説明

反応の制御が容易なポリカーボネートジオール

【課題】ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールを提供。
【解決手段】特定の2種の繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、数平均分子量が300〜20000であり、それぞれの繰り返し単位の割合がモル比で99:1〜1:99であり、2級末端基指数が0.10〜3.00%であることを特徴とするポリカーボネートジオールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールに関する。さらに詳しくは、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤などを製造する場合、その反応を容易に制御することができるポリカーボネートジオールであって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、さらに耐オレイン酸性や耐塩素性などの耐薬品性に優れたポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートジオールは、例えば、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどのソフトセグメントとして、耐加水分解性、耐光性、耐酸化劣化性、耐熱性などに優れた素材として知られている。しかしながら、1,6−ヘキサンジオールを原料としたポリカーボネートジオールは、結晶性のため、これを用いたポリウレタンは、柔軟性、弾性回復率が低いという欠点を有していた。これらの問題を解決するため、2種類以上のジオールを用いる脂肪族コポリカーボネートジオールが開示されている。特にその中でも、1,4-ブタンジオールを用いた脂肪族コポリカーボネートジオールは、耐オレイン酸性や耐塩素性等の耐薬品性に優れること、耐加水分解性、耐熱性などの化学安定性が極めて良好であることの加え、柔軟性や弾性回復性に優れる熱可塑性エラストマーが得られるポリカーボネートジオールとして注目されている。(特許文献1、2参照)
一方、ポリカーボネートジオールをポリウレタン、熱可塑性エラストマー、ウレタン弾性繊維などの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として用いる場合、イソシアネートなどの、水酸基と反応する官能基を有する化合物と反応して使用される。ここにおいて、水酸基と反応する官能基を有する化合物とポリカーボネートジオールとの反応を制御することは、安定に生産する上でも製品の品質を安定化する上でも非常に重要となる。
【0003】
従来、ポリカーボネートジオールは、上記の反応で高分子量化しやすく、目的の分子量とするためには、反応を制御する高い技術を必要とした。また、部分的に高分子量化し微細なゲルを生成するなどの問題も発生し、製品の品質に問題を与えた。さらに、ポリカーボネートジオールの製造で用いられる触媒が、上記の反応に影響を与えるため、反応制御をさらに困難なものとした。
これまで、上記反応における反応速度を制御することを目的に、種々のポリカーボネートジオールおよびその製造方法が開示されている。1,4-ブタンジオールを用いた脂肪族コポリカーボネートジオールとしては、反応調整剤を用いることなく安定したウレタン反応性を有するポリカーボネートジオール(特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、共重合の組成が限定される事に加え、イソシアネートの種類や温度などの反応条件によっては、ウレタン反応を制御することが困難になることがあった。
【0004】
一方、ポリカーボネートジオールのポリマー末端水酸基に関しては、ジアルキルカーボネートまたはジアリールカーボネートとポリヒドロキシ化合物を原料に、ポリカーボネートジオールの末端が殆ど完全に水酸基であるポリカーボネートジオールを製造する方法(特許文献4、5参照)が開示されている。これらの方法は、カーボネート原料としてジアルキルカーボネートまたはジアリールカーボネートを用いてポリカーボネートジオールを製造した場合、カーボネートに由来するアルキル基やアリール基がポリマー末端に残存するという問題を解決し、ポリマー末端が殆ど全て水酸基であるポリカーボネートジオールを製造することを目的にしており、ポリマー末端の水酸基の種類やその制御に関する記載も、それによりポリカーボネートジオールと、水酸基と反応する官能基を有する化合物との反応を制御するという記載もされていない。
【0005】
高い1級末端OH比率を有するポリカーボネートジオール(特許文献6参照)が開示されている。しかし、1級末端OH比率が高い場合、反応速度が速くなりすぎることが多く、特に目的とする分子量が著しく分子量増加する反応領域にある場合、目的の分子量に反応を制御することが困難であり、ゲルが生成するなどの問題があった。また、ポリマー末端水酸基の割合を特定の値としたポリカーボネートジオール(特許文献7参照)が開示されている。しかしながら、開示されたポリマー末端水酸基の割合では、高分子量のポリウレタンが重合出来ない場合があり、さらにポリマー末端水酸基の割合を規定しただけで、その水酸基が1級であるか2級であるか記載されていない。
上記に示すように、これまでの技術では、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、さらに耐オレイン酸性や耐塩素性などの耐薬品性優れた熱可塑性エラストマーを得ることが出来るとともに、それらを製造する反応を適切に制御することが出来るポリカーボネートジオールは存在しなかった。
【0006】
【特許文献1】特許第2885872号
【特許文献2】特開2007−2248号
【特許文献3】特許第3128275号
【特許文献4】特許第2570300号
【特許文献5】特許第3724561号
【特許文献6】特許第3874664号
