説明

反射防止膜付き光電変換装置の製造方法、及び、被膜形成用組成物の塗布特性診断方法

【課題】スプレー法を用いて希釈な被膜形成用組成物(固形分濃度が0.5%未満)を被膜形成面に大容量塗布する(30ml/m以上)場合において、被膜形成用組成物および被膜形成面であるガラス表面の状態を評価し、ムラのない被膜が形成できるのかを迅速簡便に判断する方法を提供する。
【解決手段】被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力をS(mN/m)、ガラス表面に対する純水の接触角をθ(°)とした場合に、0<θ≦10および0≦S≦−θ+45の不等式を満たす場合に、均一な被膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換装置の光入射面に被膜形成用組成物をスプレー塗布することにより被膜を形成する場合において、ムラ無き被膜を形成するための反射防止膜付き光電変換装置の製造方法、及び、被膜形成用組成物の塗布特性診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜は、表面反射を抑制する手段として種々の光デバイスに応用されている。特に、太陽電池の分野では出力向上のため、太陽電池の光入射面に反射防止加工を施すことはこれまで種々の試みがある。その中でも、ゾルゲル法は、製造コストが低廉であり、生産適合性に優れた反射防止膜の形成方法である。例えば特許文献1にはゾルゲル法により基板上にチタニア・シリカ膜を形成し、反射防止機能を発現させることが開示されている。その出発原料としてアモルファス型過酸化チタンおよびシリコンアルコキシドを出発原料として、金属含有アナターゼ形酸化チタン、ケイ素化合物、および熱分解性化合物を含む被膜形成用組成物を作製し、その被膜形成用組成物を用いて低反射性基板を作製できることが開示されている。
【0003】
ところで、被膜形成用組成物を基板に塗布することにより被膜を形成する場合には、被膜形成用組成物の物性のみならず、被膜が形成される基板の表面(以下では被膜形成面とする)のぬれやすさ等の表面物性により均一にムラ無く塗布できるかが左右される。特に、主たる溶媒が水の被膜形成用組成物の場合、表面の親水性が高い場合に均一にムラ無く被膜を形成することができる。表面の親水性を上げるためには表面を洗浄することが有効で、これまで種々の表面洗浄方法および表面処理方法ならびにそのための装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−212435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにこれまでからアモルファス型過酸化チタンおよびシリコンアルコキシドを出発原料として、チタニア・シリカを主成分とする被膜形成用組成物は知られていた。しかし、過酸化チタンは不安定な物質であるため、作製条件や作製後の保存条件、例えば温度などにより得られる被膜の物性が大きく異なる。また、シリカ成分であるシリコンアルコキシドの部分加水分解縮合物もまた保存条件により縮重合が進行する。また、被膜形成面の表面の濡れ性も前処理方法およびその後の大気暴露状態により時々刻々変化し、被膜の形成しやすさに影響が生ずる。特に、スプレー法を用いた被膜形成に際してはプロセス上の制約により、きわめて希釈な被膜形成用組成物(固形分濃度が0.5%未満)を被膜形成面に大量に塗布する(30ml/m以上)必要が生じるため、被膜形成用組成物および被膜形成面の状態により、膜ムラが大きくばらつく。
【0006】
実際、発明者は上記のチタニア・シリカを主成分とする被膜形成用組成物を用いた被膜形成を種々試みたが、被膜形成用組成物の調合および保存方法、ならびに、被膜形成面の前処理および前処理後の大気暴露状態により、時としてムラの多い膜が形成された。これは以下のような問題を生じさせる。すなわち、光電変換装置の光入射面に被膜を形成する場合においては、被膜形成後に被膜の外観を観察し、はじめてムラの有無が判断できるため、歩留まり率の低下および外観観察に伴うプロセスタイムの長時間化という問題が生ずる。そこで、スプレー法を用いて希釈な被膜形成用組成物(固形分濃度が0.5%未満)を被膜形成面に大容量塗布する(30ml/m以上)場合においても、被膜形成用組成物および被膜形成面の状態を評価し、ムラのない被膜が形成できるのかを迅速簡便に判断する方法が求められる。
【0007】
そこで、本発明では、スプレー法を用いて希釈な被膜形成用組成物(固形分濃度が0.5%未満)を被膜形成面に大容量塗布する(30ml/m以上)場合においても、被膜形成用組成物および被膜形成面の状態を評価し、ムラのない被膜が形成できるのかを迅速簡便に判断する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者はムラの有無に影響をあたえる被膜形成条件について、被膜形成組成液・被膜形成用組成物の表面張力と純水の被膜形成面に対する接触角との関係から鋭意検討した。まず、課題解決手段の記述に先立ち、本発明と従前の類似公知技術との差異について概説する。
