説明

反射防止体、静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置

【課題】充分に高い光透過性を有し、かつ反射防止層側に高い粘着力で他の部材を接着できる反射防止体、ならびに該反射防止体を備える静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置の提供を目的とする。
【解決手段】透明基材12と、透明基材12上に設けられたハードコート層14と、ハードコート層14上に設けられた反射防止層16とを有し、反射防止層16における透明基材12と反対側の表面16aの水接触角が90°以下であり、かつESCAによって測定される前記表面16aの元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3〜30atom%である反射防止体10。また、反射防止体10を備える静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止体、静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や携帯ゲーム機等においては、位置入力装置として機能するタッチパネルと、液晶ディスプレイ等の表示装置とが組み合わされたタッチパネル付き表示装置が幅広く利用されている。タッチパネルは、操作者が画面表示に基づき、手や入力ペンでタッチパネルの特定位置を指し示すと、装置がその特定位置の情報を感知することで、操作者が望む適切な動作を行わせることができるインターフェースである。
【0003】
このようなタッチパネル付き表示装置では、タッチパネルにおける液晶ディスプレイ側に、液晶ディスプレイからの光が反射することを抑制し、タッチパネルの光透過率を高める反射防止体が設けられる。例えば、片面に導電層を設けたセンサガラスと、該センサガラスの裏面側(液晶ディスプレイ側)に、粘着剤層を介して積層された反射防止体とを有するタッチパネルを備えた静電容量式のタッチパネル付き表示装置が知られている(例えば、特許文献1)。
タッチパネルと液晶ディスプレイとは、液晶ディスプレイの前面に隙間を設けて配置され、それらの外縁部が粘着剤層(ガスケット)で固定されている。
【0004】
反射防止体としては、例えば、透明フィルムと、該透明フィルム上に形成された反射防止層とを有するフィルムが挙げられる。反射防止層は、入射光の反射を抑制できる低い屈折率を達成するために、中空シリカを含有する樹脂組成物により形成される。また、バインダー樹脂としては、通常、屈折率をより低くするために、含フッ素樹脂(特許文献2)や、シリコーン化合物が用いられている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−321558号公報
【特許文献2】特開2010−196014号公報
【特許文献3】特開2008−139526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の反射防止体は、反射防止層上に他の部材を接着する際の粘着力を充分に得ることが難しい。そのため、タッチパネルと液晶ディスプレイを強固に固定することが困難であった。
【0007】
本発明は、充分に高い光透過性を有し、かつ反射防止層側に高い粘着力で他の部材を接着できる反射防止体、ならびに該反射防止体を備える静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の反射防止体は、透明基材と、該透明基材上に設けられた反射防止層とを有し、前記反射防止層における前記透明基材と反対側の表面の水接触角が90°以下であり、かつESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3〜30atom%であることを特徴とする。
【0009】
本発明の反射防止体においては、前記無機系ケイ素含有化合物は、中空シリカであることが好ましい。
また、前記透明基材と前記反射防止層の間にハードコート層が設けられていることが好ましい。
また、前記透明基材における前記反射防止層と反対側に、ハードコート層と導電層が順次積層されていることが好ましい。
【0010】
本発明の静電容量式タッチパネルは、ガラス基板と、該ガラス基板上に設けられた導電層と、該導電層上に粘着剤層を介して積層された本発明の反射防止体とを備え、
前記反射防止体は、前記反射防止層が前記導電層と反対側になるように積層されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の静電容量式タッチパネル付き表示装置は、表示装置と、該表示装置の前面側に、該表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備え、
前記静電容量式タッチパネルは、ガラス基板と、該ガラス基板の前記表示装置側に設けられた導電層と、該導電層上に粘着剤層を介して積層された本発明の反射防止体とを備え、
前記静電容量式タッチパネルは、前記反射防止体の前記反射防止層が前記表示装置側となるように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反射防止体は、充分に高い光透過性を有し、かつ反射防止層側に高い粘着力で他の部材を接着できる。
また、本発明の静電容量式タッチパネルは、反射防止体が充分に高い光透過性を有し、かつ反射防止層側に高い粘着力で他の部材を接着できる。
また、本発明の静電容量式タッチパネル付き表示装置は、反射防止体が充分に高い光透過性を有し、かつ反射防止体の反射防止層側と表示装置が高い粘着力で接着されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の反射防止体の一例を示した断面図である。
【図2】本発明の反射防止体の一例を示した断面図である。
【図3】本発明の静電容量式タッチパネル付き表示装置の一例を示した断面図である。
【図4】本発明の静電容量式タッチパネル付き表示装置の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<反射防止体>
以下、本発明の反射防止体の一例を図1に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の反射防止体10は、図1に示すように、透明基材12と、透明基材12上に設けられたハードコート層14と、ハードコート層14上に設けられた反射防止層16とを有する。
【0015】
透明基材12としては、無機材料でも有機材料であってもよく、特に制限されない。無機材料としては、例えば、ガラス、石英、スパッタリングや蒸着によって形成された酸化チタン、酸化ニオブ、酸化錫をドープした酸化インジウム等が例示される。
有機材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム等が挙げられる。
