説明

反応装置および反応方法

【課題】 爆発力を伴う燃焼を行わないで化学反応を行う化学反応を連続的に行えるようにして目的の反応生成物を得られる反応装置を提供する。
【解決手段】 反応装置は、エンジンブロック10や制御装置26などを有する。エンジンブロック10は、燃焼室として用いるシリンダC1,C4(第1気筒)と反応室として用いるシリンダC2,C3(第2気筒)とを隣接させて一体構造とし、シリンダC1,C4のピストン12とシリンダC2,C3のピストン20とを動力伝達機構(すなわちコネクティングロッド14,18とクランクシャフト16)によって連動させる構造とした。シリンダC2,C3はシリンダC1,C4に隣接するので高温を得易く、シリンダC1,C4で発生した動力を受けてピストン20が運動して高圧を得易い。温度と圧力が同時に必要な化学反応を行え、また反応生成物Rの製造を大量に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応を連続的に行う反応装置および反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、カーボンナノチューブやフラーレンを製造するにあたって、シリンダやピストン等を使用した技術が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−75453号公報(第3−4頁,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら特許文献1に開示された技術では、原料の炭化水素とともに燃料をシリンダ内に噴射し、通常のエンジン駆動と同様に爆発燃焼させることでカーボンナノチューブやフラーレンを製造していた。爆発力を伴う燃焼を行う化学反応により目的の反応生成物を製造する場合には適するが、燃焼を行わない化学反応(例えば水熱反応)では当該燃焼を要因とする化学反応が起こり、燃焼するものの爆発力を伴わない化学反応(例えば合成反応)では爆発による急激な圧力変化を要因とする化学反応が起こるため、目的の反応生成物が得られない場合がある。
【0004】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、爆発力を伴う燃焼を行わないで化学反応を行う化学反応を連続的に行えるようにして目的の反応生成物を得られる反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)課題を解決するための手段(以下では単に「解決手段」と呼ぶ。)1は、内燃機関として作動させるために燃焼室として用いる第1気筒と、原料を投入する投入口と反応生成物を排出する排出口とを備え前記原料から前記反応生成物を生成する化学反応を行う反応室として用いる第2気筒と、前記第1気筒内で往復運動する第1ピストンと前記第2気筒内で往復運動する第2ピストンとを連動させる動力伝達機構とを有し、前記第1気筒と前記第2気筒とを隣接させて一体構造としたことを要旨とする。
【0006】
解決手段1によれば、第1気筒と第2気筒とを一体構造とし、第1ピストンと第2ピストンが動力伝達機構(例えばクランクシャフトやコネクティングロッド等)を通じて連動する構造となっている。第2気筒は投入口と排出口とを備えており、原料から化学反応を行なって反応生成物を生成する。原料は任意の物質を適用でき、補助剤(例えば水,酸化剤,還元剤,反応触媒等)を含む。原料として公害物質(例えばフタル酸エステルやPCB等)を適用した場合には、化学反応によって無害化することが可能になる。第2気筒内で行う化学反応としては、例えば水熱反応や合成反応等が該当する。
【0007】
第2気筒は第1気筒と隣接するので、当該第1気筒で発生した熱が伝わり易く、第2気筒内で行う化学反応に最適な温度(例えば100〜600℃)を簡単に得やすい。また第1気筒で動力が生ずると、その動力が動力伝達機構を通じて第2ピストンに伝わって第2気筒内で圧縮を行える。よって温度と圧力が同時に必要な環境下の第2気筒で化学反応を行わせることができ、第1ピストンのサイクル速度に応じて反応生成物を生成(製造)させることができる。したがって、爆発力を伴う燃焼を行わないで化学反応を行う化学反応を連続的が行えるので、目的の反応生成物を得ることが可能になる。なお、化学反応の促進させるためには、投入口から原料を投入するにあたって噴霧を行うのが望ましい。
【0008】
(2)解決手段2は、解決手段1に記載した反応装置であって、投入口と排出口とを第2気筒の下部に備えたことを要旨とする。
【0009】
解決手段2によれば、第2ピストンが鉛直方向に往復運動する場合には、投入口と排出口とを第2気筒の下部に備えたので、投入口と排出口とを上部に備えた場合に比べると、原料の投入や反応生成物の排出が行い易くなる。なお、原料は重力に従って流れることを考慮して、投入口を第2気筒の側部に備えてもよい。第2ピストンが水平方向に往復運動する場合には、上部,下部,側部のいずれに備えてもよい。
【0010】
(3)解決手段3は、解決手段1または2に記載した反応装置であって、動力伝達機構と第2ピストンとの間には、原料を投入する時間,圧縮する時間,化学反応を行う時間,減圧する時間,反応生成物を排出する時間のうちで一以上の時間を伸縮させるために変形させたカムを介在させる構成としたことを要旨とする。
【0011】
解決手段3によれば、動力伝達機構と第2ピストンとの間に介在させたカムの形状に応じて、各工程を行う時間を伸縮させる。そのため、各工程に必要な時間を確保できるので、化学反応をより確実に行わせ、より多くの反応生成物を得ることが可能になる。
【0012】
(4)解決手段4は、解決手段1から3のいずれか一項に記載した反応装置であって、第1気筒と第2気筒とを隣接させて一体構造とした構造物内に供給路を備え、供給源から前記供給路を通じて投入口に原料を供給する構成としたことを要旨とする。
【0013】
解決手段4によれば、構造物(例えばエンジンブロック)内に備えられた供給路を通じて、供給源から投入口に原料を供給する。第1気筒で生じた熱が構造物に伝わるので、供給路を流れる原料もこの熱で温められる。したがって、供給源で原料を予め温める必要がなくなるとともに、第1気筒で生じた熱の有効利用を図ることができる。
【0014】
(5)解決手段5は、解決手段1から4のいずれか一項に記載した反応装置であって、第2気筒で行う化学反応の反応時間を第1気筒に供給する燃料量によって制御する燃料制御手段を有することを要旨とする。
【0015】
