説明

反射比色センシング素子

本明細書中に開示されているのは、反射層と高分子検出層と半反射層とを含む比色センサーフィルムである。また、比色センサーフィルムを含むデバイスならびにフィルムおよびデバイスの作製方法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、比色センサーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一連の検体に対するロバスト化学センサーの開発は、環境モニタリング、製品品質管理、および化学的線量測定のような用途で依然として重要な努力目標となっている。化学センシングに利用可能な多くの方法のうち、比色技術は、シグナル伝達に大掛りな装置を用いるのではなく人間の眼を用いることができるという点で依然として有利な状態にある。
【0003】
一連の検体に対する比色センサーが現在存在するが、検出の大部分は、染料または着色化学指示薬の利用に依拠する。そのような化合物は、典型的には選択性がある。つまり、種々のクラスの化合物類を検出できるようにするには、アレイが必要である。さらに、これらの系の多くは、光漂白または望ましくない副反応が原因となって、寿命が制限されるという問題点を有する。表面プラズモン共鳴法およびスペクトル干渉法のような他の光センシング技術は、応答を提供するために実質的なシグナル伝達ハードウェアを必要とするので、簡単な視覚的指示には有用でない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、新規な多層比色センサーフィルムを特徴とする。フィルムは、典型的には、検体への暴露時に色相が変化する高着色多層干渉フィルターを構成する。多層構造体は、一連の種を検出することのできるさまざまな化学特性を組み込むための汎用性のあるプラットフォームを提供する。フィルムは、可撓性かつロバストであり、迅速かつ可逆的な(または、いくつかの場合には、永久的な)応答を提供するように設計することができる。したがって、それらは、先に挙げた領域で利用するのに好適である。
【0005】
本発明の一態様は、検体の存在および濃度の一方または両方を測定するための比色センサーであり、この比色センサーは、実質的に連続な反射層と;該反射層上に存在する検出層であって、少なくとも1つのポリマー成分を含み、該検体に暴露されたときに光学的厚さの変化が可能である検出層と;該検出層上に存在する実質的に連続な半反射層であって、該検出層の屈折率と異なる屈折率を有する半反射層とを含む。
【0006】
本発明の他の態様は、比色センサーと光源とを含むデバイスである。本発明の他の態様は、検体の存在および濃度の一方または両方を測定するための比色センサーであり、この比色センサーは、実質的に連続な反射層と;該反射層上に存在する検出層であって、少なくとも1つのポリマー成分を含む検出層と;該検出層上に存在する実質的に連続な半反射層であって、該検出層の屈折率と異なる屈折率を有する半反射層とを含み、該検体に暴露されたときに色の変化が可能である。
【0007】
本発明の他の態様は、検体の存在または不在を検出する方法であり、この方法は、先に記載したように比色センサーを提供することと、光源を提供することと、センサーを検体が含まれる可能性のある媒体に接触させることと、光学的性質の変化をセンサーによりモニターすることとを含む。
【0008】
本発明で使用する場合、
「検体」とは、化学分析で検出の対象となる特定の成分を意味し;
「寸法変化」とは、検出層表面の表面に垂直な方向の距離の変化を意味し;
「多孔性材料」とは、その体積全体にわたり細孔の連続的網状構造を含有する材料を意味し;
「反射」とは、半反射または完全反射を意味し;
「半反射」とは、完全反射でも完全透過でもなく、好ましくは約30〜約70%、より好ましくは約40〜約60%の反射を意味し;
「実質的に連続な」とは、材料の層が非ポーラスであることを意味するが、亀裂、粒界、または材料の層を貫通する経路を形成する他の構造を有していてもよい。
【0009】
本発明の少なくとも1つの実施形態の利点は、水蒸気が光学的性質の変化を引き起こさないように多層センサーフィルムを作製しうることである。
【0010】
本発明の少なくとも1つの実施形態の他の利点は、フィルムを容易に加工しうることである。反射層は、蒸発コーティング法またはスパッターコーティング法により堆積させることができ、一方、検出層は、溶媒コーティング法、プラズマ堆積法、および蒸気コーティング法(米国特許第5,877,895号明細書に記載されているような方法)により堆積させることができる。
【0011】
