドがRhomboid基質であることに反する徴候である(すなわち、そうしたポリペプチドはRhomboidポリペプチドによって効率よく切断される可能性が低い)。
【0024】
適当な基質ポリペプチドには、原虫の接着ミクロネームポリペプチドを含めることができる。接着ミクロネームポリペプチドは原虫病原体、たとえばアピコンプレクサ病原体に由来するものでありうる。適当な接着ミクロネームポリペプチドは、トロンボスポンジン関連アノニマスタンパク質(TRAPs)ファミリーに属する膜貫通タンパク質を包含する。
【0025】
適当な基質である原虫接着ミクロネームポリペプチドは、AGGもしくはAGLモチーフを上記のようにTMDの残基1、2および3の位置に、さらにGGモチーフをTMDの6位および7位に包含することができる。
【0026】
原虫病原体はアピコンプレクサ類に属すると考えられるが、たとえばアピコンプレクサ病原体は、プラスモジウム属(Plasmodium)、トキソプラズマ属(Toxoplasma)、アイメリア属(Eimeria)、サルコシスティス属(Sarcocystis)、バベシア属(Babesia)、イソスポラ属(Isospora)、シクロスポラ属(Cyclospora)およびクリプトスポリジウム属(Cryptosporidium)、たとえば、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、P. bergei、トキソプラズマ原虫(T. gondii)、C. parvum、ニワトリ盲腸コクシジウム(E. tenella)、S. muris、Babesia bovis、Cyclospora belli、Theileria annulata またはTheileria parvaからなる群から選択される。
【0027】
適当なポリペプチドの例としては、AMA1, MIC2, MIC6, MIC8, MIC12, (トキソプラズマ原虫由来), AMA1, TRAP, CTRP (熱帯熱マラリア原虫およびP. berghei由来), MIC1およびMIC4 (ニワトリ盲腸コクシジウム由来)、または表2に示す他のポリペプチドがある。
【0028】
ある好ましい実施形態において、基質ポリペプチドはCTRPもしくはAMA1、たとえば熱帯熱マラリア原虫CTRPもしくはAMA1とすることができる。
【0029】
基質ポリペプチドおよびRhomboidポリペプチドはそれぞれ、ER(小胞体)保留シグナルを含んでなることができる。たとえば、RhomboidポリペプチドはC末端(内腔)KDELモチーフを含んでなり、基質はC末端(細胞質内)KKXXモチーフを含んでなることができる(Jackson et al (1993) J. Cell Biol. 121(2) 317-333)。
【0030】
基質ポリペプチドは、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェラーゼもしくはアルカリホスファターゼといった検出可能な標識を含むことができる。これは、好ましくは可溶性細胞外ドメインに存在し、切断された可溶性産物の簡便な検出を可能にするが、特に自動化アッセイに有用である。
【0031】
原虫病原体の感染力のモジュレーター(特に阻害剤)を得る、または同定する方法は、細胞に基づく方法でも、細胞に基づかない方法でもよい。
【0032】
細胞に基づかない方法において、Rhomboidポリペプチドおよび基質ポリペプチドは、単離されていても、リポソームに含まれていてもよい。リポソームによるアッセイは、当技術分野でよく知られた方法(Brenner C. et al (2000) Meths in Enzymol. 322 243-252, Peters et al (2000) Biotechniques 28 1214-1219, Puglielli, H. and Hirschberg C. (1999) J. Biol. Chem. 274 35596-35600, Ramjeesingh, M. (1999) Meths in Enzymol. 294 227-246)を用いて実施することができる。
【0033】
本発明の方法は、細胞に基づいた方法の形をとることが好ましい。細胞に基づいた方法は、原虫細胞(たとえばトキソプラズマ細胞)、酵母菌株、昆虫もしくは哺乳動物細胞株、たとえばCHO、HeLaおよびCOS細胞といった、細胞内で行うことができるが、これらの細胞において、関連するポリペプチドもしくはペプチドは、細胞内に導入された1つ以上のベクターから発現される。
【0034】
好ましい実施形態において、Rhomboidポリペプチドおよび基質ポリペプチドは、宿主細胞内で、それをコードする異種核酸から発現させることができる。
【0035】
Rhomboidポリペプチドおよび基質ポリペプチドをコードする核酸を、単一の発現ベクターまたは別々のベクターに保持させることができる。
【0036】
当業者は、通常の技術および知識を用いて、本発明の方法の正確な構成を変更することができる。たとえば、ある実施形態において、GFP-基質融合物の切断されたGFP部分を抗GFP抗体(Santa Cruz Biologicals)によって捕捉し、洗浄した後、捕捉されたGFPを、酵素または蛍光標識と複合体化したポリクローナルもしくはモノクローナル抗体によって検出することができる(酵素の場合キャプチャーELISA)。
【0037】
ある実施形態では、ELISA法を用いることができるが、この場合、たとえば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼと複合体化した適当なポリクローナル抗GFPを使用することができる。このような複合体は、必要なインキュベーションの回数が少なくなるので好ましい。あるいはまた、ビオチン化抗GFP抗体をアビジンまたはストレプトアビジン酵素複合体と共に使用することができる。
【0038】
他の実施形態において、たとえば、ユーロピウムもしくはテルビウム標識抗体、またはストレプトアビジン、たとえばDelphiaもしくはLance試薬(Perkin Elmer)、を使用することによって、蛍光検出を行うことができる。これらの標識は、寿命の長い蛍光を示し、改善されたシグナル:ノイズ比特性を有する。
【0039】
他の実施形態として、GFP-基質構築物において、GFPをN末端で別の酵素標識と置き換えて、切断された基質を媒体中で直接アッセイすることができる(または標識をそうした構築物に付加することができる)。適当な酵素としてはウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ(Lui,J., and Escher, A. (1999) Gene 237, 153-159)および分泌型アルカリホスファターゼ配列(SEAP)(Clontech)がある。
【0040】
本発明のin vitroまたはin vivoアッセイのために、完全な全長タンパク質を使用する必要はない。当業者に公知のいかなる方法によっても、適切であれば、全長タンパク質の活性を保持する本明細書に記載のポリペプチド断片を作製し、使用することができる。断片を生じる適当な方法は、コードするDNAからの断片の組換え発現を包含するがそれに限定されない。こうした断片は、コードするDNAを採取し、発現されるべき部分の両側に適当な制限酵素認識部位を同定して、当該部分をDNAから切り出すことによって作製することができる。次にその部分を、標準的な市販の発現系において適当なプロモーターに、機能しうるように連結することができる。もう一つの組換え法は、適当なPCRプライマーを用いてDNAの関連部分を増幅することである。ペプチド合成法を用いて小断片(たとえば約20または30アミノ酸以下)を作製することもできるが、その方法は当技術分野においてよく知られている。別の方法は、一連の合成オリゴヌクレオチドから、コード配列の全部または一部を含んでなる核酸を合成することである。宿主細胞にとってより最適な遺伝暗号を用いて(Kocken CH et al Infect Immun. (2002) 70(8): 4471-6)、たとえば哺乳動物細胞における発現のために哺乳類のコドン使用頻度(codon usage)を反映させて、コード配列を合成することができる。
【0041】
Rhomboidポリペプチド断片は、前記の全長ポリペプチドより少ないアミノ酸残基から構成されていてもよい。こうした断片は、325以下のアミノ酸、300以下のアミノ酸、または275以下のアミノ酸からなり、および/または少なくとも100アミノ酸、より好ましくは少なくとも150、200、250または300アミノ酸から構成されていてもよい。適当な断片は5個のTMDを含んでなることができる。
【0042】
