説明

反応性塩素化合物、その誘導体、アニオンおよび塩、その製造方法およびその使用

【課題】普通の技術的な医薬および殺菌剤用途分野と同様に、例えば組織再生のため、創傷の治癒のためおよび感染に対する防御のためまたは免疫反応を高めるための薬剤としての、例えば静脈内投与のような局所的および全身的な治療用薬剤として製剤する可能性をも提供する酸化剤を調製する。
【解決手段】二塩素酸などの反応性の塩素化合物、中間生成物ペルオキソ塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸、ならびにそれらそれぞれの誘導体、アニオンおよび/または塩の調製を通じて果たし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二塩素酸、中間生成物、ペルオキソ塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸などの反応性塩素化合物ならびにそれらの個々の誘導体、アニオンおよび/または塩に関する。本発明はさらに、これらの化合物の製造方法ならびに医薬品分野、その中でも特に医療においては薬および殺菌剤としての、化粧品および薬効療法分野においては組織適合性脱臭剤としての、食料品の処理および技術分野では、特に食品および飲料の保存において漂白剤としておよび飲料水の殺菌のための、農業においては植物および果実の抗菌処理に、工業化学においておよび廃ガス浄化のための酸化剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化剤には、工業化学において、衛生および食品保存において、化粧品において、また製薬上の使用においても広い範囲の用途がある。
【0003】
Polly Matzingerによれば(Polly Matzinger:“Tolerance,Danger,and the Extended Family”in Annu.Rev.Immunol.1994,12)、攻撃、即ち、大量の放射線の影響、毒性物質、寄生虫、細菌またはウイルス感染体、溶解、非アポトーシス効果などのために死にかけている細胞は、危険シグナルを放つという。生体の自己防衛機能は、実際の抗原シグナルと共に抗原提示細胞(例えば、マクロファージ)からの非特異性共刺激をも必要とし、自己防衛機能が最適の臨床的効果を持ちうるためには、これらのシグナルは持続しなければならない。
【0004】
激しい非アポトーシス性細胞死の間は、食細胞(いわゆるミクロファージおよびマクロファージ)が細胞残がいの処分を受け持つ。この残がい処分の過程で酸化に有効な酸素代謝物が放出される。過酸化水素(H)は、これらの物質のうちで最もよく知られているものである。インビトロの試験は、Hがマイクロモル範囲で、転写因子HF−カッパーBの活性化を介してリンパ球の免疫調節を導きうることを示している(R.Schreck et al.,The EMBO Journal 10(8),2247−58(1991)、M.Los et al.,Eur.J.Immunol.25,159−65(1995))。Avraham Novogrodskyの作業グループは、ある種の酸化剤(Bowers W.E.:“Stimulation of Lymphocytes with Periodate or Neuraminidase plus Galactose Oxidase−NAGO”p.105−109,Review in Immunochemical Techniques Part K Methods in Enzymology Vol.150,1987)が、他の効果もある中で、リンパ球培地中にマクロファージが同時に存在する場合には、抗原刺激に起因するリンパ球増殖による共分裂促進によって体内そのもので形成されるHを増加させもすることをインビトロで最初に実証した(Stenzel K.H.,Rubin A.L.,Novogrodsky A.:“Mitogenic and Comitogenic Properties of Hemin.”J.Immunol.127,6:2469−2473 et ibid.cit.ref.)。酸化に有効な酸素代謝物が十分な量で体内にて形成されない場合には、免疫反応は不完全であるか、あるいはまったく起こらないことさえある。したがって寛容または病理学的アネルギーに至る。この代謝物が、過剰にまたは不釣合いに長い時間にわたって生成すると、慢性の炎症および組織の傷跡が形成される。
【0005】
これらの知見を得た結果、特に身体の損傷が完全に治癒し、感染体が完全に除去される前に、内因性の形成が不十分であるかまたは低下するような臨床的状況では、酸化に有効な酸素化合物が治療効果を有するものと想定することができる。特に治療上の成功が期待できるのは、細胞が確かに感染の影響を受けてはいるが破壊はされておらず、したがって「危険シグナル」を発していないケースである。例としては、ハンセン病菌および結核菌の感染があり、同様にヘルペスウイルスおよびエイズ(HIV)ウイルスによる感染もある。
【0006】
早くも1906年には、膿漿慢性創傷の治療において重クロム酸カリウムの臨床的使用に成功したという報告が発表されている(Fenwick,J.:“The Treatment of Cancer by the Use of Potassium Bichromate”,British Medical Journal,March 6th,1909,589−591)。
【0007】
そうこうするうちに出された多くの刊行物が、体内で生理学的に形成された過酸化水素も−インビボではさらに短寿命のペルオキソ亜硝酸塩も同じく生理学的窒素酸化物と過酸化水素から形成されうるがこれと同様に−傷の治癒効果を明らかに示し、それによって積極的な免疫調節が根本的な役割を果たすことを示している。例えば、欧州出願第0390827は、ヒト成長因子による同質遺伝子的な皮内細胞増殖を、過酸化水素の注射を使用して増加させる方法を記載している。このようなインターロイキン2の成長因子効果の共分裂促進的な増加は、過ヨウ素酸塩についても1987年に記載されている(Wang J.et al.The American Journal of Medicine 1987,83:1016−1023)。
【0008】
