説明

反応制御方法および制御装置

【課題】液相反応系(カルボニル化反応系など)の温度および圧力変動を抑制し、安定化する。
【解決手段】メタノールと一酸化炭素とを、それぞれ、供給ライン17,19により、カルボニル化触媒系を含む液相反応系3に供給し、反応系の液面を一定に保ちながら、生成した酢酸を含む反応混合物の一部を反応系から抜き取りつつフラッシュ蒸留塔4に供給し、このフラッシュ蒸留により分離されたカルボニル化触媒系を含む高沸点成分を循環ライン21により反応系3に循環する。循環ライン21では、流量を流量センサF3で検出するとともに温度を温度センサT2で検出し、検出されたデータに基づいて、制御ユニット8を利用して、温度調整ユニット6により循環する高沸点成分の温度をコントロールし、前記反応系の温度及び圧力変動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル化反応などにおいて、反応系を安定化させるために有用な反応制御方法(又は安定化方法)および反応制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル化反応によりカルボン酸(酢酸など)又はその誘導体(メタクリル酸メチルなど)が工業的に製造されている。例えば、特開昭48−54011号公報(特許文献1)には、ロジウム又はイリジウム成分と、ヨウ素又は臭素成分とを含む触媒系の存在下、液相中で、オレフィン、アルコール又はそのエステル、ハロゲン化物又はエーテル誘導体を一酸化炭素と反応させ、液体反応物の少なくとも一部分を実質的に低い圧力の分離帯に熱を加えずに通して前記カルボニル化生成物の少なくとも一部分を気化させ、該気化カルボニル化生成物を取り出し、残留液体反応物を前記反応帯に再循環させるカルボニル化法が開示されている。この文献には、未反応一酸化炭素を反応器から除去することが記載されている。特開平6−321847号公報(特許文献2)には、カルボニル触媒としてイリジウム触媒を使用し、反応生成物を蒸発させてカルボニル化生成物を含む蒸気成分とイリジウム触媒を含む液体成分とを生成し、蒸気成分と液体成分とを分離し、液体成分に少なくとも0.5重量%の水濃度を維持するカルボニル化生成物の回収方法が開示されている。この文献には、未反応一酸化炭素を反応器から排ガスとして排出することが図示されている。
【0003】
特表平10−508594号公報(特許文献3)には、ロジウム触媒の存在下で液相でのカルボニル化によりカルボン酸を生成させる第1領域と、反応混合物を部分的に蒸発させる第2領域とを含み、生成したカルボン酸を含む蒸発画分を精製するとともに、触媒を含む蒸発しない液体画分を第1領域に循環させる方法において、一酸化炭素が第2領域に戻らないようにして、第2領域から発生する蒸発しない液体画分に、一酸化炭素を添加し、一酸化炭素の損失を回避することが提案されている。
【0004】
しかし、このようなカルボニル化反応では、反応系への高沸点成分の循環に伴って反応系の温度および圧力が変動するとともに、反応系での一酸化炭素消費量又は使用量も変動し、反応系を安定化させることが困難である。また、過剰の一酸化炭素の供給と反応系での一酸化炭素消費量の変動とに伴って、一酸化炭素の放出量が増大し、一酸化炭素をカルボニル化反応に有効に利用できない。
【0005】
特開2000−95723号公報(特許文献4)には、カルボニル化による酢酸の製造プロセスにおいて、制御弁を通る一酸化炭素流を測定し、所定時間当たりの一酸化炭素流の平均値を計算し、この平均一酸化炭素流に一定値を加算して一酸化炭素の最大流速を算出し、反応器への一酸化炭素流速が最大流速を超えないように操作する制御方法が開示されている。この方法では、平均一酸化炭素流に一定値を加算した最大流速を基準として一酸化炭素流速を制御するため、反応系の温度および圧力変動を抑制し、反応系を安定化することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−54011号公報
【特許文献2】特開平6−321847号公報
【特許文献3】特表平10−508594号公報
【特許文献4】特開2000−95723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、カルボニル化反応系などの液相反応系を有効に安定化できる反応制御方法(又は安定化方法)および反応制御装置(又は安定化装置)を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、液相反応系の温度および圧力変動を抑制し、安定に生成物を工業的に有利に製造できる反応制御方法(又は安定化方法)および反応制御装置(又は安定化装置)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(1)蒸留によりカルボニル化反応混合物から分離された分離成分(高沸点成分など)を定常的に所定の速度で反応系に循環させ(又は戻し)ていても、分離成分の循環量(戻り流量)が変動するとともに反応系の温度が変動し、定常的に所定の速度で一酸化炭素を反応系に供給しても、前記温度変化に伴って反応系の圧力も変動すること、特に冷却ユニットを用いることなく分離成分の循環量(戻り流量)により発熱反応系の反応温度をコントロールする場合には、前記温度および圧力の変動が大きいこと、(2)反応系へ戻す前記分離成分の熱量に応じて循環する分離成分の温度をコントロールすると、反応系の温度および圧力変動を大きく抑制できるとともに、一酸化炭素の放出量を低減して反応に有効に利用でき、しかも反応系を安定化できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の反応制御方法(又は安定化方法)では、反応成分を連続的に液相反応系に供給しつつ、この反応系から反応生成物の一部を連続的に分離工程に供し、この分離工程で分離された分離成分(低沸点成分から分離された高沸点成分など)を前記反応系に循環させる(又は戻す)方法であって、前記分離工程からの分離成分の循環量(戻り流量)に応じて、反応系に循環又は戻る分離成分の熱量をコントロールし、前記反応系の温度を制御する。この方法において、反応系に循環又は戻る分離成分は、通常、反応に対する有効成分(触媒成分など)を含んでいる。本発明の方法は、分離工程から反応系への分離成分(高沸点成分などの循環成分)の循環量(戻り流量)が変動するシステムに好適に適用される。このシステムおいて、反応系の温度を所定温度に制御するためには、循環する分離成分(高沸点成分などの循環成分)の流量および温度を検出し、検出された流量および温度に基づいて、循環する分離成分(又は循環成分)の温度をコントロールするのが有用である。反応器は除熱ユニット又は冷却ユニットを備えていてもよいが、本発明は、反応器が除熱ユニット又は冷却ユニットを備えていない発熱反応系に好適に適用され、この発熱反応系(又は反応器)の温度は、反応系(又は反応器)の温度よりも低い分離成分の温度及び流量により制御できる。