このような断片は好ましくは、ショウジョウバエRhomboid-1配列(Acc No: P20350)のR152, G215, S217 および H281に対応する残基を含んでなり、さらに好ましくはW151, R152, N169, G215, S217 および H281に対応する残基を含んでなるが、これらの残基はこのタンパク質の触媒活性のために重要であって、Rhomboidファミリーにおいて高度に保存されている。
【0043】
基質ポリペプチド断片は、全長ポリペプチドより少ない残基を含んでなるが、好ましくは当該ポリペプチドの膜貫通ドメインを含んでなる。このTMDは市販のソフトウェア、たとえばTMHMM(Krogh A. et al (2001) J. Mol. Biol. 305 567-580)およびTmPred(Hofmann K & Stoffel W (1993) Biol Chem. Hoppe Seyler 374 166)を用いて簡便に同定することができる。
【0044】
ある実施形態において、キメラ基質ポリペプチドを使用することができるが、これはRhomboidポリペプチドによって切断された基質ポリペプチドTMD、および異種起源の細胞内及び細胞外ドメインを含んでなる。
【0045】
コンビナトリアルライブラリ技術(Schultz, JS (1996) Biotechnol. Prog. 12:729-743)は、膨大な数となりうるさまざまな物質を、ポリペプチドの活性を調節する能力について試験する効果的な方法を提供する。活性の調節についてスクリーニングする前に、またはそれと同時に、試験物質を、Rhomboidポリペプチドと相互作用する能力について、たとえば酵母ツーハイブリッドシステムで、スクリーニングすることができる(これは、ポリペプチドと試験物質の両方が酵母においてコードする核酸から発現されることを必要とする)。これを、当該ポリペプチドのプロテアーゼ活性を調節する実際の能力について、ある物質を試験するのに先立って、粗いスクリーニングとして、利用することができる。
【0046】
本発明の方法において加えることができる試験物質もしくは試験化合物の量は、通常は、使用する化合物のタイプに応じて試行錯誤で決定される。典型的には、およそ0.01から100μMまで、たとえば0.1から10μMまで、の濃度の推定上の阻害化合物を使用することができる。
【0047】
試験化合物は、薬物スクリーニングプログラムで用いられる天然または合成化合物とすることができる。複数の、性質の判明した、または性質の不明な成分を含有する植物の抽出物も使用することができる。
【0048】
本発明の方法は、接着ミクロネームポリペプチド切断の阻害剤として試験化合物を同定するステップを含んでなることができる。
【0049】
あるクラスの推定上の阻害剤化合物は、Rhomboidポリペプチドおよび/または基質ポリペプチド(たとえば、接着ミクロネームポリペプチド)から誘導することができる。5〜40アミノ酸、たとえば6〜10アミノ酸のペプチド断片を、そのような相互作用もしくは活性を妨げる能力について試験することができる。
【0050】
上記ペプチド断片の阻害特性を、C末端に下記の基の1つを付加することによって、高めることができる:クロロメチルケトン、アルデヒドおよびボロン酸。これらの基はセリン、システインおよびトレオニンプロテアーゼの遷移状態の類似体である。ペプチド断片のN末端をカルボベンジルでブロックすると、アミノペプチダーゼを阻害して安定性を向上させることができる(Proteolytic Enzymes 2nd Ed, Edited by R. Beynon and J. Bond Oxford University Press 2001)。
【0051】
原虫Rhomboidポリペプチドまたは接着ミクロネームタンパク質中の相互作用部位に対する抗体は、また別のクラスの推定上の阻害化合物となる。候補となる阻害抗体の特徴を明らかにし、それらの結合領域を決定することにより、相互作用の破壊に関与する一本鎖抗体およびそのフラグメントを得ることができる。
【0052】
抗体は、当技術分野において標準的な技法を用いて得ることができる。抗体作製法は、タンパク質もしくはその断片を用いて哺乳動物(たとえばマウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、ヒツジもしくはサル)を免疫化することを包含する。当技術分野で公知のさまざまな技法のいずれによっても、免疫化した動物から抗体を得ることができ、さらに、好ましくは対象の抗原への抗体の結合を用いて、抗体を選別することができる。たとえば、ウェスタンブロッティング法または免疫沈降法を使用することができる(Armitage et al., 1992, Nature 357: 80-82)。抗体および/または抗体産生細胞の動物からの分離は、動物を犠牲にするステップを伴うことになる。
【0053】
哺乳動物をペプチドで免疫化することに代わる方法、もしくはそれに付け加える方法として、タンパク質に特異的な抗体を、発現された免疫グロブリン可変ドメインの組換え的に作製されたライブラリから得ることができ、たとえばその表面上に機能性免疫グロブリン結合ドメインを呈示する、λバクテリオファージまたは繊維状バクテリオファージを使用することができる;たとえば、国際公開WO92/01047を参照されたい。ライブラリはナイーブ、すなわち、いずれのタンパク質(もしくは断片)によっても免疫化されたことのない生物から得られた配列に基づいて構築されていてもよいが、対象の抗原に曝露された生物から得られた配列を用いて構築されたライブラリであってもよい。
【0054】
本発明の抗体を、いくつかの方法で改変することができる。実際、「抗体」という用語は、求められる特異性を示す結合ドメインを有するあらゆる結合物質を包含すると解釈されるべきである。したがって、本発明は、抗体フラグメント、誘導体、機能的に等価なもの、および抗体の相同物の範囲に及ぶものであり、合成分子、ならびに抗原もしくはエピトープに結合することを可能にする抗体の形状を模した形状を有する分子を包含する。
【0055】
抗原もしくは他の結合パートナーと結合する能力を有する抗体フラグメントの例は、VL、VH、C1およびCH1ドメインからなるFabフラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、抗体の一本の腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなるdAbフラグメント;分離されたCDR領域およびF(ab’)2フラグメント;ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントである。一本鎖Fvフラグメントも含まれる。
【0056】
サンプルに対する抗体の反応性は、いかなる適切な方法によっても測定することができる。個別のレポーター分子でタグ付けすることは1つの可能性である。レポーター分子は検出可能で、しかも好ましくは測定可能なシグナルを直接、または間接的に生じることができる。レポーター分子の結合は直接でも間接でもよく、たとえばペプチド結合を介して、共有結合によるものとすることができるが、非共有結合でもよい。ペプチド結合による連結は、抗体およびレポーター分子をコードする遺伝子融合物の組換え発現の結果として生じるものでありうる。結合を測定する方法は、本発明の骨子ではないが、当業者は、彼らの希望と一般知識に従って、適当な方法を選択することができる。
【0057】
抗体はまた、本方法で使用するRhomboidおよび接着ミクロネームポリペプチドを精製および/または単離する際に、たとえば、該ポリペプチドもしくはペプチドをコードする核酸からの発現によりそれらを産生させた後で、使用することもできる。
【0058】
抗体は、治療(予防も含まれる)の分野において、接着ミクロネームタンパク質のRhomboidによる切断を妨害し、それによってマラリアを含めた原虫感染症の治療において病原体の侵入性を低下させるために有用でありうる。
【0059】
本明細書の他の箇所で検討される他の治療上および非治療上の目的のために、本発明に従って抗体を用いることもできる。
【0060】
上記のように、接着ミクロネームポリペプチドの切断は、原虫病原体の宿主細胞への感染において必須のステップである。したがって、接着ミクロネームポリペプチドの切断を阻害する化合物は、原虫病原体の侵入性を阻害するために有用であると考えられる。
【0061】
本発明の方法はさらに、原虫病原体の侵入性を阻害する前記試験化合物の能力を測定するステップを含むことができる。
【0062】
上記は、病原体が通常、宿主細胞に感染する条件のもとで、試験化合物の存在下で宿主細胞を原虫病原体と接触させることによって実施することができる。
【0063】
