説明

反応プレートおよび自動分析装置

【課題】遠心力で試薬または検体を反応セルに送液する分析処理において、分析時間を短縮し、分析処理の労力を軽減させる自動分析装置を提供すること。
【解決手段】自動分析装置1は、複数のセルとセル間を繋ぐ移送流路とを有し、遠心力方向に対して垂直方向の該移送流路の断面積を変化させて形成した反応プレート20と、反応プレート20を保持する回転体11と、回転体11の回転によって検体、試薬または反応液の移送流路の流通を制御する回転制御部32と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬とを反応容器内で反応させ、この反応の結果を光学的に測定することによって検体の成分を分析する際に用いる反応プレートおよびこれを用いた自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や体液等の検体を自動的に分析する装置として、検体および試薬を反応容器に分注し、検体と試薬とを反応させた後、この検体と試薬との反応液の吸光度を測定して自動的に検体を分析する分析装置が知られている。また、回転体上に配置され、セル間が流路で連結されている反応プレートの分注セルに検体及び試薬又は検体と試薬との混合液を分注して、回転体を回転させることによって生じる遠心力を利用して検体と試薬との反応液を送液制御する送液装置および送液方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−330857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す送液方法では、検体と試薬とを1つのセルに分注するため、段階的に反応させる場合、分注又は分注と回転とを繰り返す必要があり、分析作業に時間と労力を要していた。また、流路間に試薬を配置させると、反応時間が確保し難いため、分析精度に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、検体および試薬のセルへの送液を調節することで、作業時間を短縮することができる反応プレートおよびこれを用いた自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる反応プレートは、複数のセルと前記セル間を繋ぐ移送流路とを有し、所定のセルに検体及び試薬をそれぞれ分注して、回転体の回転から得られる遠心力によって前記検体及び前記試薬を前記移送流路に流通させて反応させる反応プレートにおいて、前記セルに収容された流体にかかる遠心力に応じて、該遠心力方向に対して垂直方向の前記移送流路の断面積を変化させて該断面積の大小に応じて増減するラプラス力を調整し、該調整された前記ラプラス力が、前記遠心力に比して大きい場合に前記流体を流動し、前記遠心力に比して小さい場合に前記流体の流動を停止することを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる反応プレートは、上記の発明において、前記遠心力は、該遠心力方向に対する前記移送流路の流動方向の角度に応じて生ずる該流動方向の力成分であり、前記角度を変化させて前記力成分を調整させることによって、前記ラプラス力を調整することを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる反応プレートは、上記の発明において、前記移送流路は、流路表面の少なくとも一部が疎水性であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる反応プレートは、上記の発明において、前記移送流路は、該移送流路内の一部の断面積を小さくさせる障壁を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる反応プレートは、上記の発明において、前記移送流路は、反応を行う順序に従って前記流体の前記ラプラス力が大きくなるように前記断面積および/または前記角度を変化させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、複数のセルと前記セル間を繋ぐ移送流路とを有し、遠心力方向に対して垂直方向の該移送流路の断面積を変化させて形成した反応プレートと、前記反応プレートを保持する回転体と、前記回転体の回転によって前記検体、前記試薬または反応液の前記移送流路の流通を制御する回転制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記回転制御手段は、前記回転体の回転速度を変化させることによって前記検体、前記試薬または反応液の流通を制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記回転体上の前記反応プレートを径方向に移動する移動手段を備え、位置を移動することによって前記反応プレートが受ける角速度の差