説明

反射型スクリーン及びそれを用いた投射画像表示システム

【課題】外光の反射によるコントラスト低下を軽減すると共に、ゲインの低下を抑える反射型スクリーンを提供する。
【解決手段】反射型スクリーン1は、樹脂シート2、光吸収層4、及び、光反射層5を備える。樹脂シート2は、透光性を有し、主平面の一方の側にストライプ状の凸部3が周期Pの幅で周期的に形成される。光反射層5は、主平面の他方の側に配置され、散乱反射特性を有する。光吸収層4は、凸部3のストライプの形状に平行するように、光反射層5と交互に凸部3と対向して配置される。凸部3は、当該凸部3の長手方向と直交する断面形状が楕円の一部からなり、楕円の長軸が主平面の法線方向に対して傾斜している。一組の光吸収層4及び光反射層5は、凸部3が形成される周期Pと略同じ幅で配置される。
反射型スクリーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ホームシアター、会議システムなどに適用可能な反射型スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ、DMD(Digital Micro mirror Device)プロジェクタは、スクリーンに画像を投射拡大し表示することで、60インチ以上の大画面を実現することができる。表示デバイスの解像度向上、並びに、光源ランプの光束向上に伴い、大画面化、高精細化が進み、ホームシアター、会議システムで主に使用されている。また投射した画像を観察者側に戻すには反射型スクリーンを使用する必要がある。反射型スクリーンは表面に凹凸を有した白色シートを用いるのが一般的である。
【0003】
ところで、上述したような白色のシートの反射型スクリーンでは投射した画像以外の外光も反射し、観察者側で観察されるようになる。このため、投射した画像に外光反射光が重なり、黒を表示した場合でも灰色となり、コントラストの低下を引き起こす。そこで、コントラストの高い画像を得るためには、外光の要因である天井に設置された蛍光灯を消灯することや、昼間であれば窓にカーテンを掛けることが必要である。
【0004】
一方、反射型スクリーンが白色シートではなく、凹凸構造と位置合わせをした吸収層を形成することによって、外光を吸収しコントラストを高める反射型スクリーンも提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−7027号公報(図1等)
【特許文献2】特開2008−287029号公報(図1等)
【特許文献3】特開2009−169007号公報(図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の反射型スクリーンではガラスビーズの裏面に投射光を集光させている。これを実現するにはガラスビーズの屈折率を2以上にする必要がある。このため、高価な材料を使用することになり、コストが掛かるという点が問題となる。
特許文献2記載の反射型スクリーンではレンチキュラーレンズと外光吸収層の2つの形状を位置合わせして形成する必要がある。このため、生産面での課題が生じる。さらに、面内でレンチキュラーレンズの光軸と反射層の中心線のずれ幅を変化させた場合、想定される配置ごとに設計、作製を行う必要があり、量産面での課題が生じる。
また、特許文献3記載の反射型スクリーンでは入射面に形成されるレンズ間に光吸収部を設けている。このため、略正面方向から入射した投射光に対しては吸収が生じ、ゲインの低下を招く。
【0007】
そこで、本発明は、外光の反射によるコントラスト低下を軽減すると共に、ゲインの低下を抑えることが可能な反射型スクリーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る反射型スクリーンの一態様は、樹脂シート、光反射層、及び光吸収層を備える。樹脂シート2は、透光性を有し、主平面の一方の側(表面)にストライプ状の凸部が周期Pの幅で周期的に形成される。光反射層は、主平面の他方の側(裏面)に配置され、散乱反射特性を有する。光吸収層は、凸部のストライプの形状に平行するように、光反射層と交互に凸部と対向して配置される。凸部は、当該凸部の長手方向と直交する断面形状が楕円の一部からなり、楕円の長軸が主平面の法線方向に対して傾斜している。一組の光吸収層及び光反射層は、周期Pと略同じ幅で配置される。
凸部を形成する楕円の長軸を傾斜させることにより、投射光が楕円の長軸の延長方向から投射されることになる。投射光は、楕円のレンズ機能で集光され、光反射層で散乱反射する。加えて、散乱反射光は再度楕円のレンズ機能で集光され、効率的に伝播する。これにより、高いゲインを有する画像を得ることができる。
