説明

反応デバイス及びこれを用いた反応装置

【課題】バッチ処理における反応デバイスや待機時間の無駄を無くすと共に、簡便な蛍光検出と高速の温度変化を両立できる、微量な核酸を分析可能な反応デバイスを提供する。
【解決手段】熱応答性の良い金属薄板上に複数の反応ウェルを形成した反応デバイスを複数個配置し、全ての反応ウェルが同一円周上に配置されるようにすると共に、反応ウェル底部に凹部を形成する。反応ウェル内の凹部に微量な試料を保持することができるため、微量な試料と金属薄板の接触面積が大きくなることで熱応答の高効率化も図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料に含まれる核酸を増幅することによって生物学的試料を分析するための反応デバイスの構造及びこれを用いた反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液,血漿,組織片などの生物学的試料に含まれる核酸の分析は、生物学,生化学,医学などの学術研究ばかりでなく、診断,農作物の品種改良,食品検査といった産業など多岐の分野で行われている。核酸の分析方法としてもっとも広く普及している方法はPCR(Polymerase Chain Reaction)と呼ばれる、分析したい領域の核酸を塩基配列特異的に増幅させる技術である。PCRの応用として、分析したい核酸に蛍光ラベルを付加し、励起光を照射して経時的に蛍光強度を測定することで、微量の核酸を高感度に検出することも可能である。
【0003】
PCRでは、核酸とそれを増幅させるための試薬を含む溶液を、95℃程度に加熱して核酸を熱変性させ、その後60℃程度まで冷却して核酸のアニーリングと伸長反応を進めるというサイクルが30〜40回繰り返される。現在主流のPCR装置では、96〜384個の反応ウェルを有するマイクロタイタープレートと呼ばれる反応デバイスをペルチェ素子上に配置し、ペルチェ素子の温度を上下させることで温度サイクルを与えている。この方法では、ペルチェ素子そのものの温度変化に時間を要するため、分析時間の短縮に向けた大きな課題となっていた。
【0004】
非特許文献1は、温度サイクルの高速化に対する課題を解決するために、予め複数の温度に設定したヒータ上を、反応ウェルを有するディスク型の反応デバイスが接触回転する構造としたものである。ヒータを温度変化させる必要が無くなり、反応デバイスの温度変化を迅速に行うことが可能となっている。しかし、この構造は反応デバイス全体が熱伝導率の小さいプラスチックで構成されており、異なる設定温度のヒータへ接触回転移動した時の熱応答が悪くなってしまうという課題がある。
【0005】
この課題を解決する方法としては、例えば特許文献1にあるように、ヒータに接触する面を熱伝導率の大きい金属材料にすることが考えられる。特許文献1では、導管を塞ぐことが主たる目的のため、塑性変形可能な材料ということで金属材料を提案しているものであるが、熱応答という観点からも有用な構造である。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の文献でも極めて微量のサンプルの場合にはサンプルが球状になり、金属材料と接触する面積が減るため、熱応答が悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−516127号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tsuguto Fujimoto,et al., Jpn.J.Ingect.Dis., 63,31-35 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、微量サンプルであっても高い熱応答の反応デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する方法として、本発明の反応デバイスは溶液を収容する溶液収容部と、少なくとも溶液収容部の底部側に熱伝導性の第1層とを備え、溶液収容部の底部には溶液を保持する凹部を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による反応デバイスを用いることにより、反応ウェル底部に凹部を形成したことで微量な試料と金属薄板の接触面積が大きくなり、熱応答の高効率化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した反応デバイスを示す平面図である。