なかでも、透明性、耐候性、耐溶剤性、剛度、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0016】
透明基材12には、各種添加剤が含まれてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、カップリング剤等が挙げられる。
透明基材12には、ハードコート層14との密着性を向上させるために、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、サンドブラスト処理や溶剤処理等の凹凸化処理、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等の表面酸化処理等が挙げられる。
透明基材12の厚みは、タッチパネルの薄型化、軽量化の観点から15〜200μmが好ましく、20〜130μmがより好ましく、30〜125μmが特に好ましい。
【0017】
ハードコート層14は、硬度を付与するために設けられる。透明基材12と反射防止層16の間にハードコート層14を設けることで、反射防止層16の表面16aの硬度が高まり、引っ掻き等によって傷が付くことが抑制される。
【0018】
ハードコート層14は、反応性硬化型樹脂により形成された層であることが好ましい。反応性硬化型樹脂としては、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂が好ましい。
熱硬化型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
【0019】
電離放射線硬化型樹脂としては、多官能(メタ)アクリルモノマーを重合させて得られる重合体が好ましい。かかる重合体は、架橋構造を有する硬質のアクリル系重合体であることから、表面硬度、透明性、耐擦傷性等に優れる。
【0020】
「多官能」は、重合性不飽和基を2つ以上有することを意味し、「(メタ)アクリルモノマー」は、重合性不飽和基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基またはメタクリロイル基であることを示す。
多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、下記のモノマーが挙げられる。
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(質量平均分子量600)ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)ジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート;
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の5官能以上の(メタ)アクリレート等。
これらの多官能(メタ)アクリルモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記多官能(メタ)アクリルモノマーは、4官能以上の(メタ)アクリルモノマー(好ましくは5官能以上の(メタ)アクリルモノマー)を主成分とし、2〜3官能(メタ)アクリルモノマーを副成分とするものであることが好ましい。
これらのうち、4官能以上の(メタ)アクリルモノマーは硬度の向上に寄与し、2〜3官能(メタ)アクリルモノマーは柔軟性の向上に寄与する。そのため、得られるハードコート層が、高い硬度と適度な柔軟性を有し、耐擦傷性に優れるものとなる。
全多官能(メタ)アクリルモノマー中、4官能以上の(メタ)アクリルモノマーの割合は、50質量%以上95質量%未満が好ましく、60質量%以上90質量%未満がより好ましい。また、2〜3官能(メタ)アクリルモノマーの割合は、全多官能(メタ)アクリルモノマー中、5質量%以上50質量%未満が好ましく、10質量%以上40質量%未満がより好ましい。
【0022】
ハードコート層14中の反応性硬化型樹脂の含有量は、30〜98質量%が好ましく、50〜95質量%がより好ましい。反応性硬化型樹脂の含有量が30質量%以上であれば、充分なハードコート性能が得られやすい。反応性硬化型樹脂の含有量が98質量%以下であれば、光重合開始剤やレベリング剤等の助剤を添加でき、硬化不良が生じにくく塗工適性を維持しやすい。
【0023】
ハードコート層14は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、塗工適性を向上させるためのレベリング剤や、帯電防止性能を付与するための金属酸化物微粒子、帯電防止樹脂、導電性高分子、紫外線カットを目的とした金属酸化物微粒子、紫外線吸収剤等が挙げられる。
ハードコート層14の屈折率は、光の反射を制御する観点から、反射防止層16の屈折率よりも高いことが好ましい。具体的には、1.40〜2.00が好ましく、1.45〜1.80がより好ましい。
【0024】
ハードコート層14の厚みは、1〜10μmが好ましく、2〜8μmがより好ましい。ハードコート層14の厚みが1μm以上であれば、充分なハードコート性能が得られやすい。ハードコート層14の厚みが10μm以下であれば、カール制御が容易になり、透明基材12との密着性や透明性等がより良好になる。
なお、後述のようにハードコート層14の表面14aが凹凸面である場合、最も薄い部分の厚み(凹凸面に存在する凹部の底から、透明基材12側の表面までの距離)をハードコート層14の厚みとする。
【0025】
反射防止層16は、屈折率が低い層であり、反射防止層16側からの光の反射を抑制し、光透過性を高める役割を果たす。ガラスや結晶材、プラスティック等では、その表面において、入射光に対して数%程度の反射光が生じるが、反射防止体10は反射防止層16によって表面反射を軽減し、透過率を増加させる。
反射防止層16の屈折率は、光の反射を抑制しやすいことから、1.25〜1.45が好ましく、1.30〜1.40がより好ましい。
【0026】
反射防止層16は、屈折率を低下させるために添加される無機系ケイ素含有化合物、およびバインダー樹脂を含有する層が好ましい。
無機系ケイ素含有化合物としては、シリカが好ましく、反射防止層16の屈折率を低くしやすいことから、中空シリカが特に好ましい。
中空シリカの平均粒子径は、5〜180nmが好ましく、30〜100nmがより好ましい。中空シリカの平均粒子径が5nm以上であれば、屈折率を低くしやすい。中空シリカの平均粒子径が180nm以下であれば、反射防止層に密に充填することができる。なお、前記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡の観察像により測定される値である。
また、中空シリカは、中空部分が多いほど屈折率を低下させやすいことから、粒子径に比べて外殻の厚みが薄いものが好ましい。
