説明

双安定ディスプレイ装置

双安定ディスプレイ装置は、回転可能な二色球体14を液晶材料キャリア15内にそれぞれが包含している複数の空洞13を有しているシート2を包囲する2つのセル壁3、4と、電界を印加するための電極6、7とを備える。球体14および空洞13には、それらに接触する液晶材料に実質的に単一方向のダイレクター配向を課す表面配向が施される。それぞれの空洞内の液晶材料の弾性歪み自由エネルギーは、懸濁した球体の好ましい方向が、周囲の空洞の好ましい方向、例えば黒色が上方であるときの方向と一致するときに、ゼロになるように調節される。それは、球体が180°回転されて、対照的な光学的外観、例えば黒色が下方である外観を有しているその反対側半球が現れるときにも、ゼロになる。これら2つの状態の間には、切換のための閾値と改善された双安定との両方をもたらす液晶の弾性定数によって決定された、エネルギー障壁が存在している。シートの製造の間に、配向は、成分の硬化あるいは冷却の間における電界あるいは磁界の印加によって促進されることができる。ディスプレイは、知られている多重化方式によってアドレス指定されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクスに保持された粒子が電界によって回転される、電気的にアドレス指定可能なディスプレイに関し、詳しくは双安定スイッチングを有している装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
知られている装置は、プラスチックシート内の液滴に懸濁された二色球体のアレイを備える。球体の両側は、相異なる電荷を帯びており、印加された電界のもとで、球体は回転することができ、装置の見かけの色または反射率が変更される。磁気によって作動される装置もまた知られている。この装置は、「ジリコン(Gyricon)」装置として、その詳細が米国特許第4,126,854号、米国特許第4,143,103号、米国特許第5,075,186号、米国特許第5,262,098号、米国特許第5,344,594号、および米国特許第5,389,945号で説明され、これらの特許は参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ジリコン装置では、真の閾値または双安定作用が、ほとんどあるいはまったく示されない。いったん書き込まれた画像は、電界が印加されないと仮定すると安定しているが、装置の書込特性によって多重駆動が困難になる。複雑な装置には、アクティブマトリクス型駆動回路を組み込まなければならない。このことによって、情報ディスプレイおよび電子ペーパーのような用途に関する技術の有用性が制限される。
【0004】
双安定が乏しくかつ真の閾値がないという問題は、本発明によって、球体を液晶材料に懸濁させると共に、液晶ダイレクター配向をもたらすために球体および空洞を表面処理することによって、解決される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、回転可能な二色粒子を液体キャリア内にそれぞれが包含している複数の空洞を有しているシートを包囲する2つのセル壁と、電界を印加するための電極とを備える、双安定ディスプレイ装置であって、液体キャリアは液晶材料であり、かつ、空洞とともに球体は、それらに接触する液晶材料に実質的に単一方向のダイレクター配向を課す表面配向が施されており、それによって、二色粒子が、2つの切換可能な双安定状態間にエネルギー障壁を含む、2つの切換可能な双安定状態を有することを特徴とする、双安定ディスプレイ装置が提供される。
【0006】
液晶材料は、正の誘電率異方性あるいは負の誘電率異方性のいずれかのネマチック材料であるのが好ましい。
【0007】
球状粒子は、100μm未満の直径、例えば約45μm未満の直径、典型的には約10μmの直径を有している。
【0008】
シートの厚さは、約50μmから1000μmであってよい。
【0009】
セル壁は、硬質ガラスまたはプラスチック、あるいは薄い可撓性プラスチック材料からなるものであってよい。
【0010】
本発明は、これから、添付図面を参照しながら例示としてのみ説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1、図2におけるディスプレイは、ディスプレイセル1を備え、ディスプレイセル1は、ガラス壁3、4の間に収容されたプラスチック材料からなるシート2と、(任意には)スペーサリング5によって形成されている。壁3、4は、典型的には50μmから1000μm、例えば約500μm離れている。一方の壁3には、例えばSnOあるいはITO(インジウムスズ酸化物)からなるストリップ状の行電極6が形成されており、他方の壁4には、同様の列電極7が形成されている。m行およびn列の電極で、アドレス指定可能な要素あるいは画素からなるm×nマトリクスが形成されている。それぞれの画素は、行電極と列電極との交点によって形成される。一方あるいは双方の電極6、7は、光学的に透明である。