異を利用して前記検体、前記試薬または前記反応液の前記移送流路の流通を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記回転体は、該回転体上の前記反応プレートを保持し、該反応プレートの中心を軸として回転する回転部を有し、前記回転制御手段は、対象移送流路の流動方向が遠心力方向となるよう前記回転部を回転させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記検体及び前記試薬を分注する分注機構を備え、前記回転体が回転を開始する前に、前記検体及び前記試薬を前記反応プレートの所定のセルに分注することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、反応プレートの各セル間を繋ぐ流路の断面積を、遠心力と流体が有するラプラス力とに対応させて形成し、反応プレートを保持する回転体の回転を制御する回転制御部を備えたことで、回転前に検体及び使用するすべての試薬を分注し、回転の制御によって段階的に送液できるようにしたので、回転の停止と分注を繰り返す必要がなく、分析処理の時間を短縮するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態である自動分析装置について説明する。なお、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる自動分析装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、自動分析装置1は、検体および試薬を反応プレート20にそれぞれ分注し、分注した反応プレート20内で生じる反応を光学的に測定する測定機構10と、測定機構10を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構10における測定結果の分析を行う制御機構30とを備える。自動分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の生化学的、免疫学的あるいは遺伝学的な分析を自動的に行う。
【0019】
測定機構10は、大別して回転体11、測光部12、試薬分注部13、14、検体移送部17、検体分注部18を備える。また、制御機構30は、制御部31、回転制御部32、分注制御部33、入力部34、分析部35、記憶部36および出力部37を備える。測定機構10および制御機構30が備えるこれらの各部は、制御部31に電気的に接続されている。
【0020】
回転体11は、図示しない駆動機構が駆動することによって、回転体11の中心を通る鉛直線を回転軸として回動自在である。回転体11の上方と下方には、図示しない開閉自在な蓋と温度調節機構とを設けるのが好ましい。
【0021】
測光部12は、所定の測光位置に搬送された反応プレート20内の試料を透過した光を受光して強度測定を行う。この測光部12による測定結果は、制御部31に出力され、分析部35において分析される。また、反応プレート20内の反応液が発光する微弱な光を測光する光電子増倍管を有してもよい。なお、反応液から発生する蛍光を測定する場合、測光部12は、励起光を照射するための光源を設ければよい。
【0022】
試薬分注部13,14は、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行うアーム13a,14aを備える。このアーム13a,14aの先端部には、検体の吸引および吐出を行うプローブが取り付けられている。試薬分注部13,14は、図示しない吸排シリンジまたは圧電素子を用いた吸排機構を備える。試薬分注部13,14は、試薬容器15a,16aの中からプローブによって検体を吸引し、アーム13a,14aを図中矢印方向に旋回させ、反応プレート20の所定のセルに検体を吐出して分注を行う。
【0023】
試薬庫15,16は、反応プレート20内に分注される試薬が収容された試薬容器15a,16aを複数収納できる。試薬庫15,16には、複数の収納室が等間隔で配置されており、各収納室には試薬容器15a,16aが着脱自在に収納される。試薬庫15,16は、制御部31の制御のもと、図示しない駆動機構が駆動することによって、試薬庫15,16のそれぞれの中心を通る鉛直線を回転軸として時計回りまたは反時計回りに回動自在であり、所望の試薬容器15a,16aを試薬分注部13、14による試薬吸引位置まで移送する。試薬庫15,16の上方には、開閉自在な蓋(図示せず)が設けられている。また、試薬庫15,16の下方には、保冷槽が設けられている。このため、試薬庫15,16内に試薬容器15a,16aが収納され、蓋が閉じられたときに、試薬容器15a内に収容された試薬を一定の温度状態に保ち、試薬容器15a,16a内に収容された試薬の蒸発や変性を抑制することができる。
【0024】
