説明

反射防止膜の製造方法

【課題】大面積化が容易な、光透過性及び基材密着性の高い反射防止膜を提供する。
【解決手段】基材上に、厚み方向において該基材に最も遠い側から該基材に最も近い側に向かって可視光領域の屈折率が1.0から2.5の範囲で連続的に大きくなる屈折率傾斜膜を有し、可視光領域の透過率が70%以上の反射防止膜の製造方法であって、
屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料をインクジェット法により前記基材上に吐出し、空隙を有する前記屈折率傾斜膜を形成する、反射防止膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット方式の技術を用いて、製造適性に優れ、大面積化が容易な、光透過性及び密着性の高い屈折率傾斜膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜は、例えば、画像表示装置やサイン媒体などにおいて、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するためにディスプレイや表示面の表面に配置される。
反射防止膜は、一般的に、基材上に低屈折率層を有し、光学干渉により反射率を低減させるものであるが、更に基材と低屈折率層の間に高屈折率層を有するものや、基材と低屈折率層の間に表面凹凸による防眩効果を期待した防眩層を有するものなど、様々なものが知られている。
例えば、特許文献1には、より高い反射防止性能を得るために、基材上に屈折率の異なる層を膜厚方向で屈折率が段階的に変化するように3層以上積層した屈折率傾斜多層薄膜や更に該層中に空隙を有するものが記載されている。
特許文献2には、基材上に防眩層、高屈折率層、及び低屈折率層をこの順で有する3層構造の防眩性反射防止膜を、インクジェット法により製造できることが記載されている。
また、特許文献3には、インクジェット法により微細凹凸構造を有する防眩層を形成し、その上に、有機材料からなる中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層をこの順に積層した反射防止膜や、無機材料からなる高屈折率層、低屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の4層をこの順に積層した反射防止膜を有する防眩性反射防止膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−52345号公報
【特許文献2】特開2009−139465号公報
【特許文献3】特開2004−279491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の屈折率傾斜多層薄膜は、屈折率の異なる層をそれぞれスピンコート法で塗工して成膜することで作成されており、屈折率の変化をより連続的に近づけようとすると非常に多くの層を設けなければならないため、生産性に劣るとともに、ディスプレイや表示面の大面積化に対応するのが困難である。
特許文献2及び3に記載の防眩層を含む防眩性反射防止膜では、乱反射による光の透過性が低下し、表示物が見えにくくなるという問題が避けられない。引用文献2には、屈折率の異なる2層をインクジェット法に形成することができると記載されているが、これを実現するには非常に精密な層形成技術が必要であり、特許文献2に開示された技術では実用化が難しく、大面積化に対応することは更に困難である。特許文献3に記載の反射防止膜を屈折率の異なる層を積層して光学干渉により反射率を低減するもので、非常に精密な層形成技術が要求される。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、生産性に優れ、大面積化にも対応できる、光透過性、反射防止性、及び密着性に優れる屈折率傾斜膜を有する反射防止膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、下記手段によって達成された。
【0007】
[1]
基材上に、厚み方向において該基材に最も遠い側から該基材に最も近い側に向かって可視光領域の屈折率が1.0から2.5の範囲で連続的に大きくなる屈折率傾斜膜を有し、可視光領域の透過率が70%以上の反射防止膜の製造方法であって、
屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料をインクジェット法により前記基材上に吐出し、空隙を有する屈折率傾斜膜を形成する、反射防止膜の製造方法。
[2]
前記無機材料と、ゾルゲル反応する化合物と、溶媒を含むインクを用い、該インクを基材上に吐出した後、ゾルゲル反応により前記空隙を有する前記屈折率傾斜膜を形成する、上記[1]記載の反射防止膜の製造方法。
[3]
前記屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料として、少なくとも、第1の無機材料と該第1の無機材料より高い屈折率の第2の無機材料を用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1の無機材料を含む第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第2の無機材料を含む第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される前記第1のインクの吐出量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される前記第2のインクの吐出量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記屈折率傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のインクの吐出量の比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの吐出量の比率が小さくなるように前記比率を決定する、上記[1]又は[2]に記載の反射防止膜の製造方法。
[4]
前記形成工程において、前記第1のインクの吐出量と第2のインクの吐出量のうち前記比率が大きい方のインクを先に吐出させる、上記[3]に記載の反射防止膜の製造方法。
[5]
前記形成工程において、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドのうち一方のヘッドから吐出させたインクの着弾位置に、他方のヘッドから吐出させたインクが重なって着弾するようにインクを吐出させる、上記[3]又は[4]に記載の反射防止膜の製造方法。
[6]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴量を0.3〜100pLとする、上記[3]〜[5]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
[7]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径を1〜300μmとする、上記[3]〜[6]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
[8]
前記形成工程において、前記第1のインクと第2のインクのうち前記比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくする、上記[6]又は[7]に記載の反射防止膜の製造方法。
[9]
前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLである、上記[8]に記載の反射防止膜の製造方法。
[10]
前記屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料として、少なくとも、第1の無機材料と該第1の無機材料より高い屈折率の第2の無機材料を用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1の無機材料を含む第1のインクと前記第2の無機材料を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記屈折率傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、上記[1]又は[2]に記載の反射防止膜の製造方法。
[11]
前記形成工程において、前記インクジェットヘッドから吐出するインク的の液滴量を0.5〜150pLとする、上記[10]に記載の反射防止膜の製造方法。
[12]
前記形成工程において、前記インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径を2〜450μmとする、上記[10]又は[11]に記載の反射防止膜の製造方法。
[13]
前記複数層の、任意の隣り合う2つの層の屈折率差が0.5以下である、上記[3]〜[12]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
[14]
前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有する、上記[3]〜[13]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
[15]
前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有する、上記[3]〜[9]及び[14]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
