説明

反射面を有する光学部品

【課題】光学特性の温度変化が小さく、軽量で量産性に優れたことを特徴とする、反射面を備えた光学部品を提供する。
【解決手段】植物繊維をナノメートルのレベルまで微細に解繊したミクロフィブリル化セルロースに合成樹脂を含浸させて作るナノコンポジット素材にて基体を作製し、その基体に形成した平滑面に金属薄膜などをもって反射膜を形成し、反射機能の付帯機能部として、ナノコンポジット製の取り付け機能部や調節機能部を一体的に作ったことを特徴とする、反射面を有する光学部品。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【発明が属する技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性の温度影響度が小さく、軽量で、量産性を特徴とする反射鏡とその関連構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般に高精度の光学器械にはガラス素材が用いられた。即ち主要な光学要素である反射鏡については精度の実現と維持のためにガラス製であることが有効であり、レンズとプリズムについては屈折率が重要条件であるためいわゆる光学ガラスが基本素材であった。
【0004】
高精度の反射特性を必要とする光学機器とは例えば反射望遠鏡である。屈折望遠鏡の場合にレンズ素材の屈折率が特性を決めるのに対し、対物凸レンズに代えて凹面の反射鏡を用いる方式の望遠鏡では、光が材質中を透過しないので、材質の選択条件は緩和されるが、精度を実現する上でガラスが最適素材である条件が従来はあった。(図1)
【0005】
プリズムについては、図2に示すように3種の作用がある。即ち第1に透明材質の屈折原理を利用して光をスペクトルに分光する作用、第2に面に垂直な入射光をそのまま透過させる作用、第3に特定の入射角範囲の光を屈折原理に基づいて全反射する作用があり、これら3種の作用の内で前2者は反射鏡をもっては代用できないが、全反射作用は反射鏡に代えても同等の効果が得られる。
【従来技術の問題点】
【0006】
光の屈折作用が現出するのと同等の効果を反射鏡によって実現すれば、屈折率の影響を避けるので、材質選択の条件緩和となり、量産性、重量、価格等の点からプラスチックが検討されることがあるが、プラスチックは熱膨張による大きな変形を伴い、温度によって特性が変化する(曲面鏡の焦点距離変化、平面鏡の歪みが生じる)ため、高精度を要する光学器械に用いることはできない。
【0007】
この状況に基づき、高精度反射鏡はガラス製であること、特に凹面反射鏡の製作は基本的に旧来の研磨技術によるのが通例であった
【0008】
即ち従来の凹面鏡製作は、必要なサイズのガラス円盤を素材とし、目的とする凹曲面とそれに対応する凸曲面を予め荒削りしておき、その凸面側に摩耗防止対策を施したうえで微細な研磨粒を散布し、それに凹曲面のガラスを対向させて、相互に摺動摩擦を続けるのである(図3)。
【0009】
摺動摩擦は凹凸の素材のどちらにとっても特定個所に限定されることのないように各個に自転させながら摺動することと、相互の摩擦面が直接接触しないで常に細粒の研磨剤が介在するよう、研磨剤分散液を一定条件で継続的に供給することが必要である。
【0010】
凹面側凸面側相互の摺動操作を全周にわたって何度も繰り返し、研磨粒の微細度を逐次高めて平滑性を仕上げたうえ、金属薄膜等反射膜を形成して鏡面を得るのである。
【0011】
この鏡材研磨工程には砥粒の管理や摺動操作の制御に細心の注意が必要であり、そのため長い加工時間と高いコストが見込まれる。
【0012】
また凹凸の面を合わせて摺動するのを基本原理とする工程であるから、形成される凹面は逆球面(以下球面という)となるのが必然であり、反射望遠鏡として必要な放物線曲面(以下放物面という)を得るためには、追って修正工程が必要で、高コストとなる問題があった。
【0013】
しかも修正加工によっても大幅な変更を加えることはできないので、球面と放物面とが大きくずれる形態、即ち口径比(焦点距離/反射鏡直径)の小さな反射鏡は、ガラスを素材としては製作できず、従って光学的作像性能としては明るさに限界を伴う問題があった。
【0014】
またガラス製の場合は、肉厚の素材を用いるのが常であるが、ガラスは切削が困難であり接着加工に適していないので、光学器械に組み立てる際には、別の構造部品を必要とする問題があった。
【0015】
さらに、多用されているカセグレン式反射型望遠鏡(図1(B))では、反射鏡の中央部に孔を穿つことが必要であり、それも加工における一つの問題であった。
【0016】
作像の光路にプリズムを配置し、望遠鏡が結ぶ倒立像を正立像に変換する方式として、ポロプリズム式及びダハプリズム式と呼ぶ方式がある(図4)が、ダハプリズム式ではプリズムの1個の界面を、光の入射角の相違により、光を透過させる作用と全反射させる作用との両様に用いる(いわば兼用する)巧妙な機能原理となっている一方、ポロプリズム式は界面の機能を全反射又は透過に専用のものとして(兼用しないで)いることが特徴となっている。
【0017】