検体移送部17は、血液や尿等、液体である検体を収容した複数の検体容器17aを保持し、図中の矢印方向に順次移送する複数の検体ラック17bを備える。検体移送部17上の所定位置に移送された検体容器17a内の検体は、検体分注部18によって、回転体11上の所定の位置に搬送される反応プレート20に分注される。
【0025】
検体分注部18は、試薬分注部13,14と同様に、検体の吸引および吐出を行うプローブが先端部に取り付けられたアーム18aを備える。アーム18aは、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行う。検体分注部18は、検体容器17a内の試薬をプローブによって吸引し、アーム18aを図中矢印方向に旋回させ、回転体11上の所定位置に搬送された反応プレート20の所定のセルに分注する。
【0026】
反応プレート20は、光源から出射された分析光(340〜800nm)に含まれる光の80%以上を透過する光学的に透明な素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂によって成形されたプレートを用いる。反応プレート20に形成された所定のセルには、近傍に設けた作動部である試薬分注部13,14によって試薬庫15,16の試薬容器15a,16aから試薬が分注され、検体分注部18によって検体ラック17bの検体容器17aから検体が分注される。
【0027】
つぎに、制御機構30について説明する。制御部31は、CPU等を用いて構成され、自動分析装置1の各部の処理および動作を制御する。制御部31は、これらの各構成部位に入出力される情報について所定の入出力制御を行い、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行う。また、制御部31は、回転制御部32と分注制御部33を有する。回転制御部32は、回転体11の回転開始および停止または回転速度の制御を行う。分注制御部33は、検体及び試薬の分注の制御を行う。
【0028】
入力部34は、キーボード、マウス等を用いて構成され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。分析部35は、測光部12から取得した測定結果に基づいて吸光度または発光強度を演算し、検体の成分分析等を行う。記憶部36は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、自動分析装置1が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて構成され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。記憶部36は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体に記憶された情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えてもよい。出力部37は、プリンタ、通信機構等を用いて構成され、検体の分析結果を含む諸情報を出力する。
【0029】
以上のように構成された自動分析装置1では、反応プレート20に対して、検体分注部18が検体容器17a中の検体を分注し、試薬分注部13,14が試薬容器15a,16a中の試薬を分注した後、検体と試薬を反応させて、測光部12が反応液の光測定を行い、この測定結果を分析部35が分析することで、検体の成分分析等が自動的に行われる。この一連の分析動作が連続して繰り返し行われる。
【0030】
つぎに、本実施の形態1にかかる反応プレート20について、図2を参照して詳細に説明する。図2は、反応プレート20を上方から見た模式図であり、分注セル21,22,24及び反応セル23,25が形成されている。また、このセル間は移送流路21a,22a,23a,24aで連結され、移送流路の径は、移送流路21a,22aに比して移送流路23a,24aの径は小さくなっている。そのため、移送流路21a,22aは、分注セル21,22に分注された試薬と検体とが回転体11の回転によってかかる遠心力で同時に反応セル23に移送され、移送流路23a,24aは、上述した回転速度では移送されず、回転速度を一段階上げた場合に試薬及び反応液が反応セル25送液されるように設定されている。なお、遠心力方向と異なる角度の移送流路を設けるため、当該移送流路にかかる力と角度とを考慮して径を設定する必要がある。
【0031】
また、移送流路21a,22a,23a,24aの断面積の各径は、ラプラス力によって移送流路の流通が停止され、遠心力の付加によって流路間を流通するよう設定される。ラプラス力は、検体、試薬、または反応液の表面張力、移送流路に対する検体、試薬、または反応液の接触角、流路幅、流路深さによって決定され、毛細管力による液の流通を抑制している。ここで、γを表面張力、θを接触角、wを流路幅、hを流路深さ(移送流路の断面が円であればwと同値)とした場合、次式によって決定されるラプラス力Pと、回転体11の回転によって各移送流路に収容された流体にかかる遠心力とを比較してwおよびhが設定される。