(共)分裂促進的酸化剤には許容できない副作用、例えば、重クロム酸塩については、現在では認識されているクロム酸化物の発ガン効果、過ヨウ素酸塩については、ヨウ素過敏性の毒性作用がある。したがって、それらの臨床的使用は「養子移入」のような苦労をして行わなければならない。即ち、養子移入は、先に引用したJ.Wangらの研究で記載されているように、血液細胞を取り出し、インビトロで処理し、それからインビボに戻す。NAGOについての副作用は、異種タンパク感作である。Hについては、毒性の酸素ラジカルの形成である。ここでも、それらの薬剤としての使用に関する技術上の問題もあり、例えばHについては、希薄な水溶液では貯蔵寿命が短いこと、大量の酸素ガス放出に伴うカタラーゼの不安定性である。酸化されたユビキノン誘導体についての問題は、医薬品製造上の問題および限られた生物学的利用度である。
【0009】
したがってこれまでは、(共)分裂促進的酸化剤の実験的に実証された免疫薬理学的作用を、臨床業務において組織の再生/創傷の治癒、感染耐性および免疫反応の強化に移し替えることはできなかった。臨床業務では、局所的な適用に加えて全身的な治療も、普通は静脈投与の形で、望ましい。
【0010】
Theo Gilbert Hinze(米国出願第20030133878号、“Composition for the treatment of legionella pneumophila and a method for such treatment”)(特許文献1)は、NaClまたはKCl(恐らくこの化学式の文字は印刷の誤りであろう)の水溶液をpH6.5〜7.5における電気化学的酸化によって処理した。他のイオンと共に、Cl2−イオンだけが存在し得たと推測されたが、当時このイオンは前記発明だけにしか記載されたことはなかった。このダイマーは、塩素原子を+3および+5の原子価状態で含む。
【0011】
この特許文献は、他にもいくつかの塩素−酸素調製物の記載を含んでおり、工業技術で漂白剤および脱臭剤として酸化剤の役割を果たすなど、特に技術分野で使用されているが、それらはまた、準医薬用途では皮膚用およびヘアケア用化粧品などで、家庭の清掃用として、衛生分野では公衆衛生用ならびに/または表面(米国特許第3123521号)および/もしくは創傷(米国特許第2701781号、米国特許第4084747号、EP−A−0744895)の殺菌剤として、保存剤としてチーズに(米国特許第3147124号)および飲料水や浴用水の調整用にも(米国特許第4296103号、DE−A−4405800、DE−A−19518464、WO96/33937、WO97/06098)推奨されている。米国特許第4296103号、EP−A−0136309、米国特許第4507285号およびEP−A−0255145は、塩素―酸素調製物の医療用途を記載している。
【0012】
WO00/48940は、塩素が原子価5を有する式HOOClOのクロロヒドロペルオキシド調製物の記載を含んでいる。このヒドロペルオキシドは、水性環境でアニオンOClOOを与える酸としての挙動をする。したがって、これはペルオキソ塩素酸と呼ばれ、そのアニオンはペルオキソ塩素酸塩と呼ばれる。2個のペルオキソ塩素酸イオンを合わせると、酸素分子1個を分離して、1個のペルオキソ基と原子価の異なる2個の塩素原子を有するペルオキソ塩素酸塩の誘導体をもたらすことができることが報告されている。このイオンには経験式(Cl2−があてがわれている。
【0013】
安定なペルオキソ塩素酸およびその安定な塩またはアニオンを溶液中で作成することが可能であることが開示されている。例えば、これらの化合物は、操作をペルオキソ塩素酸(HOOClO)のpKs値に等しいかまたはそれを超えるpH値で行えば、二酸化塩素と過酸化水素の反応によって水溶液中で得られる。pH値は6.5以上が好ましく、10〜12の範囲のpHが特に好ましい。
【0014】
このように、WO00/48940(特許文献2)は、ペルオキソ塩素酸またはその塩、水溶液中のペルオキソ塩素酸およびその塩またはアニオン、水溶液中の混合原子価の塩素原子を有するペルオキソ塩素酸塩のオリゴマー状誘導体およびその塩またはアニオン、また溶液中の酸、アニオンとしてまたは塩としての二酸化炭素付加物も開示している。
【0015】
一方、WO00/48940の明細書によれば、ペルオキソ塩素酸塩の結晶性の金属塩の単離は、首尾よくは行えないことが分かっている。
【0016】
WO00/48940の明細書に従って作成された調製物中のペルオキソ塩素酸塩の濃度が低いために、脱酸素ダイマーは限られた程度にしか調製できなかった。
【0017】
SvenssonおよびNelanderは、17K(−256.15℃)という低温でのHOOClOの調製をJ.Phys.Chem.A 1999,103,4432−4437に発表している。
【0018】
したがって、すべての発表されている塩素−酸素調製物は、最新の薬剤承認の要求基準を満たさない。これらの基準には、調製の薬物動力学が、医薬品として標準化されるべきいわゆる活性物質として化学的に定義された化合物に対して割り付け可能でなければならないとはっきり記載されている。このことは、均質な薬剤の品質を保証するためにも必要である。
【0019】
WO00/48940の本質的に良い塩素−酸素化合物、および特にそこで定義されている脱酸素ダイマーは、これまでのところ、限られた程度にしか製造することができない。したがって、市販品を探索することは不可能であると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0133878号明細書
【特許文献2】国際公開第00/48940号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の1つの目的は、前記の不都合無しに酸化剤を調製することである。このような酸化剤は、普通の技術的な医薬および殺菌剤用途分野と同様に、例えば組織再生のため、創傷の治癒のためおよび感染に対する防御のためまたは免疫反応を高めるための薬剤としての、例えば静脈内投与のような局所的および全身的な治療用薬剤として製剤する可能性をも提供するはずである。さらに、それは最新の薬剤承認手順の要件を満たすはずである。
【0022】
したがって、特に、さらに改良された酸化剤およびそれを製造する改良された方法および用途を用意することが本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的は、具体的には挙げないが、最初に記載した技術の状況から明らかなその他の目的と同様に、特許請求の範囲で規定する本発明の実施形態によって達成される。
【0024】
