説明

反応容器の再生方法、再生反応容器、および、結晶の製造方法

【課題】本発明は、結晶成長に再利用可能な反応容器を提供すべく、結晶成長に用いられた反応容器の再生方法、再生反応容器および、これを用いた結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う結晶の製造方法に用いられた反応容器に、前記結晶の製造方法において生じた前記反応容器の変形および/または変質を修復する修復工程を施し再生反応容器とすることを特徴とする、反応容器の再生方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶成長、特にアモノサーマル法を利用した結晶成長に用いられた反応容器の再生方法、および当該方法によって再生された再生反応容器、並びに、これを用いた結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムや窒化アルミニウム等の窒化物の単結晶は、アモノサーマル法などを利用し、結晶を成長させることにより得ることができる。アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の窒素含有溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる。
【0003】
アモノサーマル法は、例えばオートクレーブのような耐圧性容器内に収容されたカプセルなどの反応容器内にて、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の窒素を含有する溶媒を用いて結晶を成長させることにより行うことができる(例えば特許文献1参照)。このように、高温高圧下での結晶成長を行うと、一回の結晶成長で受ける反応容器のダメージは大きく、劣化しやすい。一方、反応容器の材質は主に貴金属からなり高価である。このため、結晶成長を行うたびに反応容器を交換するとコストがかさんでしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−511326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、反応容器を単に再利用しようとしても、一度結晶成長に用いられた反応容器は、変形(膨張、潰れ)、破裂、亀裂、ピンホール、脆化などにより劣化している場合が少なくない。このようにして劣化した反応容器を用いると、結晶成長時に反応容器から液体・気体等が漏れたり(カプセルリーク)、製造した結晶が着色したりしてしまう等の問題を生じることが明らかになった。
【0006】
そこで本発明者らは、結晶成長に再利用可能な反応容器を提供すべく、結晶成長に用いられた反応容器の再生方法、再生反応容器および、これを用いた結晶の製造方法を提供することを目的として鋭意検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その結果、本発明者らは、結晶成長に用いられた反応容器に対して特定の修復工程を行うことにより、上記の課題を解決できることを見出した。以下に記載する本発明は、このような発見に基づいて提供されたものである。
【0008】
[1] 原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う結晶の製造方法に用いられた反応容器に、前記結晶の製造方法において生じた前記反応容器の変形および/または変質を修復する修復工程を施し再生反応容器とすることを特徴とする、反応容器の再生方法。
[2] 前記修復工程が、前記反応容器の変形および/または変質した箇所を切除する切断処理を含む[1]に記載の反応容器の再生方法。
[3] 前記修復工程が、前記反応容器の変形した箇所を矯正する矯正処理を含む[1]または[2]に記載の反応容器の再生方法。
[4] 前記修復工程が、前記反応容器に他の部材を溶接する溶接処理を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の反応容器の再生方法。
[5] 前記溶接処理が、アーク溶接である[4]に記載の反応容器の再生方法。
[6] 前記修復工程の後に、再生反応容器の検査工程を含む[1]〜[5]のいずれかに記載の反応容器の再生方法。
[7] 前記鉱化剤が、酸性鉱化剤である[1]〜[6]のいずれかに記載の反応容器の再生方法。
[8] 前記反応容器は、融点が500〜3500℃の金属またはこれらの合金を含む材質で構成される[1]〜[7]のいずれかに記載の反応容器の再生方法。
[9] 前記反応容器は、第1〜第3遷移金属またはこれらの合金を含む材質で構成される[1]〜[7]のいずれかに記載の反応容器の再生方法。
[10] 前記反応容器は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)またはこれらの合金を含む材質で構成される[9]に記載の反応容器の再生方法。
[11] [1]〜[10]のいずれかに記載の反応容器の再生方法によって得られた再生反応容器。
[12] 反応容器内で、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う1次成長工程と、前記1次成長工程後に前記反応容器の変形および/または変質を修復して再生反応容器を得る修復工程と、前記再生反応容器内で、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う2次成長工程と、をこの順に含むことを特徴する結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の反応容器の再生方法によれば、結晶成長に少なくとも一度用いられた反応容器の劣化(変形(膨張、潰れ)、破裂、亀裂、ピンホール、脆化など)を、切断・継ぎ足し、溶接、アニール等の修復工程によって修復し、反応容器を再生して利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図2】反応容器の接合部の凹みの矯正処理を説明するための模式図である。
【図3】反応容器の接合部以外の凹みの矯正処理を説明するための模式図である。
【図4】反応容器の接合部以外の凹みの他の矯正処理を説明するための模式図である。