【0027】
バインダー樹脂としては、例えば、ハードコート層14で挙げた反応性硬化型樹脂が挙げられる。なかでも、表面硬度、透明性、耐擦傷性等に優れることから、電離放射線硬化型樹脂が好ましく、多官能(メタ)アクリルモノマーを重合させて得られる重合体がより好ましい。
また、バインダー樹脂としては、反射防止層16の屈折率を低くしやすいことから、後述する反射防止層16の表面16aの水接触角が満たされる範囲で、シリコーン化合物を用いることも好ましい。シリコーン化合物としては、例えば、アルキレン基(エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等。)、シクロアルキレン基(シクロヘキシレン基等。)、アリーレン基(フェニレン基等。)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等。)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基等。)、アルケニル基(ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等。)、アラルキル基(フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等。)等を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。
また、後述する反射防止層16の表面16aの水接触角の条件が満たされる範囲であれば、含フッ素樹脂を用いてもよい。
【0028】
反射防止層16(100質量%)中の無機系ケイ素含有化合物の含有量は、20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。無機系ケイ素含有化合物の含有量が20質量%以上であれば、反射防止層16の屈折率が充分に低くなり、高い光透過率が得られやすい。無機系ケイ素含有化合物の含有量が80質量%以下であれば、反射防止層16中のバインダー樹脂が不足することを抑制しやすい。
反射防止層16(100質量%)中のバインダー樹脂の含有量は、20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。バインダー樹脂の含有量が20質量%以上であれば、下層との密着性が向上する。無機系ケイ素含有化合物の含有量が80質量%以下であれば、反射防止層16中の無機系ケイ素含有化合物が不足することを抑制しやすく、反射防止層16の屈折率を低くしやすい。
【0029】
反射防止体10では、反射防止層16の表面16aの水接触角が90°以下である。これにより、反射防止体10の反射防止層16の表面16a側に他の部材を貼り合わせる際、優れた粘着性が得られる。
反射防止層16の表面16aの水接触角は、より優れた粘着性が得られることから、85°以下が好ましく、80°以下がより好ましい。また、反射防止層16の表面16aの水接触角は、制御が容易な点から5°以上が好ましく、印刷やリコート性等の加工適性の観点から50°以上がより好ましい。
【0030】
反射防止層16の表面16aの水接触角は、接触角測定装置を用い、反射防止体10における反射防止層16の表面16aに2μLの純水を一滴滴下し、滴下から10秒間経過後の水滴形状をCCDカメラによって撮影し、画像処理することで測定できる。
反射防止層16の表面16aの水接触角は、反射防止層16の表面の元素組成におけるF含有率や、シリコーン化合物等の有機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率を下げることで小さくすることができる。すなわち、樹脂バインダーに用いる含フッ素樹脂や、シリコーン化合物等の有機系ケイ素含有化合物の使用量を低減することで小さくできる。
【0031】
また、反射防止体10では、反射防止層16の表面16aにおいて、ESCA(Electron spectroscopy for chemical analysis)によって測定される表面元素組成における前記無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率(以下、「無機系Si含有率」という。)が3〜30atom%である。無機系Si含有率が3atom%以上であることで、反射防止層16の屈折率が充分に低くなり、優れた光透過率が得られる。また、無機系Si含有率が30atom%以下であることで、反射防止層16中のバインダー樹脂が不足して反射防止層16が剥離することを抑制できる。
無機系Si含有率は、5〜20atom%が好ましく、6〜12atom%がより好ましい。
【0032】
また、バインダー樹脂としてシリコーン化合物等の有機系ケイ素含有化合物を用いる場合、該有機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率(以下、「有機系Si含有率」という。)は、0.5〜20atom%が好ましく、1〜10atom%がより好ましい。有機系Si含有率が0.5atom%以上であれば、反射防止層16の屈折率を低くしやすい。有機系Si含有率が20atom%以下であれば、反射防止層16の表面16aの水接触角を90°以下にすることが容易になる。
【0033】
また、反射防止層16の表面16aにおけるF含有率は、反射防止層16の表面16aの水接触角を90°以下にすることが容易になることから、5atom%以下が好ましく、3atom%以下がより好ましい。
【0034】
ESCAによる表面元素分析の条件は、モノクロメータで単色化されたAlKα線を用い、測定面積を直径500μmとする。
ESCAによる反射防止層16の表面16aの元素分析では、無機系Siと有機系SiのそれぞれのSi(2p)ナロウスペクトルピークを、ピークシフトを利用して分離し、それぞれの含有率を求めることができる。
より詳しく説明すると、各原子のナロウスペクトルはその原子に結合する他の原子の影響を受け、この影響により各原子のピークはシフトする場合がある。このピークシフト現象を利用して各原子の化学結合状態を分析することができる。例えば、Si原子にC原子が結合した場合とO原子が結合した場合とでは、ピーク位置に「ずれ」が生じる。その「ずれ」により、Si原子のナロウスペクトルは複数のピークが重ね合わさった形状になる。この重ね合わさった形状のピークに対してカーブフィッティングと呼ばれる数学的処理を行うことにより、各々の結合原子に由来する個々のピークに分離することができる。
【0035】
反射防止層16の厚さは、50〜150nmが好ましく、60〜140nmがより好ましく、80〜120nmが特に好ましい。反射防止層16の厚さが50nm以上であれば、光の干渉による反射防止効果が得られやすい。反射防止層16の厚さが150nm以下であれば、密着性の良好な反射防止体が得られやすい。
