説明

反応物の分離供給による膜リアクターにおける酸化反応の改良

気体の第一反応物及び任意の基質の組合わせを直接、充填層または細管などのような微細分割容積物からなる反応区画に供給することによって接触酸化生成物を形成する方法を開示する。第二反応物は第一区画から多孔性の壁によって分離されたリアクターの第二区画に供給される。反応区画における触媒は、多孔壁上またはこれに隣接する多孔層の形式で充填層あるいは充填層の一部を形成する。第二反応物は多孔壁を通過して反応区画に入り、触媒上の第一反応物および基質と反応する。この方法によって反応物を触媒の付近で混合することが可能となり、したがって他の部位において尚早な反応の発生が防止される。これは、反応物が酸化体と還元体より構成される場合に、爆発性混合物が形成される可能性を回避するという点において重要である。第一反応物として酸素を、第二反応物として水素を使用し、基質を使用しない方法の場合は、生成物は過酸化水素となる。本方法の推奨される実施態様は酸素を第一反応物、水素を第二反応物、そして炭化水素を基質として使用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの気体の反応物と任意の基質を反応させて触媒酸化反応による生成物を形成する、制御された触媒反応方法及びそのための装置に関し、特に、反応性酸素、炭化水素、及び任意の有機基質から、プロピレンオキシドのような含酸素有機化合物を一段階の酸化反応により効率よく製造する、制御された触媒反応方法及びそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素を用いて炭化水素を含酸素有機化合物に変換する方法については数多く知られている。これらの方法は、極めて有益な技術であり、これまで近代化学産業に対して多くの恩恵を与えてきた。含酸素有機化合物の中でも、アルコール、アルデヒド、酸及びケトンは、エポキシドと同様に、有用な化合物である。しかしながら、アルコール、アルデヒド、酸及びケトンを飽和炭化水素から、また、エポキシドを不飽和炭化水素から、それぞれ酸素を用いた酸化により直接得ることは、一部の例外を除いて一般に困難であるとされている。例えば、分子状酸素を酸化剤として用いて飽和炭化水素をアルコールおよびケトンへ転換する技術では、シクロヘキサンを原料とするシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの製造が工業的に実施されているのみである。また、不飽和炭化水素のエポキシドへの転換についても、エチレンからエチレンオキシドや、ブタジエンからブタジエンモノオキシドの製造が工業的に実施されているが、他の不飽和炭化水素からのエポキシドの製造、例えばプロピレンからのプロピレンオキシドの一段合成などは、非常に困難であるとされている。
【0003】
従来、一段階で炭化水素をエポキシド、アルコール、ケトン等の含酸素有機化合物に変換することを可能とする触媒として、特開平8−127550号公報に記載された金−酸化チタンや、特開平11−76820号公報;特開2006−22076号公報;国際公開第00/59632号;A. K. Sinha, S. Seelan, M. Okumura, T. Akita, S. Tsubota, M. Haruta, “Three-dimensional mesoporous titanosilicates prepared by modified sol-gel method: Ideal gold catalysts supports for enhanced propene epoxidation”, J. Phys. Chem. B 2005, 109, 3956-3965;及びB. Taylor, J. Lauterbach, W. N. Delgass, “Gas-phase epoxidation of propylene over small gold ensembles on TS-1”, Appl. Catal. A: Gen. 2005, 291, 188-198.に記載された金微粒子を固定化したチタン含有珪酸塩が知られている。
これらの触媒を用いて水素の共存下で含酸素有機化合物の合成を行うことにより、酸素化合物の合成の選択率が高くなる、及び水以外は副生成物が生じないため、目的の含酸素有機化合物の精製が容易であり、しかも環境への負荷が少ない等という利点がある。特に、後者の触媒は、前者の触媒に比べて、長期間安定に転化率を維持できる点で優れている。
【0004】
しかしながら、上記の触媒を用いて、水素の共存下、酸素により炭化水素を酸化して含酸素有機化合物を得る方法においては、水素と酸素が共存することによる爆発危険性があるため、その酸化反応においては、爆発限界の制約を超えた高濃度・高温条件下での反応を行うことができず、生成物の収率を向上させることは困難であるという問題があった。また、水素と酸素の濃縮混合物は爆発性があるため、希釈した状態の混合物を使用することがあるが、こうした方法は希釈剤の除去を要するため、工程の経済性の観点から好ましくないという問題もある。
【0005】
一方、これまでに、膜を組み入れて触媒を利用する反応器は従来から知られている。
これらリアクターの中には、触媒を含む反応ゾーンから反応生成物を選択的に分離するために膜を使用するものがある。反応が平衡によって限定されている場合、生成物のひとつを取り出した場合に平衡が正方向に移動することがあり、結果として収量が向上する。このような応用例のひとつがMinetらによる米国特許第5,202,517号明細書に示された、選別的透過率を有する触媒セラミック膜の使用によって水素の分離を可能にしてエタンを脱水素化し、エチレンと水素を生成する方法である。この例は、水素である生成物の除去によってエチレンの収量増加が促進されることを教示している。
【0006】
また、膜反応器は純粋な生成物を得るために使用される場合がある。その一例はGaluszkaらによる米国特許第5,637,259号明細書に示した、天然ガスから合成ガス燃料の中間体を生成するものである。反応は触媒を含む加熱反応ゾーンとなる内部管に半透過性の膜を組み入れ、外側に環状ゾーンを持つ二重管式の水素移動リアクターにおいて行われる。メタンと酸素の混合物などを含む原料ガスは反応ゾーンを通過して合成ガス(一酸化炭素と水素の混合物)を生成する。水素生成物の一部は膜を通して環状ゾーンに入り、そこから取り出される。この例でも、部分酸化反応による水素である生成物の除去を教示するものである。
【0007】
さらに、膜方式は生成物の合成にも利用可能である。その応用の一例として、WebおよびMcIntyreによる米国特許第5,800,796号明細書には、高分子透過膜を使用して水素と酸素から過酸化水素を合成することが示されている。この発明は水素に接触する側と酸素に接触する側の二面からなる複合膜を使用して合成を行うとしている。水素側は水素との接触によって最低1個の電子と最低1個のプロトンを生成する酸化触媒を有し、酸素側は還元触媒を有する。水素と接触する側で生成された電子とプロトンは、酸素と接触する側と酸素の間の界面において酸素と反応するように導かれ、過酸化水素が形成される。
【0008】
