説明

反射膜積層体

【課題】Agの凝集および硫化が生じ難い反射膜積層体を提供する。
【解決手段】(1) 基体上に、Agを主成分としBiを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有すると共に、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[B](原子%)としたときに、下記(1)式を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体。
7×[A]+13×[B]≦8 ------(1)式
(2) 前記反射膜積層体においてAg合金がAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1 〜5原子%含有するもの等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射膜積層体、及びこの反射膜積層体を用いた車両用灯具、照明器具、光学ミラー、LED,有機ELディスプレイ、有機EL照明器具に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
Ag膜は、膜厚が約70nm以上になると、可視光の反射率が非常に高くなるため、従来より、光学ミラーなどの用途に用いられている。
【0003】
しかしながら、Ag膜は凝集しやすく、凝集により反射率が低下するという問題点を有していた。この凝集は、大気中のハロゲンイオンが水分と共にAg膜表面に吸着することにより生じるため、Ag膜の表面に外部環境を遮断するためにUV硬化樹脂やアクリル系樹脂等の樹脂や酸化物や窒化物をコーティングして使用されるが(特開2000−106017号公報、特開2006−98856号公報参照)、ピンホール部分からの水分やハロゲンイオンの侵入や、加えて樹脂の場合は樹脂そのものを水分やハロゲンイオンが拡散浸透することによって凝集が発生するために、Ag膜表面に多数の白点や変色が生じて、意匠性、商品性を低下させる原因となっていた。
【0004】
また、上記の凝集の問題に加え、反射膜はランプにより80〜200℃程度の高温にさらされるため、熱によってAg原子が拡散して凝集し、Ag膜の表面が粗くなって反射率が低下するという熱による凝集の問題や、大気中の硫黄が樹脂膜や酸化物膜などの保護膜中を拡散浸透してきて、Ag反射膜と反応して表面が徐徐に硫化されることにより黒く変色し、これにより反射率が低下するという硫化の問題があった。
【0005】
耐硫化性については、Agの合金化による改善も試みられている。例えば、AgにGeやInを添加した合金や(特開2001―192753、特開2006―37169)、耐熱性が高いAg−Bi合金に耐硫化性を向上する元素であるZnを添加した合金(特開2005−48231)が提案されている。
【0006】
これらの合金は、確かに耐硫化性を向上するが、車両用灯具や照明器具などの反射膜では、93%以上の高い反射率を維持することが要求されるため、これらの膜単独の使用では、硫化によって反射率が徐徐に低下してしまう。
【特許文献1】特開2000− 106017号公報
【特許文献2】特開2006−98856号公報
【特許文献3】特開2001−192753号公報
【特許文献4】特開2006−37169号公報
【特許文献5】特開2005−48231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、Ag膜の凝集および硫化が生じ難い反射膜積層体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ハロゲンイオンと熱による凝集を改善する合金について検討を行い、その結果Ag−Bi合金を見出した(特開2004−139712)。しかしながら、Ag−Bi合金では耐硫化性を十分改善することができない。
【0009】
そこで、Ag−Bi合金に種々の元素を添加したAg合金膜について耐硫化性試験を行ったが、Ag合金膜単独ではAg−Bi合金に比べ耐硫化性が改善されるものもあるが、93%以上の反射率を維持するAg合金は無く、硫化を抑えるには保護膜が必須であるとの結論に至った。また、Ag合金膜への保護膜積層の検討を進める中で、単純に保護膜を積層すればよいのではなく、Ag−Bi合金への添加元素種とその濃度と、保護膜に用いる膜の種類がある組合せとなるときに、保護膜が緻密化するとともに保護膜のピンホールが減少して大気中の硫黄の侵入を抑制するとともに、ハロゲンイオンの侵入も抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
このようにして完成された本発明は、反射膜積層体、並びに、この反射膜積層体を用いた車両用灯具、照明器具、光学ミラー、LED、有機ELディスプレイ、有機EL照明に係わり、請求項1〜9記載の反射膜積層体(第1〜9発明に係る反射膜積層体)、請求項10記載の車両用灯具(第10発明)、請求項11記載の照明器具(第11発明)、請求項12記載の光学ミラー(第12発明)、請求項13記載のLED(第13発明)、請求項14記載の有機ELディスプレイ(第14発明)、請求項15記載の有機EL照明(第15発明)であり、それは次のような構成としたものである。
【0011】
即ち、請求項1記載の反射膜積層体は、基体上に、Agを主成分としBiを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有すると共に、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、下記(1)式を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体である〔第1発明〕。
7×[A]+13×[Bi]≦8 ---------(1)式
【0012】