解決手段5によれば、燃料制御手段が燃料量の増減を制御すると、第1気筒のサイクルが速くなったり遅くなる。燃料量を増やすにつれて第1気筒のサイクルが速くなってゆくので、第2気筒で行う化学反応の反応時間が短くなる。逆に燃料量を減らしてゆけば、化学反応の反応時間が長くなる。すなわち、燃料制御手段が燃料量の増減を制御することにより、結果的に化学反応の反応時間を制御することができる。化学反応を行うのに最適な反応時間(例えば1000〜0.1ミリ秒)を確保できるように燃料制御手段が燃料量を制御すれば、最適な反応時間で化学反応を行わせるので、反応生成物の品質を高めたり製造量を多くすることが可能になる。
【0016】
(6)解決手段6は、解決手段1から5のいずれか一項に記載した反応装置であって、原料を投入して反応生成物を製造する工程(製造工程)と、洗浄物を投入して前記第2気筒内を洗浄する工程(洗浄工程)とを切り換える制御を行う切換制御手段を有することを要旨とする。
【0017】
洗浄物としては水や有機溶媒などが該当し、化学反応の種類や反応生成物に対応して具体的に設定する。解決手段6によれば、切換制御手段が製造工程と洗浄工程とを切り換えて行うので、残留物(例えば前回製造した反応生成物)が残ったままの状態で次回の化学反応が行われる事態を防止できる。反応生成物がさらに化学反応によって変化することがほとんど無くなるので、製造する反応生成物の品質を高めることが可能になる。
【0018】
(7)解決手段7は、解決手段1から6のいずれか一項に記載した反応装置であって、第1気筒で生じた動力の一部を外部機器に出力する構成としたことを要旨とする。
【0019】
第1気筒は内燃機関として作動すると動力が発生するが、第2ピストンを往復運動させるのに必要な力は当該動力の一部で済む。当該解決手段7によれば、第1気筒で発生した動力の一部を外部機器に出力することにより、動力の有効利用を図ることができる。外部機器としては、例えば発電機や圧縮機(エアコンプレッサを含む)等が該当する。
【0020】
(8)解決手段8は、解決手段1から7のいずれか一項に記載した反応装置であって、第2気筒内の温度を検出する温度センサと、前記温度センサによって検出した温度が化学反応を行うのに最適な温度になるように第1気筒に供給する燃料量および空気量のうちで一方または双方を制御する温度制御手段とを有することを要旨とする。
【0021】
解決手段8によれば、温度センサによって検出した第2気筒内の温度が化学反応を行うのに最適な温度になるように、温度制御手段が燃料量および空気量のうちで一方または双方を制御する。最適な温度で化学反応が進行するようになるので、反応生成物の品質を高めたり製造量を多くすることが可能になる。
【0022】
(9)解決手段9は、解決手段1から8のいずれか一項に記載した反応装置であって、第2気筒内の圧力を検出する圧力センサと、前記圧力センサによって検出した圧力が化学反応を行うのに最適な圧力になるように前記第2気筒に供給する空気量を制御する圧力制御手段とを有することを要旨とする。
【0023】
解決手段9によれば、圧力センサによって検出した第2気筒内の圧力が化学反応を行うのに最適な圧力(例えば0.5〜50メガパスカル)になるように、圧力制御手段が空気量を制御する。最適な圧力で化学反応が進行するようになるので、反応生成物の品質を高めたり製造量を多くすることが可能になる。
【0024】
(10)解決手段10は、解決手段1から9のいずれか一項に記載した反応装置であって、複数種類の原料を切り換えて供給する切換供給手段を有することを要旨とする。
【0025】
解決手段10によれば、切換供給手段は複数種類の原料を切り換えて第2気筒に供給するので、対応する数の反応生成物を製造することができる。
【0026】
(11)解決手段11は、解決手段1に記載した反応装置を用いて第1気筒で生じた動力が動力伝達機構によって伝達されて動く第2ピストンの行程に従って、投入口から原料を投入し、投入した原料から反応生成物を第2気筒内で生成する化学反応を行い、生成した反応生成物を排出口から排出することを要旨とする。
【0027】
解決手段11によれば、第2ピストンは第1気筒を動力源として動き、その行程に従って原料の投入・化学反応・反応生成物の排出を行う。第2気筒は第1気筒と隣接するので、化学反応に最適な温度を簡単に得やすく、第1気筒で生じた動力によって運動する第2ピストンで圧力を簡単に得やすい。よって温度と圧力が同時に必要な環境下の第2気筒で化学反応を行わせることができ、反応生成物の製造を大量に行うことが可能になる。
【0028】
(12)解決手段12は、解決手段11に記載した反応方法であって、投入口から原料を投入し、投入した原料から反応生成物を第2気筒内で生成する化学反応を行い、生成した反応生成物を排出口から排出する工程(製造工程)と、前記投入口から洗浄物を投入し、投入した洗浄物で第2気筒内を洗浄し、残留物を排出口から排出する工程(洗浄工程)とを切り換えて行うことを要旨とする。
【0029】
解決手段12によれば、製造工程と洗浄工程とを切り換えて行うので、残留物(例えば前回製造した反応生成物)が残ったままの状態で次回の化学反応が行われる事態を防止できる。反応生成物がさらに化学反応によって変化することがほとんど無くなるので、製造する反応生成物の品質を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、第1気筒で発生した動力と熱を用いて、第2気筒で化学反応を連続的に行えるので、目的の反応生成物が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0032】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は、4気筒からなるエンジンブロック(レシプロエンジン;構造物に相当する)に対して本発明を適用し、特に化学反応の原料が液体である場合の例である。当該実施の形態1は、図1〜図5を参照しながら説明する。
【0033】
図1には、本発明を実現するための構成例を模式的に表す。本発明の反応装置は、エンジンブロック10や制御装置26などを有する。エンジンブロック10は、4つのシリンダC1,C2,C3,C4を一体構造で形成されている。各シリンダの図面下部には、吸気口32や、当該吸気口32を開閉するバルブ34、排気口42、当該排気口42を開閉するバルブ40、インジェクタ38などを共通に有する。インジェクタ38は投入口に相当し、排気口42は排出口に相当する。各シリンダに備えたインジェクタ38の噴射制御とバルブ34,40の開閉制御とは、制御装置26がそれぞれ行う。
なお、図1では各シリンダに備えたピストンの動きを分かり易くするために、クランクシャフト16を90度回転させた状態で表す。実際には4つのシリンダC1,C2,C3,C4を通じて一のクランクシャフト16が備わるので、図面の左右方向に貫く。
【0034】