以上のとおり、従来の反応に膜を用いる例としては、反応生成物を除去するのに用いた例や、或いは2つの膜を用いてぞれぞれの膜自体に還元触媒と酸化触媒を有した例、すなわち還元反応及び酸化反応にそれぞれ膜を使用した例が知られてはいるものの、膜を反応に用いるのではなく、反応物の通過のみに用いることは未だ知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、一定濃度で爆発性混合物を形成するおそれがある反応物を用いた反応において、危険な反応物を安全に混合できる方法及び装置を提供することを目的とするものであり、特に、酸素と水素存在下での炭化水素の酸化反応において、爆発限界の制約を超えた高濃度・高温条件下での反応を行うことにより、高い転化率に加えて、含酸素有機化合物の選択率が高く、良好な水素の利用効率で、含酸素有機化合物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、気体の反応物の1つ及び任意の基質を、充填床または細管で形成する微細分割空間からなる反応ゾーンに直接供給する一方、気体の第二反応物を第二反応ゾーンに供給し、該第二反応物を第二反応ゾーンから多孔性隔壁を通して第一反応ゾーンに送って第一反応物と、或いは第一反応物及び基質と反応させ、生成物を形成するという方法を採用することによって、反応速度と気体組成の両方を制御して爆発性混合物の生成を防ぐことが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねて完成されたものである。
【0011】
本発明は、以下の[1]〜[17]に記載するとおりである。
[1]気体の第二反応物及び任意の基質の存在下で、気体の第一反応物を反応させて反応生成物を形成する方法であって、少なくとも以下のa)ないしe)の工程を含有することを特徴とする方法。
a)前記第一反応物を、或いは前記第一反応物及び前記基質を、充填床又は細管などの微細に分割された空間から構成された、触媒を含有する第一反応ゾーンに供給する工程。
b)前記第二反応物を、前記第一反応ゾーンと該第二反応物が透過できる多孔性隔壁で分離された第二反応ゾーンに供給する工程。
c)前記多孔性隔壁の上又はこれに隣接させて、触媒を、充填床又はその一部を形成するか、或いは多孔性層を形成するように、前記第一反応ゾーンに設置する工程。
d)前記第二反応物の流れの方向が前記第二反応ゾーンから前記第一反応ゾーンとなるように分圧状態を維持することにより、前記第二反応物が前記多孔性隔壁を通過して前記第一反応ゾーンに設置された前記第一反応物と或いは前記第一反応物及び基質と接触し、前記第一反応ゾーンに設置された触媒上で反応が進行する工程。
e)前記第一反応ゾーンから前記反応生成物を取り出す工程。
[2]前記微細に分割された空間において、充填床の空隙の有効直径又は細管の内径の平均が3mm以下であることを特徴とする上記[1]の方法。
[3]前記第一反応物及び第二反応物の一方が酸素で他方が水素であり、前記基質が炭化水素である上記[1]の方法。
[4]前記第一反応物及び前記基質の他に、補助反応物、気体促進剤、不活性ガス、蒸気または希釈剤のうちの少なくとも1つを伴うことを特徴とする上記[1]の方法。
[5]前記第二反応物の他に、補助反応物、気体促進剤、不活性ガス、蒸気、希釈剤または溶媒のうちの少なくとも1つを伴うことを特徴とする上記[1]のいずれかの方法。
[6]前記多孔性隔壁の透過率が、1×10−6mol・m−2−1Pa−1より高いことを特徴とする上記のいずれかの方法。
[7]他の反応物に対する水素の選択率がクヌーセン選択率より高いことを特徴とする上記[1]のいずれかの方法。
[8]前記炭化水素が、パラフィン、オレフィンまたは芳香族である上記[1]のいずれかの方法。
[9]前記炭化水素が、炭素数1〜4のパラフィンである上記[1]の方法。
[10]前記炭化水素が、エタンまたはプロパンである上記[1]の方法。
[11]前記炭化水素が、炭素数2〜4のオレフィンである上記[1]の方法。
[12]前記炭化水素が、エチレンまたはプロピレンである上記[1]の方法。
[13]前記炭化水素が、ベンゼンまたは置換ベンゼンである上記[1]の方法。
[14]気体の第二反応物及び任意の基質の存在下で、気体の第一反応物を反応させて反応生成物を形成するための装置であって、少なくとも、
A)充填床または細管などの微細に分割された空間から構成された第一反応ゾーンと、
B)該第一反応ゾーンに、前記第一反応物を、或いは前記第一反応物と前記基質を供給する手段と、
C)前記第二反応物が透過できる多孔性隔壁によって前記第一反応ゾーンと分離されている第二反応ゾーンと、
D)該第二反応ゾーンに前記第二反応物を供給する手段と、
E)前記多孔性隔壁の上又はこれに隣接させて、前記充填床又はその一部を形成するか、或いは多孔性層を形成するように、前記第一反応ゾーンに設置された触媒と、
F)前記第二反応物の流れの方向が前記第二反応ゾーンから前記第一反応ゾーンとなるように分圧状態を維持することにより、前記第二反応物が多孔性隔壁を通過して前記第一反応ゾーンに設置された前記第一反応物と或いは前記第一反応物及び前記基質と接触し、前記第一反応ゾーンに設置された触媒上で反応して前記反応生成物を形成せしめる手段と、
G)該反応生成物を第一反応ゾーンから取り出す手段と、
からなる装置。
[15]前記微細に分割された空間において、充填床の空隙の有効直径又は細管の内径の平均が3mm以下であることを特徴とする上記[14]の装置。
[16]前記多孔性隔壁の透過率が、1×10−6mol・m−2−1Pa−1より高いことを特徴とする上記[14]の装置。
[17]前記第一反応ゾーン及び前記第二反応ゾーンが、同心状に配置された管から構成されることを特徴とする上記[14]の装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法及び装置によれば、爆発性混合物を形成する可能性のある2つの反応物を安全に混合することが可能となる。また、本発明の方法及び装置を、酸素と水素存在下での炭化水素の酸化反応に適用することにより、爆発限界の制約を超えた高濃度・高温条件下での酸化反応が可能となり、高い転化率に加えて、選択性も高く、良好な利用効率で、含酸素有機化合物が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】触媒膜リアクター(CMR)の概略図であり、図中、(a)は固定リアクター(FBR)モードを示す、(1b)は触媒膜リアクター(CMR)モードを示す。
【図2】シリカ膜の温度別気体透過率を示す図である。
【図3】金/TS−1触媒A、温度200℃でのFBRとCMRの比較を示す図である。
【図4】金/TS−1触媒H、温度191℃でのFBRとCMRの比較を示す図である。
【図5】金/TS−1触媒J、温度200℃でのFBRとCMRの比較を示す図である。
【図6】金/TS−1触媒I、温度200℃でのFBRとCMRの比較を示す図である。
【図7】金/TS−1触媒D、温度200℃でのFBRとCMRのPO生成を比較する図であって、図中、(a)は、C転化率、プロピレン選択率、及びPO生成速度を示し、(b)はCMR上のHとOの濃度を示す。
【図8】金/TS−1触媒EによるPO生成速度における温度の影響を示す図であり、図中、(a)は、FBR(10H/10O/10C/70Ar)及びCMR(40H/40O/10C/10Ar)におけるC転化率及びPO選択率を示し、(b)は、FBR(10H/10O/10C/70Ar)及びCMR(40H/40O/10C/10Ar)における反応温度でのPO生成速度及びH効率を示す。