原虫病原体の侵入性は、たとえば試験化合物の存在下および非存在下で、肝細胞もしくはHepG2細胞を用いた組織培養において、測定することができる。あるいはまた、スライドガラス上を滑走するスポロゾイトの能力を測定することができる。この運動性は、侵入性と密接に結びついている(Matuschewski K et al EMBO J (2002) 21 (7) 1597-1606)。
【0064】
他のアッセイ系において、スポロゾイトを、試験化合物を投与した動物モデル(たとえばラット)に注入し、その動物の肝細胞の感染の程度もしくは量を測定して、対照動物と比較することができる(Matuschewski K et al 上記)。肝細胞感染の測定は、動物モデルを犠牲にして解剖することを伴うものである。
【0065】
試験化合物の非存在下と比較した、存在下での感染率の低下もしくは減少は、その試験化合物が感染性を阻害することを示すものである。
【0066】
試験化合物をさらに、単離、および/または製造/合成し、続いて製薬上許容される添加剤、賦形剤もしくは担体とともに製剤化して医薬組成物とすることができる。
【0067】
治療の分野で使用される化合物は、ヒトRhomboidポリペプチドと比較して、優先的に、もしくは特異的に原虫Rhomboidポリペプチドを阻害することが望ましい。本発明の方法はそのような化合物を同定するためのもう一つのスクリーニングを包含することができる。
【0068】
したがって、方法はさらに次のステップを含んでなることができる:
単離されたヒトRhomboidポリペプチドおよびポリペプチド基質を、試験化合物の存在下で接触させること、および
ヒトRhomboidポリペプチドによる基質のタンパク質分解性切断を測定すること。
【0069】
ヒトRhomboidポリペプチドは、ヒトRHBDL-1 (ヒトRhomboid-1: Pascall and Brown (1998) FEBS Lett. 429, 337-340)、ヒトRHBDL-2 (NM_017821) およびヒトRHBDL-3から選択することができる。
【0070】
ヒトRhomboidに適したポリペプチド基質は上記に記載されており、膜貫通ドメイン内部でRhomboidポリペプチドによって切断される。
【0071】
適当な基質ポリペプチドは、該ポリペプチドの内腔もしくは細胞外ドメインに近接する領域内に、ショウジョウバエSpitz ASIASGAモチーフの1個以上の残基を有する、膜貫通モチーフ(すなわち内腔境界から始まるTMDの残基1から8)を含むか、あるいは、ショウジョウバエSpitz ASIASGAモチーフの残基を1個も持たないがその代わりにRhomboidポリペプチドによって切断される同等の構造を持つモチーフを保有する、膜貫通モチーフ(たとえば、図1に示すGurken もしくは他の配列)を含むことができる。好ましくは、基質ポリペプチドは、上記モチーフの一方または両方を、該ポリペプチドの内腔もしくは細胞外ドメインに近接する領域に含んでなる。
【0072】
本明細書に記載の本発明の方法を用いて化合物を同定した後、方法はさらに、薬剤特性が最適となるように、その化合物を修飾することを含みうる。
【0073】
生物学的に活性であると同定された「リード」化合物の修飾は、医薬品開発に向けた周知のアプローチであり、活性化合物の合成が困難であるか、もしくは費用がかかる場合、または特定の投与法に適さない場合(たとえば、ペプチドは消化管内でプロテアーゼによって速やかに分解される傾向があるため、経口投与組成物の活性物質としてはあまり適さない)、望ましいことであると考えられる。(たとえば、ミメティックを作製するための)既知の活性化合物の修飾を用いると、多数の分子についてやみくもに、標的特性についてのスクリーニングを行うことを避けることができる。
【0074】
薬剤特性を最適化するための「リード」化合物の修飾は、一般に、いくつかのステップを含んでなる。最初に、標的特性を決定するために不可欠かつ/または重要な化合物の特定部分を決定する。ペプチドの場合には、上記は、ペプチドのアミノ酸残基を体系的に変化させることによって、たとえばそれぞれの残基を順番に置換することによって、行うことができる。化合物の活性領域を構成するこれらの部分もしくは残基は、「ファーマコフォア」として知られている。
【0075】
ファーマコフォアが発見されれば、その物理的性質、たとえば立体化学、結合、サイズおよび/または電荷にしたがって、さまざまな起源からのデータ、たとえば分光学的技法、X線回折データおよびNMRを用いて、その構造をモデル化する。
【0076】
コンピューター解析、類似性マッピング(原子間の結合ではなく、ファーマコフォアの電荷および/または体積をモデル化する)および他の技法を、このモデル化プロセスで使用することができる。
【0077】
この方法の変法においては、リガンドおよびその結合パートナーの立体構造がモデル化される。これは、リガンドおよび/または結合パートナーが結合に際してコンフォメーションを変え、リード化合物の最適化において該モデルにこれを考慮に入れさせる場合に、特に有用であると考えられる。
【0078】
つぎに鋳型分子を選択して、該分子にファーマコフォアを模した化学基を結合させることができる。鋳型分子およびそれに結合される化学基は、修飾された化合物が合成しやすく、薬理学上許容される可能性が高く、さらにin vivoで分解せず、その一方でリード化合物の生物学的活性を保持するように、適宜選択することができる。この方法によって見出された修飾化合物を、つぎにスクリーニングしてそれらが標的特性を有するかどうか、またはどの程度その特性を示すかを調べることができる。修飾化合物はリード化合物のミメティックを包含する。
【0079】
つぎに、さらに最適化もしくは修飾を行って、in vivo試験もしくは臨床試験のための1つ以上の最終的な化合物に到達することができる。
【0080】
Rhomboidおよび接着ミクロネームポリペプチドはまた、原虫病原体感染性を阻害するのに適したミメティックを設計する方法に使用することもできる。
【0081】
本発明は、接着ミクロネームポリペプチドのRhomboidによる切断を阻害し、したがって原虫病原体の侵入性を阻害する生物活性を有するミメティックを設計する方法を提供するが、この方法は下記を含んでなる:
(i) 生物学的活性を有する化合物を分析して、活性に必須かつ重要なアミノ酸残基を決定することにより、ファーマコフォアを同定すること、および
(ii) そのファーマコフォアをモデル化して、生物学的活性を有する候補ミメティックを設計および/またはスクリーニングすること。
【0082】
適当な化合物はたとえば、本明細書に記載の原虫Rhomboidポリペプチドもしくは断片である。
【0083】
適当なモデル化法は当技術分野において周知である。これは、分子の機能的相互作用に関する研究、およびそれらの相互作用を再現することができるように配置された官能基を含有する化合物の設計に関わる、いわゆる「ミメティック」の設計を包含する。
【0084】
その特性を最適化するようなリード化合物のモデル化および修飾は、ミメティックの作製も含めて、上記に記載される。
【0085】
原虫Rhomboidポリペプチドの活性もしくは機能は、既述のように、原虫Rhomboidと接着ミクロネームポリペプチド、もしくは他の適当な基質ポリペプチドとの相互作用を何らかの方法で妨げる化合物によって阻害されると考えられる。阻害についての別の方法は、核酸レベルでの制御を用いて、原虫Rhomboidの生成をダウンレギュレートすることによって活性もしくは機能を阻害する。
【0086】
たとえば、アンチセンス法もしくはRNAi法によって遺伝子の発現を阻害することができる。遺伝子発現をダウンレギュレートするためにこうした方法を使用することは、当技術分野において現在、十分に確立されている。
【0087】
プレmRNAもしくは成熟mRNAのような核酸の相補的配列にハイブリダイズするように、アンチセンスオリゴヌクレオチドを設計することができ、このオリゴヌクレオチドは、Rhomboidポリペプチドの産生を干渉して、その発現を低下させ、または完全にもしくはほぼ完全に阻止する。コード配列を標的とすることに加えて、アンチセンス法を用いて、たとえば5’フランキング配列内の、遺伝子の調節配列を標的とすることができるが、それによってアンチセンスオリゴヌクレオチドは発現調節配列を妨害することができる。アンチセンス配列の構築およびその使用は、たとえばPeyman and Ulman, Chemical Reviews, 90:543-584, (1990) and Crooke, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 32:329-376, (1992)に記載されている。
【0088】
