説明

反応性蒸発による現場での薄膜の生長

(a)蒸着ゾーン中でホウ素を支持体の表面に蒸着させる工程;(b)支持体を加圧された気体マグネシウムを含む反応ゾーンに移動する工程;(c)支持体を蒸着ゾーンに戻す工程;および(d)工程(a)〜(c)を繰り返す工程を含むMgB2膜を形成する方法。本発明の好ましい態様で、支持体は回転可能なプラテンを用いて蒸着ゾーンおよび反応ゾーンに入れられたり出されたりする。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
連邦政府の保証する調査および開発に関する声明
アメリカ合衆国政府は、本発明についてペイド・アップ・ライセンスおよび海軍研究局によって与えられる契約第N00014-03-M-0005号の文言によって定められた妥当な期間特許権者が限られた状況で他人にライセンスを付与することを要求する権利を保有している。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は一般的に薄膜を製造するために用いられる方法に関する。より明確には、本発明の分野は膜(例えば、高温アニールを必要としない超伝導MgB2)をその場で製造する方法に関する。
【0003】
発明の背景
二ホウ化マグネシウム(MgB2)は約39 Kの超伝導転移温度(Tc)を有する超伝導材料である。超伝導ワイヤー、テープ、および膜を形成するためにMgB2を使用することに重大な関心がある。超伝導ワイヤーは、例えば、超伝導磁石、障害電極電流(fault-current)リミッター、および送電に用いられ得る。膜はジョセフソン接合、SQUIDS (超伝導量子干渉計)、微小電子相互連結(microelectonic interconnect)、RSFQ (高速単一量子磁束(rapid single flux quantum))デバイス、および他の装置を作るために用いられてもよい。膜はまたRFおよびマイクロ波装置に共鳴器、フィルター、遅延線路などの形で組み込まれ得る。
【0004】
膜応用に関しては、完全な現場でのMgB2膜の生長は電子工学への応用に必要な多層技術を実現する手段として要求される。MgB2膜を蒸着させる第一の困難は高い温度でMgB2相の熱力学的安定性のために必要とされるMgの非常に高い蒸気圧である。MgB2膜形成に関する第二の問題はMgの酸化に対する高い感度である。これら両方のことは常套の物理的蒸着(PVD)技術を用いてMgB2膜を生長させることを困難にしている。
【0005】
現場でのMgB2膜はMg-BまたはMg-MgB2混合物を生長室の中でその場でアニールすることによって形成されてきた。しかしながら、上述の技術によって形成された膜は低いTcおよび不十分な結晶化度を示した。現場でのMgB2膜はまた低い温度(<350℃)で形成されてきたが、これらの膜はエピタクシーでなく、膜の結晶化度が不十分であり、それらのTc値は低く、それらの抵抗率は高い。Zeng等はHPCVD(ハイブリッド物理-化学蒸着(hybrid physical-chemical vapor deposition))技術を用いることにより現場でMgB2膜を生長させた。X. H. Zeng et al., In situ epitaxial MgB2 thin films for superconducting electronics, Nature Materials 1, pp. 1-4 (2002)参照。しかしながら、この方法は多層の装置や面積の大きい膜生長を必要とする応用に受け入れ難い。さらに、Zeng等によって提案される方法で用いられる支持体の温度は700℃より高く、生長は支持材料の制限された数でのみで成功していた。
【0006】
それゆえにMgB2膜を現場で約300℃〜約700℃の温度範囲で製造する方法が要請されている。また、種々の支持材料の上でMgB2膜を現場で生長させ得る方法も必要とされる。更に多層の装置の製作で用いられるのに好適であるMgB2を現場で製造できる方法が必要とされる。その方法はMgB2以外の超伝導膜にも好適に適用できる。
【0007】
発明の要旨
本発明の第一の側面では、支持体の上にMgB2膜を現場で形成する方法は(a)蒸着ゾーン(deposition zone)の中でホウ素を支持体の表面に蒸着させる工程;(b)支持体を加圧された気体状マグネシウムを含む反応ゾーンに移動する工程;(c)支持体を蒸着ゾーンに戻す工程;および(d)工程(a)〜(c)を繰り返す工程を含む。
【0008】
本発明の第二の側面では、MgB2膜が第一の側面の方法を用いて形成される。
【0009】