【図5】反応容器の膨らみを矯正する処理を施す装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の反応容器の再生方法、再生反応容器および、これを用いた結晶の製造方法について説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明の反応容器の再生方法は、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う結晶の製造方法に用いられた反応容器に、前記結晶の製造方法において生じた前記反応容器の変形および/または変質を修復する修復工程を施し再生反応容器とする。本発明の反応容器の再生方法によれば、結晶成長に少なくとも一度用いられた反応容器の劣化(変形(膨張、潰れ)、破裂、亀裂、ピンホール、脆化など)を、切断・継ぎ足し、溶接、アニール等の修復工程によって修復し、反応容器を再生して利用することができる。
【0013】
[結晶の製造]
(アモノサーマル法)
まず、前記反応容器の再生方法の前提となる結晶の製造方法についてアモノサーマル法を利用した場合を例に説明する。但し、本発明で採用することができる結晶成長工程はこれに限定されるものではない。「アモノサーマル法」は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の窒素含有溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。アモノサーマル法を結晶成長へ適用するときは、アンモニア溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて、主として窒化物結晶を析出させる。
アモノサーマル法による窒化ガリウム結晶成長は、高温高圧の超臨界および/または亜臨界状態下での反応であり、さらに、超臨界および/または亜臨界状態の窒素含有溶媒(特に純アンモニア)中への窒化物(特に窒化ガリウム)の溶解度は極めて小さいため、溶解度を向上させ結晶成長を促進させるために鉱化剤を用いることができる。前記結晶成長は、例えば、原料、種結晶、鉱化剤、および、窒素を含有する溶媒を反応容器内に設置し、前記反応容器内を窒化物単結晶の成長温度まで昇温して行われる。
【0014】
(種結晶)
種結晶としては、成長結晶として成長させようとしている窒化物単結晶と同種の単結晶を用いることができる。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)等の窒化物単結晶が挙げられる。
前記種結晶は、溶媒への溶解度および鉱化剤との反応性を考慮して決定することができる。例えば、GaNの種結晶としては、サファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、金属GaからNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶およびそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記エピタキシャル成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0015】
(鉱化剤)
前記鉱化剤の種類は特に制限されない。本発明は、酸性鉱化剤を用いた場合により好ましく適用することが可能である。また、ハロゲン元素を含む鉱化剤を用いた場合により好ましく適用することが可能である。ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、およびヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、およびハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン元素を含む添加物(鉱化剤)であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、周期表第13族金属のハロゲン化物、ハロゲン化水素であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化水素である。これらの鉱化剤は単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0016】
前記製造方法では、ハロゲン元素を含有する鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。前記鉱化剤は、製造方法で成長させる窒化物結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて精製、乾燥してから使用することができる。前記鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。
【0017】
鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアに対するモル濃度は0.1mol%以上が好ましく、0.3mol%以上がより好ましく、0.5mol%以上がさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアに対するモル濃度は30mol%以下が好ましく、20mol%以下がより好ましく、10mol%以下がさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、原料の溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、原料の溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎたりするため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0018】
(溶媒)
アモノサーマル法に用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることができる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0019】
溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0020】
(原料)
原料としては、種結晶(シード)上に成長させようとしている窒化物単結晶を構成する元素を含む原料を用いることができる。好ましくは窒化物単結晶の多結晶原料および/または窒化しようとする金属であり、より好ましくは窒化ガリウムおよび/または金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によってはIII族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、多結晶原料が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0021】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属またはその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0022】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性または吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0023】
(反応容器)
アモノサーマル法は、反応容器中で実施することができる。当該反応容器の形状は特に限定されるものではないが、例えば円筒状のカプセルを好適に用いることができる。
前記反応容器は、窒化物単結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択することができる。前記反応容器としては、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないものであってもよい。
【0024】
前記反応容器は、耐圧性と耐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。
【0025】
一方で、これらの合金の耐食性は高いとはいえ、結晶品質に影響を全く及ぼさないほどに高い耐食性を有しているわけではない。これら合金は超臨界溶媒雰囲気、特に鉱化剤を含有するより厳しい腐食環境下においてはNi、Cr、Feなどの成分が溶液中に溶け出し結晶中に取り込まれる恐れがある。したがって本発明では、上述の耐圧性の高い合金からなる耐圧性容器の内面腐食を抑制するために、内面を更に耐食性に優れる材料によって直接ライニングまたはコーティングする方法や、更に耐食性に優れる材料からなるカプセルを耐圧性容器内に配置する方法などにより反応容器を形成することが好ましい。中でも、結晶中の不純物低減の精度が高いことから耐圧性容器内に反応容器としてカプセルを配置する方法が好ましい。このような形態では、反応容器内に充填する第1溶媒のほかに耐圧性容器の内壁とカプセルの外壁の間に第2溶媒を充填することが好ましく、結晶成長中に溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となった場合には、第1溶媒と第2溶媒が圧力バランスを維持し、カプセルの変形が起こらないような状態となることが好ましい。ただし、カプセル内外での溶媒による圧力バランスの均衡を保つことは極めて困難であるのでカプセルの変形が発生しやすい。よって、本発明においては、上述のような機構を用いる装置において特に高い効果を発揮することができるので、好ましい。
【0026】
カプセル内外の圧力差によるカプセルの変形を極力抑えるために、カプセルに一部変形しやすい部位を形成してもよい。変形しやすい部位を設けることにより、カプセルの他の部分の変形を抑えることが出来る。例えばカプセルの外側の圧力がカプセル内部圧力よりも高い場合、変形しやすい部位が潰れることにより、カプセル内外圧力バランスがとれ他の部分の変形を最小限に抑えることが出来る。反対にカプセル外側の圧力がカプセル内部圧力よりも低い場合、変形しやすい部位が膨張することにより、カプセル内外圧バランスがとれ他の部分の変形を最小限に抑えることが出来る。この一部変形しやすい部位の構造としては、材料の強度を他の部位よりも低くすることにより変形しやすくすることが出来る。強度を低くする手法としては、より柔らかい材料を採用する、および/または他の部位よりも肉厚を薄くすることなどが好適に用いられる。他の構造としては蛇腹構造も好適に用いることが出来る。蛇腹構造は他の手法と比較して、変位量をコントロールしやすく、伸長と収縮の両方向で変形させやすいなどの点で優れている。後述の通り、カプセルを再利用する場合変形部位のみを交換する、あるいは変位部分のみを修正加工することが出来ることから再利用の効率、再利用コストの点で優れる。
【0027】
再利用に適した反応容器の材質は、結晶成長に使用する鉱化剤に対する耐食性、結晶成長時の温度、再生処理時の加工性の観点から、第1〜第3遷移金属とこれらの合金であることが好ましく、第1〜第3遷移金属の中でもルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)などの貴金属、およびタンタル(Ta)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)がより好ましく、Pt、Ir、Au、Ag、W、Mo、Nbがさらに好ましい。また、これらの材質は、融点が500〜3500℃の融点を有する金属またはこれらの合金であることが好ましく、なかでも融点が1000℃以上であることが好ましく、1500℃以上であることがより好ましく、また、3400℃以下であることが好ましく、3000℃以下であることがより好ましい。
【0028】
特に、フッ素を含む酸性鉱化剤を使用する場合はAg、PtまたはPt−Ir合金が好ましい。フッ素以外のハロゲンを含む酸性鉱化剤を使用する場合は、PtまたはPt−Ir合金が好ましい。この際、合金中にIrが多すぎると硬すぎて修復工程を施しにくい。一方、Ptのみだと柔らかすぎることがある。このため、効率的にカプセルを再生するためには材質として適度な硬さを有することが好ましい。