本発明の少なくとも1つの実施形態の他の利点は、センサーの外観変化を可逆的または永久的であるように設計しうることである。
【0012】
本発明の他の特徴および利点は、以下の図面、詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の多層比色センサーフィルムは、両方とも金属層であってもよい反射層と半反射層との間に少なくとも1層の高分子検出層を含有する着色フィルムを包含しうる。これらの多層フィルムは、視覚的シグナル伝達のための一般的手段を提供する。フィルムは、干渉フィルターとして機能するので、可視領域内の特定の波長の反射に基づいて高着色させることができる。センサーフィルムの着色は、スタック内の各層の厚さに大きく依存する。
【0014】
本発明の多層センサーフィルムの全体図を図1に示す。一般的には、フィルムは、(オプションの)基材層12と反射層14と検出層16と半反射層18とを含む。
【0015】
センサーフィルムは、検体の存在および/または濃度の検出のために使用することができる。検体は、ガスであっても液体であってもよい。検体は、ガス状媒体(たとえば、空気)中に存在していてもよいし、液状媒体(たとえば、水または他の流体)中に存在していてもよい。典型的には、検体は有機物質である。
【0016】
少なくとも1つの実施形態では、検体は、検体に暴露されたときに検出層を構成するポリマーの光学的厚さが変化することにより検出される。検体は、外側の半反射層を通過し、検出層の光学的厚さを変化させる。一実施形態では、検体は、検出層の少なくとも一部分中に吸収される。吸収時、色変化(多くの場合、鮮明な色変化)により検体の存在を判別することができる。
【0017】
光学的厚さの変化は、典型的には、可視光領域で観察可能であるので、人間の肉眼により検出することができる。しかしながら、UV、赤外、または近赤外のような他の光源に暴露したときに光学的厚さの変化がわかるようにセンサーを設計することができる。種々の検出機構を使用することもできる。好適な検出機構の例としては、光ディテクター、たとえば、電荷結合デバイス(ccd)、ディジタルカメラなどが挙げられる。
【0018】
他の実施形態では、検体の存在により検出層が隣接層から離層する場合に検体が検出される。典型的には、検体が検出層と隣接層との界面を湿潤することにより界面接着力が減少する場合に離層が起こる。離層が起こった場合、光学干渉が破壊されて、センサーは知覚可能な色を消失する。検体の存在により、検出層内の1種以上のポリマーを隣接層から脱湿潤させることも可能である。隣接層との界面面積を減少させる検出層の形状変化を伴うこの方法は、センサーフィルムの光学的性質を永久的に変化させる欠陥を材料内に発生させる。
【0019】
基材
基材はオプションであるが、存在する場合、比色センサーを支持することのできる任意の好適な材料を含みうる。それは可撓性であっても非可撓性であってもよい。基材材料は、用途に合わせることができる。好ましくは、真空堆積法で使用するのに好適である。
【0020】
反射層
反射層は、完全反射層または半反射層を形成することのできる任意の材料を含みうる。材料は約20〜約200nmの厚さで完全反射性であることが好ましい。典型的には、より薄い層を使用して反射層を半反射性にすることができる。反射層は典型的には半反射層よりも反射性が高くなるように作製されるが、反射層と半反射層の反射率を同一にして検体の存在に対する応答をセンサーフィルムの両側から見えるようにすることが望ましい場合もある。
【0021】
反射層の好適な材料としては、アルミニウム、クロム、金、ニッケル、ケイ素、および銀のような金属が挙げられる。他の好適な材料としては、酸化クロムおよび酸化チタンのような金属酸化物が挙げられる。
【0022】
いくつかの実施形態では、反射層は、基材としての役割も果たしてセンサーを支持する。
【0023】
検出層
検出層は、1種以上のポリマーまたはコポリマーを含みうる。ほとんどの実施形態では、検出層は、検体に暴露されたときに光学的厚さが変化する少なくとも1種のポリマーを含む。光学的厚さの変化は、膨潤もしくは収縮によるポリマーの物理的厚さの変化のような寸法変化または検体の存在もしくは化学反応による検出層の屈折率変化により引き起こすことができる。検出層は、ある色から他の色へ、有色から無色へ、または無色から有色へ変化させうる。
【0024】
検出層は、2層以上のサブ層を含みうる。1層以上のサブ層は、不連続であってもパターン化されていてもよい。サブ層は、典型的には、異なる高分子材料を含み、そして異なる検体を吸収しうるか、かつ/または1種以上の検体に対して異なる感度を有しうる。サブ層は、さまざまな構成を有しうる。たとえば、それらはスタッキングされていてもよいし、並置されていてもよい。
