説明

厨房排気処理装置

【課題】厨房排気処理装置(1)において、厨房排気に含まれるオイルミスト(M)を効率よく除去できるようにする。
【解決手段】厨房排気に含まれるオイルミスト(M)を帯電させるオイルミスト荷電部(30)と、水滴(W)を吹き出す水滴発生部(41)と、水滴(W)を帯電させる水滴荷電部(42)と、オイルミスト(M)が付着した水滴(W)を回収する水滴回収部(60)とを厨房排気の流れ方向に沿って順に配置し、オイルミスト荷電部(30)と水滴荷電部(42)で、オイルミスト(M)と水滴(W)を逆極性に帯電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厨房排気処理装置に関し、特に、厨房排気に含まれるオイルミストを帯電させてから捕捉することで厨房排気を浄化する厨房排気処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダストやミストを帯電させてから捕捉する装置として、特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1の装置は、ダストやミストを帯電させた後に、誘電分極した誘電体(水)とダストやミストをクーロン力で結合させ、水と結合したダストやミストを電気集塵装置で捕集するようになっている。
【0003】
この特許文献1には、捕捉対象がサブミクロンオーダーのミストやダストである場合には、これらのミストやダストの移動距離を誘電体間の短い距離にすることができるため、電極間距離を広くしても除去効率を高められると記載されている。
【特許文献1】特許第3572164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の装置では、質量の軽いサブミクロンオーダーのミストなどに対しては効果を高められるとしても、ミストの粒径が大きくなってミクロンオーダーになると、水の電荷量が不足して水とミストが結合しにくくなると考えられる。そのため、厨房排気に含まれるオイルミストを除去対象とする厨房排気処理装置に上記構成を適用すると、オイルミストがミクロンオーダーの大粒の粒子であるため、水との結合力が弱くなって除去性能が低下してしまうと考えられる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、厨房排気に含まれるオイルミストを除去する厨房排気処理装置において、オイルミストの除去性能を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、厨房排気に含まれるオイルミスト(M)を除去する厨房排気処理装置を前提としている。
【0007】
そして、この厨房排気処理装置は、オイルミスト(M)を帯電させるオイルミスト荷電部(30)と、水滴(W)を吹き出す水滴発生部(41)と、水滴(W)を放電により帯電させる水滴荷電部(42)と、オイルミスト(M)の付着した水滴(W)を回収する水滴回収部(60)とが厨房排気の流れ方向に沿って順に配置され、オイルミスト荷電部(30)と水滴荷電部(42)が、オイルミスト(M)と水滴(W)を逆極性に帯電させるように構成されていることを特徴としている。
【0008】
この第1の発明では、オイルミスト(M)と水滴(W)が逆極性に帯電することにより、オイルミスト(M)が水滴(W)にクーロン力で付着する。その際、水滴(W)が放電により帯電しているため、水滴(W)に与えられる電荷が従来よりも大きくなり、オイルミスト(M)が水滴(W)に効率よく吸着される。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記水滴回収部(60)が水滴(W)の通過を阻止する一方で空気の流通を許容する多数の空気流通孔を備えた導電性の水捕捉部材(61)により構成され、上記水捕捉部材(61)に水滴(W)の極性とは異なる電位が与えられていることを特徴としている。
【0010】
この第2の発明では、水捕捉部材(61)に水滴(W)とは異なる極性の電位を持たせるようにしているので、水滴(W)と水捕捉部材(61)との間に電気的な力が作用する。つまり、水滴(W)と水捕捉部材(61)とが逆電位の場合はクーロン力が作用し、水捕捉部材(61)を接地電位にした場合は電気影像力が作用する。その結果、水滴(W)に付着したオイルミスト(M)が水捕捉部材(61)に効率よく捕集される。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、上記水捕捉部材(61)にはオイルミスト(M)の電荷とも異なる極性の電位が与えられていることを特徴としている。