[16]
前記インクが、前記溶媒として、沸点が60℃以上200℃以下の溶媒を含む、上記[2]〜[15]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
[17]
前記無機材料が、無機微粒子である、上記[1]〜[16]のいずれか一つに記載の反射防止膜の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生産性に優れ、大面積化にも対応できる、光透過性、反射防止性、及び密着性に優れる屈折率傾斜膜を有する反射防止膜を製造する方法を提供することができる。また、本発明では必要な部分にのみ屈折率傾斜膜が形成可能である反射防止膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】屈折率傾斜膜を備える反射防止膜の模式図
【図2】屈折率傾斜膜を備える反射防止膜の模式図
【図3】屈折率傾斜膜作製装置の全体構成図
【図4】屈折率傾斜膜作製装置の描画部の概略図
【図5】描画混合法による屈折率傾斜膜形成を説明するための図
【図6】描画混合法の他の実施形態を説明するための図
【図7】インク混合法の実施形態に係る屈折率傾斜膜作製装置の全体構成図
【図8】インク混合法による屈折率傾斜膜形成を説明するための図
【図9】描画混合法における各機能性インクの着弾位置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、可視光領域の屈折率は、波長590nmでの屈折率で代表させることができる。
【0011】
本発明は、基材上に、厚み方向において該基材に最も遠い側から該基材に最も近い側に向かって可視光領域の屈折率が1.0から2.5の範囲で連続的に大きくなる屈折率傾斜膜を有し可視光全域の透過率が70%以上の反射防止膜の製造方法であって、屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料をインクジェット法により前記基材上に吐出し、空隙を有する屈折率傾斜膜を形成する、反射防止膜の製造方法に関する。
【0012】
[反射防止膜(屈折率傾斜膜)]
図1に、本発明に係る方法で形成される反射防止膜の一例を模式的に示す。
本発明に係る反射防止膜1は、基材2上に屈折率傾斜膜3を有する。屈折率傾斜膜3は、その厚み方向において基材2に最も遠い側Aから基材2に最も近い側Bに向かって(即ち、図1中の矢印の方向に)、可視光領域の屈折率が1.0から2.5の範囲で連続的に大きくなっている。この屈折率の変化は、1.0から2.5の範囲で変化していれば特に限定されないが、良好な反射防止機能を得る上で、好ましくは1.0〜2.2の範囲であり、また、屈折率傾斜膜3内での屈折率の最大値(B側での屈折率)と最小値(A側での屈折率)との差は、0.5〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.0であることがより好ましい。
ここで、「屈折率が連続的に変化する」とは、屈折率傾斜膜の厚み方向において厚み10〜500nmの領域毎に区切った場合に、隣接する領域間の屈折率差が0.5以下、好ましくは0.3以下であることを意味する。屈折率の差が0.5より大きくなると、屈折率が段階的となってしまい、高い反射防止効果を得ることができない。各領域の屈折率は、各領域の塗布液を3〜5μmの厚みになるようにガラス板に塗布し、多波長アッベ屈折計DR−M2(アタゴ(株)製)にて測定することができる。なお、ある2つの隣接する領域間の屈折率差が0であってもよい。
【0013】
屈折率傾斜膜3の構成は、上記の屈折率の連続的変化があれば、特に限定されないが、図2に示すような屈折率の異なる複数の層が積層した構成を好ましい例として挙げられる。
図2に示す反射防止膜1aは、基材2上に屈折率傾斜膜3を有し、該屈折率傾斜膜3は、屈折率の異なる複数の層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5を有する。層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5は、基材2に最も遠いA側の層3−5から基材2に最も近いB側の層3−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、可視光領域の屈折率が1.0から2.5の範囲で連続的に大きくなっている。
良好な反射防止機能を得る上で、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5のうち、隣り合う2層の屈折率差は0.5以下であり、好ましくは0.3以下である。また、基材2に最も遠いA側の層3−5の屈折率は1.0〜1.7であることが好ましく、1.0〜1.5であることがより好ましい。基材2に最も近いB側の層3−1の屈折率は1.5〜2.5であることが好ましく、1.7〜2.5であることがより好ましい。
図2では、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5の5層を積層して屈折率傾斜膜3を形成しているが、積層する層の数は特に限定されない。好ましくは4〜10層であり、より好ましくは5〜10層である。また、各層の厚みは10nm〜5000nmが好ましく、20nm〜4000nmがより好ましい。各層の厚みは実質的に等しい(厚みの誤差が±10nmの範囲)ことが好ましい。
なお、層間の界面が明確でない場合には、屈折率傾斜膜3の厚み方向において厚み10nm〜500nmで区切った領域を「層」とみなしてもよい。
各層の屈折率は、各層と同組成の層を3〜5μmの厚みになるようにガラス板に形成し、多波長アッベ屈折計DR−M2(アタゴ(株)製)にて測定することができる。
【0014】
(光透過率)
屈折率傾斜膜は、可視光全域(400〜700nm)の透過率が70%以上であることが好ましい。透過率が70%未満になると、表示物の視認性が悪くなる。視認性の観点から、可視光全域での透過率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
また、本発明における反射防止膜の可視光全域(400〜700nm)の透過率は70%以上である。透過率が70%未満になると、表示物の視認性が悪くなる。視認性の観点から、可視光全域での透過率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0015】
(膜厚)
本発明における屈折率傾斜膜の膜厚は、10nm以上が好ましく、10nm〜5000nmがより好ましく、20nm〜4000nmが更に好ましい。この範囲であれば、可視光に対して良好は反射防止性能を得ることができる。また、この範囲は、適応物の性能、商品価値を損なわないという観点からも好ましい範囲である。
【0016】
本発明では、屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料を含むインクをインクジェット法により基材上に吐出して屈折率傾斜膜を形成する。
以下、無機材料を含むインクについて説明する。
【0017】
(インク組成物)
本発明では、無機材料を含むインク(インク組成物)として、低屈折率無機材料と高屈折率無機材料とはそれぞれを別個に含む2種以上のインクを用いてもよいし、低屈折率無機材料と高屈折率無機材料の両方を含むインクを用いてもよい。
該インクは、上記無機材料を含み、屈折率傾斜膜中に空隙を形成できるものであれば特に限定されないが、好ましいインクの態様としては、無機材料と、ゾルゲル反応する化合物と、溶媒とを含むインクが挙げられる。該インクは、ゾルゲル反応により空隙を容易に形成することができる。
【0018】
(無機材料)
無機材料はその態様は特に限定されないが、屈折率の調整や光透過性の点から、無機微粒子であることが好ましい。
【0019】
−低屈折率無機材料−
屈折率が異なる無機材料のうち、屈折率の低い無機材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化バリウム(BaF)及びそれらの混合物を用いることができる。これら低屈折率無機材料の屈折率は1.0〜2.0が好ましく、1.0〜1.7がより好ましい。
インク中の低屈折率無機材料の含有量は、全固形分中、30〜100質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましい。低屈折率無機材料を無機微粒子としてインクに用いる場合、該粒子の粒径は、光透過性やインクジェット適性の点から、100nm以下であることが好ましく、10nm〜90nmであることがより好ましく、10nm〜70nmであることが更に好ましい。
【0020】
−高屈折率無機材料−
屈折率が異なる無機材料のうち、屈折率の高い無機材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素(SiO)及びそれらの混合物を用いることができる。これら高屈折率無機材料の屈折率は1.8〜2.5が好ましく、2.0〜2.5がより好ましい。
インク中の高屈折率無機材料の含有量は、全固形分中、30〜100質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましい。
高屈折率無機材料を無機微粒子としてインクに用いる場合、該粒子の粒径は、光透過性やインクジェット適性の点から、100nm以下であることが好ましく、10nm〜90nmであることがより好ましく、10nm〜70nmであることが更に好ましい。