【図2】本発明を適用した反応デバイスを反応装置に搭載した模式的図である。
【図3】本発明を適用した反応デバイスを反応装置に一部だけ搭載した模式的図である。
【図4】本発明を適用した反応デバイスを示す平面図である。
【図5】本発明を適用した反応デバイスを示す平面図である。
【図6】本発明を適用した反応デバイスを示す平面図である。
【図7】本発明の比較例としての反応デバイスの断面構成を示す図である。
【図8】本発明の比較例としての反応デバイスの断面構成を示す図である。
【図9】本発明の比較例としての反応デバイスの平面構成を示す図である。
【図10】本発明を適用した反応デバイスの第1の断面構成を示す図である。
【図11】図10の反応デバイスの平面構成を示す図である。
【図12】図10に示す反応デバイスの拡大図である。
【図13】本発明の比較例としての反応デバイスの断面構成を示す図である。
【図14】本発明を適用した反応デバイスの第2の実施形態を示す断面図である。
【図15】本発明を適用した反応デバイスの第2の実施形態の斜視図である。
【図16】本発明を適用した反応デバイスの第3の実施形態を示す断面図である。
【図17】図16に示す反応デバイスの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る反応デバイスの構造及びこれを用いた反応装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の反応デバイスの平面図である。但し、本発明の特徴的構成については、以下の第1〜3の実施形態の欄で説明する。反応デバイス1には複数の反応ウェル2が、いずれも半径r1の円弧上に形成されている。反応ウェル2の数は、図1では8個としてあるが、もちろん、それよりも多くても構わないし、少なくても構わない。反応ウェル2の平面形状も、図1では円としてあるが、多角形であっても構わない。ここで、隣り合う反応ウェル2の間隔d1は全て一定としておく。間隔d1は必ずしも一定でなければならないということではないが、反応装置で反応ウェル2の蛍光強度を測定する際には、間隔d1が一定であった方が、信号処理が容易となるためである。反応デバイスの外形は、半径r1の円弧の中心oと同心で半径r1よりも小さい半径r2の円弧である外形境界10と、半径r1の円弧の中心oと同心で半径r1よりも大きい半径r3の円弧である外形境界11と、半径r2及び半径r3に正接する半径r4の円弧である外形境界12とで構成される。ここで、半径r4の円弧である外形境界12が半径r1の円弧に交わる交点13と、交点13に最も近接した反応ウェル2の間隔d2はd1の半分以下としておく。このようにすることで、複数の反応デバイス1を半径r1の円弧と同一の半径を有する円周上に干渉することなく配置することが可能となる。
【0015】
図2は、複数の温度に設定したヒータ上を接触回転してPCRを行う反応装置5に、図1で示した反応デバイス1を複数個配置した例を模式的に示したものである。反応デバイス1は、半径r1と同一半径を有する円周上を回転移動する。回転移動の制御は自由に設定して構わないが、反応デバイス1上の全ての反応ウェル2に同一の温度履歴を持たせることが可能である等速回転移動とすることが望ましい。図2では反応デバイス1を8個配置できる例を示しているが、反応デバイス1の設計によって最大搭載可能な反応デバイスの個数は自由に設定することが可能である。本発明の反応デバイスの場合、全ての反応ウェル2が同一半径r1の円周上に配置されているため、反応ウェル2へ励起光を照射して蛍光強度を測定する光学系29を同一半径r1の円周上に固定しておけば、全ての反応ウェル2が光学系29の下を通過するため、全ての反応ウェル2の蛍光強度測定が可能となる。図2では光学系29が1個の例を示しているが、複数種類の蛍光ラベルに対応できるように、光学系を複数個配置することが必要となる場合がある。その場合は、光学系29と同様に、同一半径r1の円周上の他の任意の場所に配置することが可能である。
【0016】