【0012】
この第3の発明では、水滴(W)に付着しなかったオイルミスト(M)があったとしても、オイルミスト(M)と水捕捉部材(61)との間に電気的な力(クーロン力または電気影像力)が作用する。したがって、この場合でもオイルミスト(M)を水捕捉部材(61)で捕集できる。
【0013】
第4の発明は、第1から第3の発明の何れか1つにおいて、上記水滴荷電部(42)が、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出される位置の近傍に配置された放電部(47)を有していることを特徴としている。
【0014】
この第4の発明では、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出される位置に放電部(47)を配置することにより、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出されると、水滴(W)は放電によってすぐに帯電する。そして、オイルミスト(M)を含む空気中に帯電した水滴(W)を吹き出すことにより、オイルミスト(M)を水滴(W)に付着させることができる。
【0015】
第5の発明は、第1から第4の発明の何れか1つにおいて、吹き出す水の粒径が10μm以上で100μm以下になるように上記水滴発生部(41)が構成されていることを特徴としている。
【0016】
この第5の発明では、水滴(W)の粒径が10μmよりも小さいと常温で蒸発して消失してしまいがちであるのに対して、粒径を10μm以上にすることによりすぐに蒸発するのを防止でき、しかも水滴(W)の回収が容易になる。また、水滴(W)の粒径が100μmよりも大きいと水滴(W)が拡散しにくくなるおそれがあるが、粒径を100μm以下にすることにより拡散性をよくしてオイルミスト(M)の捕集効率を高められる。
【0017】
第6の発明は、第1から第4の発明の何れか1つにおいて、上記水滴回収部(60)で回収した水が油分を含んだものであってその水から油分を分離する油分離機構(63)を供えていることを特徴としている。
【0018】
この第6の発明では、油分離機構(63)を設けたことにより、水滴回収部(60)で回収された水から油分が分離される。
【0019】
第7の発明は、第6の発明において、上記油分離機構(63)により油分を分離した水を水滴発生部(41)に搬送する水搬送機構(49)を備えていることを特徴としている。
【0020】
この第7の発明では、水滴回収部(60)で回収された水から油分を分離した後、油分を分離した水をポンプなどの水搬送機構(49)で水滴発生部(41)に供給し、水滴(W)を吹き出すのに再利用できる。
【0021】
第8の発明は、第1から第5の発明の何れか1つにおいて、水滴回収部(60)で回収した油分を含んだ水を所定の時間間隔で清浄な水に交換する水交換機構(64)を備えていることを特徴としている。
【0022】
この第8の発明では、水滴回収部(60)で回収された水が、水交換機構(64)により所定の時間間隔で清浄な水に交換される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オイルミスト(M)と水滴(W)を逆極性に帯電させることにより、オイルミスト(M)が水滴(W)にクーロン力で付着するようにしており、そのために水滴(W)を放電により帯電させている。そのため、水滴(W)に与えられる電荷が従来よりも大きくなって、水滴(W)でオイルミスト(M)を効率よく吸着することができる。したがって、オイルミスト(M)の捕集効率を従来よりも高められる。
【0024】
上記第2の発明によれば、水捕捉部材(61)に水滴(W)とは異なる極性の電位を持たせて、水滴(W)と水捕捉部材(61)との間に電気的な力(クーロン力または電気影像力)を作用させるようにしているので、水滴(W)に付着したオイルミスト(M)を水捕捉部材(61)で効率よく捕集することができる。
【0025】
上記第3の発明によれば、水捕捉部材(61)にオイルミスト(M)の電荷とも異なる極性の電位を与えるようにしているため、水滴(W)に付着しなかったオイルミスト(M)があったとしても、オイルミスト(M)と水捕捉部材(61)との間に電気的な力(クーロン力または電気影像力)が作用する。したがって、この場合でもオイルミスト(M)を水捕捉部材(61)で効率よく捕集できる。