【0021】
(ゾルゲル反応する化合物)
ゾルゲル反応する化合物としては、加水分解可能な官能基を含有する有機金属化合物が挙げられる。有機金属化合物としては、Si、Ti、Zr、Al等からなる化合物が挙げられる。加水分解可能な官能基な基としては、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、水酸基が挙げられ、特に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が好ましい。
上記ゾルゲル反応する有機金属化合物としては、金属アルコキシドが好ましく、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、などが挙げられる。
インク中のゾルゲル反応する化合物の含有量は、全固形分中、5〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0022】
上記の有機金属化合物を硬化させるための加水分解・縮合反応(ゾルゲル反応)は、触媒存在下で行われることが好ましい。触媒としては、酸類、塩基類、金属アルコキシド類、β−ジケトン類或いはβ−ケトエステル類の金属キレート化合物類等が挙げられる。具体的には、例えば特開2000−275403号公報中の段落番号[0071]〜[0083]記載の化合物等が挙げられる。
これらの触媒化合物のインク中での割合は、有機金属化合物に対し、0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜50質量%、更に好ましくは0.5〜10質量%である。反応条件は有機金属化合物の反応性により適宜調節されることが好ましい。
【0023】
(溶媒)
溶媒としては、水、有機溶媒から適宜選択して用いることができる。ゾルゲル反応により、屈折率傾斜膜内に適切な空隙を形成する上で、水と、水と共沸する特性を有する有機溶媒とを併用することが好ましい。
水と共沸する有機溶媒としては、好ましくは60℃以上200℃以下の沸点を有するもものが好ましい。該沸点としては、より好ましくは70℃以上180℃以下であり、更に好ましくは75℃以上160℃以下である。ゾルゲル反応は水の存在により進行するので、共沸する有機溶媒の量によりその進行度を調整することが好ましい。沸点が上記範囲にある有機溶媒は、水に対して適度な蒸発速度となるので、ゾルゲル反応の急速な進行による膜のひび割れや、反応の遅れによる性能劣化を防止することができる。
水と有機溶媒との比率(質量比)は、80:20〜15:85が好ましく、70:30〜20:80がより好ましい。
【0024】
水と共沸する有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、クレゾール等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)が挙げられる。
これらの溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましい溶媒としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。
【0025】
溶媒は、インク中の固形分濃度が1〜50質量%となる割合で用いることが好ましい。更には、5〜20質量%が好ましい。この範囲において、分散が容易に進行し、得られるインクは作業性良好な粘度の範囲となる。
【0026】
(ゾルゲル反応の条件)
本発明においては、ゾルゲル反応により屈折率傾斜膜中に空隙を形成することが好ましい。
ゾルゲル反応による空隙形成のためには、用いる溶媒の1atmにおける沸点が、膜形成時の乾燥させやすさとインクジェットノズル表面での乾き防止との両立という観点から、50〜200℃であることが好ましく、60〜200℃であることがより好ましく、70〜180℃であることが更に好ましく、80〜150℃であることが特に好ましい。すなわち、ゾルゲル反応の温度条件は溶媒の揮発に伴う空隙形成が可能な範囲であることが好ましく、該温度条件は用いる溶媒の1atmにおける沸点〜沸点+50℃であることが好ましく、沸点〜沸点+40℃であることがより好ましく、沸点〜沸点+30℃であることが更に好ましい。加えて、上記ゾルゲル反応温度にてタイミングよく同時にゾルゲル反応と用いる溶媒の揮発が起こることが望ましく、ゾルゲル反応の制御が必要である。
このような条件でゾルゲル反応を行うことで、屈折率傾斜膜中に空隙を容易に形成することができる。
【0027】
本発明で形成する空隙は、その形状は特に限定されず、平均サイズが好ましくは5nm〜100nm、より好ましくは10nm〜80nmである。また、屈折率傾斜膜中での空隙率は、5%〜80%が好ましく、10%〜70%がより好ましい。空隙の平均サイズ及び膜中での空隙率は、クライオ電子顕微鏡による屈折率傾斜膜の断面SEM観察により測定することができる。
空隙を形成することで屈折率の調整(低屈折率化)が行い易く、良好な反射防止機能を有する屈折率傾斜膜を形成することができる。
また、図2に示すように多層を積層して屈折率傾斜膜を形成する場合には、各層の空隙率は同じでも異なっていてもよく、上層ほど空隙率が大きく、見かけの屈折率が小さくなることが好ましい。
空隙率は、ゾルゲル反応をする化合物の種類、含有量、溶媒の種類、水と有機溶媒との比率により調節することができる。
【0028】
本発明に係るインクの別態様としては、無機材料と、層形成後にバインダーと、溶媒とを含むものが挙げられる。
上記ゾルゲル反応する化合物として挙げた有機金属化合物は、バインダー成分としても用いることができる。それ以外にも、アクリル系、エポキシ系、酢酸ビニル系、シリコーン系、ポリウレタン系などの化合物が挙げられる。
インク中のバインダー成分の含有量は、全固形分中、10〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
溶媒としては、前述のものを用いることができる。
【0029】
(添加剤)
本発明に係るインクには、上記無機材料の他、表面張力調整剤、防汚剤、耐水性付与剤、耐薬品性付与剤等の他の添加剤を含むことができる。
本発明に係るインクをゾルゲル硬化型組成物として用いる場合には、前述の有機金属化合物とともに、ゾルゲル反応触媒や反応制御剤を用いることができる。
反応触媒としては、酸、塩基いずれも用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸類;シュウ酸、酢酸、ギ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸類が挙げられる。塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基類;トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類等が挙げられる。
反応制御剤としては、アセチルアセトン、アセト酢酸デシル、アセト酢酸ドデシル、2,4−ヘキサデカンジオン、3,5−トリデカンジオン、4,6−オクタデカンジオン、2,4−ヘキサンジオン、(1,3−ジオキソブチリル)ベンゼン、(1,3−ジオキソペンチル)ベンゼン、(1,3−ジオキソヘキシル)ベンゼン、1−(1,3−ジオキソブチリル)2−メチルベンゼン、アセト酢酸オクチルエステル、アセト酢酸アイコシルエステル、アセト酢酸フェニルエステル、3−オキソヘキサン酸オクチルエステル、3−オキソヘキサン酸デシルエステル等が挙げられる。
【0030】
(インク物性)
本発明に係るインクの粘度は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、5〜40cPが好ましく、5〜30cPがより好ましく、8〜20cPが更に好ましい。
また、インクの表面張力は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、10〜40mN/mが好ましく、15〜35mN/mがより好ましく、20〜30mN/mが更に好ましい。
【0031】
(基材)
次に、本発明の製造方法により作成される反射防止膜を構成する基材について説明する。
本発明における基材としては、透明な支持体であることが好ましく、透明基材フィルムがより好ましい。透明基材フィルムとしては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスなど、特に限定は無い。透明樹脂フィルムとしては、セルロースアシレートフィルム(例えば、セルローストリアセテートフィルム(屈折率1.48)、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルムポリオレフィン、脂環式構造を有するポリマー(ノルボルネン系樹脂(アートン:商品名、JSR社製、非晶質ポリオレフィン(ゼオネックス:商品名、日本ゼオン社製))、などが挙げられる。このうちトリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、脂環式構造を有するポリマーが好ましく、特にトリアセチルセルロースが好ましい。
透明支持体の厚さは通常25μm〜1000μm程度のものを用いることができるが、好ましくは25μm〜250μmであり、30μm〜90μmであることがより好ましい。
透明支持体の幅は任意のものを使うことができるが、ハンドリング、得率、生産性の点から通常は100〜5000mmのものが用いられ、800〜3000mmであることが好ましく、1000〜2000mmであることが更に好ましい。透明支持体はロール形態の長尺で取り扱うことができ、通常100m〜5000m、好ましくは500m〜3000mのものである。