まず内燃機関の燃焼室として用いるシリンダC1,C4は、それぞれが第1気筒に相当し、各シリンダでピストン12が個別に往復運動する。第1ピストンに相当するピストン12は、コネクティングロッド14を通じてクランクシャフト16に連結される。内燃機関を実現するため、電磁弁36を通じてインジェクタ38から各シリンダ内に燃料を噴射するように構成する。当該電磁弁36は、燃料制御手段30から出力される信号に従って開度が変化し、各シリンダ内に噴射する燃料量を調整する機能を果たす。
【0035】
制御装置26に備えた燃料制御手段30は、電磁弁36の開度や開口時間を制御する。電磁弁36の制御により、インジェクタ38から噴射する燃料量を増減して回転数(言い換えれば1サイクルの時間)を変化させ、ひいてはシリンダC2,C3で行う化学反応の反応時間を変化させる。燃料制御手段30の構成は、例えばCPUで実行するソフトウェアで構成してもよく、電子部品を用いてハードウェアで構成してもよい。
【0036】
一方、化学反応の反応室として用いるシリンダC2,C3は、それぞれが第2気筒に相当し、各シリンダでピストン20が個別に往復運動する。第2ピストンに相当するピストン20は、コネクティングロッド18を通じてクランクシャフト16に連結される。各シリンダ内には、電磁弁46を通じてインジェクタ38から各シリンダ内に原料Mを霧状に噴射し、電磁弁44を通じてインジェクタ38から各シリンダ内に洗浄物Wを噴射するように構成する。なお、圧縮時におけるシリンダC2,C3内の圧力によっては、逆流を防いで確実に原料Mや洗浄物Wの噴射を行うために、インジェクタ38の前に高圧ポンプを介在させる構成としてもよい。
【0037】
原料Mは、燃焼物であると非燃焼物であるとを問わず、水との混合物であると単体であるとを問わない。水との混合物は、例えば軽油等の油を混ぜる(特にエマルジョン)とするのが望ましい。水と油の混合物が高温高圧化されたシリンダ内に霧状に噴射されると、沸点の低い水が先に爆発的に沸騰して周囲にまとわりついていた油を吹き飛ばすので、原料Mとの混合や反応が容易く行える。洗浄物Wは、水や有機溶媒などが該当する。当該電磁弁44,46は、切換制御手段28から出力される信号に従って開度が変化し、各シリンダ内に噴射する噴射量を調整する機能を果たす。
【0038】
制御装置26に備えた切換制御手段28は、電磁弁44,46の開閉や開口時間を制御する。原料Mを投入する場合には電磁弁46を開け、洗浄物Wを投入する場合には電磁弁44を開ける。また開口時間を制御することにより、1回の化学反応で必要な原料Mの量を増減することができる。切換制御手段28は燃料制御手段30と同様に構成する。
【0039】
上述したコネクティングロッド14,18やクランクシャフト16は、動力を伝達する動力伝達機構に相当する。シリンダC1,C4で発生した動力は、コネクティングロッド14→クランクシャフト16→コネクティングロッド18の順番で伝達され、シリンダC2,C3内の各ピストン20を往復運動させる動力源となる。しかし、ピストン20を往復運動させるのに必要な動力はシリンダC1,C4で発生した動力の一部に過ぎないので、残りの動力を外部機器24に出力する。図1に示す例では外部機器24として発電機を適用し、当該発電機の回転軸22とクランクシャフト16とを連結して、シリンダC1,C4で発生した動力の一部を発電機の回転力として用いている。この構成ではシリンダC2,C3で化学反応を行うだけでなく、同時に発電機で発電を行うこともできる。
【0040】
次に、原料Mから化学反応によって反応生成物Rを得るまでの製造工程を実現する例について、図2を参照しながら説明する。図2(A)には圧縮工程を表し、図2(B)には化学反応を行うために原料Mの投入する投入工程を表し、図2(C)には減圧冷却工程を表し、図2(D)には反応生成物Rの排出工程を表す。すなわち、製造工程は圧縮工程,反応工程(投入工程および減圧冷却工程),排出工程の三つの工程からなる。
【0041】
図1に示すように、シリンダC2はシリンダC1に隣接しているので、当該シリンダC1が内燃機関として作動すると爆発燃焼によって熱が発生し、波線で図示するように当該熱がエンジンブロック10を通じてシリンダC2に伝わる。よって、シリンダC2内の温度は熱の流入が続く限り高くなる。このようにシリンダ内の温度が上昇する事態は、シリンダC4に対応するシリンダC3でも同様に起こる。
【0042】
(圧縮工程)
図2(A)に表すように、ピストン20が上死点に達するまではバルブ34を開けて空気(あるいは化学反応に関与しない不活性ガス等)を吸気口32から入れる。上死点に達したときにバルブ34,40を閉めた後、ピストン20が下死点に向かって圧縮を行う。この圧縮は吸気時における圧力の20倍程度を行うが、化学反応時の圧力をより高くする必要がある場合には過給器を用いて空気等を過給すればよい。
【0043】
(投入工程;反応工程)
続いて図2(B)に表すように、ピストン20が下死点に達したとき(またはその前後)にインジェクタ38を通じて原料Mを霧状に噴射(投入)する。当該シリンダC2内では、上述したようにシリンダC1からの熱で温度が高まっており、しかも圧縮によって圧力も高まっているので、高温高圧環境の下で化学反応が進行することになる。
【0044】
(減圧冷却工程;反応工程)
図2(C)に表すように、ピストン20は下死点に達した後は減圧する方向(図面上方向)に動くので、シリンダC2内の圧力が減少する。さらにはシリンダC2における反応部位にかかる容積も増加して冷却される。ただし、シリンダC1からの熱が流入し続けるので、圧縮工程よりも低い温度にはならない。なお必要に応じて、バルブ34を開けて空気等を吸気口32から入れてもよい。
【0045】
(排出工程)
そして図2(D)に表すように、ピストン20が上死点に位置するときにバルブ40を開けた後、ピストン20が下死点に向かって(図面下方向)に動くと、シリンダC2内に生成された反応生成物Rが排気口42から排出される。
【0046】
ここで反応装置の制御装置26で行う制御例について、いずれもフローチャートで表した図3,図4を参照しながら説明する。図3には反応装置の全体を制御する全体制御処理を表し、図4には燃料制御手段30を実現する燃料制御処理を表す。
【0047】
図3において、全体の制御を行うにあたって最適値を設定する〔ステップS10〕。当該最適値は、例えば化学反応を行うのに最適な反応時間等にかかる数値が該当する。最適値をの記録媒体(メモリやディスク等)に記録しておけば、次回以降では設定作業が不要になるので作業効率がよくなる。最適値の設定を終えた後は、製造または洗浄を行う。
【0048】
シリンダC2,C3に投入する投入物を原料Mか洗浄物Wかで切り換える〔ステップS12〕。具体的には、制御装置26から制御信号を電磁弁44,46に伝達し、一方の電磁弁のみを開けるように制御する。投入物(すなわち原料Mまたは洗浄物W)の切り換えは交互に行なってもよく、一方の投入物(例えば原料M)を複数回投入した後に他方の投入物(例えば洗浄物W)を1回投入するなどのように一方側の投入回数を多くしたパターンを繰り返してもよい。