意外にも、この目的を、二塩素酸などの反応性の塩素化合物、中間生成物ペルオキソ塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸、ならびにそれらそれぞれの誘導体、アニオンおよび/または塩の調製を通じて果たし得ることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例3に示した細胞培養実験(線維芽細胞の増殖刺激)の結果を示す。
【図2】ペルオキソ酸イオンの濃度を判定するための、溶液中に存在するペルオキソ酸(二塩素酸、ペルオキソ亜塩素酸)のアニオンの滴定を示す。
【図3】図2から誘導した、正確な濃度決定をもたらす、滴定曲線を示す。
【図4】UVスペクトルの例である。
【図5】UVスペクトルの例である。
【図6】生成物溶液の質量スペクトルを示す。
【図7】イオンクロマトグラフィーの結果を示す。
【図8】3種の細菌株、大腸菌、黄色ブドウ球菌および緑膿菌についての崩壊速度動力学を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によるこの新規な二塩素酸を以下の表1に示す。これらの二塩素酸の中で、酸No.1からNo.3は本発明の特に好ましい実施形態である。
【0027】
【表1】

【0028】
既に原子価ペアが先に+3/+5(WO00/48940)および+4/+4(Bogdanchikovら)と記載されたのと同様に、本発明のNo.1からNo.3による、塩素の原子価が+6/+4および+5/+5である二塩素酸が初めて本発明の方法によって製造された。酸No.4のアニオンはWO00/48940に記載されている。しかし、そこに記載されている製造方法は、機能しない。
【0029】
WO00/48940には、脱酸素ダイマーは2分子の反応性塩素−酸素種(ペルオキソ塩素酸塩)から次の反応を経て形成されるという仮定が置かれている。
【0030】
OOClO → Cl2−+O
ここで、塩素原子は酸化数+3および+5で存在している。しかし、薬事法の観点からは望ましいWO00/48940の実施例6による安定な化合物の製造は、首尾よくは行えない。
【0031】
次式によるペルオキソ塩素酸塩2分子からダイマー型の誘導体の形成は、
OOClO → Cl2−+O
即ち、非常に高濃度のペルオキソ塩素酸塩(およそ2〜3モル/L)の場合だけにしか期待できない。しかし、この化合物の不安定性のためにそのような高濃度は実際には不可能である。
【0032】
しかし、本発明に導いた試験は、ペルオキソ塩素酸イオンOClOOと亜塩素酸イオン(ClO)の反応が、意外にも直接さまざまな「ダイマー型」Cl2−種に導くことを示した。
【0033】
ClOO+ClO → Cl2−−>−>および異性体
さらに意外にも、本発明による方法の助けを得て、以前には知られていなかったペルオキソ亜塩素酸イオンO=ClOOおよびそれから誘導されるペルオキソ亜塩素酸O=ClOOHの調製が、特に本発明による亜塩素酸塩を含む溶液中で成功した。
【0034】
これらの塩素化合物は、以前には記載されたことがない。
【0035】
特に中性点の周辺で、二塩素種Cl2−の塩素酸イオンClOとペルオキソ亜塩素酸イオンOClOOへの解離は、明らかに、記載されている二塩素種の分子内レドックス反応で上表の化合物1〜4に至る反応に対して競争的な反応である。
【0036】
本開示においてアニオンに言及する限りでは、必要な対イオンの存在も(特に溶液中では)同じく含まれている。「アニオン」という用語は特に、溶液中で、ジ塩素酸塩はプロトン化した酸と比較してより安定であることを強調するために使われている。しかし、「アニオン」という用語は、本発明によれば、また文脈によっては、酸の代わりに使うこともできる。「酸」という用語は同じく「アニオン」の代わりに使うことができる。
【0037】
本発明は、二塩素酸、ならびにそれらの誘導体、アニオンおよび/もしくは塩、ならびに/または本発明によるペルオキソ亜塩素酸、ならびにその誘導体、アニオンおよび/もしくは塩を含む調製物の製造方法にも関する。
【0038】
以下のステップを実行すれば驚くほど簡単に、本発明による二塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸イオンを製造することができる。
【0039】
(a)二酸化塩素を、過酸化水素または別のヒドロペルオキシドまたはペルオキシドの水溶液または水含有溶液と、pH値≧6、5で反応させ、
(b)酸を加えてpH値を下げ、
(c)ガス状の遊離の反応性塩素化合物、好ましくはプロトン化したペルオキソ塩素化合物を、冷却したガスで排出し、アルカリ性溶液中に集め、
(d)集めた遊離の反応性の塩素化合物、好ましくはペルオキソ塩素化合物を、pH6〜8、好ましくは約7で、〜100倍過剰、好ましくは〜10倍過剰の亜塩素酸塩と共にインキュベートする。
【0040】
本発明の二塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸、および生理学的なpH値で存在する、したがって、本発明によるイオンもペルオキソ塩素酸塩および亜塩素酸塩と共に混合物として溶液中でも存在しうる。したがって、本発明による二塩素酸、ペルオキソ亜塩素酸、ペルオキソ塩素酸塩および亜塩素酸塩を含むこのような溶液は、本発明の特に好ましい実験的実施例の1つとなり、特許請求の範囲の請求項2によって保護される。
【0041】
対照的に、WO00/48940では、本発明による二塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸は存在せず、塩素を含まない溶液が生成するか、または亜塩素酸塩は含むが、実際上亜塩素酸塩だけしか存在しないので、医薬品用途には適さない調製物が生成した。
【0042】
大量の亜塩素酸塩は本発明の二塩素酸の医薬品分野での使用に対しては有害であるので、本発明の最終生成溶液は、溶液の全重量に関する重量%で20倍を超える過剰、好ましくは5倍を超える過剰、さらに好ましくは3倍を超える過剰の亜塩素酸塩を含まなければ特に有利である。
【0043】
特に、本発明による二塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸は、使用したClOの重量%に関して約0.1〜20重量%、好ましくは3〜5重量%の容積でこの溶液中に存在する。定性的な検出はラマン分光分析を使用して首尾よくできる。この種の分光分析は、当業者には自明のことである。得られるスペクトル図は、WO00/48940に記載の方法で得たものとは明瞭に異なる。定量的な比率の決定は、滴定を使用して行うことができる。
【0044】