オリゴヌクレオチドは投与のためにin vitro もしくはex vivoで作製することができ、また、アンチセンスRNAはダウンレギュレーションが必要な細胞内でin vivoで生成させることができる。したがって、二本鎖DNAをプロモーターの制御下で「逆向き」に配置すると、アンチセンスDNA鎖の転写によって、標的遺伝子のセンス鎖から転写される正常なmRNAに対して相補的なRNAが生成する。相補的なアンチセンスRNA配列は、その後mRNAと結合して二本鎖を形成すると考えられ、それは標的遺伝子からタンパク質となる、内在性mRNAの翻訳を阻害する。これが作用の実態であるか否かは未だ断定できない。しかしながら、その方法が機能することは確立された事実である。
【0089】
逆向きのコード配列に相当する完全な配列を使用する必要はない。たとえば、十分な長さを持つ断片を使用することができる。遺伝子のコード配列もしくはフランキング配列のさまざまな部分に由来する、さまざまな大きさの断片を、アンチセンス阻害レベルを最適にするようにスクリーニングすることは、当業者にとって常套手段である。開始コドンのメチオニンATGと、できれば、その開始コドンの上流に1個以上のヌクレオチドとを含めると好都合である。適当な断片は約14〜23ヌクレオチドを有し、たとえば、15、16または17ヌクレオチド程度とすることができる。
【0090】
アンチセンスの代わりとして、センス、すなわち標的遺伝子と同じ向きで挿入された、標的遺伝子の全体もしくは一部のコピーを使用して、コサプレッション(co-suppression)により標的遺伝子発現の減少を達成することができる;Angell & Baulcombe (1997) The EMBO Journal 16,12:3675-3684; およびVoinnet & Baulcombe (1997) Nature 389: pg 553。二本鎖RNA(dsRNA)は、センス鎖もしくはアンチセンス鎖単独のいずれよりも遺伝子サイレンシングに非常に有効であることが見出されており(Fire A. et al Nature, 391, (1998))、マラリア病原虫において効果的に使用されている(Malhotra P et al Mol. Microb. (2002) 45(5) 1245-1254; McRobert L et al Mol. Biochem. Parasitol. (2002) 119(2) 273-278)。dsRNA介在サイレンシングは、遺伝子特異的であり、RNA干渉(RNAi)と呼ばれることも多い。
【0091】
RNA干渉は2段階のプロセスである。第1に、dsRNAは細胞内で切断されて、長さが21〜23ヌクレオチド程度の、5’末端リン酸基および短い3’オーバーハング(約2ヌクレオチド)を持つ短鎖干渉RNA(siRNA)を生じる。siRNAは対応するmRNA配列を特異的に分解の標的とする(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001))。
【0092】
RNAiはまた、3’オーバーハング末端を有する同じ構造の化学合成されたsiRNA二本鎖によっても効果的に誘導される(Zamore PD et al Cell, 101, 25-33, (2000))。合成siRNA二本鎖は、さまざまな哺乳動物細胞株において、特異的に、内在性遺伝子および異種遺伝子の発現を抑制することが示されている(Elbashir SM. et al. Nature, 411, 494-498, (2001))。
【0093】
もう一つの可能性は、転写時にリボザイムを生成する核酸を使用することであるが、リボザイムは特定の部位で核酸を切断する能力を有しており、したがって遺伝子発現に影響を及ぼすことにおいて有用である。リボザイムに関する基礎的な参考文献には、Kashani-Sabet and Scanlon, 1995, Cancer Gene Therapy, 2(3): 213-223, and Mercola and Cohen, 1995, Cancer Gene Therapy, 2(1), 47-59がある。
【0094】
このように、原虫Rhomboid活性のモジュレーター、したがって原虫病原体の感染性のモジュレーターは、表1に示すRhomboidコード配列の全部または一部を含んでなる核酸分子またはその相補鎖を含むことができる。
【0095】
このような分子は、原虫Rhomboidポリペプチドの発現を抑制することができるが、こうした分子は、用いられる発現抑制のタイプによって、センスもしくはアンチセンスRhomboidコード配列を含んでいても、Rhomboid特異的リボザイムであってもよい。
【0096】
発現抑制のタイプはまた、その分子が一本鎖であるか二本鎖であるか、およびそれがRNAであるかDNAであるかを決定するだろう。
【0097】
本発明のもう一つの態様は、下記を含んでなる、医薬組成物を製造する方法を提供する:
本明細書に記載の方法によって、原虫病原体の侵入性を阻止する化合物を同定すること、および
それによって同定された化合物を製薬上許容される担体と混合すること。
【0098】
上記のように、本発明の方法は、化合物の製薬上の特性を最適化するように化合物を修飾するステップを含むことができる。
【0099】
本発明の別の態様は、下記を含んでなる、原虫病原体感染症を治療するための医薬組成物を調製する方法を提供する:
i) Rhomboidポリペプチドのタンパク質分解活性をモジュレートする化合物を同定すること、
ii) 同定された化合物を合成すること、および
iii) 該化合物を医薬組成物に組み入れること。
【0100】
従来の化学合成法によって、同定された化合物を合成することができる。合成経路を開発し最適化する方法は当業者によく知られている。
【0101】
前記化合物を上記のように修飾および/または最適化することができる。
【0102】
前記化合物を医薬組成物に組み入れることは、合成された化合物を製薬上許容される担体もしくは賦形剤と混合することを包含することができる。
【0103】
本発明のもう一つの態様は、本明細書に記載の方法によって得られる、原虫病原体の感染性をモジュレートする化合物を提供する。こうした化合物は原虫Rhomboidポリペプチドのペプチド断片を含んでいても、ペプチド断片から構成されていてもよい。
【0104】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の方法によって得られる、Rhomboidポリペプチドのタンパク質分解活性をモジュレートする化合物を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0105】
他の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる化合物を、原虫病原体感染症の治療のための組成物の製造に使用すること、および本明細書に記載の方法によって得られる組成物を原虫病原体感染症の治療のために患者に投与することを含んでなる方法を提供する。
【0106】
原虫病原体は上述されている。原虫病原体の感染に関連する疾患には、マラリア、トキソプラズマ、クリプトスポリジウム症、Isospora belliもしくはCyclospora cayetanis感染に伴う下痢、およびアイメリア属の感染に伴うさまざまな家畜疾患がある。
【0107】
それが、個体に与えられるべき本発明のポリペプチド、抗体、ペプチド、アンチセンス、センスもしくはsiRNA核酸分子、小分子、ミメティック、または他の製薬上有用な化合物のいずれであろうと、投与は「予防上有効な量」または「治療上有効な量」として行うことが好ましく(場合によっては、予防は治療と見なすことができるが)、これは個体に対して有益性を示すのに十分な量である。実際の投与量、ならびに投与の回数および時間経過は、投与を受けるべき対象の本性および重症度によって決まることになる。治療の指示、たとえば投薬量の決定などは、一般開業医および他の医師の責任の範囲内である。
【0108】
組成物は、治療すべき状態に応じて、単独で投与してもよいし、他の治療薬と併用して、同時にもしくは順次投与してもよい。
【0109】
本発明の医薬組成物、および本発明にしたがって使用するための医薬組成物は、活性成分の他に、製薬上許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、または他の当業者によく知られた物質を包含することができる。こうした物質は無毒でなければならず、活性成分の効力を妨害すべきではない。担体もしくは他の物質の正確な性質は、投与経路に依存するが、投与経路は経口または注射、たとえば皮膚、皮下もしくは静脈内、によるものとすることができる。
【0110】
