説明

反力装置

【課題】スペース効率に優れて十分な反力を発生させることのできる反力装置を得る。
【解決手段】地盤G上に設けられた基礎部材32と、基礎部材32上に設けられ、刃口やシールドマシンなどの掘削手段を推し進めるジャッキの推力を受ける反力受け部材33と、反力受け部材33のジャッキ側において基礎部材32と反力受け部材33とを連結するとともに基礎部材32に対して傾斜して設けられ、反力受け部材33が受けたジャッキの推力を基礎部材32に伝達する連結部材34と、一方端側が基礎部材32に固定されて設けられ、掘削手段を推し進める方向に傾斜して土中に埋設されたアンカー部材35とを有する反力装置31である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反力装置に関し、特に、推進工法やシールド工法などにおいて反力を得るために用いられる反力装置に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行する列車や車などの流れを阻害せずに、矩形断面を有する中空の函体構造物(例えば、プレキャストボックスカルバートなど)を路線下に横断して構築する工法としては、たとえばR&C工法、SFT工法、FJ工法など、様々な推進工法が知られている。
【0003】
また、トンネル建設工法としては、シールドマシンと称される鋼製の筒体や枠体を地中に押し込みながらトンネルを構築するシールド工法が知られている。
【0004】
これら推進工法やシールド工法では、先端に刃口や掘進機といった掘削手段を取り付けて地中を掘削しつつ、後方に設置されたジャッキで推し進めて地中構造物を埋設する。
【0005】
そして、このような工法においては、発進基地において、掘削手段を推し進めるジャッキの反力を得ることが必要になる。
【0006】
ここで、発進基地で反力を得るために、例えば以下の4種類の技術が知られている。
【0007】
それは、図5に示すように、発進基地として立坑(発進立坑)51を掘削し、この発進立坑51の背面にコンクリートあるいは鋼製の反力装置52を築造して、当該反力装置52で反力を得て掘削手段53を推し進める技術である。
【0008】
また、図6に示すように、土砂54を挟んだ二重鋼矢板締切55を設置して反力装置56とする技術である。
【0009】
さらに、図7に示すように、鋼材57でトラスを組み、これを反力装置58とする技術である。
【0010】
そして、図8に示すように、掘削地盤にアースアンカー59を設置して壁体60を連結し、これを反力装置61とする技術である。
【0011】
なお、反力装置に関する技術については、例えば特開昭57−112594号公報、特開昭59−88595号公報、特開平2−210191号公報に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭57−112594号公報
【特許文献2】特開昭59−88595号公報
【特許文献3】特開平2−210191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した図5〜図7に示す反力装置52,56,58では、反力装置52,56,58を築造するために前後方向に大きなスペースが必要となってスペース効率が悪いため、狭隘な場所での築造が困難であった。
【0014】
また、図8に示す反力装置61では、アースアンカー59の引き抜き耐力が得られるだけの土被りが必要なために、十分な反力を得るための作業が大がかりになる場合がある。
【0015】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、スペース効率に優れ、十分な反力を容易に得ることのできる反力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の反力装置は、地盤上に設けられた基礎部材と、前記基礎部材上に設けられ、掘削手段を推し進める推進手段の推力を受ける反力受け部材と、前記反力受け部材の前記推進手段側において前記基礎部材と前記反力受け部材とを連結するとともに前記基礎部材に対して傾斜して設けられ、前記反力受け部材が受けた前記推進手段の推力を前記基礎部材に伝達する連結部材と、一方端側が前記基礎部材に固定されて設けられ、前記掘削手段を推し進める方向に傾斜して土中に埋設されたアンカー部材と、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、前記基礎部材は鉄筋コンクリートまたは鋼材で構成される、ことを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2に記載の発明において、前記アンカー部材は、土中部分の少なくとも一部が当該土中に形成された削孔内に注入されたグラウト材に固定された棒状鋼製部材である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明によれば、スペース効率に優れて十分な反力を発生させることのできる反力装置を得ることが可能になる。
