説明

厨房廃水の処理装置

【課題】屋内に設置される場合でも、厨房廃水から分離した油分の滞留時間を確保でき、効率的に厨房廃水に含まれる油分を分解可能な厨房廃水の処理装置を提供する。
【解決手段】厨房廃水の処理装置は1、厨房廃水が流入する浄化槽30と、浄化槽30内を上流から下流にかけて、厨房廃水が流入する第1の領域32と、厨房廃水中の油分を分離させて分解する第2の領域33と、処理された浄化水が流入する第3の領域34とに分ける2枚の堰板31a、31cと、第2の領域33の表層部に配置され、油分を分解する化学処理剤が配置される容器50と、容器50内を攪拌する攪拌装置とを備える。容器50は上部に油分を容器50内部へ流入させる孔を有する有孔壁と下部に油分の流出を塞ぐ無孔壁から構成される底部とを有する。容器50は有孔壁の孔が厨房廃水の水面を横切るように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、厨房廃水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レストラン等の飲食店舗から排出される厨房廃水には油分が含まれており、環境悪化を抑えるため、厨房廃水を浄化してから下水道に放流する必要がある。このため、厨房内或いは厨房の外に、厨房廃水を浄化する処理装置として所謂グリストラップが設置されている。
【0003】
一般的なグリストラップでは、油分を含む廃水を油分離槽に導き、廃水から比重の小さい油分を浮き上がらせて分離する。そして、油分離槽の水面に溜まった油分を定期的に回収して廃棄処理している。
【0004】
更に、分離した油分をグリストラップ内で分解する装置についても種々開発されている。例えば、特許文献1では、グリストラップの上部位置に微生物フィルターを配置し、この微生物フィルター内で油分を分解している。微生物フィルターには、微生物を担持させた微生物担持体と曝気のためのエアレーションパイプが設置されており、微生物フィルター内を好気性雰囲気下に維持することで、微生物による油分の分解を促している。この微生物フィルターは上面が開口し、底に孔が形成された筺体であり、上部開口部から廃水を流入させ、底面の孔から処理した水を排出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−18460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている厨房廃水の処理装置では、微生物フィルターの上部開口部から廃水を流入させ、底面の孔から処理した水を排出している。この水の流れに伴って、油分も微生物フィルターから排出されるおそれがある。微生物フィルター内での油分の滞留時間を確保できず、油分の分解が不十分なまま処理した水が下水道に放流されてしまうおそれがある。
【0007】
また、微生物による油分の分解速度は遅いという難点がある。特に屋内設置されるグリストラップ等の処理装置は小型であり、廃水の貯留量が制限されるので、油分を滞留させる時間が短くなりやすく、油分が十分に分解される前に排水されるおそれがある。
【0008】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、屋内に設置される場合でも、厨房廃水から分離した油分の滞留時間を確保でき、効率的に厨房廃水に含まれる油分を分解可能な厨房廃水の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る厨房廃水の処理装置は、
厨房廃水の発生源から厨房廃水導入流路を介して厨房廃水が流入する浄化槽と、
前記浄化槽内を上流から下流にかけて、前記厨房廃水が流入する第1の領域と、前記厨房廃水に含まれる油分を分離させて分解する第2の領域と、処理された浄化水が流入する第3の領域とに分ける2枚の堰板と、
前記第2の領域の表層部に配置され、油分を分解する化学処理剤が配置される容器と、
前記容器内を攪拌する攪拌手段と、を備え、
前記容器は上部に前記油分を通過させて前記容器内部へ流入させる孔を有する有孔壁と下部に前記油分の流出を塞ぐ無孔壁から構成される底部とを有し、
前記容器は前記孔が前記厨房廃水の水面を横切るように配置される、
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記容器内の水平断面が円形状であり、前記攪拌手段が前記容器内に旋回流を生じさせてもよい。
【0011】
また、前記化学処理剤として食用油から得られた廃油石けんが配置されていてもよい。
【0012】
