説明

反応の安定化が容易なポリカーボネートジオール

【課題】耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタン、及びざらつき感やべたつき感がなく、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよい塗膜が得られるコーティング組成物を提供する。
【解決手段】炭素数2〜12の脂肪族または脂環属炭化水素のカーボネート基と末端ヒドロキシル基を含むポリカーボネートジオール(A)であって、(A)の繰り返し単位の60〜100モル%はペンタメチレンカーボネート又はヘキサメチレンカーボネートであり、そしてペンタメチレンカーボネート単位の量が、(A)の繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であるポリカーボネートジオールと、ポリイソシアネートとを用いて得られる熱可塑性ポリウレタン、並びに上記ポリカーボネートジオールを用いて得られるコーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の構成材料として、さらには、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として適したポリカーボネートジオールに関する。さらに詳しくは、本発明は、塗料の原料として用いる場合、微細なゲル状物に由来するざらつき感や低分子量物に由来するべたつき感がなく、さらに、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよい塗膜が得られるポリカーボネートジオールに関する。また、本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、接着剤の原料として用いる場合、その反応を安定化することが容易であって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良く、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができるポリカーボネートジオールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートジオールは、例えば、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどのソフトセグメントとして、耐加水分解性、耐光性、耐酸化劣化性、耐熱性などに優れた素材として知られている。しかしながら、1,6−ヘキサンジオールを原料としたポリカーボネートジオールは、高い結晶性のため、塗料の原料としては使用できなかった。これらの問題を解決するため、2種類以上のジオールを用いる脂肪族コポリカーボネートジオールが開示されている。その中でも、1,5−ペンタンジオールを用いた脂肪族コポリカーボネートジオールは、結晶性が低い上に、柔軟性や弾性回復性に優れるポリウレタンや熱可塑性エラストマーが得られるポリカーボネートジオールとして注目されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ポリカーボネートジオールをポリウレタン、熱可塑性エラストマー、ウレタン弾性繊維などの原料として、又は、塗料、接着剤などの構成材料として用いる場合、イソシアネートなどの、水酸基と反応する官能基を有する化合物と反応して使用される。ここにおいて、水酸基と反応する官能基を有する化合物とポリカーボネートジオールとの反応を安定化することは、生産の上からも製品品質の上からも非常に重要となる。従来、ポリカーボネートジオールは、上記の反応で高分子量化しやすく、目的の分子量とするためには、反応を制御する高い技術を必要とした。さらに、部分的に高分子量化し微細なゲルを生成するなどの問題も発生し、製品の品質に問題を与えた。一方、反応速度が遅い場合、高分子量化しにくくなり、分子量分布も広くなるため、低分子量物による表面のべたつきや、強度や反撥弾性などの物性が低下するといった問題も発生した。
【0004】
これまで、上記反応における反応速度を制御することを目的に、種々のポリカーボネートジオール及びその製造方法が開示されている。例えば、原料とするカーボネートの水分を15ppm以下とする反応性安定化ポリカーボネートジオールの製造方法が開示されている(特許文献2参照)。該方法は、カーボネートの脱水工程を必要とすることに加え、反応の安定化に十分な効果が得られないこともあった。
【0005】
一方、ポリカーボネートジオールの末端に着目したものとしては、例えば、ジアルキルカーボネート又はジアリールカーボネートとポリヒドロキシ化合物を原料に、ポリカーボネートジオールの末端が殆ど完全に水酸基であるポリカーボネートジオールを製造する方法が開示されている(特許文献3、4参照)。これらの方法は、カーボネート原料としてジアルキルカーボネート又はジアリールカーボネートを用いてポリカーボネートジオールを製造した場合、カーボネートに由来するアルキル基やアリール基がポリマー末端に残存するという問題を解決し、ポリマー末端が殆ど全て水酸基であるポリカーボネートジオールを製造することを目的にしている。しかしながら、特許文献3、4には、ポリマー末端の水酸基の種類やその制御に関する記載も、それによりポリカーボネートジオール及び水酸基と反応する官能基を有する化合物との反応を制御するという記載もされていない。
【0006】
また、高い1級末端OH比率を有するポリカーボネートジオールが開示されている(特許文献5参照)。しかし、1級末端OH比率が高い場合、反応速度が速くなりすぎることが多く、部分的に高分子量化して微細なゲルが生成するなどの問題があった。また、ポリマー末端水酸基の割合を特定の値としたポリカーボネートジオールが開示されている(特許文献6参照)。しかしながら、開示されたポリマー末端水酸基の割合では、高分子量のポリウレタンが製造できない場合があり、さらにポリマー末端水酸基の割合を規定しただけで、その中に占める1級末端水酸基に関する記載も特許文献5、6にはされていない。
上記に示すように、これまでの技術では、微細なゲル状物に由来するざらつき感や低分子量物に由来するべたつき感がなく、さらに、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良い塗膜が得られるポリカーボネートジオールは存在しなかった。また、反応を安定化することが容易であって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良く、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができるポリカーボネートジオールは存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特許第1822688号明細書
【特許文献2】特開2006−176704号公報
【特許文献3】米国特許第7112693号明細書
【特許文献4】日本国特許第3724561号明細書
【特許文献5】日本国特許第3874664号
【特許文献6】特開2006−104253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、塗料の構成材料として、さらには、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として適したポリカーボネートジオールに関する。さらに詳しくは、本発明は、塗料の構成材料として用いる場合、微細なゲル状物に由来するざらつき感や低分子量物に由来するべたつき感がなく、さらに、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよい塗膜が得られるポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。また、本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーの原料として用いる場合、その反応を安定化することが容易であって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良く、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができるポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基を含むポリカーボネートジオールにおいて、1級OH末端比率を特定の範囲とすることにより、ポリカーボネートジオールと水酸基と反応する官能基を有する化合物との反応性を安定化できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記(1)から(3)の発明に関するものである。
【0011】
(1) 下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基を含むポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の60〜100モル%は下記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位であり、そして式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】