本発明の第三の側面では、MgB2の薄膜を現場で形成する方法は反応ゾーンおよび別の蒸着ゾーンを有するハウジングの中で回転可能なプラテン(platen)を提供する工程、反応ゾーンとつながったマグネシウムを含む蒸発セル(evaporation cell)を提供する工程を含む。ホウ素の供給源は蒸着ゾーンに近接して提供され、電子ビームはホウ素の供給源に向けられる。支持体をプラテンに装填し、次いでプラテンを回転する。支持体周辺の局所的な環境を加熱する。蒸発セルを加熱して反応ゾーン中に気体状マグネシウムを形成する。ホウ素を電子ビーム銃を用いて蒸発する。
【0010】
本発明の第四の側面では、MgB2膜が第三の側面の方法を用いて製造される。
【0011】
本発明の第五の側面では支持体上に既知の超伝導体化合物の超伝導膜をその場で形成する方法は、(a)蒸着ゾーン中で支持体の表面に一以上の超伝導体の元素を蒸着させる工程;(b)その超伝導体の非気体状元素を加熱して反応ゾーン中にその元素の加圧された気相を形成する工程;(c)加圧された気体状元素を含む反応ゾーンに支持体を移動する工程;(d)支持体を蒸着ゾーンに戻す工程;および(e)工程(a)〜(d)を繰り返す工程を含む。
【0012】
本発明の一つの目的は支持体上にMgB2膜を現場で製造する方法を提供することである。
【0013】
さらに、本発明の目的は、支持体上にMgB2膜を現場で製造する方法であって、支持体が約300℃〜約700℃の範囲内の温度に加熱される方法を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、さらに支持体の複数の側面上にMgB2膜を現場で製造する方法を提供することである。
【0015】
本発明のもう一つの目的は既知の超伝導体の膜を現場で製造する方法を提供することである。
【0016】
本発明のこれらの目的およびさらなる目的を以下により詳細に記述する。
【0017】
好ましい態様の詳細な説明
図1は現場でMgB2膜を形成するのに用いられる好ましい装置2を表す。この装置2は使用者が真空室(vacuum chamber)4の内部に接触を可能にする、取り外し自在または開閉可能な蓋6を有する真空室4を含む。この真空室4は真空ホース8を経由して真空ポンプ10に接続されている。操作の間中、真空室4の中の圧力は高真空--好ましくは10-6 Torrよりも低く保つ。
【0018】
ポケットヒーター12は真空室4の中に提供され、ホウ素が一以上の支持体14に蒸着される蒸着ゾーン16と、加圧された気体のマグネシウムが蒸着したホウ素と反応し現場でMgB2膜を形成する反応ゾーン18との間を一以上の支持体14を繰り返し移動させるのに用いられる。ポケットヒーター12は以下により詳しく記述するように部分的に支持体14を囲むハウジング20を含む。ハウジング20は好ましくはポケットヒーター12の内部で支持体14を加熱するための加熱コイル(図示されていない)を含む。好ましくは、上面加熱コイル、側面加熱コイル、および下面加熱コイルがあるが、他の構造が用いられてもよい。加熱コイルはポケットヒーター12を800℃を超える温度まで加熱してもよいが、300℃と700℃の間の生長温度が好ましい。
【0019】
ポケットヒーター12のハウジング20は支持体14の上側の表面を完全に覆う上部(upper portion)22を含む。ハウジング20は支持体14の下側の表面を部分的に囲う下部24も含む。図2で最もよく見えるように、パイ形(pie-shaped)ウェッジがハウジング20の下部24から除かれて、蒸着ゾーン16を形成する。支持体14を囲うハウジング20の下部24は支持体14の下側とハウジング20の下部24の内部表面との間に反応室26(すなわち、反応ゾーン18)を形成する。反応室26が支持体14の下側に十分近くに配置されるので、マグネシウムガスの局所的高圧領域が反応室26内に形成される。この圧力はまだ測定されていなかったが、熱力学的生長ウィンドウ(thermodynamic growth window)中750℃で必要とされるマグネシウムの蒸気圧は約10 mTorrであると報告された。本明細書中の反応室26で「高圧」は相対的な用語であり、反応室26の中の圧力は真空室4の圧力より上であるが大気圧より大きく小さいということを理解しておくべきである。
【0020】
間隙28は支持体14の下側とハウジング20の下部24の間に形成される。好ましくは、この間隙28の大きさはハウジング20の下部24を支持体14の方へまたは支持体14から離れて動かすことによって調節され得る。好ましくは、形成される間隙28は約0.005 inch〜約0.015 inchの範囲の幅を有する。
【0021】
