説明

友禅染め製品及びその製造方法

【課題】物体に光を照射した際に物体の後方に映る影が絵柄とともに描かれ、立体感に富んだ友禅染め製品を提供する。
【解決手段】生地1の表面の絵柄となる部分の輪郭を糸目糊2で描く糸目糊置き工程と、前記輪郭内に伏せ糊3を塗る伏せ糊置き工程と、染料4を含む染液にて生地を着色する引き染め工程と、前記輪郭を平行移動させた位置に染料及びにじみ止めを含む染液にて影6を描いた後、伏せ糊3を洗い落とす影付け工程と、前記輪郭内に染料、にじみ止め及び胡粉を含む染液にて着色する(絵柄7を描く)色挿し工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、友禅染め製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
友禅染めは以下の多数の工程を経る。まず、図1(a)に示すように白生地1を準備し、必要に応じて下絵用のインクで下絵を描き、その上に糊を塗布する(糊置きと言われる。)。図示の例は星形を絵柄とする製品のものである。糊置きは図1(b)に示すように輪郭線上にゴムを主成分とする糸目糊2を置く工程と、それに続いて図1(c)に示すように輪郭内に餅米などの水溶性糊を主成分とする伏せ糊3を置く工程とを含む。いずれも地の色が染まらないようにするためである。
【0003】
糊が乾いたら、図1(d)に示すように染料4を含む染液で地色を染め(引き染めと言われる。)、生地を蒸して定着させ、図2(a)に示すように伏せ糊3を水で洗い落とす(水元と言われる。)。そして、図2(b)に示すように輪郭内を地色と異なる色の染料5を含む染液で着色する(色挿しと言われる。)。揮発水洗、蒸し、水元などにより図2(c)に示すように染料5の定着と糸目糊2の除去を行う。最後に、染めむらや汚れの有無を検査して修正し(地直しと言われる。)、場合により金銀などの箔を付けたり刺繍を施したりする(加飾と言われる。)。
【0004】
尚、この明細書では、色材の原液を染料、これを溶媒で希釈して生地の着色に直接用いられるものを染液と称する。
友禅染めは、以上の通り糊置きをすることにより、隣り合う模様の色が混ざらないようにされていることから、多彩な色が美しく実現されている。
【非特許文献1】http://www.kougei.or.Jp/crafts/kyoto/yuzen3.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の友禅染め製品は、立体感に乏しい。
それ故、この発明の課題は、物体に光を照射した際に物体の後方に映る影が絵柄とともに描かれ、立体感に富んだ友禅染め製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その課題を解決するために、この発明の友禅染め製品の製造方法は、
生地の表面の絵柄となる部分の輪郭を糸目糊で描く糸目糊置き工程と、
前記輪郭内に伏せ糊を塗る伏せ糊置き工程と、
染料を含む染液にて生地を着色する引き染め工程と、
前記輪郭を平行移動させた位置に染料及びにじみ止めを含む染液にて影を描いた後、伏せ糊を洗い落とす影付け工程と、
前記輪郭内に染料、にじみ止め及び胡粉を含む染液にて着色する色挿し工程と
を備えることを特徴とする。
【0007】
この方法によれば、、絵柄の輪郭上に糸目糊、輪郭内に伏せ糊が置かれた状態で影を描くので、影を描く染液が輪郭内に浸入しない。従って、見る者に影らしく絵柄の後方に存在するかのように錯覚させる。
色挿し後、通常はにじみ止めや糸目糊が洗い落とされる。
【0008】
こうして得られた友禅染め製品は、
生地と、
染料及び胡粉からなり生地の表面に描かれた絵柄と、
染料からなり絵柄と重複する部分を除くほかは絵柄を平行移動させた輪郭を有するように生地の表面に描かれた影と
を備えることを特徴とする。
この製品によれば、影を描く染液には胡粉が含まれていないので、影らしい半透明感が生じる。
【0009】
引き染め工程の後、影付け工程の前に、生地の全表面ににじみ止めを塗る工程を備えると良い。これにより、影と地との境界線が曖昧となり、ますます現実の影に似るからである。また、引き染め工程における染液中の染料組成は影付け工程におけるそれと同一であって、引き染め工程における染料濃度が影付け工程におけるそれよりも薄いのが好ましい。これにより、影が地色よりも相対的に暗くなるだけであって、ますます現実の影に似るからである。
【発明の効果】
【0010】
絵柄の後方に影が存在するかのように見る者に錯覚させるので、絵柄に立体感を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
