説明

反射防止積層体

【課題】屈折率が低く且つ硬度調節が可能なシリケート成分及びフッ素原子を含有する低屈折率層用樹脂組成物によりコーティング層が形成された反射防止積層体を提供する。
【解決手段】(A)分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物、(B)下記一般式1及び/又は一般式2で表されるシリケート化合物、




(C)1分子中に3個以上の官能基を有する電離放射線で硬化するモノマー、及び、(D)塗工液に調製するための液状媒体中に分散させることが可能で且つ平均粒子径5nm〜300nmの微粒子、を含有するナノポーラス構造の低屈折率組成物をコーティングした反射防止積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率が低く且つ硬度が高いシリケート化合物と、屈折率が低く、硬度や強度が低い性質のフッ素原子を含む電離放射線硬硬化型樹脂組成物を含む塗膜を持つ反射防止積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレー(LCD)や陰極管表示装置(CRT)等の画像表示装置の表示面は、その視認性を高めるために、蛍光灯などの外部光源から照射された光線の反射が少ないことが求められる。
【0003】
透明な物体の表面を屈折率の小さい透明皮膜で被覆することにより反射率が小さくなる現象が従来から知られており、このような現象を利用した反射防止膜を画像表示装置の表示面に設けて視認性を向上させることが可能である。反射防止膜は、表示面の上に屈折率の小さい低屈折率層を設けた単層構成、または、反射防止効果を更に良好にするために表示面の上に中〜高屈折率層を1乃至複数層設け、中〜高屈折率層の上に最表面の屈折率を小さくするための低屈折率層を設けた多層構成を有する。
【0004】
単層型の反射防止膜は多層型と比べて層構成が単純なので、生産性やコストパフォーマンスに優れている。一方、多層型の反射防止膜は、層構成を組み合わせて反射防止性能を向上させることが可能であり、単層型と比べて高性能化を図り易い。
【0005】
このような反射防止膜に含まれる低屈折率層を形成する方法は、一般に気相法と塗布法に大別され、気相法には真空蒸着法、スパッタリング法等の物理的方法と、CVD法等の化学的方法とがあり、塗布法にはロールコート法、グラビアコート法、スライドコート法、スプレー法、浸漬法、及び、スクリーン印刷法等がある。
【0006】
気相法による場合には、高機能且つ高品質な透明薄膜を形成することが可能だが、高真空系での精密な雰囲気の制御が必要であり、また、特殊な加熱装置又はイオン発生加速装置が必要であり、そのために製造装置が複雑で大型化するために必然的に製造コストが高くなるという問題がある。また、気相法による場合には、透明薄膜を大面積化したり或いは複雑な形状を持つフィルム等の表面に透明薄膜を均一な膜厚に形成することが困難である。
【0007】
一方、塗布法のうちスプレー法による場合には、塗工液の利用効率が悪く、成膜条件の制御が困難である等の問題がある。ロールコート法、グラビアコート法、スライドコート法、浸漬法及びスクリーン印刷法等による場合には、成膜原料の利用効率が良く、大量生産や設備コスト面での有利さがあるが、一般的に、塗布法により得られる透明薄膜は、気相法により得られるものと比較して機能及び品質が劣るという問題点がある。
【0008】
塗布法としては、分子構造中にフッ素原子を含むポリマー(フッ素含有ポリマー)を含有する塗工液を支持体の表面に塗布し乾燥させるか、或いは、分子構造中にフッ素原子を含むモノマー(フッ素含有モノマー)を含有する塗工液を支持体の表面に塗布、乾燥した後、UV照射などによって硬化させて低屈折率層を形成することが知られている。フッ素原子を含むバインダーからなる塗膜は屈折率が低く、フッ素含有量が大きいほど屈折率が低くなる。また、塗膜のフッ素含有量が高くなると、汚れが付着し難くなって防汚性が向上するという効果もある。しかし、フッ素自身の分子間力が小さいので、フッ素原子を含む分子は柔らかくなり易く、塗膜中のフッ素原子含有量が高くなると塗膜の硬度や強度が低下するという問題がある。
【0009】
低屈折率層は原理上、反射防止膜の最表面又は表面付近に設けられることが多いので、何らかの物品による接触、衝突または摩擦などの攻撃を本来的に受け易く、塗膜の屈折率を上げるためにフッ素含有量を高くし過ぎると、硬度の著しい低下を招いて傷付き易くなり、埃や汚れを拭き取るために強く擦っただけでも傷付いてしまう場合がある。
【0010】
また、低屈折率層を、表面付近ではあるが中間層として設ける場合には、外部からの攻撃に対して若干傷付きにくくなるが、塗膜の屈折率を下げるためにフッ素含有量を高くし過ぎると、応力の集中により低屈折率層とこれに隣接する層との界面で剥離が生じ易くなり、塗膜強度の低下を招くという不都合があった。このようにフッ素原子を含む樹脂における屈折率を低下させる要望と、該樹脂を用いて塗膜の強度を図る要望は、両立できない課題であった。
【0011】
特開2000−66006号公報(特許文献1)には、フッ素含有ポリマーからなる塗膜中に平均径200nm以下のミクロボイドを形成してなる非常に微小な多孔質構造を有する低屈折率層が開示されている。この公報に開示された低屈折率層は、塗膜中に多数のミクロボイドを形成することにより、塗膜の屈折率を空気の屈折率(すなわち屈折率1)に近づけることができるので、フッ素含有ポリマーのフッ素含有率を高くしないでも屈折率を下げることができる。しかし、この場合でも、塗膜の屈折率を下げるためにミクロボイドの量を多くし過ぎると、フッ素含有量を高くする場合と同様に塗膜の硬度や強度が低下する。
【0012】
特開2002−341106号公報(特許文献8)では低屈折率層を水素結合形成基を有する電離放射線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーと、次の一般式1、
【0013】
【化1】

(R1 は炭素数1〜10のアルキル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、アミド基、スルホニル基、水酸基又はカルボキシル基、R1 ’は炭素数1〜10のアルキル基を表し、m+nは4の整数である。)
【0014】
で表されるシリケート化合物とで塗膜を形成後、未硬化部の電離放射線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーを溶剤抽出により除去することで、少なくとも表面付近に微小な空隙を形成しながら、無機と有機の網目構造が相互に介入し合った構造、所謂IPN構造が維持されている低屈折率組成物層が提案されているが、塗膜の表面や内部の空隙の部分に必要以上の力が加わった場合、そこから塗膜の破壊がおき、結果的に塗膜が傷つく。
【0015】
塗膜自身に十分な耐擦傷性を付与するためには、特開2000−159916号公報(特許文献9)にあるように重合性官能基を有する有機バインダー成分中に金属酸化物を鎖状に連結させた形で分散させることが理想的であるが、塗膜自身の屈折率は低下せず、むしろ上昇する傾向にある。
【0016】
【特許文献1】特開2000−66006号公報
【特許文献2】特開平6−3501号公報
【特許文献3】特開2002−311210号公報
【特許文献4】特開2002−317152号公報
【特許文献5】特開平7−133105号公報
【特許文献6】特開2002−256004号公報
【特許文献7】特開2000−267708号公報
【特許文献8】特開2002−341106号公報
【特許文献9】特開2000−159916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、屈折率が低く且つ硬度を適切な固さに調節可能なシリケート成分及びフッ素原子を含有する低屈折率層用樹脂組成物によりコーティング層が形成された反射防止積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明の反射防止積層体は、光透過性を有する基材の少なくとも一面側に直接、或いは他の層を介して内部、及び/又は表面にナノポーラス構造を有する低屈折率組成物をコーティングしてなる低屈折率層が形成された反射防止積層体であって、
前記ナノポーラス構造を有する低屈折率組成物が、少なくとも、(A)分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物、(B)下記一般式1及び/又は一般式2で表されるシリケート化合物
【0019】
【化2】

