説明

反射防止膜形成用組成物、反射防止膜、及び該反射防止膜を備える積層体

【課題】高透過率及び優れた耐擦傷性を有する反射防止膜が成膜可能な組成物を提供する。
【解決手段】シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールを含む組成物であって、(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす、(2)前記水の含有量が、1重量%以上25質量%以下である、及び(3)塩の含有量が0.3質量%以下であるを満たす組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜形成用組成物、反射防止膜、及び該反射防止膜を備える積層体に関する。さらに詳しくは、本発明は、ナノサイズの微細孔を有し、高光線透過率及び優れた耐擦傷性を有するシリカ系薄膜を製造するための組成物、当該組成物から得られる反射防止膜、及び当該反射防止膜を備える光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の発電効率を向上するため、モジュール表面における光反射を低減し内部に入射する光量を増加させる(光線透過率を高める)ことが求められている。
光線透過率を高める方法としては、単層の反射防止膜が好適に用いられるが、当該反射防止膜は1.3前後の低い屈折率を有することが必要である他、太陽電池の使用条件を考慮すると、長期の耐久性も必要である。
【0003】
反射防止膜の低屈折率を実現する方法として、フッ素で置換した構造を有する高分子からなる反射防止膜、フッ化マグネシウム等の無機フッ化物を配合した反射防止膜、多孔質化した反射防止膜等が知られている。
上記のうち、フッ素で置換した構造を有する高分子からなる膜、フッ化マグネシウム等の無機フッ化物の配合した膜では、膜強度の面から屋外使用における長期耐久性に難点があるとともに、コスト的にも不利であった。また、十分に低い屈折率を実現することも難しい。
【0004】
反射防止膜を多孔質化する方法としては、中空微粒子を配合する方法;熱分解性物質を配合して成膜後に熱分解性物質を熱分解させて空孔を形成する方法;溶剤可溶成分と不溶成分を混合して成膜後に溶剤可溶成分を溶剤によって溶解させて空孔を形成する方法;シリカ微粒子とシリケートマトリクスを組み合わせ、シリカ微粒子を堆積させて空孔を形成しシリケートマトリクスで微粒子及び空孔を固定する方法、等が知られている。
上記のうち、中空微粒子を配合する方法は、中空微粒子を製造する方法が複雑であるためにコスト的に不利である。また、成膜時に中空部にマトリクス材料が入り込んでしまい屈折率の低下が不十分となるおそれがある。成膜後に空孔を形成する方法では、膜内部に除去したい成分が残存しやすく、効果が不安定になりやすい問題があった。
また、シリカ微粒子とシリケートマトリクスを組み合わせる方法は、単純な工程で効果が得られることから検討されているが、安定して高透過率を実現できる塗液の調製条件は定まっていなかった。
【0005】
シリカ微粒子とシリケートマトリクスを組み合わせた多孔質化反射防止膜について、特許文献1は、アルコキシシランを有機溶剤中塩基性条件で加水分解及び縮合させてシリカ微粒子分散液を調製し、アルコキシシランを有機溶剤中酸性条件で加水分解及び縮合させてオルガノシロキサン溶液を調製し、両者を混合した反射防止膜形成用コーティング組成物を開示する。
しかしながら、単に両者を混合したのでは組成物の安定性が低く、沈殿の発生やゲル化を起こしやすい問題があり、安定して高い透過率を示す反射防止膜の成膜はできなかった。
【0006】
特許文献2は、少なくとも1種類の加水分解可能な官能基を2個以上有するアルコキシシランを有機溶媒中で酸性加水分解して得られる透明シリカ前駆体;及び酸性シリカ粒子分散液を混合した低屈折率組成物を開示する。
しかしながら、特許文献2の低屈折率組成物は、組成物の安定性は改善されているものの、高い透過率及び膜強度を示す反射防止膜を得ることができなかった。
【0007】
特許文献3は、アルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解・重合してアルカリ性ゾルを調製し、これに酸性触媒を添加してさらに加水分解・重合することにより第1の酸性ゾルを調製し;アルコキシシランを酸性触媒の存在下で加水分解・重合することにより第2の酸性ゾルを調製し;これら第1の酸性ゾル及び第2の酸性ゾルを混合した組成物を開示する。
特許文献3の組成物も、特許文献2と同様に、組成物の安定性は改善されているものの、高い透過率及び膜強度を示す反射防止膜を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−299091号公報
【特許文献2】特開2007−136849号公報
【特許文献3】特開2009−75583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高透過率及び優れた耐擦傷性を有する反射防止膜が成膜可能な組成物を提供することである。
本発明の目的は、高透過率及び優れた耐擦傷性を有する反射防止膜を備える積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究した結果、組成物が含む塩、例えばシリカ微粒子調製の際の塩基性条件から酸性条件に変化させる際に生じる塩が、組成物中に析出又は溶存し、当該組成物からから得られる反射防止膜の物性に影響を与えることを見出した。また、本発明者は、鋭意研究した結果、組成物中のシリカ微粒子とシリケート化合物及び溶剤について、これらの配合比が得られる反射防止膜の物性に影響を与えることを見出した。これらにより本発明を完成させた。