一方、外光は主に上方から反射型スクリーンに入射する。従って、凸部を形成する楕円の曲率半径が大きい方向から入射するため、楕円のレンズ機能によって集光されることなく、一部は光吸収層に、一部は光反射層に入射する。その結果、外光の反射によるコントラスト低下を軽減することができる。
【0009】
また、本発明に係る反射型スクリーンの一態様において、凸部の一つの周期と、一組の光吸収層及び光反射層の幅とは、開始点と終了点とが、法線方向において略一致することが好ましい。言い換えると、一組の光吸収層及び光反射層と、凸部の傾斜した楕円の一つとが対向することが好ましい。加えて、一組の光吸収層及び光反射層では、光吸収層が光反射層より光源に近い位置に配置されることが好ましい。これにより、楕円のレンズ機能によって集光された投射光が効率よく光反射層によって拡散反射することができる。
【0010】
さらに、本発明に係る反射型スクリーンの一態様において、楕円の長軸と主平面の法線方向とのなす角が、15°から45°の範囲であることが好ましく、楕円の短軸の長さに対する、楕円の長軸の長さの比率が、1.0から1.5の範囲であることが好ましい。
加えて、光反射層は、幅Mの長さで、凸部に対向する面に光吸収層と交互に配置されるとすると、凸部の周期Pの幅に対する光反射層の幅Mの比率(M/P)が、0.5から0.85の範囲であることが好ましい。凸部を構成する楕円の中心点から光反射層と樹脂シートとの境界までの、法線方向の距離を長さDとすると、楕円の長軸の長さAに対する、長さDの比率(D/A)が、0.07から0.14の範囲であることが好ましい。
さらに加えて、凸部表面にアンチグレア処理が施されていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る投射画像表示システムの一態様は、上述したいずれかの反射型スクリーンと、プロジェクタと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る反射型スクリーンによれば、プロジェクタからの投射光は効率的に観察者側に反射させることができる。また室内照明などの外光は光吸収層にて吸収されるため高いコントラストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る反射型スクリーンの概略断面構成図である。
【図2】本発明に係る反射型スクリーンの光吸収層と光反射層の配置図である。
【図3】本発明に係る反射型スクリーンの外光に対する効果の概略説明図である。
【図4A】本発明に係る投射型スクリーンの第1の製法の第1段階の説明図である。
【図4B】本発明に係る投射型スクリーンの第1の製法の第2段階の説明図である。
【図4C】本発明に係る投射型スクリーンの第1の製法の最終段階の説明図である。
【図5】本発明に係る投射型スクリーンの第2の製法の説明図である。
【図6A】本発明に係る反射型スクリーンの第3の製法の第1段階の断面構成図である。
【図6B】本発明に係る投射型スクリーンの第1の製法の第2段階の説明図である。
【図6C】本発明に係る投射型スクリーンの第3の製法の最終段階の説明図である。
【図7】本発明に係る投射画像表示システムの構成例を示す図である。
【図8】反射光角度及び凸部の構成を説明する、特性計算の説明図である。
【図9】プロジェクタとスクリーンまでの距離を特定する、特性計算の説明図である。
【図10A】本発明の実施例1の反射型スクリーンにおける、視野角特性の計算結果(0deg入射、10deg入射)を示すグラフである。
【図10B】本発明の実施例1の反射型スクリーンにおける、視野角特性の計算結果(20deg入射、30deg入射)を示すグラフである。
【図10C】本発明の実施例1の反射型スクリーンにおける、視野角特性の計算結果(40deg入射、50deg入射)を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例1の反射型スクリーンにおける、面内のゲイン分布の計算結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例2の反射型スクリーンにおける、面内のゲイン分布の計算結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例3の反射型スクリーンにおける、面内のゲイン分布の計算結果を示すグラフである。
【図14】比較例1の面内のゲイン分布計算結果を示すグラフである。
【図15】比較例2の面内のゲイン分布計算結果を示すグラフである。
【図16】比較例3の面内のゲイン分布計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。加えて、反射型スクリーンを構成する各構成要素について、形状が異なるが機能が同じ場合には、同じ符号をつけて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る反射型スクリーンを示す断面図である。図2は、本発明に係る反射型スクリーンの光吸収層と光反射層の配置図である。