【0025】
検出層は、検体に暴露されたときに着色画像、言語、またはメッセージを形成するように、パターンを含みうる。サブ層は、特定の検体に対して反応性である1つ以上の部分と同一の検体に対して非反応性である1つ以上の部分とをもたせることによりパターニングしうる。他の選択肢として、反応性材料のパターンをより大きい非反応性サブ層上に堆積させることも可能である。この場合、検体が吸収されるまで光学的厚さの差が現れないように、パターン化層を非常に薄くすることが好ましい。パターニングにより、検体に暴露されたときにユーザーに容易に識別可能な警告を提供することができる。
【0026】
検出層の厚さは、たとえば、米国特許第6,010,751号明細書に記載されているようにパターン化しうる。これは、検体の存在により検出層を膨潤または収縮させてパターンの消失(たとえば、より薄い部分が膨潤してより厚い部分と同一の厚さになる場合)または出現(たとえば、一部分が収縮して隣接部分よりも薄い厚さになる場合)を引き起こすようにセンサーを設計する場合、望ましいであろう。
【0027】
検出層は、ポリマー成分のブレンドを含みうる。ブレンドは、均一であっても不均一であってもよい。検出層中のポリマー成分のブレンドは、比較的小さいセンサーを用いて多数の検体を検出することを考慮して行うことができる。
【0028】
検出層は、ポーラスであってもよい。これにより、検体に暴露される表面積を増大させて検出感度を高くすることができる。検出層を形成するために、国際公開第01/21693号パンフレットに記載されているような高内相エマルジョンから作製されるフォームのような多孔性材料を用いてポロシティーを得ることができる。ポロシティーはまた、共連続ナノ多孔性材料を形成する二酸化炭素フォーミングにより(「巨大分子(Macromolecules)」、2001年、第34巻、pp.8792−8801参照)またはポリマーブレンドのナノ相分離により(「サイエンス(Science)」、1999年、第283巻、p.520参照)、取得可能である。一般的には、細孔直径は、検出プロセスで使用される光源の波長よりも小さくする必要がある。ナノサイズ細孔が好ましい。
【0029】
検出層を構成する1種以上のポリマーを少なくとも部分的に架橋することが可能である。架橋により機械的安定性および特定の検体に対する感度を増大させることができるので、いくつかの実施形態では、架橋が望ましいこともある。架橋は、1種以上の多官能性モノマーを検出層中に組み込むことにより、または検出層を電子ビーム処理もしくはガンマ線処理などに付すことにより、達成することができる。
【0030】
多くの用途では、ポリマーまたはコポリマーは疎水性であることが望ましい。こうすれば、有機溶媒蒸気の検出時などに水蒸気(または液体の水)がポリマーの光学的厚さの変化を引き起こして検体の検出を妨害する可能性が減少するであろう。
【0031】
有機溶媒蒸気を検出する場合、検出層に好適な高分子材料としては、疎水性のアクリレート類およびメタクリレート類、二官能性モノマー類、ビニルモノマー類、炭化水素モノマー類(オレフィン類)、シランモノマー類、フッ素化モノマー類などのモノマー類から調製されるポリマー類およびコポリマー類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
疎水性のアクリレート類およびメタクリレート類の例としては、メチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレートが挙げられる。
【0033】
多官能性モノマー類の例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、IRR−214(ユーシービー・ケミカルズ(UCB Chemicals))のようなジアクリレート類、ペンタエリトリトールトリ−およびテトラ−アクリレート、ならびにトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
ビニルモノマー類の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルステアレート、ビニルクロリド、およびビニルノルボルネンが挙げられる。
【0035】
炭化水素モノマー類(オレフィン類)の例としては、イソブチレン、エチレン、プロピレン、およびノルボルネンが挙げられる。
【0036】
シランモノマー類の例としては、オルガノヒドロシラン類、アルコキシシラン類、フェノキシシラン類、およびフルオロアルコキシシラン類が挙げられる。
【0037】