さらなる定性的な検出がヘム鉄との反応を使用して可能である。本発明の二塩素酸の存在下では、ソレットバンド強度の一時的な変化のコースが、WO00/48940に記載の方法で得られた溶液の結果とは明瞭に異なる。
【0045】
本発明による方法は、二酸化塩素と過酸化水素の水溶液または水を含む過酸化水素(または他のヒドロペルオキシドまたは例えば、過炭酸塩、過ホウ酸塩、過酸化水素の尿素付加物などの当業者に知られているペルオキシド)の6.5以上のpH値、好ましくはpH10〜12における反応からなる。好ましくは、pH値は一定のレベルに保たなければならない。
【0046】
さらに、意外にも、中間生成物として生じるペルオキソ塩素酸、ならびにそのアニオンおよび誘導体も、二酸化塩素とペルオキソ基を含む他の酸化剤の反応によって得られることが示された。
【0047】
反応は水性環境または水を含む環境で行うことができる。例えば、水と同様に、メタノール、エタノールまたはこれらの混合物などのアルコールまたはアルカノールなどの水と混ざり合う溶剤も存在することができる。
【0048】
代替的に、最初に他の塩素酸化物を使うこともできる。例えば、一酸化塩素も、好ましくはダイマー形態(Cl)で、ヒドロペルオキシド(好ましくは過酸化水素)によって所望の生成物に転化することができる。反応は二酸化塩素について述べたとおり同じpH範囲で首尾よく行える。
【0049】
反応温度は、例えば約50℃までは上げることができ、純粋に水系では最低温度は好ましくは約0℃でなければならない。しかし、二酸化塩素は+10℃未満で操作してはならない。二酸化塩素ガスは、これより低い温度では液化して爆燃が起こる恐れがあるからである。加えられた有機溶媒および/または高濃度の活性試薬が存在する場合は、より低い温度、即ち、水の凍結温度未満の温度が使用できる。好ましくは、室温で操作する。
【0050】
反応に必要な二酸化塩素は、当業者には入手可能であり、通常の方法で製造することもできる。例えばこれは亜塩素酸塩と酸(例えば亜塩素酸ナトリウムと硫酸)の反応によってまたは塩素酸塩の、例えば亜硫酸を用いる、還元によって製造することができる。
【0051】
こうして得られた二酸化塩素は、通常の方法で、必要とあれば痕跡の塩素を除去した後で、遊離させることができる(Granstrom,Marvin L.:and Lee,G.Fred,J.Amer.Water Works Assoc.50,1453−1466(1958))。
【0052】
ClOを作製するために使用した亜塩素酸塩がカーボネートで汚染している場合は、ClOはCOおよび/またはWO00/48940で記載されている炭酸付加物で汚染される。二酸化炭素を吸収するために、二酸化塩素と二酸化炭素を含むガス流は、苛性アルカリを満たした洗浄ボトルに通さなければならない。短い接触時間の間にCOは苛性アルカリによって吸収され、ClOは吸収されない。しかし、使用する亜塩素酸ナトリウムの分別晶析によってカーボネート汚染を除去することが好ましい。ペルオキソ塩素酸塩のカーボネートによる汚染は、ラマンスペクトルによって容易に認知することができる。1051cm−1の急峻なバンドに代わって、二重のバンド1069cm−1(広幅)と、本発明の範囲内の、重要なバンドが1051cm−1(急峻)に得られる。
【0053】
二酸化塩素は、窒素などの不活性ガスまたはアルゴンなどの希ガスで運ぶことができるが、しかし、ペルオキソ化合物または過酸化水素もしくは過ホウ酸塩などのヒドロペルオキシドを用いる反応については空気または酸素も使用することができる。例えば、第1の反応器で二酸化塩素を作り、次にそれを上記のガスまたはそれらの混合物を用いて水溶液中または水を含む溶液中のペルオキソ化合物(ペルオキシドまたはヒドロペルオキシド)が入っている第2の反応器に導入することができる。
【0054】
反応混合物のpH値は、塩基を添加して6.5またはそれ以上に保つ。pH値は、一定に保つことが好ましい。これは、手動でもまたは「pH自動調節器」を使用してでも行うことができる。
【0055】
普通の有機または無機の塩基、例えば苛性ソーダ溶液または苛性カリ溶液またはアルカリ土類水酸化物およびアンモニアなどの塩基、あるいは窒素含有塩基などの有機塩基などを使用することができる。さらに、第四級アンモニウム塩からの水酸化物、特にアルキル、トリアルキル、またはテトラアルキルアンモニウム水酸化物、あるいは水酸化亜鉛も使用することができる。
【0056】
反応混合物中のヒドロペルオキシド含有量は、例えば塩酸などの酸を用いた電位差滴定を使用して測定することができる。
【0057】
前記の手順によって得られた溶液は、作られた形態またはこれの変形の両方で使用することができる。例えば過剰の過酸化水素は、普通の方法例えば二酸化マンガンなどの重金属化合物を用いて除去することができる。他の酸化剤の余剰分は類似の手段で除去することができる。
【0058】
二酸化塩素(ClO)の余剰分はHを用いて除去することができる。これは可能な限りすぐに行うべきであり、そうしないと
2ClO+2OH−>ClO+ClO+H
を経て、邪魔になる5価の塩素を有するClO(塩素酸塩)が形成される。しかしながら、塩素酸塩を含有する生成物は好ましくない。
【0059】
反応生成物の貯蔵寿命を改善するためには、高いpH値、例えばpH10以上での貯蔵が適している。このpH値の調節は、先に製造手順の中で記載したような、適当な塩基を用いて行うことができる。
【0060】
二塩素酸および/またはこれらの酸の塩を含有する溶液の製造では、意外にも、遊離の酸HOOClO、二塩素酸またはペルオキソ塩素酸を、亜塩素酸イオンを含有している混合物から、希ガス例えばアルゴンなどの不活性ガスを用いて、または窒素を用いて、または酸素ガスまたは空気を用いて、pHを6未満例えばpH5以下に下げながら、排出して集めることが可能である。意外にも、ガス流の距離を極めて短く保ち、かつ流れを冷却すると、収量を莫大に増加させうることが実証された。
【0061】
前記製造手順のステップ(a)の開始後に形成される混合物は、始めは、非常に高濃度の亜塩素酸イオン(ClO)を含有している。しかし、この亜塩素酸塩含有量は、ガス流で塩基性溶液中を「通過」することによって大幅に減少する。この方法では、すべての種類の塩素酸はプロトン化した(中性の)形態の揮発性化合物として排出される。しかし、これらは非常に不安定である。受け入れる容器内には塩基が存在し、容器を通過する塩素酸は脱プロトンされ、アニオンが形成される。溶液をpH6〜8に調節した後で、かつ所定の容積の亜塩素酸塩が−例えば塩化ナトリウムの形態で−加えられた後で、二塩素酸のアニオンが形成される。