(2) 1級末端OH比率と2級末端OH比率の和が98.5%以上である、(1)に記載のポリカーボネートジオール。
(3) 前記式(A)で表される繰り返し単位の90〜100モル%が前記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位であり、式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して25モル%以上50モル%未満であり、数平均分子量が300〜20000である、(1)又は(2)に記載のポリカーボネートジオール。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、塗料の構成材料として、さらには、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどの原料として適したポリカーボネートジオールに関する。さらに詳しくは、本発明は、塗料の構成材料として用いる場合、微細なゲル状物に由来するざらつき感や低分子量物に由来するべたつき感がなく、さらに、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよい塗膜が得られるポリカーボネートジオールを提供することができるという効果を有する。さらに、本発明は、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、接着剤の原料として用いる場合、その反応を安定化することが容易であって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができるポリカーボネートジオールを提供することができるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
ポリカーボネートジオールを塗料の構成材料として使用する場合、イソシアネートのような、水酸基と反応する官能基を有する硬化剤が使用される。これら化合物とポリカーボネートジオールとの反応を安定化することは、非常に重要である。ポリウレタンの安定化・劣化対策と目的に応じた新しい改質技術(技術情報協会、2004年、p325)に示すように、1級OH基は2級OH基などと比較して、イソシアネートとの反応性が高いことが知られている。ポリカーボネートジオールの分子末端において1級OHが多いと、反応を安定化することが困難となり、硬化剤の種類や乾燥条件によっては、部分的に高分子量化して微細なゲルが生成し、塗膜表面の平滑性が損なわれるという問題が発生した。一方、ポリカーボネートジオールの分子末端において1級OH基が少ないと、反応は遅くなり、乾燥時間が長くなるという問題が発生した。さらに、分子量分布が広くなることにより、低分子量物によって塗膜にべたつき感が残ることもあった。本発明では、ポリカーボネートジオールにおける1級OH末端比率の最適値を見いだし、上記の問題を殆ど起こすことなく、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良い塗膜を得ることが可能となった。
【0018】
また、ポリカーボネートジオールをポリウレタン、熱可塑性エラストマー、ウレタン弾性繊維などの原料として用いる場合も、イソシアネートのような、水酸基と反応する官能基を有する化合物と反応して使用される。本発明のポリカーボネートジオールを用いた場合、これら化合物とポリカーボネートジオールとの反応を安定化することが可能となり、微細なゲルの生成が無く、低分子量物の量も少なくなる。よって、表面にざらつき感やべたつき感が無く、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良く、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0019】
本発明における1級末端OH比率は、ポリカーボネートジオール(70g〜100g)を0.4kPa以下の圧力下、攪拌しながら160℃〜200℃の温度で加熱することにより、該ポリカーボネートジオールの約1〜2重量%に相当する量の留分、即ち約1g(0.7〜2g)の留分を得て、これを約100g(95〜105g)のエタノールを溶剤として用いて回収し、回収した溶液をガスクロマトグラフィー(GC)分析にかけて得られるクロマトグラムのピーク面積の値から、下記式(1)により計算した値を言う。
【0020】
1級末端OH比率(%)=B÷A×100 (1)
A:ジオールを含むアルコール類(エタノールを除く)のピーク面積の総和
B:両末端が1級OH基であるジオールのピーク面積の総和
1級OH末端比率は、ポリカーボネートジオールの全末端基に占める1級OH基の比率である。即ち、上記に示すように、ポリカーボネートジオールを0.4kPa以下の圧力下、160℃〜200℃の温度に加熱すると、ポリカーボネートジオールの末端部分がアルコール類として外れて蒸発し、留分として得られる(下記式(a)を参照)。
【0021】
【化4】