フッ素化モノマー類の例としては、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、およびヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。
【0038】
溶液中の検出、高極性検体の検出、および/またはセンサーアレイの使用を行う場合、検出層に好適な高分子材料としては、ヒドロキシル化モノマー類、アクリルアミド類、アンヒドリド類、アルデヒド官能化モノマー類、アミンまたはアミン塩官能化モノマー類、酸官能化モノマー類、エポキシド官能化モノマー類、ビニルモノマー類などのモノマー類から調製されるポリマーおよびコポリマー、ならびに他のポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
ヒドロキシル化モノマー類の例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0040】
アクリルアミド類の例としては、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0041】
アンヒドリド類の例としては、(メタ)アクリル酸アンヒドリドが挙げられる。
【0042】
アルデヒド官能化モノマー類の例としては、アクロレインが挙げられる。
【0043】
アミンまたはアミン塩官能化モノマー類の例としては、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート−メチルクロリド塩、4−アミノスチレン、およびビニルイミダゾールが挙げられる。
【0044】
酸官能化モノマー類の例としては、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸−金属塩、およびスチレンスルホン酸が挙げられる。
【0045】
エポキシド官能化モノマー類の例としては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
ビニルモノマー類の例としては、N−ビニルピロリドン、ビニルジメチルアザラクトン(VDM)、およびビニリデンクロリドが挙げられる。
【0047】
他のポリマー類の例としては、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(スルホン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ウレタン)類、ポリ(カーボネート)、エチルセルロース、フルオロポリオール、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリイミド類、およびポリアセタール類が挙げられる。検出層のポリマー成分はまた、特定の検体を検出するために組み込まれる適切な官能基または分子レセプターを有しうる。たとえば、ポリ(アクリル酸)のような酸官能化ポリマー類は、アンモニアガスのような有機塩基の検出を可能にする。検出層内へのメタロポルフィリン類(metalloporphrins)のような金属錯体類の組込みは、ホスフィン類またはメルカプタン類のような配位種の検出を可能にする。好適な分子レセプター類としては、カリックスアレーン類、シクロデキストリン類、アザクラウン類、クラウンエーテル類、ポルフィリン類、メタロポルフィリン類、ペプチド類、タンパク質類、オリゴヌクレオチド類、および核酸類が挙げられる。
【0048】
検出層内に適切な化学特性を組み込むことにより、溶液中の広範にわたる検体に対するセンサーの作製が可能になるはずである。初期堆積によりまたは堆積された材料の後官能化により、ペプチドまたは抗体のようなレセプター分子をポリマーに共有結合させることができる可能性がある。そのようにして、細菌、タンパク質、イオンなどを選択的に検出するためのバイオセンサーを製造することが可能である。
【0049】
検出層は、約50nm超、好ましくは約100〜約1000nmの範囲の厚さを有しうる。
【0050】
半反射層
半反射層は、浸透性で実質的に連続な半反射層を形成することができかつ検出層と異なる屈折率を有する任意の材料を含みうる。ほとんどの実施形態では、約5nmの厚さで半反射性であることが好ましい。なぜなら、この厚さであれば、ほとんどの検体がこの層に浸透して検出層に達することができるからである。所望の厚さは、層の形成に使用される材料、検出対象の検体、および検体を保有する媒体に依存するであろう。
【0051】
好適な材料としては、アルミニウム、クロム、金、ニッケル、ケイ素、および銀のような金属が挙げられる。他の好適な材料としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、および酸化クロムのような酸化物が挙げられる。
