説明

双胴船

【課題】 肥えた船型のものや双胴間隔が狭いものでも造波抵抗が少なくエネルギー効率の高い双胴船を提供することを目的とする。特に、瀬戸内海のような内海を航走する船に対し、カキの養殖等水産施設にダメージを与えないように船舶が航走時にできる波(曳き波)の小さい、また、多くの貨客を効率良く輸送することができる両頭船に適用可能な双胴船を提供する。
【解決手段】 本双胴船は、船体下部にクロスデッキにより連結された一対の胴部を有する双胴船であって、前記胴部は、胴部中心面C.Lが船体正面から見て胴部上端から船底に向け双胴間隔が狭まるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
船体下部に一対の胴部がクロスデッキにより連結された双胴船の胴部の形状に係り、特に胴部中心面に対し非対称な胴部を有する双胴船に関する。
【背景技術】
【0002】
双胴船は、甲板面積が広く旅客や貨物のスペースが大きくとれ、波浪動揺に対する安定性が高いという利点を有するが、船体が水流と接する面積が広いため摩擦抵抗や造波抵抗が大きいという問題がある。これに対し、双胴船の胴部の形状を胴部中心面に対し非対称にすることによって解決しようとするものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、二隻の単胴船を左右に並列に甲板上で結合した双胴船において、双胴船の船体中心面に対して左右の単胴船の外側舷をそれぞれ平行に形成した双胴船が提案されている。
【0004】
特許文献2には、船体の左右下方にそれぞれ胴部が設けられた高速双胴船の船体形状であって、上記各胴部の船尾側の少なくとも喫水線より下方部分の断面において、各胴部の中心線から船体中心寄りの内側表面までの距離を、中心線から船体外方寄りの外側表面までの距離よりも短くしたことを特徴とする高速双胴船の船体形状が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000-198488号公報
【特許文献2】特開2000-344179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の提案に係るものは、船型が細い痩せ形船で、双胴間隔が比較的広い場合には効果があるが、船型が肥った場合や双胴間隔が狭くなると双胴間の波が急激に高くなり、船の造波抵抗が急増するという問題がある。また船型が細い痩せ形であるため多くの荷物を効率よく運ぶことができないという問題がある。
【0007】
特許文献2の提案に係るものは、トランサムスタンを有する高速船型にはある程度有効であるが、一般に造波抵抗軽減効果が少なく、特に船型が前後対称な両頭船には適用できないという問題がある。
【0008】
本発明に係る双胴船は、かかる従来の問題点に鑑み、肥えた船型のものや双胴間隔が狭いものでも造波抵抗が少なくエネルギー効率の高い双胴船を提供することを目的とする。特に、瀬戸内海のような内海を航走する船に対し、カキの養殖等水産施設にトラブルを与えないように船舶が航走時にできる波(曳き波)の小さい、また、多くの貨客を効率良く輸送することができる両頭船に適用可能な双胴船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る双胴船は、船体下部にクロスデッキにより連結された一対の胴部を有する双胴船であって、前記胴部は、胴部中心面C.Lが船体正面から見て胴部上端から船底に向け双胴間隔が狭まるように構成されてなる。
【0010】
上記発明において、胴部中心面C.Lは、船体正面から見て胴部上端から屈曲高さまでの垂下する部分と、屈曲高さから船底方向に向けて双胴間隔が狭まるように屈曲する部分から構成されているのが好ましい。さらに、胴部中心面C.Lの双胴間隔が狭まるように屈曲する部分は、傾斜する部分とそれに続く垂下する部分から構成され、かつ、前記傾斜する部分の鉛直方向成分の長さと前記垂下する部分の長さはほぼ等しくなっているのが好ましく、胴部中心面CLの傾斜する部分は、鉛直方向から船体中心線方向に45〜55°傾いているのが好ましい。
【0011】
また、上記発明においては船首バルブを有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る双胴船は、肥えた船型のものや双胴間隔が狭いものでも造波抵抗が少なく、多くの貨客を効率よく運ぶことができる。また両頭船に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る双胴船の一実施例を図面に基づいて説明する。図1は本双胴船の正面図を示し、図2はその側面図を示す。図1及び2に示すように、本双胴船は、中心線AA及びBBに対して対称な両頭型の双胴船であり、船体10、推進・舵取装置20及び船首バルブ40、41を有している。推進・舵取装置20は、推進装置と舵取装置が一体になった首振り型の推進装置が設けられており、図1に示すように、船首及び船尾にそれぞれ推進・舵取装置20A及び20Bが船体10に吊り下げられるように設けられている。船首バルブ40、41も同様に、船首側に40A、41Aと船尾側に40B、4IBが設けられている。
【0014】
船体10は、客室や貨物室が設けられる上部構造11、船体10の下部にあってその過半部が水面下にある一対の胴部15(15A、15B)と、該胴部15A、15Bを連結するクロスデッキ13を有している。
【0015】
前述のように本双胴船は、船体10は正面から見て中心線AAに対して対称形状をしているが、本双胴船の一対の胴部15(15A、15B)は、それぞれ図1及び図3に示すように非対称な形状をしている。本例の胴部15(15A、15B)の形状を図3に基づいて以下に詳述する。
【0016】
図3は、船体10を正面から見て右側の胴部15Aの鉛直及び水平断面を表す。図3において、X軸は胴部15Aの長さ方向を、Y軸は幅方向を、Z軸は高さ方向を表す。図3(a)は胴部15Aの鉛直断面を表す。当該図のZ軸は船体10の中心線AAと一致しており、Z軸に関し図示の胴部15Aと対称に胴部15B(図示せず)が設けられている。図3(b)は、図3(a)の胴部15Aの船首側水平断面を表す。当該図のY軸は船体の中心線BBと一致しており、Y軸に関し図示の船首と対称な船尾側(図示せず)が設けられている。
【0017】
図3(a)において、Z=0の高さは船底を示し、Z=2.44の高さは満載喫水線の高さ、Z=3.0の高さは胴部15A上端、すなわちクロスデッキ下面の高さを示す。C.Lは胴部15Aの構成上の基準面となる中心面を示し、胴部15Aの上端から船底に向け胴部15Aを貫いている。図3(a)に示すX5〜X9は、図3(b)に表す胴部15Aの長さ方向位置X5〜X9における鉛直断面形状を表す。一方、図3(b)に示すZ0.5〜Z2.0は、図3(a)に表す胴部15Aの高さ方向のZ0.5〜Z2.0における水平断面の形状を表す。なお、胴部中心面C.Lは、上記のように船を構成する基準面であり、この胴部中心面C.Lと胴部最大断面形状を基に、それらを滑らかに連続する曲面でもって胴部内側舷及び外側舷が形成される。
【0018】
胴部15Aは、図3(a)に示すように、船体10を正面から見て胴部中心面C.Lが胴部15A上端から船底に向け胴部15A、15Bの間隔(双胴間隔)が狭まるように構成されている。上記構成において、胴部中心面C.Lは、船体10を正面から見て胴部15A、15B上端から以下に定義する屈曲高さまでの垂下する部分と、屈曲高さから船底方向に向けて双胴間隔が狭まるように屈曲する部分から構成されているのがよい。これにより、胴部15の上部を胴部中心面C.Lに対してほぼ対称に構成することができ、水流の抵抗を受ける部分の水流抵抗を少なくし、曳き波を小さくすることができる。なお、上記の屈曲高さとは、海面下にあってその上部で波切りが行われる船底からの高さ位置をいい、船底から満載喫水線までの高さをDとしたとき胴部15A、15B上端から(0.65〜0.8)×Dほど垂下した高さ位置になっている。
【0019】
さらに、胴部中心面C.Lの双胴間隔が狭まるように屈曲する部分は、傾斜する部分とそれに続く垂下する部分から構成され、かつ、傾斜部分の鉛直方向成分の長さと垂下する部分の長さがほぼ等しくなるように構成されているのがよい。これにより一層水流抵抗を少なくし、曳き波を小さくすることができる。特に、傾斜した部分の傾斜角は、鉛直方向から船体中心線AA方向に45〜55°傾けるのがよい。傾斜角が45°未満であっても、また、55°を超えても曳き波が大きくなる。
【0020】
また、本発明の双胴船には、船首バルブを設けるのがよい。本例では、船首側に船首バルブ40A、41Aが、船尾側に船首バルブ40B、41Bがそれぞれ設けられている。船首バルブ40、41は楕円体形状をしており、船体10自身が作る波と船首バルブ40、41が作る波の干渉によって形成される波高さを低くし造波抵抗を少なくすることができる。なお、本双胴船の船首バルブ40、41は、図2に示すように、比較的船底から高い位置に設けられており、接岸等の横移動操作時に推進・舵取装置20の推進機能に支障がないようになっている。
【実施例1】
【0021】
船長30.0m、胴部最大幅約4.5m、満載喫水2.44mで、船速5.1444m/s(10kn)の両頭双胴船について、水流抵抗値から計算できる有効馬力及び船体の側方20m位置における曳き波高さの最大値を、数値解析及び縮尺比1/20の模型船による水槽試験により求めた。なお、胴部形状は図3に示すものと同様にした。比較例は、本発明例と同等仕様の特許文献1により提案された船型の双胴船を用いた。
【0022】
【表1】

