反応系
本発明は、第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料中内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができるマイクロカプセル、を含むところの反応系を提供する。該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料をとおり該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである。該反応系においては、(a)該第一の基質は、該第二の基質であるか又は該第二の基質に転換されることができるものであり、そして、実施において、
該第二の基質の該第二の反応プロモーターによる転換が、該第一の基質の該第二の反応プロモーターによる転換よりも多くに起こり、そして該第二の物質の該第一の反応プロモーターによる転換率が低いものであるか、又は(b)該第二の物質が、該第一の基質であるか又は該第一の基質に転換されることができるものでありそして、実施において、該第一の基質の該第一の反応プロモーターによる転換が、該第二の基質の該第一の反応プロモーターによる転換よりも多くに起こり、そして該第一の物質のマイクロカプセル中での転換率が低いものである、のどちらかである。
該第二の基質の該第二の反応プロモーターによる転換が、該第一の基質の該第二の反応プロモーターによる転換よりも多くに起こり、そして該第二の物質の該第一の反応プロモーターによる転換率が低いものであるか、又は(b)該第二の物質が、該第一の基質であるか又は該第一の基質に転換されることができるものでありそして、実施において、該第一の基質の該第一の反応プロモーターによる転換が、該第二の基質の該第一の反応プロモーターによる転換よりも多くに起こり、そして該第一の物質のマイクロカプセル中での転換率が低いものである、のどちらかである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの反応プロモーターを有し、その少なくとも1方がマイクロカプセル内にカプセル化されたものである反応系に関する。
【背景技術】
【0002】
単一の反応系内の複数の、互いに拮抗関係にある触媒を組み合わせる能力は、特に動的速度分割の分野において長年の間の研究対象であった。その課題に対する従来の解決方法は、膜型反応装置、二相系、及び逐次的な触媒の添加を含んでいたが、これらのアプローチの本質的な複雑さは、重大な欠点である。
【0003】
進行中のより効率的な触媒の研究及び、それに付帯的な天然の触媒系の洗練性の評価を考慮すると、広範囲の研究が天然の触媒作用を模倣することに対して行なわれてきたことは驚くことではない。細胞内の反応の局在は、種々の人工のナノリアクターを生み出させた。これらのナノリアクターは一般的には、超分子組織化、特に自己組織化を用いることにより製造されてきた。最近、この超分子形態の触媒作用が多くの異なる触媒反応への用途を有するために、かなりの関心が寄せられている。これらの系は典型的には、触媒として作用する又は触媒物質を含む、ナノメートル又はマイクロメートルの大きさのカプセルからなり、そして該カプセル内で反応が進行する。
【0004】
ナノリアクターの触媒作用は、生成物を放出しそして更に物質を転換させる、カプセルの組織化及び非組織化により進行し得る。基質がカプセル壁をとおりカプセル化された触媒と反応することによって作用するナノリアクターもまた製造され得る。
【0005】
これらのカプセルは、カプセル化された基質の幾何学的圧縮を通した生成物の形成において、位置選択性又は立体選択性を提供するために調整され得る。種々の不斉カプセルが製造されてきたが、これらは一般的にエナンチオ選択性に乏しくそして合成が難しいものであった。さらに、カプセル膜の選択的透過性は、一定の基質のみを触媒に到達させること、又は特定の生成物にカプセルを回避させることにより選択的触媒系において重要な役割を果たし得る。これらの系はしたがって、より選択的でそして回収可能な触媒の有力で新しいアプローチを提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の対象
本発明の対象は、上記欠点の1つ以上の実質的な克服又は少なくとも改善をすることで
ある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明の第一の実施態様においては、
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは第二の基質を第二の物質へ転換させることができ、ここで、該第二の基質は該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル;
を含む反応系であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか、又は該第二の基質へ転換されることができるものであり、そして、実施において、該第二の反応プロモーターによる該第二の基質の転換が、該第二の反応プロモーターによる該第一の基質の転換よりもより多く起こりそして、該第一の反応プロモーターによる該第二の物質の転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロであるか、又は(b)該第二の物質は該第一の基質であるか、又は該第一の基質へ転換されることができるものであり、実施において、該第一の反応プロモーターによる該第一の基質の転換が、該第一の反応プロモーターによる該第二の基質の転換よりもより多く起こりそして、該マイクロカプセル中の該第一の物質の転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロである、反応系が提供される。
【0008】
このように、(a)の場合において、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセル により促進される全反応は:
S1→(P1)→S2→(MC)→C2
又は
S1→(P1)→C1→S2→(MC)→C2
であり得、
そして(b)の場合において、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセル により促進される全反応は:
S2→(MC)→S1→(P1)→C1
又は
S2→(MC)→C2→S1→(P1)→C1
であり得、式中、S1及びS2はそれぞれ第一及び第二の基質を表し、C1及びC2はそれぞれ第一及び第二の物質を表し、P1は第一の反応プロモーターを表し、そしてMCはカプセル化材料中にカプセル化された第二の反応プロモーターを含むマイクロカプセルを表す。これらの式中、記号→(X)→はX種により促進された反応を表す。
【0009】
式S1→(P1)→S2→(MC)→C2に関して、第一の基質S1は第一の反応プロモーターP1によって第二の基質S2に転換される。第二の基質は、マイクロカプセルMCを貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターによって第二の物質C2に転換される。第二の物質は次にマイクロカプセルの外部に移動する。第二の物質は一連の反応の全生成物であり得る。式S1→(P1)→C1→S2→(MC)→C2に関して、第一の基質S1は第一の反応プロモーターによって第一の物質C1に転換され、そして第二の基質S2に転換される。第二の基質は次にマイクロカプセルMC中へ貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターにより第二の物質C2に転換される。第二の物質は次にマイクロカプセルの外部に移動する。
【0010】
式S2→(MC)→S1→(P1)→C1に関して、第二の基質S2はマイクロカプセルMC中に貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターにより第一の基質S1に転換される。第一の基質は次にマイクロカプセルの外部に移動し、そして第一の反応プロモーターP1によって、反応の全生成物であり得る第一の物質C1へ変換される。式S2→(MC)→C2→S1→(P1)→C1に関して、第二の基質S2はマイクロカプセルMC中に貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターによって第二の物質C2に転換される。第二の物質はマイクロカプセルの外部に移動しそして第一の基質S1に転換されるか、又はマイクロカプセル内部で第一の基質へ転換されそして第一の基質がマイクロカプセルの外部に移動する。第一の物質は次に第一の反応プロモーターP1によって、反応の全生成物であり得る、第一の物質C1に転換される。
【0011】
(a)の場合において、第一の反応プロモーターによる第二の物質の転換速度は、許容できる収率及び/又は純度における第二の物質の分離か、又は、第二の物質の許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応を可能とするように、十分低いものであり得る。この場合、第二の物質の転換は、それがもし起こるならば、1種又はそれ以上の望ましくない副生成物へのものであり得る。(a)の場合においてまた、第一の反応プロモーターは、第一の基質及び第二の基質を相互転換することができ得、即ち、第一の基質を第二の基質へ転換することができ得そして、第二の基質を第一の基質に転換することができ得る。この場合において、第二の反応プロモーターが、第二の基質を第二の物質へ選択的に転換することができるため又は、カプセル化材料が第二の基質を選択的に透過させることができるため、マイクロカプセルは、第二の基質を第二の物質に選択的に転換することができ得る。同様に、(b)の場合において、第一の基質の第二の反応プロモーターによる転換速度は、許容できる収率及び/又は純度での第一の物質の分離を、又は許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応を可能とするように十分低いものであり得る。この場合において、第一の物質の転換は、それがもし起こるならば、1種又はそれ以上の望ましくない副生成物へのものであり得る。(b)の場合においてもまた、第二の反応プロモーターは、第一の基質と第二の基質を相互転換することができ得、即ち、それは、第一の基質を第二の基質へ転換することができ、そして第二の基質を第一の基質へ転換することができ得る。この場合において、第一の反応プロモーターは第一の基質を第一の物質に選択的に転換することができ得る。
【0012】
第一の反応プロモーター及び第二の反応プロモーターは、独立して触媒又は試薬又は触媒と組み合わせた試薬を含み得、又は1種より多くの触媒及び/又は試薬を含み得る。本明細書において、物質を“変換すること“とは、該物質の反応を触媒すること、又は該物質と反応すること、又は触媒することと反応することの組み合わせを指す。
【0013】
第一の物質(上記(b)の場合において)又は第二の物質(上記(a)の場合において)は最終生成物であり得る。あるいは、反応系は、所望により、独立して、カプセル化されている又はカプセル化されていない更なる反応プロモーター(それぞれ独立して触媒、又は試薬、又は触媒と組み合わせた試薬)を含み得る。1種以上の更なる反応プロモーターは、第二の物質(上記(a)の場合において)を転換するか又は第一の物質(上記(b)の場合において)を転換することができ得る。この場合において、マイクロカプセル中の最終生成物の、及び第一及び更なる反応プロモーターによる転換速度は低いものであり得、所望によりわずかであり得、所望によりゼロであり得る。これらの転換速度は、最終生成物を許容できる収率及び純度で分離され得るように十分低いものであり得る。
【0014】
第一の反応プロモーターはカプセル化され得るか、またはカプセル化され得ない。更なる反応プロモーター(存在する場合)はそれぞれ、所望によりそして独立して、試薬、又は触媒、又は触媒と組み合わせた試薬を含み得る。更なる反応プロモーター(存在する場合)は、それぞれ、独立してカプセル化され得るか又はカプセル化され得ない。カプセル化された反応プロモーターは、第二の反応プロモーターと、又はその他のカプセル化された反応プロモーターと同じマイクロカプセル内に、又は異なるマイクロカプセル内に、カプセル化され得る。如何なるカプセル化された反応プロモーターのカプセル化材料も、その他のカプセル化された反応プロモーターのカプセル化材料と同様のもの又は異なるものであり得る。如何なるカプセル化反応プロモーターについても、それがカプセル化されるカプセル化材料は、望ましい基質に対し、及びカプセル化反応プロモーターにより促進される該望ましい基質の反応の望ましい生成物に対し少なくとも部分的に透過性であり得る。カプセル化材料は、カプセル化された反応プロモーターに対し実質的に非透過性であり得、そして反応プロモーターを不活化することができる物質に対し実質的に非透過性であり得る。
【0015】
第二の反応プロモーターによる第一の物質(上記(b)の場合において)又は第二の物質(上記(a)の場合において)の転換率は、第二の反応プロモーターによる該物質の転換速度が低いためか又は該物質が徐々にカプセル化材料を通過するか又はそれを通して通過できないため、低いものであり得る。該転換速度はゼロであり得、実質的にゼロ又はわずかであり得る。これは、第二の反応プロモーターによる該物質の転換速度がゼロ、実質的にゼロ又はわずかであるためであり得、又は、該物質がカプセル化材料を通過して第二の反応プロモーターと接触する速度がゼロ、実質的にゼロ又はわずかであるためであり得る。
【0016】
反応系は、さらに第一の反応プロモーターから及びマイクロカプセルから生成物を分離する分離器を含み得る。また、分離された生成物を精製する精製器を含み得る。生成物は、第一の物質(特に(b)の場合において)又は第二の物質(特に(a)の場合において)を含み得、又は、更なる反応プロモーター(存在する場合)により促進された1つ以上の反応による第一又は第二の物質のどちらかから誘導された生成物を含み得る。
【0017】
対応する物質への基質の転換は選択的な転換であり得る。第一の基質の第一の物質への転換は、選択的な転換であり得、即ち、第一の反応プロモーターは選択的反応プロモーターであり得、そして第二の基質の転換を促進することができないものであり得、また第一の基質のものよりより緩やかな速度で第二の基質の転換を促進し得る。第二の基質の第二の物質への転換は選択的な転換であり得、即ち、第二の反応プロモーターは選択的反応プロモーターであるため、又は第一の基質がカプセル化材料を通過して第二の反応プロモーターと接触することができないか、又は、緩やかな速度又は第二の基質のものよりもより緩やかな速度でそれを通過するため、第二の反応プロモーターは、第一の基質の転換を促進できないものであり得るか、または第二の基質のものよりもより緩やかな速度で第一の基質の転換を促進し得る。
【0018】
カプセル化材料はポリマーを含み得る。それは選択的に透過性であり得る。それは、ポリマー電解質であり得る。それは1層より多く含み得る。その層、又はそれぞれの層は、約2乃至約50nmの厚さであり得る。カプセル化材料は、電気的に荷電したポリマー層であり得る。カプセル化材料は、少なくとも1種の正荷電したポリマー層及び少なくとも1種の負荷電したポリマー層を含み得る。1つより多い正荷電したポリマー層あるいは負荷電したポリマー層、又は両方、が存在する場合、正荷電した及び負荷電した層は交互に存在し得る。最も内部の層及び、独立して、最も外部の層は、負荷電したポリマー層又は正荷電したポリマー層であり得るか、又は、他の何らかの型の層、例えば非荷電の層又は荷電した非ポリマー層であり得る。
【0019】
第一及び第二の反応プロモーターは、その1方又は両方を不活性化するように、相互作用(たとえば反応)することができるが、本発明の反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止し得る。このような状況において、不活性化すること、とは、不活性化されていない形態において促進することができる反応を促進することが出来ない形態へ、反応プロモーターを転換する事を指す。カプセル化材料は、第一の反応プロモーターに対して及び第二の反応プロモーターに対して非透過性であり得る。
【0020】
第一の反応プロモーターは、反応媒体中、例えば溶媒中に、分散、懸濁、溶解され得又は別の方法で分布させ得る。マイクロカプセルは、反応媒体内に、分散され得、懸濁され得又は別の方法で分布させ得る。マイクロカプセルはナノカプセル又はナノリアクターであり得る。マイクロカプセルは、約0.2乃至約10ミクロンの平均粒径を有し得る。
【0021】
マイクロカプセルは、エネルギー(例えば、放射線)を吸収するための、所望により、
エネルギーが第二の基質へ及び/又は第二の反応プロモーターにより促進される反応を促進するために第二反応プロモーターへ伝達され得る形態にエネルギーを転換するための、エネルギー吸収剤を含み得る。幾つかの実施態様において、エネルギー吸収剤は、放射線吸収剤であり得る。それは、例えば、第二の基質の転換を加速するか、又は別の方法で該転換に影響を与えるために、カプセル内の温度を局所的に上昇させるか又は別の方法で放射線を分布させるように、放射線を吸収することができ得る。
【0022】
1つの実施態様において、
−第一の基質を生成物に転換することができる第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセであって、該マイクロカプセルのそれぞれはカプセル材料中にカプセル化された第二の触媒を含み、
該第二の触媒は第二の基質を第一の基質へ転換させることができ、ここで、
該第二の基質は該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該第一の基質は該カプセル材料をとおってマイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル;
を含み;
それにより、実施において、該第一の触媒による該第一の基質の転換が、該第一の触媒による該第二の基質の転換よりもより多く起こり、そして、該マイクロカプセル中の生成物の副生成物への転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロである、反応系が提供される。
【0023】
その他の実施態様において、第二の基質の存在下での第一の基質の選択的反応のための反応系であって、
−第二の基質を副生成物へ転換するより速い速度で第一の基質を生成物に転換することができる第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれはカプセル材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、
該第二の触媒は該第二の基質を該第一の基質へ転換させることができ、ここで、
該第二の基質は該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該第一の基質は該カプセル材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;
を含み、
実施において、該マイクロカプセル中の該生成物の、所望により副生成物への転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロである、ところの反応系が提供される。
【0024】
その他の実施態様において、
ラセミ体のアルコールの動的速度分割のための反応系であって、
−該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することができる、第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は該カプセル化材料を通って該第二の触媒と接触することができ、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;
を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロである、ところの反応系が提供
される。
【0025】
第一の触媒は、キラル触媒、例えば酵素であり得る。第二の触媒は、酸性触媒、例えばゼオライトであり得る。酵素及びゼオライトは、酵素を不活性化するように相互作用することができるが、しかし本発明の反応系においては、ゼオライトのカプセル化に起因して、そうすることが、少なくとも部分的に防止され得る。
【0026】
本発明の第二の側面において、
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含む反応系であって、
該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように 相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系が提供される。
【0027】
カプセル化材料は第一の反応プロモーターに対しそして第二の反応プロモーターに対し非透過性であり得る。1つの実施態様において、(a)第一の物質が第二の基質であり、
又は(b)第二の物質が第一の基質であるかどちらかである。
【0028】
本発明の第三の側面において:
−本発明の第一の側面又は第二の側面による反応系を用意し;そして
−第一の基質、又は第二の基質、又は第一の基質及び第二の基質の両方の何れかを該反応系に添加する;
ことを含む反応を行なう方法であって、
それにより、(a)第一の基質が直接的又は間接的のどちらかで第二の基質に転換され、そして第二の基質が第二の物質に転換されるか、又は(b)第二の基質が直接的又は間接的のどちらかで第一の基質に転換され、そして第一の基質が第一の物質に転換される、
方法が提供される。
【0029】
したがって、
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換し得る第一の反応プロモーター;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方のいずれかを該反応系に添加すること;
を含む、反応を行なう方法であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか又は、該第一の基質が、直接的又は間接的に該第二の基質に転換されそして該第二の基質が該第二の物質へ転換されるように、第二の基質へ転換されることができるか、又は(b)該第二の物質は、該第一の基質であるか又は該第二の基質が直接的又は間接的に該第一の基質へ転換されそして該第一の基質が第一
の物質に転換されるように、該第一の基質に転換されることができるものである、方法が提供される。
【0030】
また、
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換し得る第一の反応プロモーター;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質はカプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方のいずれかを該反応系に添加すること;
を含む、反応を行なう方法であって、
該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系が提供される。
【0031】
1つの実施態様において、(a)第一の物質は第二の基質であるか、又は(b)第二の
物質は第一の基質であるかのどちらかである。
【0032】
オプション(a)において、第一の反応プロモーターは、第一及び第二の基質を相互転換し得る。オプション(b)において、第二の反応プロモーターは、第一又は第二の基質を相互に転換し得る。
【0033】
第一の反応プロモーター及び第二の反応プロモーターは、独立して、触媒、又は試薬、又は触媒と試薬の組み合わせであり得る。第一の基質及び第二の基質は、一緒に反応系に添加され得る。この場合において、別の工程において、第一の物質は、引き続いて第一の基質に転換され得るか(上記オプション(b)において)、又は、第二の物質は、第二の基質に転換され得(上記オプション(a)において)、したがって、この側面は、一方の基質を他方の基質へ選択的に転換する方法を提供する。
【0034】
該方法は、反応系から生成物を分離することを含み得る。該分離は、濾過、遠心分離、膜分離、沈降、デカンテーション、クロマトグラフ分離(たとえば、hplc、gc、sec、アフィニティークロマトグラフィー、tlc)又はこれらの2種以上の幾つかの組み合わせを含み得、又は、追加的に又は代わりに幾つかのその他の分離技術を含み得る。
【0035】
該方法は、反応系を加熱すること、及び/又は反応系の成分により、又は第一又は第二の基質により、又はこれらの1つより多くにより吸収され得る波長の放射線で反応系を照射することを含み得る。
【0036】
該方法は、全体の反応の生成物を反応させることをも含み得る。該反応は、上記のように、生成物を第一の又は第二の基質のどちらかに転換し得る。この場合において、該方法は、一方の基質を他方の基質へ選択的に転換する方法を示し得る。
【0037】
1つの実施態様において、
−(i)第一の基質を生成物へ転換し得る第一の触媒;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、第二の基質を
該第一の基質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって第二の触媒と接触することができ、そして該第一の基質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含み、該生成物の副生成物への転換率が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロであるところの、反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方、のいずれかを該反応系に添加すること;
を含む反応を行なう方法であって、
それによって、該第二の基質は該第一の基質に転換され、所望により該第一の基質と相互転換され、該第一の基質は、該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部に出て該生成物へ転換される、方法が提供される。
【0038】
第一の基質及び第二の基質は、一緒に反応系に添加され得る。この場合において、生成物は、その後に第一の基質へ転換され得、したがって、該実施態様は、第一の基質を第二の基質から分離する方法を提供する。
【0039】
その他の実施態様において、第二の基質の存在下における第一の基質の選択的な反応の方法であって、該方法は、
−(i'')第二の基質を副生成物へ転換するよりも速い速度で第一の基質を生成物へ転換することができる第一の触媒;及び(ii'')多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該第二の基質を該第一の基質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって該第二の触媒と接触することができ、そして該第二の基質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができるマイクロカプセル、を含み;したがって、該マイクロカプセル内の生成物の、所望により副生成物への転換速度が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロである、反応系を用意すること;及び
−該第一の基質又は該第二の基質を該反応系に添加すること;
を含む方法であって、
したがって、該第二の基質は該第一の基質へ転換され、所望により該基質と相互転換され、そして該第一の基質は選択的に生成物へと転換されるところの、方法、が提供される。
【0040】
1つの実施態様において、
ラセミ体のアルコールの動的速度分割の方法であって、
−(i''') 該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することが出来る、第一の触媒;及び(ii''')多数のマイクロカプセルであ
って、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料中にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該アルコールの第一の光学異性体は、該カプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロである、マイクロカプセル;
そして
−該ラセミ体のアルコールを該反応系に添加すること;を含み、
該アルコールの第一の光学異性体は該エステルの第一の光学異性体に転換され、そして、該第二の光学異性体がラセミ化されて、該アルコールの第一及び第二の光学異性体の混合物が形成される、ところの方法が提供される。
【0041】
前記アルコールの第一及び第二の光学異性体のどちらも、カプセル化材料を通過し得る。第二の触媒がキラルエステルをラセミ化することが不可能であるか又は低い又はわずかな速度でラセミ化するために、又は、該キラルエステルが該カプセル化材料を通って該第二の触媒に接触することができないか、低い又はわずかな速度でそこを通過するために、前記マイクロカプセルは、該キラルエステルをラセミ化することができないか、又は、キラルアルコールのラセミ化速度は、低い又はわずかであり得る。
【0042】
第一の触媒は、キラル触媒、例えば酵素であり得る。第二の触媒は酸触媒、例えばゼオライトであり得る。
前記方法は、更に、以下の工程:
−キラルエステルを反応系から分離すること:
−該キラルエステルを精製すること;
−該キラルエステルを加水分解して前記アルコールの第一の光学異性体を生成すること;そして
−前記アルコールの第一の異性体を精製すること、
の1つ以上を含み得る。
【0043】
本発明の第四の側面において、
−反応容器;及び
−本発明の第一の側面又は第二の側面による反応系であって、該反応容器内に配置されるものである、反応系、
を含むリアクターを提供する。
【0044】
該反応系は、更に、生成物を第一の反応プロモーターから及びマイクロカプセルから分離する分離器を含み得る。それはまた、分離された生成物を精製する精製器を含み得る。それはまた、基質(複数の基質)、試薬(複数の試薬)及び/又は反応媒体をリアクターに添加するための添加口を含み得る。また、生成物をリアクターから除くための生成物出口を含み得る。
【0045】
本発明の第五の側面において、本発明の第一の側面又は第二の側面による反応系により製造される、又は本発明の第三の側面の方法により製造される生成物が提供される。該生成物はキラル生成物であり得る。それはまた、ジアステレオマー生成物であり得る。それは、少なくとも約80%の単一の光学異性体、又は、単一のジアステレオマー、又はこれら少なくとも約85、90又は95%を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
さて、本発明の好ましい実施態様を、添付された図面を参照して例としてのみ説明する。
【図1】図1は、本発明の幾つかの実施態様の実施を示す図である。
【図2】図2は、従来の速度分割及び動的速度分割(DKR)を図示するスキームである。
【図3】図3は、解糖経路の一部を図示するスキームである。
【図4】図4は、ゼオライトβの構造を示す図である。
【図5】図5は、幾つかの一般的なポリマー電解質の化学構造を示す図である。
【図6】図6は、Pdナノリアクターにより触媒されたSonogashiraクロスカップリングを示すスキームである。
【図7】図7は、直接コートされたゼオライト粒子の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】図8は、ゼオライトナノリアクターの落射蛍光顕微鏡写真を示す図である。
【図9】図9は、種々のゼオライト触媒についての(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化を図示するグラフである。
【図10】図10は、1−フェニルエタノールの動的速度分割を図示するスキームである。
【図11】図11は、炭酸カルシウムテンプレートの顕微鏡写真を示す図である。
【図12】図12は、中空のポリマー電解質カプセルの顕微鏡写真を示す図である。
【図13】図13は、ゼオライトβのXRD(X線回折)像である。
【図14】図14は、ゼオライトβのSEM(走査電子顕微鏡写真)を示す図である。
【図15】図15は、ゼオライト含有テンプレートの顕微鏡写真を示す図である。
【図16】図16は、(R)−1−フェニルエタノールの酸触媒によるラセミ化の機構を図示するスキームである。
【図17】図17は、(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化及び脱水を図示するスキームである。
【図18】図18は、1−フェニルエタノールの種々の溶媒中の時間に対する選択的エステル化を示すグラフである。
【図19】図19は、CALB−活性基質及び(−)−メタノールの化学構造を示す図である;そして
【図20】図20は、1−インダノールの種々の溶媒中の時間に対する選択的エステル化のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は、第一の反応プロモーター及び多数のマイクロカプセルを含み、該マイクロカプセルは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含むところの、反応系に関する。明細書との関連で、“第一の”反応プロモーター、“第二の”反応プロモーター等は、異なる種類を特定するために使用されるのであり、そしていずれかの具体的な反応順序でこれらがその機能を遂行する順番を示すと理解されるべきではない。該反応系において、第一の反応プロモーターは第一の基質を第一の物質に転換することができ、そして第二の反応プロモーターは第二の基質を第二の物質に転換することができる。第二の基質は、カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして第二の物質は次にカプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へ出ることができる。第一の基質及び第二の生成物もまた所望により、カプセル化材料を通過することができる。該反応系の幾つかの実施態様において、(a)第一の物質が第二の基質であるか、または(b)第二の物質が第一の基質であるかどちらかである。幾つかの実施態様において、オプション(a)において、第一の反応プロモーターによる第二の物質の転換(例えば転換速度)は低く、そしてオプション(b)においてマイクロカプセル中の第一の物質の転換(例えば転換速度)は低い。幾つかの実施態様において、第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される。これに関連し、“少なくとも部分的に防止される”とは、カプセル化は第二の反応プロモーターの不活性化を防止するか又は阻害することを示す。従って、本発明は、相互に相容れない反応プロモーター(例えば触媒)が反応(例えば1以上の工程を含むもの)に必要な場合に、単一の反応容器で反応を行なう利便性を保持しつつ、それら反応プロモーターが互いに相互作用することから防止され得るという利点をもたらす。第二の反応プロモーターがカプセル化されずそして第一の反応プロモーターと相互作用することができる同様の系における、第一の反応プロモーターによる第二の反応プロモーターの、又は第二の反応プロモーターによる第一の反応プロモーターの不活性化と比較して、本発明による系における第一の反応プロモーターによる第二の反応プロモーターの、又は第二の反応プロモーターによる第一の反応プロモーターの不活性化は、幾つかの場合において約50%より大であり得、例えば約50乃至90%であり得るとはいえ、例えば、約50%より少なく、又は約40、30、20、10、5、2、1、0.5又は0.1%よ
