説明

反射防止性光学構造、反射防止性光学構造体及びその製造方法

【課題】平端部を有する従来の反射防止微細凹凸構造に較べて、さらに優れた光の反射防止機能を備えた反射防止性光学構造と共に、このような構造を備えた反射防止性光学構造体及びその製造方法、さらには、上記反射防止性光学構造を備えた自動車用部品、例えばメーターパネルやウインドウガラスなどを提供する。
【解決手段】可視光線の波長より短いピッチで配列された凸型又は凹型の錐体状をなす第1の微細構造2の間に、これよりも小さい底部(凸型の場合)又は開口部(凹型)を有し、同様の凸型又は凹型錐体状をなす第2の微細構造3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の反射防止機能を発揮させることができる反射防止性光学構造と、このような構造を備え、無反射パネルとして、例えば、自動車を始めとする種々の車両や、船舶、航空機などにおける各種メーター類や、ディスプレイ装置などに好適に使用することができる反射防止性光学構造体、さらにはこのような光学構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやCRTディスプレイなど各種のディスプレイ装置、例えば家庭用テレビの画面に外光や室内の照明などの影が映り込むと、本来の映像の視認性が著しく低下することがある。
【0003】
また、例えば自動車の運転席には、スピードメータや燃料計などといった各種の計器類をまとめて収納したディスプレイ部があり、このディスプレイ部の前面にはメーターフロントカバーが嵌め込まれているが、このメーターフロントカバーに、フロントウインドウやサイドウインドウを通して車外の景色が映り込むことによって、ディスプレイ部の各種表示が見づらくなることがある。そこで、ディスプレイの上方にメーターフードを配置して、メーターフロントカバーへの外光の入射を防止するようにしている。
【0004】
一方、このような光の反射を防止するための構造としては、屈折率の異なる複数の薄膜から成る多層反射防止膜が知られているが、このような多層反射防止膜よりもさらに反射率を低下できるものとして、凹凸型微細構造を用いた反射防止構造の提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
当該特許文献1に記載の反射防止構造は、透明性成形品の表面に、透明性素材から成る無数の微細凹凸を光の波長以下のピッチで形成することにより、光の屈折率が厚み方向に変化するようにしたものであって、例えば波形あるいは鋸歯状の無数の微細凹凸が表面に形成されていることによって、凹凸の最表面では透明性素材の存在割合が限りなく0%に近いものとなって、実質的に空気の屈折率(1.0)に等しくなる一方、凹凸の最底部では逆に空気の存在割合が限りなく0%に近いものとなって素材の屈折率と等しくなり、中間部ではその断面における透明性素材の占める断面積に応じた屈折率となる結果、光の屈折率が当該反射防止構造の厚み方向に、空気の屈折率から透明性素材の屈折率の間で連続的に変化するようになることから、屈折率の異なる複数の薄膜から成る多層反射防止膜(この場合には屈折率が段階的に変化することになる)と同様の原理によって、当該反射防止膜よりも優れた反射防止性能を発揮するものとなる。
【特許文献1】特開2002−267815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の反射防止構造においては、その図3(a)に記載されているように、波形の凹凸が一方向に平行に配列したものや、図3(b)及び(c)に記載されているように、独立した円錐状あるいは釣鐘状の凸部を二次元的に配列されたものがあるが、前者においては方向性を有するために、入射光の方向によって反射率が変わることになる。
一方、後者においては方向性はないものの、円錐状や釣鐘状の凸部を二次元配列した場合に、個々の凸部の間に平坦な部分が生じてしまうことから、この部分からの反射が生じるために、反射防止性能が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、光の波長以下のピッチに形成した凸型あるいは凹型の微細構造を備えた従来の反射防止構造における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、微細凹凸構造の平坦部を減少し、さらに優れた光の反射防止機能を備えた反射防止性光学構造と共に、このような構造を備えた反射防止性光学構造体及びその製造方法、さらには、上記反射防止性光学構造を備えた自動車用部品、例えばメーターパネルやウインドウガラスなどを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、微細凹凸間の平坦部分にも、同様の微細凹凸を形成して平坦部を少なくすることによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の反射防止性光学構造は、可視光線の波長より短いピッチで配列された凸型又は凹型の錐体状をなす第1の微細構造の間に、これよりも小さい底部又は開口部を有し、同様の凸型又は凹型錐体状をなす第2の微細構造を備えていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の反射防止性光学構造体は、本発明の上記反射防止性光学構造を基材の少なくとも一方の面に備えていることを特徴とし、当該反射防止性光学構造体の製造方法においては、上記した反射防止性光学構造を備えた成形型(スタンパ)を準備し、ホットエンボスによってこのような微細構造を基材表面に形成したり、上記成形型と基材の間に活性エネルギー線硬化性樹脂を介在させた状態で活性エネルギー線を照射して、当該基材の表面に上記した微細構造を形成したりするようにしている。