なお、後述するように反射防止層16の表面16aが凹凸面である場合、最も薄い部分の厚み(凹凸面に存在する凹部の底から、透明基材12側の表面までの距離)を反射防止層16の厚みとする。
【0036】
反射防止体10は、全光線透過率が90%を超え、ヘイズが1%未満であることが好ましい。これらの要件を満たすと、タッチパネルや表示装置用の反射防止体として有用である。
全光線透過率およびヘイズはそれぞれ、JIS K7361−1およびJIS K7136に準拠した方法で測定できる。
【0037】
反射防止体10は、反射防止層16の表面16aが、微細な凹凸を有する凹凸面とすることもできる。これにより、タッチパネルが指で押され、タッチパネルがたわんだ場合、反射防止層16の表面16aが偏光板とブロッキングすることを防止することができる。
反射防止層16の表面16aの表面粗さは、1.5nm以上400nm以下が好ましい。前記表面粗さは、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope; SPM)により測定される値を意味する。
【0038】
反射防止層16の表面16aを凹凸面にする方法としては、透明基材12側とは反対側の表面14aが凹凸面となっているハードコート層14を形成し、該ハードコート層14上に反射防止層16を形成することで反射防止層16の表面16aを凹凸面にする方法(1)でもよく、凹凸を有さない表面14aを有するハードコート層14を形成し、その上に凹凸を有する表面16aを有する反射防止層16を形成する方法(2)でもよい。方法(1)では、ハードコート層14の表面14aを凹凸面とすることで、その上に形成した反射防止層16の表面16aにその凹凸が反映され、表面16aも凹凸面となる。
反射防止層16の表面16aを凹凸面にする方法としては、膜厚の高いハードコート層の方が凹凸形状をコントロールしやすいため、方法(1)が好ましい。
【0039】
方法(1)の場合、ハードコート層14の表面14aを凹凸面にする方法としては、従来、ブロッキング防止のためにフィルム表面に微細な凹凸を形成するために用いられている公知の方法が利用できる。例えば、ハードコート層に粒子を配合する方法、溶解性パラメーター(SP)値の異なる2つの樹脂成分を用いてハードコート層を形成し、一方の樹脂成分を相分離により析出させる方法等が挙げられる。これらの中でも、粒子の粒子径や添加量によって表面粗さを容易に調整でき、また硬化時の収縮が抑制されることから、ハードコート層に粒子を配合する方法が好ましい。
【0040】
ハードコート層14に含有させる粒子は無機粒子でも有機粒子でもよい。
無機粒子としては、硬度が高いものが好ましく、例えば、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、二酸化スズ粒子、五酸化アンチモン粒子、三酸化アンチモン粒子等の無機酸化物粒子が挙げられる。
無機粒子は、前記無機酸化物粒子をカップリング剤により処理した反応性無機酸化物粒子であってもよい。カップリング剤により処理することにより、アクリル系重合体との間の結合力を高めることができる。その結果、表面硬度や耐擦傷性を向上させることができ、さらに無機酸化物粒子の分散性を向上させることができる。
カップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシアルミニウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
カップリング剤の処理量は、無機酸化物粒子100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0041】
有機粒子としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリシロキサン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド等の樹脂粒子等が挙げられる。
有機粒子は、前記樹脂粒子をカップリング剤により処理した反応性樹脂粒子であってもよい。カップリング剤により処理することにより、アクリル系重合体との間の結合力を高めることができる。その結果、表面硬度や耐擦傷性を向上させることができ、さらに樹脂粒子の分散性を向上させることができる。
カップリング剤およびその処理量は、前記反応性無機酸化物粒子で挙げたカップリング剤およびその処理量と同様である。
【0042】
粒子の粒子径は、所望の表面粗さ、形成しようとするハードコート層の厚み等を考慮して設定すればよく、10nm〜10μmが好ましく、30nm〜5μmがより好ましい。該粒子径が大きいほど、表面粗さが大きくなる。なお、前記粒子径は、粒度分布計により測定される値である。
【0043】
ハードコート層14が粒子を含有する場合、ハードコート層14中の粒子の含有量は、1〜30質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。粒子の含有量が多いほど表面粗さが大きくなる傾向があり、前記範囲内とすることで所望の表面粗さが得られやすい。また、粒子の含有量が1質量%以上であれば、タッチパネルが指で押され、タッチパネルがたわんだ場合、反射防止層16の表面16aが偏光板とブロッキングすることを防止することができる。粒子の含有量が30質量%以下であれば、充分な量の多官能(メタ)アクリルモノマーを配合しやすく、ハードコート性能が良好となる。
なお、硬度付与を目的とした無機粒子と樹脂のハイブリッド材料を使用する場合、ハイブリッド材料に含まれる該無機粒子は上記含有量の範囲に含まない。
【0044】
方法(2)によって凹凸を有する表面16aを有する反射防止層16を形成する場合は、凹凸を有する表面14aを有するハードコート層14を形成するのと同様に行うことができ、反射防止層に粒子を配合する方法、溶解性パラメーター(SP)値の異なる2つの樹脂成分を用いて反射防止層を形成し、一方の樹脂成分を相分離により析出させる方法等が挙げられる。
【0045】
(製造方法)
以下、反射防止体10の製造方法について説明する。ただし、反射防止体10の製造方法は、以下に説明する方法には限定されない。反射防止体10の製造方法としては、例えば、下記のハードコート層形成工程および反射防止層形成工程を有する方法が挙げられる。
ハードコート層形成工程:ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用組成物(A)を調製し、該ハードコート層形成用組成物(A)を透明基材12上に塗工し、硬化させてハードコート層14を形成する。
反射防止層形成工程:反射防止層を形成するための反射防止層形成用組成物(B)を調製し、該反射防止層形成用組成物(B)を、前記ハードコート層形成工程で形成したハードコート層14上に塗工し、硬化させて反射防止層16を形成する。