【図9】金/TS−1触媒FによるPO生成速度における温度の影響を示す図である。
【図10】金/TS―1触媒GによるPO生成速度における温度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についての詳細な説明を記載する。
本発明の方法及び装置の特徴は、気体状の第一反応物及び任意の基質を、充填床または細管などの微細に分割された空間から構成された第一反応ゾーンに直接供給する一方、気体状の第二反応物を、第一反応ゾーンと多孔性隔壁で分離された第二反応ゾーンに供給し、該第二反応物を第二反応ゾーンから多孔性隔壁を通して第一反応ゾーンに送って第一反応物と、或いは第一反応物及び基質と反応させて生成物を形成する点にある。
【0015】
本発明の方法及び装置は、例えば、一方は酸素で他方が水素のような、一定濃度で爆発性混合物を形成することが知られる二つの気体状の反応物を用いた反応に用いられる。
反応物は、一定濃度で爆発性混合物を形成することが知られる酸素と水素である(J.Dwyer,Jr.,J.G.Hansel,T.Phillips,“Temperature influence on the flammability of heat treating atmospheres”,Air Products,Metals Mewsletter,Summer 2004,Issue 1,pp.1-5 及びYu,N.Shebeko,S.G.Tsarichenko,A.V.Trunev,A.Ya.Korol´chenko,A,Yu.Kaplin,“The influence of inert retardants on the combustion of hydrogen-oxgen mixtures inder elevated temperatures and pressures”Comb.Expl.Shock Waves,30(1994),183.参照)。
基質が存在しない状態で使用した場合は、過酸化水素が生成される。しかしながら、例えば、下記の文献(i)から(iv)に記載されたプロピレンのプロピレンオキサイドへのエポシキ化や、下記の文献(v)に記載されたベンゼンのフェノールへのヒドロキシル化のように、難しい酸化反応においても、水素と酸素の組み合わせが有効であることが判明している。
文献(i):T.Hayashi, K.Tanaka, M. Haruta, Selective vapor-phase epoxidation of propylene over Au/TiO2 catalysts in the presence of oxygen and hydrogen, J. Catal. 1998, 178, 566-575.
文献(ii):A. K. Sinha, S. Seelan, M. Okumura, T. Akita, S. Tsubota, M. Haruta, Three-dimensional mesoporous titanosilicates prepared by modified sol-gel method: Ideal gold catalysts supports for enhanced propene epoxidation, J. Phys. Chem. B 2005, 109, 3956-3965.
文献(iii):B. Taylor, J. Lauterbach, W. N. Delgass, Gas-phase epoxidation of propylene over small gold ensembles on TS-1, Appl. Catal. A: Gen. 2005, 291, 188-198.
文献(iv):A. Kuperman, R. G. Bowman, H. W. Clark, G. E. Hartwell, B. J. Schoeman, H. E. Tuinstra, G. R. Meima, Process for the hydro-oxidation of olefin oxides using oxidized gold catalyst, PCT WO 00/59632, April 7, 2000, Assigned to The Dow Chemical Company.T.Hayashi,K.Tanaka,M.Heruta,
文献(v):S.-I. Niwa, M. Eswaramoorthy, J. Nair, A. Raj, N. Itoh, H. Shoji, T. Namba, F. Mizukami, Science , 2002, 295, 105.
ただし、水素と酸素の濃縮混合物は爆発性があるため、これらの研究では希釈した状態の混合物が使用されている。この方法は希釈剤の除去を要するため、工程の経済性の観点から好ましくない。
本発明における任意の基質としては、パラフィン系、オレフィン系、芳香族、又置換基を有するこれらの化合物からなる炭化水素が用いられる。具体的には、エタン、プロパン等の炭素数が1〜4のパラフィン系炭化水素、エチレン、プロピレン等の炭素数が2〜4のオレフィン系炭化水素、ベンゼン、置換ベンゼン等の芳香族炭化水素等が用いられる。
【0016】
反応物が水素と酸素である場合、水素と酸素を、多孔性隔壁を介してそれぞれ反対側に供給し、そのひとつが該多孔性隔壁を通過して触媒を含む微細に分割された空間から構成された反応ゾーンに入る。本発明においては、前記第二反応物として、水素又は酸素のどちらを供給しても良いのは明らかである。どちらが第二反応物でも供給を駆動するのは多孔性隔壁を隔てた分圧の正の差である。
水素および酸素の反応物の他に、補助反応物、気体促進剤、不活性ガス、蒸気または希釈剤を混合することができる。また、アルコール、エーテル、ケトン、フッ化炭化水素などの溶媒、その他の化学種又はこれらの組合わせを使用することもでき、キノン、ヒドロキノンまたは関連化合物などの補助試薬が存在しても良い。これら補助反応物、気体促進剤、不活性ガス、蒸気、希釈剤、溶媒または補助試薬は、いずれも多孔性隔壁のいずれの側にも存在させずともよく、或いはどちらか一方の側か両側に存在させることもができる。
【0017】
充填床または細管などの微細に分割された空間から構成された第一反応ゾーンには、通常充填材料を詰め、水素と酸素による爆発的混合物の形成につながる開放された空間がないようにしてある。触媒は、該充填材料そのものか、又は充填材料の一部として、或いは多孔性隔壁上に存在させる。
充填床は爆発を伝播させないことが知られている。また、充填床を使用した場合は気体流の混ぜ合わせによって反応物の混合が促進される。この構成によって、水素と酸素を従来のリアクターで単に反応物を混合して達成できる濃度より高い濃度で反応を起こさせることが可能となる。
最大の長さが3mm以下の空間では爆発の発生は殆どないので、これを充填床を形成する粒子間の空間の大きさの限度とする。また、第一反応ゾーンの微細に分割された空間として、小口径管を用いる場合には、該小口径管の壁上に触媒を装置したものを使用することができ、この場合は、該管の口径は同様の理由により3mm以下とする。このように、混合物の爆発を防ぐように、反応物の反応速度の制御し、また、気体の混合物を制御することにより、本発明の方法が可能となる。
【0018】