【0026】
上記第4の発明によれば、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出される位置に水滴荷電部(42)(放電部(47))を配置しているので、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出されるとすぐに水滴(W)が放電により帯電する。そして、オイルミスト(M)を含む空気中に帯電した水滴(W)を吹き出すことにより、オイルミスト(M)を水滴(W)に付着させることができる。このように、水滴発生部(41)の近傍に水滴荷電部(42)(放電部(47))を配置することにより、水滴発生部(41)と放電部(47)を一つのユニットとして構成することが可能となり、構造を簡素化し、装置の小型化や低コスト化を実現できる。
【0027】
上記第5の発明によれば、水滴(W)の粒径が10μmよりも小さいと常温で蒸発して消失してしまいがちであるのに対して、粒径を10μm以上にしているのですぐに蒸発するのを防止でき、しかも粒径が過度に小さくないため水滴(W)の回収を容易に行うことができる。また、水滴(W)の粒径が100μmよりも大きいと水滴(W)が拡散しにくくなるおそれがあるが、粒径を100ミクロン以下にすることにより拡散性をよくしてオイルミスト(M)の捕集効率を高められる。このように、水滴(W)の粒径を10μm以上で100μm以下にすると、より好ましい効果を得ることが可能となる。
【0028】
上記第6の発明によれば、油分離機構(63)を設けたことにより、水滴回収部(60)で回収された水から油分を分離できるから、油分を含んだ水の廃棄や清掃の手間が楽になる。
【0029】
上記第7の発明によれば、水滴回収部(60)で回収された水から油分を分離した後、油分を分離した水をポンプなどの水搬送機構(49)で水滴発生部(41)に供給し、水滴(W)を吹き出すのに再利用できる。したがって、装置のランニングコストを低減できる。
【0030】
上記第8の発明によれば、水滴回収部(60)で回収された水が、水交換機構(64)により所定の時間間隔で清浄な水に交換されるので、所定時間毎に自動的に水質が綺麗になり、作業者が定期的なメンテナンスを行う必要性をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
【0033】
この実施形態1は、本発明に係る厨房排気処理装置に関するものであって、厨房排気に含まれるオイルミスト(M)を除去するものである。
【0034】
図1は、この厨房排気処理装置(1)の構成図である。厨房排気処理装置(1)は、ケーシング(10)と、このケーシング(10)内に形成されている排気通路(11)中に配置された機能部品類を備えている。ケーシング(10)には、排気通路(11)に対する被処理空気の入口側に空気吸込口(12)が形成され、排気通路(11)に対する被処理空気の出口側に空気吹出口(13)が形成されている。
【0035】
ケーシング(10)内には、排気通路(11)の上流側から下流側へ向かって、グリスフィルタ(20)、オイルミスト荷電部(30)、水供給部(水供給機構)(40)、処理空間(50)、水滴回収部(60)、そしてファン(70)が順に配置されている。水供給機構(40)は、水滴(W)を吹き出す水滴発生部(41)と、水滴(W)を放電により帯電させる水滴荷電部(42)とを備え、水滴発生部(41)が排気通路(11)内で水滴荷電部(42)の上流側に配置されている。
【0036】
グリスフィルタ(20)は、厨房排気中に含まれる比較的大きなオイルミスト(M)を除去して、オイルミスト(M)が厨房排気処理装置(1)のケーシング(10)内に進入するのを防止するためのものである。
【0037】
オイルミスト(M)を帯電させるオイルミスト荷電部(30)は、厨房排気の流れ方向と平行に等間隔で配置された板状で複数の対向電極(31)と、放電電極として各対向電極(31)の間で平行に張架されたイオン化線(32)と、このイオン化線(32)に接続されたオイルミスト荷電用直流電源(33)とを備えている。このオイルミスト荷電用直流電源(33)はプラス極がイオン化線(32)に接続され、マイナス極側がケーシング(10)を介して接地されている。詳細は図示していないが対向電極(31)はケーシング(10)に保持されているので、ケーシング(10)を介して接地された状態になっている。この構成において、オイルミスト(M)は、オイルミスト荷電部(30)を通過することによりプラスの電荷を帯びる。