【0011】
そして、本発明の自動車用部品は、本発明の上記反射防止性光学構造を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可視光線の波長よりも短いピッチで配列され、反射防止機能を発揮する第1の錐体状微細構造の間の平坦部分に、これよりも小さいサイズの第2の錐体状微細構造を形成したことから、微細構造間の平坦部の面積が減少して、この部分からの反射が少なくなるため、反射防止性能をさらに向上させることができる。
【0013】
また、本発明の反射防止性光学構造体は、その少なくとも一方の表面に、上記反射防止性光学構造を備えたものであるから、光の反射率を大幅に低減して、室外景色などの映り込みを防止することができ、自動車を始めとする各種の部品、例えばメーターフロントカバーに適用することによって、外光を遮断するためのフードを廃止したフードレスメーターを実現することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の反射防止性光学構造やこれを適用した構造体について、その製造方法と共に、さらに詳細に説明する。
【0015】
本発明の反射防止性光学構造は、上記したように、凸型(突起状)又は凹型(穴状)の錐体状をなす第1及び第2の微細構造からなり、この第1の微細構造よりも小さな底部(凸型の場合)又は開口部(凹型の場合)を有する第2の微細構造が第1の微細構造の間に形成されていることから、微細構造間に介在する平坦部からの反射が少なくなって、反射防止性能が一層向上することになる。
【0016】
図1(a)は、本発明の反射防止性光学構造の一形態例を示す平面図であって、図1(b)は、図1(a)における切断線B−Bについての縦断面図である。
すなわち、図に示す反射防止性光学構造1は、円錐形の突起状をなす第1の微細構造2と、凹型円錐状、すなわち擂鉢形の穴状をなす第2の微細構造3から構成され、当該第2の微細構造3は、上記第1の微細構造2の間に位置し、その開口径dは、第1の微細構造2の底面径Dよりも小さいものとなっている。
【0017】
なお、図1においては、第1の微細構造2を凸型(突起状)とし、第2の微細構造3を凹型(穴状)のものを示したが、本発明においては第1及び第2の微細構造のそれぞれが凸型であっても凹型であっても差し支えない。
したがって、第1及び第2の微細構造の組み合わせ形状としては、図2(a)に示すように第1の微細構造2が凹型で、第2の微細構造3が凸型の場合、図2(b)に示すように第1の微細構造2及び第2の微細構造3が共に凸型の場合、図2(c)に示すように第1の微細構造2及び第2の微細構造3が共に凹型の場合があり得る。
【0018】
なお、第1の微細構造2については、凹型に較べて凸型構造を採用することによって反射防止機能が高くなる傾向がある反面、凸型の場合には、耐傷付き性に劣り、人の手が触れたり、他のものがぶつかったりすることによって、微細構造の特に先端部が破損することがあるので、適用部位を考慮して選択することが望ましい。
【0019】
また、図1においては、第1及び第2の微細構造2,3として、それぞれ円錐形の凸部及び凹部から成る構造について説明したが、本発明における微細構造2,3の形状としては、正確な円錐(母線が直線)のみならず、先細りとなっている限り、稜線形状が曲線をなし、側面が外側に膨らんだ3次曲面であるものであってもよい。また、成形性や耐破損性を考慮して、先端部を平坦にしたり、丸みをつけたりすることも可能である。
【0020】
また、微細構造2,3の底面(凸型の場合)又は開口部(凹型の場合)の形状としては、方向性がないことから、上記のような円形とすることが望ましいが、必ずしも円形ののみに限定されることはなく、多角形(角錐状)とすることも可能である。
例えば、図3に示すように、八角錐状をなす第1の微細構造12の間に四角錘状をなす第2の微細構造13を配置することによって、多少の方向性は避けられないものの、平坦部を実質的に皆無にすることができる。
【0021】
このように、本発明において『錐体状』とは、正確な円錐や角錐に加えて、上記のような曲面から成る側面を有するものや、先端突起のない角錐や円錐状のものをも含めた形状を意味する。
【0022】
本発明の反射防止性光学構造において、上記第1の微細構造間のピッチPは、可視光線の波長よりも短く、具体的には380nm以下であることが必要であるが、好ましくは50〜380nm、さらには50〜250nmの範囲内とすることが望ましい。
すなわち、隣り合う第1の微細構造構造2の間のピッチPが380nmより大きい場合には、可視光線の一部が構造を認識し、拡散や回折が起こって光の反射率が大きくなってしまうので好ましくない。また、50nm未満では第1の微細構造構造2の隙間に第2の微細構造3を形成することが困難となる。
【0023】
また、上記第1の微細構造2のアスペクト比(H/D)としては、1〜10であることが望ましい。すなわち、このアスペクト比が1未満の場合には、反射防止効果が得られ難くなり、10を超えると、成形及び離型が困難となる傾向があることによる。
なお、アスペクト比の算出には、当該微細構造2の底部(凸型の場合)又は開口部(凹型の場合)の形状が円形の場合には、その直径Dを用いるが、多角形の場合には当該多角形に外接する円の直径をもってこれに代える。
【0024】
一方、第2の微細構造3の底部(凸型の場合)又は開口部(凹型の場合)の直径dとしては、150nm以下、さらには20〜100nmとすることが望ましい。すなわち、直径dが150nmを越えると、上記第1の微細構造間に形成することが難しく、20nmに満たない微細構造は成形方法に制約が生じることがある。
なお、第2の微細構造3の底部又は開口部が多角形の場合には、これに外接する円の直径dを上記範囲とすることが望ましい。