反応デバイス1の下面に配置されたヒータ21〜28はそれぞれ個別の温度に制御されているが、例えば、ヒータ21とヒータ22を95℃、ヒータ23〜28を60℃に制御しておけば、ヒータ21及びヒータ22上を反応デバイスが接触移動している時には核酸が熱変性し、ヒータ23〜28上を反応デバイスが接触移動している時には核酸のアニーリングと伸長反応が進むことになり、反応デバイスが円周方向に一周移動することでPCRを1サイクル行うことが可能となる。図2では、8個のヒータ21〜28全ての上に反応デバイス1が配置された例を示したが、分析したいサンプル数が少ない場合には、反応デバイスの数を減らし、必要な数の反応デバイスだけで分析を行うことが可能である。
【0017】
図3は、分析したいサンプル数が3個の場合を示したものであるが、反応デバイス1を3個反応装置5にセットすれば図2と同様の分析が可能である。図3では3個の反応デバイスを全て隣り合うように配置しているが、必ずしも隣り合う必要はなく、配置位置は自由に決めることができる。このように、本発明では分析したいサンプル数に応じて反応デバイスの数を自由に変更することができ、ディスク型反応デバイスでバッチ処理する場合と比べ、反応デバイスの無駄を軽減することが可能となる。
【0018】
PCRが開始されると、前述のように温度サイクルを30〜40回かける必要があり、その間3個の反応デバイス1はヒータ21〜28上を回転移動し続けることになる。ところが、分析を開始した後で新たに分析したいサンプルが生じる場合がある。ディスク型反応デバイスでバッチ処理する場合には、開始した分析が終了しなければ次のサンプルをセットすることはできないが、本発明の場合は、空いている場所があれば、反応デバイス1を追加挿入することが可能である。同様に、分析が終了したものがあれば、分析中の反応デバイスがヒータ上を回転移動していても、好きなタイミングでヒータ上から排出することが可能である。すなわち、分析したいサンプルを順次ヒータ上に挿入したり、終了したサンプルを順次ヒータ上から排出したりする連続ローディング/アンローディングが可能となる。このように、本発明では一度分析が開始されるとその分析が終了するまで次の分析が開始できないという待機時間を無くすことが可能となる。
【0019】
本発明においては全ての反応ウェル2が、同一半径r1の円周上を移動し、光学系29の下を通過するタイミングで蛍光強度の測定を行う。反応デバイス1が等速回転移動している場合、移動速度が速くなると、それに応じて各々の反応ウェル2に割り当てられる測定時間が短くなってしまうため、じゅうぶんな蛍光強度を得ることが難しくなる場合がある。
【0020】
図4は、本発明を適用した図1とは別の反応デバイスを示す平面図である。上記課題を解決するために、反応ウェル2の形状を、半径r1に沿うように湾曲させた長円構造としている。反応ウェル2の構造を図4に示すような湾曲長円構造にすることで、等速回転移動の場合でも各々の反応ウェルが光学系29の下を通過する時間が長くなり、それに伴って測定できる蛍光強度も大きくすることが可能となる。この場合も、半径r4の円弧である外形境界12が半径r1の円弧に交わる交点13と、交点13に最も近接した反応ウェル2の間隔d2は、隣り合う反応ウェル2の間隔d1の半分以下としておく。このようにすることで、複数の反応デバイス1を半径r1の円弧と同一の半径を有する円周上に干渉することなく配置することが可能となる。
【0021】
図5は、本発明を適用した反応デバイスを示す平面図である。反応デバイス1には複数の反応ウェル2が、いずれも半径r1の円弧上に形成されている。反応ウェルの数は、図5では8個としてあるが、もちろん、それより多くても構わないし、少なくても構わない。反応ウェル2の平面形状も、図5では円としてあるが、多角形であっても構わない。ここで、隣り合う反応ウェル2の間隔d1は全て一定としておく。間隔d1は必ず一定でなければならないということではないが、反応装置で反応ウェル2の蛍光強度を測定する際には、間隔d1が一定であった方が、信号処理が容易となるためである。反応デバイスの外形は、互いに平行な直線である外形境界10と外形境界11、及び外形境界10と外形境界11に垂直な外形境界14、及び外形境界10または外形境界11と外形境界14に正接する半径r4の円弧である外形境界12とで構成する。ここで、半径r4の円弧である外形境界12が半径r1の円弧に交わる交点13と、交点13に最も近接した反応ウェル2の間隔d2はd1の半分以下としておく。このようにすることで、複数の反応デバイス1を半径r1の円弧と同一の半径を有する円周上に干渉することなく配置することが可能となる。このように、反応デバイス1の形状を略長方形状にすることで、反応デバイスを取り扱う際に平行な2辺を挟み込んで保持することが可能となり、より安定した反応デバイスのハンドリングが可能となる。