(R1 は炭素数1〜10のアルキル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、アミド基、スルホニル基、水酸基又はカルボキシル基、R1 ’は炭素数1〜10のアルキル基を表し、m+nは4の整数である。)
【0020】
【化3】

(R2 は炭素数1〜10のアルキル基、R2 ’、及びR2 ’’は同一でも異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、アミド基、スルホニル基、水酸基又はカルボキシル基を表し、lは2〜50の整数である。)、
(C)1分子中に3個以上の官能基を有する電離放射線で硬化するモノマー、及び、(D)塗工液に調製するための液状媒体中に分散させることが可能で且つ平均粒子径5nm〜300nmの微粒子、を含有することを特徴とする反射防止積層体である。
【0021】
本発明の反射防止積層体におけるナノポーラス構造を有する低屈折率組成物がコーティングされてなる低屈折率層には、ナノポーラス構造が、平均粒子径5nm〜300nmの微粒子が集合体を形成した結果生じる、平均孔径が0.01nm〜100nmの空気を含有する独立した、及び/又は連続した孔である構造が挙げられる。
【0022】
或いは、ナノポーラス構造を有する低屈折率組成物がコーティングされてなる低屈折率層には、ナノポーラス構造が、平均粒子径5nm〜300nmの微粒子自身の平均孔径0.01nm〜100nmの空気を含有する孔を有することにより形成される構造が挙げられる。
【0023】
本発明において、ナノポーラスとは、粒子自身が持っている孔、或いは粒子同士が集合体を形成することによって生じる空隙、又は比表面積が大きい多孔質粒子に取り込まれた空気が塗膜形成の過程で粒子から塗膜中に拡散して生じる空気の孔のことを言い、所望の大きさの範囲内であれば、独立していても、連続していても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明の反射防止積層体においては、低屈折率層を形成するために用いられる低屈折率組成物の屈折率が低く、具体的には、低屈折率層の屈折率を1.50以下、好ましくは1.45以下と非常に小さくすることができ、且つ、該低屈折率組成物を用いて形成した塗膜は実用に耐え得る硬度、強度を有し、密着性及び透明性にも優れたものとなり、屈折率を低くできる性質と、塗膜の硬度を高くすることができる性質の2つの性質を両立させることができる。
【0025】
ところで、一般的に電離放射線硬化型樹脂組成物中に微粒子を分散させることでその凝集力や硬さによって形成された塗膜が引き締められるが、空隙を有する微粒子の屈折率を利用して塗膜全体の屈折率を下げる場合、塗膜中に大量の微粒子を添加する必要があるため、塗膜の強度が著しく低下することがある。また、一般的に、分子中にフッ素原子を含む樹脂組成物は屈折率が低い材料であるので、塗膜の屈折率を低下させるために、該樹脂を塗布して形成することがあるが、得られた塗膜は、原子間力が小さいフッ素原子を含有しているため硬度及び強度が不足し易いという欠点を有する。
【0026】
これに対して、本発明の反射防止積層体の低屈折率層においては、(D)成分である平均粒子径5nm〜300nmの微粒子と、(A)成分である、分子中にフッ素原子を有する低屈折の電離放射線硬化型樹脂組成物が同時に含まれた系に、さらに(B)成分であるシリケート化合物が含まれているので、さらに、塗膜の強度を高めると同時に低屈折性を高めることができる。即ち、(B)成分であるシリケート化合物は、(A)成分の電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、及び/又は(C)成分の官能基を有するモノマーに対して、親和性に優れ、熱硬化により強固なシロキサンネットワークを形成することができるので、塗膜の硬度及び強度、且つ低屈折率化の向上に寄与する。
【0027】
また、微粒子の平均粒子径が5nm〜300nmであるので塗膜の透明性にも優れている。これらの微粒子は塗膜中で凝集し、特に塗膜の最表面に可視光の波長以下程度の細かな凹凸を形成させることで、通常の平坦な膜となる樹脂のみに比べ、空気が取り込まれる構造が実現されるため、微粒子の持つ屈折率の効果以上の塗膜の屈折率低下が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(A)成分:分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物
(A)成分は、低屈折率組成物に成膜性(皮膜形成能)と低い屈折率を付与するためのバインダー成分である電離放射線硬化型のフッ素原子を含有するモノマー及び/又はポリマーを含む。本発明で使用するフッ素原子含有電離放射線硬化型樹脂組成物は、電離放射線で硬化する官能基(単に「電離放射線硬化性基」と呼ぶことがある)を有するか、或いは、電離放射線硬化性官能基を有することに加えて、熱により硬化する官能基(単に「熱硬化性基」と呼ぶことがある)も有するので、該樹脂組成物を含有する塗工液を被塗工体の表面に塗布し、乾燥し、電離放射線の照射、又は電離放射線の照射と加熱を行うと、塗膜内に架橋結合等の化学結合を形成し、塗膜を効率よく硬化させることができる。
【0029】
前記(A)成分の、フッ素原子含有電離放射線硬化型樹脂組成物に含有される「電離放射線硬化性基」は、電離放射線の照射により重合又は架橋等の大分子量化反応を進行させて塗膜を硬化させることができる官能基であり、例えば、光ラジカル重合、光カチオン重合、光アニオン重合のような重合反応、或いは、光二量化を経て進行する付加重合又は縮重合等の反応形式により反応が進行するものが挙げられる。その中でも、特に、アクリル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合は、紫外線や電子線のような電離放射線の照射により直接、又は開始剤の作用を受けて間接的に光ラジカル重合反応を生じるものであり、光硬化の工程を含む取り扱いが比較的容易なので好ましい。
【0030】
(A)成分中の、フッ素原子含有電離放射線硬化型樹脂組成物に含有されていてもよい「熱硬化性基」は、加熱によって同じ官能基同士又は他の官能基との間で重合又は架橋等の大分子量化反応を進行させて硬化させることができる官能基であり、例えば、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、等を例示することができる。
【0031】
これらの官能基の中でも水素結合形成基は、(D)成分である、微粒子、好ましくは、それ自身が空隙を有する、或いは集合体を形成することで空隙を有する微粒子が無機超微粒子との親和性にも優れており、該無機超微粒子及びその集合体のバインダー中での分散性を向上させるので好ましい。該水素結合形成基のうち、特に水酸基が、バインダー成分への導入が容易で、コーティング組成物の保存安定性に寄与し、バインダー成分の熱硬化時に、無機系の空隙を有する微粒子表面に存在する水酸基との共有結合を形成し、該空隙を有する微粒子が架橋剤として作用し、塗膜強度の更なる向上を図ることができるために好ましい。
【0032】
塗膜の屈折率を充分に低くするためには、フッ素原子含有(A)成分の屈折率が1.50以下であることが好ましい。
【0033】
(A)成分のうち分子中にフッ素原子を含有モノマー及び/又はオリゴマーは塗膜の架橋密度を高める効果が高いほか、分子量が小さいので流動性が高い成分であり、コーティング組成物の塗工適性を向上させる効果もある。
【0034】
一方、(A)成分のうちフッ素原子含有ポリマーは、すでに分子量が大きいので、フッ素原子含有モノマー及び/又はオリゴマーと比べて成膜性が高い。このフッ素原子含有ポリマーに上記フッ素原子含有モノマー及び/又はオリゴマーと組み合わせると、流動性が高められるので塗工適性を改善することができ、また、架橋密度も高められるので塗膜の硬度や強度を向上させることができる。
【0035】
エチレン性不飽和結合を有するフッ素原子含有モノマーとしては、例えば、フルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロ―2,2―ジメチル―1,3―ジオキソールなど)、アクリルまたはメタクリル酸の部分及び完全フッ素化アルキル、アルケニル、アリールエステル類(例えば下記の一般式3又は一般式4で表される化合物)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類、完全または部分フッ素化ビニルエステル類、完全または部分フッ素化ビニルケトン類等を例示することができる。
【0036】
互いに重合可能な重合性官能基を有するフッ素原子含有ポリマーとフッ素原子含有モノマーとを組み合わせる場合には、フッ素原子含有ポリマーによりコーティング組成物の成膜性が向上すると共に、フッ素原子含有モノマーにより架橋密度と塗工適性が向上し、両成分のバランスによって優れた硬度と強度を塗膜に付与することができるので好ましい。この場合、数平均分子量が20,000〜500,000のフッ素原子含有ポリマーと数平均分子量が20,000以下のフッ素原子含有及び/又は非含有モノマーを組み合わせて用いることにより、塗工適性、成膜性、膜硬度、膜強度などを含めた諸物性のバランスがとり易いので好ましい。
【0037】
分子中にフッ素を含有するポリマーとしては、上記したようなフッ素原子含有モノマーから任意に選ばれた1又は2以上のフッ素原子含有モノマーの単独重合体又は共重合体、或いは、1又は2以上のフッ素原子含有モノマーと1又は2以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体を用いることができる。
【0038】
具体的には、ポリテトラフルオロエチレン;4−フルオロエチレン−6−フルオロプロピレン共重合体;4−フルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体;4−フルオロエチレン−エチレン共重合体;ポリビニルフルオライド;ポリビニルビニリデンフルオライド;アクリルまたはメタクリル酸の部分及び完全フッ素化アルキル、アルケニル、アリールエステル類(例えば、次の一般式3又は一般式4で表される化合物)の(共)重合体;フルオロエチレン−炭化水素系ビニルエーテル共重合体;エポキシ、ポリウレタン、セルロース、フェノール、ポリイミド、シリコーン等各樹脂のフッ素変性品などを例示することができる。
【0039】
【化4】