り少なく、そして、例えば約0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8,0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45又は50%であり得る。本発明の反応系における不活性化は、完全に防止され得る。本発明の実施態様の例を、本明細書で詳細を後に述べる図1に図示した。
【0048】
(a)の場合における第一の反応プロモーターによる第二の物質の転換速度は、許容できる収率及び/又は純度での第二の物質の分離か又は第二の物質の許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応のどちらかを可能にするよう、十分に低いものであり得る。したがって、第一の反応プロモーターによる第二の基質の転換速度に対する第一の反応プロモーターとによる第一の基質の転換速度の比により定義される、第一の反応プロモーター転換速度は、約2より大きいものであり得、又は約3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、50又は100より大であり得る。それは、約2乃至1000、又は5乃至1000、5乃至1000、10乃至1000、50乃至1000、100乃至1000、500乃至1000、2乃至100、2乃至50、2乃至20、2乃至10、2乃至5、5乃至100、10乃至100、50乃至100又は10乃至50、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000であり得、又は1000より大きいものであり得る。許容できる収率、及び、それと独立して、許容できる純度は、質量又はモルに基づき、約50%より大であり得、又は約60、70、80、90、95又は99%であり得、例えば、約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、99.5又は99.9%であり得る。(a)の場合においてまた、第一の反応プロモーターは、第一の基質と第二の基質を相互に転換することができるものであり得、即ち、第一の基質を第二の基質に、そして第二の基質を第一の基質に、転換することができるものであり得る。したがって、例えば、第一の基質は、キラル化合物の第一の光学異性体であり得、第二の基質は該キラル化合物の第二の光学異性体であり得、そして第一の反応プロモーターは、該キラル化合物をラセミ化することができる触媒、例えば酸触媒、であり得る。第二の反応プロモーターが、第二の光学異性体を選択的にエステル化して光学活性エステルを形成するエステル化触媒である場合には、第一の反応プロモーターは、比較的純度のよい生成物(比較的純度の良い、は上記許容できる純度に関して定義されたもの)の分離を許容するためには該光学活性エステルを大きくラセミ化するべきではない。
【0049】
同様に、(b)の場合において、マイクロカプセル内の第一の物質の転換速度は、
許容できる収率及び/又は純度での第一の物質の分離、又は許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応であって、許容できる収率及び純度は上記に記載されているようなものであるところの反応、を可能とするように、十分低いものであり得る。この場合において、マイクロカプセル中の第一の物質の転換(もし起こる場合)は、1つ以上の望ましくない副生成物へのものであり得る。(b)の場合においてもまた、第二の反応プロモーターは、マイクロカプセル内の第一の基質と第二の基質を相互転換することができ、即ち、それは第一の基質を第二の基質へ転換し、及び第二の基質を第一の基質へ転換することができる。したがって、例えば、第一の基質は、キラル化合物の第一の光学異性体であり得、そして第二の基質は、該キラル化合物の第二の光学異性体であり得、そして第二の反応プロモーターは、該キラル化合物をラセミ化することができる触媒、例えば酸触媒であり得、該触媒はカプセル化材料中にカプセル化されている。第一の反応プロモーターが、第一の光学異性体を選択的にエステル化し光学活性エステルを形成するエステル化触媒である場合、第二の反応プロモーターは、比較的純度のよい生成物(比較的純度の良い、は上記許容できる純度に関して定義されたもの)の分離を可能とするためには、該光学活性エステルを大きくラセミ化してはならない。
【0050】
該反応系は、最初の2つの共役反応(即ち、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルにより促進された反応)の生成物を、次いで反応系から分離され得る最終生成物へ転換することができ得る、1種以上の更なる反応プロモーター(例えば試薬又は触媒)を含み得る。この場合において、マイクロカプセル中のそして第一及び更なる反応プロモーターによる最終生成物の転換速度は、低いものであり得、所望によりわずかであり得、所望によりゼロであり得る。これらの転換速度は、許容できる収率及び純度(上記に定義したような)で最終生成物の分離を可能にするよう十分低いものであり得る。これらの速度は、第二の反応プロモーターによる最終生成物の転換不能に起因して、又は、最終生成物が第二の反応プロモーターと接触することを少なくとも部分的に防止する物理的なバリアーに起因して、又はその両方に起因して、低く、わずかであり又はゼロであり得る。
【0051】
第一の反応プロモーターはカプセル化され得又はカプセル化され得ない。第一及び第二の反応プロモーターは、独立して、1種以上の促進種を含み得る。反応プロモーターが、1種より多くの促進種(例えば2、3、4又は5の促進種)を含む場合、これらは、その反応プロモーターによって促進される反応を促進するために一緒に作用し得る。該促進種のそれぞれは、独立して触媒又は試薬であり得る。反応プロモーターが1種より多くの促進種を含む場合、該促進種は、連続して、又は共同して作用し得、又はいくつかは連続して作用しそしていくつかは共同して作用し得る。共同の作用の例は、例えば、第一の反応プロモーターが触媒及び試薬を含む場合、それにより、試薬は触媒の触媒作用のもとで第一の基質と反応して第一の物質を形成し得る、ものである。連続した作用の例は、例えば、第一の反応プロモーターが2種の触媒を含む場合、それにより、1つの触媒が第一の基質の中間体への反応を触媒し、そしてその他の触媒が中間体の第一の物質への反応を触媒するものである。このように、連続した作用においては、1種より多い促進種を含む反応プロモーターは、個々の反応工程のカスケードを含む反応を促進するであろう。その他の順列(たとえば、2種の触媒と試薬、それにより、試薬は一方の触媒の触媒作用のもと第一の基質と反応し得中間体を生成し、そして他方の触媒は中間体の第一の物質への反応を触媒する)は、当業者により容易に予想され得る。
【0052】
更なる反応プロモーター(存在する場合)は、それぞれ、独立して、カプセル化され得、又はカプセル化され得ない。カプセル化された反応プロモーターは、第二の反応プロモーター(所望により、例えば、マイクロカプセルの異なる層中で、又はマイクロカプセル中の別の部で、第二の反応プロモーターから分離される)と、又は任意のその他のカプセル化反応プロモーターと、同一のマイクロカプセル中に、又は異なるマイクロカプセル中に、カプセル化され得る。いずれかのカプセル化反応プロモーターのためのカプセル化材料も、いずれかのその他のカプセル化反応プロモーターのカプセル化材料と同じでも異なっていてもよい。
【0053】
カプセル化材料は、その中の反応プロモーターの基質又は該反応プロモーターにより製造される物質に対し透過性であるべきである。カプセル化材料は、反応系中の任意の1種以上のその他の成分(反応プロモーター、試薬、溶媒、その他の基質、物質及び生成物)に対して、非透過性又は低透過性であり得る。特に、第一及び第二の反応プロモーターが互いに相容れないものである(即ち、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができる)場合、カプセル化材料は、第一及び第二の反応プロモーターに対し非透過性、又は低い透過性のものであるべきである。カプセル化材料は、カプセル化材料への選択的透過性を可能にする化学物質を取り込み得る。例えば、一定のタンパク又はチャネル構造は膜をとおり特定の種を選択的に輸送することができることが知られており、そしてこれらのタンパク又はチャネル構造は、カプセル化材料への選択的透過性のために該材料に取り込まれ得る。それぞれのカプセル化材料は独立して、ポリマー、又はポリマーの混合物又は何らかのその他のカプセル化材料を含み得る。そのポリマー、又はそれぞれの
ポリマーはポリマー電解質であり得る。カプセル化材料は、1つより多くの層、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10層を含み得る。その層、又はそれぞれの層は、約2乃至約50nmの厚さであり得、又は約2乃至40、2乃至30、2乃至20、5乃至50、10乃至50、20乃至50、5乃至30又はア10乃至30nmの厚さ、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45又は50nmの厚さであり得、又は、50nmより厚い厚さであり得る。それぞれの層は、独立して、ポリマー又はポリマーの混合物又は何らかのその他の物質を含み得る。カプセル化材料は1種又はそれ以上の帯電したポリマー層を含み得る。カプセル化材料は、1種以上の正荷電したポリマー層を含み得、そして1種以上の負荷電したポリマー層を含み得る。それは、交互になった、正荷電したポリマー層と負荷電したポリマー層を含み得る。幾つかの実施態様において、カプセル化材料、又はその層の1つ以上は、それへの特
定の物質の透過を促進する官能基を含み得る。幾つかの実施態様において、カプセル化材料、又はその層の1つ以上は、それへの特定の物質の透過を遅延させる又は防止する官能
基を含み得る。
【0054】
第一又は第二の反応プロモーターは、そしてもし存在する場合、更なる反応プロモーターは、それぞれ、独立して、固体、液体、溶解した物質、乳化された物質、気体又はいずれかのその他の好適な形態として反応系中に存在し得る。幾つかの実施態様において、第一又は第二の反応プロモーターの一方は固体であり、そして他方は溶液であり得る。特に、第一の反応プロモーターは溶液で存在し得、そして第二の反応プロモーターは固体であり得る。本明細書に記載された種々の基質、物質及び生成物は、それぞれ、独立して溶液であり得る。
【0055】
本発明はまた、カプセル化材料中にカプセル化された反応プロモーターを含むマイクロカプセルを提供する。特に、本発明は、本発明による反応系において使用した場合、又は本発明による方法において使用した場合の、カプセル化材料内にカプセル化された反応プロモーターを含むマイクロカプセルを提供する。より具体的には、基質及び生成物とともに反応プロモーターを含み、該反応プロモーター、基質及び生成物はカプセル化材料内にカプセル化されたものであり、ここで、該反応プロモーターは、該基質の該生成物への反応を促進することができる、ところのマイクロカプセルが提供される。例として、ゼオライト及び鏡像異性体として対のベンジルアルコールを含み、該ゼオライト及び対のアルコールはポリマーカプセル化材料内にカプセル化されており、該アルコールはカプセル化材料を通過することができるものである、マイクロカプセルが提供される。
【0056】
第二の反応プロモーターによる第一の物質(上記(b)の場合)又は第二の物質(上記(a)の場合)の転換は、第二の反応プロモーターによる該物質の転換速度が低いためかまたは該物質がカプセル化材料を緩やかに通過して第二の反応プロモーターと接触するためのどちらかにより、低いものであり得る。カプセル化材料を通過する遅い速度は、物質の分子量又は極性、電荷、疎水性/親水性、特異親和性又はその他の特性に起因し得る。一方又は他方の反応プロモーター(又は両方)が固体の場合において、これらは、カプセル化材料を通過することから物理的に妨害され得る。
【0057】
該反応系はさらに、第一の反応プロモーターから及びマイクロカプセルから生成物を分離する分離器を含み得る。分離器は、フィルター、マイクロフィルター、限外フィルター、アフィニティー吸着体、選択的透過性膜または何らかのその他の好適な分離器を含み得、又は、これらの2つ以上の組み合わせを含み得る。好適な分離器の性質は、生成物、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルの性質から、所望により、系のその他の特性とともに、当業者にとり明白である。
【0058】
反応系はまた、分離された生成物を精製する精製器を含み得る。精製器は、生成物を試
薬から及び/又は副生成物及び/又は何らかのその他の不要の物質から分離し得る。また、当業者は適切な精製器を容易に理解するであろう。これらは、例えば、蒸留器、膜分離器、クロマトグラフ分離器(gc、hplc、gpc、sec、tlc等)及びその他を含み得る。
【0059】
対応する物質への基質の転換は、選択的な転換であり得る。第一の基質の第一の物質への転換は、選択的な転換であり得、即ち、第一の反応プロモーターは、選択的反応プロモーターであり得、そして第二の異質の転換を促進不能であり得るか、又は第一の基質の転換よりも緩やかな速度において第二の基質の転換を促進し得る。第一の反応プロモーターの選択性(即ち、第一の反応プロモーターによる第二の基質の転換速度により除された第一の反応プロモーターによる第一の基質の転換速度。)は、約1より大きいものであり得、又は約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、50又は100より大きいものであり得る。それは約1乃至約100、又は約2乃至1000、又は5乃至1000、5乃至1000、10乃至1000、50乃至1000、100乃至1000、500乃至1000、2乃至100、2乃至50、2乃至20、2乃至10、2乃至5、5乃至100、10乃至100、50乃至100、10乃至50、例えば約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000であり得、又は1000より大きいものであり得る。第二の基質の第二の物質への転換は選択的転換であり得、即ち、マイクロカプセルは、第二の反応プロモーターは選択的反応プロモーターであるためか、又は第一の基質はカプセル化材料をとおって第二の反応プロモーターと接触することができない、あるいは緩やかな速度で通過するため、のどちらかにより、第一の基質の転換を促進不能であり得るか、又は第一の基質の転換を第二の基質のものよりも緩やかな速度で促進することができる。マイクロカプセルの選択性(即ち、マイクロカプセル中の第一の基質の転換速度により除されたマイクロカプセル中の第二の基質の転換速度。)は、約1より大きいものであり得、又は約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、50又は100より大であり得る。それは約1乃至約1000、又は約2乃至1000、又は5乃至1000、5乃至1000、10乃至1000、50乃至1000、100乃至1000、500乃至1000、2乃至100、2乃至50、2乃至20、2乃至10、2乃至5、5乃至100、10乃至100、50乃至100又は10乃至50、例えば約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000であり得、又は1000より大きいものであり得る。
【0060】
第一及び第二の反応プロモーターは、その1方又は両方を不活性化するように相互作用(たとえば反応)することができるが、しかし本発明の反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止し得る。例えば、一方の反応プロモーターは酵素でありそして他方の反応プロモーターが酸触媒である場合、酸触媒は、酵素を、その本来の機能を果たすことができない様に不活性化(例えば変性すること)することができ得る。しかし、酸触媒(又はあるいは酵素の)のカプセル化は、2者の間の相互作用を少なくとも部分的に防止し得、したがって、単一の反応系における双方の活性を残存させる。
【0061】
第一の反応プロモーターは、反応媒体中、例えば溶媒中に分散、懸濁、溶解又はその他の方法で分布され得る。反応媒体は1種より多くの溶媒、又は溶媒と共溶媒を含み得る。それは、界面活性剤、例えば乳化剤を含み得る。好適な溶媒は、第一の反応プロモーター、基質、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルにより製造された物質、マイクロカプセル(特にカプセル化材料)等の性質の1つ以上次第である。反応媒体は、有機であ
り得、極性又は非極性のどちらかであり得る。水溶性であり得、そして水溶液を含み得る。それは、有機及び水溶性成分の組み合わせを含み得る。それは、無機の非水性成分を含み得る。必要に応じ1種以上の塩を含み得る。反応媒体は、第一の反応プロモーターを溶解、分散、懸濁又は乳化させることができ、そして、マイクロカプセルを分散又は懸濁させることができる。反応媒体は、マイクロカプセルと相溶性になるのに好適な極性を有し得る。
【0062】
マイクロカプセルは、約0.2乃至10ミクロン、又は約0.2乃至5、0.2乃至2、0.2乃至1、0.5乃至5、0.5乃至2、0.5乃至1、1乃至10、2乃至10、5乃至10、1乃至5又は2乃至5ミクロン、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10ミクロンの平均(質量又は数平均)粒径を有し得、又は約10ミクロンより大きいものであり得、又は約0.2ミクロンよりも小さいものであり得る。系が1種より多いのマイクロカプセルを含む(例えば、1種より多いの反応プロモーターが異なるマイクロカプセル中にカプセル化されている)場合には、それぞれの種類のマイクロカプセルが、独立して、上記の平均粒径を有する。マイクロカプセルは、球状、又はほぼ球状であり得、又は卵型、多面体、扁球、タブレット型、円形、不規則又は何らかのその他の好適な形状であり得る。マイクロカプセルが球状で無い場合には、上記粒径は最大粒径、最小粒径、平均粒径又はその他の好適な寸法を表し得る。
【0063】
マイクロカプセルは、エネルギー(例えば、放射線)を吸収するための、所望により、エネルギーが第二の基質へ及び/又は第二の反応プロモーターにより促進される反応を促進するために第二反応プロモーターへ伝達され得る形態にエネルギーを転換するための、エネルギー吸収体を含み得る。幾つかの実施態様において、エネルギー吸収体は、放射線吸収体であり得る。それは、例えば、カプセル内の温度を局所的に上昇させるか、第二の反応プロモーターによる基質の転換を加速させ得るように、放射線を吸収することができ得る。例えば、第二の反応プロモーターは、マイクロ波放射線を熱に転換することができる金属を含み得る。この場合におけるマイクロカプセル内の局部温度は、約40乃至250℃であり得、又は、約40乃至200、40乃至150、40乃至100、40乃至60、50乃至250、100乃至250、150乃至250、50乃至150、50乃至100又は100乃至150℃であり得、例えば、約40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240又は250℃であり得、又はその他の温度であり得る。幾つかの実施態様において、マイクロカプセルの外部温度は、低く、例えば、約0、5、10、15、20又は25℃より下に保たれ、そして、マイクロカプセル内の局部温度は上記のようなより高い温度において保たれる。この場合において、マイクロカプセル内の温度は約0乃至40℃、又は0乃至20、0乃至10、10乃至40、20乃至40、10乃至30又は15乃至25℃、例えば約0、5、10、15、20、25、30、35又は40℃であり得る。或いは、マイクロカプセルは、基質の放射線により促進される反応を触媒するために、放射線、例えば紫外線、を吸収するための、光増感剤又は光開始剤(例えば、ベンゾインエーテル)を含み得る。この場合において、カプセル化材料は、波長又は光増感剤又は光開始剤により吸収された放射線の波長に対し実質的に透過性(例えば、少なくとも約50、60、70、80、90又は95%の透過性)であるべきである。
【0064】
1つの形態において、本発明の反応系は、第一の基質を第一の物質へ転換することができる第一の反応プロモーター、及び多数のマイクロカプセルを含み、それぞれのマイクロカプセルは、マイクロカプセル内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含む。第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質へ転換することができ、ここで、該第二の基質はカプセル化材料を通って第二の反応プロモーターと接触することができ、そし
て第二の物質はカプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へと出ることができる。この特定の形態において、第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、本発明の反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される。好ましくは、本発明のこの形態において、カプセル化材料は、第一の反応プロモーターに対して及び第二の反応プロモーターに対して実質的に非透過性である。本発明のこの形態は、互いに相容れない反応プロモーターが共存し得、そして一方の反応プロモーターの他方との実質的な相互作用(例えば、不活性化)無しにそれらが別個の作用を遂行し得る系を提供することができる。
【0065】
幾つかの実施態様において、(a)第一の物質が第二の基質であるか、又は(b)第二の物質が第一の基質であるかどちらかである。この場合において、該系は2つの反応プロモーターにより促進される連続的な反応を促進することができる。これらの連続した反応の生成物は、第三の、及び所望により更なる反応プロモーターの作用下でさらに反応され得る。したがって、例えば第三の反応プロモーターは、第一の反応プロモーターとの相互作用を少なくとも部分的に防止するようにカプセル化されて、該反応系中に存在し得る。この反応プロモーターは、第二の物質(上記オプション(a))又は第一の物質(上記オプション(b))の生成物の反応を促進することができる。或いは(又は更に)、該反応系は、反応プロモーター及びマイクロカプセルの通過を少なくとも部分的に防ぐことができる、選択的透過性膜により、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルから分離された第三の反応プロモーターを含み得る。例えば、本明細書に記載されたDKR系は、触媒及びマイクロカプセルの通過を少なくとも部分的に防ぎ、そしてアルコール光学異性体の通過を少なくとも部分的に防ぐが、そのエステルの通過を許容する膜により加水分解触媒から分離され得る。この場合において、膜のDKR側へのラセミ体のアルコールの添加は、本明細書の別の場所で記載されたように、該アルコールの単一の光学異性体のエステルを生成し得る。このエステルは、次に膜を通過し、そこで、加水分解触媒により加水分解されて、該アルコールの単一の光学異性体のみを再生させ得る。この例において、加水分解触媒がマイクロカプセル化されている場合、これは、所望の生成物である該アルコールの単一の光学異性体の単離を促進するであろう。これを、本明細書で詳細を後述する図1bに図示する。
【0066】
本発明のこの形態のその他の実施態様において、反応プロモーターの1つにより生成された物質は、第三の反応プロモーターへと選択的膜を通過し得、そしてこれにより生成された物質は膜を通って戻り得、その他の反応プロモーターの基質として、作用する。これを、本明細書で詳細を後述する図1cに図示する。
【0067】
本発明はまた、上記反応系を用いた反応を行なう方法を提供する。第一の基質又は第二の基質、又は第一の基質と第二の基質の両方が反応系に添加された場合、(a)第一の基質が第二の基に転換されそして第二の基質が第二の物質に転換されるか、又は(b)第二の基質が第一の基質に転換されそして第一の基質が第一の物質に転換されるかのどちらかが起こる。
【0068】
反応系は、該系の関連成分と基質との間の効率的な接触を促進するために、攪拌、振とう、混合、超音波処理、又は激しく攪拌され得る。激しい攪拌は、マイクロカプセルの破壊を引き起こすのに十分な程激しくするべきではない。本発明のリアクターは、したがって、攪拌機、例えば、スターラー、シェーカー、ミキサー、超音波処理機又はその他の攪拌機を含み得る。該方法は、反応系の成分に実質的なダメージの原因とならない任意の好適な温度及び圧力で行なわれ得る。一般的に、大気圧が使用されるが、当業者は、それとは異なる圧力(例えば、高圧)が反応に必要とされる場合には、容易に理解するであろう。高圧が必要とされる場合には、本発明のリアクターは、反応系を含むための圧力容器を
含み得る。反応系の温度は、許容できる時間において、反応プロモーター、カプセル化材料、基質、反応プロモーターにより生成された物質及び最終生成物(反応プロモーターにより生成された物質から分離された場合)の不活性化及び分解(例えば、変性、望ましくない副生成物への転換等)を生じさせることなく必要とされる転換を達成するのに十分なものであるべきである。これに関し、不活性化とは、その正常な作用を行なうことができない、又は行なう能力が低い形態に種を転換することを指す。性能の減少は、幾つかの場合において、約50%より少ないものであり得るが、例えば約10乃至約50%であり得るとはいえ、例えば少なくとも約50、60、70、80、90又は95%であり得、そして約50、55、60、65、70、75、80、85、90,91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.5又は99.9%であり得る。したがって、反応プロモーターの不活性化はその阻害を指し得る。この関連において、不活性化は、ここでは完全な不活性化、即ち、性能における減少が100%である場合を指し得る。温度は、時には温度は100℃より高く又は0℃より低いものであり得るとはいえ、一般的には、約0乃至100℃、又は約0乃至50%、1乃至20、0乃至10、10乃至100、20乃至100、50乃至100、10乃至90、10乃至50、20乃至50又は20乃至40℃、例えば約0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90又は100℃である。温度は、室温又は常温であり得る。リアクターは、したがって、反応系の温度を調整する温度調節機をとりこみ得る。温度調節機はヒーター及び/又はクーラーを含み得、そして制御装置を含み得る。
【0069】
前記方法は、反応系の成分により、第一又は第二の基質により、又はそれらの1種より多くにより吸収されることができる波長の放射線による反応系の照射を含み得る。照射は、IR、UV,可視光、マイクロ波、超音波又は必要に応じその他の放射線によるものであり得る。
【0070】
本発明の1つの実施態様を図1aに図示する。図1aにおいて、系10は、第二の基質
S2を副生成物P2へと転換するよりも速い速度で、第一の基質S1を生成物P1に転換することができる第一の触媒C1を含む。系10はまた、簡潔化の目的のために図1aにその1つのみ示した、多数のマイクロカプセル20を含む。各マイクロカプセル20は、カプセル化材料30内にカプセル化された第二の触媒C2を含む。触媒C2は、基質S1とS2を相互転換することができる。基質S1及びS2はカプセル化材料30を通過することができる。随意にP2はカプセル化材料30を通過し得ないため、生成物P1は、触媒C2により副生成物P2へ転換されることができないものである。触媒C1は、担体液体40中に懸濁又は溶解され、そして、マイクロカプセル20は、担体液体40中に懸濁される。懸濁化は、図1aには示していない攪拌機により補助され得る。基質S1及びS2及び生成物P1もまた、液体40中に可溶性であり得る。反応系10は容器50内に含まれ得る。
【0071】
実施において、S1及びS2の混合物(一般的に等モルの混合物)が反応系10に添加される。S1は生成物P1に転換されるが、S2の副生成物P2への転換はかなり緩やかである。P1は触媒C1又はC2のどちらによっても転換されず、そしてその結果、系10内で集積する。これは、S1のP1への転換による減少に起因して、系10におけるS2のS1に対する過剰を招き得る。S1及びS2はカプセル化材料30をとおって触媒C2と接触し得、該触媒はS1とS2を相互転換してS1とS2の等モル混合物を再生する。この混合物は、次にマイクロカプセル20の外部に出る。この工程は、S2からの、生成物P1へ転換される基質S1の連続的な供給を生じる。相互転換性の触媒S2のない場合においては、等モルのS1及びS2の混合物からの生成物P1の最大収率は、50%であろうが、しかしC2が更なるS2からS1の供給をもたらすため、50%より高い収率が可能である。
【0072】
他の実施態様を、図1bに示す。図1bにおいて、系100は、選択的膜130により分離され、そして容器140内に含まれるDKRサイド110及び加水分解サイド120を含む。サイド110は、試薬Rとアルコール異性体A1の反応を選択的に触媒して光学活性エステルE1を形成することができる、エステル化触媒C1を含む。サイド110はまた、カプセル化材料150内にカプセル化された平衡触媒C2を含む。触媒C1及びC2は、少なくとも部分的にC1を不活性化するように相互作用することができるが、しかしC2のカプセル化により、そうすることが少なくとも部分的に防止される。カプセル化材料150は、触媒C1及びC2の通過を、そして好ましくはエステルE1の通過も防止するが、アルコールA1及びA2の通過を許容する。サイド120は、エステルE1を加水分解してアルコール光学異性体A1を再生することができる、加水分解触媒C3を含む。選択的膜130はサイド110をサイド120から分離し、そして、触媒C1、並びにアルコール光学異性体A1及びA2及びまた、触媒C2を含むマイクロカプセルの通過を少なくとも部分的に防止することができる。膜130はエステルE1の通過を許容することができる。
【0073】
系100の実施において、光学異性体A1及びA2の混合物、又は所望により異性体A2のみが容器140のサイド110に添加された場合、A1(存在する場合)及びA2が、カプセル化材料150を通ってマイクロカプセル内へ入り、そして触媒C2により平衡化される。A1及びA2はマイクロカプセルの外部に出て、そこで触媒C1は、A1のE1へのエステル化を触媒する。A2は、カプセル化材料を通過することによりそしてC2の作用のもとにA1と平衡化することにより、A1と再平衡化される。E1は膜130からサイド120へ通過し、そして、触媒C3により加水分解されてA1を再生する。A1は膜130を通過することができず、そしてしたがって系100の120側にトラップされる。系はしたがって、A2から又はA1及びA2の混合物からのどちらかから、選択的にA1を生じる手段を提供する。A1は、E1への転換によりDKRのサイド110から連続的に除去されるため、A2は触媒C2により連続的にA1に転換される。
【0074】
更なる実施態様を図1cに示す。図1cにおいて、反応系200は、第一の基質S1を第一の物質P1に転換することができる第一の触媒C1を含む。系200はまた、多数のマイクロカプセル210(簡潔化の目的のために図1aに1つのみ示した)を含む。各マイクロカプセル210は、カプセル化材料220内にカプセル化された第二の触媒C2を含み、該第二の反応プロモーターは第二の基質S2を第二の物質P2へ転換することができるものである。第二の基質はカプセル化材料220を通って第二の触媒C2と接触することができ、そして第二の物質P2はカプセル化材料220を通ってマイクロカプセル210の外部に出ることができる。この実施例において、第一及び第二の触媒C1及びC2は、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、しかし反応系200においては、カプセル化材料220による第二の反応プロモーターC2のカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される。カプセル化材料220は第一の反応プロモーターC1に対しそして第二の反応プロモーターC2に対し非透過性である。触媒C1及びC2は、容器240内の担体液体230中に位置する。容器240もまた、膜250、及び触媒C3(所望によりまた、担体液体230又は何らかのその他の担体液体中に位置する)を含む。膜250は、触媒C3から触媒C1及びマイクロカプセル210を、それがそれらに対し非透過性であるため、分離する。この分離は、触媒C3及び触媒C1とC2の間の相互作用を防ぐ目的のためであり得、又は生成物P2の分離を容易にするためであり得、または何らかのその他の目的、例えば、P1のS2への転換の副生成物がC1又はC2のどちらかと接触することを防止するためのものであり得る。膜250は物質P1を、及び基質S2を通過させることができる。それは、任意にS1、P1及びP1のS2への転換の副生成物1種以上に対し非透過性であり得る。触媒C3は物質P1の基質S2への転換を触媒することができる。
【0075】
実施において、基質S1が容器240に添加された場合、C1によりP1に転換される。P1は次に膜250を通過しそしてC3によりS2に転換される。S2は次に膜250を通過しそしてマイクロカプセル210へ入る(カプセル化材料220を通じて)、そこでそれはC2によりP2に転換される。この例において、P2は該反応の最終生成物である。幾つかの場合において、P2は触媒C3に感受性があり得、そして、通過することができない膜250によりC3と接触することから少なくとも部分的に防止されるものであり得る。
【0076】
また、本発明の更に他の実施態様を図1dに示す。図1dにおいて、系300は、基質S1の生成物P1への、S2の生成物P2への、S3の生成物P4へのそしてS4の生成物P4への反応をそれぞれ促進することができる、反応プロモーターC1、C2、C3及びC4を含む。マイクロカプセルM2及びM4は、カプセル化材料E2及びE4内にそれぞれカプセル化された、反応プロモーターC2及びC4をそれぞれ含む。簡潔化のために、マイクロカプセルM2及びM4のそれぞれ1つのみ示すが、実施において各々多数存在する。系300は容器310内に位置し、該容器は選択的透過性膜325により分離された2つのチャンバー315及び320を含む。触媒C1及びマイクロカプセルM2はチャンバー315中に位置しそして触媒C3及びマイクロカプセルM4はチャンバー320中に位置する。チャンバー315及び320はまた、担体液体、所望により溶媒を含み、そして、触媒C1及びC3及びマイクロカプセルM2及びM4は担体液体中に分散されている。一般的に系300において、C1とC2は相容性が無く(即ち、相互作用してその一方又は他方を不活性化し得る。)、そしてC3とC4は相容性がない。或いは、C2及びC4のマイクロカプセル化は、生成物分離を簡略化する目的のためであり得る。系300において、S2及びS4は、マイクロカプセルM2及びM4にそれぞれ入るためにカプセル化材料E2及びE4をそれぞれ通過することができ、そしてP2及びP4は、マイクロカプセルE2及びE4をそれぞれ出るためにカプセル化材料E2及びE4を通過することができる。膜325は、幾つかの様式ではそうではないが、一般的には触媒C1及びC3に対し及びマイクロカプセルM2及びM4に対し非透過性である。
【0077】
