説明

反応プレートの吸引デバイスおよび洗浄デバイス

【課題】多くの反応セルを一括して、繰り返し簡便に洗浄できる安価で使いやすいデバイスまたは装置の提供。
【解決手段】反応プレート1の反応セル2内の流体3を吸引するためのデバイスであって、反応プレート1の平面上に配置された複数の反応セル2内部の圧力を独立させるためのシール材8と、個々の反応セル2に対応する、前記シール材8を貫通する少なくとも1つの吸引用細管4および少なくとも1つのリーク用細管9と、前記吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段6とを具備し、前記リーク用細管9が、前記吸引用細管4から反応セル2内の流体3を吸引するときに吸引用細管4の両端に圧力差を印加するものであることを特徴とする吸引デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の反応セルを有する反応プレートから流体を吸引するためのデバイスに関する。また本発明は、該吸引デバイスを備えた反応プレートの洗浄デバイスおよび洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子解析や免疫分析などの分析化学の分野において、定量対象とする核酸やタンパク質を磁性ビーズに固定し、未反応物質を除去するために、反応セル内にビーズを残した状態で洗浄することは頻繁に行われる工程である。特にターゲット分子を洗浄して繰り返し分析に使用するような場合、また特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの増幅過程を経た試料を繰り返し分析する場合には、試料溶液中に残存している物質を十分に除去する必要があり、細かい手作業を必要としていた。反応セルの数が大きくなると大変な労力を必要とし、自動化が求められていたが、僅かな量の残存物質も許さない検査も多く、新たな洗浄デバイスまたは装置が望まれている。
【0003】
従来、このような磁性ビーズを洗浄する工程を自動的に実行する装置は、1つの反応セルに対して、1つの分注機構を対応させて、自動移動機構を使用して多くの反応セルに対応していた。また、複数の分注機構を含む場合でも少数(8個程度まで)がほとんどであった。
【0004】
しかし、安価にかつ迅速に、多くの反応セルの内部を洗浄するには適しておらず、また自動移動機構には可動部分が入るために高価になる上、故障なども起こりやすい難点があった。
【0005】
一方、数十以上の多くの反応セルを一括して洗浄するには複数の反応セルにそれぞれ吸引用細管を挿入してポンプで吸引することがしばしば行われるが、複数の反応セルの間で吸引速度の極端なばらつきが生じ、吸引残しが不可避的に発生することが多い(特許文献1および2)。
【0006】
この改善策として、吸引用シリンダを反応セルと同じ数だけ用意する方法がある(特許文献3)。しかしながらこの方法では、複数のシリンジを同時に制御して駆動させるための駆動系とシリンダ内に吸引後、吸引したシリンジ内の溶液を排出するための手段を別途設けることが必要であるため、装置のコストが上昇することになる。
【0007】
また、セルを加圧することにより、セルに含まれる試薬を吸引手段により分注手段に押し出す方法が知られているが、この方法では、加圧により試薬の吸引速度が安定するが、セルに加圧するための新たな手段が必要であり、装置構成は複雑となる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-1092号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2001/0055545 A1
【特許文献3】特許第4431276号
【特許文献4】米国特許出願公開2001/0053337 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点を解決するために、多くの反応セルを一括して、繰り返し簡便に洗浄できる安価で使いやすいデバイスまたは装置が望まれている。本発明の目的はこのようなデバイスまたは装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、安価で確実に全ての反応セル内を洗浄する手段として、各反応セルはそれぞれ密封された状態とし、少なくとも2つの管(リーク用細管および吸引用細管)を通して外部と接触する構造とし、リーク用細管のコンダクタンスを吸引用細管のコンダクタンスよりも小さくすることにより、上記課題を解決することができることを見出した。本発明はこのような知見に基づいており、以下を包含する。
【0011】
[1]反応プレートの複数の反応セル内の流体を吸引するためのデバイスであって、
反応プレートの複数の反応セル内部の圧力を独立させるためのシール材と、
個々の反応セルに対応する、前記シール材を貫通する少なくとも1つの吸引用細管および少なくとも1つのリーク用細管と、
前記吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段と
を具備し、前記リーク用細管が、前記吸引用細管から反応セル内の流体を吸引するときに吸引用細管の両端に圧力差を印加するものであることを特徴とする吸引デバイス。
[2]前記吸引用細管と前記リーク用細管の両端に圧力差を印加することによって該2つの細管に流れる空気に対するコンダクタンスを比較したとき、吸引用細管のコンダクタンスがリーク用細管のコンダクタンスよりも小さいものである、[1]に記載の吸引デバイス。
[3]前記吸引用細管と前記リーク用細管の内径の比が5:1〜2:1である、[1]または[2]に記載の吸引デバイス。
[4]前記吸引用細管の下端と反応セルの最底部の距離が吸引用細管の内半径よりも小さいものである、[1]〜[3]のいずれかに記載の吸引デバイス。
[5]前記吸引用細管が、吸引した流体の反応セル内部への逆流を防止するための逆止弁を具備する、[1]〜[4]のいずれかに記載の吸引デバイス。
[6]前記吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段の内部の空気を吸引する手段をさらに具備する、[1]〜[5]のいずれかに記載の吸引デバイス。
【0012】
[7]反応プレートの複数の反応セルを洗浄するためのデバイスであって、