図1に示すように、本実施形態に係る反射型スクリーン1は、透光性を有する樹脂シート2の表面に、周期(ピッチ)P(Pは正の数値)で周期的に配置されたストライプ状の凸部3が形成されている。樹脂シート2としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、メタアクリル−スチレン共重合樹脂、シクロオレフィンポリマー等の透明性に優れた樹脂であれば何れも用いることができる。
【0016】
以降の説明において、主平面は、反射型スクリーン1の主平面であり、主平面の一方の側は、光源から発射される投射光を反射して映像を映す平面である。また、反射型スクリーン1の表面(若しくは、主平面の表面)は、当該映像を映す側の面であり、樹脂シート2に凸部3が形成される側の面と一致する。一方、反射型スクリーン1の裏面(主平面の裏面)は、主平面の表面と反対側の面であり、光吸収層4及び光反射層5が配置される側の面となる。樹脂シート2の表面は、凸部3が形成される側の面である。樹脂シート2の裏面は、凸部3と対向する面であり、光吸収層4及び光反射層5が配置される側である。加えて、「略一致」、「略同じ」等の表現は製造工程で生じる誤差を考慮して「一致」あるいは「同じ」と判断できる範囲を含むことを意味する。誤差の程度としては、繰り返し単位Pを基準とすると、±P/10内を考えておけばよい。
【0017】
ストライプ状の凸部3の長手方向と直交する面での断面形状は、長軸が長さA、短軸が長さBである楕円の一部からなり、当該楕円の長軸が反射型スクリーン1の主平面の法線方向に対し、角度θで傾斜している。また図1に示す通り楕円の長軸の凸部3側への延長方向はプロジェクタが配置されている面方向である。
図2に示すように、樹脂シート2の凸部3が形成された面と対向する面には光吸収層4と光反射層5がそれぞれ長さL(Lは正の数値)および長さM(Mは正の数値)の幅で凸部3と同じ方向にストライプ状に形成されている。さらにこれら一組の光吸収層4及び光反射層5は周期Pで配置されている。つまり、
L+M=P
の関係が成り立つ。
【0018】
図2に示す通り、一組の光吸収層4及び光反射層5は、凸部3の位置と、主平面の法線方向において略一致していることが光学特性の点から望ましい。加えて、傾斜した楕円の凸部3に対し、プロジェクタが配置される側に近い方に光吸収層4が配置され、光吸収層4よりプロジェクタから遠い位置に光反射層5が配置される。言い換えると、一組の光吸収層4及び光反射層5において、光吸収層4は、光反射層5より光源に近い位置に配置される。図3に示す通り、外光は光吸収層4と光反射層5では光吸収層4側に入射しやすくなるため、コントラスト向上の効果が得られる。さらに、投射光は光反射層5へ主に入射するようになるため、光の損失を低減することができる。
【0019】
角度θは15°から45°の範囲にあることが望ましい。さらに望ましくは、20°から40°の範囲である。
角度θが15°より小さくなると投射画像が大画面化した場合、もしくは短焦点型プロジェクタを用いた場合、反射型スクリーン1への入射角度が大きくなるため、凸部3での集光効果が小さくなりスクリーン上部でゲインの低下を招く。
逆に角度θが45°より大きくなると、反射型スクリーン1に対し垂直に近い角度で入射した光が光吸収層4に入射する割合が大きくなるため、スクリーン下部でのゲイン低下を招く。
【0020】
また楕円の短軸の長さBに対する長軸の長さAの比率は1.1から1.5の範囲内にあることが望ましい。さらに望ましくは1.2から1.4の範囲である。この比率が1.1より小さくなる、つまり円弧に近くなると、外光が光反射層5へ入射する入射割合が大きくなるため、コントラスト向上効果が小さくなる。また、この比率が1.5より大きくなると、プロジェクタから反射型スクリーン1へ投射光が入射する角度θに対し、凸部3の集光効果が大きく変わってくるため、反射型スクリーン1の面内での明暗ムラが発生する。
【0021】
さらに、凸部3の幅である周期Pに対する光反射層5の幅Mの比率M/Pは0.5から0.85の範囲にあることが好適である。さらに望ましくは0.65から0.75の範囲である。比率M/Pが0.5より小さくなると光反射層5の占める割合が小さくなるため、入射角度によってはプロジェクタからの投射光が光吸収層4に入射することによってゲインの低下を招く。逆に、比率M/Pが0.85より大きくなると、外光が光吸収層4へ入射する割合が低下するため、コントラスト向上の効果が小さくなる。
【0022】