請求項2記載の反射膜積層体は、前記Ag合金膜とSiの酸化物からなる第二層の界面に、前記Ag合金膜の内部よりもGeの含有量が多い層を有することを特徴とする請求項1記載の反射膜積層体である〔第2発明〕。
【0013】
請求項3記載の反射膜積層体は、前記V、Ge、Znの1種以上の含有量が多い層が、V、Ge、Znの1種以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項2記載の反射膜積層体である〔第3発明〕。
【0014】
請求項4記載の反射膜積層体は、前記Ag合金が更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1〜5原子%含有する請求項1〜3記載の反射膜積層体である〔第4発明〕。
【0015】
請求項5記載の反射膜積層体は、前記Siの酸化膜からなる第二層をSiO2 とみなして、この層の密度をX線反射率法により測定し、3層に分割したモデルで解析した際に、3層中のうち少なくともAg合金からなる第一層と接する層の密度が2g/cm3 以上である請求項1〜4記載の反射膜積層体である〔第5発明〕。
【0016】
請求項6記載の反射膜積層体は、前記第二層の厚さが5〜80nmである請求項1〜5のいずれかに記載の反射膜積層体である〔第6発明〕。
【0017】
請求項7記載の反射膜積層体は、JIS R3106に準拠してD65光源での波長範囲380〜780nmの光によって測定された可視光反射率が93%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の反射膜積層体である〔第7発明〕。請求項8記載の反射膜積層体は、前記第二層の上にプラズマ重合膜が形成されている請求項1〜7のいずれかに記載の反射膜積層体である〔第8発明〕。
【0018】
請求項9記載の反射膜積層体は、基体と第一層との間に、金属膜または金属酸化物膜、または、プラズマ重合膜、もしくは樹脂膜より成る膜が形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の反射膜積層体である〔第9発明〕。
【0019】
請求項10記載の車両用灯具は、請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする車両用灯具である(第10発明)。請求項11記載の照明器具は、請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする照明器具である(第11発明)。請求項12記載の光学ミラーは、請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする光学ミラーである(第12発明)。請求項13記載のLEDは、請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とするLEDである(第13発明)。請求項14記載の有機ELディスプレイは、請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする有機ELディスプレイである(第14発明)。請求項15記載の有機EL照明は、請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする有機EL照明である(第15発明)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る反射膜積層体は、Ag合金膜組成と保護膜の組合せの最適化によって保護膜の保護性能を向上させることができ、Ag合金膜の凝集および硫化が生じ難く、このため、その耐久性の向上がはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
硫黄やハロゲンイオンとの反応を抑えるためにはAg合金膜を外部環境から遮断するための保護膜を形成することが必要であるが、反射膜として使用するため、高反射率を得るために保護膜は無色透明でなければならない。無色透明の保護膜としてはシリカ、アルミナ、チタニア等の酸化膜がある。しかしながら、これらの無色透明保護膜を、単純に純Agまたは通常のAg合金膜上に成膜しても、ピンホールの生成が避けられないと共に、保護膜の密度が低いために、例えば5%の硫化アンモニウム水溶液の上方に暴露して蒸発してきた硫化水素ガスに接触させる硫化試験を行うと、茶色い点状の硫化が多数発生したり、膜全体が黄色く変色してしまう。また、120〜130℃の大気雰囲気中に放置すると、保護膜中を大気中の硫黄が拡散してAgと反応して徐徐に硫化による黄色化が進行する。
【0022】
そこで、本発明者らはハロゲンイオンと熱による凝集が改善されるAg−Bi合金に添加する元素を選択することや組成などを制御することで保護膜の緻密性を向上させることに着目して鋭意検討を進めた。その結果、Ag−Bi合金への添加元素種とその濃度と、保護膜に用いる膜の種類がある組合せとなるときに、保護膜のピンホールが低減できると共に、保護膜が緻密化して膜全面からの硫化水素ガスの侵入を阻止することを見出した。このように保護膜の環境遮断性(Ag合金と環境中の各種影響物質との接触を遮断する性能)を高めることができ、その結果、耐硫化性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
このようにして完成された本発明に係る反射膜積層体は、基体上に、Agを主成分としBiを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有すると共に、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、下記(1)式を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とするものである。
7×[A]+13×[Bi]≦8 ---------(1)式