表1に示す通り,有効馬力は比較例に対し約半減し、曳き波の最大波高は約22%低減している。発明例の曳き波高さは51.1cmであり、曳き波によるトラブルが防止できるとされる波高は60cm以下であるから、本発明によれば曳き波が瀬戸内海のカキ養殖等水産施設に与えるトラブルを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る双胴船の正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の胴部形状を表わす等高線図である。
【符号の説明】
【0024】
10 船体
11 上部構造
13 クロスデッキ
15(15A、15B) 胴部
20(20A、20B) 推進・舵取装置
40(40A、40B) 船首バルブ
41(41A、41B) 船首バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体下部にクロスデッキにより連結された一対の胴部を有する双胴船であって、前記胴部は、胴部中心面C.Lが船体正面から見て胴部上端から船底に向け双胴間隔が狭まるように構成されていることを特徴とする双胴船。
【請求項2】
胴部中心面C.Lは、船体正面から見て胴部上端から屈曲高さまでの垂下する部分と、屈曲高さから船底方向に向けて双胴間隔が狭まるように屈曲する部分から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の双胴船。
【請求項3】
胴部中心面C.Lの双胴間隔が狭まるように屈曲する部分は、傾斜する部分とそれに続く垂下する部分から構成され、かつ、前記傾斜する部分の鉛直方向成分の長さと前記垂下する部分の長さはほぼ等しくなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の双胴船。
【請求項4】
胴部中心面CLの傾斜する部分は、鉛直方向から船体中心線方向に45〜55°傾いていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の双胴船。
【請求項5】
船首バルブを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の双胴船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56305(P2006−56305A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237970(P2004−237970)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(502298192)流体テクノ有限会社 (11)
【出願人】(595019108)中谷造船株式会社 (2)