【0038】
水供給機構(40)の水滴発生部(41)は、水を水滴(W)状にして噴き出す水供給部材としてノズル(43)を備えている。このノズル(43)は、吹き出す水の粒径が10μm以上で100μm以下になるように、噴霧口(図示せず)の寸法や形状が定められている。このノズル(43)は、水供給管(44)を介してポンプ(45)と接続されている。ポンプ(45)は、後述する水滴回収部(60)の水回収タンク(62)に水配管(46)を介して接続されている。
【0039】
上記水滴荷電部(42)は、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出される位置のすぐ近傍に配置された放電板(放電部)(47)を有している。この放電板(47)はメッシュ板により構成されており、水滴荷電用電源(48)のプラス極が接続されている。水滴荷電用電源(48)のマイナス極はケーシング(10)を介して接地されている。放電板(47)にプラスの電位が与えられているので、この放電板(47)を通過した水滴(W)はマイナスの電荷を帯びることになる。
【0040】
以上のように、オイルミスト荷電部(30)と水滴荷電部(42)は、オイルミスト(M)と水滴(W)を逆極性に帯電させるように構成されている。
【0041】
処理空間(50)は、ケーシング(10)の内で一定の大きさを持った空間であり、排気通路(11)の一部を構成している。この処理空間(50)では、プラスに帯電したオイルミスト(M)とマイナスに帯電した水滴(W)とがクーロン力で引きつけ合って結合する。中には水滴(W)と結合せずにプラスの電荷を帯びたまま単独で下流側へ流れていくオイルミスト(M)も存在するし、オイルミスト(M)と結合せずにマイナスの電荷を帯びたまま単独で下流側へ流れていく水滴(W)も存在する。
【0042】
水滴回収部(60)は、デミスタ(61)と水回収タンク(62)とを備えている。デミスタ(61)は、水滴(W)の通過を阻止する一方で空気の流通を許容する多数の空気流通孔を備えた導電性の水捕捉部材(61)であって、具体的には、細い金属繊維を凝集加工して所定の厚みを持つ多孔状に成形したものが用いられている。このデミスタ(61)は、ケーシング(10)を介して接地されている。つまり、デミスタ(61)には、水滴(W)の電荷ともオイルミスト(M)の電荷とも異なる極性(接地電位)が与えられている。
【0043】
上記水回収タンク(62)は油分を含んだ水を回収する。この水回収タンク(62)には、回収した水から油分を分離する油分離機構(63)が接続されている。そして、上記水供給管(44)、ポンプ(45)及び水配管(46)は、上記油分離機構(63)により油分が分離された水を水滴発生部(41)に搬送する水搬送機構(49)を構成している。
【0044】
図2に示すように、油分離機構(63)は水配管中に設けられたストレーナ(63)により構成されている。また、水回収タンク(62)には、水道水を供給する水道水供給管(65)が接続されている。水道水供給管(65)には、手動で開閉する受水バルブ(66)と、第1電磁弁(67a)が設けられている。水回収タンク(62)の内部には、水道水供給管(65)に接続されたフロートスイッチ(68)が設けられている。水回収タンク(62)には排水管(69)も接続されている。この排水管(69)には第2電磁弁(67b)が設けられている。この構成において、フロートスイッチ(68)により水回収タンク(62)の水位が一定レベルまで上がると第1電磁弁(67a)を閉じた状態で第2電磁弁(67b)を開いて排水した後、第2電磁弁(67b)を閉じて第1電磁弁(67a)を開くことにより水道水を水回収タンク(62)に所定量供給するようにしている。このように、本実施形態では、水滴回収部(60)で回収した油分を含んだ水を所定の時間間隔で清浄な水に交換する水交換機構(64)が構成されている。
【0045】
ケーシング(10)の排気通路(11)内で最も下流側に配置されているファン(70)には、例えばシロッコファン(70)などの遠心ファンが用いられている(図は空気の流れ方向を模式的に示している)。このファン(70)を起動することにより、空気吸込口(12)からケーシング(10)内に吸い込まれた被処理空気が処理され、処理後に空気吹出口(13)から室外へ排出される。
【0046】