【0022】
図6は、本発明を適用した反応デバイスを示す平面図である。基本的な構造は図4と同様であるが、半径r4の円弧である外形境界12が半径r1の円弧に交わる交点13に最も近接した反応ウェル2を2箇所欠落させ、代わりに穴3を外形境界近傍に配置したものである。このように反応ウェルを欠落させた場合でも、反応ウェル間の間隔d1は一定にしておくことが望ましい。欠落した反応ウェルの位置情報さえ把握しておけば、信号処理を容易にすることが可能となるためである。そして、隣り合う反応ウェル2の間隔d1で反応ウェルを配置した場合に存在するはずであった交点13に最も近接した反応ウェルの中心位置15と、半径r4の円弧である外形境界12が半径r1の円弧に交わる交点13の間隔d2はd1の半分以下としておく。このようにすることで、複数の反応デバイス1を半径r1の円弧と同一の半径を有する円周上に干渉することなく配置することが可能となる。図6では穴3を4個形成しているが、それより多くても構わないし、少なくても構わない。また、穴3の平面形状も、図6では円としてあるが、多角形であっても構わない。更に、図6では穴3を貫通させているが、必ずしも貫通させる必要はない。なお、図6では穴3を反応デバイス1の外形境界近傍に配置する都合上、半径r4の円弧である外形境界12が半径r1の円弧に交わる交点13に最も近接した反応ウェル2を2箇所欠落させたが、反応ウェル2を欠落させる必要がない位置に穴3を配置しても構わないし、反応デバイス1の中央付近の反応ウェルを欠落させて、中央付近に穴3を配置しても構わない。反応デバイスの一部に穴を形成しておくと、反応デバイスを取り扱う際に穴3に例えばピンを挿入するなどして固定させることができ、反応デバイス1のハンドリングをより確実に行うことが可能となる。
【0023】
次に、反応デバイス1の断面構造の詳細について説明する。この反応デバイスの説明の前に、比較例としての反応デバイスについて図7を用いて説明する。
【0024】
図7は、本発明の比較例としての反応デバイスの断面構成を示す図である。反応デバイス100は下面側から順に、薄板部410,厚板部420,蓋430の大きくは三層で構成される。厚板部420には貫通穴が設けられており、その側壁400と薄板部410で反応ウェル200を構成している。反応ウェル200内にはサンプル溶液460及びオイル470が納められている。そして、薄板部410と厚板部420の間及び厚板部420と蓋430の間には両者を貼りあわせるための接着層440及び450を有している。薄板部410はフラットな形状となっている。
【0025】
しかしながら、限られた試料を多くの反応ウェルに分配して多項目の分析を行おうとすると、項目数の増加に応じて各々の反応ウェル200に分配できるサンプル溶液が減少する。反応ウェル200内に納められるサンプル溶液460が極めて微量になると、図7(比較例)に示したようにサンプル溶液460が反応ウェル200の底面600全域をカバーすることができなくなり、図8(比較例)のようにサンプル溶液460が球状になる(薄い接着層440,450は図示せず)。球状になったサンプル溶液460は底面600が平面形状であると所望の位置に固定しておくことが難しく、図9(比較例)に示すようにサンプル溶液460の位置が半径r1の円周上に配置された光学系の照射検出領域700から外れてしまい、蛍光測定が行えなくなってしまう懸念がある。また、サンプル溶液460が球状になると、底面600と接触する領域が小さくなり、薄板部410を通して行われる熱伝達の効率が下がってしまう問題も発生する。
【0026】
〔第1の実施形態〕
図10は、本発明を適用した反応デバイス1の第1の断面構成を示す図である。反応デバイス1は下面側から順に、薄板部41,厚板部42,蓋43の大きくは三層で構成される。そして、薄板部41と厚板部42の間及び厚板部42と蓋43の間には両者を貼りあわせるための接着層44及び45を有している。薄板部41と厚板部42及び厚板部42と蓋43が直接接着することができる材料であれば接着層44及び45はなくても構わない。
【0027】
また、厚板部42には貫通穴が設けられており、その側壁4と薄板部41で反応ウェル2を構成している。反応ウェル2内にはサンプル溶液46及びオイル47が納められている。反応デバイス1をヒータ上に配置した場合、熱の伝達は主として下面側から薄板部41を通して行われるため、薄板部41は熱伝達率の大きい材料であることが望ましい。