系300が実施され得る多数の様式があることは容易に理解されるであろう。例えば、1つの様式において、生成物P1は基質S2として作用し、生成物P2は基質S3として作用しそして生成物S3は基質S4として作用する。この様式において、チャンバー315へ基質S1を加えることは、C1によるS1のS2への転換を生じる。S2は次にカプセル化材料E2を通ってマイクロカプセルM2に入り、そして反応プロモーターC2によりS3に転換され、そしてS3は次にE2を通って膜325を通過しM2から出る。それは次にC3により転換されS4を形成する。カプセル化材料E4を通ったマイクロカプセルM4内へのS4の進入は、C4によるP4への転換をもたらし、P4は次に反応のカスケードの最終生成物としてE4を通ってM4を出る。この様式は、例えば、C3とC4が相容性がなくそしてC1とC2が相容性がない場合、及びP4がC1と相容性がなくそして膜325を透過し得ないものである場合、有用であり得る。あるいは、この様式は、最終生成物P4のS1及びS2からの、及び/又はC1からの分離を単純化する場合において有用であり得る。その他の可能な様式において、C2はS1及びS2の平衡触媒であり、そしてC4は、S3及びS4の平衡触媒である。この様式において、P2はS1として作用し、P1はS4として作用し、そしてP4はS3として作用する。したがって実施において、S1及びS2が一緒にチャンバー315へ添加された場合、S1は、C1によりP1に転換され、そしてS2はマイクロカプセルM2に入り、そこでS1により平衡化されてP1を製造するための触媒C1の更なる供給材料をもたらす。P1は次に膜325を通ってチャンバー320に入る。それは次にマイクロカプセルM4に入り、そこでS3(即ちP4)と平衡化されるS4として作用する。S3はマイクロカプセルM4を出てそして触媒C3により最終生成物P3に転換される。上記のように、系300の実施の多数のその他の様式が容易に想定され得る。さらに、より複雑な反応のカスケードを誘導するた
めに、選択的透過性膜により従来のチャンバーから分離されそしてカプセル化された及び/又はカプセル化されていない反応プロモーターを含む、更なるチャンバーが追加され得る。
【0078】
本発明の実施態様において、カプセル化された触媒は、キラル分子の光学活性中心のラセミ化をもたらし、そしてその他の触媒は、光学異性体の一方の選択的反応をもたらす。多くの化合物が、同様の機構か又は異なる機構により2つ以上の異性化され得る中心を含むことが明白であろう。例えば、分子は、2つの不斉中心を含んで、複数対のジアステレオマーの可能性をもたらし得、又は、それは不斉中心及び二重結合を含んで、二重結合のシス及びトランスの両方の光学異性体の可能性をもたらし得る。後者の場合に、例えば、この実施態様は、拡張され得、それにより、1つが異性部位(即ち二重結合又は不斉中心
)の各々を平衡化する2つの平衡化触媒が存在し、そして、各々が異性部位の特定の立体構造を選択的に転換する2つの選択的触媒が存在することになる。このようにして、この実施態様は、ジアステレオマーの混合物から又は2つの異性部位を有するその他の化合物から、1つ以上の生成物を、選択的にもたらす方法を提供し得る。
【0079】
幾つかの実施態様において、本発明は、本発明によらなければ相容性のない触媒の共存を可能にする新規の系、即ち1つの触媒を囲みそしてそれを他の触媒から保護するポリマーナノカプセル、の使用に関する。
【0080】
ポリマーナノカプセル及びその製造は、薬剤/DNA送達、バイオセンサーの分野、ポリマー化学、ナノ粒子合成、及び触媒に関する興味深い研究分野を構成する。特に、適切なテンプレートへ層毎の(レイヤー−バイ−レイヤー(Layer−by−Layer)(LbL))自己組織化を用いたポリマー電解質(PE)ナノカプセルの製造が、広く研究されてきた。得られたポリマー電解質多層カプセル膜は、強固であり、種々の溶媒に安定で、そして小分子に対し選択的透過性を有するが巨大分子には有さないことが見出されてきた。これらの特性は、中空ポリマー電解質ナノカプセルが、小分子及び生成物を容易に膜を横切らせる一方で巨大分子触媒(酵素又はナノ粒子のような)をカプセル化し得るので、該カプセルを接触ナノリアクターの優れた候補にする。
【0081】
純粋なエナンチオマーを得る1つの方法は、キラル資源の速度論的分割である。これは、ラセミ混合体の1つのエナンチオマーを、その他のエナンチオマーに対するよりもより速くその生成物へ転換する、選択的触媒を必要とする(図2(a))。図2は、(a)基質SSが生成物PSへ転換されるよりも速く、基質SRが生成物PRへ(例えば触媒により)転換されエナンチオマー過剰率の生成物PRを生じる従来の速度論的分割を示し、そして
、(b)分割工程が、(a)におけると同様に起こり、エナンチオマー過剰量の基質SS
及び生成物PRを生じる、動的速度分割を示す。ラセミ化触媒はしかしながら、同時に過
剰量のSSエナンチオマーをその場でSRに転換する。分割工程が非常に選択的(kR>>
kS)でありそしてラセミ化反応(Krac>>Kr,Ks)よりもはるかに遅い場合、ほぼ定量的な収率のPRが得られ得る。
【0082】
しかし、従来の速度分割は、最大理論収率の50%までに限られる。動的速度分割(DKR)は、理論的には、1つのエナンチオマーの定量的収率を与えるために、出発物質のその場でのラセミ化の取り込みによって、この方法を改良している(図2(b))。異性化触媒及び選択的分割触媒の組み合わせを含む天然に起こる工程は知られている(図3)。図3は、フルクトース−1,6−二リン酸(FBP)が、酵素アルドラーゼにより開裂されて、異性体生成物であるGAP及びDHAPを生成する、解糖経路の一部を示す。これらの生成物は酵素TIMにより異性化され、そして異性体GAPのみが、同時に酵素GADPHにより1,3−ビスホスホグリセレート(1,3−BPG)に転換される。
【0083】
第二級アルコールのDKRは、特に、広く研究されてきた。これらの反応は、一般的に、ラセミ化触媒と組み合わせて、分割工程を行なう選択的エステル化触媒としてリパーゼを用いることにより行なわれてきた。このラセミ化触媒は、ロジウム、パラジウム及びルテニウム種を含んでいた。実際、CALB酵素のルテニウムラセミ化触媒との組み合わせは、非常に効果的でありかつ一般的なDKRであることが証明されており、種々の第二級アルコール基質並びにジオール及びキラルな第一アミンへ適用されている。固体酸ゼオライトH−βをラセミ化触媒として用いCALBを用いたベンジル第二級アルコールのDKRもまた報告されてきたが、ゼオライトを二相性の系を経てpH感受性の酵素から隔離することを含むものであった。これは、DKR反応における触媒の間の相互許容性の非常な重要性を示し、そして、成功度のより高い類のルテニウムラセミ化触媒さえもが徹底的に研究されて、酵素とより相容性のある触媒が発明された。
【0084】
カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼB(CALB)は広範な化学合成において使用される非常に多目的の酵素触媒である。イースト菌のカンジダ・アンタークティカより分離され得、そしてトリグリセリドの高い選択的加水分解を行なう。CALBは、317のアミノ酸残基から構成され、33kDaの分子量を有する。それは、約30Åx40Åx50Åの寸法を有する球形のタンパク質であり、そして酵素の高い基質選択性及び立体選択性の原因と考えられている、活性サイトに対する非常に限られた入り口を含む。CALBはまた、種々の基質の選択的エステル化(及び加水分解)を触媒し、そして多くの異なる有機媒体中において活性を示してきており、有機合成における使用のための非常に有益な選択的触媒となっている。
【0085】
ゼオライトβは、荷電平衡を維持するのに必要な多数のカチオンにより相殺された3Dの負荷電した骨格を有する、多孔質のアミノケイ酸物質である(図4参照)。その細孔は、構造全体にわたり相互に垂直に広がる直径6.6又は5.6Åのチャネルを構成する。1967年に最初に合成された、その物質は広く、クラッキング、アルキル化、異性化及び不均化のような炭化水素の種々の触媒反応に使用されてきた。ゼオライトβは容易に合成され、そしてその合成手順は変化されて200nmほどの小さなナノ結晶を与え得る。荷電平衡が、対イオンとしてプロトンを用いて達成された場合、物質は非常に酸性になる。この酸の形態のゼオライトH−βは、強い、水溶性溶媒中に漏れ出ない局在化した酸性を示す。図4は、ゼオライトβの構造を示し、(a)細孔チャネルを示す骨格構造:交点におけるSi/Al原子、線の中間点におけるO原子;そして(b)骨格上に負荷電を生じさせるシリカ網状構造中のAlドーパント、そして対イオン(A+)を示す、構造の略
図を示す。
【0086】
ゼオライトH−βの局在した酸性は、ゼオライトH−βをカプセル化のための望ましい酸触媒にし、いずれの酸触媒された反応もカプセル内でのみ起こることを確実にする。さらに、異種の触媒として、ゼオライトは、未だ小分子基質及び生成物に対し浸透性であるカプセル内に容易に保持され得る。ゼオライトはまた、酸性と水素化−脱水素化特性の両方が組み合わさる二機能性触媒としてのその能力においてカプセル化のための、有利な触媒である。しばしば、酸ゼオライトは、微細に分散された金属、例えば、白金又はパラジウム金属を保持しており、これらの触媒活性の両方を有する物質を生じる。これらの二機能性触媒は、炭化水素の種々の触媒反応のために広範に使用されてきた。カプセル化における選択的膜の使用と組み合わされた二重触媒機能を担持する単一のゼオライトの能力は、選択的触媒の新規な系を生じさせ得る。例えば、ケトンは第二級アルコールへと還元され得、そしてこの生成物は、カプセル化された二機能性触媒の二重の水素化−脱水素化活性によりそして酸性度によりその場でラセミ化され得る。さらに、触媒は1つの生成物エナンチオマーのみを逃させる選択的膜を用いてカプセル化され得る。そのような系は、例えば、100%までの理論収率で、高価でそして合成的に困難な従来の選択的触媒の必要なしに、選択的な還元をもたらし得る。
【0087】
レイヤー−バイ−レイヤー(LbL)組織化は、強固な多重層のフィルムを形成するために、正荷電した種と負荷電した種の表面上への交互の吸着を必要とする。ポリマー電解質(PE)、即ち電解質の基を含むモノマー単位を含むポリマー、がこの目的に非常に好適である。これらは、殆どの表面に対し良好な粘着性、及びコーティング工程中の溶液状態の同様に荷電した種の間での静電斥力により起こるフィルムの厚さの自動調整を示す。本文献中で一般的に使用される幾つかのポリマー電解質の例は、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)及びポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)(図5)を含む。図5は、ポリマー電解質(a)ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(
PSS)及び(b)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)の構造を
示す。
【0088】
LbL組織化は、本来は、平坦な表面上に薄いポリマー電解質フィルムを製造するために使用され、最近では、コロイド粒子上に多層膜を生じさせるために改良されてきた。有機又は塩のコロイドテンプレートを使用することにより、テンプレートの溶解を経て中空の状態にし得るナノカプセルを製造することが可能である。得られたナノカプセルは溶液中で安定でありそしてそのテンプレートの形状を保持する傾向にある。伸張及び乾燥はカプセルを変形し得るが、これらの影響は一般的に水の添加により逆転する。
【0089】
多重層PEカプセル膜もまた、高分子量の分子を排除するが低分子量の種の拡散を許容する、半透性の非常に有用な特性を示してきた。この特性は、酵素及び不均一触媒のような巨大分子種をカプセル化させるのに重要である。
【0090】
ポリマー電解質ナノカプセルは、薬剤/DNA送達、バイオセンサリックス(biosensorics)、ポリマー化学、ナノ粒子合成及び触媒における多くの用途を有する。LbL組織化は、触媒のカプセル化させて、多くの有用な特性を有する細胞様ナノリアクターを形成してきた。PEカプセルの半透性を考えると、膜の構成成分の慎重な選択が、カプセル外部の環境から触媒を保護する一方、必要な基質がカプセル内部に拡散し触媒に到達させる、触媒系を生じ得る。カプセルは、ナノ粒子又はポリマー構造の組織化のためのテンプレート又はチャンバーとして、一般的にこれまでは単独で使用されてきた。その膜に埋め込まれた触媒物質を有するカプセルは、図6に示すような、ナノリアクターとして成功裏に使用されてきた。図6は、その膜中のPdクラスター(2モル%)を含むナノカプセルにより触媒されたフェニルアセチレン(1)及び4−ヨードトルエン(2)の間のソノガシラ(Sonogashira)クロスカップリング反応を図示する。その生成物p−メチルジフェニルアセチレン(3)は>99%の選択性で形成された。さらに、生合成において使用される酵素のカプセル化におけるかなりの関心が寄せられてきており、触媒的に活性の酵素含有ナノリアクターが成功裏に製造されてきた。さらにまた、これらのナノリアクターは、半透性のカプセル膜を行き来し得ない高分子量の阻害剤からカプセル化された酵素を保護することが見出されてきた。さらに、キラルな、触媒を取り巻く選択的な透過性膜の使用は、立体中心を生じる反応においてエナンチオマー過剰率を生じ得る。従来は、薄い、光学活性なポリマー電解質膜が幾つかのエナンチオ選択性を示し、そして、ゆえにその様な膜の優れた候補となり得た。結局、膜におけるキラル成分の使用は、試薬及び/又は生成物エナンチオマーの選択的透過性によって反応におけるエナンチオ選択性を引き起こし得、そして新規な不斉触媒への経路を提供する。
【0091】
ポリマー電解質膜の巨大分子種に対する非透過性は、カプセル化によって触媒の区画化における用途を生じさせる。単一反応系において多数の、相互に拮抗関係にある触媒を組み合わせる能力は、長い間多くの研究、特に動的速度分割の分野においての対象であった。本課題に対する過去の解決方法は、膜リアクター、二相系、及び触媒の逐次的な添加を
含んでいた。しかし、本発明は、膜リアクターの組織全体を真にナノスケールの寸法へと縮小することにより、包括的な、ワンポットでの単相溶液(その関連した利益を伴う)を見出し得ることを開示する。
【0092】
本明細書には、pH感受性の酵素カンジダ・アンタークティカ由来リパーゼB(CALB)を固体酸ゼオライトH−βから、後者のカプセル化により保護し、それにより、ワンポットでの第二級アルコールの動的速度分割(DKR)における両方の触媒の使用を可能とする、高分子電解質カプセルの使用が記載されている。この方法を用いて、従来の速度分割の50%の理論収率を明らかに超えた(したがって、動的速度分割の実施を証明する)収率を得た。さらにまた、カプセルの防護能力が実証された。
【0093】
ポリマー電解質であるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)及びポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)を、本文献記載のLbL法を用いてゼオライトH−β粒子の表面上に交互に沈着させた。紫外線領域において励起された場合カプセル膜は弱い青色の蛍光を示したので、ゼオライト粒子のカプセル化は蛍光顕微鏡検査を使用して確認された(図7)。図7は、直接コーティングされたゼオライト粒子(x100拡大)を示す。
【0094】
カプセル状ナノリアクターへの別の経路として、炭酸カルシウムをゼオライトナノ粒子上に沈殿させ、8乃至10ミクロンの平均寸法を持つ球状のテンプレートを得る。これらのテンプレートのPEコーティング及び炭酸カルシウムマトリックスの溶解によって、“ルーズな”ゼオライト粒子を含む中空のカプセルを得る。カプセル化に先立つイオン交換を経た蛍光色素分子[Ru(bipy)3]2+の静電固定化によるゼオライト粒子の蛍光
標識化が、蛍光顕微鏡検査を用いた、得られたナノリアクターの試験を可能にした(図8)。図8はポリマー電解質カプセルにより取り囲まれた蛍光標識ゼオライトを示すゼオライトナノリアクターの落射蛍光顕微鏡写真(x100拡大)を示す。
【0095】
これらのナノリアクターを、第二級アルコールのラセミ化、即ち酸ゼオライト(特に、ゼオライトH−β)がよく触媒することが知られている反応、の触媒として試験した。炭酸カルシウムテンプレートを経て製造されたナノリアクターは、塩基性のテンプレートによる酸ゼオライトの抑制に起因して、如何なる活性も示さなかった。図9は、種々のゼオライト触媒の(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化の経時変化を示す。図9に示すように、直接コーティングされたゼオライトは、PEカプセル膜を通った基質の分散に起因して、より小さい減少のみでその触媒活性を保持した。反応条件は(R)−1−フェニルエタノール(100μL、0.827mmol)、ゼオライト触媒(10mg)、n−ドデカン(内部標準、100μL、0.439mmol)、トルエン(50mL)、空気雰囲気下、60℃であった。
【0096】
ラセミ化の触媒的に活性なゼオライトナノ粒子を得たので、第二級アルコールのDKRを行なうために酵素CALBと組み合わせることが残された(図10)。図10は、ゼオライトH−βナノリアクター及びCALBを用いて、酢酸ビニルをアシル供与体として用いた1−フェニルエタノールの動的速度分割を図示したスキームである。
【0097】
触媒のゼオライト/酵素のこの組み合わせは、従来からこの反応に使用されているが、触媒の互いからの肉眼視できる分離を達成するには、二相系及び素固定化が必要とされる。殆どの酵素に関して、CALBの活性及び選択性はpHに非常に敏感で、そして酵素はしたがって、酸ゼオライトと相容れないことが予想された。巨大分子酵素に対し非透過性の膜を有するゼオライトナノリアクターを使用することにより、DKRを行うために両方の酵素が単一の系に取り込まれ得ることを目した。
【0098】
DKR反応は、種々の溶媒、基質及び基質/触媒濃度比を用いて試みられた。反応条件の各組み合わせについて、2種の対照が採用された:ひとつはゼオライトナノリアクターの代わりにカプセル化されていないゼオライトを用いたもの、そして他方はゼオライトを用いなかったものである。これらの対照は、触媒相容性に対するナノカプセルの効果を評価するために使用された。
【0099】
結果は幾つかの傾向が与えられた。第一に、酵素で選択されたエステルの収率及びee‘sは、遊離の、カプセル化されていないゼオライトを酵素に添加した場合に、一般的に悪く、酸ゼオライトはpHに感受性の酵素を確かに妨害していることが示唆された。第二に、使用された場合、カプセルは、有意にこの妨害を弱め、カプセル化されていないゼオライトよりもナノリアクターを用いた反応について顕著により高い収率及びee’sを与えた。これは、ナノリアクターの内部からの巨大分子酵素の排除、そしてしたがってその酸ゼオライトからの保護に起因していたと思われる。別の試験は、経時的なエステル生成物の有意なラセミ化を示さず(予想されていたように)、またゼオライトがそれ自身に対するアキラルのエステル化を有意に触媒せず、したがって、ee(エナンチオマー過剰率)及び収率の減少が酵素の障害によることを確認した。PEカプセルそれ自身は、如何なる触媒活性も示さなかった。
【0100】
第三に、ゼオライトナノリアクター及びCALBの相対濃度を調整することにより、所望の生成物エナンチオマーの収率は、従来の分割の50%の関門を明らかに超えて得られ、したがってDKRが起きたことを証明した。2種の試験された基質では、得られた最良の結果は、81%eeの1−フェニルエタノールにおいて63%の収率で(R)−エステル(全エステルの収率の70%)を、そして、92%eeの1―インダノールにおいて57%収率の選択されたエステルエナンチオマー(全エステルの収率の59%)である。おおよその定量的転換が得られたが、多くの出発物質が脱水の副反応で失われ、全エステルの収率を制限した。更なる反応の最適化(特に、競合する脱水反応の抑制、例えば、水が豊富な溶媒の使用を通じて)はよりよい収率及びエナンチオ選択性に通じ得る。
【0101】
要約すれば、本発明者らは、触媒的に活性なナノリアクターを製造し、そしてこれを用いて、第二級アルコールのDKRのための新規の触媒系を可能とした。より一般的には、これは、将来多触媒系のより広範で柔軟な使用を可能にし得る触媒保護の新規手段を示す。ゼオライトH−β粒子はポリマー電解質のLbL沈着を用いカプセル化されそして、得られたナノリアクターは触媒的に活性であることが見出された。大きな内部の容積を持つナノリアクターもまた、ゼオライトを取り囲む炭酸カルシウムテンプレート(コーティング後溶解される)を用いて製造された。
【0102】
さらにまた、ナノリアクターは酵素CALBと組み合わされて、第二級アルコールの動的速度分割への新規な経路を提供した。その反応は、1−フェニルエタノール及び1−インダノールについて成功裏に行なわれた。70%までの生成物の収率が達成された。92%までのエナンチオマー過剰率が達成された。さらにまた、触媒のカプセル化は生成物の収率及びeeを有意に改善したため、カプセル膜がpH感受性の酵素を酸ゼオライトから積極的に保護することを示唆する。これは、DKRにおいてだけでなくより一般的に触媒保護及び反応の区画化のための、ポリマー電解質ナノリアクターの実用性を実証するものである。
【0103】
単一の系に互いに拮抗関係にある触媒を取り込む能力及び反応を区画化する能力は、広範な用途、特にカスケード反応及びDKRへの用途を有する。
【実施例】
【0104】
実施例は、動的速度分割に対する本発明の適用を概説する。カプセルの合成を述べる。
ゼオライトH−β及びカンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼB(CALB)は、単一の系内に組み合わされた場合、第二級アルコールの動的速度分割を行い得る、2種の相互に拮抗する触媒(前者の酸性度及び日後者のpH感受性に起因して)として存在する。水性の系においてさえ非常に局在した酸性度を示す固体酸触媒としての、ゼオライトH−βを、カプセル化の対象とし、そして対応するポリマー電解質ナノリアクターを形成する種々の方法が検討された。これらのナノリアクターは同定され、最終的に、いくつかの第二級アルコールの良好な動的速度分割のためにリパーゼと組み合わされ、それによって、多触媒系における触媒保護及び分離の新規な手段を実証した。
【0105】
ナノカプセルの製造の最も一般的な合成戦略の一つは、正荷電したポリマー電解質及び負荷電したポリマー電解質の交互の層でテンプレートをコーティングし、次いでテンプレートを溶解することである。炭酸カルシウムは、小さな(1乃至10μm)、球状の粒子が容易に製造されそして最後にDETA溶液中への溶解により簡単に除去されるため、特に便利なテンプレートである。このテンプレートの穏やかな除去は、幾つかのコロイド状のテンプレートに必要とされるより過酷な酸性条件と対照的である。
【0106】
炭酸カルシウムのコアテンプレートは、文献による方法により、塩化カルシウムの水溶液と炭酸ナトリウムの水溶性溶液を激しく攪拌させながら混合した後に沈殿させることにより得られた。図11は、種々の形態の炭酸カルシウムテンプレートの透過型光顕微鏡写真(x40拡大)を示し:(a)球状及びブロックの混合物(粒子サイズ5乃至20μm)を示す。(b)大部分が球状のサンプル(平均直径〜5μm)。したがって、光学顕微鏡検査を用いた試験において、テンプレートの粒子サイズ及び形態は、攪拌速度及び時間により非常に有意に変化し、不定型の球状、結晶状ブロック、又は最も一般的には、2種の何らかの混合物を与えることが見出された(図11(a)参照)。粒子サイズは5乃至30μmの間で変化した。塩化カルシウム溶液を炭酸ナトリウム溶液へ3分以上かけて500rpmにおいて攪拌しながら緩やかに添加することによって、より均一な球状形態のそして平均直径が5μm(光学顕微鏡検査により測定され、図11(b)に示す)のテンプレートが得られた。
【0107】
中空のポリマー電解質ナノカプセルは、炭酸カルシウムのコアテンプレートをポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)溶液及びポリ(4-スチレンスルホン
酸ナトリウム)(PSS)溶液を用いた数回の交互の処理により(LbL)コーティングし、次いでコアをEDTA溶液を用いて溶解することにより製造された。図12は、中空ポリマー電解質カプセルの顕微鏡写真:(a)透過型光学顕微鏡写真;(b)同じ領域の落射蛍光顕微鏡写真;そして(c)画像化のために必要とされる真空条件下で破壊し凝集された、カプセルのSEM、を示す。カプセルは、透過型光学顕微鏡検査を用い試験され、そして図12(a)に示すように、テンプレートの球状形態を保持し、約2乃至3μmの直径を有することが見出された。カプセルはまた、落射蛍光顕微鏡検査を用いて試験されそして、紫外線領域において励起された場合に弱い青色の蛍光を示したが、これは蛍光性PSSポリマー電解質が原因であり得る(図12(b))。カプセルのSEM画像化が得られ、乾燥直後のカプセルの形態のある程度の歪みが見られた(図12(c))。これらのカプセルは3 PDA/PSS二層で構成されているが、製作工程は一度に1つの層の沈着を含み、したがって、PE層の数、したがって、そしてカプセルの厚さを厳密に調整することを可能にする。この方法はまた、透過性を調整するため使用する可能性があり得る、ナノカプセルの内部、外部、及び正味の荷電を調整することを可能とする。
【0108】
ゼオライトH−βは、その非常に局在化した酸性活性のために、カプセル化の候補触媒と見なされた。特に、そのプロトンは負荷電したフレーム構造上にしっかりと固定されているため、カプセル化ゼオライトとの如何なる反応も完全にカプセル内で起こるはずである。カプセルはしたがってゼオライトと反応することから同じ系内での酵素を保護し、一
方基質及び生成物が通常通り透過しそして反応することを可能にするために使用され得ることが想定された。
【0109】
ゼオライトβは、シリカ源としてアエロジル(Aerosil)200をそしてテトラエチルアンモニウムヒドロキシドをテンプレートとして用いて製造された。X線回折像は、ゼオライトβの特徴である2θにおいて7.8及び22.58°のピークを有していた(図13参照)。SEMを用いた試験において、ゼオライト粒子は、形状はおよそ球状でありそして直径においては約200nmであることが観測された(図14)。図14は、ゼオライトβのSEMを示し、約200nmの平均直径の結晶の凝集物を示す。
【0110】
酸性形態のゼオライトH−βを、水溶性硝酸アンモニウム水溶液を用いたゼオライトのイオン交換し、次いで空気中で550℃において終夜焼成することにより得た。
【0111】
ゼオライトそれ自身は、SEM技術を用いて容易に画像化し得る一方で、ゼオライトのカプセル化は、分析することがより困難であった。SEMはカプセル内部を画像化することができず、そして従来の透過型光学顕微鏡は1ミクロン未満のゼオライト粒子の解像に非常な困難性を伴う。しかし、既に合成されたポリマー電解質カプセルの蛍光特性を考慮すると、落射蛍光顕微鏡は、ゼオライトのカプセル化を測定する良好な分析法と思われた。このような方法で、通常解像し得ないゼオライト粒子は強い蛍光色素分子で標識され得、そしてしたがってこれらのカプセル内を画像化され得た。さらにまた、ゼオライトβは、荷電平衡を達成するためにカチオンを必要とする負荷電したフレーム構造を有するため、蛍光標識は、好適な蛍光性カチオンと対イオンのイオン交換により容易に達成され得る。金属錯体[Ru(bipy)3]2+は良く知られた蛍光色素分子でありそしてその蛍光
特性は広く研究されてきたため、該錯体が選択された。[Ru(bipy)3]Cl2の水溶液を用いたゼオライトH−βのイオン交換は、乾燥後、蛍光顕微鏡を用いて容易に同定できる、桃色の蛍光性のゼオライト粒子を生じた。
【0112】
水溶液からのポリマー電解質の表面沈着(LbL組織化)は、ゼオライト粒子をカプセル化する理想的な方法をもたらした。これは、第一に、炭酸カルシウム コアテンプレートにゼオライト粒子を埋め込むこと、次いでポリマー電解質コーティング及びテンプレートの溶解によりにより試みられ、 “遊離の”ゼオライト粒子は、該粒子がなければ中空
の、カプセル内に残存したままであった。ゼオライトを含む炭酸カルシウムテンプレートは、炭酸ナトリウム水溶液及び塩化カルシウム水溶液を、水中のゼオライトの懸濁液へ急速に攪拌しながら徐々に添加することにより製造した。この工程は、直径8乃至10μmの、不定形の、球状の炭酸カルシウム粒子を生じた(光学顕微鏡により測定された)。蛍光標識されたゼオライトを使用した場合、落射蛍光顕微鏡検査では、個々のゼオライト粒子は懸濁液中に遊離したままでなく、実際、炭酸カルシウムテンプレート中に埋め込まれたことが図15に示すように明らかとなった。図15は、蛍光標識されたゼオライトβを含む炭酸カルシウムテンプレートの顕微鏡写真(x40拡大):(a)落射蛍光顕微鏡画像(λex450−490nm);及び(b)蛍光性が観測された領域が炭酸カルシウムテンプレートにより占有されていることを示す同様の領域の光学顕微鏡画像、を示す。これは、テンプレートにゼオライト粒子が埋め込まれたことを示す。
【0113】
その後の、これらのテンプレートのカプセル化及びEDTA水溶液を用いた炭酸カルシウムの溶解によりカプセル化ゼオライトナノリアクターを得た。落射蛍光顕微鏡検査において示されるように(図8)、標識化ゼオライトの橙色の蛍光は、カプセルの青色蛍光内でのみ観察され、これはゼオライトのカプセル化が成功であったことを示す。
【0114】
ゼオライトはまた、炭酸カルシウムの使用なしにその表面の直接的PEコーティングによりカプセル化された。この手順は、炭酸カルシウムの沈着及びその後の溶解に関する余
分な工程を回避する利点を有するものであった。この方法によるゼオライト粒子のカプセル化は、落射蛍光顕微鏡画像(蛍光色素コーティングを示す(図7(b)))と透過型光学顕微鏡画像(ゼオライト粒子を示す(図7(a)))を比較することにより確認された。このコーティング方法は、カプセル化が透過型光学顕微鏡画像中のゼオライト粒子と、落射蛍光顕微鏡中の蛍光色素コーティングの並存により分析され得るので、蛍光色素標識の必要性を排除した。2種の異なるポリマー電解質溶液:0.5Mの塩化ナトリウム添加物を含むものと含まないものを使用した。両方の方法は有効なカプセル化を与えた。
【0115】
コーティングされたゼオライトナノリアクターの全ての形態の触媒活性を、それらが(R)−1−フェニルエタノールをラセミ化する速度を観察することにより試験した。図9に示され得るように、遊離のゼオライトは基質をラセミ化するのが最も速く、一方、塩化ナトリウム添加物を含まないポリマー電解質溶液でカプセル化したゼオライトはやや緩やかであった。この反応速度における小さな減少は、カプセル膜を通した基質の拡散の制限に起因すると思われる。PEカプセル膜を通した基質の拡散に起因する触媒活性における同様の減少が、その他の用途において報告されている。
【0116】
塩化ナトリウム0.5Mを含むポリマー電解質溶液でコーティングされたゼオライトは、基質を最終的にラセミ化したが(18時間後に74%ee、3日後に9%であった)、はるかに活性が少なかった。触媒活性におけるこの減少は、コーティングの工程の間のポリマー電解質溶液中のNa+イオンによる酸部位のイオン交換によるものであった。しか
しながら、炭酸カルシウムテンプレートを経て製造されたゼオライトナノリアクターは、1日後であっても如何なるラセミ化も示さなかった。この活性の欠如は、沈殿の間の塩基性炭酸カルシウムテンプレートによるゼオライトの酸性度の抑制によるものと思われる。本発明者らは、両方の2種類のナノリアクターの活性の損失は、希酸溶液を用いたイオン交換により覆し得、これらの工程中の活性の損失の機構の試験及び触媒の再活性化の方法を提供するものであると仮定している。最終的に、空のナノカプセルそれ自身は基質のラセミ化を示さないことは特記すべきである。
【0117】
塩化ナトリウム添加物なしでコーティングされたゼオライト粒子が、カプセル化されたサンプル中で最も良好な触媒活性を示したため、この方法でコーティングされたゼオライトのみを以下の全ての反応においてナノリアクターとして採用した。
【0118】
キラルな第二級アルコールのラセミ化の可能性のある方法が多数存在する。図16は、(R)−1−フェニルエタノールの酸触媒されたラセミ化の機構を示す。酸性条件下において、キラルアルコールは水酸基のプロトン付加、水の喪失、そしてプロキラルの平面のSP2のカルベニウムイオンの形成によりラセミ化され得る。その後の水の添加が、非選
択的でありそして、したがって、ラセミ混合物が生じる(図16)。ゼオライトH−βのような酸性ゼオライトによるラセミ化の機構は、ルイス酸性でなく、ブレンシュテット(Bronsted)酸性により触媒されることが図16に示すように証明された。確かに
、カルベニウム中間体の製造がさらに、基質の存在下のゼオライトの色の変化、1−フェニルエタノールの場合において橙色でそして1−インダノールの場合において桃色、によりさらに証拠付けられた。同様の色の変化が、ゼオライト上の関連するカルベニウムイオンの形成によるものと考えられた。さらにまた、ゼオライトの負荷電したフレーム構造及び分子次元の細孔(約6Å)はカルベニウムイオンの優れたホストである。この特性は、ゼオライトをカルベニウムイオンの生成及び安定化のための優れた媒体とする。これらの特性は、ゼオライトH−βのラセミ化触媒としての有効性に貢献するものと思われる。
【0119】
ゼオライトの細孔中のカルベニウムイオンの形成及び安定化は問題も引き起こした。長い反応時間にわたり、ゼオライトは、全ての基質を消費する傾向にあり、それをカルベニウムイオンへか又はさらにまた脱水された生成物へかのどちらかに転換する(図17)。
図17は、副生成物としてスチレンを生じる副反応の脱水を示す、(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化の機構を図示する。実際に、1−フェニルエタノールのラセミ化において、スチレンが経時的に量を増して形成された。これの脱離は、水が十分な環境下において反応を行なうことで抑制され得る。残念なことに、分割工程としてのリパーゼ触媒されたエステル化を用いたDKR反応において、過剰の水も、生成物のリパーゼ触媒された加水分解をまた促進し得、エステル化反応を損なう。これが理由で、二相系が、従来のDKR反応の酵素とゼオライトの相容性を解決する簡便な方法として試みられてきた。
【0120】
カンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼBは水性製剤リポザイム(Lipozyme)CALB Lとして提供された。この製剤は、殆どの有機溶媒とのその非混和性(そしてしたがってこれらの媒体中でよりゆるやかな反応を行なった)に起因して並びにそのゼオライト触媒を不活性化する傾向(恐らく、水性製剤中の保存性のある塩によるイオン交換に起因する)に起因して使用には不適切であった。したがって、該酵素は、脱イオン水に対し十分に透析されそして凍結乾燥され、淡黄色乃至橙色の薄片として純粋な酵素を生じた。凍結乾燥単独では、水性製剤中の抗凍結剤(グリセロール及びソルビトール)の存在により効果的でない。
【0121】
凍結乾燥された酵素の完全性を期すために、その活性は、CALBにおいて先に成功裏に使用された種々の有機溶媒中で、これらの溶媒中で酢酸ビニルを用いた1−フェニルエタノールのエステル化速度をモニターすることにより試験した。すべての場合において、(R)−アセチルエステルが>99%エナンチオマー過剰量で選択的に形成された。さらに、1−フェニルエタノールの(R)−エナンチオマーの選択は文献中に示されているリパーゼの一般的なエナンチオ選択性の傾向と一致するものであり、基質の置換基の立体的かさ高さ及び酵素の活性部位の立体化学から大いに予測され得るものであった。一般的に、基質の立体的な大きさは酵素の選択性に影響を与え、そして一般的に、与えられた基質についてのリパーゼとプロテアーゼの対照的なエナンチオ選択性を与える。
【0122】
図18は、種々の溶媒中で酢酸ビニルを用いた1−フェニルエタノールのCALB触媒選択的エステル化の経時変化を図示するグラフを示す。