【0032】
P=2γ(1/w+1/h)Sinθ
【0033】
なお、移送流路21a,22a,23a,24aのそれぞれにかかるラプラス力PをP21,P22,P23,P24とし、反応セルにかかる遠心力CをC1,C2とすると、ラプラス力Pと遠心力Cとの関係は、P21=P22<C1<P23=P24<C2の関係が成り立つ。この関係を満たす回転速度およびw,hを設定することによって、段階的な送液を行なうことができる。なお、遠心力Cとラプラス力との関係において、遠心力方向に対する移送流路の流動方向の角度に応じて生ずる遠心力Cの流動方向の力成分をもとに各ラプラス力Pが調整され、遠心力Cとラプラス力との調整は、遠心力Cに対する移送流路の角度を調整して行ってもよい。また、移送流路の角度、流通する液体の表面張力によって、移送流路の断面積の大きさと、送液を行なう順序が逆転する場合がある。
【0034】
分析処理は、回転体11の径に対して長手方向が平行に配置される反応プレート20において、先ず分注セル21に第1試薬、分注セル22に検体、分注セル24に第2試薬が分注される(図2(a))。その後、回転制御部32が回転体11を回転させることによって生じた遠心力により第1試薬と検体が移送流路21a,22aを流通して反応セル23に流れ込む(図2(b))。なお、反応プレート20にかかる遠心力は、矢印Xで示す図2鉛直下方向である。
【0035】
つぎに、回転制御部32によって回転体11の回転速度が上げられ、第1試薬と検体とが反応した第1反応液は、反応セル23から移送流路23aを流通して反応セル25へ流れ込む。ここで、分注セル24に分注されている第2試薬も移送流路24aを流通して反応セル25に流れ込むために、第2試薬と反応液とが混合して反応する。この第2反応液は、反応セル25に収容され測光部12が光学的測定を行う(図2(c))。
【0036】
また、本発明の反応プレート20の移送流路の壁面は、疎水性であることが望ましい。図3は、図2のA−A線断面において、分注セル22に試薬Rが収容された場合を示している。移送流路22aの壁面を疎水性とすることで一層試薬Rの表面張力大きくなり、ラプラス力の効果を得ることができ、反応セル23への流出を防ぐことが可能となる。なお、上述した式が働く位置は、図3中の停止点Zである。さらに、効率良く反応セルに送液するには、分注セル及び反応セルを親水性にし、液の流動性を向上させることが好ましい。ここで、反応プレート20に用いられる素材が親水性である場合は、移送流路の壁面を撥水剤等でコーティングすればよい。なお、疎水性に差異があり、分注セルおよび反応セルの壁面が、移送流路の壁面と比して親水性であれば効果を得ることができる。疎水性にする領域は、移送流路壁面全体でもよく、一部でもよい。
【0037】
ここで、試薬または検体を分注する分注孔221と、移送流路22aを流通し、反応セル23に流れ込んだ流体の吸引等を行なうことが可能な開放孔231とを有し、開放孔231を閉鎖して反応セル内部の圧力調整を行なうことも可能である。
【0038】
続いて、反応プレート20の各セルと各移送流路との形状について、図4,5を用いて説明する。図4は、図2のA−A線断面図を示し、図5は、図2のB−B線断面図を示している。
【0039】
図4において、図3でも示したように、分注セル22の分注孔221から分注される検体または試薬は、外的要因等で振動が起こった場合でも移送流路22aの径によってラプラス力が働き、反応セル23への流出が防止される。同様に、図5においても、分注セル24と反応セル25が移送流路24aによって連結され、流体が有するラプラス力によって移送流路24aへの流出が防止される。また、試薬または検体を分注する分注孔241と、移送流路24aを流通し、反応セル25に流れ込んだ流体の吸引等を行なうことが可能な開放孔251とを有する。ここで、移送流路22a,24aは、断面積(流路幅)が異なっており、流体が移送流路内を流通できる遠心力を異にすることで回転体11の回転速度によって送液を段階的に行うことを可能としている。また、分注セル22,24及び反応セル23,25の底部を円状に形成することで、反応液が流れ込んだ場合の液の流通を穏やかにして壁面への衝撃を防ぎ、比較的弱い反応であっても反応した結合の解離を抑制する。なお、分注セル21に関しても同様の構成を有する。
【0040】
図6は、実施の形態1の分析処理に関するフローチャートを示しており、このフローチャートを用いて一連の分析処理を説明する。
【0041】