[1]〜[6]のいずれかに記載の吸引デバイスと、
個々の反応セルに対応する、前記シール材を貫通する洗浄液注入用細管と
を具備することを特徴とする洗浄デバイス。
[8]前記洗浄液注入用細管を合流させる手段をさらに具備する、[7]に記載の洗浄デバイス。
[9]前記洗浄液注入用細管と前記反応セルの内壁との間の距離が、前記吸引用細管と洗浄液注入用細管との間の距離よりも小さいものである、[7]または[8]に記載の洗浄デバイス。
[10]前記反応セルの内壁の一部に磁性ビーズを集めるための磁石をさらに具備し、前記洗浄液注入用細管が、該磁石の位置と対応するように配置されている、[7]〜[9]のいずれかに記載の洗浄デバイス。
[11]反応プレートの複数の反応セルを洗浄するための装置であって、
[7]〜[10]のいずれかに記載の洗浄デバイスと、
洗浄液供給部と、
排気および廃液部と
を具備する洗浄装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、反応プレートの複数の反応セル内の流体を吸引するためのデバイスが提供される。本吸引デバイスは、反応プレート上の複数の反応セル内の流体を効率的にかつむらなく吸引することが可能である。また本デバイスは、反応プレートの洗浄デバイスおよび洗浄装置として、反応セル内の洗浄にも有用である。本デバイスおよび装置は、高価な稼働装置や複雑な構成が必要ではなく、1つの吸引ポンプで一括して流体を吸引廃棄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】比較例における反応セルから溶液を吸引するためのデバイス構成例を示す。
【図2】本発明における反応セルから溶液を吸引するためのデバイス構成例を示す。
【図3】比較例と本発明における吸引用細管の両端にかかる圧力差を示した図である。
【図4】比較例における吸引用細管の両端にかかる圧力差および吸引速度のデータ例を示す。
【図5】本発明における吸引用細管の両端にかかる圧力差および吸引速度のデータ例を示す。
【図6】実施例1に対応する吸引デバイスと、反応プレートの洗浄デバイスおよび洗浄装置の構成図である。
【図7】シール材が複数に分離した場合のデバイス断面図である。(a)および(b)は、吸引デバイスを上から見た図であり、丸状の反応セルの場合(a)と多角形の反応セルの場合(b)のシール材の形状を示す。
【図8】吸引用細管の先端にテーパー形状の使い捨てチップを取り付けた場合のデバイス断面図である。
【図9】吸引用細管の下端が最適な位置に自動的に調整される機構を含む場合のデバイス断面図である。
【図10】吸引用マニフォールドを洗浄液注入用マニフォールドとシール材の間に配置した場合の吸引デバイスおよび洗浄装置構成図である。
【図11】洗浄液注入用マニフォールドを用いない場合の洗浄装置構成図である。
【図12】溶液吸引のみを独立して行う場合の装置構成図である。
【図13】洗浄液注入のみを独立して行う場合の装置構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、複数の反応セルを有する反応プレートから流体を吸引するためのデバイス、ならびに反応プレートの洗浄デバイスおよび洗浄装置に関する。
【0016】
上述したように、従来、複数の反応セルからの溶液の吸引をロボティクスによらず実現するデバイスでは、吸引ばらつきが生じたり、吸引効率が低下する点の改善が望まれていた。
【0017】
比較例として、複数の反応セルから同時に溶液を吸引するデバイスの典型的な構成例を図1に示す。プレート1上の複数の反応セル2中にある溶液3を吸引するための吸引用細管4が反応セル2の中央に挿入されている。真空ポンプ5(空気を吸引する手段)によって吸引用マニフォールド6(複数の吸引用細管4のすべてを反応セル2の外部で合流させる手段)が負圧になることによって、吸引用細管4の上端が下端よりも圧力が低下し、反応セル内の溶液が吸引される。このとき、ポンプを効果的に動作させるために、溶液を分離するための溶液分離用容器7が流路の途中に挿入されることが多いが、このことは本質的ではない。
【0018】
このような構成において、真空ポンプを動作させることによって、溶液の吸引がすすむ場合もあるが、反応セル2の中に等量の溶液が分注されているとは限らないため、空の反応セル2が生じると問題が発生する。
【0019】
図1の比較例において、反応セル2の一番左の容器(A)以外の3つの容器(B,C,D)は空の状態である。このような状態で真空ポンプ5を動作させて、溶液3を吸引させようとしても、空の反応セル2に挿入された吸引用細管4から大量の空気が吸引用マニフォールド6に流れ込むため、マニフォールド内部の圧力はすべての反応セルに溶液が入っている場合よりも低下してしまう。このことはそのまま吸引用細管6の両端にかかる圧力差の低下を意味するため、溶液の吸引速度が低下する。空の容器が増えるにつれて、この現象による溶液の吸引速度低下が大きくなり、最終的にはほとんど吸引されなくなってしまう場合もある。そのため、非常に長い時間吸引し続けても吸引できない反応セルが残ってしまう。
【0020】
このことを説明する圧力ダイヤグラムを図3に示す。図3の比較例1として示したのはすべての反応セル2に溶液が残っている場合の圧力ダイアグラムである。一番上の点線が大気圧を示し、ポンプによって吸引する吸引用マニフォールド6内の圧力Peの負圧が大きくなる(図中で下向きの矢印で示した)。溶液の粘度は空気より2桁大きいため、圧力低下はほとんど生じず、真空ポンプ5の性能が直接反映した圧力が吸引用マニフォールド6の圧力Peとなる。しかし、B,C,Dの容器が空の場合には、図3の比較例2の圧力ダイヤグラムに示すように、吸引用細管4の両端に生じている圧力差によって、ポンプの吸引速度以上の空気がB,C,Dの吸引用細管4から吸い込まれ、吸引マニフォールド6内の圧力Peが低下する。
【0021】
次に比較的実際的な条件で、この圧力低下を評価する。内径0.5mm長さ30mmという吸引用細管4と、5L/minのポンプを用いたとき、96穴プレートを想定して95個の反応セルが空になった場合には、細管の両端にかかる圧力は6.9Paとなる。図3のダイヤグラムに示したように空気を吸引している細管の両端にかかる圧力差と溶液3が残った細管にかかる圧力差は同じであるため、吸引速度は0.23μL/secと大きく低下してしまう(比較例2)。