回転可能なプラテン30はポケットヒーター12のハウジング20の中に配置され、一以上の支持体14を回転的に支えるために用いられる。図2は蒸着ゾーン16の中でプラテン30によって保持されている支持体14を表す。プラテン30によって保持される支持体14はウェハー、チップ、柔軟なテープなどを含むが、それに限定されない多くの形(shapes and forms)をとってよい。本発明の方法はMgB2膜を一度に三つまでの2"ウェハーまたは一つの4"ウェハーに蒸着させるために用いられてきた。加えて、現場でMgB2膜を製作する本発明の方法は広範囲にわたる種類の支持体14材料で使われ得る。これらは説明的であるが、これらに限定されない、LSAT、LaAlO3、MgO、SrTiO3、r面サファイア、c面サファイア、m面サファイア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、炭化ケイ素、多結晶質アルミナ、ケイ素、およびステンレス鋼を含む。ケイ素に関して、Si3N4緩衝層がケイ素支持体上に最初に形成される。本発明の方法を使用してマグネシウム、ホウ素、またはMgB2との化学反応がないどんな支持体上にもMgB2膜を蒸着できると信じられている。
【0022】
従って、本発明の方法は種々の技術的に興味深く、費用のかからない支持体にMgB2膜を形成する新しい方法を提供する。従って、被覆伝導体の適用も可能である。加えて、MgB2膜は柔軟なテープに蒸着されてもよい。
【0023】
さらに図1に触れると、回転可能なプラテン30はポケットヒーター12のハウジング20を貫通する回転可能な軸32に据え付けられている。回転可能な軸32は一端で軸32を動かし結果的にプラテン30を回転するモーターまたはサーボ(図示されていない)に機械的に接続されている。好ましくは、プラテン30から支持体14を装填することおよび脱着することがポケットヒーター12および真空室4の外で行えるように、プラテン30は軸32から取り外しが可能である。
【0024】
マグネシウム蒸発セル34は真空室4中に提供される。マグネシウム蒸発セル34は蒸発セル34に含まれる固体のマグネシウム38を加熱するのに用いられる加熱コイル36を含む。マグネシウム蒸発セル34はマグネシウム蒸気をつくるために少なくとも550℃、より好ましくはおよそ650℃の温度まで加熱される。この温度を調製して、反応室26内での気体状マグネシウムの圧力を制御し得る。マグネシウム供給管40はマグネシウム蒸発セル34をポケットヒーター12の反応室26と接続する。マグネシウム供給管40は好ましくはマグネシウムが供給管40の内側に凝縮しないように、加熱コイル42によって加熱される。好ましくは、約9アンペアの電力を加熱コイル42に供給して、マグネシウム供給管40をマグネシウム蒸発セル34よりも高い温度に保つ。もちろん使用される特定の加熱コイル42に依存してより高いまたはより低い量の電力が用いられてもよい。
【0025】
マグネシウム蒸発セル34および供給管40に代わるものとして、マグネシウムの供給源が単純にポケットヒーター12の反応室26の中に設置されてもよく、それは蒸発して高圧の気体をマグネシウム反応室26に形成する。
【0026】
さらに図1に触れると、電子ビームるつぼ44は真空室4の中および蒸着ゾーン16の真下に配置される。ホウ素46は電子ビームるつぼ44の中に置かれる。電子ビーム銃48は真空室4の中に置かれ、ホウ素46を含む電子ビームるつぼ44に向けられる。電子ビーム銃48はホウ素46が蒸発し始めるに足りるほど十分高い温度までホウ素46を熱するのに用いられる。
【0027】
電子ビーム銃48の使用が好まれる一方、ホウ素46は当業者に知られている他の全ての方法によって蒸着してもよい。
【0028】
二つの水晶モニター(quartz crystal monitors) (QCM)50、52が任意に真空室4に含まれてもよい。最初のQCMモニター50は好ましくは電子ビームるつぼ44に対して下向きに向けられ、ホウ素46の蒸発速度をモニターするために使用される。第二のQCMモニター52は好ましくは支持体14の下側に対して上向きに向けられ、間隙28を通ってポケットヒーター12からのマグネシウムの漏出量をモニターするのに用いられる。
【0029】
さらに図1に触れると、可動シャッター54は真空室4の中にポケットヒーター12の蒸着ゾーン16とマグネシウム蒸発セル34との間に置かれている。シャッター54はホウ素46が支持体14の表面下側に蒸着するのを防ぐために用いられる。
【0030】
図2はポケットヒーター12の下側の斜視図を示す。図2で見られるように、蒸着ゾーン16はパイ形のウェッジである。操作の間、軸32は一以上の支持体14を含むプラテン30を回転させる。支持体14はホウ素46が蒸着する蒸着ゾーン16と加圧された気体状マグネシウムが反応してMgB2を形成する反応ゾーン18との間を繰り返し移動する。
【0031】
図3は支持体14にMgB2を形成する一つの好ましい方法を表すフローチャートである。図3に関して、一以上の支持体14がプラテン30上に装填される。プラテン30は次にポケットヒーター12の軸32に取り付けられる。マグネシウムの供給源38(好ましくはマグネシウムペレットの形で)がマグネシウム蒸発セル34に装填される。ホウ素46が次に電子ビームるつぼ44に装填される。真空室4の蓋6を次に閉め、真空室4をポンプで排気して低圧(好ましくは約10-6 Torrよりも低い)にする。