【0024】
本発明に係る反射膜積層体において、第一層を形成するAg合金は、Biを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上(以下、Aともいう)を合計で0.02原子%以上含有すると共に、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、下記(1)式を満足するものである。
7×[A]+13×[Bi]≦8 ---------(1)式
【0025】
Biは、0.02原子%以上の含有率で熱とハロゲンイオンによるAg膜の結晶粒成長や凝集を抑制する効果が発現する。即ち、耐熱性と耐ハロゲン性が向上してAg膜の凝集が生じ難くなる。つまり、耐凝集性が向上する。このため、Bi含有率は0.02原子%以上とする必要がある。また、後で述べるように、元素Aと同時に添加することで、第二層が緻密化し、かつピンホールが減少するが、このように第二層の保護性能を高めるためにも、0.02原子%以上の添加が必要である。好ましくは0.05原子%以上、より好ましくは0.08原子%以上である。以上の点から、本発明に係る第一層のAg合金でのBi含有率は0.02 原子%以上としている。
【0026】
上記Biと共にA(V、Ge、Znの1種以上)を合計で0.02原子%以上含有することにより、第二層を緻密化させ、かつピンホールを減少させ、保護性能が高まる。つまり、保護膜としての耐久性が向上する。Aの合計含有率(以下、Aの含有率ともいう)が0.02原子%未満では第二層の保護性能の向上効果が得られない。このため、Aの含有率は0.02原子%以上とする必要がある。好ましくは0.05原子%以上、より好ましくは0.08原子%以上である。以上の点から、本発明に係る第一層のAg合金膜中のAの含有率は0.02原子%以上としている。
【0027】
第一層を形成するAg合金は、上記のようにBiおよびA(V、Ge、Znの1種以上)を含有するだけでなく、前記Aの含有率[A]とBiの含有率[Bi]が(1)式を満足する必要がある。これは、この式を満足しないAとBiの含有率では、Ag合金膜の反射率が低下して93%よりも低くなってしまうからである。より好ましくは、(1)式の右辺の値を6、さらに好ましくは4とした式を満足するAとBiの含有率であれば、反射率が向上してなお良い。
【0028】
また、第一層は、Ag合金膜内部よりもSiの酸化物からなる第二層の界面側のGeもしくはZnの含有量が多いことが好ましい。さらに、GeもしくはZnの含有量が多い層にはこれらの酸化物が含まれていることが好ましい。これにより、GeもしくはZnやこれらの酸化物がSiの酸化物からなる第二層の界面側に濃縮することにより、第二層のSi酸化物層が緻密化したりピンホールが減少したりすると考えられる。
【0029】
第一層の好ましい膜厚は70〜500nmで、更に好ましくは100〜400nm、より好ましくは150〜300nmである。全反射を得るには70nm以上必要であり、また、熱やハロゲンイオンによるAgの凝集はAg合金膜の膜厚にも依存し、膜が厚いほど凝集しにくくなるからである。一方、上限についてはコスト的には500nm以下がよい。
【0030】
第二層は、第一層(Ag合金)を外部環境から遮断するための保護膜として作用するものであるが、無色透明でなければならない。透明酸化膜としては、Siの酸化物からなる酸化膜の他にも、SnO2 、ZnO等の酸化膜があるが、SnO2 、ZnO等からなる酸化膜はいずれも黄色などの色がついているために、光源の光色を再現できない。これらに対して、Si、AlまたはTiの酸化物からなる酸化膜は、いずれも無色透明である。
【0031】
これらの無色透明の金属酸化物からなる酸化膜の中で、AlやTiの酸化物からなる酸化膜を第二層として用いた場合、第一層のAg合金膜組成が上記組成であれば、耐硫化性および耐熱性の向上効果は得られるが、Siの酸化物よりもその効果は低く、特に耐硫化性は不十分である。これに対し、Siの酸化物からなる酸化膜を第二層として用いた場合、第一層のAg合金膜組成が上記組成のとき、上記のような耐硫化性の顕著な向上効果が得られる。また、AlやTiの酸化物は成膜速度がSiO2 と比べて1/10以下で生産性が著しく劣る。以上の点から、本発明に係る第二層はSiの酸化物からなるものとしている。
【0032】
本発明に係る反射膜積層体において、第二層がSiの酸化物からなり、この層をSiO2 とみなして、この層の密度をX線反射率法により測定し、3層に分割したモデルで解析した際に、3層中のうち少なくともAg合金からなる第一層と接する層の密度が2g/cm3 以上であるのがよい〔第3発明〕。即ち、SiO2 の理論密度は約2.7g/cm3 (石英の値)であり、硫化水素ガスによる硫化を抑えるためには、SiO2 層がより緻密に、即ち、より理論密度に近い密度で形成されている方が好ましい。一般に、スパッタリング法によりSiO2 膜を形成すると膜内で密度の勾配が生じる。このときのSiO2 膜の密度はX線反射率法により測定することができ、SiO2 膜を多層に分割したモデルで解析するとその密度勾配に関する情報を得ることができる。本発明者らはSiO2 膜密度の解析方法を種々検討した結果、3層以上に分割したモデルで解析すると、実測データとシミュレーションデータとの間に高い相関が得られることを見出し、SiO2 膜を3層構造としたモデルで各層の密度を計算により求めた。本発明者らは鋭意検討し、第一層がAgを主成分としBiを0.02 原子%以上含有し更にA(V、Ge、Znの1種以上)を0.02原子%以上含有する場合に、第二層をX線反射率法で測定し、3層モデルで解析したときのAg合金からなる第一層と接する層の密度が2g/cm3 以上となることを見出し、このときに硫化水素ガスや水分の透過を抑え保護層として非常に高い効果を発揮することが分かった。