【0022】
上記課題を克服し、安価で確実に全ての反応セル内の流体を吸引するためのデバイスとして、本発明では、各反応セルはそれぞれ密封された状態とし、少なくとも2つの管(空気リーク用細管および溶液吸引用細管)を通して外部と接触する構造とし、リーク用細管のコンダクタンスを吸引用細管よりも小さくすることにより課題を克服している。
【0023】
図2に本発明のデバイスの基本的構成を示す。図2に示すように複数の反応セル2それぞれをシール材8によって密閉し、吸引用細管4とリーク用細管9がシール材8を貫通するように配置する。吸引用細管4は反応セル2中の溶液3をできるだけ残さず吸引できるように、反応セル2の底部付近に下端を配置する。吸引用細管の上端は負圧を印加できるように吸引用マニフォールド6に接続する。吸引用マニフォールド6は十分な排気量の真空ポンプ5を用いて、十分な負圧になるようにする。このとき、リーク用細管9のコンダクタンスを小さくして十分な圧力差を溶液が残った吸入用細管の両端に印加することが可能である。図3の右側に本発明における圧力ダイヤグラムを示した。B,C,Dの容器が空になったとき、吸引用マニフォールド6の内圧とB,C,Dの容器内部の圧力差ΔPairは比較例2と同様に小さな値となってしまう。このとき細管を流れる空気の流量をSairとすると、本発明の構成では、B,C,Dのリーク用細管9にもSairの速度で空気が流れるため、B,C,Dの容器と大気圧の間にはリーク用細管9のコンダクタンスをCleakとして、ΔPleak_B,C,D = Sair /Cleakの圧力差が生じる。このとき、Cleakを十分小さくとればΔPleakは十分大きくできる。一方、溶液3の残っている容器Aについては、その吸引用細管4を流れる溶液の速度SsolはSairよりそれらの流体としての特性の相違により2桁以上小さい。そのため、ΔPleak_A = Ssol/Cleak (式1)はΔPleak_B,C,Dに比べて2桁以上小さくなる。一方、容器Aの吸引用細管の両端にかかる圧力差はΔPsol =ΔPair + ΔPleak_B,C,D -ΔPleak_Aであるから、ΔPleak_B,C,D -ΔPleak_A≒ΔPleak_B,C,Dの分だけ圧力差を大きく取れることになる。よって、空の容器がどんなにたくさん生じても溶液3が残った吸引用細管の両端に十分な大きさの圧力差を印加し続けることが可能となり、高速に溶液3を吸引し続けることができる。
【0024】
図4に、比較例での吸引用細管の直径を変化させたときの吸引用細管の両端の圧力差と吸引速度を示す。このとき、ポンプの吸引速度を5L/min、到達真空度は1Pa以下であるとした。また、細管の長さ3cm、空気の粘度を18μPasec、吸引する溶液の粘度を2 mPasec、96個の容器のうち95個が空になった場合を前提条件としている。図4から分かるように吸引用細管の径が大きくなると圧力差が低下する。このため吸引速度も低下することになる。さらに吸引用細管の内径が0.4mm以下では1kPa以下に低下する。このようになった場合には、外的要因の影響が大きくなり、圧力差がさらに低下する可能性がある。一方、吸引用細管の内径を小さくすると印加圧力は十分な大きさになるが、今度は流速が急減に低下する。それゆえ、最適な吸引用細管の内径が存在するが、吸引速度は必ずしも十分でない。
【0025】
一方、図5に本発明での圧力差と吸引速度を図4と同様の条件で示している。ただし、吸引用細管の直径は0.5mmで固定し、リーク用細管の直径を変化させている。図5から分かるように、リーク用細管の直径が吸引用細管の1/3程度になったときにほぼ真空ポンプの性能を十分引き出した状態で吸引用細管の両端に圧力差を印加することが可能であり、吸引速度はポンプの吸引速度に応じた吸引速度で吸引できる。また、細管中を空気などの流体が吸引されたときのコンダクタンスは(層流の場合)、細管の内径の4乗に比例し、細管の長さに反比例する。前述のように本発明の方が比較例よりも溶液吸引速度が高いのは、ΔPleak_A = Ssol /Cleakだけ吸引用細管の両端にかかる圧力差が大きくなっているためであり、この付加的な圧力差はリーク用細管9のコンダクタンスが小さい場合に効果的である。コンダクタンスの小ささはリーク吸引用細管のコンダクタンスに対する相対値と考えると、図5から分かることが一般化できると考えられる。それゆえ、リーク用細管のコンダクタンスが吸引用細管のコンダクタンスよりも小さい場合に本発明の効果が大きいことがわかる。以上より、本発明の条件を満たすとき、全ての反応セル2に対して、迅速かつばらつきなく吸引が可能であることがわかる。
【0026】
従って、本発明に係る、反応プレートの複数の反応セル内の流体を吸引するためのデバイス(「本発明の吸引デバイス」ともいう)は、
反応プレートの複数の反応セル内部の圧力を独立させるためのシール材と、
個々の反応セルに対応する、前記シール材を貫通する少なくとも1つの吸引用細管および少なくとも1つのリーク用細管と、
前記吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段と
を具備し、前記リーク用細管が、前記吸引用細管から反応セル内の流体を吸引するときに吸引用細管の両端に圧力差を印加するものである。
【0027】
本発明の吸引デバイスでは、複数の反応セルから1つのポンプを用いて同時に効率的に流体を吸引するために、反応セルをシール材を用いて密閉し、リーク用細管を加えることによって、吸引用細管の両端の圧力低下を抑制した。
【0028】
シール材は、複数の反応セル内部の圧力を独立させることができるものであれば、任意の形状、大きさおよび材質のものとすることができる。なお、「圧力を独立させる」とは、個々の反応セルの内部に加わる圧力が他の反応セルの圧力とは隔てられており、影響を受けないことを意味する。例えばシール材は、反応プレートと同程度の大きさの1枚の板状構造であってもよいし(例えば図6)、あるいは個々の反応セルに対応した複数のキャップ状構造であってもよい(例えば図7)。材質は、限定されるものではないが、樹脂(例えばポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene樹脂)、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂および塩化ビニル樹脂等)、金属(例えば金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等)、合金(例えばステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等)、ガラス(例えばガラス、石英ガラス、溶融石英、合成石英、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライトおよび感光性ガラス等)、シリコン、ゴム(例えば天然および合成ゴム)などとすることができ、具体的にはピーク材(PEEK:ポリエーテルエーテルケトン)などを用いることができる。