【0011】
前記反応制御方法(反応安定化方法)は、カルボニル化反応などの種々の液相反応系に利用できる。例えば、アルコールと一酸化炭素とをカルボニル化触媒系を含む液相反応系に供給し、反応系の液面を一定に保ちながら、反応により生成したカルボン酸を含む反応混合物の一部を反応系から抜き取りつつフラッシュ蒸留に供し、このフラッシュ蒸留によりカルボニル化生成物を含む低沸点成分から分離され、かつカルボニル化触媒系を含む高沸点成分を反応系に循環又は戻すシステムに利用できる。このシステムでは、フラッシュ蒸留により分離された低沸点成分を、さらに、第2の低沸点成分と、カルボン酸を含む成分と、第2の高沸点成分とに分離するための精製系に供し、この精製系により分離された第2の低沸点成分を反応系に循環又は戻してもよい。このカルボニル化反応において、通常、第2の低沸点成分は助触媒などを含んでいる。前記液相反応系は、カルボニル化触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応させ、酢酸又はその誘導体を生成させる反応系であってもよい。このような方法により、反応温度を極めて高い精度でコントロールでき、液相反応系の圧力変動も大幅に抑制できる。例えば、基準温度に対して±0.5℃の範囲で反応系の温度を制御することができる。
【0012】
本発明の制御装置(安定化装置)は、前記液相反応系と、蒸留塔などの分離ユニットと、この分離ユニットにより分離された分離成分の温度をコントロールするための温度制御ユニットと、この温度制御ユニットにより温度が調整された分離成分を反応系に循環又は戻すための循環ラインとを備えている。また、前記装置は、この循環ラインでの分離成分の循環量(戻り流量)を検出するための流量センサと、前記循環ラインでの分離成分の温度を検出するための温度センサと、前記流量センサおよび温度センサからの検出データに基づいて、前記温度制御ユニットにより、反応系へ循環又は戻る分離成分の熱量をコントロールするための制御ユニットとを備えている。前記装置では、前記分離ユニットにより低沸点成分と高沸点成分とに分離し、高沸点成分を前記循環ライン(第1の循環ライン)を通じて反応系に循環又は戻し、分離された低沸点成分を、精製ユニットにより、第2の低沸点成分と、カルボン酸を含む成分と、第2の高沸点成分とに分離し、第2の低沸点成分を、第2の循環ラインを通じて反応系へ循環又は戻してもよい。前記液相反応系は、通常、冷却ユニットを備えていない発熱反応を伴う反応系であり、制御ユニットは、反応系の温度よりも低い分離成分の熱量を温度制御ユニットによりコントロールし、循環する分離成分の循環量(戻り流量)により反応温度を制御するためのユニットとして機能させることができる。
【0013】
なお、本明細書において「反応系の液面を一定に保つ」とは、液面を平均して略一定に保つことを意味し、静的に一定のレベルの液面に限らず、スパージングなどにより液面が変動する場合であっても平均して略一定であればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、反応系への高沸点成分の循環量(戻り量)に応じて熱量をコントロールするので、高沸点成分の循環量(戻り量)が変動しても、液相反応系(カルボニル化反応系など)を有効に安定化できる。また、反応系の温度および圧力変動を抑制し、反応系を安定化できるため、反応成分を安定に供給できるとともに、反応成分を有効に活用して目的生成物の生産量を増大できる。そのため、目的生成物を安定かつ工業的に有利に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の反応制御方法および制御装置を説明するためのプロセスフロー図である。
【図2】図2は図1の制御装置を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、必要により添付図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の制御方法および制御装置を説明するためのプロセスフロー図であり、図2は図1の制御装置を説明するためのブロック図である。
【0017】
この例では、ロジウム触媒、ヨウ化リチウム、ヨウ化メチルで構成されたカルボニル化触媒系の存在下、アルコール(メタノールなど)と一酸化炭素とのカルボニル化反応によりカルボン酸(酢酸など)を製造するプロセスが示されている。
【0018】
このプロセスは、気体反応成分としての一酸化炭素を加圧するためのコンプレッサ1と、バッファタンク2を介して、加圧された一酸化炭素を所定速度で連続的に反応器3へ供給するための供給ライン17と、液体反応成分としてのアルコール(メタノールなど)を反応器3へ所定速度で連続的に供給するための供給ライン19と、反応器3での液面を略一定に保ちながら、反応により生成したカルボニル化生成物(酢酸などのカルボン酸又はその誘導体)を含む反応混合物の一部を反応器から連続的に抜き取りつつ、分離ユニットとしてのフラッシュ蒸留塔4に供給するための供給ライン20とを備えている。前記反応器3は、カルボニル化触媒系(ロジウム触媒などの主たる触媒成分と、ヨウ化リチウム及びヨウ化メチルなどの助触媒とで構成された触媒系)を含む液相反応系を構成し、気体反応成分としての一酸化炭素は反応器3の下部からスパージングされている。このような液相反応系(又は反応器)は、発熱反応を伴う発熱反応系(又は反応器)である。前記反応器3は、反応温度を制御するための除熱ユニット又は冷却ユニットを備えていてもよいが、好ましくは除熱ユニット又は冷却ユニットを備えていない。
【0019】
なお、反応器3からのガス成分には、未反応の一酸化炭素、助触媒としてのヨウ化メチル、副生したメタンなどが含まれており、これらの成分を含むガス成分は、ヨウ化メチルなどの助触媒を回収するため、前記反応器3から吸収系に供給され、回収された助触媒は反応に再利用できる。
【0020】
前記バッファタンク2の上流側の一酸化炭素供給ライン17には、バッファタンク2で吸収できなかった過剰の一酸化炭素を燃焼しつつ排気するための排気ライン18が接続されている。
【0021】