【0009】
従前より被膜形成組成液や被膜形成用組成物の表面張力および被膜形成組成液・被膜形成用組成物の基体表面に対する接触角が塗布に与える影響に関してはプリンター等の転写技術の分野において種々の検討がされている。例えば、インクジェット技術におけるインクの表面張力に関しては、「インクの表面張力はノズルにおけるメニスカスの形成状況や、メディアにおける浸透性に影響を与える。目的に応じ、積極的に界面活性剤を使用して所望の範囲に表面張力を調整することが一般に行われる」(『インクジェット』 日本画像学会編 藤井雅彦監修 東京電気大学出版局 2008年9月 第1版 p112)。
【0010】
また、特開2003−41192号では、転写用被覆剤の基材表面に対する接触角および転写用被覆剤の表面張力に関して種々の検討を行った上で、諸条件のもとで、転写用被覆剤の静置状態における表面張力および転写用被覆剤の基材表面に対する接触角が特定の範囲にある場合に膜厚ムラやハジキの生じにくい転写用被覆剤となることが示されている。
【0011】
しかし、これらの公知の技術内容は、本発明とは技術思想が根本的に異なる。すなわち、転写技術分野での表面張力および接触角の評価は被転写体にたいするにじみをコントロールするためのものであるのに対し、本発明は本質的に液体の浸透が起こりえない光電変換装置表面に隙間なく均一に被膜形成用組成物を塗布するため、表面張力および接触角の評価検討を行い、発明に至ったものである。また、転写技術分野での転写用被覆剤は顔料等を含有したインクであり、被転写体に対して少なくとも20ml/m以上塗布することは想定されない一方で、本発明は、きわめて希釈な被膜形成用組成物(固形分濃度が0.5%未満)を大容量塗布する(30ml/m以上)場合における被膜形成を検討するに当たり想到しえたものでありまったく別の技術的視点に立ち到達したものである。
【0012】
本発明の第1は、チタン酸化物とケイ素酸化物と有機ケイ素系界面活性剤とを含む固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物を、ガラス基板を含む光電変換装置のガラス表面に30ml/m以上スプレー法にて塗布する工程を含む反射防止膜付き光電変換装置の製造方法であって、
該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力S(mN/m)と、前記ガラス表面に対する純水の接触角θ(°)とが、0<θ≦10、かつ、0≦S≦−θ+45、の関係を満たすことを確認する工程を経た後に、
前記スプレー法にて塗布する工程を備える、反射防止膜付き光電変換装置の製造方法、である。
【0013】
本発明の第2は、固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物をガラス基板を含む光電変換装置のガラス表面に30ml/m以上スプレー法にて均一に塗布することの可否を判断する指標として、該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力S(mN/m)と、前記ガRス表面に対する純水の接触角θ(°)とが、下記(A)および(B)の不等式を満たすか否かを確認する、前記被膜形成用組成物の塗布特性診断方法;
(A)0<θ≦10、
(B)0≦S≦−θ+45、である。
【0014】
本発明の第3は、前記被膜形成用組成物はアモルファス型過酸化チタンとケイ素酸化物と有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物である、前記の塗布特性診断方法、である。
【0015】
本発明の第4は、さらに下記不等式(A’)を満たすか否かを確認する、前記の塗布特性診断方法;
(A’)4<θ≦10、である。
【0016】
本発明の第5は、さらに下記不等式(B’)を満たすか否かを確認する、前記の塗布特性診断方法;
(B’)10≦S≦−θ+45、である。
【0017】
本発明の第6は、さらに下記不等式(A’)および(B’)を満たすか否かを確認する、前記の塗布特性診断方法;
(A’)4<θ≦10、
(B’)10≦S≦−θ+45、である。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる反射防止膜付き光電変換装置の製造方法により、被膜形成をする前に、被膜形成することなくムラの有無が判断できるため、歩留まり率の低下および外観観察に伴うプロセスタイムの長時間化という問題を回避することができる。
【0019】