【0025】
また、上記第2の微細構造3のアスペクト比(h/d)としては、1〜10、さらには1.5〜10の範囲とすることが望ましい。すなわち、アスペクト比が1未満の場合には、反射防止効果が得られ難くなり、10を超えると成形や成形後の離型が困難となる傾向があることによる。
【0026】
そして、上記第1及び第2の微細構造2,3の稜線形状としては、これらの形状が凸型のときには、1〜2次の線形式、凹型のときには1〜3次の線形式で表される形状となっていることが望ましく、このようにすることによって、微細構造の頂点から底面までの屈折率の変化の割合が均一なものとなって反射防止機能を向上させることができる。
【0027】
上記第1の微細構造2は、上記の数値を満たしていれば、規則的な配列であっても、不規則なランダム配列であってもよいが、反射防止機能の均一性を向上させるためには、隣り合う構造間の頂点間隔が均一であることが好ましく、正方配列さらには六方細密配列とすることが望ましい。
また、第2の微細構造3は、上記微細構造2の隙間を埋めるように設置するのが好ましい。
【0028】
本発明の反射防止性光学構造体の製造に際して、上記した反射防止性光学構造を成形する方法としては、特に限定されるものではないが、熱プレス法(ホットエンボス法)、射出成形法などを挙げることができ、特に光の波長以下の微細構造を容易に成形できる方法としてナノインプリントが好適に用いられる。
【0029】
このナノインプリントの方法としては、熱及び活性エネルギー線のどちらを用いる方法であってもよい。
熱を用いる方法は、熱可塑性樹脂を加熱して、金型を押し当てることによって、当該樹脂に上記のような微細構造を転写する方法であり、活性エネルギー線を用いる方法は、型に活性エネルギー線により重合し硬化するポリマー又はオリゴマー、モノマーなどを入れ、紫外線やX線などの活性エネルギー線を照射して、固化させる方法である。
【0030】
上記の成形に用いられるスタンパは、上記のような微細構造を形成できる方法であれば、特にその製造方法に限定はなく、生産性やコストなどを考慮して適宜なものを使用することができる。
なお、本発明において、ナノインプリントとは、数nmから数10μm程度の範囲の転写を言う。
【0031】
本発明に使用するプレス装置としては、加熱・加圧機構を有するものや、光透過性スタンパの上方より活性エネルギー線を照射できる機構を有するものがパターン転写を効率良く行う上で好ましい。
【0032】
上記スタンパは、転写されるべき微細なパターンを有するものであり、スタンパにパターンを形成する方法には、特に制限ななく、例えばフォトリソグラフィや電子線描画法等を、所望する加工精度に応じて選択することができる。
また、スタンパの材料としては、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック等、強度と要求される精度の加工性を有するものであれば良い。 具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、ガラス、Ni、Cr、Cu、及びこれらを1種以上含むものを例示することができる。
【0033】
上記構造を形成するための材料(基材)としては、例えば透明性があり、上記に示すいずれかの方法により微細構造を付与できる基材であればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミドビスマレイミド、ポリビスアミドトリアゾール等の熱硬化性樹脂、さらにはこれらを2種以上ブレンドした材料を用いることが可能である。
【0034】
活性エネルギー線を用いる場合は、活性エネルギー線により重合を開始できる樹脂が用いられる。この樹脂としては、例えば紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂などを例示することができ、必要に応じて、活性エネルギー線を照射することによりラジカルを発生する重合開始剤を用いることもでき、より強固に固めるためイソシアネートのような硬化剤を加えることもできる。
また、ここで用いられる活性エネルギー線としては、一般に紫外線やX線、その他電子線、電磁波などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0035】
上記反射防止性光学構造を備えた構造体は、一般に露光される場所に用いられるので、劣化を防止するために紫外線吸収剤や酸化防止剤、ラジカル補足剤などを添加しても良い。また、樹脂の劣化による黄変を補うためのブルーイング剤や蛍光発色顔料を用いることもできる。さらに、微細構造を埋めてしまわないような薄膜コーティングを表面に施して、光や傷による劣化を防ぐ方法もある。
さらにまた、無機酸化物の薄膜を微細構造を埋めてしまわないような厚みでコーティング、又は蒸着させることによって耐傷付き性を向上させたり、同様な厚みのフッ素系樹脂薄膜を表面に設けることによって汚れを防止したりすることも可能である。
【0036】
本発明の反射防止性光学構造を上記基材に付与する場合、少なくとも基材の一方の面に付与することが好ましく、より好ましくは光の入射面及び透過光の出射面の両面に付与することが好ましい。
このような微細構造を付与するには、例えば、基材に直接付与する方法、または基材と同じ屈折率で成形が容易な塗布物を塗布して薄膜を作り、そこに微細構造を転写する方法などがある。
【0037】
また、このような微細構造は、成形品に付与し、表示装置に組み込む際に、最前面に付与することが最も効果的であり、この構造を少なくとも一面に付与すれば、その裏面には、公知の反射防止方法を用いることもできる。
公知の反射防止方法としては、例えば、光の波長以下の微細構造のみを付与した反射防止構造、または反射防止層の膜厚を制御し薄膜表面と基材接着面との反射光を干渉させ反射光を打ち消す方法などがあげられる。