【0049】
もし、投入物が原料Mであれば製造工程であるので(ステップS14でYES)、図2(A)で示すように圧縮した後に、図2(B)に示すタイミングで原料MをシリンダC2,C3に投入して化学反応を行い〔ステップS16〕、図2(D)に示すタイミングで反応生成物Rを排出する〔ステップS26〕。ステップS18の化学反応を行う工程中には、最適な反応時間にするための燃料制御処理を実行する〔ステップS20〕。この燃料制御処理の詳細な手続きについては後述する。
【0050】
一方、投入物が洗浄物Wであれば洗浄工程であるので(ステップS14でNO)、図2(A)に示すタイミングで洗浄物WをシリンダC2,C3に投入して洗浄を行い、図2(D)に示すタイミングで排出する。上述したステップS12〜ステップS26までの処理は、製造を終えるまで繰り返す〔ステップS28〕。
【0051】
図4に示す燃料制御処理では、クランクシャフト16の回転数を回転数センサで計測し〔ステップS30〕、計測した回転数による反応時間を推定する〔ステップS32〕。例えば回転数をF回転とするとき、1サイクルの時間は1/Fになる。1サイクルのうち、化学反応で利用する割合(k)は実験等で求められる。よって1回の製造で化学反応を行う反応時間はk/Fになるので、このk/Fを算出することで反応時間を推定する。
【0052】
もし、ステップS32で推定した反応時間(以下では単に「推定時間」と呼ぶ。)が図3のステップS10で設定した最適な反応時間に基づいて許される許容範囲内であれば(ステップS34でYES)、そのまま燃料制御処理を終える。これに対して推定時間が許容範囲外であれば(ステップS34でNO)、インジェクタ38から噴射する燃料量を増減して許容範囲内に収まるようにする〔ステップS36〕。すなわち推定時間が許容範囲よりも大きい場合には燃料量を増やして回転数を多くすればよく、逆に推定時間が許容範囲よりも小さい場合には燃料量を減らして回転数を少なくすればよい。
【0053】
上述した実施の形態1によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
(a1)エンジンブロック10は、燃焼室として用いるシリンダC1と反応室として用いるシリンダC2とを隣接させ、同じく燃焼室として用いるシリンダC4と反応室として用いるシリンダC3とを隣接させて一体構造とした(図1を参照)。またエンジンブロック10は、シリンダC1,C4で往復運動するピストン12と、シリンダC2,C3で往復運動するピストン20とを動力伝達機構(すなわちコネクティングロッド14,18とクランクシャフト16)によって連動させる構造とした(図1を参照)。シリンダC2,C3では、シリンダC1,C4で生じた動力を受けて連動するピストン20で圧縮する工程(圧縮工程)と、化学反応を行わせるためにインジェクタ38から原料Mを投入する工程(反応工程)と、当該化学反応によって生じた反応生成物Rを排気口42から排出する工程(排出工程)とを繰り返して連続的に行う構成とした(図2を参照)。
【0054】
シリンダC2,C3はそれぞれが隣接するシリンダC1,C4で発生した熱が伝わり易いので、シリンダC2,C3内で行う化学反応に最適な温度(例えば100〜600℃)が得られ易い。シリンダC1,C4で動力が生ずると、その動力が動力伝達機構を通じてシリンダC2,C3内のピストン20に伝わって圧力を生じさせる。よって、シリンダC2,C3では温度と圧力が同時に必要な化学反応を行わせることができる。またシリンダC1,C4内で往復運動するピストン20のサイクル速度に応じて化学反応を行うので、反応生成物Rの製造を大量に行うことが可能になる。原料Mが公害物質や有害物質の場合には、上記化学反応によって無害化することが可能になる。
【0055】
本形態では、シリンダC2,C3の各シリンダについて、一のインジェクタ38を備える構成としたが(図1を参照)、複数のインジェクタ38を備えて複数の原料Mを霧状に噴射可能な構成としてもよい。例えば一方のインジェクタ38からは公害物質を噴射し、他方のインジェクタ38からは水(水蒸気)を噴射する。このように複数の原料Mをシリンダ内に投入できるようにすれば、化学反応を行わせ得る範囲が広がる。
【0056】
(a2)原料Mを投入するインジェクタ38(投入口に相当する)と、反応生成物Rを排出する排気口42(排出口に相当する)とをシリンダC2,C3の下部(鉛直方向からみた位置)に備える構造とした(図1を参照)。インジェクタ38と排気口42とを上部に備えた場合に比べると、原料Mの投入や反応生成物Rの排出が行い易くなる。
【0057】
(a3)制御装置26には、シリンダC2,C3で行う化学反応の反応時間をシリンダC1,C4に供給する燃料量によって制御する構成とした(燃料制御手段30;図1,図4を参照)。燃料制御手段30が燃料量の増減を制御すると、シリンダC1,C4のサイクルが速くなったり遅くなる。燃料量を増やすにつれてシリンダC1,C4のサイクルが速くなってゆくので、シリンダC2,C3で行う化学反応の反応時間が短くなる。逆に燃料量を減らしてゆけば、化学反応の反応時間が長くなる。すなわち、燃料制御手段30が電磁弁36を通じてインジェクタ38から噴射する燃料量の増減を制御することにより、結果的に化学反応の反応時間を制御することができる。化学反応を行うのに最適な反応時間(例えば1000〜0.1ミリ秒)を確保できるように燃料制御手段30が燃料量を制御すれば、最適な反応時間で化学反応を行わせるので、反応生成物Rの品質を高めたり製造量を多くすることが可能になる。
【0058】
(a4)切換制御手段28は、シリンダC2,C3に対して、原料Mを投入して反応生成物Rを製造する工程(製造工程)と、洗浄物Wを投入してシリンダC2,C3内を洗浄する工程(洗浄工程)とを切り換える制御を行うように構成した(図3のステップS12,S14を参照)。これを実現するために、原料Mと洗浄物Wとを切り換えてインジェクタ38に送り出す電磁弁44,46を備えている(図1を参照)。製造工程と洗浄工程とを切り換えて行うので、前回生成した反応生成物Rが残った状態で次回の化学反応が行われる事態を防止できる。反応生成物Rがさらに化学反応によって変化することがほとんど無くなるので、製造する反応生成物Rの品質を高めることが可能になる。
【0059】
(a5)シリンダC1,C4で生じた動力の一部を外部機器24に出力する構成としたので(図1を参照)、動力の有効利用を図ることができる。本形態では外部機器24として発電機を適用したが、動力(主として回転力)を利用できれば他の機器(例えばエアコンプレッサを含む圧縮機等)にも適用することが可能である。