【0052】
追加の層
追加の層がセンサーフィルムの光学素子を妨害しないかぎり、センサーフィルムは、先に記載した層のいずれかの間に追加の層を含みうる。追加の層は、タイ層、構造層などを含みうる。
【0053】
作製方法
本発明の多層フィルムは、米国特許第5,877,895号明細書中に記載されているような方法により作製することができる。また、検出層は、スピンコーティング法、溶液コーティング法、押出コーティング法、または当技術分野で公知の他の好適な方法により、作製可能である。プラズマ重合法のようなプラズマ堆積法により、検出層を作製することも可能である。また、反射層および半反射層は、蒸発法、スパッタリング法、化学気相堆積(CVD)法、プラズマ堆積法、または火炎堆積法のような標準的な蒸気コーティング法により作製可能である。反射層および半反射層を作製する他の方法は、溶液からめっきする方法である。
【0054】
使用法
フィルムセンサーは、センサーと、光源と、場合により色の変化をセンサーによりモニターする手段と、を含む系で使用することも可能である。光源は、自然光源であっても人工光源であってもよい。モニタリングは、さまざまな方法で行うことが可能である。視覚的に、光ディテクターにより、または他の好適な手段により、行うことが可能である。
【0055】
検体は、蒸気中に存在していてもよいし、液状媒体中に存在していてもよい。たとえば、検体は、大気中に存在していてもよいし、液体溶媒中に存在していてもよい。
【0056】
2つ以上のフィルムセンサーを一緒に使用してアレイを形成することも可能である。アレイは、任意の好適な構成をとりうる。たとえば、2つ以上のセンサーを並置してアレイに組み込んでもよいし、またはセンサーを基材の両側に固定もしくは構築してもよい。センサーは、同一タイプであっても異なっていてもよい。多層フィルムセンサーのアレイは、化学物質の存在を検出するだけでなく、検体の同定にも有用であろう。
【0057】
本発明のフィルムセンサーは、多くの有用な用途を有する。それは、たとえば、広範にわたる有機蒸気を検出するために使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下の実施例により本発明を例示しうる。
【0059】
別段の記載がないかぎり、フィルムの表面に垂直な角度からセンサーフィルムサンプルを目視した。他の目視角度を使用することも可能である。観察された色は、観察角度に依存して変化することもある。
【0060】
実施例1
米国特許第5,877,895号明細書に記載されている堆積法により、多層比色センサーフィルムを作製した。
【0061】
真空ウェブ系に1回通して(15.24m/分)、アルミニウム反射層(100nm)および高分子検出層(500nm)を逐次的にポリエステル基材層(50μm)上に堆積させた。225mm/分の供給速度で電気加熱式(7V、1250アンペア)蒸発バー上に直径0.1587cmのアルミニウムワイヤー(アルコア(Alcoa)ストック番号1199、ペンシルバニア州ピッツバーグ(Pittsburgh,PA))を供給することにより、アルミニウム反射層を熱蒸発させた。高分子検出層(500nm)を堆積させ、続いて、6.9ワット・秒の電子ビームキュアーを行った。モノマー組成物は、ラウリルアクリレート(ペンシルバニア州エクストンのサートマー(Sartomer,Exton,PA)から入手可能)/IRR214(ベルギー国ドロゲンボスのユーシービー・ケミカルズ(UCB Chemicals,Drogenbos,Belgium)から入手可能な所有権つき炭化水素ジアクリレート)/エベクリル(Ebecryl)170(同様にユーシービー・ケミカルズ(UCB Chemicals)から入手可能なリン酸モノアクリレート化合物)の重量比48.5/48.5/3の混合物であった。その後、続いてクロム(ニューメキシコ州アルバカーキのアカデミー・プレシジョン・マテリアルズ(Academy Precision Materials,Albuquerque,NM))を真空ウェブ系に通して(15.24m/分)キュアード検出層上にスパッタリングし(2.95W/cm2 DC電力 2mTorrアルゴン圧力)、厚さ5nmの外層を得た。多層センサーフィルムは、緑色の色相を有していた。
【0062】