一方、ストライプ状の凸部3を構成する楕円の長軸の長さAに対する、該楕円の中心から光反射層5までの垂直な距離Dの比率D/Aが0.07から0.14の範囲にあることが望ましい。さらに望ましくは、0.08から0.13の範囲がさらに望ましい。比率D/Aが0.07より小さくなるとスクリーン上部でのゲイン低下が大きくなり、比率D/Aが0.14より大きい場合には画面全体のゲイン低下を生じる。なお、距離Dは、凸部3を構成する楕円の中心点から光反射層5と樹脂シート2との境界までの、主平面の法線方向の距離ともいえる。
【0023】
次に、反射型スクリーン1の製造方法について説明する。
樹脂シート2の表面に、ストライプ状の凸部3を、周期Pの幅(長さ)で周期的に形成する。光吸収層4は、凸部3を形成した樹脂シート2の裏面に黒色顔料を含んだインクを印刷等することで得ることができる。その後、樹脂シート2の光吸収層4を形成した面に発泡PETなどの光反射層を貼り合せたり、全面に白色顔料を分散したインクを全面に塗布することによって光反射層5を形成し、本発明の反射型スクリーン1を得ることができる。
【0024】
さらに図4Aで示すように、透明な樹脂シート2の片面にストライプ状の凸部3を形成する。その対向する面の光吸収層4を形成する部分に溝を形成する。次に図4Bのように、形成した溝へ黒インクを流し込みスキージ等で掻き取後、黒インクを硬化させることによって、光吸収層4を形成することができる。最後に図4Cで示す通り、発泡PETなどの光反射層5を透明接着剤(透明接着層6)で透明な樹脂シート2の光吸収層4側に貼り合せることで、反射型スクリーン1aを得ることができる。
【0025】
同様に、透明な樹脂シート2の片面にストライプ状の凸部3を形成する。その対向する面の光吸収層4を形成する部分に溝を形成して当該溝へ黒インクの流し込み、スキージ等で掻き取り、黒インクを硬化後、白色顔料を分散したインクを光吸収層4が形成された面に印刷することで光反射層5を形成し、図5に示すような反射型スクリーン1bを得ることができる。
光吸収層4は、図4A〜4Cでは鋸歯状を、図5では円弧状を示しているが、成形方法に応じて適宜選択すればよい。また本方法では光吸収層4の厚みが増すことから、光吸収率を高くすることができ、高コントラスト化において好適である。
【0026】
さらに図6Aに示す通り、先ず発泡PETのような光反射性の高いシート上に所定の間隔、幅で光吸収層4をストライプ状に印刷する。次に、ストライプ状の凸部3が形成された面と対向する面が平坦である透明な樹脂シート2(図6B)の平坦面に該印刷シートとストライプ状の凸部3を位置合わせして透明接着層6で密着させるなどの方法で、図6Cに示すような、反射型スクリーン1cを得ることができる。
【0027】
プロジェクタで投射される画像は複数の画素から構成されているため、スクリーン上に投射された縦方向の画素サイズが周期Pに近いとモアレが発生し、画質の低下を招く。このため、周期Pはスクリーン上に投射された縦方向の画素サイズの2分の1以下が好適であり、さらに、縦方向の画素サイズ3分の1以下がより好適である。
【0028】
表1に、投射画像の対角寸法と解像度を想定した場合の、スクリーン上での画素サイズを示す。表2に、解像度の定義を示す。この結果から縦方向の画素サイズは大凡1mm程度を考えればよい。表1、2において、SVGA(Super Video Graphics Array)、XGA(eXtended Graphics Array)、WXGA(Wide XGA)は解像度を示す。
【0029】
【表1】

【表2】

【0030】
一方で、周期Pが小さい場合には凸部3の成形、凸部3と裏面の光吸収層4と光反射層5の位置合わせが困難になる。また光吸収層4の厚みが薄くなるため、光吸収効果が小さくなりコントラスト向上効果が小さくなる。このため、周期Pはある値以上であることが好ましい。
【0031】
凸部3の周期Pの幅は0.1から0.5mmの範囲であることが望ましい。さらに望ましくは0.15mmから0.3mmの範囲である。
加えて、凸部3の表面には微小な表面凹凸からなるアンチグレア処理を施すことが好ましい。凸部3の表面で鏡面反射が発生すると、プロジェクタ30からの投射光がホットバンドとして発生し、画質の低下を発生させる。
図7に本発明に係る投射画像表示システムの構成例を示す。説明のため、図7では投射画像表示システム10に加え、観察者31も示す。図7に示す通り、本発明の反射型スクリーン1の表面の前方にプロジェクタ30を配置することで、凸部3の楕円の長軸の延長方向から投射光が投稿され、高いゲインの画像を高コントラストで得ることができる。
【0032】
以上説明した通り、本実施形態の反射型スクリーンの一態様では、透光性を有する樹脂シート(例えば、PMMAなど)2の表面に、周期Pで周期的に配置された複数のストライプ状の凸部3を形成する。樹脂シート2の凸部3が形成された面と対向する面には光吸収層4と光反射層5が形成されている。さらにこれらの光吸収層4と光反射層5は周期Pで配置されている。