この留分中の全アルコール類における両末端が1級OH基であるジオールの比率が、1級末端OH基比率である。
【0022】
本発明のポリカーボネートジオールにおける1級末端OH比率は、95%〜98.5%である。1級OH末端比率が上記の範囲であれば、塗料の構成材料として使用した場合、硬化剤の種類や乾燥条件によらず、微細なゲル状物によるざらつき感や低分子量物によるべたつき感が無く、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよい塗膜を得ることができる。また、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどの原料として用いた場合、反応が安定化し、部分的に高分子量化して微細なゲルを生成することなく、強度や反撥弾性などの物性が優れるとともに、柔軟性に富む製品を得ることができる。1級末端OH基比率が98.5%を超えると、硬化剤の種類や乾燥条件によっては、微細な高分子量ゲルが生成し、塗膜にざらつき感が出る。一方、1級末端OH基比率が95%未満では、乾燥に長時間を必要とすることが多く、分子量分布も広くなるため、低分子量物により塗膜にべたつき感が出ることが多い。1級末端OH基比率が96%〜98.5%の場合、上記の問題は起こりにくくなり好ましい。1級末端OH基比率が97%〜98.5%である場合、最も好ましい。
【0023】
本発明のポリカーボネートジオールの製造方法は、特に限定されない。例えば、Schnell著、ポリマー・レビューズ第9巻、p9〜20(1994年)に記載される種々の方法で製造することができる。
【0024】
本発明のポリカーボネートジオールは、1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールをジオール原料として用いて製造される。それらジオールに加え、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ナノジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどの側鎖を持たないジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチルー1、5−ペンタンジオール、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチルー1,3−プロパンジオールなどの側鎖を持ったジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパンなどの環状ジオールから選ばれる、1種類又は2種類以上のジオールを原料として用いてもよい。その量は、本発明で示す繰り返し単位の割合を満たせば、特に限定されるものではない。
【0025】
さらに、本発明のポリカーボネートジオールの性能を損なわない範囲で、1分子に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどを用いることもできる。この1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物を余り多く用いると、ポリカーボネートの重合反応中に架橋してゲル化が起きてしまう。したがって1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物は、原料とするジオールの合計量に対し、0.1〜5重量%にするのが好ましい。より好ましくは、0.1〜2重量%である。
【0026】
本発明のポリカーボネートジオールは、カーボネートとして、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。これらの内から1種又は2種以上のカーボネートを原料として用いることができる。ジアルキルカーボネート及び/又はジアリールカーボネートを用いた場合、ジオールとカーボネートとの仕込み比などの条件により、本発明の1級末端OH比率のポリカーボネートジオールが容易に得られるので好ましい。また、入手のしやすさや重合反応の条件設定のしやすさの観点より、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジブチルカーボネートを用いることがさらに好ましい。
【0027】
本発明のポリカーボネートジオールの製造は、触媒を添加してもよいし、添加しなくてもよい。触媒を添加する場合は、通常のエステル交換反応触媒から自由に選択することができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ヒ素、セリウムなどの金属、又はその塩、アルコキシド若しくは有機化合物が用いられる。特に好ましいのは、チタン、スズ、鉛の化合物である。また、触媒の使用量は、通常はポリカーボネートジオール重量の0.00001〜0.1%である。
【0028】
製造方法の一例として、カーボネートとしてジメチルカーボネートを用いる方法を述べる。ポリカーボネートジオールの製造は、2段階に分けて行う。ジオールとジメチルカーボネートをモル比で20:1ないし1:10の割合で混和し、常圧又は減圧下、100〜300℃で反応させ、生成するメタノールをジメチルカーボネートとの混合物として除去して、低分子量ポリカーボネートジオールを得る。次いで、減圧下、160〜250℃で加熱して、未反応のジオールとジメチルカーボネートを除去するとともに、低分子量ポリカーボネートジオールを自己縮合させて、所定の分子量のポリカーボネートジオールを得る。
【0029】
本発明の1級末端OH比率を持つポリカーボネートジオールは、原料ジオールの純度、温度や時間などの重合条件、さらに、カーボネートとしてジアルキルカーボネート及び/又はジアリールカーボネートを用いる場合は、ジオールとカーボネートの仕込み比などの条件より、1つの方法を選択して、又は適宜組み合わせることにより得られる。工業的に得られる1,5−ペンタンジオールは、2級ヒドロキシル基を有する不純物として、1,5−ヘキサンジオール及び1,4−シクロヘキサンジオールを、各々0.2〜2重量%含有している。一方、工業的に得られる1,6−ヘキサンジオールは、1,4−シクロヘキサンジオールなどの2級ヒドロキシル基を有する不純物を0.1〜2重量%含んでいる。これら2級ヒドロキシル基を持つジオールは、ポリカーボネートジオール製造時、エステル交換反応性が低いため、ポリカーボネートジオールの末端基となることが多く、その結果、末端に2級ヒドロキシル基を持つポリカーボネートジオールとなる。また、カーボネートとして、ジアルキルカーボネート及び/又はジアリールカーボネートを用いた場合、目的とするポリカーボネートジオールの分子量に対応させて、ジオールとカーボネートを化学量論量又はそれに近い割合で仕込んで反応すると、ポリカーボネートジオールの末端にカーボネートに由来するアルキル基やアリール基が残存することが多い。そこで、カーボネートに対するジオールの量を、化学量論量の1.01〜1.30倍とすることで、ポリカーボネートジオールの末端に残存するアルキル基やアリール基末端が減り、ヒドロキシル基とすることができる。さらに、副反応により、ポリカーボネートジオールの末端がビニル基になったり、例えばカーボネートとしてジメチルカーボネートを用いた場合、メチルエステルやメチルエーテルになったりする。一般的に、副反応は、反応温度が高いほど、反応時間が長いほど起きやすくなる。
【0030】
1級末端OH比率の調整は、所定の1級末端OH比率とした残りの分子末端が、2級ヒドロキシル基となるように行う方が好ましい。ポリカーボネートジオールの末端が、カーボネートに由来するアルキル基やアリール基である場合、又は、ビニル基である場合、イソシアネートなど水酸基と反応する架橋剤との反応において、連鎖停止剤として機能する。よって、分子量分布が広くなり、表面にべたつき感が出る場合がある。また、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの強度や反撥弾性率が、損なわれる場合もある。
【0031】
本発明の2級OH末端比率は、1級OH末端比率と同じ方法で分析を行い、得られるクロマトグラフのピーク面積の値から、下記式(2)により計算したものを言う。
【0032】
2級末端OH比率(%)=C÷A×100 (2)
A:ジオールを含むアルコール類(エタノールを除く)のピーク面積の総和
C:少なくとも1つの2級水酸基を持つジオールのピーク面積の総和
ポリマー末端が2級の水酸基である場合、少なくとも片方の水酸基が2級であるジオールがポリマー末端より外れる(下記式(b)参照)。
【0033】
【化5】