経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤もしくは液剤の形態をとることができる。錠剤はゼラチンのような固体の担体もしくはアジュバントを包含することができる。液体医薬組成物は一般に、水、石油、動物油もしくは植物油、鉱油または合成油を含む。生理的食塩溶液、ブドウ糖もしくは他の糖類溶液、またはグリコール類、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールを含めることができる。
【0111】
静脈内、皮膚もしくは皮下注射、または患部への注入のために、活性成分は、発熱物質を含まず、適当なpH、等張性および安定性を有する、非経口的に許容される水性溶液の形をとることができる。当業者が、たとえば注射用食塩水、リンゲル液、乳酸加リンゲル液といった等張溶媒を使用して適当な溶液を調製することは十分可能である。防腐剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、および/または他の添加剤を必要に応じて含むことができる。
【0112】
リポソーム、特にカチオン性リポソームを担体製剤として使用することができる。
【0113】
上記の技法およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed), 1980に見出すことができる。
【0114】
本発明の別の態様は、下記を含んでなる、原虫Rhomboidポリペプチドを同定する方法を提供する:
(a) 試験Rhomboidポリペプチドを用意すること、
(b) 基質ポリペプチドが通常、タンパク質分解によって切断される条件の下で、基質ポリペプチドと試験Rhomboidポリペプチドを接触させること、および
(c) 前記基質ポリペプチドの切断を判定すること。
【0115】
適当な試験Rhomboidポリペプチドは、表1に示す核酸配列によってコードされたアミノ酸配列を含むことができる。上記のバイオインフォマティクス技法を用いたデータベースのスクリーニング、特に原虫核酸配列のデータベースのスクリーニングにより、他の適当な試験Rhomboidポリペプチドを同定することができる。
【0116】
適当な基質ポリペプチドは、原虫接着ミクロネームポリペプチドを包含する。適当な接着ミクロネームポリペプチドは、トロンボスポンジン関連アノニマスタンパク質(TRAP)ファミリーに属すると考えられる。適当なポリペプチドの例としては、AMA1, MIC2, MIC6, MIC8, MIC12, (T. gondii由来), TRAP, CTRP (熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)およびP. berghei由来), MIC1 and MIC4 (ニワトリ盲腸コクシジウム(E. tenella)由来)または膜貫通ドメインを含んでなるそれらの断片が挙げられる。特に、CTRPおよび/またはAMA1を使用することができる。
【0117】
本発明の他の態様は原虫Rhomboidポリペプチドおよび、それをコードする核酸に関するものである。
【0118】
本発明のある態様は、タンパク質分解によって接着ミクロネームポリペプチドの膜貫通ドメインを切断する原虫Rhomboidポリペプチドを提供するものである。
【0119】
このようなポリペプチドは、表1に示す核酸配列によってコードされる配列を有することができる(たとえば、Pf Rho1-7)が、あるいは、全長原虫Rhomboidポリペプチドより少ない残基からなる、そういった配列の断片であってもよい。
【0120】
KDEL ER 保留配列は、天然の原虫Rhomboidポリペプチドには認められないもので、発現されたRhomboidポリペプチドが原虫細胞のミクロネームではなくER (小胞体)に留まるように指令する。下記のように、KDELのようなER 保留配列で標識されたRhomboidポリペプチドは、そうしたポリペプチドによるタンパク質分解性の切断が分泌能力の多様性に伴う潜在的な問題を回避するので、本発明の特定の実施形態において特に有用であると考えられる。
【0121】
したがって、本発明のある態様は、C末端ER保留配列を含んでなる、本明細書に記載の単離された原虫Rhomboidポリペプチドを提供する。適当な保留配列はアミノ酸配列KDELからなる。
【0122】
本発明の別の態様は、上記の原虫Rhomboidポリペプチドをコードする単離された核酸を提供する。
【0123】
コード配列は、表1に記載の核酸配列とすることができるが、前記配列の突然変異体、変異体、誘導体もしくは対立遺伝子であってもよい。その配列は次のような変化によって表1の配列とは異なることがあるが、それは、前記配列における1個または数個のヌクレオチドの付加、挿入、欠失および置換のうちの1以上の変化である。ヌクレオチド配列の変化は結果として、遺伝暗号によって決まるように、タンパク質レベルでアミノ酸の変化をもたらすことがあり、またはそうでないこともある。
【0124】
したがって、本発明の核酸は、表1に記載の配列とは異なる配列を含めることができるが、それにもかかわらず同一のアミノ酸配列をもつポリペプチドをコードすることができる。上記のように、コドン使用頻度は、哺乳動物細胞のような特定の宿主系におけるアミノ酸配列の発現を目的として、調整することができる。
【0125】
単離された核酸は、表1の核酸配列と、約10%より大きい配列同一性を共有することができるが、20%より大、30%より大、40%より大、50%より大、60%より大、約70%より大、約80%より大、約90%より大、もしくは約95%より大の配列同一性を共有することができる。
【0126】
本発明はまた、ストリンジェントな条件下で表1に記載の配列とハイブリダイズする核酸にまで及ぶものである。たとえば、80〜90%程度同一な配列に関して、好適な条件は下記を包含する;0.25M Na2HPO4、pH 7.2、6.5% SDS、10%硫酸デキストランにおいて42℃にて一晩のハイブリダイゼーション、および55℃にて0.1 x SSC、0.1% SDSで最終洗浄。約90%より同一性が高い配列については、適当な条件は、0.25M Na2HPO4、pH 7.2、6.5% SDS、10%硫酸デキストランにおいて65℃にて一晩のハイブリダイゼーション、および60℃にて0.1 x SSC、0.1% SDSによる最終洗浄を包含する。
【0127】
本発明のアッセイおよび方法に使用するために便利なポリペプチド製造法は、発現系においてそれをコードする核酸を使用することによって、その核酸を発現させることである。したがって、本発明はまた、(開示された)ポリペプチドを作製する方法を包含するが、その方法は、当該ポリペプチドをコードする核酸からの発現、およびRhomboidプロテアーゼ活性の試験を包含する。これは、ポリペプチドの発現を引き起こし、もしくは可能とする適当な条件の下で、当該ベクターを含有する宿主細胞を培養下で増殖させることによって容易に達成することができる。ポリペプチドは、網状赤血球ライセートのようなin vitro系で発現させることもできる。
【0128】
したがって、本発明のもう一つの態様は、Rhomboidポリペプチドの製造方法を提供するが、その方法は下記を含んでなる:
(a) 適当な発現系において、原虫Rhomboidポリペプチドをコードする核酸からの発現を引き起こし、組換えによって当該ポリペプチドを作製すること、
(b) 組換えによって作製された当該ポリペプチドのRhomboidプロテアーゼ活性を試験すること。
【0129】
適当な核酸配列は、本明細書に記載のように、原虫Rhomboidポリペプチドをコードする核酸配列、その突然変異体、変異体もしくは対立遺伝子を包含する。
【0130】
ポリペプチドを、たとえば、コードする核酸からの発現によって作製した後、(たとえば抗体を用いて)単離および/または精製することができる(これについては下記を参照されたい)。したがって、(天然に存在するポリペプチドであるならば)そのポリペプチドが天然の状態で結合している混入物を含まない、もしくは実質的に含まないポリペプチドが得られる。他のポリペプチドを含まない、もしくは実質的に含まないポリペプチドを提供することができる。
【0131】
組換えによって作製されたポリペプチドを単離し、かつ/または、当該ポリペプチドを基質ポリペプチドとともにインキュベートしたとき接着ミクロネームポリペプチドのような基質ポリペプチドの切断を測定することによって、作製されたポリペプチドのRhomboidプロテアーゼ活性を試験することができる。
【0132】