ストライプ状の凸部3の長手方向と直交する方向での断面形状は楕円の一部からなり、楕円を形成する長軸はスクリーン主平面の法線方向に対して、角度θをなしている。
【0033】
反射型スクリーン1では、楕円の長軸の延長方向をプロジェクタ30が配置されている面方向にする。その結果、プロジェクタからの投射光は楕円レンズで集光され、光反射層5で散乱反射される。散乱反射した散乱反射光は再度楕円レンズで集光され、観察者31側へ効率的に伝播する。これにより、観察者31は高いゲインを有する画像を得ることができる。
一方、室内照明等の外光は主に上方からスクリーンに入射する。つまり楕円レンズの曲率半径が大きい方向から入射するため、外光は集光されず、一部は光吸収層4に、一部は光反射層5に入射する。従って、外光の反射による、一般に白浮きと呼ばれるコントラスト低下を軽減することができる。このため、観察環境に外光が存在する場合でも高いコントラストの画像を得ることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の反射型スクリーンを評価するために、以下に示すような実施例1、2、3の反射型スクリーン光線追跡法によるシュミレーションソフトLightTools(Optical Research Associates社)を用いて、視野角特性、吸収特性の評価を行った。以下の実施例、比較例では樹脂シートの屈折率は1.52を用いた。本発明の実施例および比較例の構成パラメータを表3に示す。表3において、「配置1」は、一組の光吸収層4及び光反射層5の幅が一つの凸部3の位置と主平面の法線方向において略一致する場合である。「配置2」は、凸部3の頂部中心に光反射層5を対称に配置する場合、言い換えると、一組の光吸収層4及び光反射層5のうち、光反射層5の中央と凸部3の頂部中心とが一致するように配置する場合である。
【0035】
【表3】

【0036】
[実施例1]
図8に示す通り反射型スクリーンへスクリーン法線方向に対し、プロジェクタ30からの投射光が角度0degから50degの範囲で入射した光の各入射点での反射光角度分布を計算した。観察者31はプロジェクタ30側にいるので、観察者が反射型スクリーン1を見上げる場合にはプラス方向の角度となり、スクリーンを覗き込む場合にはマイナス方向の角度となる。図9に、プロジェクタとスクリーンまでの距離を特定する、特性計算の説明図を示す。プロジェクタ30から反射型スクリーン1までの距離を1000mm、プロジェクタ30から観察者31までの後方の距離が1000mm、プロジェクタ30から観察者31までの上方の距離が500mmであることを前提とする。
計算は、凸部3の表面での鏡面反射成分を削除し、完全拡散面(反射率100%のランバート反射面)に対する輝度の比率であるゲイン(GAIN)を算出した。
【0037】
図10A〜10Cに実施例1の構成の反射型スクリーンの視野角特性の計算結果を示す。本実施例ではスクリーンで再帰的に反射しており、プロジェクタ30側へ効率的に光を反射している。さらに、図9に示す通り、プロジェクタ30からスクリーンまでの距離を1000mm、プロジェクタ後方1000mm、上方500mmに観察点を想定して、反射型スクリーン1の面内のゲイン分布を計算した。
【0038】
実施例1に対する結果を図11に示す。ここでスクリーン高さの原点(高さ0mm)は、プロジェクタ30から反射型スクリーン1に垂直に入射した点としている。本結果が示す通り、面内でゲインの差が小さい反射型スクリーンを得ることができる。
【0039】
また、外光に関しては、プロジェクタ30が配置された方向とは反対側の方向から反射型スクリーン1の法線方向に対して、角度αで光が入射したときの、特性を求めた。角度αは、図3に示す通り、主平面の法線方向と、外光が入射する方向とがなす角度である。外光の入射は、図8に示す投射光が入射する角度0degから50degの範囲それぞれの位置で、光吸収層4に入射する光の割合を算出した。この結果を表4に示す。本結果の通り、光吸収層4と光反射層5との領域のうち、光吸収層4の面積割合は、30%であるが、平均として50%近くの外光が光吸収層4に入射し、高いコントラストを得ることができる。
【0040】
【表4】

【0041】
[実施例2]
実施例2では、図1に示す距離Dを0.032mmとする以外は実施例1と同じ構成で、図9に示す配置でのゲインの分布を求めた。図12にその結果を示す。本結果が示す通り、面内でゲインの差の小さい反射型スクリーンを得ることができる。
【0042】
[実施例3]