(式中、R3 は水素原子、炭素数1ないし3のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Rfは完全または部分フッ素化されたアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環またはアリール基を表す。R4 およびR5 はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヘテロ環、アリール基または上記Rfで定義される基を表す。R3 、R4 、R5 およびRfはそれぞれフッ素原子以外の置換基を有していても良い。また、R4 、R5 およびRfの任意の2つ以上の基が互いに結合して環構造を形成しても良い。)
【0040】
【化5】

(式中、Aは完全または部分フッ素化されたn価の有機基を表す。R6 は水素原子、炭素数1ないし3のアルキル基またはハロゲン原子を表す。R6 はフッ素原子以外の置換基を有していても良い。nは2乃至8の整数を表す。)
その他にも、旭硝子(株)製の商品名サイトップといった市販品を例示することができる。
【0041】
この中で特に、下記一般式5で示されるポリビニルビニリデンフルオライド誘導体が、屈折率が低く、硬化性官能基の導入が可能で、且つ他のバインダー成分や空隙を有する微粒子との相溶性に優れるために、特に好ましい。
【0042】
【化6】

(式中、R8 は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はハロゲン原子を表す。R7 は直接、或いは完全または部分フッ素化されたアルキル鎖、アルケニル鎖、エステル鎖、エーテル鎖を介して、完全または部分フッ素化されたビニル基、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、オキセタン基、アリール基、マレイミド基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基を示す。)
【0043】
本発明においては、(A)成分の中から数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算数平均分子量)が20,000以下のモノマーと数平均分子量が20,000以上のポリマーを適宜組み合わせ、塗膜の諸性質を容易に調節することが可能である。
【0044】
(B)成分:シリケート化合物
本発明の反射防止積層体の低屈折率層の形成に用いるコーティング組成物においては、シリケート化合物は塗膜中に無機のネットワークを形成し、フッ素樹脂成分、電離放射線硬化型バインダー成分や空隙を有する微粒子との間に架橋結合を形成させることが必要である。したがって、本発明においては、(B)成分として前記一般式1及び/又は一般式2で示されるシリケート化合物を使用する。
【0045】
これら2つの化合物は、いずれの分子中に有機バインダー成分との親和性を有する有機基を有しており、且つ熱硬化により強固な無機のネットワークを形成することができる。また、空隙を有する微粒子が無機微粒子である場合、無機と有機の結合を有するこれらシリケート化合物が、両者の親和性を仲立ちするためコーティング組成物中で空隙を有する微粒子の凝集を防げ、且つ塗膜にした際も空隙を有する微粒子を均一に分散させる効果がある。
【0046】
前記一般式1で表されるシリケート化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラーiso−プロポキシシラン、テトラーn−プロポキシシラン、テトラーn−ブトキシシラン、テトラーsec−ブトキシシラン、テトラーter−ブトキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンターiso−プロポキシシラン、テトラペンターn−プロポキシシラン,テトラペンターn−ブトキシシラン、テトラペンターsec−ブトキシシラン、テトラペンターtert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエチキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γー(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−(−2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、βー(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γーグリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γーアミノプロピルメチルジメトキシシラン、γアミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルーγアミノプロピルトリメトキシシラン、γーメルカプトプロピルトリメトキシシラン、γークロロプロピルトリメトキシシラン、γーアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0047】
前記一般式2で表されるシリケート化合物の具体例としては、前記一般式1で示されるシリケート化合物の加水分解、重縮合で得られる。具体的には任意に選択した、前記一般式1の化合物に加水分解に必要な量以上の水を加え、15℃〜90℃、好ましくは20℃〜40℃の温度で、1〜30時間、好ましくは2〜10時間攪拌を行う。
【0048】
上記加水分解において触媒を用いるのが好ましく、これらの触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸又は酢酸などの酸が好ましく、これらの酸を0.001〜20.0N、好ましくは0.005〜10N程度の水溶液として加え、該水溶液中の水分を加水分解用の水分とすることができる。
【0049】
通常、一般的な加水分解及び縮合の手法により生成される前記一般式2のシリケート化合物は通常nの値が10以下であるが、例えば、technical report of IEICE.O ME97-4,19(1997) に記載されている手法を用いてその反応を制御することで、nの値を10以上にすることができる。
【0050】
前記一般式1や前記一般式2のシリケート化合物は、有機バインダー成分や空隙を有する微粒子の種類や量によって適宜変更することができる。特に、前記一般式1のシリケート化合物は両者の親和性を向上させる必要がある時や、架橋結合を形成させたい時には好ましく使用され、前記一般式2のシリケート化合物は前記一般式1の性能に加え、高分子量化することで粘性を持つため、基材フィルムに対する良好な密着性をもたせたい時に好ましく使用できる。
【0051】
前記一般式2で示されるシリケート化合物はまた、三菱化学製の商品名「MSシリケート51」や信越化学製の商品名「シロキサンアルコキシオリゴマーX−40シリーズ」等の市販品としても購入することができる。
【0052】
上記した(A)、(B)成分に属するフッ素樹脂、シリケート化合物、及び(A)、(B)成分に属さないモノマー、オリゴマー、ポリマーを適宜組み合わせて、成膜性、塗工適性、電離放射線硬化の架橋密度、熱硬化性を有する極性基の含有量など諸性質を調節することができる。例えば、モノマー、オリゴマー、により架橋密度と加工適性が向上し、ポリマーによりコーティング組成物の成膜性が向上する。
【0053】
(C)成分:1分子中に3個以上の官能基を有する電離放射線で硬化するモノマー
本発明に用いる低屈折率組成物におけるバインダー成分には、1分子中に3個以上の官能基を有する電離放射線で硬化するモノマーが必須成分として含まれる。本発明で使用する電離放射線で硬化する官能基(単に「電離放射線硬化性基」と呼ぶことがある)を有するモノマーは、電離放射線硬化型官能基を有することに加え、熱により硬化する官能基(単に「熱硬化性基」と呼ぶことがある。)を有するので、該樹脂組成物を含有する塗工液を被塗工体の表面に塗布し、乾燥し、電離放射線の照射、又は電離放射線の照射と加熱を行うと、塗膜内に架橋結合等の化学結合を形成し、塗膜を効率よく硬化させることができる。