透明支持体の表面は平滑であることが好ましく、平均粗さRaの値が1μm以下であることが好ましく、0.0001〜0.5μmであることが好ましく、0.001〜0.1μmであることが更に好ましい。
透明支持体については、特開2009−98658号公報の段落[0163]〜[0169]に記載されており、本発明においても同様である。
【0032】
(接着層)
本発明に係る反射防止膜は、屈折率傾斜膜と透明支持体の接着性向上のために、接着コーティング剤を用いた接着層を設けてもよい
コーティング剤に用いられる材料としては、多くの場合、樹脂材料である基材と無機材料である反射防止層を接着させる必要があるため有機/無機ハイブリッド材料を用いることが好ましい。その有機成分としては、基材に用いられる樹脂に類似の材料が適用でき、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリル等が挙げられる。好ましくは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリルである。また、無機成分としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等が挙げられ、好ましくは、シリカ、アルミナであり、使用形態としては、コロイダル化されたナノサイズの状態でハイブリッド化し用いることが望ましい。
【0033】
(インクジェット法による屈折率傾斜膜の作成)
以下、本発明のインクジェット法による屈折率傾斜膜の作成について説明する。
本発明においては、屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料をインクジェット法により基材上に吐出する。
【0034】
インクジェット法としては、インクジェットプリンターにより画像記録を行う方法であれば、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等に用いられる。
インクの液滴の制御は主にプリントヘッドにより行われる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、プリントヘッドの構造で打滴量を制御することが可能である。すなわち、インク室、加熱部、ノズルの大きさを変えることにより、所望のサイズで打滴することができる。またサーマルインクジェット方式であっても、加熱部やノズルの大きさが異なる複数のプリントヘッドを持たせることで、複数サイズの打滴を実現することも可能である。ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式の場合、サーマルインクジェット方式と同様にプリントヘッドの構造上打滴量を変えることも可能であるが、ピエゾ素子を駆動する駆動信号の波形を制御することによっても、同じ構造のプリントヘッドで複数のサイズの打滴を行うことができる。
【0035】
インクの基材上への吐出方法(描画方法)としては、低屈折無機材料を含有する低屈折率インク、高屈折無機材料を含有する高屈折率インクを別々のインクジェットヘッドに供給し、両者の吐出量の比率を調節しながら、同時に吐出させて基材上で混合させる描画混合法が挙げられる。また、それとは別の方法としては、予め低屈折率インクと高屈折率インクとを混合させた混合インクで両者の比率が異なるものを複数種類調製したものをインクジェットヘッドに供給し、ヘッドを順番に選択して、低屈折率インクと高屈折率インクとの比率が異なる混合インクを順次吐出させて描画する混合インク法が挙げられる。
【0036】
(インクの調製)
後述する描画混合法に用いられる低屈折率インク、高屈折率インクの調製について説明する。
前記インクは、各材料を混合することで調製することができる。各材料を混合する際には攪拌機により攪拌してもよい。攪拌時間は特に限定されないが、通常30分〜60分であり、30分〜40分が好ましい。また混合する際の温度は、通常10℃〜40℃であり、20℃〜35℃が好ましい。
後述するインク混合法においては、上述のように調製したインクを混合して用いることができる。
【0037】
〜描画混合法〜
本発明の製造方法においては、少なくとも第1の無機材料と該第1の無機材料より高い屈折率の第2の無機材料を用い、複数のインクジェットヘッドから基材にインクを吐出することにより、基材に最も遠い側から最も近い側に向かって屈折率が連続的に大きくなっている屈折率傾斜膜を製造する方法であって、
前記第1の無機材料を含む第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第2の無機材料を含む第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される前記第1のインクの吐出量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される前記第2のインクの吐出量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記屈折率傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のインクの吐出量の比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの吐出量の比率が小さくなるように前記比率を決定することを特徴とする描画法が好ましい。
【0038】
上記描画法によれば、第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの吐出量と第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの吐出量との比率を決定し、決定された比率にしたがってインクを吐出させて1つの層を形成する工程を繰り返して基材上に複数の層を積層し、この複数の層が上層にいくほど前記第1のインクの吐出量の比率が大きい層であって前記第2のインクの吐出量の比率が小さい層となるようにすることで、インクジェット方式の技術を用いて屈折率傾斜膜を製造することができる。
【0039】
〜描画混合法による実施形態〜
図3は、描画混合法に係る屈折率傾斜膜作製装置100の全体構成図であり、図4は、屈折率傾斜膜作製装置100の描画部10の概略図である。これらの図に示すように、屈折率傾斜膜作製装置100は、描画部10を含んで構成され、描画部10は、フラットベッドタイプのインクジェット描画装置が用いられている。詳細には、描画部10は、基材である透明支持体が載置されるステージ30、ステージ30に載置された透明支持体を吸着保持するための吸着チャンバー40、透明支持体20に向けて各インクを吐出するインクジェットヘッド50Ln(以下、インクジェットヘッド1)及びインクジェットヘッド50Hn(以下、インクジェットヘッド2)を含み構成されている。
【0040】
ステージ30は、透明支持体20の直径よりも広い幅寸法を有しており、図示しない移動機構により水平方向に自在に移動可能に構成されている。移動機構としては、例えばラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構等を用いることができる。ステージ制御部43(図4では不図示)は、移動機構を制御することにより、ステージ30を所望の位置に移動させることができる。
【0041】
また、ステージ30の透明支持体保持面には多数の吸引穴31が形成されている。ステージ30下面には吸着チャンバー40が設けられており、この吸着チャンバー40がポンプ41(図4では不図示)で真空吸引されることによって、ステージ30上の透明支持体20が吸着保持される。また、ステージ30はヒータ42(図4では不図示)を備え、ヒータ42によりステージ30に吸着保持された透明支持体20を加熱することが可能である。
【0042】
インクジェットヘッド1及び2は、インクタンク60Ln(以下、インクタンク1)及びインクタンク60Hn(以下、インクタンク2)から供給されるインクを透明支持体20の所望の位置に対して吐出するものであり、ここではピエゾ方式のアクチュエータを持つヘッドを用いている。インクジェットヘッド1と2とは、図示しない固定手段により、それぞれができるだけ近づけて配置されて固定されている。
【0043】
インクタンク1及び2からインクジェットヘッド1及び2に供給されるインクを、それぞれインク1、インク2とする。本発明においては、インク1を低屈折率無機材料を含有するインク、インク2を高屈折率無機材料を含有するインクとする。
【0044】
〔描画混合法による屈折率傾斜膜の作成〕
このように構成された反射防止膜作製装置100を用いた屈折率傾斜膜の作成について、図5を用いて説明する。
【0045】
まず、窒素雰囲気中に置かれた描画部10のステージ30上に、透明支持体20を載置する。透明支持体20は、裏面がステージ30に接するように載置される。そして、吸着チャンバー40により、透明支持体20のステージ30への吸着及び加熱を行う。ここでは、透明支持体20を70℃に加熱することが好ましい。
【0046】
次に、吸着・加熱された透明支持体20上に、インクジェットヘッド2から供給されるインク(インク2)を1層若しくは数層分積層して24−1を形成する。このインク2の積層は、図5(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド2によりインク2を吐出する。ここでは、インクジェットヘッド1からはインクの吐出を行わない。
【0047】