上記観点から、Pt−Ir合金のIr含有率は、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、また、1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。
【0029】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒(カプセル)を反応容器として耐圧性容器内に設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
【0030】
(結晶製造装置)
窒化物単結晶の製造方法に用いることのできる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図1に示す。図1は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。図1に示される結晶製造装置においては、オートクレーブ1中に反応容器として装填されるカプセル(内筒)20中で結晶成長を行う。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6にはシード7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6との間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2〜60%であるものが好ましく、3〜40%であるものがより好ましい。バッフル板5の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板5の表面は、Ni、Ta、W、Mo、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。図1に示される結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁2とカプセル20の外壁21の間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、窒化物単結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0031】
前記オートクレーブに、より耐食性を持たせるためにライニングを使用することもできる。ライニングする材料として、Pt、Ir、Ag、Pd、Rh、Cu、AuおよびCのうち少なくとも一種類以上の金属または元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金または化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、CuおよびCのうち少なくとも一種類以上の金属または元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金または化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
【0032】
(結晶成長)
アモノサーマル法による結晶の成長手順について説明する。まず、反応容器内に、種結晶(シード)、窒素を含有する溶媒、原料、および鉱化剤を入れて封止する。これらを反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料などの導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内へのシードの装填は、通常は、原料および鉱化剤を充填する際に同時または充填後に装填する。シードは、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0033】
図1に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内にシード、窒素を含有する溶媒、原料、および鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20を耐圧性容器(オートクレーブ)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧性容器を密閉する。
【0034】
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0035】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0036】
超臨界条件では、窒化物単結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物単結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度および反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、およびフリー容積の存在によって多少異なる。
【0037】
反応容器内の温度範囲は、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。窒化物単結晶を製造する際は、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。原料溶解領域と結晶成長領域との温度差(|ΔT|)は、結晶品質の維持と自発核発生結晶の制御の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0038】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、およびシードを用いる場合には、シードとそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
【0039】
反応容器内での窒化物単結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度については特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0040】
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、および/または外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。