本明細書に記載の単離された核酸、たとえば原虫Rhomboidポリペプチドをコードする核酸は、ベクターに挿入することができる。当該ベクターはさらに、原虫接着ミクロネームタンパク質のような基質ポリペプチドをコードする核酸を包含することができる。適当なベクターを選択し、または構築することができ、このベクターは、プロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子、および必要に応じて他の配列を含む適当な制御配列を含有するものである。ベクターは必要に応じて、プラスミド、ウイルス、たとえば「ファージ」、もしくはファージミドとすることができる。さらに詳細については、たとえば、Molecular Cloning: a Laboratory Manual: 2nd edition, Sambrook et al., 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。核酸の操作に関する多くの既知の技法およびプロトコルは、たとえば核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、DNAの細胞内への導入および遺伝子発現について、より詳細に、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al. eds., John Wiley & Sons, 1992に記載されている。
【0133】
さまざまな異なる宿主細胞におけるポリペプチドのクローニングおよび発現系はよく知られている。適当な宿主細胞は、細菌、哺乳動物および酵母といった真核細胞、バキュロウイルスおよび原生動物系を包含する。異種ポリペプチドの発現のために技術的に利用可能な哺乳動物細胞株には、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、仔ハムスター腎細胞、COS細胞および他の多くの細胞がある。一般的で好ましい細菌宿主は大腸菌である。
【0134】
本発明のさらに別の態様は、KDELタグを有するRhomboidポリペプチド、もしくは全長Rhomboid配列の断片であるRhomboidポリペプチドを含めた、原虫Rhomboidポリペプチドをコードする異種核酸を含有する宿主細胞、ならびに原虫Rhomboidポリペプチドおよび基質ポリペプチド、たとえば、原虫接着ミクロネームポリペプチド、をコードする異種核酸を含有する宿主細胞を提供するものである。原虫Rhomboidポリペプチドおよび基質ポリペプチドをコードする核酸は、宿主細胞内の単一の核酸構築物もしくはベクター上にあってもよいが、これら2つのポリペプチドをコードする核酸が別々の構築物もしくはベクター上に存在してもよい。
【0135】
核酸を宿主細胞のゲノム(たとえば染色体)に組み込むことができる。組み込みは、標準的な方法にしたがって、ゲノムとの組換えを促進する配列を含めることによって促進することができる。核酸は、細胞内の染色体外ベクターに担持されていてもよい。
【0136】
宿主細胞への核酸の導入は、制限なしで「形質転換」と一般に称することができるが(特にin vitro導入については)、使用可能ないかなる技法も用いることができる。真核細胞のための適当な技法には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、リポソームによるトランスフェクション、およびレトロウイルスまたは他のウイルス、たとえばワクシニアウイルス、もしくは、昆虫細胞については、バキュロウイルスによる形質導入が挙げられる。細菌細胞については、適当な技法は、塩化カルシウム法による形質転換、エレクトロポレーションおよびバクテリオファージによるトランスフェクションを含めることができる。
【0137】
当技術分野でよく知られているように、抗生物質耐性もしくは感受性遺伝子のようなマーカー遺伝子を、目的の核酸を含有するクローンを同定するために使用することができる。
【0138】
導入に続いて、遺伝子発現のための条件下で、例えば宿主細胞(実際に形質転換された細胞を含めることができるが、形質転換細胞の子孫であることが多い)を培養することによって、核酸からの発現を引き起こし、もしくは発現を可能とし、その結果、コードされたポリペプチドが産生される。
【0139】
Rhomboidポリペプチドを宿主細胞において、原虫接着ミクロネームポリペプチドのような基質ポリペプチドと同時に発現させることができ、そのRhomboidセリンプロテアーゼ活性は、基質ポリペプチドの切断を測定することによって、測定することができる。培地中に分泌される可溶性切断産物の有無を判定することによって、切断を測定することができる。
【0140】
本発明の態様は、下記の実施例を参照して、限定ではなく例証として、ここで説明される。さらに他の態様および実施形態が、当業者には明白であると思われる。本明細書に記載のすべての文献は参考として本明細書に含めるものとする。
【0141】
図1は、アピコンプレクサ類に由来するミクロネームタンパク質の膜貫通ドメインと、ショウジョウバエSpitzおよびKerenとの配列比較を示す。いずれも、単回通過1型膜貫通タンパク質である。黒い線は推定されるTMD領域を示す:配列の上の線はミクロネームタンパク質TMDを推定する;下の線はSpitzおよびKerenのTMDを予想する。TMDに含まれるGAもしくはGGモチーフの約7残基(二重下線)およびTMDの内腔/細胞外面に近い保存された小残基(一重下線)が、SpitzのRhomboid切断に必須であって、強調されている。TMDの細胞質面にある、保存されたチロシン(Y)にも留意すべきである。これらの配列の登録番号を表2に示す。
【0142】
表1aは、Pfamモチーフ発見アルゴリズムによって、10より大きなスコアを有するとして最初に同定された、熱帯熱マラリア原虫rhomboidの例を示す。4つのアノテーションを記載する:シーケンス決定コンソーシアム アノテーション(Sanger)、加えて3つの自動遺伝子予測アルゴリズム、FullPhat、GlimmerMおよびGenefinder。染色体上のおよその位置も、Rhomboid活性部位付近の推定配列とともに提供される。Rhomboid2および5は、MitoProtまたはPredotarによって推定されたミトコンドリアターゲッティング配列の存在に基づいて、ミトコンドリアにあると予測される。これらの遺伝子は、Pfamモチーフ発見アルゴリズムによって、10より大きなスコアを有するとして予測された、公表された熱帯熱マラリア原虫ゲノム配列における真のrhomboidのもっとも信頼できる予測を表す。
【0143】
表1bは、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)rhomboid候補の例を示す(http://ParaDB.cis.upenn.edu/toxo/index.html参照)。
【0144】
表2は、アピコンプレクサ類由来のrhomboidプロテアーゼの基質の例を示す。
【実施例】
【0145】
実験
プラスモジウム属Rhomboidポリペプチドの同定
公表されたプラスモジウム属のゲノム配列は、上記のPFAMを用いて、10より高いスコアを選択した後、視覚的な精査を行ってRhomboidポリペプチドについて探索し、重要なRhomboid残基を同定した。
【0146】
PFAMを用いて、多数の推定上のRhomboidが同定された。ショウジョウバエRhomboid-1のN169、G215、S217およびH281に相当する残基(これらは触媒活性のために必要である)の存在について、上記Rhomboidをさらに分析した。ミトコンドリアRhomboidのサブクラスに含まれるものとして同定された候補も、PREDOTARアルゴリズム(www.inra.fr/predotar)またはMitoProt(Claros M., et al Eur. J. Biochem. (1996) 241 779-786)によるミトコンドリアターゲティング配列の存在の予測によって排除された。
【0147】
この方法によって同定されたRhomboidポリペプチドを表1に記載する。
【0148】
プラスモジウム属Rhomboidのクローニング
Rhomboidコード配列を、Sambrook & Russell Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001およびAusubel et al, Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, 1992に記載のプロトコルを用いて、PCRによってプラスモジウム属cDNAから増幅した。増幅された配列をその後、pcDNA3.1 (Invitrogen)に挿入した。
【0149】
哺乳動物培養細胞株での発現を最適化するように、コドン使用頻度をKocken et al (2002) Infect Immun 70(8) 4471-4476に記載のように調整して、Pf Rho 1、3、4および7遺伝子を再合成した。