本発明において、前記多孔性隔壁は、第二反応物の通過を制御できる材料または装置であればどのようなものでもよく、組成の如何に関わらず穴あき材料、細管セット、または連続膜であっても良い。一般には隔壁に膜を用い、リアクター全体が膜リアクターとなる。
本発明において、2つの反応物の一方は、好ましくは酸素であり、任意の基質は好ましくは炭化水素であり、他方の第二の反応物は、好ましくは水素である。酸素と炭化水素は交換可能であるので、第一の反応ゾーンに供給される第一の反応物を酸素とすることができ、一方、前記隔壁を通過して供給される第二の反応物は水素であり、或いは、この反対であってもよい。隔壁は、反応物のいずれか一方を通過させるように選ばれる。このような隔壁は通常のものであるので、通過用の駆動源は正の分圧差でよい。
【0019】
前記多孔性隔壁が膜の場合は、無機物質、有機物質、または複合物質など、どのような材料で形成しても良い。膜とは望ましい単数あるいは複数の構成成分を選択的に通過させられる薄壁のことであり、多孔性または無孔性のどちらでもよい。これらは気体の透過率、すなわち時間あたり、分圧差あたり、膜の単位面積あたりの気体の膜通過速度によって特性が決定する。膜の特性はまたその選択率、あるいは特定の構成成分をどれだけ優先的に通過させるかによっても決定される。選択率とは単一種類の気体の透過率の比と定義できる。多くの膜は多孔性で、クヌーセン拡散によって気体の浸透が起こるものであり、その気体選択率(SAB)は次式の質量の逆比の平方根として表わされる。
【0020】
【数1】

多孔性隔壁の膜の透過率は、1×10−8mol m−2−1Pa−1より高く、水素のその他の反応物に対する選択率は、このクヌーセン選択率より高いことが好ましい。
したがって、水素のクヌーセン選択率(MA=2)はプロピレン(MB=42)に対して4.6、酸素(MB=32)に対して4.0、二酸化炭素(MB=44)に対して4.7となる。
本発明では使用する膜の透過機構を限定しない。クヌーセン選択率は単にベンチマークとして使用しているものである。
【0021】
本発明の多孔性隔壁に使用可能な膜として、第二反応物として水素を用いた場合の例を次に挙げるが、これらの例に限られるものではない。
De Vosらはゾルゲル法で作成した微孔質シリカ膜について報告している(R.M. De Vos, H. Verweij, High-selectivity, high-flux silica membranes for gas separation, Science 279 (1998) 1710.参照)。この膜の水素透過率は、絶対温度473度、水素/メタン選択率560、シリカ最上層の厚さ30nmで、2×10−6mol・m−2−1Pa−1である。膜は不純物粒子の付着を防止するためにクリーンルーム施設を必要とした。
パラジム膜はその高い水素透過率と優れた分離能力から広く研究されている。梅宮ら(S. Uemiya, N. Sato, H. Ando, Y. Kude, T. Matsuda, E. Kikuchi, Separation of hydrogen through palladium thin film supported on a porous glass tube, J. Membr. Sci. 56 (1991) 303. 及びS. Uemiya, T. Matsuda, E. Kikuchi, Hydrogen permeable palladium-silver alloy membrane supported on porous ceramics, J. Membr. Sci. 56 (1991) 315.参照)は化学めっき法によって、多孔性ガラスとアルミナ担体の表面をパラジウム合金層(パラジウム/銀、パラジウム/銅)でめっきした。この膜の絶対温度673度における水素の透過率は、パラジウム/銀膜の場合で1.66×10−6mol・m−2−1Pa−1、パラジウム/銅膜の場合で4.93×10−7mol・m−2−1Pa−1である。
最近の例では、Roa ら(F. Roa, J.D. Way, Influence of Alloy Composition and Membrane Fabrication on the Pressure Dependence of the Hydrogen Flux of Palladium-Copper Membranes, Ind. Eng. Chem. Res. 42 (2003) 5827.及びF. Roa, J.D. Way, R.L. McCormick, S.N. Paglieri, Preparation and characterization of Pd-Cu composite membranes for hydrogen separation, Chem. Eng. Sci. 93 (2003) 11.参照)が同様に化学めっき法を使用して、孔径50nmのジルコニア塗装アルミナ管の上に作成した銅含有量の異なる数種類のパラジウム/銅複合膜を研究している。この膜は、厚さ1.5±0.2μmの膜では、水素の透過率は絶対温度623度で3.81×10−6mol・m−2−1Pa−1、水素/窒素の最大選択率は93である。
【0022】
触媒酸化反応では触媒が存在するのが普通である。
本発明では使用可能な触媒の種類は限定されない。
過酸化水素合成のための触媒については広く報告されており、使用可能な触媒の例のいくつかとして、金(M. Okumura, Y. Kitagawa, K. Yamaguchi, T. Akita, S. Tsubota, M. Haruta, Direct production of hydrogen peroxide from H2 and O2 over highly dispersed Au catalysts, Chem. Lett. 32 (2003), 822.参照)および金パラジウム(J. K. Edwards, B. E. Solsona, P. Landon, A. F. Carley, A. Herzing, C. J. Kiely, G. J. Hutchings, Direct synthesis of hydrogen peroxide from H2 and O2 using TiO2-supported Au-Pd catalysts, J. Catal. 236 (2005) 69.参照)が挙げられる。
【0023】
水素/酸素混合物を使用してプロピレンからプロピレンオキシド(PO)を生成する際の触媒についても、最初に反応が報告(T. Hayashi, K. Tanaka, M. Haruta, “Selective vapor-phase epoxidation of propylene over 金/TiO2 catalysts in the presence of oxygen and hydrogen”, J. Catal. 1998, 178, 566-575.参照)されて以来、文献などで広く発表されている。使用可能な触媒としては、すべてではないが以下の例があげられる。引用した文献における触媒作用の測定は、特に明記された場合を除いて、すべて従来のリアクターにおいて実施されたものであり、いずれの研究もプロピレン/水素/酸素の濃度は同じく以下に示すように限定されている。
【0024】