【0012】
行ドライバ8は、それぞれの行電極6に電圧を供給する。同様に、列ドライバ9は、それぞれの列電極7に電圧を供給する。印加される電圧は、電圧源11からの電力を受ける制御論理回路10から制御され、タイミングは、クロック12から制御される。
【0013】
プラスチックシート2は、光学的に透明であり、ネマチック液晶混合物E7のような液晶材料15に浮遊している球状に形成された粒子14によって充填された、多数の球状空洞13を担持し、ネマチック液晶混合物E7は、市販されていて、正の誘電率異方性のシアノビフェニルとシアノテルフェニルとの混合物からなる。それぞれの粒子14の一方側は、他方側とは異なった色が付けられており、例えば一方側が黒色であって、他方側が白色である。他の色の組み合わせを使用してもよい。
【0014】
粒子14は、両側が滑らかであるかあるいは粗いものでもよく、または一方側が滑らかであって他方側が粗いものでもよい。粒子の一方側は、高度に吸収性のものであって、他方側は、高度に反射性のものであってもよい。誘電性液体内の粒子は、それらの表面被覆のゼータ電位に関連した電荷を帯びている。粒子の光学的異方性に対応して、相異なる表面には、粒子が光学的異方性に加えて電気的異方性を有しているために、相異なるゼータ電位が存在している。
【0015】
電界の印加によって、球状粒子の回転と光学的外観の変化とが生じる。例えば、正の電界によって黒色部分が上側になり(図3の左手側)、負の電界によって白色部分が上側になる(図3の右手側)。このように、電圧をそれぞれの行および列電極に多重アドレス指定方式で印加することによって、ディスプレイにおけるそれぞれの画素は、所望のディスプレイパターンを形成するようにアドレス指定されることができる。多重化アドレス指定は、装置の選択された画素へ閾値を超える電圧を、ラインに一度に印加することで達成されることができる。このアドレス指定を達成すると共に、閾値電圧未満で装置に非選択誤差電圧を維持するための手段は、当業者によく知られている。
【0016】
球体は、従来技術において説明されたようにして作ることができる。例えば、相異なって着色された2種のプラスチック液体を、回転ディスクの両側に塗布することによる。遠心力によって、2種の液体はディスクの周縁へ向かって流れ、それら2種の液体は、縁部で混合され、最終的に二色球体、すなわち光学異方性球体として分割される二色性リガメントを形成する。代わりに、小球体を予備形成しておき、次に例えば方向性真空蒸着によって、着色物質で被覆してもよい。蒸着された物質は、それぞれの球体における一方の半球の色とゼータ電位との両方を同時に変更する。適切な球体は、15%の二酸化チタン顔料を含有しているポリ(メチルメタクリレート)から構成されたポリマー球体における一方の半球の上に銅フタロシアニン顔料の蒸発によって、得ることができる。
【0017】
球体は、マトリクスシート2内に組み込む前にあるいは組み込んだ後に、液晶分子への配向を与えるために表面処理される。このような配向は、配向した液晶モノマー混合物から熱重合あるいは紫外線重合または架橋によってそれらを形成することで、達成されることができる。配向した液晶ポリマーもまた、同様の手段によって、等方性球体上における表面被覆として施すことができる。適切な配向は、球体を、およそ100nmの4−シアノ−4’−(3−メタクリロイルプロピロキシ)ビフェニル層で被覆し、それらを光学的異方性の軸に整列した5Tの磁界中に置き、次いで球体を化学作用光にさらすことで達成することができる。球体上には、配向した液晶内にそれらを懸濁した状態で形成するかあるいは冷却することによって、方向性表面もまた達成することができ、球体自体は、等方性ポリマーから形成される。代わりに、付着されかつパターン形成されたポリマーおよび界面活性剤のような、知られている表面処理が適用されることができる。あるいは、表面にテクスチャリングが施され、液晶配向がもたらされる。
【0018】
球体14が組み込まれているシート2は、球体を、硬化されていない液状エラストマーと混合し、熱重合あるいは紫外線重合によって硬化させて、空洞13内の液晶材料に配向を与えることで、形成されることができる。硬化されるとき、シート2は、誘電性液状可塑剤内に置かれるが、この可塑剤もまた、先に言及したE7液晶のような液晶材料である。しばらく浸漬された後に、可塑剤は、シートに吸収され、それによって、シートを膨張させると共に、球体14と空洞壁13との間の空間を満たす。硬化されていない液状エラストマーは、市販されているシルガード(Sylgard)184のようなシリコーンプレポリマー、あるいはビスフェノール−A/エピクロルヒドリン縮合物のようなエポキシプレポリマーであってよい。代わりに、球体14が組み込まれているシート2は、球体を、球体が実質的に不溶性である溶媒に溶解された可溶性ポリマーと混合させた後に、溶媒を除去することによって、形成されることができる。シートはその後、上記のような液晶流体で膨張される。