【0060】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、実施の形態1と同様にしてエンジンブロック10に対して本発明を適用し、特に化学反応の原料が気体(ガス)である場合の例である。当該実施の形態2は、図5〜図8を参照しながら説明する。なお、反応装置の構成等は実施の形態1と同様であり、図示および説明を簡単にするために実施の形態1とは異なる点を説明する。よって実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
図5には、図1に代わる構成例を模式的に表す。当該図5に示すエンジンブロック10には、4つのシリンダC1,C2,C3,C4とともに、供給路50を一体構造に形成している。この供給路50はエンジンブロック10内(特に内燃機関として作動するシリンダC1,C4の周囲)を通っており、原料M2,原料M4および洗浄物Wのうちいずれか一つをシリンダC2,C3の吸気口32に供給するための通路である。原料M2,原料M4はいずれも気体(ガス)であるが、燃焼物であってもよく、非燃焼物であってもよい。シリンダC1,C4が内燃機関として作動すると爆発燃焼によって熱が発生するので、供給路50を流れる原料M2,M4はこの熱を受けて温まる。
【0062】
吸気口32からシリンダ内に投入する投入物は、切換制御手段28が電磁弁52,54,56の開閉を制御することで特定する。すなわち原料M2を投入する場合には電磁弁56を開け、原料M4を投入する場合には電磁弁54を開け、洗浄物Wを投入する場合には電磁弁52を開けるように制御すればよい。制御装置26は吸気口32から投入物を投入するにあたってバルブ34を開閉し、排気口42から排出物を排出するにあたってバルブ40を開閉する制御を行う。
【0063】
図5に示す構成例では、シリンダC2,C3にはインジェクタ38を備えず、代わりに温度を計測する温度センサ58をシリンダC2に備え、圧力を計測する圧力センサ60をシリンダC3に備えている。なお、温度センサ58をシリンダC3に備え、圧力を計測する圧力センサ60をシリンダC2に備える構成としてもよく、各シリンダにそれぞれ温度センサ58および圧力センサ60の双方を備える構成としてもよい。
【0064】
シリンダC2,C3用のバルブ34,40の開閉制御は、制御装置26に備えた温度制御手段62や圧力制御手段64がそれぞれ行う。温度制御手段62は、温度センサ58によって検出された現在の温度を受けて、化学反応を行うのに最適な温度(例えば100〜600℃)になるように、シリンダC1,C4に供給する燃料量および空気量のうちで一方または双方を制御する。圧力制御手段64は、圧力センサ60によって検出された現在の圧力が、化学反応を行うのに最適な圧力(例えば0.5〜50メガパスカル)になるように、吸気口32を通じてシリンダC2,C3に供給する空気量を制御する。
【0065】
次に、原料M2,M4から化学反応によって反応生成物Rを得るまでの製造工程を実現する例について、図6を参照しながら説明する。図6(A)には投入物を投入する投入工程を表し、図6(B)には化学反応を行うために圧縮する圧縮工程を表し、図6(C)には減圧冷却工程を表し、図6(D)には反応生成物Rの排出工程を表す。よって製造工程は、投入工程,反応工程(圧縮工程および減圧冷却工程),排出工程からなる。
【0066】
(投入工程)
図6(A)に表すように、ピストン20が上死点に位置するときにバルブ34を開けて吸気口32から投入物をシリンダC2内に投入する。化学反応時の気圧をより高くする必要がある場合には、投入物(すなわち原料M2,原料M4および洗浄物Wのうちいずれか一つ)とともに必要量の空気等を投入する。投入した後は、バルブ34を閉じる。
【0067】
(圧縮工程;反応工程)
続いて図6(B)に表すように、シリンダC1,C4から発生した動力によって作動するクランクシャフト16によってピストン20が図面下方向に動いて圧縮し、シリンダC2内を加圧する。当該シリンダC2内では、上述したようにシリンダC1からの熱で温度が高まっているので、高温高圧環境の下で化学反応が進行することになる。
【0068】
(減圧冷却工程;反応工程)
図6(C)に表すように、ピストン20は下死点に達した後に減圧する方向(図面上方向)に動くので、シリンダC2内の気圧が減少する。さらにはシリンダC2における反応部位にかかる容積も増加するので、反応部位も冷却されることになる。ただし、シリンダC1からの熱が流入し続けるので、投入工程よりも低い温度にはならない。
【0069】
(排出工程)
そして図6(D)に表すように、ピストン20が上死点に位置するときにバルブ40を開けた後、ピストン20が下死点に向かって(図面下方向)に動くと、シリンダC2内に生成された反応生成物R等が排気口42から排出される。
【0070】
ここで反応装置の制御装置26で行う制御例について、いずれもフローチャートで表した図3,図4,図7,図8を参照しながら説明する。図7には温度制御手段62を実現する温度制御処理を表し、図8には圧力制御手段64を実現する圧力制御処理を表す。
【0071】
図3の全体制御処理では、ステップS18の化学反応を行う工程中において、最適な反応時間にするための燃料制御処理を実行するとともに〔ステップS20〕、最適な温度にする温度制御処理を実行したり〔ステップS22〕、最適な気圧にする圧力制御処理〔ステップS24〕を実行する。図4に示す燃料制御処理の手続きは実施の形態1で既に説明したので、以下では温度制御処理および圧力制御処理の手続きについて説明する。
【0072】
まず図7に示す温度制御処理では、所要のタイミングでシリンダC2,C3内の温度を温度センサ58によって計測する〔ステップS40〕。シリンダC2,C3内の温度はピストン20の往復運動によって変化する圧力に伴うので、ピストン20が上死点や下死点に位置する時点などのタイミングで温度を計測する。もし、計測した温度が図3のステップS10で設定した最適な温度に基づいて許される許容範囲内であれば(ステップS42でYES)、そのまま温度制御処理を終える。これに対して計測した温度が許容範囲外であれば(ステップS34でNO)、インジェクタ38から噴射する燃料量および吸気口32から供給する空気量の一方または双方を増減して許容範囲内に収まるようにする〔ステップS44〕。インジェクタ38から噴射する燃料量の増減は、上述した図4のステップS36と同様に行えばよい。
【0073】
吸気口32から供給する空気量の増減は、次のようにして実現する。すなわちシリンダC2,C3内の圧力(特に化学反応時の圧力)を通常よりも高くする必要がある場合には、過給器を用いて吸気口32から空気を供給する。この場合には、過給量を制御することでシリンダC2,C3内の圧力を高く調整することができる。逆にシリンダC2,C3内の圧力を通常よりも低くする必要がある場合には、ピストン20が下死点に向かって動くときもバルブ34を開けて空気を逃がす。この場合には、バルブ34を閉じるタイミングを制御することでシリンダC2,C3内の圧力を低く調整することができる。