また、油分を分解する微生物が担持された油分解物質担持体が前記容器内に配置されていてもよい。
【0013】
また、油分を分解可能な微生物及び酵素の少なくとも一方を含有する油分解溶液を前記厨房廃水導入流路に供給する油分解溶液供給装置を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る厨房廃水の処理装置は、油分を分解する第2の領域に、上部に孔を有する有孔壁で構成されるとともに下部が無孔壁で構成された容器が配置され、容器内に化学処理剤及び攪拌装置が配置されている。厨房廃水から分離し表層へ上昇した油分は有孔壁を通過して容器内に流入し、容器内にて化学処理剤の作用により分解される。油分を分解するための十分な滞留時間を確保でき、効率的に厨房廃水中の油分を分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】厨房廃水の処理装置の概略構成図である。
【図2】容器の斜視図である。
【図3】容器の平面図である。
【図4】図3のA−A’断面図である。
【図5】図4のB−B’断面を見た攪拌による容器内の流れの様子を示す模式図である。
【図6】図3のA−A’断面を見た攪拌による容器内の流れの様子を示す模式図である。
【図7】他の形態に係る厨房廃水の処理装置の部分構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しつつ、本実施の形態に係る厨房廃水の処理装置の構成、並びに、浄化処理について説明する。本実施の形態に係る厨房廃水の処理装置1は、図1に示すように、厨房廃水の発生源10から厨房廃水導入流路20を経て厨房廃水が導入される浄化槽30と、浄化槽30内に配置された堰板31a〜31cと、容器50と、容器50内に配置された攪拌装置54と、容器50内に配置される化学処理剤55とから構成される。
【0017】
なお、本明細書中において、厨房廃水を単に廃水とも記す。また、油分が含有する水を厨房廃水と記し、廃水から油分が分離され浄化された水を排水と記す。
【0018】
厨房廃水の発生源10は、食器洗浄機やシンク等、厨房において油分を含有する厨房廃水を排出する設備である。
【0019】
厨房廃水導入流路20は発生源10から排出された厨房廃水が流れるU字溝等である。
【0020】
浄化槽30は流入した厨房廃水を排水と油分とに分離させるとともに、油分を分解し浄化する槽である。浄化槽30には上流から下流にかけて浄化槽30内を第1の領域32、第2の領域33、第3の領域34に分ける堰板31a、31bが配置されている。第1の領域32は、生ゴミ等が分離された厨房廃水が流入する槽である。また、第2の領域33は、厨房廃水から油分を分離させ分解する槽である。また、第3の領域34は、排水を貯留する槽である。
【0021】
堰板31a、31bは浄化槽30の底面まで達しておらず、厨房廃水は堰板31a、31bの下方を流れて移動するよう構成されている。また、第2の領域33には、浄化槽30の底面から容器50付近にかけて、堰板31cが立設して配置されている。
【0022】
第1の領域32、即ち、厨房廃水が浄化槽30に流入してくる箇所に、厨房廃水とともに流れてくる生ゴミ等の固形物を捕捉するための網籠40が配置されている。
【0023】
第2の領域33の表層部には、容器50が配置されている。容器50は図2〜図4に示すように、外側有孔壁51、内側有孔壁52、底部53から構成される。
【0024】
外側有孔壁51は略矩形の筒状であり、外側有孔壁51の下部は底部53に接続されている。底部53は有底円筒状をしており、孔が設けられていない無孔壁から構成される。内側有孔壁52は略円筒状であり、周囲を外側有孔壁51に取り囲まれて配置されている。内側有孔壁52の下部は、下方に向けて末広がり状をしており、端部に環状のフランジ部を有する。そして、フランジ部52bが外側有孔壁51と底部53との接続部分に接続されている。
【0025】
上記の構成により、外側有孔壁51と内側有孔壁52とで形成される領域には化学処理剤55が配置される処理剤領域56が形成されている。また、内側有孔壁52と底部53で囲まれる領域に油分を分解する分解領域57が形成されている。この分解領域57の水平断面は円形状である。
【0026】
外側有孔壁51の上部には、複数のスリット状の孔51aを有する。また、内側有孔壁52の上部にも、複数のスリット状の孔52aを有する。外側有孔壁51、内側有孔壁52は、複数の円形や矩形等の孔が形成された板や網等、油分が通過可能であれば特に制限されることはない。また、内側有孔壁52のフランジ部52bにも複数の孔52cを有する。
【0027】