【0020】
請求項2記載の発明によれば、鉄筋コンクリートの場合には構築が容易で、アンカー部材との定着強度が確保しやすくなり、鋼材の場合には取り扱いが容易になる。
【0021】
請求項3記載の発明によれば、アンカー部材として地盤から十分な引抜耐力を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る反力装置が用いられた地中構造物の構築工法を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る反力装置を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る反力装置を構成する基礎部材とアンカー部材とを示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る反力装置の力学的構成を示す説明図である。
【図5】従来の技術における反力装置の一例を示す説明図である。
【図6】従来の技術における反力装置の他の一例を示す説明図である。
【図7】従来の技術における反力装置の他の一例を示す説明図である。
【図8】従来の技術における反力装置の他の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
本実施の形態において用いられる反力装置は、刃口やシールドマシン(掘進機)などの掘削手段を推し進めるジャッキなどの推進手段の反力を得るためのものであり、例えば図1に示すように、推進工法の一つであるR&C工法において用いられる。
【0025】
すなわち、矩形断面を有するとともに前後が開口した中空構造の函体構造物を地中に縦列配置することにより、下水道、導水路、道路用暗渠、地下横断歩道などを構築するものであり、図1においては、軌道下を横断する地下道の構築について示されている。
【0026】
この地下道は、軌道20の下において、当該軌道20に対して直交して設けられる。
【0027】
図1において、軌道20を挟んだ両側地盤に土留壁25を打ち込んで発進立坑21および到達立坑22を掘削した後、計画地下道の予定位置に発進立坑21より軌道20を横断する方向、すなわち地下道の延在方向に、断面中空矩形状のパイプ23を圧入する。
【0028】
パイプ23は計画地下道の内周に沿って並び、且つ計画地下道の地面に相当する部分は除かれるようにして圧入する。なお、図1において、図面表示の煩雑さを回避するために、計画地下道の天井部分に圧入されたパイプ23のみが図示されている。
【0029】
計画地下道の天井部分に相当するパイプ23の上面には、当該パイプ23の幅および全長に略等しい帯状鋼板よりなるFC(フリクションカット)プレート26を載置し、当該FCプレート26の先端部のみをパイプ23の先端に溶接或いは螺子止め等により固定する。そして、パイプ23を圧入した後は、パイプ23との固定を解除して土留壁25に固定する。
【0030】
このようにして発進立坑21から到達立坑22まで貫通するパイプ23の圧入を終えてパイプ群を構築したならば、発進立坑21内に推進台27を設置し、当該推進台27の上に、刃口28(掘削手段の一例)をパイプ群に向けて取り付けた函体構造物10を載置する。また、到達立坑22内には、函体構造物10と置き換えられて除去されたパイプ23を受ける受台29を設置する。
【0031】
函体構造物10を推進台27の上に載置したならば、函体構造物10の後方に反力装置31を構築し、当該反力装置31と函体構造物10との間に複数本のジャッキ30(推進手段の一例)を設置する。
【0032】
そして、ジャッキ30を作動させ、刃口28により地山を掘削しながら函体構造物10を推進させ、パイプ23を到達立坑22側に押し出す。このとき、刃口28によって函体構造物10の両側壁側の地盤が切削され、その土砂が函体構造物10内に取り込まれるので、この土砂を排除しながら函体構造物10を押圧する。
【0033】
このようにして最初の函体構造物10を推進させ、内部土砂を切削しながら到達立坑22側に先頭のパイプ23を排出して函体構造物10と置換したならば、先に施工された函体構造物10の後方に次に施工される函体構造物10を設置して推進し、次のパイプ23を到達立坑22側に排出する。これを順次繰り返すことで函体構造物10を縦列配置して地下道を構築するものである。
【0034】
ここで、本実施の形態における反力装置31について、図2および図3を用いて説明する。
【0035】
図2において、反力装置31は、地盤Gの上に設けられた、例えば鉄筋コンクリート製の基礎部材32を有している。なお、基礎部材32は、後述する反力受け部材33と連結部材34の鉛直反力を地盤Gに伝達している。
【0036】