【0011】
本発明によれば、以下の組成物等が提供される。
1.シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールを含む組成物であって、下記(1)〜(3)を満たす組成物。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
2.前記シリカ微粒子が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られたシリカ微粒子である1に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
3.前記シリケート化合物が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られたシリケート化合物である1又は2に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
4.シリカ微粒子を含むシリカ微粒子分散液、シリケート化合物を含むシリケート化合物溶液、水及び水溶性アルコールを混合して得られる組成物であって、下記(1)〜(3)を満たす組成物。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が、1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
5.前記シリカ微粒子分散液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られた分散液である4に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
6.前記シリカ微粒子分散液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、前記塩基性条件を酸性条件に変化させることによって得られた分散液である、4又は5に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
7.前記シリカ微粒子分散液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、前記塩基性条件を酸性条件に変化させ、析出した塩を除去した分散液である4〜6のいずれかに記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
8.前記シリケート化合物溶液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られた溶液である4〜7のいずれかに記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
9.前記アルコキシシランが、式(i)のmが4であるアルコキシシランである2及び3並びに5〜8のいずれかに記載の組成物。
10.前記アルコキシシランが、式(i)のRが全て同じであるアルコキシシランである9に記載の組成物。
11.前記シリカ微粒子の一次粒径が10〜50nmである1〜10のいずれかに記載の組成物。
12.前記シリカ微粒子の分散粒径が200nm以下である1〜11のいずれかに記載の組成物。
13.前記水溶性アルコールの大気圧における沸点が、水の大気圧における沸点未満である1〜12のいずれかに記載の組成物
14.さらに下記(4)を満たす1〜13のいずれかに記載の組成物。
(4)0.1質量%≦SiO換算のシリカ成分の含有量≦3質量%
15.シリカ微粒子を含むシリカ微粒子分散液、シリケート化合物を含むシリケート化合物溶液、水及び水溶性アルコールを混合する下記(1)〜(3)を満たす組成物の製造方法。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
16.下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、前記塩基性条件を酸性条件に変化させ、析出した塩を除去してシリカ微粒子分散液を調製する工程、
下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性性条件にて加水分解及び縮合してシリケート化合物溶液を調製する工程、及び
調製したシリカ微粒子分散液、調製したシリケート化合物溶液、水、及び水溶性アルコールを混合する工程を含む下記(1)〜(3)を満たす組成物の製造方法。
[アルコキシシラン]
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
[組成物]
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
17.1〜14のいずれかに記載の組成物を用いて製造される薄膜。
18.17に記載の薄膜を備える積層体。
19.基板及び薄膜を備える積層体であって、
全光線透過率が95%以上であり、
前記薄膜の表面の膜強度が2H以上である積層体。
20.シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールを含み下記(1)及び(2)を満たす組成物であって、