【0062】
収集は、例えばアルカリ金属塩基、アルカリ土類金属塩基または亜鉛塩基またはアンモニアなどの窒素含有塩基または有機アミンなどの塩基中で行うことができる。ガス状の酸をコールドトラップ中で凍結析出(例えば−100〜−190℃で)させることもできる。
【0063】
対イオンは、あらゆる金属カチオンおよび窒素含有塩基、特に第四級アンモニウ塩からの有機カチオンでよい。最も適当なカチオンの選択は、個々の使用目的から決定することができる。医薬品用途には、アルカリ土類金属またはアルカリ金属、好ましくはNaまたはKまたはZn2+、が最も適当である。技術的な用途では、窒素含有塩基からのカチオン、特にトリアルキルアンモニウムカチオンなどのアルキルアンモニウムカチオンまたは特に第四級アンモニウムカチオンなどの有機カチオンが使用可能である。
【0064】
本発明による酸および塩は、暗所で貯蔵し、かつそれらからpH値の高い、例えば10、11、または12以上のpH値、特にpH10〜13の範囲の水溶液を作製することが長い貯蔵寿命を確実にするために適切であり、かつ好ましい。必要に応じて、このような溶液から遊離の酸を先に記載した方法で再生し、必要とあれば所望のpH値の溶液または塩に変えることができる。
【0065】
本発明による二塩素酸、それらの誘導体またはアニオンおよびそれらの塩は、そのままでも使用できるが、特には水溶液または水を含む溶液中でも、酸化剤としてたいへんさまざまな医療、美容、技術および農業の目的に使用することができる。
【0066】
可能性のある試験装置の例が、最初に挙げた刊行物および特許文献に挙げられており、これらをこの点において参照により本明細書に含める。
【0067】
医薬製剤(薬剤)としての使用、またはあらゆる可能な方法で、特に局所的にもまた非経口的にも投与可能な薬剤製造用の使用に用途の可能性がある。この薬剤は、普通の方法で、薬剤として十分に耐容できる普通の賦形剤および希釈剤と共に製剤することができる。
【0068】
本発明はそれぞれ本発明による二塩素酸またはペルオキソ亜塩素酸、それらのアニオン、誘導体または塩を活性物質として組み入れた医薬品であって、特に導入部で言及した病気を治療するために使用することができる医薬品にも関する。特に優先的なものは、鼻、口腔、直腸および特に経口投与(好ましくは胃酸を避ける、例えばカプセルまたは被覆製剤などの胃液耐性製剤)などの腸内投与のための製剤、ならびに特に局所または全身的治療のための製剤例えば恒温動物、特にヒトへの静脈内、筋肉内、または皮下投与のための製剤である。この製剤は、活性物質を単独で、または好ましくは1種または複数の薬剤として適用可能な賦形剤材料と共に含む。活性物質の投与量は、治療する病気および治療される種、年齢、体重および個体の状態、個体の薬物動力学的状況および適用の方法に依存する。
【0069】
好ましくは、腸内または特に全身的投与量(例えば注入または注射による)(最も好ましくはヒトへの)は、0.01〜100pmol/kg、特には0.1〜100pmolの範囲にある。したがって、例えば体重70kgの人は1mg〜1g/日、特に8.5mg〜850mg/日を1回または数回のより少ない投与量に分割して投与を受けなければならない。局所的な適用については、好ましい投与量の範囲は0.1〜10、特には0.5〜5mL/100cmの0.1〜10mM溶液である(表面積の大小、直接塗布するか、例えば含浸ガーゼで包帯するかに応じて多少がある)。
【0070】
したがって、本発明は、本明細書で記載する病理的状態の予防処置および/または治療処置のための、特に組織再生の強化、免疫調節、予防注射反応または放射線感作の改善が示唆され成功している疾患の予防処置および/または治療処置のための、あるいは、特に温血動物の傷の治療におけるこれらの効果の1つまたは複数のための、本発明による二塩素酸またはペルオキソ亜塩素酸、それぞれのアニオン、誘導体または塩の、温血動物、例えばそのような処置を必要としているヒトの前記の疾患に対して有効な投与量での投与を組み入れる方法に関する。
【0071】
本発明は、本明細書で記載する病理的状態の予防処置のための、および特に治療処置のための、好ましくは組織再生の強化、免疫調節、予防注射反応または放射線感作の改善が示唆され成功している疾患の予防処置および/または治療処置のための、あるいは、特に傷の治療、好ましくはそのような状態に罹患している温血動物の傷の治療におけるこれらの効果の1つまたは複数のための薬剤組成物であって、本発明による二塩素酸またはペルオキソ亜塩素酸、それぞれのアニオン、誘導体または塩の、前述の疾患に対して予防上または特に治療上有効な投与量および1種または複数の薬剤として適用可能な賦形剤を含む薬剤組成物にも関する。
【0072】
本発明は、病理学的状態の処置のための、好ましくは、組織再生の強化、免疫調節、予防注射反応または放射線感作の改善が特に温血動物の創傷の処置において示唆され成功している、特に温血動物特にヒトの予防処置および/または治療処置のための−手順であって、本発明による二塩素酸またはペルオキソ亜塩素酸、それぞれのアニオン、誘導体または塩の、温血動物、例えばそのような処置を必要としているヒトの前記の疾患に対して有効な投与量での投与を組み入れる手順にも関する。
【0073】
本発明は、本発明による二塩素酸および/またはペルオキソ亜塩素酸、それらの誘導体アニオン、または塩の、動物またはヒトの身体の処置のための手順における使用にも関する。
【0074】
したがって、本発明は、本発明による二塩素酸および/またはペルオキソ亜塩素酸、それらのアニオン、誘導体または塩の、好ましくは、組織再生の強化、免疫調節、予防注射反応または放射線感作の改善が特に創傷の処置において示唆され成功している、特に温血動物特にヒトの疾患の予防処置および/または治療処置のための使用にも関する。
【0075】
本発明は、本発明による二塩素酸および/またはペルオキソ亜塩素酸、それらの誘導体アニオン、または塩の、例えばある人がシミおよび吹き出物(にきび)ができやすいか吹き出物がある場合の、皮膚の(美容上の)手入れのための使用または使用の方法にも関する。
【0076】
単位剤形は、例えばドラジェ(糖衣錠)、錠剤、アンプル、ガラスビン(バイアル)、座薬またはカプセルである。他の剤形、特に本発明による二塩素酸および/またはペルオキソ亜塩素酸、ならびにこれらの誘導体、アニオンまたは塩の溶液用の剤形は、例えば軟膏、クリーム、ペースト、ゲル(ジェル)、フォーム、マウスウォッシュ、ドロップ、スプレーおよび類似のもの。単位剤形、例えばアンプル、錠剤またはカプセルは、好ましくは約0.05g〜約1.0g、特に8.5mg〜850mgの本発明による二塩素酸の塩、アニオンまたは誘導体を、普通の薬剤用賦形剤材料と共に含む。