この留分中の全アルコール類における少なくとも1つのヒドロキシル基が2級であるジオールの比率が、2級末端OH比率である。
【0034】
本発明のポリカーボネートジオールは、1級末端OH比率と2級末端OH比率の和が98.5%以上であることが好ましい。1級末端OH比率と2級末端OH比率の和が98.5%以上であれば、低分子量物が多くなることもなく、塗膜にべたつき感が出ることもないので好ましい。また、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの分子量分布が広がって強度や反撥弾性が低下することもないので好ましい。1級末端OH比率と2級末端OH比率の和が99.0%以上である場合、硬化剤の種類や乾燥条件によらず、塗膜のべたつき感は無くなり、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの原料に用いた場合も、用いるイソシアネートや反応条件に影響されることなく、目的とする分子量の製品を得ることができるのでより好ましい。1級末端OH比率と2級末端OH比率の和が99.5%以上である場合、最も好ましい。
【0035】
1級OH末端比率及び/又は2級OH末端比率を調整するため、必要に応じて、2級水酸基を持つジオールを添加しても構わない。2級水酸基を持つジオールは、原料中に添加したり、ポリカーボネートジオール製造の途中で添加したり、所定の分子量になった後に添加することができる。得られたポリカーボネートジオールに2級水酸基を有するジオールを添加して加熱処理する方法では、加熱処理温度は、120℃〜190℃、好ましくは130℃〜180℃である。加熱温度が120℃より低いと反応が遅く処理時間がかかり経済的に問題があり、190℃を超えると着色などの問題が発生する可能性が高くなる。加熱処理時間は、反応温度や処理方法により異なるが、通常は、15分〜10時間である。2級水酸基を持つジオールとしては、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオールなどの1級水酸基と2級水酸基を持つもの、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,5−ヘプタンジオールなどの2つの2級水酸基を持つもの、2−メチル−2,4−ペンタンジオールなど1つの2級水酸基と1つの3級水酸基を持つものが挙げられる。これらのジオールを単独で又は2種類以上混合して使用される。
【0036】
本発明のポリカーボネートジオールは、下記式(A)で表される繰り返し単位における下記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位の割合(以降、C56割合と称す。)が、60〜100モル%である。C56割合が上記の範囲であると、耐加水分解性や耐熱性などの物性と柔軟性のバランスが良好である、塗膜やポリウレタンが得られる。C56割合が90〜100モル%の場合、さらに柔軟性に富む塗膜やポリウレタンが得られる。
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】