容器50は図1に示すように外側有孔壁51の孔51a及び内側有孔壁52の孔52aが厨房廃水の水面を横切るようにして、第2の領域33の表層部に設置される。
【0028】
容器50内の底部53には攪拌装置54が配置されている。攪拌装置54は、容器50内を攪拌し、廃水に溶解する化学処理剤55と廃水から分離した油分との接触効率を高め、油分の分解を促進させる。
【0029】
攪拌装置54は、容器50内を攪拌し得るものであれば、特に制限はないが、水中ポンプであることが好ましい。水中ポンプは、分解領域57内の水を吸引し、噴出する。水中ポンプは、円筒状の容器50の接線方向に液体を噴出し、容器50の内壁に沿って旋回流が生じるよう設置されていることが好ましい。容器50内部に旋回流が生じ、この旋回流に伴って分解領域57の外周側では上昇流が生じ、また、分解領域57の中心軸では下降流が生じる。これにより、油分と溶解した化学処理剤55との接触効率が向上し、油分の分解効率が高まる。
【0030】
処理剤領域56に配置される化学処理剤55は、化学的に油分の分解が可能なものであれば特に制限はなく、高級脂肪酸塩である所謂石けんが用いられる。石けんとして、廃油石けんであることが好ましい。廃油石けんは、通常の石けん等に比べ泡立ちが少ないので、泡が容器50の上から溢れ難く、また、浄化槽30が泡で満たされてしまうこともない。また、廃油を再利用するものゆえ、有限である資源の有効活用にも資する。
【0031】
廃油石けんとして、食用油の廃油から得られる廃油石けんであることがより好ましい。厨房排水から排出される油分は、主に食用油ベースであるので、同種の食用油から得られた廃油石けんが馴染みやすく、油分の分解効率が高い。廃油石けんは、例えば、廃油を苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)でけん化し、固化させて得られたものなど、特に限定されることはない。
【0032】
浄化槽30の第3の領域34には、第2の領域33で油分が浄化された排水を排出するための浄化水導出流路60が設けられている。
【0033】
続いて、浄化処理について説明する。
【0034】
まず、厨房廃水の発生源10から排出された厨房廃水は、厨房廃水導入流路20を通って浄化槽30に流入する。
【0035】
流入した厨房廃水は、浄化槽30の第1の領域32に配置された網籠40に生ゴミ等の固形物が捕捉された後、堰板31aの下方を通過して第2の領域33に流入する。
【0036】
第2の領域33に流入した厨房廃水は、浄化槽30の底から立設された堰板31cによって流れが上向きに変えられるとともに、水よりも比重の小さい油分は第2の領域33の表層部へと上昇してゆく。そして、外側有孔壁51の孔51a及び内側有孔壁52の孔52aを通過して容器50の分解領域57に流入する。
【0037】
分解領域57に流入した油分は、以下に記すように、廃水に徐々に溶解する化学処理剤55と攪拌され分解される。
【0038】
容器50内における攪拌の様子を図5、図6を参照し、より詳細に説明する。攪拌装置54として水中ポンプを用いた場合、水中ポンプは、円形状の容器50の底部53に設置され、円形状の容器50の接線方向に水を噴出しているので、図5中の矢印に示すように、容器50内には旋回流が生じる。
【0039】
そして、容器50の底部53には、孔がないので、液流は内側有孔壁52の内壁に沿って旋回しつつ、上昇する。この際、内側有孔壁52の下部は上方に向けて直径が除々に小さくなっていること、また、旋回流の中心軸が負圧になることから、表層へと上昇しつつ、旋回流の中心軸方向へと向かい、そして、表層へと上昇した液流は、旋回流の中心軸を下降するように流れる。
【0040】
また、内側有孔壁52の下部のフランジ部52bには孔52cが設けられているため、一部の廃水はこの孔52cを通過し、分解領域57から処理剤領域56へと進入する。そして、比重の小さい未分解の油分は、上述の旋回流の中心軸への流れに吸引されるように、再度孔52aを通過して分解領域57に流入していく。また、この流れによって化学処理剤55も廃水中に徐々に溶解し、分解領域57に流入していく。
【0041】
容器50内では、攪拌によって上述の流れが生じるので、攪拌により油分と溶解した化学処理剤55との接触効率が高く、効率的に油分が分解される。なお、浄化された排水は、外側有孔壁51の孔51aを通過し容器50の外へと流出されていく。
【0042】
容器50の底部53は、流入した油分及び溶解した化学処理剤55が流出する孔がない無孔壁であるため、容器50内に流入した油分が容器50の底部53から流出することがなく、また、上述のように、未分解の油分が孔52cを通過しても、再び孔52aを通過して分解領域57へ流入するので、油分が十分に分解されるまで容器50内に滞留される。
