説明

厨房用フィルター

【課題】 軽量安価なうえオイルミストや臭気の付着及び吸着除去に極めて優れ而も廃棄も容易になしえる厨房用フィルターを提供する。
【解決手段】 鉄若しくは非鉄金属素材からなる異径且不定形嵩高な切削細線条を集束させて空隙率の大きな不織状マットとなしたうえ、該不織状マットを所要の寸法形状に整えたうえ、その切削細線条の外周面全体にシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を所要の塗着厚さに塗着し200乃至600℃の温度で加熱して、その発泡倍率が2乃至15倍で連続気泡構造の酸化珪素態の無機発泡層が一体的に固着形成され、且その空隙率が90%以上に形成された構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は厨房用フィルターに係り、更に詳しくは調理時に発生するオイルミストと臭気の付着並びに吸着除去に優れ、廃棄も容易な厨房用フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
厨房用フィルター特には業務用として使用されている厨房用フィルターは、調理時に発生する多量のオイルミストの付着除去をするためのものであって、古くは金網を積層させたものや珪藻土の成形物等が使用されていたが、今日に至ってはセラミックス多孔質板やアルミ材のラス加工板等が耐火性や不燃性に加えて軽量なうえオイルミストの付着除去も良好なことから多用されている。
【0003】
ところで近年では急速な都市化とともに、業務用厨房設備を要する料理飲食業者や外食業者等も都市部に多数進出し或いは集合ビル内にも多々出店しており、かかる厨房設備により調理されて発生するオイルミストを含む排気は厨房用フィルターにより付着除去のうえ外部に排出させている。
然るに現状の厨房用フィルターではオイルミストの十分な付着除去には至らず、外部への排気ダクト周辺には残留オイルミストへの塵埃の付着とも相俟って著しく汚損された状態にあり、加えて近年では畜肉類や魚介類等油脂分の多い食材が多用されるため、オイルミストの発生が一段と高まり且これらの食材に伴い臭気や煤煙も多量に発生するため、これらが近接する事務所や店舗或いは住居に流散侵入し重大な環境公害をもたらす結果となっており、行政においても臭気対策を含めた立法化の論議がなされるに至っている。
【0004】
而しながら現状のセラミックス多孔質板やアルミ材のラス加工板等は、単に調理に伴い発生する排気を高い接触面積率を以って接触させてオイルミストの付着除去を図るものであるから臭気や煤煙には全く対処できず、且畜肉類や魚介類の多用によりオイルミストの発生量も格段に増大し、短時に付着油脂による閉塞化が招来される結果となっており、加えてこれら厨房用フィルターは価格も比較的高価であるから使い捨てにはできず、従って回収後に浄化し再利用を図っているが、この浄化には高温度による油脂の燃焼と且化学薬剤による洗浄が不可欠であって、その浄化再利用コストも多大なものが強いられている。
【0005】
発明者等はかかる実情に鑑み研究を重ねた結果、今日においては鉄線材や非鉄金属線材を多数の切削刃を用いて極めて細線条に切削形成がなしえること、及びこの切削形成された細線条はカールやウエーブ状のため絡合性が高く、従って多数本を集束させるのみで極めて嵩高に絡合されて空隙率の大きな不織状マットが安価に形成できること、或いは不織状マットにシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を塗着のうえ加熱発泡させた無機発泡層を一体的に固着形成させることにより、オイルミストはもとより臭気の付着並びに吸着除去に著しく優れることを究明し本発明に至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は軽量で安価なうえオイルミストや臭気の付着及び吸着除去に極めて優れ、而も廃棄も容易になしえる厨房用フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するための技術手段は、鉄若しくは非鉄金属素材からなる線材を連続的に切削してなる異径且不定形嵩高な切削細線条を集束させて空隙率の大きな不織状マットとなし、該不織状マットを所要の寸法形状に整えたうえその切削細線条の外周面全体にシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を所要の塗着厚さに塗着のうえ200乃至600℃の温度で加熱し、その発泡倍率が2乃至15倍で且連続気泡構造と酸化珪素態の無機発泡層が一体的に固着形成され、而もその空隙率が90%以上に形成されてなる構成の厨房用フィルターに存するものであり、更に無機発泡層を十分厚く形成させオイルミストや臭気の付着