【特許文献7】特開2006−104253号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。さらに詳しくは、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤などを製造する場合、その反応を容易に制御することができるポリカーボネートジオールであって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、さらに耐オレイン酸性や耐塩素性などの耐薬品性に優れたポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記式(A)と(B)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールにおいて、ポリマー末端水酸基における2級水酸基の割合を特定の範囲とすることにより、ポリカーボネートジオールと水酸基と反応する官能基を有する化合物との反応性を容易に制御できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、 下記式(A)と(B)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
数平均分子量が300〜20000であり、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)の割合がモル比で99:1〜1:99であり、2級末端基指数が0.10〜3.00%であることを特徴とするポリカーボネートジオールを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として最適であるポリカーボネートジオールを提供する。さらに詳しくは、塗装等外観を不良にする溶媒に難溶性の超高分子量のゲルが生成する欠点も殆ど無く、また、そのゲル生成を低減するために反応速度を下ると生産性が低下するという欠点も殆ど無く、反応を容易に制御することができるポリカーボネートジオールであり、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、さらに耐オレイン酸性や耐塩素性などの耐薬品性優れたポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることが出来るポリカーボネートジオールを提供することができる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
ポリカーボネートジオールをポリウレタン、熱可塑性エラストマー、ウレタン弾性繊維
などの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として用いる場合、イソシアネートのような、水酸基と反応する官能基を有する化合物と反応して使用される。これら化合物とポリカーボネートジオールとの反応性は非常に重要である。
1級水酸基は反応性が高いため、反応に用いるイソシアネートの種類や反応条件によっては、反応を制御することが困難となり、目的の分子量に合わせる事が出来ない、または微細な高分子量ゲルが生成するなどの問題が発生した。ポリウレタンの安定化・劣化対策と目的に応じた新しい改質技術(技術情報協会、2004,p325)に示すように、2級の水酸基は1級の水酸基と比較してイソシアネートとの反応性が低い事が知られている。しかしながら、ポリマー末端水酸基における2級水酸基の割合が高くなると、目的の分子量とするには長い時間が必要となり、生産性に問題が発生した。さらに、反応時間を短くするために反応温度を上げると、副反応が起きて得られる製品の物性が変化するなどの問題も発生した。
【0014】
本発明では、上記式(A)と(B)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールにおいて、ポリマー末端水酸基における2級水酸基割合の最適値を見いだし、上記の問題を殆ど起こすことなく、反応を容易に制御出来るようになった。
本発明の2級末端基指数は、以下のように定義される。70g〜100gのポリカーボネートジオールを、0.1kPa以下の圧力下、150℃〜170℃の温度に加熱、攪拌して約0.5gの留分を得る。これをガスクロマトグラフィー分析(以下、GC分析と称す。)して、得られるピーク面積の値を用いて下記式(1)から2級末端基指数を計算した。なお、GC分析は、カラムとしてDB−WAX(J&W社製)を付けたガスクロマトグラフィー6890(ヒューレット・パッカード製)を用い、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。カラムの昇温プロファイルは、40℃から10℃/minで220℃まで昇温した後、その温度で15分間保持した。GC分析における各ピークの同定は、下記GC−MS装置を用いて行った。GC装置は、カラムとしてDB−WAX(J&W社製)を付けた6890(ヒューレット・パッカード製)を用い、初期温度40℃から昇温速度10℃/minで220℃まで昇温した。MS装置は、Auto−massSUN(JEOL製)を用い、イオン化電圧70eV、スキャン範囲m/z=10〜500、フォトマルゲイン450Vで行った。
【0015】
2級末端基指数=B÷A×100 (1)
A:ジオールのGC面積の総和
B:少なくとも1つの2級水酸基を持つジオールのGC面積の総和
上記の方法は、ポリカーボネートジオールを縮合することにより、ポリマーから外れる末端化合物を分析する方法である。ポリマー末端が水酸基である場合、ジオールとしてポリマー末端より外れる(下記式(a)を参照)。
【0016】
【化3】

(式中、Rは炭化水素を表す。)
【0017】
一方、ポリマー末端が2級の水酸基である場合、少なくとも片方の水酸基が2級であるジオールがポリマー末端より外れる。(下記式(b)参照)。
【0018】
【化4】

(式中、 R、R、Rは炭化水素を表す。)
【0019】
よって、留出するジオールの量に対する、少なくとの1つの水酸基が2級であるジオールのトータル量で、ポリマー末端水酸基における2級水酸基の割合が決定できる。