【0043】
また、化学処理剤55が、攪拌装置54が設置される分解領域57に配置されず、分解領域57の外側に隔てられて設置される処理剤領域56に配置されている。このため、分解領域57における攪拌で化学処理剤55が急激に溶解されることはなく、処理剤領域56にて徐々に溶解し、分解領域57に流入して油分の分解に資する。化学処理剤55が無駄に消費されず、長時間に渡り分解作用を維持させることができ、効率的に化学処理剤55が使用される。したがって、化学処理剤55に要するランニングコストの低減も実現し得る。
【0044】
以上のように、油分が分離し、堰板31bの下方を通過して第3の領域34に流入した排水は、浄化水導出流路60を経由して下水道へ排出される。
【0045】
厨房内に設置できるグリストラップは、屋外に設置されるグリストラップに比べて小型であり、特に浄化槽の深さが浅い。特に、建物の2階以上に厨房がある場合、厨房に設置されるグリストラップは、槽の深さが30cm程度と非常に浅く、更に、滞留させられる排水の嵩高さは20cm程度である。このような小型で槽の浅いグリストラップの場合では、油分が十分に分解するまで滞留させることが困難である。しかしながら、本実施の形態に係る処理装置1では、油分を容器50内に十分な時間滞留させて分解できるので、厨房内に設置される場合に特に有効である。また、化学処理剤55が泡立ちの少ない廃油石けんである場合、小型のグリストラップに適用しても、浄化槽30が泡で満たされて溢れてしまうおそれもない。
【0046】
上記では容器50について具体的な形態を例にとり説明したが、これに限定されるものではない。内部に化学処理剤及び攪拌装置が配置でき、上部に油分が通過可能な孔を有する有孔壁から構成され、底部が無孔壁から構成され、油分が通過可能な孔が水面を横切って設置されて分離した油分を分解可能な形態であれば、容器50の形状等は制限されるものではない。例えば、容器50は、処理剤領域56と分解領域57とが区分けされていない形態でもよい。また、容器50内の水平断面(処理剤領域56と分解領域57が区分けされている場合では少なくとも分解領域57の水平断面)は、一定の旋回流が生じるよう真円形状であることが好ましい。
【0047】
また、攪拌装置54として水中ポンプを用いた例について説明したが、これに限定されず、容器50内に上述した旋回流を生じさせ得る装置であればよい。例えば、容器50内に攪拌子や攪拌翼等が配置され、この攪拌子等をモータ等で回転運動させることで攪拌し、容器50内に旋回流及び対流を生じさせる形態でもよい。また、吸引用ホース及び吐出用ホースを備える外部ポンプを用い、吸引用ホース及び吐出用ホースの先端を容器50内に設置し、吸引用ホースから吸引して吐出用ホースから吐出し旋回流を生じさせる形態でもよい。
【0048】
また、容器50の中に、油分を分解可能な微生物が担持された微生物担持体が配置されていてもよい。微生物担持体は、処理剤領域56に配置されていることが好ましい。微生物担持体から微生物が廃水中に分散し、浄化された排水とともに、浄化水導出流路60へと流れる。浄化水導出流路60や浄化水導出流路60の後流に接続される配管等の内壁へ付着した油分の分解或いは雑菌の繁殖の抑制等の作用を発揮する。これにより、浄化水導出流路60や配管等の内壁をきれいに保つことができる。また、微生物は分解領域57にて油分の分解にも資する。
【0049】
用いる微生物として、光合成細菌であることが好ましい。光合成細菌は安全性の高い菌であるため、下水に放流されたとしても環境問題を引き起こすおそれはないからである。
【0050】
また、厨房廃水は45℃以上の高温廃水である場合があるので、このような高温域でも生存可能な光合成細菌を用いることが好ましい。45℃以上でも生存でき、油分を分解可能な菌として、Rhodobacter sphaeroides NATが挙げられる。
【0051】
また、微生物担持体の担体は、水に可溶な材料であることが好ましい。例えば、微生物担持体として、アルギン酸塩を担体に用いて光合成細菌を固定化したアルギン酸ビーズが挙げられる。担体として無機物質を用いた場合、無機物質は水に不溶で形状が変わらず、また、微生物は視認できないため、長時間用いた場合に担体に微生物が担持されているか否か分からない。アルギン酸ビーズの場合、アルギン酸は徐々に水に溶解し消失するので、アルギン酸ビーズの消失度合いを視認することで容易に微生物が存在しているか否かを判断できる。アルギン酸ビーズの消失度合いにより、適宜アルギン酸ビーズを容器50内に補充することで、滞りなく廃水中に微生物を介在させることができる。