【0041】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物単結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。また、反応中に原料溶解領域と結晶成長領域との温度差を変化させてもよい。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0042】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物単結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
なお、アモノサーマル法により窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0043】
[反応容器の再生]
(特徴)
次に反応容器の再生方法について説明する。以下、反応容器の「変形」といった場合、反応容器の形状の変形に加えて、反応容器内から結晶を取り出した際の切断等も含まれる。また、反応容器の「変質」といった場合には、反応容器表面の酸素等による汚染なども含む。
本発明の反応容器の再生方法によれば、アモノサーマル法等を利用した結晶成長に用いられた反応容器に修復工程を施すことで、反応容器を修復し再度結晶成長に利用できるように再生させることができる。前記修復工程においては、例えば変形した反応容器の径を元の径のサイズに戻したり(サイジング)、反応容器に力を加えて反りを矯正することで反応容器が修復される。
【0044】
前記修復工程においては、具体的には、下記のような洗浄処理、切断処理、(直径)矯正処理、端面加工処理、溶接処理、熱処理などを行うことができる。以下、本明細書においては、切断処理、矯正処理、端面加工処理などの修復工程中の反応容器の変形を伴う処理を再生処理と総称する場合がある。
【0045】
(洗浄処理)
まず、結晶成長に用いられた反応容器は、結晶成長の際に内壁に付着した鉱化剤や多結晶GaNなどの原料を除去するために、洗浄処理を施すことが好ましい。前記洗浄処理においては、酸やアルカリ等を用いることができる。この際に用いられる酸またはアルカリの濃度や温度条件は適宜選定することができる。例えば、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、シュウ酸、フッ酸、酢酸、王水、リン酸、過酸化水素、これらの混酸などを用いることができ、アルカリとしては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアなどを用いることができる。酸またはアルカリの濃度としては1〜100モル%の範囲で用いることができ、洗浄力が高いことから5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましい。使用する酸またはアルカリの温度としては0〜200℃の範囲で用いることができ、洗浄力が高いことから10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、取扱い時の安全性の理由から150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。
【0046】
また、酸またはアルカリで反応容器内を洗浄した後は、これらの洗浄液が容器表面に残存するのを防止するために、純水等ですすぎ洗いをおこなうことが好ましい。更に、洗浄後は、オーブン内または自然乾燥で、反応容器内に水分が残らないように乾燥させることが好ましい。なお、当該洗浄工程は、後述する切断処理、矯正処理、接合処理等の他の処理よりも先行して行うことが好ましい。
【0047】
前記洗浄処理は、例えば、以下の手順に行うことができる。
(1)希塩酸による洗浄(たとえば、濃度5重量%、超音波、1時間)
(2)純水によるすすぎ洗い
(3)水酸化カリウムによる洗浄(たとえば、濃度45重量%、温度120℃、12時間)
(4)純水によるすすぎ洗い
(5)オーブン乾燥
上記工程(1)は、主に金属不純物を除去できる洗浄であればよく、希塩酸以外にも塩酸、硫酸、硝酸などの酸性溶液による浸漬洗浄や超音波洗浄などであってもよい。また、上記工程(2)は、付着した窒化ガリウムなどの結晶を除去できる洗浄であればよく、水酸化カリウム以外にも水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液や高温(230℃程度)のリン酸や硫酸、あるいはリン酸と硫酸の混酸などの高温酸溶液による浸漬洗浄などであってもよい。
【0048】
(切断処理)
結晶成長に使用した後に、反応容器にピンホールや亀裂が入っている場合や、反応容器の形状が大きく変形して再生が難しい場合は、劣化が著しい領域をチューブカッターや切断機を用いて切断し、不良部分を取り除くことができる。即ち、前記修復工程においては、前記反応容器の変形および/または変質した箇所を切除する切断処理を施すことができる。また、当該切断によって反応容器の全長が不足する場合は、後に記載するように溶接により必要な長さのカプセルチューブを継ぎ足して、再生反応容器を製造することができる。なお、当該切断処理は、切断時に反応容器の径等が変動することもあるため、下記矯正処理等に先行して行われることが好ましい。
【0049】
カプセル内外の圧力バランスを保つために一部変形しやすい部位を有するカプセルを用いる場合には、当該一部変形しやすい部位のみを切断により除去することが好ましい。また、蛇腹構造を有する場合には、蛇腹構造の部位のみを切除して、新たな蛇腹構造に置き換えて、再生反応容器を製造することが好ましい。
【0050】
(矯正処理)
結晶成長に使用した後に、反応容器に凹みや膨らみが発生した場合、必要に応じてその径を矯正することが好ましい。特に、反応容器を切断して継ぎ足しする際には、継ぎ足しする各部材の接合口の直径を合わせる必要があるため、その径を矯正することが好ましい。即ち、前記修復工程においては、前記反応容器の変形した箇所を矯正する矯正処理を含むことができる。一方、反応容器の接合口以外の箇所に凸凹がある場合、反応容器内に他の構造物を投入際にその投入や動作に影響がなければ必ずしも矯正(凹凸を修復)する必要はない。