【0029】
吸引用細管およびリーク用細管は、流体が通ることができる形状、大きさおよび材質のものであれば任意のものとすることができる。例えば細管の形状は、当技術分野で一般的な断面が円形のものだけではなく、断面が楕円形、四角形、三角形などのものであってもよい。細管の材質は、樹脂製、ガラス製、金属製などとすることができ、例えばテフロン、ピーク、ステンレス(SUS)などを用いることができる。細管の内部は、撥水処理を行うか、または撥水性の材質で作製すると、細管に付着する溶液を低減することができ、好ましい。また細管の大きさは、使用する反応セルの大きさ、反応容量などに応じて適宜設定することができる。
【0030】
吸引用細管は、反応セル内の反応溶液や空気などの流体を吸引するためのものである。なお、吸引用細管は、吸引した流体の反応セル内部への逆流を防止するための逆止弁を備えていることが好ましい。一方、リーク用細管は、反応セルの内部と外部の空気を連通し、吸引用細管から流体を吸引するときに吸引用細管の両端に圧力差を印加するものである。
【0031】
吸引用細管とリーク用細管は、シール材を貫通するように配置するが、貫通する位置は、適宜決定することができる。
【0032】
本発明の吸引デバイスでは、吸引用細管とリーク用細管の両端に圧力差を印加することによって該2つの細管に流れる空気に対するコンダクタンスを比較したとき、吸引用細管のコンダクタンスがリーク用細管のコンダクタンスよりも小さいものであることが好ましい。これは、例えば、吸引用細管とリーク用細管の内径の比を5:1〜2:1、好ましくは約3:1とすることによって達成することができる。
【0033】
また、吸引用細管は反応セル内部の溶液をできるだけ残さず吸引できるように、反応セルの底部付近に下端を配置する。ここで、吸引用細管の下端と反応セルの最底部の距離は吸引用細管の内半径よりも小さいことが好ましい。
【0034】
また、吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段(本明細書中、「吸引用マニフォールド」ともいう)は、その内部に適度な量の空気が存在することができる任意の形状および大きさとすることができ、その材質は、吸引時にその形状および大きさを維持することができるものであれば、樹脂、金属、ガラス、ゴムなどの任意の材質とすることができる。この吸引用マニフォールドは、吸引用細管の一方の端(上端)に負圧を印加するために、該吸引用マニフォールドの内部の空気を吸引する手段(例えば真空ポンプなど)と接続する。
【0035】
本発明の吸引デバイスでは、吸引用細管から流体を吸引するときにリーク用細管のコンダクタンスを小さくすることによって、反応セルが空になった場合もこのリーク用細管の両端にかかる圧力差が、溶液が残った反応セルの吸引用細管の両端の圧力低下をカバーするため、反応セルの吸引用細管の両端に十分な圧力差を印加し、反応セル内の溶液をほぼ完全に吸引することが可能である。
【0036】
本発明の吸引デバイスと共に使用する反応プレートは、実施する反応に関連する分野において公知の反応プレートとすることができる。具体的には、水不溶性で、加熱変性時に溶融しない固体平面であることが好ましい。その材料としては、例えば金属、合金、シリコン、ガラス材料、樹脂等のプラスチックが挙げられる。また、反応プレートの形状は、反応セルが区画化された平面であり、例えばタイタープレート、多孔質または細孔アレーなどである。
【0037】
また「流体」とは、反応プレート上で行う反応に使用する試薬、サンプル、洗浄液およびその他の添加物であり、溶液、懸濁液、コロイド液(ゾル)などの形態をとることができる。
【0038】
従って、本発明の吸引デバイスは、複数の反応セルを有する反応プレートから反応液や洗浄液などの流体を吸引することが望まれる種々の方法において用いることができる。例えば、化学反応、生化学反応、核酸増幅反応、核酸ハイブリダイゼーション反応、イムノアッセイ、特に、サンドイッチアッセイ、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などの反応において、反応中および反応後に反応液や洗浄液を吸引するために本発明の吸引デバイスを使用することができる。
【0039】
また本発明に係る、反応プレートの複数の反応セルを洗浄するためのデバイス(「本発明の洗浄デバイス」ともいう)は、
上述した本発明の吸引デバイスと、
個々の反応セルに対応する、前記シール材を貫通する洗浄液注入用細管と
を具備するものである。
【0040】
洗浄液注入用細管を通して、洗浄液注入手段から個々の反応セルに洗浄液が注入される。洗浄液注入用細管は、吸引用細管およびリーク用細管と同様に、流体が通ることができる形状、大きさおよび材質のものであれば任意のものとすることができる。
【0041】
本発明の洗浄デバイスは、洗浄液注入用細管を合流させる手段(本明細書中、「洗浄液注入用マニフォールド」ともいう)をさらに備えることが好ましい。この手段により、洗浄液を一括して洗浄液注入用細管を通して反応セルに注入することが可能となる。洗浄液注入用マニフォールドは、その内部に適度な量の洗浄液が存在することができる任意の形状および大きさとすることができ、その材質は、特に限定されるものではなく、樹脂、金属、ガラス、ゴムなどの任意の材質とすることができる。洗浄液注入用マニフォールドは、洗浄液を供給する部分(洗浄液供給部)と接続される。
【0042】
また本発明の洗浄デバイスでは、洗浄液注入用細管と反応セルの内壁との間の距離が、吸引用細管と洗浄液注入用細管との間の距離よりも小さいことが好ましい。これは、注入した洗浄液が吸引用細管と洗浄液注入用細管の間で液滴が形成され、反応セル底部の溶液に洗浄液の一部が供給されなくなることを避けるためである。