従って、第二層がSiO2 膜からなる場合、このSiO2 膜の密度をX線反射率法により測定し、3層モデルで解析した際に、3層中のAg合金からなる第一層と接する層の密度が2g/cm3 以上であるのがよい。なお、Ag合金膜と接するSiの酸化物膜が緻密化する原因については明らかではないが、例えば、Ag−Bi−Ge合金膜を膜の表面から深さ方向に組成をXPS(X線光電子分光法)で分析すると、Ag−Bi−Ge合金膜の表面にGeが濃縮しており、この濃縮が第二層の緻密化やピンホールの減少に寄与していると考えられる。すなわち、例えば膜中のGeの平均組成が0.1at%のAg−Bi−Ge合金膜では(膜中のGe組成は膜を硝酸溶液で溶解し、溶液をICP発光分光分析装置で分析して求めた)、XPS分析ではGeの組成は最表面で2.0at%、表面から0.7nmの深さで0.8at%、表面から1.4nm以上の深さでは、検出限界以下の組成となっており、最表面のGe組成は膜中平均組成の20倍も濃縮している。一方、Ag−Geの二元系合金膜でもGeの表面濃縮は認められるが、膜中のGeの平均組成は0.1at%とAg−Bi−Ge合金膜と同じ組成であっても、表面のGe組成は1.0at%とAg−Bi−Ge合金膜よりも濃縮の度合いが低くなっている。このように、GeとBiとを複合添加することにより、Ag合金表面でのGeの濃縮が一層高められ、これが、第二層であるSiの酸化膜の核発生密度を増大して、膜の緻密化やピンホールの低減に寄与していることが考えられる。Geは周期律表中でSiと同族元素であることから、Si−OとGe−Oが整合しやすいため、Ag合金膜表面にGeが多く存在すれば、GeがSiの酸化物の核発生サイトとなって核発生密度が増大し、Siの酸化物の緻密化やピンホールの低減が生じると考えられる。
【0033】
第一層のAg合金は、更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1〜5原子%含有することが望ましい〔第4発明〕。Au、Pt、Pd、Rhの1種以上の添加により、第二層に例えばゴミの付着等によりピンホールが形成されたとしても、ハロゲンイオンによる凝集発生を更に抑制することができるからである。これらの元素の含有率が合計で0.1原子%未満であるとハロゲンイオンによる凝集抑制効果が小さく、5原子%を超えるとAg合金膜の材料コストが高くなるばかりか、初期反射率が低下するとともに耐硫化性が低下(第二層のピンホールが増加)する傾向がある。従って、これらの元素の含有量は合計で0.1〜5原子%とすることが好ましい。より好ましくは、0.3〜3原子%である。
【0034】
本発明に係る反射膜積層体において、より耐久性を高めるためには、第二層(Siの酸化物)の上にプラズマ重合膜を積層するとよい〔第8発明〕。このプラズマ重合膜の厚さは10〜1000nmとするとよい。このとき、プラズマ重合膜は、有機シリコンを原料として形成されたものが好ましい。この有機シリコンとしては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、トリエトキシシラン等がある。この有機シリコンを原料として形成されたプラズマ重合膜は、水との濡れ性が非常に悪いため、水分やハロゲンイオンの侵入を防止することができる。また、プラズマ重合膜は、耐酸性および耐アルカリ性に優れるため、酸性雰囲気下でも、アルカリ性雰囲気下でも、反射膜積層体の特性を維持する効果がある。
【0035】
本発明に係る反射膜積層体において、第二層(Siの酸化物)の膜厚は、5〜80nmであることが好ましい〔第6発明〕。この理由を以下説明する。第二層の膜厚が5nm未満の場合、ピンホールが多すぎて硫化を止め難くなる。この点から、第二層の膜厚は5nm以上であることが好ましい。より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。一方、80nmを超えると膜応力が大きくなり、耐熱試験や耐湿試験で割れや剥がれが発生する恐れがある。また、SiO2 は目視上無色透明であるが、わずかながら光を吸収するため、膜厚が80nmを超えると反射率が93%を下回り、Ag合金の高反射率の利点が活かされなくなるため好ましくない。これらの点から、第二層の膜厚は80nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは60nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。以上の点から、第二層の膜厚は5〜80nmであることが好ましい。
【0036】
反射膜材料として一般的に使用されている材料はAlであり、その反射率はおよそ85%である。これに対し、本発明に係る反射膜積層体の反射率は高く、JIS R3106に準拠してD65光源での波長範囲380〜780nmの光によって測定された可視光反射率が93%以上となるようにすることができるので、このようにすることが望ましい〔第7発明〕。このような反射膜は、光源(ランプ)の消費電力を従来よりも下げても同等の明るさを得ることができ、複数のランプを使用する場合にはランプの個数を減少させることができることから、光源にかかるコストを低減することができる。また、従来の反射膜材料では十分な明るさを確保できなかったLED光源のリフレクタ―にも好適に使用できる。
【0037】
本発明に係る反射膜積層体において、基体としては、ガラスや樹脂等よりなるものを用いることができる。これらは光源の発する熱の温度によって選択して用いるとよい。例えば、温度がおよそ180℃以上の場合はガラス、120〜180℃の場合は PET材やPBT材等のポリエステル材、120℃以下の場合はポリカーボネート材よりなるものを用いるとよい。また、Ag合金スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法を用いて本発明に係る反射膜積層体の第一層のAg合金を成膜することが推奨される。特に直流カソードを用いたDCスパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0038】