【0052】
また、微生物担持体のほか、油分を分解可能な酵素を担持した酵素担持体を用いてもよい。微生物は産生した酵素を放出し、この酵素によって油分が分解されるためである。用いる酵素として、脂質を構成するエステル結合を分解するリパーゼが挙げられ、例えば、上記Rhodobacter sphaeroides NATが産生するトリアシルグリセリドリパーゼを用いるとよい。
【0053】
また、酵素担持体及び微生物担持体を混合して用いても、いずれか一方だけを用いてもよい。更に、酵素及び微生物を担持させたものを用いてもよい。
【0054】
また、図7に示すように、厨房廃水導入流路20に油分解溶液供給装置70が備えられていてもよい。厨房における自動食器洗浄機等の厨房廃水の発生源10から浄化槽30までの厨房廃水導入流路20は、鉄製グレーチングを被覆したコンクリート製溝であることが多く、溝内壁に油分が付着し雑菌が繁殖しやすい。油分解溶液供給装置70から厨房廃水導入流路20に液状の分解菌を流すことによって、厨房廃水導入流路20の内壁に付着した油分を分解し、雑菌の繁殖を抑制することができる。これにより、厨房廃水導入流路20の浄化も行え、厨房廃水導入流路20からの悪臭等を抑制でき、また、厨房廃水導入流路20を清掃する回数も低減することができる。
【0055】
ここで、油分解溶液とは、油分を分解可能な微生物及び/又は酵素が介在する液体であり、例えば、微生物を培養した培養液等が用いられる。微生物の一例として、上述した光合成細菌であるRhodobacter sphaeroides NATが挙げられ、このRhodobacter sphaeroides NATを培養した培養液が油分解溶液として用いられる。また、酵素としては脂質を構成するエステル結合を分解するリパーゼが挙げられる。具体的なリパーゼとして、Rhodobacter sphaeroides NATが産生するトリアシルグリセリドリパーゼが挙げられる。
【0056】
油分解溶液は常時供給する形態であっても、排出される厨房廃水の量や頻度に合わせ、間歇的に一定量ずつ供給する形態であってもよい。
【0057】
また、油分解溶液供給装置70は、油分解溶液が充填されたタンクから、その自重により落下させて供給する形態でも、ポンプ等を用いて強制的に供給する形態であってもよい。
【0058】
油分解溶液が充填されたタンク内で、微生物や酵素が沈殿する場合、例えば、微生物を培養した培養液を水で希釈して用いる場合、タンク内に攪拌装置を設けるとよい。微生物や酵素の濃度が一定の油分解溶液を供給することができる。
【0059】
また、油分解溶液供給装置70は、厨房廃水導入流路20の上流側や厨房廃水の発生源10の出口付近に配置されることが好ましい。
【実施例1】
【0060】
(化学処理剤による油分の分解実験)
1Lビーカに水道水(500mL)、油分としてサラダ油(2.0g)、及び、直径24mmの球状の化学処理剤(4個)を入れて試験試料を調製し、1時間撹拌した。その後、上層をメスシリンダに回収して、未分解の油分量を測定した。
【0061】
なお、化学処理剤として、以下のようにして製造した廃油石けんを用いた。容器に苛性ソーダ500gを入れ、発酵液を少しずつ添加して5〜6分かき混ぜ、苛性ソーダを溶解した。続いて、食用廃油3Lを注ぎ、30分程度かき混ぜた。これをボール成型用の容器に入れ、常温で放置して固めることで廃油石けんを得た。なお、凡そ1ヶ月放置したものを用いた。
【0062】
また、1Lビーカに水道水500mLとサラダ油2gを入れてコントロール試料を調製し、同様に油分量測定を行った。
【0063】
試験試料及びコントロール試料について、それぞれ3回行い、油分量の平均値の差を化学処理剤による油分解量とした。
【0064】
表1に試験試料とコントロール試料の測定結果(平均値)、及び測定結果から算出した油分解量を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
化学処理剤を添加した試験試料では、1時間の攪拌で50%以上の油分を分解できた。なお、油分解量は、コントロール試料の油分量(4.3mL)と油分添加量(2.0g)から、油分解量(g)=2.0g/4.3mL×2.3mL=1.1gと算出した。
【実施例2】
【0067】
(厨房廃水導入流路の浄化実験)
U字溝に厨房廃水と同様の植物性の油分を主成分とするマーガリンを塗布し、厨房廃水導入流路に油分解溶液供給装置を設けた場合の効果を検証した。
【0068】