厚さ0.9mmのクラウンガラスにNo.5のバーコーターで前記組成物を塗布し、室温で30秒間静置し、50℃で30秒間乾燥し、110℃で10分間焼成して得られた、クラウンガラスと薄膜とからなる積層体について、前記積層体のヘイズメーターにより測定される全光線透過率が95%以上であり、かつ前記薄膜の表面の鉛筆法(JIS K5600)により測定される硬度が2H以上である組成物。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が、1質量%以上25質量%以下である
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高透過率及び優れた耐擦傷性を有する反射防止膜が成膜可能な組成物が提供できる。
本発明によれば、高透過率及び優れた耐擦傷性を有する反射防止膜を備える積層体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例及び比較例の組成物から得られる薄膜の微粒子比と全光線透過率の関係、及び微粒子比と膜強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組成物は、シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールを含む組成物であって、下記(1)〜(3)を満たす。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
【0015】
本発明の組成物は、シリカ微粒子を含むシリカ微粒子分散液、シリケート化合物を含むシリケート化合物溶液、水及び水溶性アルコールを混合することで得られる。
尚、混合の順番は問わない。また、シリカ微粒子分散液及びシリケート化合物溶液が水溶性アルコール及び/又は水を含有する場合は、水溶性アルコール及び/又は水の添加を省略してもよい。
以下、本発明の組成物の各成分について説明する。
【0016】
[シリカ微粒子及びシリカ微粒子分散液]
シリカ微粒子は、珪素と酸素が3次元的に結合することによって形成された粒子状物質である。シリカ微粒子の主成分はSiOであり、Si−O−Si結合の一部がSi−OR(Rは水素又は1価の置換基)、Si−O−M(Mは1価のカチオン)であってもよい。
【0017】
シリカ微粒子は、好ましくは動的光散乱法で測定される分散粒径が200nm以下である。分散粒径が200nm以下であるシリカ粒子を含む組成物は、膜厚が30〜200nmの薄膜を得ることができる。
また、シリカ微粒子は、好ましくは一次粒径が10〜50nmである。一次粒径が10〜50nmであるシリカ微粒子は、薄膜中に均一に分散させることができる。
【0018】
上記シリカ微粒子は、例えばアルコキシシランの有機溶剤中塩基性条件での加水分解及び縮合;シラン化合物の熱分解;SiOの粉砕等によって得られ、好ましくは下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られたシリカ微粒子であり、より好ましくは下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、塩基性条件を酸性条件に変化させることによって得られたシリカ微粒子である。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【0019】
アルコキシシランを有機溶剤中で塩基性条件にて加水分解及び縮合すると、加水分解反応の速度が高いために、乱れた構造のSiO及び表面に反応性の高い部分を有するシリカ微粒子が得られる。このようなシリカ微粒子は、シリケート化合物のマトリクスと強固な結合を形成することができる。
尚、あらかじめ一部を加水分解及び縮合させたアルコキシシランを原料として用いてもよい。
【0020】
式(i)で表わされるアルコキシシランは、好ましくはm=4及びn=0である4官能アルコキシシランであり、より好ましくはm=4及びn=0である4官能アルコキシシランであって、Rが炭素数4以下のアルキル基であるアルコキシシランである。
アルコキシシランは、1種単独又は2種以上の混合物でもよく、例えばテトラアルコキシシランとアルキルトリアルコキシシランの混合物を用いてもよい。また、アルコキシシランは、部分加水分解物もしくは部分縮合物でもよい。
【0021】
式(i)で表わされるアルコキシシランの具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、好ましくはテトラエトキシシランである。
【0022】
塩基性条件での加水分解及び縮合は、アルコキシシランを水溶性アルコールに溶解し、さらに水及び塩基を加えることにより行うことができる。
水溶性アルコールは、好ましくは後述する酸を加えたときに生じる塩の溶解性が低い水溶性アルコールであり、例えばエタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールから選択される1以上のアルコールが挙げられる。
塩基は、水溶性アルコールと水の混合物に溶解すればよく、例えばアンモニア、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムから選択される1以上の塩基が挙げられる。
【0023】
水溶性アルコールとアルコキシシランの混合比は、例えば水溶性アルコールに対するアルコキシシランの濃度が、SiO換算で0.1〜10質量%(シリカ濃度);又は水溶性アルコール及びアルコキシシランのモル比である水溶性アルコール/アルコキシシランが、2〜1500となるようにするとよい。