−運転動作−
次に、この厨房排気処理装置(1)の運転動作について説明する。
【0047】
ファン(70)を起動すると、厨房排気が空気吸込口(12)からケーシング(10)内に吸い込まれる。ケーシング(10)内に吸い込まれた厨房排気はグリスフィルタ(20)を通過し、その際に厨房排気中の比較的大きなオイルミスト(M)が除去される。グリスフィルタ(20)を通過した比較的粒径の小さな(数μm程度の)オイルミスト(M)は、オイルミスト荷電部(30)を通過することによってプラスに帯電する。
【0048】
水供給機構(40)では、ポンプ(45)から水供給管(44)を介してノズル(43)まで供給されてきた水が、排気通路(11)における厨房排気の流れ方向下流側に向かって噴霧される。ノズル(43)に対して噴霧方向のすぐ近傍にはプラスの電位を与えられたメッシュ状の放電板(47)が配置されており、水滴(W)がこの放電板(47)を通過する。水滴(W)が放電板(47)を通過すると、水滴(W)はマイナスに帯電する。
【0049】
このようにしてプラスに帯電したオイルミスト(M)とマイナスに帯電した水滴(W)は、処理空間(50)内でクーロン力によって互いに引き付け合って結合し、下流側へ流れていく。また、中には結合しなかったオイルミスト(M)や水滴(W)も存在し、これらはプラスやマイナスの電荷を帯びたまま下流側へ流れていく。
【0050】
処理空間(50)の下流側にはデミスタ(61)が設けられている。したがって、オイルミスト(M)が付着した水滴(W)は、デミスタ(61)を通過する際にこのデミスタ(61)で捕捉される。このとき、水滴(W)とともにオイルミスト(M)もデミスタ(61)に捕捉される。また、デミスタ(61)は接地電位であり、プラスに帯電したオイルミスト(M)ともマイナスに帯電した水滴(W)とも異なる電位を有しているため、オイルミスト(M)及び水滴(W)とデミスタ(61)との間に電気影像力が働き、互いに結合していないオイルミスト(M)と水滴(W)もデミスタ(61)に捕捉される。
【0051】
デミスタ(61)に付着した水滴(W)は水の集合体となって大きくなり、デミスタ(61)の金網に沿って下方へ流れ、そのときに、デミスタ(61)に付着しているオイルミスト(M)も流し落とす。デミスタ(61)から滴下した水滴(W)とオイルミスト(M)は水回収タンク(62)に回収される。水回収タンク(62)に溜まった水は、油分離機構(63)により油が除去されて、水だけが水配管(46)を介してポンプ(45)に吸引される。ポンプ(45)に吸引された水はノズル(43)からの噴霧に再利用される。
【0052】
デミスタ(61)を通過した厨房排気は、オイルミスト(M)が除去された清浄な空気である。そして、このようにして清浄な状態に処理された厨房排気がファン(70)を通じてケーシング(10)の空気吹出口(13)から室外へ吹き出される。
【0053】
−実施形態1の効果−
本発明によれば、オイルミスト(M)と水滴(W)を逆極性に帯電させることにより、オイルミスト(M)が水滴(W)にクーロン力で付着するようにしており、そのために水滴(W)を放電によって帯電させるようにしている。このことにより水滴(W)に与えられる電荷が従来よりも大きくなって、水滴(W)でオイルミスト(M)を効率よく吸着することができる。したがって、オイルミスト(M)の捕集効率を従来よりも高められる。
【0054】
また、デミスタ(61)に水滴(W)ともオイルミスト(M)とも異なる極性の電位(接地電位)を持たせて、オイルミスト(M)及び水滴(W)とデミスタ(61)との間に電気的な力(電気影像力)を作用させるようにしているので、オイルミスト(M)が付着した水滴(W)だけでなく、単独で浮遊してきた水滴(W)やオイルミスト(M)も効率よく捕集することができる。
【0055】
さらに、水滴発生部(41)のノズル(43)から水滴(W)が吹き出される位置にプラス電位の放電板(47)を配置しているので、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出されるとすぐに水滴(W)がマイナスに帯電する。そして、オイルミスト(M)を含む空気中に、帯電した水滴(W)を吹き出すことにより、オイルミスト(M)を水滴(W)に確実に付着させることができる。このように、水滴発生部(41)の近傍に放電板(47)を配置することにより、水滴発生部(41)と放電板(47)を一つのユニットとして構成することが可能となり、構造を簡素化して装置の小型化や低コスト化を実現できる。