本発明にかかる塗布特性診断方法を用いることにより、被膜形成をすることなくムラの有無が判断できるため、歩留まり率の低下および外観観察に伴うプロセスタイムの長時間化という問題を回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(診断方法)
本発明は被膜形成用組成物を光電変換装置表面(実際にはガラス表面側)に均一な被膜を形成することができるか否か判断する塗布特性診断方法である。光電変換装置にはその構成材料や構造により多くの種類があるが、いずれにも適用できる。とりわけ透光性基板上に形成された薄膜太陽電池であって、透光性基板面のうち薄膜太陽電池が形成されていない面から光が入射する構造(スーパーストレート構造)の薄膜太陽電池において有用である。被膜にはその組成により種々の機能が持たせることが可能である。たとえば、反射防止機能、帯電防止機能、波長変換機能、光触媒機能、防汚機能があげられる。反射防止機能の場合、被膜形成用組成物は透光性基板の屈折率より低い屈折率の膜を形成することができる。ここでの被膜とは物質被膜形成用組成物を光電変換装置表面に塗布し、乾燥焼成して得られる表面被膜をいう。
【0021】
ここで均一とは被膜を形成した表面をできるだけ網羅するように複数箇所、好ましくは10箇所以上での膜厚を測定した場合の、膜厚の標準偏差が膜厚の平均値の20%以内であることをいう。
【0022】
膜厚は通常用いられる膜厚測定法により求められる。例えば、分光エリプソメトリー、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面測定、段差計等が用いられる。特に分光エリプソメトリーは、迅速簡便に膜厚測定できることから、本発明の目的により適う膜厚測定法である。
【0023】
ここでの塗布特性診断とは、所与の被膜形成用組成物、所与の光電変換装置表面および所与の被膜形成装置を用いて被膜を形成した場合に光電変換装置表面に均一な被膜を形成することの可否ついていずれであるかの回答を与えるものである。
【0024】
(被膜形成する工程)
診断の対象である被膜形成する工程は、スプレー固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物を光電変換装置表面(実際にはガラス表面側)に30ml/m以上塗布する工程である。被膜形成用組成物の固形分濃度が0.5%以下に制限される理由は、本発明はスプレー法の制約により極めて低い固形分濃度の膜形成用組成液・被膜形成用組成物を使用する場合における塗布特性診断方法であるからである。また、光電変換装置表面(実際にはガラス表面側)に塗布される塗布量が30ml/m以上に制限される理由はスプレー法の制約により大容量の被膜形成用組成物を光電変換装置表面に塗布する場合における塗布特性診断方法であるからである。
【0025】
(被膜形成用組成物)
被膜形成用組成物はアモルファス型過酸化チタン、ケイ素酸化物および有機ケイ素系界面活性剤を少なくとも含む被膜形成用組成物が好適に用いられる。
【0026】
市販の過酸化チタン水溶液としては、サステイナブル・テクノロジー株式会社製の(1)アモルファス型過酸化チタン水溶液(SP)、(2)光酸化型正電荷酸化金属ドープアモルファス型過酸化チタン水溶液(SPZ高機能タイプ)、(3)アモルファス型改質過酸化チタン+糖質複合化水溶液(DaSH)が挙げられ、また株式会社アサカ理研製の(4)凛光が挙げられ、鶴見曹達株式会社製の(5)ツルクリーン(登録商標)グレードA−TS−1、(6)ツルクリーン(登録商標)グレードA−TS−2が挙げられ、株式会社鯤コーポレーション製の(7)PTA水溶液、が挙げられる。
アモルファス型過酸化チタンの製造方法としては以下の方法がある。
【0027】
(製造方法1)
溶解性無機チタン化合水溶液に、塩基性水溶液を加える。生じる淡青味白色、無定形のオルトチタンを洗浄・分離後、酸化剤で処理すると、本発明のアモルファス型過酸化チタン液が得られる。
【0028】
溶解性無機チタン化合としてはチタンキレート、アセテートチタン;硫酸チタン、
四塩化チタン等が挙げられる。また塩基性水溶液として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、テトラアルキルアンモニウム水酸化物等が挙げられる。溶解性無機チタン化合水溶液に、塩基性水溶液を加える反応は中和反応であり、大きな発熱を伴う。高温で反応が進んだ場合、オルトチタン酸からメタチタン酸への反応が進むためである。
【0029】
酸化剤としては、二酸化チタンを過酸化チタンに酸化することが可能なものであれば良いが、特に過酸化水素水が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は、30〜40%のものが反応促進のため好適である。ペルオキソ化前には水酸化チタンを冷却することが好ましい。なぜなら、ペルオキソ化反応は発熱反応であり、反応をマイルドに進行させる必要があるためである。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