並びに吸着除去を一段と強化させるには、シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を十分な塗着厚さを以って塗着させるため、該シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液の水分率を20乃至50重量%割合まで蒸散脱水させたシロキサン及びシラノール塩多分子量ゲル状物が使用される構成に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明はかかる技術手段を用いてなるものであって、鉄若しくは非鉄金属素材からなる線材を多数の切削刃を用いて連続的に切削させた異径且不定形嵩高な切削細線条を用いるため、その切削面の粗雑さと不定形及び嵩高性とにより単に集束させるのみで相互が絡合し極めて空隙率が大きく且所要の幅と厚さの不織状マットが安価に形成されるとともに、該不織状マットを形成する切削細線条は異径で且その外面が粗雑であるから、その外周面に塗着されるシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液も強固に塗着されるとともに200乃至600℃の高温度で2乃至15倍の発泡倍率で連続気泡構造と酸化珪素態の無機発泡層で一体的に固着形成されるため十分な保形性も付与される。
【0009】
そしてかかる不織状マットを所要の寸法形状に重ね合せて整えたうえ、シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を所要の塗着厚さに塗着させるのみで、該不織状マットを形成する切削細線条の外周面に強固に塗着されたうえ200乃至600℃に加熱させることにより、シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液中の水分蒸散放出と加熱融着性の創出及びシロキサン結合の促進とにより、発泡倍率が2乃至15倍で連続気泡構造の酸化珪素態からなる無機発泡層が少なくとも90%以上の空隙率を以って形成されるため、実用使用に際してオイルミストや臭気を含む排気が流通された場合には、不織状マットの複雑に連通し且無機発泡層が発泡形成された空隙内を大きな接触面と接触することとなり、排気中のオイルミストの物理的付着に加えてその連続気泡構造と酸化珪素態に伴う化学的吸着がなされ、而も微細且膨大量の連続気泡構造内に臭気も吸着されるため、オイルミストや臭気が極めて高い付着並びに吸着効果を以って除去される。加えて本発明は空隙率が大きなうえ酸化珪素態の無機発泡層と僅かな鉄若しくは非鉄金属素材からなる切削細線条で形成されてなるため、使用後は著しく減容化でき且廃棄も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
鉄若しくは非鉄金属線材を連続的に切削してなる異径且不定形嵩高な切削細線条を集束させて所要の寸法形状で空隙率の大きな不織状マットとなし、この不織状マットの異径且不定形嵩高な細線条の外周面にシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を所要の厚さに塗着のうえ200乃至600℃の加熱で、その発泡倍率が2乃至15倍で連続気泡構造と酸化珪素態の無機発泡層が一体的に固着形成され、且その空隙率が少なくとも90%以上に形成された構成。
【実施例1】
【0011】
以下に本発明実施例を図とともに説明すれば、図1は切削細線条1の説明図であって、該切削細線条1は実用使用上において耐火性や不燃性に加えて安全性とともに、空隙率の大きな不織状物を形成させるための加工性をも具備する素材が望まれることから、鉄若しくは非鉄金属線材1Aが用いられるもので、非鉄金属素材の具体的なものとしてはアルミやステンレスが挙げられる。そしてこの鉄若しくは非鉄金属線材1Aより切削細線条1を能率良く形成するうえからは、比較的太い鉄若しくは非鉄金属線材1Aを周回して多数の切削刃1Bを加圧させながら走行させることにより、該切削刃1Bの数に従って切削細線条1が形成されるもので、該切削細線条1は異径且不定形嵩高であって具体的厨房用フィルターの大きさや使用目的によってその線径も決定されるが、一般的使用目的の場合では略1乃至50μm程度のものが望ましい。
【0012】
そして切削形成されたかかる切削細線条1は図2のごとく鋭利な切削刃1Bを押圧させながら連続的に切削形成されるため、その切削面は著しく粗面化され且加圧切削によりカールやウエーブ等が混在した不定形嵩高状のものであり、且その断面が異径であるから相互の絡合性も極めて高い。