【0028】
核酸分析に用いられる反応デバイスは一般にポリプロピレンなどの樹脂が用いられることが多いが、樹脂は熱伝達率が小さいため、薄板部41には、より熱伝達率の大きい金属を用いることが望ましい。
【0029】
更には、金属の中でも熱伝導率の良い銀,銅,金,アルミニウムなどを用いることが望ましい。また、熱伝達は、距離が小さいほど早く伝わり、損失も小さいことから、薄板部41の厚さt1はできる限り小さい方が望ましい。薄板部41に金属を用いた場合、サンプルを汚染する可能性がある。その場合は、接着層44をパッシベーション層と兼ねることが可能である。例えば、シリコーン材料系の接着剤を用いることができる。
【0030】
この場合も、下面からの熱伝達を早く行うためには接着層44の厚さt4をできる限り小さくすることが望ましい。厚板部42には様々な材料を採用することが可能である。例えば、核酸分析に一般的に用いられるポリプロピレンなどの樹脂を用いることができる。反応ウェル2に納められているサンプル溶液46及びオイル47への熱伝達は、下面側、すなわち薄板部41,接着層44側から行われるため、サンプル溶液46及びオイル47の高さt6,t7はできる限り小さくすることが望ましく、それに伴って厚板部42の厚さt2もできる限り小さくすることが望ましい。より具体的には、厚板部42の厚さt2は1mm以下、更に望ましくは0.5mm以下であることが望ましい。
【0031】
また、厚板部の材料を、可視光が透過し難い材料にすれば、隣り合うウェルとの光学的な干渉を遮断することが可能となり、蛍光強度測定におけるS/N比を改善させることも可能である。例えば、黒に着色されたポリプロピレンなどの樹脂を用いることができる。反応ウェル2にサンプル溶液46及び、オイル47を納めた後、厚板部42の上面に蒸発防止用の蓋43を取り付ける。ここでオイル47は、蓋43を取り付けるまでのサンプル溶液46の蒸発防止に用いるものであり、反応ウェル2へサンプル溶液46を十分早く収め、蓋43を取り付けることが可能であればオイル47はなくても構わない。
【0032】
本発明においては、反応デバイス1の下面にヒータを配置する都合上、蛍光強度の測定は反応デバイス1の上面側、すなわち蓋43及び接着層45を介して行われる。そのため、蓋43及び接着層45は可視光透過可能な材料である必要がある。これらの材料には、例えば予め接着層を有する粘着ポリプロピレンシートを用いることができる。蓋43及び接着層45の厚さt3,t5も、蛍光が減衰しないようできる限り小さくすることが望ましい。
【0033】
サンプル溶液46が極めて微量になった場合に、反応ウェル2内の所望の位置にサンプル溶液46を保持するための底面構造を有している。反応ウェル2の底面6の一部領域に凹部51が形成されている。凹部51の上面矢視形状は図10では円形であるが、多角形であっても構わない。また、凹部51の断面形状は、図10では半円形であるが、方形、その他の形状であっても構わない。また、図10では、凹部51を反応ウェル2の底面6の中心に配置しているが、光学系の照射検出が可能であれば、その配置は中心に限定されるものではない。凹部51にサンプル溶液46を滴下すれば、サンプル溶液46は凹部51に保持されるため、所望の位置にサンプル溶液46を配置することができる。
【0034】
図11は、サンプル溶液46を保持するための底面構造の第1の手段の効果を示す上面図である。凹部51を形成したことで、全ての反応ウェル2内に保持される微量なサンプル溶液46の位置を完全に半径r1の同一円周上に配置することができ、光学系を固定したまま確実に蛍光測定を行うことが可能となる。
【0035】
図12は、サンプル溶液46を保持するための底面構造の手段の効果を示す断面図である。薄板部41からサンプル溶液46への熱の流れ61を模式的に示したが、反応ウェル2の底面6に凹部51を形成したことで、薄板部41とサンプル溶液46の接触面積が大きくなり、熱の授受が効率よく行えるようになる。望ましくは、反応ウェル2の底面6と凹部51とで構成される体積を、サンプル溶液46の体積とほぼ同じもしくはやや小さめに設計する。更にこの構造では、光学系の照射検出領域7に、サンプル溶液46を全て包含することが可能となる。サンプル溶液が微量になると蛍光量も小さくなるが、発光する全ての蛍光を捉えることで測定感度の向上を図ることが可能となる。
