説明

反応容器

【課題】分析者の手作業による反応ウエルへの試料の分注が容易な反応容器を提供する。
【解決手段】反応ウエル4の内壁に段差部6が設けられている。段差部6は試料を分注するための分注器具の分注口を塞がない大きさで形成されている。段差部6は反応ウエル4の内壁に沿って下降する分注器具を停止させるために設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的分析、生化学的分析、又は化学分析一般の分野において、医療や化学の現場において各種の解析や分析を行なうのに適する反応容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生化学的分析や通常の化学分析に使用する小型の反応装置としては、マイクロマルチチャンバ装置が使用されている。そのような装置としては、例えば平板状の基板表面に複数のウエルを形成したマイクロタイタープレートなどのマイクロウエル反応容器が用いられている(特許文献1参照。)。このような反応容器では、各反応ウエルに互いに異なる試薬をそれぞれ配置しておき、各ウエルに試料を分注する。試料分注後、反応ウエルを所定温度に加熱することで反応ウエル内において試料と試薬との間で反応を起こさせ、その反応を観察する。反応ウエル内での反応とは、例えば遺伝子増幅反応やタイピング反応である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−177749号公報
【特許文献2】特開2008−261816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、反応ウエルが小さいと分注時に分注器具の位置決めが難しく、分析者が手作業で試料の分注作業を行なう際に分注器具の先端が反応ウエルの底面や試薬に接触して正確な量の試料を分注できないことがある。
そこで本発明は、分析者の手作業による反応ウエルへの試料の分注が容易な反応容器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ベースに上面が開口し、分注器具により滴下される試料を収容してその内部で試料の反応を行なうための反応ウエルを備えた反応容器であって、反応ウエルの内壁に、その内壁に沿って底部側へ分注器具を下降させたときに分注器具先端と係合し、かつその分注器具先端の分注口を塞がない大きさの段差部が形成されていることを特徴とするものである。
【0006】
分析者は、本発明の反応容器を用いて分析を行なうに際し、反応ウエルへの試料の分注をピペッタなどの分注器具を用いて手作業で行なう。反応ウエルの内壁には、分注器具を内壁に沿って下降させたときに分注器具先端と係合し、かつ分注器具先端の分注口を塞がない大きさの段差部が設けられている。これにより、分析者は分注器具を反応ウエルの内壁に沿って下降させるだけで段差部によって停止させられるので、分注器具を適当な高さで位置決めをすることができる。
【0007】
反応ウエルの内壁の段差部より上方の部分は、上方へいくほど内径が大きいテーパ形状となっていてもよい。そうすれば、分注器具の先端を反応ウエルの内壁に沿わせやすくなるので、分注の作業効率が向上する。
【0008】
反応ウエルの開口部周縁は開口密閉用シールを貼るためにその周囲のベースよりも盛り上がったシール貼着部となっていることが好ましい。試料と試薬を収容した反応ウエルの上面を、シール貼着部に開口密閉用シールを貼ることによって密閉すれば、反応ウエルへの異物混入を防止し、試料や試薬又はその反応物が外部へ飛び散ることによる外部環境の汚染を防止することができる。シール貼着部がその周囲のベースよりも盛り上がっているため、開口密閉用シールによるシール性が向上する。
【0009】
ところで、反応ウエルに分注される試料が微量の場合、試料を反応ウエルの内壁に付着させて分注すると、試料は加熱されても内壁に付着したまま下降せず、試薬と接触しないことがある。そこで、試料と試薬の接触を促進するために、反応ウエル内の試薬上に加熱融解性材料を重層して固定しておくことが知られている(例えば、特許文献2参照。)。加熱融解性材料とは試薬や試料とは混じらず、それらよりも比重の軽いものであり、常温で固体であり一定温度以上に加熱されることで融解するものである。そのような加熱融解性材料を試薬上に重層し、加熱融解性材料の上から試料の液滴を分注しておくと、加熱融解性材料が融解したときに試料と加熱融解性材料との比重の違いによって試料が加熱融解性材料の下層へ侵入し、加熱融解性材料の下層において試薬と接触し混合される。
【0010】
そこで、本発明においても、試薬を常温で固体の加熱融解性材料によって反応ウエル内に固定しておくことが好ましい。その場合、段差部は加熱融解性材料よりも上方でかつ段差部で停止した分注器具から分注される試料が加熱融解性材料に接触するような高さに設ける。そうすれば、分注された試料が加熱融解性材料に接触しているため、加熱融解性材料が融解したときに比重の違いによって加熱融解性材料の下層へ侵入し、確実に試薬と接触する。
【0011】