まず、制御部31は、分析指示を受けると、検体と試薬を所定の分注セルに分注するよう分注制御部33に指示する(ステップS102)。検体及び試薬の分注が終了すると、制御部31は、回転体11を第1速度で回転させるよう回転制御部32に指示する(ステップS104)。所定時間経過後、回転制御部32は回転体11を第2速度で回転させる(ステップS106)。その後、測光部12が、反応プレートの反応セルに収容された反応液の光学特性の測定を行う(ステップS108)。測光処理終了後、制御部31に次検体の分析指示がある場合(ステップS110:Yes)、ステップS102に移行して次の検体の分析処理を行う。また、次の検体の分析指示がない場合(ステップS110:No)、分析処理を終了する。上述した分析処理が繰り返し行われることによって、検体が分析される。
【0042】
また、本発明の反応プレートは、蛍光物質や酵素を用いた免疫分析のような3段階以上の反応過程を要する分析にも用いることが可能である。図7に、免疫分析に用いる反応プレート40の模式図を示す。反応プレート20と同様にして分注セル41,42,44,46と、反応セル43,45,47とが形成される。速度を3段階に設定し、各遠心力から移送流路の径の大きさを設定することで3段階の反応が可能となる。先ず、回転制御部32は、第1速度の遠心力によって移送流路41a,42aを流通するように設定し、検体及び第1試薬を第1反応セル43に流通させる。その後、回転制御部32は、第2速度で回転体11を回転させて、第1反応液と第2試薬とを移送流路43a,44aを流通させて第2反応セル45へと送液する。最後に、回転制御部32が第3速度で回転体11を回転させることによって、第2反応液と基質または酵素とを移送流路45a,46aに流通させて反応セル47へと送る。第3反応を行った後、測光部12によって光学特性を測定する。
【0043】
なお、各移送流路の断面積は、移送流路内の一部を変化させてもよい。図8は、図2に示す反応プレート50の変形例を示す模式図である。図8に示す反応プレート50は、分注セル51,52,54および反応セル53,55を連結する移送流路51a,52a,53a,54a中に突起部51b,52b,53b,54bを設け、移送流路51a,52a,53a,54aと、突起部51b,52b,53b,54bとが形成する断面積によって、ラプラス力を調整し、流体の移送流路への流通を制御する。突起部51b,52b,53b,54bは、反応を行なう順序に応じて段階的に突起の高さを高くして移送流路とによって形成する断面積を縮小する。なお、各突起部51b,52b,53b,54bは、突起部全体または一部が移送流路に比して疎水性となるように形成して、流通させる液体の表面張力を調整してもよい。
【0044】
また、図9は、図8に示す反応プレート50のC−C線断面を示す断面図である。図9に示す反応プレート50は、分注セル52と反応セル53とが移送流路52aによって連結され、分注セル52には、試薬または検体を分注する分注孔521が形成され、反応セル53には、開放孔531が形成されている。また、移送流路52a内には、突起部52bが形成され、移送流路52aの断面積が、上述したラプラス力に応じた断面積となるように突起部52bの高さが調整される。
【0045】
ここで、従来の自動分析装置においては、移送流路が制御されていないために遠心力がかかるとすべての溶液が同時に流出していた。そのため、多段階の反応においては、反応毎に回転を停止して次の反応に用いる試薬を分注していた。
【0046】
これに対して、実施の形態1にかかる反応プレートおよび自動分析装置においては、ラプラス力に応じて移送流路の断面積に差異を設けたことによって送液を制御することが可能となり、回転体を回転する前に用いる検体及び試薬をすべて分注することができる。これによって、回転を停止して試薬の分注を行う必要がなく、分析時間を短縮し、分析処理にかかる労力を少なくすることが可能となる。また、反応プレートにセルを形成することで多段階反応にも対応することが可能となる。
【0047】
なお、実施の形態1にかかる反応プレートにおいて、送液を行う順序は、反応の順序通りに試薬が混合されるのであれば、第2、第3試薬を最初に所定の反応セルに流出させるようにしても良い。また、遠心力をかけて送液する場合に、液の飛散や外圧によるラプラス力の変化の可能性があれば分注孔および開放孔を蓋等で封鎖しても良い。さらに、分析の効率を向上させるために、回転体11上に複数枚の反応プレート20を設置して分析しても良い。
【0048】
(実施の形態2)
図10は、実施の形態2にかかる自動分析装置1の構成を示す模式図である。実施の形態1と同様、図10に示すように、自動分析装置1は、検体および試薬を反応プレート20にそれぞれ分注し、分注した反応プレート20内で生じる反応を光学的に測定する測定機構10と、測定機構10を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構10における測定結果の分析を行う制御機構30とを備える。
【0049】
実施の形態2では、回転制御部32aは一定の速度で回転体11を回転させ、反応プレート20の位置を変えることで反応プレート20が回転体の回転から受ける角速度による遠心力の差異によって送液の調節を行う。図10に示すように、反応プレート20は、プレート保持部191によって保持され、移動制御部38がプレート保持部191内の反応プレート20を径方向に移動させることで位置を移動する。