【0036】
〔第2の実施形態〕
図13(比較例)は、図7で示した反応デバイス100が温度上昇時に示す振る舞いを示した断面図である。室温で蓋430を取り付けた反応デバイス1は、PCRの温度サイクル時に95℃程度に温度上昇することになる。その場合、サンプル溶液460が気化し、反応ウェル200の内部圧力が上昇する。蓋430がじゅうぶんな強度を持っていないと、この内部圧力の上昇で蓋430が変形し、場合によっては接着層450が厚板部420から剥がれて、反応ウェル間に連通部480が発生してしまう。連通部480が発生すると、連通した反応ウェル間でコンタミネーションが起こり、正確な分析ができなくなってしまう。そのため、強度を上げるために、蓋430を高剛性の材料とするか、蓋430の厚さt3を大きくするなどの対策を講じる必要が生じる。反応装置では、コンタミネーションを防止するために、分析に一度使用したデバイスは廃棄するのが一般的である。上記のような対策は、反応デバイス1の製造コスト増大につながるため、得策ではない。このような問題は、上記の本発明の第1の実施形態を示す、図10でも起こり得る。
【0037】
本実施形態を示す図14は、この課題を解決する、本発明を適用した反応デバイスの第2の断面構成を示す図である。図10に示した構成に加え、蓋43の上に着脱可能な重り49を付加している。重り49は蓋43の上面に配置されるため、直接サンプル溶液46とは接触せず、再利用が可能である。本発明においては、反応デバイス1の下面にヒータを配置する都合上、蛍光強度の測定は反応デバイス1の上面側、すなわち重り49,蓋43及び接着層45を介して行われる。そのため、重り49も可視光透過可能な材料である必要がある。この材料には、石英やガラスなどを用いることができる。石英やガラスは一般に可視光の透過率が大きいので、重り49の厚さt8は光学系の焦点距離などの制約は受けるものの、比較的大きくすることが可能で、温度上昇における反応ウェル2の内部圧力の上昇にじゅうぶん耐えることが可能となる。また、本発明の断面構成は、異なる材料の積層で実現されているため、複数の温度に設定したヒータ上を接触回転すると、バイメタル効果によって反応デバイスが歪む可能性がある。重り49を付加することで、この反応デバイスの歪みを抑制し、反応デバイスとヒータの密着度を向上させることで、熱伝達を効率良く行うことが可能となる。
【0038】
また、本発明の反応デバイスに95℃程度から60℃程度の温度サイクルを与えると、95℃で気化したサンプル溶液46が60℃程度に冷却された際に接着層45に結露する場合がある。結露した液滴は光学系29による蛍光強度測定の際に光の散乱をもたらし、信号強度の低下を招く。これを解決する方法としては、重り49を95〜100℃程度に温度制御しておくことで結露を防止すれば良い。重り49を温度制御する方法としては、離れた熱源からの輻射によって熱を与えてもよいし、蓋43に接触する重りの面50にITO(Indium Tin Oxide)などの可視光透過可能な材料でヒータを形成しても構わない。
【0039】
図10,図14に示した反応デバイス1の断面構成は、図1,図4,図5,図6で示したいずれの反応デバイス1の実施形態にも適用可能であり、いずれも図2で示したように複数の温度に設定したヒータ上を接触回転してPCRを行う反応装置に、複数個配置することが可能である。
【0040】
図15は、本発明を適用した本実施例の反応デバイスの断面構成で実現した構造を示す斜視図である。図15では、構造を分かりやすく表示するため、破線部を除去して示している。反応デバイス1は下面側から薄板部41,厚板部42,蓋43,重り49で構成されている。薄板部41と厚板部42の間及び厚板部42と蓋43の間にはそれぞれ薄い接着層44,45がある。厚板部42には貫通穴が設けられており、薄板部41を底面とする反応ウェル2を構成する。反応ウェル2にはサンプル溶液46及びオイル47が納められており、蓋43で封止されている。また、蓋43及び厚板部42,薄板部41には貫通する穴3が設けられており、穴3には反応デバイスを移動させる際にピンを挿入するなどして固定することが可能となっている。本実施例では、蓋43の長手方向の寸法が厚板部42の長手方向の寸法よりも短いため、蓋43に穴3は設けていないが、蓋43の長手方向の寸法が厚板部42の長手方向の寸法と同等の長さを有している場合には蓋43にも穴3を設ければよい。全ての反応ウェル2は半径r1の円弧上に配置されており、図2で示したように複数の温度に設定したヒータ上を接触回転してPCRを行う反応装置に、反応デバイス1を複数個配置した場合、全ての反応ウェルが同一半径r1の円周上に配置されることになる。