このように形成したインク2の層24−1を、インク2中の溶媒成分を完全には蒸発しない程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させることが好ましい。具体的には、通常に乾燥させるとき(全乾燥・全硬化)に与えるエネルギーよりも少ないエネルギーで乾燥を行う。半乾燥・半硬化状態では、インク2に含まれる無機材料が隙間をもって積み重なっている状態となる。
なお、本明細書において、「半乾燥」及び「全乾燥」には、本発明に係るインクとしてゾルゲル硬化型組成物など硬化型組成物を用いた場合の「半硬化」及び「全硬化」の意も含むものとする。
本発明においては、上記のとおり、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0048】
次に、半乾燥状態となったインク2の層24−1の上に、インク1とインク2との混合層24−2を形成する。この混合層24−2の形成は、図5(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1によりインク1を吐出し、同時にインクジェットヘッド2によりインク2を吐出して行う。このとき、インク1の吐出量とインク2の吐出量を、所望の比率に調整する。ここでは、インク2の吐出量が75%、インク1の吐出量が25%となるように、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を調整して吐出している。なお、本明細書におけるインクの「吐出量」とは、各層を形成するために吐出されるインクの全量を意味する。一方、後述する、インクジェットヘッドより吐出されるインク滴の「液滴量」は1つのインク液滴の量である。
【0049】
なお、インクジェットヘッド1及び2からのインクの吐出量の比率の調整は、描画のドットピッチ密度によって調整してもよい。例えば、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を一定としたまま、インクを吐出するノズルの数をインクジェットヘッド1と2とを75:25となるように制御することにより、吐出量の比率の調整を行うことも可能である。
【0050】
インク吐出後、図5(c)に示すように、それぞれの吐出量で吐出されたインク1とインク2とを拡散混合することにより、混合層24−2が積層される。インク1の層24−1は半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−2のインクの溶媒はインク1の層24−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。即ち、ヒータ42による加熱温度は、インクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。溶媒の種類によっては、前述した70℃より低い温度、例えば基板の温度を50℃程度にして描画してもよい。
すなわち、前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有することが好ましい。拡散混合させる方法としては、加熱による対流を利用する方法や超音波を利用する方法などが挙げられる。
【0051】
また、2つのインクジェットヘッドはできるだけ近づけて配置されており、一方のインクだけが乾燥して両インクの層内での混合が不十分になることが防止されている。なお、2つのインクを同時に吐出する際、インクジェットヘッド1から吐出されるインク1の液滴とインクジェットヘッド2から吐出されるインク2の液滴とを、飛翔中に空中で衝突させ、混合させてから着弾するようにしてもよい。
【0052】
更に、詳細は後述するが、2つのインクジェットヘッドはそれぞれの幅を対象基材の幅(短い方)よりも大きく構成し、1回の走査で1つの層を形成することが好ましい。これにより、インク1とインク2とが混ざりやすくなる。
【0053】
また、インクの混合を促進するために、ステージ30を制御して基材である透明支持体20を超音波処理してもよい。このとき、超音波による節が発生しにくくなるように、超音波の周波数をスイープさせたり、透明支持体20の位置を変更しながら行うことが好ましい。
【0054】
このように形成した混合層24−2を、インク2の層24−1と同様に半乾燥状態にすると、混合層24−2は量の比率が25:75で、インク2に含まれる無機材料とインク1に含まれる無機材料とが混合して隙間をもって積み重なっている状態となる。
【0055】
次に、混合層24−2の上に混合層24−3を形成する。この混合層24−3の形成についても、図5(d)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにより同時にインクを吐出する。ここでは、インク1、インク2をともに50%の吐出量の比率で吐出している。
【0056】
混合層24−2についても半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−3のインクの溶媒は、混合層24−2に受容される。インク吐出後、図5(e)に示すように、2つのインクを拡散混合することにより、混合層24−3が積層される。
【0057】
更に、混合層24−3についてもインク2の層24−1と同様に半乾燥させる。混合層24−3は量の比率が50:50で、インク2に含まれる無機材料とインク1に含まれる無機材料とが混合して隙間をもって積み重なっている状態となる。
【0058】
このように、インク1とインク2の吐出量の比率を段階的に(傾斜するように)変更しながら各混合層を形成し、最後にインク1の吐出量が100%の層を形成する。
【0059】
全ての層の形成終了後、各層の拡散が進み、段階的に形成した層が連続的となる。その結果、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる屈折率傾斜膜3が形成される。
【0060】
このように、下の層を半乾燥状態として上の層を形成することにより、その上下の層において、拡散がある程度進むようにしておく。このとき、上下の層の界面が無くなり、完全に混合して上下層の区別が無くなるような状態とはならないようにすることが好ましい。
【0061】
なお、各層の形成が終わったあとに、屈折率傾斜膜の機能していない領域にダミーパターンを積層し、レーザを用いた光学式変位センサ等によりダミーパターンの高さを測定してもよい。乾燥が進んでおらず、溶媒が残っている状態では、膜厚が高くなることから、ダミーパターンの高さにより乾燥状態を検出することができる。
【0062】
以上説明したように、インクジェットヘッドを用いて屈折率傾斜膜を形成することができる。また、本実施形態の描画混合法によれば、形成する層の数にかかわらず、インクの種類とインクジェットヘッドの個数が少なくて済むという利点がある。インク1とインク2との混合層は、それぞれのインクの混合比率が段階的に傾斜されるように形成されれば、何層積層してもよい。
【0063】
また、各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は膜厚制御及び細線形成性の観点から、0.3〜100pLとすることが好ましく、0.5〜80pLがより好ましく、0.7〜70pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は膜厚制御及び細線形成性の観点から、1〜300μmとすることが好ましく、5〜250μmがより好ましく、10〜200μmが更に好ましい。
更に、各層の形成工程において、第1のインクと第2のインクのうち吐出量の比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくすることが好ましい。例えば、前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLであることが好ましい。これにより、拡散混合する時間を短くしたり、混合の均一性を向上することができる。
なお、インク滴の「液滴径」とは、液滴直径の長さを意味し、インクジェット吐出時の飛翔状態写真から測定することができる。
【0064】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにおいて同時にインクを吐出して各層を形成したが、順に吐出してもよい。
【0065】
例えば、混合層24−2を形成する場合に、図6(a)に示すように、まずインクジェットヘッド2によりインク2層24−1の上の全面にインク2を吐出する。次に、図6(b)に示すように、インクジェットヘッド1によりインク1を全面に吐出する。その後、図6(c)に示すように、それぞれのインクを拡散混合することで、同様に混合層24−2を形成することができる。
【0066】
このように、それぞれのインクを順に吐出して1つの層を形成する場合であって、2つのインクの吐出量に差がある場合、即ち2つのインクの吐出量の比率が50%ずつでない場合は、吐出量の多い方のインクを先に吐出するように構成してもよい。特に、先に吐出するインクの乾燥が激しい場合等は、量が少ないほど乾燥が早まるため、多い方のインクを先に吐出することが好ましい。これにより、2種類のインクの混合をスムーズに進ませることができる。
【0067】
更にこの場合、後から吐出することになる吐出量の少ない方のインクについては、小さい液滴(液適量が少ない又は液滴径が小さい)によってドットピッチ密度を高くして吐出してもよい。これにより、拡散混合する時間を短くすることができる。
【0068】