【0054】
前記モノマー成分の、「電離放射線硬化性基」は、電離放射線の照射により重合又は架橋等の大分子量化反応を進行させて塗膜を硬化させることができる官能基であり、例えば、光ラジカル重合、光カチオン重合、光アニオン重合のような重合反応、或いは、光二量化を経て進行する付加重合又は縮重合等の反応形式により反応が進行するものが挙げられる。その中でも、特に、アクリル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合は、紫外線や電子線のような電離放射線の照射により直接、又は開始剤の作用を受けて間接的に光ラジカル重合反応を生じるものであり、光硬化の工程を含む取り扱いが比較的容易なので好ましい。
【0055】
モノマー成分中に含まれていてもよい「熱硬化性基」は、加熱によって同じ官能基同士又は他の官能基との間で重合又は架橋等の大分子量化反応を進行させて硬化させることができる官能基であり、例えば、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、等を例示することができる。
【0056】
これらの官能基の中でも水素結合形成基は、(B)成分であるシリケート化合物や、(C)成分である平均粒子径5nm〜300nmの微粒子が無機超微粒子である場合、即ち、それ自身が空隙を有する、或いは集合体を形成することで空隙を有する微粒子が無機超微粒子である場合、(B)成分との親和性にも優れており、該無機超微粒子及びその集合体のバインダー中での分散性を向上させるので好ましい。水素結合形成基のうち、特に水酸基が、バインダー成分への導入が容易で、コーティング組成物の保存安定性や熱硬化によりシリケート化合物や無機系の空隙を有する微粒子表面に存在する水酸基との共有結合を形成し、該空隙を有する微粒子が架橋剤として作用し、塗膜強度の更なる向上を図ることができるために特に好ましい。
【0057】
塗膜の屈折率を充分に低くするためには、モノマー成分の屈折率が1.65以下であることが好ましい。
【0058】
本発明の反射防止積層体の低屈折率層の形成に用いるコーティング組成物のバインダー成分として、1分子中に3個以上の電離放射線硬化性基を有するモノマー成分が塗膜の架橋密度を向上させ、膜強度や硬度を向上させるために好ましい。
【0059】
(D)成分:微粒子
(D)成分としての微粒子には、「空隙を有する微粒子」が好ましく使用される。「空隙を有する微粒子」とは、微粒子の内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造をとった結果、或いは微粒子が集合体を形成した結果、気体が屈折率1.0の空気である場合、微粒子本来の屈折率に比べて微粒子中の空気の占有率に反比例して屈折率が低下した微粒子及びその集合体のことを言う。例えば、比表面積を大きくすることを目的として製造され、充填用のカラムや表面の多孔質部に各種化学物質を吸着させる除放材、触媒固定用に使用される多孔質微粒子や、断熱材や低誘電材に組み込むことを目的とする中空微粒子のうち、本発明に使用できる平均粒子径の範囲のものが好ましく使用できる。
【0060】
無機の多孔質微粒子としては、例えば、市販品として日本シリカ工業株式会社製の商品名NipsilやNipgelの中から本発明で好ましく使用できる粒子径の範囲内のものを、また、無機の中空粒子としては、特開2001−233611号公報で開示されている技術を用いて調製した中空シリカ微粒子が好ましく用いられる。
【0061】
集合体を形成する無機の微粒子としては、例えば、市販品として日本シリカ工業株式会社製の商品名NipsilやNipgelの中から多孔質シリカ微粒子の集合体や日産化学工業(株)製のシリカ微粒子が鎖状に繋がった構造を有するコロイダルシリカUPシリーズ(商品名)の中から本発明の好ましく使用できる粒子径の範囲内のものを用いることができる。本発明で使用される平均粒子径5nm〜300nmの微粒子は、一次粒子径5nm〜100nmの微粒子が鎖状に連なって形成されていてもよい。
【0062】
有機のそれ自身が空隙を有する微粒子は、例えば、特開2002−256004号公報に示されるような、ポリマー層と孔充填層を有する多孔質粒子であって、該孔充填層がフュージティブ物質、置換気体、或いはそれらの組合せであり、一方、該ポリマー層のガラス転移温度が10℃〜50℃である多孔質粒子が挙げられる。
【0063】
また、集合体を形成する有機の微粒子としては、例えば、市販品として総研化学株式会社製の機能性微粒子凝集体MP−300F(商品名、0.1μmのアクリル凝集粒子として市販されている。)等が好ましく使用できる。
【0064】
これらのそれ自身が空隙を有する、或いは集合体を形成することで空隙を有する微粒子のうちで、無機成分、特にシリカの空隙を有する微粒子は製造が容易でそれ自身が硬いために、バインダー成分と組合せた時の膜強度も向上し、屈折率1.20〜1.45を達成できるため好ましく使用することが出来る。
【0065】
(D)成分である空隙を有する微粒子の一次粒子径は、塗膜に優れた透明性を付与するためには、平均粒子径5nm〜300nmの範囲であることが好ましい。
【0066】
他の成分
本発明による反射防止積層体の低屈折率層は、さらに、分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物および微粒子の何れに対しても相溶性を有するフッ素系および/またはケイ素系化合物を含んでなることが好ましい。このようにフッ素系化合物等を含むことにより、最表面に用いられる塗膜表面の平坦化や反射防止積層体に必要とされる防汚性、耐擦傷性向上に効果がある滑り性を付与することができる。
【0067】
本発明においては、さらに、フッ素系および/またはケイ素化合物の少なくとも一部が、電離放射線硬化型樹脂組成物と、化学反応により共有結合を形成して塗膜最表面に固定されていることが好ましく、これにより、反射防止積層体が製品化後に必要となる、長期に渡る防汚性や耐擦傷性の向上に効果がある滑り性を安定して保持することが可能となる。
【0068】
上記フッ素系化合物としては、Cd 2d+1 (dは1〜21の整数) で表されるパーフルオロアルキル基、−( CF2 CF2 ) g −(g は1〜50の整数) で表されるパーフルオロアルキレン基、またはF−(−CF(CF3 )CF2 O−)e −CF(CF3 )(ここで、eは1〜50の整数) で表されるパーフルオロアルキルエーテル基、ならびに、CF2 =CFCF2 CF2 −、(CF3 2 C=C(C2 5 )−、および((CF3 2 CF)2 C=C(CF3 )−等で例示されるパーフルオロアルケニル基を有することが好ましい。
【0069】
上記の官能基を含む化合物であれば、フッ素系化合物の構造は特に限定されるものではなく、例えば、含フッ素モノマーの重合体、または含フッ素モノマーと非フッ素モノマーの共重合体等を用いることもできる。それらの中でも特に、含フッ素モノマーの単独共重合体、または含フッ素モノマーと非フッ素モノマーとの共重合体のいずれかで構成される含フッ素系重合体セグメントと、非フッ素系重合体セグメント、とから成るブロック共重合体またはグラフト共重合体が好ましく用いられる。このような共重合体においては、含フッ素系重合体セグメントが、主に防汚性・撥水撥油性を高める機能を有し、一方、非フッ素系重合体セグメントが、バインダー成分との相溶性が高いことから、アンカー機能を有する。したがって、このような共重合体を用いた反射防止積層体においては、繰り返し表面を擦られた場合にもこれらのフッ素系化合物が取り去られにくく、また、長期に渡り防汚性などの諸性能を維持できるという効果がある。
【0070】
上記フッ素系化合物は市販の製品として入手することができ、例えば、日本油脂製モディパーFシリーズ(商品名)、大日本インキ化学工業社製ディフェンサMCFシリーズ(商品名)等が好ましく用いられる。
【0071】
上記フッ素系または/およびケイ素系化合物は、下記一般式6、
【0072】
【化7】