本発明のポリカーボネートジオールは、上記式(A)で表される繰り返し単位の合計に対する上記式(B)の割合(以降、C5割合と称す。)が、10モル%以上50モル%未満である。C5割合が10モル%未満の場合、ポリカーボネートジオールの結晶性が高くなり、塗料として使用することができない。C5割合が50モル以上の場合、ポリマー分子内におけるカーボネート結合の密度が高くなり、分子間の相互作用により塗膜の柔軟性が損なわれる場合があるので好ましくない。C5割合が25モル%以上50モル%未満である場合、上記の問題は殆ど起こらないので好ましい。さらに、35モル%以上50モル%未満であれば、ポリカーボネートジオールの結晶性はさらに低くなり、塗料の構成材料としては最も好ましくなる。
【0040】
本発明のポリカーボネートジオールにおいて、分子量は、数平均分子量で300〜20000であることが好ましい。数平均分子量が300以上であれば、塗膜や熱可塑性ポリウレタンの柔軟性や低温特性が十分である。数平均分子量が20000以下であれば、ポリカーボネートジオール粘度が高くなって、塗料の構成材料として用いる場合、塗料固形分濃度などが制限されるということがない。また熱可塑性ポリウレタンの成型加工性が低下することもないので好ましい。好ましくは、数平均分子量で450〜5000の範囲である。より好ましくは、500〜3000である。
【0041】
本発明の数平均分子量は、無水酢酸とピリジンを用い、水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定する「中和滴定法(JIS K 0070−1992)」によって水酸基価を決定し、下記式(3)を用いて計算した。
【0042】
数平均分子量=2/(OH価×10―3/56.1) (3)
本発明のポリカーボネートジオールは、塗料の構成材料として、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの原料として、さらにはポリエステルやポリイミドの改質剤などの用途に用いることができる。特に、塗料の構成材料として用いる場合、微細なゲル状物に由来するざらつき感や低分子量物に由来するべたつき感がなく、さらに、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良い塗膜が得られる。また、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーの原料として用いる場合、得られたポリウレタンや熱可塑性エラストマーの表面にざらつき感やべたつき感が無く、さらにその反応を安定化することが容易であることにより、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスが良く、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0043】
塗料や熱可塑性ポリウレタンは、本発明のポリカーボネートジオールとポリイソシアネートを用いて得ることができる。
【0044】
使用されるポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、及びその混合物(TDI)、粗製TDI、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、粗製MDI、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネート等の公知の芳香族ジイソシアネート、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)等の公知の脂肪族ジイソシアネート、及びこれらのイソシアネート類のイソシアヌレート化変性品、カルボジイミド化変性品、ビウレット化変性品等である。これらの有機ポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても構わない。またこれらの有機ポリイソシアネートは、ブロック剤でイソシアネート基をマスクして用いてもよい。
【0045】
また、所望により共重合成分として鎖伸長剤を用いることができる。鎖伸長剤としてはポリウレタン業界における常用の鎖伸長剤、すなわち水、低分子ポリオール、ポリアミン等が使用できる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10−デカンジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン等の低分子ポリオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン等のポリアミンである。これらの鎖伸長剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても構わない。
【0046】
塗料を製造する方法としては、業界で公知の製造方法が用いられる。例えば、ポリカーボネートジオールからなる主剤と有機ポリイソシアネートからなる硬化剤を塗工直前に混合する2液型溶剤系コーティング組成物、ポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート末端基を持つウレタンプレポリマーからなる1液型溶剤系コーティング組成物、ポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤とを反応させて得られるポリウレタン樹脂からなる1液型溶剤系コーティング組成物又は1液型水系コーティング組成物を製造することができる。
【0047】
各種用途に応じて硬化促進剤(触媒)、充填剤、分散剤、難燃剤、染料、有機又は無機顔料、離型剤、流動性調整剤、可塑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、着色剤、溶剤等を添加することができる。
【0048】
溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、水などから1種類選んで、又は複数の溶剤を混合して使用される。
【0049】
熱可塑性ポリウレタンを製造する方法としては、ポリウレタン業界で公知のポリウレタン化反応の技術が用いられる。例えば、本発明のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートを大気圧下に常温から200℃で反応させることにより熱可塑性ポリウレタンを製造することができる。鎖延長剤を用いる場合は、反応の最初から加えておいてもよいし、反応の途中から加えてもよい。熱可塑性ポリウレタンの製造方法については、例えば、米国特許第5,070,173号を参照できる。
【0050】
ポリウレタン化反応においては、公知の重合触媒や溶媒を用いてもよい。
【0051】
熱可塑性ポリウレタンには、熱安定剤(例えば酸化防止剤)や光安定剤などの安定剤を添加することが望ましい。また、可塑剤、無機充填剤、滑剤、着色剤、シリコンオイル、発泡剤、難燃剤等を添加してもよい。
【実施例】
【0052】
次に、実施例及び比較例によって、本発明を説明する。
1.1級OH末端比率の決定
70g〜100gのポリカーボネートジオールを300mlのナスフラスコに測り取り、留分回収用のトラップ球を接続したロータリーエバポレーターを用いて、0.4kPa以下の圧力下、約180℃の加熱浴で加熱し、攪拌して、トラップ球に該ポリカーボネートジオールの約1〜2重量%に相当する留分、即ち約1g(0.7〜2g)の留分を得た。これを約100g(95〜105g)のエタノールを溶剤として回収し、回収した溶液をガスクロマトグラフィー分析(以下、GC分析と称す。)して、得られるクロマトグラフのピーク面積の値から、下記式(1)により、1級OH末端比率を計算した。なお、GC分析は、カラムとしてDB−WAX(米国J&W社製)30m、膜厚0.25μmを付けたガスクロマトグラフィー6890(米国ヒューレット・パッカード製)を用い、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。カラムの昇温プロファイルは、60℃から10℃/minで250℃まで昇温した後、その温度で15分間保持した。GC分析における各ピークの同定は、下記GC−MS装置を用いて行った。GC装置は、カラムとしてDB−WAX(米国J&W社製)を付けた6890(米国ヒューレット・パッカード製)を用い、初期温度40℃から昇温速度10℃/minで220℃まで昇温した。MS装置は、Auto−massSUN(日本JEOL製)を用い、イオン化電圧70eV、スキャン範囲m/z=10〜500、フォトマルゲイン450Vで行った。
【0053】
1級末端OH比率(%)=B÷A×100 (1)
A:ジオールを含むアルコール類(エタノールを除く)のピーク面積の総和
B:両末端が1級OH基であるジオールのピーク面積の総和
2.2級OH末端比率の決定
1級OH末端比率と同じ方法でGC分析を行い、得られるクロマトグラフのピーク面積の値から、下記式(2)により、2級OH末端比率を計算した。
【0054】
2級末端OH比率(%)=C÷A×100 (2)
A:ジオールを含むアルコール類(エタノールを除く)のピーク面積の総和
C:少なくとも1つの2級水酸基を持つジオールのピーク面積の総和
3.C56割合及びC5割合の決定
100mlのナスフラスコに、サンプルを1g測り取り、エタノール30g、水酸化カリウム4gを入れて、100℃のオイルバスで1時間加熱した。室温まで冷却後、指示薬にフェノールフタレインを1〜2滴添加し、塩酸で中和した。冷蔵庫で3時間冷却し、沈殿した塩を濾過で除去した後、GC分析した。なお、GC分析は、カラムとしてDB−WAX(米国J&W社製)30m、膜厚0.25μmを付けたガスクロマトグラフィーGC14B(島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内標として用い、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/minで250℃まで昇温した。