【0077】
本発明の医薬製剤は、基本的には、既知の方法、例えば従来の混合、顆粒化、被覆、溶解または凍結乾燥を使用して製造される。
【0078】
優先的な実験的手順は、二塩素酸塩またはペルオキソ亜塩素酸および/またはその誘導体の塩の0.05〜1M溶液で二回蒸留水中にpH10以上、好ましくは10〜13、特に好ましくは12.5で溶解する。投与の直前に、この溶液を共通塩、重炭酸ナトリウムまたはカリウムおよび二回蒸留水で濃度約1〜5mMの等張に希釈し、生理的pHに近づける。この溶液は、全身的、好ましくは静脈内投与に適当である。
【0079】
局所的な使用のための薬剤の優先的な製剤を作製するのに好まれる方法は、本発明の二塩素酸および/またはペルオキソ亜塩素酸またはその誘導体を、塩として二回蒸留水に、低めのミリモルまたは高めのミリモル範囲の濃度、好ましくは0.5〜5mMの濃度範囲で、pH10以上、特に10〜13、最も好ましくは例えばpH11.5で溶解し、溶液をグリセリンまたは共通塩または他の適当な十分に耐容される好ましくは生理学的薬剤を用いて等張に調節する。適用する前に、HClを用いて生理学的pHを整える。他の添加物も可能である。特に、薬剤のプラスチック容器への充填に関しては、貯蔵中に壁中の遷移金属が溶解して活性物質の分解触媒として働く可能性があるので、遷移金属の痕跡を中和しうるような添加物が適当である。そのような添加物の例は、エチレングリコールなどのオリゴおよびポリアルコール、デスフェリオキサミンまたはEDTA(例えばEDTA二ナトリウム)である。上記の方法で得た溶液は、直接傷に塗布することも可能である。
【0080】
本発明による二塩素酸またはペルオキソ亜塩素酸のアニオンは安定であり、酸そのものは比較的速やかに分解する。したがって、pHを使用して活性物質の安定化を行うことができる。耐容性を改善するために、使用の直前に活性物質溶液を緩衝希釈によりほぼ生理学的pHまで下げることができる。これは薬理学的作用を身体全体に行き渡らせるためには適切であるが、それはこの作用が、従来の薬剤のように受容体−配位子相互作用に依存しないで、先に述べたように、迅速で不可逆な酸化反応に関係しているからである。この薬理学的作用は、細胞および/またはその化学的に変えられた構造が存在する限り効果を持ち続ける、即ち、活性物質が受容体から拡散した後でも停止されない。
【0081】
病理学的状態の処置のために予防上または特に治療上における組織再生の増進が成功すると示唆された分野の例は、身体的損傷後の再生(例えば外傷性の打撲傷または裂傷、短波長放射線、放射能放射)および化学的損傷後の再生(例えばLost、化学療法剤などの組織毒による)である。この分野の他の適用領域は、傷の治癒の改善−特に頑固ないわゆる「自発性」創傷−これは原発病(例えば糖尿病、血管障害、免疫抑制または老齢の結果)の結果として生じるもので、治ることはない。これらの障害のきわだった例は床擦れおよび慢性静脈瘤性潰瘍である。本明細書では、処置とは、皮膚、粘膜および肝臓、心筋または骨髄などの他の組織の創傷の処置と理解するものとする。
【0082】
本発明による二塩素酸またはペルオキソ亜塩素酸は、規定された化合物であり、新規の薬剤承認において関連する困難はない。
【0083】
図1は、実施例3に示した細胞培養実験(線維芽細胞の増殖刺激)の結果を示す。これらの結果は、培養物中の活性物質濃度が、亜塩素酸塩は100μMおよび反応性塩素(RC=すべての二塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸のアニオンの合計)は50μMで得られたものである。
【0084】
ここでは、本発明による二塩素酸と亜塩素酸塩とを両方含む試行溶液の増殖刺激効果20〜25%は、細胞培養物中で対象との比較において、顕著に高いことが明瞭に認識可能である。
【0085】
RCまたは亜塩素酸塩だけを含む溶液の適用は、線維芽細胞のいかなる成長挙動に対しても対照はいかに効果がないかを正確に示す。
【0086】
図2は、ペルオキソ酸イオンの濃度を判定するための、溶液中に存在するペルオキソ酸(二塩素酸、ペルオキソ亜塩素酸)のアニオンの滴定を示す。図3には、図2から誘導した、正確な濃度決定をもたらす、滴定曲線を示す。
【0087】
図4および図5は、UVスペクトルの例である。このUV吸収測定は、亜塩素酸塩濃度の決定を可能にし、存在するかもしれない溶解した遊離の二酸化塩素が少しでもあれば示す。
【0088】
図6は、生成物溶液の質量スペクトルを示し、ペルオキソ亜塩素酸塩(質量83.2)および二塩素酸の・BR>Aニオン(質量189)が確認された。
【0089】
図7では、イオンクロマトグラフィーの結果を示す。参照物質の保持時間は、実施例4のパート5に提示する。二塩素酸は19.77分で検出され、図6の質量スペクトルにおける82.3のピークの原因としての塩素酸塩を除く塩素酸塩(ClO)は測定されなかった。
【0090】
図8は、3種の細菌株、大腸菌、黄色ブドウ球菌および緑膿菌についての崩壊速度動力学を示す。生成物溶液を用いると、3菌株すべてでDIN58940による殺菌作用が得られた。
【実施例】
【0091】
以下の実施例は、本発明についてさらに詳細を提供するが、これらは決して制限的な意味に理解してはならない。
【0092】
実施例1:二塩素酸の調製
無水亜塩素酸ナトリウム100gの水200mL中溶液に、撹拌しながら硫酸(96%)を注意深く滴下する。形成される二酸化塩素を、強いガス流(Ar、N、またはOまたはCOを含まない空気)を使用して排出する。ガス流はClO含有量が5%を超えないほど強くなければならない(爆発の危険性)。元素状塩素を捕捉するために、ClO含有ガス流を互いに接続された3個の洗浄ボトルに導入し、それぞれのボトルは水35mL中に30%過酸化水素を入れてあらかじめ4M苛性ソーダ溶液を加えることによってpH12に調節した15mLの溶液中に、pH11の2M NaClO溶液30mLを入れたもので満たしておく。過酸化水素の代わりに、過ホウ酸ナトリウムまたは過炭酸ナトリウムまたは例えば尿素のH付加物などの他のペルオキソ化合物の溶液が使用可能である。ガスの導入中は、ガラス電極を用いてpH値を制御する。反応中のpH値は、4M NaOHを加えることによって12に保つ。流入するガスの黄色の着色が続くようになれば、過酸化水素またはペルオキソ化合物は使い果たされている。1滴の酸化剤(例えばH)溶液が続いて黄色い溶液を再び脱色する。