Sinhaら(A. K. Sinha, S. Seelan, M. Okumura, T. Akita, S. Tsubota, M. Haruta, “Three-dimensional mesoporous titanosilicates prepared by modified sol-gel method: Ideal gold catalysts supports for enhanced propene epoxidation”, J. Phys. Chem. B 2005, 109, 3956-3965参照)は、バルクケイ素/チタン比が8.1〜96.8、金含有量4wt%立体メソ細孔質チタン/ケイ素担体に搭載した金触媒について説明している。この触媒は表面積781〜834m−1、孔径2.67〜4.53nm、孔の容積1.0〜1.4cm−1で、金粒子の大きさは3〜4nmであった。触媒の試験は大気圧と温度150〜160℃において、一時間あたりのガス空間速度(GHSV)を4000h−1cm(触媒g)−1、プロピレン/水素/酸素/アルゴンの供給速度を10/10/10/70として実施された。最良の触媒はチタン含有率が2wt%(ケイ素/チタン=53.2)、金含有率4wt%で、5時間の反応の後、プロピレン転化率2.0%、PO選択率96%、水素転化率7.5%で、産出能力は20.3gPO(触媒kg)−1−1であった。
【0025】
次に、Taylorら(B. Taylor, J. Lauterbach, W. N. Delgass, “Gas-phase epoxidation of propylene over small gold ensembles on TS-1“, Appl. Catal. A: Gen. 2005, 291, 188-198.参照)は、TS−1に搭載したチタン/ケイ素比36、金負荷0.05wt%の金触媒について記述している。触媒の試験は、大気圧と温度140〜200℃において、一時間あたりのガス空間速度(GHSV)を7000h−1cm(触媒g)−1、プロピレン/水素/酸素/ヘリウムの供給速度を10/10/10/70として実施され、200℃おいてプロピレン転化率8.8%、PO選択率81%で、産出能力は116gPO(触媒kg)−1−1を示した。
【0026】
さらに、Kuppermanら(A. Kuperman, R. G. Bowman, H. W. Clark, G. E. Hartwell, B. J. Schoeman, H. E. Tuinstra, G. R. Meima, “Process for the hydro-oxidation of olefin oxides using oxidized gold catalyst”, PCT WO 00/59632, April 7, 2000, Assigned to The Dow Chemical Company.参照)は、TS−1と類似するMFI構造を持つ微孔質のチタン珪酸を含む各種担体およびチタン含有シリカ担体に搭載した金触媒について記述している。TS−1上の試料は金0.024mol%、チタン0.79mol%、シリカ51mol%、ナトリウム0.23mol%、マグネシウム0.12mol%で、ケイ素/チタン比が64.6になるよう構成されていた。触媒は温度186℃、1気圧で、GHSVを2069h−1、プロピレン/水素/酸素/ヘリウムの供給速度を20/10/10/60として試験した結果、プロピレン転化率1.5%、PO選択率90%で、水素交換効率は産出能力35gPO(触媒kg)−1−1に相当する23%(水/PO比=3/3.1)を示した。
【0027】
また、Kuppermanら(A. Kuperman, R. G. Bowman, H. W. Clark, G. E. Hartwell, B. J. Schoeman, H. E. Tuinstra, G. R. Meima, “Process for the hydro-oxidation of olefin oxides using oxidized gold catalyst”, PCT WO 00/59632, April 7, 2000, Assigned to The Dow Chemical Company.参照)は、チタン含有シリカの試料で興味深い発見をしている。この試料は金の含有率が0.037mol%、チタン0.56mol%、ナトリウム0.017mol%、マグネシウム0.23mol%で、ケイ素/チタン比は約3000であった。触媒を温度190℃、1気圧で、GHSVを3000h−1、プロピレン/水素/酸素/ヘリウムの供給速度を20/10/10/60として試験した結果、プロピレン転化率1.6%、PO選択率89%で、水素交換効率は産出能力46gPO(kg cat)−1−1に相当する23%(水/PO比=3/3.1)を示した。プロピレン/水素/酸素/ヘリウムの流速を33/10/10/47に切り替えると、触媒はプロピレン転化率1.2%、PO選択率90%となり、水素交換効率は産出能力112gPO(触媒kg)−1−1に相当する37%(水/PO比=2.7/1)を示した。これはこの場合プロピレンである反応物の濃度を上げることによって触媒の産出能力の向上が可能であることを提示するものである。
本発明については、以下の本発明の純然たる使用例を考慮した上で、さらに明確にする予定である。本発明の他の実施態様は、当該技術の熟練者がこの仕様または本書に開示した実施法を考察すれば明らかなはずである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によっては何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例1:金/TS−1触媒の作成
a) TS−1担体の作成
分量2.0gの界面活性剤Tween20を24gの蒸留水と27.3gのTPAOH(テトラプロピルアンモニウムハイドロオキシド)(20〜25%水性溶液)の溶液に溶解し、次いでTEOS(テトラエトキシオルトシリケート)36gを1滴ずつ強烈に攪拌しながら加えた。継続的に1時間攪拌した後、透明な溶液が得られた。この溶液に適量のTBOT(テトラブトキシオルトチタネート)(7.2gの2−プロパノルに溶解したもの)を1滴ずつ強烈に攪拌しながら加えた。この混合液の分子組成は1SiO:xTiO:0.12TPAOH:0.009Tween20:14.5HOで、xの値はチタン/ケイ素比が1/500から1/35となるよう0.02から0.03の範囲で変化させた。この混合液を継続的に1時間攪拌した後、内部をテフロン(登録商標)コーティングしたオートクレーブに移し、加熱炉に入れた。熱水結晶化は温度160℃で18時間にわたって実施した。最終生成物は遠心分離によって回収し、蒸留水で十分に洗浄して、室温で終夜真空乾燥した後、温度540℃で4時間焼成した。
【0030】
b) 析出沈殿(DP)法による金の添加
分量100mlの塩化金(HAuCl:4HO)水溶液(1mg/ml)をマグネティックスターラーで攪拌しながら70℃に熱し、pH値を1グラム分子(M)の炭酸ナトリウム(NaCO)溶液を加えて9.0に、あるいは水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を最初に1M、次いで同じく0.1Mを追加して7.0に調整した。実施例1a)に記載した方法で作成した分量1.0gのTS−1担体を金水溶液に加え、温度70℃で1時間継続的に攪拌した後に遠心分離で固形物を収集し、50mlの蒸留水で洗浄して、室温で終夜真空乾燥した。金とチタンの含有量は誘導結合プラズマ(ICP)分析法で判定した。同じ方法で作成した異なる触媒の作成条件および生成物の性状は表1にまとめた。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例2:触媒リアクター