【0019】
硬化あるいは溶媒蒸発のステップは、液晶流体での層の膨張と同じように、あるフィールド内で、例えば、液晶相に好ましい配向方向を課すように作用する電界あるいは磁界内で実行されることができる。典型的には、前記配向は、また、強く固定される配向層のない状態で、隣接する固体表面に刻印される。
【0020】
場合によっては、ポリマー層は、ポリマーが等方性状態にあるような温度で、硬化によってあるいは溶媒蒸発によって層内に形成された、液晶ポリマーから構成されることができる。その後の冷却は、場合によっては印加されたフィールド内で、ポリマー上とそれに接触する固体表面上とに方向性オーダを課すであろう。場合によっては、そのような液晶ポリマーは、基板上に形成されることができ、あるいは配向、例えば相にホメオトロピック配向を課すように処理された基板間に形成されることができる。層の膨張はまた、液晶流体を用いて、それが異方性状態にあると共に冷却時に液晶状態を形成するような温度で実行されることができる。場合によっては、この冷却段階の間にフィールドを課すことができる。フィールドは、印加されるときには、永久磁石あるいは電磁石、高電圧に連結された二次電極を含む知られている手段によって、あるいはコロナ放電によって、発生させることができる。
【0021】
適切な液晶ポリマーには、シアノビフェニル基、エステル基、ビフェニル基、アゾキシ基、フェニルシクロヘキサン基、およびビフェニルシクロヘキサン基で置換された、シロキサン鎖、アクリレート鎖、メタクリレート鎖、ポリ(オキシラン)鎖およびポリ(オキセタン)鎖に基づいた、側鎖ポリマーが含まれる。場合によっては、液晶側基と主ポリマー鎖との間にスペーサユニットが含まれている。主鎖液晶ポリマーも使用することができる。
【0022】
空洞表面配向は、それぞれの球体に対する表面配向と共に、それらに接触している液晶に実質的に単一方向のダイレクター配向を課す。それぞれの空洞内の液晶材料の弾性歪み自由エネルギーは、懸濁した球体の好ましい方向が、周囲の空洞の好ましい方向、例えば黒色が上方であるときの方向と一致するときに、最小になるように調節される。その弾性歪み自由エネルギーは、球体が180°回転されて、対照的な光学的外観、例えば黒色が下方である外観を有しているその反対側半球が現れるときにも、最小になる。これら2つの状態の間には、切換のための閾値と改善された双安定との両方をもたらす、液晶の弾性定数によって決定されたエネルギー障壁が存在している。
【0023】
正確に単一方向で均一な配向が、それぞれの表面で達成されることは必ずしも必要ではない。例えば、球体の表面における規定された箇所で、Boojum構造として知られた欠陥対を形成するための液晶の配向と、液滴の内部における対応配向とは、また充分であろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】プラスチックシートの内部に球状粒子を有している、マトリクス多重化アドレス指定型ディスプレイの平面図である。
【図2】図1のディスプレイ断面図である。
【図3】拡大断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な二色粒子(14)を液体キャリア(15)内にそれぞれが包含している複数の空洞(13)を有しているシート(2)を包囲する2つのセル壁(3、4)と、電界を印加するための電極(6、7)とを備える、双安定ディスプレイ装置であって、
液体キャリア(15)が、液晶材料であり、かつ、
空洞(13)と共に二色粒子(14)は、二色粒子および空洞に接触する液晶物質に実質的に単一方向のダイレクター配向を課す、表面配向が施され、
それによって、二色粒子(14)が、2つの切換可能な双安定状態間にエネルギー障壁を含む、2つの切換可能な双安定状態を有することを特徴とする、双安定ディスプレイ装置。
【請求項2】
二色粒子(14)が、球状形態である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
二色粒子(14)が、楕円体形態である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
液晶材料が、正の誘電率異方性あるいは負の誘電率異方性のいずれかのネマチック材料である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
球状粒子が、100μm未満の直径、例えば約45μm未満の直径、典型的には約10μmの直径を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