(式中、Raはメチル基などの炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rbは非置換、もしくはアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロアルキルエーテル基、または(メタ)アクリロイル基で置換された炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、またはポリエーテル変性基を示し、各Ra、Rbは互いに同一でも異なっていても良い。また、mは0〜200、nは0〜200の整数である。)
で示される構造を有することが好ましい。
【0073】
上記一般式6のような基本骨格を持つポリジメチルシリコーンは、一般に表面張力が低く、撥水性や離型性に優れていることが知られているが、側鎖あるいは末端に種々の官能基を導入することで、更なる効果を付与することができる。例えば、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基、アルコキシ基等を導入することにより反応性を付与でき、前記分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物との化学反応により共有結合を形成できる。また、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロアルキルエーテル基を導入することで、耐油性や潤滑性等を付与でき、さらに、ポリエーテル変性基を導入することで、レベリング性や潤滑性を向上させることができる。
【0074】
このような化合物は、市販の製品として入手することができ、例えば、フルオロアルキル基をもつシリコーンオイルFL100(商品名:信越化学工業社製) や、ポリエーテル変性シリコーンオイルTSF4460 (商品名、GE東芝シリコーン社製) 等、目的に合わせて種々の変性シリコーンオイルを入手できる。
【0075】
また本発明の好ましい態様として、フッ素系または/およびケイ素系化合物は下記一般式7、
Rcn SiX4-n (式7)
(式中、Rcはパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、またはパーフルオロアルキルエーテル基を含む炭素数3〜1000の炭化水素基を示し、Xはメトキシ基、エトキシ基、もしくはプロポキシ基等の炭素数1〜3のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、もしくはメトキシエトキシ基等のオキシアルコキシ基、または、クロル基、ブロモ基もしくはヨード基等のハロゲン基等の加水分解性基であり、同一でも異なっていてもよく、nは1〜3の整数を示す。)
で示される構造であってもよい。
【0076】
このような加水分解性基を含むことにより、特に無機成分の微粒子を用いた場合、微粒子表面の水酸基と共有結合や水素結合を形成し易く、密着性を保持できるという効果がある。
【0077】
このような化合物として、具体的には、TSL8257(商品名:GE 東芝シリコーン社製)等のフルオロアルキルシランが挙げられる。
【0078】
上記フッ素系および/またはケイ素系化合物は、分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物と微粒子の総質量に対して、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3.0質量%の含有量であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満であると、反射防止積層体に充分な防汚性や滑り性を付与することができず、また10質量%を超えると塗膜の強度を極端に低下させる。
【0079】
これらフッ素系化合物やケイ素系化合物は、期待する効果の程度に応じて単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これらの化合物を適宜組み合わせることにより、防汚性、撥水撥油性、滑り性、耐擦傷性、耐久性、レベリング性等の諸性質を調節し、目的とする機能を発現させることができる。
【0080】
本発明による反射防止積層体を構成する低屈折率層は、必須成分として、上記の分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物成分および上記微粒子成分および上記フッ素系および/またはケイ素化合物を含有するが、さらに必要に応じて、上記したような分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物成分以外のバインダー成分も含まれていてよく、さらに、低屈折率層形成用塗工液には、溶剤、重合開始剤、硬化剤、架橋剤、紫外線遮断剤、紫外線吸収剤、表面調整剤(レベリング剤)、あるいは、その他の成分が含まれていても良い。
【0081】
重合開始剤は、本発明において必ずしも必要ではない。しかし、フッ素原子含有(A)成分、空隙を有する微粒子の(D)成分、及び、(C)成分の電離放射線硬化性基が、電離放射線照射によって直接重合反応を生じにくい場合がある。このような場合には、バインダー成分及び無機超微粒子の反応形式に合わせて、適切な開始剤を用いるのが好ましい。
【0082】
例えば、フッ素原子含有(A)成分の電離放射線硬化性基がエチレン性不飽和結合である場合には、光ラジカル重合開始剤を用いる。光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物などが用いられる。より具体的には、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケトン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンゾフェノン等を例示できる。これらのうちでも、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、及び、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンは、少量でも電離放射線の照射による重合反応を開始し促進するので、本発明において好ましく用いられる。これらは、いずれか一方を単独で、又は、両方を組み合わせて用いることができる。これらは市販品にも存在し、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンはイルガキュアー 184(Irgacure 184)の商品名でチバスペシャリティーケミカルズ(株)から入手できる。
【0083】
光ラジカル重合開始剤を用いる場合には、フッ素原子含有成分を主体とするバインダー成分の合計100質量部に対して、光ラジカル重合開始剤を通常は3〜15質量部の割合で配合する。
【0084】
硬化剤は、フッ素原子含有(A)成分の熱硬化性極性基の熱硬化反応を促進するために配合される。熱硬化性極性基が水酸基である場合には、硬化剤として、通常、メチロールメラミン等の塩基性基を有する化合物、金属アルコキシド等の加水分解により水酸基を発生する加水分解性基を有する化合物が配合される。塩基性基としては、アミン、ニトリル、アミド、イソシアネート基が好ましく用いられ、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく用いられるが、後者の場合は特に、下記一般式8で表されるアルミニウム化合物とその誘導体が水酸基との相性が良く、特に好ましく用いられる。
【0085】
AlR9 (式8)
(上記一般式8は、アルミニウム化合物、および/またはそこから誘導されるオリゴマーおよび/または錯体や無機または有機酸のアルミニウム塩の中から選定することができる。ここで、残基R9 は、同一でも異なってもよく、ハロゲン、炭素数10以下、好ましくは4以下のアルキル、アルコキシ、もしくはアシルオキシ、またはヒドロキシであり、これらの基は全部または一部がキレート配位子により置き換えられていてもよいものである。)
【0086】
具体的には、アルミニウム-sec- ブトキシド、アルミニウム-iso- プロポキシド、及びそのアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アルカノールアミン類、グリコール類、及びその誘導体との錯体等を挙げることができる。
【0087】
また、(A)成分の熱硬化性極性基がエポキシ基である場合には、コーティング組成物中に、硬化剤として、通常、多価カルボン酸無水物、又は、多価カルボン酸を用いる。
【0088】
多価カルボン酸無水物の具体例としては、無水フタル酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水シトラコン酸、無水ドデセニルコハク酸、無水トリカルバリル酸、無水マレイン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ジメチルテトラヒドロフタル酸、無水ハイミック酸、無水ナジン酸などの脂肪族または脂環族ジカルボン酸無水物;1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族多価カルボン酸二無水物;無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸などの芳香族多価カルボン酸無水物;エチレングリコールビストリメリテイト、グリセリントリストリメリテイトなどのエステル基含有酸無水物を挙げることができ、特に好ましくは、芳香族多価カルボン酸無水物を挙げることができる。また、市販のカルボン酸無水物からなるエポキシ樹脂硬化剤も好適に用いることができる。
【0089】
また、本発明に用いられる多価カルボン酸の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸などの脂肪族多価カルボン酸;ヘキサヒドロフタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸などの脂肪族多価カルボン酸、およびフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などの芳香族多価カルボン酸を挙げることができ、好ましくは芳香族多価カルボン酸を挙げることができる。
【0090】
硬化剤を用いる場合には、バインダー成分の合計100質量部に対して、硬化剤を通常は0.05〜30.0質量部の割合で配合する。
【0091】
溶剤
バインダー成分として液状のモノマー及び/又はオリゴマーを比較的多量に用いる場合には、当該モノマー及び/又はオリゴマーが塗工液に調製するための液状媒体としても機能し得るので、溶剤を用いなくてもコーティング組成物の固形成分を溶解、分散、又は希釈して塗工液の状態に調製できる場合がある。従って、本発明において溶剤は必ずしも必要ではないが、固形成分を溶解分散し、濃度を調整して、塗工適性に優れた塗工液を調製するために溶剤を使用する場合が多い。
【0092】
本発明で使用する低屈折率組成物の固形成分を溶解分散するために用いる溶剤は特に制限されず、種々の有機溶剤、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;或いはこれらの混合物を用いることができる。
【0093】
好ましくは、ケトン系の有機溶剤を用いるのがよい。その理由は、本発明で使用する低屈折率組成物をケトン系溶剤を用いて調製すると、基材表面に容易に薄く均一に塗布することができ、且つ、塗工後において溶剤の蒸発速度が適度で乾燥むらを起こし難いので、均一な薄さの大面積塗膜を容易に得ることができるからである。