本発明に係る反射膜積層体を形成する場合、基体表面のゴミや汚れによって、使用中にAg合金膜の反射率が低下することがある。例えば、基体表面にハロゲンイオンや硫黄成分を含む汚れや微細なゴミが付着している場合、そのままその基体上にAg合金膜を形成すると、前記ゴミの部分でAgの凝集が発生し、時間の経過とともにその凝集がAg合金膜表面にまで達し、やがては反射率が低下する恐れがある。このような基体表面のゴミ起因のAg凝集を防止するためには、基体とAg反射膜(Ag合金からなる第一層)の界面に下地膜を入れることが好ましい〔第9発明〕。
【0039】
上記下地膜としては、Cu、Ni、Co、W、Mo、Ta、Cr、Tiなどの金属の単体もしくはこれらのうち1種以上の合金からなる膜、Si、Ti、Al、Sn、Znなどの金属酸化物膜、有機シリコンなどを原料としたプラズマ重合膜、ホウケイ酸ガラスなどのガラス皮膜、塗膜を含む樹脂膜(アクリル樹脂、シリコン樹脂等)などを用いることができる。
【0040】
上記下地膜の膜厚は5nm以上であることが好ましい。5nm未満であると連続膜にならない場合があり、基体上にハロゲンイオンや硫黄成分が付着している場合に、これらとAgを隔離することができなくなる。より好ましくは5nm以上であり、さらに好ましくは7nm以上である。
【0041】
一方、下地膜の膜厚の上限は材料によって異なる。下地膜が金属膜もしくはプラズマ重合膜の場合、500nm以下であることが好ましい。500nmを超えると膜応力が大きくなり、積層成膜した後に耐熱試験や耐湿試験を行ったときに割れや剥がれが発生する恐れがある。より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは300nm以下である。
【0042】
下地膜が金属酸化物膜の場合、100nm以下であることが好ましい。100nmを超えると膜応力が大きくなり、積層成膜した後に耐熱試験や耐湿試験を行ったときに割れや剥がれが発生する恐れがある。。より好ましくは90nm以下であり、更に好ましくは80nm以下である。
【0043】
下地膜が塗膜など樹脂膜の場合、特に上限が定められるものではないが、工程上200μm以下であるのが好ましい。
【0044】
本発明に係る車両用灯具とは、自動車や自動二輪車のヘッドランプやリアランプのことを指し、本発明の反射膜積層体は、これらランプの反射板やエクステンションに用いられる。
【0045】
本発明に係る照明器具とは、ダウンライトや蛍光灯のことを指し、本発明の積層体は、本発明の積層体は、これらの反射板に用いられる。本発明に係る光学ミラーとは、カメラのフラッシュや、光の反射を利用した分析装置内のミラーなどのことを指し、本発明の積層体はこれらの反射板に用いられる。本発明に係るLEDとは、砲弾型、フラット型、チップ型などのLEDのことを指し、本発明の反射膜積層体はその反射電極に用いられる。本発明に係る有機ELディスプレイとは、有機ELを使用したテレビや携帯電話用ディスプレイのことを指し、本発明の反射膜積層体はその反射板に用いられる。本発明に係る有機EL照明器具とは、有機ELを使用した照明器具のことを指し、本発明の反射膜積層体はその反射板に用いられる。
【0046】
本発明に係る第一層のAg合金は、成分としては、BiおよびA(V、Ge、Znの1種以上)を含有し(第1発明の場合)、あるいは更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を含有する(第3発明の場合)。このとき、必要に応じて上記元素以外の元素を含有することができる。従って、上記元素のみを含有する場合と、上記元素と上記元素以外の元素とを含有する場合とがある。
【0047】
上記元素のみを含有する場合、本発明の第1発明に係る反射膜積層体は、「基体上に、Biを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有し、残部が不可避的不純物およびAgからなると共に、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、
7×[A]+13×[Bi]≦8
を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体」、又は、「基体上に、Biを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有し、残部が不可避的不純物およびAgからなるAg合金であって、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、 7×[A]+13×[Bi]≦8
を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体」等と表現することができる。このとき、本発明の第3発明に係る反射膜積層体は、「基体上に、Biを0.02 原子%以上含有し更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有し、更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1〜5原子%含有し、残部が不可避的不純物およびAgからなると共に前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、
7×[A]+13×[Bi]≦8
を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体」、または、「基体上に、Biを0.02原子%以上含有し更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有し、更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1〜5原子%含有し、残部が不可避的不純物およびAgからなるAg合金であって前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、