シリカ濃度が10質量%超の場合、得られるシリカ微粒子の粒径が大きくなりすぎるおそれがある。一方、シリカ濃度が0.1質量%未満である場合、得られるシリカ微粒子の粒径が小さくなりすぎるおそれがある。
【0024】
塩基とアルコキシシランの混合比は、例えば塩基とアルコキシシランのモル比である塩基/アルコキシシランが1×10−4〜2とするとよく、好ましくは1×10−3〜1.5であり、より好ましくは1×10−2〜1である。
塩基/アルコキシシランが1×10−4未満の場合、アルコキシシランの加水分解反応が十分に起こらないおそれがある。一方、塩基/アルコキシシランが2超の場合、反応が急速に進みすぎて粗大な粒子が生成するおそれがある。
【0025】
水及びアルコキシシランの混合比は、例えば水とアルコキシシランのモル比である水/アルコキシシランが2〜30とするとよい。
水/アルコキシシランが30超の場合、加水分解反応が早く進行しすぎるおそれがある。一方、水/アルコキシシランが2未満の場合、アルコキシシランの加水分解が十分に起こらないおそれがある。
【0026】
アルコキシシランの加水分解及び縮合は、アルコキシシラン、水溶性アルコール、水及び塩基を含む溶液を10〜90℃で約10〜100時間静置する、ゆっくり撹拌する、又はこれらを組み合わせることによって行うことができる。
加水分解及び縮合後の塩基性シリカ微粒子分散液を濾過すると、微量の粗大な凝集物を取り除くことができるため好ましい。
【0027】
アルコキシシランを水溶性アルコールに溶解し、さらに水及び塩基を加えること塩基性条件にし、加水分解及び縮合して得た塩基性シリカ微粒子分散液は、好ましくはさらに酸を加えて塩基性条件を酸性条件に変化させ、酸性シリカ微粒子分散液とする。
塩基性シリカ微粒子分散液は、シリケート化合物溶液と混合して組成物した場合に、シリケート化合物の縮合が急速に進行して組成物の保存安定性が低下してしまうおそれがある。上記のように塩基性シリカ微粒子分散液に酸を加えて、塩基性条件を酸性条件に変えることで保存安定性を向上させることができる。
【0028】
加える酸としては、好ましくは濃塩酸、濃硝酸、濃硫酸、リン酸及びアルキルスルホン酸から選択される1以上の酸である。酸の添加によって中和され析出する塩について、これら酸は水分含有量が少ないため、塩を析出しやすくすることができる。
酸の添加量としては、例えばシリカ微粒子分散液が酸性すなわちpH7以下になるまで添加すればよく、好ましくはpH5〜2となるまで添加すればよい。pHが2未満に低下するまで酸を加えるとシリカ微粒子が過剰な酸によって加水分解されるおそれがある。
【0029】
酸性シリカ微粒子分散液は、好ましくは酸の添加により生じる塩を除去する。
酸を添加することにより生じる塩は、酸性シリカ微粒子分散液中に析出又は溶存しており反射防止膜としたときに析出して、透明性等の物性に悪い影響を与えるおそれがある。
塩の除去方法としては、メンブレンフィルターを用いた濾過、ガラスフィルターを用いた濾過、遠心分離が挙げられる。
【0030】
[シリケート化合物及びシリケート化合物溶液]
シリケート化合物は、−(Si−O)−で表される構造を有するオリゴマーであり、Siの他の結合手には、例えば水酸基又はアルコキシ基が結合している。
シリケート化合物の−(Si−O)−で表される構造は、ゲル化しない範囲で−(Si−O)−で表される構造がさらに結合して分岐していてもよく、シリケート化合物は、1次元的に伸びたオリゴマー構造を基本とし、一部分岐を有する構造の化合物でもよい。
【0031】
シリケート化合物は、有機溶剤中アルコキシシランの酸性条件での加水分解及び縮合;ケイ酸アルカリ水溶液への酸の添加等によって得られ、好ましくは下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られたシリケート化合物である。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【0032】
アルコキシシランの酸性条件での加水分解及び縮合では、加水分解反応の速度が低いために3次元構造が成長せず、一部分岐構造を有するオリゴマーが得られる。一部分岐構造を有するオリゴマーであるシリケート化合物は、シリカ微粒子及びシリカ微粒子分散液との親和性が高く、強固な結合を形成することができる。
【0033】
式(i)で表わされるアルコキシシランは、上記シリカ微粒子及びシリカ微粒水分散液の式(i)で表わされるアルコキシシランと同じである。
【0034】
アルコキシシランの酸性条件での加水分解及び縮合は、アルコキシシランを水溶性アルコールに溶解させ、そこに水及び酸を加えることで行うことができる。
水溶性アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール及び1―メトキシ―2−プロパノールから選択される1以上のアルコールが挙げられる。
また、酸としては、水溶性アルコールに溶解できればよく、例えば塩酸、硝酸及び硫酸から選択される1以上の酸が挙げられる。
【0035】
酸とアルコキシシランの混合比は、例えば酸とアルコキシシランのモル比である酸/アルコキシシランが1×10−4〜1とするとよく、好ましくは5×10−4〜1×10−1であり、より好ましくは1×10−3〜5×10−2である。