【0038】
本発明の反射防止性光学構造を付与した成形品を使用する表示装置としては、自動車及びバイクのメーターパネル、カーナビ及びカーオーディオ用モニター、テレビ、ノートパソコンや携帯電話、電子手帳などのモバイル機器、看板、時計などを挙げることができ、表示装置の最前面で反射防止が必要な表示装置に使用することができる。
表示装置の形式としては特に限定されず、例えば、アナログメーターのように機械的な表示と照明を組み合わせた方式、デジタルメーターやモニターのように液晶やLED、ELなどのバックライトや発光面を用いた方式、モバイル機器のように反射方式の液晶を用いることもある。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
まず、市販の電子線描画装置を用いて、開口径250nm、深さ500nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、底面径100nm、高さ150nmの円錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの円錐(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=150nmの円錐状凹部(アスペクト比:1.5)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図1参照)を得た。
【0041】
得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を調査するため、JIS R3106に準拠し、分光光度計(日立製U−4000)を用いて平均反射率を測定した。その結果、平均反射率は0.02%であった。
【0042】
(実施例2)
上記実施例1と同様の手法により、開口径250nm、深さ500nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、開口径100nm、深さ150nmの円錐状凹部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの円錐(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に底面径d=100nm、高さh=150nmの円錐状(アスペクト比:1.5)をなす第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図2(b)参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.11%であった。
【0043】
(実施例3)
上記実施例1と同様の手法により、底面径250nm、高さ500nmの円錐状凸部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凸部の間に、開口径100nm、深さ200nmの円錐状凹部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、開口径D=250nm、深さH=500nmの円錐状凹部(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に底面径d=100nm、高さh=200nmの円錐状(アスペクト比:2)をなす第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図2(a)参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.15%であった。
なお、この実施例においては、第1の微細構造2が凹型であることから、反射防止性能が若干劣るものの、凸型に較べて耐傷付き性に優れるという利点があり、手に触れたり、ものが当たったりし易い部位への使用に好適なものとなる。(★ご修正ください)
【0044】
(実施例4)
上記実施例1と同様の手法により、底面径250nm、高さ500nmの円錐状凸部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凸部の間に、底面径100nm、高さ200nmの円錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、開口径D=250nm、深さH=500nmの円錐状凹部(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=200nmの円錐状凹部(アスペクト比:2)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図2(c)参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.26%であった。
【0045】
(実施例5)
上記実施例1と同様の手法により、開口径250nm、深さ500nm、図4に示すような2次の線形式(n=2)で表される稜線形状を有する略円錐状の凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら略円錐状凹部の間に、底面径100nm、高さ150nm、同じく図4に示すような3次の線形式(n=3)で表される稜線形状を有する略円錐状の凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面D=250nm、高さH=500nm、稜線形状が2次の線形式で表される略円錐状凸部(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=250nm、稜線形状が3次の線形式で表される略円錐状凹部(アスペクト比:1.5)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.017%であった。