【0093】
撹拌しながら、反応性塩素を含む溶液を、あらかじめ2M苛性ソーダ溶液でpH4.5に調節した、クエン酸500gの水3L中溶液中に滴下する。添加中は、形成する反応性塩素化合物を強いガス流(NまたはO)で排出する。好ましくは、ガス流は冷却しなければならない。接続チューブは可能な限り短くなければならない。ガスは例えば一列に接続した3個の洗浄ボトル中に集め、それぞれのボトルは0.1M NaOH50mLで満たしておく。
【0094】
3個の洗浄ボトルの内容物を合わせてpH>10に保つ。
【0095】
本発明による二塩素酸を形成させるためにはpHを7に調節し−例えば塩酸で−、10倍モルの過剰の塩化ナトリウムを加える。貯蔵のためには、好ましくはpHを、約10を超え約13までに調節する。
【0096】
反応性塩素アニオンの全含有量は、0.1M HClを用いる電位差滴定によって当業者には知られている普通の方法で測定する。
【0097】
形成された二塩素酸は、所定量の亜塩素酸塩および他の反応性塩素化合物との混合物として溶液中に存在する。
【0098】
二塩素酸の存在はラマン分光分析で検出される。
【0099】
実施例2:MRC−5線維芽細胞の培養
溶液
MRC5用培地
89mL IF基礎培地
10mL FCS(ウシ胎児血清)
1mL L−グルタミン原液
IF基礎培地
IF基礎培地はIMDM(Iscove's Modified Dulbecco’s Medium)およびHam's F12倍地の1:1混合物である。
【0100】
L−グルタミン原液
L−グルタミン200mMをIF基礎培地に溶解し、濾過により殺菌する。
培養
使用するMRC5細胞株を非ゼラチン被覆細胞培養皿に播種する。続く培養は、37℃の培養器中で、CO25容量%、水蒸気飽和雰囲気中で行う。2〜3日ごとに培地を交換し、集密に達したら細胞を分割比1:5〜1:10で継代する。
【0101】
実施例3:活性物質の細胞生物学的試験
溶液
MRC5用培地
89mL IF基礎培地
10mL FCS(ウシ胎児血清)
1mL L−グルタミン原液
MRC−5用血清低減培地
98mL IF基礎培地
1mL FCS(ウシ胎児血清)
1mL L−グルタミン原液
PBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)
NaCl 140mM,KCl 3mM、NaHPO 8mMおよびKHPO 1.5mMとなる量を水に溶解し、pH値を7.2〜7.4に整える。こうして得られた溶液をオートクレーブで殺菌する。
【0102】
細胞溶解緩衝液
0.04%SDS(原液10%SDS)
2xSSC(原液20xSSC)
調製済み細胞溶解緩衝液25mLを得るには、20xSSC 5.0mLおよび10%SDS 100μLをPBSで25mLまで満たす。
【0103】
DAPI溶液
2μM DAPI、PBS中
培養
MRC5細胞を24ウエル細胞培養プレートに400細胞/cmで播種する。続く培養は、37℃の培養器中で、CO25容量%、水蒸気飽和雰囲気中で行う。24時間の予備培養後、培地を吸引除去し細胞をPBSで洗浄する。次に培地を血清低減培地に変え、試験する活性物質(以下の表に概要を示す)を加える。24、48および72時間後に、細胞DNAをDAPI染色後の蛍光光度計(BMG Labtechnologies社:Novostar)で定量化することによって細胞の増殖を測定する。このとき、サンプルの蛍光の増加が細胞の増殖に等しい。
【0104】
測定するプレートは、ウエル毎に1回ずつPBS 500μLで洗浄し、次に各ウエルにPBS 250μLをいれる。溶解緩衝液を250μL加え、最低に設定したシェーカー中、室温で30分間細胞を溶解する。続いて、DAPI溶液500μLを加え、プレートを室温でさらに10分間放置する。
【0105】
プレートをNovostar中、355nm ex.および460nm em.で測定する。通常、操作は利得調整1400〜1600で行う。
【0106】
多数の測定値は平均化し、誤差値を計算する。得られたデータはグラフで評価する。
【0107】
以下の原液を使用する。
【0108】
【表2】

【0109】
観察された線維芽細胞の増殖刺激
細胞培養で使用するためには、溶液をまず所与の培地で希釈する。図1に示した結果は、活性物質の濃度が、亜塩素酸塩100μMおよびRC(=本発明による二塩素酸およびペルオキソ亜塩素酸またはこれらのアニオンの混合物)50μMで得た。
【0110】
ここで、RCおよび亜塩素酸塩の両方を含むサンプル溶液1の20〜25%の増殖刺激効果は、明瞭に認識することができ、対象との関係においても顕著に高い。
【0111】
実施例4:実施例1から得た溶液の分析測定
1)pH測定:
pH測定は、単一ガラス電極棒を用いて行う。生成物の含有量および平衡の位置はpH値に依存する。
【0112】
2)0.1M HClを用いる滴定
滴定は、例えば二塩素酸含有量の定量的測定、またはペルオキソ亜塩素酸含有量もしくはペルオキソ塩素酸塩含有量の定量的測定にも役立つ。
【0113】
生成物溶液それぞれ1mLを、0.1M塩酸を用いて電位差測定によって滴定する。滴定曲線を記録する(pH対0.1M塩酸のmL)。滴定曲線のpH8.5と4.5の間の微分で測定された酸の消費量から、対応する酸からのアニオンの含有量が合計として決定される。
【0114】
通常の結果では、生成物溶液1mLは、0.72mL、0.1M HClを消費し、したがって濃度は0.072Mとなる。
【0115】
図2は、記録された滴定曲線を示す。滴定曲線の微分と濃度の決定は図3に示す。
【0116】
3)UV−可視吸収スペクトル
UVスペクトルの測定は、生成物溶液中の亜塩素酸塩含有量の定量化の役に立つ。比較のために図1と5は亜塩素酸塩を含有する生成物溶液と亜塩素酸塩を含まない生成物溶液のスペクトルを示す。亜塩素酸塩のシグナルは260nmに見られ、この方法から生じた二酸化塩素は360nmでシグナルを示す。
【0117】
吸収値は、1cmの石英キュベット中で、260nmおよび500nmにおいて測定する。ClOイオン含有量は、A260−A500の差から亜塩素酸塩に対する消滅係数ε260nm=140M−1cm−1at260nmの助けを借りて決定される。
【0118】
360nmにおける吸収は、遊離の二酸化塩素(ε360nm=1260M−1cm−1)を示唆する。
【0119】
4)質量分析