アルコキシシランと水溶性アルコールの混合比、並びにアルコキシシランと水の混合比については、シリカ微粒子分散液の塩基性条件での加水分解及び縮合の場合と同様である。
【0036】
アルコキシシランの加水分解及び縮合は、アルコキシシラン、水溶性アルコール、水及び酸を含む溶液を10〜90℃で約30分〜100時間静置する、ゆっくり撹拌する、又はこれらを組み合わせることによって行うことができる。
【0037】
[水溶性アルコール]
水溶性アルコールは、好ましくは大気圧における沸点が、水の大気圧における沸点未満であるアルコールであり、例えばメタノール、エタノール、プロパノール及び2−プロパノールが挙げられる。
上記のような低沸点アルコールを用いることにより、透明性の高い塗膜が得られる。
尚、組成物中の低沸点アルコールが多すぎると、塗膜の乾燥が早くなりすぎ、かえって作業性を損なう場合があるので、本発明の効果を損なわない範囲で高沸点アルコールを少量添加してもよい。当該高沸点アルコールの添加量は、例えば組成物中の18質量%以下とするとよい。
【0038】
[その他の成分]
本発明の組成物は、シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールを含めばよく、例えば本発明の組成物は、シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールから実質的になる、又はシリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールのみからなる。
「実質的になる」とは、例えばシリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールの含有量が90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であることをいう。
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでもよく、例えばシリケート化合物の硬化触媒、レベリング剤、増粘剤、チクソ剤、防汚剤、親水化剤、撥水剤、光触媒が挙げられる。
【0039】
[組成物]
本発明の組成物は、下記(1)〜(3)を満たす組成物であり、好ましくはさらに下記(4)を満たす組成物である。これら要件は、例えば組成物の製造に用いるシリカ微粒子分散液、シリケート化合物溶液等に含まれるシリカ微粒子、シリケート化合物、水及びアルコールの含有量を予め計算し、これらの添加量を調整することにより満たすことができる。また、塩の含有量は、例えば組成物製造に用いるシリカ微粒子分散液及びシリケート化合物溶液を濾過等して、塩の含有量を低減しておくことで満たすことができる。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が、1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
(4)0.1質量%≦SiO換算のシリカ成分の含有量≦3質量%
【0040】
本発明の組成物は(1)を満たすことにより、組成物を塗布及び乾燥させた際にシリカ微粒子の周囲にシリケートが充填された構造を形成することができ、さらに加熱によってシリケートが硬化するとともにシリカ微粒子とも結合を形成して、強固な塗膜とすることができる。
(1)を満たさない組成物では、塗膜中のシリカ微粒子が少なすぎて十分な反射防止・高透過効果が得られないおそれがある、又はシリカ微粒子が多すぎて、膜強度が低下したり均一な塗膜を得ることが困難となるおそれがある。
【0041】
本発明の組成物が(2)を満たすことで、優れた保存安定性及び透明性等に優れる反射防止膜が得られる。(2)の水の含有量とは、組成物全量に対する水の含有量を意味する。
組成物の水の含有量が1質量%未満である場合、シリケート成分の安定性が低下して組成物の保存安定性が低下するおそれがある。一方、組成物の水の含有量が25質量%超である場合、塗布した組成物の乾燥の終期に水ばかりが残り、シリカ微粒子が凝集しやすくなって膜の透明性が低下するおそれがある。
尚、特許文献1、特許文献2及び特許文献3では、シリカ微粒子分散液とオルガノシロキサン溶液との好適な配合割合や好適な溶剤組成について、何ら述べられていない。特に特許文献2は、実際にどのような配合割合や溶剤組成で組成物を得たのか、全く述べられていない。
【0042】
本発明の組成物が(3)を満たすことで、特に透明性に優れる反射防止膜が得られる。(3)の塩の含有量とは、組成物全量に対する塩の含有量を意味する。
組成物中の塩の含有量が0.3質量%超であると、塗布した組成物の乾燥時に塩が析出及び凝集して膜の透明性が低下するおそれがある。
【0043】
組成物中の塩とは、本発明の組成物を構成する水及び水溶性アルコールの混合物からなる溶剤に可溶であるイオン結合した化合物のうち、シリケート化合物の縮合反応時にシリケート化合物との反応によってシリケートマトリクス中に均一に取り込まれることがない化合物をいう。尚、本発明の組成物の水及び水溶性アルコールの混合物からなる溶剤に可溶であるイオン結合化合物の含有量が0.3質量%以下である場合であっても、本発明の組成物は(3)を満たすこととなる。
【0044】
塩の含有量を組成物(塗液)から直接測定する方法としては、下記方法が挙げられる。
塩の種類が不明の場合、まず、ICP発光分光等でカチオン種を調べ、イオンクロマトグラフィー等でアニオン種を調べ、その組み合わせから塩の種類を推定する。次に塩の種類に応じてICP発光分光、ICP質量分析、原子吸光分析、イオンクロマトグラフィー等から適当な方法を選んで塩濃度を測定することができる。この際、必要(塩濃度)に応じて組成物を溶剤で希釈してから測定してもよい。