【0046】
ハードコート層形成工程では、まず、ハードコート層14を形成する反応性硬化型樹脂を必須成分として含み、必要に応じて前記粒子や他の成分を含有するハードコート層形成用組成物(A)を調製する。
ハードコート層形成用組成物(A)には、硬化を促進させるために、光重合開始剤を含有させることが好ましい。光重合開始剤としては、公知のものが使用できる。また、光重合開始剤に加えて、光増感剤をさらに含有させてもよい。光増感剤としては、例えば、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等が挙げられる。
【0047】
また、ハードコート層形成用組成物(A)は、溶剤を含有してもよい。
溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、n−ヘキサン、n−ブチルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらは1種以上を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
特に、塗工ムラを軽減できることから、蒸発速度の異なる2種以上の溶剤を併用することが好ましい。例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる少なくとも2種を混合して使用することが好ましい。
【0048】
ハードコート層形成用組成物(A)中の反応性硬化型樹脂の配合量は、ハードコート層形成用組成物(A)の固形分(100質量%)に対して、30〜98質量%が好ましく、50〜95質量%がより好ましい。反応性硬化型樹脂の配合量が30質量%以上であれば、充分なハードコート性能が得られやすい。反応性硬化型樹脂の配合量が98質量%以下であれば、光重合開始剤やレベリング剤等の助剤を添加でき、硬化不良が生じにくく塗工適性を維持しやすい。
【0049】
また、ハードコート層14に粒子を含有させる場合、ハードコート層形成用組成物(A)中の粒子の配合量は、ハードコート層形成用組成物(A)の固形分(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましい。粒子の配合量が多いほど、反射防止層16の表面16aの表面粗さが大きくなる傾向があり、該範囲内とすると所望の表面粗さを得やすい。また、粒子の配合量が1質量%以上であれば、タッチパネルが指で押され、ガラスがたわんだ場合、反射防止層16の表面16aが偏光板とブロッキングすることを防止することができる。粒子の配合量が30質量%以下であれば、充分な量の反応性硬化型樹脂を配合できるため、ハードコート性能が良好となる。
なお、固形分とは、溶剤を含まない場合はハードコート層形成用組成物(A)を構成する全成分の合計を示し、溶剤を含む場合は溶剤を除いた全成分の合計を示す。
【0050】
ハードコート層形成用組成物(A)中の光重合開始剤の配合量は、ハードコート層形成用組成物(A)の固形分(100質量%)に対して、0.5〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましい。光重合開始剤の配合量が0.5質量%以上であれば、硬化不良が生じにくい。また、光重合開始剤を10質量%を超えて配合しても、配合量に見合った硬化促進効果は得られず、コストも高くなる。また、硬化物中に光重合開始剤が残留して黄変やブリードアウト等の原因となるおそれがある。
【0051】
透明基材12上にハードコート層形成用組成物(A)を塗工する方法としては、例えば、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター、印刷機等を用いた方法が挙げられる。
ハードコート層形成用組成物(A)の塗工量は、形成するハードコート層14の厚みに応じて設定される。
【0052】
ハードコート層形成用組成物(A)よって透明基材12上に形成した塗膜は、反応性硬化型樹脂が活性エネルギー線硬化性である場合、活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。また、反応性硬化型樹脂が熱硬化性である場合、加熱炉や赤外線ランプ等を用いて加熱することによって硬化させることができる。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線、γ線等の電離性放射線等が挙げられる。なかでも、汎用性の点から、紫外線が好ましい。紫外線の光源としては、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク、無電極紫外線ランプ等が挙げられる。
電子線としては、例えば、コックロフトワルト型、バンデクラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される電子線が挙げられる。
活性エネルギー線の照射による硬化は、窒素等の不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
硬化は、1段階で行ってもよく、予備硬化工程と本硬化工程の2段階に分けて行ってもよい。
【0053】
反射防止層形成工程では、まず、前記無機系ケイ素含有化合物およびバインダー樹脂を必須成分として含み、必要に応じて他の成分を含有する反射防止層形成用組成物(B)を調製する。
反射防止層形成用組成物(B)には、ハードコート層形成用組成物(A)と同様に、硬化を促進させるために、光重合開始剤を含有させることが好ましい。また、光増感剤をさらに含有させてもよい。また、反射防止層形成用組成物(B)は、ハードコート層形成用組成物(A)と同様に溶剤を含有してもよい。反射防止層形成用組成物(B)に使用する溶剤としては、例えば、ハードコート層形成用組成物(A)で挙げた溶剤が挙げられ、好ましい態様も同じである。
【0054】
反射防止層形成用組成物(B)中の無機系ケイ素含有化合物の配合量は、反射防止層形成用組成物(B)の固形分(100質量%)に対して、20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。無機系ケイ素含有化合物の配合量が20質量%以上であれば、屈折率が充分に低い反射防止層16が得られやすい。無機系ケイ素含有化合物の配合量が80質量%以下であれば、バインダー樹脂を充分に配合でき、下層との密着性に優れる反射防止体を得ることが容易になる。
【0055】
反射防止層形成用組成物(B)中のバインダー樹脂の配合量は、反射防止層形成用組成物(B)の固形分(100質量%)に対して、20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。バインダー樹脂の配合量が20質量%以上であれば、下層との密着性が向上する。バインダー樹脂の配合量が80質量%以下であれば、無機系ケイ素含有化合物を充分に配合できるため反射率の低い反射防止体を得ることが容易になる。