前記バッファタンク2よりも上流側の一酸化炭素供給ライン17には、一酸化炭素の供給圧(又は流量)を検出するための圧力センサ(又は流量センサ)P1と、このセンサにより検出されたデータと基準値に関するデータとに基づいて、前記排気ライン18から過剰の一酸化炭素を排出するための圧力調整バルブ(電磁バルブ)V1とが取り付けられている。さらに、バッファタンク2と反応器3との間の一酸化炭素供給ライン17には、流量センサ(又は圧力センサ)F1と、流量調整バルブ(又は圧力調整バルブ)V2とが取り付けられており、反応器3の上部には、反応器3の気相の圧力を検出するための圧力センサP2が取り付けられている。そのため、一酸化炭素供給ライン17の流量センサF1と反応器3の圧力センサP2との検出データに基づいて、流量調整バルブV2により反応器3への一酸化炭素の流量を制御している。なお、反応器3には、反応温度を検出するための温度センサT1が取り付けられている。この温度センサT1の検出データは温度制御ユニット16に与えられ、この温度制御ユニットは、アルコール供給ライン19に取り付けられた温度調整ユニット(熱交換器)7により、反応器3へ供給するアルコール(メタノールなど)の温度を調整する。すなわち、反応器3での温度の変動を、原料供給系からの原料の温度により補助的に抑制するため、アルコール供給ライン19のアルコール(メタノールなど)は、温度センサT1,温度制御ユニット16及び温度調整ユニット(熱交換器)7により、反応器3の温度が基準温度よりも高くなったときには、アルコール(メタノールなど)の温度を低下させ、反応器3の温度が基準温度よりも低くなったときには、温度調整ユニット(熱交換器)7によりアルコール(メタノールなど)の温度を高めて反応器3に供給している。
【0022】
さらに、反応混合液を反応器3からフラッシュ蒸留塔4へ供給するための供給ライン20には、反応混合液の流量を検出するための流量センサF2と、この流量センサからの検出データに基づいて反応混合液の流量を制御するための流量調整バルブV3が設けられている。
【0023】
前記フラッシュ蒸留塔4では、カルボニル化生成物を含む第1の低沸点成分(蒸気成分)と、カルボニル化触媒系(ロジウム触媒、ヨウ化リチウムなどの高沸点助触媒成分)を含む第1の高沸点成分(液体成分)とに分離され、高沸点成分は、蒸留塔4での液面を略一定に保ちながら、第1の循環ライン21を通じて反応器3へ循環又は戻される。なお、第1の循環ライン21を通じて反応器3へ循環又は戻される高沸点成分の温度は、フラッシュ蒸留に伴う蒸発潜熱により、反応器3の反応温度(基準温度)よりも低い。
【0024】
なお、フラッシュ蒸留塔4で分離された第1の低沸点成分(蒸気成分)は、通常、反応生成物(酢酸などのカルボン酸)の他、未反応の低沸点反応成分(メタノールなどのアルコール)、中間生成物(酢酸メチルなどのカルボン酸エステル)、揮発性助触媒成分(ヨウ化メチルなどのハロゲン化アルカンなど)や低沸点副生物を含んでいる。そのため、分離工程で分離された第1の低沸点成分は、第2の分離工程又は精製システム(例えば、精留塔5)へ供給され、反応に有用な揮発性助触媒成分(ヨウ化メチルなど)を含む第2の低沸点成分と、カルボン酸(酢酸など)と、第2の高沸点成分とに分離され、精製されたカルボン酸(酢酸など)はライン23を通じて取り出される。一方、精留塔5で分離された第2の低沸点成分は、第2の循環ライン22を通じて反応器3へ戻され、精留塔5で分離された高沸点成分は、塔底からライン24を通じて取り出される。なお、反応器3へ戻される第2の低沸点成分の温度も、通常、反応器3の反応温度(基準温度)よりも低い。
【0025】
前記フラッシュ蒸留塔4の下部には、液相の液面の高さを検出するためのレベルセンサL1が取り付けられている。さらに、循環ライン21には、反応系に戻る第1の高沸点成分(液体成分)の温度を検出するための温度センサT2と、第1の高沸点成分の流量を検出するための流量センサF3とが取り付けられている。この温度センサT2からの検出データは制御ユニット14に与えられ、この制御ユニットは、熱媒の流量調整バルブV4と、第1の循環ライン21に設けられた温度制御ユニット(熱交換器)6とにより高沸点成分の温度を制御する。さらに、前記レベルセンサL1からの液面の高さに関する検出データと前記流量センサF3からの検出データとは、制御ユニット15に与えられ、この制御ユニットは、前記検出データに基づいて、第1の循環ライン21に設けられた流量調整バルブV5により高沸点成分の循環量(戻り流量)を制御し、フラッシュ蒸留塔4での液面を所定の高さ位置に維持している。
【0026】
このようなシステムにおいて、反応器3からフラッシュ蒸留塔4への反応混合物の供給量およびフラッシュ蒸留4から反応器3への高沸点成分の循環量のうち少なくとも一方の量が変動し、前記反応器3の温度及び/又は圧力が変動する。特に、反応システムが、1つの変動(流量変動)が後続する工程へ順次波及する循環システム(換言するならば、変動伝播型の循環システム)であるだけでなく、発熱反応を伴う反応系は、反応器3がジャケットなどの除熱又は冷却ユニットを備えていてもよいが、好ましくは、反応器3がジャケットなどの除熱又は冷却ユニットを備えていない開放冷却型反応系である。しかも反応系の温度よりも低い分離成分を循環又は戻すことにより、反応系の温度を制御している。そのため、このようなシステムでは、反応系の温度及び圧力変動が大きい。例えば、前記システムにおいて、レベルセンサL1を利用してフラッシュ蒸留塔4の液面の高さ位置を所定位置に維持するためカスケード制御すると、蒸留塔4から反応器3への抜き出し速度(循環量又は戻り量)が変動し、反応器3内へ導入されるエンタルピーが変化し、反応器3内の温度が変動する。さらには、反応器3内の温度変化により反応器3内の圧力、一酸化炭素の使用量(又は消費量)が変動する。そのため、反応系を安定に運転することが困難であるとともに、排気ライン18からの一酸化炭素の排出量も大きくなり、一酸化炭素をカルボニル化反応に有効に利用できない。
【0027】
より具体的には、酢酸製造プラントでは、例えば、反応温度(基準温度)150〜220℃(好ましくは170〜200℃、さらに好ましくは175〜195℃)程度、温度調整ユニット6による高沸点成分の温度20〜130℃(好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは90〜125℃、特に100〜125℃)程度の条件で操業することができる。また、供給ライン20での反応混合液の流量(フラッシュ液量)は、反応系に供給される反応成分の供給量に略対応しており、供給ライン20での反応混合液の流量(フラッシュ液量)100容量部/Hに対して、第1の循環ライン21での第1の高沸点成分の流量は、例えば、10〜90容量部/H(好ましくは30〜90容量部/H、さらに好ましくは50〜80容量部/H、特に60〜70容量部/H)程度,フラッシュ蒸留塔4から蒸発し、精製工程へ供給される第1の低沸点成分の流量は、例えば、10〜90容量部/H(好ましくは20〜70容量部/H、さらに好ましくは20〜50容量部/H、特に30〜40容量部/H)程度であり、供給ライン20での反応混合液の流量(フラッシュ液量)100容量部/Hに対して、第2の循環ライン22での第2の低沸点成分の流量は、例えば、1〜90容量部/H(好ましくは5〜50容量部/H、さらに好ましくは5〜20容量部/H、特に10〜15容量部/H)程度である。