2級末端基指数が0.10〜3.00である場合、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料と用いた場合、反応の制御が容易となり、微細な高分子量ゲルなどを生成することなく目的とする分子量のものを得ることができる。2級末端基指数が0.10未満では、反応に用いるイソシアネートの種類や反応条件によっては、反応を制御することが困難となる。2級末端基指数が3.00を超えると、反応速度が遅くなり、目的とする分子量になるまで長時間を必要とすることが多く、生産性が低下する。2級末端基指数が0.25〜2.5の場合、上記の問題は起きにくくなり、反応の制御はさらに容易となる。2級末端基指数が0.50〜2.00の場合、上記の問題は殆ど起きずさらに好ましい。
【0020】
本発明のポリカーボネートジオールの製造方法は、特に限定されない。例えば、Schnell著、ポリマー・レビューズ第9巻、p9〜20(1994年)に記載される種々の方法で製造することが出来る。
本発明のポリカーボネートジオールは、ジオールとカーボネートを原料とするが、その純度が重要となる。2級水酸基を有するジオールや、モノアルコールなど得られるポリカーボネートジオールの末端がアルキル基など反応性を有しない基となる不純物の含有量によっては、本発明のポリカーボネートジオールが得られないことがある。よって、使用する原料の純度は高い方が好ましく、通常は95重量%以上、好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0021】
本発明の2級末端基指数有するポリカーボネートジオールを得るには、例えば、原料とする1,4−ブタンジオールや1,6−ヘキサンジオール中に含まれる2級水酸基を持つジオールの含有量を制御する方法がある。また、必要に応じて2級水酸基を持つジオールを添加する方法がある。2級水酸基を持つジオールは、原料中に添加したり、ポリカーボネートジオール製造の途中で添加したり、所定の分子量になった後に添加することが出来る。原料に添加する場合または反応途中で添加する場合、特にポリカーボネートジオールの重合条件を変える必要は無いが、必要に応じてジオールとカーボネートの組成比、触媒量、反応温度、反応時間などを変更してもよい。得られたポリカーボネートジオールに2級水酸基を有するジオールを添加して加熱処理する方法では、加熱処理温度は、120℃〜190℃、好ましくは130℃〜180℃である。加熱温度が120℃より低いと反応が遅く処理時間がかかり経済的に問題があり、190℃を超えると着色などの問題が発生する可能性が高くなる。加熱処理時間は、反応温度や処理方法により異なるが、通常は、15分〜10時間である。2級水酸基を持つジオールとしては、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチルー1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオールなどの1級水酸基と2級水酸基を持つもの、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,5−ヘプタンジオールなどの2つの2級水酸基を持つもの、2−メチル−2,4−ペンタンジオールなど1つの2級水酸基と1つの3級水酸基を持つものが挙げられる。これらのジオールを単独でまたは2種類以上混合して使用される。2級水酸基を有するジオールを選択する際、ポリカーボネートジオールの重合反応に対する影響が小さいことに加え、2級水酸基の反応性が重要となる。1級水酸基と2級水酸基の距離が離れていることが好ましく、2級水酸基に対する立体障害が小さい方が好ましい。2級水酸基の反応性は、2級水酸基に対する立体障害が大きく影響している。例えば、下記式(c)のXがアルキル基の場合、メチレン鎖長が長くなるほど2級水酸基の反応性が大きく阻害される。アルキル基がメチル基やエチル基であれば、2級水酸基に対する立体障害は小さく好ましい。さらに、メチル基であれば、本発明の2級水酸基を持つジオールとしてはより好ましい。また、シクロヘキシル環に結合した水酸基の場合、互いの水酸基がオルト位にあることが好ましい。
【0022】
HO−R−CH(OH)−X (c)
上記の観点より、2級水酸基を有するジオールとしては、1,5−ヘキサンジオールまたは1,4−シクロヘキサンジオールが好ましい。2級水酸基を有するジオール中の1,5−ヘキサンジオールまたは/および1,4−シクロヘキサンジオールの占める割合(以降、1,5HD/1,4CHD指数と称す。)は、前記の2級末端基指数の定義で示した方法で分析を行い、その結果を用いて下記式(2)で求められる。本発明では、1,5HD/1,4CHD指数は、が50%以上であることが好ましい。さらに85%以上であることがより好ましい。
【0023】
1,5HD/1,4CHD指数=C/B×100 (2)
B:少なくとも1つの2級の水酸基を持つジオールのGC面積の総和
C:1,5−ヘキサンジオールまたは/および1,4−シクロヘキサンジオールのGC面積の総和
ポリマー末端がアルキル基やアリール基など水酸基と反応しない基である場合、該ポリカーボネートジオールを用いてポリウレタンを重合した場合、目的の分子量とならないことが多く、低分子量物が多く存在するため、得られたポリウレタンの機械物性が低下する事もあった。本発明のポリカーボネートジオールは、ポリマー末端が水酸基であることが好ましい。例えば、前記の2級末端基指数の定義で示した方法で分析を行い、その結果を用いて下記式(3)で求められる末端水酸基指数で97.0以上であることが好ましい。
さらに、末端水酸基指数が98.5〜99.8であればより好ましい。
【0024】
末端水酸基指数=A÷D×100 (3)
A:ジオールのGC面積の総和
D:モノアルコールとジオールのGC面積の総和
前記の2級末端基指数の定義で示した方法では、ポリマー末端が水酸基でない場合、モノアルコールとしてポリマー末端より外れる(下記式(d)を参照)。
【0025】
【化5】

(式中、Rは上記と同じであり、Xは特に限定しないが、水酸基以外であり水素または炭化水素を表す。)
【0026】
よって、留分中のジオールとモノアルコールの量より、水酸基であるポリマー末端の割合が決定できる。
【0027】