従ってダハプリズム式の機能は反射鏡の組合せでは実現できないが、ポロプリズム式の機能は反射鏡構造でも実現できる。
【0018】
しかし4回の反射作用を、高精度に組み立てて携行の振動に耐える頑丈さで保持する4枚の反射鏡で行うことは、従来は極めて困難であったため、部品が高価にかつ重くなるとしても、総合的にはプリズム式が有利であると考えられて、機能的に単純な反射鏡を実用的に用いたものは、従来は無かった。
【0019】
望遠鏡のポロプリズム構造のほか、多重反射によってする機能をプリズムで実用しているものにコーナーキューブがある(図5)。
【0020】
立方体の1個の頂点を共有する3面と等価な形に、内側で反射するように平面鏡を組み、その開口部に光を入射させると、あらゆる入射角において、平面鏡で3度の反射を受け、最終的に入射光に対し同方向逆向きとなる反射光が得られるものである。
【0021】
従来から大形のコーナーキューブは平面反射鏡を組んで作られ、小形のものは精密な直角三角錐のプリズムとするのが通例であり、プリズムは一度完成すれば再調整の必要がないことが長所であるが、脆くて重いガラス素材の製品は、取扱いに簡便性を欠く問題があった。
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
課題の1は、従来のガラス製品と同等精度で生産性の優れた曲面鏡を作ること、可能ならガラス製に伴う口径比の限界値を改良すること。
【0023】
課題の2は、平面反射鏡でも可能な光学機能にプリズムを利用することを避け、重量と価格についての合理性を実現すること。
【0024】
課題の3は、反射鏡のガラスとそれを保持調節する金属等の機構が異質であるための、組立て困難性を回避できる技術手段を開発すること。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の列挙課題は、反射鏡及び反射鏡を構成する部分の素材として、植物繊維をナノメートルのレベルまで微細に解繊したミクロフィブリル化セルロース(以下セルロースナノファイバーという)の集合に合成樹脂(プラスチック)を含浸させて得られる素材(以下ナノコンポジットという)を用いることによって解決を図ることができる。
【0026】
熱膨張率としては、石英0.4ppm/K、耐熱ガラス3ppm/K、窓ガラス8ppm/K、純鉄12ppm/K、アクリル樹脂80ppm/K、ポリエチレン100〜200ppm/Kなどが一般に認知されているが、本発明に用いるナノコンポジットは、セルロースナノファイバーとプラスチックとの構成比率や成形条件にもよるが、3ppm/Kの実績があり、今後さらに小さな膨張率の実現が期待されている。
【0027】
即ちプラスチック素材は熱膨張率が大きいために高精度の光学機器に用いることはできないが、ナノコンポジットは耐熱ガラスと同等であるから、実用性は実証されている。
【0028】
ナノコンポジットは微細繊維の集合体であるから、ミクロレベルの表面状態としては、平滑性の乱れが想定され、真に反射鏡となり得る程に平滑であるかどうかの懸念が一部にあったが、これについてはセルロースナノファイバー1個の寸法として、例えば太さの一辺が4ナノメートル、長さが20ナノメートルと観測され、ナノコンポジットはその近辺のサイズに分布する素材の集合であるが、それは可視光線の波長として知られる400ないし700ナノメートルに対して十分小さく、光の通過を妨げることがなく、よってナノコンポジットの板材は透明なのであるが、同じ理由によってナノコンポジットにおいては、セルロースナノファイバーが部分的に表面に露出しているような局所においても、乱れの寸法は可視光の波長に比べて十分に小さいので、全体としては十分に平滑であると定義でき、反射鏡としての障碍はないのである。
【0029】
熱膨張特性については炭素繊維強化プラスチックがほぼ同等の微小な熱膨張率材料として知られているが、反射鏡の素材にはならない。
【0027】
即ち炭素繊維強化プラスチックは、これを構成する炭素繊維が、例えば直径10マイクロメートル(10000ナノメートル)、長さミリメートルないしメートル単位と大きく、その繊維の露出部分は鏡面レベルの平滑度ではあり得ないので、反射鏡の素材としては使えない点で、ナノコンポジットとは基本的に相違するのである。
【0030】
またガラス製の凹面反射鏡では口径比を小さくする(明るい光学像を作る)ことには限界があることを前述したが、ナノコンポジットを素材として凹面反射鏡を作る場合には、曲面の形成はガラスと同じく研磨によるほかに、後述するように、型を用いて素材を加熱加圧加工することが可能であり、その加工法によれば小さな口径比のものを作ることに格別の困難はない。
【0031】
このように光学用反射鏡素材としてのナノコンポジットは、反射鏡の素材としてガラス反射鏡の代替物ではなく、ガラス材では達成困難な製品仕様を容易に実現する新素材である。
【0032】
次に、プリズムによる反射機構に対しても、ナノコンポジット素材は良い解決をもたらす。
【0033】
即ちポロプリズムの機構を4面の反射鏡構造で作ろうとすれば、従来は高精度の組立とその維持が至難であったが、ナノコンポジット素材を成形する技術によれば格別の困難はなく、プリズム製品に比較して軽量性、振動耐久性、量産性などのいずれの面でも優れた特性を達成できる。