C56割合は、GC分析の結果を元に、下記式(4)で求めた。
【0055】
C56割合(モル%)=E/D×100 (4)
D:ジオールの全モル数
E:1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールのモル数
C5割合は、GC分析の結果を元に、下記式(5)で求めた。
【0056】
C5割合(モル%)=F/D×100 (5)
D:ジオールの全モル数
F:1,5−ペンタンジオールのモル数
4.原料ジオールの純度分析
ジオール原料として用いた1,4−ブタンジオール、1,5−ヘキサンジオールと1,6−ヘキサンジオールをガスクロマトグラフィーで分析した。条件は、カラムとしてDB−WAX(J&W製)をつけたガスクロマトグラフィーGC−14B(島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内標として、検出器をFIDとして行った。なお、カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/minで250℃まで昇温した。
【0057】
1,4−ブタンジオールの純度は、99.5%であり、0.5重量%は複数の不明ピークであった。1,5−ペンタンジオールは、純度が97.6重量%で、1,5−ヘキサンジオールを1.7重量%、1,4−シクロヘキサンジオールを0.5重量%含んでいた。残りの0.2重量%は、複数の不明物であった。1,6−ヘキサンジオールは、純度が98.9重量%で、1,4−シクロヘキサンジオールを0.8重量%含んでいた。残りの0.3重量%は、複数の不明物であった。
5.塗膜表面の評価
塗膜表面の評価は、べたつき感とざらつき感で行った。評価は、5人の検査員が行い、塗膜表面を手で触った時の感触を、下記の判定基準を元に点数とし、その平均点として表した。
(1)べたつき感
べたつかないを0点、強くべたつきを感じるを5点として、0〜5点で採点
(2)ざらつき感の基準
ざらつきがないを0点 全体にばらつきがあるを5点として、0〜5点で採点
6.熱可塑性ポリウレタンの分子量と物性評価
(1)数平均分子量と重量平均分子量、標準ポリスチレンについて得た較正曲線を用いてGPCにより行なった。
(2)ショアD硬さ(単位なし)
ASTM D2240、Dタイプ、23℃で測定した。
(3)引張強さ(kgf/cm
JIS K6251、3号ダンベル、試験片は2mm厚のプレスシートを用いた。
(4)伸び(%)
JIS K6251、3号ダンベル、試験片は2mm厚のプレスシートを用いた。
(5)反撥弾性(%)
JIS 6255、リュプケ振子式、23℃
(実施例1)
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにジメチルカーボネートを500g(5.6mol)、1,5−ペンタンジオールを330g(3.2mol)、1,6−ヘキサンジオールを300g(2.5mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.10gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から190℃へ徐々に上げながら、生成するメタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら10時間反応を行った。その後、15kPaまで減圧し、メタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら、190℃でさらに7時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析した結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC−1と略す。
(比較例1)
実施例1に示す装置を用いて反応を行った。ジメチルカーボネートを560g(6.2mol)、1,5−ペンタンジオールを330g(3.2mol)、1,6−ヘキサンジオールを300g(2.5mol)、1,4−シクロヘキサンジオールを10g(0.1mol)を仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.11gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から195℃へ徐々に上げながら、生成するメタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら8時間反応を行った。その後、18kPaまで減圧し、メタノールとジメチルカーボネートの混合物を留去しながら、195℃でさらに5時間反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC−5と略す。
(実施例2)
実施例1に示す装置を用いて重合を行った。ジエチルカーボネートを650g(5.5mol)、1,5−ペンタンジオールを170g(1.6mol)、1,6−ヘキサンジオールを300g(2.5mol)、1,4−ブタンジオールを100g(1.1モル)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.10gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から190℃へ徐々に上げながら、生成するエタノールとジエチルカーボネートの混合物を留去しながら10時間反応を行った。その後、16kPaまで減圧し、エタノールとジエチルカーボネートの混合物を留去しながら、190℃でさらに7時間反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC−2と略す。
(実施例3)
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを450g(5.1mol)、1,5−ペンタンジオールを120g(1.2mol)、1,6−ヘキサンジオールを470g(4.0mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.11gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から190℃へ徐々に上げながら、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら10時間反応を行った。その後、14kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートを留去しながら、190℃でさらに7時間反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC−3と略す。
【0058】
原料の1,5−ペンタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールを蒸留により精製した。1,5−ペンタンジオールは純度が98.7%となり、1,5−ヘキサンジオールを0.8重量%、1,4−シクロヘキサンジオールを0.3重量%含んでいた。残りの0.2重量%は、複数の不明物であった。1,6−ヘキサンジオールの純度は、99.5%となり、1,4−シクロヘキサンジオールを0.3重量%含んでいた。残りの0.2重量%は、複数の不明物であった。実施例4及び比較例2では、蒸留精製した原料を用いた。
(実施例4)
実施例1に示す装置を用いて重合を行った。ジエチルカーボネートを640g(5.4mol)、1,5−ペンタンジオールを120g(1.2mol)、1,6−ヘキサンジオールを470g(4.0mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.12gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から190℃へ徐々に上げながら、生成するエタノールとジエチルカーボネートの混合物を留去しながら10時間反応を行った。その後、16kPaまで減圧し、エタノールとジエチルカーボネートの混合物を留去しながら、190℃でさらに7時間反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC−4と略す。
(比較例2)
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを450g(5.1mol)、1,5−ペンタンジオールを120g(1.2mol)、1,6−ヘキサンジオールを470g(4.0mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.11gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を150℃から180℃へ徐々に上げながら、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら15時間反応を行った。その後、12kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートを留去しながら、180℃でさらに12時間反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC−6と略す。
【0059】
【表1】