従って図3に示す如くかかる切削細線条1それぞれの相互を単に集束させるのみで相互が絡合して所要の幅と厚さの不織状マット2が形成されるものであって、切削細線条1が多くなる程絡合形成される不織状マット2の形成幅も広く形成されるもので、切削刃1Bを8本使用し切削細条8本を相互に絡合させた場合には特段に圧縮させぬ場合には略16cm程度の幅で絡合形成がなされ、且切削細線条1相互の絡合で形成される空隙2Aは縦方向に略8乃至16mm横方向略6乃至12mm及び厚さが略6乃至10mm程度の極めて空隙率の大きな不織状マット2となる。
【0013】
而してかかる不織状マット2を所要の寸法形状に整えたうえ、その細線条1の外周面にシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aを所要の厚さに塗着のうえ、この塗着されたシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aを加熱し短時に水分蒸散放出と加熱融着性の創出及びシロキサン結合の促進とを図ることにより、その発泡倍率が2乃至15倍で連続気泡構造の酸化珪素態からなる無機発泡層3が、該不織状マット2と一体的に固着形成されることとなる。
【0014】
かかる場合にシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aは、100℃以上の加熱により水分蒸散放出に伴い連続気泡構造を生成しえるものであるが、無機発泡層3を能率的に形成させ且水分を完全に蒸散放出させて吸水や吸湿によっても安定した品質を保持しえる酸化珪素態となすうえからは、少なくとも200℃以上で且600℃以下の温度で加熱がなされるもので、高温度域が600℃以下に制限されるのは600℃を超えた加熱では連続気泡構造の酸化珪素態がガラス層化し且膨大数に形成される連続気泡構造の孔隙が溶融閉塞されてオイルミストや臭気の付着及び吸着除去効果が阻害されることによる。
【0015】
ところで不織状マット2に塗着されるシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aは、無機産業廃棄物中に多量に含有されてなる酸化珪素分を一旦アルカリ剤で溶解して珪酸ソーダとなしたるうえ、そのシラノール基を縮合作用させてその分子量が略4,000程度に多分子量化させたもので、この性状としてはシロキサン及びシラノール塩からなる固形分35乃至45重量%に水分55乃至65重量%割合からなり、且100℃以上の加熱により水分蒸散放出と加熱融着性の創出及びシロキサン結合の促進とも相俟って、無加圧状態では略40乃至50倍の発泡状物を形成するものであるが、発泡倍率の増大とともに形成される発泡状物が脆弱化し実用性能を保持しえない。
【0016】
これがため本発明における無機発泡層3では、その発泡倍率としては2乃至15倍程度に留めるべきであって、この発泡倍率による無機発泡層3の形成には加熱による無機発泡層3の形成を密閉可能な適宜の成形型内において加熱に伴う水分蒸散放出に伴う内部圧力を付加せしめて発泡度合を抑制させる方法と、いま一つは高温度で短時に加熱して水分を蒸散放出させて所要の発泡倍率の無機発泡層3を形成し而して徐冷させて過剰発泡を抑制させる方法とが挙げられるが、発泡倍率の簡便な管理のうえからは適宜の成形型内で加熱し内部圧力を付加させることが望ましい。
【0017】
不織状マット2を形成する切削細線条1の外周面全体へのシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aを塗着させる方法は多様な手段が挙げられるが、該不織状マット2は十分に大きな空隙2Aを有し、且シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aも比較的低粘度のものであるから噴霧塗着が好適であって、かかる場合においてもその塗着厚さはせいぜい20乃至50μm程度であって、これ以上の塗着厚はシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aでは低粘度により塗着離れが発生する。そしてかかる塗着厚を以って仮令10倍発泡させた場合にも、形成される無機発泡層3の厚さとしてはせいぜい200乃至500μm程度となる。
【0018】
かかる問題への対処策としては、シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3Aの水分率を100℃以下の加温によりその水分率を20乃至50重量%割合まで脱水蒸散させてシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液ゲル状物30Aとなすことにより、高粘度化や可塑状物化し、塗着厚を著しく増大化させることが可能となるが、本発明では無機発泡層3が形成された場合でも全体の空隙率4Aとしては少なくとも90%以上の保持させることが必要であるため、該シロキサン及びシラノール塩多分子量ゲル状物30Aを使用する場合でも、その塗着厚としてはせいぜい50乃至200μmが目安となる。