【0051】
A.凹みを矯正する場合
チューブカッターや切断機を用いて反応容器を切断した際に発生する切断口(接合口)の凹みを矯正する場合について説明する。この場合、例えば、図2に示すように、反応容器100の内径よりも直径が0.5mm以上小さい円筒102の一部を反応容器内100の凹み部104まで挿入する。次いで、図2に示すように、円筒102が挿入された反応容器100を、反応容器100の外径と同じ内径の半円筒である金型106にセットする。その後、円筒102に図2におけるP1の方向から荷重をかける(円筒102を金槌などで叩く)ことで、反応容器100の凹み部104を修復し、反応容器100の接合口の内径を所望の形状に矯正することができる。
【0052】
次に、反応容器の接合口以外の箇所(例えば、腹の部分)の凹みを矯正(修復)する場合について説明する。この場合、例えば、図3に示すように、上記と同じように反応容器100の内径よりも直径が0.5mm以上小さい円筒102を、反応容器100の腹部にできた凹み部108に達するまで押し込む。更に、円筒102を反応容器100に挿入した後、反応容器100の外径と同じ内径の半円筒である金型106にセットする。その後、例えば、円筒102に図3におけるP2の方向から荷重をかける(円筒102を金槌などで叩く)ことによって、反応容器100の凹み部108を修復し、反応容器100を所望の形状に矯正することができる。
【0053】
また、図4に示すように、完全に円筒102を挿入させた反応容器100を金型106に反応容器をセットし、更に金型106と同型でありこれと対となる金型107で反応容器100を挟み込み、その後金型106および107に図4におけるP3の方向から荷重をかける(金型106および107を金槌などで叩く)ことによって、反応容器100の凹み部108を修復し、反応容器100を所望の形状に矯正することもできる。
【0054】
B.膨らみを矯正する場合
反応容器を結晶成長に用いると、内部からの圧力によって反応容器が膨らみ、反応容器の内径が大きくなってしまうことがある。このような反応容器の膨らみを矯正する場合、例えば、上述の図4に示す場合と同じように、完全に円筒102を挿入させた反応容器100を金型106に反応容器をセットし、更に金型106と同型でありこれと対となる金型107で反応容器100を挟み込み、その後金型106および107に荷重をかける(金型106および107を金槌などで叩く)ことによって、反応容器100の膨らみを矯正することができる。
【0055】
また、例えば、図5に示すように複数のロール110を備えた多段ロール式の膨らみ矯正装置を用いることで、反応容器の膨らみを矯正することができる。この際、前記装置においてロール数等には特に限定はないが、反応容器を矯正するロールが、反応容器の上下(または左右)1つずつのみ有する装置だと、反応容器の膨らみは矯正できるものの、反応容器に反りが発生している場合にその反りを矯正することは困難である。このため、前記矯正装置は、ロールを3つ以上有し、前記ロールが、反応容器の膨らみを矯正すると共に、その反りをも矯正できるように配置された装置であることが好ましい。図5に示す装置においては、P方向に反応容器100を移動させることで、反応容器100がロール110に押圧されて、反応容器100の膨らみが矯正されると共に、その反りをもが矯正される。
【0056】
(端面加工処理)
上述のように、結晶成長に使用した反応容器を切断し、不足している箇所を溶接して継ぎ足す場合、溶接前に各接合部に端面加工(Tube Squaring)を施して、接合部の隙間をできる限り小さくして溶接を容易にすることが好ましい。前記端面加工としては、公知の方法を適宜採用することができる。
【0057】
(溶接処理)
上述のように、結晶成長に使用した反応容器を切断した場合、前記反応容器に他の部材を溶接する溶接処理を施すことができる。反応容器に、不足している箇所を溶接して継ぎ足す場合、アーク溶接等で継ぎ足し部を接合することが好ましい。この場合、予め上述した方法でカプセル接合口の直径矯正や端面加工を施しておくことが好ましい。
また、カプセルにピンホールや亀裂が入っている場合、アーク溶接によりその穴を埋めることもできる。
【0058】
(検査工程)
上述のように反応容器に対して修復のための処理を施した後、修復(再生)した反応容器(以下、再生反応容器と称する)に、ピンホールや微小な亀裂が残っていないか(リークチェック)、径のサイズは適切であるか、汚れの付着はないか等の検査工程を施すことが好ましい。前記リークチェックの方法としては例えば、真空放置法、ヘリウムリークテスト法、加圧発泡法、水中発泡法、カラーチェック法などが挙げられる。
【0059】
(後洗浄処理)
上述のように反応容器に対して修復のための処理を施した後、再生処理で付着した汚れを落とすため、修復(再生)した反応容器(再生反応容器)を洗浄することが好ましい。このような洗浄処理としては、加工油や手垢などを除去するため、有機溶媒(例えば、イソプロピルアルコール等)を用いたり、金属汚れを落とすために、塩酸、硫酸などの酸(特に強酸が好ましい)を用いることができる。また、当該後洗浄処理においても、これらの洗浄液が容器表面に残存するのを防止するために、純水等ですすぎ洗いをおこなうことが好ましい。更に、洗浄後は、オーブン内または自然乾燥で、反応容器内に水分が残らないように乾燥させることが好ましい。
【0060】
前記洗浄処理は、例えば、以下の手順に行うことができる。
(1)イソプロピルアルコールによる洗浄
(2)純水によるすすぎ洗い
(3)37重量%塩酸による洗浄
(4)純水によるすすぎ洗い
(5)オーブンでの乾燥
上記工程(1)は、主に脱脂のための洗浄であればよく、イソプロピルアルコール以外にもエタノール、メタノール、アセトンなどの有機溶媒、界面活性剤を含む溶液による浸漬洗浄や超音波洗浄などであってもよく、高温のスチームを吹き付けることも有効である。また、上記工程(2)は、金属不純物を除去できる洗浄であればよく、塩酸以外にも硝酸、硫酸、酢酸、リン酸やこれらの混酸を用いていてもよい。
【0061】
(熱処理)