【0032】
プラテン30の回転を次に軸32を回転させることにより始める。プラテン30は約100 rpm〜約500 rpmの範囲内の速度で回転させられる。好ましくは、回転速度は約300 rpmである。次にそこに含まれる支持体14を熱するために電流をポケットヒーター12の加熱コイル(図示されていない)に供給する。電流はさらにマグネシウム蒸発セル34とポケットヒーター12の反応室26を接続するマグネシウム供給管40の加熱コイル42にも供給される。電流は次にマグネシウム蒸発セル34を取り巻く加熱コイル36に供給される。蒸着に必要とされるマグネシウム蒸発セル34の典型的な温度はおおよそ650℃である。
【0033】
一旦ポケットヒーター12、マグネシウム蒸発セル34、およびマグネシウム供給管40の温度が安定され、維持されると、電子ビーム銃48がつけられ、ホウ素46が溶け、蒸発し始めるまで供給される電流が増加される。電子ビーム銃48に供給される電流は所望する蒸着速度が達成されるまで調節される。典型的な好ましい蒸着速度は約0.1 nm/secである。これはQCMモニター50の使用により測定され得る。
【0034】
電子ビームるつぼ44と蒸着ゾーン16との間に配置されるシャッター54が次に開かれる。ホウ素46の蒸着および支持体14の下側でのMgB2の膜生長が所望するMgB2の厚さに届くまで行われる。一旦所望するMgB2の厚さに届くと、シャッター54は閉じられ、電子ビーム銃48、ポケットヒーター12、マグネシウム蒸発セル34、およびマグネシウム供給管40への電流が零まで減らされる(マグネシウムの凝縮および供給管40が詰まることを防ぐためマグネシウム供給管40への電流は少しの間流れたままにされる)。支持体14は一旦支持体が冷めるまでの時間(概して数時間)を保つと次にプラテン30から取り外される。
【0035】
本発明の一つの好ましい態様において、支持体14が冷却の時間を保った後に、支持体14を反転して支持体14の上面を蒸着ゾーン16および反応ゾーン18に露出する。上述の操作は次に支持体14の第二の面(前に上面だった)にMgB2を蒸着させるために繰り返される。図4は支持体14の両面にMgB2を蒸着させる操作を表す。この方法で、いくつかの用途(例えば、マイクロ波フィルターおよびマイクロストリップ伝送線路)に必要とされるMgB2の二面蒸着が行われ得る。
【0036】
種々の電子工学の用途に関して重要な他の材料の多層蒸着に適合するので、ここに記述された方法は特に便利である。加えて、マグネシウム蒸気がホウ素蒸着操作とは無関係に作られるので、マグネシウム/ホウ素流量比の制御を継続する必要がない。本操作で用いられるポケットヒーター12は、さらにMgB2膜を同時に複数の様々な支持体14上で生長し得るという点でも有益である。
【0037】
MgB2が形成される反応室26にごくわずかな量の酸素およびMgOしかないので、上述の方法は、さらに効果的にMgO混入も避ける。加えて、反応室26から漏れる全てのマグネシウム蒸気が凝縮し、除き、生長膜に組み込まれない。
【0038】
図5は多結晶質のアルミナ支持体に蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図6は柔軟なステンレス鋼テープに蒸着されたMgB2膜の抵抗を表す。両方の支持体14に関して、約38〜39℃のTcが達成されている。
【0039】
図7はLSATに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図8はLaAlO3に蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図9はMgOに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図10はSrTiO3に蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図11はYSZに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図12はr面サファイアに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図13はc面サファイアに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図14はm面サファイアに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図15は4H-SiCに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。図16はSi3N4/Siに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。この場合、Si3N4緩衝層は当業者に知られている常套の方法を用いて最初にケイ素に形成される。Si3N4緩衝層は装置2に装填されるよりも前に支持体14に形成されてもよい。代わりに、ポケットヒーター12はSi3N4緩衝層がポケットヒーター12の中に形成される窒素供給を含んでもよい。