【0074】
図8に示す圧力制御処理では、所要のタイミングでシリンダC2,C3内の圧力を圧力センサ60によって計測する〔ステップS50〕。シリンダC2,C3内の圧力はピストン20の往復運動によって変化するので、ピストン20が下死点に位置する時点で圧力を計測するのが望ましい。もし、計測した圧力が図3のステップS10で設定した最適な圧力に基づいて許される許容範囲内であれば(ステップS52でYES)、そのまま圧力制御処理を終える。これに対して計測した圧力が許容範囲外であれば(ステップS34でNO)、インジェクタ38から噴射する燃料量および吸気口32から供給する空気量の一方または双方を増減して許容範囲内に収まるようにする〔ステップS54〕。吸気口32から供給する空気量の増減は、上述した図5のステップS44と同様に行えばよい。
【0075】
上述したように、燃料制御処理と温度制御処理では燃料量を制御し、温度制御処理と圧力制御処理では空気量を制御する。これらの制御を同時に実現する場合には、制御目的が相違しても制御対象が同一である。よって、燃料量を制御する場合には反応時間および温度のうちで一方を優先させ、空気量を制御する場合には温度および圧力のうちで一方を優先させる必要がある。いずれを優先すべきかは、原料や反応生成物等によって変わる。
【0076】
上述した実施の形態2によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
(b1)エンジンブロック10内には原料M2,M4が流れ得る供給路50を備え、当該供給路50を通じてシリンダC2,C3の吸気口32に供給されるように構成した(図5を参照)。シリンダC1,C4で生じた熱がエンジンブロック10に伝わり、供給路50を流れる原料Mもこの熱で温められる。したがって、原料M2,M4を予め温める必要がなくなるとともに、シリンダC1,C4で生じた熱の有効利用を図ることができる。
【0077】
(b2)エンジンブロック10には、シリンダ内の温度を検出する温度センサ58を備えた(図5を参照)。制御装置26には、温度センサ58によって検出した温度が化学反応を行うのに最適な温度になるようにシリンダC1,C4に供給する燃料量および空気量のうちで一方または双方を制御する構成とした(温度制御手段62;図5,図7を参照)。最適な温度で化学反応が進行するようになるので、反応生成物Rの品質を高めたり製造量を多くすることが可能になる。
【0078】
(b3)エンジンブロック10には、シリンダ内の圧力を検出する圧力センサ60を備えた(図5を参照)。制御装置26には、圧力センサ60によって検出した圧力が化学反応を行うのに最適な圧力になるようにシリンダC2,C3に供給する空気量を制御する構成とした(圧力制御手段64;図5,図8を参照)。最適な圧力で化学反応が進行するようになるので、反応生成物Rの品質を高めたり製造量を多くすることが可能になる。
【0079】
(b4)その他の要件,構成,作用等については実施の形態1と同様であるので、当該実施の形態1と同様の効果が得られる{上述した事項(a1)〜(a4)を参照}。
【0080】
〔実施の形態3〕
実施の形態3は、実施の形態2と同様にしてエンジンブロック10に対して本発明を適用し、製造工程にかかる各工程の時間を変化させる例である。当該実施の形態3は、図9,図10を参照しながら説明する。なお、反応装置の構成等は実施の形態2と同様であり、図示および説明を簡単にするために実施の形態2とは異なる点を説明する。よって実施の形態2で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0081】
シリンダの構成例を模式図で図9に表す。シリンダC2では、クランクシャフト16とピストン20との間に所定の外周形状からなるカム70を介在させる構成になっている。カム70の外周形状に応じてピストン20を往復運動させるため、実施の形態3で用いたコネクティングロッド14に代えて、カム70の外周形状に接触してピストン20を動かすコネクティングロッド72を用いる。本例の構成はシリンダC2に適用したが、シリンダC3についても同様に適用する。
【0082】
カム70の外周形状に応じて変化する各工程の時間について、図10を参照しながら説明する。1サイクルの製造工程にかかる各工程の時間は、実施の形態1の構成例について図10(A)に表し、図9の構成例について図10(B)に表す。
【0083】
実施の形態2の構成例ではカム70が存在しないので、図10(A)に示すように投入工程の時間t2と、圧縮工程の時間t4と、減圧冷却工程の時間t6と、排出工程の時間t8とがほぼ均等の長さになっている。これに対して、図9の構成例では図10(B)に示すように、圧縮工程の時間t4のみを伸ばし、他工程の時間t2,t6,t8はそれぞれ縮めている。したがって、本形態では圧縮工程の時間を長く確保することができるので、時間がかかる化学反応であっても1サイクル内に終わらせることが可能になる。
【0084】
なお本例のカム70では圧縮工程の時間t4のみを伸ばしたが、1サイクルの時間内であれば他の工程(すなわち投入工程,減圧冷却工程,排出工程)のいずれを伸ばすこともできる。逆に、1サイクルの時間内であれば各工程の時間を縮めることもできる。
【0085】
次にカム70の外周形状を異ならせた場合について、各形状に基づくシリンダ内の圧力変化を図10(C)に表す。投入工程におけるシリンダC2内の圧力変化は、カム70の外周形状に応じて曲線Caのように変化したり、あるいは曲線Cb,Ccのように変化する。原料の種類に対応して行う化学反応の内容に応じた外周形状のカム70を用いることで適切な加圧変化を行わせることができる。なお、本形態では圧縮工程に対して適用したが、減圧冷却工程についても同様に適用することができる。
【0086】
上述した実施の形態3によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
(c1)シリンダC1,C4で生じた動力を伝達する動力伝達機構(すなわちクランクシャフト16)と、シリンダC2,C3内で往復運動するピストン20との間にカム70を介在させる構成とした(図9を参照)。原料Mを投入する投入工程の時間t2,圧縮を行う圧縮工程の時間t4,減圧と冷却を行う減圧冷却工程の時間t6,反応生成物Rを排出する排出工程の時間t8は、いずれもカム70の外周形状に応じて伸縮できる。そのため、各工程に必要な時間を確保できるので、化学反応をより確実に行わせ、より多くの反応生成物Rを得ることが可能になる。