下記実施例の場合、存在する塩が、シリカ微粒子分散液に由来する塩化アンモニウムであるので、イオンクロマトグラフィーで測定できる。この場合も必要に応じて組成物を溶剤で希釈してから測定してもよい。
【0045】
例えばシリカ微粒子分散液は、アルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、塩基性条件を酸性条件に変化させることで調製できるが、塩基性条件とするための塩基と酸性条件とするための酸が反応して塩となる。
特許文献1及び特許文献3では、塩基性条件で合成したシリカ微粒子分散液を塩酸で酸性にしてからオルガノシロキサン溶液と混合することが開示されている。しかしながら、塩酸添加時に生じる塩(塩化アンモニウム)の処理ついては何ら述べられていない。また、特許文献2では、分散液中の塩濃度及び組成物中の塩濃度に関する記述は無い。
【0046】
組成物中の塩はカチオン種とアニオン種の組み合わせとして表される。
カチオン種としてはアンモニウムカチオン;アルキルアンモニウムカチオン;アルカリ金属カチオン;アルカリ土類金属カチオン等が挙げられる。
アニオン種としてはフッ化物イオン;塩化物イオン;臭化物イオン;ヨウ化物イオン;硝酸イオン;硫酸イオン;スルホン酸イオン;リン酸イオン;ホスホン酸イオン;カルボン酸イオンが挙げられる。
組成物中の塩の具体例として、塩化アンモニウム、塩化アルキルアンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウムが挙げられる。
尚、フッ化物イオンを含む塩;臭化物イオンを含む塩;ヨウ化物イオン含む塩;硝酸イオンを含む塩;硫酸イオンを含む塩;スルホン酸イオンを含む塩;リン酸イオンを含む塩;ホスホン酸イオン;カルボン酸イオンを含む塩についても、上記の例と同様の塩が具体例として挙げられる。
また、シリケート化合物の縮合反応時にシリケート化合物との反応によってシリケートマトリクス中に均一に取り込まれる塩としては、ホウ酸塩、ケイ酸塩、チタン酸塩、アルミン酸塩等が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物が(4)を満たすことで、優れた反射防止効果及び塗膜均一性が得られる。
組成物中のSiO換算のシリカ成分の含有量が0.1質量%未満の場合、得られる反射防止膜について、十分な反射防止効果を発現するだけの膜厚が得にくくなるおそれがある。一方、組成物中のSiO換算のシリカ成分の含有量が3質量%超の場合、均一な塗膜が得られないおそれがある。
【0048】
[薄膜及び積層体]
本発明の組成物は、反射防止膜形成用組成物として好適である。
本発明の組成物を塗布及び乾燥して得られる塗膜は多孔質構造を有し、低い屈折率及び、高い光線透過率を有する。乾燥は、例えば100℃に加熱することにより実施できる。
この塗膜を反射防止膜として使用する場合は、膜厚が好ましくは30〜200nmであり、より好ましくは40〜150nmである。
【0049】
本発明の組成物を基材に塗布し、乾燥及び硬化することにより、本発明の積層体が得られる。
組成物を塗布する基材は、好ましくは高透過率を有し且つ高い耐候性を有する基材であり、さらに好ましくは無機基材が特に好ましい。具体的には、ソーダガラス、クラウンガラス、アルカリ硼珪酸塩ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の各種ガラスが挙げられる。
【0050】
本発明の積層体は、好ましくは全光線透過率が95%以上であり、少なくとも一方の表面の膜強度が2H以上である。これらを満たすことにより、より多くの光が透過することが要求される野外での用途(例えば太陽電池の最表面)において、上記各種ガラスに替わって好適に用いることができる積層体となる。
【実施例】
【0051】
合成例1
[シリカ微粒子分散液A1の調製]
容器にテトラエトキシシラン5.0g、エタノール41.4g、28%アンモニア水溶液1.3g及び水0.16gを投入し、30分室温で撹拌した。混合液を3日間室温で静置して微粒子を成長させた。孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過して塩基性シリカ微粒子分散液を得た。
この塩基性シリカ微粒子分散液21.4gを容器にとり,そこに濃塩酸(35%)0.8gを加え,室温で10分間撹拌した。1日静置した後,沈殿した塩(塩化アンモニウム)を孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過によって除いてシリカ微粒子分散液A1を得た。
【0052】
得られたシリカ微粒子分散液A1中の塩化アンモニウムの濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定したところ,0.23質量%であった。
電子顕微鏡観察で得られた画像を画像処理ソフト(Image−Pro PLUS,Media Cybernetics社製)によって解析したシリカ微粒子分散液A1中のシリカ微粒子の一次粒径は約20nmであった。Zetasizer Nano ZS装置(マルバーン社製)を用いて動的光散乱法によって測定した分散粒径は110nmであった。
【0053】
合成例2
[シリカ微粒子分散液A2の調製]