【0041】
〔第3の実施形態〕
図16は、サンプル溶液46が極めて微量になった場合に、反応ウェル2内の所望の位置にサンプル溶液46を保持するための底面構造の第2の手段を示した断面図である。反応ウェル2の底面6の一部領域に凸部52が形成されている。凸部52の上面矢視形状は図16では円形であるが、多角形であっても構わない。また、凸部52の断面形状は、図16では三角形であるが、方形、その他の形状であっても構わない。また、図16では、凸部52を反応ウェル2の底面6の中心に配置しているが、光学系の照射検出が可能であれば、その配置は中心に限定されるものではない。凸部52にサンプル溶液46を滴下すれば、サンプル溶液46は凹部51に保持されるため、所望の位置にサンプル溶液46を配置することができる。
【0042】
図17は、サンプル溶液46を保持するための底面構造の第2の手段の効果を示す断面図である。薄板部41からサンプル溶液46への熱の流れ61を模式的に示したが、反応ウェル2の底面6に凸部52を形成したことで、薄板部41とサンプル溶液46の接触面積が大きくなり、熱の授受が効率よく行えるようになる。望ましくは、凸部52の形状を球面に近づけ、できる限りサンプル溶液46と接触部となる表面積が大きくなるように設計する。更にこの構造では、光学系の照射検出領域7に、サンプル溶液46を全て包含することが可能となる。サンプル溶液が微量になると蛍光量も小さくなるが、発光する全ての蛍光を捉えることで測定感度の向上を図ることが可能となる。
【0043】
なお、上記のいずれの実施例においても、サンプルを保持する、凹部または凸部以外の領域に疎水処理膜を形成してもよい。このような膜を形成することにより、より確実にサンプルを所定の位置(凹部または凸部)に保持することができる。
【0044】
図2,図3で述べたように、反応装置には必要な数だけ反応デバイスが搭載され、複数の温度に設定したヒータ上を接触回転することでPCRを行い、光学系29の下を反応ウェル2が通過する際には蛍光強度の測定が行われる。既に測定を開始している反応デバイスがある場合でも、ヒータ上に空きがあれば、順次反応デバイスを挿入でき、測定が終了した反応デバイスは順次排出することができる。また、サンプル溶液46が微量であっても、図10,図14,図16で述べた底面構造とすることで、光学系29により確実に蛍光を捉えることが可能となる。
【0045】
以上のように、本発明の反応デバイスを用いることによって、光学系を固定したままで全ての反応ウェルの蛍光強度測定が可能で、複数反応デバイスの連続ローディング/アンローディング可能な高速PCR装置を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1 反応デバイス
2 反応ウェル
3 穴
4 貫通穴側壁
5 反応装置
6 反応ウェル底面
7 光学系の照射検出領域
10〜12,14 反応デバイスの外形境界
13 反応デバイスの外形境界と反応ウェルが形成される円弧の交点
15 反応ウェルが欠落した位置の中心
21〜28 ヒータ
29 光学系
41 薄板部
42 厚板部
43 蓋
44,45 接着層
46 サンプル溶液
47 オイル
49 重り
50 蓋に接触する重りの面
51 反応ウェル底面凹部
52 反応ウェル底面凸部
61 熱の流れ
100 反応デバイス
200 反応ウェル
400 貫通孔側壁
410 薄板部
420 厚板部
430 蓋
440,450 接着層
460 サンプル溶液
470 オイル
480 ウェル間連通部
600 反応ウェル底面
700 光学系の照射検出領域
d1 隣り合う反応ウェルの間隔
d2 反応ウェルと反応デバイス外形境界の間隔
o 反応ウェルが形成される円弧の中心
r1 反応ウェルが形成される円弧の半径
r2〜4 反応デバイスの外形境界を形成する円弧の半径
t1 薄板部厚さ
t2 厚板部厚さ
t3 蓋厚さ
t4,t5 接着層厚さ
t6 サンプル溶液高さ
t7 オイル高さ
t8 重り厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む溶液の温度制御に用いる反応デバイスであって、