【0030】
(製造方法2)
チタンアルコキシド、アルコール、水および触媒を適量混合し加水分解及び縮重合反応を行う。さらに、酸化剤を加えることによりアモルファス型過酸化チタン液が得られる。
【0031】
チタンアルコキシドとしてはテトラエトキシチタン、テトラメトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等が上げられる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が上げられる。酸化剤としては、二酸化チタンを過酸化チタンに酸化することが可能なものであれば良いが、特に過酸化水素水が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は、30〜40%のものが反応促進のため好適である。ペルオキソ化前には水酸化チタンを冷却することが好ましい。なぜなら、ペルオキソ化反応は発熱反応であり、反応をマイルドに進行させる必要があるためである。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
【0032】
酸化チタンの形状としては粒子状または粉末状、あるいはゾル状の形態で市販されているチタン酸化物を用いることができる。
【0033】
Tiのモル濃度は所望の反射防止特性および耐久性に応じて適時変更することができる。0.0001〜0.01mol/Lが好ましく、0.002〜0.008mol/Lがさらに好ましい。Ti量が少ない場合、表面親水化効果を奏さないためである。Ti量が多い場合、膜の屈折率が高くなり、反射防止膜としての機能を奏さないためである。
【0034】
ケイ素酸化物は、一般式SiR(OR‘)4−n(R’およびRは炭素数が1〜5のアルキル基、nは0〜3の自然数)であらわされるシリコンアルコキシドの加水分解物および/または部分加水分解物である。さらには酸触媒または塩基触媒等を用いて、縮合重合反応を進めた液を用いることも可能である。また、さらにシリカ微粒子を部分的に添加してもよい。シリカ微粒子の添加により膜強度が増加するためである。
【0035】
Siのモル濃度は所望の反射防止特性および耐久性に応じて適時変更することができる。0.001〜0.1mol/Lが好ましく、0.02〜0.05mol/Lがさらに好ましい。Si量が少ない場合、相対的にTiの量が多くなることにより、膜の屈折率が高くなり、反射防止膜としての機能を奏さないためである。また、Si量が多い場合、相対的にTiの量が少なくなることにより、表面親水化効果を奏さないためである。また、溶液が高濃度になり被膜形成時のハンドリングが困難になり、ムラのない膜を形成するのが困難なためでもある。
【0036】
有機ケイ素系界面活性剤としては、市販されている各種シリコーン系界面活性剤を適時用いることができる。具体的には、TSF4445、TSF4446(GE東芝シリコーン(株))、KPシリーズ(信越化学工業(株))、並びに、SH200、SH3746M、DC3PA、ST869A(東レ・ダウコーニング(株))等を用いることができる。シリコーンとしては、分子中にアルキルシリケート構造若しくはポリエーテル構造を有するもの、又は、アルキルシリケート構造及びポリエーテル構造の両方を有するものが好ましい。ここで、アルキルシリケート構造とは、シロキサン骨格のケイ素原子にアルキル基が結合した構造をさす。一方、ポリエーテル構造とは、エーテル結合を有する構造をさし、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド―ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリテトラメチレングリコール―ポリプロピレンオキサイド共重合体等の分子構造が挙げられる。そのなかでも、ポリエチレンオキサイド―ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体は、表面張力を制御できる観点から好適である。有機ケイ素化合物としては、分子中にアルキルシリケート構造及びポリエーテル構造の双方を有するシリコーンが特に好ましい。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のポリエーテル変性シリコーンが好適である。
【0037】
本発明の被膜形成用組成物はさらに銅、ジルコニウム、スズ、亜鉛、アンチモン、銀から選択される1または二以上の元素がドープされていることがさらに好ましい。これらの金属の添加により、防汚、防菌、帯電防止の機能が発現されるからである。
【0038】