図1は今回使用した触媒膜リアクター(CMR)の概略図である。CMRの核心は外径10mm、全長42cmの無機質の合成膜管である。実効膜ゾーンは長さ3cmで、複層の多孔アルミナ管の上に化学蒸着法(CVD)で蒸着させた薄い水素選択シリカ層が形成されたものを用いた。膜作成の詳細については、T.Hayashi,K.Tanaka,M.Haruta,“Selective Vapor-phase epoxidation of propylene over Au/TiO2 catalysts in the presence of oxygen and hydrogen”,J.Catal.1998,178,566-575及びK.Sinha,S.seelan,M.Okumura,T.Akita,S.Tsubota,M.Haruta,“Three-dimensional mesoporous titanosilicates prepared by modified sol-gel method:Ideal gold catalysts supports for enhanced propene epoxidation”,J.Phys.Chem.B 2005,109,3956-3965に記載されている。
このシリカ膜の水素透過率は温度200℃において1.0×10−8mol・m−2−1Pa−1である。この膜管を長さ33cm、外径14mm、内径12mmの石英ガラス管内に同心状に装着し、外側のステンレス鋼本体と内側の膜管の間に石英ウールを挿入して、触媒床はこの周囲に配置する。
比較のための固定床リアクター(FBR)モード(図1a)では、反応物はすべて一緒に触媒床があるリアクターの外殻側に供給されるが、本発明の触媒膜リアクター(CMR)モード(図1b)では、水素が膜管側に供給され、ここから外殻側へと透過する。
図2は、膜管側と外殻側の圧力が異なるときに外殻側における利用可能な水素の量が直線的に増加したことを示している。外殻側からの排気はFID(CP-Silica及びDB WAXキャピラリーカラム)および熱伝導検出器(TCD)(Molecular Sieve 5AおよびPorapak Q充填カラム)を装着したオンラインガストロマトグラフィによって分析した。
【0033】
実施例3:金/TS−1触媒Aの条件におけるFBRとCMRのPO生成の比較
図3はFBRモード及びCMRモードによるPO生成の結果を示す。
触媒は100mgのHAuCl:4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH9で炭酸ナトリウム(NaCO)に金を析出させたチタン/ケイ素比1/35の金/TS−1触媒Aを使用し、分量0.3gの真空乾燥した触媒を1.8gのケイ砂で希釈して膜ゾーンと一致する長さ3cm(容積2.2cm)の触媒床を作成した。次に触媒を活性化するため、リアクターをまず固定床リアクター(FBR)として運転し、アルゴンで希釈した水素、酸素および炭化水素(C)それぞれ10vol%からなる合計流速毎分35cm、空間速度7000cm−1/g/(触媒kg)−1の反応流で温度を5時間で200℃まで上げた。反応は温度200℃で5時間連続運転した後に定常状態に達した。図左側の円で囲んだ点はFBRモードにおいてプロピレン転化率が0.73%、PO選択率が91.4%、PO生成速度12.2gPOh−1(触媒 kg)−1で、水素消費効率は25.5%であったことを示している。
【0034】
リアクターをCMRモードで運転するため、水素供給を外殻側から膜管側に切り替えて、水素選択シリカ膜を通過させた。FBRリアクター、CMRリアクターのいずれにおいても、圧力は外殻側で1気圧、合計流速は毎分35cmとし、Cの濃度は10vol%としたが、反応流の水素濃度を高めるために膜管側の水素の圧力を制御し、外殻側の酸素濃度も増強することが可能であった。その結果を図3の中央に点として示す。水素と酸素の濃度を上げるとプロピレン転化率が上昇し、PO選択率が低下するのが図からわかる。これは、エポキシ化反応では水素と酸素が反応物であり、それぞれの濃度が上昇すると転化率とPO生成率が上昇することから予期されることである。POの燃焼反応による二酸化炭素生成は連続反応であるから、POの選択率は転化率の上昇に伴って低下するはずである。水素が最大濃度の44vol%で酸素濃度が30vol%、Cが10vol%、アルゴンが10vol%のとき、プロピレン転化率は2.75%、PO選択率は79.1%、PO生成速度は39.4gPOh−1(触媒 kg)−1、水素消費効率は15.7%であった。FBRと比較した場合のPO生成速度の増加率は全体として223%であった。ここでは、水素と酸素それぞれの濃度44vol%と30vol%は爆発性の領域にあるにもかかわらず触媒膜リアクターでは安全運転が可能であったことが注目される。
【0035】
次に、リアクターを元のFBRの構成と条件に戻して触媒の安定性を調べた。図3の右側に円で囲った点がここで得た結果であるが、触媒が若干劣化して転化率がわずかながら低下したが、PO選択率は上昇している。
【0036】
触媒Bと触媒Cについても同様の方法で試験を行い、同様の結果を得た。これらについてはプロットは表示していないが、結果は実施例10の後の表2にまとめた。
【0037】
実施例4:金/TS−1触媒Hの条件におけるFBRとCMRのPO生成の比較
図4はFBRモード及びCMRモードによるPO生成の結果を示す。
触媒は300mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaCOに金を析出させたチタン/ケイ素比1/125の金/TS−1触媒Hを使用した。実験方法および条件は実施例3の場合と同じであるが、活性化および反応に温度190℃を使用した点が異なる。
【0038】
実験の結果は、反応初期のプロピレン転化率が高い値であったことを除いて、実施例3と同じであった。定常状態には12時間連続して反応させた後に達した。図左側の円で囲んだ点は、FBRモードでプロピレンの転化率が3.26%、PO選択率が81.8%、PO生成速度48.1gPOh−1(触媒 kg)−1となり、水素消費効率は3.26%であったことを示している。
CMRモードでは、水素と酸素の濃度が高まるに従ってプロピレン転化率が上昇し、選択率が低下した。水素が最大濃度の40vol%で酸素濃度が40vol%、Cが10vol%、アルゴンが10vol%のとき、プロピレン転化率は8.23%、PO選択率は74.2%、PO生成速度は110.8gPOh−1(触媒 kg)−1となり、水素消費効率は13.08%であった。FBRと比較した場合のPO生成速度の増加率は全体として130%であった。
【0039】
実施例5:金/TS−1触媒J、温度200℃の条件におけるFBRとCMRのPO生成の比較
図5はFBRモード及びCMRモードによるPO生成の結果を示す。