本発明のポリカーボネートジオールは、ジオールとして、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールが用いられる。さらに、本発明のポリカーボネートジオールの特性を損なわない範囲で、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ナノジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどの側鎖を持たないジオール、2−メチル−1、8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチルー1、5−ペンタンジオール、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチルー1,3−プロパンジオールなどの側鎖を持ったジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパンなどの環状ジオールから、1種類または2種類以上のジオールを原料として添加しても良い。添加量としては、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの合計量に対し0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%である。また、1分子に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどを少量用いることにも出来る。この1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物を余り多く用いると、ポリカーボネートの重合反応中に架橋してゲル化が起きてしまう。したがって1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物は、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの合計量に対し、0.1〜5重量%にするのが好ましい。より好ましくは、0.1〜2重量%である。
【0028】
本発明のポリカーボネートジオールは、カーボネートとして、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。入手のしやすさや重合反応の条件設定のしやすさの観点より、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネートを用いることが好ましい。
【0029】
本発明のポリカーボネートジオールの製造は、触媒を添加しても良いし、添加しなくてもよい。触媒を添加する場合は、通常のエステル交換反応触媒から自由に選択することが出来る。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ヒ素、セリウムなどの金属、塩、アルコキシド、有機化合物が用いられる。特に好ましいのは、チタン、スズ、鉛の化合物である。また、触媒の使用量は、通常はポリカーボネートジオール重量の0.00001〜0.1%である。
【0030】
分子中の1,4−ブタンジオールに由来する繰り返し単位(上記式(A))と1,6−ヘキサンジオールに由来する繰り返し単位(上記式(B))の割合(以降、共重合比率と称し、上記式(A):上記式(B)で表す。)は、モル比で99:1〜1:99である。共重合比率を45:55〜95:5とする、優れた耐薬品性が得られ好ましい。65:35〜90:10とすると、柔軟性を損なうことなく最も顕著に耐薬品が得られる。
本発明における共重合比率は、以下の方法で決定した。100mlのナスフラスコにサンプルを1g取り、エタノール30g、水酸化カリウム4gを入れて、100℃で1時間反応する。室温まで冷却後、指示薬にフェノールフタレインを2〜3滴添加し、塩酸で中和する。冷蔵庫で1時間冷却後、沈殿した塩を濾過で除去し、GCを用いて1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを定量した。GC分析は、カラムとしてDB−WAX(J&W製)をつけたガスクロマトグラフィーGC−14B(島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内標として、検出器をFIDとして行った。なお、カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/minで250℃まで昇温した。なお、共重合比率は、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールのモル比で表す。
【0031】
本発明のポリカーボネートジオールにおいて、分子量は、数平均分子量で300〜20000である。数平均分子量が300未満では得られる熱可塑性ポリウレタンの柔軟性や低温特性が不良となることが多く、20000を超えると得られる熱可塑性ポリウレタンの成型加工性が低下することが多いので好ましくない。好ましくは、数平均分子量で450〜5000の範囲である。より好ましくは、500〜3000である。
本発明の数平均分子量は、無水酢酸とピリジンを用い、水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定する「中和滴定法(JIS K 0070−1992)」によって水酸基価を決定し、下記数式(4)を用いて計算した。
【0032】
数平均分子量=2/(OH価×10―3/56.1) (4)
ジオールとして1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールが用いるポリカーボネートジオールは、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよいことに加え、耐オレイン酸性や耐塩素性などの耐薬品性に優れる事、1,6−ヘキサンジオールのみを用いたポリカーボネートジオールと比較して、柔軟性や弾性回復力の優れたポリウレタンや熱可塑性エラストマーが得られる。本発明のポリカーボネートジオールは、上記の特徴に加え、ウレタンなどの製造においてその反応を容易に制御することができるという特徴も有し、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として、または、塗料、接着剤などの構成材料として適したポリカーボネートジオールということができる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例および比較例によって、本発明を説明する。
1.反応性の評価