これらの金属をドープする方法としては、上記のチタン酸化物およびケイ素酸化物の合成の際に金属酸化物または金属塩を添加することにより達成される。市販されている金属ドープのチタン酸化物としてはSPZシリーズ(サスティナブル・テクノロジー株式会社)が挙げられる。
【0039】
金属酸化物または金属塩としては以下のものがあげられる。銅:水酸化銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、酸化銅。ジルコニウム:水酸化ジルコニウム、二塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム。スズ:水酸化スズ、塩化スズ、硫酸スズ、硝酸スズ、酢酸スズ、酸化スズ。亜鉛:水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛。アンチモン::水酸化アンチモン、塩化アンチモン、硫酸アンチモン、硝酸アンチモン、酢酸アンチモン、酸化アンチモン。銀:水酸化銀、塩化銀、硫酸銀、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀。
【0040】
金属のドープは被膜形成用組成物の製造工程において適時行うことができるが、チタン酸化物の合成の際に行うことが好ましい。副生成物の除去が水洗浄により容易に行えるからである。
【0041】
金属をドープした具体的な製造方法の例としては以下のものがあげられる。
四塩化チタン化合水溶液に塩化銅、塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化銀のうち1または2以上を添加する。この液に、塩基性水溶液、例えばアンモニア水溶液を加える。生じる淡青味白色、無定形の水酸化チタンを洗浄・分離後、過酸化水素水で処理すると、本発明の金属ドープのアモルファス型過酸化チタン液が得られる。塩基性水溶液でアンモニアを用いた場合、副生成物は塩化アンモニウムであり水溶性である。そのため、水酸化チタンを洗浄する工程において塩化アンモニウムが溶解するので不純物の少ない金属ドープのアモルファス型過酸化チタンが得られる。
【0042】
Siのモル濃度/Tiのモル濃度の値は1〜30が好ましく、さらには5〜20が好ましい。Siのモル濃度/Tiのモル濃度の値が大きすぎると酸化チタンによる表面親水化効果が十分でなく、小さすぎると、膜の屈折率が高くなり、反射防止膜としての機能を奏さないためである。
【0043】
被膜形成用組成物の希釈媒体としては、純水のほか、各種アルコール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール)が好適に用いられる。また、これらの媒体を2種類以上混合した液体を用いてもよい。これらの媒体の中でも純水が好ましい。アルコール等の有機媒体は揮発しやすいために、スプレー法では大量の有機物の蒸気が発生し生産適合性に乏しいからである。
【0044】
被膜形成用組成物の表面張力は主として、界面活性剤の添加量および界面活性剤の失活程度により左右される。より具体的には(1)有機ケイ素系界面活性剤の濃度が高いほど表面張力は減少し、ある濃度以上で飽和する、(2)表面張力は有機ケイ素系界面活性剤混合後、数日から1ヶ月かけて表面張力が上昇し、その後飽和する(3)有機ケイ素系界面活性剤の濃度が低いほど表面張力の上昇速度は遅くなる。表面張力はこれらの条件により20mN/m〜70mN/mの範囲に変化する。
【0045】
(診断基準)
本発明の診断において、該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力S(mN/m)、前記ガラス表面に対する純水の接触角をθ(°)のパラメータを用いる。表面張力は毛細管上昇法 、吊環法、滴下法等これまで実用化されている種々の方法を用いることができる。とりわけ滴下法を用いることは迅速簡便が求められる本発明の目的により適う表面張力測定法である。本発明に係る滴下法による空気に対する表面張力は接触角計(PCA−1(協和界面科学製))を用いて3回測定し、その算術平均値を用いた。その際の温度は25度±1度である。
【0046】
光電変換装置のガラス表面に対する純水の接触角は、JIS R 3257にある基板ガラスの表面のぬれ性試験方法に準拠した種々の測定装置により測定することができる。
【0047】
Sとθは以下の(A)および(B)を満たす場合には均一な被膜を形成することができると判断する。
(A)0<θ≦10
(B)0≦S≦−θ+45
また、θの範囲については4<θ≦10であることがより好ましい。なぜなら、4°以下の接触角は一般に測定が困難であり、測定上4°以下の接触角が得られたとしても、測定上の問題がある蓋然性が高いためであり、迅速簡便が求められる本発明の目的に悖る(もとる)ためである。
【0048】