【0046】
(実施例6)
上記実施例1と同様の手法により、開口径250nm、深さ500nm、3次の線形式(図4参照、n=3)で表される稜線形状を有する略円錐状の凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら略円錐状凹部の間に、底面径100nm、高さ150nm、4次の線形式(図4参照、n=4)で表される稜線形状を有する略円錐状の凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面D=250nm、高さH=500nm、稜線形状が2次の線形式で表される略円錐状凸部(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=250nm、稜線形状が3次の線形式で表される略円錐状凹部(アスペクト比:1.5)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.03%であった。
【0047】
(実施例7)
上記実施例1と同様の手法により、開口径50nm、深さ250nmの円錐状凹部がピッチ50nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、底面径20nm、高さ150nmの円錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=50nm、高さH=250nmの円錐(アスペクト比:5)がピッチP=50nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=20nm、深さh=150nmの円錐状凹部(アスペクト比:7.5)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図1参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.007%であった。
【0048】
(実施例8)
上記実施例1と同様の手法により、一辺が250nm、深さ500nmの八角錐状凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、一辺が100nm、高さ150nmの四角錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの円錐(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=150nmの円錐状凹部(アスペクト比:7.5)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図1参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.055%であった。
【0049】
(実施例9)
上記実施例1と同様の手法により、一辺が250nm、深さ250nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、一辺が100nm、高さ1000nmの四角錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=250nmの円錐(アスペクト比:1)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=1000nmの円錐状凹部(アスペクト比:10)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図1参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.06%であった。
【0050】
(実施例10)
上記実施例1と同様の手法により、一辺が250nm、深さ2500nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、一辺が100nm、高さ100nmの四角錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=2500nmの円錐(アスペクト比:10)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=100nmの円錐状凹部(アスペクト比:1)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図1参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.005%であった。
【0051】
(実施例11)
上記実施例1と同様の手法により、一辺が250nm、深さ500nmの3次の線形式(図4参照、n=3)で表される稜線形状を有する略円錐状凸部がピッチ250nmに正方配列すると共に、これら円錐状凹部の間に、一辺が100nm、高さ200nmの2次の線形式で表される稜線形状(図4参照、n=2)を有する略円錐状四角錐状凸部を備えたスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの3次の線形式で表される稜線形状を有する略円錐凹部(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに正方配列された第1の微細構造2と、これらの間に開口径d=100nm、深さh=200nmの2次の線形式で表される稜線形状を有する略円錐状凸部(アスペクト比:2)から成る第2の微細構造3を備えた反射防止性光学構造1を転写し、本例の反射防止性光学構造体(図1参照)を得た。