また、先に吐出したインクを着弾させた位置に、後から吐出するインクを重ねて着弾させるようにしてもよい。特に間歇打ちを行ってドットとドットが離れている場合に、同じ位置に乾燥させる前に着弾させると、それぞれのインクの混合がしやすくなる。
【0069】
例えば、混合層24−2を形成する際に、1回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2を間歇打ちにより吐出したとする。図9(a)は、インク1層24−1上に着弾したインク2(24−2−Hn−1)を示す。
【0070】
次に、2回目の走査でインクジェットヘッド1によりインク1を間歇打ちにより吐出する。このとき、インクジェットヘッド1は、図9(b)に示すように、吐出されたインク1(24−2−Ln−1)が、1回目の走査で着弾されているインク2(24−2−Hn−1)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0071】
更に、3回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2が間歇打ちされる。図9(c)は、インク2(24−2−Hn−1)の間に着弾されたインク2(24−2−Hn−2)を示す。
【0072】
その後、4回目の走査では、インクジェットヘッド1により、インク1がインク2(24−2−Hn−2)と同じ着弾位置に重ねて着弾されるように吐出される。図9(d)に示すように、吐出されたインク1(24−2−Ln−2)が、2回目の走査で着弾されているインク2(24−2−Hn−2)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0073】
以後同様に、インク1の層24−1の全面にインクを吐出し、その後拡散混合させる。このように吐出することにより、混合層24−2を形成する際の拡散混合の時間を短縮することができる。
【0074】
また、一方のインクの乾燥が速い場合は、そのインクを後から吐出するようにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態では、インク1とインク2の2つの純インクを用いて各混合層を形成したが、これらを混合したインクを併用してもよい。例えば、2つの純インクと、インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インクとの3種類のインクを同時に用いて混合層を形成することが考えられる。混合インクの分だけインクジェットヘッドの数が増加するが、混合インクは予め2つの純インクが十分混合されているため、インク吐出後の拡散混合に要する時間を短縮することができる。
【0076】
〜インク混合法〜
本発明の製造方法として、少なくとも第1の無機材料と該第1の無機材料より高い屈折率の第2の無機材料を用い、複数のインクジェットヘッドから基材にインクを吐出することにより、基材に最も遠い側から最も近い側に向かって屈折率が連続的に大きくなっている屈折率傾斜膜を製造する方法であって、前記第1の無機材料を含む第1のインクと前記第2の無機材料を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを複数のインクジェットヘッドのそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して基材上に複数の層を積層して積層体を得る積層工程とを備えたことを特徴とする方法を用いることもできる。
【0077】
上記方法によれば、第1のインクと第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクをそれぞれのインクジェットヘッドに供給し、第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に混合インクを吐出させて各層を形成し、基材上に複数の層を積層するようにしたので、インクジェット方式の技術を用いて屈折率傾斜膜を製造することができる。
【0078】
〜インク混合法による実施形態〜
【0079】
図7は、第2の実施形態に係る屈折率傾斜膜作製装置101の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る屈折率傾斜膜作製装置101は描画部11を備え、描画部11は、5種類のインクを貯蔵するインクタンク60−1〜60−5と、各インクタンクからインクが供給されるインクジェットヘッド50−1〜50−5を備えている。各インクジェットヘッド50−1〜50−5は、各インクタンク60−1〜60−5から供給されるインクを透明支持体20に対して吐出する。
【0080】
各インクタンク60−1〜60−5から各インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、インク1とインク2との混合比率がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25、100:0となっている。即ち、インクタンク60−1からはインク2の純インクが、インクタンク60−5からはインク1の純インクが、60−2〜60−4からはインク1とインク2とが所定の比率で混合された混合インクが供給される。
【0081】
〔インク混合法による屈折率傾斜膜の作成〕
描画混合法による実施形態と同様に、ステージ30上に透明支持体20を載置し、吸着及び加熱を行う。
【0082】
次に、吸着・過熱された透明支持体上に、インク2を1層若しくは数層分積層してインク2の層28−1を形成する。このインク2の積層は、図8(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド50−1により透明支持体に対してインクタンク60−1から供給されるインク(インク1とインク2との混合比率が0:100のインク)を吐出する。このとき、その他のインクジェットヘッド50−2〜50−5からはインクの吐出を行わない。
【0083】
したがって、このように形成されたインク2の層28−1は、図5に示すインク2の層24−1と同様の層となる。ここで、インク2中の溶媒が蒸発する程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させると、インク1に含まれる無機材料が隙間をもって積み重なっている状態となる。
インク混合法においても、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0084】
次に、インク2の層28−1の上に、インクジェットヘッド50−2によりインクタンク60−2から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が25:75の混合インク)を吐出して、混合層28−2を形成する。
【0085】
混合層28−2の形成は、図8(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド50−2により混合インクを吐出する。描画混合法による実施形態と同様に、インク2の層28−1が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−2のインクの溶媒がインク2の層28−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。したがって、加熱温度はインクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。
【0086】
この混合層28−2についても半乾燥させることで、混合層28−2は、インク1に含まれる無機材料及び、インク2に含まれる無機材料が隙間をもって積み重なっている状態となる。
【0087】
更に、混合層28−2の上に、インクジェットヘッド50−3(図8には不図示)によりインクタンク60−3から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インク)を吐出して、混合層28−3を形成する。
【0088】
混合層28−2が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−3のインクの溶媒は、混合層28−2に受容される。更に、混合層28−3についても半乾燥させる。
【0089】
このように、各混合インクをインク2の混合比率が多い順(インク1の混合比率が少ない順)に吐出して各混合層(28−2〜28−4)を積層し、最後にインクジェットヘッド50−5によりインクタンク60−5から供給されるインク1(インク1とインク2との混合比率が100:0のインク)を吐出して、インク1が100%の層28−5(インク1の層)を形成する(図8(c))。
【0090】
全ての層を形成終了後、図1に示すような組成成分比がインク2が100%からインク1が100%となる屈折率傾斜膜3が形成される。
【0091】
また、各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は安定吐出の観点から、0.5〜150pLとすることが好ましく、0.7〜130pLがより好ましく、1〜100pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は良好な膜形成性の観点から、2〜450μmとすることが好ましく、5〜350μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。
【0092】