【0034】
またコーナーキューブに関しては、ナノコンポジットの平滑面と低熱膨張による十分な精密性、堅牢性により可能な大きな受光開口形状、加工適応性による設置のための取付け構造の自在な一体構成などの特長により、プリズムのものに比較し優れた実用性を達成できる。
【0035】
以上、鏡の反射とプリズムの全反射とに関して述べたが、ナノコンポジットを用いる場合の効果原理は、およそ光学器械における多重反射、多面反射の作用に対して広く応用が可能であり、反射鏡式の軽便さとプリズム式の精密かつ堅牢性を兼備して優れた効果が期待できる。
【加工性について】
【0036】
ナノコンポジットは小さい熱膨張率を特長として、広範な温度環境において安定して高精度な反射鏡の素材であるほか、特徴的な物性により各種の加工技術に優れた適応を見せる。
【0037】
ナノコンポジットは合成樹脂の含浸材であるため、該樹脂材に適用される接着剤や溶着剤が有効であることから、部品の接合が可能であり、機器組み立てに必要な構造の実現が容易である。
【0038】
またナノコンポジットは植物セルロースと樹脂とが素材であって剛性が比較的小さいため、反射鏡のみでは製品としての剛性が不足する場合が考えられるが、一方引張り強度300パスカル程度、曲げ強度400パスカル程度の実測値が得られており、この値は、引張り強度については、ガラスが確定できないために比較困難であるが、印象的に数倍以上であり、曲げ強度についてはガラスが10ないし15パスカルであるから20〜30倍大きく、ほぼ鋼鉄並みとなっており、これらの特性により、合理的な補強構造を作れば、製品としての堅牢性はガラス製と同等以上のものにすることが可能である。
【0039】
またナノコンポジットは植物セルロースと樹脂とが要素であることによる硬度の低さが、切削加工の容易さでもあり、このことによってガラス素材の反射鏡に比較して応用の広さをもたらす。
【0040】
加えてナノコンポジットは樹脂含浸素材であるから、多くの場合熱可塑性があり、その特性により種々の有効な形状が実現できる。
【0041】
即ちナノコンポジット素材を必要な表面形状(凹面、凸面、平面)に成形することは、切削と研磨によっても可能であるが、ガラスの場合と違い、この素材は樹脂成形の場合と共通して、射出成形や加熱加圧成型(真空成形を含む)の技術を適用することが可能である。
【0042】
樹脂素材特有のこの加工法によってナノコンポジットを成形する場合には、球面成形と放物面成形との実現に難易の差は無く、双曲面その他特殊曲面も、成形型を準備しておけば自在に量産的に製作できる。
【0043】
そのような加工法でナノコンポジットを成形する場合には、凹面が深いことに格別の困難は伴わないので、従来のガラス研磨式の凹面鏡に比較して光学的口径比の小さいものを作ることができる有利点がある。
【0044】
以上の多様な特徴を活用することにより、ナノコンポジットを用いて反射鏡単体での高度な精密性で実現すると共に、複数の反射面を組み合わせる構造体においては精密な相互位置に構成して堅牢な補強構造や連結機構を付帯させ、多くの光学器械を実用化することができる。
【発明の効果】
【0045】
反射鏡の素材として、ガラスは仕上がり精度と温度変化に対する精度維持では優れているが、加工性に限界がある一方、樹脂は自在な加工が可能であるが、完成後の温度変化により精度を損なう欠点があり、高精度を要する光学システムには用いることができない。
【0046】
これに対して、ナノコンポジットにはいずれの欠点もなく、反射鏡の素材として最適の物性を備えている。
【0047】
ナノコンポジットはまた、加圧成形加工、射出成形加工、切削研磨加工などの加工技術を適用して、多様な形状で反射鏡とその関連部分を一体的に、かつ堅牢安価に製作できる特性を備えている。
【0048】
本発明は、ナノコンポジットのこれらの物性及び特性を活かして、精密光学器械を新しい形で提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維をナノメートルのレベルまで微細に解繊したミクロフィブリル化セルロースの集合に合成樹脂を含浸させて作るナノコンポジットを素材として基体を作製し、その基体に形成した平滑面に金属薄膜等をもって反射面を形成したことを特徴とする、反射面を有する光学部品。
【請求項2】
複数の反射面の各々が関連して、一体的に機能するように構成されたことを特徴とする、請求項1の反射面を複数個有する光学部品。
【請求項3】
反射機能の付帯機能部として、ナノコンポジット製の取付け機能部や調節機能部を一体的に作った、請求項1の反射面又は請求項2の反射面群を有する光学部品。

【公開番号】特開2008−165094(P2008−165094A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357500(P2006−357500)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(391029107)
【Fターム(参考)】