【0056】
また、水滴(W)の粒径が10μmよりも小さいと常温で蒸発して消失してしまいやすいのに対して、粒径を10μm以上にしているのですぐに蒸発するのを防止でき、しかも粒径が過度に小さくないため水滴(W)の回収を容易に行うことができる。また、水滴(W)の粒径が100μmよりも大きいと水滴(W)が拡散しにくくなるおそれがあるが、粒径を100μm以下にしているので拡散性をよくしてオイルミスト(M)の捕集効率を高められる。このように、本実施形態では水滴(W)の粒径を10μm以上で100μm以下にすることで、より好ましい効果を得ることができる。
【0057】
このことを図3のグラフに示している。図示するように、水滴(W)の径が10μmを越えると高い集塵効率を得ることができるようになり、20μm以上であれば100μm程度まで、ほぼ100%に近い集塵効率が得られる。なお、このグラフの実験データは、オイルミスト(M)の粒径が3μm、面風速が0.5m/s、デミスタ(61)の繊維径が250μmで充填率を2.5%としている。
【0058】
さらに、本実施形態では、油分離機構(63)を設けたことにより、水滴回収部(60)で回収された水から油分を分離できるから、油分を含んだ水の廃棄や清掃の手間が楽になる利点もある。
【0059】
また、水滴回収部(60)で回収された水から油分を分離した後、油分を分離した水をポンプなどの水搬送機構(49)で水滴発生部(41)に供給し、水滴(W)を吹き出すのに再利用できるため、装置(1)のランニングコストを低減できる。
【0060】
さらに、水滴回収部(60)で回収された水が、水交換機構(64)により所定の時間間隔で清浄な水に交換されるので、所定時間毎に自動的に水質が綺麗になり、作業者が定期的なメンテナンスを行う必要性をなくすこともできる。
【0061】
−実施形態1の変形例−
図1の厨房排気処理装置(1)において、水滴荷電部(42)は図4に示すように構成してもよい。この図4の例では、放電部(47)として、線状電極(47a)と板状電極(47b)を放電電極と対向電極として交互に設けて、線状電極(47a)を水滴荷電用電源(48)のマイナス極に接続し、板状電極(47b)を水滴荷電用電源(48)のプラス極に接続している。こうすることにより、放電部(47)でコロナ放電が発生する。そして、このように構成した放電部(47)をノズル(43)の近傍に配置している。
【0062】
このようにしても放電部(47)で水滴(W)がマイナスの電荷を帯びる。したがって、下流側の処理空間(50)とデミスタ(61)において図1の例と同様の作用が生じるので、オイルミスト(M)を含む厨房排気を清浄な空気に処理することができ、図1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0063】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2は、図5に示すように、厨房排気処理装置を縦型に構成した例である。
【0064】
この例においても、ケーシングにおける排気通路の上流側から下流側に向かって、グリスフィルタ(図示省略)、オイルミスト荷電部(30)、水供給機構(40)(水滴発生部(41)及び水滴荷電部(42)からなり、ノズル(43)と放電板(47)との間に電圧を印加している)、デミスタ(61)、そして水滴回収部(図示せず)を順に配置している。このように構成しても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0065】
なお、図6には、水滴(W)の粒径を50μmとして、オイルミスト(M)の粒径が0.3μmから4.8μmまで2倍ずつ大きくなったときに、面風速の変化と集塵率との関係を求めたグラフである。このグラフから分かるように、オイルミスト(M)の粒径が0.3μmから0.6μmのように比較的小さいときは、面風速が速くなるとその影響を受けて集塵効率が極端に低下するのに対して、オイルミスト(M)の粒径が4.8μmから1.2μmのように比較的大きいときは、面風速の変化の影響をあまり受けずにほぼ全域で高い集塵効率を得られている。したがって、本発明がオイルミスト(M)のようなミクロンオーダーの塵埃に対して高い効果を得られることが分かる。
【0066】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0067】