以上説明したように、混合インクを用いて、屈折率傾斜膜を形成することができる。本実施形態のインク混合法によれば、インクの段階で充分に混合されているため、屈折率傾斜の変化の精度が高い屈折率傾斜膜を作成することができる。また、描画混合法による実施形態と比較すると、2種類の機能性インクを拡散混合する時間が不要となるため、プロセス時間が短くて済むという利点がある。
【0093】
本実施形態では、インク1とインク2との混合層を3層形成したが、層の数はこれに限定されるものではなく、それぞれのインクの混合比率が傾斜されるように積層できれば何層でもよい。なお、形成する層の数だけインクタンクとインクジェットヘッドを用意する必要がある。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。
【0095】
<実施例1>
(インクの作成)
〜低屈折率インクA1〜
[化合物1]フッ化マグネシウム(和光純薬(株)製、粒子径:20〜30nm) 9g
[化合物2]テトラメトキシシラン(和光純薬(株)製) 1g
アセチルアセトン(和光純薬(株)製) 5g
10%酢酸(和光純薬(株)製) 1g
[溶媒]n−ブタノール (和光純薬(株)製) 85g
イオン交換水 25g
【0096】
上記素材を300mLの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、30分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、低屈折率インクA1を作成した。
【0097】
〜高屈折率インクB1〜
[化合物3]酸化チタン「Titania sol TA15」(日産化学(株)製、粒子径:12nm) 9g
[化合物4]テトラメトキシシラン(和光純薬(株)製) 1g
アセチルアセトン(和光純薬(株)製) 5g
n−ブタノール(和光純薬(株)製) 85g
【0098】
上記素材を低屈折率インク作成と同様な方法にて、高屈折率インクB1を作成した。
【0099】
(接着層コーティング剤の調製)
スノーテックスO(日産化学(株)製、粒子径:10〜15nm) 20g
テトラメトキシシラン(和光純薬(株)製) 6g
ポリ(メチルメタクリレート)(SIGMA−ALDRICH製) 10g
アセチルアセトン(和光純薬(株)製) 10g
イソプロパノール(和光純薬(株)製) 14g
メチルエチルケトン(和光純薬(株)製) 40g
【0100】
上記素材を300mLの容器へ投入し、マグネチックスターラーにて1時間、室温条件で攪拌し、その後、2μmのフィルターにて濾過し、基材と上部反射防止層を接着させる接着層コーティング剤C1を調製した。
【0101】
(反射防止膜作成)
透明PET基材(膜厚100μm、富士フイルム製)上に塗布バーを用い、接着層C1を塗布し、100℃オーブン中で、5分間乾燥した。このように接着層C1を形成したPET基材の該接着層C1上に、低屈折率インクA1及び高屈折率インクB1を用いて、下記インクジェット描画法Aにより屈折率傾斜膜を作製した。得られた反射防止膜について下記方法で反射防止効果、膜の透明性、基材との密着性を評価した。
【0102】
〜インクジェット描画法A〜
インクタンク1、インクタンク2にインクA1、インクB1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれインクA1、インクB1である。
はじめにインクジェットヘッド2よりインクB1を、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からはインクA1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、80℃30秒間乾燥し、半乾燥させた。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、100:0(インク層5)と変化させて積層と半乾燥を繰り返し、最終的に100℃300秒間乾燥(全乾燥)させ、屈折率傾斜膜を作製した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させるインクA1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させるインクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層3形成時には、ンクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層4形成時には、インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、インクB1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。インク層5形成時には、インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。
得られた屈折率傾斜膜の膜厚は1000nmであり、十分な乾燥により基材側から空気側に向かって屈折率が2.0から1.1に傾斜していることを確認した。また、クライオ電子顕微鏡による屈折率傾斜膜の断面SEM観察により、膜中に空隙があることを確認した。
【0103】
(反射防止膜の評価)
<反射防止効果>
黒色コート紙(ライオン事務器製)上に重ね、各種光源を有す画像評価用テープル上で、蛍光灯の映り込みを下記基準にて目視評価した。
4 ・・・ 映り込みほぼなし
3 ・・・ 映り込みが少しあるが、画像認識上許容レベル
2 ・・・ 映り込みがあり、画像認識上許容できないレベル
1 ・・・ 映り込みがあり、画像認識できないレベル
【0104】
<透明性>
作製したフィルムの波長400〜700nmにおける可視光領域の透過率は、日本電色工業株式会社製色差・濁度測定器COI−300Aを用いて求めた。結果を下記基準にて表1に示す。
4 ・・・ 光透過率90%以上
3 ・・・ 光透過率90%未満、70%以上
2 ・・・ 光透過率70%未満、50%以上
1 ・・・ 光透過率50%未満
【0105】
<密着性>
作成した反射防止フィルムに対し、クロスハッチテスト(EN ISO2409)を実施した。評価基準については、ISO2409に準拠し、結果は0〜5点の点数評価で示した。
【0106】
<実施例2〜11>
実施例2〜11は、実施例1で用いたインクA1、B1の化合物1、化合物3及び溶媒を、表1に記載のものに置き換える以外は実施例1と同様な方法で、低屈折率インクA2〜A8及び高屈折率インクB2〜B4を調製し、これらを用いて実施例1と同様な方法で、反射防止膜を作製した。得られた反射防止膜について実施例1と同様な方法で反射防止効果、膜の透明性、基材との密着性を評価した。
【0107】
<実施例12>
実施例1と同様に、透明な100μmPET基材(富士フイルム製)上に接着層C1を設けた。
実施例1で用いたインクA1、B1を混合したインクG1[混合質量比 A1:B1=75:25]、G2[混合質量比 A1:B1=50:50]、G3[混合質量比 A1:B1=25:75]を調製し、A1、B1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、B1(最下層)⇒G3⇒G2⇒G1⇒A1(最上層)の順に、接着層C1上に、下記インクジェット描画法Bにより積層し、反射防止膜を作製した。得られた反射防止膜について実施例1と同様な方法で反射防止効果、膜の透明性、基材との密着性を評価した。
【0108】
〜インクジェット描画法B〜
インクタンク1〜5にインクA1、G1、G2、G3、B1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1〜5に供給されるインクは、それぞれインクA1、G1、G2、G3、B1である。
はじめに、インクジェットヘッド5よりインクB1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクB1層を、80℃30秒間乾燥し、半乾燥させた。
続いて、インクジェットヘッド4から同様にインクG3を吐出し、インクG3層を積層、乾燥させた。これを、インクG2、G1、A1についても繰り返し、積層と乾燥を繰り返し、最終的に100℃300秒間乾燥(全乾燥)硬化させ、屈折率傾斜膜を作成した。インクG3、G2、G1、A1を吐出する際のインク滴の液適量と液滴径はインクB1と同様にした。
得られた屈折率傾斜膜の膜厚は1000nmであり、十分な乾燥により基材側から空気側に向かって屈折率が2.0から1.1に傾斜していることを確認した。また、クライオ電子顕微鏡による屈折率傾斜膜の断面SEM観察により、膜中に空隙があることを確認した。
【0109】
<実施例13、14>
比較例13、14は、実施例1で用いたインクA1、B1の溶媒を、表1に記載のものに置き換える以外は実施例1と同様な方法で、低屈折率インクA9、A10及び高屈折率インクB1を調製し、これらを用いて実施例1と同様な方法で、反射防止膜を作製した。
【0110】
<比較例1>
実施例1で用いた低屈折率インクA1及び高屈折率インクB1を、あらかじめ混合した混合インクD1[混合質量比 A1:B1=50:50]を調製し、透明PET基材(膜厚100μm、富士フイルム製)上に接着層C1を設けずに、インクジェット法により屈折率傾斜のないインクD1からなる1層のみの膜を有する反射防止膜を作製した(膜厚は1000nm)。
すなわち、インクジェットヘッドからの吐出されるインクD1のインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、透明PET基材上に吐出させ、全乾燥させることで1層のみの膜を作製した。得られた膜を実施例1と同様に評価した。
【0111】