【0056】
反射防止層形成用組成物(B)中の光重合開始剤の配合量は、反射防止層形成用組成物(B)の固形分(100質量%)に対して、0.5〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましい。光重合開始剤の配合量が0.5質量%以上であれば、硬化不良が生じにくい。また、光重合開始剤を10質量%を超えて配合しても、配合量に見合った硬化促進効果は得られず、コストも高くなる。また、硬化物中に光重合開始剤が残留して黄変やブリードアウト等の原因となるおそれがある。
【0057】
ハードコート層14上に反射防止層形成用組成物(B)を塗工する方法としては、例えば、ハードコート層形成用組成物(A)の塗工方法と同じ方法が挙げられる。反射防止層形成用組成物(B)の塗工量は、形成する反射防止層16の厚みに応じて設定される。
反射防止層形成用組成物(B)よってハードコート層14上に形成した塗膜は、ハードコート層形成用組成物(A)により形成した塗膜の硬化方法と同じ方法で硬化させることができ、バインダー樹脂が活性エネルギー線硬化性である場合、活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。また、バインダー樹脂が熱硬化性である場合、加熱炉や赤外線ランプ等を用いて加熱することによって硬化させることができる。
硬化は、1段階で行ってもよく、予備硬化工程と本硬化工程の2段階に分けて行ってもよい。
【0058】
従来の反射防止体は、屈折率を低くするために、反射防止層に含フッ素樹脂やシリコーン化合物を多く使用しているが、それによって反射防止層表面の水接触角が小さくなり、結果として粘着力が低下していたと考えられる。
これに対し、本発明の反射防止体では、反射防止層表面における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率を3〜30atom%とすることで充分に低い屈折率を達成しつつ、ESCAによって測定される反射防止層表面の水接触角を90°以下とするため、反射防止層の含フッ素樹脂やシリコーン化合物の量が低減され、優れた光透過性と、反射防止層側の高い粘着力とを両立できる。
【0059】
なお、本発明の反射防止体は、前記反射防止体10には限定されない。例えば、透明基材と反射防止層の間にハードコート層を設けず、透明基材上に反射防止層が直接設けられた反射防止体であってもよい。ハードコート層がない態様は、反射率のばらつきが低減される点で好ましい。
また、必要に応じて、透明基材と反射防止層の間にハードコート層以外の機能層を有していてもよい。ハードコート層以外の機能層としては、例えば、ハードコート保護層、防眩層、屈折率調整層(中屈折率層)、易接着層、帯電防止層、紫外線遮蔽層等が挙げられる。これらの機能層は、公知の方法により形成できる。
【0060】
また、透明基材における反射防止層側とは反対側に機能層を設けてもよい。例えば、図2に示すように、透明基材12の一方の側にハードコート層14と反射防止層16が順次積層され、透明基材12の他方の側にハードコート層14と導電層18が順次積層された反射防止体10Aであってもよい。
導電層18は、透明な導電性の膜である。導電層18の材質としては、例えば、後述するタッチパネル30の導電層32の材質と同じものが挙げられる。
導電層18の厚みは、導電性、透明性等を考慮して設定される。導電層18の導電性は、タッチパネル用の電極板とするため、表面抵抗として10Ω/sq以下が好ましく、10Ω/sq以下がより好ましい。かかる表面抵抗は、通例、金属系の場合で30〜600Å、金属酸化物系の場合で80〜5000Åの厚さとすることで達成することができる。
【0061】
<静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置>
本発明の反射防止体は、例えば、静電容量式タッチパネル、静電容量式タッチパネル付き表示装置に使用でき、タッチパネルの裏面側(ディスプレイ側)に設けることが特に好ましい。本発明の静電容量式タッチパネル付き表示装置としては、例えば、図3に例示した、静電容量式タッチパネル付き表示装置100(以下、「表示装置100」という。)が挙げられる。
表示装置100は、最前面に偏光板21が配置された液晶ディスプレイ20と、静電容量式タッチパネル30(以下、単に「タッチパネル30」という。)と、を備えている。タッチパネル30は、液晶ディスプレイ20の前面に、偏光板21との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層40で液晶ディスプレイ20に固定されている。これにより、液晶ディスプレイ20の前面とタッチパネル30の裏面との間に空間が形成されている。タッチパネル30は、ガラス基板31と、ガラス基板31の裏面(液晶ディスプレイ20側)に設けられた導電層32と、導電層32上に粘着剤層33を介して積層された反射防止体10とを備え、導電層32の裏面の外縁部には印刷層34が形成されている。反射防止体10は、反射防止層16が導電層32の反対側、すなわち液晶ディスプレイ20側となるように設けられている。
なお、「前面」は、静電容量式タッチパネルまたはこれを取り付けた表示装置を使用する際に、使用者が視認、操作する側の面を意味し、「裏面」は、使用者が視認、操作する側とは反対側の面を意味する。
【0062】
液晶ディスプレイ20としては、特に限定されず、公知の液晶ディスプレイを用いることができる。
【0063】
タッチパネル30のガラス基板31としては、タッチパネル等に用いられている公知のガラス板が利用できる。
導電層32は、透明な導電性の膜である。導電層32は、表面型静電容量式タッチパネル等に用いられる、実質的に均一な厚さでガラス基板31上に形成された均一層でもよいし、投影型静電容量方式のタッチパネル等に用いられる、位置検知のために形成された規則的なパターンを有する導電層であってもよい。なお、均一層の場合でも、タッチパネルの構成等に応じて、引き出し電極等の形成のため、導電層32の一部がパターン化されていてもよい。
導電層32の材質としては、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、錫、これらの合金等の金属;インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、亜鉛−スズ酸化物(ZTO)等の金属酸化物;ヨウ化銅等からなる他の金属化合物;PEDOT/PSS等の導電性樹脂;等が挙げられる。なお、PEDOT/PSSは、PEDOT(3,4−エチレンジオキシチオフェンのポリマー)とPSS(スチレンスルホン酸のポリマー)を共存させたポリマーコンプレックスである。