また、Sの範囲については10≦S≦−θ+45であることがより好ましい。なぜなら、一般に10mN/m以下の表面張力の液体はまれで、測定上10mN/m以下の表面張力が得られたとしても、測定上の問題がある蓋然性が高いためであり、迅速簡便が求められる本発明の目的に悖るためである。
【0049】
特に、θの範囲については4<θ≦10、Sの範囲については10≦S≦−θ+45であることがさらに好ましい。表面張力、接触角とも測定上の問題なく、本発明の診断ができていることが期待できるからである。
【0050】
なお、上記の説明内容は、以下の本発明の第1〜第6にも、そのまま援用可能である。
【0051】
本発明の第1は、チタン酸化物とケイ素酸化物と有機ケイ素系界面活性剤とを含む固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物を、ガラス基板を含む光電変換装置のガラス表面に30ml/m以上スプレー法にて塗布する工程を含む反射防止膜付き光電変換装置の製造方法であって、
該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力Sと、前記ガラス表面に対する純水の接触角θとが、0<θ≦10、かつ、0≦S≦−θ+45、の関係を満たすことを確認する工程を経た後に、
前記スプレー法にて塗布する工程を備える、反射防止膜付き光電変換装置の製造方法、である。
【0052】
本発明の第2は、固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物をガラス基板を含む光電変換装置のガラス表面に30ml/m以上スプレー法にて均一に塗布することの可否を判断する指標として、該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力S(mN/m)と、前記ガラス表面に対する純水の接触角θ(°)とが、下記(A)および(B)の不等式を満たすか否かを確認する、前記被膜形成用組成物の塗布特性診断方法;
(A)0<θ≦10、
(B)0≦S≦−θ+45、である。
【0053】
本発明の第3は、前記被膜形成用組成物はアモルファス型過酸化チタンとケイ素酸化物と有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物である、前記の塗布特性診断方法、である。
【0054】
本発明の第4は、さらに下記不等式(A’)を満たすか否かを確認する、前記の塗布特性診断方法;
(A’)4<θ≦10、である。
【0055】
本発明の第5は、さらに下記不等式(B’)を満たすか否かを確認する、前記の塗布特性診断方法;
(B’)10≦S≦−θ+45、である。
【0056】
本発明の第6は、さらに下記不等式(A’)および(B’)を満たすか否かを確認する、前記の塗布特性診断方法;
(A’)4<θ≦10、
(B’)10≦S≦−θ+45、である。
【実施例】
【0057】
(評価液1)
シリカゾル液(テトラエチルシリケートの部分縮合体、Sin-1(OC252(n+1)、n=4〜6;(多摩化学工業(株)))の部分加水分解物、銅ドープチタニア水分散液:Z18−1000SuperA(サスティナブル・テクノロジー(株))を混合し、さらに純水で希釈し、溶液のSi、Tiのモル濃度をそれぞれ、0.025mol/L, 0.0025molとした。評価液の固形分濃度を赤外線水分計を用いて測定したところ、0.45wt%であった。
【0058】
(評価液2)
有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))の添加量を3wt%とした以外は評価液1と同様の方法で被膜形成用組成物(評価液2とする)を作成した。
【0059】
(評価液3)
有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))の添加量を5wt%とした以外は評価液1と同様の方法で被膜形成用組成物(評価液3とする)を作成した。
【0060】
(評価液4)
有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))の添加量を7wt%とした以外は評価液1と同様の方法で被膜形成用組成物(評価液4とする)を作成した。
【0061】
(評価液5)
有機ケイ素系界面活性剤:Z−B(サスティナブル・テクノロジー(株))の添加量を10wt%とした以外は評価液1と同様の方法で被膜形成用組成物(評価液10とする)を作成した。
【0062】
(評価液の滴下法による空気に対する表面張力)
評価液1ないし5の作製直後の滴下法による空気に対する表面張力はそれぞれ47、32、31、28、26mN/mであった。評価液1ないし5の作製7日後の表面張力はそれぞれ64、43、35、31、29mN/mであった。よって有機ケイ素系界面活性剤の量が多いほど表面張力が低下することが分かる。また、液作成後、時間の経過に伴い表面張力が低下することが分かる。そして、有機ケイ素系界面活性剤の量および液作成後の時間を最適化することにより25〜65mN/mまでの任意の表面張力の液を作製できることが分かる。