多層フィルムのセクション(2.54平方cm)をガラススライド上に固定し、密封ジャー中で種々の有機溶媒の飽和蒸気に1分間暴露した。各ジャー内で、ニートな液体検体上のヘッドスペース内に多層フィルムを吊り下げた。表1に示されるように、暴露の結果、鮮明で視覚的に検出可能な色変化を生じた。いずれの場合においても、色変化は可逆的であり、溶媒蒸気から取り出すと数十秒以内にもとの緑色の色相を回復した。応答は定性的に再現性があり、繰り返し暴露したところ同一の色変化を生じた。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例2
一連の溶媒蒸気に暴露する前および暴露した後に多層フィルムの可視反射スペクトルを測定した。フィルムセクション(実施例1の2.54平方cmのセクション)をガラススライド上に固定し、密封ジャー内で飽和有機蒸気に暴露した。平衡に達した後、暴露されたフィルムを取り出して、ただちにガラスカバースライドで覆い、蒸気脱着を防止した。その後、拡散反射UV−VIS分光計を用いて、暴露された材料の反射スペクトルを測定した。試験したすべての有機蒸気で、検体への暴露時に反射極大の実質的なレッドシフトが観察された。たとえば、524nm(暴露前)を中心とする反射極大は、長波長側へのシフト(レッドシフト)を呈する。表2に示されるように、シフトの大きさは、22nm(アセトニトリル)〜116nm(メチレンクロリド)の範囲であった。この実施例は、多層比色センサーフィルムが有機蒸気に応答して、ハロカーボン類、アレーン類、アルコール類、ケトン類、ニトリル類、およびエーテル類に対して比色シフトを呈することを示している。飽和水蒸気に暴露したときには反射スペクトル中にシフトは観察されなかった。液体の水の中にフィルムを沈めたときでさえも、色変化は観察されなかった。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例3
さまざまな検体蒸気への応答感度を測定するために、実施例1に記載されているように作製したセンサーフィルムを簡単なフロースルー型装置により一連の濃度の検体に暴露した。濃度(分圧により決定した)を浴温により制御した。ニートな液体検体に空気を通してバブリングし、低温浴を用いて冷却することにより蒸気圧を制御した。固体二酸化炭素(ドライアイス)と3−ヘプタノンまたはエチレングリコールとの混合物により、それぞれ、−38℃および−15℃の浴温を与えた。氷水浴を用いて0℃の温度を与えた。蒸気圧便覧(Handbook of Vapor Pressure)(ヤウス・シー・エル(Yaws,C.L.),ガルフ・パブリッシング(Gulf Publishing):ヒューストン(Houston),1994年)のデータを用いてこれらの温度における各検体の蒸気圧を算出した。その後、多層フィルムの入ったセプタム密封バイアル中にステンレス鋼カニューレにより各空気/蒸気ストリームを流入させた。暴露時の各フィルムの色変化を視覚的にモニターし、複数回の観察により、平衡を確認した。表3は、濃度の関数として応答を示しており、「緑色」は、非暴露フィルムの色を示し、「桃色」は、飽和蒸気に対する応答を示し、「黄色」は中間の応答を示している。本発明の比色センサーフィルムを用いて蒸気の定性的な存在だけでなく検体の濃度をも決定できることが結果から示唆される。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例4
センサーフィルム(実施例1のセンサーフィルム)を用いて水中の有機化合物の検出を行った。テトラヒドロフラン(THF)の水溶液(5体積%)内にフィルムを沈めたところ、緑色から黄色に目に見える色の変化が起こった。アセトンの水溶液(25体積%)中に沈めたところ、緑色から黄色〜緑色に目に見える色の変化が起こった。この実施例は、本発明の多層比色センサーフィルムにより水中の有機化合物の存在を検出できることを示している。純粋な水にフィルムを暴露したときには、色の変化は観察されなかった。
【0069】
実施例5
検出層をスピンコーティングすることにより、2つの多層センサーフィルムを作製した。ポリマー検出層を除けば、構造は同一であった。各センサーフィルムを作製するために、50μmポリエステル基材層上にバッチ式真空コーターで電子ビーム蒸発(蒸発速度2.5nm/秒)させることにより、アルミニウム反射層(100nm)を堆積させた。ポリ(スチレン)検出層およびポリ(メチルメタクリレート)検出層を、それぞれ、スピンコーティングにより1つのアルミニウムコーテッド基材上に堆積させた。それぞれ、5%(w/w)および9.4%(w/w)の濃度のトルエン溶液により、ポリマーをコーティングした。3500rpmで25秒間かけてスピンコーティングを行った。得られたポリマーの厚さは、260nm(ポリ(スチレン))および500nm(ポリ(メチルメタクリレート))であった。