反応条件:ラセミ体の1−フェニルエタノール(20μL、0.165mmol))、酢酸ビニル(10等量、2等量/時間)、乾燥CALB(10mg)、n−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)、溶媒(10mL)、空気雰囲気下、60℃。図18に見られ得るように、オクタン及びトルエンが試験された中で最も効果的な有機溶媒であり、一方、より極性のあるTHF及びアセトニトリルは効果がより少なかったという結果が与えられた。この疎水性と共に活性が増加する傾向は、CALB及び酵素一般の両方において良く知られている。水は、酵素の周囲に酵素に欠かせないある程度の潤滑性及び柔軟性をもたらす単層を形成することが仮定されてきた。疎水性溶媒は、したがって、酵素はこれらから水をより容易に抽出し得るため、より大きな活性をもたらす。
【0123】
触媒、カプセル化ゼオライトナノリアクター及びCALBの個別の特性を試験したので、それらの単一の反応系中に共存する可能性を試験することが残された。動的速度分割は、出発物質の選択的転換及びその場でラセミ化の両方を必要とするため、この目的には優れた試験反応であった。この場合において、第二級アルコールの動的速度分割は、ラセミ化触媒としてカプセル化ゼオライトをそしてエナンチオ選択的エステル化触媒としてCALBを用いることにより試みられた(図10参照)。これらの反応は、種々の条件下、様々な溶媒そして相対的な触媒及び基質の濃度において行なわれた(表1参照)。基質1−フェニルエタノールは、ラセミ化及びCALB触媒選択的エステル化の両方の場合に先に試験されたため、そしてまたそのエナンチオマーはキラルGCを用いて良く分割されることが知られているため、該基質が選択された。対照反応もまた、コーティングされたゼオライトナノリアクターの代わりに遊離(カプセル化されていない)ゼオライトを用いたも
の、又はゼオライトを用いないものが採用された。これは、ゼオライト−酵素の干渉の影響及びゼオライトカプセル化のこれらの影響を減少させる能力を測定するために行なわれた。
【0124】
【表1】
[a]使用されたゼオライトの形態を指す。
[b]生成物について校正されたGCを用いて測定された、約1−2%内の正確度。
[c]GCを用いて測定された。
表1.ゼオライトH−βナノリアクター及び酵素CALB(10mg)を用い60℃における空気中での1−フェニルエタノールの動的速度分割の結果。
【0125】
【表2】
表2.1−インダノール(10mgCALB、3mgゼオライト)を用いた動的速度分割の試験。
【0126】
表1に示すように、これらの反応の第一の特徴は、ゼオライト触媒がカプセル化された場合に得られる収率及びエナンチオ選択性における顕著な改善、そして、ゼオライトなしと比較して遊離ゼオライトを採用した場合に得られた顕著に悪化したエナンチオ選択性であった。これらのデータはゼオライトが酵素の活性及び選択性を有意に干渉したこと(遊離ゼオライトとゼオライトなしの結果を比較することによって:特に表1のエントリーd参照)、そして、カプセルが採用された場合に、該カプセルはこの干渉を実質的に弱めたこと、の両方を示唆する。この結果は、酵素は、pH感受性のある触媒としてよく知られ、そして酸性又は塩基性環境、本件の場合には局所的に酸性のゼオライト表面、に曝された場合に非常に異なった活性及び選択性を示し得るため、驚くべきことではない。半透過性のカプセルは、巨大分子酵素を排除しそしてゼオライトによる干渉を減少させることが予想された。さらに、有意なエステルのラセミ化を経時的に生じなかったこと、そしてゼオライトは、それ自身における有意なアキラルなエステル化を触媒しなかったことも示され、したがって、eeの減少は酵素の障害に起因することが確認された。
【0127】
さらにまた、より高いエナンチオマー過剰量が、酵素の干渉をさらに減少させるためにより低いゼオライト対酵素の比を用いることにより得られた(表1中のエントリーc及びdを比較されたし)一方、ゼオライトの低すぎる濃度は、DKRが有効に進行するのを可能とするために必要であるものより低くラセミ化速度を減少させ得た(即ち、>50%の収率において:表1中のエントリーa参照)。ゼオライトナノリアクター及びCALBの相対濃度を調整することにより、選択された生成物のエナンチオマー収率は、従来の速度分割の関門である50%に明確に超えたものが得られ、したがって、動的速度分割が起きたことが証明された。現在のところ、得られた最も良い結果は、22時間後の81%eeにおける63%の収率の(R)−エステルである(表1中のエントリーe)。
【0128】
それにもかかわらず、副反応が原因の目的生成物の有意な損失が依然として明らかであった。転換はしばしば定量的(表1中のエントリーc−e)であった一方、大量のスチレンが生成した(カプセル化ゼオライトを使用した場合に最大で26%まで、そして遊離ゼオライトにおいては最大で38%まで)。さらにまた、エステルの全体収率は、よくても65乃至70%に限られたものであり、さらに、脱水副反応の重要性が示された。脱水副反応を考慮に入れたとしても、かなりな量の試薬が、説明できないままであり(例えば、表1中の遊離ゼオライトを使用したエントリーcは34%)、その多くは、安定化したカ
ルベニウムイオンとしてゼオライトの細孔中に捕捉されたことが考えられた。
【0129】
これらの副反応への損失に対する1つの可能性のある解決方法は、反応系へのごく少量の水(溶媒の飽和量以下)の添加である。これは、脱離反応の速度の減少に通じ得るだけでなく、また、酵素触媒エステル化反応速度を有意に増加させ得る。少量の十分量の水を添加することにより、酵素活性における改善が、エステル加水分解速度の同時の増加を凌ぎ得る。
【0130】
1−フェニルエタノールは動的速度分割を成功裏に受けることが観察されたため、幾つかのその他の基質が、プロトコルの一般性を試験するために使用された。実際には、酵素CALBを採用したその他の動的速度分割反応が、様々な基質について成功したことが証明された。成功した基質の幾つかを図19に示す。
【0131】
基質2乃至5(図19)を本発明のDKRプロトコルの候補として試験した。4つの全ては、酵素単独と反応することが見出されたが、幾つかの制限もあった。基質4であるα−ビニルベンジルアルコールは、エステル化が非常に緩やかに行なわれ、48時間後に73%の選択されたエナンチオマーの転換(即ち、37%のラセミ混合物)しか得られなかった。基質5である1−フェニルエチルアミンは、わずか1時間後に両方のエナンチオマーの形態が消費されたが、エナンチオ選択性の予想に反して、ラセミ体の1−フェニルエチルアセタミドを含む、多数の生成物を与えた。さらにまた、2−オクタノール(3)は、適度に迅速に選択的にエステル化された(24時間後に>99%eeの生成物での88%の選択されたエナンチオマーへの転換)一方、ゼオライトH−βと1日反応させた場合には如何なるラセミ化も示さなかった。(−)−メタノール(7)のラセミ化活性もまた試験されたが、1日後にゼオライトH−βとの如何なるラセミ化も示さなかった。
【0132】
これに対し、1−インダノール(2)は、はるかに有望な基質であることを証明した。オクタン及びトルエンにおけるCALB触媒エステル化速度の試験は、図20に示すように、1−インダノールは、非常に急速にそして選択的に(>99%ee)両方の溶媒においてエステル化され、そしてオクタンにおける1−フェニルエタノールよりも更に迅速なものであった。図20は、種々の溶媒中の酢酸ビニルを用いた1−インダノールのCALBで触媒された選択的エステル化の経時変化、及びその1−フェニルエタノールのものとの比較を図示するグラフを示す。反応条件は:ラセミ体の基質(0.165mmol)、酢酸ビニル(153μL、1.65mmol、2等量/時間)、乾燥CALB(10mg)、n−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)、溶媒(10mL)、空気雰囲気下、60℃。
【0133】
エナンチオマーが豊富な1−インダノールへのゼオライトの添加は、非常に急速な基質のラセミ化及び消費を生じ、そしてゼオライトは、カルベニニウイムイオンの生成に起因して色が鮮やかなピンク色に変化した。脱水生成物インデンの形成がまた、ガスクロマトグラフにおいて観察された。
【0134】
1−インダノールに対する個々の触媒の活性を考慮して、DKR反応を、オクタン中でカプセル化ゼオライトナノリアクター及び乾燥CALBを用いて試みた。10mgのCALBと3mgのコーティングされたゼオライトとそしてその他は標準の反応条件を用いて、57%の収率の酢酸1−インダニルの選択されたエナンチオマーを、わずか2時間後に92%eeで得た。1−フェニルエタノールにおいて観察されるように、コーティングされていないゼオライトを用いた対照反応は有意に悪い結果であり、2時間後に83%eeで酢酸1−インダニルの選択されたエナンチオマーが42%しか得られず、ナノカプセルの保護性能を再び確認した。
【0135】
したがって、ゼオライトは、1−インダノール及び1−フェニルエタノールのようなベンジル型アルコールのラセミ化の非常に活性のある触媒である一方、それらは、2−オクタノール及びメタノールのような脂肪族アルコールへは不活性である。この現象は、ベンジル型には共鳴安定化するが、脂肪族とはしない、ラセミ化の工程中に形成されるカルベニウム中間体(図16参照)の相対的安定性におそらく起因する。そのようにして、ゼオライトH−βラセミ化(そして従って本発明のDKRプロトコル)は、α−置換基の共鳴安定化を有する基質に最適である。それでもなお、該プロトコルは、中程度乃至良好なeeでの幾つか基質の>50%の収率の選択されたエナンチオマーを成功裏に製造することが示された。これは、今日までの動的速度分割におけるナノリアクターを使用した触媒保護の初めての例であり、そしてまた、多触媒系の触媒保護の新規な方法を示すものである。
【0136】
実験の詳細
以下の試薬を、入手したままの状態で使用した:水性テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35質量%)、次亜リン酸(50質量%)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(分子量100−200kDa、20質量%水溶液)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(分子量70kDa)、α−メチルベンアセテート、α−ビニルベンジルアルコール、L−メントール(シグマ−アルドリッチ);塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、トルエン、ピリジン(エイジャックス(Ajax));塩化カリウム、1−フェニルエタノール、塩化アセチル、2,2'
−ビピリジン、アセトン(メルク);非晶質シリカ(アエロジル(Aerosil)200)(デグサ(Degussa));水酸化ナトリウム(APS);アルミン酸ナトリウム(50−56質量%Al2O3、40−45質量%Na2O)(リーデル−ハーン(Ri
edel−haen));塩化ルテニウム(III)水和物、塩化パラジウム(II)(ス
トレム(Strem));塩化カルシウム二水和物、炭酸ナトリウム(アナラアール(AnalaR));n−ドデカン(BDH);ヘキサン、酢酸エチル(レドックス(Redox));1−インダノール、(R)−(+)−1−フェニルエタノール、1−フェニルエチルアミン(アルファ−アエサー(Alfa−Aesar));2−オクタノール、インデン(フルカ)。リポザイム カンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼB(1−10質量%水性製剤)はノボザイム(Novozyme)の好意により提供され、そしてプロゲン、スネークスキン(PROGEN SnakeSkin)透析チューブ(10,00MWCO,22mm)を用いて脱イオン水に対し十分透析しそして使用に先立ち凍結乾燥機により凍結乾燥した。クロマトグラフィーを、エイジャックス(Ajax)製のフラッシュカラム用のシリカゲル(230−400メッシュ)を用いて行い、そして分取用薄層クロマトグラフィー(TLC)をメルク製プレート上で実施した。特に定めのない限り、溶媒は、隔膜ポンプ及び動圧調節装置を装着したロータリーエバポレーターを用いて除去した。トルエン及びジエチルエーテルは、酸素を除去しそして活性アルミナにより、文献中に記載されたものから改良した装置を用いて乾燥させた。
【0137】
1H NMR(300.13MHz)及び13C{1H}NMR(75.48MHz)スペクトルを、ブルカー(Bruker)DPX300スペクトロメーターを用いて300Kにおいて測定し、そして残存の溶媒を内部標準として測定した。マススペクトルを、70eVのイオン化エネルギーにおいて、15mZB−5フィンニガン(Finnigan)LCQイオントラップ質量分析計(ESI)又はフィンニガンポラリス(FinniganPolaris)Qイオントラップ質量分析計を用い、カラム、5%フェニル95%ジメチルポリシロキサン(GC/MS)を有するトレース(Trace)GC器を用いて得た。電解放射型走査電子顕微鏡写真を3.0kVにおいてJSM−6000F走査顕微鏡を用いて得た。X線回折像を、40kVにおけるCuのKα線を用いて、液体窒素を用いて冷却したゲルマニウム半導体検出器を装着したジーメンスD5000X線回折計を用いて記録した。透過光学顕微鏡検査(LM)及び落射蛍光顕微鏡検査(EM)を、ノルマル
スキー(Normarski)DIC光学素子及びニコンプランフルオル(Nikon Plan Fluor)×(NA 0.30,ドライ)、×20(NA 0.5、ドライ)、×40(NA 0.75,ドライ)及び×100(NA 1.30、オイル)対物レンズを取り付けたニコンエクリプス(Nikon Eclipse)E800蛍光顕微鏡を用いて行なった。DAPIフィルターセット(BP330−380、DIC400,LP420)をPE−カプセル及び[Ru(bipy)3]2+蛍光の観測に採用した。画像
をPCOセンシカム(Sensicam)の12−ビットの冷却式画像カメラを用いて捉えた。サンプルを、スライド中のグリセロールか水かどちらかのなかに標本として載せそしてカバースリップでカバーした。ガスクロマトグラフィーを、バリアン(Varian)CP−キラシル(Chirasil)−DexCBカラム(25m×0.32mmI.D.;0.25μm膜厚)、スプリット/スプリットレス注入口、そしてFID検出器を備えた、ヒューレットパッカード(Hewlett−Packard)5890Aガスクロマトグラフ装置を用いて行なった。データを収集しそしてGCケムステーションソフトウェアを用いて分析した。紫外線−可視スペクトルを、バリアンカリ(Varian Cary)1E紫外線−可視分光光度計を用いて記録した。
【0138】
ゼオライトH−βを、バッチ組成1.97Na2O:1.00K2O:12.5(TEA)2O:Al2O3:50SiO2:750H2O:2.9HClを用いて製造した。ポリプロ
ピレン製の容器を蒸留水(4.66mL,259mmol)、水性テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35質量%、10.40g、71mmol)、塩化ナトリウム(52mg、0.91mmol)及び塩化カリウム(144mg、1.96mmol)で満たした。その混合物を透明な溶液が形成されるまで攪拌した。非晶質シリカ(2.93g、48.9mmol)を添加しそしてその混合物を1時間攪拌して、透明な溶液を得た。水酸化ナトリウム(33mg、0.83mmol)の溶液及びアルミン酸ナトリウム(179mg、〜0.93mmolAl2O3、〜1.2mmolNa2O)の蒸留水(2.00m
L,11mmol)溶液を添加し、そしてその混合物を1時間激しく攪拌して均一なゲルを得た。そのゲルを、テフロン(登録商標)の内張りをしたステンレス製のオートクレーブ中で135℃において20時間加熱した。冷却後、反応混合物を遠心分離(4000rpm、20分)し、そして蒸留水(3×10mL)で洗浄した。ゼオライト結晶を、120℃で終夜乾燥して白色、固体、微晶質の層を得た。ゼオライトを、空気中で550℃においてランプ速度が1℃/分となった後6時間、焼成し、そして次いで1M硝酸アンモニウム水溶液(3×90mL)中に20分間懸濁させ、蒸留水(3×30mL)で洗浄しそして80℃において乾燥してNH4−βゼオライトを得た。この生成物を、さらに550
℃において終夜焼成して、微細な、白色の結晶粉末としてゼオライトH−βを得た(1.11g、Alに基づき〜45%収率):XRD2θ(Irel)7.82(100)、22.58°(87)(参照。文献値は7.69、22.4°)。
【0139】
蛍光性の[Ru(bipy)3]Cl2/6H2Oを文献に記載された方法を用いて製造
した(J.A.Broomhead,C.G.Young,Inorg. Synth.1982年、21巻、127−128頁)。そして、RuCl3・xH2O(0.5g)を120℃において3時間予め乾燥させ、粉砕しそして120℃においてさらに1時間加熱した。乾燥させたRuCl3(431mg、2.08mmol)及び2,2'−ビピリジン(0.97g、6.2mmol)を次に脱イオン水(40mL)へ添加した。新たに調製したホスフィン酸ナトリウム溶液(2mL、〜40質量%)を添加しそして混合物を還流させながら40分間加熱したが、その間に、溶液が色を緑色から褐色そして次に橙色に変化した。反応混合物を濾過して未溶解の物質を除去した。塩化カリウム(13.6g、0.184mmol)を添加し、組成生物を赤−橙色固体として沈殿させた。混合物を次に、還流させながら1時間加熱して、深赤色の溶液を得、該溶液を室温まで冷却することにより赤色の結晶を得た。該結晶を濾過により除去し、氷冷した含水アセトン(2x4mL、8容量%)そしてアセトン(30mL)で洗浄し、次いで、空気中で乾燥させ、光沢の
ある、赤色、板状の結晶(844mg、54%)を得た:1H−NMR(CD3OD),ppm)δ7.19(d、6H)、6.61(td、6H)、6.31(d、6H)、5.97(td、6H);MSm/z(%)285.2(100)[M]2+(計算値285.1)、157.1(8)[ビピリジン+1]+(計算値157.1);紫外線乃至可視光
(エタノール、nm)λmax449(ε=9000M-1cm-1)。
【0140】
ゼオライトH−β(99mg)を、[Ru(bipy)3]Cl2の水溶液(3×1mL、14mM)でイオン交換を行なった。ゼオライトを遠心分離し(13400rpm、5分
間)、蒸留水(3×1mL)で洗浄し、そして次いで120℃において4時間乾燥させ、
微細な桃色粉末を得た(91mg)。
【0141】
ゼオライトH−β(100mg)はPdCl2(140μL、0.14M)の水溶液に
含浸させ20分間放置した。ゼオライトは、110℃において3時間乾燥させそして引き続き300℃において4時間焼成させ、pd付与したゼオライト(2質量%)を灰色粉末(104mg)として得た。
【0142】
コアテンプレートを以下のようにして製造した。CaCl2水溶液(20mL,1M)
を脱イオン水(160mL)で希釈した。Na2CO3水溶液(20mL、1M)を、激しく攪拌した溶液中へ急速に添加すると、白色懸濁液が生成した。その懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間)し、そしてその固体を蒸留水(3x70mL)そしてアセトン(50mL)で洗浄した。固体CaCO3を次に、アセトン(50mL)中に再懸濁さ
せ、そして60℃において乾燥させて、粒子サイズ5乃至10μm(光学顕微鏡による測定)の微細な白色粉末(1.34g)としてテンプレートを得た。
【0143】
ポリマー電解質カプセルを以下のようにして製造した。前記のようにして製造した炭酸カルシウムコアテンプレートをレイヤーバイレイヤー(LbL)法を用いてポリマー電解質でコーティングした。ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA、MW100−200kDa)を沈着させて水溶液(4gL-1PDA、0.5M NaCl)から正の層を形成した。ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS、MW70kDa)を、沈着させて水溶液(5gL-1PSS、0.5M NaCl)から負の層を形成した。PDAから始めて、前記溶液をさらに300μLずつを交互にCaCO3テンプレ
ート(99mg)にさらに添加し、混合物を各回20分間放置し、そして遠心分離(13,400rpm、90秒)そして添加の間に水(3x1mL)で洗浄して、多層を形成した。3PE二層の付加後、CaCO3コアをEDTA溶液(3x1mL、0.2M、pH7
)で洗浄することにより除去し、そしてカプセルを10時間該溶液中でインキュベートした。カプセルを次に遠心分離(13,400rpm、5分間)し、水(1mL)そしてエタノール(3x1mL)で洗浄し、エタノール中で保存した。
【0144】
ゼオライトH−β(215mg)を粉砕しそして脱イオン水(〜5mL)中に懸濁させた。混合物を超音波処理して結晶凝集体を粉砕し、濁った白色懸濁液を得た。ゼオライト懸濁液を脱イオン水(1.8L)で希釈し、そしてNa2CO3(0.4M,100mL)の水溶液及びCaCl2・2H2O(0.40M、100mL)の水溶液を、激しく攪拌した懸濁液に滴下ロートを経て非常に緩やかに(〜1滴/5秒)添加した。白色懸濁液が形成され、上澄を静かに移した。CaCO3テンプレートを洗浄(3xH2Oそして1xアセトン)し、アセトン中に再懸濁させ、そして真空下で50℃において乾燥させ、微細な白色粉末としてゼオライト含有テンプレート(3.14g)を得た。光学顕微鏡検査において、主に1乃至5μmの直径の球状の粒子を認めた。テンプレートをカプセル化し、そして2.4.2章において記載されたプロトコールを使用して溶解して、カプセル化ゼオライトを得た。
【0145】
ゼオライトH−β(25mg)を、上記のPDA溶液及びPSS溶液で直接コーティングした。コーティング工程はまた、塩化ナトリウムの添加なしのPDA溶液及びPSS溶液を用いて実施した。両方の場合において、コーティングされたゼオライトは(水1mL)そしてエタノール(3x1mL)で洗浄し、そして保存のためエタノール中に再懸濁した。
【0146】
1−フェニルエタノールのラセミ化の典型的な反応条件は以下のとおりである:トルエン(50mL)を遊離又はカプセル化ゼオライトH−β触媒(10mg、上記のとおり製造した)又は、ほぼ等量の空のナノカプセル(上記のとおり製造した)へ添加し、そして攪拌した。基質(R)−1−フェニルエタノール(100μL、0.827mmol)、及びn−ドデカン(内部標準、100μL、0.439mmol)を添加しそして反応混合物を60℃において加熱した。反応をGCを用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。
【0147】
特に定めのない限り、酵素で触媒された選択的エステル化の典型的な反応条件は、以下のとおりである:乾燥リパーゼ(10mg)を溶媒(10mL)に添加しそして、混合物を手短かに超音波処理して酵素を溶解した。磁石で攪拌された溶液中に基質(0.165mmol)及びn−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)を添加した。反応混合物を60℃において加熱し、酢酸ビニル(153μL、1.65mmol)を2等量/時間の速度において導入した。反応をGCを用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。収率をGCにより基質及び生成物を校正した後に測定した。
【0148】
酢酸1−インダノールを以下のとおり校正のために製造した。乾燥ジエチルエーテル(30mL)、1−インダノール(202mg、1.51mmol)、及びピリジン(241μL、2.98mmol)を混合した。塩化アセチル(1.06mL、14.9mmol)を溶液に添加しそして白色沈殿物が生成した。混合物を、室温において終夜攪拌し、ろ過しそして溶媒、過剰のピリジン、及び塩化アセチルを真空下で濾液から除去した。残渣をカラムクロマトグラフィ−(1:8酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、生成物(72mg、27%)を非常に淡色の黄色油状物として得た:1H−NMR(CD3OD、ppm)δ
7.35(d、1H)、7.26(m、2H)、7.20(m、1H)、6.14(dd、1H)、2.96(m、1H)、2.75(m、1H)、2.45(m、1H)、2.06(m、1H)、2.02(s、3H);13C{1H}NMR(CD3CN,ppm)δ171.7,145.5,142.3,129.8,127.5,126.3,125.8,79.0,33.0,30.7,21.4。
【0149】
特に定めのない限り、DKR反応の典型的な反応条件は、以下のとおりである:乾燥CALB酵素(10mg)を溶媒(10mL)へ添加しそして混合物を手短に超音波処理し酵素を溶解した。基質(0.165mmol)及びn−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)及びPEでコーティングされたゼオライトH−βナノリアクター(10mg)を添加した。反応混合物を60℃において加熱し、酢酸ビニル(153μL、10等量)を2等量/時間の速度において導入した。反応をGCを用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。収率をGCにより基質及び生成物を校正した後に測定した。
【0150】
ゼオライト触媒による(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化の典型的な反応条件は以下のとおりである:(R)−1−フェニルエタノール(100μL、0.827mmol)、ゼオライト触媒(10mg)、n−ドデカン(内部標準、100μL、0.43
9mmol)、及びトルエン(50mL)を混合し60℃において空気中で加熱した。第二級アルコールのDKRの典型的な反応条件は以下のとおりである:乾燥CALB酵素(10mg)を溶媒(トルエン又はオクタン、10mL)に添加しそして混合物を手短に超音波処理し酵素を溶解した。基質(0.165mmol)、n−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)及びPEでコーティングされたゼオライトH−βナノリアクター(10mg)を添加した。反応混合物を60℃において空気中で加熱し、酢酸ビニル(153μL、10等量)を2等量/時間の速度において導入した。両方の反応をGC(Varian−Chirasil−Dex CBカラム)を用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。収率をGCにより基質及び生成物を校正した後に測定した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの反応プロモーターを有し、その少なくとも1方がマイクロカプセル内にカプセル化されたものである反応系に関する。
【背景技術】
【0002】
単一の反応系内の複数の、互いに拮抗関係にある触媒を組み合わせる能力は、特に動的速度分割の分野において長年の間の研究対象であった。その課題に対する従来の解決方法は、膜型反応装置、二相系、及び逐次的な触媒の添加を含んでいたが、これらのアプローチの本質的な複雑さは、重大な欠点である。
【0003】
進行中のより効率的な触媒の研究及び、それに付帯的な天然の触媒系の洗練性の評価を考慮すると、広範囲の研究が天然の触媒作用を模倣することに対して行なわれてきたことは驚くことではない。細胞内の反応の局在は、種々の人工のナノリアクターを生み出させた。これらのナノリアクターは一般的には、超分子組織化、特に自己組織化を用いることにより製造されてきた。最近、この超分子形態の触媒作用が多くの異なる触媒反応への用途を有するために、かなりの関心が寄せられている。これらの系は典型的には、触媒として作用する又は触媒物質を含む、ナノメートル又はマイクロメートルの大きさのカプセルからなり、そして該カプセル内で反応が進行する。
【0004】
ナノリアクターの触媒作用は、生成物を放出しそして更に物質を転換させる、カプセルの組織化及び非組織化により進行し得る。基質がカプセル壁をとおりカプセル化された触媒と反応することによって作用するナノリアクターもまた製造され得る。
【0005】
これらのカプセルは、カプセル化された基質の幾何学的圧縮を通した生成物の形成において、位置選択性又は立体選択性を提供するために調整され得る。種々の不斉カプセルが製造されてきたが、これらは一般的にエナンチオ選択性に乏しくそして合成が難しいものであった。さらに、カプセル膜の選択的透過性は、一定の基質のみを触媒に到達させること、又は特定の生成物にカプセルを回避させることにより選択的触媒系において重要な役割を果たし得る。これらの系はしたがって、より選択的でそして回収可能な触媒の有力で新しいアプローチを提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の対象
本発明の対象は、上記欠点の1つ以上の実質的な克服又は少なくとも改善をすることで
ある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明の第一の実施態様においては、
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは第二の基質を第二の物質へ転換させることができ、ここで、該第二の基質は該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル;
を含む反応系であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか、又は該第二の基質へ転換されることができるものであり、そして、実施において、該第二の反応プロモーターによる該第二の基質の転換が、該第二の反応プロモーターによる該第一の基質の転換よりもより多く起こりそして、該第一の反応プロモーターによる該第二の物質の転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロであるか、又は(b)該第二の物質は該第一の基質であるか、又は該第一の基質へ転換されることができるものであり、実施において、該第一の反応プロモーターによる該第一の基質の転換が、該第一の反応プロモーターによる該第二の基質の転換よりもより多く起こりそして、該マイクロカプセル中の該第一の物質の転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロである、反応系が提供される。
【0008】
このように、(a)の場合において、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセル により促進される全反応は:
S1→(P1)→S2→(MC)→C2
又は
S1→(P1)→C1→S2→(MC)→C2
であり得、
そして(b)の場合において、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセル により促進される全反応は:
S2→(MC)→S1→(P1)→C1
又は
S2→(MC)→C2→S1→(P1)→C1
であり得、式中、S1及びS2はそれぞれ第一及び第二の基質を表し、C1及びC2はそれぞれ第一及び第二の物質を表し、P1は第一の反応プロモーターを表し、そしてMCはカプセル化材料中にカプセル化された第二の反応プロモーターを含むマイクロカプセルを表す。これらの式中、記号→(X)→はX種により促進された反応を表す。
【0009】
式S1→(P1)→S2→(MC)→C2に関して、第一の基質S1は第一の反応プロモーターP1によって第二の基質S2に転換される。第二の基質は、マイクロカプセルMCを貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターによって第二の物質C2に転換される。第二の物質は次にマイクロカプセルの外部に移動する。第二の物質は一連の反応の全生成物であり得る。式S1→(P1)→C1→S2→(MC)→C2に関して、第一の基質S1は第一の反応プロモーターによって第一の物質C1に転換され、そして第二の基質S2に転換される。第二の基質は次にマイクロカプセルMC中へ貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターにより第二の物質C2に転換される。第二の物質は次にマイクロカプセルの外部に移動する。
【0010】
式S2→(MC)→S1→(P1)→C1に関して、第二の基質S2はマイクロカプセルMC中に貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターにより第一の基質S1に転換される。第一の基質は次にマイクロカプセルの外部に移動し、そして第一の反応プロモーターP1によって、反応の全生成物であり得る第一の物質C1へ変換される。式S2→(MC)→C2→S1→(P1)→C1に関して、第二の基質S2はマイクロカプセルMC中に貫通しそしてマイクロカプセル中にカプセル化された第二の反応プロモーターによって第二の物質C2に転換される。第二の物質はマイクロカプセルの外部に移動しそして第一の基質S1に転換されるか、又はマイクロカプセル内部で第一の基質へ転換されそして第一の基質がマイクロカプセルの外部に移動する。第一の物質は次に第一の反応プロモーターP1によって、反応の全生成物であり得る、第一の物質C1に転換される。
【0011】
(a)の場合において、第一の反応プロモーターによる第二の物質の転換速度は、許容できる収率及び/又は純度における第二の物質の分離か、又は、第二の物質の許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応を可能とするように、十分低いものであり得る。この場合、第二の物質の転換は、それがもし起こるならば、1種又はそれ以上の望ましくない副生成物へのものであり得る。(a)の場合においてまた、第一の反応プロモーターは、第一の基質及び第二の基質を相互転換することができ得、即ち、第一の基質を第二の基質へ転換することができ得そして、第二の基質を第一の基質に転換することができ得る。この場合において、第二の反応プロモーターが、第二の基質を第二の物質へ選択的に転換することができるため又は、カプセル化材料が第二の基質を選択的に透過させることができるため、マイクロカプセルは、第二の基質を第二の物質に選択的に転換することができ得る。同様に、(b)の場合において、第一の基質の第二の反応プロモーターによる転換速度は、許容できる収率及び/又は純度での第一の物質の分離を、又は許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応を可能とするように十分低いものであり得る。この場合において、第一の物質の転換は、それがもし起こるならば、1種又はそれ以上の望ましくない副生成物へのものであり得る。(b)の場合においてもまた、第二の反応プロモーターは、第一の基質と第二の基質を相互転換することができ得、即ち、それは、第一の基質を第二の基質へ転換することができ、そして第二の基質を第一の基質へ転換することができ得る。この場合において、第一の反応プロモーターは第一の基質を第一の物質に選択的に転換することができ得る。
【0012】
第一の反応プロモーター及び第二の反応プロモーターは、独立して触媒又は試薬又は触媒と組み合わせた試薬を含み得、又は1種より多くの触媒及び/又は試薬を含み得る。本明細書において、物質を“変換すること“とは、該物質の反応を触媒すること、又は該物質と反応すること、又は触媒することと反応することの組み合わせを指す。
【0013】