【0063】
(評価基板1)
白板ガラスに対して研磨剤(酸化セリウム超微粒子)を用いて研磨洗浄を行った。さらに、表面親水化剤処理を行った。処理直後の白板ガラスに対する純水の接触角は3.5°であった。また処理後3日後の接触角は25°であった。なお、表面張力は接触角計(PCA−1(協和界面科学製))を用いて3回測定し、その算術平均値を用いた。よって表面処理および処理後の大気暴露時間を制御することにより白板ガラスに対する純水の接触角を4°から25°の任意の値の白板ガラスを作製できることが分かる。
【0064】
(実施例)
光入射面がガラスの薄膜シリコン太陽電池を用意し、上記の評価基板1での表面処理と同様の処理により、光入射面の純水にたいする接触角が5°、7°、9°、11°、13°であるような薄膜シリコン太陽電池を準備した。また、評価液1ないし5をその作成後の経過時間を調整することにより表面張力が32、34、36、38,40、42mN/mの評価液を準備した。そして、それぞれの薄膜シリコン太陽電池に対して、それぞれの表面張力を有する液を塗布した。塗布は45ml/mとなるような塗布条件にて、スプレー法を用いて塗布した。塗布された薄膜シリコン太陽電池は直ちにアニールオーブンにて90度15分、焼成および乾燥させた。
【0065】
各(θ、S)の組み合わせに対して10枚作製した。それぞれの塗布膜を分光エリプソメトリーにより5×5の25点測定を行い、膜厚を解析した。各(θ、S)の組み合わせに対するムラについて表1に示す。ここで10枚すべてにおいて、外観上全面ムラ無く被膜形成されており、かつ、膜厚の標準偏差が膜厚の平均値の20%以内である場合、均一な被膜が形成されていると判断し、表1では「○」と記載した。10枚中1ないし9枚の薄膜シリコン太陽電池で膜厚の標準偏差が膜厚の平均値の20%より大きい場合、均一な被膜が形成されない場合があると判断し、表1では「△」と記載した。10枚すべての薄膜シリコン太陽電池で膜厚の標準偏差が膜厚の平均値の20%より大きい場合、均一な被膜が形成されないと判断し、表1では「×」と記載した。
【0066】
θおよびSの範囲がそれぞれ0<θ≦10、0≦S≦−θ+45に含まれるか否かで均一な被膜が形成されるかどうか判断することができる。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物とケイ素酸化物と有機ケイ素系界面活性剤とを含む固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物を、ガラス基板を含む光電変換装置のガラス表面に30ml/m以上スプレー法にて塗布する工程を含む反射防止膜付き光電変換装置の製造方法であって、
該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力S(mN/m)と、前記ガラス表面に対する純水の接触角θ(°)とが、0<θ≦10、かつ、0≦S≦−θ+45、の関係を満たすことを確認する工程を経た後に、
前記スプレー法にて塗布する工程を備える、反射防止膜付き光電変換装置の製造方法。
【請求項2】
固形分濃度が0.5%以下の被膜形成用組成物をガラス基板を含む光電変換装置のガラス表面に30ml/m以上スプレー法にて均一に塗布することの可否を判断する指標として、該被膜形成用組成物の滴下法による空気に対する表面張力S(mN/m)と、前記ガラス表面に対する純水の接触角θ(°)とが、下記(A)および(B)の不等式を満たすか否かを確認する、前記被膜形成用組成物の塗布特性診断方法;
(A)0<θ≦10、
(B)0≦S≦−θ+45。
【請求項3】
前記被膜形成用組成物はアモルファス型過酸化チタンとケイ素酸化物と有機ケイ素系界面活性剤とを含む被膜形成用組成物である、請求項2記載の塗布特性診断方法。
【請求項4】
さらに下記不等式(A’)を満たすか否かを確認する、請求項2または3に記載の塗布特性診断方法;
(A’)4<θ≦10。
【請求項5】
さらに下記不等式(B’)を満たすか否かを確認する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の塗布特性診断方法;
(B’)10≦S≦−θ+45。
【請求項6】
さらに下記不等式(A’)および(B’)を満たすか否かを確認する、請求項2または3に記載の塗布特性診断方法;
(A’)4<θ≦10、
(B’)10≦S≦−θ+45。

【公開番号】特開2012−239997(P2012−239997A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113688(P2011−113688)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】