触媒は300mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaCOに金を析出させたチタン/ケイ素比1/100の金/TS−1触媒Jを使用した。実験方法および条件は実施例3の場合と同じであるが、ここでは触媒を150℃で12時間で活性化した後に温度を2時間で200℃まで上げ、さらに200℃で6時間運転した後にリアクターをFBRモードからCMRモードに切り替えた。
【0040】
実験の結果は、反応初期のプロピレン転化率が高い値であったことを除いて、実施例3と同じであった。定常状態には150℃で12時間連続して反応させた後に達した。図左側の円で囲んだ点は、温度200℃のFBRモードでプロピレンの転化率が3.78%、PO選択率が77.8%、PO生成速度53.4gPOh−1(触媒 kg)−1となり、水素消費効率は4.10%であったことを示している。
CMRモードでは水素と酸素の濃度が高まるに従ってプロピレン転化率が上昇し、選択率が低下した。水素が最大濃度の40vol%で、酸素濃度が40vol%、Cが10vol%、アルゴン10vol%のとき、プロピレン転化率は10.32%、PO選択率は71.2%、PO生成速度は133.1gPOh−1(触媒 kg)−1となり、水素消費効率は2.52%であった。FBRと比較した場合のPO生成速度の増加率は全体として149%であった。
【0041】
実施例6:金/TS−1触媒I、温度200℃の条件におけるFBRとCMRのPO生成の比較
図6はFBRモード及びCMRモードによるPO生成の結果を示す。
触媒は300mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaCOに金を析出させたチタン/ケイ素比1/100の金/TS−1触媒Iを使用した。実験方法および条件は実施例3の場合と同じであるが、ここでは触媒を180℃で8時間活性化した後に温度を2時間で200℃まで上げ、さらに200℃で2時間運転した後にリアクターをFBRモードからCMRモードに切り替えた。
【0042】
実験の結果は、反応初期のプロピレン転化率が高い値であったことを除いて、実施例3と同じであった。定常状態には180℃で8時間連続して反応させた後に達した。図左側の円で囲んだ点は、温度200℃のFBRモードでプロピレンの転化率が4.56%、PO選択率が73.3%、PO生成速度60.3gPOh−1(触媒kg)−1となり、水素消費効率は4.25%であったことを示している。
CMRモードでは水素と酸素の濃度が高まるに従ってプロピレン転化率が上昇し、選択率が低下した水素が最大濃度の40vol%で酸素濃度が40vol%、Cが10vl%、アルゴンが10vol%のとき、プロピレン転化率は10.74%、PO選択率は67.0%、PO生成速度は130.5gPOh−1(触媒kg)−1となり、水素消費効率は2.65%であった。FBRと比較した場合のPO生成速度の増加率は全体として116%であった。
【0043】
実施例7:金/TS−1触媒D、温度200℃の条件におけるFBRとCMRのPO生成の比較
図7a及び図7bは、FBRモード及びCMRモードによるPO生成の結果を示すもので、図7aはプロピレン転化率とPO選択率、図7bはPO生成速度と水素消費効率を示している。
水素消費効率はPO生成に使用した水素の割合で、POに対するPO+水の割合として表している。触媒は100mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaCOに金を析出させたチタン/ケイ素比1/175の金/TS−1触媒Dを使用した。先の実験と同様、分量0.3gの真空乾燥した触媒を1.8gのケイ砂で希釈して膜ゾーンと一致する長さ3cm(容積2.2cm)の触媒床を作成した。次に触媒を活性化するため、リアクターをまず固定床リアクター(FBR)として運転し、アルゴンで希釈した水素、酸素およびCそれぞれ10vol%からなる合計流速毎分35cm、空間速度7000cm3h−1(触媒kg)−1の反応流で温度を5時間で200℃まで上げた。反応は温度200℃で17時間連続運転した後に定常状態に達した。いずれの図でも左側の円で囲んだ点はFBRモードでプロピレン転化率が2.08%、PO選択率が86.9%、PO生成速度32.5gPOh−1(触媒
kg)−1、水素消費効率10.4%であったことを示している。
【0044】
リアクターをCMRモードで運転するため、水素供給を外殻側から膜管側に切り替え、水素選択シリカ膜を通過させた。FBRリアクター、CMRリアクターのいずれでも、圧力は外殻側で1気圧、合計流速は毎分35cmとし、Cの濃度は10vol%としたが、反応流の水素濃度を高めるために膜管側の水素の圧力を制御し、外殻側の酸素濃度も増強することが可能であった。その結果を図7の中央に点として示す。
【0045】
図にあるとおり、水素と酸素の濃度を上げるとプロピレン転化率とPO生成速度が上昇し、PO選択率と水素消費効率が低下するのがわかる。これは、エポキシ化反応で水素と酸素が反応物であり、それぞれの濃度が上昇すると転化率とPO生成率が上昇することから予期されることである。POの燃焼反応による二酸化炭素生成と水素の燃焼反応による水の生成は競争反応であるから、転化率の上昇に伴ってPOの選択率と水素の効率は低下するはずである。水素が最大濃度の40vol%で酸素濃度が40vol%、Cが10vol%、アルゴンが10vol%のとき、プロピレン転化率は5.91%、PO選択率は84.4%、PO生成速度は90.5gPOh−1(触媒kg)−1となり、水素消費効率は9.38%であった。FBRと比較した場合のPO生成速度の増加率は全体として178%であった。ここでは、水素と酸素それぞれの濃度40vol%は爆発性の領域にあるにもかかわらず触媒膜リアクターでは安全運転が可能であったことが注目される。
【0046】
次に、リアクターを元のFBRの構成と条件に戻して触媒の安定性を調べた。図7の右側図に円で囲った点がここで得た結果であるが、触媒が若干劣化して転化率がわずかながら低下したが、PO選択率は上昇している。
【0047】
実施例8:PO生成における温度の影響
以下の実施例はFBR及びCMRにおけるPO反応に対する温度の影響を比較したものである。
触媒は100mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaCOに金を析出させたチタン/ケイ素比1/175の金/TS−1触媒Eを使用した。
図8は、FBR及びCMR共に温度が上昇するとプロピレン転化率が上昇し、PO選択率が低下することを示している。転化率はCMRで高く、またはその上昇率も大きく、結果としてCMRのPO生成速度が大きくなっている。また、温度が上昇すると水素の効率も若干低下するが、これはFBRの場合で顕著である。PO生成のための見かけの活性化エネルギーは、CMRでは23.1kJ mol−1、FBRでは14.2kJ mol−1であった。全体としては、温度の影響はCMRリアクターの方に有利であった。
【0048】
実施例9:金/TS−1触媒FによるPO生成における温度の影響
以下の実施例はFBR及びCMRにおけるPO反応に対する温度の影響を比較したものである。
触媒は300mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaOHに金を析出させたチタン/ケイ素比1/125の金/TS−1触媒Fを使用した。触媒促進剤としてセシウム(CsNOとして添加)を使用した。図9は、FBR及びCMR共に温度が上昇するとプロピレン転化率が上昇し、PO選択率が低下することを示している。FBRでは、プロピレン転化率はすべての温度で高かったが、PO選択率は低かった。