第一の物質(上記(b)の場合において)又は第二の物質(上記(a)の場合において)は最終生成物であり得る。あるいは、反応系は、所望により、独立して、カプセル化されている又はカプセル化されていない更なる反応プロモーター(それぞれ独立して触媒、又は試薬、又は触媒と組み合わせた試薬)を含み得る。1種以上の更なる反応プロモーターは、第二の物質(上記(a)の場合において)を転換するか又は第一の物質(上記(b)の場合において)を転換することができ得る。この場合において、マイクロカプセル中の最終生成物の、及び第一及び更なる反応プロモーターによる転換速度は低いものであり得、所望によりわずかであり得、所望によりゼロであり得る。これらの転換速度は、最終生成物を許容できる収率及び純度で分離され得るように十分低いものであり得る。
【0014】
第一の反応プロモーターはカプセル化され得るか、またはカプセル化され得ない。更なる反応プロモーター(存在する場合)はそれぞれ、所望によりそして独立して、試薬、又は触媒、又は触媒と組み合わせた試薬を含み得る。更なる反応プロモーター(存在する場合)は、それぞれ、独立してカプセル化され得るか又はカプセル化され得ない。カプセル化された反応プロモーターは、第二の反応プロモーターと、又はその他のカプセル化された反応プロモーターと同じマイクロカプセル内に、又は異なるマイクロカプセル内に、カプセル化され得る。如何なるカプセル化された反応プロモーターのカプセル化材料も、その他のカプセル化された反応プロモーターのカプセル化材料と同様のもの又は異なるものであり得る。如何なるカプセル化反応プロモーターについても、それがカプセル化されるカプセル化材料は、望ましい基質に対し、及びカプセル化反応プロモーターにより促進される該望ましい基質の反応の望ましい生成物に対し少なくとも部分的に透過性であり得る。カプセル化材料は、カプセル化された反応プロモーターに対し実質的に非透過性であり得、そして反応プロモーターを不活化することができる物質に対し実質的に非透過性であり得る。
【0015】
第二の反応プロモーターによる第一の物質(上記(b)の場合において)又は第二の物質(上記(a)の場合において)の転換率は、第二の反応プロモーターによる該物質の転換速度が低いためか又は該物質が徐々にカプセル化材料を通過するか又はそれを通して通過できないため、低いものであり得る。該転換速度はゼロであり得、実質的にゼロ又はわずかであり得る。これは、第二の反応プロモーターによる該物質の転換速度がゼロ、実質的にゼロ又はわずかであるためであり得、又は、該物質がカプセル化材料を通過して第二の反応プロモーターと接触する速度がゼロ、実質的にゼロ又はわずかであるためであり得る。
【0016】
反応系は、さらに第一の反応プロモーターから及びマイクロカプセルから生成物を分離する分離器を含み得る。また、分離された生成物を精製する精製器を含み得る。生成物は、第一の物質(特に(b)の場合において)又は第二の物質(特に(a)の場合において)を含み得、又は、更なる反応プロモーター(存在する場合)により促進された1つ以上の反応による第一又は第二の物質のどちらかから誘導された生成物を含み得る。
【0017】
対応する物質への基質の転換は選択的な転換であり得る。第一の基質の第一の物質への転換は、選択的な転換であり得、即ち、第一の反応プロモーターは選択的反応プロモーターであり得、そして第二の基質の転換を促進することができないものであり得、また第一の基質のものよりより緩やかな速度で第二の基質の転換を促進し得る。第二の基質の第二の物質への転換は選択的な転換であり得、即ち、第二の反応プロモーターは選択的反応プロモーターであるため、又は第一の基質がカプセル化材料を通過して第二の反応プロモーターと接触することができないか、又は、緩やかな速度又は第二の基質のものよりもより緩やかな速度でそれを通過するため、第二の反応プロモーターは、第一の基質の転換を促進できないものであり得るか、または第二の基質のものよりもより緩やかな速度で第一の基質の転換を促進し得る。
【0018】
カプセル化材料はポリマーを含み得る。それは選択的に透過性であり得る。それは、ポリマー電解質であり得る。それは1層より多く含み得る。その層、又はそれぞれの層は、約2乃至約50nmの厚さであり得る。カプセル化材料は、電気的に荷電したポリマー層であり得る。カプセル化材料は、少なくとも1種の正荷電したポリマー層及び少なくとも1種の負荷電したポリマー層を含み得る。1つより多い正荷電したポリマー層あるいは負荷電したポリマー層、又は両方、が存在する場合、正荷電した及び負荷電した層は交互に存在し得る。最も内部の層及び、独立して、最も外部の層は、負荷電したポリマー層又は正荷電したポリマー層であり得るか、又は、他の何らかの型の層、例えば非荷電の層又は荷電した非ポリマー層であり得る。
【0019】
第一及び第二の反応プロモーターは、その1方又は両方を不活性化するように、相互作用(たとえば反応)することができるが、本発明の反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止し得る。このような状況において、不活性化すること、とは、不活性化されていない形態において促進することができる反応を促進することが出来ない形態へ、反応プロモーターを転換する事を指す。カプセル化材料は、第一の反応プロモーターに対して及び第二の反応プロモーターに対して非透過性であり得る。
【0020】
第一の反応プロモーターは、反応媒体中、例えば溶媒中に、分散、懸濁、溶解され得又は別の方法で分布させ得る。マイクロカプセルは、反応媒体内に、分散され得、懸濁され得又は別の方法で分布させ得る。マイクロカプセルはナノカプセル又はナノリアクターであり得る。マイクロカプセルは、約0.2乃至約10ミクロンの平均粒径を有し得る。
【0021】
マイクロカプセルは、エネルギー(例えば、放射線)を吸収するための、所望により、
エネルギーが第二の基質へ及び/又は第二の反応プロモーターにより促進される反応を促進するために第二反応プロモーターへ伝達され得る形態にエネルギーを転換するための、エネルギー吸収剤を含み得る。幾つかの実施態様において、エネルギー吸収剤は、放射線吸収剤であり得る。それは、例えば、第二の基質の転換を加速するか、又は別の方法で該転換に影響を与えるために、カプセル内の温度を局所的に上昇させるか又は別の方法で放射線を分布させるように、放射線を吸収することができ得る。
【0022】
1つの実施態様において、
−第一の基質を生成物に転換することができる第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセであって、該マイクロカプセルのそれぞれはカプセル材料中にカプセル化された第二の触媒を含み、
該第二の触媒は第二の基質を第一の基質へ転換させることができ、ここで、
該第二の基質は該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該第一の基質は該カプセル材料をとおってマイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル;
を含み;
それにより、実施において、該第一の触媒による該第一の基質の転換が、該第一の触媒による該第二の基質の転換よりもより多く起こり、そして、該マイクロカプセル中の生成物の副生成物への転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロである、反応系が提供される。
【0023】
その他の実施態様において、第二の基質の存在下での第一の基質の選択的反応のための反応系であって、
−第二の基質を副生成物へ転換するより速い速度で第一の基質を生成物に転換することができる第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれはカプセル材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、
該第二の触媒は該第二の基質を該第一の基質へ転換させることができ、ここで、
該第二の基質は該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該第一の基質は該カプセル材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;
を含み、
実施において、該マイクロカプセル中の該生成物の、所望により副生成物への転換率が低いものであり、所望によりごくわずかであり、所望によりゼロである、ところの反応系が提供される。
【0024】
その他の実施態様において、
ラセミ体のアルコールの動的速度分割のための反応系であって、
−該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することができる、第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は該カプセル化材料を通って該第二の触媒と接触することができ、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;
を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロである、ところの反応系が提供
される。
【0025】
第一の触媒は、キラル触媒、例えば酵素であり得る。第二の触媒は、酸性触媒、例えばゼオライトであり得る。酵素及びゼオライトは、酵素を不活性化するように相互作用することができるが、しかし本発明の反応系においては、ゼオライトのカプセル化に起因して、そうすることが、少なくとも部分的に防止され得る。
【0026】
本発明の第二の側面において、
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含む反応系であって、
該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように 相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系が提供される。
【0027】
カプセル化材料は第一の反応プロモーターに対しそして第二の反応プロモーターに対し非透過性であり得る。1つの実施態様において、(a)第一の物質が第二の基質であり、
又は(b)第二の物質が第一の基質であるかどちらかである。
【0028】
本発明の第三の側面において:
−本発明の第一の側面又は第二の側面による反応系を用意し;そして
−第一の基質、又は第二の基質、又は第一の基質及び第二の基質の両方の何れかを該反応系に添加する;
ことを含む反応を行なう方法であって、
それにより、(a)第一の基質が直接的又は間接的のどちらかで第二の基質に転換され、そして第二の基質が第二の物質に転換されるか、又は(b)第二の基質が直接的又は間接的のどちらかで第一の基質に転換され、そして第一の基質が第一の物質に転換される、
方法が提供される。
【0029】
したがって、
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換し得る第一の反応プロモーター;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方のいずれかを該反応系に添加すること;
を含む、反応を行なう方法であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか又は、該第一の基質が、直接的又は間接的に該第二の基質に転換されそして該第二の基質が該第二の物質へ転換されるように、第二の基質へ転換されることができるか、又は(b)該第二の物質は、該第一の基質であるか又は該第二の基質が直接的又は間接的に該第一の基質へ転換されそして該第一の基質が第一
の物質に転換されるように、該第一の基質に転換されることができるものである、方法が提供される。
【0030】
また、
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換し得る第一の反応プロモーター;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質はカプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方のいずれかを該反応系に添加すること;
を含む、反応を行なう方法であって、
該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系が提供される。
【0031】
1つの実施態様において、(a)第一の物質は第二の基質であるか、又は(b)第二の
物質は第一の基質であるかのどちらかである。
【0032】
オプション(a)において、第一の反応プロモーターは、第一及び第二の基質を相互転換し得る。オプション(b)において、第二の反応プロモーターは、第一又は第二の基質を相互に転換し得る。
【0033】
第一の反応プロモーター及び第二の反応プロモーターは、独立して、触媒、又は試薬、又は触媒と試薬の組み合わせであり得る。第一の基質及び第二の基質は、一緒に反応系に添加され得る。この場合において、別の工程において、第一の物質は、引き続いて第一の基質に転換され得るか(上記オプション(b)において)、又は、第二の物質は、第二の基質に転換され得(上記オプション(a)において)、したがって、この側面は、一方の基質を他方の基質へ選択的に転換する方法を提供する。
【0034】
該方法は、反応系から生成物を分離することを含み得る。該分離は、濾過、遠心分離、膜分離、沈降、デカンテーション、クロマトグラフ分離(たとえば、hplc、gc、sec、アフィニティークロマトグラフィー、tlc)又はこれらの2種以上の幾つかの組み合わせを含み得、又は、追加的に又は代わりに幾つかのその他の分離技術を含み得る。
【0035】
該方法は、反応系を加熱すること、及び/又は反応系の成分により、又は第一又は第二の基質により、又はこれらの1つより多くにより吸収され得る波長の放射線で反応系を照射することを含み得る。
【0036】
該方法は、全体の反応の生成物を反応させることをも含み得る。該反応は、上記のように、生成物を第一の又は第二の基質のどちらかに転換し得る。この場合において、該方法は、一方の基質を他方の基質へ選択的に転換する方法を示し得る。
【0037】
1つの実施態様において、
−(i)第一の基質を生成物へ転換し得る第一の触媒;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、第二の基質を
該第一の基質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって第二の触媒と接触することができ、そして該第一の基質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル、
を含み、該生成物の副生成物への転換率が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロであるところの、反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方、のいずれかを該反応系に添加すること;
を含む反応を行なう方法であって、
それによって、該第二の基質は該第一の基質に転換され、所望により該第一の基質と相互転換され、該第一の基質は、該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部に出て該生成物へ転換される、方法が提供される。
【0038】
第一の基質及び第二の基質は、一緒に反応系に添加され得る。この場合において、生成物は、その後に第一の基質へ転換され得、したがって、該実施態様は、第一の基質を第二の基質から分離する方法を提供する。
【0039】
その他の実施態様において、第二の基質の存在下における第一の基質の選択的な反応の方法であって、該方法は、
−(i'')第二の基質を副生成物へ転換するよりも速い速度で第一の基質を生成物へ転換することができる第一の触媒;及び(ii'')多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該第二の基質を該第一の基質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料をとおって該第二の触媒と接触することができ、そして該第二の基質は該カプセル化材料をとおって該マイクロカプセルの外部へ出ることができるマイクロカプセル、を含み;したがって、該マイクロカプセル内の生成物の、所望により副生成物への転換速度が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロである、反応系を用意すること;及び
−該第一の基質又は該第二の基質を該反応系に添加すること;
を含む方法であって、
したがって、該第二の基質は該第一の基質へ転換され、所望により該基質と相互転換され、そして該第一の基質は選択的に生成物へと転換されるところの、方法、が提供される。
【0040】
1つの実施態様において、
ラセミ体のアルコールの動的速度分割の方法であって、
−(i''') 該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することが出来る、第一の触媒;及び(ii''')多数のマイクロカプセルであ
って、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料中にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該アルコールの第一の光学異性体は、該カプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであり、所望によりわずかであり、所望によりゼロである、マイクロカプセル;
そして
−該ラセミ体のアルコールを該反応系に添加すること;を含み、
該アルコールの第一の光学異性体は該エステルの第一の光学異性体に転換され、そして、該第二の光学異性体がラセミ化されて、該アルコールの第一及び第二の光学異性体の混合物が形成される、ところの方法が提供される。
【0041】
前記アルコールの第一及び第二の光学異性体のどちらも、カプセル化材料を通過し得る。第二の触媒がキラルエステルをラセミ化することが不可能であるか又は低い又はわずかな速度でラセミ化するために、又は、該キラルエステルが該カプセル化材料を通って該第二の触媒に接触することができないか、低い又はわずかな速度でそこを通過するために、前記マイクロカプセルは、該キラルエステルをラセミ化することができないか、又は、キラルアルコールのラセミ化速度は、低い又はわずかであり得る。
【0042】
第一の触媒は、キラル触媒、例えば酵素であり得る。第二の触媒は酸触媒、例えばゼオライトであり得る。
前記方法は、更に、以下の工程:
−キラルエステルを反応系から分離すること:
−該キラルエステルを精製すること;
−該キラルエステルを加水分解して前記アルコールの第一の光学異性体を生成すること;そして
−前記アルコールの第一の異性体を精製すること、
の1つ以上を含み得る。
【0043】
本発明の第四の側面において、
−反応容器;及び
−本発明の第一の側面又は第二の側面による反応系であって、該反応容器内に配置されるものである、反応系、
を含むリアクターを提供する。
【0044】
該反応系は、更に、生成物を第一の反応プロモーターから及びマイクロカプセルから分離する分離器を含み得る。それはまた、分離された生成物を精製する精製器を含み得る。それはまた、基質(複数の基質)、試薬(複数の試薬)及び/又は反応媒体をリアクターに添加するための添加口を含み得る。また、生成物をリアクターから除くための生成物出口を含み得る。
【0045】
本発明の第五の側面において、本発明の第一の側面又は第二の側面による反応系により製造される、又は本発明の第三の側面の方法により製造される生成物が提供される。該生成物はキラル生成物であり得る。それはまた、ジアステレオマー生成物であり得る。それは、少なくとも約80%の単一の光学異性体、又は、単一のジアステレオマー、又はこれら少なくとも約85、90又は95%を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
さて、本発明の好ましい実施態様を、添付された図面を参照して例としてのみ説明する。
【図1】図1は、本発明の幾つかの実施態様の実施を示す図である。
【図2】図2は、従来の速度分割及び動的速度分割(DKR)を図示するスキームである。
【図3】図3は、解糖経路の一部を図示するスキームである。
【図4】図4は、ゼオライトβの構造を示す図である。
【図5】図5は、幾つかの一般的なポリマー電解質の化学構造を示す図である。
【図6】図6は、Pdナノリアクターにより触媒されたSonogashiraクロスカップリングを示すスキームである。
【図7】図7は、直接コートされたゼオライト粒子の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】図8は、ゼオライトナノリアクターの落射蛍光顕微鏡写真を示す図である。
【図9】図9は、種々のゼオライト触媒についての(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化を図示するグラフである。
【図10】図10は、1−フェニルエタノールの動的速度分割を図示するスキームである。
【図11】図11は、炭酸カルシウムテンプレートの顕微鏡写真を示す図である。
【図12】図12は、中空のポリマー電解質カプセルの顕微鏡写真を示す図である。
【図13】図13は、ゼオライトβのXRD(X線回折)像である。
【図14】図14は、ゼオライトβのSEM(走査電子顕微鏡写真)を示す図である。
【図15】図15は、ゼオライト含有テンプレートの顕微鏡写真を示す図である。
【図16】図16は、(R)−1−フェニルエタノールの酸触媒によるラセミ化の機構を図示するスキームである。
【図17】図17は、(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化及び脱水を図示するスキームである。
【図18】図18は、1−フェニルエタノールの種々の溶媒中の時間に対する選択的エステル化を示すグラフである。
【図19】図19は、CALB−活性基質及び(−)−メタノールの化学構造を示す図である;そして
【図20】図20は、1−インダノールの種々の溶媒中の時間に対する選択的エステル化のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は、第一の反応プロモーター及び多数のマイクロカプセルを含み、該マイクロカプセルは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含むところの、反応系に関する。明細書との関連で、“第一の”反応プロモーター、“第二の”反応プロモーター等は、異なる種類を特定するために使用されるのであり、そしていずれかの具体的な反応順序でこれらがその機能を遂行する順番を示すと理解されるべきではない。該反応系において、第一の反応プロモーターは第一の基質を第一の物質に転換することができ、そして第二の反応プロモーターは第二の基質を第二の物質に転換することができる。第二の基質は、カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして第二の物質は次にカプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へ出ることができる。第一の基質及び第二の生成物もまた所望により、カプセル化材料を通過することができる。該反応系の幾つかの実施態様において、(a)第一の物質が第二の基質であるか、または(b)第二の物質が第一の基質であるかどちらかである。幾つかの実施態様において、オプション(a)において、第一の反応プロモーターによる第二の物質の転換(例えば転換速度)は低く、そしてオプション(b)においてマイクロカプセル中の第一の物質の転換(例えば転換速度)は低い。幾つかの実施態様において、第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される。これに関連し、“少なくとも部分的に防止される”とは、カプセル化は第二の反応プロモーターの不活性化を防止するか又は阻害することを示す。従って、本発明は、相互に相容れない反応プロモーター(例えば触媒)が反応(例えば1以上の工程を含むもの)に必要な場合に、単一の反応容器で反応を行なう利便性を保持しつつ、それら反応プロモーターが互いに相互作用することから防止され得るという利点をもたらす。第二の反応プロモーターがカプセル化されずそして第一の反応プロモーターと相互作用することができる同様の系における、第一の反応プロモーターによる第二の反応プロモーターの、又は第二の反応プロモーターによる第一の反応プロモーターの不活性化と比較して、本発明による系における第一の反応プロモーターによる第二の反応プロモーターの、又は第二の反応プロモーターによる第一の反応プロモーターの不活性化は、幾つかの場合において約50%より大であり得、例えば約50乃至90%であり得るとはいえ、例えば、約50%より少なく、又は約40、30、20、10、5、2、1、0.5又は0.1%よ
り少なく、そして、例えば約0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8,0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45又は50%であり得る。本発明の反応系における不活性化は、完全に防止され得る。本発明の実施態様の例を、本明細書で詳細を後に述べる図1に図示した。
【0048】
(a)の場合における第一の反応プロモーターによる第二の物質の転換速度は、許容できる収率及び/又は純度での第二の物質の分離か又は第二の物質の許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応のどちらかを可能にするよう、十分に低いものであり得る。したがって、第一の反応プロモーターによる第二の基質の転換速度に対する第一の反応プロモーターとによる第一の基質の転換速度の比により定義される、第一の反応プロモーター転換速度は、約2より大きいものであり得、又は約3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、50又は100より大であり得る。それは、約2乃至1000、又は5乃至1000、5乃至1000、10乃至1000、50乃至1000、100乃至1000、500乃至1000、2乃至100、2乃至50、2乃至20、2乃至10、2乃至5、5乃至100、10乃至100、50乃至100又は10乃至50、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000であり得、又は1000より大きいものであり得る。許容できる収率、及び、それと独立して、許容できる純度は、質量又はモルに基づき、約50%より大であり得、又は約60、70、80、90、95又は99%であり得、例えば、約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、99.5又は99.9%であり得る。(a)の場合においてまた、第一の反応プロモーターは、第一の基質と第二の基質を相互に転換することができるものであり得、即ち、第一の基質を第二の基質に、そして第二の基質を第一の基質に、転換することができるものであり得る。したがって、例えば、第一の基質は、キラル化合物の第一の光学異性体であり得、第二の基質は該キラル化合物の第二の光学異性体であり得、そして第一の反応プロモーターは、該キラル化合物をラセミ化することができる触媒、例えば酸触媒、であり得る。第二の反応プロモーターが、第二の光学異性体を選択的にエステル化して光学活性エステルを形成するエステル化触媒である場合には、第一の反応プロモーターは、比較的純度のよい生成物(比較的純度の良い、は上記許容できる純度に関して定義されたもの)の分離を許容するためには該光学活性エステルを大きくラセミ化するべきではない。
【0049】
同様に、(b)の場合において、マイクロカプセル内の第一の物質の転換速度は、
許容できる収率及び/又は純度での第一の物質の分離、又は許容できる収率及び/又は純度を有する生成物への更なる反応であって、許容できる収率及び純度は上記に記載されているようなものであるところの反応、を可能とするように、十分低いものであり得る。この場合において、マイクロカプセル中の第一の物質の転換(もし起こる場合)は、1つ以上の望ましくない副生成物へのものであり得る。(b)の場合においてもまた、第二の反応プロモーターは、マイクロカプセル内の第一の基質と第二の基質を相互転換することができ、即ち、それは第一の基質を第二の基質へ転換し、及び第二の基質を第一の基質へ転換することができる。したがって、例えば、第一の基質は、キラル化合物の第一の光学異性体であり得、そして第二の基質は、該キラル化合物の第二の光学異性体であり得、そして第二の反応プロモーターは、該キラル化合物をラセミ化することができる触媒、例えば酸触媒であり得、該触媒はカプセル化材料中にカプセル化されている。第一の反応プロモーターが、第一の光学異性体を選択的にエステル化し光学活性エステルを形成するエステル化触媒である場合、第二の反応プロモーターは、比較的純度のよい生成物(比較的純度の良い、は上記許容できる純度に関して定義されたもの)の分離を可能とするためには、該光学活性エステルを大きくラセミ化してはならない。
【0050】
該反応系は、最初の2つの共役反応(即ち、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルにより促進された反応)の生成物を、次いで反応系から分離され得る最終生成物へ転換することができ得る、1種以上の更なる反応プロモーター(例えば試薬又は触媒)を含み得る。この場合において、マイクロカプセル中のそして第一及び更なる反応プロモーターによる最終生成物の転換速度は、低いものであり得、所望によりわずかであり得、所望によりゼロであり得る。これらの転換速度は、許容できる収率及び純度(上記に定義したような)で最終生成物の分離を可能にするよう十分低いものであり得る。これらの速度は、第二の反応プロモーターによる最終生成物の転換不能に起因して、又は、最終生成物が第二の反応プロモーターと接触することを少なくとも部分的に防止する物理的なバリアーに起因して、又はその両方に起因して、低く、わずかであり又はゼロであり得る。
【0051】
第一の反応プロモーターはカプセル化され得又はカプセル化され得ない。第一及び第二の反応プロモーターは、独立して、1種以上の促進種を含み得る。反応プロモーターが、1種より多くの促進種(例えば2、3、4又は5の促進種)を含む場合、これらは、その反応プロモーターによって促進される反応を促進するために一緒に作用し得る。該促進種のそれぞれは、独立して触媒又は試薬であり得る。反応プロモーターが1種より多くの促進種を含む場合、該促進種は、連続して、又は共同して作用し得、又はいくつかは連続して作用しそしていくつかは共同して作用し得る。共同の作用の例は、例えば、第一の反応プロモーターが触媒及び試薬を含む場合、それにより、試薬は触媒の触媒作用のもとで第一の基質と反応して第一の物質を形成し得る、ものである。連続した作用の例は、例えば、第一の反応プロモーターが2種の触媒を含む場合、それにより、1つの触媒が第一の基質の中間体への反応を触媒し、そしてその他の触媒が中間体の第一の物質への反応を触媒するものである。このように、連続した作用においては、1種より多い促進種を含む反応プロモーターは、個々の反応工程のカスケードを含む反応を促進するであろう。その他の順列(たとえば、2種の触媒と試薬、それにより、試薬は一方の触媒の触媒作用のもと第一の基質と反応し得中間体を生成し、そして他方の触媒は中間体の第一の物質への反応を触媒する)は、当業者により容易に予想され得る。
【0052】
更なる反応プロモーター(存在する場合)は、それぞれ、独立して、カプセル化され得、又はカプセル化され得ない。カプセル化された反応プロモーターは、第二の反応プロモーター(所望により、例えば、マイクロカプセルの異なる層中で、又はマイクロカプセル中の別の部で、第二の反応プロモーターから分離される)と、又は任意のその他のカプセル化反応プロモーターと、同一のマイクロカプセル中に、又は異なるマイクロカプセル中に、カプセル化され得る。いずれかのカプセル化反応プロモーターのためのカプセル化材料も、いずれかのその他のカプセル化反応プロモーターのカプセル化材料と同じでも異なっていてもよい。
【0053】
カプセル化材料は、その中の反応プロモーターの基質又は該反応プロモーターにより製造される物質に対し透過性であるべきである。カプセル化材料は、反応系中の任意の1種以上のその他の成分(反応プロモーター、試薬、溶媒、その他の基質、物質及び生成物)に対して、非透過性又は低透過性であり得る。特に、第一及び第二の反応プロモーターが互いに相容れないものである(即ち、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができる)場合、カプセル化材料は、第一及び第二の反応プロモーターに対し非透過性、又は低い透過性のものであるべきである。カプセル化材料は、カプセル化材料への選択的透過性を可能にする化学物質を取り込み得る。例えば、一定のタンパク又はチャネル構造は膜をとおり特定の種を選択的に輸送することができることが知られており、そしてこれらのタンパク又はチャネル構造は、カプセル化材料への選択的透過性のために該材料に取り込まれ得る。それぞれのカプセル化材料は独立して、ポリマー、又はポリマーの混合物又は何らかのその他のカプセル化材料を含み得る。そのポリマー、又はそれぞれの
ポリマーはポリマー電解質であり得る。カプセル化材料は、1つより多くの層、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10層を含み得る。その層、又はそれぞれの層は、約2乃至約50nmの厚さであり得、又は約2乃至40、2乃至30、2乃至20、5乃至50、10乃至50、20乃至50、5乃至30又はア10乃至30nmの厚さ、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45又は50nmの厚さであり得、又は、50nmより厚い厚さであり得る。それぞれの層は、独立して、ポリマー又はポリマーの混合物又は何らかのその他の物質を含み得る。カプセル化材料は1種又はそれ以上の帯電したポリマー層を含み得る。カプセル化材料は、1種以上の正荷電したポリマー層を含み得、そして1種以上の負荷電したポリマー層を含み得る。それは、交互になった、正荷電したポリマー層と負荷電したポリマー層を含み得る。幾つかの実施態様において、カプセル化材料、又はその層の1つ以上は、それへの特
定の物質の透過を促進する官能基を含み得る。幾つかの実施態様において、カプセル化材料、又はその層の1つ以上は、それへの特定の物質の透過を遅延させる又は防止する官能
基を含み得る。
【0054】
第一又は第二の反応プロモーターは、そしてもし存在する場合、更なる反応プロモーターは、それぞれ、独立して、固体、液体、溶解した物質、乳化された物質、気体又はいずれかのその他の好適な形態として反応系中に存在し得る。幾つかの実施態様において、第一又は第二の反応プロモーターの一方は固体であり、そして他方は溶液であり得る。特に、第一の反応プロモーターは溶液で存在し得、そして第二の反応プロモーターは固体であり得る。本明細書に記載された種々の基質、物質及び生成物は、それぞれ、独立して溶液であり得る。
【0055】
本発明はまた、カプセル化材料中にカプセル化された反応プロモーターを含むマイクロカプセルを提供する。特に、本発明は、本発明による反応系において使用した場合、又は本発明による方法において使用した場合の、カプセル化材料内にカプセル化された反応プロモーターを含むマイクロカプセルを提供する。より具体的には、基質及び生成物とともに反応プロモーターを含み、該反応プロモーター、基質及び生成物はカプセル化材料内にカプセル化されたものであり、ここで、該反応プロモーターは、該基質の該生成物への反応を促進することができる、ところのマイクロカプセルが提供される。例として、ゼオライト及び鏡像異性体として対のベンジルアルコールを含み、該ゼオライト及び対のアルコールはポリマーカプセル化材料内にカプセル化されており、該アルコールはカプセル化材料を通過することができるものである、マイクロカプセルが提供される。
【0056】