7×[A]+13×[Bi]≦8
を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体」等と表現することもできるが、特許請求の範囲の請求項3に記載のとおりの「前記Ag合金が更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1〜5原子%含有する請求項1または2記載の反射膜積層体」と表現することもできる。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0049】
〔例1〕
図1に示すようなスパッタリング装置のチャンバー内にφ100mm ×t5mmの純AgまたはAg−Bi合金ターゲット(純AgよりなるターゲットまたはAg−Bi合金よりなるターゲット)をセットし、φ50mm×t1mmのPC基板(ポリカーボネートよりなる基板)をターゲットに正対するようにセットし、チャンバー内を1×10-5Torr以下となるように真空に引いた。その後、チャンバー内にArガスを導入し、チャンバー内圧力を2×10-3Torrとなるようにし、ターゲットにDC(直流)を印加してプラズマを発生させ、DCパワー200Wでターゲットをスパッタすることにより、PC基板上に純Ag膜またはAg合金膜(第一層)を成膜した。このとき、ターゲットとしては、純Ag膜の成膜の場合には、純Agターゲットを用いた。Biを含有しないAg合金膜の成膜の場合には、純Agターゲット上に合金元素の金属チップを乗せたものを用いて成膜した。BiおよびBi以外の元素を含有するAg合金膜の場合には、Ag−Bi合金ターゲット上にBi以外の元素の金属チップを乗せたものを用いて成膜した。なお、ターゲットとPC基板間の距離は80mmとし、PC基板を公転させながら成膜を行った。このように成膜したAg合金膜中の各種添加元素の平均含有率はICP(Inductivity Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光質量分析法によって測定した。即ち、Agおよび添加元素をともに溶解できる酸を用いてAg合金膜を溶解し、得られた溶液中のAgと添加元素との比率をICP発光質量分析法により測定し、それを100%に規格化してAg合金膜の組成とした。なお組成は原子%として求めた。
【0050】
次に、ターゲットをSiO2 ターゲット(SiO2 よりなるターゲット)に交換し、チャンバー内を1×10-5Torr以下となるように真空に引いた。その後、チャンバー内にArガスを導入し、チャンバー内圧力を2×10-3Torrとなるようにして、ターゲットにRF(高周波)電流を印加してプラズマを発生させ、RFパワー200WでSiO2 ターゲットをスパッタすることにより、前記第一層(純Ag膜またはAg合金膜)上にSiO2 膜(第二層)を成膜して、反射膜積層体を得た。なお、ターゲットとPC基板間の距離は80mmとし、基板を公転させながらSiO2 膜の成膜を行った。
【0051】
このようにして得られた反射膜積層体での第一層の成分組成、7×[A]+13×[Bi]の値、および膜厚、第二層(SiO2 膜)の膜厚を表1に示す。これらの反射膜積層体について、JIS R3106に準拠してD65光源での波長範囲380〜780nmの光によって可視光反射率(初期反射率)を測定し、この後、下記条件下で保持する耐硫化試験、耐熱試験、耐塩水試験、耐湿試験を行った。
【0052】
〔耐硫化試験〕
・試験液組成:10質量%硫化アンモニウム水溶液
・暴露位置:試験液の液面から3cmの高さで成膜面が液面に対向するように設置
・暴露時間:20分
【0053】
〔耐熱試験〕
・試験温度:130 ℃
・試験雰囲気:大気
・試験時間:1000時間
〔耐塩水試験〕
・試験液組成:3重量%NaCl水溶液
・試験方法:上記NaCl水溶液中に10分間浸積
〔耐湿試験〕
・温度50℃、湿度95RH%の恒温恒湿試験装置内に240時間保持
【0054】
上記耐硫化試験後の反射膜積層体について、その表面(耐硫化試験で暴露された側の面)を光学顕微鏡で200倍に拡大して、その面の写真を撮り、同倍率で撮影したマイクロメーターの写真の寸法で0.2mm×0.2mmの領域(即ち、実寸で表面上の0.2mm×0.2mmの領域)に発生した点状の変色箇所、すなわち、Si酸化膜のピンホール箇所に発生したAgの硫化点を数え、この発生点数により耐硫化性(硫化され難さの程度)を評価した。この発生点数が0(ゼロ)を◎、1〜3個を○、4〜6個を△、7個以上を×とした。また、硫化試験後の反射膜積層体について、前記初期反射率の測定の場合と同様の方法により波長範囲380〜780nmの光における可視光反射率を測定し、初期反射率との差〔即ち、試験前後の反射率の差=初期反射率(%)−耐熱試験後反射率(%)〕を求め、この反射率の差によっても耐硫化性(即ち、Si酸化膜の緻密さの程度)を評価した。この反射率の差が0.5%以下を◎、0.5%超1%以下を○、1%超3%以下を△、3%超を×とした。
【0055】
上記耐熱試験後の反射膜積層体について、耐硫化試験の反射率測定の場合と同様の方法により波長範囲380〜780nmの光における可視光反射率を測定し、初期反射率との差〔即ち、試験前後の反射率の差=初期反射率(%)−耐熱試験後反射率(%)〕を求め、この反射率の差により耐熱性(即ち、Si酸化膜の緻密性の程度と熱によるAg凝集の起り難さの程度)を評価した。この反射率の差が0.5%以下を◎、0.5%超1%以下を○、1%超3%以下を△、3%超を×とした。