球状粒子が、約45μm未満の直径を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
シートの厚さが、50μmから1000μmである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
セル壁が、硬質ガラスまたはプラスチック、あるいは薄い可撓性プラスチック材料から作られている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
液晶材料が、ネマチック液晶、スメクチックA液晶、スメクチックC液晶、カイラルネマチック液晶を含むリストから選択された材料である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
シートが、液晶側鎖ポリマーから形成されている、請求項1に記載の装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な二色粒子(14)を液体キャリア(15)内にそれぞれが包含している複数の空洞(13)を有しているシート(2)を包囲する2つのセル壁(3、4)と、電界を印加するための電極(6、7)とを備える、双安定ディスプレイ装置であって、
液体キャリア(15)が、液晶材料であり、かつ、
空洞(13)と共に二色粒子(14)は、二色粒子および空洞に接触する液晶物質に実質的に単一方向のダイレクター配向を課す、表面配向が施され、
それによって、二色粒子(14)が、2つの切換可能な双安定状態間にエネルギー障壁を含む、2つの切換可能な双安定状態を有することを特徴とする、双安定ディスプレイ装置。
【請求項2】
二色粒子(14)が、球状形態である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
二色粒子(14)が、楕円体形態である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
液晶材料が、正の誘電率異方性あるいは負の誘電率異方性のいずれかのネマチック材料である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
球状粒子が、100μm未満の直径、例えば約45μm未満の直径、典型的には約10μmの直径を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
球状粒子が、約45μm未満の直径を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
シートの厚さが、50μmから1000μmである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
セル壁が、硬質ガラスまたはプラスチック、あるいは薄い可撓性プラスチック材料から作られている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
液晶材料が、ネマチック液晶、スメクチックA液晶、スメクチックC液晶、カイラルネマチック液晶を含むリストから選択された材料である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
シートが、液晶側鎖ポリマーから形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
双安定ディスプレイ装置の製造方法であって、
回転可能な二色粒子を液体キャリア内にそれぞれが包含している複数の空洞を有しているシートを提供するステップと、
シートを2つのセル壁で包囲するステップと、
電界を印加するための電極を提供するステップとを含み、
液体キャリアは液晶材料であり、かつ、二色粒子および空洞には、二色粒子および空洞に接触する液晶材料に実質的に単一方向のダイレクター配向を課す表面配向が施され、それによって、二色粒子が、2つの切換可能な双安定状態間にエネルギー障壁を含む、2つの切換可能な双安定状態を有している、双安定ディスプレイ装置の製造方法。
【請求項12】
回転可能な二色粒子が、シート内に粒子を組み込む前に、液晶材料への表面配向を与えるために表面処理される、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−520488(P2006−520488A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505950(P2006−505950)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001049
【国際公開番号】WO2004/081907
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】