基礎部材32を鉄筋コンクリート製としたのは、構築の容易さと、アンカー部材35としてのPC鋼線35aとの定着強度の確保しやすさとを考慮したものである。但し、基礎部材32は鉄筋コンクリート製に限定されるものではなく、例えば取り扱いやすさを考慮して、鋼材を組むことにより構成してもよい。
【0037】
基礎部材32の上には、函体構造物10の先端に配置された刃口28を推し進めるためのジャッキ30の推力を直接受ける反力受け部材33が設けられている。この反力受け部材33は、例えば鋼製の井桁枠からなる。
【0038】
さらに反力装置31には、基礎部材32と反力受け部材33とを連結する鋼製の連結部材34が設けられている。図示するように、この連結部材34は、反力受け部材33のジャッキ30側において基礎部材32と反力受け部材33とを連結しており、基礎部材32に対して傾斜して設けられている。
【0039】
本実施の形態において、連結部材34は、基礎部材32の幅方向の両端にそれぞれ2本ずつの合計4本設けられている。但し、連結部材34は基礎部材32の幅方向の両端に設けられていれば足り、本数は自由に設定することができる。
【0040】
前述のように反力受け部材33はジャッキ30の推力を直接受けるので、このような連結部材34を設けることによって、当該推力は基礎部材32に(より正確には、基礎部材32における反力受け部材33よりもジャッキ30側に)伝達される。
【0041】
そして、反力装置31の土中には、一方端側が基礎部材32に固定されたアンカー部材35が埋設されている。このアンカー部材35は、刃口28を推し進める方向に傾斜して土中に埋設されている。
【0042】
なお、反力装置31が構築される地盤の強度や必要とされる反力の大きさ、アンカー部材35の長さなどにもよるが、アンカー部材35は多数本(例えば10本以上)が打ち込まれることが多い。
【0043】
ここで、アンカー部材35の詳細について、図3に示す。
【0044】
図3において、アンカー部材35はPC鋼線35a(棒状鋼製部材の一例)を有しており、当該PC鋼線35aの一方端側が鉄筋コンクリート製の基礎部材32に貫通してナット37等で固定されており、それ以外の部分は土中に埋まっている。そして、土中部分は、基礎部材32側の所定長を残して、土中に形成された削孔36内に注入されたグラウト材35bに固定されている。
【0045】
このような構造により、引張荷重に耐えるPC鋼線35a、およびPC鋼線35aと地盤Gとの間に充填されるグラウト材35bの地盤Gに対する摩擦で、アンカー部材35として地盤Gから十分な引抜耐力を得ている。
【0046】
なお、本実施の形態では、前述のように、PC鋼線35aの土中部分は、基礎部材32側の所定長部分にはグラウト材35bが存在していないが、これはPC鋼線35aの引抜力に対する伸び代(のびしろ)部分を確保するためである。但し、このような伸び代を確保するのではなく、土中部分全てをグラウト材35bで固定してもよい。すなわち、PC鋼線35aは、土中部分の少なくとも一部がグラウト材35bで固定されていればよい。
【0047】
なお、棒状鋼製部材としてはPC鋼線35aに限定されるものではなく、例えば鋼管杭など、他の様々な棒状鋼製部材を適用することができる。
【0048】
次に、以上のような構成からなる反力装置31における力学的構成について図4に示す。なお、図4において、矢印は力の方向を、丸印は部材間の接合部位を、三角印は反力の作用する位置を、それぞれ示している。
【0049】
図4において、ジャッキ30の推力F1が反力受け部材33に作用すると、連結部材34により、基礎部材32と反力受け部材33とに曲げモーメントが発生する。このとき、基礎部材32の反力受け部材33との接合部位には、地盤の反力F3が作用する。なお、基礎部材32と反力受け部材33とには、発生する曲げモーメントに耐える程度の強度が付与される。また、基礎部材32と反力受け部材33とは連結部材34で連結されているので、両者の間には引っ張り力が作用する。さらに、アンカー部材35には引っ張り力が作用し、反力F2に作用する回転モーメントと水平力とを地盤に伝達する。
【0050】
そして、このような反力装置31によれば、反力受け部材33のジャッキ30側において基礎部材32と反力受け部材33とを連結するように連結部材34を配置し、当該連結部材34によってジャッキ30の推力F1で基礎部材32と反力受け部材33とに曲げモーメントを発生させ、さらに刃口28を推し進める方向に傾斜してアンカー部材35を基礎部材32に固定し、それを反力として推進力を得ているので、スペース効率(とりわけ、前後方向のスペース効率)に優れ、しかも十分な反力を容易に得ることが可能になる。
【0051】
これにより、反力装置31の背面のスペースに余裕がない場合であっても、十分な反力の得られる反力装置31を築造することができる。
【0052】