第二の反応プロモーターによる第一の物質(上記(b)の場合)又は第二の物質(上記(a)の場合)の転換は、第二の反応プロモーターによる該物質の転換速度が低いためかまたは該物質がカプセル化材料を緩やかに通過して第二の反応プロモーターと接触するためのどちらかにより、低いものであり得る。カプセル化材料を通過する遅い速度は、物質の分子量又は極性、電荷、疎水性/親水性、特異親和性又はその他の特性に起因し得る。一方又は他方の反応プロモーター(又は両方)が固体の場合において、これらは、カプセル化材料を通過することから物理的に妨害され得る。
【0057】
該反応系はさらに、第一の反応プロモーターから及びマイクロカプセルから生成物を分離する分離器を含み得る。分離器は、フィルター、マイクロフィルター、限外フィルター、アフィニティー吸着体、選択的透過性膜または何らかのその他の好適な分離器を含み得、又は、これらの2つ以上の組み合わせを含み得る。好適な分離器の性質は、生成物、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルの性質から、所望により、系のその他の特性とともに、当業者にとり明白である。
【0058】
反応系はまた、分離された生成物を精製する精製器を含み得る。精製器は、生成物を試
薬から及び/又は副生成物及び/又は何らかのその他の不要の物質から分離し得る。また、当業者は適切な精製器を容易に理解するであろう。これらは、例えば、蒸留器、膜分離器、クロマトグラフ分離器(gc、hplc、gpc、sec、tlc等)及びその他を含み得る。
【0059】
対応する物質への基質の転換は、選択的な転換であり得る。第一の基質の第一の物質への転換は、選択的な転換であり得、即ち、第一の反応プロモーターは、選択的反応プロモーターであり得、そして第二の異質の転換を促進不能であり得るか、又は第一の基質の転換よりも緩やかな速度において第二の基質の転換を促進し得る。第一の反応プロモーターの選択性(即ち、第一の反応プロモーターによる第二の基質の転換速度により除された第一の反応プロモーターによる第一の基質の転換速度。)は、約1より大きいものであり得、又は約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、50又は100より大きいものであり得る。それは約1乃至約100、又は約2乃至1000、又は5乃至1000、5乃至1000、10乃至1000、50乃至1000、100乃至1000、500乃至1000、2乃至100、2乃至50、2乃至20、2乃至10、2乃至5、5乃至100、10乃至100、50乃至100、10乃至50、例えば約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000であり得、又は1000より大きいものであり得る。第二の基質の第二の物質への転換は選択的転換であり得、即ち、マイクロカプセルは、第二の反応プロモーターは選択的反応プロモーターであるためか、又は第一の基質はカプセル化材料をとおって第二の反応プロモーターと接触することができない、あるいは緩やかな速度で通過するため、のどちらかにより、第一の基質の転換を促進不能であり得るか、又は第一の基質の転換を第二の基質のものよりも緩やかな速度で促進することができる。マイクロカプセルの選択性(即ち、マイクロカプセル中の第一の基質の転換速度により除されたマイクロカプセル中の第二の基質の転換速度。)は、約1より大きいものであり得、又は約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、50又は100より大であり得る。それは約1乃至約1000、又は約2乃至1000、又は5乃至1000、5乃至1000、10乃至1000、50乃至1000、100乃至1000、500乃至1000、2乃至100、2乃至50、2乃至20、2乃至10、2乃至5、5乃至100、10乃至100、50乃至100又は10乃至50、例えば約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000であり得、又は1000より大きいものであり得る。
【0060】
第一及び第二の反応プロモーターは、その1方又は両方を不活性化するように相互作用(たとえば反応)することができるが、しかし本発明の反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止し得る。例えば、一方の反応プロモーターは酵素でありそして他方の反応プロモーターが酸触媒である場合、酸触媒は、酵素を、その本来の機能を果たすことができない様に不活性化(例えば変性すること)することができ得る。しかし、酸触媒(又はあるいは酵素の)のカプセル化は、2者の間の相互作用を少なくとも部分的に防止し得、したがって、単一の反応系における双方の活性を残存させる。
【0061】
第一の反応プロモーターは、反応媒体中、例えば溶媒中に分散、懸濁、溶解又はその他の方法で分布され得る。反応媒体は1種より多くの溶媒、又は溶媒と共溶媒を含み得る。それは、界面活性剤、例えば乳化剤を含み得る。好適な溶媒は、第一の反応プロモーター、基質、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルにより製造された物質、マイクロカプセル(特にカプセル化材料)等の性質の1つ以上次第である。反応媒体は、有機であ
り得、極性又は非極性のどちらかであり得る。水溶性であり得、そして水溶液を含み得る。それは、有機及び水溶性成分の組み合わせを含み得る。それは、無機の非水性成分を含み得る。必要に応じ1種以上の塩を含み得る。反応媒体は、第一の反応プロモーターを溶解、分散、懸濁又は乳化させることができ、そして、マイクロカプセルを分散又は懸濁させることができる。反応媒体は、マイクロカプセルと相溶性になるのに好適な極性を有し得る。
【0062】
マイクロカプセルは、約0.2乃至10ミクロン、又は約0.2乃至5、0.2乃至2、0.2乃至1、0.5乃至5、0.5乃至2、0.5乃至1、1乃至10、2乃至10、5乃至10、1乃至5又は2乃至5ミクロン、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10ミクロンの平均(質量又は数平均)粒径を有し得、又は約10ミクロンより大きいものであり得、又は約0.2ミクロンよりも小さいものであり得る。系が1種より多いのマイクロカプセルを含む(例えば、1種より多いの反応プロモーターが異なるマイクロカプセル中にカプセル化されている)場合には、それぞれの種類のマイクロカプセルが、独立して、上記の平均粒径を有する。マイクロカプセルは、球状、又はほぼ球状であり得、又は卵型、多面体、扁球、タブレット型、円形、不規則又は何らかのその他の好適な形状であり得る。マイクロカプセルが球状で無い場合には、上記粒径は最大粒径、最小粒径、平均粒径又はその他の好適な寸法を表し得る。
【0063】
マイクロカプセルは、エネルギー(例えば、放射線)を吸収するための、所望により、エネルギーが第二の基質へ及び/又は第二の反応プロモーターにより促進される反応を促進するために第二反応プロモーターへ伝達され得る形態にエネルギーを転換するための、エネルギー吸収体を含み得る。幾つかの実施態様において、エネルギー吸収体は、放射線吸収体であり得る。それは、例えば、カプセル内の温度を局所的に上昇させるか、第二の反応プロモーターによる基質の転換を加速させ得るように、放射線を吸収することができ得る。例えば、第二の反応プロモーターは、マイクロ波放射線を熱に転換することができる金属を含み得る。この場合におけるマイクロカプセル内の局部温度は、約40乃至250℃であり得、又は、約40乃至200、40乃至150、40乃至100、40乃至60、50乃至250、100乃至250、150乃至250、50乃至150、50乃至100又は100乃至150℃であり得、例えば、約40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240又は250℃であり得、又はその他の温度であり得る。幾つかの実施態様において、マイクロカプセルの外部温度は、低く、例えば、約0、5、10、15、20又は25℃より下に保たれ、そして、マイクロカプセル内の局部温度は上記のようなより高い温度において保たれる。この場合において、マイクロカプセル内の温度は約0乃至40℃、又は0乃至20、0乃至10、10乃至40、20乃至40、10乃至30又は15乃至25℃、例えば約0、5、10、15、20、25、30、35又は40℃であり得る。或いは、マイクロカプセルは、基質の放射線により促進される反応を触媒するために、放射線、例えば紫外線、を吸収するための、光増感剤又は光開始剤(例えば、ベンゾインエーテル)を含み得る。この場合において、カプセル化材料は、波長又は光増感剤又は光開始剤により吸収された放射線の波長に対し実質的に透過性(例えば、少なくとも約50、60、70、80、90又は95%の透過性)であるべきである。
【0064】
1つの形態において、本発明の反応系は、第一の基質を第一の物質へ転換することができる第一の反応プロモーター、及び多数のマイクロカプセルを含み、それぞれのマイクロカプセルは、マイクロカプセル内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含む。第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質へ転換することができ、ここで、該第二の基質はカプセル化材料を通って第二の反応プロモーターと接触することができ、そし
て第二の物質はカプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へと出ることができる。この特定の形態において、第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、本発明の反応系においては、第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される。好ましくは、本発明のこの形態において、カプセル化材料は、第一の反応プロモーターに対して及び第二の反応プロモーターに対して実質的に非透過性である。本発明のこの形態は、互いに相容れない反応プロモーターが共存し得、そして一方の反応プロモーターの他方との実質的な相互作用(例えば、不活性化)無しにそれらが別個の作用を遂行し得る系を提供することができる。
【0065】
幾つかの実施態様において、(a)第一の物質が第二の基質であるか、又は(b)第二の物質が第一の基質であるかどちらかである。この場合において、該系は2つの反応プロモーターにより促進される連続的な反応を促進することができる。これらの連続した反応の生成物は、第三の、及び所望により更なる反応プロモーターの作用下でさらに反応され得る。したがって、例えば第三の反応プロモーターは、第一の反応プロモーターとの相互作用を少なくとも部分的に防止するようにカプセル化されて、該反応系中に存在し得る。この反応プロモーターは、第二の物質(上記オプション(a))又は第一の物質(上記オプション(b))の生成物の反応を促進することができる。或いは(又は更に)、該反応系は、反応プロモーター及びマイクロカプセルの通過を少なくとも部分的に防ぐことができる、選択的透過性膜により、第一の反応プロモーター及びマイクロカプセルから分離された第三の反応プロモーターを含み得る。例えば、本明細書に記載されたDKR系は、触媒及びマイクロカプセルの通過を少なくとも部分的に防ぎ、そしてアルコール光学異性体の通過を少なくとも部分的に防ぐが、そのエステルの通過を許容する膜により加水分解触媒から分離され得る。この場合において、膜のDKR側へのラセミ体のアルコールの添加は、本明細書の別の場所で記載されたように、該アルコールの単一の光学異性体のエステルを生成し得る。このエステルは、次に膜を通過し、そこで、加水分解触媒により加水分解されて、該アルコールの単一の光学異性体のみを再生させ得る。この例において、加水分解触媒がマイクロカプセル化されている場合、これは、所望の生成物である該アルコールの単一の光学異性体の単離を促進するであろう。これを、本明細書で詳細を後述する図1bに図示する。
【0066】
本発明のこの形態のその他の実施態様において、反応プロモーターの1つにより生成された物質は、第三の反応プロモーターへと選択的膜を通過し得、そしてこれにより生成された物質は膜を通って戻り得、その他の反応プロモーターの基質として、作用する。これを、本明細書で詳細を後述する図1cに図示する。
【0067】
本発明はまた、上記反応系を用いた反応を行なう方法を提供する。第一の基質又は第二の基質、又は第一の基質と第二の基質の両方が反応系に添加された場合、(a)第一の基質が第二の基に転換されそして第二の基質が第二の物質に転換されるか、又は(b)第二の基質が第一の基質に転換されそして第一の基質が第一の物質に転換されるかのどちらかが起こる。
【0068】
反応系は、該系の関連成分と基質との間の効率的な接触を促進するために、攪拌、振とう、混合、超音波処理、又は激しく攪拌され得る。激しい攪拌は、マイクロカプセルの破壊を引き起こすのに十分な程激しくするべきではない。本発明のリアクターは、したがって、攪拌機、例えば、スターラー、シェーカー、ミキサー、超音波処理機又はその他の攪拌機を含み得る。該方法は、反応系の成分に実質的なダメージの原因とならない任意の好適な温度及び圧力で行なわれ得る。一般的に、大気圧が使用されるが、当業者は、それとは異なる圧力(例えば、高圧)が反応に必要とされる場合には、容易に理解するであろう。高圧が必要とされる場合には、本発明のリアクターは、反応系を含むための圧力容器を
含み得る。反応系の温度は、許容できる時間において、反応プロモーター、カプセル化材料、基質、反応プロモーターにより生成された物質及び最終生成物(反応プロモーターにより生成された物質から分離された場合)の不活性化及び分解(例えば、変性、望ましくない副生成物への転換等)を生じさせることなく必要とされる転換を達成するのに十分なものであるべきである。これに関し、不活性化とは、その正常な作用を行なうことができない、又は行なう能力が低い形態に種を転換することを指す。性能の減少は、幾つかの場合において、約50%より少ないものであり得るが、例えば約10乃至約50%であり得るとはいえ、例えば少なくとも約50、60、70、80、90又は95%であり得、そして約50、55、60、65、70、75、80、85、90,91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.5又は99.9%であり得る。したがって、反応プロモーターの不活性化はその阻害を指し得る。この関連において、不活性化は、ここでは完全な不活性化、即ち、性能における減少が100%である場合を指し得る。温度は、時には温度は100℃より高く又は0℃より低いものであり得るとはいえ、一般的には、約0乃至100℃、又は約0乃至50%、1乃至20、0乃至10、10乃至100、20乃至100、50乃至100、10乃至90、10乃至50、20乃至50又は20乃至40℃、例えば約0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90又は100℃である。温度は、室温又は常温であり得る。リアクターは、したがって、反応系の温度を調整する温度調節機をとりこみ得る。温度調節機はヒーター及び/又はクーラーを含み得、そして制御装置を含み得る。
【0069】
前記方法は、反応系の成分により、第一又は第二の基質により、又はそれらの1種より多くにより吸収されることができる波長の放射線による反応系の照射を含み得る。照射は、IR、UV,可視光、マイクロ波、超音波又は必要に応じその他の放射線によるものであり得る。
【0070】
本発明の1つの実施態様を図1aに図示する。図1aにおいて、系10は、第二の基質
S2を副生成物P2へと転換するよりも速い速度で、第一の基質S1を生成物P1に転換することができる第一の触媒C1を含む。系10はまた、簡潔化の目的のために図1aにその1つのみ示した、多数のマイクロカプセル20を含む。各マイクロカプセル20は、カプセル化材料30内にカプセル化された第二の触媒C2を含む。触媒C2は、基質S1とS2を相互転換することができる。基質S1及びS2はカプセル化材料30を通過することができる。随意にP2はカプセル化材料30を通過し得ないため、生成物P1は、触媒C2により副生成物P2へ転換されることができないものである。触媒C1は、担体液体40中に懸濁又は溶解され、そして、マイクロカプセル20は、担体液体40中に懸濁される。懸濁化は、図1aには示していない攪拌機により補助され得る。基質S1及びS2及び生成物P1もまた、液体40中に可溶性であり得る。反応系10は容器50内に含まれ得る。
【0071】
実施において、S1及びS2の混合物(一般的に等モルの混合物)が反応系10に添加される。S1は生成物P1に転換されるが、S2の副生成物P2への転換はかなり緩やかである。P1は触媒C1又はC2のどちらによっても転換されず、そしてその結果、系10内で集積する。これは、S1のP1への転換による減少に起因して、系10におけるS2のS1に対する過剰を招き得る。S1及びS2はカプセル化材料30をとおって触媒C2と接触し得、該触媒はS1とS2を相互転換してS1とS2の等モル混合物を再生する。この混合物は、次にマイクロカプセル20の外部に出る。この工程は、S2からの、生成物P1へ転換される基質S1の連続的な供給を生じる。相互転換性の触媒S2のない場合においては、等モルのS1及びS2の混合物からの生成物P1の最大収率は、50%であろうが、しかしC2が更なるS2からS1の供給をもたらすため、50%より高い収率が可能である。
【0072】
他の実施態様を、図1bに示す。図1bにおいて、系100は、選択的膜130により分離され、そして容器140内に含まれるDKRサイド110及び加水分解サイド120を含む。サイド110は、試薬Rとアルコール異性体A1の反応を選択的に触媒して光学活性エステルE1を形成することができる、エステル化触媒C1を含む。サイド110はまた、カプセル化材料150内にカプセル化された平衡触媒C2を含む。触媒C1及びC2は、少なくとも部分的にC1を不活性化するように相互作用することができるが、しかしC2のカプセル化により、そうすることが少なくとも部分的に防止される。カプセル化材料150は、触媒C1及びC2の通過を、そして好ましくはエステルE1の通過も防止するが、アルコールA1及びA2の通過を許容する。サイド120は、エステルE1を加水分解してアルコール光学異性体A1を再生することができる、加水分解触媒C3を含む。選択的膜130はサイド110をサイド120から分離し、そして、触媒C1、並びにアルコール光学異性体A1及びA2及びまた、触媒C2を含むマイクロカプセルの通過を少なくとも部分的に防止することができる。膜130はエステルE1の通過を許容することができる。
【0073】
系100の実施において、光学異性体A1及びA2の混合物、又は所望により異性体A2のみが容器140のサイド110に添加された場合、A1(存在する場合)及びA2が、カプセル化材料150を通ってマイクロカプセル内へ入り、そして触媒C2により平衡化される。A1及びA2はマイクロカプセルの外部に出て、そこで触媒C1は、A1のE1へのエステル化を触媒する。A2は、カプセル化材料を通過することによりそしてC2の作用のもとにA1と平衡化することにより、A1と再平衡化される。E1は膜130からサイド120へ通過し、そして、触媒C3により加水分解されてA1を再生する。A1は膜130を通過することができず、そしてしたがって系100の120側にトラップされる。系はしたがって、A2から又はA1及びA2の混合物からのどちらかから、選択的にA1を生じる手段を提供する。A1は、E1への転換によりDKRのサイド110から連続的に除去されるため、A2は触媒C2により連続的にA1に転換される。
【0074】
更なる実施態様を図1cに示す。図1cにおいて、反応系200は、第一の基質S1を第一の物質P1に転換することができる第一の触媒C1を含む。系200はまた、多数のマイクロカプセル210(簡潔化の目的のために図1aに1つのみ示した)を含む。各マイクロカプセル210は、カプセル化材料220内にカプセル化された第二の触媒C2を含み、該第二の反応プロモーターは第二の基質S2を第二の物質P2へ転換することができるものである。第二の基質はカプセル化材料220を通って第二の触媒C2と接触することができ、そして第二の物質P2はカプセル化材料220を通ってマイクロカプセル210の外部に出ることができる。この実施例において、第一及び第二の触媒C1及びC2は、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、しかし反応系200においては、カプセル化材料220による第二の反応プロモーターC2のカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される。カプセル化材料220は第一の反応プロモーターC1に対しそして第二の反応プロモーターC2に対し非透過性である。触媒C1及びC2は、容器240内の担体液体230中に位置する。容器240もまた、膜250、及び触媒C3(所望によりまた、担体液体230又は何らかのその他の担体液体中に位置する)を含む。膜250は、触媒C3から触媒C1及びマイクロカプセル210を、それがそれらに対し非透過性であるため、分離する。この分離は、触媒C3及び触媒C1とC2の間の相互作用を防ぐ目的のためであり得、又は生成物P2の分離を容易にするためであり得、または何らかのその他の目的、例えば、P1のS2への転換の副生成物がC1又はC2のどちらかと接触することを防止するためのものであり得る。膜250は物質P1を、及び基質S2を通過させることができる。それは、任意にS1、P1及びP1のS2への転換の副生成物1種以上に対し非透過性であり得る。触媒C3は物質P1の基質S2への転換を触媒することができる。
【0075】
実施において、基質S1が容器240に添加された場合、C1によりP1に転換される。P1は次に膜250を通過しそしてC3によりS2に転換される。S2は次に膜250を通過しそしてマイクロカプセル210へ入る(カプセル化材料220を通じて)、そこでそれはC2によりP2に転換される。この例において、P2は該反応の最終生成物である。幾つかの場合において、P2は触媒C3に感受性があり得、そして、通過することができない膜250によりC3と接触することから少なくとも部分的に防止されるものであり得る。
【0076】
また、本発明の更に他の実施態様を図1dに示す。図1dにおいて、系300は、基質S1の生成物P1への、S2の生成物P2への、S3の生成物P4へのそしてS4の生成物P4への反応をそれぞれ促進することができる、反応プロモーターC1、C2、C3及びC4を含む。マイクロカプセルM2及びM4は、カプセル化材料E2及びE4内にそれぞれカプセル化された、反応プロモーターC2及びC4をそれぞれ含む。簡潔化のために、マイクロカプセルM2及びM4のそれぞれ1つのみ示すが、実施において各々多数存在する。系300は容器310内に位置し、該容器は選択的透過性膜325により分離された2つのチャンバー315及び320を含む。触媒C1及びマイクロカプセルM2はチャンバー315中に位置しそして触媒C3及びマイクロカプセルM4はチャンバー320中に位置する。チャンバー315及び320はまた、担体液体、所望により溶媒を含み、そして、触媒C1及びC3及びマイクロカプセルM2及びM4は担体液体中に分散されている。一般的に系300において、C1とC2は相容性が無く(即ち、相互作用してその一方又は他方を不活性化し得る。)、そしてC3とC4は相容性がない。或いは、C2及びC4のマイクロカプセル化は、生成物分離を簡略化する目的のためであり得る。系300において、S2及びS4は、マイクロカプセルM2及びM4にそれぞれ入るためにカプセル化材料E2及びE4をそれぞれ通過することができ、そしてP2及びP4は、マイクロカプセルE2及びE4をそれぞれ出るためにカプセル化材料E2及びE4を通過することができる。膜325は、幾つかの様式ではそうではないが、一般的には触媒C1及びC3に対し及びマイクロカプセルM2及びM4に対し非透過性である。
【0077】
系300が実施され得る多数の様式があることは容易に理解されるであろう。例えば、1つの様式において、生成物P1は基質S2として作用し、生成物P2は基質S3として作用しそして生成物S3は基質S4として作用する。この様式において、チャンバー315へ基質S1を加えることは、C1によるS1のS2への転換を生じる。S2は次にカプセル化材料E2を通ってマイクロカプセルM2に入り、そして反応プロモーターC2によりS3に転換され、そしてS3は次にE2を通って膜325を通過しM2から出る。それは次にC3により転換されS4を形成する。カプセル化材料E4を通ったマイクロカプセルM4内へのS4の進入は、C4によるP4への転換をもたらし、P4は次に反応のカスケードの最終生成物としてE4を通ってM4を出る。この様式は、例えば、C3とC4が相容性がなくそしてC1とC2が相容性がない場合、及びP4がC1と相容性がなくそして膜325を透過し得ないものである場合、有用であり得る。あるいは、この様式は、最終生成物P4のS1及びS2からの、及び/又はC1からの分離を単純化する場合において有用であり得る。その他の可能な様式において、C2はS1及びS2の平衡触媒であり、そしてC4は、S3及びS4の平衡触媒である。この様式において、P2はS1として作用し、P1はS4として作用し、そしてP4はS3として作用する。したがって実施において、S1及びS2が一緒にチャンバー315へ添加された場合、S1は、C1によりP1に転換され、そしてS2はマイクロカプセルM2に入り、そこでS1により平衡化されてP1を製造するための触媒C1の更なる供給材料をもたらす。P1は次に膜325を通ってチャンバー320に入る。それは次にマイクロカプセルM4に入り、そこでS3(即ちP4)と平衡化されるS4として作用する。S3はマイクロカプセルM4を出てそして触媒C3により最終生成物P3に転換される。上記のように、系300の実施の多数のその他の様式が容易に想定され得る。さらに、より複雑な反応のカスケードを誘導するた
めに、選択的透過性膜により従来のチャンバーから分離されそしてカプセル化された及び/又はカプセル化されていない反応プロモーターを含む、更なるチャンバーが追加され得る。
【0078】
本発明の実施態様において、カプセル化された触媒は、キラル分子の光学活性中心のラセミ化をもたらし、そしてその他の触媒は、光学異性体の一方の選択的反応をもたらす。多くの化合物が、同様の機構か又は異なる機構により2つ以上の異性化され得る中心を含むことが明白であろう。例えば、分子は、2つの不斉中心を含んで、複数対のジアステレオマーの可能性をもたらし得、又は、それは不斉中心及び二重結合を含んで、二重結合のシス及びトランスの両方の光学異性体の可能性をもたらし得る。後者の場合に、例えば、この実施態様は、拡張され得、それにより、1つが異性部位(即ち二重結合又は不斉中心
)の各々を平衡化する2つの平衡化触媒が存在し、そして、各々が異性部位の特定の立体構造を選択的に転換する2つの選択的触媒が存在することになる。このようにして、この実施態様は、ジアステレオマーの混合物から又は2つの異性部位を有するその他の化合物から、1つ以上の生成物を、選択的にもたらす方法を提供し得る。
【0079】
幾つかの実施態様において、本発明は、本発明によらなければ相容性のない触媒の共存を可能にする新規の系、即ち1つの触媒を囲みそしてそれを他の触媒から保護するポリマーナノカプセル、の使用に関する。
【0080】
ポリマーナノカプセル及びその製造は、薬剤/DNA送達、バイオセンサーの分野、ポリマー化学、ナノ粒子合成、及び触媒に関する興味深い研究分野を構成する。特に、適切なテンプレートへ層毎の(レイヤー−バイ−レイヤー(Layer−by−Layer)(LbL))自己組織化を用いたポリマー電解質(PE)ナノカプセルの製造が、広く研究されてきた。得られたポリマー電解質多層カプセル膜は、強固であり、種々の溶媒に安定で、そして小分子に対し選択的透過性を有するが巨大分子には有さないことが見出されてきた。これらの特性は、中空ポリマー電解質ナノカプセルが、小分子及び生成物を容易に膜を横切らせる一方で巨大分子触媒(酵素又はナノ粒子のような)をカプセル化し得るので、該カプセルを接触ナノリアクターの優れた候補にする。
【0081】
純粋なエナンチオマーを得る1つの方法は、キラル資源の速度論的分割である。これは、ラセミ混合体の1つのエナンチオマーを、その他のエナンチオマーに対するよりもより速くその生成物へ転換する、選択的触媒を必要とする(図2(a))。図2は、(a)基質SSが生成物PSへ転換されるよりも速く、基質SRが生成物PRへ(例えば触媒により)転換されエナンチオマー過剰率の生成物PRを生じる従来の速度論的分割を示し、そして
、(b)分割工程が、(a)におけると同様に起こり、エナンチオマー過剰量の基質SS
及び生成物PRを生じる、動的速度分割を示す。ラセミ化触媒はしかしながら、同時に過
剰量のSSエナンチオマーをその場でSRに転換する。分割工程が非常に選択的(kR>>
kS)でありそしてラセミ化反応(Krac>>Kr,Ks)よりもはるかに遅い場合、ほぼ定量的な収率のPRが得られ得る。
【0082】
しかし、従来の速度分割は、最大理論収率の50%までに限られる。動的速度分割(DKR)は、理論的には、1つのエナンチオマーの定量的収率を与えるために、出発物質のその場でのラセミ化の取り込みによって、この方法を改良している(図2(b))。異性化触媒及び選択的分割触媒の組み合わせを含む天然に起こる工程は知られている(図3)。図3は、フルクトース−1,6−二リン酸(FBP)が、酵素アルドラーゼにより開裂されて、異性体生成物であるGAP及びDHAPを生成する、解糖経路の一部を示す。これらの生成物は酵素TIMにより異性化され、そして異性体GAPのみが、同時に酵素GADPHにより1,3−ビスホスホグリセレート(1,3−BPG)に転換される。
【0083】
第二級アルコールのDKRは、特に、広く研究されてきた。これらの反応は、一般的に、ラセミ化触媒と組み合わせて、分割工程を行なう選択的エステル化触媒としてリパーゼを用いることにより行なわれてきた。このラセミ化触媒は、ロジウム、パラジウム及びルテニウム種を含んでいた。実際、CALB酵素のルテニウムラセミ化触媒との組み合わせは、非常に効果的でありかつ一般的なDKRであることが証明されており、種々の第二級アルコール基質並びにジオール及びキラルな第一アミンへ適用されている。固体酸ゼオライトH−βをラセミ化触媒として用いCALBを用いたベンジル第二級アルコールのDKRもまた報告されてきたが、ゼオライトを二相性の系を経てpH感受性の酵素から隔離することを含むものであった。これは、DKR反応における触媒の間の相互許容性の非常な重要性を示し、そして、成功度のより高い類のルテニウムラセミ化触媒さえもが徹底的に研究されて、酵素とより相容性のある触媒が発明された。
【0084】
カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼB(CALB)は広範な化学合成において使用される非常に多目的の酵素触媒である。イースト菌のカンジダ・アンタークティカより分離され得、そしてトリグリセリドの高い選択的加水分解を行なう。CALBは、317のアミノ酸残基から構成され、33kDaの分子量を有する。それは、約30Åx40Åx50Åの寸法を有する球形のタンパク質であり、そして酵素の高い基質選択性及び立体選択性の原因と考えられている、活性サイトに対する非常に限られた入り口を含む。CALBはまた、種々の基質の選択的エステル化(及び加水分解)を触媒し、そして多くの異なる有機媒体中において活性を示してきており、有機合成における使用のための非常に有益な選択的触媒となっている。
【0085】
ゼオライトβは、荷電平衡を維持するのに必要な多数のカチオンにより相殺された3Dの負荷電した骨格を有する、多孔質のアミノケイ酸物質である(図4参照)。その細孔は、構造全体にわたり相互に垂直に広がる直径6.6又は5.6Åのチャネルを構成する。1967年に最初に合成された、その物質は広く、クラッキング、アルキル化、異性化及び不均化のような炭化水素の種々の触媒反応に使用されてきた。ゼオライトβは容易に合成され、そしてその合成手順は変化されて200nmほどの小さなナノ結晶を与え得る。荷電平衡が、対イオンとしてプロトンを用いて達成された場合、物質は非常に酸性になる。この酸の形態のゼオライトH−βは、強い、水溶性溶媒中に漏れ出ない局在化した酸性を示す。図4は、ゼオライトβの構造を示し、(a)細孔チャネルを示す骨格構造:交点におけるSi/Al原子、線の中間点におけるO原子;そして(b)骨格上に負荷電を生じさせるシリカ網状構造中のAlドーパント、そして対イオン(A+)を示す、構造の略
図を示す。
【0086】
ゼオライトH−βの局在した酸性は、ゼオライトH−βをカプセル化のための望ましい酸触媒にし、いずれの酸触媒された反応もカプセル内でのみ起こることを確実にする。さらに、異種の触媒として、ゼオライトは、未だ小分子基質及び生成物に対し浸透性であるカプセル内に容易に保持され得る。ゼオライトはまた、酸性と水素化−脱水素化特性の両方が組み合わさる二機能性触媒としてのその能力においてカプセル化のための、有利な触媒である。しばしば、酸ゼオライトは、微細に分散された金属、例えば、白金又はパラジウム金属を保持しており、これらの触媒活性の両方を有する物質を生じる。これらの二機能性触媒は、炭化水素の種々の触媒反応のために広範に使用されてきた。カプセル化における選択的膜の使用と組み合わされた二重触媒機能を担持する単一のゼオライトの能力は、選択的触媒の新規な系を生じさせ得る。例えば、ケトンは第二級アルコールへと還元され得、そしてこの生成物は、カプセル化された二機能性触媒の二重の水素化−脱水素化活性によりそして酸性度によりその場でラセミ化され得る。さらに、触媒は1つの生成物エナンチオマーのみを逃させる選択的膜を用いてカプセル化され得る。そのような系は、例えば、100%までの理論収率で、高価でそして合成的に困難な従来の選択的触媒の必要なしに、選択的な還元をもたらし得る。
【0087】
レイヤー−バイ−レイヤー(LbL)組織化は、強固な多重層のフィルムを形成するために、正荷電した種と負荷電した種の表面上への交互の吸着を必要とする。ポリマー電解質(PE)、即ち電解質の基を含むモノマー単位を含むポリマー、がこの目的に非常に好適である。これらは、殆どの表面に対し良好な粘着性、及びコーティング工程中の溶液状態の同様に荷電した種の間での静電斥力により起こるフィルムの厚さの自動調整を示す。本文献中で一般的に使用される幾つかのポリマー電解質の例は、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)及びポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)(図5)を含む。図5は、ポリマー電解質(a)ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(
PSS)及び(b)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)の構造を
示す。
【0088】
LbL組織化は、本来は、平坦な表面上に薄いポリマー電解質フィルムを製造するために使用され、最近では、コロイド粒子上に多層膜を生じさせるために改良されてきた。有機又は塩のコロイドテンプレートを使用することにより、テンプレートの溶解を経て中空の状態にし得るナノカプセルを製造することが可能である。得られたナノカプセルは溶液中で安定でありそしてそのテンプレートの形状を保持する傾向にある。伸張及び乾燥はカプセルを変形し得るが、これらの影響は一般的に水の添加により逆転する。
【0089】
多重層PEカプセル膜もまた、高分子量の分子を排除するが低分子量の種の拡散を許容する、半透性の非常に有用な特性を示してきた。この特性は、酵素及び不均一触媒のような巨大分子種をカプセル化させるのに重要である。
【0090】