導電層32の厚みは、導電性、透明性等を考慮して設定される。導電層32の導電性は、タッチパネル用の電極板とするため、表面抵抗として10Ω/sq以下が好ましく、10Ω/sq以下がより好ましい。かかる表面抵抗は、通例、金属系の場合で30〜600Å、金属酸化物系の場合で80〜5000Åの厚さとすることで達成することができる。
粘着剤層33を構成する粘着剤としては、タッチパネル等の光学用途に用いられている公知の粘着剤が利用でき、例えば、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。粘着剤は、溶剤系、無溶剤系、エマルジョン系、水系のいずれであってもよい。なかでも、透明度、耐候性、耐久性、コスト等の観点から、アクリル系粘着剤、特に溶剤系のものが好ましい。
【0064】
なお、本発明の静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置は、前記タッチパネル30および前記表示装置100には限定されない。例えば、図4に例示した静電容量式タッチパネル付き表示装置100A(以下、単に「表示装置100A」という。)であってもよい。表示装置100Aにおける表示装置100と同じ部分は同符号を付して説明を省略する。
表示装置100Aは、図4に示すように、液晶ディスプレイ20と静電容量式タッチパネル30Aとを備え、静電容量式タッチパネル30Aは、ガラス基板31と、ガラス基板31の裏面(液晶ディスプレイ20側)に設けられた導電層32と、導電層32上に粘着剤層33を介して積層された反射防止体10Aとを備え、導電層32の裏面の外縁部には印刷層34が形成されている。反射防止体10Aは、反射防止層16が導電層32の反対側、すなわち液晶ディスプレイ20側となるように設けられている。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
(ハードコート層の形成)
多官能(メタ)アクリルモノマーとして6官能アクリレート(商品名DPHA、ダイセル・サイテック(株)製)64質量部、ジエチレングリコールジアクリレート(商品名SR230、サートマー社製)27質量部、光重合開始剤(商品名IRGACURE184、BASF社製)5質量部、および光安定化剤(TINUVIN152、BASF社製)4質量部を、メチルエチルケトン(MEK)およびシクロヘキサノンを1:1で混合した希釈溶剤に固形分が40質量%となるように混合してハードコート層形成用組成物(A)を調製した。
透明基材として、厚さ50μmのPETフィルム(商品名A4300、東洋紡績(株)製)を用い、該透明基材上に前記ハードコート層形成用組成物(A)をバー塗工した。その後、80℃で60秒間加熱乾燥し、高圧水銀ランプ紫外線照射機(アイグラフィックス社製)を用いて、160W/cm、ランプ高さ13cm、ベルトスピード10m/分、2passの条件で窒素雰囲気下にて紫外線を照射し、厚さ4μmのハードコート層を硬化形成してハードコートフィルムを得た。
【0066】
(反射防止層の形成)
多官能(メタ)アクリルモノマーとして6官能アクリレート(商品名DPHA、ダイセル・サイテック(株)製)46質量部、ジエチレングリコールジアクリレート(商品名SR230、サートマー社製)5質量部、シリコーン化合物(商品名サイラプレーンFM−0711、チッソ(株)製)3質量部、平均粒子径60nmの中空シリカゾル(日揮触媒化成(株)製)38質量部、光重合開始剤(商品名IRGACURE184、BASF社製)4質量部、および光安定化剤(TINUVIN152、BASF社製)4質量部を、メチルイソブチルケトン(MIBK)およびn−ブタノールを1:1で混合した希釈溶剤に固形分が10質量%となるように混合して反射防止層形成用組成物(B)を調製した。
前記ハードコートフィルムのハードコート層上に、前記反射防止層形成用組成物(B)をバー塗工した。その後、80℃で60秒間加熱乾燥し、高圧水銀ランプ紫外線照射機(アイグラフィックス社製)を用いて、160W/cm、ランプ高さ13cm、ベルトスピード10m/分、2passの条件で窒素雰囲気下にて紫外線を照射し、厚さ100nmの反射防止層を硬化形成して反射防止体を得た。
【0067】
[実施例2]
前記反射防止層を形成する際に、前記平均粒子径60nmの中空シリカゾルの量を33質量部、前記シリコーン化合物の量を8質量部に変更して反射防止層形成用組成物(B)を調製した以外は、実施例1と同様にして反射防止体を得た。
【0068】
[実施例3]
前記PETフィルム上に前記ハードコート層を形成せずに前記反射防止層を直接形成した以外は、実施例1と同様にして反射防止体を得た。
【0069】
[比較例1]
前記反射防止層を形成する際に、前記6官能アクリレートの代わりにフッ素基を有するアクリレートオリゴマー(商品名CHEMINOX FAAC−6、ユニマテック(株)製)を使用し、前記シリコーン化合物の量を36質量部に変更し、前記平均粒子径60nmの中空シリカゾルの量を5質量部に変更して反射防止層形成用組成物(B)を調製した以外は、実施例1と同様にして反射防止体を得た。
【0070】
[比較例2]
前記反射防止層を形成する際に、前記6官能アクリレートの量を3質量部、前記ジエチレングリコールジアクリレートの量を1質量部、前記平均粒子径60nmの中空シリカゾルの量を90質量部、前記シリコーン化合物の量を4質量部、光重合開始剤(商品名IRGACURE184、BASF社製)の量を1質量部、および光安定化剤(TINUVIN152、BASF社製)の量を1質量部に変更して反射防止層形成用組成物(B)を調製した以外は、実施例1と同様にして反射防止体を得た。
【0071】
[評価方法]
各例で得られた反射防止体に対して、以下に示す方法で反射防止層表面の水接触角測定および表面元素分析を行い、またテープ粘着力、鉛筆硬度、密着性および光学特性を評価した。
(水接触角の測定)
協和界面科学(株)製の接触角測定装置(型番DM−501)を用い、得られた反射防止体における反射防止層の表面に2μLの純水を一滴滴下し、滴下から10秒間経過後の水滴形状をCCDカメラによって撮影し、画像処理することで水接触角を求めた。
【0072】
(表面元素分析)
得られた反射防止体における反射防止層表面の元素分析をESCAによって行い、シリカ(無機系ケイ素含有化合物)由来のSiと、シリコーン化合物(有機系ケイ素含有化合物)由来のSiの含有率をそれぞれ測定した。元素分析は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ESCA LAB250を使用し、モノクロメータで単色化されたAlKα線により、測定面積を直径500μmとして行った。シリカ由来のSiとシリコーン由来のSiのそれぞれのSi(2p)ナロウスペクトルピークの分離にはピークシフトを利用した。
【0073】
(テープ粘着力)