【0087】
本形態では実施の形態2のエンジンブロック10に対して適用したが(図5を参照)、実施の形態1のエンジンブロック10に対しても同様に適用することができる(図1を参照)。したがってカム70の外周形状を変えることで、原料を投入する時間,圧縮する時間,化学反応を行う時間,減圧する時間,反応生成物を排出する時間のうちで一以上の時間を伸ばしたり縮めたりすることができる。
【0088】
(c2)その他の要件,構成,作用等については実施の形態2と同様であるので、当該実施の形態2と同様の効果が得られる{上述した事項(b1)〜(b4)を参照}。
【0089】
〔実施の形態4〕
実施の形態4は、実施の形態2と同様にエンジンブロック10に対して本発明を適用し、シリンダC2とシリンダC3で続けて個別に化学反応を行わせる例である。当該実施の形態4は、図11を参照しながら説明する。なお、反応装置の構成等は実施の形態2と同様であり、図示および説明を簡単にするために実施の形態2とは異なる点を説明する。よって実施の形態2で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0090】
図1に示すエンジンブロック10と比べると、図11に示すエンジンブロック10にはシリンダC3の排気口42とシリンダC2の吸気口32を連結した連結通路74を備える。この構成によれば、シリンダC3の吸気口32から投入された原料Mは当該シリンダC3で化学反応が行われる。シリンダC3で生成した反応生成物Rまたは中間体は連結通路74を通ってシリンダC2に移り、シリンダC2で再び化学反応が行われる。そして、シリンダC2で生成した反応生成物Rが排気口42から製造物として排出される。
【0091】
図示しないが、上述した連結通路74とは別個に原料Mを投入するインジェクタ38をシリンダC2に備える構造としてもよい。すなわち、供給路50から吸気口32を経て投入する第1系統と、インジェクタ38から投入する第2系統とで構成する。シリンダC2,C3に投入する原料Mは同じ物であってもよく、異なる物であってもよい。この構成によれば、シリンダC3で生成した反応生成物Rまたは中間体が連結通路74を通って吸気口32から投入され、インジェクタ38からは原料MがシリンダC2に投入される。よってシリンダC2内では反応生成物Rまたは中間体と、原料Mとの化学反応を行える。
【0092】
上述した実施の形態4によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
(d1)シリンダC3の排気口42とシリンダC2の吸気口32とを連結通路74で連結し、シリンダC3で化学反応が行なった後に、シリンダC2で再び化学反応を行うように構成した(図11を参照)。したがって、シリンダC3内で第1段の化学反応を行わせ、シリンダC2内で第2段の化学反応を行わせることができる。
【0093】
本形態では実施の形態2のエンジンブロック10に対して適用したが(図5を参照)、実施の形態1のエンジンブロック10に対しても同様に適用できる(図1を参照)。この場合には、シリンダC3の排気口42とシリンダC2のインジェクタ38とを連結通路74で連結すればよい。連結通路74の途中に電磁弁を備えてもよい。またシリンダC2で行わせる化学反応の種類に応じて、シリンダC2のインジェクタ38には、連結通路74のみを連結する構成としてもよく、当該連結通路74に加えて図1に示すような電磁弁44,46を通じて原料Mまたは洗浄物Wを投入可能に連結する構成としてもよい。
【0094】
(d2)その他の要件,構成,作用等については実施の形態2と同様であるので、当該実施の形態2と同様の効果が得られる{上述した事項(b1)〜(b4)を参照}。
【実施例1】
【0095】
原料Mには、フタル酸エステル(溶血性がある)と水とを用いる。シリンダC2,C3の各シリンダについて複数のインジェクタ38を備えて複数の原料Mを霧状に噴射可能な構成としたうえで、フタル酸エステルと水とをそれぞれ噴射する。反応工程における反応条件は、圧縮時の圧力が30[Kgf/cm2](3メガパスカル)程度であり、温度が250℃程度である。反応工程における化学反応は、フタル酸エステルが加水分解され、反応生成物Rとしてフタル酸が得られる。よって、公害物質であるフタル酸エステルを処理して無害化することができた。
【実施例2】
【0096】
原料Mには、塩素化ベンゼンをメタノールに溶解させた混合物と、水酸化ナトリウムを含むアルカリ性にした水とを用いる。実施例1と同様に各シリンダに複数のインジェクタ38を備えて、上述した混合物と水とをそれぞれ噴射する。反応工程における反応条件は、圧縮時の圧力が200[Kgf/cm2](20メガパスカル)程度であり、温度が250℃程度である。反応工程における化学反応は、塩素化ベンゼンが脱塩素化し、反応生成物Rとしてフェノール類が得られる。よって、有害物質である塩素化ベンゼンを処理して無害化することができた。
【実施例3】
【0097】
原料Mには、PCB入り変圧器油と水酸化ナトリウムとを用いる。実施例1と同様に各シリンダに複数のインジェクタ38を備えて、上述した変圧器油と水酸化ナトリウムとをそれぞれ噴射する。反応工程における反応条件は、圧縮時の圧力が230〜260[Kgf/cm2](23〜26メガパスカル)であり、温度が380〜630℃である。反応工程における化学反応は、PCBが脱塩素化および酸化分解され、反応生成物Rとして水,二酸化炭素,塩化ナトリウムが得られる。よって、有害物質であるPCBを処理して無害化することができた。
【0098】
〔他の実施の形態〕
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施の形態に従って説明したが、本発明は当該実施の形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することが可能である。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0099】
(e1)実施の形態1〜4では、原料Mを投入する吸気口32と、反応生成物Rを排出する排気口42とをシリンダC2,C3の下部に備える構造とした(図1,図5,図9を参照)。この構造に代えて、原料Mは重力に従って流れる(もしくは落ちる)ことを考慮し、吸気口32やインジェクタ38をシリンダC2,C3の側部(または可能であれば上部)に備える構造としてもよい。この構造によれば、原料Mを確実にシリンダ内に投入できるようになる。
【0100】