【0150】
COS細胞でのPf rhomboid -1、-3および-7の発現が認められた。
【0151】
プラスモジウム属の接着ミクロネームタンパク質のクローニング
プラスモジウム属の接着ミクロネームタンパク質Ama-1およびCTRPを増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーを、従来のプライマーデザインソフトウェアを用いて、公表された配列に基づいて設計した。
【0152】
標準的な技法にしたがって、PCRを用いてコード配列を増幅し、細胞培養下で発現させるために標準的な哺乳動物発現ベクターにクローニングした。コード配列は、検出を容易にするためにトリプルHAタグを組み込んだ。発現は、市販の抗HA抗体(Roche)を用いて、従来のウェスタンブロッティング法によって検出した。
【0153】
プラスモジウム属Rhomboid活性
Urban et al Cell (2001) 107(2): 173-82 および WO02/093177に記載の公表された方法を用いて、プラスモジウム属rhomboid活性を測定した。
【0154】
簡単に述べると、下記のようにCMVプロモーター制御下で、Pf rhomboid-1および-3を、GFPタグを付したSpitzと同時に発現させた; COS細胞をDMEM培地(10%ウシ胎仔血清添加)で増殖させ、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いてトランスフェクトした。
【0155】
35 mm培養ウェル中で細胞を、25〜250ngの(a)ベクターpcDNA 3.1+(Invitrogen)に挿入されたPf-rhomboid-1もしくは-3のコード配列を含んでなるrhomboid構築物、および(b)pcDNA 3.1+(Invitrogen)に挿入されたGFP-Spitzコード配列を含んでなる基質構築物を用いてコトランスフェクトした。
【0156】
挿入物のない元のプラスミドを用いて、ウェル当たりの総DNAを1μgとなるようにした。
【0157】
基質の内因的切断のための対照として、構築物(a)の不在下で構築物(b)をCOS細胞内にトランスフェクトした。
【0158】
トランスフェクションの24〜30時間後、培地を無血清培地と交換した;これを24時間後に回収して、細胞をSDSサンプルバッファー中で溶解させた。
【0159】
一部の実験のために、無血清培地にメタロプロテアーゼ阻害剤batimastat(British Biotech)またはilomostat(Calbiochem)を加えて、アッセイにおける内因性の基質切断を最小限となるようにした。阻害剤アッセイの場合は、試験化合物を無血清培地に含めることができる。
【0160】
抗GFP抗体(Santa Cruz Biologicals)を用いて、標準的なウェスタンブロッティング法により、培地中のGFPタグ付きSpitzの細胞外ドメインの蓄積を検出することによって、Spitz切断をアッセイした。
【0161】
また、C末端にタグを付した形のSpitzを用いて、並行して実験を行った。C末端タグ付きSpitzの切断は、細胞抽出物のウェスタンブロットで細胞内の切断生成物を検出することによってアッセイした。
【0162】
Pf rhomboid-1および-3がいずれもSpitzの特異的な切断を示すことが観察されたが、この切断はbatimastatにより阻害されなかった。batimastatは、細胞表面タンパク質の非特異的分断を引き起こしうるメタロプロテアーゼの強力な阻害剤である。これらの結果は、Pf rhomboid-1および-3がいずれも「Spitz様」TMDを認識することができる活性rhomboidプロテアーゼであることを示す。
【0163】
Pf接着タンパク質Ama-1の切断
哺乳動物のコドン使用頻度の特徴にしたがってPf接着タンパク質Ama-1をコード化し直して、哺乳動物細胞での発現を可能にした。
【0164】
ショウジョウバエRhomboid-1によるAma-1の切断は、上記の方法によって測定した。簡単に述べると、Ama-1およびショウジョウバエRhomboid-1を、上記のようにCOS細胞において、いずれの構築物についてもCMVプロモーターを用いて同時に発現させた。抗Ama-1抗体を用いた標準的なウェスタンブロッティング法を用いて、切断されたAma-1の細胞外ドメインのCOS細胞培地中での蓄積を検出した。
【0165】
ショウジョウバエRhomboid-1によるAma-1の効率的な切断が観察された。この切断はBatimastatに対して感受性ではなかった。このことは、Ama-1がRhomboidにより切断可能なTMDを有することを示す。
【0166】
Pf 接着タンパク質CTRPの切断
ショウジョウバエRhomboid-1によるCTRP TMDの切断も、上記の方法を用いて測定した。
【0167】
簡単に述べると、ショウジョウバエRhomboid-1を、上記のようにCOS細胞において、(N末端からC末端の順に)Spitzのシグナルペプチド、次にGFP、続いてPf CTRP膜貫通ドメイン、次にTGFアルファの細胞質ドメインを含んでなるキメラタンパク質(すなわち、異種由来の細胞外および細胞質ドメインを有するCTRP TMD)と同時に発現させた。いずれの構築物を発現させるのにもCMVプロモーターを用いた。
【0168】
上記の標準的な技法によって、CTRP TMDの切断をアッセイした。CTRP TMDがRhomboidタンパク質によって切断されるならば、トランスフェクトされた細胞の培地中にGFPが、Batimastat非感受性の様式で、蓄積する。つぎに、蓄積されたGFPを、上記のように抗GFP抗体(Santa Cruz Biologicals)を用いて検出する。
【0169】
Pf接着タンパク質CTRP由来のTMDがショウジョウバエRhomboid-1によって効率よく切断されることが認められた。
【0170】
プラスモジウム属におけるRhomboidの発現
それぞれの熱帯熱マラリア原虫Rhomboidに特異的な増幅プライマーのペアを、従来のプライマーデザインソフトウェアを用いて設計した。標準的な技法を用いて熱帯熱マラリア原虫の赤内型から単離されたRNAから調製されたcDNAについてPCRを行って、プラスモジウム属Rhomboidタンパク質の発現を解析した。
【0171】
Rhomboid-1、-3、-4および-6はすべて、赤内型マラリア原虫において発現が認められる。
【0172】
したがって、プラスモジウム属Rhomboidは、寄生生活環の赤血球侵入段階に存在し、この侵入を媒介する上で重要な役割を果たしている可能性がある。
【0173】
寄生原虫の感染力におけるRhomboidのin vivoでの役割
Rhomboidタンパク質候補がノックアウトされた熱帯熱マラリア原虫の変異株を作製する。次に変異型原虫の感染性を判定する。
【0174】
標準的な標的遺伝子破壊(Sultan et al Cell 90 511)、またはもっと簡便には、下記のようにRNA干渉(RNAi)によって、ノックアウトを行う。
【0175】
線状プラスミド鋳型5μgからのin vitro転写によって、メーカーの説明書にしたがって、それぞれのRhomboid遺伝子候補に相当するRNA 100μgを合成する(Promega Ribomax system)。その結果得られたRNAをRNeasy プロトコル(Qiagen)を用いて精製し、煮沸して変性させ、1mM Tris-HCl pH7.4, 1mM EDTA中で一晩アニールする。得られたdsRNAを、次に、熱帯熱マラリア原虫スポロゾイトの培養物に加える(Malhotra et al Mol. Microb. 45 1245-1254)。
【0176】
野生型対照と比較した、ノックアウト寄生原虫の感染力もしくは滑走(gliding)行動の低下から、Rhomboidが感染プロセスを制御することが確認される。
【0177】
接着ミクロネームタンパク質のタンパク質分解の減少も、rhomboid変異型(もしくはRNAi)細胞において、抗TRAP抗体を用いたウェスタンブロッティングにより切断産物の生成を測定することによって立証することができる(Sharma et al Infection & Immunity 64 2172-2179, Gantt et al Infection & Immunity 68 3667-3673)。
【表1】

【0178】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】アピコンプレクサ類に由来するミクロネームタンパク質の膜貫通ドメインと、ショウジョウバエSpitzおよびKerenとの配列比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原虫病原体の感染性を抑制する化合物の同定および/または取得方法であって、