【0049】
実施例10:金/TS−1触媒GによるPO生成における温度の影響
以下の実施例はFBR及びCMRにおけるPO反応に対する温度の影響を比較したものである。
触媒は300mgのHAuCl・4HO/100mlHOを使用して温度70℃、pH7でNaOHに金を析出させたチタン/ケイ素比1/125の金/TS−1触媒Gを使用した。触媒促進剤としてマグネシウム(Mg(NO)として添加)を使用した。図10は、FBR及びCMR共に温度が上昇するとプロピレン転化率が上昇し、PO選択率が低下することを示している。FBRでは、プロピレン転化率はすべての温度で高かったが、PO選択率は低かった。
【0050】
実験の総合的な結果は表2に要約した。
実験の比較対象は、固定床リアクター(FBR)と触媒膜リアクター(CMR)におけるプロピレン転化率、PO選択率、PO生成速度、および水素消費効率である。表の最終列はCMRで得たPO生成速度のFBRに対する増加率を示したものである。 水素と酸素の濃度を上げるとPO生成速度は増加したが、PO選択率は若干低下し、完全酸化生成物である二酸化炭素は漸増した。PO生成速度の増加は同様の条件下でFBRの値に比べて100〜200%高かった。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二反応物の存在下或いは第二反応物及び基質の存在下で第一反応物を反応させて反応生成物を形成する方法であって、少なくとも以下のa)ないしe)の工程を含有することを特徴とする方法。
a)前記第一反応物を、或いは前記第一反応物及び前記基質を、充填床又は細管などの微細に分割された空間から構成された、触媒を含有する第一反応ゾーンに供給する工程。
b)前記第二反応物を、前記第一反応ゾーンと該第二反応物が透過できる多孔性隔壁で分離された第二反応ゾーンに供給する工程。
c)前記多孔性隔壁の上又はこれに隣接させて、触媒を、充填床又はその一部を形成するか、或いは多孔性層を形成するように、前記第一反応ゾーンに設置する工程。
d)前記第二反応物の流れの方向が前記第二反応ゾーンから前記第一反応ゾーンとなるように分圧状態を維持することにより、前記第二反応物が前記多孔性隔壁を通過して前記第一反応ゾーンに設置された前記第一反応物と或いは前記第一反応物及び基質と接触し、前記第一反応ゾーンに設置された触媒上で反応が進行して反応生成物を形成する工程。
e)前記第一反応ゾーンから前記反応生成物を取り出す工程。
【請求項2】
前記微細に分割された空間において、充填床の空隙の有効直径又は細管の内径の平均が3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一反応物及び第二反応物の一方が酸素で他方が水素であり、前記基質が炭化水素である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一反応物及び前記基質の他に、補助反応物、気体促進剤、不活性ガス、蒸気または希釈剤のうちの少なくとも1つを伴うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第二反応物の他に、補助反応物、気体促進剤、不活性ガス、蒸気、希釈剤または溶媒のうちの少なくとも1つを伴うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔性隔壁の透過率が、1×10−6mol・m−2−1Pa−1より高いことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
他の反応物に対する水素の選択率がクヌーセン選択率より高いことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炭化水素が、パラフィン、オレフィンまたは芳香族である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記炭化水素が、炭素数1〜4のパラフィンである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記炭化水素が、エタンまたはプロパンである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化水素が、炭素数2〜4のオレフィンである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記炭化水素が、エチレンまたはプロピレンである請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記炭化水素が、ベンゼンまたは置換ベンゼンである請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第二反応物の存在下或いは第二反応物及び基質の存在下で第一反応物を反応させて反応生成物を形成するための装置であって、少なくとも、
A)充填床または細管などの微細に分割された空間から構成された第一反応ゾーンと、
B)該第一反応ゾーンに、前記第一反応物を、或いは前記第一反応物と前記基質を供給する手段と、
C)前記第二反応物が透過できる多孔性隔壁によって前記第一反応ゾーンと分離されている第二反応ゾーンと、
D)該第二反応ゾーンに前記第二反応物を供給する手段と、
E)前記多孔性隔壁の上又はこれに隣接させて、前記充填床又はその一部を形成するか、或いは多孔性層を形成するように、前記第一反応ゾーンに設置された触媒と、
F)前記第二反応物の流れの方向が前記第二反応ゾーンから前記第一反応ゾーンとなるように分圧状態を維持することにより、前記第二反応物が前記多孔性隔壁を通過して前記第一反応ゾーンに設置された前記第一反応物と或いは前記第一反応物及び前記基質と接触し、前記第一反応ゾーンに設置された触媒上で反応が進行して前記反応生成物を形成せしめる手段と、
G)該反応生成物を第一反応ゾーンから取り出す手段と、
からなる装置。
【請求項15】
前記微細に分割された空間において、充填床の空隙の有効直径又は細管の内径の平均が3mm以下であることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第一反応物及び第二反応物の一方が酸素で、他方が水素であり、前記基質が炭化水素である請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記第一反応ゾーン及び前記第二反応ゾーンが、同心状に配置された管から構成されることを特徴とする請求項14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−504276(P2010−504276A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512759(P2009−512759)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/JP2007/069142
【国際公開番号】WO2008/035824
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】