また、反応ウエルは光透過性材料により形成されていることが好ましい。そうすれば、反応ウエルの外部から反応ウエル内の反応を光学的に測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反応容器では、反応ウエルの内壁に、分注器具を内壁に沿って下降させたときに分注器具先端と係合する段差部が分注器具先端の分注口を塞がない大きさで形成されているので、分析者は反応ウエルの内壁に沿って分注器具を下降させるだけで適当な高さの位置で分注器具を停止させて分注することができる。これにより、手作業で分注するのが困難なほど小さい反応ウエルに対しても分注作業を容易に行なうことができ、分注作業の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】反応容器の一実施例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のX−X位置における断面図である。
【図2】同実施例の反応ウエル内の状態を示す図であり、(A)は試料分注時の状態、(B)は反応処理時の状態をそれぞれ示す断面図である。
【図3】反応容器の他の実施例を示す反応ウエル部分の断面図である。
【図4】反応容器を反応処理装置に設置した状態を示す断面図である。
【図5】反応容器の形成方法を説明するための図であり、(A)は反応容器の裏面の一例を示す平面図、(B)は反応容器を形成するための金型の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、反応容器の一実施例を説明する。図1は一実施例を示す図であり、(A)は反応容器の平面図、(B)は(A)のX−X位置における断面図である。図2は同実施例の反応ウエル内の状態を示す図であり、(A)は試料分注時の状態、(B)は反応処理時の状態をそれぞれ示す断面図である。
【0015】
反応容器2はベース3に上面が開口した複数の反応ウエル4を備えている。この実施例では、12個の反応ウエル4がベース3に設けられている。図2において示されているように、この反応容器2は、分析者によって分注器具12を用いた各反応ウエル4への試料の分注が行われる。反応ウエル4内には予め試料に反応を起こさせるための反応試薬14がミネラルオイル混合ワックス16によって固定されている。試薬14は乾燥試薬であってもよいし液体試薬であってもよい。この実施例では凍結乾燥試薬を用いている。
【0016】
ミネラルオイル混合ワックス16は常温で固体であり、ワックス(加熱融解性材料)にミネラルオイル(不揮発性液体)が混合されたものである。ワックスとしては、例えば、Paraplast-X-Tra(MaCormic社)を用いることができ、ミネラルオイルとしては、例えば、M5904(シグマ社製)を用いることができる。ワックスとミネラルオイルの混合比率は、例えばワックス:ミネラルオイルが重量パーセントで20:80(融解温度40〜45℃)、50:50(融解温度44〜49℃)又は70:30(融解温度48〜52℃)である。
【0017】
分析者による分注作業を補助するために、反応ウエル4の内壁に内側へ突出した段差部6が設けられている。この実施例では、段差部6が反応ウエル4の内周全体に渡って設けられている。なお、段差部6は反応ウエル4の内周の一部分にのみ設けられていてもよい。段差部6の大きさXは、試料を分注するための分注器具12先端部が係合することができ、かつ分注口を塞がない程度であり、例えば分注器具12先端の肉厚程度の幅、具体的には10〜500μmである。段差部6は内部に予め収容された試薬14及び加熱融解性材料16よりも高い位置に設けられている。段差部6は反応ウエル4の内壁に沿って下降する分注器具12を停止させて分注器具12を適当な分注高さで位置決めさせるものである。段差部6が設けられていることにより、分析者は分注器具12を反応ウエル4の内壁に沿って下降させるだけで適当な高さで位置決めすることができ、分注作業が容易で再現性のよいものとなる。
【0018】
段差部6の望ましい高さは、段差部で停止した分注器具12から分注される試料18が加熱融解性材料16に触れる高さである。分注された試料18が加熱融解性材料16に触れていれば、加熱融解性材料16が融解したときに試料18が比重の違いによって加熱融解性材料16の下層へ侵入することができ、確実に試料18を試薬14と接触させることができる。
【0019】
図3に示されているように、反応ウエル4の内壁の段差部6よりも上方の部分は、上方へいくほど内径が大きくなるようにテーパ形状となっていてもよい。そうすれば、分注器具12を反応ウエル4の内壁に沿わせることが容易になり、分注作業の効率が向上する。
【0020】
試料18を分注された後の反応ウエル4の上面に分析者の手作業によって開口密閉用シール20が貼着され、外部からの異物混入や試料や反応液の外部への飛散が防止される。反応ウエル4の周縁部はその周辺のベース3の表面よりも盛り上がったシール貼着部8となっており、開口密閉用シール20による密閉性を高めている。シール20は例えば粘着剤が塗布されたポリプロピレン、透明ポリスターからなる樹脂テープであり、具体的にはアドヒシフィ粘着フィルム(ABgene社)、4Ti-0500(4Ti社)、Scotch822(3M社)を用いることができる。
【0021】
反応ウエル4が配置されている領域の周囲に帯状の凸部からなるシール貼着補助部10が設けられている。シール貼着補助部10はシール貼着部8と同じ高さ又はそれよりも少し低い高さ形成されている。シール貼着補助部10の上面にはシール貼着部8の上面とともに1枚の開口密閉用シール20が添付される。すなわち、シール貼着補助部10で囲われた領域全体が1枚の開口密閉用シール20で覆われて密閉される。開口密閉用シール20を添付することによって各反応ウエル4からの液体の漏れを防止するが、シール貼着補助部10で囲われた領域全体を密閉しておくことで、ある反応ウエル4の上面の密閉が不完全でその反応ウエル4から液体が漏れた場合も、その漏れをシール貼着補助部10で囲われた領域内に留めて反応容器2の外部への流出を防止することができる。