【0028】
しかし、このような条件で操業しても、前記供給ライン20での反応混合液の流量が変動するだけでなく、レベルセンサL1によりフラッシュ蒸留塔4での液面を所定の高さ位置にコントロールしているため、第1の循環ライン21での高沸点成分の流量や第2の循環ライン22での低沸点成分の流量が変動し、ひいては反応器3内の温度が、例えば、基準温度に対して±0.5〜1℃程度の範囲で変動する。
【0029】
そこで、本発明では、前記第1の循環ライン21での流量センサF3および温度センサT2からの検出データは制御ユニット(又は制御装置)8に与えられ、流量及び温度に基づく高沸点成分の熱量に応じて、反応系に戻る高沸点成分の温度を制御している。より詳細には、図2に示されるように、循環ライン21での流量センサF3からの流量データ、および温度センサT2からの温度データは制御ユニット8に与えられる。この制御ユニット(又は制御装置)8は、前記流量データ及び温度データに基づいて、循環する高沸点成分の熱量データを算出するための第1の演算ユニット9と、設定ユニット10に設定され、かつ前記反応器3内の温度を所定の温度に維持するための基準となる基準熱量データ(閾値データ)と、前記算出された熱量データとを比較するための比較ユニット11と、この比較ユニットにより算出された熱量データが基準熱量データの閾値を外れたとき、熱量データと基準熱量データとの偏差に基づいて、温度に関する制御量を算出するための第2の演算ユニット12と、この第2の演算ユニットにより算出された温度に関する制御量に基づいて、前記熱媒の流量調整バルブV4及び温度調整ユニット6により、循環する高沸点成分の温度を制御するための駆動ユニット13とを備えている。この例では、この駆動ユニット13からの制御量に関する信号は、温度調整ユニット6において、熱媒の流量を制御するための前記流量制御バルブV4に与えられる。
【0030】
このような制御装置を備えたプロセスでは、第1の循環ライン21における高沸点成分の循環量(戻り量)が変動しても、反応系に戻る流量のうち多くの割合を占める高沸点成分の循環量(戻り量)に応じて、循環する高沸点成分の熱量を制御するため、反応器3内の温度変動及び圧力変動を著しく抑制でき、酢酸製造プロセスを安定化できる。例えば、前記酢酸製造プラントの条件で酢酸を工業的に製造しても、基準温度に対して極めて安定に、例えば、基準温度±0.5℃(好ましくは基準温度±0.3℃、特に基準温度±0.2℃)の範囲で反応系の温度を制御できる。さらに、温度及び圧力の変動を抑制でき、反応系を安定化できるため、一酸化炭素の供給量及びメタノールの供給量のみならず、酢酸の生産量を増大できる。さらには、排気ライン18からの一酸化炭素排出量を低減でき、一酸化炭素をカルボニル化反応に有効に利用できる。
【0031】
なお、本発明は、前記カルボン酸の連続製造プロセスに限らず、反応成分(気体反応成分、液体反応成分など)を所定速度で連続的に液相反応系に供給しつつ、この反応系から反応生成物の一部を連続的に分離工程又は分離系(蒸留塔など)に供し、この分離工程で分離された分離成分(低沸点成分又は高沸点成分)を前記反応系に循環又は戻すプロセス(例えば、連続製造プロセス)に適用できる。特に、反応系から分離系(蒸留系など)への反応生成物の供給量および分離系(蒸留系など)から反応系への分離成分(高沸点成分など)の循環量(戻り流量)のうち少なくとも一方の循環流量(戻り流量)が変動するシステム(なかでも、分離系から反応系への分離成分の循環量が変動するシステム)に適用しても、液相反応系を安定化できる。
【0032】
さらに、本発明は、反応系が冷媒などによる除熱ユニット又は冷却ユニットを備えておらず、反応系の温度よりも低い分離成分の温度及び流量により反応系の温度を制御する発熱反応系(開放冷却を利用した発熱反応系)に好適に適用される。反応系に循環又は戻る分離成分の温度は、反応系の基準温度よりも、例えば、10〜120℃(特に20〜100℃)程度低い温度から選択でき、通常、30〜100℃(例えば、50〜80℃)程度低い。
【0033】
反応系に循環又は戻す分離成分は、反応の種類に応じて選択でき、通常、反応に対する有効成分を含んでおり、この有効成分には、触媒成分のみならず未反応の反応成分、反応溶媒なども含まれる。反応系に循環又は戻す分離成分は、通常、液体である。さらに、分離系で分離され、かつ目的化合物を含む分離成分は、通常、反応系に戻すことなく分離精製系へ供給され、目的化合物が回収される。
【0034】
さらに、本発明は、触媒成分などの有効成分を反応系に戻す種々の液相反応、例えば、カルボニル化反応、不均化反応(キシレンからトルエン及びトリメチルベンゼンの生成など)、異性化反応(マレイン酸からフマル酸の生成など)、メタセシス反応、水和反応、ヒドロホルミル化反応、エステル化反応、酸化反応、縮合反応、ハロゲン化反応などにも適用できる。反応成分は、反応の種類に応じて選択でき、特に制限されない。
【0035】
例えば、カルボニル化反応に利用される成分としては、例えば、アルコール類(メタノールなど)又はその誘導体と一酸化炭素との組合せ(酢酸などのカルボン酸又はその誘導体の製造)、オレフィン類(エチレンなど)と一酸化炭素と水素との組合せ(アセトアルデヒドなどのアルデヒド類の製造)、オレフィン類と一酸化炭素と水との組合せ(カルボン酸の製造)、オレフィン類と一酸化炭素とアルコールとの組合せ(カルボン酸エステルの製造)、アルキン類(アセチレン、メチルアセチレンなど)と一酸化炭素と水との組合せ(アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸の製造)、アルキン類(アセチレン、メチルアセチレンなど)と一酸化炭素とアルコール(メタノールなど)との組合せ(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸エステルの製造)、アルコールと一酸化炭素と酸素との組合せ(炭酸ジエステルの製造)などが例示できる。
【0036】