また、耐塩水試験後の反射膜積層体について、耐硫化試験の反射率測定の場合と同様の方法により波長範囲380〜780nmの光における可視光反射率を測定し、初期反射率との差〔即ち、試験前後の反射率の差=初期反射率(%)−耐熱試験後反射率(%)〕を求め、この反射率の差により耐塩水性(即ち、Si酸化膜のピンホールの程度とハロゲンイオンによるAg凝集の起こり難さの程度)を評価した。この反射率の差が0.5%以下を◎、0.5%超1%以下を○、1%超3%以下を△、3%超を×とした。
耐湿試験については、試験後の反射膜積層体の表面に発生した白点の数を目視で測定した。白点発生点数が0(ゼロ)を◎、1〜4個を○、5〜9個を△、10個以上を×とした。
以上の全ての評価で◎または○のみの評価であった積層体を合格、△または×が一つでもある積層体は不合格とした。
【0056】
耐硫化試験結果(耐硫化性の評価結果)、耐熱試験結果(耐熱性の評価結果)、耐塩水試験結果(耐塩水性の評価結果)および耐湿試験結果(耐湿性の評価結果)を表1に示す。
【0057】
表1からわかるように、No.1(比較例)の場合、第一層はAgからなるため、Si酸化膜の緻密化やピンホールの減少が起こっておらず、かつAg膜そのものの耐久性がないために、全ての試験で不合格であった。No.2、3 (比較例)の場合、第一層はAg合金からなるが、このAg合金はBiのみしか含有していないために、Si酸化膜の緻密化やピンホールの減少が起こっておらず、Ag−Bi合金膜自体の耐久性によって耐塩水性や耐湿性は良好な特性を示すが、耐硫化性や耐熱性は不合格であった。No.14、16(比較例)の場合、第一層はAg合金からなり、そのAg合金はAのみしか含有していないため、これもSi酸化膜の緻密化やピンホールの減少が不十分であり、耐硫化性や耐湿性は不合格であった。No.17,18及び21〜23(比較例)の場合には、Ag−BiにA以外の合金元素が添加されているが、これもSi酸化膜の緻密化やピンホールの減少が不十分であり、耐硫化性や耐熱性は不合格であった。No.15は、7×〔A〕+13×〔Bi〕が8を超えるため、初期反射率が93%未満となっており、また、Biが少ないため、耐塩水性や耐湿性が悪いだけでなく、Si酸化膜の緻密化やピンホールの減少が不十分であり、耐硫化性は不合格であった。No.19は、Si酸化膜が薄すぎたために、ピンホールを無くすことができず、耐硫化性が不合格であった。No.20はAuを添加しすぎたために、かえってSi酸化膜のピンホールが増える結果となり、耐硫化性が不合格であった。
【0058】
No.4〜13(本発明の実施例)の場合は、初期反射率が93%以上と良好であり、全ての評価で◎または○となっており、優れた特性を示した。
【0059】
〔例2〕
表1のNo.2,4および11の試料を用いて、X線反射率法によりSiO2 膜の密度を測定した。下記に示す条件で測定し、SiO2 膜の密度の解析を行った。以下に解析の例を挙げる。No.4の試料を用いた場合、SiO2 膜を1層モデルで解析した結果を図2に示す。この場合、実測データの曲線とシミュレーションによるフィッティング曲線に差異が見られる。特に2θが1〜3°の間で差異が顕著であり、この1層モデルでは正確なSiO2 膜密度の値が得られない。一方、SiO2 膜を3層モデルで解析した結果を図3に示す。この場合、実測データの曲線とシミュレーションによるフィッティング曲線が良く合うことが分かった。また4層以上の多層モデルでも同様に良い相関が得られたが、3層モデルで十分な相関が得られることが分かったため、発明者らは3層モデルで解析を行うこととした。このように、SiO2 膜の密度を3層(最表層、中層、Ag合金からなる第一層と接する層)に分けて解析するモデルで解析した結果、良好な耐硫化性および耐熱性を示す試料No.4とNo.11はAg合金からなる第一層と接する層の密度がそれぞれ2.4と2.7g/cm3 と2g/cm3 以上であるのに対して、性能が劣るNo.2では1.8g/cm3 と低い値であることを確認した。
【0060】
〔X線反射率法測定条件〕
測定装置:X線回折装置
測定条件:管電圧45kV、管電流200mA
測定方法:薄膜X線回折法(平行ビーム・X線反射率測定)
2θスキャン範囲:0〜 8.0°、ステップ間隔:0.01°、
スキャンスピード: 0.2°/min
【0061】
〔解析方法〕
X線反射率解析ソフト(CXSS Version 2.1.3.0:リガク製)を使用
【0062】
〔例3〕
前記例1と同様の方法にてPC基板上に表1のNo.6,9,13と同様の組成のAg合金膜(第一層)を膜厚150nmで成膜し、この第一層の上にSiO2 膜(第二層)を膜厚10nmで成膜して、反射膜積層体(2層積層型)を得た。
【0063】
上記反射膜積層体(2層積層型)の一部のものについて、これを図4に示すようなプラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、チャンバー内を1×10-5Torr以下となるように真空に引いた。その後、前記装置中のバブラーとチャンバー間のニードルバルブを開いてバブラー内の有機シリコンの蒸気をチャンバー内に導入し、ニードルバルブの開閉度を調整することにより、チャンバー内圧力を0.1Torrとした。その後、チャンバー内の上部電極にRFを印加し、200Wのパワーでプラズマを発生させ、基板(前記2層積層体)上に厚さ20nmのプラズマ重合膜を形成して反射膜積層体(3層積層型)を得た。なお、上記有機シリコンとしては、ヘキサメチルジシロキサンを用いた。
【0064】
このようにして得られた3層積層型の反射膜積層体、及び、前記2層積層型の反射膜積層体について、耐酸性試験および耐アルカリ性試験を行った。即ち、耐酸性試験は、反射膜積層体を25℃の1質量%硫酸水溶液中に20分間浸漬する方法により行った。耐アルカリ性試験は、反射膜積層体を25℃の1質量%水酸化カリウム水溶液中に20分間浸漬することにより行った。
【0065】