溶液を収容する溶液収容部と、少なくとも溶液収容部の底部側に熱伝導性の第1層とを備え、
溶液収容部の底部には溶液を保持する凹部を有することを特徴とする、反応デバイス。
【請求項2】
試料を含む溶液の温度制御に用いる反応デバイスであって、
溶液を収容する溶液収容部と、少なくとも溶液収容部の底部側に熱伝導性の第1層とを備え、
溶液収容部の底部には溶液を保持する凸部を有することを特徴とする、反応デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の反応デバイスであって、
第1層の上部に、上記溶液収容部の側壁を構成する第2層を備えていることを特徴とする、反応デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の反応デバイスであって、
溶液収容部を複数備え、
上記第2層は、隣接する溶液収容部間の光学的な干渉を防止することを特徴とする、反応デバイス。
【請求項5】
請求項3に記載の反応デバイスであって、
第2層の上部には、溶液収容部に収容された溶液の蒸発を防止する、第3層を備えていることを特徴とする、反応デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の反応デバイスであって、
第3層の上部には、第3層の撓みを防止する重りとしての第4層を備えていることを特徴とする、反応デバイス。
【請求項7】
請求項3に記載の反応デバイスであって、
上記第1の層と、第2の層の間には、接着層を有することを特徴とする、反応デバイス。
【請求項8】
請求項1に記載の反応デバイスであって、
溶液収容部の底面の凹部以外の箇所に疎水膜を設けたことを特徴とする、反応デバイス。
【請求項9】
請求項2に記載の反応デバイスであって、
溶液収容部の底面の凸部以外の箇所に疎水膜を設けたことを特徴とする、反応デバイス。
【請求項10】
請求項5に記載の反応デバイスであって、
第3層は、可視光を透過可能な材料から成ることを特徴とする、反応デバイス。
【請求項11】
請求項6に記載の反応デバイスであって、
第4層は、可視光を透過可能な材料から成ることを特徴とする、反応デバイス。
【請求項12】
試料を含む溶液を収容する溶液収容部と、少なくとも溶液収容部の底部側に熱伝導性の第1層とを備えた反応デバイスと、
溶液収容部内の溶液の温度を調節する温度調節部と、を有し、
反応デバイスを複数備え、着脱可能であり、
溶液収容部の底部には溶液を保持する凹部を有することを特徴とする、反応装置。
【請求項13】
試料を含む溶液を収容する溶液収容部と、少なくとも溶液収容部の底部側に熱伝導性の第1層とを備えた反応デバイスと、
溶液収容部内の溶液の温度を調節する温度調節部と、を有し、
反応デバイスを複数備え、着脱可能であり、
溶液収容部の底部には溶液を保持する凸部を有することを特徴とする、反応装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の反応装置であって、
上記温度調整部は、個別温調可能な複数の温調部が隣接して成ることを特徴とする、反応装置。
【請求項15】
請求項14に記載の反応装置であって、
反応デバイスを移動させる駆動部を備え、反応デバイスは駆動部によって温調部間を移動することを特徴とする、反応装置。
【請求項16】
請求項12または13に記載の反応装置であって、
反応デバイスは、温度調整部上で移動可能であることを特徴とする、反応装置。
【請求項17】
請求項12または13に記載の反応装置であって、
反応デバイスには溶液収容部が複数設けられ、各溶液収容部は円弧状に配置されていることを特徴とする、反応装置。
【請求項18】
請求項17に記載の反応装置であって、
溶液収容部の平面形状が上記円弧状に沿って湾曲した長円形状であることを特徴とする、反応装置。
【請求項19】
請求項12または13に記載の反応装置であって、
励起光を照射して、蛍光を観察する光学ユニットを有することを特徴とする、反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−12(P2013−12A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131793(P2011−131793)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】