高温高圧のアンモニアなどの窒素を含有する溶媒下で繰り返し(例えば、4回以上)使用したカプセル材は、その使用方法によっては脆化が進んでいる場合がある。このため、これを再利用すると結晶成長中のカプセル内外の圧力変化によってカプセルに亀裂が発生しやすくなる。これに対し、結晶成長前に再生反応容器に熱処理(アニール処理)を施すと、成長工程や再生処理の際に再生反応容器に生じた脆化を回復させることができる。また、結晶成長後には、水素によって反応容器が脆化している可能性がある。この場合であっても、反応容器に熱処理を加えることで、水素に起因する脆化を回復させることが期待できる。
このため、繰り返し(例えば、4回以上)使用したカプセル材は、熱処理時の条件を制御することにより、カプセル材の脆化を一段と低減することができる。具体的には、温度は500℃以上が好ましく、600℃以上であることがより好ましい。時間は0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。圧力は大気圧であることが好ましいが、減圧下であってもよい。また、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましいが、大気中であってもよい。
【0062】
(再利用)
以上のように本発明の反応容器の再生方法によって再生された再生反応容器は、再度アモノサーマル法などによる結晶成長に利用した場合であっても、反応容器から気体や液体が漏れること(カプセルリーク)がなく、また、反応容器表面に由来する不純物などにより製造した結晶が着色されるのを抑制することができる。
即ち、本発明の再生方法を利用すれば、まず、反応容器内で、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行い(1次成長工程)、その後、前記1次成長工程後に前記反応容器の変形および/または変質を修復して再生反応容器を得ることで、再度、前記再生反応容器内で、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う(2次成長工程)ことができる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下に記載する実施例、参考例および比較例では、図1に示す反応装置を用いて窒化物単結晶を成長させることを試みた。
【0064】
[実施例1]
(カプセルに修復工程を施して再利用)
RENE41製オートクレーブ1を耐圧性容器として用い、反応容器として、本実施例と同じ条件下で結晶成長に一度使用されたPt−Ir製カプセル(Ir含有率10%)20に下記の手順で修復工程を施して再生したものを用いた。本カプセルを用いた結晶成長は都合2回目となる。なお、カプセル20は、内径25mm、長さ330mmの円筒状である。原料、鉱化剤、バッフル板、C面またはM面を主面とする板状の種結晶をカプセルに配置し、NH3をカプセルの空隙体積の約55%に相当する液体として充填した。つづいてバルブ10が装着されたオートクレーブにカプセルを挿入した後に蓋を閉じ、NH3を充填した。
続いてオートクレーブ1を電気炉内に収納した。オートクレーブ外表面の結晶成長領域(育成域)6の温度が610℃、原料溶解領域(原料域)9の温度が610℃になるよう昇温し、設定温度に達した後、その温度にて約9日間保持した。オートクレーブ内の圧力は約215MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。続いて、オートクレーブの蓋を開け、カプセル20を取り出した。カプセルの外観を観察したところ特に異常は確認されなかった。更に、カプセルの重量を測定した結果、結晶成長前のカプセル重量と一致し、カプセルにリークが無いことを確認した。カプセル上部を二分割となるように切断してカプセル内部を確認したところ、C面、M面いずれの種結晶上にも全面に均一に窒化ガリウム結晶が析出していた。以上の工程により、実施例1の窒化ガリウム結晶を取得した。
【0065】
(修復工程)
次の方法により修復工程を実施し、結晶成長に使用したカプセルの再生を行った。
【0066】
・洗浄1
前回使用済みカプセルの内壁に付着した鉱化剤や多結晶GaN原料を除去するため、次の手順でカプセルの洗浄を行った。
(1)希塩酸による洗浄(濃度5重量%、超音波、温度20(室温)℃、1時間)
(2)純水によるすすぎ洗い
(3)水酸化カリウムによる洗浄(濃度45重量%、温度120℃、12時間)
(4)純水によるすすぎ洗い
(5)オーブンでの乾燥(温度45℃、4時間)
【0067】
・矯正・溶接処理(再生処理)
次いで、前回使用済みのカプセルを末端から100mmの箇所を切断した。また、上述の図2および図5に示す方法によって、カプセルの凹部や反りを矯正した。その後、接合部に端面処理(Tube Squaring加工)を施し、アーク溶接によって内径25mm、長さ100mm、材質Pt-Ir(Ir含有率10%)の円筒を接合した。次いで、水中発泡法によってリークチェックを施した。
【0068】
・洗浄2
次いで、再生処理で付着した汚れを落とすため、再生処理済みカプセルを次の手順で洗浄した。
(1)イソプロピルアルコールによる洗浄(濃度99.9重量%、温度20(室温)℃、0.5時間)
(2)純水によるすすぎ洗い
(3)37重量%塩酸による洗浄(温度20(室温)℃、1時間)
(4)純水によるすすぎ洗い
(5)オーブンでの乾燥(温度45℃、4時間)
【0069】
[比較例1]
比較例1では、反応容器として、結晶成長に一度使用したPt−Ir製カプセルを再生処理せずに用いた。本カプセルを用いた結晶成長は都合2回目となる。カプセルの外観を観察したところ、結晶成長領域(育成域)側の一部に凹みが発生していた。更に、鉱化剤濃度、圧力、温度を表1に記載の条件に変更した他は、上記の実施例1の手順と同様にして種結晶上に窒化ガリウム結晶を析出させた。結晶成長後、カプセルの外観を観察したところ、一度目の使用時に凹みが発生していた部分に亀裂が生じていた。更に、カプセルの重量を測定した結果、結晶成長前の重量より約50g減っていた。これはカプセルに充填したNH3の重量と一致しており、オートクレーブ内のNH3を取り除いた際にカプセルの亀裂部分からカプセル内のNH3も抜けてしまったと考えられる。また、析出した窒化ガリウム結晶は実施例1の結晶よりも着色が濃いことから、結晶成長中にカプセルがリークしたことによって、より多くの不純物が結晶に取り込まれ結晶品質が悪化してしまったと考えられる。