【0043】
本発明の洗浄デバイスは、反応セルの内壁の一部に磁性ビーズを集めるための磁石をさらに備えてもよい。この実施形態は、磁性ビーズにサンプル(核酸、タンパク質など)を固定して反応を行う場合に有用である。その場合、洗浄液注入用細管は、該磁石の位置と対応するように配置されることが好ましい。具体的には、洗浄液注入用細管の先端の直下に磁石を配置することによって、反応セル内で磁性ビーズを効率的に洗浄することができる。
【0044】
さらに本発明に係る、反応プレートの複数の反応セルを洗浄するための装置(「本発明の洗浄装置」ともいう)は、
上述した本発明の洗浄デバイスと、
洗浄液供給部と、
排気および廃液部と
を具備するものである。洗浄液供給部は、本発明の洗浄デバイスにおける洗浄液注入用細管または洗浄液注入用マニフォールドと接続されて、反応セルへの洗浄液供給を行う。一方、排気および廃液部は、本発明の吸引デバイスにおける吸引用マニフォールドと接続されて、反応セルから吸引した流体(溶液および空気)を排気および廃液すると共に、洗浄デバイスとも接続されて、余剰の洗浄液を廃液する。洗浄液供給部と排気および廃液部は、当技術分野で慣用的に使用されているものを使用することができる。
【0045】
本発明の洗浄デバイスおよび洗浄装置は、複数の反応セルを有する反応プレートを洗浄することが望まれる種々の方法において用いることができる。例えば、化学反応、生化学反応、核酸増幅反応、核酸ハイブリダイゼーション反応、イムノアッセイ、特に、サンドイッチアッセイ、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などの反応において、反応液を吸引し、洗浄液を注入および吸引して反応セルを洗浄する際に、本発明の洗浄デバイスおよび洗浄装置を用いることができる。特に、サンプルを洗浄しながら繰り返し使用する反応において好ましく用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0047】
[実施例1]
本実施例では1つの細胞から得たcDNAライブラリーを繰り返し使用して種々遺伝子の発現量を精密に分析する応用に使用した例である。1つの細胞中のmRNAを磁気ビーズ上のcDNAとして得る(例えば、特開2007-319028号公報に記載の方法)。分析対象となるcDNA量は少なく、計測には遺伝子増幅技術(PCR)を用いるので1回の測定が終わり次の測定に移るときには前の計測に用いた試薬類・反応溶液は完全に除去する必要がある。測定は多くの細胞について同時並列的に進めるので96個の反応セルを有するタイタープレートまたはそれ以上の反応セルを有するタイタープレートを使用することが多い。ここでは96個の反応セルを有するタイタープレートを使用した例で説明する。
【0048】
実際の操作では、まず磁気ビーズに捕獲したcDNAを含む反応液を反応セルに入れて定量PCRでターゲットDNAを定量分析を行う。次いでそのタイタープレートを取り出し、十分に洗浄して再度別の遺伝子の発現量を定量するために定量PCRを行うというプロセスを繰り返す。本発明は、このプロセスに使用する洗浄デバイスまたは装置に関するものであり、これを詳細に説明する。
【0049】
洗浄装置の構成は図6に示した。洗浄対象となるプレートが96穴プレート61の場合には、これらの反応セルは9mmピッチで12×8の正方格子状に配列されている。図6では図が複雑になりすぎるのを避けるため、横方向に12個並んでいる反応セルの4個だけを記した。
【0050】
洗浄装置は洗浄デバイス部12と洗浄液供給部13と排気・廃液部14から構成される。洗浄デバイス部12の中にサンプル溶液3を反応セル2に分注した96穴タイタープレート61を挿入する。洗浄デバイス部12の最下層には、96穴プレート61の反応セル2の側壁に磁性ビーズサンプルを集め、溶液と分離するための磁石保持プレート15が配置されている。前記プレート61の上には、96個の反応セル2を個別に密閉することが可能な手段を具備したシール材8を密着させる。シール材8の底部の突起部17(逆円錐台の形状)にはOリング18が取り付けられており、各反応セル2が密閉される。シール材8には反応セル2ごとに対応した吸引用細管4および洗浄液注入用細管10などがシール材8を貫通する形で取り付けられている。吸引用細管4の下端は反応セル2の底部にほぼ密着しており、洗浄液を余すことなく吸引除去できるように工夫されている。このために吸引用細管4の先端部はプラスチック細管として底部に接触しても破損しないようにしてある。一方、吸引用細管4の出口側は反応セル外部で合流されて排気ポンプに繋がっている。この合流させる手段が吸引用マニフォールド6である。また、洗浄液は洗浄液注入用細管10から反応セル2内に入るが、反応セル内に一定量の洗浄液を入れる必要があるときにはその水準に下端を持つリーク用細管9を具備しておく。このとき、洗浄液を複数の洗浄液注入用細管10に分配する洗浄液注入用マニフォールド11を設け、ここに圧力を、反応セルから試薬を吸引する場合には大気圧に、迅速に洗浄液を反応セルに注入したい場合には陽圧にすることができる構成とした。
【0051】
本実施例で示した装置ではDNAサンプルが固定された磁性ビーズを洗浄するための次のプロセスを実行することが可能である。
【0052】
すなわち、溶液3中に懸濁された磁性ビーズサンプルを96穴プレート61のすべて、または一部に分注し、このプレート61に図6に示されるように磁石保持プレート15を重ねる。この操作によって、数秒以内に磁性ビーズが反応セル2内部の側面に磁石19周辺に引き寄せられてサンプルビーズ塊16となる。またこの操作によって、目的とするDNAを損なうことなく不要な溶液を吸引することが可能となる。次に、磁石保持プレート15と96穴プレート61を重ねたまま、吸引用細管4を具備したシール材8と重ねる。
【0053】
次に洗浄液が洗浄液注入用マニフォールド11に注入されてない状態で、真空ポンプ5を駆動し、吸引制御弁20を開くことによって、吸引用マニフォールド6を負圧(大気圧以下の圧力)にする。これによって、吸引用細管4の上端と下端の間での圧力差が生じ、これによって溶液3が吸引される。このとき、一部の反応セルに溶液が分注されていない空のものがあり、何らかの理由で初期の吸引速度のばらつきがあって、吸引過程で空の反応セルが生じた場合でも上述したように吸引用細管4の両端の圧力差の低下を防ぎ溶液の吸引を行うことができる。