その後、実施例1のときに等しいスパッタリング条件により、クロム層(5nm)を各高分子表面上に堆積させ、多層センサーフィルム構成体を完成させた。センサーフィルムを飽和クロロホルム蒸気に暴露したところ、紫色から青色に(ポリ(スチレン))および桃色から薄緑色に(ポリ(メチルメタクリレート))可逆的なカラーシフトを起こした。フィルムをトルエン蒸気に暴露したところ、干渉に基づく色が永久的に消失した。このことは、フィルムから検体を除去したときにそのもとの色を回復できなかったことから示唆される。透過電子顕微鏡法(TEM)実験によると、この不可逆変化はアルミニウム層がスタックの残りの部分から離層したことが原因であることが示唆される。この実施例から、スピンコーティングにより多層比色センサーを作製できることが実証される。また、センサーの作製に使用される材料および方法を適切に選択することにより、本発明のセンサーの永久的な外観変化を実現できることが実証される。
【0070】
実施例6
実施例1に記載されているものと同一の全体構造および組成を有する2つの多層フィルムを作製した。ただし、サンプル6Aでは検出層の厚さは500nmであるのに対して、サンプル6Bでは厚さは650nmであった。フィルムは両方とも、実施例1のときと同様にラウリルアクリレート/IRR214/EB170混合物の重合により作製された検出層を含んでいた。一連の蒸気に対する2つのフィルムの応答を表4に示す。個々のセンサーはいずれもすべての検体を同定することはできないが(すなわち、6Aではトルエンとアセトンとが識別されず、6Bではアセトニトリルとアセトンとが識別されない)、両方のセンサーを組み合わせた応答は、試験したそれぞれの種に特有である。検体同定のために2つ以上の特有の多層フィルムを含むセンサーアレイの有用性が、この実施例により実証される。
【0071】
【表4】

【0072】
本発明の種々の修正形態および変更形態は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に自明なものとなろう。また、当然のことながら、本発明は、本明細書中に記載されている例示的な実施形態に過度に制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の多層フィルムを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体の存在および濃度の一方または両方を測定するための比色センサーであって、
実質的に連続な反射層と;
該反射層上に存在する検出層であって、少なくとも1つのポリマー成分を含み、該検体に暴露されたときに光学的厚さの変化が可能である検出層と;
該検出層上に存在する実質的に連続な半反射層であって、該検出層の屈折率と異なる屈折率を有する半反射層と;
を含む、比色センサー。
【請求項2】
前記反射層の下に基材層をさらに含む、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項3】
前記検出層が多孔性材料を含む、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項4】
前記検出層の光学的厚さの変化が前記検出層の寸法変化に基づく、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項5】
前記検出層の光学的厚さの変化が前記検出層の屈折率の変化に基づく、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項6】
前記検出層の光学的厚さの変化が永久的である、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項7】
前記検出層の光学的厚さの変化が可逆的である、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項8】
前記検出層が2つ以上のポリマー成分を含み、かつ各ポリマー成分の光学的厚さが異なる検体の存在下で変化する、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項9】
前記ポリマー成分がブレンドされている、請求項8に記載のセンサー。
【請求項10】
異なるポリマー成分が前記検出層の異なる領域を占める、請求項8に記載のセンサー。
【請求項11】
前記検出層が少なくとも2種のポリマーを含み、かつ1種のポリマーのみの光学的厚さが検体の存在下で変化する、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項12】