【0050】
図11は、プレート保持部191と反応プレート20とを示す模式図である。ホルダ191aは、径方向に伸長した反応プレート20を保持するもので、ホルダ積載孔191bに載置されている。また、遠心力によって反応プレート20が径外方向に滑らないように、ホルダ191aには凸部が形成されている。ホルダ191aは、移動制御部38が図示しない駆動部を駆動させることによってスライドし、反応プレート20の位置を移動させる。
【0051】
図12は、本実施の形態2の分析処理に関するフローチャートを示しており、このフローチャートを用いて一連の分析処理を説明する。
【0052】
まず、制御部31は、分析指示を受けると、検体と試薬を所定の分注セルに分注するよう分注制御部33に指示する(ステップS202)。検体及び試薬の分注が終了すると、制御部31は、ホルダ191aを移動させて反応プレート20を第1回転位置に配置するよう移動制御部38に指示する(ステップS204)。つぎに、制御部31は回転制御部32aに回転体11を回転させるよう指示を出す(ステップS206)。所定時間経過後、回転制御部32aは回転体11を停止させ(ステップS208)、移動制御部38が、ホルダ191aを移動させて反応プレート20を第2回転位置に配置する(ステップS210)。反応プレート20が第2回転位置に配置されると、回転制御部32aが回転体11を回転させ(ステップS212)、所定時間経過後に回転を停止する(ステップS214)。その後、測光部12が、反応プレート20の反応セルに収容された反応液の光学特性の測定を行う(ステップS216)。測光処理終了後、制御部31に次検体の分析指示がある場合(ステップS218:Yes)、ステップS202に移行して次の検体の分析処理を行う。また、次の検体の分析指示がない場合(ステップS218:No)、分析処理を終了する。上述した分析処理が繰り返し行われることによって、検体が分析される。
【0053】
なお、実施の形態2の回転体11の回転速度は、送液のタイミングが制御できれば速度を変化させても良い。また、3段階以上の反応を行う場合は、ホルダ191aの移動を3段階に設定しても、3回目以降の反応過程を回転速度によって送液制御しても良い。
【0054】
ここで、実施の形態2にかかる自動分析装置においては、実施の形態1と同様に、移送流路に障壁を設けたことによって送液を制御することが可能となり、回転体を回転する前に用いる検体及び試薬をすべて分注することが出来る。これによって、回転を停止して試薬の分注を行う必要がなく、分析時間を短縮し、分析処理にかかる労力を少なくすることが可能となる。また、速度を一定にすることによって容易な制御で送液を調節することが出来る。
【0055】
(実施の形態3)
図13は、実施の形態3にかかる自動分析装置1の構成を示す模式図である。実施の形態1,2と同様、図13に示すように、自動分析装置1は、検体および試薬を反応プレート60にそれぞれ分注し、分注した反応プレート60内で生じる反応を光学的に測定する測定機構10と、測定機構10を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構10における測定結果の分析を行う制御機構30とを備える。
【0056】
実施の形態3では、回転制御部32bは一定の速度で回転体11を回転させ、反応プレート60の回転体11の回転によってかかる遠心力の向きに対して反応プレート60の向きを変えることで、反応プレート60が回転体11の回転から受ける遠心力方向の差異によって送液の調節を行う。図13に示すように、回転体11は、反応プレート60を保持し、反応プレート60の中心を軸として反応プレート60を回転させる回転部192を有し、回転制御部32bは、回転体11と回転部192の回転をそれぞれ制御する。
【0057】
つぎに、本実施の形態3にかかる反応プレート60について、図14を参照して説明する。図14は、反応プレート60を上方から見た模式図であり、分注セル61,62,64,66及び反応セル63,65,67が形成されている。また、このセル間は移送流路61a,62a,63a,64a,65a,66aで連結され、各移送流路の断面積は、同一である。各断面積は、回転体11の回転によってかかる遠心力に応じて、流通が可能になるよう設定される。移送流路61a,62a、移送流路63a,64a、および移送流路65a,66aは、移送流路内の流体の流通方向がそれぞれ異なり、回転部192の回転によって遠心力方向と各移送流路の流通方向を制御して段階的な送液を行なう。
【0058】