実施例3では、図1に示す角度θを40°とする以外は実施例1と同じ構成で、図9に示す配置でのゲインの分布を求めた。図13にその結果を示す。本結果が示す通り、面内でゲインの差の小さい反射型スクリーンを得ることができる。
【0043】
[比較例1]
比較例1では、角度θを0°とし、他のパラメータは実施例1と同じとした構成で、図9に示す配置でのゲインの分布を求めた。図14にその結果を示す。図14から分かるように反射型スクリーンの上方に行くに従い、ゲインの低下が発生し、面内でのムラが発生してしまう。
【0044】
[比較例2]
比較例2では、距離Dを0.012mmとし、他のパラメータは実施例1と同じとした構成で、図9に示す配置でのゲインの分布を求めた。図15にその結果を示す。図15から分かるように反射型スクリーンの上方に行くに従い、ゲインの低下が発生し、面内でのムラが発生してしまう。
【0045】
[比較例3]
比較例3では、凸部3の断面形状を円弧とし、光反射層5を、凸部3の頂部を中心に対称に配置した構成で、図9に示す配置でのゲインの分布を求めた。図16にその結果を示す。図16から分かるように反射型スクリーンの上方に行くに従い、ゲインの低下が発生し、面内でのムラが発生してしまう。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の反射型スクリーンを用いることで、大画面の映像を表示可能なホームシアター、会議システム、広告用表示システム等を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1、1a〜1c 反射型スクリーン
2 樹脂シート
3 凸部
4 光吸収層
5 光反射層
6 透明接着層
10 投射画像表示システム
30 プロジェクタ
31 観察者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有し、主平面の一方の側にストライプ状の凸部が周期Pの幅で周期的に形成された樹脂シートと、
前記主平面の他方の側に配置され、散乱反射特性を有する光反射層と、
前記凸部のストライプの形状に平行するように、前記光反射層と交互に前記凸部と対向して配置された光吸収層と、を備え、
前記凸部は、当該凸部の長手方向と直交する断面形状が楕円の一部からなり、前記楕円の長軸が前記主平面の法線方向に対して傾斜し、
一組の前記光吸収層及び前記光反射層は、前記周期Pと略同じ幅で配置される、
反射型スクリーン。
【請求項2】
前記凸部の一つの周期と、前記一組の前記光吸収層及び前記光反射層の幅とは、開始点と終了点とが、前記法線方向において略一致することを特徴とする請求項1記載の反射型スクリーン。
【請求項3】
前記一組の前記光吸収層及び前記光反射層において、前記光吸収層が前記光反射層より光源に近い位置に配置されることを特徴とする請求項1または2記載の反射型スクリーン。
【請求項4】
前記楕円の長軸と前記主平面の法線方向とのなす角が、15°から45°の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の反射型スクリーン。
【請求項5】
前記楕円の短軸の長さに対する、前記楕円の長軸の長さの比率が、1.0から1.5の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の反射型スクリーン。
【請求項6】
前記光反射層は、幅Mの長さで、前記凸部に対向する面に前記光吸収層と交互に配置され、
前記凸部の周期Pの幅に対する前記光反射層の幅Mの比率(M/P)が、0.5から0.85の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の反射型スクリーン。
【請求項7】
前記凸部を構成する楕円の中心点から前記光反射層と前記樹脂シートとの境界までの、前記法線方向の距離を長さDとすると、
前記楕円の長軸の長さAに対する、前記長さDの比率(D/A)が、0.07から0.14の範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の反射型スクリーン。
【請求項8】
前記凸部表面にアンチグレア処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の反射型スクリーン。
【請求項9】
前記請求項1乃至8のいずれか一項に記載の反射型スクリーンと、
プロジェクタと、を備える投射画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−68721(P2013−68721A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205996(P2011−205996)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】