【0040】
図17はサファイアおよびアルミナ支持体に蒸着されたMgB2膜の低下温度の逆数(Tc/T)に対する10 GHzにおける見積もられた表面抵抗のグラフである。測定において外因性の損失(図17のRres)を評価し、MgB2膜の固有の表面抵抗Rsに達するように減じられなければならなかったので、表面抵抗値が見積もられた。図17の試料M1およびM4はサファイア支持体に蒸着されたMgB2膜である。試料M2およびM3はアルミナ支持体に蒸着されたMgB2膜である。
【0041】
本発明の特に好ましい態様で、マグネシウムは蒸発セル34で加熱され気体状マグネシウムを反応室26に提供する。しかしながら、標準の室温および圧力で非気体状である他の元素もまた本方法で使用してもよいと理解されるべきである。この点では、特定の元素(非気体状態で)は蒸発セル34に置かれて加熱され、元素の気体の形態が製造され、反応室26に配送される。
【0042】
例えば、TBCCO (Tl2Ba2CaCu2O8または他の相)は本発明に従って製造されてもよい。一以上の非気体状元素(すなわち、Tl、Ba、CaまたはCu)は蒸発セル34に載置され、その後、上で述べられたように反応室26に接続されてもよい。さらに酸素の発生源とつながっている別の反応室26が酸化反応に提供される。例えば、米国特許第6,527,866号は酸素発生源とつながっている反応室26を有するポケットヒーター装置を説明している。
【0043】
TBCCOに関しては、一つの特定の方法はTlを蒸発セル34に置き、蒸発セルを加熱してTl蒸気を形成し、次に反応室26に送るのに用いる。もう一つの酸素を含む別の反応室26が膜を酸化するために用いられる。残っている金属(Ba、Ca、またはCu)は蒸着ゾーン16中で支持体14に蒸着される。
【0044】
さらに他の超伝導薄膜が上で述べられた方法に従って形成されてもよい。これらは、例えば、ビスマスストロンチウムカルシウム銅オキシド(bismuth strontium calcium copper oxide) (BSCCO)、水銀バリウムカルシウム銅オキシド(mercury barium calcium copper oxide) (HBCCO)、およびイットリウムバリウム銅オキシド(yttrium barium copper oxide) (YBCO)を含む。一般的に、上で述べられた方法はポケットヒーター12の操作温度で相対的に高い蒸気圧を有する全ての元素に用いられてもよい。加えて、反応ゾーン18中での気体状元素の反応は自己停止(self-limiting)でなければならない。すなわち、例としてMgB2を使用すると、マグネシウムがホウ素と反応するとき、この反応はMgBもMg3B2も生じない。
【0045】
本発明は非超伝導膜を製造するために用いられてもよいということがさらに理解されるべきである。そのうえ、上で述べられた方法はポケットヒーター12の操作温度で相対的に高い蒸気圧を有する全ての元素で使用され得る。加えて、反応ゾーン18の中での気体状元素の反応は自己停止でなければならない。非超伝導膜の実施例は説明的であるが、これらに限定されない、誘電体、強誘電体、半導体(例えばGaAs、InP、およびGaN)、磁性物質、圧電性物質などを含む。
【0046】
図18はテープ60のリボンに薄膜を形成するために使用される装置2の一つの代替の態様を表す。この態様で、ポケットヒーター12は例えば図1に示されるポケットヒーター12にあるような回転可能なプラテン30を使わない。代わりに、コンベヤーの配置が支持体14 (この場合テープ60の長いリボン)をポケットヒーター12を通過させるために使用される。図18では、ポケットヒーター12は膜形成操作が行われる四つの異なるゾーン(A、B、C、およびD)を有する。例として、ゾーンBおよびDは蒸着ゾーンの形態をなす。それに対して、ゾーンAおよびCは気体状反応物がフィード62を経由して投入される反応ゾーンの形態をなす。もちろん、図18に示される特定の配列は単に例示的にすぎず、他の配置が製造される膜のタイプに依存して用いられるてもよい。
【0047】