ESI質量分析は、Bruker−Esquire−LC分光計を標準MSモードで用いて行った。サンプルは、測定前にメタノールで希釈された生成物の水溶液であった。使用した走査範囲は30m/z〜400m/z、キャピラリー出口−65V、スキム−15Vであり、スペクトルは50回の測定からの平均値を表した。
【0120】
図6において右側の矢印は、二塩素酸(総和式:Cl2−)のシグナルを指しており、左側の矢印はこれまで知られていなかったペルオキソ亜塩素酸塩種(総和式:ClO−)を示している。
【0121】
5)イオンクロマトグラフィー
すべての分析は、Metrohm社のモジュール型イオンクロマトグラフィー装置を用いて行った
ポンプ: Metrohm IC 709 ポンプ
検出器: Metrohm 732 IC 検出器
サプレッサー:Metrohm 753 サプレッサーモジュール
カラム: Metrosep A 250
流量: 1mL/min
注入容積: 20μL
溶出剤: 1mM NaOH。
【0122】
各測定の直前に、既知濃度の参照物質を新たに調製した。次にこれらを上記の方法および溶出剤を用いて測定した
参照物質の保持時間:
物質 保持時間[分]
NaCl 13.21
NaClO 12.30
NaClO 16.26
NaClO 4.36
NaOH 17.32
NaCO 21.98
NaCl 19.77。
【0123】
図7:イオンクロマトグラフィーにおいて、二塩素酸は、保持時間19.77分で特有のピークを示す。知られている参照物質は何も検出できなかった。イオンクロマトグラフィーは、質量分析の知見を確認するものであった。塩素酸塩に特有のピークは(NaClO、保持時間16.26分)、実施例1によって調製された溶液中では検出することができなかった。したがって、質量分析(図6、質量83.2)中の総和式ClOのピークは新規なペルオキソ亜塩素酸またはそのアニオンだけでしかありえない。
【0124】
実施例5:実施例1から得た溶液の殺菌作用
DIN58940による崩壊動力学
実施例1による溶液を1:10に希釈して使用した
試験微生物:大腸菌 ATCC 25922、緑膿菌 ATCC 27853、黄色ブドウ球菌 ATCC 29213
培養液:カゼインペプトン−大豆ペプトン(欧州薬局方2.6.12)
細菌培養時間:18時間±1時間
結果を以下の表3および図8に示す。かくして、この溶液のDIN 58940による殺菌作用が立証された。
【0125】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)二酸化塩素を、過酸化水素または別のヒドロペルオキシドまたはペルオキシドの水溶液または水含有溶液と、pH値≧6.5で反応させること、
(b)酸を加えてpH値を3〜6に下げること、
(c)ガス状の遊離した反応性塩素化合物を、冷却ガスを用いて排出し、pH値>10の塩基性溶液中に集めること、および
(d)集めた反応性塩素化合物を、100倍までの過剰の亜塩素酸塩を用いて6〜8のpH値でインキュベートすること、
により得られる、反応性塩素化合物を含む水溶液。
【請求項2】
式HClの二塩素酸、またはその誘導体、アニオンまたは塩を含む、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
【化1】

のアニオンの構造式を有する、式HClの二塩素酸、またはその誘導体、アニオンまたは塩を含む、請求項1または2に記載の水溶液。
【請求項4】
前記二塩素酸、またはその誘導体、アニオンまたは塩の濃度が、少なくとも0.01Mである、請求項2または3に記載の水溶液。
【請求項5】
式O=ClOOHのペルオキソ亜塩素酸、式O=ClOOのペルオキソ亜塩素酸のアニオン、またはそれらの誘導体または塩を含む、請求項1から4のいずれかに記載の水溶液。
【請求項6】
前記ペルオキソ亜塩素酸、またはその誘導体、アニオンまたは塩の濃度が、少なくとも0.01Mである、請求項5に記載の水溶液。
【請求項7】
式HClの二塩素酸、またはその誘導体、アニオンまたは塩と、式O=ClOOHのペルオキソ亜塩素酸、式O=ClOOのペルオキソ亜塩素酸のアニオン、またはそれらの誘導体または塩と、を含む、請求項1から6のいずれかに記載の水溶液。
【請求項8】
質量スペクトルにおいて質量約189のピークを有する化合物を含む、請求項1から7のいずれかに記載の水溶液。
【請求項9】
前記質量スペクトルにおける質量約189のピークが、質量約99のピークよりも強い強度である、請求項8に記載の水溶液。
【請求項10】
質量スペクトルにおいて質量約83.2のピークを有する化合物を含む、請求項1から9のいずれかに記載の水溶液。
【請求項11】
前記質量スペクトルにおける質量約83.2のピークが、質量約99のピークよりも強い強度である、請求項10に記載の水溶液。
【請求項12】
イオンクロマトグラフィーにおいて約15分の保持時間に1つのピークを有する化合物を含む、請求項1から11のいずれかに記載の水溶液。
【請求項13】
イオンクロマトグラフィーにおいて約15分の保持時間にピークを有さない化合物を含む、請求項1から12のいずれかに記載の水溶液。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の水溶液の、創傷の治療または組織再生の強化のための効果的な用量を含む医薬組成物。
【請求項15】
非経口または局所投与用に製剤されている、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
組織再生の強化、免疫調節、予防注射反応および/または放射線感作の改善が示唆されまたは成功している疾患における予防処置および/または治療処置のための薬剤を調製するための請求項1から13のいずれかに記載の水溶液の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−173791(P2011−173791A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95201(P2011−95201)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【分割の表示】特願2006−540354(P2006−540354)の分割
【原出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(506170616)シトトゥールス アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】CYTOTOOLS AG
【Fターム(参考)】