本発明では、ポリカーボネートジオールの反応安定性を以下の方法で評価した。攪拌機、冷却管、温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコにポリカーボネートジオールを75g入れた。約2.5kPaで減圧しながら、100℃で3hr加熱攪拌行い、ポリカーボネートジオールを乾燥した。25gのトルエンと0.006gのジラウリン酸ジブチルスズを加えた後、フラスコ内部が80℃になっていることを確認し、ポリカーボネートジオールの2倍モル量のジシルロヘキシルメタンジイソシアネートを加え、80℃で3hr反応してプレポリマーを得る。350mlのジメチルホルムアミドを加えた後、イソシアネートの反応率を測定する。30℃に冷却後、測定したイソシアネート反応率からイソシアネート反応率が100%となるために必要とされる量の90%に相当するエチレンジアミンを添加して鎖延長反応する。10分間攪拌後サンプル(以降、サンプルAと称す。)を採取する。その後、イソシアネート反応率が90%から100%となるために必要とされる量の40%に相当するエチレンジアミンを添加しさらに鎖延長反応を続ける。3分間攪拌後サンプル(以降、サンプルBと称す。)を採取する。さらに、7分間攪拌しサンプル(以降、サンプルCと称す。)を採取する。上記サンプルを透明サンプル瓶に入れて、性状やゲル発生の有無を目視で確認するとともに、粘度計(B8L型、TOKIMEC製)を使用し、4番のロータを用い、測定温度35±1℃で粘度を測定した。測定値を元に下記式(5)、(6)で示されるA値とB値を求め、反応性を評価した。
A値=(サンプルBの粘度)/(サンプルAの粘度) (5)
B値=(サンプルCの粘度)/(サンプルBの粘度) (6)
【0034】
2.原料ジオールの分析
ジオール原料として用いた1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールをガスクロマトグラフィーで分析した。条件は、カラムとしてDB−WAX(J&W製)をつけたガスクロマトグラフィーGC−14B(島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内標として、検出器をFIDとして行った。なお、カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/minで250℃まで昇温した。1,6−ヘキサンジオール中には1,4−シクロヘキサンジオールが1.2重量%、2級水酸基を持つジオールが不純物として確認された。1,4−ブタンジオール中には、2級水酸基を持つジオールは検出されなかった。
【0035】
[実施例1]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにジメチルカーボネートを504g(5.6mol)、1,4−ブタンジオールを312g(3.5mol)、1,6−ヘキサンジオールを307g(2.6mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.10gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から210℃へ徐々に上げながら、生成するメタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら10時間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、メタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら、210℃でさらに5時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1890であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=54:46、2級末端基指数は1.46でであった。また、末端水酸基指数は98.7であった。
【0036】
[比較例1]
仕込み原料に2級水酸基を持つジオールとして1,5−ヘキサンジオール9.4g添加した以外は、実施例1に示す方法で重合を行った。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1854であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=53:47、2級末端基指数は4.63あった。また、末端水酸基指数は98.8であった。
【0037】
[実施例2]
実施例1に示す装置を用いて重合を行った。ジエチルカーボネートを720g(6.1mol)、1,4−ブタンジオールを200g(2.2mol)、1,6−ヘキサンジオールを370g(3.1mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.20gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から200℃へ徐々に上げながら、生成するエタノールとジエチルカーボネートの混合物を留去しながら8時間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、エタノールとジエチルカーボネートの混合物を留去しながら、200℃でさらに4時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1080であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=39:61、2級末端基指数は1.02であった。また、末端水酸基指数は97.4であった。
【0038】