【0054】
本実施例の構成ではリーク用細管9と洗浄液注入用細管10の2本がリーク用細管9として機能する。本実施例ではリーク用細管9と洗浄液注入用細管10の内径を50μm程度とし、その長さをそれぞれ22mmと11mmとしたので、2本の細管を並列にした時の空気の流れに対するコンダクタンスは十分小さく、溶液が残っている反応セル2に挿入されている吸引用細管4の両端にかかる圧力の低下(吸引用マニフォールド6の圧力の上昇)は最小限に抑制される。すなわち、これによって、96個の反応セル2の一部にしか溶液が入っていない場合でも、吸引の速度をほとんど変化させず、効率よく反応セル2中の溶液3を吸引することができる。吸引された溶液は吸引用マニフォールド6の底面を流れ、溶液分離用容器7の中に回収されることになる。
【0055】
本実施例で示す装置を用いた場合、反応セル2中に分注した溶液が数十μL程度であれば、30秒以内にすべての溶液が吸引される。それゆえ、吸引開始後、30秒で吸引制御弁20を閉じ、洗浄液制御弁21を5秒間開いて、洗浄液を重力と圧力差によって洗浄液タンク22から洗浄液を洗浄液注入用マニフォールド11に注入する。このとき、過剰な洗浄液が洗浄液注入用マニフォールド11に注入された場合には、洗浄液は余剰洗浄液回収容器27に回収される。
【0056】
さらに、その次に、圧力制御弁1(23)および2(24)を閉じて、陽圧が逃げないようにしてから、陽圧制御弁25を開くことによって、2気圧に制御された圧縮空気ボンベ26からの圧縮空気を洗浄液用マニフォールド11に注入する。この操作によって、10秒程度で洗浄液を反応セル2の中に50μL以上注入することができる。このとき、洗浄液は洗浄液注入用マニフォールド11に残っている場合もあるが、これは次の吸引過程で反応セル2を通って排出される。
【0057】
最初の吸引過程に戻るために、陽圧制御弁25を閉じ、圧力制御弁1(23)および2(24)を開いて、吸引制御弁20を開き、上記と同様に洗浄液の吸引を実行する。
【0058】
このような洗浄液の注入と溶液の排出を3回程度繰り返し行うことによって高効率の洗浄を実現できる。
【0059】
反応セル2内の洗浄効率は、洗浄・除去対象の化学物質のビーズ表面や反応セル2内壁への吸着程度によって変化するため、一般的な効率を求めることは難しい。そこで、溶液の交換効率で、洗浄効率を評価することにする。本装置を使用したときの吸引時残量は0.2μL以下であったことから、当初液量を20μLとし、100μLの洗浄液を3回注入、吸引したときするとき、溶液交換効率は109倍以上と計算される。このことは、本実施例で示す装置は潜在的に極めて高い洗浄能力が実現できることを示している。
【0060】
次に洗浄デバイスおよび装置の構造および各部品の仕様について記す。プレート61は市販品で標準的に使用されている樹脂製96穴プレート(反応セル間ピッチは9mm)を用いたが、384穴プレートやその他の容器数のプレートへの対応も可能である。
【0061】
磁石保持プレート15には各反応セル2側面に接するように直径2mm厚さ1mmのネオジウム製磁石19を接着にて取り付けた。磁石19を取り付けた位置を洗浄液注入用細管10の先端の直下にすることによって、ビーズの洗浄効果を高めることができる。
【0062】
また、磁石19を取り付ける高さは当初溶液の量にも依存するので、溶液量に合わせて最適な高さの磁石保持プレート15を作製し使用した。また、磁石19の数は個々の反応セル2に対して1個づつ設けるのではなく、4つの反応セル2に対し1つの磁石19を用いても良い。この場合には、磁石19によって形成されたサンプルビーズ塊16の反応セル2内での相対的位置が4つとも異なるため、洗浄液注入用細管10の先端の位置をサンプルビーズ塊16の形成位置に合わせて4つごとに変更すると上記と同様の効果が得られる。
【0063】
次にシール材8、洗浄液注入用マニフォールド11、および吸引用マニフォールド6は、ピーク材を切削加工し、図6のようにこれら3つの重ねた状態の外形寸法は縦104mm幅140mm高さ76mmとした。図6に示した例ではシール材8は1枚の板状の構造をしているが、反応セル2の上部をふさぐ構造が存在すればどのような構造でもよく、図7に示すように反応セル2の数と同数のキャップ状の構造を用いてもよい。また、反応セルの形状に応じて、例えば図7の(a)に示す丸状または(b)に示す多角形の反応セルに応じて、シール材の形状および構造を変更することができる。ここで、シール材8は洗浄液注入用マニフォールド11に対して固定されている。一方、この場合も、吸引用細管4と洗浄液注入用細管10とリーク用細管9はシール材8を貫通している。
【0064】
吸引用細管4の内径と外径および長さはそれぞれ、0.681mmと0.91mmおよび60mmとした。吸引用マニフォールド6の内部のサイズは縦70mm、横110mm、高さの最大値38mm、最小値33mmとした。吸引用細管4の上端での圧力が場所によって依存しないための十分な大きさである。また、洗浄液注入用マニフォールド11内部の縦と横は吸引用マニフォールド6と同一サイズであり、高さは13mmである。
【0065】
また、吸引用細管4の先端には逆止弁を設けた。これは、ポンプを停止し、吸引制御弁20を開いた時に、吸引用細管4の両端に印加される圧力差がなくなるか小さくなって、吸引用細管4に残留した溶液が重力および気圧差によって、反応セル2の方に逆流することを避けるために設けられている。逆止弁には直径3.5mmのSUS製のボールとばねとOリングを用いた。逆止弁の構造に関しては他のものを用いてもよい。
【0066】
吸引された溶液は溶液排出口28から吸引用マニフォールド6の底面の方に流れていく。逆止弁の取り付け位置は必ず吸引用マニフォールド6の底面より上部に取り付けられており、溶液排出口28から排出された溶液は水滴となって底面に流れおちるため、すでに排出され、吸引用マニフォールド6内部に滞留している溶液と接触しない構造となっている。また、吸引用細管4の内部を撥水加工し、排出口28付近および吸引用細管4の外部を親水加工することによって、残留溶液の量は低減し、排出された溶液は速やかにマニフォールド底面に達するようにすることができる。