<比較例2>
実施例12で用いた低屈折率インクA1、混合インクG1〜G3及び高屈折率インクB1を、A1、G1〜G3、B1インク5種を、接着層C1を塗布した透明PET基材(膜厚100μm、富士フイルム製)上に、実施例12と同様の順序にて5層積層させた反射防止膜を作製した(膜厚は1000nm)。各層の塗布はバー塗布にて行い、下層を塗布可能なレベルまで十分乾燥した後(100℃300秒間乾燥)に行った。得られた膜を実施例1と同様に評価した。
【0112】
各実施例及び比較例にて用いたインクの無機材料及び得られた反射防止膜の評価結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
実施例1〜11は反射防止効果、膜の透明性、基材密着性が良好であり、インクジェット法A(描画混合法)により作成した傾斜機能構造を有す膜が反射防止膜形成に有効であることが示され、十分な機能を有す反射防止膜形成が可能である。
また、実施例12ではインクジェット法B(インク混合法)により作成した傾斜機能構造を有す膜においても同様に反射防止効果、膜の透明性、基材密着性が良好であり、本方法においても作成した傾斜機能構造を有す膜が反射防止膜形成に有効であることが分かる。
【0116】
一方、実施例13のように溶剤の沸点が低く、直ぐ蒸発する系であれば、残存する水により急速なゾルゲル反応が進行し、体積収縮によるひび割れが発生し、膜の反射防止効果、透明性、基材への密着性が低下することが分かる。また、実施例14のように溶剤の沸点が高く残存する系であれば、ゾルゲル反応の進行が遅く、不均一化に伴う反射防止効果、透明性、基材への密着性が低下することが分かる。
比較例1のように、屈折率傾斜膜ではなく、屈折率傾斜のない単一層とした場合、反射防止効果が得られず、低屈折率インクの表面エレルギーに起因すると考えられる基材密着性が悪化する。加えて、比較例2のように塗布作成した傾斜積層膜では、下層を十分硬化してからの塗布する必要があり、そこで生成する界面の影響で、反射防止効果が低減し、各層間での剥離による密着性低下が見られ、インクジェット法に比べ問題があることが分かる。
【符号の説明】
【0117】
1 反射防止膜
2 基材
3 屈折率傾斜膜
10 描画部
100 屈折率傾斜膜作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、厚み方向において該基材に最も遠い側から該基材に最も近い側に向かって可視光領域の屈折率が1.0から2.5の範囲で連続的に大きくなる屈折率傾斜膜を有し、可視光領域の透過率が70%以上の反射防止膜の製造方法であって、
屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料をインクジェット法により前記基材上に吐出し、空隙を有する屈折率傾斜膜を形成する、反射防止膜の製造方法。
【請求項2】
前記無機材料と、ゾルゲル反応する化合物と、溶媒を含むインクを用い、該インクを基材上に吐出した後、ゾルゲル反応により前記空隙を有する前記屈折率傾斜膜を形成する、請求項1記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項3】
前記屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料として、少なくとも、第1の無機材料と該第1の無機材料より高い屈折率の第2の無機材料を用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1の無機材料を含む第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第2の無機材料を含む第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される前記第1のインクの吐出量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される前記第2のインクの吐出量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記屈折率傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のインクの吐出量の比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの吐出量の比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項1又は2に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項4】
前記形成工程において、前記第1のインクの吐出量と第2のインクの吐出量のうち前記比率が大きい方のインクを先に吐出させる、請求項3に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項5】
前記形成工程において、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドのうち一方のヘッドから吐出させたインクの着弾位置に、他方のヘッドから吐出させたインクが重なって着弾するようにインクを吐出させる、請求項3又は4に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項6】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴量を0.3〜100pLとする、請求項3〜5のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項7】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径を1〜300μmとする、請求項3〜6のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項8】
前記形成工程において、前記第1のインクと第2のインクのうち前記比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくする、請求項6又は7に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項9】
前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLである、請求項8に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項10】
前記屈折率が異なる少なくとも2種の無機材料として、少なくとも、第1の無機材料と該第1の無機材料より高い屈折率の第2の無機材料を用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1の無機材料を含む第1のインクと前記第2の無機材料を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記屈折率傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、請求項1又は2に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項11】
前記形成工程において、前記インクジェットヘッドから吐出するインク的の液滴量を0.5〜150pLとする、請求項10に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項12】
前記形成工程において、前記インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径を2〜450μmとする、請求項10又は11に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項13】
前記複数層の、任意の隣り合う2つの層の屈折率差が0.5以下である、請求項3〜12のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項14】
前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有する、請求項3〜13のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項15】
前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有する、請求項3〜9及び14のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項16】
前記インクが、前記溶媒として、沸点が60℃以上200℃以下の溶媒を含む、請求項2〜15のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項17】
前記無機材料が、無機微粒子である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の反射防止膜の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−181292(P2012−181292A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43413(P2011−43413)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】