【0019】
かくしてシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液3若しくはそのゲル状物30Aが所要の塗着厚さを以って不織状マット2を形成する切削細線条1の外周面に塗着されたうえ、200乃至600℃の温度で加熱しその発泡倍率が2乃至15倍で且連続気泡構造と酸化珪素態からなる無機発泡層3を一体的に、而も所要の寸法形状に固化形成させることにより図4に示す如き本発明厨房要フィルター4が形成される。
かかる場合に加熱温度が200℃以下では水分蒸散放出に極めて長時間を要するばかりか水分の完全な蒸散放出も難しくなり、反面600℃以上の高温度では酸化珪素態が更ににメノウ層やガラス層化されるとともに連続気泡構造の変形や閉塞される危険を伴うことによる。
【0020】
以下に本発明の厨房用フィルターについてのオイルミスト及び臭気の付着及び吸着除去試験結果を述べれば、試験に用いた試料としてはその線径が10μmの切削細線条を用いて空隙率が98.5%に絡合形成された不織状マットの切削細線条外周面に、シロキサン及びシラノール塩多分子量ゲル状物を用いて、平均塗着厚を100μmに塗着のうえ、その内寸法が縦20cm、横20cm、厚さ3cmでその内側面にテフロンコーティングが施された密閉成形器内において300℃30分間の加熱をなし、その発泡倍率が略10倍で連続気泡構造と酸化珪素態の無機発泡層が不織状マットと一体的に固着形成され且その空隙率が93%のものを用い、対照としてアルミ材フィルターで且その空隙率が93%のものを用いた。
【0021】
試験方法は焼肉用無煙ロースターを用いて牛肉と野菜が定量で盛り合された所謂焼肉セットを1日4時間で3日間に亘って牛肉量分で、7.8kg分を焼肉調理し、オイルミストの付着除去率は初期フィルター重量に対する使用後のフィルター重量とにより、臭気の吸着除去率は調理面で発生する排気と、フィルター通過後での排気中の特定臭気成分濃度を北川式ガス検知管で測定したもので、結果は表1の通りであった。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
縦及び横50cm厚さ2.7cmの寸法形状で且空隙率が90%以上のものでは厨房用フィルターに、縦及び横20cm厚さ2.7cmの寸法形状で且空隙率が90%以上のものでは、無煙ロースター用フィルターとして即時使用可能。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 切削細線条の形成方法の説明図である。
【図2】 切削細線条の説明図である。
【図3】 不織状マットの説明図である。
【図4】 本発明の側面説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 切削細線条
1A 鉄若しくは非鉄金属線材
1B 切削刃
2 不織状マット
2A 空隙
3 無機発泡層
3A シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液
30A シロキサン及びシラノール塩多分子量ゲル状物
4 本発明厨房用フィルター
4A 空隙率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄若しくは非鉄金属素材からなる異径且不定形嵩高な切削細線条を集束させ空隙率の大きな不織状マットとなしたうえ、該不織状マットを所要の寸法形状に整え且その形成する切削細線条の外周面にシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液が所要の厚さに塗着されたうえ200乃至600℃の温度で加熱されて、以ってその発泡倍率が2乃至15倍で連続気泡構造と酸化珪素態からなる無機発泡層により一体的に固着形成され、而もその空隙率が90%以上に形成されてなることを特徴とする厨房用フィルター。
【請求項2】
不織状マットを形成する異径且不定形嵩高な切削細線条の外周面に所要の厚さに塗着されるシロキサン及びシラノール塩多分子量溶液が、その水分率を20乃至50重量%割合まで脱水させたシロキサン及びシラノール塩多分子量ゲル状物である、請求項1記載の厨房用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−175687(P2007−175687A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381344(P2005−381344)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506035142)
【Fターム(参考)】