ポリマー電解質ナノカプセルは、薬剤/DNA送達、バイオセンサリックス(biosensorics)、ポリマー化学、ナノ粒子合成及び触媒における多くの用途を有する。LbL組織化は、触媒のカプセル化させて、多くの有用な特性を有する細胞様ナノリアクターを形成してきた。PEカプセルの半透性を考えると、膜の構成成分の慎重な選択が、カプセル外部の環境から触媒を保護する一方、必要な基質がカプセル内部に拡散し触媒に到達させる、触媒系を生じ得る。カプセルは、ナノ粒子又はポリマー構造の組織化のためのテンプレート又はチャンバーとして、一般的にこれまでは単独で使用されてきた。その膜に埋め込まれた触媒物質を有するカプセルは、図6に示すような、ナノリアクターとして成功裏に使用されてきた。図6は、その膜中のPdクラスター(2モル%)を含むナノカプセルにより触媒されたフェニルアセチレン(1)及び4−ヨードトルエン(2)の間のソノガシラ(Sonogashira)クロスカップリング反応を図示する。その生成物p−メチルジフェニルアセチレン(3)は>99%の選択性で形成された。さらに、生合成において使用される酵素のカプセル化におけるかなりの関心が寄せられてきており、触媒的に活性の酵素含有ナノリアクターが成功裏に製造されてきた。さらにまた、これらのナノリアクターは、半透性のカプセル膜を行き来し得ない高分子量の阻害剤からカプセル化された酵素を保護することが見出されてきた。さらに、キラルな、触媒を取り巻く選択的な透過性膜の使用は、立体中心を生じる反応においてエナンチオマー過剰率を生じ得る。従来は、薄い、光学活性なポリマー電解質膜が幾つかのエナンチオ選択性を示し、そして、ゆえにその様な膜の優れた候補となり得た。結局、膜におけるキラル成分の使用は、試薬及び/又は生成物エナンチオマーの選択的透過性によって反応におけるエナンチオ選択性を引き起こし得、そして新規な不斉触媒への経路を提供する。
【0091】
ポリマー電解質膜の巨大分子種に対する非透過性は、カプセル化によって触媒の区画化における用途を生じさせる。単一反応系において多数の、相互に拮抗関係にある触媒を組み合わせる能力は、長い間多くの研究、特に動的速度分割の分野においての対象であった。本課題に対する過去の解決方法は、膜リアクター、二相系、及び触媒の逐次的な添加を
含んでいた。しかし、本発明は、膜リアクターの組織全体を真にナノスケールの寸法へと縮小することにより、包括的な、ワンポットでの単相溶液(その関連した利益を伴う)を見出し得ることを開示する。
【0092】
本明細書には、pH感受性の酵素カンジダ・アンタークティカ由来リパーゼB(CALB)を固体酸ゼオライトH−βから、後者のカプセル化により保護し、それにより、ワンポットでの第二級アルコールの動的速度分割(DKR)における両方の触媒の使用を可能とする、高分子電解質カプセルの使用が記載されている。この方法を用いて、従来の速度分割の50%の理論収率を明らかに超えた(したがって、動的速度分割の実施を証明する)収率を得た。さらにまた、カプセルの防護能力が実証された。
【0093】
ポリマー電解質であるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)及びポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)を、本文献記載のLbL法を用いてゼオライトH−β粒子の表面上に交互に沈着させた。紫外線領域において励起された場合カプセル膜は弱い青色の蛍光を示したので、ゼオライト粒子のカプセル化は蛍光顕微鏡検査を使用して確認された(図7)。図7は、直接コーティングされたゼオライト粒子(x100拡大)を示す。
【0094】
カプセル状ナノリアクターへの別の経路として、炭酸カルシウムをゼオライトナノ粒子上に沈殿させ、8乃至10ミクロンの平均寸法を持つ球状のテンプレートを得る。これらのテンプレートのPEコーティング及び炭酸カルシウムマトリックスの溶解によって、“ルーズな”ゼオライト粒子を含む中空のカプセルを得る。カプセル化に先立つイオン交換を経た蛍光色素分子[Ru(bipy)3]2+の静電固定化によるゼオライト粒子の蛍光
標識化が、蛍光顕微鏡検査を用いた、得られたナノリアクターの試験を可能にした(図8)。図8はポリマー電解質カプセルにより取り囲まれた蛍光標識ゼオライトを示すゼオライトナノリアクターの落射蛍光顕微鏡写真(x100拡大)を示す。
【0095】
これらのナノリアクターを、第二級アルコールのラセミ化、即ち酸ゼオライト(特に、ゼオライトH−β)がよく触媒することが知られている反応、の触媒として試験した。炭酸カルシウムテンプレートを経て製造されたナノリアクターは、塩基性のテンプレートによる酸ゼオライトの抑制に起因して、如何なる活性も示さなかった。図9は、種々のゼオライト触媒の(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化の経時変化を示す。図9に示すように、直接コーティングされたゼオライトは、PEカプセル膜を通った基質の分散に起因して、より小さい減少のみでその触媒活性を保持した。反応条件は(R)−1−フェニルエタノール(100μL、0.827mmol)、ゼオライト触媒(10mg)、n−ドデカン(内部標準、100μL、0.439mmol)、トルエン(50mL)、空気雰囲気下、60℃であった。
【0096】
ラセミ化の触媒的に活性なゼオライトナノ粒子を得たので、第二級アルコールのDKRを行なうために酵素CALBと組み合わせることが残された(図10)。図10は、ゼオライトH−βナノリアクター及びCALBを用いて、酢酸ビニルをアシル供与体として用いた1−フェニルエタノールの動的速度分割を図示したスキームである。
【0097】
触媒のゼオライト/酵素のこの組み合わせは、従来からこの反応に使用されているが、触媒の互いからの肉眼視できる分離を達成するには、二相系及び素固定化が必要とされる。殆どの酵素に関して、CALBの活性及び選択性はpHに非常に敏感で、そして酵素はしたがって、酸ゼオライトと相容れないことが予想された。巨大分子酵素に対し非透過性の膜を有するゼオライトナノリアクターを使用することにより、DKRを行うために両方の酵素が単一の系に取り込まれ得ることを目した。
【0098】
DKR反応は、種々の溶媒、基質及び基質/触媒濃度比を用いて試みられた。反応条件の各組み合わせについて、2種の対照が採用された:ひとつはゼオライトナノリアクターの代わりにカプセル化されていないゼオライトを用いたもの、そして他方はゼオライトを用いなかったものである。これらの対照は、触媒相容性に対するナノカプセルの効果を評価するために使用された。
【0099】
結果は幾つかの傾向が与えられた。第一に、酵素で選択されたエステルの収率及びee‘sは、遊離の、カプセル化されていないゼオライトを酵素に添加した場合に、一般的に悪く、酸ゼオライトはpHに感受性の酵素を確かに妨害していることが示唆された。第二に、使用された場合、カプセルは、有意にこの妨害を弱め、カプセル化されていないゼオライトよりもナノリアクターを用いた反応について顕著により高い収率及びee’sを与えた。これは、ナノリアクターの内部からの巨大分子酵素の排除、そしてしたがってその酸ゼオライトからの保護に起因していたと思われる。別の試験は、経時的なエステル生成物の有意なラセミ化を示さず(予想されていたように)、またゼオライトがそれ自身に対するアキラルのエステル化を有意に触媒せず、したがって、ee(エナンチオマー過剰率)及び収率の減少が酵素の障害によることを確認した。PEカプセルそれ自身は、如何なる触媒活性も示さなかった。
【0100】
第三に、ゼオライトナノリアクター及びCALBの相対濃度を調整することにより、所望の生成物エナンチオマーの収率は、従来の分割の50%の関門を明らかに超えて得られ、したがってDKRが起きたことを証明した。2種の試験された基質では、得られた最良の結果は、81%eeの1−フェニルエタノールにおいて63%の収率で(R)−エステル(全エステルの収率の70%)を、そして、92%eeの1―インダノールにおいて57%収率の選択されたエステルエナンチオマー(全エステルの収率の59%)である。おおよその定量的転換が得られたが、多くの出発物質が脱水の副反応で失われ、全エステルの収率を制限した。更なる反応の最適化(特に、競合する脱水反応の抑制、例えば、水が豊富な溶媒の使用を通じて)はよりよい収率及びエナンチオ選択性に通じ得る。
【0101】
要約すれば、本発明者らは、触媒的に活性なナノリアクターを製造し、そしてこれを用いて、第二級アルコールのDKRのための新規の触媒系を可能とした。より一般的には、これは、将来多触媒系のより広範で柔軟な使用を可能にし得る触媒保護の新規手段を示す。ゼオライトH−β粒子はポリマー電解質のLbL沈着を用いカプセル化されそして、得られたナノリアクターは触媒的に活性であることが見出された。大きな内部の容積を持つナノリアクターもまた、ゼオライトを取り囲む炭酸カルシウムテンプレート(コーティング後溶解される)を用いて製造された。
【0102】
さらにまた、ナノリアクターは酵素CALBと組み合わされて、第二級アルコールの動的速度分割への新規な経路を提供した。その反応は、1−フェニルエタノール及び1−インダノールについて成功裏に行なわれた。70%までの生成物の収率が達成された。92%までのエナンチオマー過剰率が達成された。さらにまた、触媒のカプセル化は生成物の収率及びeeを有意に改善したため、カプセル膜がpH感受性の酵素を酸ゼオライトから積極的に保護することを示唆する。これは、DKRにおいてだけでなくより一般的に触媒保護及び反応の区画化のための、ポリマー電解質ナノリアクターの実用性を実証するものである。
【0103】
単一の系に互いに拮抗関係にある触媒を取り込む能力及び反応を区画化する能力は、広範な用途、特にカスケード反応及びDKRへの用途を有する。
【実施例】
【0104】
実施例は、動的速度分割に対する本発明の適用を概説する。カプセルの合成を述べる。
ゼオライトH−β及びカンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼB(CALB)は、単一の系内に組み合わされた場合、第二級アルコールの動的速度分割を行い得る、2種の相互に拮抗する触媒(前者の酸性度及び日後者のpH感受性に起因して)として存在する。水性の系においてさえ非常に局在した酸性度を示す固体酸触媒としての、ゼオライトH−βを、カプセル化の対象とし、そして対応するポリマー電解質ナノリアクターを形成する種々の方法が検討された。これらのナノリアクターは同定され、最終的に、いくつかの第二級アルコールの良好な動的速度分割のためにリパーゼと組み合わされ、それによって、多触媒系における触媒保護及び分離の新規な手段を実証した。
【0105】
ナノカプセルの製造の最も一般的な合成戦略の一つは、正荷電したポリマー電解質及び負荷電したポリマー電解質の交互の層でテンプレートをコーティングし、次いでテンプレートを溶解することである。炭酸カルシウムは、小さな(1乃至10μm)、球状の粒子が容易に製造されそして最後にDETA溶液中への溶解により簡単に除去されるため、特に便利なテンプレートである。このテンプレートの穏やかな除去は、幾つかのコロイド状のテンプレートに必要とされるより過酷な酸性条件と対照的である。
【0106】
炭酸カルシウムのコアテンプレートは、文献による方法により、塩化カルシウムの水溶液と炭酸ナトリウムの水溶性溶液を激しく攪拌させながら混合した後に沈殿させることにより得られた。図11は、種々の形態の炭酸カルシウムテンプレートの透過型光顕微鏡写真(x40拡大)を示し:(a)球状及びブロックの混合物(粒子サイズ5乃至20μm)を示す。(b)大部分が球状のサンプル(平均直径〜5μm)。したがって、光学顕微鏡検査を用いた試験において、テンプレートの粒子サイズ及び形態は、攪拌速度及び時間により非常に有意に変化し、不定型の球状、結晶状ブロック、又は最も一般的には、2種の何らかの混合物を与えることが見出された(図11(a)参照)。粒子サイズは5乃至30μmの間で変化した。塩化カルシウム溶液を炭酸ナトリウム溶液へ3分以上かけて500rpmにおいて攪拌しながら緩やかに添加することによって、より均一な球状形態のそして平均直径が5μm(光学顕微鏡検査により測定され、図11(b)に示す)のテンプレートが得られた。
【0107】
中空のポリマー電解質ナノカプセルは、炭酸カルシウムのコアテンプレートをポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA)溶液及びポリ(4-スチレンスルホン
酸ナトリウム)(PSS)溶液を用いた数回の交互の処理により(LbL)コーティングし、次いでコアをEDTA溶液を用いて溶解することにより製造された。図12は、中空ポリマー電解質カプセルの顕微鏡写真:(a)透過型光学顕微鏡写真;(b)同じ領域の落射蛍光顕微鏡写真;そして(c)画像化のために必要とされる真空条件下で破壊し凝集された、カプセルのSEM、を示す。カプセルは、透過型光学顕微鏡検査を用い試験され、そして図12(a)に示すように、テンプレートの球状形態を保持し、約2乃至3μmの直径を有することが見出された。カプセルはまた、落射蛍光顕微鏡検査を用いて試験されそして、紫外線領域において励起された場合に弱い青色の蛍光を示したが、これは蛍光性PSSポリマー電解質が原因であり得る(図12(b))。カプセルのSEM画像化が得られ、乾燥直後のカプセルの形態のある程度の歪みが見られた(図12(c))。これらのカプセルは3 PDA/PSS二層で構成されているが、製作工程は一度に1つの層の沈着を含み、したがって、PE層の数、したがって、そしてカプセルの厚さを厳密に調整することを可能にする。この方法はまた、透過性を調整するため使用する可能性があり得る、ナノカプセルの内部、外部、及び正味の荷電を調整することを可能とする。
【0108】
ゼオライトH−βは、その非常に局在化した酸性活性のために、カプセル化の候補触媒と見なされた。特に、そのプロトンは負荷電したフレーム構造上にしっかりと固定されているため、カプセル化ゼオライトとの如何なる反応も完全にカプセル内で起こるはずである。カプセルはしたがってゼオライトと反応することから同じ系内での酵素を保護し、一
方基質及び生成物が通常通り透過しそして反応することを可能にするために使用され得ることが想定された。
【0109】
ゼオライトβは、シリカ源としてアエロジル(Aerosil)200をそしてテトラエチルアンモニウムヒドロキシドをテンプレートとして用いて製造された。X線回折像は、ゼオライトβの特徴である2θにおいて7.8及び22.58°のピークを有していた(図13参照)。SEMを用いた試験において、ゼオライト粒子は、形状はおよそ球状でありそして直径においては約200nmであることが観測された(図14)。図14は、ゼオライトβのSEMを示し、約200nmの平均直径の結晶の凝集物を示す。
【0110】
酸性形態のゼオライトH−βを、水溶性硝酸アンモニウム水溶液を用いたゼオライトのイオン交換し、次いで空気中で550℃において終夜焼成することにより得た。
【0111】
ゼオライトそれ自身は、SEM技術を用いて容易に画像化し得る一方で、ゼオライトのカプセル化は、分析することがより困難であった。SEMはカプセル内部を画像化することができず、そして従来の透過型光学顕微鏡は1ミクロン未満のゼオライト粒子の解像に非常な困難性を伴う。しかし、既に合成されたポリマー電解質カプセルの蛍光特性を考慮すると、落射蛍光顕微鏡は、ゼオライトのカプセル化を測定する良好な分析法と思われた。このような方法で、通常解像し得ないゼオライト粒子は強い蛍光色素分子で標識され得、そしてしたがってこれらのカプセル内を画像化され得た。さらにまた、ゼオライトβは、荷電平衡を達成するためにカチオンを必要とする負荷電したフレーム構造を有するため、蛍光標識は、好適な蛍光性カチオンと対イオンのイオン交換により容易に達成され得る。金属錯体[Ru(bipy)3]2+は良く知られた蛍光色素分子でありそしてその蛍光
特性は広く研究されてきたため、該錯体が選択された。[Ru(bipy)3]Cl2の水溶液を用いたゼオライトH−βのイオン交換は、乾燥後、蛍光顕微鏡を用いて容易に同定できる、桃色の蛍光性のゼオライト粒子を生じた。
【0112】
水溶液からのポリマー電解質の表面沈着(LbL組織化)は、ゼオライト粒子をカプセル化する理想的な方法をもたらした。これは、第一に、炭酸カルシウム コアテンプレートにゼオライト粒子を埋め込むこと、次いでポリマー電解質コーティング及びテンプレートの溶解によりにより試みられ、 “遊離の”ゼオライト粒子は、該粒子がなければ中空
の、カプセル内に残存したままであった。ゼオライトを含む炭酸カルシウムテンプレートは、炭酸ナトリウム水溶液及び塩化カルシウム水溶液を、水中のゼオライトの懸濁液へ急速に攪拌しながら徐々に添加することにより製造した。この工程は、直径8乃至10μmの、不定形の、球状の炭酸カルシウム粒子を生じた(光学顕微鏡により測定された)。蛍光標識されたゼオライトを使用した場合、落射蛍光顕微鏡検査では、個々のゼオライト粒子は懸濁液中に遊離したままでなく、実際、炭酸カルシウムテンプレート中に埋め込まれたことが図15に示すように明らかとなった。図15は、蛍光標識されたゼオライトβを含む炭酸カルシウムテンプレートの顕微鏡写真(x40拡大):(a)落射蛍光顕微鏡画像(λex450−490nm);及び(b)蛍光性が観測された領域が炭酸カルシウムテンプレートにより占有されていることを示す同様の領域の光学顕微鏡画像、を示す。これは、テンプレートにゼオライト粒子が埋め込まれたことを示す。
【0113】
その後の、これらのテンプレートのカプセル化及びEDTA水溶液を用いた炭酸カルシウムの溶解によりカプセル化ゼオライトナノリアクターを得た。落射蛍光顕微鏡検査において示されるように(図8)、標識化ゼオライトの橙色の蛍光は、カプセルの青色蛍光内でのみ観察され、これはゼオライトのカプセル化が成功であったことを示す。
【0114】
ゼオライトはまた、炭酸カルシウムの使用なしにその表面の直接的PEコーティングによりカプセル化された。この手順は、炭酸カルシウムの沈着及びその後の溶解に関する余
分な工程を回避する利点を有するものであった。この方法によるゼオライト粒子のカプセル化は、落射蛍光顕微鏡画像(蛍光色素コーティングを示す(図7(b)))と透過型光学顕微鏡画像(ゼオライト粒子を示す(図7(a)))を比較することにより確認された。このコーティング方法は、カプセル化が透過型光学顕微鏡画像中のゼオライト粒子と、落射蛍光顕微鏡中の蛍光色素コーティングの並存により分析され得るので、蛍光色素標識の必要性を排除した。2種の異なるポリマー電解質溶液:0.5Mの塩化ナトリウム添加物を含むものと含まないものを使用した。両方の方法は有効なカプセル化を与えた。
【0115】
コーティングされたゼオライトナノリアクターの全ての形態の触媒活性を、それらが(R)−1−フェニルエタノールをラセミ化する速度を観察することにより試験した。図9に示され得るように、遊離のゼオライトは基質をラセミ化するのが最も速く、一方、塩化ナトリウム添加物を含まないポリマー電解質溶液でカプセル化したゼオライトはやや緩やかであった。この反応速度における小さな減少は、カプセル膜を通した基質の拡散の制限に起因すると思われる。PEカプセル膜を通した基質の拡散に起因する触媒活性における同様の減少が、その他の用途において報告されている。
【0116】
塩化ナトリウム0.5Mを含むポリマー電解質溶液でコーティングされたゼオライトは、基質を最終的にラセミ化したが(18時間後に74%ee、3日後に9%であった)、はるかに活性が少なかった。触媒活性におけるこの減少は、コーティングの工程の間のポリマー電解質溶液中のNa+イオンによる酸部位のイオン交換によるものであった。しか
しながら、炭酸カルシウムテンプレートを経て製造されたゼオライトナノリアクターは、1日後であっても如何なるラセミ化も示さなかった。この活性の欠如は、沈殿の間の塩基性炭酸カルシウムテンプレートによるゼオライトの酸性度の抑制によるものと思われる。本発明者らは、両方の2種類のナノリアクターの活性の損失は、希酸溶液を用いたイオン交換により覆し得、これらの工程中の活性の損失の機構の試験及び触媒の再活性化の方法を提供するものであると仮定している。最終的に、空のナノカプセルそれ自身は基質のラセミ化を示さないことは特記すべきである。
【0117】
塩化ナトリウム添加物なしでコーティングされたゼオライト粒子が、カプセル化されたサンプル中で最も良好な触媒活性を示したため、この方法でコーティングされたゼオライトのみを以下の全ての反応においてナノリアクターとして採用した。
【0118】
キラルな第二級アルコールのラセミ化の可能性のある方法が多数存在する。図16は、(R)−1−フェニルエタノールの酸触媒されたラセミ化の機構を示す。酸性条件下において、キラルアルコールは水酸基のプロトン付加、水の喪失、そしてプロキラルの平面のSP2のカルベニウムイオンの形成によりラセミ化され得る。その後の水の添加が、非選
択的でありそして、したがって、ラセミ混合物が生じる(図16)。ゼオライトH−βのような酸性ゼオライトによるラセミ化の機構は、ルイス酸性でなく、ブレンシュテット(Bronsted)酸性により触媒されることが図16に示すように証明された。確かに
、カルベニウム中間体の製造がさらに、基質の存在下のゼオライトの色の変化、1−フェニルエタノールの場合において橙色でそして1−インダノールの場合において桃色、によりさらに証拠付けられた。同様の色の変化が、ゼオライト上の関連するカルベニウムイオンの形成によるものと考えられた。さらにまた、ゼオライトの負荷電したフレーム構造及び分子次元の細孔(約6Å)はカルベニウムイオンの優れたホストである。この特性は、ゼオライトをカルベニウムイオンの生成及び安定化のための優れた媒体とする。これらの特性は、ゼオライトH−βのラセミ化触媒としての有効性に貢献するものと思われる。
【0119】
ゼオライトの細孔中のカルベニウムイオンの形成及び安定化は問題も引き起こした。長い反応時間にわたり、ゼオライトは、全ての基質を消費する傾向にあり、それをカルベニウムイオンへか又はさらにまた脱水された生成物へかのどちらかに転換する(図17)。
図17は、副生成物としてスチレンを生じる副反応の脱水を示す、(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化の機構を図示する。実際に、1−フェニルエタノールのラセミ化において、スチレンが経時的に量を増して形成された。これの脱離は、水が十分な環境下において反応を行なうことで抑制され得る。残念なことに、分割工程としてのリパーゼ触媒されたエステル化を用いたDKR反応において、過剰の水も、生成物のリパーゼ触媒された加水分解をまた促進し得、エステル化反応を損なう。これが理由で、二相系が、従来のDKR反応の酵素とゼオライトの相容性を解決する簡便な方法として試みられてきた。
【0120】
カンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼBは水性製剤リポザイム(Lipozyme)CALB Lとして提供された。この製剤は、殆どの有機溶媒とのその非混和性(そしてしたがってこれらの媒体中でよりゆるやかな反応を行なった)に起因して並びにそのゼオライト触媒を不活性化する傾向(恐らく、水性製剤中の保存性のある塩によるイオン交換に起因する)に起因して使用には不適切であった。したがって、該酵素は、脱イオン水に対し十分に透析されそして凍結乾燥され、淡黄色乃至橙色の薄片として純粋な酵素を生じた。凍結乾燥単独では、水性製剤中の抗凍結剤(グリセロール及びソルビトール)の存在により効果的でない。
【0121】
凍結乾燥された酵素の完全性を期すために、その活性は、CALBにおいて先に成功裏に使用された種々の有機溶媒中で、これらの溶媒中で酢酸ビニルを用いた1−フェニルエタノールのエステル化速度をモニターすることにより試験した。すべての場合において、(R)−アセチルエステルが>99%エナンチオマー過剰量で選択的に形成された。さらに、1−フェニルエタノールの(R)−エナンチオマーの選択は文献中に示されているリパーゼの一般的なエナンチオ選択性の傾向と一致するものであり、基質の置換基の立体的かさ高さ及び酵素の活性部位の立体化学から大いに予測され得るものであった。一般的に、基質の立体的な大きさは酵素の選択性に影響を与え、そして一般的に、与えられた基質についてのリパーゼとプロテアーゼの対照的なエナンチオ選択性を与える。
【0122】
図18は、種々の溶媒中で酢酸ビニルを用いた1−フェニルエタノールのCALB触媒選択的エステル化の経時変化を図示するグラフを示す。
反応条件:ラセミ体の1−フェニルエタノール(20μL、0.165mmol))、酢酸ビニル(10等量、2等量/時間)、乾燥CALB(10mg)、n−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)、溶媒(10mL)、空気雰囲気下、60℃。図18に見られ得るように、オクタン及びトルエンが試験された中で最も効果的な有機溶媒であり、一方、より極性のあるTHF及びアセトニトリルは効果がより少なかったという結果が与えられた。この疎水性と共に活性が増加する傾向は、CALB及び酵素一般の両方において良く知られている。水は、酵素の周囲に酵素に欠かせないある程度の潤滑性及び柔軟性をもたらす単層を形成することが仮定されてきた。疎水性溶媒は、したがって、酵素はこれらから水をより容易に抽出し得るため、より大きな活性をもたらす。
【0123】
触媒、カプセル化ゼオライトナノリアクター及びCALBの個別の特性を試験したので、それらの単一の反応系中に共存する可能性を試験することが残された。動的速度分割は、出発物質の選択的転換及びその場でラセミ化の両方を必要とするため、この目的には優れた試験反応であった。この場合において、第二級アルコールの動的速度分割は、ラセミ化触媒としてカプセル化ゼオライトをそしてエナンチオ選択的エステル化触媒としてCALBを用いることにより試みられた(図10参照)。これらの反応は、種々の条件下、様々な溶媒そして相対的な触媒及び基質の濃度において行なわれた(表1参照)。基質1−フェニルエタノールは、ラセミ化及びCALB触媒選択的エステル化の両方の場合に先に試験されたため、そしてまたそのエナンチオマーはキラルGCを用いて良く分割されることが知られているため、該基質が選択された。対照反応もまた、コーティングされたゼオライトナノリアクターの代わりに遊離(カプセル化されていない)ゼオライトを用いたも
の、又はゼオライトを用いないものが採用された。これは、ゼオライト−酵素の干渉の影響及びゼオライトカプセル化のこれらの影響を減少させる能力を測定するために行なわれた。
【0124】
【表1】
[a]使用されたゼオライトの形態を指す。
[b]生成物について校正されたGCを用いて測定された、約1−2%内の正確度。
[c]GCを用いて測定された。
表1.ゼオライトH−βナノリアクター及び酵素CALB(10mg)を用い60℃における空気中での1−フェニルエタノールの動的速度分割の結果。
【0125】
【表2】
表2.1−インダノール(10mgCALB、3mgゼオライト)を用いた動的速度分割の試験。
【0126】
表1に示すように、これらの反応の第一の特徴は、ゼオライト触媒がカプセル化された場合に得られる収率及びエナンチオ選択性における顕著な改善、そして、ゼオライトなしと比較して遊離ゼオライトを採用した場合に得られた顕著に悪化したエナンチオ選択性であった。これらのデータはゼオライトが酵素の活性及び選択性を有意に干渉したこと(遊離ゼオライトとゼオライトなしの結果を比較することによって:特に表1のエントリーd参照)、そして、カプセルが採用された場合に、該カプセルはこの干渉を実質的に弱めたこと、の両方を示唆する。この結果は、酵素は、pH感受性のある触媒としてよく知られ、そして酸性又は塩基性環境、本件の場合には局所的に酸性のゼオライト表面、に曝された場合に非常に異なった活性及び選択性を示し得るため、驚くべきことではない。半透過性のカプセルは、巨大分子酵素を排除しそしてゼオライトによる干渉を減少させることが予想された。さらに、有意なエステルのラセミ化を経時的に生じなかったこと、そしてゼオライトは、それ自身における有意なアキラルなエステル化を触媒しなかったことも示され、したがって、eeの減少は酵素の障害に起因することが確認された。
【0127】
さらにまた、より高いエナンチオマー過剰量が、酵素の干渉をさらに減少させるためにより低いゼオライト対酵素の比を用いることにより得られた(表1中のエントリーc及びdを比較されたし)一方、ゼオライトの低すぎる濃度は、DKRが有効に進行するのを可能とするために必要であるものより低くラセミ化速度を減少させ得た(即ち、>50%の収率において:表1中のエントリーa参照)。ゼオライトナノリアクター及びCALBの相対濃度を調整することにより、選択された生成物のエナンチオマー収率は、従来の速度分割の関門である50%に明確に超えたものが得られ、したがって、動的速度分割が起きたことが証明された。現在のところ、得られた最も良い結果は、22時間後の81%eeにおける63%の収率の(R)−エステルである(表1中のエントリーe)。
【0128】
それにもかかわらず、副反応が原因の目的生成物の有意な損失が依然として明らかであった。転換はしばしば定量的(表1中のエントリーc−e)であった一方、大量のスチレンが生成した(カプセル化ゼオライトを使用した場合に最大で26%まで、そして遊離ゼオライトにおいては最大で38%まで)。さらにまた、エステルの全体収率は、よくても65乃至70%に限られたものであり、さらに、脱水副反応の重要性が示された。脱水副反応を考慮に入れたとしても、かなりな量の試薬が、説明できないままであり(例えば、表1中の遊離ゼオライトを使用したエントリーcは34%)、その多くは、安定化したカ
ルベニウムイオンとしてゼオライトの細孔中に捕捉されたことが考えられた。
【0129】
これらの副反応への損失に対する1つの可能性のある解決方法は、反応系へのごく少量の水(溶媒の飽和量以下)の添加である。これは、脱離反応の速度の減少に通じ得るだけでなく、また、酵素触媒エステル化反応速度を有意に増加させ得る。少量の十分量の水を添加することにより、酵素活性における改善が、エステル加水分解速度の同時の増加を凌ぎ得る。
【0130】
1−フェニルエタノールは動的速度分割を成功裏に受けることが観察されたため、幾つかのその他の基質が、プロトコルの一般性を試験するために使用された。実際には、酵素CALBを採用したその他の動的速度分割反応が、様々な基質について成功したことが証明された。成功した基質の幾つかを図19に示す。
【0131】
基質2乃至5(図19)を本発明のDKRプロトコルの候補として試験した。4つの全ては、酵素単独と反応することが見出されたが、幾つかの制限もあった。基質4であるα−ビニルベンジルアルコールは、エステル化が非常に緩やかに行なわれ、48時間後に73%の選択されたエナンチオマーの転換(即ち、37%のラセミ混合物)しか得られなかった。基質5である1−フェニルエチルアミンは、わずか1時間後に両方のエナンチオマーの形態が消費されたが、エナンチオ選択性の予想に反して、ラセミ体の1−フェニルエチルアセタミドを含む、多数の生成物を与えた。さらにまた、2−オクタノール(3)は、適度に迅速に選択的にエステル化された(24時間後に>99%eeの生成物での88%の選択されたエナンチオマーへの転換)一方、ゼオライトH−βと1日反応させた場合には如何なるラセミ化も示さなかった。(−)−メタノール(7)のラセミ化活性もまた試験されたが、1日後にゼオライトH−βとの如何なるラセミ化も示さなかった。
【0132】
これに対し、1−インダノール(2)は、はるかに有望な基質であることを証明した。オクタン及びトルエンにおけるCALB触媒エステル化速度の試験は、図20に示すように、1−インダノールは、非常に急速にそして選択的に(>99%ee)両方の溶媒においてエステル化され、そしてオクタンにおける1−フェニルエタノールよりも更に迅速なものであった。図20は、種々の溶媒中の酢酸ビニルを用いた1−インダノールのCALBで触媒された選択的エステル化の経時変化、及びその1−フェニルエタノールのものとの比較を図示するグラフを示す。反応条件は:ラセミ体の基質(0.165mmol)、酢酸ビニル(153μL、1.65mmol、2等量/時間)、乾燥CALB(10mg)、n−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)、溶媒(10mL)、空気雰囲気下、60℃。
【0133】
エナンチオマーが豊富な1−インダノールへのゼオライトの添加は、非常に急速な基質のラセミ化及び消費を生じ、そしてゼオライトは、カルベニニウイムイオンの生成に起因して色が鮮やかなピンク色に変化した。脱水生成物インデンの形成がまた、ガスクロマトグラフにおいて観察された。
【0134】
1−インダノールに対する個々の触媒の活性を考慮して、DKR反応を、オクタン中でカプセル化ゼオライトナノリアクター及び乾燥CALBを用いて試みた。10mgのCALBと3mgのコーティングされたゼオライトとそしてその他は標準の反応条件を用いて、57%の収率の酢酸1−インダニルの選択されたエナンチオマーを、わずか2時間後に92%eeで得た。1−フェニルエタノールにおいて観察されるように、コーティングされていないゼオライトを用いた対照反応は有意に悪い結果であり、2時間後に83%eeで酢酸1−インダニルの選択されたエナンチオマーが42%しか得られず、ナノカプセルの保護性能を再び確認した。
【0135】
したがって、ゼオライトは、1−インダノール及び1−フェニルエタノールのようなベンジル型アルコールのラセミ化の非常に活性のある触媒である一方、それらは、2−オクタノール及びメタノールのような脂肪族アルコールへは不活性である。この現象は、ベンジル型には共鳴安定化するが、脂肪族とはしない、ラセミ化の工程中に形成されるカルベニウム中間体(図16参照)の相対的安定性におそらく起因する。そのようにして、ゼオライトH−βラセミ化(そして従って本発明のDKRプロトコル)は、α−置換基の共鳴安定化を有する基質に最適である。それでもなお、該プロトコルは、中程度乃至良好なeeでの幾つか基質の>50%の収率の選択されたエナンチオマーを成功裏に製造することが示された。これは、今日までの動的速度分割におけるナノリアクターを使用した触媒保護の初めての例であり、そしてまた、多触媒系の触媒保護の新規な方法を示すものである。
【0136】
実験の詳細
以下の試薬を、入手したままの状態で使用した:水性テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35質量%)、次亜リン酸(50質量%)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(分子量100−200kDa、20質量%水溶液)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(分子量70kDa)、α−メチルベンアセテート、α−ビニルベンジルアルコール、L−メントール(シグマ−アルドリッチ);塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、トルエン、ピリジン(エイジャックス(Ajax));塩化カリウム、1−フェニルエタノール、塩化アセチル、2,2'
−ビピリジン、アセトン(メルク);非晶質シリカ(アエロジル(Aerosil)200)(デグサ(Degussa));水酸化ナトリウム(APS);アルミン酸ナトリウム(50−56質量%Al2O3、40−45質量%Na2O)(リーデル−ハーン(Ri
edel−haen));塩化ルテニウム(III)水和物、塩化パラジウム(II)(ス