【0067】
また、吸引用マニフォールド6の底面には傾斜がつけられており、重力の作用によって、吸引ポート29の方に流れ、ポンプの作用によって廃液容器内部に排出されるようにした。
【0068】
吸引用ポンプ(真空ポンプ5)にはピストンフリーのポンプを用い、最大排気速度は25L/min到達真空度は-46.7kPaのものを用いた。しかし、ポンプの種類、性能については、吸引用細管4の両端に十分な圧力差(例えば1kPa以上)が得られれば、どんな種類・性能のものを用いてもよい。
【0069】
洗浄液注入用マニフォールド11内部に陽圧を印加する手段として、圧縮空気ボンベと圧力調整器を組み合わせたものを用いたが、ラインガスを用いてもよいし、ガスの種類も空気でなく、窒素や炭酸ガスを用いてもよい。
【0070】
洗浄デバイス部12と洗浄液供給部13の間および洗浄デバイス部12と排気・廃液部14の間は外形3mmのシリコンチューブを用い、制御弁にはピンチ弁を用いて、ピンチ弁の開閉制御はコンピュータ制御した。
【0071】
シール材8には3本の細管を貫通させている。吸引用細管4とリーク用細管9と洗浄液注入用細管10である。洗浄効率を向上させるためには、吸引時に溶液残量を少なくするために、反応セル2の底面近くまで吸引用細管4が達していることが好ましい。どの程度まで吸引用細管4を反応セル2の底面に近づいた方がよいかは、反応セル2の内壁の撥水性、浸水性に依存するが、経験的には反応セル2の底面と吸引用細管4の下端の距離は吸引用細管4の内径半径よりも小さいことが好ましい。
【0072】
反応セル2から残さず溶液を排出するためには、吸引用細管4先端の位置が大切である。しかし、吸引用細管4の下端と反応セル2の底面との距離を96個すべてに対して制御することは加工および組み立て精度上困難である。そのため、図8に示したように吸引用細管4を反応セル2の底部に押し付けるようにするための押し付けるばね32を設け、吸引用細管4の下端を斜めにカット33することによって溶液が流れるようにすることが有効である。この機構は実効的に吸引用細管4の下端の位置を制御していることになる。
【0073】
吸引用細管4の下端の形状は、吸引用細管4の一部が反応セル2の底部と接触しない部分が生じる形状であればよく、斜めにカットした形状やV字形状などとすることができる。
【0074】
溶液量が少ない場合に吸引用細管4の外径が太い場合にはサンプルビーズ塊16に吸引用細管4が接触して、誤って吸引してしまう可能性がある。このことを避けるために、図9に示すように、吸引用細管の先端部分を細くして、ビーズを誤って吸引しないようにするために、樹脂製テーパー状の使い捨てチップ31を吸引用細管4の先端に取り付けることで対処することも可能である。なお、使い捨てとする部分は、チップのみであってもよいし、または洗浄デバイスの一部もしくは全体としてもよい。
【0075】
また、吸引用細管4は市販のカテラン針を用いたが、SUS製の細管やガラス細管やPEEKやテフロンなどの樹脂製細管を用いてもよい。
特に樹脂製の細管を用いると細管内部を撥水性にすることが容易である場合が多い。
【0076】
また、洗浄液注入用細管10とリーク用細管9には内径50μm外形350μmのガラスキャピラリを用いたが、他の金属製、ガラス製または樹脂製の細管を用いてもよい。
【0077】
本実施例では逆止弁と吸引用細管4はサンプルごとに使い捨てにすることを想定している。そのため、吸引用細管4は2つのOリングで溶液が漏れないようにシールしているが、取り外すことが可能である。
【0078】
また、サンプル間の溶液の混入を避けることが望ましい反応を行う場合には洗浄デバイス部全体を使い捨てにすることが可能である。
【0079】
また、リーク用細管9が溶液に接触することはできるだけ避けた方が、洗浄効率が高まるため、3本の細管の下端の反応セル2中の高さは、高い方からリーク用細管9、洗浄液注入用細管10、吸引用細管4とすることが好ましい。洗浄液注入時には反応セル2内部と洗浄液注入用マニフォールドの圧力差は大きくないので、液面の最大高さは洗浄液注入用細管下端の高さで制限される。
【0080】
[実施例2]
本実施例では吸引用細管4をできる限り短くすることによって、逆止弁がなくても吸引用細管4に溶液が残留せず、効率よく溶液の吸引が可能な構成例を示す。
【0081】
図10に洗浄装置および洗浄デバイスの構成図を示す。
本実施例では図10に示すように吸引用細管4の長さを短くするために吸引用マニフォールド6を洗浄液注入用マニフォールド11とシール材8の間に配置した。これによって吸引用細管4の長さを12mmまで短くし、内径を0.4mmと細くできる。その結果、吸引用細管4の内容積は1.5μlまで低減でき、吸引工程終了時の残留溶液量を低減することが可能である。同時に吸引工程終了時に残留溶液が全く残らない確率を向上することができる。また、吸引用細管4を樹脂で作製し、細管の内壁を撥水表面、外壁を親水表面となるように紫外線オゾン処理を施すことによって、細管内部の溶液は液滴としてまとまるため、細管をふさぎ、速やかに吸引されることになる。その結果、吸引用細管4の上端まで達すると親水化された外壁をつたわって速やかに吸引用マニフォールド6底面まで溶液が搬送される。そのため、本実施例では逆止弁がなくても平均溶液残量を実施例1の場合とほぼ同程度まで低減させることが可能となり、高効率にビーズサンプルを洗浄できることがわかった。
【0082】
本実施例では洗浄液注入用細管10およびリーク用細管9は内径75μm外形350μmのキャピラリを用い、長さはそれぞれ50mmと65mmとした。この場合も空になった反応セル2が多数存在したとしても吸引用細管4上端の圧力の上昇(溶液が残っている反応セル2に対する吸引用細管4の両端にかかる圧力の低下)を起こさずに十分な速度で溶液を吸引することが可能である。
【0083】
また、リーク用細管9は図10に示したように洗浄液注入用マニフォールド11に達しないように、かつ、吸引溶液を逆流させないように長さ40mmにしてもよい。このとき、溶液吸引時の空気の流れによって洗浄液導入用細管10の両端で圧力差を生じるようにし、洗浄液導入時にはリーク用細管9は反応セルの圧力を緩和するように機能する。
【0084】
[実施例3]
本実施例では洗浄液注入用マニフォールド11を用いずに直接反応セルに反応液を注入する方式を採用した場合を示す。