耐酸性試験後および耐アルカリ性試験後の反射膜積層体の断面について走査型電子顕微鏡による観察を行った。2層積層型の反射膜積層体の場合、硫酸水溶液中でも水酸化カリウム水溶液中でも、SiO2 膜(第二層)が溶解して、Ag合金膜のみの1層構造になっていることが分かった。一方、3層積層型の反射膜積層体の場合、耐酸性試験後も、耐アルカリ性試験後も、3層構造が維持されていることが分かった。従って、プラズマ重合膜の積層によって耐酸性、耐アルカリ性が著しく向上することが確認できた。
【0066】
〔例4〕
前記〔例1〕の耐湿試験において白点発生が1〜4個の「○」であった試料No.5およびNo.7の積層反射膜それぞれにおいて、基体とAg合金の第一層の間に金属もしくは金属酸化膜の下地膜を加えて3層の積層反射膜を作製した。なお、金属もしくは金属酸化物下地膜の形成方法は〔例1〕に示すスパッタリング法によって行い、その上にAg合金膜、SiO2 膜を連続して成膜した。これらの積層反射膜を前記の耐熱試験および耐湿試験に供した。膜構造と耐熱試験および耐湿性試験の結果を表2に示す。
【0067】
表2より、No.24〜28については、下地膜により耐熱性は高い耐久性を維持しつつ耐湿性の改善が認められ、下地膜によって耐久性が向上した。また、No.29〜31については耐熱性および耐湿性の改善が見られた。基体表面の僅かな汚れが下地膜によってAgと隔離され、Agの凝集が抑制されたものと考えられる。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る反射膜積層体は、Agの凝集および硫化が生じ難いので、自動車ヘッドランプ等の車両用灯具、照明器具用の反射板、光学ミラー用の反射板、LED用の反射電極、有機ELディスプレイや有機EL照明器具用の反射板として好適に用いることができ、その耐久性の向上が図れて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】例1に係る反射膜積層体の作製(成膜)に用いたスパッタリング装置を示す模式図である。
【図2】例2に係るSiO2 膜を1層モデルで解析したときの解析結果を示す図である。
【図3】例2に係るSiO2 膜を3層モデルで解析したときの解析結果を示す図である。
【図4】例3に係る反射膜積層体の作製(成膜)に用いたプラズマCVD装置を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、Agを主成分としBiを0.02原子%以上含有し、更にV、Ge、Znの1種以上を合計で0.02原子%以上含有すると共に、前記V、Ge、Znの1種以上の含有率を[A](原子%)とし、Biの含有率を[Bi](原子%)としたときに、下記(1)式を満足するAg合金からなる第一層が形成され、その上にSiの酸化物からなる第二層が形成されていることを特徴とする反射膜積層体。
7×[A]+13×[Bi]≦8 ---------(1)式
【請求項2】
前記Ag合金膜とSiの酸化物からなる第二層の界面に、前記Ag合金膜の内部よりもV、Ge、Znの1種以上の含有量が多い層を有することを特徴とする請求項1記載の反射膜積層体。
【請求項3】
前記V、Ge、Znの1種以上の含有量が多い層が、V、Ge、Znの1種以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項2記載の反射膜積層体。
【請求項4】
前記Ag合金が更にAu、Pt、Pd、Rhの1種以上を合計で0.1〜5原子%含有する請求項1〜3記載の反射膜積層体。
【請求項5】
前記Siの酸化膜からなる第二層をSiO2 とみなして、この層の密度をX線反射率法により測定し、3層に分割したモデルで解析した際に、3層中のうち少なくともAg合金からなる第一層と接する層の密度が2g/cm3 以上である請求項1〜4記載の反射膜積層体。
【請求項6】
前記第二層の厚さが5〜80nmである請求項1〜5のいずれかに記載の反射膜積層体。
【請求項7】
JIS R3106に準拠してD65光源での波長範囲380〜780nmの光によって測定された可視光反射率が93%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の反射膜積層体。
【請求項8】
前記第二層の上にプラズマ重合膜が形成されている請求項1〜7のいずれかに記載の反射膜積層体。
【請求項9】
基体と第一層との間に、金属膜または金属酸化物膜、または、プラズマ重合膜、もしくは樹脂膜より成る膜が形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の反射膜積層体。
【請求項10】
請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする車両用灯具。
【請求項11】
請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする照明器具。
【請求項12】
請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする光学ミラー。
【請求項13】
請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とするLED。
【請求項14】
請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項15】
請求項1〜9記載の反射膜積層体を備えることを特徴とする有機EL照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−98650(P2009−98650A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232418(P2008−232418)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】