前記カルボニル化反応におけるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのC1−10アルキルアルコール、シクロヘキサノール、シクロオクタノールなどのC3−10シクロアルキルアルコール、フェノールなどのフェノール類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどのアラルキルアルコールなどが例示できる。アルコール誘導体のうち、エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチルなどのC2−6アルキルカルボン酸−C1−6アルキルエステルなどが例示でき、ハロゲン化物としては、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピルなどのヨウ化C1−10アルキル、これらのヨウ化アルキルに対応する臭化物(臭化メチル、臭化プロピルなど)や塩化物(塩化メチルなど)などが例示できる。エーテル類としては、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテルなどのジC1−6アルキルエーテルなどが例示できる。必要であれば、アルコールとして多価アルコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのアルキレングリコール又はそれらの誘導体(例えば、エステル、ハロゲン化物、エーテルなど)を用いてもよい。
【0037】
オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ブテン−2、ヘキセン、オクテンなどのアルケン類、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセンなどのシクロアルケン類、アレン、ブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが例示できる。アルキン類としては、例えば、アセチレン、メチルアセチレンなどが例示できる。
【0038】
好ましい液相反応系は、液体反応成分としてアルコール、好ましくはC1−4アルコール又はその誘導体(例えば、メタノール、酢酸メチル、ヨウ化メチル、ジメチルエーテルなど)を用いて、カルボン酸又はその誘導体(カルボン酸無水物など)を得るための反応系、特に、カルボニル化触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とを液相反応系で反応させ、酢酸又はその誘導体を生成させる反応系である。
【0039】
前記液相反応系では、触媒又は触媒系の存在下に反応させてもよく、触媒又は触媒系は反応の種類に応じて選択でき特に制限されないが、前記カルボニル化反応では、通常、高沸点の触媒や金属触媒が使用される。例えば、前記カルボニル化触媒としては、遷移金属系触媒、例えば、ロジウム触媒、イリジウム触媒、白金触媒、パラジウム触媒、銅触媒、オスミウム触媒、ニッケル触媒、コバルト触媒などが例示できる。触媒は、金属単体であってもよく、金属酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、ハロゲン化物(塩化物、臭化物、ヨウ化物など)、カルボン酸塩(酢酸塩など)、無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩など)、錯体などの形態で使用できる。
【0040】
触媒の濃度は、液相反応の種類に応じて選択でき、例えば、前記カルボニル化反応では、液相系全体に対して重量基準で5〜10000ppm、好ましくは10〜7000ppm、さらに好ましくは20〜5000ppm(例えば、50〜1000ppm)程度である。
【0041】
カルボニル化触媒は、助触媒又は促進剤と組み合わせて触媒系として使用してもよい。助触媒又は促進剤は反応の種類に応じて選択でき、例えば、アルコールのカルボニル化反応によるカルボン酸の製造では、アルカリ金属ハライド(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化リチウムなど)、ハロゲン化水素(ヨウ化水素、臭化水素など)、ハロゲン化アルキル(ヨウ化メチル、臭化メチルなどのハロゲン化C1−4アルカンなど)などが例示できる。なお、アルカリ金属ハライドは、カルボニル化触媒(例えば、ロジウム触媒など)の安定剤としても機能する。また、(メタ)アクリル酸又はそのエステルなどの製造では、アミン類(鎖状又は環状第三級アミン類など)や有機スルホン酸類(メタンスルホン酸又はその塩などのアルキルスルホン酸類など)などを使用してもよい。
【0042】
助触媒又は促進剤の含有量は、液相反応の種類などに応じて選択でき、例えば、前記カルボニル化反応では、液相系全体に対して、各成分の含有量は、それぞれ、0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜15重量%程度である。より具体的には、前記アルコールのカルボニル化反応によるカルボン酸の製造では、ヨウ化メチルなどのハロゲン化アルカンの含有量は、液相系全体に対して、0.1〜25重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%程度であり、ヨウ化リチウムなどのハロゲン化アルカリ金属の含有量は、液相系全体に対して、0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは1〜10重量%程度である。
【0043】
なお、アルコールのカルボニル化によるカルボン酸の製造においては、酢酸メチルなどのカルボン酸エステル(特に、生成するカルボン酸とアルコールとのエステル)を液相系全体に対して、0.1〜75重量%、好ましくは0.2〜50重量%(例えば、0.2〜25重量%)、さらに好ましくは0.5〜10重量%(0.5〜5重量%)程度の割合で含有させてもよい。
【0044】
一酸化炭素は、純粋なガスとして使用してもよく、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素など)で稀釈して使用してもよい。反応系の一酸化炭素分圧は反応の種類などに応じて適当に選択でき、例えば、アルコールのカルボニル化反応によるカルボン酸の製造では、反応系において、一酸化炭素の分圧は、例えば、200〜3000kPa、好ましくは400〜1500kPa、さらに好ましくは500〜1000kPa程度である。
【0045】
反応は溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよく、水素ガス及び/又は水(例えば、液相系の全体に対して0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは1〜10重量%程度)の存在下で行ってもよい。
【0046】