【0094】
ケトン系溶剤としては、1種のケトンからなる単独溶剤、2種以上のケトンからなる混合溶剤、及び、1種又は2種以上のケトンと共に他の溶剤を含有しケトン溶剤としての性質を失っていないものを用いることができる。好ましくは、溶剤の70質量%以上、特に80質量%以上を1種又は2種以上のケトンで占められているケトン系溶剤が用いられる。
【0095】
また、溶剤の量は、各成分を均一に溶解、分散することができ、調製後の保存時に凝集を来たさず、且つ、塗工時に希薄すぎない濃度となるように適宜調節する。この条件が満たされる範囲内で溶剤の使用量を少なくして高濃度のコーティングのための低屈折率組成物を調製し、容量をとらない状態で保存し、使用時に必要分を取り出して塗工作業に適した濃度に希釈するのが好ましい。固形分と溶剤の合計量を100質量部とした時に、全固形分0.5〜50質量部に対して、溶剤を50〜95.5質量部、さらに好ましくは、全固形分10〜30質量部に対して、溶剤を70〜90質量部の割合で用いることにより、特に分散安定性に優れ、長期保存に適した低屈折率組成物が得られる。
【0096】
コーティングのための低屈折率組成物の調製
上記各成分を用いて本発明で使用するコーティングのための低屈折率組成物を調製するには、塗工液の一般的な調製法に従って分散処理すればよい。例えば、各必須成分及び各所望成分を任意の順序で混合し、得られた混合物にビーズ等の媒体を投入し、ペイントシェーカーやビーズミル等で適切に分散処理することにより、コーティングのための低屈折率組成物が得られる。
【0097】
塗膜の形成
本発明で使用する低屈折率組成物を用いて塗膜を形成するには、(A)(B)(C)、(D)成分、及び必要に応じてその他の成分からなる低屈折率組成物を含有する塗工液を被塗工体の表面に塗布し乾燥し、電離放射線、及び/又は加熱により硬化させ、(A)成分及び(B)成分を主体として含有する皮膜の硬化物とする。
【0098】
本発明で使用する低屈折率組成物の塗布法には、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の各種方法で基材等の支持体上に塗布することができる。
【0099】
低屈折率組成物を塗布する支持体は特に制限されない。好ましい基材としては、例えば、ガラス板;トリアセテートセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、アクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリエステル;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテル;トリメチルペンテン;ポリエーテルケトン;(メタ)アクリロニトリル等の各種樹脂で形成したフィルム等を例示することができる。基材の厚さは、通常30μm〜200μm程度であり、好ましくは50μm〜200μmである。
【0100】
前記低屈折率組成物の塗工液を基材等の被塗工体の表面に直接、或いはハードコート層や光透過性の防眩層等の他の層を介して塗布し、乾燥させることによって、熱硬化性を有する極性基の作用により被塗工体表面に対する密着性に優れた塗膜が得られる。
【0101】
反射防止積層体
次に、本発明の反射防止積層体の具体例について説明する。本発明の反射防止積層体は、光透過性を有する基材の少なくとも一面側に、直接、或いは他の層を介して、光透過性を有し且つ互いに屈折率の異なる層(光透過層)を一層以上積層してなる、単層型又は多層型反射防止膜のうちの少なくとも一層を低屈折率層としたものである。該反射防止積層体は、反射防止フィルムとして用いることができる。なお、本発明においては、多層型反射防止膜の中で最も屈折率の高い層を高屈折率層と称し、最も屈折率の低い層を低屈折率層と称し、それ以外の中間的な屈折率を有する層を中屈折率層と称する。基材及び光透過層は、反射防止フィルムの材料として使用できる程度の光透過性を有する必要があり、できるだけ透明に近いものが好ましい。
【0102】
本発明において得られる反射防止積層体において、前記他の層として、反射防止積層体に耐擦傷性、強度等のハード性能を与える目的でハードコート層を設けても良い。或いは、反射防止積層体に防眩性を与える目的で、他の層として、防眩層を設けても良い。
【0103】
画像表示装置
本発明の反射防止積層体は、特に、液晶表示装置(LCD)や陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示装置の表示面を被覆する多層型反射防止膜の少なくとも一層、特に低屈折率層を形成するのに好適に用いられる。
【0104】
図1は、本発明の反射防止積層体を光透過層として含んだ多層型反射防止膜により表示面を被覆した液晶表示装置の一例の断面を模式的に示したものである。液晶表示装置101は、表示面側のガラス基板1の一面にRGBの画素部2(2R、2G、2B)とブラックマトリックス層3を形成してなるカラーフィルター4を準備し、当該カラーフィルターの画素部2上に透明電極層5を設け、バックライト側のガラス基板6の一面に透明電極層7を設け、バックライト側のガラス基板6とカラーフィルター4とを、透明電極層5、7同士が向き合うようにして所定のギャップを空けて対向させ、周囲をシール材8で接着し、ギャップに液晶Lを封入し、背面側のガラス基板6の外面に配向膜9を形成し、表示面側のガラス基板1の外面に本発明の反射防止積層体を積層した偏光フィルム10を貼り付け、後方にバックライトユニット11を配置したものである。
【0105】
図2は、表示面側のガラス基板1の外面に貼り付けた偏光フィルム10の断面を模式的に示したものである。表示面側の偏光フィルム10は、ポリビニルアルコール(PVA)等からなる偏光素子12の両面をトリアセチルセルロース(TAC)等からなる保護フィルム(光透過性を有する基材フィルム)13、14で被覆し、その裏面側に接着剤層15を設け、その鑑賞側にハードコート層16と多層型反射防止膜17を順次形成したものであり、接着剤層15を介して表示面側のガラス基板1に貼着されている。
【0106】
ここで、液晶表示装置等のように内部から射出する光を拡散させて眩しさを低減させるために、ハードコート層16は、当該ハードコート層16の表面を凹凸形状に形成したり或いは当該ハードコート層16の内部に無機や有機のフィラーを分散させてハードコート層16内部で光を散乱させる機能を持たせた防眩層(アンチグレア層)としてもよい。また、ハードコート層16は二層以上で構成しても良く、前記ハードコート層16を適宜組合せて用いることができる。
【0107】
多層型反射防止膜17の部分は、バックライト側から鑑賞側に向かって中屈折率層18、高屈折率層19、低屈折率層20が順次積層された3層構造を有している。多層型反射防止膜17は、高屈折率層19又は中屈折率層18と低屈折率層20が順次積層された2層構造であってもよい。なお、ハードコート層16の表面が凹凸形状に形成される場合には、その上に形成される多層型反射防止膜17も図示のように凹凸形状となる。
【0108】
低屈折率層20は、高屈折率層19の上に低屈折率層形成用コーティング組成物を塗布し、乾燥し、光硬化させて形成した塗膜であり、屈折率を1.45以下、好ましくは1.41以下とすることができ、1.20程度まで下げることが可能である。また、中屈折率層18及び高屈折率層19は、化学蒸着法(CVD)や物理蒸着法(PVD)などの蒸着法により形成した酸化チタンや酸化ジルコニウムのような屈折率の高い無機酸化物の蒸着膜としたり、或いは、酸化チタンのような屈折率の高い無機酸化物微粒子を分散させた塗膜とすることができ、中屈折率層18には屈折率1.46〜1.80の範囲の光透過層、高屈折率層19には屈折率1.65以上の光透過層が使用される。
【0109】
さらに、帯電防止性あるいは静電性を付与する必要がある場合には、導電層を基材フィルム上に設けてもよく、またハードコート層16中に導電性粒子を含有させてもよく、さらにまた、中屈折率層18や高屈折率層19に分散させる屈折率の高い無機酸化物微粒子自体に導電性を有するものを用いることによっても同様の性状を得ることができる。さらに所望の屈折率が得られる範囲であれば、有機成分からなる帯電防止剤を低屈折率層20に直接加えたり、低屈折率層20の最表面に帯電防止層を反射防止膜の性能に影響を与えない膜厚30nm以下の範囲で設けることでも同様の性状を得ることができる。
【0110】
図3は、透明基材フィルム21上に高屈折率層22を形成し、さらにこの上に低屈折率層23を形成した反射防止フィルムの一例の断面を模式的に示したものである。
【0111】
この反射防止膜の作用により、外部光源から照射された光の反射率が低減するので、景色や蛍光燈の映り込みが少なくなり、表示の視認性が向上する。また、外光がディスプレイ表面に映り込んだり、眩しく光ったりする状態であるのを、ハードコート層16の凹凸による光散乱効果によって外光の反射光が軽減し、表示の視認性がさらに向上する。
【0112】
液晶表示装置101の場合には、偏光素子12と保護フィルム13、14からなる積層体に屈折率を1.46〜1.80の範囲で調節した中屈折率層18と屈折率を1.65以上に調節した高屈折率層19を形成し、さらに本発明に使用する低屈折率組成物を塗布して低屈折率層20を設けることができる。そして、反射防止膜17を含む偏光フィルム10を接着剤層15を介して鑑賞側のガラス基板1上に貼着することができる。
【0113】
これに対し、CRTの表示面には配向板を貼着しないので、本発明の反射防止積層体を直接設ける必要がある。しかしながら、CRTの表示面にコーティング組成物を塗布するのは煩雑な作業である。このような場合には、本発明の反射防止積層体を含んでいる反射防止フィルムを作製し、それを表示面に貼着すれば反射防止膜が形成されるので、表示面に本発明に使用する低屈折率組成物を塗布しなくて済む。
【0114】
以下に本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0115】
下記の実施例1及び2、及び比較例1〜3 における、反射率測定、耐擦過性の評価、スチールウール試験について、以下のとおりに行った。
【0116】
反射率測定
島津製作所(株)製分光光度計(UV−3100PC:商品名)を用いて絶対反射率を測定した。なお、低屈折率層の膜厚は、反射率の極小値が波長550nm付近になるように設定した。
【0117】
耐擦過性の評価
爪スクラッチ試験
耐爪スクラッチ性の評価は、得られた資料の表面を爪で擦り、シリカ薄膜が基材(ハードコート層)から剥離するかを目視により確認した。剥離したものを×、表面に傷が確認されたが剥離しなかったものを△、傷がまったく認められなかったものを○とした。
【0118】
スチールウール試験
#0000のスチールウール用い、荷重200gで5往復ならびに20往復した時の傷の畝を目視により確認した。剥離したものを×、表面に傷が確認されたが剥離しなかったものを△、傷がまったく認められなかったものを○とした。これらの評価結果を以下の表1に示す。
〔実施例1〕
【0119】
フッ素原子含有樹脂の調製
下記の式9で表される1,1,2−トリフルオロアリルオキシモノマーの水酸基を有する重合体に対して、反応性基の付与として、a−Fアクリロイル基と反応させて得た下記の式10で表される化合物を調製した。得られた化合物は分子量150,000であり、水酸基の割合は15:85であった。
【0120】
【化8】