キシレン/酢酸ブチル(70/30)の混合溶媒に、実施例で得たPC−1を40g、レベリング剤(BYK−331、BYKケミカル社製)を0.75g、触媒としてジブチル錫ジラウレート(AirProduct社製)を1.00g、最終的な塗料固形分が50%となるように添加し、攪拌して塗料主剤を得た。これに、硬化剤(デュラネートTPA−100、旭化成ケミカルズ社製)を8g添加し、混合して塗布液を調整した。この液を、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂板上に塗布して、80℃で3時間加熱硬化させ、膜厚が30〜40μmの塗膜を得た。
(応用例2〜6)
ポリカーボネートジオールとして、PC−2〜PC−6を用いた以外は、応用例1に示す方法で塗膜を得た。
【0060】
応用例1〜6で得た塗膜を、さらに室温で1週間放置した後、塗膜のざらつき感とべたつき感を評価した。その結果を、表2にまとめる。
【0061】
【表2】


(応用例7)
実施例1で得たPC−1を200g、ヘキサメチレンジイソシアネート63.8gを攪拌装置、温度計、冷却管の付いた反応器に仕込み、100℃で4時間反応させて末端NCOのプレポリマーを得た。該プレポリマーに鎖延長剤として1,4−ブタンジオール26.8g、触媒としてジブチルスズジラウリレート0.01gを加えてニーダー内蔵のラボ用万能押出機(日本国(株)笠松化工研究所製のLABO用万能押出機KR−35型)を用い140℃で60分反応を行った後、押出し機にてペレットとした。得られた熱可塑性ポリウレタンのGPCによるポリスチレン換算数平均分子量と重量平均分子量、及び物性の評価結果を表3に示す。
(応用例8〜11)
ポリカーボネートジオールとして、PC−2〜6を用いた以外は、応用例7に示す方法で熱可塑性ポリウレタンを得た。得られた熱可塑性ポリウレタンのGPCによるポリスチレン換算数平均分子量と重量平均分子量、及び物性の評価結果を表3に示した。なお、PC−6を用いた場合、微少ゲルの生成により、得られた熱可塑性ポリウレタンの強度が極端に低かったので以降の評価は行わなかった。
【0062】
【表3】