例えば、上記実施形態では水供給機構(40)にノズル(43)を設けて水を噴霧するようにしているが、水供給機構(40)には超音波式やヒーター式の蒸気発生器を用いてもよい。
【0068】
また、オイルミスト荷電部(30)や水滴回収部(60)やファン(70)などの具体的な構成も、装置構成に応じて適宜変更することが可能である。
【0069】
要するに、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明は、厨房排気に含まれるオイルミスト(M)を帯電させてから捕捉することで厨房排気を浄化する厨房排気処理装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る厨房排気処理装置の構成図である。
【図2】図2は、油分離機構と水交換機構の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、水滴径と集塵効率の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、水滴荷電部の変形例を示す構成図である。
【図5】図5は、実施形態2に係る厨房排気処理装置の構成図である。
【図6】図6は、オイルミストの粒径が変わったときの面風速と集塵効率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 厨房排気処理装置
30 オイルミスト荷電部
41 水滴発生部
42 水滴荷電部
47 放電部
49 水搬送機構
60 水滴回収部
61 水捕捉部材
63 油分離機構
64 水交換機構
M オイルミスト
W 水滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厨房排気に含まれるオイルミスト(M)を除去する厨房排気処理装置であって、
オイルミスト(M)を帯電させるオイルミスト荷電部(30)と、水滴(W)を吹き出す水滴発生部(41)と、水滴(W)を放電により帯電させる水滴荷電部(42)と、オイルミスト(M)が付着した水滴(W)を回収する水滴回収部(60)とが厨房排気の流れ方向に沿って順に配置され、
オイルミスト荷電部(30)と水滴荷電部(42)は、オイルミスト(M)と水滴(W)を逆極性に帯電させるように構成されていることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記水滴回収部(60)が水滴(W)の通過を阻止する一方で空気の流通を許容する多数の空気流通孔を備えた導電性の水捕捉部材(61)により構成され、
上記水捕捉部材(61)には水滴(W)の極性とは異なる電位が与えられていることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記水捕捉部材(61)にはオイルミスト(M)の電荷とも異なる極性の電位が与えられていることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つにおいて、
上記水滴荷電部(42)は、水滴発生部(41)から水滴(W)が吹き出される位置の近傍に配置された放電部(47)を有していることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1つにおいて、
上記水滴発生部(41)は、吹き出す水の粒径が10μm以上で100μm以下になるように構成されていることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1つにおいて、
上記水滴回収部(60)で回収した油分を含んだ水から、油分を分離する油分離機構(63)を供えていることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項7】
請求項6において、
上記油分離機構(63)により油分を分離した水を水滴発生部(41)に搬送する水搬送機構(49)を備えていることを特徴とする厨房排気処理装置。
【請求項8】
請求項1から5の何れか1つにおいて、
水滴回収部(60)で回収した油分を含んだ水を所定の時間間隔で清浄な水に交換する水交換機構(64)を備えていることを特徴とする厨房排気処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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