【0121】
【化9】

【0122】
低屈折率層形成用コーティング組成物の調製
下記組成の成分を混合して低屈折率層形成用コーティング組成物を調製した。
【0123】
中空シリカゾル(20%メチルイソブチルケトン溶液) 13.71質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA) 0.91質量部
上記工程で得られたフッ素原子含有樹脂 0.91質量部
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 0.92質量部
光重合開始剤(イルガキュア907:商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製)
0.05質量部
光重合開始剤(イルガキュア184:商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製)
0.02質量部
EFKA3239(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.23質量部
メチルイソブチルケトン 84.17質量部
【0124】
ハードコート層の形成
下記成分を混合してハードコート層形成用コーティング組成物を調製し、えられたハードコート層形成用コーティング組成物を透明基材上にバーコーティングし、乾燥により溶剤を除去した後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株)製、光源Hバルブ)を用いて、照射線量108mJ/cm2 で紫外線照射を行い、ハードコート層を硬化させて、膜厚2〜5μmの基材/ハードコートフィルムを得た。
【0125】
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 5質量部
光重合開始剤(イルガキュア184:商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製)
0.25質量部
メチルイソブチルケトン 94.75質量部
【0126】
低屈折率層の形成
厚み80μmのトリアセテートセルロース(TAC)フィルム上に、上記組成のハードコート層形成用組成物をバーコーティングし、乾燥により溶剤を除去した後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株)製、光源Hパルプ)を用いて、照射線量100mJ/cm2 で紫外線照射を行い、ハードコート層を硬化させて、膜厚約5μmのハードコート層を有する、基材/ハードコート層からなる積層フィルムを得た。
【0127】
得られた基材/ハードコート層からなる積層フィルム上に、上記工程で得た低屈折率層形成用コーティング組成物をバーコーティングし、乾燥させることにより溶剤を除去した後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株)製、光源Hパルプ)を用いて、照射線量200mJ/cm2 で紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて、基材/ハードコート層/低屈折率層からなる積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについての最低反射率、ヘイズ値、耐爪スクラッチ性、耐スチールウール性の試験結果を下記の表1に示す。
〔実施例2〕
【0128】
シリケート化合物の調製
ポリメトキシシロキサン(MS−51:商品名、三菱化学(株)製、平均分子量500〜700)10.0gにγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.5g、0.01規定塩酸0.3gを添加し、室温で5時間撹拌することで、ポリメトキシシロキサンのメトキシ基の一部にアクリロイル基が導入されたシリケートオリゴマーが得られた。
【0129】
低屈折率層形成用コーティング組成物の調製
下記の組成の成分を混合して低屈折率層形成用コーティング組成物を調製した。
【0130】
中空シリカゾル(20%メチルイソブチルケトン溶液) 13.71質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA) 0.91質量部
前記実施例1の上記工程で得られたフッ素含有樹脂 0.91質量部
本実施例2の上記工程で得られたシリケートオリゴマー 0.92質量部
イルガキュア907(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製)0.05質量部
イルガキュア184(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製)0.02質量部
EFKA3239(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.23質量部
メチルイソブチルケトン 84.17質量部
【0131】
ハードコート層の形成
前記実施例1と同様にしてトリアセテートセルロース(TAC)フィルム上にハードコート層を形成した。
【0132】
低屈折率層の形成
前記工程で得られた基材/ハードコートからなる積層フィルム上に、前記で調製した低屈折率層用コーティング組成物を塗布し、基材/ハードコート層/低屈折率層からなる積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについての最低反射率、ヘイズ値、耐爪スクラッチ性、耐スチールウール性の試験結果を下記の表1に示す。
【0133】
〔比較例1〕
前記実施例1において中空シリカ微粒子を用いない以外は全て前記実施例1と同様にしてハードコート層、及び低屈折率層を形成し、比較例1の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについての最低反射率、ヘイズ値、耐爪スクラッチ性、耐スチールウール性の試験結果を下記の表1に示す。
【0134】
〔比較例2〕
前記実施例1において、中空シリカ微粒子の20%メチルイソブチルケトン溶液の代わりに、粒子径約30nmのコロイダルシリカ(MEK−ST:商品名、日産化学工業(株)製、屈折率1.45、固形分30%メチルエチルケトン溶液)を9.14質量部加えた以外は全て前記実施例1と同様の手法で低屈折率層を形成することにより、基材/ハードコート層/低屈折率層からなる積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについての最低反射率、ヘイズ値、耐爪スクラッチ性、耐スチールウール性の試験結果を下記の表1に示す。
【0135】
〔比較例3〕
前記実施例1においてシリケート化合物(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を用いない以外は全て前記実施例1と同様にしてハードコート層、及び低屈折率層を形成し、比較例1の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについての最低反射率、ヘイズ値、耐爪スクラッチ性、耐スチールウール性の試験結果を下記の表1に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
本実施例1、2及び比較例1〜3において用いた基材であるTACフィルム自体の反射率は4%程度であった。表1によれば、本実施例1、2の反射率は、全て1%程度以下であり、反射防止膜として、使用できる程度の低屈折率を有し、透明性が高く、耐爪スクラッチ性、耐スチールウール性が優れているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の反射防止積層体は、液晶ディスプレイ(LCD)や陰極環表示装置(CRT)等の画像表示装置に適用可能な、屈折率が低く且つ高度が高い含フッ素低屈折率組成物をコーティングしてなる低屈折率層を形成した反射防止フィルム等の反射防止積層体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の低屈折率層を光透過層として含んだ多層型反射防止膜により表示面を被覆した液晶表示装置の一例の断面を模式的に示した図である。
【図2】表示面側のガラス基板の外面に貼り付けた偏光フィルムの断面を模式的に示した図である。
【図3】本発明の塗膜を含んだ反射防止フィルムの一例の断面を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0140】
1,6 ガラス基板
2 画素部
3 ブラックマトリックス層
4 カラーフィルター
5,7 透明電極層
8 シール材
9 配向膜
10 偏光フィルム
11 バックライトユニット
12 偏光素子
13,14 保護フィルム
15 接着剤層
16 ハードコート層
17 多層型反射防止膜
18 中屈折率層
19 高屈折率層
20 低屈折率層
21 透明基材フィルム
22 高屈折率層
23 低屈折率層
101 液晶表示装置
102 反射防止フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材の少なくとも一面側に直接、或いは他の層を介して内部、及び/又は表面にナノポーラス構造を有する低屈折率組成物をコーティングしてなる低屈折率層が形成された反射防止積層体であって、
前記ナノポーラス構造を有する低屈折率組成物が、少なくとも、
(A)分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物、
(B)下記一般式1及び/又は一般式2で表されるシリケート化合物
【化1】