得られた反射防止体の透明基材(PETフィルム)側に、ノンキャリア両面粘着フィルム(商品名CCL/D1/T3T3、新タック化成(株)製)を貼り付け、セパレートフィルムを剥がして粘着層を転写し、該粘着層を介してガラス板を貼り合わせて被着体とした。次いで、一方の面にPETフィルム(商品名A4300、東洋紡績(株)製)を貼り合わせた両面テープ(商品名#4972、テサテープ(株)製)を、前記被着体における反射防止体の反射防止層側に貼合し、2kgローラーを1往復させて圧着した後、オートグラフ((株)島津製作所製)を用いて24時間後の粘着力(N/25mm)を測定した。
【0074】
(鉛筆硬度)
得られた反射防止体を2mm厚のガラス板上にセロハンテープで固定し、JIS K5400−1990に準拠して鉛筆で反射防止層面の引掻き試験を行った。判定は反射防止層の割れで評価した。
【0075】
(密着性)
JIS D0202−1988に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行った。セロハンテープ(「CT28」、ニチバン(株)製)を、指で上から押し付けるようにして反射防止層に密着させた後に剥離した。判定は100マスの内、反射防止層が剥離しないマス目の数で表した。反射防止層が全てのマス目で剥離しない場合が100/100、完全に剥離する場合が0/100である。
【0076】
(光学物性)
1.全光線透過率
アクリル系接着剤(商品名SKダイン1811L、綜研化学(株)製)100質量部、イソシアネート系架橋剤(商品名L−45、綜研化学(株)製)1質量部、および希釈溶剤として酢酸エチル67.4質量部を混合して粘着剤を調製し、各例で得られた反射防止体における透明基材(PETフィルム)表面に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケータ塗工した。その後、100℃で120秒間加熱乾燥し、セパレートフィルム(商品名38RL−07(2)、王子特殊紙(株)製)を貼り合わせ、温度23℃湿度50%の環境下で1週間のエージングを行って架橋反応を進行させ、反射防止層上に粘着層を有する粘着フィルムを得た。
前記粘着フィルムのセパレートフィルムを剥がし、反射防止体と検査用ガラス板とを、空気やゴミが入らないように前記粘着層を介して貼り合わせた。ガラスに貼付された反射防止体の全光線透過率を、JIS K7361−1に準拠した方法で、日本電色(株)製のNDH5000を用いて測定した。
2.反射率
得られた反射防止体における測定部位裏面の透明基材をサンドペーパーで均一に研磨して黒色塗料で塗りつぶしたサンプルを作製した。保護フィルムを剥がした反射防止層面の分光反射スペクトル(波長400〜800nm、入射角5°、受光角5°)を、紫外可視分光光度計(V−670ST日本分光(株)製)を用いて測定した。
【0077】
実施例1〜3および比較例1〜2で得られた反射防止体における、反射防止層表面の水接触角測定および表面元素分析の結果、ならびにテープ粘着力、鉛筆硬度、密着性および光学特性の評価結果を表1に示す。
なお、表1における無機系Si含有率とは、反射防止層表面におけるシリカ(無機系ケイ素含有化合物)由来のSiの含有率を意味し、有機系Si含有率とは、反射防止層表面におけるシリコーン化合物(有機系ケイ素含有化合物)由来のSiの含有率を意味する。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示すように、反射防止層における前記透明基材と反対側の表面の水接触角が90°以下であり、かつ有機Si含有率が3〜30atom%である実施例1〜3では、充分な光透過性を有しており、かつテープ粘着力が高く、反射防止層側に高い粘着力で他の部材を接着できた。また、実施例1〜3は充分な鉛筆硬度を有しており、ハードコート層を形成した実施例1および2は鉛筆硬度がより高かった。
一方、無機系Si含有率が3atom%未満の比較例1では、反射防止層側に他の部材を接着した際に充分な粘着力が得られなかった。また、無機系Si含有率が30atom%を超える比較例2では、バインダー樹脂の量が不足したため、反射防止層とハードコート層の密着性が著しく低くなり、製品として使用できるものではなかった。
【符号の説明】
【0080】
10,10A 反射防止体
12 透明基材
14 ハードコート層
16 反射防止層
18 導電層
20 液晶ディスプレイ
30,30A 静電容量式タッチパネル
31 ガラス基板
32 導電層
33 粘着剤層
100,100A 静電容量式タッチパネル付き表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材上に設けられた反射防止層とを有し、
前記反射防止層における前記透明基材と反対側の表面の水接触角が90°以下であり、かつESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3〜30atom%であることを特徴とする反射防止体。
【請求項2】
前記無機系ケイ素含有化合物が中空シリカである、請求項1に記載の反射防止体。
【請求項3】
前記透明基材と前記反射防止層の間にハードコート層が設けられている、請求項1または2に記載の反射防止体。
【請求項4】
前記透明基材における前記反射防止層と反対側に、ハードコート層と導電層が順次積層されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の反射防止体。
【請求項5】
ガラス基板と、該ガラス基板上に設けられた導電層と、該導電層上に粘着剤層を介して積層された請求項1〜4のいずれか一項に記載の反射防止体とを備え、
前記反射防止体は、前記反射防止層が前記導電層と反対側になるように積層されていることを特徴とする静電容量式タッチパネル。
【請求項6】
表示装置と、該表示装置の前面側に、該表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって、
前記静電容量式タッチパネルは、ガラス基板と、該ガラス基板の前記表示装置側に設けられた導電層と、該導電層上に粘着剤層を介して積層された請求項1〜4のいずれか一項に記載の反射防止体とを備え、
前記静電容量式タッチパネルは、前記反射防止体の前記反射防止層が前記表示装置側となるように配置されていることを特徴とする静電容量式タッチパネル付き表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83903(P2013−83903A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243797(P2011−243797)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000122298)王子ホールディングス株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】