【0085】
図11に装置構成を示す。洗浄デバイス部12の洗浄液注入用マニフォールド11の変わりに、洗浄液供給部13に分配器40を配置している。洗浄液を反応セル2中に注入するときには、洗浄液タンク22に蓄えられた洗浄液は、洗浄液注入制御弁1(35)を開、洗浄液注入制御弁2(36)を閉として、シリンジ37を引き洗浄液を吸引したあと、上記制御弁の開閉を反対にして、シリンジ37を押すことによって分配器40、洗浄液注入用細管10を通って、洗浄液が供給される。本実施例では洗浄液を注入する細管中に空気は含まれないので、溶液を反応セル2から吸引するとき、反応セル2内の気圧の調整はリーク用細管9のみを用いて行われる。この実施例でもリーク用細管9には内径75μm、外径350μmのキャピラリを用いた。その他の構成は実施例2と同様である。
【0086】
[実施例4]
本実施例では溶液の吸引と洗浄液の注入を別の装置で行う場合の装置構成を示した。図12に溶液吸引のみを独立して行う場合の装置構成図を示し、図13に洗浄液注入のみを独立して行う場合の装置構成図を示した。
【0087】
使用方法としては、96穴プレート61上に磁性ビーズを含むサンプル溶液を分注し、図12で示した装置で、磁性ビーズ以外の溶液を吸引する。その後、96穴プレート61を取り外して、図13に示した洗浄液注入用装置に96穴プレート61をセットして、洗浄液を分注後、再び図12の装置を用いて洗浄液を吸引するということを繰り返す。デバイスの詳細構造は実施例1〜3に記したものと同様である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、反応プレートの複数の反応セル内の流体を吸引するためのデバイスが提供される。本吸引デバイスは、反応プレート上の複数の反応セル内の流体を効率的にかつむらなく吸引することが可能である。また本デバイスは、反応プレートの洗浄デバイスおよび洗浄装置として、反応セル内の洗浄にも用いることができる。従って、本発明は、反応プレート上の複数のセルにおいて反応を行う分野、例えば化学、生化学、バイオテクノロジー、医薬などの分野において有用である。
【符号の説明】
【0089】
1 プレート
2 反応セル
3 反応セル中の溶液
4 吸引用細管
5 真空ポンプ
6 吸引用マニフォールド
7 溶液分離用容器
8 シール材
9 リーク用細管
10 洗浄液注入用細管
11 洗浄液注入用マニフォールド
12 洗浄デバイス部
13 洗浄液供給部
14 排気・廃液部
15 磁石保持プレート
16 サンプルビーズ塊
17 シール材突起部
18 Oリング
19 磁石
20 吸引制御弁
21 洗浄液制御弁
22 洗浄液タンク
23 圧力制御弁1
24 圧力制御弁2
25 陽圧制御弁
26 圧縮空気ボンベ
27 余剰洗浄液回収容器
28 溶液排出口
29 吸引ポート
31 樹脂製テーパー状の使い捨てチップ
32 押し付けるばね
33 斜めにカットされた吸引用細管の先端部分
35 洗浄液注入制御弁1
36 洗浄液注入制御弁2
37 シリンジ
61 96穴プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応プレートの複数の反応セル内の流体を吸引するためのデバイスであって、
反応プレートの複数の反応セル内部の圧力を独立させるためのシール材と、
個々の反応セルに対応する、前記シール材を貫通する少なくとも1つの吸引用細管および少なくとも1つのリーク用細管と、
前記吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段と
を具備し、前記リーク用細管が、前記吸引用細管から反応セル内の流体を吸引するときに吸引用細管の両端に圧力差を印加するものであることを特徴とする吸引デバイス。
【請求項2】
前記吸引用細管と前記リーク用細管の両端に圧力差を印加することによって該2つの細管に流れる空気に対するコンダクタンスを比較したとき、吸引用細管のコンダクタンスがリーク用細管のコンダクタンスよりも小さいものである、請求項1に記載の吸引デバイス。
【請求項3】
前記吸引用細管と前記リーク用細管の内径の比が5:1〜2:1である、請求項1または2に記載の吸引デバイス。
【請求項4】
前記吸引用細管の下端と反応セルの最底部の距離が吸引用細管の内半径よりも小さいものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸引デバイス。
【請求項5】
前記吸引用細管が、吸引した流体の反応セル内部への逆流を防止するための逆止弁を具備する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸引デバイス。
【請求項6】
前記吸引用細管を反応セル外部で合流させる手段の内部の空気を吸引する手段をさらに具備する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸引デバイス。
【請求項7】
反応プレートの複数の反応セルを洗浄するためのデバイスであって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸引デバイスと、
個々の反応セルに対応する、前記シール材を貫通する洗浄液注入用細管と
を具備することを特徴とする洗浄デバイス。
【請求項8】
前記洗浄液注入用細管を合流させる手段をさらに具備する、請求項7に記載の洗浄デバイス。
【請求項9】
前記洗浄液注入用細管と前記反応セルの内壁との間の距離が、前記吸引用細管と洗浄液注入用細管との間の距離よりも小さいものである、請求項7または8に記載の洗浄デバイス。
【請求項10】
前記反応セルの内壁の一部に磁性ビーズを集めるための磁石をさらに具備し、前記洗浄液注入用細管が、該磁石の位置と対応するように配置されている、請求項7〜9のいずれか1項に記載の洗浄デバイス。
【請求項11】
反応プレートの複数の反応セルを洗浄するための装置であって、
請求項7〜10のいずれか1項に記載の洗浄デバイスと、
洗浄液供給部と、
排気および廃液部と
を具備する洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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