引き染めまでの工程は従来の友禅染め技法と同様であって良い。予め影の色又は地色を決め、影を付けるための染液の染料濃度を引き染め用の染液の染料濃度と同一組成で濃度のみ高くなるように調製する。例えば、計量手段があるとき、引き染め用の染液がa染料とb染料をa染料:b染料=7:3となるように調合し、a+bの合計量が全体の10%となるように溶媒(通常は水)で薄めたものであるとする。この場合、影付け用の染液もa染料:b染料=7:3となるように調合し、にじみ止めを加え、更にa+bの合計量が全体の30%となるように溶媒を加える。にじみ止めの濃度は例えば染液全体に対して60〜70%である。計量手段がないときは、影付け用の染液を溶媒で希釈して製品とは別の端切れ布などに試し塗りし、色合い及び彩度が地色と同じになるまでa染料、b染料及び溶媒を交互に添加してもよい。
【0012】
従来と異なり、引き染め直後は水元を行わず、蒸しのみ行う。従って、図1(d)に示すように地色となる染料4が定着され、絵柄となる輪郭上には糸目糊2、輪郭内には伏せ糊3が置かれた状態にある。そして、生地の表面全体ににじみ止めを均一に塗る。このときのにじみ止めの濃度は、生地の性質にもよるが影付け用の前記染液中の濃度とほぼ同じか若干薄くしてもよい。
【0013】
次に、生地1を伸子で張り、絵柄を平行移動させた位置に影付け用に調製した前記染液で影6を描く(図3(a))。伏せ糊3の上には染液を付けない。乾燥したら、蒸して影6を定着させ、水元を行って伏せ糊3を洗い落とす(図3(b))。糸目糊2で囲まれる領域に染料、にじみ止め及び胡粉を含む染液にて着色することにより、絵柄7を描く(図3(c))。このときの染料は、引き染め用や影付け用のものとは通常異なる色のものであるが、同一であってもよい。その後、再び蒸して染料及び胡粉を定着させ、揮発水洗及び水元を行って糸目糊2及びにじみ止めを除去する(図3(d))。最後に必要に応じて湯のし、地直し、加飾などを行い、影付きの友禅染め製品が完成する。
【0014】
得られた製品中の影6は、図4(a)に図3のP部拡大図として示すように地との境界線付近で濃度が地に向かって漸減しており、境界線が曖昧になっている。また、影6は地色と同色で濃度が濃いだけである。従って、あたかも絵柄7が生地1より浮き出て、そこに光が照射されて後方の生地1に影が生じているように見える。
尚、引き染め後、生地の表面全体ににじみ止めを塗ることなく影6を描いた場合は、影6と地との境界線が図4(b)に示すように明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】友禅染めにおける引き染めまでの工程を示す図である。
【図2】引き染めの後に行われる従来の工程を示す図である。
【図3】引き染めの後に行われるこの発明の工程を示す図である。
【図4】(a)は図3のP部拡大図、(b)は別の工程による同じ部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0016】
1 生地
2 糸目糊
3 伏せ糊
4 染料(引き染め)
5 染料(色挿し)
6 影
7 絵柄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地と、
染料及び胡粉からなり生地の表面に描かれた絵柄と、
染料からなり絵柄と重複する部分を除くほかは絵柄を平行移動させた輪郭を有するように生地の表面に描かれた影と
を備えることを特徴とする友禅染め製品。
【請求項2】
前記生地が影と同一組成で濃度の薄い染料にて染められている請求項1に記載の友禅染め製品。
【請求項3】
生地の表面の絵柄となる部分の輪郭を糸目糊で描く糸目糊置き工程と、
前記輪郭内に伏せ糊を塗る伏せ糊置き工程と、
染料を含む染液にて生地を着色する引き染め工程と、
前記輪郭を平行移動させた位置に染料及びにじみ止めを含む染液にて影を描いた後、伏せ糊を洗い落とす影付け工程と、
前記輪郭内に染料、にじみ止め及び胡粉を含む染液にて着色する色挿し工程と
を備えることを特徴とする友禅染め製品の製造方法。
【請求項4】
引き染め工程の後、影付け工程の前に、生地の全表面ににじみ止めを塗る工程を備える請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
引き染め工程における染液中の染料組成は影付け工程におけるそれと同一であって、引き染め工程における染料濃度が影付け工程におけるそれよりも薄い請求項3に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate