説明

反射断熱材、断熱容器および極低温装置

【課題】反射断熱材の表面の反射膜を高い反射率に維持できる優れた耐久性を確保できるようにすることである。
【解決手段】基材としての樹脂フィルム2の表面の反射膜3を、Agを主成分とし、Bi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2原子%含有するAg基合金で形成することにより、化学的安定性を純Agよりも向上させて、反射膜3を高い反射率に維持できる優れた耐久性を確保できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射断熱材、反射断熱材を用いた断熱容器、および断熱容器を備えた極低温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
容器や建築物の壁等には、輻射による熱伝達を抑制して内部と外部を断熱するために、片側または両側の表面に反射率の高い反射膜を設けたシート状の反射断熱材を用いることがある。従来、反射膜を形成する材料にはアルミニウムが用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたものでは、反射断熱材を発泡ポリエチレンシートの表面にアルミニウムフィルムを付着させたものとし、建築物の外壁面に付着させるように施工して、建築物の内部と外部を断熱するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたものでは、反射断熱材をアルミニウムシートまたは表面をアルミナイズしたシートとし、間隔を開けて複数層に重ねた反射断熱材を、極低温装置であるMRI(磁気共鳴断層撮影装置)用超伝導磁石アセンブリのヘリウム容器等を収容する真空容器の中に配置して、外側の真空容器と内側のヘリウム容器との間を断熱するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−521187号公報
【特許文献2】特開2000−152922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されたもののように、従来の反射断熱材の反射膜はアルミニウムで形成されている。アルミニウムは金、銀とともに反射率の高い金属の代表であり、輻射熱エネルギの大きい赤外線等の長波長の電磁波に対しても高い反射率を示すが、金や銀に較べると反射率は低い。このため、例えば、高い断熱性が要求される超伝導磁石や冷凍機等の極低温装置の断熱容器を断熱する場合は、反射断熱材を重ねる層数を多くする必要があり、層間に隙間を必要とする断熱層の厚さが厚くなって、断熱容器の嵩が大きくなる問題がある。また、アルミニウムは金や銀に較べると化学的安定性と熱的安定性が劣り、反射率を維持する耐久性も劣る。
【0007】
このような問題に対処するためには、反射膜を金や銀で形成することが考えられるが、金は非常に高価な金属であり実用的でない。一方、銀は金よりも安価で、高い反射率を維持できる耐久性もアルミニウムよりは優れているが、金よりは化学的安定性が劣り、耐久性を十分に確保することはできない。
【0008】
そこで、本発明の課題は、反射断熱材の表面の反射膜を高い反射率に維持できる優れた耐久性を確保できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、片側または両側の表面に反射膜を設けたシート状の反射断熱材において、前記反射膜を、Agを主成分とし、Bi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2原子%含有するAg基合金で形成した構成を採用した。
【0010】
本発明者は、種々の合金元素を添加したAg基合金について、高温多湿試験と塩水浸漬試験を行い、高温多湿試験前後での反射率変化と塩水浸漬試験後の外観変化を調査した。この結果、後の表1に示すように、Bi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2原子%含有するAg基合金で形成した反射膜は、初期の反射率が純Agの反射率に近く、かつ、試験後の反射率の低下が純Agよりも大幅に低減されることを確認した。
【0011】
このような結果に基づいて、上記構成を採用することにより、化学的安定性を純Agよりも向上させて、反射膜を高い反射率に維持できる優れた耐久性を確保できるようにした。なお、上記合金元素の添加量を0.005〜3.2原子%としたのは、0.005原子%未満では耐久性を十分に確保することができず、3.2原子%を超えると初期反射率の低下量が大きくなる恐れがあるからである。
【0012】
前記反射膜をシート状の基材に蒸着で形成したものとすることにより、広い面積の反射断熱材を容易に得ることができる。蒸着方法としては、真空蒸発法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を採用することができる。特に、スパッタリング法で形成した反射膜は、Ag基合金の合金元素分布や膜厚の均一性に優れており、反射率をより高いレベルに維持することができる。
【0013】
前記シート状の基材を、300Kにおける平均体積熱伝導率が0.2W/m・K以下の材料で形成することにより、反射断熱材の支持部材等との接触による熱伝導で生じる伝熱を抑制することができる。平均体積熱伝導率が0.2W/m・K以下の材料としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂等を挙げることができる。
【0014】
前記反射膜の平均膜厚は10〜1000nmの範囲とするのが好ましい。平均膜厚が10nm未満では電磁波が透過する恐れがあり、1000nmを超えると必要以上に反射断熱材が厚くなるとともに、成膜過程等で生じる応力によるひずみ等によって表面粗さが粗くなり、反射率を低下させる原因となるからである。
【0015】
前記反射膜の表面粗さRaは100nm以下とするのが好ましい。反射率は表面粗さRaが粗くなるほど低下し、100nmを超えるとその低下量が大きくなるからである。
【0016】
また、本発明は、少なくとも2重とした内側筐体と外側筐体と、これらの内側筐体と外側筐体を内外方向に隔てる断熱空間を設けた断熱容器において、上述したいずれかの反射断熱材を、前記断熱空間の内外方向に複数層に配置した構成も採用した。
【0017】
温度差のある2枚の平行平板間の輻射熱流速は、これらの平板間に平板と同じ輻射率(1−反射率≪1)の断熱材をN層に配置すると、1/(N+1)に低減されることが知られている。したがって、上述した高い反射率(低い輻射率)の反射断熱材を断熱空間の内外方向に複数層に配置することにより、非常に断熱性の高い断熱容器を得ることができる。
【0018】
前記断熱空間を真空とすることにより、対流による伝熱をなくして、より高い断熱性を確保することができる。
【0019】
前記複数層に配置した反射断熱材を前記内側筐体側に固定することにより、反射断熱材の固定を容易に行うことができる。また、より面積の小さい反射断熱材で内側筐体を断熱することができる。
【0020】
さらに、本発明は、上述したいずれかの断熱容器を備えた極低温装置の構成も採用した。例えば、極低温装置を、超伝導磁石を液体ヘリウムに浸漬したマグネット槽を囲う熱シールド槽と呼ばれる内側筐体と、外気に曝される外側筐体との間に断熱空間を設けた断熱容器を備え、マグネット槽を冷却する極低温用冷凍機の1段冷却部で内側筐体を冷却するMRI用超伝導磁石アセンブリとする場合は、内側筐体と外側筐体を隔てる断熱空間に、上記高い反射率の反射断熱材を内外方向に複数層に配置することにより、外側筐体から内側筐体への熱侵入の大部分を占める熱輻射を効果的に遮断して、内側筐体を冷却する冷凍機の負荷を小さくすることができる。したがって、冷凍機の容量を小さくすることもでき、省エネルギに大きく貢献することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る反射断熱材は、反射膜を、Agを主成分とし、Bi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2原子%含有するAg基合金で形成したので、化学的安定性を純Agよりも向上させて、反射膜を高い反射率に維持できる優れた耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】反射断熱材の実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の反射断熱材を用いた断熱容器を備えた極低温装置を示す縦断面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1に示すように、この反射断熱材1は、シート状の基材としての樹脂フィルム2の片側の表面に、Bi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2原子%含有するAg基合金をスパッタリング法で蒸着して、反射膜3を形成したものである。
【0024】
前記反射膜3の平均膜厚は10〜1000nmの範囲とされ、表面粗さRaは100nm以下とされている。また、樹脂フィルム2は、300Kでの平均体積熱伝導率が0.2W/m・K以下のポリエステル樹脂とされている。樹脂フィルム2用の樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂等とすることもできる。
【0025】
図2は、前記反射断熱材1を用いた断熱容器を備えた極低温装置を示す。この極低温装置は、MRI用超伝導磁石アセンブリであり、超伝導磁石11を液体ヘリウム12に浸漬したマグネット槽13を囲う真空室14を形成する熱シールド槽と呼ばれる内側筐体15と、外気に曝される外側筐体16との間に真空断熱空間17を設けた断熱容器を備え、マグネット槽13を冷却する極低温用冷凍機18の1段冷却部でアルミニウム合金製の内側筐体15を冷却するようになっており、真空断熱空間17に内側筐体15の外径側と軸方向外側を覆うように、反射断熱材1が内外方向に複数層に配置されている。マグネット槽13、内側筐体15および外側筐体16はドーナツ状に形成され、外側筐体16の中心孔16aを被検者や被検査物が通過するようになっている。
【0026】
前記マグネット槽13の上部には筒状の冷凍機スリーブ19が取り付けられ、内側筐体15と外側筐体16の上部に設けられた筒状の各開口部15a、16aを通して、冷凍機18が冷凍機スリーブ19内に着脱可能に挿入されている。各開口部15a、16aは蓋部材20で密閉されている。蓋部材20は冷凍機18に一体に取り付けられ、冷凍機18を挿入したときに各開口部15a、16aを密閉する。
【0027】
前記冷凍機18はギフォードマクマホン方式を利用した二段式冷凍機であり、駆動部21と、駆動部21の下に順に連結された第1シリンダ22および第2シリンダ23を有し、第1シリンダ22の下端に1段目冷却ステージ22aが設けられ、第2シリンダ23の下端に2段目冷却ステージ23aが設けられている。2段目冷却ステージ23aの下側にはヘリウムガスの再凝縮器24が取り付けられている。
【0028】
前記駆動部21にはヘリウムガスが供給され、供給されたヘリウムガスは第1シリンダ22および第2シリンダ23の下端から噴出される。第1シリンダ22は内側筐体15の筒状の開口部15a内に位置し、1段目冷却ステージ22aによって内側筐体15を約40Kに冷却する。また、第2シリンダ23は冷凍機スリーブ19内に位置し、2段目冷却ステージ23aによってマグネット槽13内を約4Kに冷却する。
【0029】
前記マグネット槽13の上部には、内側筐体15と外側筐体16を貫通する安全排出管25も設けられている。この安全排出管25は、何らかの原因でマグネット槽13への熱侵入量が増加して、マグネット槽13内の圧力が過度に増加したときに、マグネット槽13内のヘリウムガスを外部に排出するための安全手段である。安全排出管25の先端には、圧力が過度に増加したときに破壊する破裂弁26が設けられ、安全排出管25の中には、破裂弁26側からの輻射熱の侵入を抑制する複数のバッフル板27が配設されている。
【0030】
図3に示すように、前記真空断熱空間17に複数層に配置された反射断熱材1は、複数のステーク4によって層間にわずかの間隔を開けて連結され、ドーナツ状の内側筐体15の外周面に巻回固定されている。各反射断熱材1は反射膜3を外側に向けて固定されている。したがって、外周側の外側筐体16から放射される赤外線等の電磁波が各反射断熱材1の高い反射率の反射膜3で反射され、内側筐体15への輻射による熱侵入が効果的に遮断される。
【実施例】
【0031】
実施例として、図1に示したように、反射膜3をBi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2at(原子)%含有するAg基合金をスパッタリング法で形成した反射断熱材(実施例1〜18)を用意した。比較例として純Agで反射膜を形成した反射断熱材(比較例1)も用意した。
【0032】
上記実施例1〜18と比較例1の各反射断熱材について、反射膜の初期反射率を測定した。また、これらの各反射断熱材に対して、加速耐久試験として高温多湿試験と塩水浸漬試験を行った。高温多湿試験では試験前後の反射膜の反射率と表面粗さRaを測定し、反射率と表面粗さRaの変化を調査した。塩水浸漬試験では試験後の外観を目視観察し、変色や剥離等の外観変化の有無を調査した。ここでは、赤外領域の長波長の電磁波に対する反射率を精度よく測定することが難しかったので、一般的に波長が長くなるほど反射率は高くなるという知見に基づいて、替りに可視領域の長波長側の波長が650nmの赤色光の反射率を測定した。各試験の試験条件は以下の通りである。
(高温多湿試験)
・温度:80℃
・湿度:90%RH
・保持時間:48時間
(塩水浸漬試験)
・塩水濃度:0.5mol/リットル(NaCl)
・塩水温度:20℃
・浸漬時間:5分間
【0033】
【表1】

【0034】
各実施例と比較例の反射断熱材の初期反射率の測定結果を表1に示す。この測定結果より、各実施例の初期反射率は、反射膜を純Agで形成した比較例1の初期反射率に対して数%以内の低下量に納まっており、赤外領域の電磁波に対しても高い反射率を確保できることが推定できる。
【0035】
上記高温多湿試験の試験結果を表1に併せて示す。試験前後の反射率変化は、反射膜を純Agで形成した比較例1のものが−3%程度と大きく低下しているのに対して、各実施例のものは、いずれも−1%未満であり、高い反射率を維持できる耐久性が非常に優れていることが分かる。また、試験前後の表面粗さRaの変化も、比較例1のものが3nm程度粗くなっているのに対して、各実施例のものはいずれも0.3nm以下となっており、合金の添加量を0.01at%以上とした実施例1、5を除くものは、粗さRa変化が0.05nm以下とほとんど変化していない。このことは高い反射率を維持できることを裏付けている。
【0036】
上記塩水浸漬試験の試験結果も表1に併せて示す。反射膜を純Agで形成した比較例1のものは顕著な外観変化が認められたのに対して、各実施例のものはいずれも外観変化が認められなかった。このことも、各実施例のものが高い反射率を維持できたことを裏付けている。なお、表1には、高温多湿試験と塩水浸漬試験の試験結果に基づく耐久性の総合評価も併記した。
【0037】
上述した実施形態では、反射断熱材を片側の表面のみに反射膜を設けたものとしたが、反射断熱材は両側の表面に反射膜を設けたものとすることもできる。
【0038】
上述した実施形態では、極低温装置を真空の断熱空間を有する断熱容器を備えたMRI用超伝導磁石アセンブリとし、真空断熱空間に反射断熱材を複数層に配置したが、本発明に係る断熱容器は、冷蔵庫や冷凍庫等の他の断熱容器に適用することもできる。これらの断熱容器は、気体が存在する断熱空間を有するものであってもよく、断熱空間に反射断熱材を単層に配置したものであってもよい。また、本発明に係る極低温装置はMRI用超伝導磁石アセンブリに限定されることはなく、他の超伝導磁石アセンブリや、液体窒素等を用いる他の極低温装置にも適用することができる。
【0039】
また、上述した実施形態では、断熱容器の真空断熱空間に内側筐体を覆うように反射断熱材を配置したが、内側筐体等を固定するボルトやナット等、断熱容器の内部パーツも被覆するように、反射断熱材を一層または複数層に配置してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 反射断熱材
2 樹脂フィルム
3 反射膜
4 ステーク
11 超伝導磁石
12 液体ヘリウム
13 マグネット槽
14 真空室
15 内側筐体
16 外側筐体
15a、16a 開口部
17 真空断熱空間
18 冷凍機
19 冷凍機スリーブ
20 蓋部材
21 駆動部
22 第1シリンダ
22a 1段目冷却ステージ
23 第2シリンダ
23a 2段目冷却ステージ
24 再凝縮器
25 安全排出間
26 破裂弁
27 バッフル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片側または両側の表面に反射膜を設けたシート状の反射断熱材において、前記反射膜を、Agを主成分とし、Bi、SbおよびNdから選ばれる1種以上の合金元素を0.005〜3.2原子%含有するAg基合金で形成したことを特徴とする反射断熱材。
【請求項2】
前記反射膜をシート状の基材に蒸着で形成したものとした請求項1に記載の反射断熱材。
【請求項3】
前記シート状の基材を、300Kにおける平均体積熱伝導率が0.2W/m・K以下の材料で形成した請求項2に記載の反射断熱材。
【請求項4】
前記反射膜の平均膜厚を10〜1000nmの範囲とした請求項1乃至3のいずれかに記載の反射断熱材。
【請求項5】
前記反射膜の表面粗さRaを100nm以下とした請求項1乃至4のいずれかに記載の反射断熱材。
【請求項6】
少なくとも2重とした内側筐体と外側筐体と、これらの内側筐体と外側筐体を内外方向に隔てる断熱空間を設けた断熱容器において、請求項1乃至5のいずれかに記載の反射断熱材を、前記断熱空間の内外方向に複数層に配置したことを特徴とする断熱容器。
【請求項7】
前記断熱空間を真空とした請求項6に記載の断熱容器。
【請求項8】
前記複数層に配置した反射断熱材を前記内側筐体側に固定した請求項6または7に記載の断熱容器。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載の断熱容器を備えた極低温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108574(P2013−108574A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254797(P2011−254797)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】