(e2)実施の形態1〜4では、シリンダC2,C3に投入して化学反応を行わせる投入物として、原料と水との原料Mを適用した(図1,図5,図9を参照)。この投入物に代えて、燃焼可能な水溶液または含水スラリー体を適用してもよい。この場合には、当該水溶液や含水スラリー体が燃焼物となるので、シリンダ内で燃焼させることができる。特にガソリンと同様な爆発燃焼を起こし得る水溶液や含水スラリー体を適用した場合には、シリンダC2,C3は反応室としての機能だけでなく内燃機関の燃焼室としての機能も果たすので、シリンダC1,C4と同様に動力源として用いることができる。
【0101】
(e3)実施の形態1〜4では、原料Mと空気とをシリンダC2,C3内に投入する構成とした(図1,図5,図9を参照)。この構成に代えて、スパークプラグ等の電極をシリンダC2,C3内に備え、所定の不活性ガス(例えばヘリウムガスやネオンガス等)とともに原料Mを投入する構成としてもよい。この構成によれば、電流を流した電極から熱電子がシリンダ内に放出されるため、プラズマ(または放電)を起こすことができる。制御装置26から電極に電流を流すタイミングを制御することにより、プラズマ環境の下で化学反応を行わせ、反応生成物Rを製造することができる。
【0102】
(e4)実施の形態1〜4では、内燃機関として作動するレシプロエンジンに対して本発明を適用する構成とした(図1,図5,図9を参照)。この構成に代えて、内燃機関として作動するロータリーエンジンに対して本発明を適用したり、外燃機関として作動する蒸気機関や蒸気タービン等に対して本発明を適用する構成としてもよい。また、内燃機関や外燃機関にかかわらず、セラミックエンジンにも適用することが可能である。いずれの機関であっても複数気筒のうち一部の気筒を反応室として用いることにより、他の気筒で得られた動力を用いて化学反応を行わせ、反応生成物Rを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を実現するための第1構成例を模式的に表した図である。
【図2】原料から反応生成物を得るまでの製造工程を表す図である。
【図3】全体制御処理の手続き例を表すフローチャートである。
【図4】燃料制御処理の手続き例を表すフローチャートである。
【図5】本発明を実現するための第2構成例を模式的に表した図である。
【図6】原料から反応生成物を得るまでの製造工程を表す図である。
【図7】温度制御処理の手続き例を表すフローチャートである。
【図8】圧力制御処理の手続き例を表すフローチャートである。
【図9】シリンダの構成例を表す模式図である。
【図10】カムの外周形状に応じて変化する各工程の時間を説明する図である。
【図11】他のエンジンブロックの構成例を表す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
10 エンジンブロック
12 ピストン(第1ピストン)
14,18 コネクティングロッド(動力伝達機構)
16 クランクシャフト(動力伝達機構)
20 ピストン(第2ピストン)
22 回転軸
24 外部機器
26 制御装置
28 切換制御手段
30 燃料制御手段
32 吸気口(投入口)
34,40 バルブ
36 電磁弁(燃料噴射用)
38 インジェクタ(投入口)
42 排気口(排出口)
44,46 電磁弁(投入用)
50 供給路
52,54,56 電磁弁(投入用)
58 温度センサ
60 圧力センサ
62 温度制御手段
64 圧力制御手段
70 カム
72 コネクティングロッド(動力伝達機構)
74 連結通路
C1,C4 シリンダ(第1気筒)
C2,C3 シリンダ(第2気筒)
M(M1,M2) 原料
R 反応生成物
W 洗浄物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関として作動させるために燃焼室として用いる第1気筒と、
原料を投入する投入口と、反応生成物を排出する排出口とを備え、前記原料から前記反応生成物を生成する化学反応を行う反応室として用いる第2気筒と、
前記第1気筒内で往復運動する第1ピストンと、前記第2気筒内で往復運動する第2ピストンとを連動させる動力伝達機構とを有し、
前記第1気筒と前記第2気筒とを隣接させて一体構造とした反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載した反応装置であって、
投入口と排出口とを第2気筒の下部に備えた反応装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した反応装置であって、
動力伝達機構と第2ピストンとの間には、原料を投入する時間,圧縮する時間,化学反応を行う時間,減圧する時間,反応生成物を排出する時間のうちで一以上の時間を伸縮させるために変形させたカムを介在させる構成とした反応装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載した反応装置であって、
第1気筒と第2気筒とを隣接させて一体構造とした構造物内に供給路を備え、
供給源から前記供給路を通じて投入口に原料を供給する構成とした反応装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載した反応装置であって、
第2気筒で行う化学反応の反応時間を、第1気筒に供給する燃料量によって制御する燃料制御手段を有する反応装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載した反応装置であって、
原料を投入して反応生成物を製造する工程と、洗浄物を投入して前記第2気筒内を洗浄する工程とを切り換える制御を行う切換制御手段を有する反応装置。
【請求項7】
請求項1に記載した反応装置を用いて、第1気筒で生じた動力が動力伝達機構によって伝達されて動く第2ピストンの行程に従って、
投入口から原料を投入し、
投入した原料から反応生成物を第2気筒内で生成する化学反応を行い、
生成した反応生成物を排出口から排出する反応方法。
【請求項8】
請求項7に記載した反応方法であって、
投入口から原料を投入し、投入した原料から反応生成物を第2気筒内で生成する化学反応を行い、生成した反応生成物を排出口から排出する工程と、
前記投入口から洗浄物を投入し、投入した洗浄物で第2気筒内を洗浄し、残留物を排出口から排出する工程とを切り換えて行う反応方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−15196(P2006−15196A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193499(P2004−193499)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(504253980)有限会社ピコデバイス (11)
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)
【Fターム(参考)】