分析処理は、回転体11の回転によってかかる遠心力方向に対して、移送流路61a,62aの流通方向が向くように反応プレート60を配置し、たとえば、分注セル61に第1試薬、分注セル62に検体、分注セル64に第2試薬、分注セル66に基質または酵素が分注される(図14(a))。その後、回転制御部32bが回転体11を回転させることによって生じた遠心力により第1試薬と検体が移送流路61a,62aを流通して反応セル63に流れ込む(図14(b))。なお、反応プレート60にかかる遠心力は、矢印Yで示す図14鉛直下方向である。
【0059】
つぎに、回転制御部32bによって、遠心力方向に対して移送流路63a,64aの流通方向が向くように回転部192が回転する(図14(c))。回転体11の回転によって、第1試薬と検体とが反応した第1反応液は、反応セル63から移送流路63aを流通して反応セル65へ流れ込む。ここで、分注セル64に分注されている第2試薬も移送流路64aを流通して反応セル65に流れ込むために、第2試薬と反応液とが混合して反応する(図14(d))。その後さらに、回転制御部32bによって、遠心力方向に対して移送流路65a,66aの流通方向が向くように回転部192が回転する(図14(e))。回転体11の回転によって、第1反応液と第2試薬とが反応した第2反応液は、反応セル65から移送流路65aを流通して反応セル67へ流れ込む。ここで、分注セル66に分注されている基質または酵素も移送流路66aを流通して反応セル67に流れ込むために、第2反応液と基質または酵素とが混合して反応する(図14(f))。この第3反応液は、反応セル67に収容され測光部12が光学的測定を行う。
【0060】
なお、段階的な送液が可能であれば、移送流路の断面積が異なっていてもよく、回転速度を変化させてもよい。各移送流路の断面積は、流通する流体の表面張力によって調整可能である。また、反応プレート60の回転軸は、反応プレート60の中心でなくてもよい。
【0061】
ここで、制御部31が行なう分析処理について、図15を参照して説明する。図15は、本発明の実施の形態3にかかる分析処理を示すフローチャートである。
【0062】
まず、制御部31は、分析指示を受けると、所定の向きに配置され反応プレート60の所定の分注セルに検体と試薬を分注するよう分注制御部33に指示する(ステップS302)。検体及び試薬の分注が終了すると、制御部31は、回転体11を回転させるよう回転制御部32bに指示する(ステップS304)。所定時間経過後、回転制御部32bは、回転体11を停止させ(ステップS306)、回転部192を回転させて反応プレート60を第2送液位置に配置する(ステップS308)。反応プレート60が第2送液位置に配置されると、制御部31は、回転体11を回転させるよう回転制御部32bに指示し(ステップS310)、所定時間経過後に回転を停止させる(ステップS312)。その後、制御部31は、回転部192を回転させて反応プレート60を第3送液位置に配置するよう回転制御部32bに指示する(ステップS314)。反応プレート60が第3送液位置に配置されると、制御部31は、回転体11を回転させるよう回転制御部32aに指示し(ステップS316)、所定時間経過後に回転を停止させる(ステップS318)。第3送液位置での送液終了後、測光部12が、反応プレート60の反応セル67に収容された反応液の光学特性の測定を行う(ステップS320)。測光処理終了後、制御部31に次検体の分析指示がある場合(ステップS322:Yes)、ステップS302に移行して次の検体の分析処理を行う。また、次の検体の分析指示がない場合(ステップS322:No)、分析処理を終了する。上述した分析処理が繰り返し行われることによって、検体が分析される。
【0063】
なお、上述した実施の形態1〜3において、撹拌が必要な場合は振動子や音波、超音波等の撹拌機構を備えてもよい。また、上述した反応プレートは、各反応セルに予め分注された反応プレートに対して遠心器等を用いて反応処理を行ってもよい。ここで、上述した実施の形態1〜3の分析処理において、所定の反応時間がある場合は、回転体11の回転処理終了後、反応時間を設けてもよい。
【0064】
また、上述した実施の形態1〜3に限らず、たとえば、検体の遺伝学的な分析を行う自動分析装置に対して適用することも可能である。すなわち、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる自動分析装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる反応プレートにおける送液を説明する図である。
【図3】図2のA−A線断面であり、分注セルに溶液が収容されている場合を示す断面図である。
【図4】図2に示す反応プレートのA−A線断面図である。
【図5】図2に示す反応プレートのB−B線断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1にかかる分析処理を示すフローチャートである。
【図7】免疫分析に応用した反応プレートを示す模式図である。
【図8】図2に示す反応プレートの変形例を示す模式図である。