(a)単離されたRhomboidポリペプチドおよび単離された基質ポリペプチドを試験化合物の存在下で接触させること、および
(b)基質ポリペプチドのタンパク質分解性切断を測定すること、
を含んでなる前記方法。
【請求項2】
原虫病原体がアピコンプレクサ類の病原体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アピコンプレクサ類の病原体が、プラスモジウム属(Plasmodium)、トキソプラズマ属(Toxoplasma)、アイメリア属(Eimeria)、サルコシスティス属(Sarcocystis)、シクロスポラ属(Cyclospora)、イソスポラ属(Isospora)、クリプトスポリジウム属(Cryptosporidium)、バベシア属(Babesia)およびタイレリア属(Theileria)からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Rhomboidポリペプチドが原虫Rhomboidタンパク質である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
Rhomboidポリペプチドが表1に示す核酸配列によってコードされる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
基質ポリペプチドが内腔ドメインおよびTMDを含んでなり、このTMDが、ショウジョウバエSpitz配列の残基138-144(ASIASGA)を1つ以上含む内腔ドメイン近接領域を有する、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
基質ポリペプチドがTMDおよび内腔ドメインを含んでなり、このTMDが、ショウジョウバエSpitzの残基138-144の配列を有する内腔ドメイン近接領域を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
基質ポリペプチドが接着ミクロネームポリペプチドである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
基質ポリペプチドが表2に示す核酸配列によってコードされる、請求項8に記載のアッセイ法。
【請求項10】
基質ポリペプチドがAma-1またはCTRPである、請求項9に記載のアッセイ法。
【請求項11】
基質ポリペプチドおよびRhomboidポリペプチドがER(小胞体)保留シグナルを含んでなる、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
小胞体保留シグナルがKDELもしくはKKXXである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
基質ポリペプチドが、検出可能な標識を有する細胞外ドメインを含んでなる、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
検出可能な標識がGFPである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Rhomboidポリペプチドおよび前記基質ポリペプチドが宿主細胞において異種核酸から発現される、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
さらに次のステップ:
(c)単離されたヒトRhomboidポリペプチドおよび基質ポリペプチドを試験化合物の存在下で接触させること、および
(d)ヒトRhomboidポリペプチドによる基質ポリペプチドのタンパク質分解性切断を測定すること、
を含んでなる、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
接着ミクロネームポリペプチド切断のモジュレーターとして、前記試験化合物を同定することを含んでなる、請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
原虫病原体の侵入性を阻止する前記試験化合物の能力を測定することをさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記試験化合物を単離することを含んでなる、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
試験化合物を合成することを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
薬理学的特性が最適となるように、試験化合物を修飾することを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記試験化合物を、製薬上許容される添加剤、賦形剤もしくは担体とともに医薬組成物として製剤化することを含んでなる、請求項17〜21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法によって得られた、原虫病原体の感染性をモジュレートする化合物。
【請求項24】
原虫Rhomboidポリペプチドのペプチド断片を含んでなる、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法を用いて、原虫病原体の感染性を抑制する化合物を同定すること、および
そのようにして同定された化合物を製薬上許容される担体と混合すること、
を含んでなる医薬組成物の製造方法。
【請求項26】
薬剤特性が最適となるように前記化合物を修飾するステップを含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
原虫病原体感染症を治療するための医薬組成物の調製方法であって、
i)Rhomboidポリペプチドのタンパク質分解活性をモジュレートする化合物を同定すること、
ii)同定された化合物を合成すること、および
iii)その化合物を医薬組成物に組み込むこと、
を含んでなる前記方法。
【請求項28】
請求項23または24に記載の化合物を含んでなる、医薬組成物。
【請求項29】
原虫病原体感染症の治療用組成物の製造における、請求項23または24に記載の化合物の使用。
【請求項30】
原虫病原体感染症を治療するために、請求項23または24に記載の化合物を患者に投与することを含んでなる方法。
【請求項31】
原虫病原体が、プラスモジウム属(Plasmodium)、バベシア属(Babesia)、タイレリア属(Theileria)、トキソプラズマ属(Toxoplasma)、アイメリア属(Eimeria)、サルコシスティス属(Sarcocystis)、シクロスポラ属(Cyclospora)、イソスポラ属(Isospora)、およびクリプトスポリジウム属(Cryptosporidium)からなる群から選択されるアピコンプレクサ類の病原体である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
(a)原虫の試験Rhomboidポリペプチドを用意すること、
(b)基質ポリペプチドが通常、タンパク質分解によって切断される条件下で、基質ポリペプチドと試験Rhomboidポリペプチドを接触させること、および
(c)基質ポリペプチドの切断を測定すること、
を含んでなる、原虫Rhomboidポリペプチドの同定方法。
【請求項33】
試験Rhomboidポリペプチドが表1に示す核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
基質ポリペプチドが、Spitz、Gurken、Keren、Ama-1もしくはCTRPのTMDの内腔領域を含んでなる、請求項32もしくは33に記載の方法。
【請求項35】
基質ポリペプチドが表2に示す核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含んでなる、請求項32〜34のいずれか1つに記載の方法。
【請求項36】
基質ポリペプチドがAma-1もしくはCTRPである、請求項35に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−504423(P2006−504423A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547811(P2004−547811)
【出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004711
【国際公開番号】WO2004/040009
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】