応用例11で得られた熱可塑性ポリウレタンでは、べたつきが感じられたが、応用例7〜10で得られた熱可塑性ポリウレタンでは、べたつきは感じられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のポリカーボネートジオールは、塗料の構成材料として、さらには、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として利用できる。さらに詳しくは、塗料の構成材料として用いる場合、微細なゲル状物に由来するざらつき感や低分子量物に由来するべたつき感がなく、さらに、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよい塗膜が得られる。また、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、接着剤の原料として用いる場合、その反応を安定化することが容易であって、耐加水分解性や耐熱性などの性能のバランスがよく、強度や反撥弾性などの物性に優れるとともに、柔軟性に富むポリウレタンや熱可塑性エラストマーを得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の60〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であることを特徴とするポリカーボネートジオールと、ポリイソシアネートとを用いて得られる熱可塑性ポリウレタン。
【化1】


【化2】


【化3】

【請求項2】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の60〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であることを特徴とするポリカーボネートジオールからなる主剤と有機ポリイソシアネートからなる硬化剤とからなる2液型溶剤系コーティング組成物。
【化4】


【化5】


【化6】

【請求項3】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の60〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であることを特徴とするポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート末端基を持つウレタンプレポリマーからなる1液型溶剤系コーティング組成物。
【化7】


【化8】


【化9】

【請求項4】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の60〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であることを特徴とするポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂からなる1液型溶剤系コーティング組成物。
【化10】


【化11】


【化12】

【請求項5】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基からなるポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の60〜100モル%は下記式(B)または(C)で表される繰り返し単位であり、そして式(B)で表される繰り返し単位の量が、式(A)で表される繰り返し単位の合計に対して10モル%以上50モル%未満であり、1級末端OH比率が95〜98.5%であることを特徴とするポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂からなる1液型水系コーティング組成物。
【化13】


【化14】


【化15】


【公開番号】特開2013−64140(P2013−64140A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243754(P2012−243754)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2009−541100(P2009−541100)の分割
【原出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】