(R1 は炭素数1〜10のアルキル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、アミド基、スルホニル基、水酸基又はカルボキシル基、R1 ’は炭素数1〜10のアルキル基を表し、m+nは4の整数である。)
【化2】

(R2 は炭素数1〜10のアルキル基、R2 ’、及びR2 ’’は同一でも異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、アミド基、スルホニル基、水酸基又はカルボキシル基を表し、lは2〜50の整数である。)、
(C)1分子中に3個以上の官能基を有する電離放射線で硬化するモノマー、及び、
(D)塗工液に調製するための液状媒体中に分散させることが可能で且つ平均粒子径5nm〜300nmの微粒子、
を含有することを特徴とする反射防止積層体。
【請求項2】
前記ナノポーラス構造が、平均粒子径5nm〜300nmの微粒子が集合体を形成した結果生じる、平均孔径が0.01nm〜100nmの空気を含有する独立した、及び/又は連続した孔であることを特徴とする請求項1の反射防止積層体。
【請求項3】
前記ナノポーラス構造が、平均粒子径5nm〜300nmの微粒子自身の平均孔径0.01nm〜100nmの空気を含有する孔を有することにより形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射防止積層体。
【請求項4】
前記平均孔径0.01nm〜100nmの空気を含有する孔を有する微粒子の屈折率が1.20〜1.45である請求項3に記載の反射防止積層体。
【請求項5】
前記分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物は熱で硬化可能である請求項1乃至4の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項6】
前記分子中にフッ素原子を含む電離放射線硬化型樹脂組成物に含まれる官能基の少なくとも一部が水酸基であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項7】
前記1分子中に3個以上の官能基を有する電離放射線で硬化するモノマーは熱で硬化可能である請求項1乃至6の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項8】
前記熱で硬化可能である1分子中に3個以上の電離放射線で硬化する官能基を有するモノマーに含まれる官能基の少なくとも一部が水酸基であることを特徴とする請求項7に記載の反射防止積層体。
【請求項9】
前記シリケート化合物の屈折率が1.53以下である請求項1乃至8の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項10】
前記平均粒子径5nm〜300nmの微粒子の添加量が前記(A)、(B)及び(C)からなるバインダー成分100重量部に対し、1〜400重量部の範囲であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項11】
前記低屈折率層が、前記(A)、(B)及び(C)からなるバインダー成分、および前記微粒子の何れに対しても相溶性を有する、フッ素系および/またはケイ素系化合物を含んでなる、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項12】
前記フッ素系および/またはケイ素系化合物の少なくとも一部が、前記バインダー成分と、化学反応により共有結合を形成してなる、請求項11に記載の反射防止積層体。
【請求項13】
前記フッ素系化合物が、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロアルキルエーテル基、およびパーフルオロアルケニル基の少なくとも1つを有する化合物、ならびにそれらの化合物の混合物からなる群から選択されるものである、請求項11または12に記載の反射防止積層体。
【請求項14】
前記フッ素系および/またはケイ素系化合物が、下記一般式6、
【化3】

(式中、Raは炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rbは非置換、もしくはアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロアルキルエーテル基、または(メタ) アクリロイル基で置換された炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、またはポリエーテル変性基を示し、各Ra、Rbは互いに同一でも異なっていても良い。また、mは0〜200、nは0〜200の整数である。)
で表される化合物からなる、請求項11または12に記載の反射防止積層体。
【請求項15】
前記フッ素系および/またはケイ素系化合物が、下記一般式4、
Rcn SiX4-n 式4
(ここで、Rcは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロアルキルエーテル基を含む炭素数3〜1000の炭化水素基を示し、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、オキシアルコキシ基、ハロゲン基を示し、nは1〜3の整数を示す)
で表される化合物からなる、請求項11または12に記載の反射防止積層体。
【請求項16】
前記フッ素系および/またはケイ素系化合物が、前記(A)、(B)及び(C)からなるバインダー成分、および前記微粒子との総重量に対して0.01〜10重量%含まれてなる、請求項11乃至15の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項17】
前記低屈折率層の屈折率が1.45以下である、請求項1乃至16の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項18】
前記他の層がハードコート層であることを特徴とする請求項1乃至16の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項19】
前記ハードコート層の屈折率が1.57〜1.70の範囲である、請求項18に記載の反射防止積層体。
【請求項20】
前記ハードコート層が、防眩性能を有してなる、請求項18又は19に記載の反射防止積層体。
【請求項21】
前記低屈折率層の基材側と反対の側の面に、防汚層が設けられてなる、請求項1乃至20のいずれか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項22】
前記ハードコート層と前記低屈折率層との間に、屈折率が1.46〜2.00の範囲で、かつ膜厚が0.05〜0.15μmの範囲である中乃至高屈折率層が、少なくとも一層以上設けられてなる、請求項18乃至21の何れか1 項に記載の反射防止積層体。
【請求項23】
前記ハードコート層、前記中乃至高屈折率層、及び前記低屈折率層からなる群から選択される少なくとも一層が、帯電防止性能を有する、請求項18乃至22の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項24】
前記基材と前記ハードコート層との間に、帯電防止層が設けられてなる、請求項18乃至23の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項25】
前記低屈折率層の膜厚が、0.05〜0.15μmの範囲である、請求項1乃至24の何れか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項26】
前記低屈折率層の表面を、#0000番のスチールウールを用いて10回擦ったときの、該低屈折率層のヘイズ値の変化が認められる最低荷重量が、200g以上である、請求項1乃至25の何れか1項に記載の反射防止積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−103071(P2006−103071A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290837(P2004−290837)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】