【0022】
開口密閉用シール20が貼着されて各反応ウエル4が密閉された反応容器2は、図4に示されるような温調機構22を備えた反応処理装置に設置され、温調機構22が駆動されることで各反応ウエル4が加熱される。反応ウエル4が加熱されることにより、反応ウエル4内のミネラルオイル混合ワックス16が融解し、試料がミネラルオイル混合ワックス16の下層に侵入して図2(B)に示した状態となる。
【0023】
ところで、この実施例の反応容器2は、例えばポリプロピレンやポリカーボネートなどの光透過性材料により一体成型されたものである。反応ウエル4が光透過性であるので、図4に示されているように、この反応容器2を設置する反応処理装置の温調機構22に穴22aを設け、反応ウエル4の下方から反応ウエル4内の反応を光学的に測定することができる。また、樹脂テープの上方からも光学的に測定することができる。
【0024】
図5(A)は反応容器2の裏面を示した平面図、同図(B)は反応容器2の形成に用いられる金型の断面図である。なお、(B)においては、便宜上、反応ウエルを形成するための溝の位置とゲートの位置を同一断面として表している。
【0025】
反応容器2の形成に当たっては、図5(B)に示される金型26,28が用いられる。金型26にはゲート30a,30bが設けられており、ゲート30a,30bから金型26,28の間の空間32に樹脂を流し込んで硬化させ、反応容器2を形成する。この図ではゲートとして30a,30bの2箇所しか図示されていないが、金型26には樹脂を流し込むための4つのゲートが設けられている。(A)の反応容器2の裏面の24a〜24dはその4つのゲート跡である。金型26には反応ウエル4が形成される位置を避けた4箇所にゲートが設けられている。
【0026】
一般的に、一体成型で形成すると、ゲート跡に突起物が残って平坦性を損なうため、予めゲート跡となる部分が凹部となるように形成して、ゲート跡として残った突起物をその凹部内に埋没させ、ゲート跡がある部分の平坦性を保つようにする。そのため、成型品のゲート跡ができる部分はある程度の厚みをもたせる必要がある。従来、反応ウエルのような容器形状部をもつものを一体成型で形成する場合、その容器形状の底部分にゲートを配置することが一般的であった。そのため、容器形状の底部分にある程度の厚みをもたせていた。
【0027】
しかし、図4に示されているように、反応ウエル4は温調機構22に載置されて加熱されるため、反応ウエル4を形成する樹脂の肉厚が反応ウエル4内の加熱効率に大きく影響する。反応ウエル4の底部分の樹脂の肉厚が厚いと、反応ウエル4を一定温度まで昇温させるために必要な熱量が多くなるし、反応ウエル4の温度制御に時間がかかる。これに対し、金型26は反応ウエル4が形成される位置を避けた位置にゲートを備えており、反応ウエル4部分の樹脂の肉厚が薄い反応容器2を形成することができる。反応ウエル4部分の樹脂の肉厚が薄いことにより、温調機構22による加熱時間が短くなり、反応容器2に与えられる熱量が小さくなるので、熱による反応容器2の変形などを抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は種々の化学反応や生物化学反応の測定に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
2 反応容器
3 ベース
4 反応ウエル
6 段差部
8 シール貼着部
10 シール貼着補助部
12 分注器具
14 試薬
16 ミネラルオイル混合ワックス
18 試料
20 開口密閉用シール
22 温調機構
24a〜24d ゲート跡
26,28 金型
30a,30b ゲート
32 金型内空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースに上面が開口し、分注器具により滴下される試料を収容してその内部で試料の反応を行なうための反応ウエルを備えた反応容器において、
前記反応ウエルの内壁に、その内壁に沿って底部側へ分注器具を下降させたときに分注器具先端と係合し、かつその分注器具先端の分注口を塞がない大きさの段差部が形成されていることを特徴とする反応容器。
【請求項2】
前記反応ウエルの内壁の前記段差部より上方の部分は、上方へいくほど内径が大きいテーパ形状となっている請求項1に記載の反応容器。
【請求項3】
前記反応ウエルの開口部周縁は開口密閉用シールを貼るためにその周囲のベースよりも盛り上がったシール貼着部となっている請求項1又は2に記載の反応容器。
【請求項4】
前記反応ウエル内に試料に反応を起こさせるための試薬が常温で固体の加熱融解性材料によって固定されており、
前記段差部は前記加熱融解性材料よりも上方でかつ前記段差部で停止した分注器具から分注される試料が前記加熱融解性材料に接触する高さに設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項5】
前記反応ウエルは光透過性材料により形成されている請求項1から4のいずれか一項に記載の反応容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47753(P2011−47753A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195582(P2009−195582)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】