前記センサーが前記検体に暴露されたときに目に見えるパターンが生成するように、前記少なくとも2種のポリマーが配置されている、請求項11に記載の比色センサー。
【請求項13】
前記検出層中の少なくとも1種のポリマーが少なくとも部分的に架橋されている、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項14】
前記検出層中の少なくとも1種のポリマーが、アクリレート類およびメタクリレート類を含むポリマーまたはコポリマーよりなる群から選択される、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項15】
前記検出層中の少なくとも1種のポリマーがコポリマーである、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項16】
前記反射層および前記半反射層の一方または両方が金属を含む、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項17】
前記半反射層が約30〜約70%の可視光透過率を有する、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項18】
2つ以上の請求項1に記載の比色センサーを含む、アレイ。
【請求項19】
少なくとも2つのセンサーが基材の両側に存在する、請求項18に記載のアレイ。
【請求項20】
前記検出層中に分子レセプター類をさらに含む、請求項1に記載の比色センサー。
【請求項21】
前記分子レセプター類が、カリックスアレーン類、シクロデキストリン類、アザクラウン類、クラウンエーテル類、ポルフィリン類、メタロポルフィリン類、ペプチド類、タンパク質類、核酸類、およびオリゴヌクレオチド類よりなる群から選択される、請求項20に記載の比色センサー。
【請求項22】
請求項1に記載の比色センサーと光源とを含む、デバイス。
【請求項23】
光ディテクターをさらに含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
検体の存在または不在を検出する方法であって、
請求項1に記載の比色センサーを提供することと、
光源を提供することと、
該センサーを検体が含まれる可能性のある媒体に接触させることと、
光学的性質の変化を該センサーによりモニターすることと、
を含む、方法。
【請求項25】
光学的性質の変化を前記センサーによりモニターするために、光ディテクターが使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記光学的性質の変化が目に見える変化を生成する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記媒体がガスである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記媒体が液体である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記検体がガスである、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記検体が液体である、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
検体の存在および濃度の一方または両方を測定するための比色センサーであって、
実質的に連続な反射層と;
該反射層上に存在する検出層であって、少なくとも1つのポリマー成分を含む検出層と;
該検出層上に存在する実質的に連続な半反射層であって、該検出層の屈折率と異なる屈折率を有する半反射層と;
を含み、該検体に暴露されたときに色の変化が可能である、比色センサー。
【請求項32】
前記色の変化が可視色から可視色の欠如への変化である、請求項31に記載の比色センサー。
【請求項33】
前記色の変化が隣接層からの前記検出層の離層に基づく、請求項31に記載の比色センサー。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2006−501467(P2006−501467A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541478(P2004−541478)
【出願日】平成15年8月18日(2003.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/025711
【国際公開番号】WO2004/031760
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】