幅38mm、長さ900mmのU字溝を用意し、このU字溝の両端の高さを異ならせ、一方の端部(上流部)から他方の端部(下流部)に向けて液体が流れるよう、傾斜させて配置した。そして、U字溝の底面にマーガリンを塗布し、マーガリン層を形成した。マーガリン層は上流部から下流部にかけて、均一の幅で形成した。
【0069】
そして、上流部から油分解溶液を1日につき2時間おきに6回(14:00,16:00,18:00,20:00,22:00,24:00)滴下した。1回の油分解溶液の滴下量は100mLとした。
【0070】
油分解溶液として、Rhodobacter sphaeroides NATを培養した培養液を用いた。
【0071】
なお、通常の厨房内の室温に合わせ、試験温度を30℃に維持して行った。
【0072】
そして、1日後、3日後、7日後の13:00に、5mm幅のマーガリン層を採取し、油分量を測定した。マーガリン層の採取は、U字溝の上流部、中流部、下流部の3ヶ所から行い、採取したマーガリンを溶媒に溶解させて測定検液とした。この測定検液をホリバ製油分濃度計OCMA−305(測定方式:H−997抽出赤外線吸収法)にて測定した。
【0073】
また、参考例として、油分解溶液の代わりに水道水を用いた以外は、上記と同様にして実験を行った。
【0074】
その結果を表2に示す。
【表2】

【0075】
表2をみると、油分解溶液を滴下した場合、水道水を滴下した場合に比べ、明らかに油分量が減少していることがわかる。以上の結果から、油分解溶液を厨房廃水導入流路に供給することで、厨房廃水導入流路の雑菌等の分解や繁殖の抑制が可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1 処理装置
10 発生源
20 厨房廃水導入流路
30 浄化槽
31a 堰板
31b 堰板
31c 堰板
32 第1の領域
33 第2の領域
34 第3の領域
40 網籠
50 容器
51 外側有孔壁
51a 孔
52 内側有孔壁
52a 孔
52b フランジ部
52c 孔
53 底部
54 攪拌装置
55 化学処理剤
56 処理剤領域
57 分解領域
60 浄化水導出流路
70 油分解溶液供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厨房廃水の発生源から厨房廃水導入流路を介して厨房廃水が流入する浄化槽と、
前記浄化槽内を上流から下流にかけて、前記厨房廃水が流入する第1の領域と、前記厨房廃水に含まれる油分を分離させて分解する第2の領域と、処理された浄化水が流入する第3の領域とに分ける2枚の堰板と、
前記第2の領域の表層部に配置され、油分を分解する化学処理剤が配置される容器と、
前記容器内を攪拌する攪拌手段と、を備え、
前記容器は上部に前記油分を通過させて前記容器内部へ流入させる孔を有する有孔壁と下部に前記油分の流出を塞ぐ無孔壁から構成される底部とを有し、
前記容器は前記孔が前記厨房廃水の水面を横切るように配置される、
ことを特徴とする厨房廃水の処理装置。
【請求項2】
前記容器内の水平断面が円形状であり、前記攪拌手段が前記容器内に旋回流を生じさせる、
ことを特徴とする請求項1に記載の厨房廃水の処理装置。
【請求項3】
前記化学処理剤として食用油から得られた廃油石けんが配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の厨房廃水の処理装置。
【請求項4】
油分を分解する微生物が担持された油分解物質担持体が前記容器内に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の厨房廃水の処理装置。
【請求項5】
油分を分解可能な微生物及び酵素の少なくとも一方を含有する油分解溶液を前記厨房廃水導入流路に供給する油分解溶液供給装置を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の厨房廃水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−39515(P2013−39515A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177027(P2011−177027)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(309043768)テクノ環境機器株式会社 (6)
【出願人】(592157098)ラボテック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】