合成例1と同様にして塩基性シリカ微粒子分散液を得た。得られた塩基性シリカ微粒子分散液25.0gを容器に投入し、さらに1N塩酸10.0gを加えて室温で10分間撹拌した。混合液を1日静置したが塩の析出は見られなかった。静置後の混合液を孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過してシリカ微粒子分散液A2を得た。
【0054】
得られたシリカ微粒子分散液A2中の塩化アンモニウムの濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定したところ,1.22質量%であった。
また、シリカ微粒子分散液A2中のシリカ微粒子の粒径を合成例1と同様にして評価したところ、一次粒径は約20nmであり、分散粒径は130nmであった。
【0055】
合成例3
[シリケート溶液Bの調製]
容器にテトラエトキシシラン2.08g、エタノール17.2g、1N塩酸0.11g及び水0.61gを投入し、30分室温で撹拌した。混合液を3日間室温で静置した。静置後の混合液を孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過してシリケート溶液Bを得た。
【0056】
[反射防止膜形成用組成物の調製及び反射防止膜の評価]
実施例1
シリカ微粒子分散液Aを2.0g、シリケート溶液Bを1.0g、エタノール1.45g及び水0.55gを容器に投入し、室温で10分間撹拌して表1に示す組成を有する組成物を得た。
尚、組成物中の塩の含有量は、シリカ微粒子分散液中の塩の濃度と、各成分の添加量から算出した。これは、組成物を調製するに当たって、各成分の混合によって、新たな塩が生成したり、塩が分解したり、塩が沈殿することはないためである。
【0057】
得られた組成物をスライドガラス(松浪硝子工業製S9111、厚さ0.9mmのクラウンガラス)にバーコーター(No.5)を用いて塗布した。塗布後、このスライドガラスを大気雰囲気で30秒間室温で静置し、大気雰囲気で50℃で30秒間乾燥させ、その後大気雰囲気で110℃で10分間焼成した。
得られた塗膜の全光線透過率とヘイズ値を日本電色社製ヘイズメーターにて測定した。また、得られた塗膜の強度を鉛筆法(JIS K5600)にて評価した。結果を表2に示す。
尚、表2に示す全光線透過率及びヘイズ値は、得られた薄膜及びスライドガラスの積層体の値である。尚、スライドガラス(松浪硝子工業製S9111、厚さ0.9mmのクラウンガラス)のみの場合の全光線透過率は92.4%であり、ヘイズ値は0.3%である。
また、得られた組成物を60日間室温で保管した後に改めて塗膜を作製したが、調製直後の組成物を用いたのと同様の性能の塗膜が得られた。
【0058】
実施例2〜10及び比較例1〜7
表1に示す仕込み比で組成物を調製した他は実施例1と同様にしてスライドガラス上に塗膜を形成し、評価した。結果を表2に示す。実施例2〜10の組成物については、別途、実施例1と同様にして、60日間室温で保管した後に改めて塗膜を作製したところ、調製直後の組成物を用いたのと同様の性能の塗膜が得られたことを確認した。
尚、実施例9については、塗膜の形成をバーコーター(No.5)の代わりにバーコーター(No.6)を用いて行った。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
微粒子比と全光線透過率の関係、及び微粒子比と膜強度の関係を図1に示す。
上記表1及び2並びに図1から、実施例においては、良好な光線透過率と膜強度を実現できているが、塩の含有量が好適な範囲を外れる比較例1及び2、並びに水の含有量が好適な範囲を外れる比較例3では塗膜の透明性が低下して十分な光線透過率の向上が見られないことが分かる。また、シリカ微粒子の割合がシリケート化合物に対して高すぎる比較例4は、光線透過率は高いものの十分な膜強度が得られておらず、シリカ微粒子の割合がシリケート化合物に対して低すぎる比較例5及び6は、十分な光線透過率の向上が見られない。また、シリケート化合物のみでシリカ微粒子が含まれない比較例7も、十分な光線透過率の向上が見られない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の組成物は、反射防止膜用組成物として好適に用いることができる。
本発明の組成物から得られる膜は、特に反射防止膜として好適に用いることができ、太陽電池モジュールのカバーガラス、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の各種ディスプレイ、光学部品のレンズ、スクリーン等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ微粒子、シリケート化合物、水及び水溶性アルコールを含む組成物であって、下記(1)〜(3)を満たす組成物。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
【請求項2】
前記シリカ微粒子が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られたシリカ微粒子である請求項1に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【請求項3】
前記シリケート化合物が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られたシリケート化合物である請求項1又は2に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【請求項4】