トレム(Strem));塩化カルシウム二水和物、炭酸ナトリウム(アナラアール(AnalaR));n−ドデカン(BDH);ヘキサン、酢酸エチル(レドックス(Redox));1−インダノール、(R)−(+)−1−フェニルエタノール、1−フェニルエチルアミン(アルファ−アエサー(Alfa−Aesar));2−オクタノール、インデン(フルカ)。リポザイム カンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼB(1−10質量%水性製剤)はノボザイム(Novozyme)の好意により提供され、そしてプロゲン、スネークスキン(PROGEN SnakeSkin)透析チューブ(10,00MWCO,22mm)を用いて脱イオン水に対し十分透析しそして使用に先立ち凍結乾燥機により凍結乾燥した。クロマトグラフィーを、エイジャックス(Ajax)製のフラッシュカラム用のシリカゲル(230−400メッシュ)を用いて行い、そして分取用薄層クロマトグラフィー(TLC)をメルク製プレート上で実施した。特に定めのない限り、溶媒は、隔膜ポンプ及び動圧調節装置を装着したロータリーエバポレーターを用いて除去した。トルエン及びジエチルエーテルは、酸素を除去しそして活性アルミナにより、文献中に記載されたものから改良した装置を用いて乾燥させた。
【0137】
1H NMR(300.13MHz)及び13C{1H}NMR(75.48MHz)スペクトルを、ブルカー(Bruker)DPX300スペクトロメーターを用いて300Kにおいて測定し、そして残存の溶媒を内部標準として測定した。マススペクトルを、70eVのイオン化エネルギーにおいて、15mZB−5フィンニガン(Finnigan)LCQイオントラップ質量分析計(ESI)又はフィンニガンポラリス(FinniganPolaris)Qイオントラップ質量分析計を用い、カラム、5%フェニル95%ジメチルポリシロキサン(GC/MS)を有するトレース(Trace)GC器を用いて得た。電解放射型走査電子顕微鏡写真を3.0kVにおいてJSM−6000F走査顕微鏡を用いて得た。X線回折像を、40kVにおけるCuのKα線を用いて、液体窒素を用いて冷却したゲルマニウム半導体検出器を装着したジーメンスD5000X線回折計を用いて記録した。透過光学顕微鏡検査(LM)及び落射蛍光顕微鏡検査(EM)を、ノルマル
スキー(Normarski)DIC光学素子及びニコンプランフルオル(Nikon Plan Fluor)×(NA 0.30,ドライ)、×20(NA 0.5、ドライ)、×40(NA 0.75,ドライ)及び×100(NA 1.30、オイル)対物レンズを取り付けたニコンエクリプス(Nikon Eclipse)E800蛍光顕微鏡を用いて行なった。DAPIフィルターセット(BP330−380、DIC400,LP420)をPE−カプセル及び[Ru(bipy)3]2+蛍光の観測に採用した。画像
をPCOセンシカム(Sensicam)の12−ビットの冷却式画像カメラを用いて捉えた。サンプルを、スライド中のグリセロールか水かどちらかのなかに標本として載せそしてカバースリップでカバーした。ガスクロマトグラフィーを、バリアン(Varian)CP−キラシル(Chirasil)−DexCBカラム(25m×0.32mmI.D.;0.25μm膜厚)、スプリット/スプリットレス注入口、そしてFID検出器を備えた、ヒューレットパッカード(Hewlett−Packard)5890Aガスクロマトグラフ装置を用いて行なった。データを収集しそしてGCケムステーションソフトウェアを用いて分析した。紫外線−可視スペクトルを、バリアンカリ(Varian Cary)1E紫外線−可視分光光度計を用いて記録した。
【0138】
ゼオライトH−βを、バッチ組成1.97Na2O:1.00K2O:12.5(TEA)2O:Al2O3:50SiO2:750H2O:2.9HClを用いて製造した。ポリプロ
ピレン製の容器を蒸留水(4.66mL,259mmol)、水性テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35質量%、10.40g、71mmol)、塩化ナトリウム(52mg、0.91mmol)及び塩化カリウム(144mg、1.96mmol)で満たした。その混合物を透明な溶液が形成されるまで攪拌した。非晶質シリカ(2.93g、48.9mmol)を添加しそしてその混合物を1時間攪拌して、透明な溶液を得た。水酸化ナトリウム(33mg、0.83mmol)の溶液及びアルミン酸ナトリウム(179mg、〜0.93mmolAl2O3、〜1.2mmolNa2O)の蒸留水(2.00m
L,11mmol)溶液を添加し、そしてその混合物を1時間激しく攪拌して均一なゲルを得た。そのゲルを、テフロン(登録商標)の内張りをしたステンレス製のオートクレーブ中で135℃において20時間加熱した。冷却後、反応混合物を遠心分離(4000rpm、20分)し、そして蒸留水(3×10mL)で洗浄した。ゼオライト結晶を、120℃で終夜乾燥して白色、固体、微晶質の層を得た。ゼオライトを、空気中で550℃においてランプ速度が1℃/分となった後6時間、焼成し、そして次いで1M硝酸アンモニウム水溶液(3×90mL)中に20分間懸濁させ、蒸留水(3×30mL)で洗浄しそして80℃において乾燥してNH4−βゼオライトを得た。この生成物を、さらに550
℃において終夜焼成して、微細な、白色の結晶粉末としてゼオライトH−βを得た(1.11g、Alに基づき〜45%収率):XRD2θ(Irel)7.82(100)、22.58°(87)(参照。文献値は7.69、22.4°)。
【0139】
蛍光性の[Ru(bipy)3]Cl2/6H2Oを文献に記載された方法を用いて製造
した(J.A.Broomhead,C.G.Young,Inorg. Synth.1982年、21巻、127−128頁)。そして、RuCl3・xH2O(0.5g)を120℃において3時間予め乾燥させ、粉砕しそして120℃においてさらに1時間加熱した。乾燥させたRuCl3(431mg、2.08mmol)及び2,2'−ビピリジン(0.97g、6.2mmol)を次に脱イオン水(40mL)へ添加した。新たに調製したホスフィン酸ナトリウム溶液(2mL、〜40質量%)を添加しそして混合物を還流させながら40分間加熱したが、その間に、溶液が色を緑色から褐色そして次に橙色に変化した。反応混合物を濾過して未溶解の物質を除去した。塩化カリウム(13.6g、0.184mmol)を添加し、組成生物を赤−橙色固体として沈殿させた。混合物を次に、還流させながら1時間加熱して、深赤色の溶液を得、該溶液を室温まで冷却することにより赤色の結晶を得た。該結晶を濾過により除去し、氷冷した含水アセトン(2x4mL、8容量%)そしてアセトン(30mL)で洗浄し、次いで、空気中で乾燥させ、光沢の
ある、赤色、板状の結晶(844mg、54%)を得た:1H−NMR(CD3OD),ppm)δ7.19(d、6H)、6.61(td、6H)、6.31(d、6H)、5.97(td、6H);MSm/z(%)285.2(100)[M]2+(計算値285.1)、157.1(8)[ビピリジン+1]+(計算値157.1);紫外線乃至可視光
(エタノール、nm)λmax449(ε=9000M-1cm-1)。
【0140】
ゼオライトH−β(99mg)を、[Ru(bipy)3]Cl2の水溶液(3×1mL、14mM)でイオン交換を行なった。ゼオライトを遠心分離し(13400rpm、5分
間)、蒸留水(3×1mL)で洗浄し、そして次いで120℃において4時間乾燥させ、
微細な桃色粉末を得た(91mg)。
【0141】
ゼオライトH−β(100mg)はPdCl2(140μL、0.14M)の水溶液に
含浸させ20分間放置した。ゼオライトは、110℃において3時間乾燥させそして引き続き300℃において4時間焼成させ、pd付与したゼオライト(2質量%)を灰色粉末(104mg)として得た。
【0142】
コアテンプレートを以下のようにして製造した。CaCl2水溶液(20mL,1M)
を脱イオン水(160mL)で希釈した。Na2CO3水溶液(20mL、1M)を、激しく攪拌した溶液中へ急速に添加すると、白色懸濁液が生成した。その懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間)し、そしてその固体を蒸留水(3x70mL)そしてアセトン(50mL)で洗浄した。固体CaCO3を次に、アセトン(50mL)中に再懸濁さ
せ、そして60℃において乾燥させて、粒子サイズ5乃至10μm(光学顕微鏡による測定)の微細な白色粉末(1.34g)としてテンプレートを得た。
【0143】
ポリマー電解質カプセルを以下のようにして製造した。前記のようにして製造した炭酸カルシウムコアテンプレートをレイヤーバイレイヤー(LbL)法を用いてポリマー電解質でコーティングした。ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDA、MW100−200kDa)を沈着させて水溶液(4gL-1PDA、0.5M NaCl)から正の層を形成した。ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS、MW70kDa)を、沈着させて水溶液(5gL-1PSS、0.5M NaCl)から負の層を形成した。PDAから始めて、前記溶液をさらに300μLずつを交互にCaCO3テンプレ
ート(99mg)にさらに添加し、混合物を各回20分間放置し、そして遠心分離(13,400rpm、90秒)そして添加の間に水(3x1mL)で洗浄して、多層を形成した。3PE二層の付加後、CaCO3コアをEDTA溶液(3x1mL、0.2M、pH7
)で洗浄することにより除去し、そしてカプセルを10時間該溶液中でインキュベートした。カプセルを次に遠心分離(13,400rpm、5分間)し、水(1mL)そしてエタノール(3x1mL)で洗浄し、エタノール中で保存した。
【0144】
ゼオライトH−β(215mg)を粉砕しそして脱イオン水(〜5mL)中に懸濁させた。混合物を超音波処理して結晶凝集体を粉砕し、濁った白色懸濁液を得た。ゼオライト懸濁液を脱イオン水(1.8L)で希釈し、そしてNa2CO3(0.4M,100mL)の水溶液及びCaCl2・2H2O(0.40M、100mL)の水溶液を、激しく攪拌した懸濁液に滴下ロートを経て非常に緩やかに(〜1滴/5秒)添加した。白色懸濁液が形成され、上澄を静かに移した。CaCO3テンプレートを洗浄(3xH2Oそして1xアセトン)し、アセトン中に再懸濁させ、そして真空下で50℃において乾燥させ、微細な白色粉末としてゼオライト含有テンプレート(3.14g)を得た。光学顕微鏡検査において、主に1乃至5μmの直径の球状の粒子を認めた。テンプレートをカプセル化し、そして2.4.2章において記載されたプロトコールを使用して溶解して、カプセル化ゼオライトを得た。
【0145】
ゼオライトH−β(25mg)を、上記のPDA溶液及びPSS溶液で直接コーティングした。コーティング工程はまた、塩化ナトリウムの添加なしのPDA溶液及びPSS溶液を用いて実施した。両方の場合において、コーティングされたゼオライトは(水1mL)そしてエタノール(3x1mL)で洗浄し、そして保存のためエタノール中に再懸濁した。
【0146】
1−フェニルエタノールのラセミ化の典型的な反応条件は以下のとおりである:トルエン(50mL)を遊離又はカプセル化ゼオライトH−β触媒(10mg、上記のとおり製造した)又は、ほぼ等量の空のナノカプセル(上記のとおり製造した)へ添加し、そして攪拌した。基質(R)−1−フェニルエタノール(100μL、0.827mmol)、及びn−ドデカン(内部標準、100μL、0.439mmol)を添加しそして反応混合物を60℃において加熱した。反応をGCを用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。
【0147】
特に定めのない限り、酵素で触媒された選択的エステル化の典型的な反応条件は、以下のとおりである:乾燥リパーゼ(10mg)を溶媒(10mL)に添加しそして、混合物を手短かに超音波処理して酵素を溶解した。磁石で攪拌された溶液中に基質(0.165mmol)及びn−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)を添加した。反応混合物を60℃において加熱し、酢酸ビニル(153μL、1.65mmol)を2等量/時間の速度において導入した。反応をGCを用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。収率をGCにより基質及び生成物を校正した後に測定した。
【0148】
酢酸1−インダノールを以下のとおり校正のために製造した。乾燥ジエチルエーテル(30mL)、1−インダノール(202mg、1.51mmol)、及びピリジン(241μL、2.98mmol)を混合した。塩化アセチル(1.06mL、14.9mmol)を溶液に添加しそして白色沈殿物が生成した。混合物を、室温において終夜攪拌し、ろ過しそして溶媒、過剰のピリジン、及び塩化アセチルを真空下で濾液から除去した。残渣をカラムクロマトグラフィ−(1:8酢酸エチル/ヘキサン)により精製し、生成物(72mg、27%)を非常に淡色の黄色油状物として得た:1H−NMR(CD3OD、ppm)δ
7.35(d、1H)、7.26(m、2H)、7.20(m、1H)、6.14(dd、1H)、2.96(m、1H)、2.75(m、1H)、2.45(m、1H)、2.06(m、1H)、2.02(s、3H);13C{1H}NMR(CD3CN,ppm)δ171.7,145.5,142.3,129.8,127.5,126.3,125.8,79.0,33.0,30.7,21.4。
【0149】
特に定めのない限り、DKR反応の典型的な反応条件は、以下のとおりである:乾燥CALB酵素(10mg)を溶媒(10mL)へ添加しそして混合物を手短に超音波処理し酵素を溶解した。基質(0.165mmol)及びn−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)及びPEでコーティングされたゼオライトH−βナノリアクター(10mg)を添加した。反応混合物を60℃において加熱し、酢酸ビニル(153μL、10等量)を2等量/時間の速度において導入した。反応をGCを用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。収率をGCにより基質及び生成物を校正した後に測定した。
【0150】
ゼオライト触媒による(R)−1−フェニルエタノールのラセミ化の典型的な反応条件は以下のとおりである:(R)−1−フェニルエタノール(100μL、0.827mmol)、ゼオライト触媒(10mg)、n−ドデカン(内部標準、100μL、0.43
9mmol)、及びトルエン(50mL)を混合し60℃において空気中で加熱した。第二級アルコールのDKRの典型的な反応条件は以下のとおりである:乾燥CALB酵素(10mg)を溶媒(トルエン又はオクタン、10mL)に添加しそして混合物を手短に超音波処理し酵素を溶解した。基質(0.165mmol)、n−ドデカン(内部標準、20μL、88μmol)及びPEでコーティングされたゼオライトH−βナノリアクター(10mg)を添加した。反応混合物を60℃において空気中で加熱し、酢酸ビニル(153μL、10等量)を2等量/時間の速度において導入した。両方の反応をGC(Varian−Chirasil−Dex CBカラム)を用いてモニターし、そしてエナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフにおけるピーク信号の積分された面積を比較することにより測定した。収率をGCにより基質及び生成物を校正した後に測定した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系であって、
(a)該第一の基質は、該第二の基質であるか、又は該第二の基質に転換されることができるものであり、そして、実施において、
該第二の基質の該第二の反応プロモーターによる転換が、該第一の基質の該第二の反応プロモーターによる転換よりもより多く起こり、そして第二の物質の第一の反応プロモーターによる転換率が低いものであるか、
又は(b)該第二の物質が、該第一の基質であるか又は該第一の基質に転換されることができるものでありそして、実施において、該第一の基質の該第一の反応プロモーターによる転換が、該第二の基質の該第一の反応プロモーターによる転換よりもより多く起こり、そして該第一の物質のマイクロカプセル中での転換率が低いものである、
のどちらかである、反応系。
【請求項2】
ケース(a)において、前記第一の反応プロモーターは前記第一の基質と前記第二の基質と相互転換することができ、そしてケース(b)において、前記第二の反応プロモーターは前記第一の基質と前記第二の基質とを相互転換することができる、請求項1に記載の反応系。
【請求項3】
前記第一及び第二の反応プロモーターが触媒である、請求項1又は2に記載の反応系。
【請求項4】
前記第二の物質を転換することができる(ケース(a)の場合)又は前記第一の物質を転換することができる(ケース(b)の場合)、1種又はそれ以上の更なる反応プロモーターを含む請求項1乃至3の何れか1項に記載の反応系。
【請求項5】
前記第一の物質(ケース(b))又は前記第二の物質(ケース(a))が前記カプセル材料をゆっくり通過するか又はそれを通過することができない、請求項1乃至4の何れか1項に記載の反応系。
【請求項6】
さらに、前記第一の反応プロモーターから及び前記マイクロカプセルから生成物を分離するための分離器を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項7】
分離された生成物を精製するための精製器をまた含む、請求項6に記載の反応系。
【請求項8】
前記第一の反応プロモーターが選択的反応プロモーターである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項9】
前記マイクロカプセルが前記第二の基質を前記第二の物質に選択的に転換することができる、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項10】
前記カプセル化材料がポリマーを含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項11】
前記カプセル化材料が、少なくとも1種の正荷電したポリマー層及び少なくとも1種の負荷電したポリマー層を含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項12】
前記第一及び第二の反応プロモーターが、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、本発明の反応系においては、前記第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項13】
第一の反応プロモーター及び前記マイクロカプセルが反応媒体中に分布する、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項14】
前記マイクロカプセルが約0.2乃至約10ミクロンの平均粒径を有する、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項15】
前記マイクロカプセルが、前記第二の反応プロモーターにより促進された反応を促進するためにエネルギーを吸収するエネルギー吸収剤を含む、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項16】
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換することができる第一の反応プロモーター;及び(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができるものであり、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方を該反応系に添加すること;
を含む、反応を行なう方法であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか、又は、該第一の基質が、直接的又は間接的に該第二の基質に転換されそして該第二の基質が該第二の物質へ転換されるように該第二の基質へ転換されることができるか、又は(b)該第二の物質は、該第一の基質であるか、又は第二の基質が直接的又は間接的に該第一の基質へ転換されそして該第一の基質が該第一の物質に転換されるように該第一の基質に転換されることができるものである、方法。
【請求項17】
ケース(a)において前記第一の反応プロモーターが前記第一と第二の基質を相互転換しそして、ケース(b)において前記第二の反応プロモーターが前記第一と第二の基質を相互転換する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の基質及び前記第二の基質が、一緒に前記反応系に加えられる、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記反応系から生成物を分離することを含む、請求項16乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記反応系を加熱すること、及び/又は前記反応系の成分により、前記第一又は第二の基質により、またはこれらの1つより多くより吸収されることができる波長の放射線で前記反応系を照射することを含む、請求項16乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ラセミ体のアルコールの動的速度分割のための反応系であって、
−該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することができる、第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は該カプセル化材料を通って該第二の触媒と接触することができ、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;
を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであるところの反応系。
【請求項22】
ラセミ体のアルコールの動的速度分割の方法であって、
−(i''') 該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することが出来る、第一の触媒;及び(ii''')多数のマイクロカプセルであ
って、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料中にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該アルコールの第一の光学異性体は、該カプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであるところの反応系、を用意すること;及び
−該ラセミ体のアルコールを該反応系に添加すること;を含み、
該アルコールの第一の光学異性体は該エステルの第一の光学異性体に転換され、そして、該第二の光学異性体がラセミ化されて、該アルコールの第一及び第二の光学異性体の混合物が形成される、ところの方法。
【請求項23】
請求項16乃至22のいずれか1項に記載の方法により製造された生成物。
【請求項24】
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系であって、
該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系。
【請求項25】
(a)前記第一の物質が前記第二の基質であるか又は(b)前記第二の物質が前記第一の基質である、請求項24に記載の反応系。
【請求項26】
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換することができる第一の反応プロモーター;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができるものであり、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方を該反応系に添加すること;
を含む反応を行なう方法であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか、又は(b)該第二の物質は該第一の基質であり、そして、該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系。
【請求項27】
請求項26の方法により製造された生成物。
【請求項1】
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系であって、
(a)該第一の基質は、該第二の基質であるか、又は該第二の基質に転換されることができるものであり、そして、実施において、
該第二の基質の該第二の反応プロモーターによる転換が、該第一の基質の該第二の反応プロモーターによる転換よりもより多く起こり、そして第二の物質の第一の反応プロモーターによる転換率が低いものであるか、
又は(b)該第二の物質が、該第一の基質であるか又は該第一の基質に転換されることができるものでありそして、実施において、該第一の基質の該第一の反応プロモーターによる転換が、該第二の基質の該第一の反応プロモーターによる転換よりもより多く起こり、そして該第一の物質のマイクロカプセル中での転換率が低いものである、
のどちらかである、反応系。
【請求項2】
ケース(a)において、前記第一の反応プロモーターは前記第一の基質と前記第二の基質と相互転換することができ、そしてケース(b)において、前記第二の反応プロモーターは前記第一の基質と前記第二の基質とを相互転換することができる、請求項1に記載の反応系。
【請求項3】
前記第一及び第二の反応プロモーターが触媒である、請求項1又は2に記載の反応系。
【請求項4】
前記第二の物質を転換することができる(ケース(a)の場合)又は前記第一の物質を転換することができる(ケース(b)の場合)、1種又はそれ以上の更なる反応プロモーターを含む請求項1乃至3の何れか1項に記載の反応系。
【請求項5】
前記第一の物質(ケース(b))又は前記第二の物質(ケース(a))が前記カプセル材料をゆっくり通過するか又はそれを通過することができない、請求項1乃至4の何れか1項に記載の反応系。
【請求項6】
さらに、前記第一の反応プロモーターから及び前記マイクロカプセルから生成物を分離するための分離器を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項7】
分離された生成物を精製するための精製器をまた含む、請求項6に記載の反応系。
【請求項8】
前記第一の反応プロモーターが選択的反応プロモーターである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項9】
前記マイクロカプセルが前記第二の基質を前記第二の物質に選択的に転換することができる、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項10】
前記カプセル化材料がポリマーを含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項11】
前記カプセル化材料が、少なくとも1種の正荷電したポリマー層及び少なくとも1種の負荷電したポリマー層を含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項12】
前記第一及び第二の反応プロモーターが、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、本発明の反応系においては、前記第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項13】
第一の反応プロモーター及び前記マイクロカプセルが反応媒体中に分布する、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項14】
前記マイクロカプセルが約0.2乃至約10ミクロンの平均粒径を有する、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項15】
前記マイクロカプセルが、前記第二の反応プロモーターにより促進された反応を促進するためにエネルギーを吸収するエネルギー吸収剤を含む、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の反応系。
【請求項16】
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換することができる第一の反応プロモーター;及び(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができるものであり、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方を該反応系に添加すること;
を含む、反応を行なう方法であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか、又は、該第一の基質が、直接的又は間接的に該第二の基質に転換されそして該第二の基質が該第二の物質へ転換されるように該第二の基質へ転換されることができるか、又は(b)該第二の物質は、該第一の基質であるか、又は第二の基質が直接的又は間接的に該第一の基質へ転換されそして該第一の基質が該第一の物質に転換されるように該第一の基質に転換されることができるものである、方法。
【請求項17】
ケース(a)において前記第一の反応プロモーターが前記第一と第二の基質を相互転換しそして、ケース(b)において前記第二の反応プロモーターが前記第一と第二の基質を相互転換する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の基質及び前記第二の基質が、一緒に前記反応系に加えられる、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記反応系から生成物を分離することを含む、請求項16乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記反応系を加熱すること、及び/又は前記反応系の成分により、前記第一又は第二の基質により、またはこれらの1つより多くより吸収されることができる波長の放射線で前記反応系を照射することを含む、請求項16乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ラセミ体のアルコールの動的速度分割のための反応系であって、
−該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することができる、第一の触媒;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は該カプセル化材料を通って該第二の触媒と接触することができ、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;
を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであるところの反応系。
【請求項22】
ラセミ体のアルコールの動的速度分割の方法であって、
−(i''') 該アルコールの第二の光学異性体をエステル化するよりも速い速度で該アルコールの第一の光学異性体をエステル化して、該アルコールのエステルの第一の光学異性体を形成することが出来る、第一の触媒;及び(ii''')多数のマイクロカプセルであ
って、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料中にカプセル化された第二の触媒を含み、該第二の触媒は、該アルコールの第二の光学異性体をラセミ化することができ、ここで、該アルコールの第二の光学異性体は、該カプセル化材料を通って第二の触媒と接触することができ、そして該アルコールの第一の光学異性体は、該カプセル化材料を通ってマイクロカプセルの外部へ出ることができる、マイクロカプセル;を含み、
該マイクロカプセル中の該アルコールのエステルの第一の光学異性体のラセミ化速度が低いものであるところの反応系、を用意すること;及び
−該ラセミ体のアルコールを該反応系に添加すること;を含み、
該アルコールの第一の光学異性体は該エステルの第一の光学異性体に転換され、そして、該第二の光学異性体がラセミ化されて、該アルコールの第一及び第二の光学異性体の混合物が形成される、ところの方法。
【請求項23】
請求項16乃至22のいずれか1項に記載の方法により製造された生成物。
【請求項24】
−第一の基質を第一の物質に転換することができる第一の反応プロモーター;及び
−多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができ、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系であって、
該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系。
【請求項25】
(a)前記第一の物質が前記第二の基質であるか又は(b)前記第二の物質が前記第一の基質である、請求項24に記載の反応系。
【請求項26】
−(i)第一の基質を第一の物質へ転換することができる第一の反応プロモーター;及び
(ii)多数のマイクロカプセルであって、該マイクロカプセルのそれぞれは、
カプセル化材料内にカプセル化された第二の反応プロモーターを含み、
該第二の反応プロモーターは、第二の基質を第二の物質に転換することができるものであり、ここで、該第二の基質は、該カプセル化材料を通って該第二の反応プロモーターと接触することができ、そして該第二の物質は該カプセル化材料を通って該マイクロカプセルの外部へ出ることができるものである、マイクロカプセル、
を含む反応系を用意すること;及び
−該第一の基質、又は該第二の基質、又は該第一の基質及び該第二の基質の両方を該反応系に添加すること;
を含む反応を行なう方法であって、
(a)該第一の物質は該第二の基質であるか、又は(b)該第二の物質は該第一の基質であり、そして、該第一及び第二の反応プロモーターは、その一方又は両方を不活性化するように相互作用することができるが、該反応系においては、該第二の反応プロモーターのカプセル化に起因して、そうすることが少なくとも部分的に防止される、反応系。
【請求項27】
請求項26の方法により製造された生成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図12(c)】
【図13】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図12(c)】
【図13】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2010−501490(P2010−501490A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524846(P2009−524846)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001212
【国際公開番号】WO2008/022394
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(500026418)ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー (13)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001212
【国際公開番号】WO2008/022394
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(500026418)ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー (13)
【Fターム(参考)】
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