カルボニル化反応において、反応温度および圧力は、液相反応の種類に応じて適当に選択でき、例えば、反応温度100〜250℃(好ましくは150〜220℃、さらに好ましくは170〜200℃)程度、反応圧力1000〜5000kPa(例えば、1500〜4000kPa)程度であってもよい。
【0047】
なお、液面の高さが比較的安定している液相反応系では、必要であれば、反応器内の液面の高さを制御するため、反応器には液相反応系の液面の高さを検出するためのレベルセンサを取り付けてもよい。
【0048】
前記アルコールのカルボニル化反応では、アルコール(メタノールなど)に対応するカルボン酸(酢酸など)が生成するとともに、生成したカルボン酸とアルコールとのエステル(酢酸メチルなど)、エステル化反応に伴って水などが生成する。
【0049】
反応生成物(反応混合液)は、直接分離工程に供することなく、前処理(ろ過処理など)したり、所定の温度に冷却して、分離工程に供してもよい。反応生成物(反応混合液)は、分離工程において、反応域よりも実質的に圧力が低い分離帯(例えば、蒸留塔などの分離ユニット)により、反応生成物を含む低沸点成分としての蒸気成分と、高沸点成分としての液体成分とに分離される。分離ユニットとしては、種々の分離装置、例えば、蒸留塔(棚段塔,充填塔、フラッシュ蒸留塔など)などが利用できる。分離ユニットでは、加熱してもよく加熱することなく蒸気成分と液体成分とを分離してもよい。例えば、フラッシュ蒸留を利用する場合、断熱フラッシュにおいては、加熱することなく減圧することにより反応混合物を分離でき、恒温フラッシュでは、反応混合物を加熱し減圧することにより反応混合物を分離でき、これらのフラッシュ条件を組み合わせて、反応混合物を分離してもよい。なお、これらのフラッシュ蒸留は、例えば、反応混合物を80〜200℃程度の温度で圧力50〜1000kPa(例えば、100〜1000kPa)程度で行うことができる。
【0050】
本発明では、通常、反応生成物(反応混合物)から、反応に有用な有効成分を含む分離成分Aと、目的化合物を主に含む分離成分Bとを分離し、分離成分Aを反応系に戻して有効成分を効率よく利用し、分離成分Bから目的化合物を分離精製される。そのため、第1の高沸点成分及び/又は第1の低沸点成分が主に目的化合物と有効成分(触媒成分など)とを含有する場合には、第1の高沸点成分及び/又は第1の低沸点成分を分離精製システム(又は精製システム)に供給して、目的化合物と、有効成分を含む成分とに分離し、有効成分を含む成分を反応系に循環させてもよい。なお、目的化合物は、蒸留又は精留に限らず、吸収、吸着、濃縮、晶析などにより精製してもよい。
【0051】
第1の高沸点成分及び/又は第2の高沸点成分は、高沸点副生物を含んでいる場合がある。また、第1の低沸点成分及び/又は第2の低沸点成分は、低沸点副生物を含んでいる場合がある。そのため、これらの高沸点又は低沸点成分から、必要により高沸点副生物又は低沸点副生物を分離し、反応に有効な成分を含んでいる場合には、有効成分を含む成分を前記反応系に循環させてもよい。なお、特開平6−321847号公報に開示されているように、高沸点成分には、析出又は沈殿を防止し、触媒系を安定化するため水(例えば、0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%程度)を含有させてもよい。
【0052】
なお、第1の分離工程(分離ユニット)及び/又は第2の分離精製工程(精製ユニット)は、それぞれ、単一の工程(又はユニット)で構成してもよく、複数の工程(又はユニット)で構成してもよい。
【0053】
本発明では、液相反応系の温度及び/又は圧力を安定化するため、前記分離工程からの分離成分(循環成分又は戻り成分)の循環量(又は戻り流量)に応じて、循環成分の熱量をコントロールする。分離成分の熱量は、循環する成分の流量(戻り量)および温度を検出し、検出された流量および温度に基づいて、循環する成分の温度をコントロールすることにより行うことができる。なお、循環成分の温度の変動幅が小さい場合には、循環成分の流量を検出し、検出した流量データに基づいて循環成分の温度をコントロールしてもよい。このような制御により、前記反応系の温度を所定の温度に制御できるとともに、前記反応系の気相の圧力変動を抑制できる。より具体的には、反応系の基準温度(温度に関する基準値)をT1,循環成分の基準循環量(循環量又は流量に関する基準値)をA1,循環成分の循環量(流量)をA2,循環する循環成分の温度をT2とするとき、前記循環量(流量)の差△(A1−A2)および循環成分の温度差△(T1−T2)に基づいて、循環する循環成分の温度をコントロールすることにより、循環成分の戻り量に応じて循環する高沸点成分の熱量をコントロールするのが有用である。
【0054】
前記の例では、第1の高沸点成分の熱量コントロールにより反応系の温度を制御しているが、反応系に循環する第2の低沸点成分の熱量もコントロールし、反応系の温度をさらに精度よく制御してもよい。例えば、第2の循環ラインにおいて、流量センサおよび温度センサにより第2の低沸点成分の流量および温度を検出し、前記流量センサおよび温度センサからの検出データに基づいて、前記と同様の制御ユニットおよび温度制御ユニットにより、循環する第2の低沸点成分の温度(第2の低沸点成分の熱量)をコントロールし、前記反応系の温度を所定の温度に制御するとともに、前記反応系の気相の圧力変動を抑制してもよい。
【0055】
循環成分(又は戻り成分)の熱量の制御には、種々のフィードバック制御などのプロセス制御動作、例えば、基準熱量からの熱量の偏差に比例させて操作量を制御する比例動作(P動作)、熱量の偏差を積分して操作量を制御する積分動作(I動作)、熱量の偏差の変化に応じて操作量を制御する微分動作(D動作)、これらを組み合わせた動作(例えば、PI動作,PD動作,PID動作)などが例示できる。例えば、I動作を利用して、基準流量に対する循環成分(前記の例では、第1の高沸点成分及び/又は第2の低沸点成分などの戻り成分)の戻り流量の偏差を所定時間毎に積分したり、戻り流量の偏差の積分量が所定流量に達したとき、循環成分の温度を制御して反応系に戻してもよい。
【0056】
なお、循環成分を所定温度に冷却し、前記制御ユニットと温度調整ユニットとを利用して循環成分の温度を所定温度に調整し、温度調整された循環成分を反応器へ所定の速度で循環してもよい。このような態様では、循環成分の温度差△(T1−T2)に基づいて、循環成分の温度をコントロールすることなく、前記循環量(流量)の差△(A1−A2)に基づいて、循環成分の温度をコントロールしてもよい。また、循環成分(カルボニル化触媒系を含む液体成分など)は、反応系の反応温度と同程度に温度を調整して反応系に循環してもよい。