シリカ微粒子を含むシリカ微粒子分散液、シリケート化合物を含むシリケート化合物溶液、水及び水溶性アルコールを混合して得られる組成物であって、下記(1)〜(3)を満たす組成物。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が、1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
【請求項5】
前記シリカ微粒子分散液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られた分散液である請求項4に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【請求項6】
前記シリカ微粒子分散液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、前記塩基性条件を酸性条件に変化させることによって得られた分散液である、請求項4又は5に記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【請求項7】
前記シリカ微粒子分散液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、前記塩基性条件を酸性条件に変化させ、析出した塩を除去した分散液である請求項4〜6のいずれかに記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【請求項8】
前記シリケート化合物溶液が、下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性性条件にて加水分解及び縮合させることによって得られた溶液である請求項4〜7のいずれかに記載の組成物。
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
【請求項9】
前記アルコキシシランが、式(i)のmが4であるアルコキシシランである請求項2及び3並びに5〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記アルコキシシランが、式(i)のRが全て同じであるアルコキシシランである請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記シリカ微粒子の一次粒径が10〜50nmである請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記シリカ微粒子の分散粒径が200nm以下である請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記水溶性アルコールの大気圧における沸点が、水の大気圧における沸点未満である請求項1〜12のいずれかに記載の組成物
【請求項14】
さらに下記(4)を満たす請求項1〜13のいずれかに記載の組成物。
(4)0.1質量%≦SiO換算のシリカ成分の含有量≦3質量%
【請求項15】
シリカ微粒子を含むシリカ微粒子分散液、シリケート化合物を含むシリケート化合物溶液、水及び水溶性アルコールを混合する下記(1)〜(3)を満たす組成物の製造方法。
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
【請求項16】
下記式(i)で表わされるアルコキシシランを塩基性条件にて加水分解及び縮合させ、その後、前記塩基性条件を酸性条件に変化させ、析出した塩を除去してシリカ微粒子分散液を調製する工程、
下記式(i)で表わされるアルコキシシランを酸性性条件にて加水分解及び縮合してシリケート化合物溶液を調製する工程、及び
調製したシリカ微粒子分散液、調製したシリケート化合物溶液、水、及び水溶性アルコールを混合する工程を含む下記(1)〜(3)を満たす組成物の製造方法。
[アルコキシシラン]
Si(OR (i)
(式中、Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは2以上4以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+n=4である。)
[組成物]
(1)前記シリカ微粒子及びシリケート化合物の質量比が、0.5≦シリカ微粒子[g]/(シリカ微粒子[g]+シリケート化合物[g])≦0.8を満たす
(2)前記水の含有量が1質量%以上25質量%以下である
(3)塩の含有量が0.3質量%以下である
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の組成物を用いて製造される薄膜。
【請求項18】
請求項17に記載の薄膜を備える積層体。
【請求項19】
基板及び薄膜を備える積層体であって、
全光線透過率が95%以上であり、
前記薄膜の表面の膜強度が2H以上である積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246201(P2012−246201A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121414(P2011−121414)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】