【図9】図8に示す反応プレートのC−C線断面を示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2にかかる自動分析装置の概略構成を示す模式図である。
【図11】本発明の実施の形態2にかかる反応プレートとプレート保持部とを示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態2にかかる分析処理を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態3にかかる自動分析装置の概略構成を示す模式図である。
【図14】本発明の実施の形態3にかかる反応プレートにおける送液を説明する図である。
【図15】本発明の実施の形態3にかかる分析処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 自動分析装置
10 測定機構
11 回転体
12 測光部
13,14 試薬分注部
15,16 試薬庫
15a,16a 試薬容器
17 検体移送部
17a 検体容器
17b 検体ラック
18 検体分注部
191 プレート保持部
191a ホルダ
192 回転部
20,40,50,60 反応プレート
30 制御機構
31 制御部
32,32a,32b 回転制御部
33 分注制御部
34 入力部
35 分析部
36 記憶部
37 出力部
38 移動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルと前記セル間を繋ぐ移送流路とを有し、所定のセルに検体及び試薬をそれぞれ分注して、回転体の回転から得られる遠心力によって前記検体及び前記試薬を前記移送流路に流通させて反応させる反応プレートにおいて、
前記セルに収容された流体にかかる遠心力に応じて、該遠心力方向に対して垂直方向の前記移送流路の断面積を変化させて該断面積の大小に応じて増減するラプラス力を調整し、該調整された前記ラプラス力が、前記遠心力に比して大きい場合に前記流体を流動し、前記遠心力に比して小さい場合に前記流体の流動を停止することを特徴とする反応プレート。
【請求項2】
前記遠心力は、該遠心力方向に対する前記移送流路の流動方向の角度に応じて生ずる該流動方向の力成分であり、
前記角度を変化させて前記力成分を調整させることによって、前記ラプラス力を調整することを特徴とする請求項1に記載の反応プレート。
【請求項3】
前記移送流路は、流路表面の少なくとも一部が疎水性であることを特徴とする請求項1または2に記載の反応プレート。
【請求項4】
前記移送流路は、該移送流路内の一部の断面積を小さくさせる障壁を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の反応プレート。
【請求項5】
前記移送流路は、反応を行う順序に従って前記流体の前記ラプラス力が大きくなるように前記断面積および/または前記角度を変化させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の反応プレート。
【請求項6】
複数のセルと前記セル間を繋ぐ移送流路とを有し、遠心力方向に対して垂直方向の該移送流路の断面積を変化させて形成した反応プレートと、
前記反応プレートを保持する回転体と、
前記回転体の回転によって前記検体、前記試薬または反応液の前記移送流路の流通を制御する回転制御手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
前記回転制御手段は、前記回転体の回転速度を変化させることによって前記検体、前記試薬または反応液の流通を制御することを特徴とする請求項6に記載の自動分析装置。
【請求項8】
前記回転体上の前記反応プレートを径方向に移動する移動手段を備え、
位置を移動することによって前記反応プレートが受ける角速度の差異を利用して前記検体、前記試薬または前記反応液の前記移送流路の流通を制御することを特徴とする請求項6に記載の自動分析装置。
【請求項9】
前記回転体は、該回転体上の前記反応プレートを保持し、該反応プレートの中心を軸として回転する回転部を有し、
前記回転制御手段は、対象移送流路の流動方向が遠心力方向となるよう前記回転部を回転させることを特徴とする請求項6に記載の自動分析装置。
【請求項10】
前記検体及び前記試薬を分注する分注機構を備え、
前記回転体が回転を開始する前に、前記検体及び前記試薬を前記反応プレートの所定のセルに分注することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−33477(P2011−33477A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180039(P2009−180039)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】