図18は支持体14が二つの回転可能なドラム64に巻取られ、かつ巻出されることを表す。しかしながら、いくつかの利用では、薄膜および/または支持体14の性質がテープ60のリボンがドラム64に保管されることを妨げるかもしれない。この場合テープ60のリボンが直線状の形で供給され、保管される。加えて、図18はテープ60のリボンがポケットヒーター12を通るただ一つのパスを作ることを示すが、テープ60はポケットヒーター12を通る数回のパスを作ってもよい。この点に関して、テープ60のリボンは回転するドラム64の周りを巻きつくただ一つのテープ60の連続リボンの形をとってもよい。図18の中でテープ60の連続リボンは破線で示される。
【0048】
MgB2の場合、テープ支持体14へのホウ素の蒸着はテープ支持体14がマグネシウムポケット(例えば、図18中のゾーンAまたはC)に入るより前に起こり得る。
【0049】
本発明は種々の変形を受けやすく、代替のフォームが可能であるが、それらの特定の例が図面に示され、ここに詳しく述べられている。しかしながら、本発明は開示された特定の形態や方法に限定されず、逆に、本発明は添付した請求項の精神および範囲の中に含まれる全ての変形、同等物および代替を含むべきであるということが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1はMgB2の膜を現場で形成するために用いられる好ましい装置を表す。
【図2】図2は図1に示されるポケットヒーター(pocket heater)の下側の斜視図を表す。
【図3】図3はMgB2の膜を現場で作る好ましい方法のフローチャートである。
【図4】図4はMgB2の膜を現場で作るもう一つの好ましい方法のフローチャートである。
【図5】図5は多結晶質のアルミナ支持体上に蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図6】図6は柔軟なステンレス鋼テープに蒸着されたMgB2膜の抵抗を表す。
【図7】図7はLSATに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図8】図8はLaAlO3に蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図9】図9はMgOに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図10】図10はSrTiO3に蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図11】図11はYSZに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図12】図12はr面サファイアに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図13】図13はc面サファイアに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図14】図14はm面サファイアに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図15】図15は4H-SiCに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図16】図16はSi3N4/Siに蒸着されたMgB2膜の抵抗率を表す。
【図17】図17はサファイアおよびアルミナ支持体に蒸着されたMgB2膜の見積もられた表面抵抗値のプロットである。
【図18】図18はテープの長いリボン上に薄膜を蒸着させるための本発明のある好ましい側面による装置を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)蒸着ゾーンの中で支持体の表面にホウ素を蒸着する工程;
(b)支持体を加圧された気体マグネシウムを含む反応ゾーンに移動する工程;
(c)支持体を蒸着ゾーンに戻す工程;および
(d)工程(a)〜(c)を繰り返す工程
を含む支持体上にMgB2膜をその場で形成する方法。
【請求項2】
工程(b)および(c)の移動がプラテン上の支持体を回転させることにより引き起こされる請求項1記載の方法。
【請求項3】
プラテンが約100 rpm〜約500 rpmの範囲内の速度で回転させられる請求項2記載の方法。
【請求項4】
支持体が約300℃〜約700℃の範囲内の温度まで加熱される請求項1記載の方法。
【請求項5】
支持体がLSAT、LaAlO3、MgO、SrTiO3、r面サファイア、c面サファイア、m面サファイア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、炭化ケイ素、多結晶質アルミナ、ケイ素、およびステンレス鋼からなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法によって製造されるMgB2膜。
【請求項7】
反応ゾーンが加熱されたマグネシウムの供給源につながっている請求項1記載の方法。
【請求項8】
支持体がウェハーである請求項1記載の方法。
【請求項9】
支持体がテープである請求項1記載の方法。