[実施例3]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを540g(6.1mol)、1,4−ブタンジオールを400g(4.4mol)、1,6−ヘキサンジオールを200g(1.7mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.15gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から180℃へ徐々に上げながら、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら20時間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートを留去しながら、185℃でさらに10時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は2025であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=71:29、2級末端基指数は1.09であった。また、末端水酸基指数は99.3であった。
【0039】
[実施例4]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを520g(5.9mol)、1,4−ブタンジオールを450g(5.0mol)、1,6−ヘキサンジオールを100g(0.9mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.15gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から180℃へ徐々に上げながら、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら25時間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートを留去しながら、185℃でさらに20時間反応した。その後、1,5−ヘキサンジオール2.7gを加え、185℃で1時間加熱攪拌した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は2612であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=84:16、2級末端基指数は2.53であった。また、末端水酸基指数は99.2であった。
原料の1,6−ヘキサンジオールを蒸留により精製した。原料ジオールをGCで分析した結果、2級水酸基を持つジオールの不純物として、1,4−シクロヘキサンジオールが0.4重量%確認された。比較例2、3では、蒸留精製した1,6−ヘキサンジオールを原料として使用した。
【0040】
[比較例2]
実施例1に示す装置に、ジメチルカーボネートを620g(6.9mol)、1,4−ブタンジオールを480g(5.3mol)、1,6−ヘキサンジオールを100g(0.9mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.20gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から210℃へ徐々に上げながら、生成するメタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら18時間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、メタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら、210℃でさらに3時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は891であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=85:15、2級末端基指数は0.09でであった。また、末端水酸基指数は97.6であった。
【0041】
[比較例3]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを490g(5.6mol)、1,4−ブタンジオールを480g(4.6mol)、1,6−ヘキサンジオールを100g(0.9mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.20gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から180℃へ徐々に上げながら、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら20間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートを留去しながら、185℃でさらに5時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は795であり、共重合比率は、1,4−ブタンジオール:1,6−ヘキサンジオール=83:17、2級末端基指数は0.08であった。また、末端水酸基指数は99.6であった。
上記の実施例および比較例のポリカーボネートジオールにおいて、反応性の評価および目視検査の結果を下記表1に示す。
【0042】
【表1】

−:粘度測定可能 微細ゲルの生成など特記事項がない
【産業上の利用可能性】
【0043】
耐加水分解性、耐熱性、柔軟性など物性のバランスに優れるとともに、耐オレイン酸性や耐塩素性などの高い耐薬品性を有するポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料に、または、塗料、接着剤などの構成材料として利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)と(B)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、
【化1】

【化2】

数平均分子量が300〜20000であり、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)の割合がモル比で99:1〜1:99であり、2級末端基指数が0.10〜3.00であることを特徴とするポリカーボネートジオール。

【公開番号】特開2009−51888(P2009−51888A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217920(P2007−217920)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】