【0057】
循環ラインにおいて、温度調整ユニットは、流量センサ及び温度センサの下流側に取り付けてもよい。また、前記制御ユニットを利用する限り、必要であれば、循環成分を一時的に貯留するためのバッファタンクを循環ラインに設けてもよい。
【0058】
前記の例では、反応器の反応生成物を1つの供給ラインで分離ユニットに供給し、分離ユニットで分離された循環液体成分を1つの第1又は第2の循環ラインで反応系に戻しているが、反応器の反応生成物は、複数の供給ライン(例えば、主たる供給ラインとバイパスライン)で分離ユニットに供給してもよい。また、分離ユニットで分離された循環成分は、複数の循環ラインで反応系に戻してもよい。複数の循環ラインを利用する場合、少なくとも1つの循環ラインを利用して、循環成分全体の熱量をコントロールすればよく、例えば、主たる循環ラインでは定常的に循環成分を反応系に戻しつつ、バイパスラインに温度調整ユニットを取付け、流量データ及び温度データに基づいて、反応系へ循環する循環成分全体の熱量をコントロールしてもよい。
【0059】
温度調整ユニットにおいては、冷却水などの冷媒を用いてもよく、加熱可能なシリコーンオイルなどの熱媒を用いてもよい。さらには、単一の温度調整ユニットに限らず複数の温度調整ユニットを循環ラインに取り付けてもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0061】
比較例
図1及び図2に示される制御ユニット8及び温度調整ユニット6を利用することなく、図1に示す装置を用い、一酸化炭素製造プラントから一酸化炭素を圧力3079kPaで反応器へ供給するとともに、メタノールを流量約29kg/Hで反応器へ供給し、基準一酸化炭素分圧700〜755kPa,基準圧力2755kPa,基準温度187.5℃で反応させた。なお、メタノールは、反応器の温度が基準温度よりも低下したときには加熱し、基準温度よりも高くなったときには冷却する操作を行い、メタノールの温度を調整して反応器へ供給した。なお、圧力3236kPaを越え、バッファータンクで吸収できなかった過剰の一酸化炭素は排気ラインから燃焼させて放出した。反応は、液相中のヨウ化ロジウム濃度550〜600ppm、ヨウ化メチル濃度12〜13重量%、ヨウ化リチウム濃度4.7〜4.9重量%、酢酸メチル濃度1.5〜1.7重量%、水分濃度7.8〜8.0重量%で行った。
【0062】
反応器からフラッシュ蒸留塔に一部の反応混合液を連続的に供給し、基準圧力157kPa,基準温度130℃、基準フラッシュ液量540L/Hでフラッシュ蒸留し、分離した第1の高沸点成分(基準温度122℃)を基準流量350L/Hで反応系へ循環又は戻した。また、フラッシュ蒸留により分離された第1の低沸点成分を複数の精留塔に供給し、ヨウ化メチル及び水を含む留分(第2の低沸点成分)を、温度調整することなく基準流量66L/Hで反応系へ循環又は戻した。
【0063】
このような条件で酢酸を連続的に製造したところ、一酸化炭素製造プラントから一酸化炭素の流量は21.2〜21.8Nm/Hの範囲で変動し、メタノールの仕込み流量は28.8kg/Hであり、メタノールを60〜100℃の範囲で温度調整して反応器へ供給した。
【0064】
フラッシュ蒸留塔には、温度186.9〜188.1℃の反応混合液が、供給圧2726〜2785kPa及び液量530〜545L/Hの範囲で変動して供給された。フラッシュ蒸留塔で分離された第1の高沸点成分は、流量(戻り流量)345〜355L/Hの範囲で変動して反応器へ循環又は戻された。さらに、精留塔で分離され、かつ反応系へ循環する第2の低沸点成分の流量(戻り流量)は64.8〜67.2L/Hの範囲で変動した。
【0065】
さらには、排気ラインからの一酸化炭素の放出量は0〜0.6Nm/H(放出圧力3236kPa)の範囲で変動し、反応温度は186.9〜188.1℃の範囲で変動し、反応圧力も2726〜2785kPaの範囲で変動した。
【0066】
なお、フラッシュ蒸留に供された反応混合液は、酢酸72重量%,ヨウ化メチル13重量%,酢酸メチル2重量%,水8重量%,ヨウ化ロジウム600ppm,ヨウ化リチウム5重量%を含んでいた。蒸留塔で分離された高沸点成分は、酢酸81重量%,ヨウ化メチル2重量%,酢酸メチル1重量%,水9重量%,ヨウ化ロジウム1000ppm,ヨウ化リチウム7重量%を含んでいた。また、精留塔からの留分(第2の低沸点成分)は、酢酸61重量%,ヨウ化メチル19重量%,酢酸メチル8重量%,水12重量%を含んでいた。
【0067】
実施例
フラッシュ蒸留塔で分離され、かつ反応器へ循環する第1の高沸点成分の流量が1L/Hの割合で変動したとき、循環する高沸点成分の温度を0.415℃だけ調整して反応器へ循環させる以外、比較例1と同様にして酢酸を製造した。すなわち、図1に示される制御ユニット8及び温度調整ユニット6を利用して、I動作により、基準流量350L/Hに対して第1の高沸点成分の流量の積分値が1L/H増加すると、高沸点成分の温度を基準温度122℃よりも0.415℃上昇させ、第1の高沸点成分の流量の積分値が基準流量350L/Hに対して1L/H減少すると、高沸点成分の温度を基準温度122℃よりも0.415℃低下させる操作を行った。
【0068】
このような条件で酢酸を連続的に製造したところ、一酸化炭素製造プラントから一酸化炭素の流量は21.7〜21.8Nm/Hの狭い範囲で変動し、メタノールの仕込み流量は29.3kg/Hに増加した。なお、メタノールの供給温度は60〜90℃の範囲で温度調整して反応器へ供給した。
【0069】
フラッシュ蒸留塔には、温度187.5〜187.8℃の反応混合液が、供給圧2750〜2760kPa及び液量537〜542L/Hの狭い範囲で供給された。フラッシュ蒸留塔で分離され、かつ反応器へ循環される第1の高沸点成分の流量(戻り流量)は、347〜352L/Hの狭い範囲で変動した。さらに、精留塔で分離され、かつ反応系へ循環する第2の低沸点成分の流量(戻り流量)は66〜69L/Hの範囲で変動した。
【0070】
さらには、排気ラインからの一酸化炭素の放出量は0〜0.1Nm/H(放出圧力3236kPa)の範囲で変動し、反応温度の変動幅は187.5〜187.6℃、反応圧力の変動幅は2750〜2760kPaであった。
【0071】
なお、フラッシュ蒸留に供された反応混合液、蒸留塔で分離された高沸点成分、および精留塔からの第2の低沸点成分の組成は、比較例の組成と同様であった。
【0072】
上記比較例との対比から、実施例の方法では、反応系の温度の変動幅を「基準温度±0.6℃」から「基準温度±0.1℃」へ大きく低減し、反応圧力の変動幅を「基準圧力±30kPa」から「基準圧力±5kPa」へ著しく低減できた。さらに、反応系を安定化できるため、一酸化炭素の供給量及びメタノールの供給量のみならず、酢酸の生産量を増大できるだけでなく、一酸化炭素の放出量を「0〜6L/H」から「0〜0.1L/H」へ大きく低減でき、一酸化炭素をカルボニル化反応に有効に利用できた。