【請求項10】
該方法が複数の支持体にMgB2を形成するために使用される請求項1記載の方法。
【請求項11】
MgB2の膜が蒸着ゾーンの中で10-6 Torrより低い圧力下に形成される請求項1記載の方法。
【請求項12】
MgB2膜が支持体の一つの面に形成される請求項1記載の方法。
【請求項13】
MgB2膜が支持体の二つの面に形成される請求項1記載の方法。
【請求項14】
反応ゾーンおよび別の蒸着ゾーンを有するハウジング中で回転し得るプラテンを提供する工程;
反応ゾーンと操作的につながったマグネシウムを含む蒸発セルを提供する工程;
蒸着ゾーンと近接して配置されるホウ素の供給源を提供する工程;
ホウ素の供給源に向けられる電子ビーム銃を提供する工程;
プラテンに支持体を装填する工程;
プラテンを回転する工程;
支持体の周囲の局所環境を加熱する工程;
蒸発セルを加熱して反応ゾーン中に気体状マグネシウムを形成する工程;および
電子ビーム銃でホウ素を蒸発させる工程
を含む、MgB2の膜をその場で形成する方法。
【請求項15】
支持体の周囲の局所環境が約300℃〜約700℃の範囲内の温度まで加熱される請求項14記載の方法。
【請求項16】
蒸発セルが少なくとも550℃までの温度まで加熱される請求項14記載の方法。
【請求項17】
プラテンが約100 rpm〜約500 rpmの範囲内の速度で回転される請求項14記載の方法。
【請求項18】
支持体がLSAT、LaAlO3、MgO、SrTiO3、r面サファイア、c面サファイア、m面サファイア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、炭化ケイ素、多結晶質アルミナ、ケイ素、およびステンレス鋼からなる群から選択される請求項14記載の方法。
【請求項19】
支持体がウェハーである請求項14記載の方法。
【請求項20】
支持体がテープである請求項14記載の方法。
【請求項21】
プラテンを装填する工程がプラテンに複数の支持体を装填することを包含する請求項14記載の方法。
【請求項22】
MgB2の膜が蒸着ゾーンで10-6 Torrより低い圧力の下に形成される請求項14記載の方法。
【請求項23】
MgB2の膜が支持体の一つの面に形成される請求項14記載の方法。
【請求項24】
さらに
プラテンから支持体を取り外す工程;
支持体を反転する工程;
支持体をプラテンに装填する工程;
プラテンを回転する工程;
支持体の周囲の局所環境を加熱する工程;
蒸発セルを加熱して反応ゾーン中に気体状マグネシウムを形成する工程;および
電子ビーム銃でホウ素を蒸発させる工程
を含む請求項14記載の方法。
【請求項25】
請求項14記載の方法によって製造されるMgB2膜。
【請求項26】
(a)蒸着ゾーン中で支持体の表面に超伝導体の一以上の元素を蒸着させる工程;
(b)該超伝導体の非気体状元素を加熱して反応ゾーン中にその元素の加圧された気相を形成する工程;
(c)加圧された気体状元素を含む反応ゾーンに支持体を移動する工程;
(d)支持体を蒸着ゾーンに戻す工程;および
(e)工程(a)〜(d)を繰り返す工程
を含む、支持体上に既知の超伝導化合物の超伝導膜をその場で形成する方法。
【請求項27】
超伝導膜が二ホウ素化マグネシウム、YBCO、BSCCO、TBCCO、およびHBCCOからなる群から選択される超伝導体である請求項26記載の方法。
【請求項28】
(a)蒸着ゾーン中で支持体の表面に化合物の一以上の元素を蒸着させる工程;
(b)該化合物の非気体状元素を加熱して反応ゾーン中に元素の加圧された気相を形成する工程;
(c)加圧された気体の元素を含む反応ゾーン中に支持体を移動する工程;
(d)蒸着ゾーン中に支持体を戻す工程;および
(e)工程(a)〜(d)を繰り返す工程
を含む支持体の上に既知の化合物の膜をその場で形成する方法。
【請求項29】
該化合物が超伝導体である請求項28記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公表番号】特表2007−521397(P2007−521397A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542604(P2006−542604)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/038372
【国際公開番号】WO2005/089092
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(591087035)スーパーコンダクター・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SUPERCONDUCTOR TECHNOLOGIES INCORPORATED
【Fターム(参考)】