そして、得られた反射防止性光学構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.1%であった。
【0052】
(比較例1)
上記実施例1と同様の手法により、開口径250nm、深さ500nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの円錐がピッチP=250nmに正方配列された微細構造を転写し、本比較例の反射防止性光学構造体とした。
そして、得られた構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.13%であった。
【0053】
(比較例2)
上記実施例1と同様の手法により、底面径250nm、高さ500nmの円錐状凸部がピッチ250nmに正方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、同様のポリメチルメタクリレートの表裏両面に、開口径D=250nm、深さH=500nmの円錐状凹部がピッチP=250nmに正方配列された微細構造を転写し、本比較例の反射防止性光学構造体とした。
そして、得られた構造体の反射防止性能を同様に測定した結果、平均反射率は0.50%であった。
【0054】
なお、上記実施例及び比較例により得られた反射防止性光学構造体の平均反射率をその諸元と共に表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から明らかなように、第1の微細構造2が凸型ならば第2の微細構造3を凹型とし、第1の微細構造2が凹型ならば第2の微細構造3を凸型とするように、凹型と凸型が組み合わされることにより、屈折率の変化領域が広がるため、反射防止効果が優れる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a) 本発明の反射防止性光学構造の形態例を示す平面図である。(b) 図1(a)に示した切断線B−Bについての縦断面図である。
【図2】(a)〜(c)は本発明の反射防止性光学構造の他の形態例を示すそれぞれ断面図である。
【図3】角錐状の微細構造から成る本発明の反射防止性光学構造の形態例を示す平面図である。
【図4】微細構造の稜線形状を表わす線形式の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 反射防止性光学構造
2、12 第1の微細構造
3、13 第2の微細構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸型又は凹型の錐体状をなし、可視光線の波長より短いピッチで配列された第1の微細構造の間に、同じく凸型又は凹型の錐体状をなし、上記第1の微細構造よりも小さい底部又は開口部を有する第2の微細構造を備えていることを特徴とする反射防止性光学構造。
【請求項2】
上記第1の微細構造間のピッチが50nm〜380nmであることを特徴とする請求項1に記載の反射防止性光学構造。
【請求項3】
上記第1の微細構造のアスペクト比が1〜10であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射防止性光学構造。
【請求項4】
上記第2の微細構造の底部もしくは開口部の径、又は底部もしくは開口部を形成する多角形に外接する円の径が150nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造。
【請求項5】
上記第1の微細構造又は第2の微細構造が凸型をなし、その稜線形状が1〜2次の線形式で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造。
【請求項6】
上記第1の微細構造又は第2の微細構造が凹型をなし、その稜線形状が1〜3次の線形式で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造。
【請求項7】
上記第2の微細構造のアスペクト比が1〜10であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造。
【請求項8】
上記第1及び第2の微細構造の底部又は開口部が円形であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造を基材の少なくとも一方の面に備えていることを特徴とする反射防止性光学構造体。
【請求項10】
上記基材が透明であることを特徴とする請求項9に記載の反射防止性光学構造体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造をホットエンボスによって基材に形成することを特徴とする反射防止性光学構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造を備えた成形型と基材の間に活性エネルギー線硬化性樹脂を介在させた状態で活性エネルギー線を照射し、当該基材の表面に上記反射防止性光学構造を形成することを特徴とする反射防止性光学構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の反射防止性光学構造を備えていることを特徴とする自動車用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−90212(P2008−90212A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273734(P2006−273734)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】