【0070】
[参考例1]
参考例1では、反応容器として、結晶成長に一度も使用していない新品のPt−Ir製カプセルを用いた。更に、鉱化剤濃度、圧力、温度を表1に記載の条件に変更した他は、上記の実施例1の手順と同様にして種結晶上に窒化ガリウム結晶を析出させた。結晶成長後、カプセルの外観を観察したところ、結晶成長領域(育成域)側の一部に凹みが発生していた。更に、カプセルの重量を測定した結果、結晶成長前のカプセル重量と一致し、カプセルにリークが無いことを確認した。また、析出した窒化ガリウムは実施例1と同じ程度の黄緑色の着色があり、比較例1の結晶よりも薄かった。
【0071】
実施例1、比較例1、参考例1の結果から、高温、高圧下で結晶成長を行ったカプセルは、膨張、凹みなどの変形が発生するため再生処理を施す修復工程なしでそのまま繰り返し使用すると容易にリークしてしまうが、上述したカプセル再生方法でカプセルの再生処理を行うことでリークせずに再利用することができ、新品カプセルの場合と同等の品質(不純物レベル)の結晶が得られることが分かった。
【0072】
[実施例2]
実施例2では、反応容器として結晶成長に3回使用したPt−Ir製カプセルを実施例1と同様のカプセル再生方法で再生処理した後、さらに熱処理(アニール処理)を実施し、修復工程を完了する。本カプセルを用いた結晶成長は都合4回目になる。更に、鉱化剤濃度、圧力、温度を表1に記載の条件に変更し、アニール処理を施す他は、上記の実施例1の手順と同様にして種結晶上に窒化ガリウム結晶を析出させる。結晶成長後のカプセルにはリークが無く、析出した窒化ガリウムは実施例1、参考例1と同じ程度の着色になる。
【0073】
(アニール処理条件)
温度:500℃
時間:0.5時間
圧力:大気圧
雰囲気:不活性ガス(窒素ガス)下
【0074】
[実施例3]
実施例3では、実施例2で熱処理した後に結晶成長に使用したカプセルを、実施例1と同様のカプセル再生方法で再生処理し、アニール処理することなく修復工程を完了して用いる。本カプセルを用いた結晶成長は都合5回目になる。更に、鉱化剤濃度、圧力、温度を表1に記載の条件に変更する他は、上記の実施例1の手順と同様にして種結晶上に窒化ガリウム結晶を析出させる。結晶成長後のカプセルにはリークが無く、析出した窒化ガリウムは実施例1、参考例1と同じ程度の着色になる。
5回以上の多数回にわたってカプセルを再利用する場合は少なくとも1回は熱処理を施した方がカプセルの脆化によるリークをより効果的に防ぐことができるため好ましい。
【0075】
【表1】

【符号の説明】
【0076】
1 オートクレーブ
2 オートクレーブの内壁
5 バッフル板
6 結晶成長領域
7 種結晶
8 原料
9 原料溶解領域
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメーター
20 カプセル
100 反応容器
102 円筒
104 凹み部
106 金型
107 金型
108 凹み部
110 ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う結晶の製造方法に用いられた反応容器に、前記結晶の製造方法において生じた前記反応容器の変形および/または変質を修復する修復工程を施し再生反応容器とすることを特徴とする、反応容器の再生方法。
【請求項2】
前記修復工程が、前記反応容器の変形および/または変質した箇所を切除する切断処理を含む請求項1に記載の反応容器の再生方法。
【請求項3】
前記修復工程が、前記反応容器の変形した箇所を矯正する矯正処理を含む請求項1または2に記載の反応容器の再生方法。
【請求項4】
前記修復工程が、前記反応容器に他の部材を溶接する溶接処理を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の反応容器の再生方法。
【請求項5】
前記溶接処理が、アーク溶接である請求項4に記載の反応容器の再生方法。
【請求項6】
前記修復工程の後に、再生反応容器の検査工程を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の反応容器の再生方法。
【請求項7】
前記鉱化剤が、酸性鉱化剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載の反応容器の再生方法。
【請求項8】
前記反応容器は、融点が500〜3500℃の金属またはこれらの合金を含む材質で構成される請求項1〜7のいずれか一項に記載の反応容器の再生方法。
【請求項9】
前記反応容器は、第1〜第3遷移金属またはこれらの合金を含む材質で構成される請求項1〜7のいずれか一項に記載の反応容器の再生方法。
【請求項10】
前記反応容器は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)またはこれらの合金を含む材質で構成される請求項9に記載の反応容器の再生方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の反応容器の再生方法によって得られた再生反応容器。
【請求項12】
反応容器内で、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う1次成長工程と、前記1次成長工程後に前記反応容器の変形および/または変質を修復して再生反応容器を得る修復工程と、前記再生反応容器内で、原料、溶媒および鉱化剤の存在下で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行う2次成長工程と、をこの順に含むことを特徴する結晶の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−112605(P2013−112605A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−259418(P2012−259418)
【出願日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】