【0073】
結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、触媒成分などの有効成分を反応系に戻す種々の液相反応に適用できる。
【符号の説明】
【0076】
3…反応器
4…フラッシュ蒸留塔
6…温度調整ユニット
8…制御ユニット
17…一酸化炭素供給ライン
19…アルコール供給ライン
20…供給ライン
21…循環ライン
F3…流量センサ
T2…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応成分を連続的に液相反応系に供給しつつ、この反応系から反応生成物の一部を連続的に分離工程に供し、この分離工程で分離された分離成分を前記反応系に循環させる方法であって、前記分離工程から反応系への分離成分の循環量が変動し、この変動が後続する工程へ順次波及する循環システムにおいて、前記分離工程からの分離成分の循環量に応じて循環する分離成分の熱量をコントロールし、前記反応系の温度を制御する反応制御方法。
【請求項2】
反応に対する有効成分を含む分離成分を、反応系に循環させる請求項1記載の反応制御方法。
【請求項3】
分離工程から反応系への分離成分の循環量が変動するシステムにおいて、反応系の温度を所定温度に制御する方法であって、循環する分離成分の流量および温度を検出し、検出された流量および温度に基づいて、循環する分離成分の温度をコントロールする請求項1又は2記載の反応制御方法。
【請求項4】
反応系が除熱ユニットを備えていない発熱反応系であり、反応系の温度よりも低い分離成分の温度及び流量により反応系の温度を制御する請求項1〜3のいずれかに記載の反応制御方法。
【請求項5】
反応系が、一酸化炭素を連続的に供給してカルボニル化反応を行う液相反応系であり、一酸化炭素の供給系が、一酸化炭素を加圧するためのコンプレッサと、バッファタンクを介して、加圧された一酸化炭素を反応系に供給するための供給ラインと、バッファタンクの上流側の一酸化炭素供給ラインに接続され、バッファタンクで吸収できなかった過剰の一酸化炭素を排気するための排気ラインとを備えている請求項1〜4のいずれかに記載の反応制御方法。
【請求項6】
アルコールと一酸化炭素とをカルボニル化触媒系を含む液相反応系に供給し、反応系の液面を一定に保ちながら、反応により生成したカルボン酸を含む反応混合物の一部を反応系から抜き取りつつフラッシュ蒸留に供し、このフラッシュ蒸留によりカルボニル化生成物を含む低沸点成分から分離され、かつカルボニル化触媒系を含む高沸点成分を反応系に循環する方法であって、循環する高沸点成分の流量および温度を検出し、検出された流量および温度に基づいて、循環する高沸点成分の温度をコントロールし、前記反応系の温度を所定の温度に制御するとともに、前記反応系の気相の圧力変動を抑制する請求項1〜5のいずれかに記載の反応制御方法。
【請求項7】
フラッシュ蒸留により分離された低沸点成分を、さらに、第2の低沸点成分と、カルボン酸を含む成分と、第2の高沸点成分とに分離するための精製系に供し、この精製系により分離された第2の低沸点成分を反応系に循環させる請求項6記載の反応制御方法。
【請求項8】
液相反応系が、カルボニル化触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応させ、酢酸又はその誘導体を生成させる反応系である請求項1〜7のいずれかに記載の反応制御方法。
【請求項9】
基準温度に対して±0.5℃の範囲で反応系の温度を制御する請求項1〜8のいずれかに記載の反応制御方法。
【請求項10】
反応成分が所定速度で連続的に供給される液相反応系と、この反応系から反応生成物の一部が連続的に供給される分離ユニットと、この分離ユニットにより分離された分離成分の温度をコントロールするための温度制御ユニットと、この温度制御ユニットにより温度が調整された分離成分を反応系に循環させるための循環ラインとを備えている装置であって、前記分離ユニットから反応系への分離成分の循環量が変動し、この変動が後続する工程へ順次波及する循環システムにおいて、前記循環ラインでの分離成分の循環量を検出するための流量センサと、前記循環ラインでの分離成分の温度を検出するための温度センサと、前記流量センサおよび温度センサからの検出データに基づいて、前記温度制御ユニットにより、前記分離ユニットからの分離成分の循環量に応じて、循環する分離成分の熱量をコントロールするための制御ユニットとを備えている制御装置。
【請求項11】
分離ユニットにより分離された低沸点成分を、第2の低沸点成分と、カルボン酸を含む成分と、第2の高沸点成分とに分離するための精製ユニットと、この精製ユニットにより分離された第2の低沸点成分を反応系へ循環させるための第2の循環ラインとを備えており、液相反応系が、冷却ユニットを備えていない発熱反応を伴う反応系であり、制御ユニットが、反応系の温度よりも低い分離成分の熱量を温度制御ユニットによりコントロールし、循環する分離成分の循環量により反応温度を制御するためのユニットである請求項10記載の制御装置。
【請求項12】
アルコールと一酸化炭素とをカルボニル化触媒系を含む液相反応系に供給し、反応により生成したカルボン酸を含む反応混合物の一部を反応系から抜き取りつつフラッシュ蒸留に供し、このフラッシュ蒸留により分離された分離成分を反応系に循環してカルボン酸を製造する方法であって、前記フラッシュ蒸留から反応系への分離成分の循環量が変動し、この変動が後続する工程へ順次波及する循環システムにおいて、循環する分離成分の流量および温度を検出し、検出された流量および温度に基づいて、前記フラッシュ蒸留により分離された分離成分の循環量に応じて、循環する分離成分の熱量をコントロールすることにより、前記反応系の温度を所定の温度に制御する、カルボン酸を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−232301(P2012−232301A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141560(P2012−141560)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【分割の表示】特願2001−54762(P2001−54762)の分割
【原出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】