また、立坑を発進基地として後方の地盤で反力を発生させることができない開放状態の環境でも必要な反力を得ることができ、シールド工法や推進工法といった様々な工法を適用して地中構造物を築造することができる。したがって、本発明の反力装置31は、本実施の形態のように発進立坑21を掘削しない条件下でも適用が可能である。
【0053】
ここで、仮に連結部材34がないとした場合、反力受け部材33に作用したジャッキ30の推力F1により、基礎部材32と反力受け部材33との接合部位に局所的に大きな力が加わって破壊されるおそれが発生するので、当該接合部位には破壊に耐えうる十分な強度が必要となる。
【0054】
しかしながら、本実施の形態に示すような連結部材34があれば、図4に示すように、基礎部材32と反力受け部材33とに曲げモーメントが発生して前述の接合部位に加わる力が緩和される。したがって、連結部材34がない構造と比較して、基礎部材32と反力受け部材33との接合部位を高い強度にしなくても破壊されるおそれが大幅に低減されるので、信頼性が向上することになる。
【0055】
さて、以上に説明した反力装置31は、概略的には例えば次のようなプロセスを経て築造される。
【0056】
すなわち、反力装置31を築造するためのスペースを掘削形成したならば、土中に削孔36を形成してPC鋼線35aを挿入するとともに当該削孔36内にグラウト材35bを注入し、さらにコンクリートを打設して鉄筋コンクリート製の基礎部材32を得る。
【0057】
次に、基礎部材32を反力にして緊張ジャッキ(図示せず)を用いてPC鋼線35aを緊張し、その一方端をナット37を用いて固定する。
【0058】
このようにして基礎部材32およびアンカー部材35が得られたならば、基礎部材32上に反力受け部材33を組み、最後に、基礎部材32と反力受け部材33とを連結部材34で連結する。
【0059】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではないと考えるべきである。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0060】
たとえば、上述した説明では、本発明の反力装置を推進工法の一つであるR&C工法に用いた場合が示されているが、R&C工法以外にも、例えばSFT工法やFJ工法など、様々な推進工法に用いることができる。
【0061】
のみならず、シールドマシン(掘削手段の一例)と呼ばれる鋼製の筒体や枠体を地中に押し込みながらトンネルを構築するシールド工法と称されるトンネル建設工法など、先端に掘削手段を取り付けて地中を掘削しつつ、後方に設置されたジャッキで推し進めて地中構造物を築造する際の反力装置として適用することができる。
【0062】
なお、シールド工法においては、推進手段であるジャッキは、掘削手段であるシールドマシンに設置される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上の説明では、本発明の反力装置を推進工法に適用した場合が示されているが、例えばシールド工法など、地中構造物を築造する場合に用いられる種々な工法において必要とされる反力装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 函体構造物
20 軌道
21 発進立坑
22 到達立坑
23 パイプ
25 土留壁
26 プレート
27 推進台
28 刃口
29 受台
30 ジャッキ
31 反力装置
32 基礎部材
33 反力受け部材
34 連結部材
35 アンカー部材
35a PC鋼線
35b グラウト材
36 削孔
37 ナット
F1 推力
F2 反力
F3 反力
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に設けられた基礎部材と、
前記基礎部材上に設けられ、掘削手段を推し進める推進手段の推力を受ける反力受け部材と、
前記反力受け部材の前記推進手段側において前記基礎部材と前記反力受け部材とを連結するとともに前記基礎部材に対して傾斜して設けられ、前記反力受け部材が受けた前記推進手段の推力を前記基礎部材に伝達する連結部材と、
一方端側が前記基礎部材に固定されて設けられ、前記掘削手段を推し進める方向に傾斜して土中に埋設されたアンカー部材と、
を有することを特徴とする反力装置。
【請求項2】
前記基礎部材は鉄筋コンクリートまたは鋼材で構成される、
ことを特徴とする請求項1記載の反力装置。
【請求項3】
前記アンカー部材は、土中部分の少なくとも一部が当該土中に形成された削孔内に注入されたグラウト材に固定された棒状鋼製部材である、
ことを特徴とする請求項1または2記載の反力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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